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特許7278232コイルばねの製造装置、巻き数制御装置、及びコイルばねの製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-05-11
(45)【発行日】2023-05-19
(54)【発明の名称】コイルばねの製造装置、巻き数制御装置、及びコイルばねの製造方法
(51)【国際特許分類】
   B21F 35/00 20060101AFI20230512BHJP
【FI】
B21F35/00 A
【請求項の数】 11
(21)【出願番号】P 2020042422
(22)【出願日】2020-03-11
(65)【公開番号】P2021142539
(43)【公開日】2021-09-24
【審査請求日】2022-08-03
(73)【特許権者】
【識別番号】000004640
【氏名又は名称】日本発條株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100110629
【弁理士】
【氏名又は名称】須藤 雄一
(74)【代理人】
【識別番号】100166615
【弁理士】
【氏名又は名称】須藤 大輔
(72)【発明者】
【氏名】前田 昌昭
(72)【発明者】
【氏名】貫井 晃太郎
【審査官】石田 宏之
(56)【参考文献】
【文献】米国特許出願公開第2011/239719(US,A1)
【文献】特開2019-35605(JP,A)
【文献】特表2014-517601(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B21F 35/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
線材を送り出してコイル状に成形し、設定された巻き数のコイルばねとするコイリングマシンと、
前記コイルばねの軸周りに回転自在に支持された回転体と、
前記回転体に設けられ前記設定された巻き数の前記コイルばねの始端を前記回転体の回転方向で係合させて前記始端と共に前記回転体を前記軸周りに回転可能とする係合片と、
前記回転体の回転位置を検出する回転位置検出部と、
を備え、
前記コイリングマシンは、前記回転位置検出部での検出に基づき前記回転体が前記回転方向での初期位置に対する所定の回転位置になったときに前記線材の送出しを停止する、
コイルばねの製造装置。
【請求項2】
請求項1記載のコイルばねの製造装置であって、
前記コイリングマシンは、前記コイルばねが前記設定された巻き数となった後から前記回転体が前記所定の回転位置になるまで相対的に低速で線材を送り出す、
コイルばねの製造装置。
【請求項3】
請求項1又は2記載のコイルばねの製造装置であって、
前記回転体に設けられ前記設定された巻き数の前記コイルばねの内周に挿入される挿入部を備えた、
コイルばねの製造装置。
【請求項4】
請求項3記載のコイルばねの製造装置であって、
前記回転体を前記挿入部の前記挿入が可能な進出位置と前記挿入が不能な後退位置とに移動させる回転体移動部を備え、
前記回転体移動部は、前記回転位置検出部での検出に基づき、前記回転体が前記所定の回転位置になるまで前記回転体を前記進出位置に配置して前記挿入部を前記コイルばねの内周に挿入しておき、その後、前記回転体を前記後退位置に移動させて前記挿入部を前記コイルばねの内周から抜き出し、
前記コイリングマシンは、前記回転体が前記後退位置にあるときに座巻部を形成するための前記線材の送出しを行う、
コイルばねの製造装置。
【請求項5】
線材を送り出してコイル状に成形し、設定された巻き数のコイルばねとするコイリングマシンに対し前記コイルばねの巻き数を制御する巻き数制御装置であって、
前記コイルばねの軸周りに回転自在に支持された回転体と、
前記回転体に設けられ前記設定された巻き数の前記コイルばねの始端を前記回転体の回転方向で係合させて前記始端と共に前記回転体を前記軸周りに回転可能とする係合片と、
前記回転体の回転位置を検出する回転位置検出部と、
を備え、
前記回転位置検出部は、該回転位置検出部での検出に基づき前記回転体が前記回転方向での初期位置に対する所定の回転位置になったときに前記コイリングマシンの前記線材の送出しを停止可能とする、
巻き数制御装置。
【請求項6】
請求項5記載の巻き数制御装置であって、
前記回転体に設けられ前記設定された巻き数の前記コイルばねの内周に挿入される挿入部を備えた、
巻き数制御装置。
【請求項7】
請求項6記載の巻き数制御装置であって、
前記回転体を前記挿入部の前記挿入が可能な進出位置と前記挿入が不能な後退位置とに移動させる回転体移動部を備え、
前記回転体移動部は、前記回転位置検出部での検出に基づき、前記回転体が前記所定の回転位置になるまで前記回転体を前記進出位置に配置して前記挿入部を前記コイルばねの内周に挿入しておき、その後、前記回転体を前記後退位置に移動させて前記挿入部を前記コイルばねの内周から抜き出し、前記コイリングマシンによる座巻部を形成するための前記線材の送出しを可能とする、
巻き数制御装置。
【請求項8】
線材を送り出しコイル状に成形して設定された巻き数のコイルばねとするコイルばねの製造方法であって、
前記線材の送出しにより、前記設定された巻き数となった前記コイルばねの始端を回転体に回転方向の初期位置で係合させ、
前記線材の送出しにより、前記コイルばねの始端と共に前記回転体を前記コイルばねの軸周りに回転させ、
前記回転体が前記初期位置に対する所定の回転位置になったときに前記線材の送出しを停止する、
コイルばねの製造方法。
【請求項9】
請求項8記載のコイルばねの製造方法であって、
前記線材の送出しは、前記コイルばねが前記設定された巻き数となった後から前記回転体が前記所定の回転位置になるまで相対的に低速で行われる、
コイルばねの製造方法。
【請求項10】
請求項8又は9記載のコイルばねの製造方法であって、
前記回転体に設けられた挿入部を前記設定された巻き数の前記コイルばねの内周に挿入する、
コイルばねの製造方法。
【請求項11】
請求項10記載のコイルばねの製造方法であって、
前記回転体は、前記挿入部の前記挿入が可能な進出位置と前記挿入が不能な後退位置とに移動可能であり、
前記回転体が前記所定の回転位置になるまで前記回転体を前記進出位置に配置して前記挿入部を前記コイルばねの内周に挿入しておき、
その後、前記回転体を前記後退位置に移動させて前記挿入部を前記コイルばねの内周から抜き出し、
前記回転体が前記後退位置にあるときに座巻部を形成するための前記線材の送出しを行う、
コイルばねの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、巻き数を制御可能なコイルばねの製造装置、巻き数制御装置、及びコイルばねの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来のコイルばねの製造装置としては、例えば、特許文献1のように、成形中のコイルばねの先端との距離を測定する間隔検出器を備えたコイルばね製造機がある。
【0003】
このコイルばね製造機は、間隔検出をコイルばねの軸方向に理論上のコイルばねの先端の軸方向の移動速度で移動させ、このときのコイルばねの先端と間隔検出器との間を一定距離に保つようにピッチを調整する。
【0004】
これにより、製造されたコイルばねの自由長を所定長さに設定することができる。
【0005】
しかし、かかるコイルばね製造機は、コイルばねの巻き数を制御しておらず、製造されたコイルばねの巻き数にばらつきが生じていた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】特公平3-25248号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
解決しようとする問題点は、コイルばねの巻き数にばらつきが生じていた点である。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は、線材を送り出してコイル状に成形し、設定された巻き数のコイルばねとするコイリングマシンと、前記コイルばねの軸周りに回転自在に支持された回転体と、前記回転体に設けられ前記設定された巻き数の前記コイルばねの始端を前記回転体の回転方向で係合させて前記始端と共に前記回転体を前記軸周りに回転可能とする係合片と、前記回転体の回転位置を検出する回転位置検出部と、を備え、前記コイリングマシンは、前記回転位置検出部での検出に基づき前記回転体が前記回転方向での初期位置に対する所定の回転位置になったときに前記線材の送出しを停止する、コイルばねの製造装置を特徴とする。
【0009】
また、本発明は、線材を送り出してコイル状に成形し、設定された巻き数のコイルばねとするコイリングマシンに対し前記コイルばねの巻き数を制御する巻き数制御装置であって、前記コイルばねの軸周りに回転自在に支持された回転体と、前記回転体に設けられ前記設定された巻き数の前記コイルばねの始端を前記回転体の回転方向で係合させて前記始端と共に前記回転体を前記軸周りに回転可能とする係合片と、前記回転体の回転位置を検出する回転位置検出部と、を備え、前記回転位置検出部は、該回転位置検出部での検出に基づき前記回転体が前記回転方向での初期位置に対する所定の回転位置になったときに前記コイリングマシンの前記線材の送出しを停止可能とする、巻き数制御装置を特徴とする。
【0010】
また、本発明は、線材を送り出してコイル状に成形し、設定された巻き数のコイルばねとするコイルばねの製造方法であって、前記線材の送出しにより、前記設定された巻き数となった前記コイルばねの始端を回転体に回転方向での初期位置で係合させ、前記線材の送出しにより、前記コイルばねの始端と共に前記回転体を前記コイルばねの軸周りに回転させ、前記回転体が前記初期位置に対する所定の回転位置になったときに前記線材の送出しを停止する、コイルばねの製造方法を特徴とする。
【発明の効果】
【0011】
本発明は、製造されたコイルばねの巻き数のばらつきを抑制することができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
図1】コイルばねの製造装置を一部断面にして示す概略側面図である(実施例)。
図2】(A)及び(B)は設定された巻き数のコイルばねと回転体との関係を拡大して示し、(A)は側面図、(B)は正面図である(実施例)。
図3図1のコイルばね製造装置によって製造されるコイルばねの一例を示す側面図である(実施例)。
図4】(A)~(C)は、回転体の進出位置及び後退位置とコイルばねとの関係を示す概略側面図である(実施例)。
図5】(A)~(C)は、コイルばねの製造時におけるコイルばねと回転体との関係を示す正面図である(実施例)。
【発明を実施するための形態】
【0013】
コイルばねの巻き数のばらつきを抑制するという目的を、設定された巻き数となったコイルばねの始端で回転体を回転させ、回転体が所定の回転位置となったときに線材の送出しを停止することによって実現した。
【0014】
本発明のコイルばねSの製造装置1は、図1図4のように、コイリングマシン3と、回転体7と、係合片31と、回転位置検出部9とを備える。コイリングマシン3は、線材Wを送り出してコイル状に成形し、設定された巻き数のコイルばねSとする。回転体7は、コイルばねSの軸周りに回転自在に支持されている。係合片31は、回転体7に設けられ、設定された巻き数のコイルばねSの始端Bを回転体7の回転方向で係合させて始端Bと共に回転体7を軸周りに回転可能とする。回転位置検出部9は、回転体7の回転方向での初期位置に対する回転位置を検出する。
【0015】
コイリングマシン3は、回転位置検出部9での検出に基づき、回転体7が初期位置に対する所定の回転位置になったときに線材Wの送出しを停止する。
【0016】
コイリングマシン3は、コイルばねSが設定された巻き数となった後から回転体7が所定の回転位置になるまで相対的に低速で線材を送出してもよい。
【0017】
また、製造装置1は、回転体7に設けられ、設定された巻き数のコイルばねSの内周に挿入される挿入部33を備えてもよい。
【0018】
また、製造装置1は、回転体移動部11を備えてもよい。回転体移動部11は、回転体7を挿入部33の挿入が可能な進出位置と挿入が不能な後退位置とに移動させる。そして、回転体移動部11は、回転位置検出部9での検出に応じ、回転体7が所定の回転位置になるまで回転体7を進出位置に配置して挿入部33をコイルばねSの内周に挿入しておき、その後、回転体7を後退位置に移動させて挿入部33をコイルばねSの内周から抜き出す。コイリングマシン3は、回転体7が後退位置にあるときに、座巻部E2を形成するための線材Wの送出しを行う。
【0019】
また、本発明の巻き数制御装置5は、コイルばねSの製造装置1に適用されてコイルばねSの巻き数を制御する巻き数制御装置5であって、回転体7と、係合片31と、回転位置検出部9とを備える。回転体7と、係合片31と、回転位置検出部9は、上記のとおりである。
【0020】
巻き数制御装置5は、上記製造装置1と同様、挿入部33を備えてもよい。
【0021】
また、巻き数制御装置5は、上記製造装置1と同様、回転体移動部11を備えてもよい。
【0022】
本発明のコイルばねSの製造方法は、線材Wを送り出しコイル状に成形して設定された巻き数のコイルばねSとするコイルばねの製造方法であって、線材Wの送出しにより、設定された巻き数となったコイルばねSの始端Bを回転体7に回転方向で係合させ、線材Wの送出しにより、コイルばねSの始端Bと共に回転体7をコイルばねSの軸周りに回転させ、回転体7が初期位置に対する所定の回転位置になったときに線材Wの送出しを停止する。
【0023】
線材の送出しは、上記製造装置1と同様、コイルばねSが設定された巻き数となった後から回転体7が所定の回転位置になるまで相対的に低速で行ってもよい。
【0024】
また、コイルばねSの製造方法では、上記製造装置1と同様、係合片31にコイルばねSの始端Bが係合するときに、回転体7に設けられた挿入部33をコイルばねSの内周に挿入してもよい。
【0025】
回転体7は、上記製造装置1と同様、挿入部33の挿入が可能な進出位置と挿入が不能な後退位置とに移動可能としてもよい。そして、上記同様、挿入部33をコイルばねSの内周から抜き出した回転体7の後退位置のときに、座巻部E2を形成するための線材Wの送出しを行う。
【実施例
【0026】
[コイルばねの製造装置]
図1は、本発明の一実施例に係るコイルばねの製造装置を一部断面にして示す概略側面図である。図2(A)及び(B)は、設定された巻き数のコイルばねと回転体との関係を拡大して示し、図2(A)は側面図、図2(B)は正面図である。図3は、図1のコイルばね製造装置によって製造されるコイルばねの一例を示す側面図である。
【0027】
本実施例のコイルばねSの製造装置1は、コイリングマシン3と、巻き数制御装置5とを備えている。
【0028】
コイリングマシン3は、線材Wを送り出してコイル状に成形し、設定された巻き数のコイルばねSとするものである。なお、図において、コイリングマシン3は、概念的にのみ示す。
【0029】
コイルばねSは、圧縮ばねとして構成され、本体部BOと、本体部BOの両端に設けられた座巻部E1,E2とを有する。
【0030】
本体部BOは、隣接する巻部C間に所定のピッチを有する。座巻部E1,E2は、コイルばねSの始端B及び終端Tに向けて漸次ピッチが減少し、始端B及び終端Tにおいてピッチがほぼゼロになっている。
【0031】
本実施例において、コイルばねSは、巻き数(コイル数)が30巻~60巻程度であり(図3では巻き数を少なく示している。)、線径が2.0mm~5.0mm、外径が10mm~40mm、自由長が150mm~200mm程度である。ただし、コイルばねSの詳細はこれに限られるものではなく、また、コイルばねSはピッチを有さない引張ばねとすることも可能である。
【0032】
コイリングマシン3は、周知のもので構成することが可能であるが、コイルばねSの巻き数を設定された巻き数とする機能を有するものとする。ただし、コイリングマシン3では、複数のコイルばねS間で巻き数の厳密な再現性まではなく、コイルばねS間で巻き数がばらつく結果となる。これは、線材Wの硬度、線径、断面形状、材質等の影響による。本実施例では、巻き数制御装置5により、かかる巻き数のばらつきを抑制するようになっている。なお、ばらつきを抑制する前の設定された巻き数のコイルばねSを、以下「調整前ばねS」と称する。また、コイルばねSは、調整前ばねSを区別する必要がない場合、単にコイルばねSと称する。
【0033】
このコイリングマシン3は、各調整前ばねSの成形開始時に後述する回転体移動部11に進出移動信号を出力する。調整前ばねSを成形した際に、コイリングマシン3は、後述する回転位置検出部9に補助送り開始信号を出力し、相対的に低速で線材Wを送り出す。この低速での線材Wの送出しは、以下「補助送り」と称する。なお、調整前ばねSを成形した後は、線材Wの送出しを相対的な低速としなくてもよい。
【0034】
また、コイリングマシン3は、回転位置検出部9からの補助送り終了信号を受信して線材Wの送出しを停止する。この停止時に、コイリングマシン3は、後述する回転体移動部11に後退移動信号を出力すると共に座巻部E2を形成するための線材Wの送出しを行う。なお、コイリングマシン3の制御や信号の送受信は、図示しないコンピューターからなる制御部によって行えばよい。
【0035】
コイリングマシン3は、成形途中及び成形後の調整前ばねSを下方から押さえる押さえ部6を備えている。押さえ部6は、ピッチのある調整前ばねSの先端が成形中及び成形後に揺動することを抑制する。ただし、調整前ばねSの先端の揺動は、完全に抑制することはできない。
【0036】
[巻き数制御装置]
巻き数制御装置5は、コイリングマシン3に対しコイルばねSの巻き数を制御するものであり、回転体7と、回転位置検出部9と、回転体移動部11とを備える。
【0037】
回転体7は、ダンパー15と、接触子17とで構成されている。ただし、回転体7は、ダンパー15を備えない構成としてもよい。この場合、接触子17を後述する回転位置検出部9のサーボモーター35の回転軸部35aに取り付ければよい。
【0038】
ダンパー15は、コイルばねSに対して軸方向で対向して配置されている。このダンパー15は、シリンダー19のコイルばねSに指向した一側でロッド21が軸方向に伸縮するように構成されている。なお、軸方向とは、コイルばねSの軸線に沿った方向をいう。
【0039】
シリンダー19は、ベース23に対してベアリング25によって支持され、ダンパー15は、全体として軸周りに回転自在となっている。ダンパー15の回転軸は、コイルばねSの軸線と一致している。これにより、回転体7は、コイルばねSの軸線周りに回転自在に支持される。
【0040】
ロッド21とシリンダー19との間は、スプライン27によって係合し、相対回転が規制されている。ロッド21は、シリンダー19内のダンパーばね29によりコイルばねSに向けて軸方向で付勢されている。ダンパーばね29は、コイルばねSよりもばね定数が小さく設定されている。
【0041】
接触子17は、ロッド21の先端に設けられ、ダンパー15と共に軸周りに回転可能となっている。本実施例の接触子17は、円盤状に形成されている。接触子17の外径は、コイルばねSの外径よりも大きく設定されている。
【0042】
接触子17の軸方向での位置は、理論通り又は設計通りに設定された巻き数を有する調整前ばねSの先端に表面17aが軸方向での押圧力を受けずに接触する位置となっている。ただし、接触子17の位置は、これに限られるものではなく、軸方向に前後してもよい。
【0043】
この接触子17には、係合片31が設けられている。本実施例の係合片31は、接触子17の表面17aからコイルばねS側に突出した突起からなる。ただし、係合片31は、回転体7の表面17aに設けられた凹部等としてもよい。
【0044】
この係合片31は、調整前ばねSの始端Bを回転体7の回転方向で係合させて、始端Bと共に回転体7を軸周りに回転可能とするものである。従って、係合片31は、接触子17の中心(ダンパー15の回転軸)に対して調整前ばねSの内外径に応じて偏心して配置されている。
【0045】
係合片31の形状は、回転方向で調整前ばねSの始端Bの一部又は全部を受ける受け面31aを有するものであればよい。この受け面31aは、調整前ばねSの始端Bの線径よりも軸方向に大きく設定するのが好ましい。かかる構成により、調整前ばねSが設計よりも軸方向で短い場合にも、係合片31への調整前ばねSの始端Bの係合を確実に行わせることができる。
【0046】
一方、調整前ばねSが設計よりも軸方向で長い場合には、接触子17がダンパーばね29の付勢力に抗してシリンダー19側に変位することにより、係合片31への調整前ばねSの始端Bの係合を確実に行わせることができる。
【0047】
挿入部33は、回転体7に設けられ、設定された巻き数の調整前ばねSの内周に挿入されるものである。本実施例の挿入部33は、接触子17の軸心部の表面17aからコイルばねS側に軸方向に沿って突出した柱状体からなる。この挿入部33の先端には、テーパ面33aが形成されている。
【0048】
挿入部33の軸方向の長さは、調整前ばねSの内周に挿入された状態で、座巻部E1から本体部BOの数巻きにまで至る程度に設定される。ただし、挿入部33の軸方向の長さは、任意であり、座巻部E1の内周にのみ位置する程度であってもよい。
【0049】
また、挿入部33の外周は、本実施例において断面円形である。挿入部33の外径は、調整前ばねSの内周への挿入及び抜出しが円滑に行える範囲であり、例えば、調整前ばねSの内径よりも若干小さく設定される。なお、挿入部33の外周は、断面矩形等とすることも可能である。
【0050】
回転位置検出部9は、回転体7の回転方向での初期位置に対する回転位置を検出するものである。本実施例の回転位置検出部9は、サーボモーター35と、監視部としてのモーター制御部37とを備えている。
【0051】
サーボモーター35は、支持ブラケット39を介してベース23に支持されている。サーボモーター35の回転軸部35aは、回転体7のシリンダー19に向けて軸方向に伸び、カップリング41を介してシリンダー19の軸部19aに結合されている。シリンダー19の軸部19aは、シリンダー19の他側の軸心部から軸方向に沿って突設されている。
【0052】
従って、サーボモーター35は、稼働により回転体7を回転させることが可能となっていると共に、非稼働時に回転体7の回転に対して負荷トルクを与えるようになっている。
【0053】
サーボモーター35は、エンコーダー35bを備え、回転軸部35aの回転位置を検出可能とする。すなわち、非稼働状態のサーボモーター35は、回転体7の回転に応じて回転軸部35aが回転させられ、エンコーダー35bが回転軸部35aの回転位置として回転体7の回転位置を検出する。これにより、本実施例では、回転体7が初期位置に対する所定の回転位置になったことを検出可能とする。
【0054】
回転体7の初期位置は、例えば係合片31が回転体7の表面17a上で回転軸に対して真上に配置される位置であり、これを0度とする。回転体7の所定の回転位置は、例えば係合片31が回転軸周りに初期位置から270度回転した位置である。なお、かかる初期位置及び所定の回転位置は、一例であり、コイルばねSの仕様に応じて適宜変更可能である。
【0055】
モーター制御部37は、図において概略的にのみ示すが、コンピューターからなる。このモーター制御部37は、サーボモーター35を制御すると共にエンコーダー35bの検出信号に基づいて回転体7の回転位置を監視する。この監視は、コイリングマシン3から補助送り開始信号の入力を受けて行われる。
【0056】
また、モーター制御部37は、回転体7の回転位置の監視を通じ、回転体7が所定の回転位置になったときに、コイリングマシン3に補助送り終了信号を送ると共にサーボモーター35を稼働させて回転体7を初期位置に戻す。
【0057】
回転体移動部11は、回転体7を調整前ばねSの内周に挿入部33の挿入が可能な進出位置と挿入が不能な後退位置とに移動させるものである。進出位置への移動は、コイリングマシン3からの進出移動信号の入力を受けて行い、後退位置への移動は、コイリングマシン3からの後退移動信号の入力を受けて行う。
【0058】
回転体7を進出位置へ移動した後は、後退移動信号の入力を受け付けるまで維持される。従って、回転体移動部11は、回転体7が所定の回転位置になるまで回転体7を進出位置に配置して挿入部33を調整前ばねSの内周に挿入し、その後、回転体7を後退位置に移動させて挿入部33をコイルばねSの内周から抜き出す構成となっている。
【0059】
本実施例の回転体移動部11は、固定プレート43と可動プレート45との間にシリンダー装置47を設けて構成されている。固定プレート43は、巻き数制御装置5の接地面F上に固定されている。この固定プレート43には、可動プレート45が軸方向で移動自在にリニアガイド等により支持されている。可動プレート45には、回転体7及び回転位置検出部9を支持するベース23が取り付けられている。
【0060】
シリンダー装置47は、図において概略的にのみ示すが、図示しないシリンダー、ピストンロッドを有している。これらシリンダー又はピストンロッドの一方を固定プレート43に取り付け、同他方を可動プレート45に取り付ける。従って、シリンダー装置47は、伸縮によって固定プレート43に対して可動プレート45を移動させ、結果として回転体7を進出位置と後退位置とに移動させる。
【0061】
[コイルばねの製造方法]
図4(A)~(C)は、回転体7の進出位置及び後退位置とコイルばねSとの関係を示す概略側面図、図5(A)~(C)は、コイルばねSの製造時におけるコイルばねSと回転体7との関係を示す正面図である。
【0062】
コイルばねSの製造方法では、まず、コイリングマシン3により線材Wを送り出してコイル状に成形し、設定された巻き数の調整前ばねSとする。この成形開始時には、コイリングマシン3が回転体移動部11に進出移動信号を出力する。これを受けて、回転体移動部11は、図4(A)のように、回転体7を進出位置に移動させる。
【0063】
なお、進出移動信号は、調整前ばねSの成形途中又は成形完了後に出力してもよい。成形完了後に出力する場合は、回転体7の進出位置に移動させるために、線材Wの送り出しを停止してもよい。いずれにしても、回転体7の進出位置への移動は補助送りの前に行う。
【0064】
成形された調整前ばねSは、図2及び図4(B)のように、先端が回転体7の接触子17、特に係合片31に軸方向で接触するか僅かな隙間をもって対向し、内周に挿入部33が挿入される。これにより、調整前ばねSの先端は、接触子17に対して位置決めされる。なお、本実施例の調整前ばねSは、挿入部33を内周に挿入しないと先端が軸方向に対して揺動し、その後の回転体7の係合片31に始端Bを当接させることが困難になる。
【0065】
調整前ばねSの先端が回転体7の係合片31に軸方向で接触する際は、調整前ばねSが設計よりも軸方向に長い場合、接触子17をダンパーばね29の付勢力に抗して軸方向に変位させる。このとき、ダンパーばね29のばね定数が調整前ばねSのばね定数よりも小さいため、調整前ばねSの変位を抑制しつつ、確実に接触させることができる。
【0066】
また、回転体7の接触子17は、調整前ばねSの先端が接触しても、回転位置検出部9の非稼働状態のサーボモーター35の負荷トルクによって不用意に回転することが抑制される。
【0067】
次いで、調整前ばねSの始端Bを、図5(A)のように、線材Wの送出しにより回転体7の係合片31に回転方向で係合させる。すなわち、調整前ばねSが設定された巻き数となった時点で、コイリングマシン3が回転位置検出部9に補助送り開始信号を出力すると共に線材Wの補助送りを開始する。
【0068】
回転位置検出部9のモーター制御部37は、補助送り開始信号に応じて回転体7の回転位置を監視し、コイリングマシン3は、補助送りにより、調整前ばねSの始端Bを回転させると共に軸方向へ前進させて初期位置の回転体7の係合片31に回転方向で確実に係合させることができる。この係合片31への調整前ばねSの始端Bの係合は、成形中の調整前ばねSが設定された巻き数となった時又は後に行われる。なお、補助送りの開始前には、回転体7の進出位置への移動開始時期に拘わらず、一旦線材Wの送出しを停止させてもよい。
【0069】
次いで、線材Wのさらなる補助送りにより、図5(B)及び(C)のように、調整前ばねSの始端Bと共に回転体7を調整前ばねSの軸周りに回転させる。この回転によって回転体7が初期位置に対する所定の回転位置に位置すると、モーター制御部37は、補助送り終了信号をコイリングマシン3に送信する。これを受けて、コイリングマシン3は線材Wの送出しを停止する。
【0070】
また、コイリングマシン3は、補助送り終了信号の入力を受けると、回転体移動部11に後退移動信号を出力する。これを受けて、回転体移動部11は、図4(C)のように、回転体7を後退位置に移動させて、コイルばねSの内周から挿入部33を抜き出す。次いで、コイリングマシン3は、線材Wの送出しを行って座巻部E2を形成する。なお、座巻部E2は、一巻き~数巻き程度であるため、巻き数にズレは生じ難い。
【0071】
座巻部E2が形成された後は、コイリングマシン3が初期化信号をモーター制御部37に出力する。これを受けて、モーター制御部37は、サーボモーター35を稼働して回転体7を初期位置に戻す。また、コイルばねSは、図示しない切断機によって終端Tが切断され、単体として切り離される。
【0072】
[実施例1の効果]
以上説明したように、本実施例の製造装置1は、線材Wを送り出してコイル状に成形し、設定された巻き数のコイルばねSとするコイリングマシン3と、コイルばねSの軸周りに回転自在に支持された回転体7と、回転体7に設けられ、設定された巻き数となった調整前ばねSの始端Bを回転体7の回転方向で係合させて始端Bと共に回転体7を軸周りに回転可能とする係合片31と、回転体7の回転位置を検出する回転位置検出部9とを備える。
【0073】
コイリングマシン3は、回転位置検出部9での検出に基づき、回転体7が初期位置に対する所定の回転位置になったときに線材Wの送出しを停止する。
【0074】
従って、本実施例では、複数の製造されたコイルばねS間において始端Bの位置を含めた巻き数を揃えることができ、製造されたコイルばねSの巻き数のばらつきを抑制することができる。
【0075】
コイリングマシン3は、調整前ばねSが設定された巻き数となった後から回転体7が所定の回転位置になるまで相対的に低速で線材Wを送り出す。
【0076】
従って、本実施例では、調整前ばねSの始端Bを確実に係合片31に係合させて回転体7を回転させることができ、より高精度でコイルばねSの巻き数のばらつきを抑制することができる。
【0077】
しかも、線材Wを低速とすることで、調整前ばねSの始端Bが受け面31aに接触する際の衝撃を低減させ、始端Bと受け面31aを安定して確実に接触させた状態で始端B及び回転体7を回転させることができ、より高精度でコイルばねSの巻き数のばらつきを抑制することができる。
【0078】
また、本実施例の製造装置1は、回転体7に設けられ、調整前ばねSの内周に挿入される挿入部33を備えた。
【0079】
このため、調整前ばねSがピッチを設定された圧縮ばねとして成形される場合でも、調整前ばねSの先端を挿入部33によって確実に捕捉して回転体7に位置決め、調整前ばねSの始端Bを確実に係合片31に係合させることができる。
【0080】
また、本実施例の製造装置1は、回転体7を挿入部33の挿入が可能な進出位置と挿入が不能な後退位置とに移動させる回転体移動部11を備え、回転体移動部11は、回転位置検出部9での検出に基づき、回転体7が所定の回転位置になるまで回転体7を進出位置に配置して挿入部33を調整前ばねSの内周に挿入しておき、その後、回転体7を後退位置に移動させて挿入部33をコイルばねSの内周から抜き出し、コイリングマシン3は、回転体7が後退位置にあるときに座巻部E2を形成するための線材Wの送出しを行う。
【0081】
従って、ピッチのあるコイルばねSを製造する場合は、本体部BOを成形するときと座巻部E2を成形するときとで姿勢が変化するが、本実施例では、挿入部33をコイルばねSの内周から抜き出した後で座巻部E2を形成することにより、かかる姿勢の変化に対応しつつ確実に座巻部E2を成形することができる。
【0082】
本実施例の巻き数制御装置5は、コイリングマシン3に対しコイルばねSの巻き数を制御することにより、上記製造装置1と同様の作用効果を奏することができる。
【0083】
また、本実施例のコイルばねSの製造方法でも、上記製造装置1と同様の作用効果を奏することができる。
【符号の説明】
【0084】
1 製造装置
3 コイリングマシン
5 巻き数制御装置
7 回転体
9 回転位置検出部
11 回転体移動部
17 接触子
17a 表面
31 係合片
33 挿入部
S コイルばね
BO 本体部
E1,E2 座巻部
B 始端
図1
図2
図3
図4
図5