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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-05-11
(45)【発行日】2023-05-19
(54)【発明の名称】冷凍サイクル装置
(51)【国際特許分類】
   F25B 49/02 20060101AFI20230512BHJP
   F24F 11/38 20180101ALI20230512BHJP
【FI】
F25B49/02 570C
F24F11/38
【請求項の数】 4
(21)【出願番号】P 2018229284
(22)【出願日】2018-12-06
(65)【公開番号】P2020091080
(43)【公開日】2020-06-11
【審査請求日】2021-12-03
(73)【特許権者】
【識別番号】000006013
【氏名又は名称】三菱電機株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】000236056
【氏名又は名称】三菱電機ビルソリューションズ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001461
【氏名又は名称】弁理士法人きさ特許商標事務所
(72)【発明者】
【氏名】松下 端之
(72)【発明者】
【氏名】落合 康敬
(72)【発明者】
【氏名】小松 一宏
(72)【発明者】
【氏名】田崎 宣明
【審査官】関口 勇
(56)【参考文献】
【文献】特開2000-274896(JP,A)
【文献】特開2003-254587(JP,A)
【文献】特開2012-159251(JP,A)
【文献】特開2015-183859(JP,A)
【文献】特開2002-071188(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F25B 49/02
F24F 11/38
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
圧縮機、室外熱交換器、電子膨張弁及び室内熱交換器を有する冷凍サイクル回路と、
異常を報知する報知部と、
を備え、
前記冷凍サイクル回路は、前記圧縮機が動作して高圧圧力一定制御が行われ、前記室外熱交換器が蒸発器として機能し、前記室内熱交換器が凝縮器として機能し、前記電子膨張弁が一定開度で開いた状態に維持される運転状態で運転可能であり、
前記運転状態において、前記電子膨張弁の正常時よりも前記室内熱交換器の出口での冷媒温度が高くなって室内の室内温度と前記冷媒温度との温度差が大きくなることで前記室内熱交換器の温度効率が基準値を下回った場合、前記電子膨張弁の異常が前記報知部で報知される冷凍サイクル装置。
【請求項2】
前記室内熱交換器は、冷媒と前記室内の空気との熱交換を行うものであり、
前記室内熱交換器での凝縮温度をTcとし、
前記室内熱交換器の出口での冷媒温度をTcoとし、
前記室内の室内温度をTcaiとしたとき、
前記温度効率ηhは、ηh=(Tc-Tco)/(Tc-Tcai)で表される請求項1に記載の冷凍サイクル装置。
【請求項3】
制御装置をさらに備え、
前記制御装置は、前記凝縮温度、前記冷媒温度及び前記室内温度のそれぞれのデータを記憶し、記憶した前記データのうち、前記運転状態における前記凝縮温度、前記冷媒温度及び前記室内温度のそれぞれの前記データに基づいて前記電子膨張弁の異常を判定するように構成されている請求項2に記載の冷凍サイクル装置。
【請求項4】
前記室内熱交換器に空気を供給する室内ファンをさらに備え、
前記運転状態では、前記室内ファンが停止している請求項1~請求項3のいずれか一項に記載の冷凍サイクル装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電子膨張弁を備えた冷凍サイクル装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
特許文献1には、機器自身によって膨張弁の異常を検知する空調装置が記載されている。この空調装置は、圧縮機、凝縮器、電子膨張弁及び蒸発器を備えている。電子膨張弁と蒸発器との間には、蒸発器の温度を検知する温度センサが設けられている。蒸発器の吸込口には、吸込み空気温度を検知する温度センサが設けられている。異常検知装置では、各温度センサの検知温度に基づき、電子膨張弁の異常検知が行われる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2000-274896号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、蒸発器の温度及び吸込み空気温度は、空調装置の運転条件に応じて変動する。したがって、蒸発器の温度及び吸込み空気温度のみに基づいて電子膨張弁の異常検知が行われると、誤検知又は見逃しが生じてしまう場合があるという課題があった。
【0005】
本発明は、上述のような課題を解決するためになされたものであり、電子膨張弁の異常検知における誤検知及び見逃しを防ぐことができる冷凍サイクル装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明に係る冷凍サイクル装置は、圧縮機、室外熱交換器、電子膨張弁及び室内熱交換器を有する冷凍サイクル回路と、異常を報知する報知部と、を備え、前記冷凍サイクル回路は、前記圧縮機が動作して高圧圧力一定制御が行われ、前記室外熱交換器が蒸発器として機能し、前記室内熱交換器が凝縮器として機能し、前記電子膨張弁が一定開度で開いた状態に維持される運転状態で運転可能であり、前記運転状態において、前記電子膨張弁の正常時よりも前記室内熱交換器の出口での冷媒温度が高くなって室内の室内温度と前記冷媒温度との温度差が大きくなることで前記室内熱交換器の温度効率が基準値を下回った場合、前記電子膨張弁の異常が前記報知部で報知されるものである。
【発明の効果】
【0007】
室内熱交換器の温度効率は、電子膨張弁が正常であれば、室内熱交換器の出口の冷媒温度及び室内温度の変動による影響を受けない。したがって、本発明によれば、温度効率に基づいて電子膨張弁の異常が検知されるため、電子膨張弁の異常検知における誤検知及び見逃しを防ぐことができる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
図1】本発明の実施の形態1に係る冷凍サイクル装置の構成を示す図である。
図2】本発明の実施の形態1に係る冷凍サイクル装置の室内機2aにおける暖房運転時の冷媒の流れを示す図である。
図3】本発明の実施の形態1に係る冷凍サイクル装置において、暖房サーモオフモード、暖房送風モード又は停止モードの室内機2aで電子膨張弁23aが正常であるときの冷媒の温度変化を示すグラフである。
図4】本発明の実施の形態1に係る冷凍サイクル装置において、暖房サーモオフモード、暖房送風モード又は停止モードの室内機2aで電子膨張弁23aが異常であるときの冷媒の温度変化を示すグラフである。
図5】温度差(Tco-Tcai)のみに基づいて電子膨張弁の異常検知が行われる場合に異常と判定される冷媒温度Tcoの温度範囲を示す図である。
図6】温度差(Tco-Tcai)のみに基づいて電子膨張弁の異常検知が行われる場合に異常と判定される冷媒温度Tcoの温度範囲を示す図である。
図7】温度差(Tco-Tcai)のみに基づいて電子膨張弁の異常検知が行われる場合に異常と判定される冷媒温度Tcoの温度範囲を示す図である。
図8】本発明の実施の形態1に係る冷凍サイクル装置において、電子膨張弁が正常と判定される温度効率ηhの範囲と電子膨張弁が異常と判定される温度効率ηhの範囲とを示す図である。
図9】本発明の実施の形態1に係る冷凍サイクル装置において、電子膨張弁が異常と判定される冷媒温度Tcoの温度範囲を示す図である。
図10】本発明の実施の形態1に係る冷凍サイクル装置において、電子膨張弁が異常と判定される冷媒温度Tcoの温度範囲を示す図である。
図11】本発明の実施の形態1に係る冷凍サイクル装置において、電子膨張弁が異常と判定される冷媒温度Tcoの温度範囲を示す図である。
図12】本発明の実施の形態1に係る冷凍サイクル装置の制御装置3で実行される電子膨張弁の異常検知処理の流れの例を示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0009】
実施の形態1.
本発明の実施の形態1に係る冷凍サイクル装置について説明する。図1は、本実施の形態に係る冷凍サイクル装置の構成を示す図である。本実施の形態では、冷凍サイクル装置として、少なくとも暖房運転を実行可能なマルチ型の空気調和装置を例示している。図1に示すように、冷凍サイクル装置は、冷媒を循環させる冷凍サイクル回路10と、冷凍サイクル回路10を含む冷凍サイクル装置全体を制御する制御装置3と、を有している。
【0010】
冷凍サイクル回路10は、圧縮機11、四方弁14、室内熱交換器21a、21b、電子膨張弁23a、23b及び室外熱交換器12が冷媒配管を介して環状に接続された構成を有している。冷凍サイクル回路10において、室内熱交換器21a及び電子膨張弁23aの組と、室内熱交換器21b及び電子膨張弁23bの組とは、互いに並列に接続されている。
【0011】
<室外機>
冷凍サイクル装置は、室外に設置される室外機1を有している。室外機1には、上記の圧縮機11、四方弁14及び室外熱交換器12と、室外ファン13及び圧力センサ15と、が収容されている。
【0012】
圧縮機11は、低圧のガス冷媒を吸入して圧縮し、高圧のガス冷媒として吐出する流体機械である。圧縮機11が動作すると、冷媒が冷凍サイクル回路10内を循環する。圧縮機11としては、回転速度を調整可能なインバータ駆動の圧縮機が用いられる。四方弁14は、冷房運転時と暖房運転時とで冷媒の流れ方向を切り替える弁である。室外熱交換器12は、冷房運転時には凝縮器として機能し、暖房運転時には蒸発器として機能する熱交換器である。室外熱交換器12では、冷媒と室外空気との熱交換が行われる。
【0013】
室外ファン13は、モータによって駆動するプロペラファンである。室外ファン13は、室外熱交換器12に室外空気を供給する。室外ファン13が動作すると、室外空気が室外機1の内部に吸入され、室外熱交換器12を通過した室外空気が室外機1の外部に排出される。
【0014】
圧力センサ15は、冷凍サイクル回路10のうち、圧縮機11と四方弁14との間の吐出配管、すなわち圧縮機11の吐出側に設けられている。圧力センサ15は、冷凍サイクル回路10の高圧圧力を検出し、検出信号を後述する制御装置3に出力する。制御装置3では、冷凍サイクル回路10の高圧圧力に基づいて凝縮温度Tcが演算される。
【0015】
<室内機>
冷凍サイクル装置は、室内に設置される2台の室内機2a、2bを有している。室内機2a、2bは、冷媒配管を介して室外機1と接続されている。冷凍サイクル装置の利用形態に応じて、1台の室外機に対し1台又は3台以上の室内機が設置されるようにしてもよい。
【0016】
室内機2aには、上記の室内熱交換器21a及び電子膨張弁23aと、室内ファン22a、温度センサ24a及び温度センサ25aと、が収容されている。
【0017】
室内熱交換器21aは、冷房運転時には蒸発器として機能し、暖房運転時には凝縮器として機能する熱交換器である。室内熱交換器21aでは、冷媒と室内空気との熱交換が行われる。電子膨張弁23aは、絞り膨張により冷媒を減圧させる弁である。電子膨張弁23aの開度は、冷凍サイクル回路10内の冷媒の過熱度又は過冷却度が目標値に近づくように、制御装置3によって制御される。これにより、冷凍サイクル回路10内の冷媒流量が効率よく制御される。
【0018】
室内ファン22aは、モータによって駆動する遠心ファン又はクロスフローファンである。室内ファン22aは、室内熱交換器21aに空気を供給する。室内ファン22aが動作すると、室内空気が室内機2aの内部に吸入され、室内熱交換器21aを通過した調和空気が室内に供給される。
【0019】
温度センサ24aは、空気の流れにおいて室内熱交換器21aの上流側に設けられている。温度センサ24aは、室内機2aからの調和空気が供給される室内の室内温度Tcaiを検出し、検出信号を制御装置3に出力する。温度センサ25aは、冷凍サイクル回路10のうち、室内熱交換器21aと電子膨張弁23aとの間、すなわち暖房運転時の冷媒の流れにおいて室内熱交換器21aの出口側に設けられている。温度センサ25aは、室内熱交換器21aの出口での冷媒温度Tcoを検出し、検出信号を制御装置3に出力する。
【0020】
室内機2bには、室内機2aと同様に、室内熱交換器21b、電子膨張弁23b、室内ファン22b、温度センサ24b及び温度センサ25bが収容されている。温度センサ24bでは、室内機2bからの調和空気が供給される室内の室内温度Tcaiが検出される。温度センサ25bでは、暖房運転時における室内熱交換器21bの出口での冷媒温度Tcoが検出される。
【0021】
<制御装置>
制御装置3は、CPU、ROM、RAM、I/Oポート等を備えたマイクロコンピュータを有している。制御装置3は、冷凍サイクル回路10に設けられた各種センサからの検出信号、及び不図示の操作部からの操作信号等に基づき、圧縮機11、四方弁14、室外ファン13、電子膨張弁23a、23b、及び室内ファン22a、22bを含む冷凍サイクル装置全体の動作を制御する。制御装置3は、室外機1に設けられていてもよいし、室内機2a、2bのいずれかに設けられていてもよい。また、制御装置3は、室外機1に設けられた室外機制御部と、室内機2a、2bのそれぞれに設けられ室外機制御部と通信可能な室内機制御部と、を有していてもよい。
【0022】
また、制御装置3は、電子膨張弁23a、23bの異常判定に関わる機能ブロックとして、記憶部31、抽出部32、演算部33、比較部34、判定部35及び報知部36を有している。記憶部31は、圧力センサ15で検出された圧力のデータ、及び温度センサ24a、24b、25a、25bで検出された温度のデータを記憶するように構成されている。これらのデータは、冷凍サイクル回路10の運転中に定期的に取得される。
【0023】
抽出部32は、記憶部31に記憶されたデータの中から、電子膨張弁23a、23bのそれぞれの異常判定に必要となる凝縮温度Tc、室内温度Tcai及び冷媒温度Tcoのデータを抽出するように構成されている。ここで、電子膨張弁23aの異常判定には、室内熱交換器21aでの凝縮温度Tc、室内機2aからの調和空気が供給される室内の室内温度Tcai、及び、暖房運転時における室内熱交換器21aの出口での冷媒温度Tcoのデータが用いられる。電子膨張弁23bの異常判定には、室内熱交換器21bでの凝縮温度Tc、室内機2bからの調和空気が供給される室内の室内温度Tcai、及び、暖房運転時における室内熱交換器21bの出口での冷媒温度Tcoのデータが用いられる。また、電子膨張弁23a、23bのそれぞれの異常判定には、室内機2a、2bが特定の動作モードで運転しているときの凝縮温度Tc、室内温度Tcai及び冷媒温度Tcoのデータが用いられる。特定の動作モードには、後述する暖房サーモオフモード、暖房送風モード及び停止モードが含まれる。抽出部32は、凝縮温度Tcのデータに代えて、冷凍サイクル回路10の高圧圧力のデータを抽出してもよい。
【0024】
演算部33は、抽出部32で抽出されたデータに基づき、室内熱交換器21a、21bのそれぞれの温度効率ηhを算出するように構成されている。演算部33では、必要に応じて、冷凍サイクル回路10の高圧圧力のデータに基づき凝縮温度Tcが演算される。室内熱交換器21a、21bのそれぞれの温度効率ηhは、凝縮温度Tc[℃]、室内温度Tcai[℃]及び冷媒温度Tco[℃]を用いて、下記の式(1)により算出される。
ηh=(Tc-Tco)/(Tc-Tcai) ・・・(1)
【0025】
比較部34は、演算部33で算出された温度効率ηhと、温度効率ηhの閾値として記憶されている基準値η0と、を比較するように構成されている。
【0026】
判定部35は、比較部34での比較結果に基づき、電子膨張弁23a、23bのそれぞれが正常であるか異常であるかを判定するように構成されている。
【0027】
報知部36は、電子膨張弁23a、23bの異常などの各種情報を報知するように構成されている。報知部36は、情報を視覚的に報知する表示部、及び情報を聴覚的に報知する音声出力部の少なくとも一方を有している。報知部36は、判定部35により電子膨張弁23aが異常であると判定された場合、異常コードの表示などによって電子膨張弁23aの異常をユーザーに報知する。同様に、報知部36は、判定部35により電子膨張弁23bが異常であると判定された場合、異常コードの表示などによって電子膨張弁23bの異常をユーザーに報知する。
【0028】
<冷凍サイクル回路の動作>
次に、冷凍サイクル回路10の動作について、暖房運転を例に挙げて説明する。ここで、暖房運転とは、圧縮機11が動作し、室外熱交換器12が蒸発器として機能し、少なくとも1つの室内熱交換器21a、21bが凝縮器として機能する、冷凍サイクル回路10の運転状態のことである。後述するように、冷凍サイクル回路10の運転状態が暖房運転であっても、室内機2a、2bのそれぞれでは必ずしも暖房が行われない。
【0029】
冷凍サイクル回路10で暖房運転が行われる場合、四方弁14は、圧縮機11から吐出されたガス冷媒が室内熱交換器21a、21bに供給されるように切り替えられる。圧縮機11から吐出された高温高圧のガス冷媒は、四方弁14を介して室内熱交換器21a、21bに流入する。暖房運転時には、室内熱交換器21a、21bは凝縮器として機能する。室内熱交換器21aに流入したガス冷媒は、室内ファン22aにより供給される室内空気との熱交換によって凝縮し、高圧の液冷媒となる。室内熱交換器21bに流入したガス冷媒は、室内ファン22bにより供給される室内空気との熱交換によって凝縮し、高圧の液冷媒となる。室内熱交換器21a、21bのそれぞれを通過した室内空気は、加熱された調和空気となってそれぞれ室内に供給される。
【0030】
室内熱交換器21a、21bで凝縮した液冷媒は、それぞれ電子膨張弁23a、23bで減圧されて低圧の二相冷媒となる。電子膨張弁23a、23bのそれぞれで減圧された二相冷媒は、合流して室外熱交換器12に流入する。暖房運転時には、室外熱交換器12は蒸発器として機能する。室外熱交換器12に流入した二相冷媒は、室外ファン13により供給される室外空気との熱交換によって蒸発し、低圧のガス冷媒となる。室外熱交換器12で蒸発したガス冷媒は、四方弁14を介して圧縮機11に吸入される。
【0031】
<高圧圧力一定制御>
高圧圧力一定制御について説明する。本実施の形態のようなマルチ型の空気調和装置では、圧縮機11は、冷凍サイクル回路10の高圧圧力、すなわち圧縮機11の吐出圧力が一定になるように制御される。そのため、高圧圧力を用いて演算される凝縮温度Tcは一定の温度となる。
【0032】
<室外ファン制御>
室外ファン制御について説明する。暖房運転時において、室外ファン13の回転数は、蒸発温度と外気温度との温度差が一定となるように制御されている。制御される室外ファン13による空気の風量と、室外熱交換器12の伝熱面積と、の関係により、必要な熱交換量が得られる。
【0033】
<室内機の定常制御>
暖房運転時における室内機の定常制御について説明する。室内熱交換器21a、21bのそれぞれの出口での過冷却度SCは、凝縮温度Tcから冷媒温度Tcoを減じることにより算出される(SC=Tc-Tco)。電子膨張弁23aの開度は、室内熱交換器21aの出口での過冷却度SCが目標過冷却度SCmに近づくように制御される。電子膨張弁23bの開度は、室内熱交換器21bの出口での過冷却度SCが目標過冷却度SCmに近づくように制御される。室内ファン22a、22bのそれぞれの回転数は、室内に設置されたリモコンでユーザーにより設定された風量に基づいて制御される。
【0034】
<暖房サーモオフモード>
暖房サーモオフモードについて説明する。暖房サーモオフモードは、冷凍サイクル回路10の暖房運転中に室内機2a、2bのそれぞれで実行される動作モードの1つである。以下、暖房サーモオフモードについて室内機2aを例に挙げて説明する。室内機2aの定常制御によって室内温度が目標温度に達した場合、室内熱交換器21aではそれ以上の熱交換を行う必要がない。したがってこの場合、室内熱交換器21aを流れる冷媒の流量が小流量に絞られることにより、室内機2aは一時的に送風運転状態になる。このとき、冷凍サイクル回路10は暖房運転のままである。このように、冷凍サイクル回路10の暖房運転中において、室内温度と目標温度との温度差の減少により室内機2aが送風運転状態になる動作モードを、暖房サーモオフモードという。暖房サーモオフモードでは、室内熱交換器21a内での冷媒の寝込みを防止するため、電子膨張弁23aは、全閉ではなく一定開度で開いた状態に維持される。この一定開度は、例えば、電子膨張弁23aの通常の制御で使用される開度範囲の下限よりも小さい微開開度である。また、暖房サーモオフモードでは、室内ファン22aは所定の回転数で動作する。暖房サーモオフモードにおいて、室内温度と目標温度との温度差が所定値以上に大きくなった場合には、暖房サーモオフモードが終了し、室内機2aの定常制御が再開される。
【0035】
<暖房送風モード>
暖房送風モードについて説明する。暖房送風モードは、冷凍サイクル回路10の暖房運転中に室内機2a、2bのそれぞれで実行される動作モードの1つである。以下、暖房送風モードについて室内機2aを例に挙げて説明する。室内機2aは、ユーザーによるリモコンの操作に基づき、送風運転に設定され得る。このように、冷凍サイクル回路10の暖房運転中においてユーザーの操作により室内機2aが送風運転状態となる動作モードを、暖房送風モードという。すなわち、暖房送風モードは、暖房サーモオフモードと異なり、ユーザーの操作に基づいて開始され、ユーザーの操作に基づいて終了する。暖房送風モードでは、電子膨張弁23aは、例えば、暖房サーモオフモードと同様に一定の微開開度で開いた状態に維持される。また、暖房送風モードでは、室内ファン22aは所定の回転数で動作する。
【0036】
<停止モード>
停止モードについて説明する。停止モードは、冷凍サイクル回路10の暖房運転中に室内機2a、2bのそれぞれで実行される動作モードの1つである。以下、停止モードについて室内機2aを例に挙げて説明する。室内機2aは、ユーザーによるリモコンの操作に基づいて停止状態になる。このように、冷凍サイクル回路10の暖房運転中において室内機2aが停止状態となる動作モードを、停止モードという。停止モードでは、電子膨張弁23aは、例えば、暖房サーモオフモード及び暖房送風モードと同様に一定の微開開度で開いた状態に維持される。また、停止モードでは、室内ファン22aは停止する。
【0037】
<電子膨張弁の異常検知が可能な動作モード>
複数台の室内機2a、2bを有する冷凍サイクル装置において、全ての室内機2a、2bの動作モードが暖房サーモオフモード、暖房送風モード又は停止モードのいずれかになった場合、圧縮機11が停止し、冷凍サイクル回路10の暖房運転が終了してしまう。
【0038】
本実施の形態において、電子膨張弁23aの異常検知を行うためには、冷凍サイクル回路10が暖房運転を行っており、かつ、電子膨張弁23aが一定開度で開いた状態に維持されているという条件を満たしている必要がある。室内機2aの動作モードが暖房サーモオフモード、暖房送風モード又は停止モードのいずれかであり、かつ、他の少なくとも1台の室内機の動作モードが暖房サーモオフモード、暖房送風モード及び停止モードのいずれでもない場合、上記の条件を満たしている。また、冷凍サイクル回路10は、電子膨張弁23aの異常検知を行うための特別な運転状態での運転が可能であってもよい。この運転状態では、冷凍サイクル回路10が暖房運転を行い、かつ、電子膨張弁23aが一定開度で開いた状態に維持される。
【0039】
また、本実施の形態において、電子膨張弁23bの異常検知を行うためには、冷凍サイクル回路10が暖房運転を行っており、かつ、電子膨張弁23bが一定開度で開いた状態に維持されているという条件を満たしている必要がある。室内機2bの動作モードが暖房サーモオフモード、暖房送風モード又は停止モードのいずれかであり、かつ、他の少なくとも1台の室内機の動作モードが暖房サーモオフモード、暖房送風モード及び停止モードのいずれでもない場合、上記の条件を満たしている。また、冷凍サイクル回路10は、電子膨張弁23bの異常検知を行うための特別な運転状態での運転が可能であってもよい。この運転状態では、冷凍サイクル回路10が暖房運転を行い、かつ、電子膨張弁23bが一定開度で開いた状態に維持される。
【0040】
図2は、本実施の形態に係る冷凍サイクル装置の室内機2aにおける暖房運転時の冷媒の流れを示す図である。図2中の白抜き矢印は、室内熱交換器21aに供給される空気の流れを表している。図3は、本実施の形態に係る冷凍サイクル装置において、暖房サーモオフモード、暖房送風モード又は停止モードの室内機2aで電子膨張弁23aが正常であるときの冷媒の温度変化を示すグラフである。図4は、本実施の形態に係る冷凍サイクル装置において、暖房サーモオフモード、暖房送風モード又は停止モードの室内機2aで電子膨張弁23aが異常であるときの冷媒の温度変化を示すグラフである。図3及び図4における横軸方向は、室内熱交換器21a内の冷媒流路における位置を表している。図3及び図4において、右端は暖房運転時における室内熱交換器21aの冷媒入口を表しており、左端は暖房運転時における室内熱交換器21aの冷媒出口を表している。図3及び図4における縦軸方向は、温度を表している。ここで、暖房運転時に室内熱交換器21aに流入するガス冷媒は、実際には過熱ガス状態であるため凝縮温度Tcよりも高い温度を有しているが、図3及び図4では、室内熱交換器21aに流入するガス冷媒の温度を凝縮温度Tcと同等と表現している。また、以下の説明では、室内機2a、室内熱交換器21a及び電子膨張弁23aを例示する場合があるが、室内機2b、室内熱交換器21b及び電子膨張弁23bについても同様である。
【0041】
<電子膨張弁の正常時>
まず、図2及び図3を用いて、電子膨張弁23aが正常であるときの冷媒の温度変化について説明する。暖房サーモオフモード、暖房送風モード又は停止モードでは、電子膨張弁23aは、一定の微開開度で開いた状態に維持される。ここで、室内温度Tcaiは、温度センサ24aにより検出される。室内熱交換器21aの出口の冷媒温度Tcoは、温度センサ25aにより検出される。凝縮温度Tcは、圧力センサ15により検出される高圧圧力を用いて演算される。
【0042】
圧縮機11によって高温高圧になったガス冷媒は、冷媒配管を通って室内熱交換器21aに流入する。室内熱交換器21aに流入したガス冷媒は、室内ファン22aにより供給される温度Tcaiの室内空気との熱交換によって凝縮し、二相状態を経て液状態に変化する。室内熱交換器21aの内部では、冷媒の温度は図3中の曲線C1のように変化する。電子膨張弁23aの開度が微開開度に維持されるため、室内熱交換器21aを流通する冷媒の流量は比較的小さくなる。これにより、室内熱交換器21aから流出する液冷媒の温度Tcoは、室内温度Tcaiに接近する傾向となる。室内熱交換器21aから流出した液冷媒は、電子膨張弁23aに流入する。
【0043】
<電子膨張弁の異常時>
次に、図2及び図4を用いて、電子膨張弁23aが異常であるときの冷媒の温度変化について説明する。ここで、電子膨張弁23aの異常としては、開ロックが例示される。開ロックとは、電子膨張弁23a内の弁体の固着によって電子膨張弁23aの開度が微開開度よりも大きい開度で固定されてしまう状態のことである。この場合、暖房サーモオフモード、暖房送風モード又は停止モードでは、電子膨張弁23aが微開開度にならず、それよりも大きい開度で開いた状態に維持されてしまう。これにより、電子膨張弁23aが正常なときと比較して、室内熱交換器21aを流通する冷媒の流量が増大する。室内熱交換器21aの内部では、冷媒の温度は図4中の曲線C2のように変化する。室内熱交換器21aを流通する冷媒の流量が増大することから、室内熱交換器21aから流出する液冷媒の温度Tcoは、電子膨張弁23aが正常であるときの温度Tcoよりも高くなる。このため、電子膨張弁23aが異常であるときの冷媒温度Tcoと室内温度Tcaiとの温度差(Tco-Tcai)は、電子膨張弁23aが正常であるときの温度差(Tco-Tcai)よりも大きくなる。
【0044】
特許文献1に記載の空調装置では、電子膨張弁と蒸発器との間に配置された温度センサの検知温度と、吸込み空気温度と、の温度差に基づいて、電子膨張弁の異常検知が行われる。電子膨張弁と蒸発器との間に配置された温度センサの検知温度は、冷媒温度Tcoに相当する。吸込み空気温度は、室内温度Tcaiに相当する。すなわち、特許文献1に記載の空調装置では、冷媒温度Tcoと室内温度Tcaiとの温度差(Tco-Tcai)に基づいて、電子膨張弁の異常検知が行われる。しかしながら、冷媒温度Tco及び室内温度Tcaiは、各部屋の温度条件等の冷凍サイクル装置の運転条件に応じて変動する。したがって、冷媒温度Tcoと室内温度Tcaiとの温度差(Tco-Tcai)のみに基づいて電子膨張弁の異常検知が行われると、誤検知又は見逃しが生じてしまう場合があった。ここで、誤検知とは、正常であるにも関わらず異常と判定されてしまうことである。見逃しとは、異常であるにも関わらず正常と判定され、異常を検知できないか又は異常の検知が遅れてしまうことである。
【0045】
冷媒温度Tcoと室内温度Tcaiとの温度差(Tco-Tcai)のみに基づいて電子膨張弁の異常検知が行われる場合に生じる問題点について、より具体的に説明する。図5図6及び図7は、温度差(Tco-Tcai)のみに基づいて電子膨張弁の異常検知が行われる場合に異常と判定される冷媒温度Tcoの温度範囲を示す図である。図5図6及び図7のそれぞれの縦軸方向は温度を表している。図5図6及び図7では、室内温度Tcaiの温度条件がそれぞれ異なっている。温度効率ηhは、冷凍サイクル装置又は室内機の機種、室内機の動作モード及び室内ファンの回転数等によって決まる値である。ここでは、温度効率ηhを70%と仮定する。また、本実施の形態のようなマルチ型の空気調和装置では、高圧圧力一定制御が行われるため、凝縮温度Tcを一定温度である50℃とする。過冷却度SCは、温度効率ηh(無次元)、凝縮温度Tc[℃]及び室内温度Tcai[℃]を用いて、下記の式(2)により算出される。
SC=ηh(Tc-Tcai) ・・・(2)
【0046】
図5は、室内温度Tcaiが20℃である温度条件において、異常と判定される冷媒温度Tcoの温度範囲を示している。図5に示すように、室内温度Tcaiが20℃である場合、過冷却度SCは式(2)に基づき21℃と算出される。室内熱交換器の出口の冷媒温度Tcoは、凝縮温度Tcから過冷却度SCを減じた値である29℃となる。このため、冷媒温度Tcoが29℃以下である場合(Tco≦29℃)には電子膨張弁が正常であり、冷媒温度Tcoが29℃よりも高い場合(Tco>29℃)には電子膨張弁が異常であると考えることができる。
【0047】
したがって、電子膨張弁の異常検知の際に温度差(Tco-Tcai)の閾値として用いられるべき基準値は、9℃となる。冷媒温度Tcoが図5の温度範囲Aに含まれる場合(Tco>29℃)、温度差(Tco-Tcai)が9℃よりも大きくなるため、電子膨張弁が異常であると判定できる。
【0048】
図6は、室内温度Tcaiが30℃である温度条件において、異常と判定される冷媒温度Tcoの温度範囲を示している。図6に示すように、室内温度Tcaiが30℃である場合、過冷却度SCは式(2)に基づき14℃と算出される。室内熱交換器の出口の冷媒温度Tcoは、凝縮温度Tcから過冷却度SCを減じた値である36℃となる。このため、冷媒温度Tcoが36℃以下である場合(Tco≦36℃)には電子膨張弁が正常であり、冷媒温度Tcoが36℃よりも高い場合(Tco>36℃)には電子膨張弁が異常であると考えることができる。したがって、電子膨張弁の異常検知の際に温度差(Tco-Tcai)の閾値として用いられるべき基準値は、6℃となる。この基準値は、室内温度Tcaiが20℃であるときの基準値9℃とは一致しない。
【0049】
室内温度Tcaiが30℃である場合にも、温度差(Tco-Tcai)の閾値として用いられる基準値を9℃にしたと仮定する。この場合、冷媒温度Tcoが39℃以下であるとき(Tco≦39℃)に電子膨張弁が正常と判定され、冷媒温度Tcoが39℃よりも高いとき(Tco>39℃)に電子膨張弁が異常と判定される。冷媒温度Tcoが図6の温度範囲Bに含まれるとき(Tco>39℃)には、電子膨張弁の異常を正しく検知できる。しかしながら、冷媒温度Tcoが図6の温度範囲Cに含まれるとき(36℃<Tco≦39℃)には、電子膨張弁が異常であるにも関わらず正常と判定される見逃しが生じてしまう。
【0050】
図7は、室内温度Tcaiが10℃である温度条件において、異常と判定される冷媒温度Tcoの温度範囲を示している。図7に示すように、室内温度Tcaiが10℃である場合、過冷却度SCは式(2)に基づき28℃と算出される。室内熱交換器の出口の冷媒温度Tcoは、凝縮温度Tcから過冷却度SCを減じた値である22℃となる。このため、冷媒温度Tcoが22℃以下である場合(Tco≦22℃)には電子膨張弁が正常であり、冷媒温度Tcoが22℃よりも高い場合(Tco>22℃)には電子膨張弁が異常であると考えることができる。したがって、電子膨張弁の異常検知の際に温度差(Tco-Tcai)の閾値として用いられるべき基準値は、12℃となる。この基準値は、室内温度Tcaiが20℃であるときの基準値9℃とは一致しない。
【0051】
室内温度Tcaiが10℃である場合にも、温度差(Tco-Tcai)の閾値として用いられる基準値を9℃にしたと仮定する。この場合、冷媒温度Tcoが19℃以下であるとき(Tco≦19℃)に電子膨張弁が正常と判定され、冷媒温度Tcoが19℃よりも高いとき(Tco>19℃)に電子膨張弁が異常と判定される。冷媒温度Tcoが図7の温度範囲Dに含まれるとき(Tco>22℃)には、電子膨張弁の異常を正しく検知できる。しかしながら、冷媒温度Tcoが図6の温度範囲Eに含まれるとき(19℃<Tco≦22℃)には、電子膨張弁が正常であるにも関わらず異常と判定される誤検知が生じてしまう。
【0052】
このように、温度差(Tco-Tcai)と基準値との比較のみによって電子膨張弁の異常検知が行われる場合、室内温度Tcaiの値によっては誤検知又は見逃しが生じてしまう。本実施の形態では、誤検知及び見逃しを防ぐため、室内熱交換器21a、21bの温度効率ηhに基づいて、それぞれ電子膨張弁23a、23bの異常検知が行われる。
【0053】
図8は、本実施の形態に係る冷凍サイクル装置において、電子膨張弁が正常と判定される温度効率ηhの範囲と電子膨張弁が異常と判定される温度効率ηhの範囲とを示す図である。既に図4に示したように、電子膨張弁に開ロック等の異常が生じた場合、電子膨張弁が正常なときと比較して、室内熱交換器を流通する冷媒の流量が増大し、室内熱交換器の出口の冷媒温度Tcoが高くなる。冷媒温度Tcoが高くなるほど、温度効率ηhは小さくなる。このため、図8に示すように、室内熱交換器の温度効率ηhが基準値η0以上(ηh≧η0)となる範囲Fでは、電子膨張弁が正常と判定される。室内熱交換器の温度効率ηhが基準値η0未満(ηh<η0)となる範囲Gでは、電子膨張弁が異常と判定される。電子膨張弁23aの異常検知は室内熱交換器21aの温度効率ηhに基づいて行われ、電子膨張弁23bの異常検知は室内熱交換器21bの温度効率ηhに基づいて行われる。
【0054】
室内熱交換器の温度効率ηhは、室内熱交換器の伝熱性能を表す指標であり、通常、冷凍サイクル装置又は室内機の機種、室内機の動作モード及び室内ファンの回転数等によって決まっている。このため、温度効率ηhは、電子膨張弁が正常であれば、室内熱交換器の出口の冷媒温度Tco及び室内温度Tcaiの変動による影響を受けない。したがって、温度効率ηhに基づき電子膨張弁23a、23bの異常検知を行うことにより、誤検知及び見逃しを防ぐことができる。図8では基準値η0を70%としているが、基準値η0は、冷凍サイクル装置又は室内機の機種、室内機の動作モード及び室内ファンの回転数等に基づき、適切な値に設定される。
【0055】
電子膨張弁23a、23bの異常検知は、室内ファン22a、22bがそれぞれ停止しているときに行われるようにしてもよい。例えば、電子膨張弁23aの異常検知は室内機2aの動作モードが停止モードであるときに行われ、電子膨張弁23bの異常検知は室内機2bの動作モードが停止モードであるときに行われる。このようにした場合、基準値η0をより適切な値に設定することができるため、電子膨張弁23a、23bの異常をより正確に検知することができる。
【0056】
図9図10及び図11は、本実施の形態に係る冷凍サイクル装置において、電子膨張弁が異常と判定される冷媒温度Tcoの温度範囲を示す図である。図9図10及び図11のそれぞれの縦軸方向は温度を表している。図9図10及び図11では、室内温度Tcaiの温度条件がそれぞれ異なっている。ここで、図9図10及び図11のいずれにおいても、凝縮温度Tcを50℃とし、温度効率の基準値η0を70%とした。
【0057】
図9は、室内温度Tcaiが20℃である温度条件において、異常と判定される冷媒温度Tcoの温度範囲を示している。図5と同様に、冷媒温度Tcoが29℃以下である場合(Tco≦29℃)には電子膨張弁が正常であり、冷媒温度Tcoが29℃よりも高い場合(Tco>29℃)には電子膨張弁が異常であると考えることができる。冷媒温度Tcoが29℃以下である場合、算出される温度効率ηhは基準値η0以上となる。一方、冷媒温度Tcoが29℃よりも高い場合、すなわち冷媒温度Tcoが図9の温度範囲Hに含まれる場合、算出される温度効率ηhは基準値η0未満となる。したがって、温度効率ηhが基準値η0未満であるか否かに基づいて、電子膨張弁の異常を判定することができる。
【0058】
図10は、室内温度Tcaiが30℃である温度条件において、異常と判定される冷媒温度Tcoの温度範囲を示している。図6と同様に、冷媒温度Tcoが36℃以下である場合(Tco≦36℃)には電子膨張弁が正常であり、冷媒温度Tcoが36℃よりも高い場合(Tco>36℃)には電子膨張弁が異常であると考えることができる。温度効率の基準値η0は、室内温度Tcai及び冷媒温度Tcoに関わらず一定の値となる。このため、図6とは異なり、温度条件によって判定閾値が変動することがない。冷媒温度Tcoが36℃以下である場合、算出される温度効率ηhは基準値η0以上となる。一方、冷媒温度Tcoが36℃よりも高い場合、すなわち冷媒温度Tcoが図10の温度範囲Iに含まれる場合、算出される温度効率ηhは基準値η0未満となる。図10に示す冷媒温度Tcoの温度範囲には、図6の温度範囲Cのように見逃しの生じる温度範囲が存在しない。したがって、温度効率ηhが基準値η0未満であるか否かに基づいて電子膨張弁の異常を判定することにより、見逃しを防ぐことができる。
【0059】
図11は、室内温度Tcaiが10℃である温度条件において、異常と判定される冷媒温度Tcoの温度範囲を示している。図7と同様に、冷媒温度Tcoが22℃以下である場合(Tco≦22℃)には電子膨張弁が正常であり、冷媒温度Tcoが22℃よりも高い場合(Tco>22℃)には電子膨張弁が異常であると考えることができる。温度効率の基準値η0は、室内温度Tcai及び冷媒温度Tcoに関わらず一定の値となる。このため、図7とは異なり、温度条件によって判定閾値が変動することがない。冷媒温度Tcoが22℃以下である場合、算出される温度効率ηhは基準値η0以上となる。一方、冷媒温度Tcoが22℃よりも高い場合、すなわち冷媒温度Tcoが図11の温度範囲Jに含まれる場合、算出される温度効率ηhは基準値η0未満となる。図11に示す冷媒温度Tcoの温度範囲には、図7の温度範囲Eのように誤検知の生じる温度範囲が存在しない。したがって、温度効率ηhが基準値η0未満であるか否かに基づいて電子膨張弁の異常を判定することにより、誤検知を防ぐことができる。
【0060】
<異常検知の流れ>
図12は、本実施の形態に係る冷凍サイクル装置の制御装置3で実行される電子膨張弁の異常検知処理の流れの例を示すフローチャートである。図12に示す異常検知処理は、複数の室内機2a、2bのそれぞれに対して、所定の時間間隔で繰り返し実行される。以下、室内機2aに対して実行される異常検知処理を例に挙げて説明する。
【0061】
図12のステップS1では、制御装置3は、室内熱交換器21aでの凝縮温度Tc、室内熱交換器21aの出口での冷媒温度Tco、室内熱交換器21aを通過した調和空気が供給される室内の室内温度Tcaiの各データを取得する。取得した各データは、制御装置3の記憶部31に記憶される。
【0062】
次に、ステップS2では、制御装置3は、動作モードの条件を満たすか否かを判定する。制御装置3は、例えば、室内機2aの動作モードが暖房サーモオフモード、暖房送風モード又は停止モードのいずれかであり、かつ、他の少なくとも1台の室内機の動作モードが暖房サーモオフモード、暖房送風モード及び停止モードのいずれでもない場合、動作モードの条件を満たすと判定する。この条件を満たしている場合、冷凍サイクル回路10は暖房運転を行っており、かつ、電子膨張弁23aは一定開度で開いた状態に維持されている。動作モードの条件を満たすと判定した場合にはステップS3に進み、動作モードの条件を満たしていないと判定した場合には異常検知処理を終了する。
【0063】
ステップS3では、制御装置3は、ステップS1で取得したデータに基づき、室内熱交換器21aの温度効率ηhを算出する。
【0064】
次に、ステップS4では、制御装置3は、算出した温度効率ηhと基準値η0とを比較し、ηh<η0の関係を満たすか否かを判定する。基準値η0は、冷凍サイクル装置又は室内機の機種、室内機の動作モード及び室内ファンの回転数等に基づいて決まっている値である。ηh<η0の関係を満たす場合にはステップS5に進み、ηh<η0の関係を満たさない場合にはステップS7に進む。
【0065】
ステップS5では、制御装置3は、電子膨張弁23aが異常であると判定する。
【0066】
次に、ステップS6では、制御装置3は、電子膨張弁23aの異常を報知部36に報知させる処理を行う。これにより、報知部36では、電子膨張弁23aの異常がユーザーに報知される。制御装置3は、電子膨張弁23aの異常を報知部36に報知させる処理が終了した後、異常検知処理を終了する。
【0067】
ステップS7では、制御装置3は、電子膨張弁23aが正常であると判定する。その後、制御装置3は異常検知処理を終了する。
【0068】
以上説明したように、本実施の形態に係る冷凍サイクル装置は、圧縮機11、室外熱交換器12、電子膨張弁23a、23b及び室内熱交換器21a、21bを有する冷凍サイクル回路10と、異常を報知する報知部36と、を備えている。冷凍サイクル回路10は、圧縮機11が動作し、室外熱交換器12が蒸発器として機能し、室内熱交換器21aが凝縮器として機能し、電子膨張弁23aが一定開度で開いた状態に維持される運転状態で運転可能である。上記運転状態において室内熱交換器21aの温度効率ηhが基準値η0を下回った場合、電子膨張弁23aの異常が報知部36で報知される。
【0069】
室内熱交換器21aの温度効率ηhは、電子膨張弁23aが正常であれば、室内熱交換器21aの出口の冷媒温度Tco及び室内温度Tcaiの変動による影響を受けない。したがって、上記構成によれば、温度効率ηhに基づいて電子膨張弁23aの異常が検知されるため、電子膨張弁23aの異常検知における誤検知及び見逃しを防ぐことができる。また、上記構成によれば、複数台の室内機2a、2bを有する空気調和装置であっても、電子膨張弁23a、23bの異常を各部屋の温度条件に関わらず検知することができる。
【0070】
また、本実施の形態に係る冷凍サイクル装置において、室内熱交換器21aは、冷媒と室内の空気との熱交換を行うものである。室内熱交換器21aでの凝縮温度をTcとし、室内熱交換器21aの出口での冷媒温度をTcoとし、室内の室内温度をTcaiとしたとき、温度効率ηhは、ηh=(Tc-Tco)/(Tc-Tcai)で表される。
【0071】
また、本実施の形態に係る冷凍サイクル装置は、制御装置3をさらに備えている。制御装置3は、凝縮温度Tc、冷媒温度Tco及び室内温度Tcaiのそれぞれのデータを記憶し、記憶したデータのうち、上記運転状態における凝縮温度Tc、冷媒温度Tco及び室内温度Tcaiのそれぞれのデータに基づいて電子膨張弁23a、23bの異常を判定するように構成されている。この構成によれば、冷凍サイクル装置が単独で電子膨張弁23a、23bの異常検知を行うことができる。
【0072】
また、本実施の形態に係る冷凍サイクル装置は、室内熱交換器21aに空気を供給する室内ファン22aをさらに備えている。上記運転状態では、室内ファン22aが停止している。この構成によれば、基準値η0をより適切な値に設定することができるため、電子膨張弁23aの異常をより正確に検知することができる。
【0073】
上記実施の形態では空気調和装置を例に挙げたが、本発明は、空気調和装置以外の冷凍サイクル装置にも適用可能である。
【符号の説明】
【0074】
1 室外機、2a、2b 室内機、3 制御装置、10 冷凍サイクル回路、11 圧縮機、12 室外熱交換器、13 室外ファン、14 四方弁、15 圧力センサ、21a、21b 室内熱交換器、22a、22b 室内ファン、23a、23b 電子膨張弁、24a、24b、25a、25b 温度センサ、31 記憶部、32 抽出部、33 演算部、34 比較部、35 判定部、36 報知部。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12