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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-05-11
(45)【発行日】2023-05-19
(54)【発明の名称】熱処理方法および熱処理装置
(51)【国際特許分類】
   H01L 21/316 20060101AFI20230512BHJP
   H01L 21/26 20060101ALI20230512BHJP
   H01L 21/31 20060101ALI20230512BHJP
【FI】
H01L21/316 S
H01L21/26 J
H01L21/26 T
H01L21/26 F
H01L21/31 E
【請求項の数】 18
(21)【出願番号】P 2019042443
(22)【出願日】2019-03-08
(65)【公開番号】P2020145366
(43)【公開日】2020-09-10
【審査請求日】2021-12-23
(73)【特許権者】
【識別番号】000207551
【氏名又は名称】株式会社SCREENホールディングス
(74)【代理人】
【識別番号】100088672
【弁理士】
【氏名又は名称】吉竹 英俊
(74)【代理人】
【識別番号】100088845
【弁理士】
【氏名又は名称】有田 貴弘
(72)【発明者】
【氏名】上田 晃頌
(72)【発明者】
【氏名】布施 和彦
【審査官】高柳 匡克
(56)【参考文献】
【文献】特開2005-019650(JP,A)
【文献】特開2009-272402(JP,A)
【文献】特開2018-137378(JP,A)
【文献】特開2006-294750(JP,A)
【文献】特開2013-207033(JP,A)
【文献】特開2013-084902(JP,A)
【文献】特開平11-186248(JP,A)
【文献】特開平10-032328(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01L 21/316
H01L 21/26
H01L 21/31
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
基板に光を照射することによって該基板を加熱して酸化膜を形成する熱処理方法であって、
基板をチャンバー内に収容する収容工程と、
前記基板に光を照射して前記基板を加熱する加熱工程と、
前記加熱工程の途中で前記基板が所定の切替温度に到達したときに前記チャンバー内にオゾンを供給して前記チャンバー内を不活性ガス雰囲気から酸化雰囲気に切り替える雰囲気切替工程と、
を備え、
前記加熱工程は、
連続点灯ランプから前記基板に光を照射する予備加熱工程と、
前記予備加熱工程の後にフラッシュランプから前記基板にフラッシュ光を照射するフラッシュ加熱工程と、
を含み、
前記加熱工程でのフラッシュ光の照射が終了した後に直ちに前記チャンバー内への前記オゾンの供給を停止し、
前記予備加熱工程における予備加熱温度に到達する前に前記チャンバー内への前記オゾンの供給を開始することを特徴とする熱処理方法。
【請求項2】
基板に光を照射することによって該基板を加熱して酸化膜を形成する熱処理方法であって、
基板をチャンバー内に収容する収容工程と、
前記基板に光を照射して前記基板を加熱する加熱工程と、
前記加熱工程の途中で前記基板が所定の切替温度に到達したときに前記チャンバー内にオゾンを供給して前記チャンバー内を不活性ガス雰囲気から酸化雰囲気に切り替える雰囲気切替工程と、
を備え、
前記加熱工程は、
連続点灯ランプから前記基板に光を照射する予備加熱工程と、
前記予備加熱工程の後にフラッシュランプから前記基板にフラッシュ光を照射するフラッシュ加熱工程と、
を含み、
前記加熱工程でのフラッシュ光の照射が終了した後に直ちに前記チャンバー内への前記オゾンの供給を停止するとともに前記チャンバー内に水素ガスを供給することを特徴とする熱処理方法。
【請求項3】
基板に光を照射することによって該基板を加熱して酸化膜を形成する熱処理方法であって、
基板をチャンバー内に収容する収容工程と、
前記基板に光を照射して前記基板を加熱する加熱工程と、
前記加熱工程の途中で前記基板が所定の切替温度に到達したときに前記チャンバー内にオゾンを供給して前記チャンバー内を不活性ガス雰囲気から酸化雰囲気に切り替える雰囲気切替工程と、
を備え、
前記加熱工程は、
連続点灯ランプから前記基板に光を照射する予備加熱工程と、
前記予備加熱工程の後にフラッシュランプから前記基板にフラッシュ光を照射するフラッシュ加熱工程と、
を含み、
前記加熱工程でのフラッシュ光の照射が終了した後に直ちに前記チャンバー内への前記オゾンの供給を停止するとともに前記チャンバー内にアルゴンガスまたはキセノンガスを供給することを特徴とする熱処理方法。
【請求項4】
請求項1から請求項3のいずれかに記載の熱処理方法において、
前記チャンバー内の前記オゾンの濃度が所定値に到達したときに前記フラッシュ光を照射することを特徴とする熱処理方法。
【請求項5】
請求項1から請求項3のいずれかに記載の熱処理方法において、
前記基板にフラッシュ光を照射することによって、前記基板の表面に酸化膜を形成するとともに、前記基板に注入された不純物を活性化することを特徴とする熱処理方法。
【請求項6】
請求項1記載の熱処理方法において、
前記加熱工程が終了した後に前記チャンバー内への前記オゾンの供給を停止するとともに前記チャンバー内を減圧することを特徴とする熱処理方法。
【請求項7】
請求項1から請求項のいずれかに記載の熱処理方法において、
前記基板はシリコンの基板であることを特徴とする熱処理方法。
【請求項8】
請求項記載の熱処理方法において、
前記雰囲気切替工程では、前記オゾンに不活性ガスを混合して前記チャンバー内に供給することを特徴とする熱処理方法。
【請求項9】
請求項または請求項記載の熱処理方法において、
前記切替温度は400℃以上であることを特徴とする熱処理方法。
【請求項10】
基板に光を照射することによって該基板を加熱して酸化膜を形成する熱処理装置であって、
基板を収容するチャンバーと、
前記基板に光を照射して前記基板を加熱する光照射部と、
前記チャンバー内にオゾンを供給するガス供給部と、
前記光照射部からの光照射によって前記基板を加熱している途中で前記基板が所定の切替温度に到達したときに前記チャンバー内に前記オゾンを供給して前記チャンバー内を不活性ガス雰囲気から酸化雰囲気に切り替えるように前記ガス供給部を制御する制御部と、
を備え、
前記光照射部は、
前記基板に光を照射して前記基板を予備加熱する連続点灯ランプと、
前記予備加熱の後に前記基板にフラッシュ光を照射するフラッシュランプと、
を含み、
前記フラッシュランプからのフラッシュ光の照射が終了した後に直ちに前記ガス供給部が前記チャンバー内への前記オゾンの供給を停止し、
前記制御部は、前記予備加熱における予備加熱温度に到達する前に前記チャンバー内への前記オゾンの供給を開始するように前記ガス供給部を制御することを特徴とする熱処理装置。
【請求項11】
基板に光を照射することによって該基板を加熱して酸化膜を形成する熱処理装置であって、
基板を収容するチャンバーと、
前記基板に光を照射して前記基板を加熱する光照射部と、
前記チャンバー内にオゾンを供給するガス供給部と、
前記光照射部からの光照射によって前記基板を加熱している途中で前記基板が所定の切替温度に到達したときに前記チャンバー内に前記オゾンを供給して前記チャンバー内を不活性ガス雰囲気から酸化雰囲気に切り替えるように前記ガス供給部を制御する制御部と、
を備え、
前記光照射部は、
前記基板に光を照射して前記基板を予備加熱する連続点灯ランプと、
前記予備加熱の後に前記基板にフラッシュ光を照射するフラッシュランプと、
を含み、
前記フラッシュランプからのフラッシュ光の照射が終了した後に直ちに前記ガス供給部が前記チャンバー内への前記オゾンの供給を停止するとともに前記チャンバー内に水素ガスを供給することを特徴とする熱処理装置。
【請求項12】
基板に光を照射することによって該基板を加熱して酸化膜を形成する熱処理装置であって、
基板を収容するチャンバーと、
前記基板に光を照射して前記基板を加熱する光照射部と、
前記チャンバー内にオゾンを供給するガス供給部と、
前記光照射部からの光照射によって前記基板を加熱している途中で前記基板が所定の切替温度に到達したときに前記チャンバー内に前記オゾンを供給して前記チャンバー内を不活性ガス雰囲気から酸化雰囲気に切り替えるように前記ガス供給部を制御する制御部と、
を備え、
前記光照射部は、
前記基板に光を照射して前記基板を予備加熱する連続点灯ランプと、
前記予備加熱の後に前記基板にフラッシュ光を照射するフラッシュランプと、
を含み、
前記フラッシュランプからのフラッシュ光の照射が終了した後に直ちに前記ガス供給部が前記チャンバー内への前記オゾンの供給を停止するとともに前記チャンバー内にアルゴンガスまたはキセノンガスを供給することを特徴とする熱処理装置。
【請求項13】
請求項10から請求項12のいずれかに記載の熱処理装置において、
前記フラッシュランプは、前記チャンバー内の前記オゾンの濃度が所定値に到達したときに前記フラッシュ光を照射することを特徴とする熱処理装置。
【請求項14】
請求項10から請求項12のいずれかに記載の熱処理装置において、
前記フラッシュランプが前記基板にフラッシュ光を照射することによって、前記基板の表面に酸化膜を形成するとともに、前記基板に注入された不純物を活性化することを特徴とする熱処理装置。
【請求項15】
請求項10記載の熱処理装置において、
前記チャンバー内を減圧する減圧部をさらに備え、
前記光照射部からの光照射による前記基板の加熱が終了した後に、前記ガス供給部が前記チャンバー内への前記オゾンの供給を停止するとともに、前記減圧部が前記チャンバー内を減圧することを特徴とする熱処理装置。
【請求項16】
請求項10から請求項15のいずれかに記載の熱処理装置において、
前記基板はシリコンの基板であることを特徴とする熱処理装置。
【請求項17】
請求項16記載の熱処理装置において、
前記ガス供給部は、前記オゾンに不活性ガスを混合して前記チャンバー内に供給することを特徴とする熱処理装置。
【請求項18】
請求項16または請求項17記載の熱処理装置において、
前記切替温度は400℃以上であることを特徴とする熱処理装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、半導体ウェハー等の薄板状精密電子基板(以下、単に「基板」と称する)に光を照射することによって該基板を加熱して酸化膜を形成する熱処理方法および熱処理装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来より、電界効果トランジスタ(FET)のゲート絶縁膜としてはシリコン(Si)を酸化した二酸化ケイ素(SiO)の薄膜が広く使用されてきたが、近年は二酸化ケイ素よりも誘電率の高い材料を用いた高誘電率膜(High-k膜)に置き換えられつつある。高誘電率膜は、ゲート絶縁膜の薄膜化の進展にともなってリーク電流が増大する問題を解決するために、ゲート電極に金属を用いたメタルゲート電極とともに新たなスタック構造として開発が進められているものである。
【0003】
ゲート絶縁膜として高誘電率膜を用いる場合であっても、シリコンの基層と高誘電率膜との間に界面層膜(下地膜)として二酸化ケイ素の薄膜が形成される(例えば、特許文献1)。これは、シリコンの基層上に直接高誘電率膜を成膜すると、界面の欠陥が多くなってリーク電流が増大するためである。シリコンの基層と高誘電率膜との間に二酸化ケイ素の薄膜を形成することにより、界面の整合性が向上してリーク電流が減少する。すなわち、シリコンの酸化膜の形成は半導体デバイスの製造技術において重要な要素の一つであると言える。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2017-045982号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
典型的には、シリコン酸化膜は熱酸化法によって形成される。酸化雰囲気中にてシリコンを高温で処理することによって、シリコンとの界面の整合性が良好なシリコン酸化膜が形成される。
【0006】
しかし、従来の熱酸化法では、シリコンウェハーを酸化用の炉内に搬入したときに、所望の酸化温度よりも低い温度からシリコンの酸化反応が始まるため、十分に良好な特性のシリコン酸化膜が得られないことがあった。また、従来の熱酸化法では、炉内で比較的長時間をかけてシリコンを熱酸化するため、ナノメートルオーダーでシリコン酸化膜の膜厚を制御することは困難であった。
【0007】
本発明は、上記課題に鑑みてなされたものであり、薄くかつ良好な特性の酸化膜を形成することができる熱処理方法および熱処理装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記課題を解決するため、請求項1の発明は、基板に光を照射することによって該基板を加熱して酸化膜を形成する熱処理方法において、基板をチャンバー内に収容する収容工程と、前記基板に光を照射して前記基板を加熱する加熱工程と、前記加熱工程の途中で前記基板が所定の切替温度に到達したときに前記チャンバー内にオゾンを供給して前記チャンバー内を不活性ガス雰囲気から酸化雰囲気に切り替える雰囲気切替工程と、を備え、前記加熱工程は、連続点灯ランプから前記基板に光を照射する予備加熱工程と、前記予備加熱工程の後にフラッシュランプから前記基板にフラッシュ光を照射するフラッシュ加熱工程と、を含み、前記加熱工程でのフラッシュ光の照射が終了した後に直ちに前記チャンバー内への前記オゾンの供給を停止し、前記予備加熱工程における予備加熱温度に到達する前に前記チャンバー内への前記オゾンの供給を開始することを特徴とする。
【0009】
また、請求項2の発明は、基板に光を照射することによって該基板を加熱して酸化膜を形成する熱処理方法において、基板をチャンバー内に収容する収容工程と、前記基板に光を照射して前記基板を加熱する加熱工程と、前記加熱工程の途中で前記基板が所定の切替温度に到達したときに前記チャンバー内にオゾンを供給して前記チャンバー内を不活性ガス雰囲気から酸化雰囲気に切り替える雰囲気切替工程と、を備え、前記加熱工程は、連続点灯ランプから前記基板に光を照射する予備加熱工程と、前記予備加熱工程の後にフラッシュランプから前記基板にフラッシュ光を照射するフラッシュ加熱工程と、を含み、前記加熱工程でのフラッシュ光の照射が終了した後に直ちに前記チャンバー内への前記オゾンの供給を停止するとともに前記チャンバー内に水素ガスを供給することを特徴とする。
【0010】
また、請求項3の発明は、基板に光を照射することによって該基板を加熱して酸化膜を形成する熱処理方法において、基板をチャンバー内に収容する収容工程と、前記基板に光を照射して前記基板を加熱する加熱工程と、前記加熱工程の途中で前記基板が所定の切替温度に到達したときに前記チャンバー内にオゾンを供給して前記チャンバー内を不活性ガス雰囲気から酸化雰囲気に切り替える雰囲気切替工程と、を備え、前記加熱工程は、連続点灯ランプから前記基板に光を照射する予備加熱工程と、前記予備加熱工程の後にフラッシュランプから前記基板にフラッシュ光を照射するフラッシュ加熱工程と、を含み、前記加熱工程でのフラッシュ光の照射が終了した後に直ちに前記チャンバー内への前記オゾンの供給を停止するとともに前記チャンバー内にアルゴンガスまたはキセノンガスを供給することを特徴とする。
また、請求項4の発明は、請求項1から請求項3のいずれかの発明に係る熱処理方法において、前記チャンバー内の前記オゾンの濃度が所定値に到達したときに前記フラッシュ光を照射することを特徴とする。
【0011】
また、請求項の発明は、請求項1から請求項3のいずれかの発明に係る熱処理方法において、前記基板にフラッシュ光を照射することによって、前記基板の表面に酸化膜を形成するとともに、前記基板に注入された不純物を活性化することを特徴とする。
【0012】
また、請求項の発明は、請求項1の発明に係る熱処理方法において、前記加熱工程が終了した後に前記チャンバー内への前記オゾンの供給を停止するとともに前記チャンバー内を減圧することを特徴とする。
【0015】
また、請求項の発明は、請求項1から請求項のいずれかの発明に係る熱処理方法において、前記基板はシリコンの基板であることを特徴とする。
【0016】
また、請求項の発明は、請求項の発明に係る熱処理方法において、前記雰囲気切替工程では、前記オゾンに不活性ガスを混合して前記チャンバー内に供給することを特徴とする。
【0017】
また、請求項の発明は、請求項または請求項の発明に係る熱処理方法において、前記切替温度は400℃以上であることを特徴とする。
【0018】
また、請求項10の発明は、基板に光を照射することによって該基板を加熱して酸化膜を形成する熱処理装置において、基板を収容するチャンバーと、前記基板に光を照射して前記基板を加熱する光照射部と、前記チャンバー内にオゾンを供給するガス供給部と、前記光照射部からの光照射によって前記基板を加熱している途中で前記基板が所定の切替温度に到達したときに前記チャンバー内に前記オゾンを供給して前記チャンバー内を不活性ガス雰囲気から酸化雰囲気に切り替えるように前記ガス供給部を制御する制御部と、を備え、前記光照射部は、前記基板に光を照射して前記基板を予備加熱する連続点灯ランプと、前記予備加熱の後に前記基板にフラッシュ光を照射するフラッシュランプと、を含み、前記フラッシュランプからのフラッシュ光の照射が終了した後に直ちに前記ガス供給部が前記チャンバー内への前記オゾンの供給を停止し、前記制御部は、前記予備加熱における予備加熱温度に到達する前に前記チャンバー内への前記オゾンの供給を開始するように前記ガス供給部を制御することを特徴とする。
【0019】
また、請求項11の発明は、基板に光を照射することによって該基板を加熱して酸化膜を形成する熱処理装置において、基板を収容するチャンバーと、前記基板に光を照射して前記基板を加熱する光照射部と、前記チャンバー内にオゾンを供給するガス供給部と、前記光照射部からの光照射によって前記基板を加熱している途中で前記基板が所定の切替温度に到達したときに前記チャンバー内に前記オゾンを供給して前記チャンバー内を不活性ガス雰囲気から酸化雰囲気に切り替えるように前記ガス供給部を制御する制御部と、を備え、前記光照射部は、前記基板に光を照射して前記基板を予備加熱する連続点灯ランプと、前記予備加熱の後に前記基板にフラッシュ光を照射するフラッシュランプと、を含み、前記フラッシュランプからのフラッシュ光の照射が終了した後に直ちに前記ガス供給部が前記チャンバー内への前記オゾンの供給を停止するとともに前記チャンバー内に水素ガスを供給することを特徴とする。
【0020】
また、請求項12の発明は、基板に光を照射することによって該基板を加熱して酸化膜を形成する熱処理装置において、基板を収容するチャンバーと、前記基板に光を照射して前記基板を加熱する光照射部と、前記チャンバー内にオゾンを供給するガス供給部と、前記光照射部からの光照射によって前記基板を加熱している途中で前記基板が所定の切替温度に到達したときに前記チャンバー内に前記オゾンを供給して前記チャンバー内を不活性ガス雰囲気から酸化雰囲気に切り替えるように前記ガス供給部を制御する制御部と、を備え、前記光照射部は、前記基板に光を照射して前記基板を予備加熱する連続点灯ランプと、前記予備加熱の後に前記基板にフラッシュ光を照射するフラッシュランプと、を含み、前記フラッシュランプからのフラッシュ光の照射が終了した後に直ちに前記ガス供給部が前記チャンバー内への前記オゾンの供給を停止するとともに前記チャンバー内にアルゴンガスまたはキセノンガスを供給することを特徴とする。
また、請求項13の発明は、請求項10から請求項12のいずれかの発明に係る熱処理装置において、前記フラッシュランプは、前記チャンバー内の前記オゾンの濃度が所定値に到達したときに前記フラッシュ光を照射することを特徴とする。
【0021】
また、請求項14の発明は、請求項10から請求項12のいずれかの発明に係る熱処理装置において、前記フラッシュランプが前記基板にフラッシュ光を照射することによって、前記基板の表面に酸化膜を形成するとともに、前記基板に注入された不純物を活性化することを特徴とする。
【0022】
また、請求項15の発明は、請求項10の発明に係る熱処理装置において、前記チャンバー内を減圧する減圧部をさらに備え、前記光照射部からの光照射による前記基板の加熱が終了した後に、前記ガス供給部が前記チャンバー内への前記オゾンの供給を停止するとともに、前記減圧部が前記チャンバー内を減圧することを特徴とする。
【0025】
また、請求項16の発明は、請求項10から請求項15のいずれかの発明に係る熱処理装置において、前記基板はシリコンの基板であることを特徴とする。
【0026】
また、請求項17の発明は、請求項16の発明に係る熱処理装置において、前記ガス供給部は、前記オゾンに不活性ガスを混合して前記チャンバー内に供給することを特徴とする。
【0027】
また、請求項18の発明は、請求項16または請求項17の発明に係る熱処理装置において、前記切替温度は400℃以上であることを特徴とする。
【発明の効果】
【0028】
請求項1から請求項の発明によれば、加熱工程の途中で基板が所定の切替温度に到達したときにチャンバー内にオゾンを供給してチャンバー内を不活性ガス雰囲気から酸化雰囲気に切り替えるため、基板の温度が切替温度未満の比較的低温のときには酸化が抑制され、その温度が高温になってから酸化が行われることとなり、基板に薄くかつ良好な特性の酸化膜を形成することができる。
【0029】
特に、請求項の発明によれば、加熱工程が終了した後にチャンバー内へのオゾンの供給を停止するとともにチャンバー内を減圧するため、酸化膜の成長を迅速に停止させて膜厚を適切に制御することができる。
【0030】
請求項10から請求項18の発明によれば、光照射部からの光照射によって基板を加熱している途中で基板が所定の切替温度に到達したときにチャンバー内にオゾンを供給してチャンバー内を不活性ガス雰囲気から酸化雰囲気に切り替えるため、基板の温度が切替温度未満の比較的低温のときには酸化が抑制され、その温度が高温になってから酸化が行われることとなり、基板に薄くかつ良好な特性の酸化膜を形成することができる。
【0031】
特に、請求項15の発明によれば、光照射部からの光照射による基板の加熱が終了した後に、ガス供給部がチャンバー内へのオゾンの供給を停止するとともに、減圧部がチャンバー内を減圧するため、酸化膜の成長を迅速に停止させて膜厚を適切に制御することができる。
【図面の簡単な説明】
【0032】
図1】本発明に係る熱処理装置の構成を示す縦断面図である。
図2】保持部の全体外観を示す斜視図である。
図3】サセプタの平面図である。
図4】サセプタの断面図である。
図5】移載機構の平面図である。
図6】移載機構の側面図である。
図7】複数のハロゲンランプの配置を示す平面図である。
図8】本発明に係る熱処理方法の手順を示すフローチャートである。
図9】半導体ウェハーの表面温度の変化を示す図である。
図10】チャンバー内における酸素濃度の変化を示す図である。
図11】チャンバー内における圧力変化を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0033】
以下、図面を参照しつつ本発明の実施の形態について詳細に説明する。
【0034】
まず、本発明に係る熱処理装置について説明する。図1は、本発明に係る熱処理装置1の構成を示す縦断面図である。図1の熱処理装置1は、基板として円板形状の半導体ウェハーWに対してフラッシュ光照射を行うことによってその半導体ウェハーWを加熱するフラッシュランプアニール装置である。処理対象となる半導体ウェハーWのサイズは特に限定されるものではないが、例えばφ300mmやφ450mmである。なお、図1および以降の各図においては、理解容易のため、必要に応じて各部の寸法や数を誇張または簡略化して描いている。
【0035】
熱処理装置1は、半導体ウェハーWを収容するチャンバー6と、複数のフラッシュランプFLを内蔵するフラッシュ加熱部5と、複数のハロゲンランプHLを内蔵するハロゲン加熱部4と、を備える。チャンバー6の上側にフラッシュ加熱部5が設けられるとともに、下側にハロゲン加熱部4が設けられている。熱処理装置1は、チャンバー6内に処理ガスを供給するガス供給部90を備える。また、熱処理装置1は、チャンバー6の内部に、半導体ウェハーWを水平姿勢に保持する保持部7と、保持部7と装置外部との間で半導体ウェハーWの受け渡しを行う移載機構10と、を備える。さらに、熱処理装置1は、ハロゲン加熱部4、フラッシュ加熱部5およびチャンバー6に設けられた各動作機構を制御して半導体ウェハーWの熱処理を実行させる制御部3を備える。
【0036】
チャンバー6は、筒状のチャンバー側部61の上下に石英製のチャンバー窓を装着して構成されている。チャンバー側部61は上下が開口された概略筒形状を有しており、上側開口には上側チャンバー窓63が装着されて閉塞され、下側開口には下側チャンバー窓64が装着されて閉塞されている。チャンバー6の天井部を構成する上側チャンバー窓63は、石英により形成された円板形状部材であり、フラッシュ加熱部5から出射されたフラッシュ光をチャンバー6内に透過する石英窓として機能する。また、チャンバー6の床部を構成する下側チャンバー窓64も、石英により形成された円板形状部材であり、ハロゲン加熱部4からの光をチャンバー6内に透過する石英窓として機能する。
【0037】
また、チャンバー側部61の内側の壁面の上部には反射リング68が装着され、下部には反射リング69が装着されている。反射リング68,69は、ともに円環状に形成されている。上側の反射リング68は、チャンバー側部61の上側から嵌め込むことによって装着される。一方、下側の反射リング69は、チャンバー側部61の下側から嵌め込んで図示省略のビスで留めることによって装着される。すなわち、反射リング68,69は、ともに着脱自在にチャンバー側部61に装着されるものである。チャンバー6の内側空間、すなわち上側チャンバー窓63、下側チャンバー窓64、チャンバー側部61および反射リング68,69によって囲まれる空間が熱処理空間65として規定される。
【0038】
チャンバー側部61に反射リング68,69が装着されることによって、チャンバー6の内壁面に凹部62が形成される。すなわち、チャンバー側部61の内壁面のうち反射リング68,69が装着されていない中央部分と、反射リング68の下端面と、反射リング69の上端面とで囲まれた凹部62が形成される。凹部62は、チャンバー6の内壁面に水平方向に沿って円環状に形成され、半導体ウェハーWを保持する保持部7を囲繞する。チャンバー側部61および反射リング68,69は、強度と耐熱性に優れた金属材料(例えば、ステンレススチール)にて形成されている。
【0039】
また、チャンバー側部61には、チャンバー6に対して半導体ウェハーWの搬入および搬出を行うための搬送開口部(炉口)66が形設されている。搬送開口部66は、ゲートバルブ185によって開閉可能とされている。搬送開口部66は凹部62の外周面に連通接続されている。このため、ゲートバルブ185が搬送開口部66を開放しているときには、搬送開口部66から凹部62を通過して熱処理空間65への半導体ウェハーWの搬入および熱処理空間65からの半導体ウェハーWの搬出を行うことができる。また、ゲートバルブ185が搬送開口部66を閉鎖するとチャンバー6内の熱処理空間65が密閉空間とされる。
【0040】
さらに、チャンバー側部61には、貫通孔61aが穿設されている。チャンバー側部61の外壁面の貫通孔61aが設けられている部位には放射温度計20が取り付けられている。貫通孔61aは、後述するサセプタ74に保持された半導体ウェハーWの下面から放射された赤外光を放射温度計20に導くための円筒状の孔である。貫通孔61aは、その貫通方向の軸がサセプタ74に保持された半導体ウェハーWの主面と交わるように、水平方向に対して傾斜して設けられている。貫通孔61aの熱処理空間65に臨む側の端部には、放射温度計20が測定可能な波長領域の赤外光を透過させるフッ化バリウム材料からなる透明窓21が装着されている。放射温度計20は、半導体ウェハーWの下面から放射された赤外光を透明窓21を介して受光し、その赤外光の強度から半導体ウェハーWの温度を測定する。
【0041】
また、チャンバー6の内壁上部には熱処理空間65に処理ガスを供給するガス供給孔81が形設されている。ガス供給孔81は、凹部62よりも上側位置に形設されており、反射リング68に設けられていても良い。ガス供給孔81はチャンバー6の側壁内部に円環状に形成された緩衝空間82を介してガス供給部90の供給配管83に連通接続されている。供給配管83は二叉に分岐され、そのうちの一方は酸素供給源93に接続され、他方は窒素供給源94に接続されている。供給配管83から分岐されて酸素供給源93に接続された配管にはバルブ91が設けられ、窒素供給源94に接続された配管にはバルブ92が設けられている。バルブ91が開放されると酸素供給源93から供給配管83に酸素ガス(O)が送り出される。一方、バルブ92が開放されると窒素供給源94から供給配管83に窒素ガス(N)が送り出される。バルブ91およびバルブ92の双方が開放されると供給配管83には酸素と窒素との混合ガスが送給される。酸素供給源93、窒素供給源94、バルブ91、バルブ92および供給配管83によって熱処理装置1のガス供給部90が構成される。供給配管83から送給された処理ガスは緩衝空間82に流入し、ガス供給孔81よりも流体抵抗の小さい緩衝空間82内を拡がるように流れてガス供給孔81から熱処理空間65内へと供給される。なお、酸素および窒素のそれぞれの供給流量は分岐された配管に設けられた図示省略の流量調整バルブ等によって調整可能とされている。
【0042】
一方、チャンバー6の内壁下部には熱処理空間65内の気体を排気するガス排気孔86が形設されている。ガス排気孔86は、凹部62よりも下側位置に形設されており、反射リング69に設けられていても良い。ガス排気孔86はチャンバー6の側壁内部に円環状に形成された緩衝空間87を介してガス排気管88に連通接続されている。ガス排気管88は排気部190に接続されている。また、ガス排気管88の経路途中にはバルブ89が介挿されている。バルブ89が開放されると、熱処理空間65の気体がガス排気孔86から緩衝空間87を経てガス排気管88へと排出される。なお、ガス供給孔81およびガス排気孔86は、チャンバー6の周方向に沿って複数設けられていても良いし、スリット状のものであっても良い。
【0043】
また、搬送開口部66の先端にも熱処理空間65内の気体を排出するガス排気管191が接続されている。ガス排気管191はバルブ192を介して排気部190に接続されている。バルブ192を開放することによって、搬送開口部66を介してチャンバー6内の気体が排気される。
【0044】
排気部190は、排気ポンプを備える。排気部190を作動させつつ、バルブ89,192を開放することによって、チャンバー6内の雰囲気がガス排気管88,191から排気部190へと排出される。ガス供給孔81から何らのガス供給を行うことなく、排気部190によって密閉空間である熱処理空間65の雰囲気を排気すると、チャンバー6内を大気圧未満の気圧に減圧することができる。すなわち、排気部190は、チャンバー6内を減圧する減圧部としても機能するものである。
【0045】
図2は、保持部7の全体外観を示す斜視図である。保持部7は、基台リング71、連結部72およびサセプタ74を備えて構成される。基台リング71、連結部72およびサセプタ74はいずれも石英にて形成されている。すなわち、保持部7の全体が石英にて形成されている。
【0046】
基台リング71は円環形状から一部が欠落した円弧形状の石英部材である。この欠落部分は、後述する移載機構10の移載アーム11と基台リング71との干渉を防ぐために設けられている。基台リング71は凹部62の底面に載置されることによって、チャンバー6の壁面に支持されることとなる(図1参照)。基台リング71の上面に、その円環形状の周方向に沿って複数の連結部72(本実施形態では4個)が立設される。連結部72も石英の部材であり、溶接によって基台リング71に固着される。
【0047】
サセプタ74は基台リング71に設けられた4個の連結部72によって支持される。図3は、サセプタ74の平面図である。また、図4は、サセプタ74の断面図である。サセプタ74は、保持プレート75、ガイドリング76および複数の基板支持ピン77を備える。保持プレート75は、石英にて形成された略円形の平板状部材である。保持プレート75の直径は半導体ウェハーWの直径よりも大きい。すなわち、保持プレート75は、半導体ウェハーWよりも大きな平面サイズを有する。
【0048】
保持プレート75の上面周縁部にガイドリング76が設置されている。ガイドリング76は、半導体ウェハーWの直径よりも大きな内径を有する円環形状の部材である。例えば、半導体ウェハーWの直径がφ300mmの場合、ガイドリング76の内径はφ320mmである。ガイドリング76の内周は、保持プレート75から上方に向けて広くなるようなテーパ面とされている。ガイドリング76は、保持プレート75と同様の石英にて形成される。ガイドリング76は、保持プレート75の上面に溶着するようにしても良いし、別途加工したピンなどによって保持プレート75に固定するようにしても良い。或いは、保持プレート75とガイドリング76とを一体の部材として加工するようにしても良い。
【0049】
保持プレート75の上面のうちガイドリング76よりも内側の領域が半導体ウェハーWを保持する平面状の保持面75aとされる。保持プレート75の保持面75aには、複数の基板支持ピン77が立設されている。本実施形態においては、保持面75aの外周円(ガイドリング76の内周円)と同心円の周上に沿って30°毎に計12個の基板支持ピン77が立設されている。12個の基板支持ピン77を配置した円の径(対向する基板支持ピン77間の距離)は半導体ウェハーWの径よりも小さく、半導体ウェハーWの径がφ300mmであればφ270mm~φ280mm(本実施形態ではφ270mm)である。それぞれの基板支持ピン77は石英にて形成されている。複数の基板支持ピン77は、保持プレート75の上面に溶接によって設けるようにしても良いし、保持プレート75と一体に加工するようにしても良い。
【0050】
図2に戻り、基台リング71に立設された4個の連結部72とサセプタ74の保持プレート75の周縁部とが溶接によって固着される。すなわち、サセプタ74と基台リング71とは連結部72によって固定的に連結されている。このような保持部7の基台リング71がチャンバー6の壁面に支持されることによって、保持部7がチャンバー6に装着される。保持部7がチャンバー6に装着された状態においては、サセプタ74の保持プレート75は水平姿勢(法線が鉛直方向と一致する姿勢)となる。すなわち、保持プレート75の保持面75aは水平面となる。
【0051】
チャンバー6に搬入された半導体ウェハーWは、チャンバー6に装着された保持部7のサセプタ74の上に水平姿勢にて載置されて保持される。このとき、半導体ウェハーWは保持プレート75上に立設された12個の基板支持ピン77によって支持されてサセプタ74に保持される。より厳密には、12個の基板支持ピン77の上端部が半導体ウェハーWの下面に接触して当該半導体ウェハーWを支持する。12個の基板支持ピン77の高さ(基板支持ピン77の上端から保持プレート75の保持面75aまでの距離)は均一であるため、12個の基板支持ピン77によって半導体ウェハーWを水平姿勢に支持することができる。
【0052】
また、半導体ウェハーWは複数の基板支持ピン77によって保持プレート75の保持面75aから所定の間隔を隔てて支持されることとなる。基板支持ピン77の高さよりもガイドリング76の厚さの方が大きい。従って、複数の基板支持ピン77によって支持された半導体ウェハーWの水平方向の位置ずれはガイドリング76によって防止される。
【0053】
また、図2および図3に示すように、サセプタ74の保持プレート75には、上下に貫通して開口部78が形成されている。開口部78は、放射温度計20が半導体ウェハーWの下面から放射される放射光(赤外光)を受光するために設けられている。すなわち、放射温度計20が開口部78およびチャンバー側部61の貫通孔61aに装着された透明窓21を介して半導体ウェハーWの下面から放射された光を受光して当該半導体ウェハーWの温度を測定する。さらに、サセプタ74の保持プレート75には、後述する移載機構10のリフトピン12が半導体ウェハーWの受け渡しのために貫通する4個の貫通孔79が穿設されている。
【0054】
図5は、移載機構10の平面図である。また、図6は、移載機構10の側面図である。移載機構10は、2本の移載アーム11を備える。移載アーム11は、概ね円環状の凹部62に沿うような円弧形状とされている。それぞれの移載アーム11には2本のリフトピン12が立設されている。移載アーム11およびリフトピン12は石英にて形成されている。各移載アーム11は水平移動機構13によって回動可能とされている。水平移動機構13は、一対の移載アーム11を保持部7に対して半導体ウェハーWの移載を行う移載動作位置(図5の実線位置)と保持部7に保持された半導体ウェハーWと平面視で重ならない退避位置(図5の二点鎖線位置)との間で水平移動させる。水平移動機構13としては、個別のモータによって各移載アーム11をそれぞれ回動させるものであっても良いし、リンク機構を用いて1個のモータによって一対の移載アーム11を連動させて回動させるものであっても良い。
【0055】
また、一対の移載アーム11は、昇降機構14によって水平移動機構13とともに昇降移動される。昇降機構14が一対の移載アーム11を移載動作位置にて上昇させると、計4本のリフトピン12がサセプタ74に穿設された貫通孔79(図2,3参照)を通過し、リフトピン12の上端がサセプタ74の上面から突き出る。一方、昇降機構14が一対の移載アーム11を移載動作位置にて下降させてリフトピン12を貫通孔79から抜き取り、水平移動機構13が一対の移載アーム11を開くように移動させると各移載アーム11が退避位置に移動する。一対の移載アーム11の退避位置は、保持部7の基台リング71の直上である。基台リング71は凹部62の底面に載置されているため、移載アーム11の退避位置は凹部62の内側となる。なお、移載機構10の駆動部(水平移動機構13および昇降機構14)が設けられている部位の近傍にも図示省略の排気機構が設けられており、移載機構10の駆動部周辺の雰囲気がチャンバー6の外部に排出されるように構成されている。
【0056】
図1に戻り、チャンバー6には酸素濃度計99が設けられている。酸素濃度計99は、チャンバー6内の雰囲気中における酸素濃度を測定する。
【0057】
チャンバー6の上方に設けられたフラッシュ加熱部5は、筐体51の内側に、複数本(本実施形態では30本)のキセノンフラッシュランプFLからなる光源と、その光源の上方を覆うように設けられたリフレクタ52と、を備えて構成される。また、フラッシュ加熱部5の筐体51の底部にはランプ光放射窓53が装着されている。フラッシュ加熱部5の床部を構成するランプ光放射窓53は、石英により形成された板状の石英窓である。フラッシュ加熱部5がチャンバー6の上方に設置されることにより、ランプ光放射窓53が上側チャンバー窓63と相対向することとなる。フラッシュランプFLはチャンバー6の上方からランプ光放射窓53および上側チャンバー窓63を介して熱処理空間65にフラッシュ光を照射する。
【0058】
複数のフラッシュランプFLは、それぞれが長尺の円筒形状を有する棒状ランプであり、それぞれの長手方向が保持部7に保持される半導体ウェハーWの主面に沿って(つまり水平方向に沿って)互いに平行となるように平面状に配列されている。よって、フラッシュランプFLの配列によって形成される平面も水平面である。複数のフラッシュランプFLが配列される領域は半導体ウェハーWの平面サイズよりも大きい。
【0059】
キセノンフラッシュランプFLは、その内部にキセノンガスが封入されその両端部にコンデンサーに接続された陽極および陰極が配設された円筒形状のガラス管(放電管)と、該ガラス管の外周面上に付設されたトリガー電極とを備える。キセノンガスは電気的には絶縁体であることから、コンデンサーに電荷が蓄積されていたとしても通常の状態ではガラス管内に電気は流れない。しかしながら、トリガー電極に高電圧を印加して絶縁を破壊した場合には、コンデンサーに蓄えられた電気がガラス管内に瞬時に流れ、そのときのキセノンの原子あるいは分子の励起によって光が放出される。このようなキセノンフラッシュランプFLにおいては、予めコンデンサーに蓄えられていた静電エネルギーが0.1ミリセカンドないし100ミリセカンドという極めて短い光パルスに変換されることから、ハロゲンランプHLの如き連続点灯の光源に比べて極めて強い光を照射し得るという特徴を有する。すなわち、フラッシュランプFLは、1秒未満の極めて短い時間で瞬間的に発光するパルス発光ランプである。なお、フラッシュランプFLの発光時間は、フラッシュランプFLに電力供給を行うランプ電源のコイル定数によって調整することができる。
【0060】
また、リフレクタ52は、複数のフラッシュランプFLの上方にそれら全体を覆うように設けられている。リフレクタ52の基本的な機能は、複数のフラッシュランプFLから出射されたフラッシュ光を熱処理空間65の側に反射するというものである。リフレクタ52はアルミニウム合金板にて形成されており、その表面(フラッシュランプFLに臨む側の面)はブラスト処理により粗面化加工が施されている。
【0061】
チャンバー6の下方に設けられたハロゲン加熱部4は、筐体41の内側に複数本(本実施形態では40本)のハロゲンランプHLを内蔵している。ハロゲン加熱部4は、複数のハロゲンランプHLによってチャンバー6の下方から下側チャンバー窓64を介して熱処理空間65への光照射を行って半導体ウェハーWを加熱する。
【0062】
図7は、複数のハロゲンランプHLの配置を示す平面図である。40本のハロゲンランプHLは上下2段に分けて配置されている。保持部7に近い上段に20本のハロゲンランプHLが配設されるとともに、上段よりも保持部7から遠い下段にも20本のハロゲンランプHLが配設されている。各ハロゲンランプHLは、長尺の円筒形状を有する棒状ランプである。上段、下段ともに20本のハロゲンランプHLは、それぞれの長手方向が保持部7に保持される半導体ウェハーWの主面に沿って(つまり水平方向に沿って)互いに平行となるように配列されている。よって、上段、下段ともにハロゲンランプHLの配列によって形成される平面は水平面である。
【0063】
また、図7に示すように、上段、下段ともに保持部7に保持される半導体ウェハーWの中央部に対向する領域よりも周縁部に対向する領域におけるハロゲンランプHLの配設密度が高くなっている。すなわち、上下段ともに、ランプ配列の中央部よりも周縁部の方がハロゲンランプHLの配設ピッチが短い。このため、ハロゲン加熱部4からの光照射による加熱時に温度低下が生じやすい半導体ウェハーWの周縁部により多い光量の照射を行うことができる。
【0064】
また、上段のハロゲンランプHLからなるランプ群と下段のハロゲンランプHLからなるランプ群とが格子状に交差するように配列されている。すなわち、上段に配置された20本のハロゲンランプHLの長手方向と下段に配置された20本のハロゲンランプHLの長手方向とが互いに直交するように計40本のハロゲンランプHLが配設されている。
【0065】
ハロゲンランプHLは、ガラス管内部に配設されたフィラメントに通電することでフィラメントを白熱化させて発光させるフィラメント方式の光源である。ガラス管の内部には、窒素やアルゴン等の不活性ガスにハロゲン元素(ヨウ素、臭素等)を微量導入した気体が封入されている。ハロゲン元素を導入することによって、フィラメントの折損を抑制しつつフィラメントの温度を高温に設定することが可能となる。したがって、ハロゲンランプHLは、通常の白熱電球に比べて寿命が長くかつ強い光を連続的に照射できるという特性を有する。すなわち、ハロゲンランプHLは少なくとも1秒以上連続して発光する連続点灯ランプである。また、ハロゲンランプHLは棒状ランプであるため長寿命であり、ハロゲンランプHLを水平方向に沿わせて配置することにより上方の半導体ウェハーWへの放射効率が優れたものとなる。
【0066】
また、ハロゲン加熱部4の筐体41内にも、2段のハロゲンランプHLの下側にリフレクタ43が設けられている(図1)。リフレクタ43は、複数のハロゲンランプHLから出射された光を熱処理空間65の側に反射する。
【0067】
制御部3は、熱処理装置1に設けられた上記の種々の動作機構を制御する。制御部3のハードウェアとしての構成は一般的なコンピュータと同様である。すなわち、制御部3は、各種演算処理を行う回路であるCPU、基本プログラムを記憶する読み出し専用のメモリであるROM、各種情報を記憶する読み書き自在のメモリであるRAMおよび制御用ソフトウェアやデータなどを記憶しておく磁気ディスクを備えている。制御部3のCPUが所定の処理プログラムを実行することによって熱処理装置1における処理が進行する。
【0068】
上記の構成以外にも熱処理装置1は、半導体ウェハーWの熱処理時にハロゲンランプHLおよびフラッシュランプFLから発生する熱エネルギーによるハロゲン加熱部4、フラッシュ加熱部5およびチャンバー6の過剰な温度上昇を防止するため、様々な冷却用の構造を備えている。例えば、チャンバー6の壁体には水冷管(図示省略)が設けられている。また、ハロゲン加熱部4およびフラッシュ加熱部5は、内部に気体流を形成して排熱する空冷構造とされている。また、上側チャンバー窓63とランプ光放射窓53との間隙にも空気が供給され、フラッシュ加熱部5および上側チャンバー窓63を冷却する。
【0069】
次に、本発明に係る熱処理方法について説明する。図8は、本発明に係る熱処理方法の手順を示すフローチャートである。本実施形態において処理対象となる半導体基板はシリコン(Si)の半導体ウェハーWである。半導体ウェハーWの表面において、少なくとも一部は基材のシリコンが露出している。なお、本発明に係る熱処理方法に先立って、半導体ウェハーWの表面にフッ酸等による洗浄処理を行ってシリコンの露出部位に形成されている自然酸化膜を除去しておくようにしても良い。
【0070】
まず、シリコンの半導体ウェハーWが熱処理装置1のチャンバー6内に搬入される(ステップS1)。具体的には、ゲートバルブ185が開いて搬送開口部66が開放され、装置外部の搬送ロボットにより搬送開口部66を介して半導体ウェハーWがチャンバー6内の熱処理空間65に搬入される。このときに、バルブ92を開放してチャンバー6内に窒素ガスを供給し、搬送開口部66から窒素ガスを流出させて半導体ウェハーWの搬入にともなう外部雰囲気の巻き込みを最小限に抑制するようにしても良い。
【0071】
搬送ロボットによって搬入された半導体ウェハーWは保持部7の直上位置まで進出して停止する。そして、移載機構10の一対の移載アーム11が退避位置から移載動作位置に水平移動して上昇することにより、リフトピン12が貫通孔79を通ってサセプタ74の保持プレート75の上面から突き出て半導体ウェハーWを受け取る。このとき、リフトピン12は基板支持ピン77の上端よりも上方にまで上昇する。
【0072】
半導体ウェハーWがリフトピン12に載置された後、搬送ロボットが熱処理空間65から退出し、ゲートバルブ185によって搬送開口部66が閉鎖される。そして、一対の移載アーム11が下降することにより、半導体ウェハーWは移載機構10から保持部7のサセプタ74に受け渡されて水平姿勢にて下方より保持される。半導体ウェハーWは、保持プレート75上に立設された複数の基板支持ピン77によって支持されてサセプタ74に保持される。また、半導体ウェハーWは、一部領域でシリコンが露出している表面を上面として保持部7に保持される。複数の基板支持ピン77によって支持された半導体ウェハーWの裏面(表面とは反対側の主面)と保持プレート75の保持面75aとの間には所定の間隔が形成される。サセプタ74の下方にまで下降した一対の移載アーム11は水平移動機構13によって退避位置、すなわち凹部62の内側に退避する。
【0073】
また、ゲートバルブ185によって搬送開口部66が閉鎖されて熱処理空間65が密閉空間とされた後、チャンバー6内に不活性ガスである窒素の雰囲気が形成される(ステップS2)。具体的には、バルブ91が閉止されつつバルブ92が開放されてガス供給孔81から熱処理空間65に窒素ガスが供給される。また、バルブ89が開放されてガス排気孔86からチャンバー6内の気体が排気される。これにより、チャンバー6内の熱処理空間65の上部から供給された窒素ガスが下方へと流れて熱処理空間65の下部から排気され、チャンバー6内が窒素雰囲気に置換される。また、バルブ192が開放されることによって、搬送開口部66からもチャンバー6内の気体が排気される。さらに、図示省略の排気機構によって移載機構10の駆動部周辺の雰囲気も排気される。なお、予めチャンバー6内に窒素雰囲気を形成しておき、そこに半導体ウェハーWを搬入するようにしても良い。
【0074】
次に、ハロゲン加熱部4のハロゲンランプHLによって半導体ウェハーWの予備加熱(アシスト加熱)が実行される(ステップS3)。図9は、半導体ウェハーWの表面温度の変化を示す図である。時刻t1にハロゲン加熱部4の40本のハロゲンランプHLが一斉に点灯して半導体ウェハーWの予備加熱が開始される。ハロゲンランプHLから出射されたハロゲン光は、石英にて形成された下側チャンバー窓64およびサセプタ74を透過して半導体ウェハーWの裏面から照射される。ハロゲンランプHLからの光照射を受けることによって半導体ウェハーWが予備加熱されて温度が上昇する。なお、移載機構10の移載アーム11は凹部62の内側に退避しているため、ハロゲンランプHLによる予備加熱の障害となることは無い。
【0075】
ハロゲンランプHLによる加熱処理を行うときには、半導体ウェハーWの温度が放射温度計20によって測定されている。すなわち、サセプタ74に保持された半導体ウェハーWの下面から開口部78を介して放射された赤外光を透明窓21を通して放射温度計20が受光して昇温中のウェハー温度を測定する。測定された半導体ウェハーWの温度は制御部3に伝達される。制御部3は、放射温度計20による測定値に基づいて、半導体ウェハーWの温度が予備加熱温度T2となるようにハロゲンランプHLの出力をフィードバック制御する。
【0076】
また、制御部3は、ハロゲンランプHLからの光照射によって昇温する半導体ウェハーWの温度が所定の切替温度T1に到達したか否かを監視している(ステップS4)。切替温度T1は400℃以上である。予備加熱の途中で半導体ウェハーWの温度が切替温度T1に到達したときには、ステップS4からステップS5に進み、チャンバー6内を窒素雰囲気から酸素雰囲気に置換する。具体的には、時刻t2に半導体ウェハーWの温度が切替温度T1に到達したときに、制御部3の制御下にてバルブ91が開放されてガス供給部90からチャンバー6内に酸素ガスが供給される。
【0077】
チャンバー6内に酸素ガスが供給されることによって、チャンバー6内には酸素を含む雰囲気、すなわち酸化雰囲気が形成される。本実施形態では、半導体ウェハーWの温度が切替温度T1に到達したことをトリガーとして、チャンバー6内が不活性ガス雰囲気から酸化雰囲気に切り替えられるのである。半導体ウェハーWの温度が切替温度T1に到達した以降にチャンバー6内に酸素雰囲気が形成されることによって、半導体ウェハーWの表面におけるシリコンの露出部位に酸化が生じてシリコン酸化膜(二酸化ケイ素(SiO)の薄膜)の成長が開始される。
【0078】
続いて、時刻t3に半導体ウェハーWの温度が予備加熱温度T2に到達した後、制御部3は半導体ウェハーWをその予備加熱温度T2に暫時維持する。具体的には、放射温度計20によって測定される半導体ウェハーWの温度が予備加熱温度T2に到達した時刻t3に制御部3がハロゲンランプHLの出力を調整し、半導体ウェハーWの温度をほぼ予備加熱温度T2に維持している。
【0079】
このようなハロゲンランプHLによる予備加熱を行うことによって、半導体ウェハーWの全体を予備加熱温度T2に均一に昇温している。ハロゲンランプHLによる予備加熱の段階においては、より放熱が生じやすい半導体ウェハーWの周縁部の温度が中央部よりも低下する傾向にあるが、ハロゲン加熱部4におけるハロゲンランプHLの配設密度は、半導体ウェハーWの中央部に対向する領域よりも周縁部に対向する領域の方が高くなっている。このため、放熱が生じやすい半導体ウェハーWの周縁部に照射される光量が多くなり、予備加熱段階における半導体ウェハーWの面内温度分布を均一なものとすることができる。
【0080】
時刻t3に半導体ウェハーWの温度が予備加熱温度T2に到達した以降もチャンバー6内には酸素ガスが継続して供給されている。図10は、チャンバー6内における酸素濃度の変化を示す図である。チャンバー6内における酸素濃度は酸素濃度計99によって測定されている。半導体ウェハーWの温度が切替温度T1に到達した時刻t2にチャンバー6への酸素ガス供給が開始されて酸素濃度が上昇し始める。半導体ウェハーWの温度が予備加熱温度T2に到達した時刻t3以降も酸素ガス供給が継続されてチャンバー6内の酸素濃度が上昇し続ける。そして、酸素濃度計99によって測定されるチャンバー6内の酸素濃度が目標濃度C1に到達した時刻t4にフラッシュ加熱部5のフラッシュランプFLがサセプタ74に保持された半導体ウェハーWの表面にフラッシュ光照射を行う(ステップS6)。このとき、フラッシュランプFLから放射されるフラッシュ光の一部は直接にチャンバー6内へと向かい、他の一部は一旦リフレクタ52により反射されてからチャンバー6内へと向かい、これらのフラッシュ光の照射により半導体ウェハーWのフラッシュ加熱が行われる。なお、目標濃度C1は適宜の値とすることができ、100%であっても良い。
【0081】
フラッシュ加熱は、フラッシュランプFLからのフラッシュ光(閃光)照射により行われるため、半導体ウェハーWの表面温度を短時間で上昇することができる。すなわち、フラッシュランプFLから照射されるフラッシュ光は、予めコンデンサーに蓄えられていた静電エネルギーが極めて短い光パルスに変換された、照射時間が0.1ミリセカンド以上100ミリセカンド以下程度の極めて短く強い閃光である。そして、フラッシュランプFLからのフラッシュ光照射により、半導体ウェハーWの表面は瞬間的にピーク温度T3にまで昇温した後、急速に降温する。ピーク温度T3は、予備加熱温度T2よりも高い。
【0082】
チャンバー6内の酸素濃度が目標濃度C1に到達している状態にてフラッシュ光照射により半導体ウェハーWの表面をピーク温度T3にまで昇温することにより、シリコンの露出部位における熱酸化が進行してシリコン酸化膜がさらに成長する。もっとも、フラッシュ光の照射時間は0.1ミリセカンド以上100ミリセカンド以下の極めて短時間であるため、シリコン酸化膜の膜厚が所望値を超えて過度に厚くなることは防止される。本実施形態では、シリコン酸化膜の膜厚は1.5nm程度となる。
【0083】
フラッシュ光照射が終了した後、制御部3の制御下にて直ちにバルブ91が閉止されてチャンバー6内への酸素ガスの供給が停止される。また、酸素雰囲気形成時にチャンバー6に窒素ガスも供給されていた場合には、バルブ92も閉止されて窒素ガスの供給も停止される。そして、チャンバー6内へのガス供給が停止された状態にて排気部190がチャンバー6内の気体を排気することにより、チャンバー6内が大気圧未満に減圧される(ステップS7)。
【0084】
図11は、チャンバー6内における圧力変化を示す図である。ハロゲンランプHLによる半導体ウェハーWの予備加熱およびフラッシュランプFLによるフラッシュ加熱は大気圧P1にて実行される。すなわち、チャンバー6内の圧力が大気圧P1にてシリコン酸化膜が成長する。時刻t4にフラッシュランプFLからのフラッシュ光照射が実行された後、直ちに排気部190によってチャンバー6内が大気圧P1から減圧される。そして、時刻t5にはチャンバー6内が気圧P2にまで減圧される。図11に示すように、時刻t4から時刻t5に至るチャンバー6内の減圧において、初期段階では比較的小さな排気流量で静かに減圧を行った後に、大きな排気流量に切り換えるようにしている。減圧開始と同時に大きな排気流量にて急激にチャンバー6内を減圧すると、板厚の薄い石英のサセプタ74等が破損するおそれのあるところ、本実施形態のように排気流量を2段階に切り換えることにより、サセプタ74等の破損を防止することができる。
【0085】
また、時刻t4からチャンバー6内の減圧を行うことにより、図10に示すように、チャンバー6内の酸素濃度も目標濃度C1から低下する。さらに、図9に示すように、時刻t4にフラッシュ光照射が行われた後、半導体ウェハーWの表面温度も急速に降温する。チャンバー6内の酸素濃度が低下するとともに、半導体ウェハーWの表面温度が降温することにより、シリコン酸化膜の成長は迅速に停止する。
【0086】
フラッシュ光照射後の降温中の半導体ウェハーWの温度は放射温度計20によって測定され、その測定結果は制御部3に伝達される。制御部3は、放射温度計20の測定結果より半導体ウェハーWの温度が所定温度まで降温したか否かを監視する。また、排気部190によってチャンバー6内が気圧P2にまで減圧されることにより、チャンバー6内の酸素はほぼ完全にチャンバー6から排出されることとなり、チャンバー6における後続の処理への影響を排除することができる。時刻t5にチャンバー6内が気圧P2にまで減圧された時点で排気部190による排気が停止されるとともに、バルブ92が開放されてチャンバー6内に窒素ガスが供給される。これにより、チャンバー6内が窒素雰囲気とされて大気圧P1に復圧する。
【0087】
チャンバー6内が不活性ガス雰囲気の大気圧P1に復圧し、半導体ウェハーWの温度が所定以下にまで降温した後、移載機構10の一対の移載アーム11が再び退避位置から移載動作位置に水平移動して上昇することにより、リフトピン12がサセプタ74の上面から突き出て熱処理後の半導体ウェハーWをサセプタ74から受け取る。続いて、ゲートバルブ185により閉鎖されていた搬送開口部66が開放され、リフトピン12上に載置された半導体ウェハーWが装置外部の搬送ロボットにより搬出され、熱処理装置1における半導体ウェハーWの加熱処理が完了する(ステップS8)。
【0088】
本実施形態においては、予備加熱の途中で半導体ウェハーWの温度が切替温度T1に到達したときに、チャンバー6内に酸素ガスを供給してチャンバー6内を窒素雰囲気から酸素雰囲気に切り替えている。このため、半導体ウェハーWの温度が切替温度T1未満の比較的低温のときには、チャンバー6内が不活性ガス雰囲気であるためシリコンの酸化は行われない。そして、半導体ウェハーWの温度が切替温度T1以上の比較的高温となったときに、チャンバー6内が不活性ガス雰囲気から酸化雰囲気に切り替えられ、シリコンが酸化されてシリコン酸化膜(二酸化ケイ素の薄膜)が成長を開始する。その結果、半導体ウェハーWの温度が比較的低温のときの酸化が抑制されつつ、高温になってから酸化が行われることとなり、緻密かつシリコン基層との界面の欠陥が少ない良好な特性の薄い酸化膜を形成することができる。
【0089】
また、本実施形態においては、酸化雰囲気中にて照射時間の極めて短いフラッシュ光を半導体ウェハーWに照射することによってシリコンの酸化膜を形成している。このため、膜厚の極めて薄いナノメートルオーダーのシリコン酸化膜を形成することができる。シリコン酸化膜を高誘電率ゲート絶縁膜の下地膜として使用する場合には、極めて薄い膜厚が求められており、本発明に係る熱処理方法は好適である。
【0090】
単に薄いシリコン酸化膜を成膜するのであれば、例えばALD(Atomic Layer Deposition)によって二酸化ケイ素を堆積させることも可能である。しかし、ALDによって二酸化ケイ素を堆積させると、シリコン酸化膜とシリコン基層との界面に多数の欠陥が生じることが知られている。このため、別途欠陥を解消するためのアニール処理(PDA:Post Deposition Anneal)が必要となる。本実施形態では、フラッシュ加熱を用いた極めて短時間の熱酸化法によってシリコン酸化膜を形成しているため、シリコン基層との整合性が良好で欠陥が少なく、かつ、ナノメートルオーダーの薄いシリコン酸化膜を形成することができる。
【0091】
また、フラッシュ加熱を用いた熱酸化法によってシリコン酸化膜を形成しているため、半導体ウェハーWの表面に複雑な形状の3次元のパターンが形成されている場合であっても、そのパターンの側壁部分を含む全体に均一に酸化膜を形成することができる。
【0092】
さらに、フラッシュ光照射後に直ちにチャンバー6内への酸素ガスの供給を停止するとともに、排気部190によってチャンバー6内を減圧して酸素濃度を急速に低下させるようにしている。これにより、半導体ウェハーW表面のシリコン酸化膜の成長を迅速に停止させてその膜厚を適切に制御することができる。
【0093】
以上、本発明の実施の形態について説明したが、この発明はその趣旨を逸脱しない限りにおいて上述したもの以外に種々の変更を行うことが可能である。例えば、上記実施形態においては、チャンバー6内に酸素を供給して酸化雰囲気を形成していたが、これに限定されるものではなく、オゾン、ラジカル酸素、水蒸気等の酸化性ガスを用いるようにしても良い。すなわち、シリコンを酸化する酸化性ガスをチャンバー6内に供給して酸化雰囲気を形成するようにすれば良い。特に、オゾン等の酸化力の強い酸化性ガスを用いれば、より緻密かつシリコン基層との界面の欠陥が少ない良好な特性の薄い酸化膜を形成することができる。
【0094】
また、チャンバー6内を窒素雰囲気から酸素雰囲気に置換するときに、バルブ92を閉止してチャンバー6内に酸素ガスのみを供給するようにしても良いし、バルブ92も開放してチャンバー6内に酸素ガスと窒素ガスとの混合ガスを供給するようにしても良い。窒素雰囲気から酸化雰囲気への置換時に、酸素ガスに不活性ガスを混合してチャンバー6内に供給すれば、半導体ウェハーWの表面のヘイズレベルの悪化を抑制することにより、緻密かつシリコン基層との界面の欠陥が少ない良好な特性の薄い酸化膜を形成することができる。なお、酸素ガスに混合する不活性ガスは、窒素ガスに限らず、アルゴンガス(Ar)またはキセノンガス(Xe)であっても良い。
【0095】
また、フラッシュ光照射後にチャンバー6内を減圧する際に、チャンバー6内へ窒素ガスを供給しつつ排気部190がチャンバー6内の気体を排気することによってチャンバー6内を大気圧未満に減圧するようにしても良い。この場合、チャンバー6内への窒素ガスの供給流量よりも排気部190による排気流量の方が大きいのは勿論である。
【0096】
また、フラッシュ光照射後にチャンバー6内を減圧する際に、チャンバー6内へ供給するガスを窒素ガスに代えてアルゴンガスやキセノンガスなどの不活性ガスとしても良い。特に、フラッシュ光照射後にチャンバー6内への酸素ガスの供給を停止するとともにチャンバー6内にアルゴンガスやキセノンガスを供給した場合、半導体ウェハーW表面の酸素の外方拡散をコントロールして表層部の結晶性を高めることにより、緻密かつシリコン基層との界面の欠陥が少ない良好な特性の薄い酸化膜を形成することができる。
【0097】
さらに、フラッシュ光照射後にチャンバー6内を減圧する際に、チャンバー6内へ供給するガスを不活性ガスに代えて水素ガス(H)としても良い。フラッシュ光照射後にチャンバー6内への酸素ガスの供給を停止するとともにチャンバー6内に水素ガスを供給することにより、水素シンタリングを行い、より緻密かつシリコン基層との界面の欠陥が少ない良好な特性の薄い酸化膜を形成することができる。
【0098】
また、ハロゲンランプHLによる予備加熱を行う前にチャンバー6内を大気圧未満に減圧するようにしても良い。これにより、先行する処理の雰囲気の影響を排除することができる。
【0099】
また、ソース・ドレイン領域に不純物が注入された半導体ウェハーWに上記実施形態と同様の予備加熱処理およびフラッシュ加熱処理を行うことにより、半導体ウェハーWの表面に酸化膜を形成するのと同時に、半導体ウェハーWに注入された不純物の活性化を行うようにしても良い。このようにすれば、半導体ウェハーWに対する処理工程を削減することができる。ソース・ドレイン領域のシリコンが露出している場合には、当該領域にプロテクト酸化膜を形成しつつ不純物の活性化を行うこともできる。
【0100】
また、上記実施形態においては、単結晶シリコンの半導体ウェハーWに酸化膜を形成していたが、多結晶のポリシリコンに酸化膜を形成するようにしても良い。この場合にも、上記実施形態と同様の熱処理方法によってポリシリコンに酸化膜を形成する。ポリシリコンには単結晶シリコンに比較して多量の結晶粒界が存在するため、一般的にはポリシリコンの酸化速度は単結晶シリコンよりも大きく、ポリシリコンの酸化膜は厚くなりやすい。しかし、本発明に係る熱処理方法によってポリシリコンに酸化膜を形成すれば、照射時間の極めて短いフラッシュ光の照射によって酸化膜を形成しているため、酸化速度の大きなポリシリコンであっても精密な膜厚制御が可能となる。
【0101】
また、上記実施形態においては、シリコンの半導体ウェハーWに酸化膜を形成していたが、これに限定されるものではなく、ゲルマニウム(Ge)に酸化膜を形成するようにしても良い。この場合にも、上記実施形態と同様の熱処理方法により、ゲルマニウムに極めて薄い膜厚の酸化膜(GeO)を形成することができる。
【0102】
また、上記実施形態においては、フラッシュ加熱部5に30本のフラッシュランプFLを備えるようにしていたが、これに限定されるものではなく、フラッシュランプFLの本数は任意の数とすることができる。また、フラッシュランプFLはキセノンフラッシュランプに限定されるものではなく、クリプトンフラッシュランプであっても良い。また、ハロゲン加熱部4に備えるハロゲンランプHLの本数も40本に限定されるものではなく、任意の数とすることができる。
【0103】
また、上記実施形態においては、1秒以上連続して発光する連続点灯ランプとしてフィラメント方式のハロゲンランプHLを用いて半導体ウェハーWの予備加熱を行っていたが、これに限定されるものではなく、ハロゲンランプHLに代えて放電型のアークランプ(例えば、キセノンアークランプ)を連続点灯ランプとして用いて予備加熱を行うようにしても良い。
【符号の説明】
【0104】
1 熱処理装置
3 制御部
4 ハロゲン加熱部
5 フラッシュ加熱部
6 チャンバー
7 保持部
10 移載機構
65 熱処理空間
74 サセプタ
75 保持プレート
77 基板支持ピン
83 供給配管
90 ガス供給部
93 酸素供給源
94 窒素供給源
99 酸素濃度計
190 排気部
FL フラッシュランプ
HL ハロゲンランプ
W 半導体ウェハー
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
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図9
図10
図11