(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-05-11
(45)【発行日】2023-05-19
(54)【発明の名称】X線管用の構成部品又は電子捕獲スリーブ及びそのようなデバイスを備えたX線管
(51)【国際特許分類】
H01J 35/14 20060101AFI20230512BHJP
H01J 35/02 20060101ALI20230512BHJP
【FI】
H01J35/14
H01J35/02
【外国語出願】
(21)【出願番号】P 2018164758
(22)【出願日】2018-09-03
【審査請求日】2021-03-16
(31)【優先権主張番号】10 2017 120 285.4
(32)【優先日】2017-09-04
(33)【優先権主張国・地域又は機関】DE
(73)【特許権者】
【識別番号】512028965
【氏名又は名称】エクスロン インターナショナル ゲゼルシャフト ミット ベシュレンクテル ハフツング
【氏名又は名称原語表記】YXLON INTERNATIONAL GMBH
【住所又は居所原語表記】Essener Bogen 15,22419 Hamburg(DE)
(74)【代理人】
【識別番号】110002734
【氏名又は名称】弁理士法人藤本パートナーズ
(72)【発明者】
【氏名】シュー,アンドレ
【審査官】鳥居 祐樹
(56)【参考文献】
【文献】独国特許出願公開第102006062454(DE,A1)
【文献】特開2005-203358(JP,A)
【文献】特開2005-276760(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2003/0086533(US,A1)
【文献】特開2018-116928(JP,A)
【文献】特開平07-057677(JP,A)
【文献】特開2006-185827(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01J 35/00
H01J 35/14-35/16
H01J 3/00
H01J 37/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
X線管の真空領域内における構成部品であって、該構成部品は、
電子ビーム(13)が導かれる開口(15)を備えており、
管状の前記開口(15)を有するビーム管(3)又はコイルのコア(8,9)であり、
第1の材料製のベース本体を備えており、前記第1の材料が金属であり、
前記開口(15)の表面上に、原子番号が前記第1の材料の原子番号よりも小さい第2の材料が配置されている、構成部品。
【請求項2】
前記第2の材料が、前記第1の材料の表面上にコーティング又は箔の形態で付与されている、又は、前記第2の材料が、交換可能な別個の追加本体として形成されている、請求項1に記載の構成部品。
【請求項3】
前記第2の材料が、管状の追加本体として形成されている、請求項
2に記載の構成部品。
【請求項4】
前記追加本体が、その表面全体にわたって前記ベース本体の表面に当接している、請求項2
又は3に記載の構成部品。
【請求項6】
前記第1の材料が、モリブデン、鉄、タングステン又はチタンであり、前記第2の材料がアルミニウム、ベリリウム、ケイ素、炭素、ホウ素又はこれらの元素の1つ以上の化合物である、請求項1~
5のいずれか1項に記載の構成部品。
【請求項7】
前記第1の材料が、グラファイト形態の炭素を含む、請求項
6に記載の構成部品。
【請求項8】
前記第1の材料と前記第2の材料との原子番号の間の差が少なくとも16である、請求項1~
7のいずれか1項に記載の構成部品。
【請求項9】
前記第1の材料と前記第2の材料との原子番号の間の差が少なくとも36である、請求項
8に記載の構成部品。
【請求項10】
電子ビーム(13)を対象物(5)上へ向ける手段と、前記電子ビーム(13)の伝播経路内に配置された請求項1~
9のいずれか1項に記載の構成部品とを備えたX線管。
【請求項11】
マイクロフォーカスX線管である、請求項
10に記載のX線管。
【請求項12】
陰極から前記対象物(5)までの全経路上の任意の点において、前記電子ビーム(13)が前記第1の材料には衝突し得ないが前記第2の材料のみに衝突し得るように構成されている、請求項
10又は
11に記載のX線管。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電子ビームが導かれる開口を備えたX線管の真空領域内の構成部品、電子捕獲スリーブ、及び、X線管、特にマイクロフォーカスX線管に関する。
【背景技術】
【0002】
マイクロフォーカスX線管において、管電流は、対象物又は陽極において有用な放射線を発生させる電流ではない。電子光学系が最高解像度に設定されている場合には、約2.5%の電子のみが対象物に衝突する。残りの97.5%の電子は、陰極から対象物までの経路上におけるX線管の構成部品に衝突する。これらの電子の大部分は、電子ビームを大きく絞ることから、レンズ絞りに吸収される。この97.5%の残りの電子は、それ以前に電子光学系の各部品に対して既に衝突している。通常、このような構成部品は、鉄(コイルのコア)、チタン又はモリブデンなどの金属からなり、外部に対する真空シールを形成する。上述の全てのケースでは、迷放射線が生成される。迷放射線のさらなる発生源は、対象物から後方散乱された電子である。これらの電子が対象物上に第2の焦点を生成しないか、対象物支持体に衝突しないようにするために、これらの電子を吸収するいわゆる電子捕獲スリーブが、対象物の近くに取り付けられる。このプロセスでは、迷放射線が同様に形成され、それによって全体的な画像輝度が高くなり、コントラストが低下する。対象物の近傍に位置しているため、電子捕獲スリーブは、高温に耐えられる必要がある。このため、電子捕獲スリーブもまた同様に、多くの場合モリブデンのような金属からなる。これまで、輝度の不均一性は、2D画像取得の際には、検出器を調整することによって補正されていた。しかしながら、この補正は、X線管の焦点から検出器までの距離が特定の距離にある配置及びセンタリングにのみ有効であり、長期にわたって安定するものではない。3D画像では、ソフトウェアを使用してこの画像エラーを修正することは非常に困難である。
【0003】
X線管、特に、マイクロフォーカスX線管の画質は、多くの場合、生成されたX線画像内に光る円板の干渉が現れることよって損なわれる。この円板は、上述のように、電子がX線管のレンズ絞りの絞り本体に衝突する際に形成される散乱X線によって生じる。絞り本体は高温耐性を備える必要があることから、特に金属により構成されているため、電子が絞り本体に衝突する際に、短波長X線が形成される。この短波長X線は、比較的高い電子のエネルギーが使用される場合に、ターゲットを透過して絞り穴の像を受像体上に投影する。
【0004】
特許文献1には、絞りをコーティングすることによって該問題を解決するマイクロフォーカスX線管が記載されている。ここでは、迷放射線を低減するために、絞りの金属を原子番号の小さい材料によりコーティングしている。ここでの欠点は、コーティングが通常マイクロメートルの範囲内のみにおいて可能であることである。例えば、約4μmの炭素コーティングが可能である。しかしながら、電子の透過深さは、高エネルギーでは4μmをはるかに超えており、結果的には、電子は金属内を完全に透過して迷放射線を発生させる。さらに、絞りは高い熱負荷にさらされる。絞りがコーティングされている場合には、これによってコーティングが剥離することがよくある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】独国特許出願公開第10 2006 062 454号明細書
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
したがって、本発明の目的は、陰極と対象物との間の迷放射線の形成を低減する、又は、理想的には防止することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記目的は、請求項1の特徴に係る構成部品によって達成される。本発明によれば、構成部品の開口の表面であって、電子ビームが通過する開口の表面は、原子番号(及び密度)がベース本体の金属よりも小さい第2の材料製であり、そのため、該開口を通過する電子ビームが金属ではなく第2の材料に衝突するため、第2の材料の原子番号が比較的小さいことに起因して、短波長X線の割合が減少する。したがって、対象物を透過して画像エラーを引き起こし得る迷放射線の部分が、比較的小さくなる。
【0008】
本発明の有利な発展形態は、該構成部品が、管状の開口を有するビーム管又はコイルのコアである、又は、環状開口を有する絞りである、又は、これらの複数の構成部品の組み合わせであることを提供する。上記構成部品は、陰極から対象物までの電子ビームの経路上に位置し、電子ビームが必ず通過する必須の構成部品である。そのため、これらの構成部品についての本発明に係る実施形態では、これらの構成部品において、少なくとも第2の材料によって覆われた領域には迷放射線が発生しないことが確実になる。上記構成部品の複数を組み合わせることにより、第2の材料は、関連する構成部品を一体的にカバーすることができ、そのためX線管に導入する必要のある追加部品が少なくなる。
【0009】
上記目的は、請求項3の特徴を備えた対象物支持体によっても達成される。レンズ絞りと対象物との間のベース本体を覆っている第2の材料は、対象物から後方散乱された電子を吸収するのに役立つ。そのため、レンズ絞りと対象物との間の領域に迷放射線が生成され得ないことも達成される。第2の材料は、別個の追加部品の形態にて使用される場合、本出願の範囲内では電子捕獲スリーブと称する。
【0010】
本発明のさらなる有利な発展形態では、第1の材料が、モリブデン、鉄、タングステン又はチタンのような金属である。ベース本体を構成する第1の材料は、それぞれの要件に従って、特に高温耐性又は磁気特性に関して、広い範囲より選択され得る。上記した金属は、特に適している。本発明のさらなる有利な実施形態では、第2の材料が、アルミニウム、ベリリウム、ケイ素、炭素(特に、グラファイト形態の炭素)、ホウ素又はこれらの元素の1つ以上の化合物である。第2の材料もまた、それぞれの要件に従って、広い範囲内より選択され得る。第2の材料により構成される追加本体の機能に応じて、該材料は低い原子番号を有する。ベース本体について列挙された材料と、例えば別個の追加本体として形成され得る第2の材料とは、互いに明確に異なる原子番号を有する。
【0011】
第1の材料と第2の材料との原子番号の間の差は、少なくとも16、特に好ましくは少なくとも36である。これにより、炭素(原子番号6)が第2の材料に使用され易く、モリブデン(原子番号42)が第1の材料に使用され易い。本発明に係る材料は、電子衝撃又は対象物に発生した散乱X線への暴露の結果として強く加熱されるため、耐熱性及び高い熱伝導率を有する必要がある。該材料はまた、X線管の内側の磁界に干渉することから、磁化されていることも許容されない。
【0012】
本発明の別の有利な実施形態は、第2の材料が、第1の材料の表面上にコーティング又は箔の形態で付与されていること、又は、第2の材料が、別個の追加本体として、特に管状の追加本体として形成されていることを提供する。コーティング又は箔は薄いため、電子ビームが必ず通過する開口の断面積をほとんど減少させないという利点を有する。そのため、電子ビームが依然として開口を通過できるように構成部品の断面積を大きくする必要はないことから、従来の構成部品を使用することができる。しかしながら、このような第2の材料による薄い層の欠点は、電子がこの層を透過し得ると共に、その下方にある第1の材料にて迷放射線を発生させ得ることが挙げられる。これは、構成部品が対象物から遠くにある場合には、構成部品が対象物のごく近傍にある場合に比べて、さほど大きな問題にならない。このような最後に述べた構成部品は、最初に述べた薄い層よりも厚く形成可能であることから、第2の材料製の別個の追加本体により構成されることが有利である。該管の壁厚が比較的大きい追加本体の場合には、構成部品の断面積を大きくすることが必要となる可能性がある。追加本体はまた、上記の薄い層と比較して、製造容易かつ容易に交換可能であるという利点を有する。
【0013】
本発明のさらなる有利な発展形態は、追加本体が、その表面全体にわたってベース本体の表面に当接されていることを提供する。そのため、特に管状の追加本体を用いた際に、管状の追加本体の所定の厚みを備えつつ、管状の追加本体の内径が可能な限り大きくなることが達成される。追加本体が(電子ビームのビーム方向にて)全長に沿って当接されていることから、電子ビームの電子は、いかなる地点においてもベース本体の第1の材料に衝突し得ない。
【0014】
本発明のさらなる有利な発展形態は、追加本体が、構成部品の複数を前記電子ビームに対して覆っていることを提供する。そのため、単一の追加本体によって、例えば、ビーム管を全てのコイルのコアと共に覆うことができ、結果的にX線管に導入する必要があるのが単一の追加部品のみとなるため、組み立てが非常に容易になる。
【0015】
上記目的はまた、請求項9の特徴を有するX線管によっても達成される。該X線管についても、本発明に係る構成部品及び本発明に係る電子捕獲スリーブに関する上記の利点がそれぞれ得られる。
【0016】
本発明のさらなる有利な発展形態は、陰極から対象物までの全経路上の任意の点において、電子ビームが第1の材料には衝突し得ないが第2の材料のみに衝突し得るようにX線管が構成されていることを提供する。これにより、迷放射線の発生が完全に防止される。
【0017】
本発明のさらなる利点及び詳細は、図中に示された実施形態の例を参照して、以下により詳細に説明される。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【
図1】本発明に係る追加本体を備えたX線管の一部の長手方向断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
本発明に係るマイクロフォーカスX線管の、その集束レンズ1及び対物レンズ2の領域における対象物5に至るまでの詳細は、図中の概略縦断面に描写されている。マイクロフォーカスX線管の残りの図示されない部分は、技術水準に対応しており、本発明には関係しない。マイクロフォーカスX線管の代わりに、別のタイプのX線管であってもよい。
【0020】
集束レンズ1及び対物レンズ2は、電子ビーム13用のビーム管3の周りに配置されている。電子ビーム13は、破線で示されている。集束レンズ1は、電子ビーム13の方向において、対物レンズ2の前方に位置している。
【0021】
集束レンズ1は、集束レンズコイルを備えており、集束レンズコア8のみが描写されている。対物レンズ2は、電子ビーム13の伝播方向において、該集束レンズコイルに接続されている。対物レンズ2は、対物レンズコイルを備えており、対物レンズコア9のみが描写されている。
【0022】
ビーム管3は、電子ビーム13の伝播方向に、集束レンズ1の端部を越えて対物レンズ2の領域内へと延在している。
【0023】
対物レンズ2には、電子ビーム13の伝播方向において、レンズ絞り4が接続されている。
【0024】
電子ビーム13の電子が、金属製のビーム管3、又は、いずれも鉄からなる集束レンズコア8及び対物レンズコア9の電子ビーム13に面する表面に衝突して、使用される材料の原子番号が大きいことに起因する迷放射線が発生することを防ぐため、これらの表面と電子ビーム13との間に、グラファイトからなる追加本体10が配置されている。原子番号の小さいグラファイトが追加本体10に使用されるため、追加本体10に電子ビーム13の電子が衝突すると、長波長X線のみが形成される。したがって、短波長X線の割合が小さくなり、結果的に迷放射線は全く形成されないか、ごくわずかに形成されるだけとなる。
【0025】
追加本体10は、ビーム管3及び対物レンズ2の全長にわたって、レンズ絞り4まで長手方向に延在している。追加本体10は一体的に形成されており、その外面がビーム管3の開口14及び対物レンズコア9の開口15に載置されている。追加本体10の内面は、円筒状に形成されている。ビーム管3の端部と対物レンズコア9との間に段差があるため、追加本体10の外面は、段差のある円筒として形成されており、管形状を有する。
【0026】
レンズ絞り4は、レンズ絞りベース本体7を有すると共に、電子線13の伝播方向において、該レンズ絞りベース本体7の前方にレンズ絞り追加本体11が設けられている。レンズ絞り4は、その開口16により電子ビーム13を絞るように、及びそれによって焦点を絞るように作用し、それによってX線管内の対象物5上にX線を発生させるように作用する。
【0027】
レンズ絞りベース本体7は、第1の材料製である。第1の材料は、レンズ絞りベース本体7のX線管内における位置のために高い耐熱性を有する必要があり、レンズ絞りベース本体7内に生じる熱を除去するために高い熱伝導率を有する必要がある。そのうえ、レンズ絞りベース本体7は、X線管内における電場に干渉しないために、可能な限り磁気的影響を及ぼさない必要がある。レンズ絞りベース本体7は、従来技術にて既知の絞りと同様に金属製であることが好ましく、特に、モリブデン、タングステン又はチタン製であることが好ましい。
【0028】
レンズ絞り追加本体11は、第2の材料製である。第2の材料は、第1の材料と同様に、レンズ絞り追加本体11のX線管内における位置のために高い耐熱性を有する必要があり、レンズ絞り追加本体11内に生じる熱を除去するために高い熱伝導率を有する必要がある。そのうえ、レンズ絞り追加本体11は、X線管内における電場に干渉しないために、可能な限り磁気的影響を及ぼさない必要がある。電子ビーム13の電子がレンズ絞り4に衝突して干渉X線を生じさせることを防ぐために、レンズ絞り(追加本体11)は、可能な限り少ない、好ましくは対象物5にて生じるX線よりもかなり軟らかいX線を生じさせる材料製である必要がある。したがって、第1の材料と同様に、レンズ絞り追加本体11は、炭素化合物、ベリリウム又はアルミニウム製であり、特に好ましくはグラファイト製である。グラファイトは原子番号が小さいため、短波長X線の割合が小さくなり、その結果、対象物5を透過して画像エラーを生じさせ得るのは迷放射線のごく一部だけとなる。
【0029】
レンズ絞り4の開口16は、電子ビーム13の伝播方向において円錐状に広がっているため、レンズ絞り追加本体11上に散乱された電子ビーム13のいずれの電子も、レンズ絞りベース本体7の金属に衝突(その結果、迷放射線が生成)し得ない。
【0030】
そのようなレンズ絞りは、独国特許出願公開第10 2016 013 747号明細書に記載されている。
【0031】
電子ビーム13の伝播方向をレンズ絞りベース本体7への方向とそれを遮蔽するレンズ絞り追加本体11への方向とに分割する図示のレンズ絞り4の代わりに、本発明に係るレンズ絞り4は、レンズ絞り追加本体11の遮蔽がレンズ絞りベース本体7の周囲に(電子ビーム13に対して)径方向に配されるように設計され得る。このとき、レンズ絞りベース本体7は、それが接続される管状の追加本体10の端部を超えて径方向に突出していない。この場合であっても、電子ビーム13の電子がレンズ絞りベース本体7の金属に衝突(それにより、迷放射線が生成)し得ないことが達成される。
【0032】
対象物5(図示の実施例における透過型対象物)は、対物レンズ2に接続された対象物支持体6に固定されており、電子線13の伝播方向において、レンズ絞り4に接続されている。
【0033】
対象物支持体6は、マイクロフォーカスX線管の前方領域において、対物レンズコア9と対象物5との間の真空シールを形成する。対象物5は、一部の領域において厚さ約300μmしかないため、対象物支持体6は、対象物5を機械的に安定させるのに役立つ。対象物支持体6が(例えば、黄銅のような)金属からなる場合には、対象物5上に形成される熱を可能な限り除去するのに役立つ。電子ビーム13が対象物5に衝突した際に電子の一部が後方散乱するため、これらの電子が対象物支持体6に衝突し得る。その際、対象物支持体6内に迷放射線が形成されることとなる。
【0034】
このことを防ぐため、対物レンズ2と対象物5との間の対象物支持体6の表面全体は、グラファイト製の本体で覆われており、該本体は電子捕獲スリーブ12と称される。電子捕獲スリーブ12は、追加本体10のように一体的に形成されており、電子ビーム13に面する対象物支持体6の表面全体に載置されている。電子捕獲スリーブ12は、後方散乱電子を直接除去し得るように、アース電位にある。対象物5及び焦点の近傍に位置するため、電子捕獲スリーブ12の材料は、高温に耐える必要があり、かつ電子の軌道に干渉してはならない。多くの場合、電子捕獲スリーブ12には、例えばモリブデンのような金属が使用される。金属が使用される場合には、電子捕獲スリーブ12はそれ自体が、迷放射線を生じることになる。そのため、原子番号及び密度が低い材料が好ましい。
【0035】
本発明に係る追加部品である、レンズ絞り追加本体11と併せた追加本体10及び電子捕獲スリーブ12によって、電子ビーム13の電子は、いかなる地点においても迷放射線を生じることが防がれており、その結果、迷放射線によって生じる画像エラーがない。
【符号の説明】
【0036】
1 集束レンズ
2 対物レンズ
3 ビーム管
4 レンズ絞り
5 対象物
6 対象物支持体
7 レンズ絞りベース本体
8 集束レンズコア
9 対物レンズコア
10 追加本体
11 レンズ絞り追加本体
12 電子捕獲スリーブ
13 電子ビーム
14 ビーム管の開口
15 対物レンズコアの開口
16 レンズ絞りの開口