(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-05-11
(45)【発行日】2023-05-19
(54)【発明の名称】新規バイオセンシング法
(51)【国際特許分類】
G01N 27/416 20060101AFI20230512BHJP
G01N 27/327 20060101ALI20230512BHJP
G01N 33/66 20060101ALI20230512BHJP
【FI】
G01N27/416 386G
G01N27/327 353Z
G01N33/66 A
(21)【出願番号】P 2019094945
(22)【出願日】2019-05-21
【審査請求日】2022-02-01
(31)【優先権主張番号】P 2018097997
(32)【優先日】2018-05-22
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000141897
【氏名又は名称】アークレイ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002860
【氏名又は名称】弁理士法人秀和特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】早出 広司
(72)【発明者】
【氏名】イ インヨン
(72)【発明者】
【氏名】津川 若子
【審査官】黒田 浩一
(56)【参考文献】
【文献】特表2008-519973(JP,A)
【文献】国際公開第2014/002999(WO,A1)
【文献】国際公開第2008/035748(WO,A1)
【文献】特開2008-128803(JP,A)
【文献】特開2014-038086(JP,A)
【文献】米国特許第06251260(US,B1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01N 27/26-27/49
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
酸化還元酵素
が電極表面に固定化された酵素電極と、前記酵素電極と対をなす対電極と、を備えたバイオセンサに、測定対象物質を含む試料を接触させる工程、
前記酸化還元酵素による前記測定対象物質の酸化反応によって起こる前記酵素電極と前記対電極間の電位差変化を測定する工程、
該電位差変化に基づいて測定対象物質濃度を算出する工程を含む、測定対象物質の定量方法であって、
前記の電位差変化測定工程の前に、前記酵素電極と前記対電極間に電位を印加することを特徴と
し、前記酸化還元酵素は、電極との間で直接電子授受を行うことができる酸化還元酵素または電子受容体を化学的に結合した酸化還元酵素である、方法。
【請求項2】
前記酵素電極と前記対電極間の電位差変化は、前記酵素電極と前記対電極間に印加された電位の値からの変化である、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
対電極として銀/塩化銀電極を用い、前記酵素電極と前記対電極間に印加される電位が、
当該銀/塩化銀電極を基準として-100mV以上である、請求項1または2に記載の方法。
【請求項4】
前記酵素電極と前記対電極間への電位の印加時間は0.1秒以上である、請求項1~3のいずれか一項に記載の方法。
【請求項5】
前記酸化還元酵素が電子伝達サブユニットまたは電子伝達ドメインを有する酸化還元酵素である、請求項
4に記載の方法。
【請求項6】
前記電子伝達サブユニットまたは電子伝達ドメインがヘムを含む、請求項
5に記載の方法。
【請求項7】
前記バイオセンサに前記試料を接触させ、次いで、前記酵素電極と前記対電極間に電位を印加した後、前記酵素電極と前記対電極間の電位差変化を測定する、請求項1~
6のいずれか一項に記載の方法。
【請求項8】
前記酵素電極と前記対電極間に電位を印加した後、前記酵素電極と前記対電極間の電位差変化を測定する、というサイクルを繰り返す、請求項1~
7のいずれか一項に記載の方法。
【請求項9】
前記物質がグルコースであり、前記酸化還元酵素がグルコースデヒドロゲナーゼである、請求項1~
8のいずれか一項に記載の方法。
【請求項10】
前記試料が生体試料である、請求項1~
9のいずれか一項に記載の方法。
【請求項11】
生体試料が血液または尿である、請求項
10に記載の方法。
【請求項12】
酸化還元酵素
が電極表面に固定化された酵素電極と、前記酵素電極と対をなす対電極と、を備えたバイオセンサと、
前記バイオセンサの酵素電極への電位印加を制御する、制御部と、
前記バイオセンサの前記酵素電極と前記対電極間の電位差変化を計測する、測定部と、
前記電位差変化から測定対象物質の濃度を算出する、演算部と、
前記算出された測定対象物質の濃度を出力する出力部と、を含
み、前記酸化還元酵素は、電極との間で直接電子授受を行うことができる酸化還元酵素または電子受容体を化学的に結合した酸化還元酵素である、物質の測定装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は電気化学式酵素電極を利用した新規バイオセンシング法に関する。
【背景技術】
【0002】
非特許文献1では、アノードにグルコースデヒドロゲナーゼ(GDH)を用いたバイオ燃料電池の構成が開示されており、電極上に化学的に架橋された酵素が電解質溶液中の基質と反応することで、アノード-カソード間の電位が基質であるグルコース濃度に依存して上昇するため、2電極間の電位のモニタリングによりグルコース濃度測定ができることが開示されている。
【0003】
非特許文献2においては、酵素と導電性ポリマーを組み合わせた酵素電極が開示され、酵素が基質としての尿素と反応することで導電性ポリマーの電子状態が変化し、電極間電位として検出できるため、基質濃度が計測可能であることを示している。
【0004】
非特許文献3においては、グルコース酸化酵素と多孔性炭素からなる電極を用いて、過酸化水素の発生による電極間の開回路電位(OCP)の変化を利用した埋め込み型のセンサが開示されている。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0005】
【文献】Kakehi etal. Biosensors and Bioelectronics 22 (2007) 2250-55
【文献】B. Lakard et al Biosensors and Bioelectronics 26 (2011) 4139-4145
【文献】Y. Song et al. Anal Bioanal Chem. 2017 409 (1) 161-168
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
非特許文献1において、アノードにおけるグルコース濃度に対する開回路電位(OCP)の変化は電位の上昇として観測されるが、成り行きの電位の状態に依存しているため、センサーシグナルとしては、応答時間がバラついており、また、電極のキャパシティーの限界に近い高濃度では飽和に達しており、分解能がない。
【0007】
非特許文献2においては、酵素反応によって生じた電子が導電性ポリマーに受け渡しされることをシグナル変化として見ているため、原理上、酵素反応以外の要因で導電性ポリマーの状態変化(膨潤などの物理的変化を含む)があった場合にノイズとなる可能性がある。また、導電性ポリマーのコーティングの均一性がセンサ性能を左右することが予想される。さらに、センサとしての連続使用においては酵素固定化膜の安定性に問題がある。
【0008】
非特許文献3においては、酸素を酵素の電子受容体とするいわゆる第1世代のグルコースセンサの原理が開示されており、酵素反応により発生する過酸化水素が電位変化を引き起こす分子として機能している。しかし、過酸化水素はその不安定さと酸化能によってセンサ表面材料への不可逆的な影響が懸念される。
【0009】
したがって、本発明は、精度良く安定的に、長時間にわたって物質を定量的に測定できる方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記課題を解決するために、本発明者らは鋭意検討を行った結果、酸化還元酵素を固定化した酵素電極および対極を含むセンサに基質(測定対象物質)を含む試料を反応させ、当該酵素電極と対電極間に一定の電位を一定期間印加した後に、当該酵素電極と対電極間の電位差(OCP)を測定することで、再現性良く、安定的に基質濃度を測定できることを見出し、本発明を完成させた。
【0011】
本発明の要旨は以下のとおりである。
[1]電極上に配置された酸化還元酵素を含む酵素電極と、前記酵素電極と対をなす対電極と、を備えたバイオセンサに、測定対象物質を含む試料を接触させる工程、
前記酸化還元酵素による前記測定対象物質の酸化反応によって起こる前記酵素電極と前記対電極間の電位差変化を測定する工程、
該電位差変化に基づいて測定対象物質濃度を算出する工程を含む、測定対象物質の定量方法であって、
前記の電位差変化測定工程の前に、前記酵素電極と前記対電極間に電位(電圧)を印加することを特徴とする方法。
[2]前記酵素電極と前記対電極間の電位差変化は、前記酵素電極と前記対電極間に印加された電位の値からの変化である、[1]に記載の方法。
[3]前記酵素電極と前記対電極間に印加される電位が、銀/塩化銀電極を基準として-100mV以上である、[1]または[2]に記載の方法。
[4]前記前記酵素電極と前記対電極間への電位の印加時間は0.1秒以上である、[1]~[3]のいずれかに記載の方法。
[5]前記酸化還元酵素が電極との間で直接電子授受を行うことができる酸化還元酵素である、[1]~[4]のいずれかに記載の方法。
[6]前記酸化還元酵素が電子伝達サブユニットまたは電子伝達ドメインを有する酸化還元酵素である、[5]に記載の方法。
[7]前記電子伝達サブユニットまたは電子伝達ドメインがヘムを含む、[6]に記載の方法。
[8]前記バイオセンサに前記試料を接触させ、次いで、前記酵素電極と前記対電極間に電位を印加した後、前記酵素電極と前記対電極間の電位差変化を測定する、[1]~[7]のいずれかに記載の方法。
[9]前記酵素電極と前記対電極間に電位を印加した後、前記酵素電極と前記対電極間の電位差変化を測定する、というサイクルを繰り返す、[1]~[8]のいずれかに記載の方法。
[10]前記物質がグルコースであり、前記酸化還元酵素がグルコースデヒドロゲナーゼである、[1]~[9]のいずれかに記載の方法。
[11]前記試料が生体試料である、[1]~[10]のいずれかに記載の方法。
[12]生体試料が血液または尿である、[11]に記載の方法。
[13]電極上に配置された酸化還元酵素を含む酵素電極と、前記酵素電極と対をなす対電極と、を備えたバイオセンサと、
前記バイオセンサの前記酵素電極と前記対電極間への電位(電圧)印加を制御する、制御部と、
前記バイオセンサの前記酵素電極と前記対電極間の電位差変化を計測する、測定部と、
前記電位差変化から測定対象物質の濃度を算出する、演算部と、
前記算出された測定対象物質の濃度を出力する出力部と、を含む、物質の測定装置。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、酸化還元酵素を含む電極を用い、当該電極と対電極間の電位差(OCP)を測定することで、系中の基質濃度を反映した酵素の電子状態の変化を捉えることが可能となる。
本発明の方法では、導電性ポリマーや電子受容体を用いて間接的に電流値をモニターする
のではなく、直接的に酵素の電子状態を電位差によってモニターするため、外的要因によるノイズ影響を受けにくい。さらには、先行文献に開示されたような、単純に2電極間の自然電位を継続的にモニタリングする方法とは異なり、グルコース濃度測定の直前に一定時間電位を印加して酵素の還元状態を酸化状態に戻す作業をすることで、常に同じ原点のOCPから計測を開始することができ、分解能の低下を防ぐことができ、より正確な測定を可能となる。
本発明の方法では、従来法のような定電圧印加下での測定とは異なり、連続測定や繰り返し測定においても一定電圧をかけ続ける必要がないため、酵素のターンオーバーを抑えることができ、電極上の酵素としては非常にマイルドな環境でモニタリングが可能であるため、安定性の高い測定が可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【
図1】バイオセンサの製造方法の一例を示す工程図であり、(a)~(d)は、各工程でのバイオセンサの模式図を示す。
【
図2】本発明の測定装置の一態様を示す模式図である。
【
図3】本発明の測定装置を用いた測定プログラムの一態様を示すフローチャート図である。
【
図4】酵素固定化電極(上)とBSA固定化電極(下)によるOCP計測結果を示すグラフ。
【
図5】OCP測定におけるグルコース濃度依存性評価を示すグラフ(固定化されたGDHの量が異なる電極をそれぞれ用いて測定を行った。)
【
図6】種々の固定化法で作製された酵素電極(それぞれn=3)を用いてグルコース濃度依存性を評価した結果を示すグラフ。
【
図7】グラッシーカーボン電極表面に結合させたGDH(上:非直接電子移動型、下:直接電子移動型)によるOCP計測結果を示すグラフ。
【
図8】+100mVの酸化電位の印加時間とOCPのグルコース応答速度の関係を調べた結果を示すグラフ(グルコース濃度1,5,10,20mMで測定した)。
【
図9】+100mVの酸化電位印加の有無でのOCPのグルコース応答の違い(上:放電なし、下:放電1sec)を調べた結果を示すグラフ。
【
図10】酵素固定化電極を用い、20mMグルコース溶液中で酸化電位(+100mV)を印加しながら5日間のOCP連続測定を行った結果を示すグラフ(0~20h、20~42h、42~66hに分けて示した)。
【
図11】酵素固定化電極を用いたOCP連続測定において、酸化電位印加を中断したときの測定結果を示すグラフ。酸化電位印加中断のタイミングを矢印で示す。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明の一実施形態としての物質の定量方法および物質の測定装置について図面等を参照しながら説明する。以下に挙げる実施形態はそれぞれ例示であり、本発明は以下の実施形態の構成に限定されない。
【0015】
本発明の測定対象物質の定量方法は、
電極上に配置された酸化還元酵素を含む酵素電極と、前記酵素電極と対をなす対電極と、を備えたバイオセンサに、測定対象物質を含む試料を接触させる工程、
前記酸化還元酵素による前記測定対象物質の酸化反応によって起こる前記酵素電極と前記対電極間の電位差変化を測定する工程、
該電位差変化に基づいて測定対象物質濃度を算出する工程を含み、
前記の電位差変化測定工程の前に、前記酵素電極と前記対電極間に電位を印加することを特徴とする。
【0016】
測定対象物質としては、酸化還元酵素の基質となりうる物質であればよく、例えば、グルコース、フルクトース、ソルビトール、コレステロール、セロビオース、エタノール、乳
酸、尿酸などが例示されるが、これらには限定されない。
試料は測定対象物質を含む試料であれば特に制限されないが、生体試料が好ましく、血液、尿などが挙げられる。
【0017】
(バイオセンサ)
本発明の方法で使用されるバイオセンサは、電極上に配置された酸化還元酵素を含む酵素電極(作用極)と、前記酵素電極と対をなす対電極と、を備える。酵素電極に対し、対電極に対して一定の電位を印加し、さらに、酵素電極における電位差変化を測定するため、酵素電極と対電極に加えて参照電極を備えることが好ましい。ただし、対電極に銀/塩化銀電極やカロメル電極を使用し、これを参照電極としても機能させてもよい。
対電極としては、バイオセンサの対極として一般的に使用できるものであればよいが、例えば、スクリーン印刷により製膜したカーボン電極や、物理蒸着(PVD,例えばスパッタリング)、或いは化学蒸着(CVD)によって成膜した金属電極や、スクリーン印刷により製膜した銀/塩化銀電極を用いることができる。また、参照電極については、銀/塩化銀電極、カロメル電極などを使用することができる。
【0018】
(酵素電極)
酵素電極は、電極上に配置された酸化還元酵素を含む。
電極は、例えば、金(Au)、白金(Pt)、銀(Ag)及びパラジウム(Pd)のような金属材料、或いはグラファイト、カーボンナノチューブ、グラフェン、メソポーラスカーボンなどのカーボンに代表される炭素材料を用いて形成される。電極は、ポリエーテルイミド(PEI)、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリエチレン(PE)のような熱可塑性樹脂、ポリイミド樹脂、エポキシ樹脂のような各種の樹脂(プラスチック)、ガラス、セラミック、紙などの絶縁性材料で形成される絶縁性基板上に設けられてもよい。
【0019】
(酸化還元酵素)
本発明に適応可能な酸化還元酵素としては、測定対象物質の種類に応じて選択すればよいが、例えば、グルコースオキシダーゼ(GOD)、ガラクトースオキシダーゼ、ビリルビンオキシダーゼ、ピルビン酸オキシダーゼ、D-又はL-アミノ酸オキシダーゼ、アミンオキシダーゼ、コレステロールオキシダーゼ、コリンオキシダーゼ、キサンチンオキシダーゼ、サルコシンオキシダーゼ、L-乳酸オキシダーゼ、アスコルビン酸オキシダーゼ、アルコールデヒドロゲナーゼ、グルタミン酸デヒドロゲナーゼ、コレステロールデヒドロゲナーゼ、アルデヒドデヒドロゲナーゼ、グルコースデヒドロゲナーゼ(GDH)、フルクトースデヒドロゲナーゼ、ソルビトールデヒドロゲナーゼ、乳酸デヒドロゲナーゼ、リンゴ酸デヒドロゲナーゼ、グリセロールデヒドロゲナーゼ、17Bヒドロキシステロイドデヒドロゲナーゼ、エストラジオール17Bデヒドロゲナーゼ、アミノ酸デヒドロゲナーゼ、グリセルアルデヒド3-リン酸デヒドロゲナーゼ、3-ヒドロキシステロイドデヒドロゲナーゼ、ジアホラーゼ、シトクロムオキシドレダクターゼ、カタラーゼ、ペルオキシダーゼ、グルタチオンレダクターゼ等が挙げられる。中でも、糖類の酸化還元酵素であることが好ましく、糖類の酸化還元酵素の例としては、例えば、グルコースオキシダーゼ(GOD)、ガラクトースオキシダーゼ、グルコースデヒドロゲナーゼ(GDH)、フルクトースデヒドロゲナーゼ、ソルビトールデヒドロゲナーゼを挙げることができる。したがって、本発明のバイオセンサは、酵素の種類に応じて、グルコースセンサ、コレステロールセンサ、エタノールセンサ、ソルビトールセンサ、フルクトースセンサ、セロビオースセンサ、乳酸センサ、尿酸センサなどとして使用できる。
【0020】
これらの中では、電極との間で直接電子授受を行うことができる酸化還元酵素、すなわち、酵素反応により生じた電子を、電子受容体のような酸化還元物質によることなく、直接、電極に伝達することができる酸化還元酵素(直接電子移動型酸化還元酵素ともよぶ)を使用することが好ましい。電極との間で直接電子授受を行うことができる酸化還元酵素と
しては、電極との電子授受に関わる酸化還元分子を生理的に含む酸化還元酵素が挙げられ、例えば、当該酸化還元分子として電子伝達サブユニット若しくは電子伝達ドメインを含む酸化還元酵素を用いることができる。電子伝達サブユニットとしては、例えば、ヘムを含有するサブユニット挙げられ、電子伝達ドメインとしてはヘムを含有するドメインが挙げられる。このヘムを含有するサブユニット又はドメインとしては、ヘムCあるいはヘムbを含むサブユニットやドメインが挙げられ、より具体的には、シトクロムCあるいはシトクロムbなどのシトクロムを含むサブユニットやドメインが挙げられる。
電子伝達サブユニットとして、シトクロムを含むサブユニットを含む酵素としては、例えば、グルコースデヒドロゲナーゼ(GDH)、ソルビトールデヒドロゲナーゼ(Sorbitol DH)、D-フルクトースデヒドロゲナーゼ(Fructose DH)、D-グルコシド-3-デヒドロゲナーゼ(Glucoside-3-Dehydrogenase)、セロビオースデヒドロゲナーゼ、乳酸デヒドロゲナーゼ、尿酸オキシダーゼなどが挙げられる。
【0021】
シトクロムを含むグルコースデヒドロゲナーゼとしてより具体的には、FADを含んだ触媒サブユニット(αサブユニット)及びシトクロムサブユニット(βサブニット)を持つシトクロムグルコースデヒドロゲナーゼ(FADGDH)が挙げられ、FADGDHはさらに調節サブユニット(γサブユニット)を有することが好ましい(FADGDHγαβ)。FADGDHとしては、Burkholderia cepacia由来FAD依存グルコース脱水素またはその変異体が挙げられる。Burkholderia cepacia由来FADGDHの変異体としては、472位及び475位のアミノ酸残基が置換されたαサブユニット変異体(WO 2005/103248)、326位、365位および472位のアミノ酸残基が置換されたαサブユニット変異体(QYY:特開2012-090563)、365位と326、472、475、及び529位等が置換されたαサブユニット変異体(WO
2006/137283)などを含むFADGDH変異体が挙げられる。
【0022】
また、電子伝達ドメインを含む酵素としては、ヘムドメインやシトクロムドメインを含む酵素が例示され、具体的には、例えば、キノヘムエタノールデヒドロゲナーゼ(QHEDH (PQQ Ethanol dh)が挙げられる。さらに、電子伝達ドメインとしてシトクロムを含むドメインを含む酵素としては、例えば、"QHGDH" (fusion enzyme; GDH with heme domain of QHGDH))、セロビオースデヒドロゲナーゼが挙げられる。また、国際公開WO2005/030807号公報に開示されているPQQグルコースデヒドロゲナーゼ(PQQGDH)とシトクロムとの融合蛋白質も使用可能である。
【0023】
なお、直接電子移動型酸化還元酵素を用いる代わりに、導電性ポリマーやRedox ポリマーなどを用いて酸化還元酵素を電極との直接電子授受が可能な状態に電極上に配置してもよい。そのためには、電極の近傍に酸化還元酵素を配置させることが重要であり、生理学的反応系において直接電子授受が起こる限界距離は10~20Åといわれているので、酵素から電極への電子移動が損なわれないよう、これよりも電極に近い距離に酵素を配置することが重要である。
【0024】
また、電子受容体やナノ材料を酸化還元酵素に修飾する、あるいはこれらを電極材料に用いることで電極との電子授受を行うことができる酸化還元酵素を本発明に適応することも可能である。
ここで、電子受容体とは、酸化還元酵素から電子を受け取って還元され、電極で再酸化される、触媒作用のない化合物であればよいが、例えば、キノン化合物(例えば、1,4-Naphthoquinone、VK3、9,10-Phenanthrenequinone、1,2-Naphthoquinone、p-Xyloquinone、Methylbenzoquinone、2,6-Dimethylbenzoquinone、Sodium 1,2-Naphthoquinone-4-sulfonate、1,4-Anthraquinone、Tetramethylbenzoquinone、Thymoquinone)、フェニレンジアミン化合物(例えば、N, N-Dimethyl-1,4-phenylenediamine、N, N, N’, N’-tetramethyl-1, 4-phenylenediamine)、1-Methoxy-PMS(1-Methoxy-5-methylphenazinium methylsulfate)、PES(Phenazine ethosulfate)、Coenzyme Q0、AZURE A Chloride、Phenosafran
in、6-Aminoquinoxaline、Tetrathiafulvalene等が挙げられる。
酸化還元酵素を電子受容体で修飾するためには、電子受容体を酵素に化学的に結合させる方法が挙げられる。例えば、電子受容体にスクシンイミドなどの官能基を導入し、酵素のアミノ基と反応させて導入する方法が例示される。
またナノ材料においては、酵素の活性中心と直接電子授受できる距離まで配置することが可能な導電性材料であり、例えば、カーボンナノチューブ(Analytical Biochemistry,Volume 332, Issue 1, 1 September 2004, Pages 75-83)や金属ナノ粒子(Analytical BiochemistryVolume 331, Issue 1, 1 August 2004, Pages 89-97)などが例示されるが直接電子伝達が観測される材料であればこれに限るものではない。
【0025】
酸化還元酵素を電極表面に配置するための方法としては、特に制限されないが、例えば、酸化還元酵素を電極に化学的に固定化する方法、酸化還元酵素を導電性ポリマーや架橋剤などを用いて電極に間接的に固定化する方法(例えば、WO2014/002999または特開2016-121989など)、単分子膜形成分子を介して酵素を電極に固定する方法などが挙げられる。単分子膜形成分子を介して酵素を電極に固定する方法としては、特開2017-211383に開示されたような単分子膜形成分子(SAM)を介して酵素を電極に固定する方法が挙げられる。
【0026】
(酵素電極の作製方法)
酵素電極は、例えば、以下のようにして作製される。
まず、絶縁性基板の片面に、電極として機能する金属層を形成する。例えば、所定の厚さ(例えば100μm程度)のフィルム状の絶縁性基板の片面に、金属材料を物理蒸着(PVD,例えばスパッタリング)、或いは化学蒸着(CVD)によって成膜することによって、所望の厚さ(例えば30nm程度)を有する金属層が形成される。金属層の代わりに、炭素材料で形成された電極層を形成することもできる。
このようにして得られた電極層の表面に酵素を結合させる。
例えば、単分子膜形成分子を用いる場合、まず、電極上に単分子膜形成分子を結合させる。そして、単分子膜形成分子の反応性官能基と、酸化還元酵素のアミノ基またはカルボキシル基を反応させて、単分子膜形成分子を介して酸化還元酵素を電極上に固定化することができる。
なお、導電性ポリマーや架橋剤を利用して酵素を電極上に固定化する場合は、電極上に酵素と導電性ポリマーや架橋剤などの試薬を添加することにより、酵素電極を作製することができる。
【0027】
(バイオセンサの作製方法)
以下、本発明に使用可能なバイオセンサの一例について、
図1に基づいて説明する。
図1(a)~(d)は、バイオセンサを製造する一連の工程を示した斜視図である。なお、本発明に使用可能なバイオセンサは以下の態様には限定されず、体内埋め込み型のセンサでもよいし、バッチ式のセンサでもよい。
図1(d)に示すように、このバイオセンサAは、基板10、リード部11aを有する対極11と、リード部12aを有する作用極12とから構成された電極系(
図1(a))、絶縁層14、開口部を有するスペーサー15および貫通孔18を有するカバー16を備えている。
図1(b)に示すように、基板10上には、検出部13が設けられており、検出部13には、作用極12と対極11とが基板10の幅方向に並行して配置されている。また、作用極12と対極11との間は、絶縁部となっている。このような電極系を備えた基板10の上には、
図1(b)に示すように、リード部11a、12aおよび検出部13を除いて、絶縁層14が積層されており、絶縁層14が積層されていない前記検出部13の作用極12上には、酸化還元酵素が固定化されている。そして、絶縁層14の上には、
図1(c)に示すように、検出部13に対応する箇所が開口部になっているスペーサー15が配置されている。さらにスペーサー15の上には、前記開口部に対応する一部に貫通孔
18を有するカバー16が配置されている(
図1(d))。このバイオセンサにおいて、前記開口部の空間部分であり、かつ、前記作用極、対極および絶縁層14とカバー16とに挟まれた空間部分が、キャピラリーの検体供給部17となる。そして、前記貫通孔18が、検体を毛管現象により吸入するための空気孔となる。
【0028】
(物質の定量方法)
本発明の定量方法は、
バイオセンサに測定対象物質を含む試料を接触させる工程、
前記酸化還元酵素による前記測定対象物質の酸化反応によって起こる電極間の電位差変化を測定する工程、
該電位差変化に基づいて測定対象物質濃度を算出する工程を含む。
【0029】
バイオセンサに測定対象物質を含む試料を接触させる工程は、バイオセンサに試料を滴下する工程でもよいし、バイオセンサを試料に浸漬させる工程でもよい。また、体内埋め込み型センサの場合、センサを体内に埋め込んで血液などの試料と接触する状態に置く工程も含まれる。
【0030】
バイオセンサに測定対象物質を含む試料を接触させることで、酸化還元酵素により、物質の酸化反応が起こり、還元体の酵素が基質濃度に応じて増えていく。すなわち、当該酵素は電極近傍に固定化され、酵素の活性中心(厳密には電子伝達ユニット)が電極に近接しているので、それらが酸化体から還元体になることで電極の電荷分布が変化し表面電位が変わる。その時還元体になった酵素分子の数は測定対象物質の濃度に依存することから、基準電位からの電位変化分を対象物の濃度を表すパラメーターとして捉えることができる。
【0031】
そして、本発明においては、OCP測定の前に酵素電極に電位を所定時間印加する。
これにより、酵素電極の電子の状態をリセットすることができ、測定においては、酵素反応後のOCPの値を、電位印加によりリセットされた状態からの変化として計測できるため、より正確で、再現性の高い、安定した測定結果を得ることができる。すなわち、計測する電位差変化を、印加した電位からの変化値(OCP-印加電位)とすることができる。
【0032】
印加する電位は、センサに使用される酸化還元酵素の酸化還元電位より高い電位であればよく、例えば、グルコースデヒドロゲナーゼの場合、銀/塩化銀電極を基準として、-100mV以上、+10mV以上、または+100mV以上とすることができる。上限は特に制限されないが、例えば、銀/塩化銀電極を基準として、+10000mV、+5000mV、または+1000mVである。
【0033】
酵素電極に対する電位印加の時間は、酸化還元酵素における電子の状態をリセットできる時間であればよく、0.01秒以上、0.1秒以上、または1秒以上とすることができる。印加時間の上限は特にないが、例えば、20秒以下、または10秒以下である。
【0034】
電位印加のタイミングは、試料中の測定対象物質を測定する直前が好ましいが、連続測定の場合は、複数点のOCPを測定する都度事前に電位印加をすることができる。
【0035】
物質濃度測定のためのOCP測定のタイミングは、電位印加終了後、物質濃度に応じた電位差変化が安定し、一定値を示すようになるタイミングが好ましく、物質濃度のレンジにもよるが、例えば、電位印加終了時から10~20秒後またはそれ以降が好ましい。
【0036】
本発明の方法は、単回測定にも連続測定にも適用し得る。
単回測定の場合は、例えば、センサに試料を接触させ、電位印加後、OCP変化を測定すれ
ばよい。一方、連続測定の場合は、例えば、センサに試料を接触させたのち、電位印加、OCP変化測定のサイクルを所望のタイミングで繰り返し行えばよい。
【0037】
電位差変化に基づいて測定対象物質濃度を算出する工程は、例えば、そのセンサについて、電位差変化の値と物質濃度の関係を予め求めて検量線を作成しておき、該検量線に測定値を当てはめることにより物質濃度を求めることができる。
【0038】
(装置)
次に、図面を用いて、本発明の測定装置について説明する。ここでは、グルコース測定装置の一態様について例示したが、本発明の測定装置は以下の態様には限定されない。
図2は、測定装置B内に収容された主な電子部品の構成例を示す。制御コンピュータ28、ポテンショスタット24、電位差計29、電力供給装置21が、筐体内に収容された基板30上に設けられている。
制御コンピュータ28は、ハードウェア的には、CPU(中央演算処理装置)のようなプロセッサと、メモリ(RAM(Random Access Memory)、ROM(Read Only Memory))のような記録媒体と、通信ユニットを含んでおり、プロセッサが記録媒体(例えばROM)に記憶されたプログラムをRAMにロードして実行することによって、出力部20、制御部22、演算部23、測定部(ポテンショスタット24および電位差計29)を備えた装置として機能する。なお、制御コンピュータ28は、半導体メモリ(EEPROM,フラッシュメモリ)やハードディスクのような、補助記憶装置を含んでいても良い。
【0039】
制御部22は、電位印加のタイミング、印加電位値などを制御する。
電力供給装置21は、バッテリ26を有しており、制御部コンピュータ28やポテンショスタット24に動作用の電力を供給する。なお、電力供給装置21は、筐体の外部に置くこともできる。
ポテンショスタット24は、作用極の電位を参照電極に対して一定にする装置であり、制御部22によって制御され、端子CR,Wを用いて、グルコースセンサ27の対極と作用極との間に所定の電位を印加する。
【0040】
電位差計29は、電位印加から一定時間経過後の電極間の電位差変化(OCP)を計測する。
演算部23は計測されたOCPから測定対象物質の濃度の演算を行い、記憶する。出力部20は、表示部ユニット25との間でデータ通信を行い、演算部23による測定対象物質の濃度の演算結果を表示部ユニット25に送信する。表示部ユニット25は、例えば、測定装置Bから受信されたグルコース濃度の演算結果を所定のフォーマットで表示画面に表示することができる。
【0041】
図3は、制御コンピュータ28によるグルコース濃度測定処理の例を示すフローチャートである。
【0042】
制御コンピュータ28のCPU(制御部22)は、グルコース濃度測定の開始指示を受け付けると、制御部22は、ポテンショスタット24を制御して、作用極への所定の電位を印加し、測定を開始する。例えば、参照極に対して+100 mV を10秒間作用極に電位を印加する(ステップS01)。
【0043】
そして、制御部22は、ポテンショスタット24を制御して、作用極を開回路の状態に切り替え、電位差計29は、作用極11と対極12の間の電位差を所定時間(例えば5 分間)測定する(ステップS02)。そして、電位差の測定結果を、例えば、1秒に1回演算部23へ送る。
演算部23は、例えば、次の電位の印加直前の10秒間において、1秒に1回、合計10回のOC
Pの平均値を算出し(ステップS03)、電位差の変化値に基づいて演算処理を行い、グルコース濃度を算出する(ステップS04)。
例えば、制御コンピュータ28の演算部23は、電極上に配置されたグルコースデヒドロゲナーゼに対応する、電位差変化値とグルコース濃度の検量線データを予め保持しており、これらの計算式または検量線を用いてグルコース濃度を算出する。
【0044】
出力部20は、グルコース濃度の算出結果を、表示部ユニット25との間に形成された通信リンクを通じて表示部ユニット25へ送信し、グルコース濃度を表示する(ステップS05、S06)。
複数回測定または連続測定の場合は、グルコース濃度表示後、制御部22は、ポテンショスタット24を制御して、作用極へ電位を印加し、再び測定を開始する。
【実施例】
【0045】
次に、実施例を挙げて本発明をさらに具体的に説明するが、本発明はこれら実施例に何ら限定されるものではない。
【0046】
[実施例1]
センサ作製
1. Au電極(表面積7mm2)にメソポーラスカーボン分散液(製品名CNovel P(4)050, 1%濃度を10μl)を塗布
2.Burkholderia cepacia グルコースデヒドロゲナーゼ(FADGDHγαβ)(αサブユニットにQYY変異を有する)水溶液(0.013 mg/mlを7μl)を塗布して乾燥(コントロールにはBSA水溶液(0.0128mg/mlを7μl)を塗布)
3. 25%グルタルアルデヒド(GA)蒸気で1時間処理することにより、電極上にFADGDHγαβを架橋
【0047】
表面電位測定
上記で作成した酵素電極と、対電極及び参照電極(いずれもAg/AgCl)を組み合わせてバイオセンサとし、酵素電極に+100mV(vs Ag/AgCl)の電位を印加した(10秒を3回)のち、所定濃度(0.1, 1, 3, 5, 10, 15, 20mM)のグルコース溶液(100mMPPB pH7.0、37℃)に浸漬して酵素反応を生じさせ、開回路電位を測定するというステップを繰り返した。
【0048】
コントロールとして、BSA電極と対電極及び参照電極(いずれもAg/AgCl)を含むバイオセンサを用い、BSA電極に+100mVの電位を印加した(10秒を1回)のち、同条件のグルコース溶液に浸漬させて酵素反応を生じさせ、開回路電位を測定するというステップを繰り返した。
【0049】
結果を
図4に示す。
BSA電極を有する非酵素センサでは基質(グルコース)を添加してもOCPの変化がなかったが、GDH電極を有する酵素センサでは短時間で外部電位を印加したのちに、酵素反応を起こさせると、グルコース濃度に応じた電位(OCP)に復帰していることが分かった。
【0050】
次に、FADGDHγαβの固定化量を変えたGDH電極を含むバイオセンサを用い、GDH電極に+100mV(vs Ag/AgCl)の電位を印加した(10秒を1回)のち、グルコースを添加して酵素反応を生じさせ、開回路電位を測定するというステップを、グルコース濃度を変えて繰り返し、OCPとグルコース濃度の関係を調べた。
【0051】
結果を
図5に示す。
GDH電極を有する酵素センサに外部電位を印加したのちに、酵素反応をさせて計測されるOCPの値はグルコース濃度に依存することが分かった。
【0052】
[実施例2]
2-1.GDH-SAMセンサ作製
1. Au電極表面(表面積7mm
2)を一晩ピランハ処理したのち、アセトンで洗浄
2.10μM DSH溶液に電極を一晩浸漬し、DSH修飾を行う
【化1】
3. グルコースデヒドロゲナーゼ溶液(26.3 mg/ml FADGDHγαβ/100 mM PPB (pH 7.0))に一晩浸漬し、GDHをSAMを介して電極上に固定化
【0053】
2-2.GDH-MWCNTセンサ作製
1. Au電極(表面積7mm2)に多層カーボンナノチューブ(MWCNT)分散液(製品名 名城ナノカーボン MWNT INK (MW-I) 濃度2%を2μl)を塗布
2.Burkholderia cepacia グルコースデヒドロゲナーゼ(FADGDHγαβ)水溶液(0.013 mg/mlを7μl)を塗布乾燥(コントロールにはBSA溶液を塗布)
3. 25%グルタルアルデヒド(GA)蒸気で1時間処理することにより、電極上にGDHを架橋
【0054】
2-3.電位測定
上記で作製した酵素電極(実施例1のGDH-メソポーラスカーボン(MesoPC)、実施例2-1のGDH-SAMおよび実施例2-2のGDH-MWCNT)それぞれと、対電極及び参照電極(いずれもAg/AgCl)を組み合わせてバイオセンサとし、酵素電極に+100mV(vs Ag/AgCl)の電位を印加した(10秒を1回)のち、種々の濃度のグルコースを添加して酵素反応を生じさせ、開回路電位を測定した。
【0055】
それぞれの電極について、グルコース濃度とOCP値の関係をプロットした。
結果を
図6に示す。いずれの電極でもOCPのグルコース濃度依存性は確認できた。
【0056】
[実施例3]
GDH-GCセンサ作製
1. グラッシーカーボン(GC)電極表面を研磨し洗浄
2. グルコースデヒドロゲナーゼ溶液(26.3 mg/ml FADGDHγαβ/100 mM PPB (pH 7.0))に一晩浸漬し、GDHを電極上に固定化(コントロールはCyを含まない非直接電子伝達型GDHを使用)
3. 25%グルタルアルデヒド(GA)蒸気で1時間処理することにより、電極上にGDHを架橋
【0057】
表面電位測定
上記で作製した酵素電極と、対電極及び参照電極(いずれもAg/AgCl)を組み合わせてバイオセンサとし、酵素電極に+100mV(vs Ag/AgCl)の電位を印加した(10秒を1回)のち、所定濃度のグルコースを添加して酵素反応を生じさせ、開回路電位を測定するというステップを繰り返した。
【0058】
コントロールとして、非直接電子伝達型GDHを固定化した酵素電極と対電極及び参照電極
を含むバイオセンサを用い、該電極に+100mVの電位を印加した(10秒を1回)のち、所定濃度のグルコースを添加して酵素反応を生じさせ、開回路電位を測定するというステップを繰り返した。
【0059】
結果を
図7に示す。
その結果、同じFAD-GDHでも直接電子移動型でないものはグルコース添加に伴うOCP変化がない(
図7上)ことから、本発明によるグルコース応答(
図7下)は酵素がグルコースを酸化して還元体となった際の電子伝達ユニットの状態変化に依存していると考えられた。
【0060】
[実施例4]
4-1.OCPの応答時間の測定
実施例1で作製したFADGDHγαβを含むセンサを用い、電位(+100mV vs Ag/AgCl)の印加時間を変えて測定を行い、各グルコース濃度における応答時間(OCPがグルコース濃度に応じた一定値を示すまでにかかる時間)を調べた。
【0061】
結果を
図8に示す。
低濃度グルコースに対してはOCPの応答時間が長いが、応答時間は電位印加時間が短いほど短く、電位印加時間でOCPの応答時間を調節できることがわかった。
【0062】
4-2.電位印加の有無での測定結果の比較
実施例1で作製したFADGDHγαβを含むセンサを用い、電位(+100mV vs Ag/AgCl)を印加(1秒)したのち、または電位非印加で、所定濃度のグルコースを添加して酵素反応を生じさせ、開回路電位を測定した(それぞれ3回)。
【0063】
結果を
図9に示す。
その結果、電位印加を行わない場合は、測定ロット間のばらつきが大きく、電位印加により放電させることで有意にセンサ間差が軽減され、より正確にグルコース測定が可能となることが示唆された。
【0064】
また、電位印加時間およびグルコース濃度を変えて同様の実験を行ったところ、表1に3回の測定結果の標準偏差を示すように、0.1~10秒の電位印加により、電位を印加しない場合と比べて電位変化量のばらつきが抑えられることが確認できた。
【0065】
【0066】
[実施例5]
グルコース連続測定
実施例2-1で作製したFADGDHγαβを含むセンサを20 mMグルコース溶液(100 mM PPB (pH7.0))に浸漬し、37℃で、250rpmで撹拌しながら、下記のプログラムでOCPの連続測定
を行った。
1. +100mV (vs Ag/AgCl) 10sec
2. OCP測定5min(1sec毎にサンプリング)
3. 上記繰り返す
【0067】
結果を
図10に示す。
この結果より、一般的なアンペロメトリー法ではシグナル減衰が見られるような長時間測定においても、電位を印加してOCPを測定する本発明の方法では安定した一定のシグナルが得られることがわかった。
なお、連続測定途中で酸化電位の印加をやめるとグルコース濃度が同じであっても、OCPが増加していく傾向が見られ、正確な測定には電位印加が必要であることがわかった(
図11)。
【符号の説明】
【0068】
A・・・バイオセンサ
10・・・基板
11・・・対極
11a・・・リード部
12・・・作用極
12a・・・リード部
13・・・検出部
14・・・絶縁層
15・・・スペーサー
16・・・カバー
17・・・検体供給部
18・・・空気孔
B・・・測定装置
20・・・出力部
21・・・電力供給装置
22・・・制御部
23・・・演算部
24・・・ポテンショスタット
25・・・表示部ユニット
26・・・バッテリ
27・・・グルコースセンサ
28・・・制御コンピュータ
29・・・電位差計
30・・・基板
CR、W・・・端子