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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-05-11
(45)【発行日】2023-05-19
(54)【発明の名称】X線回折によるオブジェクトの認証方法
(51)【国際特許分類】
   G01N 23/207 20180101AFI20230512BHJP
   G01N 23/2055 20180101ALI20230512BHJP
【FI】
G01N23/207
G01N23/2055 320
【請求項の数】 15
(21)【出願番号】P 2020501170
(86)(22)【出願日】2018-07-11
(65)【公表番号】
(43)【公表日】2020-08-31
(86)【国際出願番号】 EP2018068790
(87)【国際公開番号】W WO2019011986
(87)【国際公開日】2019-01-17
【審査請求日】2021-04-19
(31)【優先権主張番号】17305914.8
(32)【優先日】2017-07-11
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(73)【特許権者】
【識別番号】511134470
【氏名又は名称】セントレ ナショナル デ ラ ルシェルシェ サイエンティフィック
(74)【代理人】
【識別番号】110000659
【氏名又は名称】弁理士法人広江アソシエイツ特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】ケンザリ,サミュエル
(72)【発明者】
【氏名】フォーニー,ヴィンセント
【審査官】田中 洋介
(56)【参考文献】
【文献】米国特許出願公開第2014/0119511(US,A1)
【文献】特開2016-132826(JP,A)
【文献】特開2017-009694(JP,A)
【文献】特開2009-192538(JP,A)
【文献】特表2008-545169(JP,A)
【文献】特許第4498600(JP,B2)
【文献】Limin Wang,Formations of amorphous and quasicrystal phases in Ti-Zr-Ni-Cu alloys,Journal of Alloys and Compounds,2003年,Vol.361,pp.234-240
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01N 23/00-23/2276
G06K 19/00-19/18
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
識別物質の使用であって、前記識別物質は、前記識別物質のX線回折シグネチャの分析による、認証方法における少なくとも1つのアモルファス相、少なくとも1つの結晶相および少なくとも1つの複合金属相を含み、前記複合金属相は、準結晶相、または近似相である、識別物質の使用。
【請求項2】
少なくとも1つのアモルファス相、少なくとも1つの結晶相および少なくとも1つの複合金属相を含む識別物質を含むオブジェクトを認証する方法において、
-候補オブジェクトの識別物質をXRD分析にかけ、そのXRDシグネチャを判定することと、
-前記候補オブジェクトの前記XRDシグネチャを基準XRDシグネチャと比較し、そのXRDシグネチャが前記基準XRDシグネチャと実質的に一致する場合に、前記オブジェクトの真正性を結論付けることとを含み、
前記複合金属相は、準結晶相、または近似相である、方法。
【請求項3】
前記識別物質が、前記オブジェクトに関連付けられるか、または前記オブジェクトに直接貼付されるラベルまたはタガントとして形成される、請求項2に記載の方法。
【請求項4】
前記オブジェクトが、少なくとも部分的に前記識別物質から製造され、または、前記識別物質が、前記オブジェクトのバルクにあるかもしくは前記オブジェクトと一体である、請求項2に記載の方法。
【請求項5】
オブジェクトを認証する方法において、
a)少なくとも1つのアモルファス相、少なくとも1つの結晶相および少なくとも1つの複合金属相を含む識別物質を製造するステップと、
b)所定量の前記識別物質をXRD分析にかけ、そのXRDシグネチャを判定し、後者を基準XRDシグネチャとして保存するステップと、
c)所定量の前記識別物質をオブジェクトに関連付けるステップと、
d)識別されるべきオブジェクトに関連付けられた候補識別物質をXRD分析にかけ、前記識別物質のXRDシグネチャを判定するステップと、
e)前記候補識別物質の前記XRDシグネチャを前記基準XRDシグネチャと比較し、そのXRDシグネチャが前記基準XRDシグネチャと実質的に一致する場合に、識別されるべき前記オブジェクトの真正性を結論付けるステップとを含み、
前記複合金属相は、準結晶相、または近似相である、方法。
【請求項6】
複数のラベルまたはタガントが前記識別物質から製造され、前記ラベルがオブジェクトに貼付されるかまたは結び付けられる、請求項5に記載の方法。
【請求項7】
所定量の前記識別物質が、オブジェクトのラベルもしくは包装に貼付されるか、またはオブジェクトに直接貼付される、請求項5に記載の方法。
【請求項8】
所定量の前記識別物質が、特にオブジェクトの製造および/または包装中に、認証されるべきオブジェクトのバルクに追加される、請求項5に記載の方法。
【請求項9】
前記識別物質が、アモルファス相を有する少なくとも1つのポリマーを含み、前記少なくとも1つのポリマーが、好ましくは、前記識別物質のマトリクスを形成する、請求項2から8のいずれか一項に記載の方法。
【請求項10】
前記識別物質が、少なくとも1つの近似金属相を有する金属合金を含む、請求項2から9のいずれか一項に記載の方法。
【請求項11】
前記識別物質が、少なくとも1つの準結晶相を有する金属合金を含む、請求項2から10のいずれか一項に記載の方法。
【請求項12】
前記識別物質が、少なくとも1つの結晶相および少なくとも1つの複合金属相を含む複合金属合金の粒子が埋め込まれた少なくとも1つのアモルファス相を有するポリマーマトリクスから構成される、請求項2から11のいずれか一項に記載の方法。
【請求項13】
前記比較ステップが、前記候補オブジェクトまたは前記候補識別物質の前記XRDシグネチャと前記基準XRDシグネチャとの間の関連ピークの角度位置を比較することを含む、請求項2から12のいずれか一項に記載の方法。
【請求項14】
前記比較ステップが、前記候補オブジェクトまたは前記候補識別物質の前記XRDシグネチャと前記基準XRDシグネチャとの間の関連ピークの相対強度を比較することを含む、請求項2から13のいずれか一項に記載の方法。
【請求項15】
前記識別物質が、所定の較正結晶、特にシリコンを含む、請求項2から14のいずれか一項に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、一般に、偽造されたオブジェクトを回避するために、商品、製品、物品、材料などのオブジェクトを認証する方法に関する。より具体的には、本発明は、X線回折分析に基づいてオブジェクトを認証する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
偽造は、範囲および規模が拡大している長年の問題である。偽造は、売り上げ、ブランド価値および企業の評判、ならびに技術革新の恩恵を受ける能力を有するインパクトのために、企業にとって懸念事項である。もちろん、消費者はまた、本物の製品として購入する製品が偽造品であるという詐欺の被害者であり、それらの製品は例えば重大な健康および安全上のリスクを伴う機械部品や薬物などである。州レベルでは、偽造は、消費者の福祉と健康に与える脅威、イノベーションに悪影響を与える可能性があり、ならびに社会を混乱および腐敗させる犯罪ネットワーク、組織犯罪およびその他のグループにつながる実質的な資金源となるため、政府にとって懸念事項である。
【0003】
今日、偽造品との戦いに使用することができる多くの技術がある。例えば、ナノおよび他の高度な技術は、ブランド保護、製品追跡およびトレースの新たな方法への扉を開いている:それは、実際の製品(それに影響を与えることなく)、ならびに包装を固有に「フィンガプリント」する可能性を提供する。これに関連して、非特許文献1は、40を超える非常に刺激的で、主に最近(主に2014年~2016年までの報告)の解決策を説明している。
【0004】
現在の偽造防止技術の選択肢は、製品の認証とセキュリティを含む一連の公然な、あるいは非公然な対策を含む。偽造防止市場は、主に2つのセグメント、すなわち、認証技術(明白なセキュリティ機能と秘密のセキュリティ機能を提供する技術)、および追跡およびトレース技術(サプライチェーン全体で製品の可視化を促進する技術)に分類されることができる。
【0005】
これらの技術選択肢は、セキュリティ用のシリアル番号、バーコード、識別用のデータマトリクスおよびRFID、ならびにホログラム、生体認証ソリューション、透かしおよびタガントを含む。これらの技術は、異なるレベルで独自の制限を有し、絶対確実ではない。
【0006】
偽造防止対策の1つの特定の課題は、RFIDデバイス、タガント、ホログラムまたは他のフィンガプリントのコピーを防ぐのが困難であることである。
【0007】
特許文献1は、X線回折(XRD)分析に基づいてアイテムをラベリングおよび識別する方法を開示している。この方法は、バインダ中の粉末結晶材料によって形成された光学識別要素を使用して、X線ビームによって照射されたときに複合X線回折パターンを提供する。複合X線回折パターンは、このアイテムを示している。この方法は、さらに、4つの異なる結晶材料のうちの1つ以上の選択および省略によって「符号化された」複合X線回折パターンの使用に依存している。
【0008】
光学識別要素には、様々な形状(ビーズ、円柱、繊維)が与えられることができ、ソート、追跡、識別、検証、認証、盗難防止/偽造防止、セキュリティ/反テロリズム、または他の目的など、多くの異なる目的のために使用されることができる。
【0009】
提案された方法は、多数の個別のコードを可能にし、非常に小さくすることができ、シグネチャが向きに関係なく読み取り可能であり、過酷な環境に耐えることができるため、興味深いものである。
【0010】
これらの利点にもかかわらず、特許文献1に開示された方法は、十分に安全ではないと思われる。実際に、XRDは、結晶材料を検出する標準的な方法である。光学識別要素を分析して、異なる結晶材料を検出し、非常に類似または同一のX線回折パターンを有する化合物を再現することは、当業者にとって比較的容易であろう。
【0011】
オブジェクトを認証する他の方法は、例えば、特許文献2、特許文献3、特許文献4、または非特許文献2から知られている。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
本発明の目的は、コピーするのが困難な固有のXRDフィンガプリントを提供する、XRD分析に基づいてオブジェクトを識別する改善された方法を提供することである。
【0013】
この目的は、請求項1に記載の使用および請求項2または5に記載の方法により達成される。
【0014】
本発明は、準結晶および近似金属合金の特性をアモルファスおよび/または結晶相と組み合わせて利用して、X線回折(XRD)分析によって物品を認証する改善された方法を提供する。
【0015】
第1の態様によれば、本発明は、化合物のX線回折シグネチャの分析によってオブジェクトを認証する方法において、少なくとも1つのアモルファス相、少なくとも1つの結晶相、および少なくとも1つの複合金属相を含む物質または化合物(以下、識別物質と呼ぶ)の使用を提案する。
【0016】
第2の態様によれば、オブジェクトを識別する方法において、オブジェクトが、少なくとも1つのアモルファス相、少なくとも1つの結晶相および少なくとも1つの複合金属相を含む識別物質を含む方法が提案される。この方法は、
-候補オブジェクトの識別物質をXRD分析にかけ、そのXRDシグネチャを判定することと、
-候補オブジェクトのXRDシグネチャを基準XRDシグネチャと比較し、そのXRDシグネチャが基準XRDシグネチャと実質的に一致する場合に、オブジェクトの真正性を結論付けることと、を備える。
【0017】
したがって、本発明の特徴は、少なくとも1つのアモルファス相、少なくとも1つの結晶相および少なくとも1つの複合金属相の組み合わせを含む識別物質の使用である。そのような識別物質は、固有のシグネチャまたはフィンガプリントを構成する固有の回折パターンを有し、その組成は、製造後に判定することができない。それぞれの成分の性質および量を正確に判定することができる利用可能な分析技術は今日存在しないことが理解されるべきである。特に、化学分析は、特定の特性X線回折パターンを提供する組成物を解読することはできず、異なる結晶相間の構造および関係を区別せずに異なる要素を単に識別するにすぎない。
【0018】
XRD分析はまた、各相のそれぞれの体積分率を特定することができないため、そのような識別物質の組成を判定することはできない。
【0019】
驚くべきことに、以下により詳細に見られるように、X線吸収現象ならびに異なる結晶および複合金属合金相の回折ピークの重複は、識別物質を構成する異なる相の様々な体積分率を正確に判定することを不可能にする。
【0020】
しかしながら、現在の識別物質は、既存の技術を使用して容易に製造されることができ、XRD分析によって認証されることができる。物質の製造時に、そのサンプルが保存されるか、または単にそのXRDシグネチャが基準シグネチャとして保存される。したがって、候補材料または物質の認証は、そのXRDシグネチャを基準XRDシグネチャと比較することによって行うことができる。
【0021】
XRDシグネチャの一意性と指定された化合物のコピーの不可能性は、視認可能または視認不可能な保護を必要とする商品や製品によって使用されることができる強力で安全な認証方法をもたらす。
【0022】
識別物質には、様々な形状(ビーズ、円柱、繊維)が与えられることができ、ソート、追跡、識別、検証、認証、盗難防止/偽造防止、セキュリティ/反テロリズム、または他の目的など、多くの異なる目的のために使用されることができる。
【0023】
実際には、識別材料のバッチ(すなわち、少なくとも1つのアモルファス相、少なくとも1つの結晶相および少なくとも1つの複合金属相を含む)が製造され、例えば認証目的でオブジェクトに関連付けられることができるラベルまたはタガントなど、任意の種類のマーカの製造に使用されることができるか、または任意の種類のマーカとして使用されることができる。したがって、所定量の任意の適切な形式の識別物質は、オブジェクトに直接貼付される(すなわち、物理的に関連付けられる)か、またはそれにリンクされるか、もしくは通知、ラベルもしくは包装に添付される。
【0024】
所定量の識別物質をオブジェクトのバルクに統合すること、またはそれと一体にすることも可能である。また、オブジェクトは、識別物質から一体的または部分的に製造されることができ、またはオブジェクトの構成要素は、識別物質から製造されることができる。
【0025】
したがって、識別物質を認証されるべきオブジェクトと組み合わせる様々な方法がある。
【0026】
基本的に、識別物質が製造され、そこからXRD分析が行われ、これは、基準XRDシグネチャとして機能する。
【0027】
「XRDシグネチャ」という用語は、基準識別物質またはXRDパターンの特性値を含む候補について測定されたXRD回折パターンの少なくとも一部を指定するために本明細書で使用される。XRDシグネチャは、グラフィカルに、またはデータセットとして保存されることができ、また、XRDパターンの一部のみまたはいくつかの部分は、認証目的に使用されることができる。実際には、XRDシグネチャは、分析されたサンプルを表す角度および強度値の特徴的なセットを含むことが好ましい。
【0028】
したがって、測定されたXRDシグネチャ(すなわち、候補サンプルについて)を基準サンプルと比較するステップは、それぞれのXRDシグネチャの対応を(グラフィック的にまたは数値的に)比較することで構成される。候補および基準XRDシグネチャは、ピークおよび強度の角度位置が正確に対応するかまたは特定の許容範囲内にある場合に一致すると見なされる。したがって、比較ステップは、主に、代表/特性ピークの角度位置の比較、および/または代表/特性ピーク間の相対強度の比較を伴う。
【0029】
較正を容易にするために、識別物質は、好ましくは、例えばシリコンなどの既知の較正結晶を含む。これは、回折図のx軸(シータ)に沿った正確な位置決めを可能にする。
【0030】
第3の態様によれば、本発明は、オブジェクトを認証する方法において、
a)少なくとも1つのアモルファス相、少なくとも1つの結晶相、および少なくとも1つの複合金属相を含む識別物質を製造するステップと、
b)所定量の識別物質をXRD分析にかけ、そのXRDシグネチャを判定し、後者を基準XRDシグネチャとして保存するステップと、
c)所定量の識別物質をオブジェクトに関連付けるステップと、
d)識別されるべきオブジェクトに関連付けられた候補識別物質をXRD分析にかけ、そのXRDシグネチャを判定するステップと、
e)候補識別物質のXRDシグネチャを基準XRDシグネチャと比較し、そのXRDシグネチャが基準XRDシグネチャと実質的に一致する場合に、識別されるべきオブジェクトの真正性を結論付けるステップとを備える、方法に関する。
【0031】
この方法では、より小さなまたはより大きな識別物質のバッチが形成され、取得された物質のXRDシグネチャは、将来の認証目的のための基準として保存される。識別物質は、任意の適切な形式のマーカ、ラベル、タガントの製造に使用される。
【0032】
例えば、複数のラベルまたはタガントは、識別物質から製造されることができ、ラベルは、オブジェクトに貼付されるかまたは結び付けられる。タガントはまた、オブジェクトのラベルもしくは包装に貼付されることができ、またはオブジェクトに直接貼付されることもできる。
【0033】
実施形態では、所定量の識別物質は、特にオブジェクトの製造および/または包装中に、認証されるべきオブジェクトのバルクに追加される。
【0034】
本方法は、現在の技術によって容易に実装されることができる。必要な3つの相を提供するために、様々な材料が利用可能である。X線回折分析は、標準的な技術であり、任意の適切なX線回折測定システムが使用されることができる。分析されるべきサンプル物質は、特定の調製を必要としない。得られた回折パターンおよび対応するシグネチャは、コンピュータ読み取り可能な支持体に保存されることができる。
【0035】
また、本発明において使用される識別物質は、例えば、積層造形、レーザ焼結、ステレオリソグラフィ、射出成形、樹脂成形などの任意のポリマー技術によって適応されて形成されることができる。
【0036】
これに関連して、識別物質の容易な製造を可能にするポリマー技術を利用するために、アモルファスまたは半結晶性ポリマーがマトリクスとして使用されることができ、それに他の必要な相を含む粒子が添加される。好ましくは、1つ以上の結晶相および/または1つ以上の複合金属相を含む粉末およびより微細なまたはより粗い粒子状物質が選択され、所望の混合物に応じて、所定量にしたがってポリマーマトリクスに添加される。
【0037】
本明細書では、「アモルファス相」という用語は、その従来の意味で使用され、一般に、結晶の特徴である長距離秩序を欠く非周期的な3D構造配置を指す。通常、アモルファス相では、X線は、多くの方向に散乱され、明確に定義されていない短距離秩序の広いピーク特徴のみをもたらす。好ましくは、アモルファス相は、ポリマーによって提供される。
【0038】
本明細書では、「結晶相」という用語は、その古典的な結晶学的意味で使用され、結晶構造、すなわち、原子、イオンまたは分子の規則的配列を指し、物質的に3次元空間の主方向に沿って周期的に繰り返される対称パターンを形成する。したがって、本明細書で使用される場合、「結晶相」という用語は、結晶の歴史的な定義を包含し、以下で定義されるように、いわゆる「準結晶」またはより一般的には「複合金属合金」を包含しない。結晶相は、鋭くて強い回折ピークの有限セットを特徴とする粉末XRDパターンを有する。
【0039】
本明細書では、「複合金属合金」および「複合金属相」という用語は、それぞれ、厳密に言えば準結晶相、またはいわゆる近似相のいずれかである合金および相を指す。厳密な意味での準結晶相は、古典的な結晶の並進対称特性とは通常互換性のない禁じられた回転対称性、すなわち、5、8、10、または12次の回転対称性を示す相である。例として、二十面体群対称性を有する二十面体相および十角形点群対称性を有する十角形相について言及されることができる。
【0040】
近似相または近似化合物は、それらの結晶構造が準結晶のものと同様の短距離秩序を有する並進対称性と互換性がある限り、真の結晶であるが、電子回折ショットでは、それらは、5、8、10、または12次の対称性に近い対称性の回折パターンを示す。それらは、数十個または数百個の原子を含む基本メッシュによって特徴付けられる相であり、局所的な順序では、関連する準結晶相に類似したほぼ二十面体または十角形の対称性の配列を表す。複合金属合金は、通常の金属合金よりもはるかに複雑な、鋭くて強い回折ピークの密なセットによって特徴付けられる粉末XRDを有する。
【0041】
これらの相の中で、以下のナノメートル(nm)で表されるメッシュパラメータを有する原子組成Al65Cu20Fe10Crの合金に特徴的な斜方晶相Oの例を挙げることができる:a (1)=2.366、b (1)=1.267、c (1)=3.252。この斜方晶相Oは、十角形相に近いと言われている。2つの相の性質は、透過型電子顕微鏡によって確認されることができる。
【0042】
Al64Cu24Fe12に近い原子組成の合金に存在するパラメータa=3.208nm、α=36°を有する菱面体晶相についても言及されることができる。この相は、二十面体相の近似相である。
【0043】
原子組成Al63Cu17.5Co17.5Siの合金に存在する、以下のnmのそれぞれのパラメータを有する斜方晶相OおよびO:a (2)=3.83、b (2)=0.41、c (2>=5.26;およびa (3)=3.25、b (3)=0.41、c (3)=9.8、または実際には原子組成Al63CuFe12Cr17の合金に形成される、以下のnmのパラメータを有する斜方晶相O:a (4)=1.46、b (4)=1.23、c (4)=1.24についても言及されることができる。
【0044】
近似または真の準結晶相と共存することが非常に頻繁に観察される立方体構造の相Cについても言及されることができる。特定のAl-Cu-FeおよびAl-Cu-Fe-Cr合金で形成されるこの相は、Cs-Clタイプの構造および格子定数a=0.297nmを有する相のアルミニウム部位に対する合金の元素の化学的秩序効果により、上部構造で構成される。
【0045】
相CおよびHの結晶間で電子顕微鏡によって観察されるエピタキシャル関係と、結晶格子のパラメータをつなぐ単純な関係、すなわち、aH=3√a1/√3(4.5%以内)およびcH=3√2・a/2(2.5%以内)とによって示されるように、相Cから直接得られる六角形構造の相Hについても言及されることができる。この相は、40重量%のMnを含むAl-Mn合金に見られる、ΦAlMnと書かれる六方晶相の同形である。
【0046】
立方晶相、その上部構造、およびそれから得られる相は、同様の組成の準結晶相の近似相のクラスを構成する。
【0047】
また、例えば、Al-Cu-Fe系の準結晶合金は、本発明にかかる方法における使用に適している。
【0048】
特に、以下の原子組成のいずれか1つを有する合金について言及されることができる:Al62Cu25.5Fe12.5、Al59Cu25.5Fe12.5、Al71Cu9.7Fe8.7Cr10.6、およびAl71.3Fe8.1Co12.8Cr7.8。これらの合金は、サンゴバン(Saint-Gobain:フランス)によって製造されている。特に、Al59Cu25.5Fe12.4合金は、Cristome F1という名称で販売され、Al71Cu9.7Fe8.7Cr10.6合金は、Cristome A1という名称で販売され、Al71.3Fe8.1Co12.8Cr7.8合金は、Cristome BT1という名称で販売されている。Cristome F1、A1およびBT1は、例として引用されるのみであり、限定するものとして解釈されるべきではない。
【0049】
本発明において使用するための複合金属合金は、50%を超えるアルミニウムの原子百分率を含む金属合金であってもよい。
【0050】
上記で説明したように、本発明は、少なくとも3つの以下の相:アモルファス相、結晶相および複合金属相の混合物を含む識別物質の固有の複合XRDシグネチャの使用に依存する。
【0051】
便宜上、アモルファス相は、アモルファス材料、特にポリマーによって提供される。識別物質は、固体粒子をアモルファス材料に添加して、少なくとも1つの結晶相と少なくとも1つの複合金属相とを形成することによって生成されることができる。
【0052】
適切なアモルファス材料は、例えば、アモルファスまたは半結晶性ポリマー、エラストマ、ガラス、金属ガラスである。
【0053】
結晶性物質に関しては、任意の適切な結晶性固体が使用されることができる。金属および金属合金が特に適している。
【0054】
識別物質の製造中に、それぞれの相を形成する異なる成分が所定量で混合され、各相のそれぞれの体積分率をもたらす。そのXRD回折パターンは、識別物質に存在する相のそれぞれの体積分率の関数であるため、そのような識別物質のXRDシグネチャは、調製された材料に固有かつ特有である。複合かつ近似相材料を使用しているため、材料は、出発組成(すなわち、初期材料およびそれぞれの量)の知識がなければ複製またはコピーされることができない。
【0055】
添付の図1は、本認証方法において使用される識別物質のXRDシグネチャの複雑さを示している。最初の3つのXRDパターンは、それぞれ、識別物質の以下の組成に対応している:
a)アモルファス相および結晶相を含む半結晶性ポリマー。ここで、主ピークは、結晶相によるものである。
b)2つの結晶相を含む近似金属合金。
c)1つの結晶相および1つの準結晶相を含む複合金属合金。
【0056】
ポリマーは、通常、他の相を形成する金属合金が、粉末、微細もしくは粗い粒子、または任意の適切な形状として添加されるマトリクスを形成する。
【0057】
上記の例では、半結晶性ポリマー(ここでは、ポリアミド12)は、50質量パーセント(m%)、近似金属合金25m%および複合金属合金25m%を表す。近似および複合金属合金は、適切な添加物(上記で説明したように、クロムまたはホウ素)を有するAl-Cu-Fe系の合金であった。
【0058】
これらの3つの材料を指定された量で混合して識別物質を形成することによって得られた複合材料のXRDパターンが図1d)に示されている。わかるように、個々の材料に存在する6つの相が組み合わさり、予測不可能な回折パターンを提供する。
【0059】
ポリマーは、質量および体積の観点で主要な構成要素であるが、小さなポリマーピークをもたらす吸収現象があることに留意されたい。これは、組成を解読する際に困難性を追加する。
【0060】
X線吸収現象ならびに異なる結晶および複合金属合金相の回折ピークの重複は、識別物質を構成する異なる相の様々な体積分率を正確に判定することを不可能にすることを理解されたい。
【0061】
したがって、図1d)のXRDパターンは、各相の体積分率を判定することができないため、再現されることができない固有のシグネチャまたはフィンガプリントを形成すると考えられる。識別物質/組成は、初期レシピ、すなわち、それぞれの成分およびそれらの量の知識なしでは再現されることができない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0062】
【文献】米国特許出願公開第2007/0121181号明細書
【文献】国際公開第2012/174232号パンフレット
【文献】米国特許出願公開第2005/0112360号明細書
【文献】米国特許出願公開第2007/0071951号明細書
【非特許文献】
【0063】
【文献】Report 「Nano and other Innovative Anti-Counterfeit Technologies」, published by the Technology Transfer Centre in April 2016
【文献】Yu Ping Zhang、「Anti-counterfeiting method using synthesized Nanocrystalline Cellulose Taggants」、21 November 2012, Ph.D Thesis McGill University, Montreal.
図1a)】
図1b)】
図1c)】
図1d)】