(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-05-11
(45)【発行日】2023-05-19
(54)【発明の名称】自動化された手動変速機を設けられたハイブリッド車輌でのギアシフトフェーズを制御するための方法、およびハイブリッド車輌用の対応する変速機システム
(51)【国際特許分類】
B60W 20/00 20160101AFI20230512BHJP
B60K 6/36 20071001ALI20230512BHJP
B60K 6/48 20071001ALI20230512BHJP
B60K 6/547 20071001ALI20230512BHJP
B60W 10/02 20060101ALI20230512BHJP
B60W 10/06 20060101ALI20230512BHJP
B60W 10/08 20060101ALI20230512BHJP
B60W 10/10 20120101ALI20230512BHJP
B60L 50/16 20190101ALI20230512BHJP
B60L 15/20 20060101ALI20230512BHJP
F16H 59/14 20060101ALI20230512BHJP
F16H 61/02 20060101ALI20230512BHJP
F16H 63/46 20060101ALI20230512BHJP
F16H 63/50 20060101ALI20230512BHJP
【FI】
B60W20/00 900
B60K6/36 ZHV
B60K6/48
B60K6/547
B60W10/02 900
B60W10/06 900
B60W10/08 900
B60W10/10 900
B60L50/16
B60L15/20 J
F16H59/14
F16H61/02
F16H63/46
F16H63/50
【外国語出願】
(21)【出願番号】P 2018164570
(22)【出願日】2018-09-03
【審査請求日】2021-08-19
(31)【優先権主張番号】102017000100308
(32)【優先日】2017-09-07
(33)【優先権主張国・地域又は機関】IT
(73)【特許権者】
【識別番号】597132126
【氏名又は名称】マニェティ・マレリ・ソシエタ・ペル・アチオニ
【氏名又は名称原語表記】MAGNETI MARELLI S.p.A.
(74)【代理人】
【識別番号】100145403
【氏名又は名称】山尾 憲人
(74)【代理人】
【識別番号】100131808
【氏名又は名称】柳橋 泰雄
(74)【代理人】
【識別番号】100101454
【氏名又は名称】山田 卓二
(72)【発明者】
【氏名】ファブリツィオ・アミザーノ
(72)【発明者】
【氏名】アントニーノ・アロニカ
(72)【発明者】
【氏名】エマヌエラ・モナステローロ
【審査官】清水 康
(56)【参考文献】
【文献】特開2013-071541(JP,A)
【文献】特開2013-126864(JP,A)
【文献】特開2006-207520(JP,A)
【文献】特開2013-151261(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2010/0125022(US,A1)
【文献】特開2000-245010(JP,A)
【文献】特開2013-107532(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B60K 6/20 - 6/547
B60W 10/00 - 20/50
B60L 1/00 - 3/12
B60L 7/00 - 13/00
B60L 15/00 - 58/40
F16H 59/14
F16H 61/02
F16H 63/46
F16H 63/50
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ハイブリッド車輌でのギアシフトフェーズを制御する方法であって、
前記
ハイブリッド車輌は、熱機関(12)と、前記
ハイブリッド車輌の前記熱機関(12)と駆動輪(30)との間に、前記熱機関(12)から前記駆動輪(30)にトルク(C
T、C’
T)の伝達をさせるために配置された、複数のギアを備える自動化された手動変速機(14)と、前記熱機関(12)に加えて又はその代わりに、前記駆動輪(30)にトルク(C
E、C’
E)を伝達するように配置された電気モータ(16)とを備え、
前記自動化された手動変速機(14)は、複数のギアを備えるギアボックス(20)と、前記熱機関(12)のドライブシャフト(26)を前記ギアボックス(20)のプライマリシャフト(24)にねじり接続するように、前記熱機関(12)と前記ギアボックス(20)との間に配置された摩擦クラッチ(22)とを備え、
前記方法は、
a)前記熱機関(12)によって前記駆動輪(30)に伝達されている初期トルク値(C
1)を見積もるステップと、
b)前記初期トルク値(C
1)が見積もられている時間(t
0)に、前記電気モータ(16)によって前記駆動輪(30)に伝達可能な最大トルク値を算出するステップと、
c)前記最大トルク値を前記初期トルク値(C
1)と比較するステップと、
d)前記最大トルク値が前記初期トルク値(C
1)と少なくとも同等か、前記初期トルク値(C
1)より小さいかによって、第1のトルク制御または第2のトルク制御を実行するステップとを備え、
前記第1のトルク制御は、順番に、
e)第1の期間(t
0-t
1)において、前記摩擦クラッチ(22)を徐々に切り離し、同時に、前記熱機関(12)によって前記駆動輪(30)に伝達されているトルク(C
T)を前記初期トルク値(C
1)からゼロへと徐々に減少し、前記電気モータ(16)によって前記駆動輪(30)に伝達されるトルク(C
E)を、前記熱機関(12)及び前記電気モータ(16)によって前記駆動輪(30)に伝達されている合計トルク(C
T+C
E)を前記初期トルク値(C
1)と同等の一定値に保つように、ゼロから前記初期トルク値(C
1)へと徐々に増加するステップと、
f)第2の期間(t
1-t
2)において、前記摩擦クラッチ(22)が切り離され、前記電気モータ(16)が前記駆動輪(30)に前記初期トルク値(C
1)と同等の値である一定トルク(C
E)を伝達している間、現在のギアを解放し、新しいギアをかみ合わすステップと、
g)第3の期間(t
2-t
3)において、前記摩擦クラッチ(22)を徐々に締結し、同時に、前記熱機関(12)によって前記駆動輪(30)に伝達されるトルク(C
T)をゼロから前記初期トルク値(C
1)へと徐々に増加し、前記電気モータ(16)によって前記駆動輪(30)に伝達されているトルク(C
E)を、前記熱機関(12)及び前記電気モータ(16)によって前記駆動輪(30)に伝達されている合計トルク(C
T+C
E)を前記初期トルク値(C
1)と同等の一定値に保つように、前記初期トルク値(C
1)からゼロへと徐々に減少するステップとを備え、
前記第2のトルク制御は、順番に、
e’)第1の期間(t
0-t
1)において、前記摩擦クラッチ(22)を徐々に切り離し、同時に、前記熱機関(12)によって前記駆動輪(30)に伝達されるトルク(C’
T)を、前記初期トルク値(C
1)から、前記電気モータ(16)によって前記駆動輪(30)に伝達可能な前記最大トルク値と同等の減少トルク値(C
2)へと徐々に減少するステップと、
f’)第2の期間(t
1-t
2)において、前記摩擦クラッチ(22)がまだ徐々に切り離され続けている間、前記熱機関(12)によって前記駆動輪(30)に伝達されているトルク(C’
T)を、前述のステップe’)の勾配よりも大きな減少勾配で、前記減少トルク値(C
2)からゼロへと徐々に減少し、前記電気モータ(16)によって前記駆動輪(30)に伝達されるトルク(C’
E)を、前記熱機関(12)及び前記電気モータ(16)によって前記駆動輪(30)に伝達されている合計トルク(C’
T+C’
E)を前記減少トルク値(C
2)と同等の一定値に保つように、ゼロから前記減少トルク値(C
2)へと徐々に増加するステップと、
g’)第3の期間(t
2-t
3)において、前記摩擦クラッチ(22)が切り離されており、前記電気モータ(16)が前記駆動輪(30)に前記減少トルク値(C
2)と同等の一定トルク(C’
E)を伝達している間、現在のギアを解放し、新しいギアをかみ合わすステップと、
h’)第4の期間(t
3-t
4)において、前記摩擦クラッチ(22)を徐々に締結し、同時に、前記熱機関(12)によって前記駆動輪(30)に伝達されるトルク(C’
T)をゼロから前記減少トルク値(C
2)へと徐々に増加し、前記電気モータ(16)によって前記駆動輪(30)に伝達されているトルク(C’
E)を、前記熱機関(12)及び前記電気モータ(16)によって前記駆動輪(30)に伝達されている合計トルク(C’
T+C’
E)を前記減少トルク値(C
2)と同等の一定値に保つように、前記減少トルク値(C
2)からゼロへと徐々に減少するステップと、
i’)第5の期間(t
4-t
5)において、前記摩擦クラッチ(22)
が締結され
続けている間、前記熱機関(12)によって前記駆動輪(30)に伝達されているトルク(C’
T)を、前述のステップh’)の勾配よりも小さな増加勾配で、前記減少トルク値(C
2)から前記初期トルク値(C
1)へと徐々に増加するステップとを備える、
ハイブリッド車輌でのギアシフトフェーズを制御する方法。
【請求項2】
前記第2のトルク制御において、前記第2の期間(t
1-t
2)の間の前記熱機関(12)のトルク(C’
T)の減少勾配の、前記第1の期間(t
0-t
1)の間の前記熱機関(12)のトルク(C’
T)の減少勾配に対する比が、5から15の間である、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記第2のトルク制御において、前記第4の期間(t
3-t
4)の間の前記熱機関(12)のトルク(C’
T)の増加勾配の、前記第5の期間(t
4-t
5)の間の前記熱機関(12)のトルク(C’
T)の増加勾配に対する比が、5から15の間である、請求項1又は請求項2に記載の方法。
【請求項4】
前記第1のトルク制御における前記第1の期間(t
0-t
1)及び前記第3の期間(t
2-t
3)での前記熱機関(12)のトルク(C
T)の減少/増加勾配は、1.5Nm/msから5Nm/msの間である、請求項1から請求項3のいずれかに記載の方法。
【請求項5】
前記第2のトルク制御における前記第2の期間(t
1-t
2)及び前記第4の期間(t
3-t
4)での前記熱機関(12)のトルク(C’
T)の減少/増加勾配は、1.5Nm/msから5Nm/msの間である、請求項1から請求項4のいずれかに記載の方法。
【請求項6】
前記第2のトルク制御における前記第1の期間(t
0-t
1)及び前記第5の期間(t
4-t
5)での前記熱機関(12)のトルク(C’
T)の減少/増加勾配は、0.1Nm/msから1Nm/msの間である、請求項1から請求項5のいずれかに記載の方法。
【請求項7】
ハイブリッド車輌用の変速機システム(10)であって、前記
ハイブリッド車輌は、熱機関(12)と、前記
ハイブリッド車輌の前記熱機関(12)と駆動輪(30)との間に、前記熱機関(12)から前記駆動輪(30)にトルク(C
T、C’
T)を伝達させるために配置された、複数のギアを備える自動化された手動変速機(14)と、前記熱機関(12)に加えて又はその代わりに、前記駆動輪(30)にトルク(C
E、C’
E)を伝達するように配置された電気モータ(16)とを備え、
前記自動化された手動変速機(14)は、ギアボックス(20)と、前記熱機関(12)のドライブシャフト(26)を前記ギアボックス(20)のプライマリシャフト(24)にねじり接続するように、前記熱機関(12)と前記ギアボックス(20)との間に配置された摩擦クラッチ(22)とを備え、
前記変速機システムはさらに、前記熱機関(12)、前記自動化された手動変速機(14)および前記電気モータ(16)の作動を管理するための電子制御手段(18、40、42)を備え、前記電子制御手段(18、40、42)は、請求項1から請求項6のいずれかに記載の方法を実行することで、ギアシフトフェーズを制御するようにプログラムされている、
ハイブリッド車輌用の変速機システム(10)。
【請求項8】
前記電気モータ(16)は、前記ギアボックス(20)のセカンダリシャフト(28)に接続される、請求項7に記載の変速機システム。
【請求項9】
前記電気モータ(16)は、前記ギアボックス(20)の前記セカンダリシャフト(28)と同軸上に配置されている、請求項8に記載の変速機システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ハイブリッド車輌でのギアチェンジフェーズを制御するための方法、およびハイブリッド車輌用の対応する変速機システムに関する。用語「ハイブリッド車輌」は、吸熱原動機(以後、簡単に「熱機関」として称する)に加えて、熱機関に加えて又はその代わりに車輪にトルクを伝達するように構成された電気モータを備える車輌を指すことを意味する。
【背景技術】
【0002】
一般的に言えば、ハイブリッド車輌は、異なる種類の変速機システム、例えば、純粋な手動変速機(マニュアルトランスミッション)(manual transmission)、自動化された手動変速機(automated manual transmission)(通常は、頭文字の「AMT」と称される)、デュアルクラッチトランスミッション(double clutch transmission)(通常は、頭文字の「DCT」と称される)、または無段変速機(continuously variable transmission)(通常は、頭文字の「CVT」と称される)を設けられ得る。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
本発明は、特に自動化された手動変速機(AMT)を設けられたハイブリッド車輌に関する。知られているように、この類いの変速機では、摩擦クラッチの切り離しおよび締結の作動は、熱機関から車輪へのトルク伝達を制御するために制御ユニットによって適切に制御される。自動化された手動変速機でのギアシフトフェーズの継続時間は、およそ1秒にさえ達し得る。そのような継続時間は、車輌の縦加速度の変化として運転手および乗員にはっきりと分かり、これは、ギアシフトフェーズ中のある期間、熱機関が車輪から完全に切り離され、それ故に車輪にトルクを伝達しない(いわゆる「トルクホール」)ことに起因する。
【0004】
電気モータ(例えばギアボックスのセカンダリシャフトに接続されたもの)を有するハイブリッド車輌で自動化された手動変速機が使用された場合、電気モータを用いてトルクホールを「填補する」ことが知られている。摩擦クラッチが切り離され、熱機関が車輪にトルクを伝達しない期間において、電気モータは、熱機関によって伝達されないトルクを補うような補助的なトルクを発生させる。その結果、駆動輪に伝達されている全体的なトルクは、一定に保たれ、そして、そうでなければAMTを設けられた車輌では不可避であろう、不快な運転感覚および加速度変化は、防がれる。
【0005】
ギアシフトフェーズ中に伝達されているトルクを一定レベルに保つために、電気モータは、ギアシフトフェーズの開始時に熱機関によって車輪に伝達されているトルクと同等のトルクを車輪に伝達できるように、設計されなければならない。しかしながら、同時に、電気モータのエネルギ消耗を削減するために、低出力で電気モータを使用し、及び/又は電気モータによって伝達可能な最大トルクレベルより低いトルクレベルで電気モータを作動する必要がある。
【0006】
上述された種類の自動化された手動変速機を設けられたハイブリッド車輌でのギアシフトフェーズ中に車輌の乗員に感じられる車輌の減速度を最小化することと、同時に、ギアシフトフェーズ中の電気モータのエネルギ消耗を削減することが、本発明の目的である。
【課題を解決するための手段】
【0007】
この目的は、本願の特許請求の範囲に記載されている方法および変速機システムに基づいて本発明によって十分に達成される。
【0008】
つまり、本発明は、熱機関によって車輪に伝達されているトルクを推定する考えに基づいており、ギアシフトフェーズが現在かみ合わされているギアから新しいギアにシフトし始められるようになると車輌の電子制御システムによって定められるとすぐに、電気モータがそのようなトルク値(以後、「初期トルク値」と称する)を車輪に伝達できるかどうか評価し、電気モータが初期トルク値を伝達できるか否かに基づき、それぞれ:
I)第1の期間において、摩擦クラッチが、徐々に切り離され、同時に、熱機関によって車輪に伝達されているトルクが、初期トルク値からゼロへと徐々に減少され、電気モータによって車輪に伝達されるトルクが、熱機関及び電気モータによって車輪に伝達されている合計トルクを初期トルク値と同等の値で一定に保つように、ゼロから初期トルク値へと徐々に増加され、
II)第2の期間において、摩擦クラッチが切り離されており、電気モータが初期トルク値と同等の値の一定トルクを車輪に伝達している間に、現在のギアが解放されて新しいギアがかみ合わされ、
III)第3の期間において、摩擦クラッチが、徐々に締結され、同時に、熱機関によって車輪に伝達されるトルクが、ゼロから初期トルク値へと徐々に増加され、電気モータによって伝達されているトルクが、熱機関及び電気モータによって車輪に伝達されている合計トルクを初期トルクと同等の値で一定に保つように、初期トルク値からゼロへと徐々に減少されることによる、
第1のトルク制御、または、
I’)第1の期間において、摩擦クラッチが、徐々に切り離され、同時に、熱機関によって車輪に伝達されているトルクが、初期トルク値から、電気モータによって車輪に伝達され得る最大トルクの事前に算出された値と同等の減少トルク値へと徐々に減少され、
II’)第2の期間において、摩擦クラッチが、まだ徐々に切り離されて続けている間、熱機関によって車輪に伝達されているトルクが、第1の期間の勾配よりも大きな減少勾配で、前記減少トルク値からゼロへと徐々に減少され、電気モータによって車輪に伝達されるトルクが、熱機関及び電気モータによって車輪に伝達されている合計トルクを前記減少トルク値と同等の値で一定に保つように、ゼロから前記減少トルク値へと徐々に増加され、
III’)第3の期間において、摩擦クラッチが切り離されており、電気モータが前記減少トルク値と同等の値の一定トルクを車輪に伝達している間に、現在のギアが解放されて新しいギアがかみ合わされ、
IV’)第4の期間において、摩擦クラッチが、徐々に締結され、同時に、熱機関によって車輪に伝達されるトルクが、ゼロから減少トルク値へと徐々に増加され、電気モータによって車輪に伝達されているトルクが、熱機関及び電気モータによって車輪に伝達されている合計トルクを減少トルク値と同等の一定値に保つように、減少トルク値からゼロへと徐々に減少され、
V’)第5の期間において、摩擦クラッチが、まだ徐々に締結され続けている間、熱機関によって車輪に伝達されているトルクが、第4の期間の勾配よりも小さな増加勾配で、減少トルク値から初期トルク値へと徐々に増加されることによる、
第2のトルク制御を用いる、
ギアシフト操作を実行する。
【0009】
したがって、ギアシフトフェーズが開始されるようになるときに、電気モータが、熱機関によって車輪に伝達されているトルクと同等のトルクを車輪に伝達できるか否かに基づいて、ギアシフトフェーズは、全ギアシフトフェーズの間は車輪に伝達されている合計トルクを初期トルク値と同等の一定値に保つこと、又はまず熱機関によって車輪に伝達されているトルクを、電気モータが車輪に伝達することができるトルク値と同等の減少トルク値に減少し、そのトルク値はギアシフトフェーズの最初に算出され、そして前述の減少トルク値と同等の、車輪に伝達されている合計トルクの値で、現在のギアが解放されて新しいギアがかみ合わされること、のいずれかで実行される。
【発明の効果】
【0010】
トルクホールを填補するために電気モータのトルクの全利点を享受することがそれ故に可能であり、同時に高い運転快適性を確保する。実際、電気モータが、ギアシフトフェーズの開始時に熱機関によって提供され続けているトルクより小さなトルクを伝達できる場合、熱機関によって伝達されているトルクの、初期トルク値から減少トルク値への初期減少、および熱機関によって伝達されているトルクの、減少トルク値から初期トルク値への最終増加は、電気モータが作動している第2の期間および第4の期間よりも低い勾配で行われ、車輪に伝達されているトルクの変化に起因する車輌の縦加速度の変化を車輌の乗員にほとんど知覚させない。
【図面の簡単な説明】
【0011】
本発明のさらなる特徴および利点が、添付図面に関する非限定的な例を用いて単に与えられている、下記詳細な説明からさらに明らかになる。
【0012】
【
図1】
図1は、本発明の実施形態による変速機システムの概略図である。
【
図2】
図2は、第1のトルク制御による、本発明の方法で実行されているギアシフトフェーズ間の時間の関数として、熱機関および電気モータによって伝達されているトルクを示している図である。
【
図3】
図3は、第2のトルク制御による、本発明の方法で実行されているギアシフトフェーズ間の時間の関数として、熱機関および電気モータによって伝達されているトルクを示している図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
図1に関して、本発明によるハイブリッド車輌用の変速機システムは、全体的に10で示されている。変速機システム10は基本的に、熱機関12、自動化された手動変速機14および電気モータ16を備える。
【0014】
熱機関12は、いかなる類いのもの(例えば、ガソリンエンジンまたはディーゼルエンジン)であってもよい。熱機関12は、電子制御ユニット18によって制御される。
【0015】
変速機14は、機械的ギアボックス20に加えて、熱機関12とギアボックス20との間に操作可能に配置されている摩擦クラッチ22を備える。ギアボックス20は、摩擦クラッチ22を介して熱機関12のドライブシャフト26とねじり接続(それらの間でトルクが伝達されるように構成)されているプライマリシャフト24、及びディファレンシャルギアユニット32を通じて車輌の前方または後方の駆動輪30に恒久的に接続されているセカンダリシャフト28を備える。プライマリシャフト24及びセカンダリシャフト28は、それぞれの複数の駆動ギアホイール34及び被駆動ギアホイール36をそれぞれ支持しており、ギアホイールは、各ギアをそれぞれ形成している、対応する複数のギアセットを形成するように互いに恒久的にかみ合う。図示された実施形態において、駆動ギアホイール34は、プライマリシャフト24に取り付けられている一方、被駆動ギアホイール36は、セカンダリシャフト28に固定して取り付けられているが、ギアホイールのそのような構成は、本発明の目的に不可欠というわけではない。
【0016】
かみ合いスリーブ38は、駆動ギアホイール34に関連付けられており、公知の作動モードによって、所定のギアのかみ合いのため、駆動ギアホイール34の一つをプライマリシャフト24にその都度接続するように、電子制御ユニット40の制御の下、油圧、電動、又は電気機械アクチュエータ(図示されていないが、公知の類いのもの)によって制御可能である。
【0017】
電気モータ16は、熱機関12に加えて又はその代わりに、トルクを車輌の駆動輪30に伝達できるように構成される。図示された実施形態において、電気モータ16は、ギアボックス20のセカンダリシャフト28に接続され、特にシャフトと同軸上に構成される。しかし、電気モータ16のそのような構成は、本発明の目的に不可欠というわけではなく、電気モータは、異なる方法で構成されても、またはセカンダリシャフト28に接続する代わりに車輪に直接接続されてもよい。
【0018】
この接続において、下記説明および特許請求の範囲で、熱機関及び電気モータによって伝達されているトルクは、電気モータがシャフトに接続されている場合、自動化された手動変速機のセカンダリシャフトに伝達されているトルクを、又はその代わりに、電気モータが車輪に直接接続されている場合、車輪に伝達されているトルクを意図することが指摘されている。
【0019】
好ましくは、電気モータ16は、入力として電気エネルギを受け取り、出力として運動エネルギを伝達する電動機(モータ)、および入力として運動エネルギを受け取り、出力として電気エネルギを供給する発電機(ジェネレータ)両方として作動できる、電気機械によって形成されている。好適には、電気機械は、電動機として作動しているとき、受け取った指示に基づいて、回転の両方向へ駆動トルクを伝達することができ、それ故に、車輌が前進するとき及び車輌が後退するときの両方にて、熱機関12を補助し、または熱機関12の代わりになることができる。
【0020】
電気モータ16の作動は、電子制御ユニット42によって管理される。
【0021】
電子制御ユニット18、電子制御ユニット40および電子制御ユニット42(これらは全体または一部が、一つの単一電子制御ユニットに統合されてもよい)は、下記
図2及び
図3に関して図示されている二つのトルク制御のどちらか一つによって、ギアシフトフェーズを実行するようにプログラムされている。
図2及び
図3において、ギアシフトフェーズが第1の制御によって実行されるとき、線C
Tと線C
Eはそれぞれ、時間の関数として、熱機関12と電気モータ16によって車輪に伝達されているトルクを表しているが一方、ギアシフトフェーズが第2の制御によって実行されるとき、線C’
Tと線C’
Eはそれぞれ、時間の関数として、熱機関12と電気モータ16によって車輪に伝達されているトルクを表している。
【0022】
ギアシフトフェーズの間、第1のトルク制御、または第2のトルク制御のどちらを用いるかの選択は、ギアシフトフェーズの開始(時間は
図2及び
図3においてt
0で示されている)の直前に電気モータ16によって伝達され得る最大トルクの値に基づいて行われる。このトルク値は、自動化された手動変速機14に関連する電子制御ユニット40が、ギアシフト操作を実行するための制御信号を受け取るときに、算出される(公知の方法であり、それ故に本明細書に詳細は記載されていない)。
【0023】
図2及び
図3に関して、(時間t
0の前の)車輌の初期作動状況において、車輌は、単なるサーマルモード(すなわち、駆動トルクが熱機関12のみによって伝達されている)で駆動され、特定の値C
1(以後、初期トルク値と称する)と等しい。したがって、この初期作動状況において、電気モータ16はトルクを伝達しない。
【0024】
時間t
0で、電気モータ16によって車輪に伝達され得る最大トルクの値が、そのときに熱機関12によって伝達されている初期トルク値C
1と少なくとも同等である場合、ギアシフトフェーズは、第1のトルク制御によって実行される(
図2)。一方、電気モータ16によって車輪に伝達され得る最大トルクの値が、初期トルク値より低い値(以後、減少トルク値と称し、
図2及び
図3においてC
2で示されている)と同等である場合、ギアシフトフェーズは、第2のトルク制御によって実行される(
図3)。
【0025】
第1のトルク制御は、順番に、
図2に関して下記で記載されているステップを備える。
【0026】
第1の期間(時間t0から時間t1)において、摩擦クラッチ22が、徐々に切り離され、同時に、熱機関12によって車輪に伝達されているトルクCTが、初期トルク値C1からゼロへと徐々に減少され、電気モータによって車輪に伝達されるトルクCEが、熱機関12及び電気モータ16によって車輪に伝達されている合計トルクCT+CEを初期トルク値と同等の一定値に保つように、ゼロから初期トルク値C1へと徐々に増加される。熱機関12のトルクCTの減少勾配は、ひいては電気モータ16のトルクCEの増加勾配は、好適には、ギアシフトフェーズの間、電気モータ16の合計エネルギ消耗を最小化するのに適切な大きい値と同等に設定される。
【0027】
第2の期間(時間t1から時間t2)において、摩擦クラッチ22が切り離されており、電気モータ16が前述の初期トルク値C1と同等の一定値CEを有するトルクを車輪に伝達している間、現在のギアが解放されて新しいギアがかみ合わされる。
【0028】
最後に、第3の期間(時間t2から時間t3)において、摩擦クラッチ22が、徐々に締結され、同時に、熱機関12によって車輪に伝達されるトルクCTが、ゼロから初期トルク値C1へと徐々に増加され、電気モータ16によって車輪に伝達されているトルクCEが、熱機関12及び電気モータ16によって車輪に伝達されている合計トルクCT+CEを初期トルク値C1と同等の一定値に保つように、初期トルク値C1からゼロへと徐々に減少される。熱機関12のトルクCTの増加勾配は、ひいては電気モータ16のトルクCEの減少勾配は、好適には、この場合においても、ギアシフトフェーズの間、電気モータの合計エネルギ消耗を最小化するのに適切な大きい値と同等に設定される。
【0029】
例えば、t0からt1及びt2からt3の期間における熱機関12のトルクCTの減少/増加勾配は、1.5Nm/msから5Nm/msの間で構成されてもよい。
【0030】
図2において、トルク減少則およびトルク増加則(熱機関12によるものと電気モータ16によるもの両方)は、線形則で示されているが、当然、異なる類いのものであってもよい。
【0031】
第2のトルク制御は、順番に、
図3に関して下記で記載されているステップを備える。
【0032】
実際のギアシフトフェーズの開始前、すなわち、現在かみ合っているギアが解放される前に、時間t
0から開始するが、熱機関12によって車輪に伝達されているトルクC’
Tが、初期トルク値C
1から上述の減少トルク値C
2へと徐々に(例えば、
図3に示されている線形則によって)減少される。その間に、摩擦クラッチ22は、徐々に切り離される。熱機関12のトルクC’
Tが減少トルク値C
2へと達した時間が、t
1で示されている。
【0033】
次の期間(時間t1から時間t2)において、摩擦クラッチ22がまだ、徐々に切り離されている間、熱機関12のトルクC’Tが、減少トルク値C2からゼロと同等の最終値(時間t2)へと徐々に(例えば、この場合も同様に、線形則によって)減少される一方、電気モータ16によって伝達されるトルクC’Eが、車輪に伝達されている合計トルクC’T+C’Eを一定に保つような規則(図示された例では、線形則)で、ゼロと同等である初期値から減少トルク値C2へと徐々に増加される。時間t1から時間t2の期間の間、熱機関12のトルクC’Tの減少勾配、ひいては電気モータ16のトルクC’Eの増加勾配は、時間t0から時間t1の前期間の勾配よりも大きく、そのためモータ16のエネルギ消耗を最小化する。
【0034】
時間t2で摩擦クラッチ22は完全に切り離され、ひいては熱機関12がプライマリシャフト24から切り離される。この時間から次の時間t3にかけて、現在のギアが解放されて、新しいギアがかみ合いスリーブ38の適切な作動によってかみ合わされる。時間t2から時間t3の期間の間、合計トルクは、その値はまだC2と同等であり、モータ16のみによって伝達されている。
【0035】
新しいギアのかみ合いが完了されると、時間t3で摩擦クラッチ22は、熱機関12をプライマリシャフト24に接続する(時間t5)ために徐々に締結され始める。このフェーズ(時間t5で終了する)の間、熱機関12によって車輪に伝達されるトルクC’Tは、ゼロから初期トルク値C1へと増加される。
【0036】
最初に、時間t3から時間t4にかけて、熱機関12のトルクC’Tは、減少トルク値C2に達するまで徐々に(例えば、線形則によって)増加され、したがって、電気モータ16のトルクC’Eは、合計トルクC’T+C’Eが一定であることを確保するような規則で、減少トルク値C2からゼロへと徐々に減少される。
【0037】
最終的に、時間t4から時間t5の期間の間、熱機関12のトルクC’Tは、初期トルク値C1に達するまで徐々に(例えば、線形則によって)増加される。
【0038】
時間t3から時間t4の期間の間、熱機関12のトルクC’Tの増加勾配は、ひいては電気モータ16のトルクC’Eの減少勾配は、次の時間t4から時間t5の期間の間の勾配よりも大きく、そのためモータ16のエネルギ消耗を最小化する。
【0039】
要約すれば、したがって、電気モータ16がトルクを伝達しない期間(すなわち、時間t0から時間t1、および時間t4から時間t5)の間において、熱機関12のトルクC’Tの減少/増加勾配は、知覚できないように車輌加速度を変化させ、ひいては車輌の乗員(または乗員達)の快適性を最大化するために「小さい」。それに対して、電気モータ16がトルクを伝達し、熱機関12のトルクC’Tの減少と増加をそれぞれ相殺するために、電気モータ16のトルクC’Eが増加される(時間t1から時間t2)、または減少される(時間t3から時間t4)期間の間において、トルクの減少/増加勾配は、電気モータ16のトルクC’Eの曲線の下に形成された領域を最小化し、ひいては電気エネルギの消耗を最小化するために「大きい」。
【0040】
好ましくは、時間t1から時間t2の期間の間の、熱機関12のトルクC’Tの減少勾配(これは電気モータ16のトルクC’Eの増加勾配と同等である)の、時間t0から時間t1の期間の間の、熱機関12のトルクC’Tの減少勾配に対する比は、5から15の間である。つまり、熱機関12のトルクC’Tの減少勾配は、熱機関のトルクの単純な減少フェーズから、「トルク交差」フェーズ(すなわち、熱機関のトルクの減少、および同時に発生する電気モータのトルクの増加のフェーズ)へ移行するとき5倍から15倍に増加する。
【0041】
同様に、時間t3から時間t4の期間の間の、熱機関12のトルクC’Tの増加勾配(これは電気モータ16のトルクC’Eの減少勾配と同等である)の、時間t4から時間t5の期間の間の、熱機関12のトルクC’Tの増加勾配に対する比は、5から15の間である。つまり、「トルク交差」フェーズ(すなわち、電気モータのトルクが減少され、同時に熱機関のトルクが増加されるとき)での熱機関12のトルクC’Tの増加勾配は、電気モータがもはやトルクを伝達しない最終フェーズでの熱機関のトルクの増加勾配より5倍から15倍大きい。例として、時間t0から時間t1、および時間t4から時間t5の期間での、熱機関12のトルクC’Tの減少/増加勾配は、0.1Nm/msから1Nm/msの間であってもよい一方、時間t1から時間t2、および時間t3から時間t4の期間での、熱機関12のトルクC’Tの減少/増加勾配は、1.5Nm/msから5Nm/msの間であってもよい。
【0042】
上記説明から理解され得るように、本発明は、電気モータが初期トルク値と同等の値のトルクを伝達できるとき、および電気モータが初期トルク値と同等の値のトルクを伝達できないときのいずれでも、ギアシフトフェーズの間、電気モータを使用することで、車輪に伝達されている駆動トルクの変化を限定し、車輌の乗員(達)に感じられるギアシフトフェーズの認知を削減させ、そして同時に、ギアシフトフェーズの間、トルク補填のために必要な電気機械のエネルギを削減させる。
【0043】
当然、本発明の本質が変わることなく、実施形態および構成上の詳細は、添付の特許請求の範囲で定められた発明の範囲から逸脱することなく、単なる非限定的な例として記載され、説明された内容から、広く変更され得る。