(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-05-11
(45)【発行日】2023-05-19
(54)【発明の名称】造影シネMRIデータセットにおける左心室のセグメント分割の改善
(51)【国際特許分類】
A61B 5/055 20060101AFI20230512BHJP
【FI】
A61B5/055 380
A61B5/055 370
A61B5/055 383
【外国語出願】
(21)【出願番号】P 2018203508
(22)【出願日】2018-10-30
【審査請求日】2021-07-09
(32)【優先日】2017-10-31
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(73)【特許権者】
【識別番号】504048537
【氏名又は名称】パイ メディカル イメージング ビー ヴイ
【氏名又は名称原語表記】PIE MEDICAL IMAGING B.V.
(74)【代理人】
【識別番号】110000062
【氏名又は名称】弁理士法人第一国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】クリスタント ヴィスヌムルティ
(72)【発明者】
【氏名】アーベン、ジャン-ポール
【審査官】佐野 浩樹
(56)【参考文献】
【文献】米国特許出願公開第2006/0253017(US,A1)
【文献】特表2009-535139(JP,A)
【文献】特表2006-501895(JP,A)
【文献】特開2014-217540(JP,A)
【文献】特開2000-116621(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2012/0232378(US,A1)
【文献】米国特許出願公開第2009/0232369(US,A1)
【文献】米国特許出願公開第2012/0121154(US,A1)
【文献】国際公開第2015/010745(WO,A1)
【文献】特表2015-510412(JP,A)
【文献】特開平10-192256(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2017/0109881(US,A1)
【文献】米国特許出願公開第2014/0071125(US,A1)
【文献】米国特許出願公開第2016/0098833(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61B 5/055
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
患者の心臓に関するMRIデータから心室を描出するための方法であって、
a)造影シネMRIデータセットを提供するステップと、
b)異なるMRI取得により取得される1つ以上の追加MRIデータセットを提供するステップと、
c)前記追加MRIデータセット上の1つ以上の特徴をセグメント分割するステップと、
d)前記セグメント分割された特徴を前記造影シネMRIデータセットにマッピングするステップと、
e)ステップd)においてマッピングされた前記セグメント分割された特徴を使用して前記造影シネMRIデータセット上の前記心室のセグメント分割を支援するステップと、
を備え、
前記造影シネMRIデータ
セットおよび前記1つ以上の追加MRIデータセットが、1回の心臓MRI検査の間に取得され、そして前記マッピングされた前記セグメント分割された特徴が、前記造影シネMRIデータセット上の心室のセグメント分割のためのシードとして使用される、
方法。
【請求項2】
前記追加
MRIデータセットのうちの少なくとも1つが、前記心臓の短軸像に関する画像データを含む、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記造影シネMRIデータセット上で前記心室をセグメント分割し、かつマッピングされた前記セグメント分割された特徴を使用して当該心室のセグメント分割を絞り込むおよび/または修正するステップを、さらに、含む、請求項1または2に記載の方法。
【請求項4】
前記追加
MRIデータセットのうちの少なくとも1つが、遅延造影MRIデータセットである、請求項1-3の何れか1項に記載の方法。
【請求項5】
前記追加
MRIデータセットのうちの少なくとも1つが、初回通過灌流MRIデータセットである、請求項1-4の何れか1項に記載の方法。
【請求項6】
- 初回通過灌流MRIデータセット上の血液プール内腔をセグメント分割するステップと、
- 前記血液プール内腔
の情報を造影シネMRIデータセットにマッピングするステップと、
- 前記血液プール内腔
の情報を遅延造影MRIデータセットにマッピングするステップと、
- 前記遅延造影MRIデータセット上で梗塞をセグメント分割するステップと、
- 前記梗塞
の情報を前記造影シネMRIデータセットにマッピングするステップと、
- 前記マッピングされた血液プール内腔情報および前記梗塞
の情報を使用して前記造影シネMRIデータセット上で心室をセグメント分割するステップと、
を備える、請求項1-5の何れか1項に記載の方法。
【請求項7】
前記追加
MRIデータセットのうちの少なくとも1つが、組織マッピングMRIデータセットである、請求項1-6の何れか1項に記載の方法。
【請求項8】
前記追加MRIデータセット上の1つ以上の特徴をセグメント分割するステップが、前記追加MRIデータセットの第一のデータセット上で複数の特徴をセグメント分割するステップと、前記追加MRI
データセットの第二のデータセットに前記複数の特徴をマッピングするステップと、前記追加MRIデータセットの当該第二のデータセット上の複数の特徴をセグメント分割してセグメント分割された複数の特徴を得るステップと、を含む、請求項1-7の何れか1項に記載の方法。
【請求項9】
前記セグメント分割された複数の特徴が、前記造影シネMRIデータセットにマッピングされて、マッピングされてセグメント分割された特徴が得られる、請求項8に記載の方法。
【請求項10】
心室のセグメント分割が、前記追加MRIデータセット
の心拍位相とマッチングする前記造影シネMRIデータセットの前記心拍位相に対して行われる、請求項1-9の何れか1項に記載の方法。
【請求項11】
前記心室のセグメント分割が、前記造影シネMRI
データセットの全ての位相で実行される、請求項1-10の何れか1項に記載の方法。
【請求項12】
デジタルコンピュータのメモリに直接ロード可能であるコンピュータ製品であって、前記製品が前記コンピュータ上で実行されるときに請求項1-11の何れか1項に記載の方法を実行するためのソフトウェアコード部分を含む、コンピュータ製品。
【請求項13】
コントラストが増強された画像フレームの2次元または3次元シーケンスを取得するための撮像デバイスであって、前記撮像デバイスが、造影剤によって灌流された患者の心臓の複数の画像フレームを取得するための、1つ以上の取得モジュールを備え、前記
患者の心臓の複数の画像
フレームが、シネMRIデータセットおよび1回の心臓MRI検査の間に異なるMRI取得により取得される1つ以上の追加MRIデータセットを定義するように構成されていて、前記
撮像デバイスが、さらに、
a)前記追加MRIデータセット上の1つ以上の特徴をセグメント分割し、
b)前記セグメント分割された特徴
を造影シネMRIデータセットにマッピングし、
c)ステップb)においてマッピングされた前記セグメント分割された特徴を使用して前記造影シネMRIデータセット上の心室のセグメント分割を支援する、
ようにプログラムされているプロセッサを備え、
前記プロセッサが、前記造影シネMRIデータセットに基づいて前記心室をセグメント分割し、前記マッピングされたセグメント分割された特徴を用いて前記心室のセグメント分割を絞り込むおよび/または補正するようにプログラムされている、撮像デバイス。
【請求項14】
前記追加MRIデータセットを形成する前記画像
フレームが、前記造影シネMRIデータセットを形成する前記画像が取得される撮像セッションと同一の撮像セッション中に取得される、請求項13に記載のデバイス。
【請求項15】
前記追加MRIデータセットが、遅延増強、初回通過灌流、T1、T2および/またはT2
*マッピングを含む組織マッピング、遅延ガドリニウム造影MRIまたはブラック・ブラッド遅延造影MRIを用いる生存能、浮腫(つまり、T2により重み付けられた画像化)からなる群から選択される1つ以上のMRIデータセットを含む、請求項13または14に記載のデバイス。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本出願は、医用画像セグメント分割に関し、より詳細には医用画像における解剖学的構造のセグメント分割に関する。
【背景技術】
【0002】
磁気共鳴撮像法(MRI:Magnetic Resonance Imaging)は、心臓の状態を評価するための好ましい画像診断法である。心臓に関する豊富な情報は、1回の撮像セッション内でさまざまなMRI撮像シーケンス(例えば、心臓の形態および機能遂行能を評価するシネMRI、心筋組織の血液摂取を評価する初回通過灌流(first-pass perfusion)MRI、損傷を受けた心筋組織を評価する遅延造影(delayed-enhancement)MRI、およびそれらの緩和時間に基づいて各組織を特徴付けるための組織マッピング・シーケンスなど)を使用して、得ることが出来る。
【0003】
シネMRIは、複数の薄いスライスで心臓全体をカバーする画像を、全心周期に渡って取得する。したがって、壁の厚さや障害のような、心臓の解剖学的構造を調べることができる。血液を送り出すことがその主な実行機能である心筋の動きを、徹底的に調べて、あらゆる異常を認識することも出来る。
【0004】
いくつかのMRIの取得には、心臓の特定の特徴を強調するために、患者に造影剤を投与する必要がある。造影増強のために最も一般的に使用されているMRI造影剤は、ガドリニウムベースである。例えば、非特許文献1に教示されているように、従来、造影剤を投与する前に、血液プール内腔と周囲の心筋とを視覚的に良好に区別するために、シネMRIデータセットを、いかなる造影剤もなしに取得することが行われている。
【0005】
例えば、非特許文献2に教示されているように、いくつかの画像取得は、患者への造影剤投与後、実行可能となるまでに30分に至る待機時間を必要とする。
【0006】
例えば、非特許文献3に教示される最近の技術発展は、心臓の形態学的および機能的分析を容易にする点ではその性能を維持しつつ、時間を節約しかつ患者への不快レベルを減少させるために、待ち時間の間に造影剤を投与してシネMRIを実行することを提案する。このアプローチは、造影(contrast-enhanced)シネMRIと呼ばれる。
【0007】
MRI画像の分析には、例えば、(心内膜境界または血液プール内腔と心筋との間の境界としても知られている)内側境界、または(心外膜の境界としても知られている)外側境界をセグメント分割する形で、心室のセグメント分割が必要となる。心室の手動セグメント分割は、非特許文献4により報告されているように、54分もの時間を必要とする面倒な作業である。
【0008】
自動セグメント分割法は、臨床医が、正確で、時間が節約され、かつ再現性がある測定を行うのに役立つかもしれない。非特許文献5によって教示されているように、シネMRIの心室境界をセグメント分割するために、例えば、変形可能なモデルまたは画像ベースに基づく、数多くの自動セグメント分割法が、既に開発されている。
【0009】
しかしながら、造影シネMRIは、心室のセグメント分割について困難な課題を提起する。心筋(特に、心筋梗塞)による造影剤の取り込みのために、それらの信号強度は増加し(超増強としても知られている)、その結果、例えば、非特許文献6によって教示されるように、血液プール内腔の信号強度とのコントラストまたは差が減少してしまう。
【0010】
非特許文献7に報告されているように、血液プール内腔と(梗塞)心筋との間の信号強度差のこの減少は、心室の自動セグメント分割の有意な成功をもたらさない。
【0011】
セグメント分割を改善するためのアプローチは、同じMRI取得セッション(心臓MRIスキャン)中に取得された他のデータセットからの情報を使用して、このセグメント分割プロセスを支援することである。各画像がオブジェクトの特定の特性を含む、同じオブジェクトの複数の画像は、他のセグメント分割プロセスを支援するために使用することができる。
【0012】
この場合、造影シネMRIが取得された撮像セッションと同じ撮像セッションの間に取得された複数の追加データセットは、患者の心臓の特定の特性を視覚化することができる。この特性は、造影シネMRIデータセットの心室のセグメント分割を支援するために使用することが出来る。例えば、遅延造影MRIデータセットは、心筋梗塞を視覚化することができ、そして初回通過灌流MRIデータセットは、例えば、患者の心筋全体を通過する造影剤液の流路を視覚化することができる。
【0013】
図1は、1回のMRI心臓検査で取得されたMRデータセットの典型的な具体例を示す。このMRデータセットは、造影シネMRI(101)データセットと、患者の心臓の異なる特性を可視化するために取得された他の様々なデータセット(102)からなる。データセット(102)は、
‐心筋梗塞を評価する、遅延造影撮像画像としても知られている生存能(102、左上図)、
‐心筋浮腫を評価するための浮腫撮像画像(102、右上図)、
‐心筋灌流欠損を評価するための初回通過灌流撮像画像(102、左下図)、および
‐び慢性心筋障害を検出するT1組織マッピング撮像画像(102、取得されたT1MRがマッピングされている画像に、後処理後の心筋の組織緩和時間が重ね合わされている右下図)、
からなる。
【0014】
同一のオブジェクトが撮像されつつある場合、このオブジェクトのある特性が、あるタイプの画像でより顕著となるが、別のタイプの画像ではこのオブジェクトの別の特性がより顕著となる。異なるデータセットから取得した複数の特性を組み合わせることにより、より優れたセグメント分割を実現することが出来る。
【0015】
特許文献1には、1つのデータセットからのセグメント分割の結果を使用して、第二のデータセットのセグメント分割を支援することが記載されている。しかしながら、この先行技術に記載されているデータセットは、2つの異なる撮像技術(例えば、X線血管造影法とMRI法)により生成されている。しかしながら、検査の実行は、1つの撮像技術のみで行うことが有利であろう。これは、患者への負担を少なくし、時間を短縮させかつ費用を削減するであろう。特に、磁気共鳴撮像法(MRI)の場合、撮像シーケンス・パラメータを変更することのみで、それぞれが特別な特徴を有する異なるデータセットを得ることが出来る。(造影増強)シネMRIデータセットと他のMRIデータセットのセグメント分割結果を組み合わせるという考えは、例えば、非特許文献8によって既に提案されている。彼らは、彼らの方法を使用して、シネMRIデータセットからのセグメント分割の支援により、遅延造影MRIデータセットにおいて梗塞領域を決定している。
【0016】
非特許文献9は、MRデータセットを組み合わせて、遅延増強データセットからの梗塞セグメント分割の助けを借りて、心筋境界がすでに手動でセグメント分割されている、造影シネMRIデータセットの危険な心筋領域を決定している。
【0017】
しかしながら、これらの方法は、特に、造影シネMRIデータセットを使用して心室をセグメント分割することを試みていない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0018】
【文献】国際特許公開公報第2015/010745号「画像データのマルチモーダル・セグメント分割」
【文献】米国特許第6,252,402号
【文献】米国特許第7,332,912号
【文献】米国特許第7,864,997号
【非特許文献】
【0019】
【文献】H. Thiele外の「定常状態自由精度(SSFP)による機能的心臓MR撮像法は、造影剤なしで心内膜境界描写を有意に改善する」、Journal of Magnetic Resonance Imaging、24巻、4号、362‐367頁、2001年
【文献】JF Rodriguez-Palomares外の「造影剤注入後の経過時間は、急性心筋梗塞後の梗塞の経壁性および心筋層機能回復を決定するために極めて重要である」、Journal of Cardiovascular Magnetic Resonance、17巻、1号、43頁、2015年
【文献】G.L. Raff外の「急性心筋梗塞後の微小血管閉塞および心筋機能:造影シネMR撮像法を用いる評価」、Radiology、340巻、2号、529‐536頁、2006年
【文献】C.F. Mooij外の「健常者および心室肥大患者における右心室のサイズおよび機能のMRI測定の再現性」、Journal of Magnetic Resonance Imaging、28巻、1号、67‐73頁、2008年
【文献】C. PetitjeanおよびJ-N. Dacherの「短軸心臓MR画像におけるセグメント分割法の概説」、Medical Image Analysis、15巻、2号、2011年
【文献】J-P. Laissy 外の「急性心筋梗塞後の明らかな梗塞サイズを評価する際の造影増強、平衡シネMRシーケンスの価値:将来の遅延造影シーケンスとの比較」、Journal of Magnetic Resonance Imaging、22巻、6号、765‐771頁、2005年
【文献】J-C. Lasalarie 外らの「左心室機能の評価における造影シネMRシーケンスの精度:プレコントラスト・シネMRシーケンスとの比較。二重研究の結果」、European Radiology、17巻、11号、2838-2844頁、2007年
【文献】Y. Lu外の「造影増強磁気共鳴画像のグラフカットを用いた心筋梗塞の自動定量化」、Quantitative Imaging in Medicine and Surgery、2巻、2号、81-86頁、2012年
【文献】J. Tufvesson外の「造影増強SSFP CMRからの危険にさらされている心筋の自動セグメント分割:専門家の読者およびSPECTに対する検証」、BMC Medical Imaging、16巻、19号、2016年
【文献】Peter Kellman外の「ダークブラッド遅延造影撮像法」、Journal of Cardiovascular Magnetic Resonance、 2016年、18号:77頁
【文献】Ferreira外の「磁気共鳴撮像法による心筋組織の特徴付け:T1およびT2マッピングの新規応用」、J Thorac Imaging、2014年5月;29(3)巻:147-54頁
【文献】D.J. Atkinson外の「初回通過心臓灌流:超高速MR撮像法による評価」、Radiology、174巻、3号、757‐762頁、1990年
【文献】N. Otsuの「グレイレベル・ヒストグラムから閾値を選択する方法」、IEEE Transactions on Systems, Man, and Cybernetics、SMC-9巻、1号、62-66頁、1979年
【文献】F. Maes外の「相互情報の最大化によるマルチモダリティ画像の登録」、IEEE Transactions on Medical Imaging、16巻、2号、187‐198頁、1997年
【文献】J.K. UdupaおよびS. Samarasekeraの「ファジィ連結度およびオブジェクト定義:画像セグメント分割における理論、アルゴリズム、および応用」、Graphical Models and Image Processing、23巻、3号、246-261頁、1966年
【文献】M. Kass外の「Snakes:動的輪郭モデル」、International Journal of Computer Vision、1巻、4号、321-331頁、1998年
【文献】T.F. Cootes外の「動的外観モデル」、Proc. European Conference on Computer Vision 1998、2巻、484-198頁、1998年
【文献】A.C. van Rossum外の「血栓溶解後の閉塞および再灌流冠状動脈による急性心筋梗塞の共鳴画像におけるガドリニウム - ジエチレントリアミン五酢酸ダイナミクスの価値」、The American Journal of Cardiology、65巻、13号、845-851頁、1990年
【文献】Amado外の「イヌ心筋梗塞モデルにおける造影増強磁気共鳴撮像法による正確で客観的な梗塞サイズ決定」、Journal of the American College of Cardiology、44巻、12号、2383-2389頁、2004年
【文献】Gabor T. HermanおよびBruno M. Carvalhoの「ファジィ連結度を使用したマルチセグメント分割」、IEEE Transactions on Pattern Analysis and Machine Intelligence、23巻、5号、460‐474頁、2001年
【文献】Tran P.Vの「短軸MRIにおける心臓セグメント分割のための完全畳み込みニューラルネットワーク」arXiv preprint arXiv:1604.00494(2016年)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0020】
したがって、本明細書における実施態様の目的は、造影シネMRIデータセット上で心室をセグメント分割することである。
【課題を解決するための手段】
【0021】
本明細書の実施態様によれば、患者の心臓に関するMRIデータから心室を描出するための装置、コンピュータプログラム製品、およびコンピュータ実行方法が提供される。これらは、特定の実行可能命令によって1つ以上のコンピュータシステムの制御下で、
a)造影シネMRIデータセットを提供するステップと、
b)1つ以上の追加MRIデータセットを提供するステップと、
c)前記追加MRIデータセット上の1つ以上の特徴をセグメント分割するステップと、
d)前記セグメント分割された特徴を前記造影シネMRIデータセットにマッピングするステップと、
e)ステップd)においてマッピングされた前記セグメント分割された特徴を使用して前記造影シネMRIデータセット上の前記心室のセグメント分割を支援するステップと、
を実行するように構成されている。
【0022】
この処理は、一般に、様々な方位でのデータセットの取得に適用可能である。しかしながら、これは、特に、心臓の短軸方向の像のデータセットに適用されるが、これに限定されるものではない。
【0023】
例示的な一実施態様では、当該追加MRIデータセットの少なくとも1つは、遅延造影MRIデータセットである。遅延造影MRIデータセットは、造影剤液体投与の数分後に取得される。このタイプのデータセットでは、心筋梗塞領域は、強調表示されている。次いで、梗塞の位置および範囲に関する情報が、心室のセグメント分割の支援のために、造影シネMRIデータセットにマッピングされる。
【0024】
別の例示的な実施態様では、当該追加MRIデータセットのうちの少なくとも1つは、初回通過灌流MRIデータセットである。初回通過灌流MRIデータセットは、血液循環システム(最終的には体の組織)を通過する造影液の流路を視覚化することができる。このタイプのデータセットでは、血液プールの空洞が、最も強い動的信号強度プロファイルを持つ。次いで、血液プール空洞の位置および範囲の情報が、心室のセグメント分割の支援のために、造影シネMRIデータセットにマッピングされる。
【0025】
別の例示的な実施態様では、当該追加MRIデータセットの少なくとも1つは、組織マッピングMRIデータセットである。このタイプのデータセットでは、さまざまな組織を、得られた緩和時間の値に基づいて特徴付けることができる。次いで、これらの組織の位置および範囲に関する情報は、心室のセグメント分割の支援のために、造影シネMRIデータセットにマッピングされる。
【0026】
追加MRIデータセットが複数存在する場合、最初に第一のデータセットで複数の特徴のセグメント分割を実行し、次に複数の特徴を第二のデータセットにマッピングし、次で第二のデータセットで複数の特徴のセグメント分割を更に実行することが可能である。
【0027】
例示的な実施態様では、追加MRIデータセットから収集された情報は、造影シネMRIデータセットでのセグメント分割のためのシードとして使用される。
【0028】
さらに別の例示的実施態様では、追加MRIデータセットから収集された情報は、造影シネMRIデータセット内の既にセグメント分割されている心室を絞り込むために使用される。
【0029】
当業者であれば、追加MRIデータセットが同じ撮像セッションで撮像されている場合には、これらの画像化による患者位置は、ほぼ同じになることを理解するであろう。
【0030】
本明細書の実施態様によれば、追加MRIデータセットから得られた情報は、当該複数の追加MRIデータセットの心拍位相とマッチングする心拍位相での、造影増強MRIデータセットの心室のセグメント分割を支援するために使用される。
【0031】
さらに、造影増強MRIデータセットにおける心室のセグメント分割は、全ての心拍位相で実行することができる。
【0032】
実施態様は、また、デジタルコンピュータのメモリに直接ロード可能であるコンピュータ製品であって、本製品がコンピュータ上で実行されると、本明細書の実施態様による方法を実行するソフトウェアコード部分を含むコンピュータ製品にも関する。
【0033】
一態様によれば、実施態様は、造影剤によって灌流された患者の心臓の複数の画像フレームを取得するための1つ以上の取得モジュールを含む、画像フレームのコントラストが増強された2次元または3次元シーケンスを取得するためのMRIデバイスに関する。このような複数の画像は、シネMRIデータセットおよび1つ以上の追加MRIデータセットを定義するように構成されている。このデバイスは、さらに、
a)前記追加MRIデータセット上の1つ以上の特徴をセグメント分割し、
b)前記セグメント分割された特徴を前記造影シネMRIデータセットにマッピングし、
c)ステップb)においてマッピングされた前記セグメント分割された特徴を使用して前記造影シネMRIデータセット上の前記心室のセグメント分割を支援する、
ようにプログラムされているプロセッサを備える。
【0034】
一実施態様では、プロセッサは、造影シネMRIデータセットに基づいて心室をセグメント分割し、そしてマッピングされ、セグメント分割された特徴を使用して、当該心室のセグメント分割を絞り込むおよび/または補正するようにプログラムされている。
【0035】
1つ以上の追加MRIデータセットを形成する画像は、造影シネMRIデータセットを形成する画像を取得するセッションと同じ撮像セッション中に取得され、このタイプの取得に固有のデッドタイムを取戻すことが有利である。
【0036】
追加MRIデータセットは、遅延増強、初回通過灌流、組織マッピング、生存能、浮腫からなる群から選択される1つ以上のMRIデータセットを備えることが有利である。
【0037】
本発明の特徴およびそれから導き出される利点は、添付の図面に示される以下の非限定的な実施態様の説明からより明らかになるであろう。
【図面の簡単な説明】
【0038】
【
図1】造影シネMRIと、同じ撮像セッションで取得された複数の追加MRIデータセットの典型的な例を示す。
【
図2】MRシステムのハイレベル・ブロック図の一例を示す。
【
図3】MRシステムの、例示的なMRI取得の機能ブロック図である。
【
図4】例示的な実施態様のフローチャートの一例を示す図である。
【
図5】2つの異なるMRIデータセットからのスライスを、それらのスライス位置に基づいてマッチングさせる方法の一例を示す。
【
図6】造影シネMRIデータセットにおけるセグメント分割プロセスの一例を示す。
【
図7】遅延造影MRIデータセットからのマッピングされた梗塞情報を利用して、造影シネMRIデータセットにおける血液プールの誤ったセグメント分割を補正する例を示す。
【
図8】造影増強MRIデータセットと同じ撮像セッションで得られた初回通過灌流および遅延造影MRIデータセットで利用可能な情報を利用して、造影シネMRIデータセットでの心室のセグメント分割を支援する方法の例を示す図である。
【
図9】造影シネMRIデータセットにおけるマッピングされた血液プールおよび梗塞情報の利用可能性の例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0039】
磁気共鳴撮像法(MRI)装置は、撮像法を順次実行するように構成されている撮像ユニットを含む。この装置は、静磁場中に置かれた被験者(すなわち患者)に高周波磁場を印加する。高周波磁場の印加により、被験者から発生した磁気共鳴信号が検出される。検出された信号を用いて画像が作成される。
【0040】
磁気共鳴撮像デバイスは、被験者に傾斜磁場を印加することにより磁気共鳴信号に空間位置情報を付加する傾斜磁場コイルも備えている。
【0041】
高周波パルスと傾斜との異なる組み合わせを使用して、異なるMRIシーケンスを作ることができる。MRIパルス・シーケンスは、変化する磁気傾斜のプログラムされたセットである。異なるパルス・シーケンスは、放射線科医が様々な方法で同じ組織を撮像することを可能にし、そしてシーケンスを組み合わせることにより、重要な診断情報が明らかになる。
【0042】
図2は、MRIシステムのハイレベル・ブロック図の一例を示す。
【0043】
(様々な機能ブロックによって定義される)システムの部分は、専用ハードウェア、アナログおよび/またはデジタル回路、および/またはメモリに格納されているプログラム命令を操作する1つ以上のプロセッサを用いて、実装することができる。
【0044】
図2のMRIシステムは、患者201用の調整可能テーブル202と、データ処理モジュール203と、磁石システム206とを含む。
【0045】
データ処理モジュール203は、1つ以上のプロセッサと、本明細書で説明される動作を1つ以上のプロセッサに実行させるように命令するプログラム命令を格納するメモリとを含む。データ処理モジュール203は、また、画像、証印、データ、および本明細書に記載され、図に示された他の情報などの情報をユーザに提示するためのディスプレイも含む。データ処理モジュール203は、また、撮像デバイスの動作を制御するなどの、本明細書の動作に関連してユーザから入力を受け取るためのユーザ・インターフェースも含む。例えば、スキャン・パラメータは、選択または変更することが出来、患者画像を表示することもでき、そして例えば、関心領域の測定、フロー定量化、および補完画像等を取得する際に使用されるべき、視覚的および/または定量的投影透視の選択制御を含む後処理を実行することが出来る。データ処理モジュール203は、本明細書で参照され、かつ参照により組み込まれている特許および刊行物内に記載された1つ以上のシステムの一部に対応するまたはそれを含むことができる。
【0046】
MRIシステムの重要な特徴の1つは、磁石システム206である。磁石システム206は、一般に、大きな管状または円筒形の磁石を含む。磁石は、典型的にはヘリウム冷却された超伝導ワイヤのコイルから作られた電磁石である。これらのコイルを通る電流の流れは、磁場を作り出す。永久磁石も使用出来る。磁場は、テスラで測定される一定の磁場強度を有する。磁石システム206の重要な特性は、磁場の均一性である。これは、指定された領域または空間に渡ってほとんど変化しない磁場である。
【0047】
しかしながら、製造上の不完全性、または鋼鉄の柱が近くにあると言うような介入室の問題のために、磁場には歪みが生じる可能性がある。これらの不均一性は、シム・システム207を用いて補正される。補正は手動でも自動でも行うことが出来る。特許文献5および特許文献6には、永久磁石に基づくシステムに対する磁場均一度調整技術の例が開示されている。
【0048】
臨床MRIにおいては、人体の水素原子が重要である。各水素原子の核は、核スピン角運動量とも呼ばれるスピンを有する。すなわち、水素原子の核は、常に一定の速度で軸の周りを回転する。磁場内に配置されると、回転軸は、磁場と整列するように傾斜する。
【0049】
磁石システム206によって生成された強い静磁場は、磁場の強度に依存する特定の周波数で、人体の各水素原子のスピンを整列させる。
【0050】
次に、無線周波数システム209は、水素プロトンが移動する特定の周波数範囲に同調された無線周波数パルス(RFパルス)を、検査対象である身体の一部に向けて放射する。これにより、水素プロトンのいくつかは、静磁場との整列から180度ずれ、そして他の水素プロトンと同相に強制される。
【0051】
無線周波数システム209は、一般に送信コイルを含む。送信コイルは、通常スキャナの本体に組み込まれていて、かつ主磁場に対して垂直な有効磁場を生成するRF信号を送出する。
【0052】
体内のさまざまな水素原子によって吸収されたエネルギは、その後、体により反射されまたはエコーが生成される。傾斜システム208は、スイッチオンおよびオフされ、患者201から反射されるエコーを測定し、これにより組織信号の位置が特定される。
【0053】
一般に、傾斜システム208は、1つ以上の傾斜コイルおよび傾斜増幅器からなる。
【0054】
傾斜コイルは、通常、MRIスキャナのボアのすぐ内側にある円筒形のシェル上のワイヤのループまたは薄い導電性シートである。これらのコイルに電流が流れると、二次磁場が発生する。この傾斜磁場は、予測可能なパターンで主磁場をわずかに歪ませ、プロトンの共鳴周波数を位置の関数として変化させる。
【0055】
通常、3セットの傾斜(x、y、z)が使用される。各コイルセットは、独立した電力増幅器によって駆動され、かつz成分が、それぞれ、撮像法に必要な直交磁場歪みを生成するx、yおよびz方向に沿って線形に変化する、傾斜磁場を生成する。
【0056】
データ収集システム210は、次いで、エコーを受信する。データ取得システム210は、プロトンからの信号を測定し、かつ後の後処理のためにそれらをデジタル化する。一般に、データ取得システム210は、コイル、前置増幅器および信号処理システムからなる。
【0057】
コイルは、RFパルスに続いて、プロトンからの誘導電圧を検出する。コイルは、戻り信号の特定の周波数に同調される。
【0058】
前置増幅器は、磁石室またはコイル自体の内部に配置された低雑音高利得増幅器であって、プロトンによって生成された信号を処理することができる。
【0059】
さらに、信号処理システムは、例えば、信号のさらなる増幅、kHz信号への復調、ローパスフィルタ、実数部と虚数部への分割、次いで、アナログ - デジタル変換器(ADC)による検出を提供する。逆フーリエ変換(IFT)を適用することによって、数学的データ(k空間)であるプロトンからの信号は、臨床医が解釈できる写真に変換される。
【0060】
ストレージ204は、再構成された直後に取得されている患者の画像を格納するために使用される。これは、通常、DICOMのような(ベンダに依存しない)汎用言語で行われる。ストレージは、ハードディスク、またはPACS(画像保管通信システム)サーバ205、またはVNA(ベンダ中立アーカイブ)とすることができる。
【0061】
図3は、ユーザ・インターフェース・モジュールからのコマンドの下で動作し、かつデータをデータ分析モジュール303に提供するMRシステム302を含む、本明細書の実施態様による例示的なMRI取得の機能ブロック図である。
【0062】
臨床医または他のユーザは、患者601のMRI画像を取得し、かつこの画像を、DICOMフォーマットで、ハードディスク204またはPACSまたはVNAサーバ205に格納する。
【0063】
MRIシステム302は、関心容積(例えば、
図1に示される心臓)のMRIデータを取得する。MRシステムは、通常、磁石システム、無線周波数システム、傾斜システム、データ取得システムおよびデータストレージを含む。
【0064】
データ分析モジュール303は、パーソナルコンピュータ、ワークステーション、または他のコンピュータ処理システムによって実現することができる。データ分析モジュール303は、MRIシステム302により取得されたデータを処理して、例えば、心臓分析定量化を生成する。
【0065】
ユーザ・インターフェース・モジュール301は、ユーザと対話し、かつデータ分析モジュール303と通信する。ユーザ・インターフェース・モジュール301は、視覚出力用の表示画面、タッチ入力用のタッチスクリーン、ディスプレイ、マウスポインタまたは他の入力用ポインティング・デバイス、音声入力用のマイクロフォン、音声出力用のスピーカ、入力用のキーボードおよび/またはキーパッドなど、様々な種類の入出力デバイスを含むことができる。
【0066】
一実施態様は、以下のように
図2のMRシステムによって実行される。臨床医または他のユーザは、患者201のMR画像を取得し、かつこの画像を、DICOMフォーマットで、ハードディスク204またはPACSサーバ205に格納する。
【0067】
実施態様の目的は、一回の心臓MRIスキャン中に取得された追加データセットを使用して、造影シネMRIデータセット上の心室のセグメント分割を支援することである。典型的な心臓MRI検査(心臓MRIスキャン)は、心臓機能を評価するために同じスキャン手順の間に取得された、いくつかのMRI取得からなる。MRI取得の具体例は、
・心臓機能を評価するためのシネMR撮像法画像、
・びまん性心筋障害の検出を評価するための、T1、T2および/またはT2 *マッピングを含む組織マッピング、
・心筋灌流障害を評価するための灌流撮像法画像、
・遅延ガドリニウム造影MRIまたはブラック・ブラッド遅延造影MRIの何れかを使用する、心筋梗塞を評価するための生存能画像、
・急性心筋梗塞などによる心筋浮腫を評価するための浮腫撮像法画像(T2強調撮像画像)、
である。
【0068】
生存能の撮像法には、ガドリニウムベースの造影剤を注入後、約15-20分が必要であり、そしてシネMRI(造影シネMRI)を取得するために、この「待ち時間」は、今日ではより頻繁に使用されている。患者が心筋梗塞を患っている場合、心筋の増強、つまり造影シネMRI内の心筋梗塞の増強が起こり、その結果、造影シネMRI内の心筋のセグメント分割が不正確になる。
【0069】
セグメント分割の観点では、一回の心臓検査中に取得された異なるMRI取得は、造影シネMRI内での心筋の正確なセグメント分割を可能にする補完情報を含む。例えば、灌流内で、血液プールは非常に高い信号(高信号強度)を示し、心筋は低信号(低信号強度)を示し、かつ心筋灌流欠陥はわずかに高信号を示す。遅延ガドリニウム造影MRIは、血液プールおよび心筋梗塞に対し非常に高い信号の結果をもたらすが、健康な心筋については低信号である。ブラック・ブラッド遅延造影MRIでは、心筋梗塞のみが高信号で表示され、血液プールは非常に低い信号で、かつ健康な心筋はわずかに低い信号で表示される(非特許文献10)。浮腫MRI内では、血液プールは非常に低信号であり、かつ健康な心筋はわずかに高信号であるのに対して、心筋浮腫組織は高信号で可視化されている。組織マッピング(T1、T2および/またはT2*マッピング)については、画像の各ピクセル内のT1、T2またはT2*緩和時間は、このMRI取得により計算することが可能になり、そして例えば、非特許文献11に教示されているように計算することが出来る。MRI組織マッピング戦略は、心筋組織特性の客観的評価を提供する。MRI組織マッピングとは、異なるT1またはT2重み付けにより取得された一連の画像から生成されるパラメトリック・マップを意味し、これにより各ピクセルにT1またはT2値を割り当てることが可能になる。組織の各タイプは、特定の場の強さでの正常なT1またはT2緩和時間(これからの偏差は、疾患を示している可能性がある)の特徴的な範囲を示す。
【0070】
したがって、この実施態様では、(
図1のステップ101に示されるような)少なくとも1つの造影シネMRIデータセット、および(
図1のステップ102に示されるような)、例えば、初回通過灌流、遅延増強または組織マッピング・データセットの1つ以上の追加データセットを含む患者の複数のMRIデータセットを取得する必要がある。
【0071】
図4は、本明細書の一実施態様による動作を説明するフローチャートを示す。
【0072】
データ分析モジュール303によって通常実行される動作は、コンピュータ製品(例えば、光ディスク、またはUSBドライブまたはネットワークサーバなどの他の形態の永続性メモリ)に組み込まれているソフトウェアコードによって実行することも出来る。ソフトウェアコードは、
図4の動作を実行するためにデータ処理システムのメモリに直接ロードすることが可能である。
【0073】
患者についてのMRIデータセットが既に取得されていると、処理システムは、401において、1つ以上の追加データセット内の1つ以上の特徴のセグメント分割を実行する。例えば、追加データセットが初回通過灌流MRIデータセットである場合、血液プールを、特徴としてセグメント分割することが出来る。例えば、追加データセットが遅延造影MRIデータセットである場合、心筋梗塞を特徴としてセグメント分割することができる。例えば、初回通過灌流MRIおよび遅延造影MRIデータセットの両方が追加データセットとして利用可能である場合、血液プールおよび梗塞の両方を、特徴としてセグメント分割することができる。
【0074】
例示的な実施態様では、心室のセグメント分割は、例えば、同じ撮像セッションで撮像された初回通過灌流MRIデータセットから取得された情報によって支援されて実行される。初回通過灌流MRIデータセットは、コントラストが増強された取得であり、これは、血液循環系全体(例えば、心腔全体)、そして最終的には組織全体(例えば、心筋全体)に渡って造影剤溶液の流路を視覚化させる。
【0075】
初回通過灌流MRIデータセットのより詳しい詳細は、例えば、非特許文献12に見出すことが出来る。
【0076】
初回通過灌流MRIデータセットは、通常、心臓全体に渡っていくつかのスライス位置で撮像される。各スライス位置において、初回通過灌流MRIデータセットでは、典型的には、患者が息を止めている間に、いくつかの心拍の経過に渡って、特定の心拍位相で複数の画像が撮像される。したがって、典型的な初回通過灌流MRIデータセットでは、特定のスライス位置においてかつこれらの複数の心臓画像に渡って、心臓は、動いているようには見えない。
【0077】
連続して視覚したときにこれらの複数の心臓画像に出現するものは、造影剤溶液が通過する領域または画像要素(例えば、血液プールおよび心筋層)である。これらの領域は、次第に明るさが増大し、その後徐々に最初の明るさに戻るであろう。強度のこの動的変化は、心筋と比較して、血液プール中で最大である。
【0078】
(追加データセットが、初回通過灌流MRIである)この例では、追加データセット内でセグメント分割する必要がある特徴は、血液プールである。初回通過灌流MRIデータセットにおける血液プールのセグメント分割は、例えば、手動でまたは(半)自動的に行うことが出来る。完全に自動化された手法は、例えば、信号強度の動的変化が大きい初回通過灌流データセットの各フレーム内の領域を局所化することが出来る。これにより、血液腔および血液プール情報(例えば、心内膜輪郭)を局所化することが可能になる。
【0079】
この信号強度の動的変化を定量化する方法には、特定のスライス位置で撮像された複数の心臓画像に渡って各画像要素における信号強度の標準偏差を計算することが、含まれる。造影剤溶液が通過する領域または画像要素は、高い信号強度変化、したがって、高い標準偏差を有することになる。したがって、特定の位置で撮像された元の複数の心臓の初回通過灌流画像から、例えば、各画像要素が、複数の心臓画像に渡って、その画像要素位置での信号強度の標準偏差値を含む新しい画像を、作成することが出来る。次のステップは、標準偏差値が高い画像要素をセグメント分割することであろう。
【0080】
これを行うための例示的な方法は、例えば、閾値処理によるものである。閾値処理の方法は、ある値を閾値に設定することによって機能し、かつこの閾値を超える信号強度を有する任意の画像要素は、関心オブジェクト(例えば、血液プール)としてマークされる。閾値は、例えば、非特許文献13に教示されるように設定することが出来る。
【0081】
この方法では、閾値は、画像ヒストグラム(すなわち、各値の出現頻度を含む表)に基づいて計算される。閾値は、最大限分離されかつ各クラスができるだけ厳密になる2つのクラスにヒストグラムを分割する値となるように選択される。最後のステップは、閾値より高い値を有するこれらの画像要素をグループ化し、かつこれらの画素要素を所望の特徴(例えば、血液プール)としてマークし、この結果、初回通過灌流MRIデータセットからセグメント分割された情報を得ることである。
【0082】
特徴が、追加データセット(この場合は、血液プール)でセグメント分割されると、処理システムは、402で、特徴を造影シネMRIデータセットにマッピングして、造影シネMRIデータセット内の心室のセグメント分割を支援する。
【0083】
例えば、追加データセットが初回通過灌流MRIデータセットである場合、前のステップの結果である、初回通過灌流の1つ以上のスライスにおいて利用可能な情報が、造影シネMRIデータセット内の対応するスライスにマッピングされる。このためには、最も良くマッチングする特性を有する造影シネMRIデータセットにおける宛先スライスを、先ず、決定する必要がある。これは、例えば、ユーザによって手動で、または以下に説明されるように自動的に行うことが出来る。
【0084】
マッチングプロセスは、スライスが取得される位置およびスライスがどの心拍位相にあるかに基づいている。(従来のDICOMファイルフォーマットの「ヘッダ」を介して)MRシステムから得られた絶対システム座標を使用することによって、1つのMRIデータセットから別のMRIデータセットへオブジェクトをマッピングすることが可能である。この場合、例えば、特許文献4に教示されているように、並進行列を定義することが出来る。
図5は、スライス位置に基づく、同じ撮像セッションで撮像された1つのデータセットのスライスと別のデータセットのスライスとのマッチングプロセスを示す。両方のデータセットが、同じ撮像セッションでほぼ同じ向きで撮像されているという事実にもかかわらず、取得しようとする関心領域が異なるため、両方のデータセットのスライス間に位置の食い違いがある可能性がある(502に対する501および503を参照)。
【0085】
図6において、602は、他のデータセットにマッピングされるべき情報を含む追加データセット(この例では、初回通過MRIデータセット)からのスライスである。1つのマッチングプロセスは、例えば、位置が最も近いスライス同士をマッチングすることである(この場合、502は、503よりも501に近い)。最も良くマッチングするスライスが見つかった後、その情報は、
図5によって示される場合には、502から501にマッピングすることが出来る。
【0086】
初回通過灌流MRIデータセットの異なるスライス位置が、異なる心拍位相で得られることがあるので、スライスは、それらの心拍位相に基づいてマッチングさせることが必要である。異なるスライスの心拍位相をマッチングさせるための例示的な方法は、それらの対応するトリガ時間をマッチングさせることによって実行される。本明細書において前述したように、MRI画像は特定の心拍位相で取得される。
【0087】
当該技術分野において一般的に知られているように、心臓は一定のリズムで拍動し、その各拍動には、心電計信号のQRS波がマークされている。心電計信号とは、鼓動している心臓によって生成される電気信号である。トリガ時間とは、R波から経過した時間である。したがって、2つのMRI画像のトリガ時間をマッチングさせることは、2つのMRI画像の心拍位相をマッチングさせることになる。情報をマッピングするための例示的な方法は、ソーススライスから、このソーススライスに最も近いトリガ時間を有する宛先スライスに、情報をコピーすることによるものである。
【0088】
オプションとして、取得したデータセット(例えば、初回通過灌流データセットと造影シネMRI)間のわずかな患者の動きは、補正することが出来る。これは、例えば、非特許文献14により導入されているような画像登録アプローチにより実行することが出来る。
【0089】
特徴が、造影シネMRIデータセットにマッピングされると、503において、処理システムは、心室のセグメント分割を実行する。
【0090】
例えば、追加データセットが、初回通過灌流MRIデータセットである場合、造影シネMRIデータセットには、血液プール情報がマッピングされている。
【0091】
図6は、それらの容積が最大である心臓の拡張末期における最も左の3D容積から、それらの容積が最小である心臓の収縮末期における中央3次元容積に、そして容積が再びほぼ最大である心臓の拡張末期に戻る最も右の3D容積までの、経時的な3D血液プール容積を示す。
【0092】
前のステップの結果から、血液プール内腔情報が、初回通過灌流MRIデータセットのスライスの心拍位相とマッチングするシネMRIデータセットの特定のスライスにマッピングされる(
図6の参照番号601で示される3D容積を参照)。これにより、血液プール内腔情報は、1つの特定の心拍位相のみならず、4DシネMRIデータセットにおいて異なる心拍位相にまばらに広がっている心拍位相でも、得ることができる(
図6の参照610の第一行を参照、ここで、いくつかの心拍位相601は、初回通過灌流データセットからの血液プール情報を含むが、他のものは含まない。)
【0093】
マッピングされた情報(この例では、血液プール情報)は、403aで処理システムによって使用され、心室をセグメント分割するためのセグメント分割方法を絞り込むことができる。
【0094】
マッピングされた情報を利用して造影シネMRIデータセット内の血液プールをセグメント分割する例示的な方法は、シードベースのセグメント分割である。シードベースの画像セグメント分割では、セグメント分割されるべき実際のオブジェクトに対するシードまたはマーカとして、1つ以上の画像要素が、明確に、割り当てられる。その後、セグメント分割アルゴリズムは、画像上の各画像要素を、それらのシードとの関係に基づいて、各画像要素が関心オブジェクトに属するか否かを、分類するであろう。
【0095】
例示的なシードベースのセグメント分割方法は、非特許文献15に教示されるファジィ連結アルゴリズムである。ノイズおよび画像アーチファクトのために、オブジェクト間の境界があまり明確ではないので、オブジェクトのセグメント分割はそれほど正確ではないかもしれない。しかしながら、オブジェクトを構成する画像要素は、繋がっているために、それらの類似性と隣接性により、判別することが出来る。
【0096】
この方法では、画像要素間の関係は、いわゆるファジィ連結度または類似性を計算することによって決定することが出来る。画像要素間の類似性の程度は、それらの隣接性(例えば、信号強度値におけるそれらの類似性)に基づいて決定することが出来る。この類似性レベルは、2つの画像要素間の関係性の強さと見ることが出来る。
【0097】
一連の隣接する画像要素は、その強度が最も弱いリンクによって決定される連鎖と見ることが出来る。この方法では、各画像要素からシードへの連鎖または経路は、それらの画像要素のシードへの連結強度と共に計算される。
【0098】
マッピングされた血液プール情報を使用する1つの例示的な方法は、マッピングされた血液プール領域内に含まれる画像要素の特性に基づいて、連結強度の計算を絞り込むことである。
【0099】
最後に、強度の閾値を設定することによってオブジェクトをセグメント分割することが出来る。これにより、閾値よりも低い強度を有する画像要素が切り取られて、シードに対して強い連結度を有する画像要素が残存するであろう。これらの画像要素を一緒にグループ化することにより、オブジェクトの最終的なセグメント分割が構成されるであろう。
【0100】
マッピング情報を利用して造影シネMRIデータセット内の血液プールをセグメント分割する別の例示的な方法は、マッピングされた血液プール領域内に含まれる画像要素の特性に基づいて、最終オブジェクトを決定するために使用された連結強度の閾値の計算を絞り込むことである。
【0101】
血液プールを分割するための別の例示的なシードベースの分割方法は、周知の領域成長方法である。この方法は、最初のシード・ポイントから始め、そして周囲の連結された画像要素を、基準に基づいて最終オブジェクト(例えば、シードと同様の信号強度を有する画像要素)に分類する。マッピングされた血液プール情報を使用する例示的な方法は、それを使用して、シード・ポイントを決定する、または例えば、信号強度類似度を調整することによって、連結された画像要素がシードと同じオブジェクトに属するか否かを決定するために使用される基準を絞り込むことである。
【0102】
マッピングされた情報を利用して造影シネMRIデータセット内の血液プールをセグメント分割する別の例示的なセグメント分割方法は、変形可能なモデルである。最も知られている例は、非特許文献16で紹介されたスネーク・アルゴリズムである。このモデルでは、エネルギ最小化スキームを使用して、初期輪郭は、剛性および弾力性のような画像によって提供される外力および輪郭自体の内力によって導かれる線およびエッジなどの画像特徴に向かって、移動する。一方、最終的な輪郭は、意図された最終的なオブジェクトを囲むであろう。
【0103】
セグメント分割の品質に影響を与える第一の要因は、初期輪郭が誤って配置されまたはそのサイズが誤っている初期輪郭の形状および形態であり、これらは、誤ったセグメント分割をもたらす可能性がある。したがって、マッピングされた血液プール情報を使用する例示的な方法は、それを初期輪郭として使用することである。これに代えて、マッピングされた血液プール情報は、初期輪郭を絞り込むために使用される。スネーク・アルゴリズムの第二の要因は、輪郭の内力である。マッピングされた血液プール情報を使用する例示的な方法は、それを使用して輪郭の内力を絞り込むことである。マッピングされた血液プール情報は、正しい血液プール・ライニングの情報を保持しているので、それは、最終的な血液プール情報を裏打ちするために使用される輪郭の所望の剛性および弾力性を調整するために使用することができる。スネーク・アルゴリズムの最後の要因は、外力である。マッピングされた血液プール情報を使用するための例示的な方法は、それを使用して、移動する輪郭に作用する外力を絞り込むことである。
【0104】
マッピングされた情報を利用して造影シネMRIデータセット内の血液プールをセグメント分割する別の例示的なセグメント分割方法は、モデルベースの方法である。モデルベースの方法では、セグメント分割されるべきオブジェクトのモデル(しばしば、統計的モデル)が、関心オブジェクトとしてラベル付けされた入力データのセットに基づいて、訓練段階中に、構築される。このモデルに基づいて、テスト画像上の関心オブジェクトは、テスト画像内に存在するオブジェクトとモデルをマッチングさせることによって、セグメント分割される。モデルベースの方法の1つの例示的な方法は、非特許文献17により紹介されている動的外観モデルである。この方法は、オブジェクトの形状および信号強度情報を含む、セグメント分割されるべきオブジェクト(この場合は血液プール)の統計的外観モデルを使用する。血液プールの信号強度が、(梗塞)心筋とあまり異ならない造影シネでは、正常の標準的外観モデルは、血液プールを正確に描写するには十分ではないかもしれない。マッピングされた血液プール情報は、マッピングされた血液プール情報によって囲まれている画像要素の信号強度に基づいて、血液プールの形状および統計的信号強度情報に関する特定の情報およびを提供することによって、セグメント分割を支援して、血液プールを表す統計的外観を改善することができる。この方法は、更新されたモデルにより、血液プールをより正確にセグメント分割することができる。
【0105】
造影シネMRIデータセットにおける心室のセグメント分割は、例えば、以前に得られた、マッピングされた血液プール情報を使用して、3Dでまたは4Dで実行することができる。
【0106】
例えば、3Dセグメント分割では、セグメント分割は、初回通過灌流MRIデータセットからマッピングされた血液プール情報を含むその特定の心臓相の全心室容積をセグメント分割するために続けられる(
図6の参照611の第二行を参照)。これは、例えば、アルゴリズムを2D画像での作業から3D容積での作業に拡張することによって行うことが出来る。2D画像は、画像要素の2次元マトリックスとして見ることができ、一方、3D容積は、それらの2D画像が複数互いに積み重ねられたものとして見ることができる。2D画像から3D容積へのセグメント分割の拡張は、例えば、2D(隣接画像と同じ画像の画像要素)から、3D(隣接画像に隣接する画像要素)へ隣接画像要素の概念を単純に拡張することによって行うことが出来る。別の例では、セグメント分割方法は、モデルとして輪郭を使用することに代わる変形可能なモデル方法(ここでは、容積または表面が、血液プールをセグメント分割するためのモデルとして使用される)である。
【0107】
これに代えて、4Dセグメント分割については、例え、初回通過灌流MRIデータセットからマッピングされた血液プール情報が、それらの心拍位相内に存在しないとしても、セグメント分割は、全ての心拍位相について全ての心室容積をセグメント分割するために継続される(
図6の参照612の第3行を参照)。これは、例えば、ファジィ連結アルゴリズムを2D画像での作業から3D容積での作業へ、そして4D空間での作業へと拡張することによって行うことが出来る。4D空間は、異なる時点で、またはこの場合は異なる心拍位相で、複数の3D容積として見ることができる。3D容積から4D空間へのセグメント分割の拡張は、例えば、3D(隣接として隣接画像の画像要素)から4D(隣接心拍位相における隣接容積の画像要素)に隣接する画像要素の概念を単純に拡張することによって実行することが出来る。
【0108】
これは、結果的に、1つ以上の追加データセットの使用による造影シネMRIデータセットにおける心室のセグメント分割をもたらす。
【0109】
オプションとして、遅延造影MRIを追加データセットとして使用することも出来る。その際、遅延造影MRIデータセットは、造影シネMRIデータセットの心室のセグメント分割を支援するために使用される。このデータセットの場合、セグメント分割される特徴は、例えば、梗塞である。
【0110】
第一のステップは、遅延造影MRIデータセットの梗塞をセグメント分割することである。これは、ユーザによって手動で、または以下に説明されるように(半)自動的に行うことが出来る。
【0111】
遅延増強データセットでは、非特許文献18に教示されているように、心筋梗塞組織は、造影剤保持のその特性により周囲の健康な心筋より明るく見える傾向がある。この特性を使用して、心筋梗塞領域は、一般的な閾値化方法の何れかを使用することによって、容易に選択することができる。
【0112】
閾値化方法は、閾値としてある値を設定することによって機能し、そしてこの閾値を超える信号強度を有する如何なる画像要素も、心筋梗塞としてマークされる。閾値は、ユーザによって直接規定してもよく、または非特許文献19に記載されるような半値全幅(FWHM)法のような特定のアルゴリズムによって半自動的に計算してもよい。この方法は、疑わしい領域内のポイントをユーザが選択することによって開始される。中間の関心領域は、ユーザが選択したポイントの信号強度の50%を超える信号強度を持ち、かつまだユーザが選択したポイントを含む画像要素のグループを計算することによって形成される。
【0113】
梗塞の閾値は、この中間領域の最小信号強度と最大信号強度の間の50%に設定されている。このステップの最後のステップは、閾値より高い信号強度を有する画像要素のグループを選択し、それらを梗塞としてマークすることである。
【0114】
オプションとして、梗塞組織を摘出するために、全自動セグメント分割方法を実行することも出来る。従来の遅延増強データセット上の全自動梗塞セグメント分割では、血液プールと梗塞(両方とも高い信号強度を有する)との間の信号強度差が相対的に低いことが問題になっている。例えば、ブラックブラッド遅延造影MRIデータセットが利用可能な場合、これは、追加データセットとして使用することが出来る。梗塞組織は依然として高い信号強度を持つが、血液プールはこのデータセットでは非常に暗く見えるであろう。この信号強度差の増加は、血液プールの自動セグメント分割を容易にし、これにより梗塞の完全自動セグメント分割が容易になる。
【0115】
次のステップは、梗塞情報を造影シネMRIデータセットにマッピングすることである。前述した
図4の402であるこのステップでは、マッピングされる特定の特徴は、梗塞であり、かつソース・データセットは遅延造影MRIデータセットである。遅延造影MRIデータセットのスライスに含まれる梗塞情報は、(
図5に示される)位置および心拍位相に最も良くマッチングする、造影シネMRIデータセットのスライスにマッピングされる。
【0116】
ステップ402の後、梗塞情報は、遅延造影MRIデータセットのスライスの位置と心拍位相の両方とマッチングする造影シネMRIデータセットのスライスで、利用可能になる。この実施態様では、マッピングされた梗塞情報は、造影シネMRIデータセット内の心室のセグメント分割を支援するために使用されるであろう。
【0117】
図7は、このタスクを実行するための例示的方法を示している。造影剤の摂取により造影シネMRI内で心筋梗塞組織が明るく見え、それ故、血液プールと心筋梗塞組織との間のコントラストが小さくなるという事実により、心内膜セグメント分割が、(
図7の参照番号701に見られるように)誤って梗塞領域に侵入する可能性がある。造影シネMRIデータセットにマッピングされた遅延造影MRIデータセット(
図7の参照702参照)の既にセグメント分割されている梗塞セグメント分割を使用して、欠陥のある血液プール・セグメント分割を絞り込むことができる(前述した、
図4の403a参照)。
【0118】
これに代えて、マッピングされた梗塞情報は、例えば、血液プールの誤ったセグメント分割(
図7の701参照)を補正するために使用することが出来る。このステップは動作403bに示されている。これを補正するための1つの例示的な方法は、マッピングされた梗塞情報を、既にセグメント分割されているが漏出性である心室領域(
図7の参照703参照)に重ね合わせ、次に、すでにセグメント分割された心室領域からマッピング済みの梗塞情報を減算し、かつ
図7の参照番号704によって示されるように、血液プール情報のみを有する心室の最終セグメント分割を残すことである。
【0119】
別の例示的な実施態様は、例えば、
図8に示されるように、初回通過灌流MRIデータセットおよび遅延造影MRIデータセットの両方を使用して、造影シネMRIデータセットにおける心室のセグメント分割を支援する。この具体例の実施態様においては、セグメント分割されるべき特徴は、初回通過灌流MRIデータセットおよび遅延造影MRIデータセットに対し、それぞれ、血液プールおよび梗塞である。
【0120】
初回通過灌流MRIデータセット(
図8の参照番号801)における血液プールのセグメント分割は、例えば、ユーザによって手動で、または前述したように(半)自動的に行うことが出来る。
【0121】
血液プール情報が初回通過灌流MRIデータセットから得られた後、それは、遅延増強データセットにマッピングされなければならない(
図8の参照番号802)。初回通過灌流MRIデータセットの1つ以上のスライスで利用可能な血液プール情報は、遅延造影MRIデータセットの対応する最良マッチングスライスにマッピングされる。最良適合スライスは、例えば、最も近いスライス位置と最も近い心拍位相に基づいて決定される。
【0122】
マッピングされた血液プール情報は、遅延造影MRIデータセットにおける梗塞のセグメント分割を支援するために使用される。マッピングされた血液プール内腔情報を利用する1つの例示的な方法は、それを使用して、例えば、それを周知の領域成長アルゴリズムのシードとして使用することによって、遅延造影MRIデータセットで血液プール内腔をセグメント分割することである。次いで、このセグメント分割された血液プール内腔は、例えば、先に記載された閾値化方法と組み合わせて使用して、遅延造影MRIデータセットで梗塞をセグメント分割する(
図8の参照番号803)。マッピングされた血液プール情報の利用することの代替案は、前述したようにセグメント分割された梗塞を制限することである。
【0123】
初回通過灌流時に得られた血液プール情報もまた造影シネMRIデータセットにマッピングされる(
図8の参照番号804を参照)。次いで、初回通過灌流MRIデータセットの1つ以上のスライス上で利用可能な血液プール情報は、造影シネMRIデータセットの対応する最良マッチングスライスにマッピングされる。最良適合スライスは、例えば、最も近いスライス位置と最も近い心拍位相に基づいて決定される。
【0124】
遅延造影MRIデータセットで得られた梗塞情報も、例えば、最も近いスライス位置および最も近い心拍位相に基づいて最良の適合スライスを決定することによって、造影シネMRIデータセット(
図8の参照805を参照)にマッピングされる。
【0125】
図9は、造影シネMRIデータセットで血液プール容量(901)をセグメント分割するために、初回通過灌流MRIデータセットからの血液プール情報(902)および遅延造影MRIデータセットからの梗塞(903)情報が、造影シネMRIデータセットのスライスのうちの1つにマッピングされた例を示す。しかしながら、初回通過灌流MRIデータセットの画像スライスと遅延造影MRIデータセットの画像スライスとは異なる位置および心拍位相で取得されるので、利用可能な梗塞情報および血液プール内腔情報は、4Dシネ内でまばらに存在する。例示的な実施態様では、両方の情報を、例えば、さらなるセグメント分割のためのシードとして使用することができる。
【0126】
例えば、セグメント分割の実行には、マルチシード・セグメント分割方法を使用することができる。この方法の目的は、画像をいくつかの異なるオブジェクトに分割することである。この方法は、最初にセグメント分割されるべきいくつかのオブジェクトを定義し、次に、いくつかの画像要素をこの定義されたオブジェクトに対する特定のシードに設定することから始まる。例えば、2つのタイプのオブジェクト(すなわち、血液プール・オブジェクトと非血液プール・オブジェクト)が、セグメント分割される。血液プール・オブジェクト用のシードは、マッピングされた血液プール情報を含み、非血液プール・オブジェクト用のシードは、マッピングされた梗塞情報を含む。
【0127】
異なるオブジェクトに対するシードが決定された後、セグメント分割アルゴリズムは、各画像要素に対して、各タイプのシードに対するそれらの関係に基づいて、各画像要素がどのオブジェクトに属するかを、分類することが出来る。マルチシード・セグメント分割の利点は、他の点では特徴が類似している2つのオブジェクト間の境界決定を向上させることである。
【0128】
造影シネMRIデータセットでは、血液プール内腔および梗塞領域は、両方とも造影剤増強により同様に高いシグナル強度を有する。信号強度のこの類似性は、これら2つの組織間の境界を決定することを困難にする可能性がある。マッピングされた血液プール情報に由来するシードを血液プール内腔に配置し、かつマッピングされた梗塞情報に由来するシードを梗塞領域に配置することによって、これらのシードを囲む画像要素は、血液プール・オブジェクトと非血液プール・オブジェクトとにより良く分類することが出来、これにとり、境界の決定が向上する。
【0129】
マルチシード画像セグメント分割のための例示的な方法は、非特許文献20に教示されている。
【0130】
この方法では、いくつかのオブジェクト(例えば、血液プール領域および非血液プール領域)を定義することが出来る。定義されたオブジェクトごとに、シードが定義される。画像内の各画像要素ごとに、各シードタイプへの連結強度が計算される。計算された連結強度値は、ファジィ連結法によって計算されたものに類似している。しかしながら、この方法では、あるオブジェクトに対する各画像要素のメンバーシップが、連結強度に対する閾値を設定することによって計算されるのではなく、各画像要素が、最も強いメンバーシップを持ちかつそれが連結されているオブジェクトの1つに属すると見なされるという大きな違いがある。
【0131】
オプションとして、組織マッピングMRIデータセットは、造影シネMRIデータセットにおける心室のセグメント分割を支援するための追加データセットとして使用することが出来る。いくつかの特徴は、組織マッピングMRIデータセット(例えば、血液プールまたは心筋層)においてセグメント分割することが出来る。組織マッピングMRIから得られる、対応する緩和時間(T1、T2および/またはT2*)は、(前述した)心室のセグメント分割を支援するために使用することが出来る。この特徴情報は、他の追加データセットと組み合わせることも出来る。
【0132】
追加MRシーケンスからの情報を利用して造影シネMRIデータセット内の血液プールをセグメント分割する別の例示的なセグメント分割方法は、機械学習アルゴリズムである。機械学習は、「明示的なプログラム無しにコンピュータに学習する能力を与える」というコンピュータ・サイエンスのサブフィールドである。人工知能におけるパターン認識と計算学習理論との研究から発展した、機械学習は、データから学習し予測することができるアルゴリズムの研究と構築を探求している。このようなアルゴリズムは、サンプル入力からモデルを構築して、データ駆動型予測または決定を行うことによって厳密に静的なプログラム命令に従わない。機械学習は、明示的アルゴリズムの設計とプログラミングが実行不可能な、さまざまなコンピューティング・タスクの領域で、採用されている。
【0133】
画像のデータセットのクラスラベルが既知であると、機械学習システムは、新しい画像のクラスラベルを予測することが出来る。このようなシステムには少なくとも2つの部分がある。機械学習の第一の部分は、与えられた画像の特徴ベクトルを作成するためのアルゴリズムである特徴抽出(抽出器)である。特徴ベクトルは、関心オブジェクト(本例では、左心室)の性質を記述するまたは特徴付ける、画像データセットから測定または抽出される一連の因数(例えば、複数の数)を含む。次に、システムの第二の部分(分類器)が、これらの特徴を使用して、目に見えない画像から抽出された目に見えない特徴ベクトルを分類する。そのラベルが既知でかつ機械学習アルゴリズムを訓練するために事前に使用された画像および抽出された特徴ベクトルの(大きな)データベースが、得られると、(既知の)ラベル(訓練画像)を有する画像の場合と同じ方法で抽出された特徴に基づいて目に見えない画像を分類することが、可能になる。心室シネMRセグメント分割方法の開発は、進行中の試みであり、これは、最近、例えば、非特許文献21によって考えられるように、機械学習方法からの貢献と見られている。機械学習アルゴリズム内でマッピングされた血液プール情報を使用する例示的な方法は、心筋梗塞の情報を用いて特徴ベクトルを拡張することである。特に、組織マッピングから抽出された緩和値(T1、T2および/またはT2 *)は、特徴ベクトルを拡張するため、かつ位置の機械学習アルゴリズムおよび心筋梗塞情報の提示をガイドするために使用することが出来る。ブラックブラッド・ガドリニウムMRIまたは遅延ガドリニウムMRIからのセグメント分割梗塞も、また、特徴ベクトルを拡大するために使用することが出来る。
【0134】
本明細書では、速度成分の順序および流れ方向について欠けている情報を復元するための方法および装置のいくつかの実施態様を、説明しかつ例示してきた。本発明の特定の実施態様を説明してきたが、本発明の技術的範囲が許す限り広い範囲でかつ明細書が同様に広い範囲となるように意図されているので、本発明は、実施態様に限定されることを意図するものではない。例えば、データ処理操作は、医用画像技術分野で一般的に使用されているPACSまたはVNAなどのデジタルストレージに格納されている画像に対してオフラインで実行することが出来る。したがって、請求された本発明の精神および範囲から逸脱することなく、提供された発明に対してさらに他の修正を加えることができることを、当業者は理解するであろう。
【0135】
本明細書に記載の実施態様は、上述したように、様々なデータストレージならびに他のメモリおよび格納媒体を含み得る。これらは、1つ以上のコンピュータに対してローカルな(および/またはそこに常駐する)格納媒体上、あるいはネットワークを介して任意のまたはすべてのコンピュータから離れた格納媒体上などの、さまざまな場所に存在することが出来る。特定の実施態様のセットでは、情報は、当業者に良く知られているストレージ・エリア・ネットワーク(「SAN」)に存在してもよい。同様に、コンピュータ、サーバまたは他のネットワーク・デバイスに起因する機能を実行するために必要なファイルは、必要に応じてローカルおよび/またはリモートに格納することができる。システムがコンピュータ化デバイスを含む場合、各デバイスは、バスを介して電気的に結合することができるハードウェア要素を含むことができ、この要素は、例えば、少なくとも1つの中央処理装置(「CPU」または「プロセッサ」)、および少なくとも1つの入力装置(例えば、マウス、キーボード、コントローラ、タッチスクリーンまたはキーパッド)および少なくとも1つの出力装置(例えば、表示装置、プリンタまたはスピーカ)を含む。このようなシステムは、ディスクドライブ、光ストレージ、およびランダム・アクセスメモリ(「RAM」)または読み出し専用メモリ(「ROM」)などの固体ストレージ、およびリムーバブル・メディアデバイス、メモリカード、フラッシュカードなどのなどの1つ以上のストレージも含むことができる。
【0136】
このような装置は、また、コンピュータ可読格納媒体リーダ、通信デバイス(例えば、モデム、ネットワークカード(無線または有線)、赤外線通信装置など)、および上述した作業メモリを含むことが出来る。コンピュータ可読格納媒体リーダは、リモート、ローカル、固定、および/または取り外し可能なストレージを表すコンピュータ可読格納媒体、ならびにコンピュータ可読情報の保存、送信、取得を一時的におよび/またはより恒久的に格納するための格納媒体に接続することが出来る、またはこれらを受入れるように構成することが出来る。システムおよび様々なデバイスは、また、典型的には、オペレーティングシステムおよびクライアント・アプリケーションまたはウェブブラウザなどのアプリケーション・プログラムを含む、少なくとも1つのワーキング・メモリデバイス内に配置されたいくつかのソフトウェア・アプリケーション、モジュール、サービスまたは他の要素を含むであろう。当然のことながら、代替の実施態様は、上述したものに対する多数の変形例を有することが出来る。例えば、カスタマイズされたハードウェアを、使用してもよく、および/または特定の要素を、ハードウェア、ソフトウェア(アプレットなどの携帯用ソフトウェアを含む)またはその両方に実装させてもよい。さらに、ネットワーク入力/出力デバイスなどの他のコンピューティング・デバイスへの接続も使用することができる。
【0137】
様々な実施態様は、さらに、コンピュータ可読媒体上で前述の説明に従って実施された命令および/またはデータを、受信、送信、または格納することができる。コード、またはコードの一部を含むための格納媒体およびコンピュータ可読媒体は、コンピュータ可読命令、データ構造、プログラムモジュール、または他のデータのような、情報の格納および/または伝送のための任意の方法または技術で実施される揮発性および不揮発性、取り外し可能、およびこれらに限定されない、固定媒体、格納媒体および通信媒体を含む、当技術分野において既知のまたは使用される任意の適切な媒体を含むことが出来る。このような媒体には、RAM、ROM、電気的消去可能プログラマブル読み取り専用メモリ(「EEPROM」)、フラッシュメモリまたは他のメモリ技術、コンパクトディスク読み取り専用メモリ(「CD ‐ ROM」)、デジタル多用途ディスク(DVD)または他の光学ストレージ、磁気カセット、磁気テープ、磁気ディスク・ストレージまたは他の磁気ストレージ・デバイスまたは所望の情報を格納するために使用することができかつシステムデバイスによってアクセスすることが出来る他の任意の媒体が含まれる。本明細書に提供される開示および教示に基づいて、当業者は、様々な実施態様を実施するための他の方法および/または方法を理解するであろう。
【0138】
したがって、明細書および図面は、限定的な意味ではなく例示的なものと見なすべきである。しかしながら、特許請求の範囲に記載されているような本発明のより広い精神および範囲から逸脱することなく様々な修正および変更がなされ得ることは明らかであろう。
【0139】
本開示の精神の範囲内にある他の変形例がある。したがって、開示された技術は様々な修正および代替の構成を受け入れる余地があり、それらの特定の例示された実施態様は、図面に示されていて、上で詳細に説明されてきた。しかしながら、開示された特定の形態に本発明を限定する意図はない。それどころか、その意図は、特許請求の範囲に定義されているように、本発明の精神および範囲内にあるすべての修正形態、代替構造、および均等物を網羅することである。
【0140】
開示された実施態様を説明する文脈における(特に以下の特許請求の範囲の文脈における)用語「a」および「an」および「the」および類似の冠詞の使用は、本明細書に別段の指示がない限り、または文脈によって明らかに矛盾しない限り、単数形および複数形の両方を網羅すると解釈されるべきである。用語「含む(comprising)」、「有する(having)」、「含む(including)」、および「含有する(containing)」は、特に断りがない限り、制限しない用語として解釈されるべきである(すなわち、「・・を含むがこれらに限定されない」ことを意味する)。「接続された」という用語は、修正されずに物理的な接続を指す場合、たとえ介在するものがあっても、その一部または全部がその中に含まれる、つまり、共に取り付けられているまたは共に結合されていると解釈される。本明細書中の値の範囲の列挙は、本明細書中に別段の指示がない限り、単にその範囲内に含まれる各個別の値を個々に指す簡潔な方法として機能することを意図している。「セット」(例えば、「項目のセット」)または「サブセット」という用語の使用は、別段の記載がない限り、または文脈と矛盾しない限り、1つ以上の構成要素を含む空でない集合として解釈されるべきである。さらに、文脈によって特に指摘されないまたはそれと矛盾しない限り、対応するセットの「サブセット」という用語は、対応するセットの適切なサブセットを必ずしも意味しないが、サブセットと対応するセットは等しくてもよい。
【0141】
本明細書に記載の方法の操作は、本明細書に別段の指示がない限りまたは文脈と明らかに矛盾しない限り、任意の適切な順序で実行することが出来る。本明細書に記載のプロセス(またはその変形例および/または組み合わせ)は、実行可能命令で構成された1つ以上のコンピュータシステムの制御下で実行することができ、かつハードウェアまたはそれらの組み合わせによって、1つ以上のプロセッサ上で集合的に実行するコード(例えば、実行可能命令、1つ以上のコンピュータプログラムまたは1つまたは複数のアプリケーション)として実装することができる。コードは、例えば、1つ以上のプロセッサによって実行可能な複数の命令を含むコンピュータプログラムの形で、コンピュータ可読格納媒体に格納することができる。コンピュータ可読格納媒体は、非一時的としてもよい。
【0142】
本発明を実施するために本発明者らが知っている最良の形態を含め、本開示の好ましい実施態様が、本明細書に記載されている。これらの好ましい実施態様の変形例は、前述の説明を読めば当業者には明らかになるであろう。本発明者らは、当業者がそのような変形形態を適切に使用することを予想しており、かつ本発明者らは、本明細書に具体的に記載されたものとは別の方法で本開示の実施態様が実施されることを意図する。したがって、本開示の範囲は、適用法によって許容されるように、本明細書に添付の特許請求の範囲に記載の主題のすべての修正形態および均等物を含む。さらに、そのすべての可能な変形形態における上記の要素の任意の組み合わせは、本明細書で別段に示されない限り、または文脈によって明らかに否定されない限り、本開示の範囲に含まれる。
【0143】
本明細書に引用した刊行物、特許出願および特許を含む全ての参考文献は、あたかも各参考文献が個別におよび具体的に参照により組み込まれることが示され、その全体が本明細書に記載されるのと同程度に参照により本明細書に組み込まれている。