(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-05-11
(45)【発行日】2023-05-19
(54)【発明の名称】アーチファクトを低減するための神経刺激
(51)【国際特許分類】
A61B 5/377 20210101AFI20230512BHJP
A61N 1/36 20060101ALI20230512BHJP
A61B 5/24 20210101ALI20230512BHJP
【FI】
A61B5/377
A61N1/36
A61B5/24
(21)【出願番号】P 2018567067
(86)(22)【出願日】2017-06-23
(86)【国際出願番号】 AU2017050647
(87)【国際公開番号】W WO2017219096
(87)【国際公開日】2017-12-28
【審査請求日】2020-05-22
(32)【優先日】2016-06-24
(33)【優先権主張国・地域又は機関】AU
(73)【特許権者】
【識別番号】513144730
【氏名又は名称】サルーダ・メディカル・ピーティーワイ・リミテッド
(74)【代理人】
【識別番号】100108453
【氏名又は名称】村山 靖彦
(74)【代理人】
【識別番号】100110364
【氏名又は名称】実広 信哉
(74)【代理人】
【識別番号】100133400
【氏名又は名称】阿部 達彦
(72)【発明者】
【氏名】ディーン・カラントニス
(72)【発明者】
【氏名】ピーター・スコット・ヴァラック・シングル
(72)【発明者】
【氏名】カイ・ファン
【審査官】今浦 陽恵
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2015/074121(WO,A1)
【文献】米国特許出願公開第2007/0225767(US,A1)
【文献】Andreas Bahmer et al.,Effects of electrical pulse polarity shape on intra cochlear neural responses in humans: Triphasic pulses with cathodic second phase,Hearing Research,2013年,Vol. 306,pp.123-130
【文献】Andreas Bahmer et al.,Effects of electrical pulse polarity shape on intra cochlear neural responses in humans: Triphasic pulses with cathodic second phase,Hearing Research,2013年,Vol. 306,pp.123-130
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61B 5/05 - 5/0538
A61B 5/24 - 5/398
A61N 1/36 - 1/378
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
刺激電極および記録電極の選択可能な電極アレイと、ベクトル検出器とを備えた、神経刺激を提供する埋め込み可能なデバイスの、神経応答を誘発し、検出するための作動方法であって、
神経応答を誘発するために前記刺激電極
が刺激用のパルスを発生するステップであって、前記刺激が、少なくとも3つの刺激成分であって、それぞれが時間的な刺激位相および空間的な刺激極のうちの少なくとも1つを含むとともに、第1の刺激成分が、第3の刺激成分によって送達される第3の電荷と不等である第1の電荷を送達し、前記第1の電荷および前記第3の電荷が、前記記録電極において生じるアーチファクトを低減させるように選択されている刺激成分を含む、ステップと、
前記記録電極から前記神経応答の記録を
取得するステップと、
前記ベクトル検出器で前記記録内の前記神経応答を検出するステップと、
を含み、
前記ベクトル検出器の相関遅延、および前記刺激の前記第1の電荷および前記第3の電荷が、生成されたアーチファクトベクトルを誘発された神経応答ベクトルと非平行になるように個別に調整された値を有する方法。
【請求項2】
前記第1の電荷と前記第3の電荷との間の不一致が、前記アーチファクトベクトルを前記誘発された神経応答ベクトルと直交させる、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記アーチファクトの寄与の零点を求めるために、前記刺激のデューティ比および/または前記相関遅延を適応的に調節するステップをさらに含む、請求項1または請求項2に記載の方法。
【請求項4】
前記刺激成分が刺激位相を含む、請求項1~3のいずれか一項に記載の方法。
【請求項5】
前記第1の電荷の大きさが、第2の刺激成分により送達される第2の電荷の大きさの0.6~0.9倍の間である、請求項4に記載の方法。
【請求項6】
前記第1の電荷の前記大きさが、前記第2の電荷の前記大きさの0.75倍である、請求項5に記載の方法。
【請求項7】
前記ベクトル検出器が、多ローブ整合フィルタテンプレートを利用する、請求項1~6のいずれか一項に記載の方法。
【請求項8】
前記誘発された神経応答ベクトルを望ましく位置合わせするように、前記ベクトル検出器の前記相関遅延τを調節するステップをさらに備える、請求項7に記載の方法。
【請求項9】
前記少なくとも3つの刺激成分が、少なくとも3つの刺激電極によって送達される三極刺激の空間的な刺激極を含む、請求項1~8のいずれか一項に記載の方法。
【請求項10】
神経刺激を送達するための埋め込み可能なデバイスであって、
少なくとも1つの公称の刺激電極および少なくとも1つの公称の記録電極を備える電極のアレイと、
前記少なくとも1つの公称の刺激電極に刺激を印加させて神経応答を誘発するように構成されたプロセッサであって、前記刺激が、少なくとも3つの刺激成分であって、それぞれが時間的な刺激位相および空間的な刺激極のうちの少なくとも1つを含むとともに、第1の刺激成分が、第3の刺激成分によって送達される第3の電荷と不等である第1の電荷を送達し、前記第1の電荷および前記第3の電荷が、記録電極において生じるアーチファクトを低減させるように選択されている刺激成分を含み、前記少なくとも1つの公称の記録電極に前記神経応答の記録を取得させるようにさらに構成されたプロセッサであり、ベクトル検出器で前記記録内の前記神経応答を検出するようにさらに構成されたプロセッサと、
を備え、
生成されたアーチファクトベクトルが誘発された神経応答ベクトルに対して非平行になるように、前記ベクトル検出器の相関遅延と、前記刺激の前記第1の電荷および前記第3の電荷とを別々に調整するように構成される、埋め込み可能なデバイス。
【請求項11】
前記生成されたアーチファクトベクトルが誘発された神経応答ベクトルに直交するように、前記ベクトル検出器の相関遅延と、前記刺激の前記第1の電荷および前記第3の電荷とを別々に調整するように構成されている、請求項10に記載のデバイス。
【請求項12】
前記アーチファクトの寄与の零点を求めるために、前記刺激のデューティ比および/または前記相関遅延を適応的に調整するようにさらに構成されている、請求項10又は請求項11に記載のデバイス。
【請求項13】
前記刺激成分が刺激位相を含む、請求項10から請求項12のいずれか一項に記載のデバイス。
【請求項14】
前記第1の電荷の大きさが、第2の刺激成分により送達される第2の電荷の大きさの0.6~0.9倍の間である、請求項13に記載のデバイス。
【請求項15】
前記第1の電荷の前記大きさが、前記第2の電荷の前記大きさの0.75倍である、請求項14に記載のデバイス。
【請求項16】
前記ベクトル検出器が、多ローブ整合フィルタテンプレートを利用する、請求項10から15のいずれか一項に記載のデバイス。
【請求項17】
前記誘発された神経応答ベクトルを望ましく位置合わせするように、前記ベクトル検出器の前記相関遅延τを調整するようにさらに構成される、請求項16に記載のデバイス。
【請求項18】
前記少なくとも3つの刺激成分が、少なくとも3つの刺激電極によって送達される三極刺激の空間的な刺激極を含む、請求項10から17のいずれか一項に記載のデバイス。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
関連出願の相互参照
本出願は、参照により本明細書に組み込まれる2016年6月24日出願のオーストラリア仮特許出願第2016902492号の利益を主張する。
【0002】
本発明は、神経刺激に関し、特に、生じるアーチファクトの量を低減させて神経刺激を送達し、神経刺激によって誘発される神経応答を記録する作業を容易にするように構成された方法およびデバイスに関する。
【背景技術】
【0003】
電気的神経調節は、慢性疼痛、パーキンソン病、および片頭痛を含む様々な疾患を治療し、聴覚機能および運動機能といった機能を回復させるために用いられるか、または用いることが意図されている。治療効果をもたらすために、神経調節システムが神経組織に電気パルスを印加する。このようなシステムは通常、埋め込み式電気パルス発生器と、経皮誘導伝導によって再充電可能な場合もあるバッテリなどの電源と、を備える。電極アレイは、パルス発生器に接続され、対象の神経経路に近接して位置決めされる。電極によって神経組織に印加された電気パルスは、ニューロンの脱分極を引き起こし、これにより、逆方向性であれ、順方向性であれ、または両方向性であれ、伝播する活動電位を発生させて、治療効果を実現する。
【0004】
例えば、慢性疼痛の緩和に用いられる場合、電気パルスは脊髄の後柱(DC:dorsal column)に印加され、電極アレイは背側の硬膜外腔に位置決めされる。このように刺激された後柱線維は、脊髄のその分節から脳への痛みの伝達を阻止する。
【0005】
概して、神経調節システムにおいて生成された電気的刺激は、抑制効果または興奮効果のいずれかを有する神経活動電位をトリガする。抑制効果を痛みの伝達などの望ましくないプロセスを調整するために用いるか、または、興奮効果を筋肉の収縮または聴神経の刺激などの望ましい効果を生じさせるために用いることができる。
【0006】
多数の線維間で生成された活動電位を総和して、複合活動電位(CAP:compound action potential)を形成する。CAPは、多数の単一の線維活動電位からの応答の総和である。CAPが電気的に記録される際には、測定は、多数の異なる線維の脱分極の結果を含む。伝播速度は、主として線維直径によって決定され、背根入口帯(DREZ:dorsal root entry zone)および近くの後柱に見られるような大きな有髄線維の場合、速度は60ms-1を超える場合がある。同様の線維群の興奮から生成されたCAPは、記録された電位における正のピークP1、次いで、負のピークN1として測定され、その後に第2の正のピークP2が続く。これは、個々の線維に沿って活動電位が伝播するにつれて記録電極を通過する活性化領域によって引き起こされ、典型的な3つのピークを有する応答プロファイルを生成する。刺激極性および感知電極の構成に応じて、CAPの測定プロファイルによっては、2つの負のピークおよび1つの正のピークを有する逆の極性のものである場合もある。
【0007】
神経の測定値を得るために提案される手法は、国際公開第2012/155183号パンフレットにおいて本出願人によって記載されており、その内容は、参照により本明細書に組み込まれている。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
神経調節および/または他の神経刺激の効果をより良く理解するために、ならびに、例えば、神経応答フィードバックによって制御される刺激器を提供するために、刺激に起因するCAPを正確に検出し、記録することが望ましい。誘発された応答は、アーチファクトよりも後の時間に現れる場合、または信号対ノイズ比が十分に高い場合には、検出はそれほど難しくはない。アーチファクトは、刺激後1~2msの時間に限定される場合が多く、そのため、神経応答がこの時間窓の後に検出されるのであれば、応答測定値を容易に得ることができる。これは、刺激場所から記録電極への伝播時間が2msを超えるような、刺激電極と記録電極との間に大きな距離(例えば、60ms-1で伝導している神経の場合であれば12cmを超える)がある手術モニタリングにおける場合である。
【0009】
しかしながら、後柱からの応答を特徴付けするには、高い刺激電流および電極同士が近いことが必要とされる。同様に、どのような埋め込み式神経調節デバイスであっても、必然的に小型になってしまうことにより、このようなデバイスが印加された刺激の効果をモニタリングするためには、刺激電極、および記録電極は必然的に隣接することになる。このような状況では、測定プロセスは、アーチファクトを直接克服しなければならない。しかしながら、神経測定において観察されるCAP信号成分は、通常マイクロボルトの範囲の最大振幅を有するので、これは困難な作業である場合がある。対照的に、CAPを誘発するために印加される刺激は通常数ボルトであり、電極アーチファクトをもたらし、この電極アーチファクトは、神経測定においてCAP信号と部分的にまたは全体的に同時に起こる数ミリボルトの減衰出力として現れ、対象となるはるかに小さいCAP信号の分離、さらには検出にさえ、著しい障害となっている。
【0010】
例えば、入力5Vの刺激の存在下で1μVの分解能で10μVのCAPを分解するには、例えば、134dBのダイナミックレンジを有する増幅器が必要であり、それは、埋め込み式システムでは非実用的である。神経応答は、刺激および/または刺激アーチファクトと同時に起こる可能性があるので、CAP測定は、測定増幅器設計の難題となっている。実際上、多くの非理想的な回路の態様は、アーチファクトにつながり、これらの大半が、正または負の極性であり得る減衰する指数関数的外観を有するので、それらの識別および除去は、労力を要する可能性がある。
【0011】
この問題の難しさは、埋め込み式デバイスにおいてCAPの検出を実施しようとする場合には、さらに悪化する。典型的な埋め込み物は、所望のバッテリ寿命を維持するために、刺激ごとに限られた数の、例えば、何百または数千のプロセッサ命令を可能にする電力予算を有する。それに応じて、埋め込み式デバイス用のCAP検出器が定期的に(例えば、1秒に1回)使用されることになっている場合には、検出器が電力予算のほんの一部だけを消費するように、注意を払わなければならない。
【0012】
Daly(米国特許第8,454,529号明細書)は、刺激の後に続けて補償パルスを印加することを示唆している。しかしながら、Dalyの二相刺激および補償パルスは、ともに電荷的に平衡ではなく、したがって、デバイスと組織との間で正味の電荷移動を生じさせる。
【0013】
本明細書に含まれている文献、行為、材料、デバイス、物品などの任意の論述は、単に本発明の背景を提供する目的のためのものである。本出願の各請求項の優先日よりも前に存在していたので、これらの事項のいずれか、またはすべてが、先行技術の基礎の一部を形成するか、または本発明に関連する分野における一般常識的知識であったと認めると解釈されるべきではない。
【0014】
本明細書を通して、「備える(comprise)」という語または「備える(comprises)」もしくは「備えている(comprising)」などの変形は、記載された要素、整数、もしくはステップ、または要素、整数、もしくはステップの群を包含することを示唆し、任意の他の要素、整数、もしくはステップ、または要素、整数、もしくはステップの群を除外することを示唆しないものと理解される。
【0015】
本明細書では、要素が選択肢の列挙「のうちの少なくとも1つ」であり得るという記述は、その要素は、列挙された選択肢のうちの任意の1つとすることができるか、または列挙された選択肢のうちの、2つ以上の任意の組み合せとすることができると理解されたい。
【課題を解決するための手段】
【0016】
第1の態様によれば、本発明は、神経応答を誘発し、検出する方法であって、
神経応答を誘発するために刺激を印加するステップであって、この刺激が、少なくとも3つの刺激成分であって、それぞれが時間的な刺激位相および空間的な刺激極のうちの少なくとも1つを含むとともに、第1の刺激成分が、第3の刺激成分によって送達される第3の電荷と不等である第1の電荷を送達し、第1の電荷および第3の電荷が、記録電極において生じるアーチファクトを低減させるように選択されている刺激成分を含むステップと、
神経応答の記録を得るために記録電極を使用するステップと、
ベクトル検出器で記録内の神経応答を検出するステップと、
を含むとともに、
ベクトル検出器の相関遅延、および刺激の第1の電荷および第3の電荷が、生成されたアーチファクトベクトルを誘発された神経応答ベクトルと非平行にさせる値を有する方法を提供する。
【0017】
第2の態様によれば、本発明は、神経刺激を送達するための埋め込み可能なデバイスであって、
少なくとも1つの公称の刺激電極および少なくとも1つの公称の記録電極を備える電極のアレイと、
少なくとも1つの公称の刺激電極に刺激を印加させて神経応答を誘発するように構成されたプロセッサであって、この刺激が、少なくとも3つの刺激成分であって、それぞれが時間的な刺激位相および空間的な刺激極のうちの少なくとも1つを含むとともに、第1の刺激成分が、第3の刺激成分によって送達される第3の電荷と不等である第1の電荷を送達し、この第1の電荷および第3の電荷が、記録電極において生じるアーチファクトを低減させるように選択されている刺激成分を含み、少なくとも1つの公称の記録電極に神経応答の記録を取得させるようにさらに構成されたプロセッサであり、ベクトル検出器で記録内の神経応答を検出するようにさらに構成されたプロセッサと、
を備えるとともに、
ベクトル検出器の相関遅延、および刺激の第1の電荷および第3の電荷が、生成されたアーチファクトベクトルを誘発された神経応答ベクトルと非平行にさせる値を有するデバイスを提供する。
【0018】
第3の態様によれば、本発明は、神経刺激を送達するための非一時的なコンピュータ可読媒体であって、1つまたは複数のプロセッサによって実行されると、以下の、
神経応答を誘発するために刺激を印加するステップであって、この刺激が、少なくとも3つの刺激成分であって、それぞれが時間的な刺激位相および空間的な刺激極のうちの少なくとも1つを含むとともに、第1の刺激成分が、第3の刺激成分によって送達される第3の電荷と不等である第1の電荷を送達し、第1の電荷および第3の電荷が、記録電極において生じるアーチファクトを低減させるように選択されている刺激成分を含むステップと、
神経応答の記録を得るために記録電極を使用するステップと、
ベクトル検出器で記録内の神経応答を検出するステップと、
の実行をもたらす命令を含むとともに、
ベクトル検出器の相関遅延、および刺激の第1の電荷および第3の電荷が、生成されたアーチファクトベクトルを誘発された神経応答ベクトルと非平行にさせる値を有する、非一時的なコンピュータ可読媒体を提供する。
【0019】
本発明の第1の態様から第3の態様は、第1の電荷と第3の電荷との間の不一致またはデューティ比を適切に調節または選択することにより、アーチファクトベクトルを、誘発された神経応答ベクトルと非平行に、より好ましくは、実質的に直交させることが可能であることで、ベクトル検出器の出力に対するアーチファクトの寄与が零点を通過することにより、誘発された神経応答の観察を大幅に改善するようにすることを認識している。
【0020】
本発明のいくつかの実施形態は、第1の電荷と第3の電荷との間の不一致またはデューティ比について、およびベクトル検出器の相関遅延について静的な事前定義値を利用することができる。しかしながら、他の実施形態は、アーチファクトの寄与の零点を求めるために、刺激のデューティ比および/または相関遅延を適応的に調節することができる。このような適応的実施形態は、記録内で観察されるアーチファクトの低減を、繰り返し、または間断なく最適化するための手段を提供する。
【0021】
刺激成分が刺激位相を含み、刺激が三相刺激である実施形態では、第1の電荷は、好ましくは第3の電荷を超える。このような実施形態では、第1の電荷は、好ましくは第2の電荷の大きさの0.51~0.99倍の間であり、より好ましくは第2の電荷の大きさの0.6~0.9倍の間であり、より好ましくは第2の電荷の大きさの0.65~0.8倍の間であり、最も好ましくは第2の電荷の大きさの約0.75倍である。
【0022】
第1の態様~第3の態様の実施形態は、任意の適切なベクトル検出器を利用することができる。ベクトル検出器は、例えば、その内容が参照により本明細書に組み込まれる本出願人の国際公開第2015074121号パンフレットの教示による4ローブ(four-lobe)または5ローブ整合フィルタテンプレートを利用することができる。あるいは、符号付きの出力を生成する検出器は、2ローブまたは3ローブ整合フィルタテンプレートなどの、代替的な整合フィルタテンプレートを利用することができ、ローブは正弦曲線であるか、合成もしくは実測された複合活動電位のプロファイルの2ローブまたは3ローブに整合されるか、またはそれ以外の方法で適切に形作られる。
【0023】
本発明のいくつかの実施形態は、(例えば、国際公開第2015074121号パンフレットの
図7に関連して記載されているように)検出器の相関における遅延τを調節することにより、誘発された応答ベクトルを望ましく位置合わせすることが可能になる一方で、三相刺激の第1の位相と第3の位相との間の不一致またはデューティ比を別々に調節することにより、アーチファクトベクトルに対する独立した制御が可能になることで、誘発された応答ベクトルと非平行に生じるようにアーチファクトベクトルを制御可能であるようにし、より好ましくは、誘発された応答ベクトルと概ね、または実質的に直交するように生じるようにアーチファクトベクトルを制御するようにすることを認識している。
【0024】
いくつかの実施形態では、少なくとも3つの刺激成分が、2つの刺激電極によって送達される二極刺激の時間的な刺激位相である。追加として、または代替として、少なくとも3つの刺激成分は、3つの刺激電極によって送達される二相三極刺激の空間的な刺激極を含むことができ、各刺激極は、本明細書ではそれぞれの刺激電極と周囲の組織との間の電荷移動を表すものとして定義される。
【0025】
本発明の第1の態様~第3の態様のいくつかの実施形態では、刺激は、電荷的に平衡ではない場合があり、正味の電荷差は、適時に1つまたは複数の電極を短絡させて接地することによって受動的に電荷を回収するといったような、代替的な手段によって回収することができる。
【0026】
第4の態様によれば、本発明は、神経刺激を送達する方法であって、
第1の極性である第1の刺激位相および第3の刺激位相を送達するステップと、
第1の刺激位相の後であり、かつ、第3の刺激位相の前に、第1の極性と反対の第2の極性である第2の刺激位相を送達するステップと、
を含むとともに、
第1の位相~第3の位相が、電荷的に平衡であり、かつ、第1の刺激位相が、第3の刺激位相によって送達される第3の電荷と不等である第1の電荷を送達し、第1の電荷および第3の電荷が、生じるアーチファクトを低減させるように選択されている方法を提供する。
【0027】
第5の態様によれば、本発明は、神経刺激を送達するための埋め込み可能なデバイスであって、
少なくとも1つの公称の刺激電極および少なくとも1つの公称の感知電極を備える電極のアレイと、
少なくとも1つの公称の刺激電極に、第1の極性である第1の刺激位相および第3の刺激位相を送達させ、第1の極性と反対の第2の極性であるとともに、第1の刺激位相の後であり、かつ、第3の刺激位相の前に送達される第2の刺激位相を送達させるように構成されたプロセッサと、
を備えるとともに、第1の位相~第3の位相が、電荷的に平衡であり、かつ、第1の刺激位相が、第3の刺激位相によって送達される第3の電荷と不等である第1の電荷を送達し、第1の電荷および第3の電荷が、少なくとも1つの公称の感知電極において生じるアーチファクトを低減させるように選択されているデバイスを提供する。
【0028】
第6の態様によれば、本発明は、神経刺激を送達するための非一時的なコンピュータ可読媒体であって、1つまたは複数のプロセッサによって実行されると、以下の、
第1の極性である第1の刺激位相および第3の刺激位相を送達するステップと、
第1の刺激位相の後であり、かつ、第3の刺激位相の前に、第1の極性と反対の第2の極性である第2の刺激位相を送達するステップと、
の実行をもたらす命令を含むとともに、
第1の位相~第3の位相が、電荷的に平衡であり、かつ、第1の刺激位相が、第3の刺激位相によって送達される第3の電荷と不等である第1の電荷を送達し、第1の電荷および第3の電荷が、生じるアーチファクトを低減させるように選択されている、非一時的なコンピュータ可読媒体を提供する。
【0029】
第1の刺激位相および第3の刺激位相が、不等である電流振幅、および/または不等である持続時間、および/または不等である形態を有するようにすることによって、第1の電荷は、第3の電荷と不等であるようにすることができる。
【0030】
本発明の第4の態様~第6の態様の実施形態では、ピーク・トゥ・ピーク検出器を使用して、記録を処理することができる。ピーク・トゥ・ピーク検出器は、第1の電荷と第3の電荷との間のデューティ比に関係なく零点を通過しないが、それでもなお、第1の電荷と第3の電荷との間のデューティ比を適切に調節することにより、検出器出力の最小を求めることが可能になり、これにより、記録内で生じるアーチファクトを低減させるための手段を提供する。
【0031】
代替的な実施例では、第1の態様~第6の態様に記載された刺激は、例えば、ECAP測定が後で望まれる可能性があるときまで、所望の組織の電気的条件を保つために、関連するECAP記録が存在しない状態で送達することができる。
【0032】
次に、添付の図面を参照して本発明の一例を説明する。
【図面の簡単な説明】
【0033】
【
図3】埋め込み式刺激器と神経との相互作用を図示する概略図である。
【
図4】本発明のいくつかの実施形態による、位相持続時間が不等である三相刺激の電流プロファイルを図示する。
【
図5】神経組織への刺激の送達を概略的に図示する。
【
図6】検出器の時間遅延および三相刺激のデューティ比を変化させることの効果を図示する。
【
図7】検出器の時間遅延および三相刺激のデューティ比を変化させることの効果を図示する。
【
図8】可変三相デューティ比の実験的試験の結果を図示する。
【
図9】三相刺激に対するピーク・トゥ・ピークアーチファクトを示す。
【
図10a】ヒト対象試験において生じた、改善されて低減したアーチファクトを図示する。
【
図10b】ヒト対象試験において生じた、改善されて低減したアーチファクトを図示する。
【
図11a】ヒト対象試験において生じた、改善されて低減したアーチファクトを図示する。
【
図11b】ヒト対象試験において生じた、改善されて低減したアーチファクトを図示する。
【
図12】位相持続時間が不等である本発明のいくつかの実施形態を概念化したものを図示する。
【
図13】本発明の他の実施形態による、位相振幅が不等である三相刺激の電流プロファイルを図示する。
【
図14a】本発明の別の実施形態による空間的な電極の構成、および三極刺激をそれぞれ図示する。
【
図14b】本発明の別の実施形態による空間的な電極の構成、および三極刺激をそれぞれ図示する。
【
図15】本発明の別の実施形態による四相刺激の派生、および最終形態を図示する。
【
図16】アーチファクトを最小限にするために、刺激波形および/または構成を最適化するためのプロセスを図示する。
【発明を実施するための形態】
【0034】
図1は、埋め込み式脊髄刺激器100を概略的に図示する。刺激器100は、患者の下腹部または上後臀部域の適切な場所に埋め込まれた電子モジュール110と、硬膜外腔内に埋め込まれ、適切なリード線によってモジュール110に接続された電極アセンブリ150と、を備える。埋め込み式神経デバイス100の動作の多くの態様は、外部制御デバイス192によって再構成可能である。さらに、埋め込み式神経デバイス100はデータを収集する役割を果たし、収集されたデータは外部デバイス192に通信される。
【0035】
図2は、埋め込み式神経刺激器100のブロック図である。モジュール110は、バッテリ112および遠隔測定モジュール114を含む。本発明の実施形態では、遠隔測定モジュール114によって、赤外線(IR)、電磁気、容量性、および誘導性の伝送などの任意の適切なタイプの経皮的通信190を使用して、外部デバイス192と電子モジュール110との間で電力および/またはデータを伝送することができる。
【0036】
モジュール制御装置116は、患者設定120、制御プログラム122などを記憶する関連付けされたメモリ118を有する。制御装置116は、パルス発生器124を制御して、患者設定120および制御プログラム122に従って電流パルスの形で刺激を発生させる。電極選択モジュール126は、発生したパルスを電極アレイ150の適切な電極に切り替えて、選択された電極を取り囲む組織に電流パルスを送達するようにする。測定回路128は、電極選択モジュール126によって選択されたときに電極アレイの感知電極で感知された神経応答の測定値を取り込むように構成されている。
【0037】
図3は、埋め込み式刺激器100と神経180、この場合には脊髄である、との相互作用を図示する概略図であるが、代替的な実施形態は、末梢神経、内臓神経、副交感神経、または脳構造を含む任意の所望の神経組織に隣接して位置決めすることができる。電極選択モジュール126は、電極アレイ150の刺激電極2を選択して、神経180を含む周囲の組織に三相電流パルスを送達するが、他の実施形態は、追加として、または代替として、二相三極刺激を送達することができる。電極選択モジュール126は、アレイ150の戻り電極4もまた選択して、刺激電流を回収し、正味の電荷移動を零点で維持するようにする。
【0038】
神経180に適切な刺激を送達することにより、治療目的で、図示されているように神経180に沿って伝播する複合活動電位を含む神経応答を誘発する。なお、この治療は、慢性疼痛用の脊髄刺激器の場合であれば、所望の場所で知覚異常を生じさせることであってもよい。このために、刺激電極を使用して30Hzで刺激を送達する。デバイスを適合させるために、臨床医は、ユーザが知覚異常として体感する感覚を生み出す刺激を印加する。知覚異常が、痛みの影響を受けるユーザの身体の部位と一致する場所およびサイズである場合、臨床医は、引き続き使用するための候補としてその構成を指定する。
【0039】
デバイス100は、神経180に沿って伝播する複合活動電位(CAP)の存在および電気的プロファイルを、このようなCAPが電極2および4からの刺激によって誘発されるか、またはそれ以外の方法で誘発されるかに関わらず、感知するようにさらに構成されている。このために、電極選択モジュール126によって、アレイ150の任意の電極を測定電極6および測定参照電極8として機能するように選択することができる。刺激器のケースを、測定電極もしくは参照電極、または刺激電極として使用してもまたよい。測定電極6および8によって感知された信号は、測定回路128に渡され、この測定回路は、例えば、本出願人による国際公開第2012155183号パンフレットの教示に従って動作することができる。この特許文献の内容は、参照により本明細書に組み込まれる。本発明は、
図3に示されているような、記録電極が刺激場所に近接している状況では、刺激アーチファクトが複合活動電位の正確な記録を得ることの著しい障害となっているが、信頼できる正確なCAP記録が、一連の神経調節技術にとっての、目的実現への鍵であることを認識している。
【0040】
このために、本発明の本実施形態は、生じるアーチファクトを低減させて、このような神経刺激を送達するために、三相および/または三極刺激波形に基づいた方法を提供する。
図4は、本発明のいくつかの実施形態において本発明を実施するのに適した三相刺激400の全般的な電流プロファイルを図示する。刺激400は、第1の位相における正の電荷移動Q1、および第3の位相における正の電荷移動Q3をそれぞれ送達する。負の電荷移動Q2は、第2の位相において送達される。本発明によれば、刺激400は電荷的に平衡であり、ゆえに、|Q2|=Q1+Q3である。本発明によれば、Q1≠Q3であり、Q1およびQ3のそれぞれの値は、アーチファクトを最小限にするように選択されている。これは、3つの位相をすべて、同じ大きさIで、ただし、異なる持続時間にわたって送達することによって実現される。この実施形態では、第1の位相の持続時間は、第2の位相の持続時間の0.75倍であり、ゆえに、Q1=0.75Q2である。第3の位相の持続時間は、第2の位相の持続時間の0.25倍であり、ゆえに、Q3=0.25Q2である。本発明者らは、0.75:0.25の第1の位相対第3の位相の電荷比が、異なるデバイス間および異なるヒト対象間であっても、Q1およびQ3について特にロバストな設定であることを証明すると判断した。しかしながら、第1の位相と第3の位相とのデューティ比は、パラメータ0<α<1(α≠0.5)、または、好適な実施形態では、0.5<α<1を考慮することによって調節することができ、これにより、本発明によれば、Q1=αQ2であり、Q3=(1-α)Q2である。刺激400の位相間のギャップはそれぞれ、持続時間において調節することもできるし、省略することもできる。
【0041】
図5は、神経組織への刺激400の送達を概略的に図示する。第1の実施形態では、電極6および8によって観察された神経応答信号は、制御装置116によって、本出願人の国際公開第2015074121号パンフレットに開示されているやり方で、ドット積検出器を使用して処理される。この特許文献の内容は、参照により本明細書に組み込まれる。有益には、このような実施形態は、ドット積検出器が、アーチファクトと検出器との相対位相に応じて正の場合もあれば負の場合もある出力を生成することを認識している。
図6および
図7に示され、また、国際公開第2015074121号パンフレットにおいて、特にその特許文献の
図7に関連してより完全に記載されているように、検出器の時間遅延τを変化させることは、観察された神経応答ベクトルの位相角に影響を及ぼす。本発明はさらに、刺激400のデューティ比αを変化させることが、検出器出力によって測定されたアーチファクトの位相角に影響を及ぼすことを認識している。したがって、パラメータτおよびαは、神経応答ベクトルの位相角およびアーチファクトベクトルの位相角に対する独立した制御を提供し、
図7に示されているように、2つのベクトルの直交する位置決めを求めることが可能である。
【0042】
図8は、アレイの4つの異なる電極上で観察された、ヒト対象における可変三相デューティ比の実験的試験の結果を図示する。パラメータαは、0.1から0.9まで(
図8にX軸上のパーセンテージとして示されている)変化し、生じた三相刺激は送達され、4つの電極のそれぞれで観察された神経応答が、国際公開第2015074121号パンフレットに記載のドット積検出器によって処理された。ドット積検出器の出力が
図8にプロットされている。ドット積検出器を使用して生成されるアーチファクトの尺度は、同じ出力を生成する等価のECAPのピーク・トゥ・ピーク値からなることに留意されたい。
図8から、正の刺激の70%が第1の位相にあれば(すなわちα=0.7ならば)、アーチファクトは、すべての電極について、ほぼ0であることが明らかになる。さらに、この結果から、リード線の種類、および他の刺激パラメータの変化に対してかなりロバストであることが示される。代替的な実施形態は当然ながら、適宜異なるハードウェアまたはファームウェア設定を補償するために、または必要に応じて患者間で異なる値のαを選択することができる。
【0043】
第2の実施形態では、電極6および8によって観察される神経応答信号は、ピーク・トゥ・ピーク検出を使用して、制御装置116によって処理される。ピーク・トゥ・ピーク検出器は、アーチファクトの正の値だけを生成することができる。
図9は、第1のパルスと第3のパルスとの比率の関数としての、三相刺激に対するピーク・トゥ・ピークアーチファクトを示す。ここでも、アレイの4つの異なる感知電極について観察を行い、
図9の4つのトレースを生成した。
【0044】
デューティサイクルが0%である(α=0)二相波形と比較すると、
図9のグラフを外挿することにより、少なくとも40μVのアーチファクトが得られると予想される。したがって、可変デューティサイクルの三相刺激は、0.2<α<0.7)の範囲にわたるトラフ(trough)を生成し、これは、シナリオによっては役に立つ場合がある。しかしながら、このトラフはピーク値よりもわずか数dB低いだけであり、ゆえに、
図8の実施形態よりも小さい値である。
【0045】
本発明のいくつかの実施形態のさらなる特定の利点は、パラメータαが他のアーチファクト低減方法と直交し、したがって、このような他の方法と併せて使用することができる点である。これらの他の方法には、交互位相および位相減算など、線形性をベースにした方法が含まれる。
【0046】
交互位相アーチファクト低減法は、等式A(I)=-A(-I)に依存し、式中、A(I)は電流Iにおけるアーチファクトである。したがって、A(I)+A(-I)=0であり、ゆえに、ある1つの位相の第1の刺激と後に続く逆位相の刺激に応答して得られる連続的な神経応答測定値は、連続的に得られる応答測定値を減算することによって、アーチファクトを低減することができる。
【0047】
減算アーチファクト低減法もまた、線形性に依存する。A(I)=2.A(I/2)である。したがって、アーチファクト低減は、ある1つの振幅の第1の刺激、および2倍の振幅の第2の刺激に応答して連続的な神経応答測定値を得ることによってもまた実現するができ、A(I)-2A(I/2)=0である。
【0048】
線形性の方法により、およそ20dBのアーチファクト拒絶がもたらされる。従来の神経調節では、二相刺激は、誘発応答を生成するために使用される場合が多い。二相刺激は、刺激と比較して極性が固定されたアーチファクトを生成するので、刺激の極性を反転させるとアーチファクトの極性を反転させる。これは、連続する刺激にわたる平均がアーチファクト電圧を相殺するが、ECAPは相殺しない、交互位相刺激をもたらす。これは効果があるが、例えば、ECAPのサイズが縮小する、刺激場所が複数であるなど、独自の問題がある。すなわち有効刺激速度が遅くなることは、治療上の刺激1回当たりの電力消費量が大きくなることを意味する。
【0049】
本発明の方法は、追加として、または代替として、国際公開第2015074121号パンフレットに記載され、また
図6~
図8の実施形態において利用されているような、検出に基づくアーチファクト低減法と組み合わせることができる。これらの方法は、4ローブ検出器を使用して、アーチファクトのテイラー展開(Taylor expansion)からDC、一次の項および二次の項を除去した。検出方法により、およそ16dBのアーチファクト拒絶がもたらされる。
【0050】
本明細書に記載の可変三相法は、他のこのようなアーチファクト低減技術と組み合わせて使用されると、さらに13dBのアーチファクト拒絶が得られることが示されている。これらの方法が互いに直交であること、すなわち、それらが併用可能であることが認識されよう。これにより、20+16+9dB=42dBのアーチファクト除去がもたらされることが見込まれる。これは、脊髄刺激患者において観察された(一般的に大きな)500uVのアーチファクトを5uVと同等のECAPに低減することができる。
【0051】
さらに別の実施形態では、パラメータαは適応的に検証することができ、必要に応じて時々、またはある期間にわたって実質的に連続的に調節することができる。このような実施形態では、三相刺激が治療電流の半分で送達され、これにより、システムは、ECAPが誘発されない状態で検出器出力においてアーチファクトを測定することが可能になる。これにより、システムは、デューティサイクルを動的に調節して、特定の状況のために最適化された、アーチファクトが存在しない状態を見つけ出すことが可能になる。これにより、線形性の技術を介して相殺するための逆位相信号を提供するために、逆位相三相刺激をリクルートメント閾値以下で送達することもまた可能になる。
【0052】
図8の実施形態は、国際公開第2015074121号パンフレットに記載の4ローブ整合フィルタテンプレートを利用したが、本発明の代替的な実施形態は、2ローブおよび3ローブ整合フィルタドット積検出器を含む任意の適切なドット積検出器を使用してもよいことに留意されたい。このような実施形態は、4ローブドット積検出器よりもホワイトノイズまたは非アーチファクトノイズの拒絶に優れている可能性があるので、場合によっては望ましい場合さえある。
【0053】
図10~11は、脊髄刺激器が
図8の実施形態を利用している、単一のヒト対象から得られたデータを図示する。
図10aでは、6mAの刺激電流において、対象の着座時に得られた神経測定値で観察されたアーチファクトは、本発明による三相刺激によってかなり低減されていることがわかる。
図10bは、同じヒト対象についての三相刺激(1002)および二相刺激(1004)両方の場合の、入力刺激電流の変化0~8mAに対してプロットされた、観察された神経応答振幅を示す。約6mA未満では、複合活動電位が誘発されておらず、観察された信号はアーチファクトだけを含み、二相刺激の結果は、デューティ比が調節された本発明による三相刺激の結果よりも明らかにずっと悪く(大きく)なっている。さらに、剌激閾値は、これを超えると印加された刺激によって複合活動電位が誘発されるので、ほとんどの神経調節用途にとって重要なパラメータである。剌激閾値は、およそ6mAの刺激電流において、本発明によって提供されるプロット1002のニーポイント(kneepoint)としてはっきりと現れているが、二相の結果1004では、見分けることがはるかに困難であるか、または不可能である。加えて、多くの神経調節用途における別の重要なパラメータである、刺激閾値上成長曲線の勾配がノイズによって受ける影響は、プロット1002における方が、1004におけるよりもはるかに少ない。
【0054】
図11aおよび
図11bは、対象の仰臥時に得られたデータについて、
図10に対応する。ここでも、デューティ比が調節された本発明の三相刺激によって、著しいアーチファクト低減がはっきりともたらされている。
【0055】
理論によって限定されることを意図するものではないが、
図12に示されるように、三相刺激は、2つの連続した二相刺激になぞらえるか、または、2つの連続した二相刺激であるとして概念化することができる。ゆえに、アーチファクトは、個々の刺激のアーチファクトの電気的な総和とする。時間遅延(t
1-t
2)のために、等しい二相刺激から発生する場合には、アーチファクト波形は相殺されない。本発明は、生成時に正および負のアーチファクトの寄与分a
1およびa
2のサイズを不等であるようにするが、時間遅延(t
1-t
2)がa
1のある程度の減衰をもたらすと、それらを相殺させることを意図して、2つの二相波形に、不等であるパルス幅、および/または不等である振幅、および/または任意の他の適切な特性の不一致を与えるものであると考えることができる。
【0056】
図12に示されている可変比率の三相刺激の概念化は、第2の位相が、位相間のギャップがない持続時間が不等である2つの位相であると考えられ、やはり本発明の範囲内にあるさらなる一連の実施形態を示唆する。このような実施形態では、第2の位相を2つの位相に効果的に分割するために、位相間のギャップが導入される。このような実施形態は、したがって、4つ以上の位相を含む刺激波形を含む。4つの位相の刺激の場合には、このような実施形態における各位相によって送達される電荷は、例えば、
図12で直接示唆されているように、それぞれ、α、-α、-(1-α)、+(1-α)であるように構成することが可能であろう。しかしながら、4つの位相を使用することにより、各位相によって送達される電荷の他の変動が可能になり、その結果、もっと一般的に言えば、各位相によって送達される電荷は、それぞれ+XμC、-YμC、-ZμCおよび+(Y+Z-X)μCを含むことが可能であり、各位相は、それぞれが任意の適切な値である短い位相間のギャップによって隣接した位相から時間的に分離される。また、このような実施形態は、α、X、YおよびZの値が、必要な電荷の平衡および記録電極が受けるアーチファクトの低減を達成するように選択されているのであれば、本発明の範囲内である。
【0057】
図13に示されているさらに別の実施形態を考慮すると、パルス幅ではなく波形の振幅を調節することによってもまた、適切な三相波形を生成することができることに留意されたい。
図13の刺激波形は、
図12と同様に、反対のアーチファクトを有することになる2つの二相波形の総和であることがわかる。振幅aおよびbを調節することによって、(a+b)を所望の治療効果の実現に必要な電荷で保ちながら、2つの副成分のアーチファクトの項は、
図12に示されるように、相応のやり方で相殺されることが予想される。
【0058】
さらに他の実施形態では、
図13の不等位相振幅手法は、
図4および12の不等位相持続時間振幅手法と組み合わせることができることを認識されたい。
【0059】
さらに他の実施形態では、三極刺激は、
図14aおよび
図14bに示されるやり方で印加することができる。
図14aに示されているように、電極の空間的位置決めは、
図14bに示されるように適切に構成された電流パルスによって活用することが可能である。電極2および3上の波形は、極性が反対のアーチファクトを有することになる。ここでも、振幅aおよびbを調節することにより、(a+b)を必要な電荷で保ちながら、2つの副成分のアーチファクトの項は、ある点において空間的に相殺されることが予想され、記録電極の既知の近くの場所でアーチファクトを優先的に相殺するように構成することが可能である。
【0060】
図15は、本発明の別の実施形態に従ってさらに別の刺激波形を産出するために、本発明の原理の応用を図示する。この実施形態では、四相刺激が2つの成分、すなわち、正の第1の二相パルス、および長い位相間のギャップを含む負の第1の二相パルスから作り出される。正の第1の二相パルス成分は、神経刺激を生じさせる。負の第1の二相パルス成分は、神経応答を誘発しないという点で、刺激をもたらさない。しかしながら、負の第1の二相パルスは、第2の位相によって支配されるアーチファクトを導入し、それは、4つの位相すべての相対的な電荷が適切に選択されると、
図12に示されるような相応のやり方で正の第1の二相成分から生じるアーチファクトを相殺する。
【0061】
図16は、アーチファクトを最小限にするために、刺激波形および/または構成を最適化するためのプロセス1600を図示する。1610において、神経応答が誘発されず、測定に寄与しないことを確実にするために、神経リクルートメントの閾値未満で刺激を印加する。1620において、刺激に起因するアーチファクトを測定し、記録する。1640において、第1の刺激成分と第3の刺激成分との間の比率を調節し、第1の刺激成分と第3の刺激成分との間の比率の所望の範囲を探査するために、ステップ1610および1620を所望の回数繰り返す。例えば、比率は、0から1まで0.01刻みで調節してもよい。ステップ1630が、第1の刺激成分と第3の刺激成分との間の比率の所望の範囲が探査されたと判断すると、プロセスはステップ1650に進み、そこで、アーチファクトの最小がすべての記録から識別される。次に、その最小のアーチファクトを生じさせた比率を、閾値を超える治療レベルで進行中の刺激に対して採用する。同様の手法は、単相、二相、三相または四相以上の刺激を送達しているかどうかにかかわらず、単極、二極、三極または四極以上の刺激構成において、それぞれの位相によって、および/またはそれぞれの電極によって送達される電荷などの、任意のまたはすべての刺激成分の最適な比率を識別するために用いることができ、かつ/または刺激位相振幅、刺激位相幅、および刺激パルス波形の最適な比率を識別するために用いることができる。プロセス1600、またはその適切な適合は、埋め込み後デバイスプログラミング段階の間に一回、または臨床的入力の機会にのみといったような静的ベースで、このような最適な比率を識別するデバイス192によって実行または制御することができる。あるいは、プロセス1600、またはその適切な適合は、このような最適な比率をデバイスの動作全体にわたって動的に、または継続的に適切な時点で識別するために、デバイス192または臨床医の関与なしに、事前のプログラムまたは入力要求ベースで制御装置116によって実行することができる。プロセス1600の実行に適したこのような時点は、デバイス110が、埋め込みの受容者の姿勢変化などの刺激条件の変更を検出する都度とすることができる。
【0062】
特許請求され、記載されている電子機能は、プリント回路基板上に装着された個別部品によって、集積回路の組み合わせによって、または特定用途向け集積回路(ASIC)によって実施することができる。
【0063】
広く記載される本発明の趣旨または範囲から逸脱せずに、特定の実施形態に示されているような、本発明に対する多くの変形形態および/または変更形態をなし得ることは、当業者の理解するところである。例えば、
図4は、第1の位相および第3の位相の持続時間を変更することによる三相デューティ比の調節を図示するが、このような調節は、追加として、または代替として、位相電流振幅を変更することにより行うことができる。さらに、三相刺激は、示されているような矩形の位相を含んでもよいし、あるいは正弦曲線の、階段状の、三角形の、もしくは任意の他の適切なプロファイルの位相を含んでもよい。三相、三極および四相刺激の範囲を説明しているが、本発明に記載の原理は、それでもなおアーチファクトを低減するという目的を実現する、もっと多数の位相または極を有する刺激を作り出すように適合および適用することができ、このような刺激もまた本発明の範囲内であることを認識されたい。また特に、本明細書で定義されるような第1の刺激成分は、多相刺激の他の成分の時間的に後に生じる刺激成分を包含すると理解され、また、本明細書で定義されるような第3の刺激成分は、第1の刺激成分の前に発生する、それと同時に存在する、またはその後に発生する可能性がある刺激成分を包含すると理解されるものとする。さらに、本明細書で定義されるような第1の刺激成分および第3の刺激成分は、第1の刺激成分と第3の刺激成分との間に物理的または時間的に介在する0、1または複数の他の刺激成分を有する刺激成分を包含するとさらに理解されるものとする。したがって、本実施形態は、すべての点において限定でも制限でもなく、例示として見なされるものである。