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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-05-11
(45)【発行日】2023-05-19
(54)【発明の名称】電動機駆動装置及び状態検出方法
(51)【国際特許分類】
   H02M 7/48 20070101AFI20230512BHJP
   H02P 25/16 20060101ALI20230512BHJP
【FI】
H02M7/48 M
H02P25/16
【請求項の数】 11
(21)【出願番号】P 2020041362
(22)【出願日】2020-03-10
(65)【公開番号】P2021145424
(43)【公開日】2021-09-24
【審査請求日】2022-01-17
(73)【特許権者】
【識別番号】501137636
【氏名又は名称】東芝三菱電機産業システム株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100106909
【弁理士】
【氏名又は名称】棚井 澄雄
(74)【代理人】
【識別番号】100154852
【弁理士】
【氏名又は名称】酒井 太一
(74)【代理人】
【識別番号】100135301
【弁理士】
【氏名又は名称】梶井 良訓
(72)【発明者】
【氏名】青木 淳一
【審査官】町田 舞
(56)【参考文献】
【文献】特開平10-313591(JP,A)
【文献】特開2010-041821(JP,A)
【文献】特開2014-236664(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H02M 1/00-7/98
H02P 21/00-25/03
H02P 25/04
H02P 25/10-27/18
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
互いに独立している複数の単相巻線を備える交流電動機の各単相巻線に電流を流す複数の単相インバータに指令を送る駆動量指令部と、
前記複数の単相巻線の内の第1単相巻線に流れる第1電流の測定値を所定の間隔で積算して第1積算値を生成し、前記複数の単相巻線の内の第2単相巻線に流れる第2電流の測定値を前記所定の間隔で積算して第2積算値を生成する積算部と、
前記第1積算値と前記第2積算値とに基づいて前記複数の単相インバータの状態を判定する判定部と、
を備え、
前記積算部は、
前記第1積算値と前記第2積算値の積算期間を一定にして、前記積算期間の移動平均によって前記第1積算値と前記第2積算値として算出する、
電動機駆動装置。
【請求項2】
前記判定部は、
前記第1積算値が前記第2積算値に対して予め定められた閾値よりも小さい場合に、前記第1単相巻線の系統に異常があると判定する、
請求項1に記載の電動機駆動装置。
【請求項3】
前記積算部は、
前記第1積算値と前記第2積算値の積算を、共通の所定期間に亘り継続する、
請求項1又は請求項2に記載の電動機駆動装置。
【請求項4】
前記積算部は、
前記第1積算値と前記第2積算値を、前記交流電動機の運転停止の指令に応じて初期化する、
請求項1から請求項3の何れか1項に記載の電動機駆動装置。
【請求項5】
前記積算部は、
前記交流電動機の回転速度についての加速期間と減速期間との少なくとも何れかを、前記積算の対象期間から外す、
請求項1から請求項4の何れか1項に記載の電動機駆動装置。
【請求項6】
前記判定部は、
前記交流電動機の回転速度についての加速期間と減速期間との少なくとも何れかを、前記判定の対象期間から外す、
請求項1から請求項4の何れか1項に記載の電動機駆動装置。
【請求項7】
前記積算部は、
前記交流電動機の負荷の大きさに応じて決定された前記積算期間に亘り前記第1積算値と前記第2積算値を積算する、
請求項1から請求項4の何れか1項に記載の電動機駆動装置。
【請求項8】
前記積算部は、
前記交流電動機の負荷の大きさに応じたタイミングで、前記第1積算値と前記第2積算値を前記初期化する、
請求項4に記載の電動機駆動装置。
【請求項9】
前記複数の単相インバータは、グループごとの単相インバータの個数が同数になるように第1グループと第2グループを含む複数のグループの何れかに区分され、
前記積算部は、
前記第1グループに含まれる複数の第1単相インバータが各第1単相巻線にそれぞれ流す第1電流を積算し、
前記第2グループに含まれる複数の第2単相インバータが各第2単相巻線にそれぞれ流す第2電流を積算し、
前記判定部は、
前記第1電流の積算値と、前記第2電流の積算値とに基づいて、前記グループごとに前記グループに含まれる複数の単相インバータの状態を判定する、
請求項1から請求項の何れか1項に記載の電動機駆動装置。
【請求項10】
互いに独立している前記複数の単相巻線の各々に電流を流す複数の単相インバータ
を備える請求項1から請求項9の何れか1項に記載の電動機駆動装置。
【請求項11】
互いに独立している複数の単相巻線を備える交流電動機の各単相巻線に電流を流す複数の単相インバータに指令を送り、
前記複数の単相巻線の内の第1単相巻線に流れる第1電流の測定値を所定の間隔で積算して第1積算値を生成し、前記複数の単相巻線の内の第2単相巻線に流れる第2電流の測定値を前記所定の間隔で積算して第2積算値を生成
前記第1積算値と前記第2積算値の積算期間を一定にして、前記積算期間の移動平均によって前記第1積算値と前記第2積算値として算出し、
前記第1積算値と前記第2積算値とに基づいて前記複数の単相インバータの状態を判定する過程、
を含む電動機駆動装置の状態検出方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明の実施形態は、電動機駆動装置及び状態検出方法に関する。
【背景技術】
【0002】
電動機駆動装置は、複数の単相インバータを制御して、互いに独立した複数の単相巻線を有する交流電動機を駆動する。各単相インバータは、各単相巻線に夫々対応付けて設けられていて、夫々自律して単相巻線に流す電流を制御する。電動機駆動装置が各単相インバータに対して、等しい駆動量を出力するように制御していても、各インバータの駆動量が揃わないことがある。このような状況で交流電動機が駆動されると、交流電動機の振動が増加する等の異常な状態が生じることがあった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2015-104235号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明の目的は、交流電動機を駆動する際の信頼性をより高めることができる電動機駆動装置及び状態検出方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0005】
実施形態の電動機駆動装置は、駆動量指令部と、積算部と、判定部とを備える。前記駆動量指令部は、互いに独立している複数の単相巻線を備える交流電動機の各単相巻線に電流を流す複数の単相インバータに指令を送る。前記積算部は、前記複数の単相巻線の内の第1単相巻線に流れる第1電流の測定値を所定の間隔で積算して第1積算値を生成し、前記複数の単相巻線の内の第2単相巻線に流れる第2電流の測定値を前記所定の間隔で積算して第2積算値を生成する。前記積算部は、前記第1積算値と前記第2積算値の積算期間を一定にして、前記積算期間の移動平均によって前記第1積算値と前記第2積算値として算出する。前記判定部は、前記第1積算値と前記第2積算値とに基づいて前記複数の単相インバータの状態を判定する。
【図面の簡単な説明】
【0006】
図1】実施形態の電動機駆動装置の概略構成図。
図2】実施形態の電動機駆動装置の構成図。
図3】実施形態の各単相巻線の電流値の違いを説明するための概念図である。
図4】実施形態の異常状態検出処理のフローチャート。
図5】実施形態の異常状態検出処理を説明するための図。
図6】変形例の電動機駆動装置の概略構成図。
【発明を実施するための形態】
【0007】
以下、実施形態の電動機駆動装置及び状態検出方法を、図面を参照して説明する。
なお、以下の説明では、同一又は類似の機能を有する構成に同一の符号を付す。そして、それらの構成の重複する説明は省略する場合がある。なお、電気的に接続されることを、単に「接続される」ということがある。以下の説明に示す「単相パルス幅変調」とは、単相交流を出力するパルス幅変調(Pulse Width Modulation)のことであり、単にPWMと呼ぶことがある。以下の説明に示す「電流の測定値」とは、実際の電流の測定値、実際の電流の大きさを示す指標値、又は電流の大きさを示す推定値のことである。
【0008】
(実施形態)
図1は、実施形態の電動機駆動装置1の概略構成図である。電動機駆動装置1は、交流電動機2を駆動する。
【0009】
交流電動機2は、複数の単相巻線(不図示)を備える。複数の単相巻線は、互いに独立(絶縁)している。各単相巻線は、交流電動機2の回転子(不図示)の回転方向に順次所定の角度ずらした位置に配置される。各単相巻線から発生する交番磁界により複数の極が形成され、これによって回転磁界が発生するように各単相巻線に電流が流される。なお、図1に示す交流電動機2における単相巻線の個数は、例えば8個である。
【0010】
交流電動機2には位置検出器2Aが設けられている。位置検出器2Aは、交流電動機2の回転子位置を検出し、その位置検出信号Rpを、電動機制御部4に供給する。
【0011】
電動機駆動装置1は、例えば、単相インバータ3-1から3-8と、電動機制御部4とを備える。
【0012】
単相インバータ3-1から3-8は、交流電動機2の各単相巻線に対応付けて設けられていて、電動機制御部4の制御により各単相巻線にそれぞれ電流を流す。単相インバータ3-1から3-8は、それぞれ電流値の検出結果を電動機制御部4に供給する。単相インバータ3-1から3-8は、複数の単相インバータの一例である。単相インバータ3-1から3-8を纏めて単相インバータ3と呼ぶことがある。
【0013】
図2を参照して、実施形態の電動機駆動装置1のより具体的な一例について説明する。図2は、実施形態の電動機駆動装置1の構成図である。
【0014】
単相インバータ3-1は、例えば、主回路31と、電流検出部32と、電流制御部33とを備える。
【0015】
主回路31は、複数の半導体スイッチを備え、そのスイッチングにより直流電力を交流電力に変換し、単相の交流電力を出力する。電流検出部32は、主回路31の出力端子から交流電動機2の単相巻線に流れる電流を検出し、電流検出値IFBK1を生成する。電流検出値IFBK1は、例えば、主回路31の出力端子から交流電動機2の単相巻線に流れる電流の振幅(大きさ)を示す値である。電流制御部33は、例えばPWM制御を行う。例えば、電流制御部33は、電動機制御部4から供給される電流基準Ir1に対応した単相の交流電流I1を、単相インバータ3-1に対応する単相巻線に流すように、電流検出値IFBK1を用いて主回路31を制御する。電流制御部33は、位置検出信号Rpに基づいて、交流電動機2の回転子の位置制御(回転角度制御)又は速度制御(回転速度制御)を個別に行ってもよい。
【0016】
単相インバータ3-2から単相インバータ3-8についても、単相インバータ3-1と同様に構成されている。単相インバータ3-1から3-8は、例えば、それぞれ個別にPWM制御を行う。単相インバータ3-1から3-8は、それぞれ電流基準Ir1からIr8に対応した単相の交流電流I1からI8を、対応する単相巻線に流して交流電動機2に回転磁界を発生させ交流電動機2の回転子を回転させる。
【0017】
電動機制御部4は、例えば、駆動量指令部41と、積算部42と、判定部43と、制御部本体44とを備える。
【0018】
駆動量指令部41は、上位装置5から与えられる速度基準Nrと、位置検出器2Aからの位置検出信号Rpに基づいて、電流基準Ir1からIr8を生成する。
【0019】
例えば、駆動量指令部41は、速度変換部41aと、減算器41bと、指令値生成部41cとを備える。速度変換部41aは、位置検出器2Aからの位置検出信号Rpに基づいて交流電動機2の回転子速度Nを算出する。減算器41bは、上位装置5から与えられる速度基準Nrと、回転子速度Nとの差すなわち速度偏差ΔNを算出する。指令値生成部41cは、速度偏差ΔNを無くすように電流基準Ir1からIr8を生成する。電流基準Ir1からIr8は、同じ値であってよく、条件によって異なる値であってもよい。
【0020】
駆動量指令部41は、電流基準Ir1を位置検出信号Rpとともに、単相インバータ3-1に供給する。駆動量指令部41は、電流基準Ir2からIr8についても同様に、位置検出信号Rpとともに、対応する単相インバータ3-2から3-8に供給する。
【0021】
積算部42は、交流電動機2の各単相巻線の電流の測定値IFBK1からIFBK8を、各単相インバータ3からそれぞれ取得して、これを所定の間隔で所定の期間に亘って積算する。例えば、積算部42は、第1単相巻線に流れる交流電流I1(第1電流)の測定値IFBK1を所定の間隔で積算して第1積算値を生成する。積算部42は、同様に、第2単相巻線に流れる交流電流I2(第2電流)の測定値IFBK2を所定の間隔で積算して第2積算値を生成する。積算部42は、第3巻線から第8巻線についても同様に、それぞれの交流電流の検出値IFBK3からIFBK8を積算する。
【0022】
判定部43は、積算部42による各積算結果を用いて、各単相インバータ3の状態を判定する。制御部本体44は、判定部43の判定結果に従って、電動機制御部4の各部と、各単相インバータ3の稼働状態を制御する。
【0023】
例えば、制御部本体44は、判定部43の判定結果から単相インバータ3-1から3-8の異常状態が発生したことを検出した場合に、駆動量指令部41を制御して、駆動量指令部41が出力する電流基準Ir1からIr8を制御する。これにより、制御部本体44は、各単相インバータ3の稼働状態を制御することができる。又は、制御部本体44は、上記の異常状態を検出した場合に、単相インバータ3-1から3-8のそれぞれに対して、それぞれの出力電流の出力を停止するように制御してもよい。
【0024】
次に、より具体的な例を示して、電動機駆動装置1について説明する。
図3は、実施形態の各単相巻線の電流の違いを示す概念図である。
図3(a)に、正常時における各相の電流の積算値の分布を示し、図3(b)に、異常時における各相の電流の積算値の分布を示す。図3に示す範囲(横軸)には、n相(nは自然数)分を示しているが、本実施形態の例によれば、所定期間それぞれ検出された電流の測定値IFBK1-8に基づく8個の積算値になる。なお、説明を簡単にするために、電動機駆動装置1において、駆動量指令部41が供給する電流基準Ir1からIr8は、互いに等しくなるように制御されていて、積算期間を通じて変化させないものとする。
【0025】
電動機駆動装置1の系が正常な状態にあるとしても、図3(a)に示すように各単相巻線に流れる電流の大きさにばらつきが生じることがある。ただし、その各相間のばらつきは各相の積算値に対して比較的小さく、交流電動機2の回転に大きな影響を与えるものではない。
【0026】
ところで、電動機駆動装置の系に異常な状態が生じた場合に、各単相巻線に流れる電流の大きさに、各相の積算値に対して比較的大きなばらつきが生じることがある。このような異常な状態は、例えば、特定の単相インバータ3が取得している指令値が、他の単相インバータ3が取得している指令値と異なるときなどに生じることがある。このような異常な状態にあっても、各単相インバータ3がそれぞれ自律して指令通り稼働していると、各単相インバータ3が備える異常検知機能では、その異常が検出されないことがある。
【0027】
例えば、上記の事象が生じると、特定の相の単相巻線の第1電流の積算値の大きさが、上記の他の相の単相巻線の第2電流の積算値の大きさから乖離することがある。第1電流の積算値の大きさが、上記の第2電流の積算値の大きさから乖離するとは、系が正常なときの第2電流の積算値の大きさの各単相巻線のばらつきに対して、大きく異なることをいう。このような状況が生じていると、交流電動機2の振動が増加するなどの影響が生じることがある。
【0028】
そこで、図4図5を参照して、上記の事象に対する異常状態検出処理について説明する。図4は、実施形態の異常状態検出処理のフローチャートである。図5は、実施形態の異常状態検出処理を説明するための図である。
【0029】
積算部42は、交流電動機2の各単相巻線の電流の測定値IFBK1からIFBK8を、各単相インバータ3からそれぞれ取得して(ステップS10)、これを所定の間隔で所定の期間に亘って積算して積算値を算出する(ステップS11)。
【0030】
ここで、後述する判定処理を容易にするため、上記の積算値を規格化する。例えば、積算部42は、判定対象の相を除いた他の相の電流の積算値の平均値を算出し(ステップS12)、判定対象の相の電流の積算値と、上記の平均値との比率をそれぞれ算出する(ステップS13)。上記の判定対象の相とは、判定対象の系統の一例である。
【0031】
判定部43は、判定対象の相の電流の積算値と上記の平均値との比率を用いて、判定対象の単相インバータ3の状態を判定する。具体的には、判定部43は、上記の平均値との比率が、予め定められた閾値よりも小さいか否かを判定する(ステップS14)。
【0032】
上記の平均値との比率が、予め定められた閾値以上の場合には、判定部43は、判定対象の相は正常と判定して(ステップS15)、その相の運転継続が可能と判定して(ステップS16)処理をステップS19に進める。
【0033】
上記の平均値との比率が、予め定められた閾値よりも小さい場合には、判定部43は、判定対象の相は異常と判定して(ステップS17)、その相の運転を停止させて(ステップS18)、処理をステップS19に進める。
【0034】
ステップS16又はステップS18の処理を終えると、制御部本体44は、全ての相の判定を終えたか否かを判定し(ステップS19)、全ての相の判定を終えていない場合には、処理をステップS12に進めて、未判定の相の判定を実施させる。全ての相の判定を終えた場合には、制御部本体44は、判定の結果を出力して(ステップS20)、処理を終える。
【0035】
電動機駆動装置1は、例えば、上記の異常状態検出処理の手順を用いて、電動機駆動装置1の系に生じた異常な状態を検出する。
【0036】
ところで、電動機駆動装置1が交流電動機2を稼働させている期間は巻線に電流が流れている。これに応じて積算部42による各積算値が逐次変化するため、積算値を直接判定することは容易でない。これに対して、各積算値の平均値と各積算値との比率は、異常がなければ大きな変化は生じない。本実施形態では、各積算値の平均値と各積算値との比率を用いて、各相の状態を検出する。
【0037】
例えば、図5に、特定の相に欠相が生じて、その相の電流値が検出されなくなった場合を、その相の積算値を破線で示す。健常な状態の相の電流値に基づく積算値は、時間とともに変化する。それらの平均値も時間とともに変化する。図5の縦軸では、その平均値に基づいて規格化した値を示すため、その縦軸の値は、時間が経過しても100%になる。
【0038】
一方、欠相が生じた相の積算値は、欠相発生後にその値が変化しない。そのため、変化する平均値を用いて規格化すると、時間の経過にともなって、その値が低下する。
【0039】
積算開始から1時間経過した時点で欠相が生じた場合には、欠相が生じた相の積算値の比率が欠相後に徐々に低下してゆき、積算開始から2時間が経過した時点で50%まで低下する。例えば、50%を閾値に用いる場合、判定部43は、積算値が50%まで低下した相に異常があると判定することができる。
【0040】
なお、積算部42は、複数の相のうち、一部の相を積算の対象にしてもよい。この場合、積算部42は、対象にする複数の相の電流値を、例えば、上記と同様の方法で相ごとに積算して、第1積算値と第2積算値を算出する。上記の第1積算値は、積算の対象にした複数の相のうちのいづれかの相の積算値のことであり、第2積算値は、積算の対象にした複数の相のうちの上記のいづれかの相として特定した相以外の特定の相の積算値のことである。
【0041】
上記の共通の所定期間(積算期間)の長さ、積算開始のタイミング、及び積算終了のタイミングを、交流電動機2の駆動の仕方に応じて適宜決定してもよい。
【0042】
積算開始から異常が発生するまでの経過時間が短いほど、異常が生じて相の電流値の積算値の変化が急になる。これにより、異常になった相を検出するまでの時間が短くなる。
【0043】
例えば、積算期間を予め定められた長さにする場合には、積算部42は、積算期間の時間幅を固定値(一定)にして、その積算期間の第1積算値と第2積算値を算出してもよい。この演算手法に、移動平均の演算手法を適用してもよい。
【0044】
これに変えて、積算部42は、交流電動機2が駆動する機械的負荷の大きさに応じて決定された積算期間に亘り積算してもよい。例えば、上記の機械的負荷の変動が比較的大きい場合には、積算期間を長くして、その逆に機械的負荷の変動が比較的小さい場合には、積算期間を短くすることで、機械的負荷の変動により生じる誤検知を軽減させることができる。
【0045】
次に、積算値の初期化について説明する。早期に異常を検出するには、比較的短く設定された周期で周期的に、又は所定のタイミングに第1積算値と第2積算値を初期化するとよい。例えば、積算部42は、上記の第1積算値と第2積算値を、共通の所定期間として定められた積算期間ごとに初期化するとよい。これに変えて、積算部42は、上記の第1積算値と第2積算値を、交流電動機2の運転停止の指令を受けたことに応じて初期化してもよい。また、積算部42は、上記の第1積算値と第2積算値を、交流電動機2の負荷の大きさに応じて決定した周期又はタイミングで初期化してもよい。
【0046】
上記の実施形態によれば、駆動量指令部41は、互いに独立している複数の単相巻線を備える交流電動機2の各単相巻線に電流を流す単相インバータ3-1から3-8に指令を送る。積算部42は、複数の単相巻線の内の第1単相巻線に流れる電流I1の測定値IFBK1を所定の間隔で積算して第1積算値を生成し、複数の単相巻線の内の第2単相巻線に流れる電流I2からI8の測定値IFBK2からIFBK8を所定の間隔で積算して第2積算値を生成する。判定部43は、第1積算値と第2積算値とに基づいて単相インバータ3-1から3-8の状態を判定することにより、交流電動機2を駆動する際の信頼性をより高めることができる。第1積算値と第2積算値は、電流の積算値の一例である。
【0047】
判定部43は、各積算値が逐次変化することの影響を抑制して、各相の単相インバータ3-1から3-8の状態を検出することができる。さらに、上記の通り、各単相巻線の電流の積算値にばらつきが生じるが、電流の積算値の平均値を用いることにより、上記のばらつきによる影響を抑制して各相の状態を検出することができる。
【0048】
(第1変形例)
交流電動機2の回転速度の加速時と減速時に各単相巻線に流れる電流は、定常的な値と異なる。そこで、この期間を評価の対象から除いてもよい。
【0049】
例えば、駆動量指令部41は、速度基準Nr、位置検出信号Rp及び回転子速度Nの何れかに基づいて、上記の加速時と減速時を検出して、その加速期間と減速期間の何れか又は両方を積算部42と判定部43とに通知する。これを受けて、積算部42は、交流電動機2の回転速度の加速期間と減速期間の何れか又は両方を、積算の対象期間から外してもよい。これと同様に、判定部43は、交流電動機2の回転速度の加速期間と減速期間の何れか又は両方を、判定の対象期間から外してもよい。これらにより、加速時と減速時に電流値が変化することによる誤検出を軽減できる。
【0050】
(第2変形例)
上記の実施形態では、特定の相に生じた異常を、相ごとに検出する事例を説明した。本変形例では、これに変えて、又は加えて、複数の相を含むグループを単位にして、異常が生じた特定の相を含むグループを、グループごとに検出する事例について説明する。
【0051】
図6は、変形例の電動機駆動装置の概略構成図である。
例えば、交流電動機2の各相は複数のグループに区分される。これに応じて、単相インバータ3-1から3-8は、グループごとの単相インバータの個数が同数になるように第1グループと第2グループを含む複数のグループの何れかに区分される。
【0052】
例えば、単相インバータ3-1と3-2(第1単相インバータ)が第1グループG1に、単相インバータ3-3と3-4(第2単相インバータ)が第2グループG2に、単相インバータ3-5と3-6が第3グループG3に、単相インバータ3-7と3-8が第4グループG4に、区分されている。積算部42は、グループごとに、第1グループG1に含まれる単相インバータ3-1と3-2が各第1単相巻線にそれぞれ流す電流IFBK1とIFBK2を積算し、第2グループG2に含まれる単相インバータ3-3と3-4が各第2単相巻線にそれぞれ流す電流IFBK3とIFBK4を積算する。第3グループG3と第4グループG4についても同様である。
【0053】
例えば、判定部43は、電流IFBK1とIFBK2に基づく積算値(第1電流の積算値)と、電流IFBK3とIFBK4に基づく積算値(第2電流の積算値)とに基づいて、グループごとにグループに含まれる複数の単相インバータの状態を判定する。この判定の方法は、実施形態の方法を適用してよい。
【0054】
本変形例によれば、異常が生じた特定の相を含むグループを、グループごとに検出することができる。なお、本変形例を単独で実施してもよく、実施形態の事例に加えてもよい。
【0055】
以上説明した少なくともひとつの実施形態によれば、駆動量指令部は、互いに独立している複数の単相巻線を備える交流電動機の各単相巻線に電流を流す複数の単相インバータに指令を送る。積算部は、複数の単相巻線の内の第1単相巻線に流れる第1電流の測定値を所定の間隔で積算して第1積算値を生成し、複数の単相巻線の内の第2単相巻線に流れる第2電流の測定値を前記所定の間隔で積算して第2積算値を生成する。判定部は、第1積算値と第2積算値とに基づいて複数の単相インバータの状態を判定することにより、交流電動機を駆動する際の信頼性をより高めることができる。
【0056】
上記の制御装置は、その少なくとも一部を、CPUなどのプロセッサがプログラムを実行することにより機能するソフトウェア機能部で実現してもよく、全てをLSI等のハードウェア機能部で実現してもよい。
【0057】
本発明のいくつかの実施形態を説明したが、これらの実施形態は、例として提示したものであり、発明の範囲を限定することは意図していない。これら実施形態は、その他の様々な形態で実施されることが可能であり、発明の要旨を逸脱しない範囲で、種々の省略、置き換え、変更を行うことができる。これら実施形態やその変形は、発明の範囲や要旨に含まれると同様に、特許請求の範囲に記載された発明とその均等の範囲に含まれるものである。
【符号の説明】
【0058】
1…電動機駆動装置、2…交流電動機、3-1から3-8…単相インバータ、4…電動機制御部、2A…位置検出器、31…主回路、32…電流検出部、33…電流制御部、41…駆動量指令部、42…積算部、43…判定部、44…制御部本体
図1
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図6