IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 三菱化学エンジニアリング株式会社の特許一覧

特許7278097超音波消泡手段を備えた微生物培養装置、およびこの微生物培養装置を用いた微生物培養方法
<>
  • 特許-超音波消泡手段を備えた微生物培養装置、およびこの微生物培養装置を用いた微生物培養方法 図1
  • 特許-超音波消泡手段を備えた微生物培養装置、およびこの微生物培養装置を用いた微生物培養方法 図2
  • 特許-超音波消泡手段を備えた微生物培養装置、およびこの微生物培養装置を用いた微生物培養方法 図3
  • 特許-超音波消泡手段を備えた微生物培養装置、およびこの微生物培養装置を用いた微生物培養方法 図4
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-05-11
(45)【発行日】2023-05-19
(54)【発明の名称】超音波消泡手段を備えた微生物培養装置、およびこの微生物培養装置を用いた微生物培養方法
(51)【国際特許分類】
   C12M 1/00 20060101AFI20230512BHJP
   C12M 1/21 20060101ALI20230512BHJP
   C12M 1/02 20060101ALI20230512BHJP
【FI】
C12M1/00 D
C12M1/21
C12M1/02 A
【請求項の数】 14
(21)【出願番号】P 2019029640
(22)【出願日】2019-02-21
(65)【公開番号】P2020130078
(43)【公開日】2020-08-31
【審査請求日】2022-02-08
(73)【特許権者】
【識別番号】000176763
【氏名又は名称】三菱ケミカルエンジニアリング株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100181766
【弁理士】
【氏名又は名称】小林 均
(74)【代理人】
【識別番号】100187193
【弁理士】
【氏名又は名称】林 司
(72)【発明者】
【氏名】国友 信秀
(72)【発明者】
【氏名】新谷 悦郎
(72)【発明者】
【氏名】樋口 正守
【審査官】中野 あい
(56)【参考文献】
【文献】特開2002-051763(JP,A)
【文献】特開2017-163936(JP,A)
【文献】国際公開第2013/027614(WO,A1)
【文献】特開2000-288593(JP,A)
【文献】特開平07-096103(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C12M 1/00-3/10
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
培地および微生物を含有する微生物培養液を培養槽に収容して微生物を培養する微生物培養装置であって、
上記培養槽の蓋部または上鏡部に、上記微生物培養液の液表面に発生する泡に向けて超音波を照射する超音波照射手段を設け
前記超音波照射手段が、
a)前記培養槽の蓋部または上鏡部に開口部が接続された、隔壁を有する筒形ケース、
b)該筒形ケースの隔壁の開口部と反対側に設けられた超音波振動子、および
c)該筒形ケースの隔壁の開口部側に設けられた超音波ホーン
を備えることを特徴とする微生物培養装置。
【請求項2】
前記筒形ケースが、有底筒形ケースであり、該有底筒形ケースの開口部を、前記微生物培養液の液面側に延長する延長筒を備えることを特徴とする、請求項1に記載の微生物培養装置。
【請求項3】
前記微生物培養液の液表面に発生する泡を、前記超音波照射手段の超音波照射部近辺に集める泡掻き寄せ手段を設けたことを特徴とする、請求項1または2に記載の微生物培養装置。
【請求項4】
前記微生物培養装置が、前記微生物培養液を撹拌する撹拌機を備えないことを特徴とする、請求項1~3のいずれかに記載の微生物培養装置。
【請求項5】
前記微生物培養装置が、前記微生物培養液を撹拌する撹拌機を備えることを特徴とする、請求項1~3のいずれかに記載の微生物培養装置。
【請求項6】
前記撹拌機の回転軸に、前記微生物培養液の液表面に発生する泡を、前記超音波照射手段の超音波照射部近辺に集める泡掻き寄せ部材を設置したことを特徴とする、請求項5に記載の微生物培養装置。
【請求項7】
前記超音波照射手段を複数個設けたことを特徴とする、請求項1~6のいずれかに記載の微生物培養装置。
【請求項8】
前記複数個の超音波照射手段の少なくとも一部を、前記培養槽の蓋部または上鏡部の中心部を中心として等角度で設けたことを特徴とする、請求項7に記載の微生物培養装置。
【請求項9】
前記培養槽の蓋部または上鏡部に設けた泡センサーで泡の発生状態を検知し、泡の発生の多い箇所に前記超音波照射手段を作動させることを特徴とする、請求項7または8に記載の微生物培養装置。
【請求項10】
シーケンス制御により、前記超音波照射手段を、前記泡の発生しやすい時期および箇所に応じて作動させることを特徴とする、請求項7または8に記載の微生物培養装置。
【請求項11】
前記培養槽の蓋部または上鏡部に設けた泡センサーで泡の発生状態を検知し、泡の発生の多い箇所に前記超音波照射手段の超音波照射方向を向けることを特徴とする、請求項1~10のいずれかに記載の微生物培養装置。
【請求項12】
好気性菌の培養に用いられることを特徴とする、上記請求項1~11のいずれかに記載の微生物培養装置。
【請求項13】
嫌気性菌の培養に用いられることを特徴とする、上記請求項1~11のいずれかに記載の微生物培養装置。
【請求項14】
上記請求項1~13のいずれかに記載された微生物培養装置を用いて、微生物の培養を行うことを特徴とする、微生物培養方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、微生物を培養して有用物質を生産する微生物培養装置、およびこの微生物培養装置を用いて微生物を培養する微生物培養方法に関する。
【背景技術】
【0002】
好気性菌、嫌気性菌等の微生物(以下、単に「微生物」ともいう。)の培養は、有用物質を生産する発酵工業等において行われている。一般に、好気性菌の培養は、好気性菌培養液にエアを吹き込んで酸素を供給しながら、撹拌機で撹拌して行われており、また、嫌気性菌の培養は大気を遮断する等して嫌気性菌培養液の溶存酸素濃度を低く抑え、撹拌機で撹拌して行われている。
【0003】
特に、好気性菌の培養においては、好気性菌培養液にエアが吹き込まれることから、泡が発生しやすく、泡の発生が大量になると培養槽内が泡沫で満たされ、撹拌機の回転軸のシール部、排気管等から培養槽外へ漏出する。特に、撹拌機の回転軸のシール部から漏出した場合には、培養槽周辺、滅菌の難しいシール部の汚染により、隣接する培養装置で同時に行われている培養や、同じ培養装置の次のバッチ培養に、コンタミネーションを生じるおそれがある。また、嫌気性菌の培養においても、嫌気性菌が生成する二酸化炭素等により泡が発生する。
【0004】
従来、培養槽の消泡は、界面活性剤、シリコン系薬剤等を消泡剤として培養槽に投入する方法や、機械的な消泡羽根等を使用する方法により行われているが、消泡剤の投入では発泡に応じた消泡の制御が難しく、機械的消泡では設備が複雑化・大型化するといった問題点があり、生産性が低下する問題点があった。
【0005】
また、培養槽の消泡を超音波の照射により行うことを開示した文献として、特許文献1および2が挙げられる。
【0006】
特許文献1の培養装置(図3参照)では、好気性菌の培養槽20の液面に発生した泡22は、次のようにして消泡される。
1)培養槽20の好気性菌培養液21の液面に発生した泡22は、培養槽20上部に接続された排気管23から排出される。
2)排気管23に付けた泡センサー24が泡を検知し、超音波ホーン25から超音波が発振されると、泡22は音波によってたたかれ破泡する。
3)破泡され液密度の増加した泡は、サイクロン28で気液分離され、液は還流液管26を通じて培養槽20に戻される。
【0007】
しかしながら、特許文献1の消泡手段では、撹拌機27の回転軸と培養槽20とのシール部から、また、培養槽20上部に接続された排気管23から、好気性菌培養液21の泡22が漏出するおそれがあり、培養槽20の周辺、滅菌の難しいシール部を汚染することにより、隣接する培養装置で同時に行われている培養や、同じ培養装置の次のバッチ培養に、コンタミネーションを生じるおそれがある。
【0008】
特許文献2の培養装置(図4参照)は、ガス資化性微生物の発酵作用により基質ガス(CO、H、CO等を含む合成ガス)からエタノール等の有価有機物を生成するものであり、培養槽30の培養液31の液面32に発生した泡33は、次のようにして消泡される。
1)培養槽30の上部に、吊り柱34、振動子保持部材35により、複数の超音波振動子36を固定する。
2)培養槽30内の培養液31中でガス資化性微生物を培養し、基質ガス供給部37から培養液31に基質ガスを供給する。
3)培養槽30の培養液31の液面32に発生した泡33に、複数の超音波振動子36から超音波を照射して破泡する。
【0009】
しかしながら、特許文献2の消泡手段は、ガス資化性微生物の培養に用いられるものであって、微生物の培養には適用できないものである。すなわち、微生物の培養では、コンタミネーションを防止するため、前のバッチ培養が終了し次のバッチ培養を開始する際には、培養槽等を高温の水蒸気で一定時間(通常、121℃以上の水蒸気で15分以上)滅菌処理を行う必要があるが、特許文献2の消泡手段のように培養槽30の内部に超音波振動子36を固定すると、滅菌処理により超音波振動子36が故障したり、寿命が短くなってしまう。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【文献】特開2002-051763号公報
【文献】特開2017-163936号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
本発明の微生物培養装置、およびこの微生物培養装置を用いた微生物培養方法(以下、それぞれ、「本発明の培養装置」、「本発明の培養方法」といい、総称して「本発明の培養装置および培養方法」という。)の課題は、微生物の培養中に、培地および微生物を含有する微生物培養液(以下、「微生物培養液」ともいう。)の液表面に発生する泡が、撹拌機の回転軸と培養槽とのシール部を始め、培養槽の上部に接続された排気管、培地供給管、種供給管等の接続配管から培養槽外に漏出するのを防止でき、微生物の培養を継続して安定的に行うことのできる、微生物培養装置および微生物培養方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0012】
前記課題を解決するため、本発明の培養装置および培養方法は、培養槽の蓋部または上鏡部に、微生物培養液の液表面に発生する泡に向けて超音波を照射する超音波照射手段を設けたこと特徴とするものである。
【0013】
また、好ましくは、上記超音波照射手段として、
a)前記培養槽の蓋部または上鏡部に開口部が接続された、隔壁を有する有底筒形ケース、
b)該有底筒形ケースの隔壁の底部側に設けられた超音波振動子、
c)該有底筒形ケースの隔壁の開口部側に設けられた超音波ホーン、および
d)該有底筒形ケースの開口部を、前記微生物培養液の液面側に延長する延長筒
を備える超音波照射手段を用いることにより、前記課題の解決を一層図ることができると共に、超音波振動子が故障したり、寿命が短くなるのを防止できる。
【発明の効果】
【0014】
本発明の培養装置および培養方法は、超音波を利用した消泡手段を用いることから、培養槽に消泡剤を投入する消泡手段と比較して、消泡剤を投入する手間、制御等を要さず、また、消泡剤により微生物の成長が阻害されるおそれもない。
【0015】
さらに、本発明の培養装置および培養方法は、超音波を微生物培養液の液面に照射して消泡することから、微生物培養液の液面の状態を培養槽の上部から常時観察することができ、培養の状況把握、制御を容易に行うことができる。
【0016】
さらに、本発明の培養装置および培養方法は、培養槽の蓋部または上鏡部に、微生物培養液の液表面に発生する泡に向けて超音波を照射する超音波照射手段を設けることにより、微生物の培養中に、微生物培養液の液表面に発生する泡が、撹拌機の回転軸と培養槽とのシール部を始め、培養槽の上部に接続された排気管、培地供給管、種供給管等の接続配管から培養槽外に漏出するのを防止できる。
【0017】
さらに、本発明の培養装置および培養方法は、超音波照射手段として、
a)前記培養槽の蓋部または上鏡部に開口部が接続された、隔壁を有する有底筒形ケース、
b)該有底筒形ケースの隔壁の底部側に設けられた超音波振動子、
c)該有底筒形ケースの隔壁の開口部側に設けられた超音波ホーン、および
d)該有底筒形ケースの開口部を、前記微生物培養液の液面側に延長する延長筒
を備える超音波照射手段を用いることにより、微生物の培養中に、微生物培養液の液表面に発生する泡が、撹拌機の回転軸と培養槽とのシール部から培養槽外に漏出するのを一層防止できると共に、高温水蒸気を用いた滅菌処理によっても、超音波振動子が故障したり、寿命が短くなるのを防止できる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
図1】本発明の培養装置の概要を示す断面模式図である。
図2図1の超音波照射手段の部分を拡大して示す断面模式図である。ただし、消泡箇所をわかりやすく示すため、泡掻き寄せ部材3eの図示を省略している。
図3】特許文献1の図2(好気性菌の培養装置)である。
図4】特許文献2の図1(ガス資化性微生物の培養装置)である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、本発明の実施態様を、添付の図面も参照しながら詳細に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。また、以下においては、泡が発生しやすい好気性菌の培養を中心に本発明の培養装置および培養方法について説明するが、これらの事項は、嫌気性菌等の他の微生物の培養においても同様に適用できるものである。
【0020】
<従来の好気性菌培養装置および方法>
まず、従来の好気性菌培養装置および方法について、図1も参照しながら説明する。
【0021】
好気性菌の培養により、医薬品、食品、工業原料等の有用物質が生産されている。
【0022】
好気性菌のバッチ培養は、次のような手順で行われる。
1)前のバッチ培養が終了し、培養槽1を洗浄した後、培養槽1に、培地供給管6から、培地を供給する。
2)培養槽1、撹拌機3、培地供給管6、空気供給管7、排気管8、種供給管13の管路等を、高温の水蒸気で滅菌処理する。滅菌処理は、例えば、培養槽1の底部1b側に設けた、バルブ12aおよび12bを開とし、バルブ12cおよび12dを閉として、水蒸気供給管10から送液管9を通じて、培養槽1に高温の水蒸気を供給することにより行われる。
3)冷却後、培養槽1に、種供給管13から、好気性菌等を供給する。
4)培地および好気性菌を含有する好気性菌培養液(以下、「好気性菌培養液」ともいう。)2中に酸素を供給するために、空気供給管7から空気を供給すると共に、撹拌機3の電動機3aにより撹拌翼3dを回転させて撹拌しながら培養を行う。また、培養中に発生する気体は、排気管8から外部に排出する。
5)バッチ生産が完了後、バルブ12aおよび12cを開とし、バルブ12bおよび12dを閉として、培養槽1から、送液管9、次工程への供給管11を通じて、好気性菌培養液2が次の工程に送られる。
【0023】
<本発明の第1実施態様の培養装置の特徴>
このような好気性菌の培養では、好気性菌培養液2中に泡を安定化する物質があると、好気性菌培養液2の液表面に多くの泡4が発生する。この物質としては、培養初期では好気性菌培養液2中の栄養源(サポニン等)に由来するものがあり、また、培養後期では微生物の副生産物(多糖類やポリペプチド等)に由来するものがあるといわれている。
【0024】
泡4の発生が大量になると培養槽1内が泡4で満たされ、撹拌機3の回転軸3bのシール部3c、さらに培養槽1の上部に接続された排気管8、培地供給管6、種供給管13等の接続配管から培養槽1外へ漏出することとなる。
【0025】
撹拌機3の回転軸3bと、培養槽1の蓋部または上鏡部1aと間には、グランドパッキン、メカニカルシール等のシール部3cが設けられているものの、泡4が多量に発生し、培養槽1の空間部を覆うと、泡4がシール部3c内に浸入し、さらに培養槽1外へ漏出してしまう。これにより、滅菌の難しいシール部3cや培養槽1周辺が汚染され、培養槽1に隣接する培養装置で同時に行われている培養や、同じ培養装置の次のバッチ培養に、コンタミネーションを生じるおそれがある。
【0026】
本発明の第1実施態様の培養装置は、図1に示すように、好気性菌の培養中に発生する泡4がシール部3c内に浸入したり、さらに培養槽1の上部に接続された排気管8、培地供給管6、種供給管13等の接続配管から培養槽1外へ漏出するのを防止するために、培養槽1の蓋部または上鏡部1aに、好気性菌培養液2の液表面に発生する泡4に向けて超音波を照射する超音波照射手段5を設けたことを特徴とするものである。
【0027】
この超音波照射手段5は、特許文献1のように排気管8にではなく、培養槽1の蓋部または上鏡部1aに設けられていることから、泡4が滅菌の難しいシール部3c内に浸入したり、さらに排気管8、培地供給管6、種供給管13等の接続配管から培養槽1外へ漏出するのを防止でき、培養槽1に隣接する培養装置で同時に行われている培養や、同じ培養装置の次のバッチ培養に、コンタミネーションを防止できる。さらに、この超音波照射手段5は、特許文献2のように培養槽1中にではなく、培養槽1の蓋部または上鏡部1aに設けられていることから、高温水蒸気を用いた滅菌処理によっても、超音波振動子5-2が故障したり、寿命が短くなるのを防止できる。
【0028】
<本発明の第2実施態様の培養装置の特徴>
本発明の第2実施態様の培養装置は、図2に示すように、上記第1実施態様の超音波照射手段5として、
1)中央が隔壁5-1cで区切られた有底筒形ケース5-1を用い、
2)有底筒形ケース5-1の底部5-1aと隔壁5-1cで区切られた空間に超音波振動子5-2を収容し、
3)有底筒形ケース5-1の隔壁5-1cと開口部5-1bの間の空間に超音波ホーン5-3を収容し、
4)有底筒形ケース5-1の開口部5-1bを、培養槽1の蓋部または上鏡部1aに接続し、
5)有底筒形ケース5-1の開口部5-1bを、好気性菌培養液2の液面側に延長する延長筒5-4を設ける
ように構成した超音波照射手段5を用いることを特徴とするものである。
【0029】
この超音波照射手段5では、超音波振動子5-2が、有底筒形ケース5-1の底部5-1aと隔壁5-1cで区切られた空間に収容されていることから、高温水蒸気を用いた滅菌処理によっても、超音波振動子5-2が故障したり、寿命が短くなるのを一層防止できる。
【0030】
さらに、有底筒形ケース5-1の開口部5-1bを、好気性菌培養液2の液面側に延長する延長筒5-4を設けることにより、拡散しやすい超音波を有効かつ効率的に泡4に照射することができる。
【0031】
<本発明の第3実施態様の培養装置の特徴>
本発明の第3実施態様の培養装置は、上記第1実施態様または第2実施態様の超音波照射手段5と共に、泡4を超音波照射手段5の超音波照射部近辺に集める泡掻き寄せ手段を設けたことを特徴とするものである。泡掻き寄せ手段を用いて、泡4を超音波照射手段5の超音波照射部近辺に集めることにより、泡4の層全面にわたって、超音波を用いた消泡を効率的に適用することができる。
【0032】
本発明の超音波照射手段は、ループ循環タイプ、エアリフトタイプ等の微生物培養液を撹拌する撹拌機を備えない微生物培養装置、微生物培養液を撹拌する撹拌機を備える微生物培養装置のいずれにも適用でき、泡掻き寄せ手段としては、泡4に無菌エア等の流体を吹き付ける手段、アーム等の泡掻き寄せ部材を駆動して泡4を掻き寄せる手段等各種手段を採用できる。
【0033】
微生物培養液を撹拌する撹拌機を備える微生物培養装置においては、図1に示すような、撹拌機3の回転軸3bにインペラ等の泡掻き寄せ部材3eを設置し、これを回転駆動する泡掻き寄せ手段が好適に採用できる。この泡掻き寄せ手段では、撹拌機3の回転軸3bの回転を利用して泡掻き寄せ部材3eを回転駆動するため、泡掻き寄せ部材3eを容易に設置することができ、泡4を経済的・効率的に掻き寄せることができる。
【0034】
<本発明の第4実施態様の培養装置の特徴>
本発明の第4実施態様の培養装置は、上記第1実施態様または第2実施態様の超音波照射手段5を複数個設けたことを特徴とするものである。
【0035】
超音波照射手段5を複数個設けることにより、泡4の層全面にわたって、超音波を用いた消泡を一層有効に行うことができる。
【0036】
消泡を泡4の層全面にわたって均一に行う観点から、超音波照射手段5を複数個設けること、さらには、これら複数個の超音波照射手段5の少なくとも一部を、前記培養槽1の蓋部または上鏡部1aの中心部を中心として等角度で設けることが好ましい。
【0037】
<本発明が採用できるその他の好ましい態様>
本発明が採用できるその他の好ましい態様としては、超音波照射手段5を、培養槽1の蓋部または上鏡部1aに設けた泡センサーで泡4の発生状態を検知して、これに応じて、
複数個設けた超音波照射手段5の内、泡4の発生の多い箇所の超音波照射手段5を作動させることが挙げられる。これにより、泡4の消泡を経済的・効率的に行うことができる。
【0038】
さらに、シーケンス制御により、超音波照射手段5を、泡4の発生しやすい時期および箇所に応じて作動させることが挙げられる。これは、従来行っている微生物の培養中の目視または発泡警報器等による泡の管理から、泡4の発生しやすい時期、箇所等を把握しておき、これに基づき、必要な時期、箇所の超音波照射手段5を作動させるようにシーケンス制御することにより、泡4の消泡を経済的・効率的に行うことができる。
【0039】
さらに、超音波照射手段5を、培養槽1の蓋部または上鏡部1aに設けた泡センサーで泡4の発生状態を検知して、これに応じて、自動または手動により、泡4の発生の多い箇所に、超音波照射手段5の超音波照射方向を向けることにより、泡4の消泡を経済的・効率的に行うことができる。
【0040】
<超音波照射手段が適用できる微生物培養装置>
本発明に係る超音波照射手段が適用できる微生物培養装置としては、図1に示すような、培養中に培養液を培養槽外部に循環させないタイプの微生物培養装置以外にも、例えば、特許第5985114号公報、特開2017-038589号公報等に示されるような、培養槽から微生物培養液を抜き出してろ過し、ろ過液を回収すると共に、ろ過液を除いた微生物培養液を培養槽に還流するタイプの微生物培養装置、微生物培養液にマイクロナノバブルを含有させるタイプの微生物培養装置等の各種微生物培養装置が挙げられる。
【0041】
<本発明の培養方法>
本発明の培養方法は、本発明の培養装置を用いて、微生物の培養を行うことにより、微生物の培養中に、微生物培養液の液表面に発生する泡4が、撹拌機3の回転軸3bと培養槽1とのシール部3cに浸入したり、さらに排気管8、培地供給管6、種供給管13等の接続配管から培養槽外に漏出するのを防止できると共に、高温水蒸気を用いた滅菌処理によっても、超音波振動子が故障したり、寿命が短くなるのを防止できる。
【0042】
本発明に係る超音波照射手段が適用できる微生物培養方法としては、図1に示すような、培養中に培養液を培養槽外部に循環させないタイプの微生物培養方法以外にも、例えば、特許第5985114号公報、特開2017-038589号公報等に示されるような、培養槽から微生物培養液を抜き出してろ過し、ろ過液を回収すると共に、ろ過液を除いた微生物培養液を培養槽に還流するタイプの微生物培養方法、微生物培養液にマイクロナノバブルを含有させるタイプの微生物培養方法等の各種微生物培養方法が挙げられる。
【符号の説明】
【0043】
1 培養槽
1a 培養槽の蓋部または上鏡部
1b 培養槽の底部
2 好気性菌培養液(培地および好気性菌を含有する好気性菌培養液)
3 撹拌機
3a 電動機
3b 回転軸
3c シール部
3d 撹拌翼
3e (インペラ等の)泡掻き寄せ部材
4 (好気性菌培養液表面に発生する)泡
5 超音波照射手段
5-1 有底筒形ケース
5-1a (有底筒形ケースの)底部
5-1b (有底筒形ケースの)開口部
5-1c (有底筒形ケースの)隔壁
5-2 超音波振動子
5-3 超音波ホーン
5-4 延長筒
6 培地供給管
7 空気供給管
8 排気管
9 送液管
10 水蒸気供給管
11 次工程への供給管
12a~12d バルブ
13 種供給管
20 培養槽
21 好気性菌培養液
22 泡
23 排気管
24 泡センサー
25 超音波ホーン
26 還流液管
27 撹拌機
28 サイクロン
30 培養槽
31 培養液
32 培養液の液面
33 泡
34 吊り柱
35 振動子保持部材
36 超音波振動子
37 基質ガス供給部
図1
図2
図3
図4