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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-05-11
(45)【発行日】2023-05-19
(54)【発明の名称】生体信号解析装置およびその制御方法
(51)【国際特許分類】
   A61B 5/02 20060101AFI20230512BHJP
   A61B 5/1455 20060101ALI20230512BHJP
【FI】
A61B5/02 310A
A61B5/1455
【請求項の数】 11
(21)【出願番号】P 2019031881
(22)【出願日】2019-02-25
(65)【公開番号】P2020130875
(43)【公開日】2020-08-31
【審査請求日】2022-02-22
(73)【特許権者】
【識別番号】000112602
【氏名又は名称】フクダ電子株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110003281
【氏名又は名称】弁理士法人大塚国際特許事務所
(74)【代理人】
【識別番号】100076428
【弁理士】
【氏名又は名称】大塚 康徳
(74)【代理人】
【識別番号】100115071
【弁理士】
【氏名又は名称】大塚 康弘
(74)【代理人】
【識別番号】100112508
【弁理士】
【氏名又は名称】高柳 司郎
(74)【代理人】
【識別番号】100116894
【弁理士】
【氏名又は名称】木村 秀二
(72)【発明者】
【氏名】橋本 遼太朗
【審査官】藤原 伸二
(56)【参考文献】
【文献】特開2007-054471(JP,A)
【文献】特開2011-104124(JP,A)
【文献】特開2013-150707(JP,A)
【文献】特開2015-192865(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61B 5/02-5/03
A61B 5/145-5/1455
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
生体組織に照射された第1の波長の光の反射光もしくは透過光の光量変化に基づく第1の脈波信号を取得する取得手段と、
前記第1の脈波信号から基本周波数の成分を抽出して出力する信号処理手段と、を有し、
前記信号処理手段は、適応バンドパスフィルタを用いて前記第1の脈波信号から前記基本周波数の成分を抽出し、前記適応バンドパスフィルタが通過させる帯域中心周波数を制御する係数、前記適応バンドパスフィルタの状態変数を用いる適応アルゴリズムによって更ことにより前記中心周波数を前記基本周波数に追従させる、
ことを特徴とする生体信号解析装置。
【請求項2】
前記適応バンドパスフィルタが、
前記第1の脈波信号の基本周波数を中心周波数とする帯域を阻止する適応ノッチフィルタと、
前記適応ノッチフィルタの出力信号を前記第1の脈波信号から減算する減算器と、
を用いて前記基本周波数の成分を抽出することを特徴とする請求項1に記載の生体信号解析装置。
【請求項3】
前記適応ノッチフィルタは固定値の係数と前記更新される係数とを有することを特徴とする請求項2に記載の生体信号解析装置。
【請求項4】
前記適応アルゴリズムが、さらに前記出力信号を用いて前記係数を更新することを特徴とする請求項3に記載の生体信号解析装置。
【請求項5】
前記適応ノッチフィルタの伝達係数が
【数6】
で表され、αが固定値の係数、βが前記更新される係数であることを特徴とする請求項からのいずれか1項に記載の生体信号解析装置。
【請求項6】
前記適応アルゴリズムがSimplified Lattice Algorithm(SLA)、Lattice Gradient Algorithm(LGA)、LMSアルゴリズム、NLMSアルゴリズム、RLSアルゴリズムのいずれかであることを特徴とする請求項1からのいずれか1項に記載の生体信号解析装置。
【請求項7】
さらに、前記信号処理手段が抽出した前記第1の脈波信号の基本周波数の成分に基づいて脈拍数を取得する脈拍数取得手段を有することを特徴とする請求項1から6のいずれか1項に記載の生体信号解析装置。
【請求項8】
前記取得手段が、前記生体組織に照射された第2の波長の光の反射光もしくは透過光の光量変化に基づく第2の脈波信号をさらに取得し、
前記信号処理手段がさらに、前記適応バンドパスフィルタを用いて前記第2の脈波信号から基本周波数の成分を抽出して出力する、
ことを特徴とする請求項1から7のいずれか1項に記載の生体信号解析装置。
【請求項9】
さらに、前記信号処理手段が抽出した前記第1の脈波信号の基本周波数の成分および前記第2の脈波信号の基本周波数の成分に基づいて、動脈血酸素飽和度(SpO)を取得するSpO取得手段を有することを特徴とする請求項8に記載の生体信号解析装置。
【請求項10】
生体信号解析装置が実行する生体信号解析装置の制御方法であって、
生体組織に照射された第1の波長の光の反射光もしくは透過光の光量変化に基づく第1の脈波信号を取得する取得工程と、
前記第1の脈波信号から基本周波数の成分を抽出して出力する信号処理工程と、を有し、
前記信号処理工程では、適応バンドパスフィルタを用いて前記第1の脈波信号から前記基本周波数の成分を抽出し、前記適応バンドパスフィルタが通過させる帯域中心周波数を制御する係数を、前記適応バンドパスフィルタの状態変数を用いる適応アルゴリズムによって更新する、
ことを特徴とする生体信号解析装置の制御方法。
【請求項11】
コンピュータに、請求項1から9のいずれか1項に記載の生体信号解析装置の少なくとも信号処理手段の動作を実現させるプログラム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は生体信号解析装置およびその制御方法に関し、特には脈波信号の解析技術に関する。
【背景技術】
【0002】
脈波信号は心臓や血管に関する様々な情報を含む生体信号であり、計測が容易であることから、広く利用されている。脈波信号は様々な方法で計測することができるが、被検者の負荷が小さく、かつ小型の機器で計測できる方法として、体表面に特定の波長の光を照射し、その透過光や反射光の強度(光量)変化を脈波信号として計測する方法が知られている。
【0003】
そして、このような光量変化として計測される脈波信号に基づく生体情報の計測装置も知られている。例えば、パルスオキシメータは、体組織を透過または反射した赤色光および赤外光の光量の差や比に基づいて動脈血酸素飽和度(SpO)を計測する装置である(特許文献1)。
【0004】
脈波信号には様々な情報が含まれているが、脈波から正確な生体情報を抽出するためには、脈波以外の成分、特にノイズ成分の影響を抑制することが必要である。しかしながら、例えば透過光量に基づく脈波計測は、指先や耳朶のような光が透過しやすい部位を挟むように計測センサ(発光部と受光部)を装着する必要があるため、環境ノイズや体動によるノイズの影響を受けやすく、ノイズが重畳した脈波信号が計測されやすい。
【0005】
脈波信号そのものを解析する場合も、計測した脈波から生体情報を抽出する場合も、ノイズが少ない脈波信号を用いることが望ましい。特許文献1では、脈波信号から検出された脈拍数に基づいて、脈波の基本周波数(脈拍数が60回/分(bmp)のとき1Hz)の成分を抽出するためのバンドパスフィルタとして、中心周波数の異なる複数のバンドパスフィルタの1つを選択し、脈波信号に適用するノイズ除去フィルタとして用いることで、呼吸や体動がSpOの精度に与える影響を抑制している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】特開平2-172443号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、特許文献1の方法では、ノイズ除去前の脈波信号から検出した脈拍数に基づいてバンドパスフィルタを選択しているため、脈拍数がノイズの影響を受けた場合に適切なバンドパスフィルタが選択できない。特許文献1では、ノイズの影響を抑制するために、脈拍数のばらつきに基づいて脈拍数の信頼度を決定し、信頼度が低いと判定される脈拍数は脈拍数の算出から除外するようにしている。また、脈拍数の信頼度が低い場合にはバンドパスフィルタの帯域幅を拡げ、脈拍数の信頼度が高いときにはバンドパスフィルタの帯域幅を狭めている。しかし、ノイズ除去前の脈波信号から検出した脈拍数に依存してバンドパスフィルタを選択している以上、ある程度のノイズの影響は避けられない。また、バンドパスフィルタの帯域幅を拡げている際にはノイズ除去能力が低下する。
【0008】
本発明はこのような従来技術の課題に鑑みなされたもので、脈拍数を求めることなく脈波信号の基本周波数成分を抽出可能な生体信号解析装置およびその制御方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上述の目的は、生体組織に照射された第1の波長の光の反射光もしくは透過光の光量変化に基づく第1の脈波信号を取得する取得手段と、第1の脈波信号から基本周波数の成分を抽出して出力する信号処理手段と、を有し、信号処理手段は、適応バンドパスフィルタを用いて第1の脈波信号から基本周波数の成分を抽出し、適応バンドパスフィルタが通過させる帯域中心周波数を制御する係数、適応バンドパスフィルタの状態変数を用いる適応アルゴリズムによって更ことにより中心周波数を基本周波数に追従させる、ことを特徴とする生体信号解析装置によって達成される。
【発明の効果】
【0010】
このような構成により、本発明によれば、脈拍数を求めることなく脈波信号の基本周波数成分を抽出可能な生体信号解析装置およびその制御方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1】本発明の実施形態に係る生体信号解析装置の一例としての動脈血酸素飽和度計測装置の機能構成例を示すブロック図である。
図2図1の信号処理部の機能構成例を示すブロック図である。
図3図2の適応ノイズ除去フィルタの構成例を示す図である。
図4】実施形態に係る適応ノイズ除去フィルタの動作例を示す図である。
図5】実施形態に係る適応ノイズ除去フィルタの動作例を示す図である。
図6】実施形態に係る適応ノイズ除去フィルタの動作例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、添付図面を参照して、本発明の例示的な実施形態について詳細な説明する。以下の実施形態は特許請求の範囲に係る本発明を限定するものでするものでなく、また本実施形態で説明されている構成の全てが本発明に必須のものとは限らない。
【0013】
なお、ここでは本発明に係る生体信号解析装置の一例としての動脈血酸素飽和度(SpO)計測装置に関して説明する。しかし、本発明は、生体組織で反射された光や生体組織を透過した光の強度(光量)変化を脈波信号として取得可能な任意の電子機器に適用可能である。このような電子機器には、生体情報モニタ、睡眠評価装置、血圧計、脈波計といった医療機器が含まれる。また、外付けのセンサやネットワークなどを通じて脈波信号を取得可能な汎用コンピュータ機器(スマートフォン、タブレット端末、メディアプレーヤ、スマートウォッチ、ゲーム機など)が含まれるが、これらに限定されない。
【0014】
図1は、本発明の一実施形態に係るSpO計測装置の機能構成例を示すブロック図である。
センサ部100は、第1の波長の光を発する第1発光部101と、第2の波長の光を発する第2発光部102と、受光量に応じた電気信号を出力する受光部103とを有する。受光部103は第1発光部101が発した光および第2発光部102が発した光が体組織を透過した光(透過光)または体組織で反射された光(反射光)を受光するように配置されている。
【0015】
第1および第2発光部101、102としては、SpO計測装置では一般的に赤色光と赤外光とを発するLEDが用いられる。ただし、波長や光源の種類についてはこれらに限定されず、波長λ1、λ2における酸化ヘモグロビンの吸光度をa1λ1、a1λ2、還元ヘモグロビンの吸光度をa2λ1、a2λ2とすると、a1λ1とa1λ2、a2λ1とa2λ2がそれぞれ有意に異なる任意の波長λ1、λ2の光を発生する任意の光源を(例えば赤色光源と、赤外光源または緑色光源との組み合わせなど)用いることができる。本実施形態では一例として、第1発光部101に波長660nmの赤色光を発生するLEDを、第2発光部102に波長900nmの赤外光を発生するLEDを用いるものとする。
【0016】
透過光量を検出する構成の場合、測定部位(耳朶や指尖など)の生体組織を挟んで第1および第2発光部101、102と対向する位置に受光部103が配置される。また、反射光量を検出する構成の場合、第1発光部101、と受光部103、第2発光部102が近接して配置される。なお、透過光量を検出するか反射光量を検出するかによらず、第1および第2発光部101、102は近接して配置され、また受光部103は第1および第2発光部からそれぞれ体表面に照射された光の透過光または反射光を同様の条件(例えば距離や角度)で受光するように配置される。
【0017】
受光部103は、第1発光部101および第2発光部102が発した光の透過光または反射光を受光し、受光量に応じた電気信号を出力する。受光部103は、検出する透過光または反射光の波長を感度波長とする受光センサ、例えばフォトダイオードやフォトトランジスタであってよい。受光部103により、第1および第2の波長の光についての、計測部位による透過光あるいは反射光の光量変化として、第1および第2の脈波信号が検出される。
【0018】
信号処理部130は、受光部103が出力する信号に増幅やA/D変換やノイズ除去などの信号処理を適用し、脈波信号から基本周波数成分を抽出して制御部110に出力する。信号処理部130は、受光部103が出力する第1および第2の脈波信号それぞれについて、基本周波数成分を抽出して出力する。基本周波数成分は、脈波の基本周波数[Hz]=脈拍数[bpm]/60を中心周波数とし、所定の帯域幅を有する帯域成分である。
【0019】
制御部110は例えばプログラマブルプロセッサ、不揮発性メモリ(ROM)、および揮発性メモリ(RAM)を有し、ROMに記憶されたプログラムをRAMに読み込んで実行することによって各部を制御し、SpO計測装置の機能を実現する。なお、制御部110の動作のうち少なくとも一部はプログラマブルロジックアレイなどのハードウェア回路によって実現されてもよい。
【0020】
駆動部120は制御部110が指示する発光量および発光タイミングに従い、第1および第2発光部101、102を駆動する。制御部110は、1つの受光部103を用いて2つの波長についての透過光量または反射光量を検出するため、第1発光部101と第2発光部とを交互に所定時間ずつ発光させるように発光タイミングを制御する。
【0021】
なお、第1発光部101と第2発光部102とは同時に発光しないため、厳密には第1脈波信号と第2の脈波信号の取得タイミングは異なる。しかし、第1発光部101と第2発光部102の発光周波数を脈波の周波数成分よりも十分高くすることで、第1脈波信号および第2脈波信号を同じタイミングでサンプリングされた計測値群として取り扱うことができる。従って、以下では第1脈波信号および第2脈波信号を同じタイミングで取得したものとして説明する。
【0022】
記録部140は例えば不揮発性メモリであり、例えばメモリカードのような着脱可能な記録媒体であってもよい。記録部140には制御部110によって脈波信号やSpO計測値などが計測日時などの書誌事項と関連づけて記録される。
表示部150は例えば液晶ディスプレイであり、制御部110の制御に従い、SpO計測値および、SpO計測装置の動作状態や設定メニュー画面などを表示する。
【0023】
操作部160はユーザがSpO計測装置に指示を入力するためのボタン、スイッチ、キーなどを含む。表示部150がタッチディスプレイの場合、タッチパネル部分は操作部160に含まれる。
外部インタフェース(I/F)170は外部機器と有線または無線によって通信するための通信インタフェースである。
【0024】
図2は、図1における信号処理部130の機能構成例を示すブロック図である。AD変換部131は、受光部103から出力されるアナログ信号を所定のサンプリング周波数でサンプリングしてデジタル信号に変換する。AD変換部131の出力部にはデジタル信号を第1発光部101由来の第1の脈波信号と、第2発光部102由来の第2の脈波信号とに振り分けて出力する振り分け回路が設けられる。
【0025】
前処理部132は、第1および第2の脈波信号に対し、電源ノイズ(ハムノイズ)や、明らかに脈波の周波数成分と異なる高周波成分や低周波成分などを除去するフィルタ処理を適用したり、信号値を対数変換したり、振幅値を正規化したりといった前処理を適用する。なお、これらの処理は前処理として実行しうる処理の単なる例示であり、必須ではない。また他の処理を前処理として適用してもよい。また、振幅値の正規化は例えば第2の脈波信号(赤外光由来の信号)の最大値が1となるように、第2の脈波信号および第1の脈波信号の値を正規化する処理であってよい。
【0026】
適応ノイズ除去フィルタ133は、前処理部132が出力する第1信号および第2信号それぞれについて、その基本周波数成分を抽出し、第1信号および第2信号として出力する。適応ノイズ除去フィルタ133は、脈波信号の基本周波数を通過帯域の中心周波数とし、通過帯域幅が狭いバンドパスフィルタである。また、適応ノイズ除去フィルタ133の通過帯域の中心周波数は、生体の特性に依存した脈波の基本周波数の変動に追従するように適応制御される。このような適応バンドパスフィルタを適用することにより、体動や呼吸といった被検者由来のノイズを簡便な構成で効果的に除去することができる。
【0027】
図3は、適応ノイズ除去フィルタ133として用いることのできる、適応バンドパスフィルタの回路構成例を示す図である。本実施形態では狭い通過帯域を実現するため、適応ノッチフィルタを用いて適応バンドパスフィルタを実現している。適応ノッチフィルタは、入力信号に含まれる狭帯域信号の周波数を適応的に推定し、狭帯域信号を阻止するフィルタとして用いられている。
【0028】
適応ノイズ除去フィルタ133は、入力信号u(n)の基本周波数を中心周波数とした狭帯域を阻止した出力信号y(n)を生成する適応ノッチフィルタと、入力信号u(n)から出力信号y(n)を減算してu(n)-y(n)を出力する減算器とを有する。
【0029】
本実施形態では、適応ノッチフィルタで阻止する狭帯域信号の周波数(すなわち脈波信号の基本周波数)を推定する適応アルゴリズムとして、Simplified Lattice Algorithm(SLA)を用いるものとする。SLAの詳細については例えばP. A. Regalia, ”An Improved Lattice-Based Adaptive IIR Notch Filter”, IEEE Trans. Signal Process.,Vol. 39, No. 9, pp. 2124-2128, Sept., 1991.を参照されたい。しかしながら、Lattice Gradient Algorithm(LGA:正規化ラチス構造に基づく勾配法)、LMSアルゴリズム、NLMSアルゴリズム、RLSアルゴリズムなど他の適応アルゴリズムを用いて脈波の基本周波数を推定してもよい。
【0030】
適応ノイズ除去フィルタ133が用いる適応ノッチフィルタは、適応信号x(n)を用いない場合、
【数1】
とすることにより、中心周波数ω、帯域幅Qの周波数成分を阻止するノッチフィルタとして機能する。αは帯域幅Qによって定まる固定値である。このノッチフィルタの伝達関数は以下の通りである。
【数2】
そして、このノッチフィルタのβについて適応アルゴリズムを適用することで、適応ノッチフィルタを実現する。ここでは適応アルゴリズムとしてSLAを用いるため、フィルタの状態変数である適応信号x(n)を用いてβを更新することにより、阻止する帯域の中心周波数(ノッチ周波数)を入力信号の基本周波数に追従させる。
【0031】
図3の適応バンドパスフィルタのうち、適応ノッチフィルタ部分の伝達関数は以下の通りである。
【数3】
【数4】
そして、βを以下の様に適応させることにより適応ノッチフィルタが阻止する中心周波数を、入力信号u(n)の基本周波数に追従させることができる。
【数5】
ここで、ステップサイズμは固定値であり、例えば実験的に求めることができる。なお、βは、SLA以外の適応アルゴリズムを用いて更新させてもよい。
【0032】
式(5)に示すように、本実施形態の適応ノイズ除去フィルタ133の通過帯域の中心周波数βは、出力信号y、適応信号x、ステップサイズμに基づいて順次更新される。中心周波数βの更新のために脈拍数を算出したり、算出した脈拍数の信頼性を評価したりする必要はない。
【0033】
適応ノイズ除去フィルタ133は、第1脈波信号と第2脈波信号に対して別個に同じフィルタ係数のフィルタ処理を適用して基本周波数成分を抽出し、第1信号および第2信号を生成する。中心周波数βは、第1脈波信号または第2脈波信号の一方の信号の出力信号yおよび適応信号xにより算出し、同じβを第1脈波信号、第2脈波信号のそれぞれのフィルタ処理に適用することで、第1脈波信号と第2脈波信号に同じフィルタ処理を適用させる。そして、適応ノイズ除去フィルタ133が生成した第1信号および第2信号が、信号処理部130から制御部110に供給される。
【0034】
制御部110は、赤色光由来の第1信号および赤外光由来の第2信号に公知の方法を適用して、例えば脈拍数やSpOなどの生体情報を取得(算出)することができる。例えば、制御部110は、まず、第1信号および第2信号を所定の条件で1拍区間ずつ切り出す。そして制御部110は、1拍区間ごとに少なくとも一方の信号についてピーク値(振幅値が正の区間における最大値)とその位置、およびボトム値(振幅値が負の区間における最小値)とその位置をそれぞれ検出する。
【0035】
制御部110は、隣接する2拍区間におけるピーク(またはボトム)位置の時間差を1拍の周期として、瞬時脈拍数(回/分)を算出する。また、制御部110は、第1および第2の信号の最大振幅値を、ピーク値とボトム値との差によって算出し、比R=第1の信号の最大振幅値/第2の信号の最大振幅値を算出する。制御部110は例えばROMに予め記憶されている、比RをSpOに換算するテーブルを参照することにより、1拍ごとのSpOを求めることができる。なお、脈拍数やSpOは、連続する所定拍数分の移動平均値を求め、表示には移動平均値を用いてもよい。
【0036】
このように、本実施形態では環境ノイズに加え、体動や呼吸といった被検者由来のノイズを適応ノイズ除去フィルタ133によって除去し、脈波の基本周波数成分に基づいて脈拍数やSpOといった生体情報を求めることができる。そのため、精度のよい値を取得することができる。
【0037】
また、フィルタへの入力値、フィルタの出力値、フィルタの状態変数に基づく適応アルゴリズムによって脈波の基本周波数を推定し、適応ノイズ除去フィルタ133の通過帯域を脈波の基本周波数に追従させている。そのため、適応処理をフィルタ処理の一部として実行することができ、フィルタ処理以外に特別な処理を行う必要がない。例えば、ウェーブレット変換のような周波数解析によって脈波の基本周波数成分を取得する場合と比較して、大幅に演算コストを低減することができる。さらに、狭帯域のフィルタを用いてノイズを除去するため、ノイズ除去性能が高い。その結果、最終的に得られる生体情報の精度も向上させることができる。
【0038】
(評価)
図4図6は、本実施形態に係る適応ノイズ除去フィルタ133によるノイズ除去効果の評価結果を示している。ここでは、ノッチ周波数を1Hz、帯域幅Qを0.1Hz(すなわち、阻止周波数帯域の初期値が0.9Hz~1.1Hz)としてαの値、βの初期値を定めて図3に示した構成の適応ノイズ除去フィルタ133の適用前後の信号波形を示している。なお、AD変換部131におけるサンプリングレートは250Hzとした。また、センサ部100を人差し指の先端に装着して計測を行った。
【0039】
ここでは、脈波信号の計測開始からある程度経過した時点から、センサ部100を装着した指先でノイズを発生させる動作を行い、ノイズ除去効果を評価した。ノイズを発生させる動作は、指先を軽く叩きつける動作(Tapping)、指先でひっかく動作(Scratching)、および、スポンジを手で握る動作(Squeezing)とした。図4図5図6はそれぞれ、赤外光由来の第2の脈波信号について、計測中にこれら各動作を行った際のAD変換部131の出力波形を上段に、適応ノイズ除去フィルタ133で抽出した第2信号の波形を下段に示している。また、各図において、ノイズを発生させる動作を行った期間を矢印で示している。
【0040】
図4図6から、本実施形態の適応ノイズ除去フィルタ133は、ノイズが混入している期間においても、第2信号の周波数が混入前の期間とほぼ変わらないことが分かる。これは、ノイズが混入していても、第2脈波信号の基本周波数を精度よく推定して抽出できていることを示している。したがって、第2信号に基づいて精度よく脈拍数を検出することができる。
【0041】
なお、本発明に係る生体信号解析装置は、一般的に入手可能な、パーソナルコンピュータのような汎用情報処理装置に、上述した制御部110、駆動部120、信号処理部130の動作を実現させるプログラム(アプリケーションソフトウェア)として実現することもできる。従って、このようなプログラムおよび、プログラムを格納した記録媒体(CD-ROM、DVD-ROM等の光学記録媒体や、磁気ディスクのような磁気記録媒体、半導体メモリカードなど)もまた本発明を構成する。また、本発明は上記の実施形態に制限されるものではなく、本発明の要旨の範囲内で、種々の変形・変更が可能である。
【符号の説明】
【0042】
100…センサ部、101…第1発光部、102…第2発光部、103…受光部、110…制御部、120…駆動部、130…信号処理部
図1
図2
図3
図4
図5
図6