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特許7278257老化細胞を排除する薬学的作用物質を用いる、黄斑変性症、緑内障、および糖尿病性網膜症などの眼病態の治療
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-05-11
(45)【発行日】2023-05-19
(54)【発明の名称】老化細胞を排除する薬学的作用物質を用いる、黄斑変性症、緑内障、および糖尿病性網膜症などの眼病態の治療
(51)【国際特許分類】
   A61K 31/496 20060101AFI20230512BHJP
   A61P 27/02 20060101ALI20230512BHJP
   A61P 43/00 20060101ALI20230512BHJP
【FI】
A61K31/496
A61P27/02
A61P43/00 105
【請求項の数】 13
(21)【出願番号】P 2020507573
(86)(22)【出願日】2018-08-13
(65)【公表番号】
(43)【公表日】2020-10-22
(86)【国際出願番号】 US2018046553
(87)【国際公開番号】W WO2019033119
(87)【国際公開日】2019-02-14
【審査請求日】2021-08-13
(31)【優先権主張番号】15/675,171
(32)【優先日】2017-08-11
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(31)【優先権主張番号】62/579,793
(32)【優先日】2017-10-31
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(73)【特許権者】
【識別番号】517274752
【氏名又は名称】ユニティ バイオテクノロジー インコーポレイテッド
(73)【特許権者】
【識別番号】514148085
【氏名又は名称】バック インスティテュート フォー リサーチ オン エイジング
(74)【代理人】
【識別番号】100102978
【弁理士】
【氏名又は名称】清水 初志
(74)【代理人】
【識別番号】100102118
【弁理士】
【氏名又は名称】春名 雅夫
(74)【代理人】
【識別番号】100160923
【弁理士】
【氏名又は名称】山口 裕孝
(74)【代理人】
【識別番号】100119507
【弁理士】
【氏名又は名称】刑部 俊
(74)【代理人】
【識別番号】100142929
【弁理士】
【氏名又は名称】井上 隆一
(74)【代理人】
【識別番号】100148699
【弁理士】
【氏名又は名称】佐藤 利光
(74)【代理人】
【識別番号】100128048
【弁理士】
【氏名又は名称】新見 浩一
(74)【代理人】
【識別番号】100129506
【弁理士】
【氏名又は名称】小林 智彦
(74)【代理人】
【識別番号】100205707
【弁理士】
【氏名又は名称】小寺 秀紀
(74)【代理人】
【識別番号】100114340
【弁理士】
【氏名又は名称】大関 雅人
(74)【代理人】
【識別番号】100121072
【弁理士】
【氏名又は名称】川本 和弥
(72)【発明者】
【氏名】ホプキンス ジル
(72)【発明者】
【氏名】ツルダ パム
(72)【発明者】
【氏名】チャップマン クロード
(72)【発明者】
【氏名】スウェイガード ハリー
(72)【発明者】
【氏名】プーン ヤン
(72)【発明者】
【氏名】マーキス ダニエル
(72)【発明者】
【氏名】デビッド ナサニエル
(72)【発明者】
【氏名】ダナンバーグ ジェイミー
(72)【発明者】
【氏名】ラバージ レミ-マーティン
【審査官】春日 淳一
(56)【参考文献】
【文献】特表2016-506916(JP,A)
【文献】特表2014-507421(JP,A)
【文献】国際公開第2016/127135(WO,A1)
【文献】国際公開第2015/116740(WO,A1)
【文献】Longchuan Bai et.al.,BM-1197: A Novel and Specific Bcl-2/Bcl-xL Inhibitor Inducing Complete and Long-Lasting Tumor Regression In Vivo,PLOS ONE,2014年,9(6),e99404
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61K 9/00 ~ 9/72
A61K 31/00 ~ 31/80
A61K 33/00 ~ 33/44
A61K 47/00 ~ 47/69
A61P 1/00 ~ 43/00
CAplus/REGISTRY/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
眼における病的血管形成を有する対象の眼における機能的な血管系の修復を促進するための薬学的組成物であって、
またはそのリン酸化形態もしくは薬学的に許容される塩;および
またはその薬学的に許容される塩より選択される化合物の治療的有効用量を含む、薬学的組成物。
【請求項2】
前記化合物が、
またはそのリン酸化形態もしくは薬学的に許容される塩である、請求項1記載の薬学的組成物。
【請求項3】
前記化合物が、
またはその薬学的に許容される塩である、請求項1記載の薬学的組成物。
【請求項4】
硝子体内に投与される、請求項2または3記載の薬学的組成物。
【請求項5】
治療的有効用量が、単回の硝子体内用量である、請求項4記載の薬学的組成物。
【請求項6】
対象の眼における網膜および脈絡膜の血管漏出を改善するための薬学的組成物であって、
またはそのリン酸化形態もしくは薬学的に許容される塩;および
またはその薬学的に許容される塩より選択される化合物の治療的有効用量を含む、薬学的組成物。
【請求項7】
前記化合物が、
またはそのリン酸化形態もしくは薬学的に許容される塩である、請求項6記載の薬学的組成物。
【請求項8】
前記化合物が、
またはその薬学的に許容される塩である、請求項6記載の薬学的組成物。
【請求項9】
硝子体内に投与される、請求項7または8記載の薬学的組成物。
【請求項10】
治療的有効用量が、単回の硝子体内用量である、請求項9記載の薬学的組成物。
【請求項11】
対象が虚血性網膜症を有する、請求項1~10のいずれか一項記載の薬学的組成物。
【請求項12】
虚血性網膜症が、糖尿病性網膜症、未熟児網膜症、または糖尿病黄斑浮腫である、請求項11記載の薬学的組成物
【請求項13】
対象が、ウェット型加齢黄斑変性症を有する、請求項1~10のいずれか一項記載の薬学的組成物
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
関連出願
本開示は、2017年8月11日に出願された米国特許出願第15/675,171号(係属中)および2017年10月31日に出願された米国特許出願第62/579,793号(係属中)の優先権恩典を主張する。文献の引用を許可する管轄において、これらの優先権出願は、あらゆる目的のためにそっくりそのまま参照により本明細書にここで組み入れられる。
【0002】
発明の分野
一般に、下記に開示され特許請求される技術は、視覚障害をもたらす眼疾患の分野に関する。具体的には、本開示は、根底にある病態生理および総体的症状に関係付けられている老化細胞を排除することによって眼疾患を治療するために使用できる化合物ファミリーおよび技術を提供する。
【背景技術】
【0003】
背景
加齢に関連する眼疾患に起因する成人の視覚障害および失明の広まりは、現代医学の前に立ちはだかる最大級の困難である。
【0004】
世界保健機関によれば、3種の眼の病態が、世界中の中間所得の工業先進国における人々の視力状態への潜在的脅威として明らかになってきた。II型糖尿病の有病率の上昇が原因で、糖尿病性網膜症がWHOの優先順位リストの首位になった。緑内障は、何世紀にもわたって公知である身体障害性の眼疾患であり、その早期診断が困難であり生涯に渡る治療がしばしば必要であるために、依然として公衆衛生の検討課題に挙げられている。加齢黄斑変性症(AMD)は、視覚障害の世界的原因のうちで3位であり、失明有病率は8.7%である。加齢黄斑変性症は、工業先進国における視覚障害の主な原因である。
【0005】
米国国立眼科研究所(NEI)によれば、米国人口において、210万人が加齢黄斑変性症を患い、770万人が糖尿病性網膜症を患い、270万人が緑内障を患い、2440万人が白内障を患っている。注目すべきことには、これは、40歳を超えるアメリカ人の人口の実に26%に相当する。
【0006】
視覚能力障害の広がりおよび医学研究団体において受けるすべての注目にもかかわらず、これらの障害は大部分が難治性のままである。多くの病態には、利用可能な治療代案も疾患修飾性の治療代案もない。ほとんど例外なく、これらの障害を治療するために現在承認されているほとんどの薬物は、疾患を開始および/または維持する要因に対処するよりはむしろ、後期の病態生理または症状の緩和に照準を合わせている。
【0007】
治療法の現在利用可能な様式には、VEGFに関連した眼疾患(例えば、ウェット型AMD、糖尿病眼疾患)を治療するための血管内皮増殖因子(VEGF)物質の阻害剤、ドライ型AMDに対するビタミンおよび抗酸化薬、ならびに緑内障に対して眼内圧を低下させる薬剤が含まれる。一部の病態の治療には、レーザー治療が利用可能である:例えば、網膜浮腫または糖尿病に続発する新血管新生、静脈閉塞、および脈絡膜新生血管に対する網膜光凝固術;ならびに内科的療法では下げられない眼内圧上昇に対処するためのレーザー線維柱帯形成術。ドライ型AMDを含む多くの眼障害に対して、現在承認されている治療物質はない。ドライ型AMDの地図状萎縮を治療するために設計されたヒト化抗体(ランパリズマブ)についての第3相臨床試験は、最近、萎縮進行を防ぐという主要エンドポイントを達成するのに失敗した。治療物質が利用可能である眼疾患の場合でさえ、治療計画はしばしば煩わしく、長期の有効性は限定的である。
【0008】
ここに提供される本発明は、視覚系の障害の病態生理に関係付けられている老化細胞の排除によって眼疾患を治療するための新しいパラダイムを作り出す。以下の開示は、その実施形態および使用を概説し、結果として起こる利益の多くについて説明する。
【発明の概要】
【0009】
概要
本発明は、加齢に関連する多くの眼の病態が、老化表現型を有する細胞によって少なくともある程度媒介されるという発見に基づいている。老化細胞は加齢に伴って蓄積し、加齢に関連する病態の病態生理の一因となる因子を発現する。データにより、同年齢の患者において、加齢に関連する病態の重症度は、老化細胞の存在量と相互に関係があること、および老化細胞を取り除くことが病態を抑制する助けとなり得ることが示されている。
【0010】
眼の罹患組織から老化細胞を除去する低分子薬物が、眼病態の治療において特別な有効性を有する本発明の一部として提供される。これらの低分子薬物は、疾患の進行を阻害するだけでなく、病態生理の一部、例えば、視覚喪失を招く新血管新生および血管閉塞を逆転させることもできる。これらのセノリティック(senolytic)剤は、これまで難治性であった眼病態の臨床管理において有効であるために適切な用量および特異性プロファイルを有している。
【0011】
大まかに言えば、本発明は、病態の進行が遅れるか、または疾患の少なくとも1つの徴候もしくは症状の重症度が低くなるように、対象の眼の中または周囲の老化細胞を除去することによって、対象の眼病態を予防または治療するための技術を提供する。
【0012】
この開示の目的において、眼疾患は、6つの一般的な病態生理タイプに基づいて分類される。すなわち、虚血性または血管性の病態;変性病態;遺伝的病態;細菌、真菌、もしくはウイルスの感染症;炎症性病態;または医原性の病態。根底にある病態生理は、各疾患を治療するためのセノリティック戦略の実施にあたって有益である。これらのタイプに含まれる眼疾患の分類は、以下の開示で提供される。
【0013】
治療方法、個々の阻害剤およびセノリティック剤の単位用量、ならびに特定の目的用の使用が、本発明に含まれる。老化細胞を除去し眼病態を治療するために本発明において使用できる有効な作用物質には、以下の式を有する化合物またはそれらのリン酸化形態が含まれる:
式中、
R1およびR2は、独立にC1~C4アルキルであり、
R3、R4、およびR5は、独立に-Hまたは-CH3であり;
R8は、-OHまたは-N(R6)(R7)であり、ここで、R6およびR7は独立にアルキルまたはヘテロアルキルであり、かつ任意で環化されており;
X1は、-F、-Cl、-Br、または-OCH3であり;
X2は、-SO2R’または-CO2R’であり、ここで、R’は-H、-CH3、または-CH2CH3であり;
X3は、-SO2CF3、-SO2CH3、または-NO2であり;かつ
X5は、-F、-Br、-Cl、-H、または-OCH3である。
【0014】
いくつかの実施形態において、X3は-SO2CF3または-NO2であり、かつR8は-N(R6)(R7)であり、ここで、R6およびR7は独立にアルキルまたはヘテロアルキルであり、かつ任意で環化されている。
【0015】
技術が実行される仕方に応じて、特定の眼病態について総体的症状を全般的に改善するか、または進行を予防することに加えて、該技術は、以下の効果のうちの1つまたは複数を任意の組合せで有し得る:
・対象の眼の中または周囲のp16陽性老化細胞の数を減らす;
・対象の眼における新血管新生を抑制するかまたは逆転させる;
・対象の眼における血管閉塞を抑制するかまたは逆転させる;および
・対象の眼における眼内圧(IOP)の上昇を抑制するかまたは逆転させる。
【0016】
また、新規のスクリーニング方法も、本発明の一部として提供される。1つのこのような方法は、培養下または非ヒト試験対象の組織中の線維柱帯(TM)細胞と接触させ、試験物質が該培養下または組織中の老化細胞の数を減らすかどうかを明らかにすることにより、緑内障を治療するための薬学的化合物の候補としてその試験物質を選択する段階を含む。別のこのようなスクリーニング方法は、非ヒト試験対象の眼に試験物質を投与する段階、およびその試験物質が、動物疾患モデルの過程で引き起こされた新血管新生もしくは血管閉塞を抑制するかまたは逆転させるかどうかを明らかにする段階を含む。
【0017】
[本発明1001]
その必要のある対象において眼病態を予防または治療する方法であって、対象の眼の中または周囲の老化細胞を除去する段階を含み、それによって、病態の進行が遅れるか、または疾患の少なくとも1つの徴候もしくは症状の重症度が低くなる、前記方法。
[本発明1002]
眼病態が虚血性または血管性の病態である、本発明1001の方法。
[本発明1003]
虚血性または血管性の病態が、糖尿病性網膜症、緑内障性網膜症、虚血性動脈炎性視神経症、ならびに動脈および静脈の閉塞を特徴とする血管疾患、未熟児網膜症、ならびに鎌状赤血球網膜症より選択される、本発明1002の方法。
[本発明1004]
眼病態が変性病態である、本発明1001の方法。
[本発明1005]
変性病態が、皮膚弛緩症、眼瞼下垂、乾性角膜炎、フックス角膜ジストロフィー、老眼、白内障、ウェット型加齢黄斑変性症(ウェット型AMD)、ドライ型加齢黄斑変性症(ドライ型AMD);硝子体黄斑牽引(VMT)症候群、黄斑円孔、網膜上膜(ERM)、網膜裂孔、網膜剥離、および増殖性硝子体網膜症(PVR)を含む変性性硝子体障害より選択される、本発明1004の方法。
[本発明1006]
眼病態が遺伝的病態である、本発明1001の方法。
[本発明1007]
遺伝的病態が、色素性網膜炎、シュタルガルト病、ベスト病、およびレーベル遺伝性視神経症(LHON)より選択される、本発明1006の方法。
[本発明1008]
眼病態が、細菌、真菌、またはウイルス感染によって引き起こされる、本発明1001の方法。
[本発明1009]
眼病態が、水痘状帯状疱疹(HZV)、単純ヘルペス、サイトメガロウイルス(CMV)、およびヒト免疫不全ウイルス(HIV)より選択される病因因子によって引き起こされる、本発明1008の方法。
[本発明1010]
眼病態が炎症性病態である、本発明1001の方法。
[本発明1011]
炎症性病態が、点状脈絡膜炎(PIC)、多病巣性脈絡膜炎(MIC)、および匐行性脈絡膜症より選択される、本発明1010の方法。
[本発明1012]
眼病態が、医原性の病態である、本発明1001の方法。
[本発明1013]
医原性の病態が、硝子体切除後の白内障および放射線網膜症より選択される、本発明1012の方法。
[本発明1014]
その必要のある対象において複数の眼病態を同時に治療する方法であって、対象の任意の眼の中または周囲の老化細胞を除去する段階を含み、それによって、病態の進行が遅れるか、または該病態の少なくとも1つの徴候もしくは症状の重症度が低くなる、前記方法。
[本発明1015]
眼病態を治療するために対象に投与される非セノリティックな(non-senolytic)薬学的作用物質の治療的効果を増強する方法であって、対象の眼の中または周囲の老化細胞を除去し、それによって、治療的効果を達成するのに必要とされる非セノリティックな薬学的作用物質の投与頻度を少なくする段階を含む、前記方法。
[本発明1016]
非セノリティックな薬学的作用物質が、血管内皮増殖因子(VEGF)の活性を阻害する作用物質である、本発明1015の方法。
[本発明1017]
老化細胞を、Bcl-xL、Bcl-2、またはBcl-wを阻害するための手段とインサイチューで接触させることにより、該老化細胞が除去される、前記本発明のいずれかの方法。
[本発明1018]
老化細胞によって媒介される眼病態を予防または治療する方法であって、以下に示す式(I)を含む化学構造を有する化合物またはそのリン酸化形態を含む薬学的組成物を、眼の中または周囲に投与する段階を含む、前記方法:
式中、
R 1 およびR 2 は、独立にC 1 ~C 4 アルキルであり、
R 3 、R 4 、およびR 5 は、独立に-Hまたは-CH 3 であり;
R 8 は、-OHまたは-N(R 6 )(R 7 )であり、ここで、R 6 およびR 7 は独立にアルキルまたはヘテロアルキルであり、かつ任意で環化されており;
X 1 は、-F、-Cl、-Br、または-OCH 3 であり;
X 2 は、-SO 2 R’または-CO 2 R’であり、ここで、R’は-H、-CH 3 、または-CH 2 CH 3 であり;
X 3 は、-SO 2 CF 3 、-SO 2 CH 3 、または-NO 2 であり;
X 5 は、-F、-Br、-Cl、-H、または-OCH 3 である。
[本発明1019]
X 3 が-SO 2 CF 3 または-NO 2 であり、かつ
R 8 が-N(R 6 )(R 7 )であり、ここでR 6 およびR 7 は独立にアルキルまたはヘテロアルキルであり、かつ任意で環化されている、
本発明1018の方法。
[本発明1020]
老化細胞によって媒介される眼病態を予防または治療する方法であって、以下に示す式(II)を含む化学構造を有する化合物またはそのリン酸化形態を含む薬学的組成物を、眼の中または周囲に投与する段階を含む、前記方法:
式中、
R 1 およびR 2 は、独立にC 1 ~C 4 アルキルであり;
R 3 およびR 4 は、独立に-Hまたは-CH 3 であり;
R 8 は-OHまたは
であり;
X 1 は、-F、-Cl、-Br、または-OCH 3 であり;
X 2 は、-SO 2 R’または-CO 2 R’であり、ここで、R’は-H、-CH 3 、または-CH 2 CH 3 であり;
X 3 は、-SO 2 CF 3 、-SO 2 CH 3 、または-NO 2 であり;
X 4 は、-OH、-COOH、または-CH 2 OHであり;
X 5 は、-F、-Cl、または-Hであり;かつ
n 1 およびn 2 は、独立に1、2、または3である。
[本発明1021]
X 3 が、-SO 2 CF 3 または-NO 2 であり、かつ
R 8 が、
であり、ここで、X 4 は、-OHまたは-COOHである、
本発明1020の方法。
[本発明1022]
前記化合物が、以下の特徴のうちの1つまたは複数を任意の組合せで有する、本発明1020の方法:
R 1 がイソプロピルである;
R 2 がメチルである;
R 3 が-Hである;
R 4 が-Hである;
X 1が -Clである;
X 2 が-SO 2 CH 3 である;
X 3が -SO 2 CF 3 である;
X 4が -OHである;
n 1 が2である;および
n 2 が2である。
[本発明1023]
前記化合物が前記特徴のすべてを有する、本発明1022の方法。
[本発明1024]
前記化合物がリン酸化されている、本発明1018~1023のいずれかの方法。
[本発明1025]
前記化合物がリン酸化されていない、本発明1018~1023のいずれかの方法。
[本発明1026]
眼病態が眼底疾患である、本発明1018~1025のいずれかの方法。
[本発明1027]
眼病態が加齢黄斑変性症(AMD)である、本発明1026の方法。
[本発明1028]
眼病態がウェット型AMDである、本発明1027の方法。
[本発明1029]
眼病態がドライ型AMDである、本発明1027の方法。
[本発明1030]
眼病態が糖尿病性網膜症である、本発明1027の方法。
[本発明1031]
眼病態が、眼球前部の疾患である、本発明1018~1025のいずれかの方法。
[本発明1032]
眼病態が緑内障である、本発明1031の方法。
[本発明1033]
対象の眼の中または周囲のp16陽性老化細胞の数を減らす効果を有する、本発明1001~1032のいずれかの方法。
[本発明1034]
対象の眼における新血管新生を抑制するかまたは逆転させる効果を有する、本発明1001~1032のいずれかの方法。
[本発明1035]
対象の眼における血管閉塞を抑制するかまたは逆転させる効果を有する、本発明1001~1032のいずれかの方法。
[本発明1036]
対象の眼における眼内圧(IOP)の上昇を抑制するかまたは逆転させる効果を有する、本発明1001~1032のいずれかの方法。
[本発明1037]
その必要のある対象において眼病態を治療するための、単位用量の薬学的組成物であって、
該組成物が、(上記の)式Iまたは式IIに示す構造またはそのリン酸化形態を含むBcl阻害剤を含み;
セノリティック剤が、眼への硝子体内または前房内投与に適している製剤の一部分であり;かつ
単一用量として硝子体内または前房内に投与された場合に、有害作用を引き起こすことなく疾患の進行を遅らせるかまたは疾患の少なくとも1つの徴候もしくは症状の重症度を低くすることにより眼疾患を治療する際に有効であるように、該組成物の該製剤および該単位用量における該セノリティック剤の量により該単位用量が設定される、
前記薬学的組成物。
[本発明1038]
眼病態の治療において使用するための、(上記の)式Iまたは式IIに示す構造またはそのリン酸化形態を含むBcl阻害剤。
[本発明1039]
Bcl阻害剤がリン酸化されている、本発明1037または本発明1038の製品。
[本発明1040]
Bcl阻害剤がリン酸化されていない、本発明1037または本発明1038の製品。
[本発明1041]
眼病態が虚血性または血管性の病態である、本発明1037または本発明1038の製品。
[本発明1042]
虚血性または血管性の病態が、糖尿病性網膜症、緑内障性網膜症、虚血性動脈炎性視神経症、ならびに動脈および静脈の閉塞を特徴とする血管疾患、未熟児網膜症、ならびに鎌状赤血球網膜症より選択される、本発明1041の製品。
[本発明1043]
眼病態が変性病態である、本発明1037または本発明1038の製品。
[本発明1044]
変性病態が、皮膚弛緩症、眼瞼下垂、乾性角膜炎、フックス角膜ジストロフィー、老眼、白内障、ウェット型加齢黄斑変性症(ウェット型AMD)、ドライ型加齢黄斑変性症(ドライ型AMD);硝子体黄斑牽引(VMT)症候群、黄斑円孔、網膜上膜(ERM)、網膜裂孔、網膜剥離、および増殖性硝子体網膜症(PVR)を含む変性性硝子体障害より選択される、本発明1043の製品。
[本発明1045]
眼病態が遺伝的病態である、本発明1037または本発明1038の製品。
[本発明1046]
遺伝的病態が、色素性網膜炎、シュタルガルト病、ベスト病、およびレーベル遺伝性視神経症(LHON)より選択される、本発明1045の製品。
[本発明1047]
眼病態が細菌、真菌、またはウイルス感染によって引き起こされる、本発明1037または本発明1038の製品。
[本発明1048]
眼病態が、水痘状帯状疱疹(HZV)、単純ヘルペス、サイトメガロウイルス(CMV)、およびヒト免疫不全ウイルス(HIV)より選択される病因因子によって引き起こされる、本発明1047の製品。
[本発明1049]
眼病態が炎症性病態である、本発明1037または本発明1038の製品。
[本発明1050]
炎症性病態が、点状脈絡膜炎(PIC)、多病巣性脈絡膜炎(MIC)、および匐行性脈絡膜症より選択される、本発明1049の製品。
[本発明1051]
眼病態が医原性の病態である、本発明1037または本発明1038の製品。
[本発明1052]
医原性の病態が、硝子体切除後の白内障および放射線網膜症より選択される、本発明1051の製品。
[本発明1053]
前記Bcl阻害剤が、ある量の該Bcl阻害剤と、前記製品を投与する対象の眼の中または周囲のp16陽性老化細胞の数を減らすのに有効な製剤とを含む薬学的組成物に含まれる、本発明1037~1052のいずれかの製品。
[本発明1054]
前記Bcl阻害剤が、ある量の該Bcl阻害剤と、前記製品を投与する対象の眼における新血管新生を抑制するかまたは逆転させるのに有効な製剤とを含む薬学的組成物に含まれる、本発明1037~1052のいずれかの製品。
[本発明1055]
前記Bcl阻害剤が、ある量の該Bcl阻害剤と、前記製品を投与する対象の眼における血管閉塞を抑制するかまたは逆転させるのに有効な製剤とを含む薬学的組成物に含まれる、本発明1037~1052のいずれかの製品。
[本発明1056]
前記Bcl阻害剤が、ある量の該Bcl阻害剤と、前記製品を投与する対象の眼における眼内圧(IOP)の上昇を抑制するかまたは逆転させるのに有効な製剤とを含む薬学的組成物に含まれる、本発明1037~1052のいずれかの製品。
[本発明1057]
緑内障を治療するための見込みのある薬学的化合物として試験物質を選択するための方法であって、培養下または非ヒト試験対象の組織中の線維柱帯(TM)細胞と接触させる段階、および試験物質が該培養下または組織中の老化細胞の数を減らすかどうかを明らかにする段階を含む、前記方法。
[本発明1058]
加齢黄斑変性症(AMD)、糖尿病性網膜症、または他の虚血性病態、血管性病態、もしくは変性病態を治療するための見込みのある薬学的化合物として試験物質を選択するための方法であって、非ヒト試験対象の眼に試験物質を投与する段階、および該試験物質が新血管新生または血管閉塞を抑制するかまたは逆転させるかどうかを明らかにする段階を含む、前記方法。
[本発明1059]
眼病態が、本開示で説明される任意の眼病態である、本発明1001および本発明1018~1025のいずれかの方法。
[本発明1060]
眼病態が、本開示で説明される任意の眼病態である、本発明1037または本発明1038の製品。
本発明の技術の他の特徴は、下記のセクションおよび添付の特許請求の範囲で提供される。
【図面の簡単な説明】
【0018】
図1A図1Aは、虚血に起因する、眼における病態生理学的相互作用を示すフローチャートである。
図1B図1Bは、網膜神経節細胞(RGC)細胞死を招く、緑内障の多因子性病態生理を示すフローチャートである。
図1C図1Cは、加齢黄斑変性症における病態生理学的カスケードを示すフローチャートである。
図1D図1Dは、レーベル遺伝性視神経症において細胞変性および細胞死を招く事象を示すフローチャートである。
図2-1】図2Aは、色素性網膜炎の各段階における網膜細胞消失を示す、組織病理の画像を含む。
図2-2】図2B、2C、2D、および2Eは、それぞれ、正常網膜ならびに糖尿病、鎌状赤血球症、および炎症性血管炎に起因する網膜の無灌流および新血管新生についての蛍光眼底血管造影図である。
図3A-1】図3Aおよび3Bは、Bcl-2またはBcl-xLへの結合に基づいてライブラリーより選択された9種の特定の化合物を示す。
図3A-2】図3Aおよび3Bは、Bcl-2またはBcl-xLへの結合に基づいてライブラリーより選択された9種の特定の化合物を示す。
図3B-1】図3Aおよび3Bは、Bcl-2またはBcl-xLへの結合に基づいてライブラリーより選択された9種の特定の化合物を示す。
図3B-2】図3Aおよび3Bは、Bcl-2またはBcl-xLへの結合に基づいてライブラリーより選択された9種の特定の化合物を示す。
図4A図4A、4B、および4Cは、BclアイソフォームであるBcl-xL、Bcl-2、およびBcl-wへの9種の化合物の定量的結合親和性をそれぞれ示す。データを示されている各化合物は、指定のBM番号に基づいて区別されている。
図4B図4A、4B、および4Cは、BclアイソフォームであるBcl-xL、Bcl-2、およびBcl-wへの9種の化合物の定量的結合親和性をそれぞれ示す。データを示されている各化合物は、指定のBM番号に基づいて区別されている。
図4C図4A、4B、および4Cは、BclアイソフォームであるBcl-xL、Bcl-2、およびBcl-wへの9種の化合物の定量的結合親和性をそれぞれ示す。データを示されている各化合物は、指定のBM番号に基づいて区別されている。
図5A図5A、5B、および5Cは、どのような部分構造がこれらの化合物の所望の特性に寄与しているかを明らかにするために、有効な化合物の構造を比較した方法を示す。
図5B図5A、5B、および5Cは、どのような部分構造がこれらの化合物の所望の特性に寄与しているかを明らかにするために、有効な化合物の構造を比較した方法を示す。
図5C図5A、5B、および5Cは、どのような部分構造がこれらの化合物の所望の特性に寄与しているかを明らかにするために、有効な化合物の構造を比較した方法を示す。
図6図6は、Bclアイソフォームへの結合親和性および培養中の老化線維芽細胞(SnC)を死滅させるための有効濃度(EC50)を示す。
図7図7は、セノリティック剤でインビボ処置された老化網膜微小血管内皮細胞(HRMEC細胞)および対照細胞の濃度反応曲線である。
図8図8は、セノリティック剤でインビボ処置されたヒト老化網膜色素上皮(RPE)細胞および対照細胞の濃度反応曲線である。この除去剤は、正常な増殖性RPE細胞よりも老化細胞に対して、はるかに高い効力(低いLD50)を有している。非老化RPE細胞と比べた老化RPE細胞に対する選択指数は、10~100の間である。
図9図9Aおよび9Bは、セノリティック剤UBX1967を硝子体内に投与された場合の、マウス酸素誘発性網膜症(OIR)モデルにおける新血管新生および血管閉塞の両方の逆転を示す。
図10図10A、10B、10C、および10Dは、UBX1967による治療後の、老化関連マーカーのRNA転写物レベルにおける発現レベルの低下を示す。
図11図11Aおよび11Bは、糖尿病性網膜症のストレプトゾトシン(STZ)モデルに由来する。STZによって誘発される血管漏出は、UBX1967の硝子体内投与によって減る。
図12図12Aおよび12Bは、原発性開放隅角緑内障(POAG)患者から採取した組織中のp16(老化細胞のマーカー)についての免疫組織化学的染色を示す。p16陽性細胞は、線維柱帯(TM)において目立っている。
図13図13Aおよび13Bは、原発性開放隅角緑内障(POAG)と診断されたドナーから得られたヒト眼組織におけるp16の発現を示す。
図14図14Aおよび14Bは、加齢黄斑変性症(AMD)患者のヒト網膜組織におけるp16についての免疫組織化学的染色を示す。
【発明を実施するための形態】
【0019】
詳細な説明
概要
加齢に関連しているか、または老化を促進させる表現型をもたらす細胞欠陥に関連する多くまたはほとんどの眼病態は、加齢に伴って蓄積し眼組織に有害な影響を有する老化細胞によって、少なくともある程度、引き起こされるかまたは媒介されるということが、本開示の前提である。典型的には、老化細胞は、複製能力をもはや有していないが、起源とする組織中に残存して細胞老化随伴分泌現象(SASP)を誘発する細胞である。老化細胞は、眼の中および周囲に存在する細胞を含む、様々な組織型の増殖性細胞に由来すると考えられている。SASP因子には、血管形成分子、炎症性分子、線維性分子、および細胞外基質修飾性の分子が含まれる(Acosta et al., 2013)。眼病変に関係付けられているいくつかの因子は、老化細胞によって産生される因子群の一部である。こういう訳で、老化細胞の排除または制御は、老化細胞を排除するだけでなく、それらの関連SASP因子および周囲細胞への影響を減らすことによって眼疾患を治療するための手段を実現する。
【0020】
臨床の場に存在する様々な眼の病態は、異なる徴候および症状を有しており、かつ異なるタイプの病態生理学的メカニズムを有している。眼の病態の異質性は、疾患病理における老化細胞の推定される役割と合致しており、これは、老化細胞が異なる細胞系統に由来し、異なるストレス要因によって誘導され、異なる眼組織中に存在し、異なる様式で周囲細胞と相互作用し得ることに起因する。それでもなお、眼の様々な組織中の老化細胞は、視覚系の全体にわたる障害の一因となる関連する分泌性表現型を有する。組織から老化細胞を特異的に取り除くことを、本開示において老化細胞除去(senolysis)と呼ぶ。老化細胞除去の能力がある低分子化合物は、セノリティック剤と呼ばれ、老化誘導のメカニズム、SASPプロファイル、または細胞系統を問わず、老化細胞を取り除く。
【0021】
実例として、本発明者らは、Bclファミリーのタンパク質の阻害剤が、眼球後部に存在することが公知である細胞型に由来し、AMDのような網膜疾患に関係付けられている細胞である老化細胞のアポトーシスを開始させ、また、眼の前区画に存在することが公知である細胞型に由来し、緑内障のような疾患に関係付けられている細胞である老化細胞のアポトーシスも開始させることを見出した。
【0022】
医薬品開発の現在のパラダイムを変える発見
眼病態の媒介における老化細胞の一般的役割についての新たな理解に加えて、医薬品開発のための新しい道を開く他の発見が、本開示で説明される。
【0023】
1つは、緑内障患者の線維柱帯中および対応する動物モデル中で老化細胞が豊富であるという発見である。眼内圧上昇は、主に毛様体における眼房水の過剰産生または主に線維柱帯を通る水性体液の流出量の減少のいずれかが原因で生じる。本明細書において提示されるデータは、疾患の根底にある病態生理の少なくとも一部分は、線維柱帯を通りシュレム管および強膜上静脈を下って眼窩静脈系に入る眼内液の排出の障害であるという考えと合致している。小柱網中の細胞へのセノリティック薬物のターゲティングは、単独療法としても、体液産生を調節することにより作用する薬物との組合せにおいても、医薬開発のための重要な新しい手段である。
【0024】
別の発見は、糖尿病性網膜症のような疾患において眼球後部から老化細胞を除去することは、疾患進行を抑制するだけではないということ、すなわち、これは、新血管新生および血管閉塞を含む、視覚喪失を招く病態生理の一部を実際に逆転させるということである。本発明者らの知る限りでは、網膜症の経過をこの程度まで逆転させることができる現行の治療法は(臨床の場でも開発段階でも)ない。今や、眼病態に対する治療法の目標は、より野心的なもの―これらの疾患の患者に生活の質の向上に対する新たな希望を与えること―であることができる。
【0025】
老化細胞を取り除くことによって眼病態を治療することの利点
様々な眼病態の促進または媒介における老化細胞の役割は、管理する臨床医にとっていくつかの利点がある治療へのアプローチを提供する。
・老化細胞は非増殖性であるため、老化細胞の排除は、一連の治療間の長い期間にわたって持続する臨床的に有益な効果をもたらす可能性がある。老化細胞によって媒介される病態の特徴は、少なくとも老化細胞が再蓄積するまで、なくなる。(加齢に関連する疾患の性質が、長年にわたって徐々に発達するものであることを考慮すれば)老化細胞はゆっくりと蓄積する可能性が高いため、1回の治療または治療周期の効果が、数週間、数ヶ月、または数年間、持続し得る。
・老化細胞は、炎症または組織破壊など他のタイプの病変を悪化させるという点で、老化細胞除去の長期にわたって持続する効果は、そのような病変を寄せ付けない時間帯を提供して、修復の機会を組織に与える可能性がある。このことは、老化細胞医薬品が眼病態の進行を停止するだけでなく、患者の利益となるように疾患およびその症状のある程度の逆転を可能にする可能性を有することを意味する。
・眼の異なる部分の老化細胞が同じセノリティック剤に反応するため、同じ患者のいくつかの異なる眼疾患を同時に治療することができる。例えば、患者は、緑内障および黄斑変性症などの既に進行中であるいくつかの疾患過程を臨床医に提示する場合がある。多数の病態のそれぞれについての疾患および症状に対処する治療プロトコールにおいて単一のセノリティック剤を投与することが可能である場合がある。利便性のほかに、このアプローチには、病態のそれぞれを個別に治療するために複数の薬物が組み合わせて与えられた結果として生じ得る副作用のリスクを下げるというさらなる利点がある。さらに、眼の1つの部分の細胞によって誘発される因子が、眼の他の部分に影響を与える場合があり、その結果、2つの部位に対する老化の治療が、両方の疾患に有益な効果を有し得る可能性がある。
・セノリティック医薬品は疾患の初期の病変に対処することから、後期の病変を治療するためまたは病態に起因する症状を緩和するために施される他のタイプの治療法への重要な補助剤であることができる。治療法の2つの様式が、相乗的または相加的に作用して、いずれかの様式を別々に施す場合の負担、頻度、および副作用を減らす可能性がある。
【0026】
根底にある病態生理に基づく眼疾患の分類
本発明に従う眼病態の治療の指針として、根底にある主要な病態生理に基づいて、病態を分類することができる。同じ分類の範囲に入る病態は、同じ原理および同様の目標を有するセノリティック医薬品の適用を受け入れやすい。
【0027】
治療に適した眼病態を、以下の分類の範囲内で、下記により詳細に考察する:
・タイプ1:虚血性または血管性の病態:
組織を機能的に保つための細胞代謝に必要とされる酸素および/または必須栄養素の欠乏を引き起こす、組織への血液供給の制限に起因する。
・タイプ2:変性病態:進行性の視覚障害を招く、組織または器官の質、機能、または構造の漸進的な劣化を特徴とする。
・タイプ3:遺伝的病態:個体のDNA配列における変異、欠失、または挿入が原因で生じる。
・タイプ4:細菌、ウイルス、寄生虫、または真菌などの病原性微生物が原因で生じる感染性病態。これらの疾患は、人から人へ直接的にまたは間接的に広がり得る。
・タイプ5:傷害、異物、または組織の破壊によって誘発される局所的応答を特徴とする炎症性病態。この局所的応答は、炎症誘発性メディエーターの産生および免疫系細胞の動員を介して、傷害性物質および傷害組織の両方を破壊するか、強度を弱めるか、または隔離する役割を果たす。
・タイプ6:患者に対して行われた診断処置および治療処置の結果である疾患として定義される、医原性の病態。
【0028】
この分類は、読者が本発明を理解し、特定の患者に適用するのを支援するために提供され、本技術の適用を制限することを意図していない。ある種の病態は、これらのカテゴリーのうちのいくつかを引き起こし得る。例えば、炎症過程が、他の原因が根底にある病理学的過程の一因となる場合がある。同様に、SASPが、最初の傷害に関係なく、その他の病理的過程の引き金となる場合もある。
【0029】
治療デザイン
老化細胞は加齢に伴って蓄積し、このことが、老化細胞によって媒介される病態が、高齢者においてより頻繁に生じる理由である。さらに、眼組織に様々なタイプのストレスが加わることにより、老化細胞およびそれらが発現する表現型の出現が促進され得る。細胞のストレス要因には、酸化ストレス、代謝ストレス、(例えば、周囲の紫外線への曝露または遺伝子障害の結果としての)DNA損傷、癌遺伝子活性化、および(例えば、過剰増殖に起因する)テロメア短縮が含まれる。このようなストレス要因の影響下にある眼組織は、老化細胞の存在率が高くなっている場合があり、その結果として、より若い年齢で、またはより重度の形態で、ある種の眼疾患を発症することになる場合がある。ある種の眼疾患に対する遺伝性の感受性から、疾患を媒介する老化細胞の蓄積は直接的にまたは間接的に遺伝的要素の影響を受ける場合があり、このことが早めの発症を招き得ることが示唆される。
【0030】
本発明によるセノリティック剤を用いて特定の眼病態を治療する場合、治療計画は、老化細胞の位置および疾患の病態生理によって決まる。
【0031】
位置に関して、視覚系の障害は、大まかに、前方および後方に分類される。前眼部病態は、水晶体嚢の後壁または毛様体筋の前方に位置する前眼領域または前眼部位、例えば、眼周囲筋、眼瞼、または眼の組織もしくは体液に影響を及ぼすか、または関係する、疾患、病気、または病態である。後眼部病態は、後眼領域または後眼部位、例えば、脈絡膜、毛様体、硝子体、硝子体腔、網膜、網膜色素上皮、ブルッフ膜、視神経(すなわち視神経乳頭)、視覚路、ならびに後眼領域または後眼部位に血管形成または神経支配する血管および神経に主に影響を及ぼすか、または関係する、疾患、病気、または病態である。
【0032】
病態生理に関して、老化細胞およびSASP発生は、持続的な細胞の機能不全および変性/死の一因となり得る。老化細胞およびそれらの関連SASP因子は、病態生理において存在する血管形成タンパク質、炎症性タンパク質、線維性タンパク質、および細胞外基質修飾性のタンパク質を妨害することにより、持続的な細胞の機能不全、細胞消失、および疾患進行に対する関連した寄与に影響し得る。
【0033】
したがって、臨床の場で明らかにされているように、病変部位の中または周囲の老化細胞を排除するか、または数を減らすことにより、病態の原因または媒介物のうちの少なくとも1つが取り除かれる。セノリティック剤は、病変部位の中または周囲の老化細胞と接触して、病態の進行を停止し、かつ/もしくは病態の徴候および症状が緩和される程度まで、老化細胞を取り除き、かつ/またはそれらの活性を阻害するような方法で、製剤化され投与される。
【0034】
ほぼ同じ位置の老化細胞によって媒介され、かつ/または根底にある病理が類似している様々な病態は、しばしば、同じ方法で治療される。例えば、セノリティック剤は、例えば、点眼剤、軟膏剤を用いるか、またはコンタクトレンズの適用による、前眼部の障害における罹患部位、例えば、結膜および/または角膜への局部的な局所投与によって投与することができる。前房内または硝子体内のいずれかへの眼内注射は、前眼部および後眼部の両方の障害に対して施すことができる。
【0035】
視覚系の障害の診断およびモニタリング
あらゆる眼病態および眼疾患の診断およびモニタリングならびに治療的効果の評価へのアプローチは、眼の構造および機能についての標準的な一連の検査が広く利用できることによって容易になっている。これらの検査によって、眼瞼および前眼部から硝子体ならびにすべての網膜細胞層、視神経、および視覚皮質まで及ぶ、眼の個々の層を評価することができる。
【0036】
標準化された眼科検査には、精密な細隙灯生体顕微鏡検査による評価が含まれ、これにより、眼瞼、眼付属器、睫毛、角膜表面、前眼房、瞳孔、水晶体、硝子体腔、ならびに視神経および黄斑を含む網膜中心の解剖学的構造を評価することが可能になる。隅角鏡検査により、あらゆる形態の緑内障の診断およびモニタリングにおいて重要な、前房隅角の精密検査が可能になる。倒像検眼鏡検査により、硝子体障害および周辺部網膜障害のモニタリングにおいて重要な、網膜周辺部の評価が可能になる。
【0037】
補助的な検査もまた、視覚系のあらゆる障害における治療応答の判定およびモニタリングにおいて広く使用されており、これらの検査には以下のものが含まれる。
【0038】
視力についての機能検査(最高矯正視力、対比視力、および低輝度視力を含む)、色覚(石原試験およびファルンスワース・マンセル試験を含む)、および視野評価(ハンフリーの自動式視野測定および微小視野測定を含む)、涙の産生(シルマー試験)、ならびに眼内圧(IOP)を測定するための眼圧測定。これらは、前眼部および後眼部の写真、角膜厚測定、超音波、超音波生体顕微鏡検査、光干渉断層法(OCT)、経静脈蛍光眼底血管造影(IVFA)、ならびに眼底自発蛍光(FAF)を含む構造検査と組み合わせて使用される。コンピュータ断層撮影(CT)スキャンまたは磁気共鳴画像(MRI)スキャンなどの画像化は、眼、眼周囲、および眼窩の構造、ならびに脳中の視神経、視覚路、および視覚皮質といった頭蓋内部分を評価するのに利用される。これらの検査により、眼の層および周囲構造の構造的完全性および厚さを可視化し、血流および血液循環を評価することが可能になる。
【0039】
網膜、視神経、および視覚路/視覚皮質についての高度な機能検査もまた使用されており、これらには、電気生理学的検査、例えば、全視野および多局所の網膜電図検査、視覚誘発電位、ならびに疾患の進行および治療法の影響を判定およびモニターするための微小視野測定が含まれる(Mengini and Duncan. 2014)。現在は研究の場でしか利用可能ではないものの、補償光学および光干渉血管造影の使用などの他の画像化技術が、老化に起因するものを含む眼疾患の診断および治療において重要な補助になる可能性がある。
【0040】
臨床検査、構造的および機能的な測定および相関関係は、動物モデルでも臨床現場でも得ることができ、本出願で概説する視覚系の病態および疾患に適用可能である。上記に概説した一連の検査は、これらの病態の診断、評価、および治療に対する反応の一部である。
【0041】
例として、一連の様々な病因因子(例えば、糖尿病性網膜症、アテローム硬化性または炎症性の原因による血管閉塞性疾患、未熟児網膜症、および鎌状赤血球網膜症のような遺伝性血管障害)によってもたらされる網膜虚血に続発して認められる網膜の無灌流および新血管新生をIVFAおよびOCTによって構造的に評価して、セノリティック物質への反応の判定およびモニターの両方をすることができる。多数の原因(例えば、線維柱帯の再構築、原発開放隅角緑内障(POAG)、偽落屑、色素散乱、ステロイド治療、外傷)に端を発するIOP上昇に視神経が影響されやすいことの結果である網膜神経節細胞および視野機能の損失を伴う緑内障性視神経症は、OCTおよび視野検査によって診断およびモニターすることができる。緑内障患者の線維柱帯組織中(実施例5)およびAMDに罹患したドナーの眼の網膜組織中(実施例6)のp16のような分子マーカーに基づいて確認される老化細胞の役割ならびにこれらの疾患の様々な段階に関係があることが公知であるSASP因子の存在によって、これらの病態にセノリティック医薬品が強い影響をあたえる可能性が際立つ。
【0042】
本発明の帰結は、老化細胞が蓄積し、続いてSASPを発現する厳密な手段に関係なく、セノリティック療法は、細胞環境におけるホメオスタシスの修復を通じて、眼疾患特徴に有益な影響を与え得るということである。この結果、疾患の経過および転帰の変化を介して、疾患が改善する。
【0043】
セノリティック医薬品と現在利用可能な治療法との比較
現在臨床的に使用されている治療法は、疾患の改善または病状の潜在的な逆転を実現する能力が限定的である。最も一般的な眼疾患(緑内障ならびに網膜および脈絡膜の血管疾患)に対する標準治療は、緑内障の眼内圧(IOP)を低下させるための局所用滴剤、網膜および脈絡膜の新血管新生疾患に対する抗VEGF剤の眼内注射、ならびにIOP管理(Stein and Challa, 2007)および硝子体網膜障害(AAO Retina/Vitreous Panel, 2014)の両方に対するレーザー光凝固術である。
【0044】
眼内圧(IOP)を低下させる局所剤およびVEGF関連眼疾患をターゲットとする治療法は、有効性を最大にするためには固守しなければならない高頻度の投与計画が課せられる。最適に投与された場合でさえ、抗VEGF療法は、かなりの割合の、不完全な反応、疾患再発、および眼疾患についてのVEGFの媒介によらない側面の持続的進行(例えば、処置されたウェット型AMDにおける黄斑の萎縮(Bhisitkhul, 2015))を伴う。これらの同じ問題が、緑内障で使用されるIOP降下剤についての懸念であり、IOP降下剤はIOPを低下させるために少なくとも毎日投与されなければならず、適切に使用されIOPの低下を伴っている場合でさえ、持続的な緑内障性疾患の進行と関連していた(Levin, 2005)。
【0045】
レーザー光凝固術は、広範な眼疾患の全般で使用されている眼治療法のもう1つの大黒柱であるが、セノリティック物質の投与はこれに勝る多くの利点を有し得る。臨床的に有効ではあるが、網膜レーザー光凝固術は、夜間視力の低下、中心視覚および周辺視覚の低下を伴う黄斑および周辺の暗点、黄斑浮腫の悪化、および瘢痕化による網膜解剖学的構造の破壊を含む、付随的な損傷および副作用を招く(Kozak and Luttrul, 2015)。レーザー療法は、IOPを低下させるための線維柱帯への適用において、IOPスパイク、周辺虹彩前癒着の形成、追加のレーザー処置または外科的処置の必要性、および処置後のIOP低下滴剤の必要性が低下しないことと関連付けられている(Damji et al., 2006)。
【0046】
老化細胞および関連SASPをセノリティック療法によって除去すると、疾患の炎症性、血管形成性、および細胞外基質修飾性の側面を含む複数の疾患媒介因子を調整することにより、疾患の経過に良い影響を与えることができる。視覚機能を維持するのに必要とされる健常細胞への損傷または破壊が限定的であるか、またはなく、かつ頻繁ではない投与計画で長期の治療効果を有することから、本発明は、老化細胞もSASPに関連する複数の因子も特異的に標的とせず、したがって、疾患病態生理の複数の側面を改変する能力が限定されている現在利用可能な治療法に勝る、大きな進歩である。
【0047】
例として、虚血環境における老化細胞の排除は、SASPに関連した有害な炎症性、血管形成性、および細胞外基質修飾性の因子がない健康な局所環境で、機能している網膜神経節細胞を丈夫に成長させることにより、視覚機能に影響を与えることができる。これは、網膜の厚さを光干渉断層法(OCT)測定することによって構造的に、かつ網膜神経節細胞層の機能を特定できる電気生理学的検査(VEPおよびERG)によって機能的に、モニターすることができる。また、自動式視野測定を用いて、患者の周辺視野機能を評価することもできる。
【0048】
同様に、血管閉塞性疾患および新血管新生の環境において、老化細胞およびSASPの除去は、進行中の関連する細胞損傷を潜在的に改善し、影響を受けた血管床の再灌流および新血管新生促進の抑制を可能にすることができる。病因に関係なく虚血性の表現型(血管閉塞および新血管新生)の類似性を評価することができ、治療法に対する構造的および機能的な反応をIVFA、OCT、およびERGによってモニターすることができる。図2B(Carver College of Medicine, University of Iowaのウェブサイトから得た画像、2017年10月30日に取得)、図2C(Retina Galleryのウェブサイトから得た画像、2017年10月30日に取得)、図2D(Retina Vitreous Associates of Floridaのウェブサイトから得た画像、2017年10月30日に取得)、および図2E(Retina Galleryのウェブサイトから得た画像、2017年10月30日に取得)は、正常な網膜(図2B)ならびに糖尿病に起因する網膜の無灌流および新血管新生(図2C)、鎌状赤血球症(図2D)、および炎症性血管炎(図2E)の蛍光眼底血管造影の例を示す。セノリティック療法への反応は、経静脈蛍光眼底血管造影(IVFA)およびOCTを用いてモニターすることができる。老化細胞のSASPに関与していることが公知である因子は、涙、眼房水、および硝子体液を含む眼の体液中で直接的に測定してよい。
【0049】
眼疾患の治療に対するセノリティック医薬品の影響は、3つの主要概念を合わせたものである。第1に、老化細胞がひとたび除去されると、老化細胞由来の関連SASP因子もまた大きく減少することが予想される。これらの炎症性、血管形成性、および線維性のタンパク質ならびに細胞外基質修飾酵素がない場合、本明細書において説明する眼疾患の症状の多くまたは大部分が大きな影響を受け得ることが想定される。重要なことには、老化細胞が除去された後、周囲の細胞がいくらかの機能的能力を修復できる可能性がある。これは、眼疾患に対して現在利用可能な治療に勝る主要な病態生理学的進歩である。セノリティック剤の影響および機能の修復は、上記に概説したような構造的検査および機能的検査を用いて臨床的にモニターすることができる。
【0050】
第2に、状況に応じて、セノリティック剤は単回投与として送達することができる。再治療が必要である場合、投与間の時間は、かなり長い。黄斑変性症、緑内障、ならびに血管性網膜症および遺伝性網膜症は、長年にわたる網膜のゆっくりとした劣化を特徴とするため、老化細胞の再蓄積には相当な期間がかかる。さらなる治療法が数年間必要とされない場合がある。このことは、例えば、毎月1回~1ヶ月おきに1回の投与を必要とし、それより頻度の低いスケジュールで送達された場合には最適とは言えない視覚的転帰および解剖的転帰を伴う既存の抗VEGF療法の投与計画と比べて、大きな進歩である(Maguire et al. 2016, Holz et al. 2014)。局所用IOP降下剤は、毎日の投与を必要とし、かなりの比率の患者が、IOP低下にもかかわらず緑内障の進行を示す(Levin, 2005)。
【0051】
最後に、眼疾患に対するセノリティック療法は、下流のシグナル伝達経路から生じる症状のみに影響を与えるのではなく、眼疾患の根底にある共通の機構的原因に対処し得る。例えば、セノリティック剤は、疾患の単一の側面に関与している単一の因子の特異的阻害(例えば、新血管新生のVEGFに関係する側面に対する抗VEGF療法)ではなく、病理に関連した複数のサイトカイン(炎症性、細胞障害性、血管形成性、線維性)に対して影響を与えることができる。
【0052】
例として、セノリティック療法は、AMDの様々な病期に関係があることが公知である一連の成長因子を減少させることができる。図1C(Kumar and Fu, 2014)は、RPE中の初期の沈着物が、エラスチンおよびフィブロネクチンを含む細胞外基質の変性に影響を与えることを示す。酸化ストレスの増大はミトコンドリアのDNA損傷を誘導し、これは、公知の強力な老化誘導因子である。炎症誘発性サイトカインおよびケモカイン(IL-1、IL-6)の付加的な活性化が続き、最終的に、VEGFおよびメタロプロテアーゼ(MMP)ならびにインフラマソームの活性化が誘導される。この範囲の因子(SASPの構成要素として同定されているすべて)を標的とするセノリティック療法は、AMDの病態生理学的経過に沿って多面的な影響を及ぼすことができ、疾患の経過を変え、場合によっては逆転させる能力を有する。疾患を管理するための頻繁な投与の必要性が目立つ、眼障害に対する利用可能な治療法によって、真の疾患改善が実証されたことは、これまでない。セノリティック療法によって提供される頻繁ではない投薬および疾患改善の可能性は、眼疾患療法における大きな進歩である。
【0053】
老化細胞除去は、進行を停止させることまたは場合によっては内在性の修復システムもしくは改善された細胞機能に転帰を変更させることのいずれかによる、虚血、変性、または遺伝的根本原因から生じる眼疾患に対する疾患修飾治療であり得る。
【0054】
適切なセノリティック剤
本発明に従って眼病態を治療する目的で眼の中または近くの老化細胞を取り除くのに有用であり得る化合物には、Bcl-2阻害剤、Bcl-xL阻害剤、MDM2阻害剤、およびAkt阻害剤が含まれる。米国特許第8,691,184号、同第9,096,625号、および同第9,403,856号;公開出願WO 2015/17159、WO 2015/116740、WO 2016/127135、およびWO 2017/008060;ならびに未公開の出願PCT/CN2016/110309を参照されたい。
【0055】
Bcl-2阻害剤、Bcl-w阻害剤、およびBcl-xL阻害剤として作用するセノリティック剤候補は、ベンゾチアゾール-ヒドラゾン、アミノピリジン、ベンゾイミダゾール、テトラヒドロキノリン、またはフェノキシル化合物であると特徴付けることができる。Bclアイソフォームを阻害する化合物の例には、WEHI539、A1155463、ABT737、およびABT263(Navitoclax)が含まれる。
【0056】
MDM2阻害剤として作用するセノリティック剤候補は、cis-イミダゾリン、ジヒドロイミダゾチアゾール、スピロ-オキシインドール、ベンゾジアゼピン、またはピペリジノンであると特徴付けることができる。MDM2の候補には、ヌトリン-1、ヌトリン-2、ヌトリン-3a、RG-7112、RG7388、R05503781、DS-3032b、MI-63、MI-126、MI-122、MI-142、MI-147、MI-18、MI-219、MI-220、MI-221、MI-773、3-(4-クロロフェニル)-3-((1-(ヒドロキシメチル)シクロプロピル)メトキシ)-2-(4-ニトロベンジル)イソインドリン-1-オン、セルデメタン、AM-8553、CGM097、R0-2443、およびR0-5963が含まれる。
【0057】
Akt(プロテインキナーゼB)の阻害剤として作用するセノリティック剤候補は、競合的なAkt阻害剤であるCCT128930、GDC-0068、GSK2110183(アフレセルチブ)、GSK690693、およびAT7867;脂質ベースのAkt阻害剤であるカルビオケムAkt阻害剤I、IIおよびIII、PX-866、ならびにペリフォシン(KRX-0401);偽基質阻害剤であるvKTide-2 TおよびFOXO3ハイブリッド;Aktキナーゼドメインのアロステリック阻害剤、特にMK-2206(8-[4-(1-アミノシクロブチル)フェニル]-9-フェニル-2H-[1,2,4]トリアゾロ[3,4-f][1,6]ナフチリジン-3-オン;二塩化水素化物);抗体GST-抗Akt1-MTS;AktトリシリビンおよびPX-316のPHドメインと相互作用する化合物;ならびにGSK-2141795、VQD-002、ミルテホシン、AZD5363、GDC-0068、およびAPI-1を例とする他の化合物である。
【0058】
本発明による、眼病態の治療において使用するための例示的なBcl阻害剤は、下記に示す式Iに記載の構造またはそのリン酸化形態を含む。
式中、
R1およびR2は、独立にC1~C4アルキルであり;
R3、R4、およびR5は、独立に-Hまたは-CH3であり;
R8は、-OHまたは-N(R6)(R7)であり、ここで、R6およびR7は独立にアルキルまたはヘテロアルキルであり、かつ任意で環化されており;
X1は、-F、-Cl、-Br、または-OCH3であり;
X2は、-SO2R’または-CO2R’であり、ここで、R’は-H、-CH3、または-CH2CH3であり;
X3は、-SO2CF3、-SO2CH3、または-NO2であり;
X5は、-F、-Br、-Cl、-H、または-OCH3である。
【0059】
任意で、R8は、-N(R6)(R7)であり、ここで、R6およびR7は独立にアルキルまたはヘテロアルキルであり、かつ任意で環化されている。
【0060】
任意で、R1およびR2は、独立にC1~C4アルキルであり;
R3およびR4は、どちらも-Hであり;
R5は、-Hまたは-CH3であり;
R6およびR7は、独立にアルキルまたはヘテロアルキルであり、かつ任意で環化されており;
X1は、-Fまたは-Clであり;
X2は、-SO2R’または-CO2R’であり、ここで、R’は-H、-CH3、または-CH2CH3であり;
X3は、-SO2CF3または-NO2であり;かつ
X5は、-Fまたは-Hである。
【0061】
本発明による、眼病態の治療において使用するための他の例示的なBcl阻害剤は、下記に示す式IIに記載の構造またはそのリン酸化形態を含む。
式中、
R1およびR2は、独立にC1~C4アルキルであり;
R3およびR4は、独立に-Hまたは-CH3であり;
R8は-OHまたは
であり;
X1は、-F、-Cl、-Br、または-OCH3であり;
X2は、-SO2R’または-CO2R’であり、ここで、R’は-H、-CH3、または-CH2CH3であり;
X3は、-SO2CF3、-SO2CH3、または-NO2であり;
X4は、-OH、-COOH、または-CH2OHであり;
X5は、-F、-Cl、または-Hであり;かつ
n1およびn2は、独立に1、2、または3である。
【0062】
任意で、X3は、-SO2CF3または-NO2であり、かつR8は、
であり、ここで、X4は、-OHまたは-COOHである。
【0063】
任意で、化合物は、以下の特徴のうちの1つ、2つ、3つ、3つより多く、またはすべてを任意の組合せで有してよい:
R1がイソプロピルである;
R2がメチルである;
R3が-Hである;
R4が-Hである;
X1が-Clである;
X2が-SO2CH3である;
X3が-SO2CF3である;
X4が-OHである;
n1が2である;および
n2が2である。
【0064】
本発明による、眼病態の治療において使用するための他の例示的なBcl阻害剤は、下記に示す式IIIに記載の構造またはそのリン酸化形態を含む。
式中、
R1およびR2は、独立にC1~C4アルキルであり;
R3、R4、およびR5は、独立に-Hまたは-CH3であり;
R6およびR7は、独立にアルキルまたはヘテロアルキルであり、かつ任意で環化されており;
X1は、-F、-Cl、-Br、または-OCH3であり;
X2は、-SO2R’または-CO2R’であり、ここで、R’は-H、-CH3、または-CH2CH3であり;
X3は、-SO2CF3または-NO2であり;かつ
X5は、-F、-Br、-Cl、-H、または-OCH3である;
あるいは、式中:
R1およびR2は、独立にC1~C4アルキルであり;
R3およびR4は、どちらも-Hであり;
R5は、-Hまたは-CH3であり;
R6およびR7は、独立にアルキルまたはヘテロアルキルであり、かつ式VIIで示されている様式で、任意で環化されており;
X1は、-Fまたは-Clであり;
X2は、-SO2R’または-CO2R’であり、ここで、R’は-H、-CH3、または-CH2CH3であり;
X3は、-SO2CF3または-NO2であり;かつ
X5は、-Fまたは-Hである。
【0065】
本発明による、眼病態の治療において使用するための他の例示的なBcl阻害剤は、下記に示す式IVに記載の構造またはそのリン酸化形態を含む。
式中、
R1およびR2は、独立にC1~C4アルキルであり;
R3およびR4は、独立に-Hまたは-CH3であり;
X1は、-F、-Cl、-Br、または-OCH3であり;
X2は、-SO2R’または-CO2R’であり、ここで、R’は-H、-CH3、または-CH2CH3であり;
X3は、-SO2CF3または-NO2であり;
X4は、-OHまたは-COOHであり;
X5は、-F、-Cl、または-Hであり;かつ
n1およびn2は、独立に1、2、または3である。
【0066】
セノリティック活性についての化合物のスクリーニング
これらおよび他の化合物を、それらが本発明に従って使用するための候補物質であることを示すように機能する能力について、分子レベルでスクリーニングすることができる。
【0067】
例えば、治療法が、Bcl-2、Bcl-xL、またはBcl-wを介して老化細胞のアポトーシスを開始させることを含む場合、Bcl-2、Bcl-xL、またはBcl-wとそれらの各同族リガンドとの結合を阻害する能力について、化合物を試験することができる。実施例1は、Bclアイソフォームへの結合を測定するための均一系アッセイ法(分離段階を必要としないアッセイ法)の実例を提供する。MDM2のアゴニストとして作用し、それによってp53活性を促進し老化細胞除去を引き起こす能力について、化合物を分子レベルでスクリーニングすることができる。実施例2は、この目的のためのアッセイ法の実例を提供する。
【0068】
セノリティック剤を試験するための細胞培養系
老化細胞を用いるアッセイ法において、生物活性について化合物をスクリーニングすることができる。培養細胞を化合物と接触させ、細胞に対する細胞障害または阻害の程度を測定する。化合物が老化細胞を死滅させるまたは阻害する能力を、低密度で自由に分割している正常細胞および高密度で休止状態にある正常細胞に対する該化合物の効果と比較することができる。
【0069】
実施例3は、ヒト肺線維芽細胞IMR90細胞株を用いる実例を提供する。増殖するIMR90細胞は便利であるため、初期のスクリーニング手段として有効である。本開示は、眼疾患に関係があるとされている老化細胞を生じる眼の中の細胞型を明らかにするので、初期のスクリーニングで選択された化合物を、標的とする眼細胞:特に、実施例4で例示する線維柱帯細胞および実施例5で例示するRPE細胞の初代培養物を用いて再スクリーニングすることができる。
【0070】
技術的に可能である場合、ヒト患者ドナーの眼に由来する組織外植片を作製し、試験化合物とのインキュベーション後、老化細胞および疾患関連マーカーの減少を測定することができる。この形式において、老化細胞除去、およびその後の影響は、関連細胞型が存在し、病因によって老化が推進された無傷の組織において測定することができる。組織外植片はまた、単離状態での標準的なインビトロ細胞培養法を容易に受け入れられない疾患関連細胞型(例えば、光受容体および神経細胞)を評価する手段を提供することもできる。
【0071】
セノリティック剤を試験するための動物モデル
試験化合物を前臨床動物モデルで評価して、関連細胞型に対する標的結合およびその後の読み取り情報、例えばSASPの低減またはメカニズム/疾患モデルにおける機能的エンドポイントに対する有効性についての自信を得ることができる。
【0072】
標的結合の証拠は、誘発性老化のモデルを用いてインビボで調査することができる。試験化合物が眼の中の疾患関連細胞型に接近するかどうかを理解するために、老化誘導のいくつかの方法を遂行することができる。ドキソルビシン、ブレオマイシンなどのDNA損傷剤、および放射線照射は、細胞老化を誘導することができ、マウスの眼に直接的に注射して(例えば、硝子体内、前房内、網膜下など)(または放射線照射の場合は局所的もしくは全身の曝露)、線維柱帯または網膜において老化を推進することができる。次いで、試験化合物を投与して、適切な細胞層への該化合物の接近を測定することができる(老化マーカーの減少に基づいて測定される)。さらに、SASP因子の多くをこれらの組織から測定して、老化誘導の下流の影響、およびそのような媒介物に対する老化細胞除去の影響を理解することもできる。
【0073】
例として、DNA損傷剤であるブレオマイシンをマウスの眼の前眼房に投与すると、線維柱帯(TM)中の細胞老化が起こり、これは、TMにおけるp16転写物の誘導に基づいて検出される(実施例8)。右眼にブレオマイシンを前房内(IC)注射してから14日目に、対照の左眼と比べて、p16 mRNAの相対的発現の増大が観察された。ブレオマイシン後7日目にセノリティック物質(UBX1967)を前房内投与すると、14日目にp16 mRNAが減少していたことから、マウスTMにおいてUBX1967によって老化細胞が取り除かれたことが示唆される。
【0074】
酸素誘発性網膜症(OIR)モデル(Scott and Fruttiger, Eye (2010) 24, 416-421, Oubaha et al, 2016)は、ヒトにおける虚血性網膜症の要素、例えば、糖尿病性網膜症(DR)、未熟児網膜症(ROP)、および糖尿病黄斑浮腫(DME)を再現する。若齢マウスを高酸素環境に曝露すると、網膜血管系の閉塞が起こり、続いて、周囲空気に戻すと病的血管形成(新血管新生)が起こる。
【0075】
下記の実施例は、マウス酸素誘発性網膜症(OIR)モデルにおけるモデル化合物UBX1967の有効性を示す。UBX1967の硝子体内(IVT)投与は、すべての用量レベルで、新血管新生および血管閉塞の程度の統計学的に有意な改善を示した(実施例6A)。さらに、本発明者らは、老化(p16、pai1)およびヒト疾患(VEGF)に関連するいくつかの転写物の相対存在量を測定し、UBX1967による治療がこれらの転写物の減少をもたらすことを発見した。老化関連β-ガラクトシダーゼ(SA-βGal)活性もまた、UBX1967投与後に低下していた。
【0076】
ストレプトゾトシン(STZ)げっ歯動物モデル(Feit-Leichman et al, IOVS 46:4281-87, 2005)は、膵臓β細胞に対するSTZの直接的細胞障害作用による高血糖の誘導によって、糖尿病性網膜症および糖尿病黄斑浮腫の特徴を再現する。STZ投与後数日以内に高血糖が発生し、糖尿病性網膜症の表現型特徴が数週間以内に生じ、血管漏出ならびに視力およびコントラスト感度の低下がこれらのげっ歯動物で示された。したがって、このモデルは、糖尿病性眼疾患における治療物質の評価のために広く使用されている。下記に提供するデータは、UBX1967が網膜および脈絡膜の血管漏出を改善したことを示している。
【0077】
網膜神経節細胞損傷の他のモデルを、眼内圧(IOP)の上昇が網膜神経節細胞の消失および視神経障害を引き起こすと考えられている緑内障に関連する検査において使用することができる。磁気マイクロビーズ閉塞モデル(Ito et al., Vis Exp. 2016 (109): 53731)および他の緑内障モデル(Almasieh and Levin, Annu Rev Vis Sci. 2017)を含むいくつかの確立されたモデルにおいて報告されているように、前臨床の種において、前眼房圧力の上昇は、網膜神経細胞の消失をもたらし得る。さらに、虚血-再灌流が、細胞老化をもたらし得る網膜傷害を引き起こすことも実証されている。このようなモデルにおける網膜老化の存在を用いて、試験化合物の硝子体内注射後の老化細胞除去の影響をモニターすることができる。
【0078】
投与経路
典型的には、本発明のセノリティック物質は、対象の目の外部もしくは内部、または周辺組織に直接投与される。局部的投与には、局所投与、注射器による投与、および/または埋め込み可能な器具による投与が含まれる。前眼部(目の前部)病態および後眼部(眼の後部)病態の治療が含まれる。
【0079】
前眼部病態は、前眼領域または前眼部位、例えば、眼周囲筋、眼瞼、または水晶体嚢の後壁もしくは毛様体筋の前方に位置する眼の組織もしくは体液に影響を及ぼすか、または関係する、疾患、病気、または病態である。前眼部病態は、結膜、角膜、前眼房、虹彩、後眼房(虹彩の後ろであるが水晶体嚢の後壁の前)、水晶体または水晶体嚢、および前眼領域または前眼部位に血管形成または神経支配する血管および神経に主に影響を及ぼすか、または関係する。例には、ドライアイ症候群、結膜疾患、結膜炎、角膜疾患、老眼、白内障、および屈折障害が含まれる。緑内障治療の臨床的目標は、眼の前眼房中の水性体液の圧上昇を下げる(すなわち、眼内圧を下げる)ことであり得るため、緑内障もまた、前眼部病態であるとみなすことができる。
【0080】
後眼部病態は、後眼領域または後眼部位、例えば、強膜、毛様体、(水晶体嚢の後壁を通る面に対して後方の位置にある)脈絡膜、硝子体、後眼房、網膜、網膜色素上皮、ブルッフ膜、視神経(すなわち視神経乳頭)、ならびに後眼領域または後眼部位に血管形成または神経支配する血管および神経に主に影響を及ぼすか、または関係する、疾患、病気、または病態である。例には、急性黄斑神経網膜症;脈絡膜新生血管;ヒストプラスマ症;ウイルスを原因とする感染症のような感染症;非滲出性加齢黄斑変性症および滲出性加齢黄斑変性症;黄斑浮腫、嚢胞様黄斑浮腫、および糖尿病黄斑浮腫などの浮腫;多病巣性脈絡膜炎;後眼部位または後眼位置に影響を及ぼす眼外傷;網膜障害、例えば、網膜中心静脈閉塞症、糖尿病性網膜症、増殖性硝子体網膜症(PVR)、網膜動脈閉塞症、網膜剥離、炎症性脈絡網膜疾患;交感性眼炎;色素性網膜炎、ならびに緑内障が含まれる。緑内障は、治療目標が、網膜神経節細胞または視神経細胞への損傷またはそれらの消失に起因する視覚喪失を予防するか、または視覚喪失の発生を減らすこと(すなわち神経保護)であるため、後眼部病態とみなすことができる。
【0081】
いくつかの場合において、有効量のセノリティック物質が、局所投与によって眼の前眼房に送達される。セノリティック物質は、関心対象の眼疾患を治療、改善、および/または予防するために必要とされるのに応じて、点眼剤、軟膏剤、またはゲル剤を用いて眼の前方に(例えば、結膜および/または角膜)に滴下注入されてよい。セノリティック剤は、眼の内部の作用部位において治療的に有効な濃度を提供するのに十分な量の活性物質を含む点眼剤の形態の眼科用製剤であることができる。
【0082】
眼の前部(例えば、結膜および/または角膜)への局部的投与はまた、セノリティック剤を保持するコンタクトレンズを用いて行ってもよい。これにより、活性物質の生物学的利用能を向上させ、滞留時間を延長することができる。
【0083】
薬物搭載量を増やし、かつ薬物放出を制御するために、コンタクトレンズまたはヒドロゲルには、(i)親水性/疎水性共重合体の比率を管理されたポリマーヒドロゲル;(ii)コンタクトレンズ中に分散されたコロイド状構造物中に薬物を含めるためのヒドロゲル;(iii)リガンドを含むヒドロゲル;(iv)分子インプリンティングされたポリマーヒドロゲル;(v)薬物の搭載および放出のための多層構造を含む表面を有するヒドロゲルが含まれ得る。ヒドロゲルは、それらの生体適合性および透明な特性が理由となって、ソフトコンタクトレンズの好ましい材料である。ヒドロゲルコンタクトレンズを用いて、眼を覆っている涙の薄膜に接触すると制御放出で眼の前面に活性物質を放出させることができる。コンタクトレンズを投与計画に従って毎日装着して、(例えば、本明細書において説明するような)眼疾患の治療のための有効量のセノリティック物質の局部的投与を実現することができる。コンタクトレンズ器具には、米国特許第6,827,996号ならびに米国特許出願公開第2010/0330146号および同第2006/0251696号に記載されている器具が含まれる。
【0084】
眼の前面への局部的投与はまた、結膜下注射によって行うこともできる。結膜下注射を用いて、結膜下空間またはテノン嚢下空間のいずれかにセノリティック物質を注入することができる。結膜下空間は、テノン嚢下空間より前方であるため、結膜下注射の方が、前眼部への薬物送達に対してより顕著な効果を有することができ、一方、テノン嚢下注射は、後眼部への効果をより多く有することができる。
【0085】
眼の前眼部および後眼部への局部的投与はまた、眼内注射、例えば、前房内注射または硝子体内注射によって達成することもできる。前房内注射は、眼の前方の(例えば、水晶体の前の)眼房に通常は送達される注射である。硝子体内注射は、眼の後方の(例えば、水晶体の後ろの)硝子体腔に送達される注射である。眼内圧を上昇させることによる網膜層および視神経への損傷というリスクがあるため、最大体積約0.1mLが、前房内注射または硝子体内注射のいずれかによって投与されるべきである。いくつかの場合において、前房内注射は、硝子体内注射に関連付けられている眼内圧上昇を起こさない投与を実現することができる。眼内圧の急激な上昇は、患者に不快感をもたらし、視神経を損傷リスクにさらし得る。通常、注射による投与は、病原体への眼の曝露を最小限にする様式で実施される。
【0086】
局部的投与はまた、例えば角膜切開によって眼の中に留置される埋め込み可能な眼用器具によって行うこともできる。眼用器具には、ステント(例えば線維柱帯ステント)、オルガノゲル埋め込み剤、ならびに米国特許第5,501,856号、同第5,869,079号、同第5,824,072号、同第4,997,652号、同第5,164,188号、同第5,443,505号、および同第5,766,242号に記載されている組成物および器具が含まれる。
【0087】
米国特許第5,501,856号では、網膜/硝子体の障害または緑内障に対する外科的手術の後に眼の内部に適用される眼内埋め込み剤のための放出制御医薬製剤を開示している。米国特許第5,869,079号では、生分解性の持続放出埋め込み剤中の親水性存在物および疎水性存在物の組合せを開示し、デキサメタゾンを含むポリ乳酸ポリグリコール酸(PLGA)共重合体埋め込み剤を説明している。米国特許第5,824,072号では、眼の脈絡膜上空間または無血管領域中に導入するための埋め込み剤を開示し、デキサメタゾンを含むメチルセルロース埋め込み剤を説明している。米国特許第4,997,652号および同第5,164,188号では、マイクロカプセルの中に入れられた薬物を含む生分解性の眼用埋め込み剤を開示し、コハク酸ヒドロコルチゾンを含むマイクロカプセルを後眼部に埋め込むことについて説明している。米国特許第5,164,188号では、眼の脈絡膜上部分に導入するためのカプセル化作用物質を開示し、ヒドロコルチゾンを含むマイクロカプセルおよびプラークを毛様体扁平部中に留置することについて説明している。米国特許第5,443,505号および同第5,766,242号では、眼の脈絡膜上空間または無血管領域中に導入するための、活性物質を含む埋め込み剤を開示し、ヒドロコルチゾンを含むマイクロカプセルおよびプラークを毛様体扁平部中に留置することについて説明している。
【0088】
遅延放出薬物送達用の埋め込み剤またはデポー剤を提供するために、対象となる活性物質を含む注射製剤を対象に注射することができ、これにより、オルガノゲル埋め込み剤がインサイチューで形成される。体液と接触すると、架橋剤がオルガノゲルを架橋し始めて、対象の眼への活性物質の流出を調節する、より安定なマトリックスを形成する。場合によっては、この投与方法は、活性物質の放出期間の延長を実現することができる。いくつかの場合において、水と混和しない非水性非プロトン性の生体適合性溶媒系を含むインビボの生分解性架橋マトリックスが形成される(Zhou, T, et al., Journal of Controlled Release 55: 281-295, 1998)。
【0089】
医薬の配合
セノリティック剤を薬学的に許容される基剤または担体、および必要に応じて、薬学的に許容される1種または複数種の賦形剤と混合することにより、眼科用製剤を調製することができる。眼科用製剤中で許容される成分は、ほとんどまたはまったく眼に刺激をもたらさず、必要な場合は適切な保存を実現し、かつ適切な体積で1種または複数種の作用物質を送達する、賦形剤または担体である。基剤または担体の例には、水;極性溶媒のような水性溶媒;多価アルコール;植物油;および油性基剤が含まれる。眼内注射剤用の基剤または担体の例には、注射用水および生理食塩水が含まれる。
【0090】
眼送達の場合、セノリティック剤は、眼の中および周囲において使用するために許容される賦形剤、例えば、界面活性剤、保存剤、補助溶剤、矯味剤または清涼化剤、防腐剤、殺菌剤または抗菌剤、pH調整剤、浸透圧調整剤、キレート剤、緩衝剤、安定化剤、抗酸化剤、粘度増強剤、浸透促進剤、塩化ナトリウム、および増粘剤と組み合わされてよい。いくつかの場合において、眼内注射用の組成物は、可溶化剤、懸濁化剤、浸透圧調整剤、緩衝剤、無痛化剤、安定化剤、および防腐剤のうちの1種または複数種を含んでよい。眼用組成物の担体および賦形剤を組み合わせて、水性の無菌の眼用懸濁液、溶液、または粘性もしくは半粘性のゲル、または他のタイプの固形組成物もしくは半固形組成物、例えば軟膏剤を形成させることができる。
【0091】
使用できる例示的な賦形剤および添加剤には、以下のものが含まれる。界面活性剤:例えば、非イオン性界面活性剤、例として、ポリオキシエチレン(以下、「POE」と呼ぶことがある)-ポリオキシプロピレン(以下、「POP」と呼ぶことがある)ブロック共重合体(例えば、ポロキサマー407、ポロキサマー235、ポロキサマー188)、エチレンジアミンPOE-POPブロック共重合体付加物(例えばポロキサミン)、POEソルビタン脂肪酸エステル(例えば、ポリソルベート20、ポリソルベート60、ポリソルベート80(TO-10など))、POE硬化ヒマシ油(例えば、POE(60)硬化ヒマシ油(HCO-60など))、POEヒマシ油、POEアルキルエーテル(例えば、ポリオキシエチレン(9)ラウリルエーテル、ポリオキシエチレン(20)ポリオキシプロピレン(4)セチルエーテル)、およびステアリン酸ポリオキシル;両性界面活性剤、例として、グリシン型両性界面活性剤(例えば、アルキルジアミノエチルグリシン、アルキルポリアミノエチルグリシン)、ベタイン型両性界面活性剤(例えば、ラウリルジメチルアミノ酢酸ベタイン、イミダゾリニウムベタイン);陽イオン界面活性剤、例としてアルキル四級アンモニウム塩(例えば、塩化ベンザルコニウム、塩化ベンゼトニウム)など。
【0092】
矯味剤または清涼化剤:例えば、カンフル、ボルネオール、テルペン(これらは、d型、l型、またはdl型であってよい);ハッカ水、ユーカリ油、ベルガモット油、アネトール、オイゲノール、ゲラニオール、メントール、リモネン、ハッカ油、ペパーミント油、バラ油などの精油。
【0093】
防腐剤、殺菌剤、または抗菌剤:例えば、塩化ポリドロニウム、アルキルジアミノエチルグリシン塩酸塩、安息香酸ナトリウム、エタノール、塩化ベンザルコニウム、塩化ベンゼトニウム、グルコン酸クロルヘキシジン、クロロブタノール、ソルビン酸、ソルビン酸カリウム、デヒドロ酢酸ナトリウム、パラオキシ安息香酸メチル、パラオキシ安息香酸エチル、パラオキシ安息香酸プロピル、パラオキシ安息香酸ブチル、硫酸オキシキノリン、フェネチルアルコール、ベンジルアルコール、ビグアナイド化合物(特に、ポリヘキサメチレンビグアナイドまたはその塩酸塩など)、Glokill(Rhodia Ltd.)など。
【0094】
pH調整剤:例えば、塩酸、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、水酸化カルシウム、水酸化マグネシウム、トリエタノールアミン、モノエタノールアミン、ジイソプロパノールアミン、硫酸、リン酸。
【0095】
浸透圧調整剤:例えば、重亜硫酸ナトリウム、亜硫酸ナトリウム、塩化カリウム、塩化カルシウム、塩化ナトリウム、塩化マグネシウム、酢酸カリウム、酢酸ナトリウム、重炭酸ナトリウム、炭酸ナトリウム、チオ硫酸ナトリウム、硫酸マグネシウム、リン酸水素二ナトリウム、リン酸二水素ナトリウム、リン酸二水素カリウム、グリセリン、プロピレングリコール。
【0096】
キレート剤:例えば、アスコルビン酸、エデト酸四ナトリウム、エデト酸ナトリウム、クエン酸。緩衝剤:例えば、リン酸緩衝剤;クエン酸およびクエン酸ナトリウムなどのクエン酸緩衝剤;酢酸、酢酸カリウム、および酢酸ナトリウムなどの酢酸緩衝剤;重炭酸ナトリウムおよび炭酸ナトリウムなどの炭酸緩衝剤;ホウ酸およびホウ砂などのホウ酸緩衝剤;タウリン、アスパラギン酸およびその塩(例えばカリウム塩など)、ならびにε-アミノカプロン酸などのアミノ酸緩衝剤。
【0097】
眼科用溶液製剤は、生理学的に許容される等張性水性緩衝液に作用物質を溶解することによって調製され得る。さらに、眼科用液剤は、作用物質を溶解するのを補助するための眼科的に許容される界面活性剤も含んでよい。ヒドロキシメチルセルロース、ヒドロキシエチルセルロース、メチルセルロース、ポリビニルピロリドンなどの粘度上昇化合物を添加して、化合物の滞留を良くしてもよい。
【0098】
無菌の眼科用ゲル製剤は、例えば、CARBOPOL(登録商標)-940の組合せから調製される親水性基剤中に作用物質を懸濁させることにより、調製され得る。VISCOAT(登録商標)(Alcon Laboratories, Inc., Fort Worth, Tex.)は、眼内注射のために使用され得る。本発明の他の組成物は、本発明の作用物質が眼に浸透しにくい場合には、CREMOPHOR(登録商標)(Sigma Aldrich, St. Louis, Mo.)およびTWEEN(登録商標)80(ポリオキシエチレンソルビタンモノラウレート、Sigma Aldrich)などの浸透促進物質を含んでよい。
【0099】
本発明は、本開示において説明する作用物質または組成物のうちの1種または複数種の単位用量を同梱しているキットである商業的製品を提供する。典型的には、このようなキットは、1つまたは複数の容器の中に薬学的製剤を含む。これらの製剤は、(組み合わされるか、または個別の)1つまたは複数の単位用量として提供され得る。キットは、それを必要とする対象の眼の中または周囲に作用物質または組成物を投与するための注射器のような器具を含んでよい。製品はまた、老化細胞に関連した眼疾患の治療における薬物の使用および付随する利益、ならびに任意で、組成物を送達するための用具または器具について説明する情報提供添付文書を含むか、または添付されてよい。
【0100】
治療に適した眼病態
以下のセクションにおいて、本発明に従うセノリティック剤による治療の候補である、広範な病因カテゴリー(前記)に基づいて並べられた具体的な眼疾患についての考察を提供する。セノリティック剤による治療に対する個々の眼病態の影響の受けやすさの程度は、老化細胞が疾患の病理または総体的症状において役割を果たしている程度および範囲に応じて変わる。治療プロトコールおよび患者管理は、管理臨床医の判断の範囲内である。治療法の有効性は、実験によって測定することができる。
【0101】
タイプ1:虚血性または血管性の病態
これらの病態は、組織を機能的に保つための細胞代謝に必要とされる酸素および/または必須栄養素の欠乏を引き起こす、組織への血液供給の制限に起因する。通常、虚血は、血管に関連する疾患が原因で生じ、結果として組織の損傷または機能不全が起こる。また、虚血は、血流に影響を及ぼすが血管それ自体には影響を及ぼさない問題(例えば、血管収縮、血栓症、または塞栓形成)に起因する、体の所与の部分で生じる局部的欠乏も含む。
【0102】
虚血性または血管性の眼疾患の例には、糖尿病性網膜症、緑内障性網膜症、虚血性動脈炎性視神経症、ならびに動脈および静脈の閉塞を特徴とする血管疾患、未熟児網膜症、ならびに/または鎌状赤血球網膜症が含まれる。
【0103】
虚血性または血管性の病態に対するセノリティック療法の一般的なアプローチおよび目標は、以下に基づいている。
【0104】
虚血は、眼において周知の一連の病態生理学的相互作用をもたらす。セノリティック療法は、虚血性経路に存在する複数の公知の老化誘導因子を改善することにより、この病態生理に影響を与える。虚血性事象の最初の傷害がカスケードの引き金となり、このカスケードにより、罹患組織の細胞は、ミトコンドリア損傷およびDNA損傷、酸化ストレス、炎症、ならびに脂質過酸化が含まれる老化誘導因子に曝露される。
【0105】
老化細胞の蓄積およびそれらの関連SASPの放出は、直接的に影響を受ける細胞と間接的に影響を受ける細胞の両方に対して、組織微小環境に悪影響を与える。眼の虚血性疾患に対するセノリティック療法の目標は、影響を受けている領域に存在する老化細胞の集団を減らし、周囲の細胞に対する関連SASP因子の影響を減らすことである。これにより、虚血性事象後の組織の進行的な損傷が制限され、細胞微小環境の特徴の改善によって場合によっては機能が修復される。
【0106】
例として、虚血環境における老化細胞の排除は、SASPに関連した有害な炎症性、血管形成性、および細胞外基質修飾性の因子がない健康な局所環境で、機能している網膜神経節細胞を丈夫に成長させることにより、視覚機能に影響を与える。視覚系の虚血性事象は、一般に、眼の後方構造に影響を及ぼす。虚血は、ある種の疾患の前眼部特徴の影響を受け得る。したがって、セノリティック剤は、前区画、または前区画と後区画の両方に送達され得る。
【0107】
根底にある病態生理
網膜虚血は、複数の眼障害の一因となり、複数の根底にある病因に付随して起こる。虚血は、緑内障、糖尿病性網膜症、網膜および脈絡膜の血管閉塞性疾患、未熟児網膜症、ならびに虚血性および外傷性の視神経症に関係付けられている。これらの病態に関連する網膜浮腫および黄斑浮腫もまた、虚血性カスケードの結果に付随する。
【0108】
図1Aは、虚血の結果として生じる、眼における病態生理学的相互作用を示す。公知の網膜虚血の典型例はすべて、機能的な視覚の維持に非常に重要である神経節細胞の消失をもたらす(Osborne N et al. 2004)。さらに、特に、血管内皮増殖因子(VEGF)、TNFα、TGFβ、FGF、PKC、アンギオポエチン、PDGFなどの複数の増殖因子によって媒介される新血管新生(Ucuzian et al., 2010)は、虚血によるもう1つの末期の影響であり、網膜の新血管新生疾患および脈絡膜の新血管新生疾患の両方についての視覚を脅かす合併症に関連付けられている(Campochiaro 2015)。
【0109】
任意の病因の網膜への血液供給の妨害に付随する虚血によってカスケードが始まり、このカスケードは、最終的に細胞死を招くことができ、選択的神経細胞死、細胞浮腫、および新血管新生を伴うことが公知である。このことは図1Aで詳細に概説しており、図1Aは、ナトリウム-カリウムATPアーゼポンプの不全、膜脱分極、ならびに細胞質におけるナトリウムイオンおよびカルシウムイオンの蓄積とそれに続く破壊的フリーラジカルの形成を含む、カスケード中の主要な段階を明らかにしている。最終的に、このプロセスは、ネクローシスまたはアポトーシスによる細胞死をもたらす(Osborne N et al. 2004)。したがって、虚血性経路には、公知の老化誘導因子が存在しており、セノリティック剤は虚血によって誘発される複数の老化反応の結果に影響を与え得るという仮説が裏付けられる。
【0110】
緑内障は、虚血(Choi and Kook, 2015)、上昇したIOP、遺伝的感受性、および酸化ストレス(Wang et al. 2014)が含まれる一連の因子の影響を受ける、網膜神経節細胞死へのこの進行を示す眼疾患の別の例である。前述の各因子は、老化を誘導し、老化細胞およびそれらの関連SASP因子によってもたらされる周囲環境の変化を引き起こすもととなり得る。
【0111】
図1Bは、網膜神経節細胞(RGC)細胞死を招く、緑内障の多因子性病態生理を示している(Wang et al. 2014)。
【0112】
緑内障
緑内障は、有病率および病態生理学的特徴の両方において、年齢と顕著な関連性がある。緑内障の有病率は、白人では60歳、アフリカ系アメリカ人およびヒスパニックでは40歳を超えると、著しく上昇する。年齢は、IOPを含めて、緑内障の最も一貫しており変化が最も少ないリスク因子である。年齢は、眼中の房水流出率の低下および関連するIOP上昇、強膜の硬化とそれに続く視神経の生体力学的諸特性への影響、ならびに網膜神経節細胞の集団の減少とも関連付けられている(Caprioli, 2013)。
【0113】
緑内障は、「眼房水」として公知の透明な体液の異常な蓄積によって引き起こされる眼の前眼房の圧力を軽減できないことに起因する眼内圧上昇に関連付けられている、視神経症(視神経の障害)の一形態である。緑内障には2つの主要なタイプがある:開放隅角緑内障および閉塞隅角緑内障。緑内障は、病因を基準として、原発性緑内障:原発性開放隅角緑内障または原発性閉塞隅角緑内障;およびステロイド緑内障、偽落屑緑内障、または色素散乱緑内障を含む他の障害によって誘発される続発性緑内障に分類することができる。開放隅角緑内障(広隅角緑内障とも呼ばれる)において、眼の線維柱帯の排出構造または排出流路は、毛様体によって産生される体液を本来すべきようには排出せず、その結果、眼内圧が上昇する。閉塞隅角(または狭隅角)緑内障では、虹彩と角膜の間の隅角が狭すぎるため、眼は正しく排出せず、これは、眼内圧の急激な増加を引き起こし得る。閉塞隅角緑内障の症状は、急性または慢性であり得る。閉塞隅角緑内障は、遠視および白内障と関連付けることができる。
【0114】
眼房水は、眼の後眼房の毛様体中で約2.5μl/分の速度で形成され、水晶体の前面と虹彩の裏面の間の間隙を通り、虹彩中の瞳孔開口部を通過して、前眼房に入る。眼が正常に機能している場合、眼房水は、入るのと同じ速度または実質的に同じ速度で前眼房から流れ出し、その結果、眼内圧力は、約12~22mm Hgの正常範囲内に留まる。体液は、比較的非圧縮性であり、したがって、眼内圧は、眼の全体にわたって比較的均一に分配される。毛様体での水性体液の産生と該体液の流出との不均衡が生じると、眼内圧の上昇が起こる。
【0115】
前眼房からの眼房水の流出は、2つの経路による。少量(約10%)は、毛様体中の筋線維間の「ぶどう膜強膜排出路」を通って出て行く。この流れは、眼内圧とは無関係である。しかし、流出の主要経路は、線維柱帯(TM)を通ってシュレム管に入るものであり、圧力依存性である。この経路が妨害されると、眼内圧が上昇し得る。これは、眼内圧力が十分に上昇して流出に対する妨害に打ち勝つまで、眼房水の流入が平衡にならないためである。緑内障患者のTM中の老化細胞についての本発明者らの知見は、この疾患の病態生理におけるTMの機能不全を裏付ける。やがては、これは、末梢および中央の両方の視覚喪失を招く可能性があり、最終的には、網膜神経節細胞および視神経機能の喪失により全盲に至る可能性がある。
【0116】
開放隅角緑内障に罹患している対象および慢性閉塞隅角緑内障に罹患している対象は、疾患過程の初期に、明らかな症状を有していない場合がある。視野喪失が、緑内障の後期に発生し得る。緑内障の治療を必要とする対象は、限定されるわけではないが、眼内圧の上昇、対応する視野喪失を伴う視神経異常、視力低下、角膜膨潤、および排出隅角の閉鎖を含む1種または複数種の症状を示し得る。いくつかの例において、眼内圧レベルが変動する対象は、視覚のかすみを経験し、光の回りにハローが見える場合がある。いくつかの場合において、急性閉塞隅角の症状には、眼痛、頭痛、悪心、嘔吐、および視覚的なぼけの急速な発生が含まれる。急性閉塞隅角緑内障の患者の眼は、赤く見える可能性があり、眼の瞳孔は、大きく、かつ光に非反応性である場合がある。ある種の場合において、角膜は、肉眼には濁って見えることがある。
【0117】
本発明に従って治療すべき対象は、先に概説した診断方法を用いて、緑内障の存在を示唆する臨床症状または眼科検査に基づいて選択することができる。これらには、細隙灯および隅角鏡検査、眼圧測定、視神経の画像化および検査、眼底撮影法、ならびにOCT法が含まれる。
【0118】
本発明のセノリティック剤は、治療を必要とする対象の眼の眼内圧の低下、例えば、TMおよび前眼房中の老化細胞および関連SASPの排除による、上昇した眼内圧から正常な眼内圧への低下、を実現することができる。視神経障害は、眼内圧を十分に低下させることによって軽減および抑制することができ、いくつかの場合において、網膜の視覚的能力の回復または改善を実現することができる。
【0119】
いくつかの場合において、セノリティック物質は、眼の前眼房中への前房内注射によって、または眼の後眼部、硝子体、もしくは硝子体腔中への硝子体内注射によって、投与される。本発明のセノリティック剤は、眼房水流出を促進し、それによって眼内圧を低下させるために有効であり得る。硝子体内投与は、眼の自然な体液流れを利用してよい。すなわち、硝子体液が、前眼房に流れながら、線維柱帯およびぶどう膜強膜路に活性物質を送達する。これにより、眼の前眼部の作用部位への活性物質の送達を実現することができる。硝子体内送達はまた、緑内障で影響を受ける網膜神経節細胞を直接的に標的とし得る。
【0120】
任意で、セノリティック剤は、眼内圧を軽減する外科的方法、例えば、管形成術、レーザー線維柱帯形成術、線維柱帯切除術、およびシャントまたは他の埋め込み器具の挿入と併用して投与することができる。通常、外科的介入は、眼内圧の上昇からの一時的な緩和を提供する。排出用埋め込み器具には、切開部を介して眼の中に挿入し、例えば、角膜縁の後方の強膜上に留置して排出を促進することができる、米国特許第9,468,558号に記載されているものが含まれる。
【0121】
糖尿病性網膜症
糖尿病および糖尿病性網膜症の有病率は、加齢に伴って上昇し、50歳を超える人々において最も一般的な失明原因である。これは、多因子性障害であり、高血糖が細胞に対して毒性作用を及ぼし、炎症性サイトカインが糖尿病性眼疾患の多くの側面に関係付けられている(Lutty 2013)。
【0122】
糖尿病性眼疾患は、糖尿病を患う対象において、血管を裏打ちする細胞の変化が原因で発症し、血管機能不全および神経機能不全の両方を含む。糖尿病患者は、しばしば、角膜異常、緑内障、虹彩新生血管、白内障、および神経障害などの眼合併症を発症する。糖尿病性網膜症は、糖尿病の一般的かつ潜在的に重篤な合併症である。
【0123】
高血糖の持続期間および重症度は、糖尿病性網膜症の発症に関連付けられている因子である。糖尿病において見られるように、グルコースレベルが高い場合、グルコースはいくつかの方法で損傷を引き起こし得る。例えば、グルコースまたはグルコースの代謝産物は、タンパク質のアミノ基に結合して、組織損傷をもたらす。さらに、過剰なグルコースはポリオール経路に入り、その結果、ソルビトールの蓄積が起こる。網膜の細胞はソルビトールを代謝することができず、ソルビトールは、高い細胞内浸透圧、細胞内浮腫、拡散障害、組織低酸素、毛細血管細胞損傷、および毛細血管脆弱化の一因となり得る。糖尿病性網膜症は、毛細血管基底膜の肥厚を伴い、周皮細胞が毛細血管の内皮細胞と接触するのを妨げる。周皮細胞の消失は、毛細血管の漏出を増加させ、血液網膜関門の破損を招き得る。弱まった毛細血管は、動脈瘤形成およびさらなる漏出を招き得る。高血糖のこれらの影響により、網膜の神経機能も障害され得る。これは、非増殖性糖尿病性網膜症と呼ばれる、糖尿病性網膜症の初期段階である。
【0124】
糖尿病性網膜症はまた、神経網膜の変性疾患であり、臨床的な血管疾患の発症前に神経機能の変化を伴う。糖尿病では、網膜毛細血管が閉塞されることにより、網膜中に虚血領域が生じ得る。灌流されない組織は、既存の血管からの新しい血管の成長を誘発することによって反応する(すなわち、血管形成)。これらの新しい血管もまた、視覚喪失、すなわち、増殖性糖尿病性網膜症と呼ばれる病態の原因となり得、これは、新しい血管が脆弱であり、眼の中に血液を漏出させる傾向があるためである。進行した増殖性糖尿病性網膜症では、網膜新生血管を伴う、VEGFを介した血管形成反応が後に続いて、硝子体出血または牽引性網膜剥離の発症に起因する重度の視力喪失についての高まったリスクに眼がさらされる。治療をしない場合、不可逆的な血管または神経細胞の損傷が起こり得るため、早期の治療処置の必要性が強調される。
【0125】
糖尿病性網膜症の症状には、中心視覚の喪失、色を見る能力がないこと、かすみ目、飛蚊症、視野の歪み、穴、または黒点が含まれる。糖尿病性網膜症の初期段階では、いくつかの場合において、対象は無症候性であり得る。しかし、眼の中の毛細血管瘤は、糖尿病性網膜症の初期の臨床徴候であり得る。いくつかの場合において、毛細血管瘤は、周皮細胞の消失が原因で毛細血管壁が嚢状に突出した後に起こり、表面の網膜層中の小さな赤い点として現れ得る。
【0126】
診断方法には、先に概説した徹底的な眼科検査が含まれ、蛍光眼底血管造影、光干渉断層法スキャニング(OCT)、およびBスキャン超音波検査が、病期決定し治療法に対する反応をモニターするために通常使用される補助的検査である。非増殖性糖尿病性網膜症の重症度は、毛細血管瘤および出血の存在、数、および位置に基づいて評価することができる。毛細血管瘤は、血管造影図の初期段階に極めて小さい高蛍光性の病変として現れる可能性があり、典型的には、蛍光眼底血管造影検査の後期に漏出する。増殖性糖尿病性網膜症は、新血管新生の存在、網膜前出血、硝子体中への出血、線維血管性組織の増殖、および牽引性網膜剥離に基づいて、ある程度評価することができる。OCTを用いて、網膜の厚さおよび網膜内の腫れの存在、ならびに関連する硝子体黄斑牽引を測定することができる。
【0127】
糖尿病性網膜症の他の徴候および症状には、以下が含まれる:1)点状出血および斑状出血。小さい場合は毛細血管瘤に似て見える場合があり、網膜のより深い層(内顆粒層および外網状層)における毛細血管瘤破裂として起こり得る;2)より表面の神経線維層で起こる線状出血である、火炎状出血;3)血管からの血清タンパク質、脂質、およびタンパク質の漏出を可能にする、血液網膜関門の破損によって引き起こされる、網膜浮腫および硬性白斑;4)前毛細血管細動脈の閉塞による神経線維層梗塞である綿花状白斑;これらは、毛細血管瘤および血管透過性亢進がしばしば伴う。;5)無灌流領域に隣接して起こり得る静脈ループおよび静脈の数珠化;これらは、網膜虚血の増大を反映するものであり、その存在は、増殖性糖尿病性網膜症(PDR)への進行についての予測因子となり得る;6)増殖性変化を伴わない再構築された毛細血管床を含む、網膜内細小血管異常;これらは、通常、無灌流網膜の境界に認めることができる;ならびに7)視覚障害を引き起こす黄斑浮腫。
【0128】
他の血管性眼疾患
他の血管性眼疾患は、網膜および/または視神経の動脈および/または静脈の閉塞ならびに網膜症(例えば、未熟児網膜症および/または鎌状赤血球網膜症)によって例示される。
【0129】
網膜静脈閉塞症(RVO)は、網膜から血液を運び去る小静脈の詰まりである。網膜中の小さな静脈(例えば分枝静脈)の詰まりは、アテローム性動脈硬化症によって肥厚化または硬化した網膜動脈が交差し、網膜静脈に圧力をかける場所で起こり得る。詰まりによって、毛細血管中で圧力が増大して、出血ならびに体液および血液の漏出を招く。これにより、黄斑付近の漏出を伴う黄斑浮腫が生じ得る。網膜に酸素を供給するこれらの毛細血管が漏出および無灌流を示すと、黄斑虚血が起こる。次いで、新血管新生、すなわち新たな異常血管成長が起こり、これは、血管新生緑内障、硝子体出血、および後期または重度の場合には、網膜剥離をもたらし得る。RVOで生じる視覚的病的状態および失明は、黄斑浮腫、網膜出血、黄斑虚血、および/または血管新生緑内障といったイベントの結果として生じ得る。
【0130】
関係するイベントは、斑(例えば、血餅または脂肪沈着物)が眼の血管または動脈を塞ぐ場合に起こり得る、網膜中心動脈閉塞症または網膜動脈分枝閉塞症(RAO)である。これにより、通常は片眼だけで、突然かつ恒久的な視覚喪失が起こり得る。中心ROAのいくつかの場合において、罹患した眼の眼底検査は、桜実紅黄斑(すなわち、桜実紅斑)を有する青白い網膜を示す場合があり、これは、網膜動脈から網膜への血流が妨害されて蒼白が生じ、かつ毛様体動脈から脈絡膜への血液の持続供給の結果として網膜の最も薄い部分(すなわち黄斑)において明るい赤色を帯びることによって生じる。通常、これは、塞栓形成後まで発症せず、急性イベントから数日以内に消滅し得る。いくつかの場合において、この時点までに、視力喪失は恒常的であり、原発性視神経萎縮症が発症している。いくつかの場合において、毛様体網膜動脈が黄斑に栄養を与える場合、桜実紅斑は観察されない。分枝RAOは、網膜動脈のより遠位の分枝に斑が留まる場合に起こる可能性があり、耳側網膜血管を冒し得る。いくつかの場合において、網膜動脈閉塞のリスクがある対象が、深刻な閉塞が起こる前に特定され、セノリティック剤を用いて治療される。
【0131】
未熟児網膜症(ROP)(水晶体後線維増殖症(RLF)とも呼ばれる)は、瘢痕化および網膜剥離をもたらし得る、線維血管増殖、例えば、網膜血管の無秩序な成長によって引き起こされる、血管性眼疾患である。酸素毒性および相対的低酸素は、ROPの発症の一因となり得る。ROP疾患の様々な病期が定義されている(Committee for the Classification of Retinopathy of Prematurity, Arch Ophthalmol. 102(8): 1130-1134, 1984)。
【0132】
鎌状赤血球網膜症(SCR)は、鎌状赤血球症に罹患している対象において、いくつかの場合においては10歳代に、発症し得る。鎌状赤血球症(SCD)の眼の症状発現は、結膜、虹彩、網膜、および脈絡膜で起こり得る血管閉塞の結果として生じる。SCRは、眼の微小血管系の血管閉塞によって誘発され、これは、高血糖への血管組織の過剰暴露に関連付けることができる糖尿病性網膜症とは対照的である。SCRは、その局在性および罹患組織に応じて視覚障害をもたらし得る。SCRは、眼における新血管新生の有無に基づいて非増殖性または増殖性に分類することができる。
【0133】
非増殖型のSCRでは、臨床所見には、末梢網膜で観察され得るサーモンパッチ出血、虹色の斑点、および黒い日輪模様が含まれ得る。静脈蛇行、中心窩の無血管領域の拡大、網膜中心動脈閉塞、ならびに乳頭周囲および黄斑周囲の細動脈閉塞もまた、網膜の中央部分で観察され得る。
【0134】
増殖性SCRの合併症は、罹患した眼の10~20%において、視覚障害または視力喪失を招き得る。いくつかの場合において、対象は、増殖性SCRの最初の発症後の自然退行の履歴に基づいて診断されてよい。末梢網膜新生血管は、灌流のある網膜から無灌流網膜に向かって前方に成長できる末梢網膜の血管閉塞後に発症し得る。最初は、これらの新しい血管は平らであり、シーファンに似ている。新血管新生は、脆弱な新生血管組織を通って硝子体中に血液成分を常時漏出することにより、硝子体出血を引き起こすことができる。この出血現象の繰り返しにより、網膜硝子体牽引が悪化し、裂孔原性網膜剥離または牽引性網膜剥離を引き起こす可能性がある。
【0135】
セノリティック療法は、緑内障、糖尿病性網膜症、および血管閉塞性網膜症(例えば、動脈および静脈の閉塞、未熟児網膜症、鎌状赤血球網膜症、炎症性網膜症および感染性網膜症、放射線網膜症など)、ならびに血管新生AMD(VEGFおよび他の公知のSASP因子、例えばIL-6によって媒介されることが公知である)におけるRGC消失を含む、一連の虚血性眼疾患表現型に適用することができる。これらの表現型は、様々な臨床検査手順によって判定およびモニターできる、詳細に明らかにされた臨床的特徴を有しており、この臨床検査手順には、網膜構造(例えば、無灌流領域に対する蛍光眼底血管造影、網膜細胞層の構造、体液存在、厚さについての光干渉断層法)および機能(視野検査、網膜神経節細胞の機能を特異的に測定することができる電気生理学)についての検査および試験が含まれる。
【0136】
本発明を裏付けるものとして、図12Aおよび12Bの画像は、緑内障患者の線維柱帯組織中の老化細胞の存在を示している。老化細胞と緑内障における網膜神経節細胞層の減少とは関連している(Skowronska-Krawcyzyk, 2015; Li et al 2017)。
【0137】
タイプ2:変性病態
これらの病態は、進行性の視力低下を招く、眼の性質、機能、または構造の漸進的な悪化を特徴とする。
【0138】
変性眼疾患の例には、皮膚弛緩症、眼瞼下垂、乾性角膜炎、フックス角膜ジストロフィー、老眼、白内障、ウェット型加齢黄斑変性症(ウェット型AMD)、ドライ型加齢黄斑変性症(ドライ型AMD);硝子体黄斑牽引(VMT)症候群、黄斑円孔、網膜上膜(ERM)、網膜裂孔、網膜剥離、および増殖性硝子体網膜症(PVR)を含む、変性硝子体障害が含まれる。
【0139】
変性病態に対するセノリティック療法の一般的なアプローチおよび目標は、以下に基づいている。
【0140】
変性眼病態は、視覚系のあらゆる解剖的部位に影響を及ぼし、多数の細胞ストレス要因によって誘導される老化の特徴およびSASP関連因子が存在する病態生理学的カスケードに関連している。これらには、UV光曝露および喫煙、酸化ストレスおよび炎症因子、ミトコンドリア損傷およびDNA損傷、ならびに細胞外基質分解などの環境因子が含まれる。さらに、これらのストレス要因は、局所組織の微小環境を混乱させ、進行的な変性変化をもたらし続けるSASP様因子の分泌および蓄積とも関連している。
【0141】
セノリティック療法の目標は、老化細胞およびそれらの関連SASPの排除によってこのサイクルを妨害することである。これにより、組織の進行的な損傷が制限され、細胞微小環境の特徴の改善によって場合によっては機能が修復されると思われる。例として、セノリティック療法は、AMDの様々な病期に関係があることが公知である一連の成長因子を減少させることができる。SASP因子の産生を妨害するセノリティック剤は、AMDの病態生理学的経過に多面的な影響を及ぼすことができ、かつ疾患の経過を変え、場合によっては逆転させることができる。
【0142】
視覚系の変性障害は、前方および後方の構造に影響を及ぼし、したがって、これらの疾患に対するセノリティック物質の送達へのアプローチは、主な病変の部位に応じて、前方送達メカニズムおよび後方送達メカニズムの両方を含む。
【0143】
皮膚弛緩症
皮膚弛緩症は、眼窩脂肪袋の膨らみをしばしば伴い、たるんだ余分な皮膚および輪筋を特徴とする、上眼瞼および下眼瞼における加齢変化である。これは、眉の下垂および額の弛緩を伴う場合がある。上眼瞼において重症である場合、周辺視覚を制限し、中心視軸を妨げ得る。視覚的に顕著な眼瞼下垂の局在性、重症度、および出現率は、加齢に伴って上昇する。
【0144】
甲状腺関連眼窩症、腎不全、外傷、弛緩性皮膚、エーラース・ダンロス症候群、アミロイドーシス、遺伝性血管神経性浮腫、および黄色板腫などの全身性疾患は、対象を皮膚弛緩症に罹患しやすくする場合がある。いくつかの場合において、皮膚弛緩症は、遺伝性障害に関連している。皮膚弛緩症は、眼瞼の前方部分の構造を支持する結合組織における弾性の減少によって引き起こされる。皮膚弛緩症の病態生理は、皮膚で認められる通常の加齢変化と一致している。これには、弾性線維の減少、表皮の薄化、皮膚の余剰、およびリンパ管拡張が含まれる。皮膚弛緩症に罹患している対象はまた、眼瞼炎、すなわち、潤滑にする体液を産生する眼の腺(マイボーム腺)の詰まりによって引き起こされる病態も有し得る。
【0145】
皮膚弛緩症は、睫毛を眼の中に押し込んで眼瞼内反を引き起こすほどに重症である場合がある。上眼瞼内反および下眼瞼の内反または後退などの眼瞼変形が、上眼瞼または下眼瞼の余分な皮膚と共に観察され得る。余分な上眼瞼皮膚は睫毛の上に垂れ下がって、結果として角膜炎を起こす睫毛下垂および眼瞼内反を引き起こす。重度の下眼瞼皮膚弛緩症の患者では、下眼瞼の弛緩症が発症し、結果として眼瞼後退または眼瞼内反を起こす。
【0146】
皮膚弛緩症は、視野喪失をもたらし得る。皮膚弛緩症の重症症例では、患者は、上方視野の50%またはそれより多くを失う場合がある。単に審美的な変形を有する患者は、いかなる視野欠損も経験しない場合がある。いくつかの場合において、眼瞼炎が、中度~重度の皮膚弛緩症の患者において観察される。眼瞼炎は、眼瞼皮膚浮腫および紅斑;フケ状の薄片;マイボーム腺の炎症および詰まり;ならびに時折、麦粒腫を特徴とする。
【0147】
セノリティック剤の(例えば、眼瞼の皮膚および/または筋肉への注射または局所投与による)局部的投与により、皮膚弛緩症を治療するために対象に有効用量を送達することができる。本発明のセノリティック剤は、対象における皮膚弛緩症の進行を停止することができる。いくつかの場合において、本発明は、治療の前に引き起こされた損傷の少なくとも一部を停止するか、または逆転させることができる。
【0148】
眼瞼下垂
眼瞼下垂とは、眼瞼縁の異常な位置を指し、最も一般的な原因は加齢である。後天性眼瞼下垂は、患者が産まれたときには正常な眼瞼を有しているが成人期に垂れた眼瞼を持つようになる、病態である。この病態は、片眼または両眼を冒すことができ、高齢者での発生頻度が高く、これは、眼瞼の筋肉が衰え始める場合があるためである。いくつかの場合において、人は、先天性眼瞼下垂を患って産まれる場合があり、両方の眼瞼のいずれか一方の垂れ下がりを含む病態の早期発症を経験する。
【0149】
眼瞼下垂は、眼瞼を持ち上げる筋肉またはそれらの神経分布の機能不全が原因で生じる。原因に応じて、眼瞼下垂は次のいくつかのタイプに分類することができる:眼球運動麻痺、ホルネル症候群、マーカス・ガン下顎眼瞼異常運動症候群、第三脳神経過誤支配が含まれる神経原性眼瞼下垂;眼咽頭筋ジストロフィー、重症筋無力症、筋緊張性ジストロフィー、眼筋ミオパチー、単純性先天性眼瞼下垂、瞼裂縮小症候群が含まれる筋原性眼瞼下垂;退行性または手術後であり得る腱膜性眼瞼下垂;上眼瞼の浮腫または腫瘍が原因で生じる機械的眼瞼下垂;神経毒性眼瞼下垂;および偽性眼瞼下垂。
【0150】
眼瞼下垂の主な症状は、片眼または両眼における、上眼瞼の視認できる垂れ下がりまたはたるみである。通常、眼瞼下垂によって、顔が疲れたまたは険しい容貌になる。眼瞼下垂はまた、眼を湿った状態で保つように眼瞼が有効にもはや機能しないため、ドライアイまたは涙目を招き得る。重度の眼瞼下垂は、視野喪失をもたらし得る。正しく見るために眉を絶えず持ち上げるので、いくつかの場合において、対象は、眼の周辺の疲労およびうずく痛みを感じる。
【0151】
局部的投与は、眼瞼の皮膚および/または筋肉への注射または局所投与によって行うことができる。いくつかの場合において、セノリティック剤は、該病態によって引き起こされる損傷の少なくとも一部分を逆転または停止させることができる。
【0152】
乾性角膜炎
乾性角膜炎は、結膜および/または角膜の乾燥を特徴とする病態である。乾性角膜炎はまた、乾性角結膜炎、ドライアイ、ドライアイ症候群、ドライアイ疾患(DED)、または涙液機能不全症候群とも呼ばれる。乾性角膜炎の範囲に含まれる具体的な亜型には、水分欠乏型DED、蒸発亢進型DED、シェーグレン症候群、涙腺機能不全、およびマイボーム腺疾患が含まれる。
【0153】
いくつかの場合において、乾性角膜炎は、不十分な涙の産生が原因で生じ、涙液減少型ドライアイまたは水分欠乏型DEDと呼ばれる場合がある。涙液減少型ドライアイは、閉経後の女性において、または自己免疫障害もしくは自己免疫疾患、例えば、関節リウマチ、全身性エリテマトーデス(狼瘡)、もしくはシェーグレン症候群に罹患している対象において、見出すことができる。ある種の場合において、乾性角膜炎は、涙の急速な蒸発をもたらす涙組成の異常が原因で起こり、したがって、蒸発亢進型ドライアイと呼ばれる場合がある。眼の乾燥はまた、(例えば、夜間兎眼に罹患している対象において)夜の一定期間、眼が部分的に開いていること、または(例えば、パーキンソン病に罹患している対象で起こり得るように)まばたきの速度が不十分であることにも起因し得る。乾性角膜炎の病態に起因し得る、眼の表面の損傷には、明るい光に対する不快感および過敏性の増大が含まれ得る。
【0154】
乾性角膜炎の症状には、眼刺激、ひりひりした痛み、灼熱感、疼痛または痛み、そう痒感、引っ張られるような感じ、眼の奥の圧迫感;眼の乾燥した、かゆい、ざらついた、またはざらざらした感じ;異物感、明るい光に対する過敏性、霧視、まばたきの増加、眼疲労、羞明、発赤、粘液分泌、コンタクトレンズ不耐症、および過剰な反射性流涙が含まれ得る。異物感とは、まるで何かが眼の中にあるような感覚または感じを指す。特定の場合において、対象は、重度であり、頻繁であり、かつ/または持続期間が長い、霧視または眼刺激を経験し得る。重度のドライアイに罹患している一部の対象において、角膜表面が肥厚化する場合があり、かつ/または潰瘍および瘢痕が発達する場合がある。いくつかの場合において、血管が角膜の全域で成長し、視力を低下させる場合がある。
【0155】
乾性角膜炎に罹患している対象全員がすべての症状を示すわけではない。対象は、眼の不快感または灼熱感を訴える場合がある。羞明または霧視は、重症例で存在する場合さえある。例えば、酒さ性ざ瘡、放射線療法、関節リウマチ、全身性エリテマトーデス、もしくは強皮症、または他の自己免疫障害と既に診断されている患者において、患者の病歴がドライアイを示唆する場合もある。細隙灯を用いる生体顕微鏡検査を実施して、マイボーム腺炎、結膜拡張、涙液メニスカスの減少、涙中のデブリスの増加、糸状の目やに、または乾性角膜炎と一致する染色パターンを検出することができる。また、10秒未満の涙液層破壊時間も評価してよく、シルマー試験を実施して、治療の恩恵を受けると思われる対象を特定することができる。
【0156】
セノリティック物質は、例えば、点眼剤、軟膏剤、ゲル剤による、または眼の外面に装着されたコンタクトレンズからの制御された持続放出による、乾性角膜炎の罹患部位、例えば、結膜および/または角膜への局所投与によって送達してよい。涙点プラグシステムまたは直接的注入によるマイボーム腺中または涙腺中への送達もまた、セノリティック剤の送達のための考慮対象であってよい。病態の改善には、下角膜フルオレセイン染色の減少、シルマー試験の改善、またはドライアイ症候群の徴候および/もしくは症状の改善が含まれ得る。改善は、眼表面疾患指数または眼快適性指数を用いて測定してよい。
【0157】
フックス角膜ジストロフィー(FCD)
フックス角膜ジストロフィーは、角膜移植の主な原因であり40歳を超える米国人口の5%に発症する。これは、内皮細胞の漸次消失および異常な細胞マトリックスの角膜沈着を特徴とする。残存する内皮細胞が角膜の水分を取り除き透明性を維持するには不十分であるため、角膜が徐々に膨張し、曇る。公知の老化関連遺伝子CDKN1AおよびCDKN2Aのタンパク質発現が増大していることが明らかにされている(Matthaei et al, 2014)。FCDの症状には、霧視および混濁が含まれ、疼痛および角膜の水疱形成を伴う場合がある。診断は、先に概説したような標準的な眼科検査によって行われ、角膜厚は、角膜厚測定によって測定することができる。現在利用可能な治療法には、外用点滴剤および部分的または全体的な全層角膜移植を伴う外科的介入が含まれる。セノリティック剤の投与は、眼の角膜または角膜に隣接した前眼房への局部的送達により、例えば、前房内注射によって、または眼に埋め込み可能な器具を介して、実現することができる。これにより、治療の前に引き起こされた損傷の少なくとも一部の進行が停止し得るか、または逆転し得る。
【0158】
老眼
老眼は、加齢に直接的に関連している病態であり、中年に達するとほぼ全員に起こる。老眼は、眼の老化に関連しており、これにより、近くの物体にはっきりと焦点を合わせる能力が徐々に衰える。老眼は、眼の水晶体が硬くなり柔軟性を失うことが原因で、近くの物体を見る場合に眼が網膜上ではなく網膜の後ろに光の焦点を合わせるようになることに起因する。水晶体の硬化は、水晶体中のαクリスタリンのレベルが低下した結果であり得る。毛様体筋線維の衰えもまた、毛様体筋が水晶体を変形させることが出来なくなる一因となって、老眼を引き起こし得る。セノリティック物質の投与は、老化細胞を排除し、その後、加齢に伴って生じる筋肉線維症を減少させることにより、毛様体筋を強化し得る。
【0159】
症状には、屈折異常、(例えば、薄暗い条件での)細かい文字を読むことが困難であること、読み物を遠く離して持つ必要があること、近くの物体がぼやけること、近見視力を要する作業を行う際の眼精疲労、頭痛、および疲労が含まれる。診断は、視覚ならびに物体に焦点をあわせ識別する能力を評価するための検査を含む、眼科医による眼の検査によって実施することができる。
【0160】
投与は、眼の水晶体または水晶体に隣接した眼房への局部的送達により、例えば、前房内注射、硝子体内注射によって、または眼に埋め込み可能な器具を介して、行うことができる。これにより、存在していた損傷の少なくとも一部の進行が停止し得るか、または逆転し得る。
【0161】
白内障
白内障は、依然として世界での失明の最大原因であり、世界の3900万人の盲人のうちの1800万人に相当する。発病率は加齢に伴って上昇することが公知であり、加齢に関連する発症または視覚を脅かす水晶体混濁の影響を受ける恐れのない地域は世界にない。
【0162】
白内障は、進行性の無痛性視覚喪失を引き起こす、眼の水晶体の不透明化である。白内障は、位置に基づいて分類することができる。嚢下白内障は、水晶体の後ろで生じる。糖尿病の者または高用量のステロイド薬剤を服用している者は、嚢下白内障を発症するリスクが高い可能性がある。核白内障は、水晶体の核(例えば中央領域)の深部で形成し、加齢に関連し得る。皮質白内障は、水晶体の周辺部から始まり、スポークに似た様式で中心へと進んでいく、くさびに似た形の白い混濁を特徴とする。皮質白内障は、中央の核を取り囲む水晶体皮質において生じ得る。
【0163】
眼内部の正常な水晶体は、カメラレンズによく似た働きをして、はっきりと見るために光を受け取り網膜上に焦点を合わせる。水晶体はまた、眼の焦点を調整して、間近でも遠くでも我々が物をはっきりと見えるようにする。水晶体は、水およびタンパク質から主に構成されており、タンパク質は、組み合わさって、水晶体の透過性および屈折率にとってきわめて重要な著しく秩序立った相互作用的マクロ構造を形成している。タンパク質内相互作用またはタンパク質間相互作用が妨害されると、この構造が変化して、疎水性表面がむき出しになり、白内障形成に関連するタンパク質凝集が引き起こされる場合がある。やがて、白内障が大きく発達し、水晶体のより多くの部分を混濁させて、一部の光が水晶体を通過するのを妨害し光を散乱させて、網膜上のくっきりした焦点を妨げる場合がある。
【0164】
いくつかのリスク因子が、白内障の形成に関連付けられており、これらには、限定されるわけではないが、紫外線照射曝露、糖尿病、高血圧、肥満、喫煙、コルチコステロイド薬剤の長期使用、コレステロールを下げるのに使用されるスタチン医薬品、眼外傷または眼炎症の既往、眼の外科手術を以前に受けたこと、ホルモン補充療法、著しいアルコール消費、強度近視、家族歴が含まれる。いくつかの場合において、白内障は、酸化的障害に関連している。老人性白内障は、眼の水晶体の漸進的な進行性の肥厚を特徴とする、加齢に関連する視覚障害疾患である。本出願の全体にわたって概説するように、これらのリスク因子はすべて、視覚系の障害の発現の一因となる老化およびSASP因子の誘導に関連している場合がある。
【0165】
白内障に付随し得る症状には、視力の低下、グレア(例えば、光の周りにハローおよびスターバーストを見ること)、近視化、および単眼複視が含まれる。いくつかの場合において、症状は、次のうちの1つまたは複数によって示される:ページ上の印刷文字の明暗のコントラストを区別する能力の衰えが原因で読むのが困難であること、よく見るために多くの光を必要とすること、濃青色と黒とを区別するのに問題があること、霧視、色が黄色っぽく鮮やかさが減って見えること、および軽度の複視(ゴースト像とも呼ばれる)。特定の場合において、白内障は、膨張し、眼内圧力を増加させて、緑内障を引き起こし得る。
【0166】
白内障は、先に概説したような眼の検査によって確認される。白内障形成に特異的な診断方法には、1)患者の白内障の病因、合併症、および最終的な視覚予後についての手がかりを提供し得る、眼付属器および眼内構造の検査;2)視力低下の他の原因であり得る視神経病変もしくはびまん性黄斑の併発を示すマーカスガン瞳孔もしくは相対的求心性瞳孔反応欠損(RAPD)を検出するための交互点滅対光反射試験;3)核の大きさおよび褐色の検査(拡大後、白内障密度の指標としての核の大きさおよび褐色を、超音波水晶体乳化吸引手術前に測定することができる);4)直像検眼鏡検査および倒像検眼鏡検査―後眼部の完全性を評価するため;または5)対象に白内障を発症しやすくさせる疾患についての遺伝子検査、が含まれる。
【0167】
セノリティック剤は、白内障の発症を予防すること、患者の白内障を逆転させること、白内障の重症度を軽くすること、または水晶体の透明性を高めることにおいて、有効であり得る。投与には、眼内注射もしくは前房内注射による、または眼に埋め込み可能な器具を介する、水晶体または水晶体に隣接した眼房への局部的送達が含まれ得る。これにより、眼の従来の白内障手術を行う必要をなくすことができる。通常、この方法は、水晶体またはその一部分を外科的に切除することなく実施される。
【0168】
加齢黄斑変性症(AMD)
黄斑変性症とは、ブルッフ膜、脈絡膜、神経網膜、および/または網膜色素上皮の異常に関連する中心視覚の漸次喪失を特徴とする疾患ファミリーを意味する。AMDは、2つのタイプ、すなわちドライ型黄斑変性症およびウェット型黄斑変性症に分類することができる。ドライ型AMDは、黄斑中の網膜色素上皮(RPE)細胞および光受容体細胞の徐々の消失によって定義される。ウェット型AMDは、黄斑上皮の下での異常な血管の成長を特徴とする。網膜形態およびエネルギー代謝の加齢に伴う発達的変化、ならびに環境曝露の累積的作用によって、神経網膜および血管網膜ならびに網膜色素上皮が成人期後期に損傷を受けやすくなる可能性がある。加齢黄斑変性症の病因は、酸化ストレス、ミトコンドリア機能不全、および炎症プロセスを含む、加齢に伴う様々なプロセスに関係している可能性がある。
【0169】
ドライ型AMD(非滲出性AMDとも呼ばれる)は、幅広い呼称であり、新血管新生性ではないあらゆる形態のAMDを包含し、かつ初期型および中期型のAMD、ならびに地図状萎縮または萎縮型AMDとして公知の、進行型のドライ型AMDを含む。地図状萎縮では、網膜細胞の漸進的かつ不可逆的な消失により、視覚機能が失われる。AMD様の病変は、黄斑において、網膜色素上皮およびその下にある脈絡膜の間で、時間とともに網膜を損傷すると考えられているドルーゼンと呼ばれる特徴的な黄色い沈着物が漸進的に蓄積すること(例えば、細胞外のタンパク質および脂質の集積)を特徴とする。
【0170】
ドライ型AMD患者は、この疾患の初期段階には最小限の症状を有する可能性がある。対象の約10~20%で、ドライ型AMDはウェット型のAMDに進行する。ドライ型AMDに冒された患者は、光受容体細胞およびそれらの近くの関連物である網膜色素上皮(RPE)細胞の死滅が原因となって中心視覚を徐々に失い、ドルーゼンの沈着を伴う。光受容体、すなわち光を実際に「見る」網膜中の細胞は、視覚のために不可欠である。RPE細胞は、光受容体の存続、機能、および再生のために必要である。眼のRPE細胞はマクロファージの役割を果たし、光受容体の膜状の外節の構成要素を貪食しリサイクルする。RPE細胞内部のミトコンドリアが損傷した場合、光受容体リサイクルが阻害され、結果としてドルーゼンが蓄積する。ドルーゼン蓄積が原因となって、RPEが、その隣接した血管供給物である脈絡膜毛細管板から物理的に移動する。この移動により、脈絡膜毛細管板と網膜の間での正常な代謝産物および細胞廃棄物の拡散を妨害する可能性がある物理的障壁が作り出される。
【0171】
ドライ型AMDの症状には、ドルーゼン、視覚のゆがみ、例えば、直線が曲がって見えること、片眼または両眼の中心視覚の低下、読書時により明るい光を必要とすること、コントラスト感度の喪失、印刷された単語のぼやけの増大、色の彩度または輝度の低下、顔を認識するのが困難であること、が含まれる。
【0172】
「ウェット」型の進行したAMD(ウェット型AMD)は、血管新生AMDまたは滲出性AMDとも呼ばれ、脈絡膜毛細管板における、ブルッフ膜を通る異常な血管成長(例えば脈絡膜新生血管)に起因する視覚喪失を招く。ウェット型AMDにはドライ型のAMDが先行し、通常、両方の型が同じ個体に同時に存在する―したがって、両方のプロセスが、セノリティック剤を用いる同時治療の影響を受ける可能性がある。光受容体細胞およびRPE細胞がゆっくりと変性し、ブルッフ膜中に裂け目が形成されるため、脈絡膜中の正常な位置から網膜下の異常な位置へと血管が成長する傾向がある。脈絡膜新生血管(CNV)は、血管内皮増殖因子(VEGF)によって刺激される。これらの異常な血管は脆弱であり、最終的に、黄斑の下での血液およびタンパク質の漏出を招き得る。これらの血管に由来する出血、漏出、および瘢痕化は、最終的に、不可逆的な損傷(例えば、出血、膨張、および瘢痕組織)および中心視覚の重度の喪失を光受容体に引き起こし、急速な視覚喪失を引き起こす。治療せずに放置された場合、ウェット型AMDは、AMDに起因する失明全体の約90%の原因となる。
【0173】
ウェット型AMDの症状には、片眼または両眼の中心視覚の低減、例えば、それらの視野の中央の黒っぽい点(または斑点)、正常な側面視覚または周辺視覚、直線が曲がって見えること、色の彩度または輝度の低下、視野全体の全般的なかすみ、視野の中に輪郭がはっきりとしたぼやけた点またはキラキラ光る点があること、異常な新血管新生、眼の中、例えば、黄斑の後ろでの血液漏出、および症状の突然の発症または急速な悪化が含まれる。
【0174】
適格な対象は、対象の眼の目視検査によって、またはリスク因子判定基準に従って、特定され得る。検査には、任意に組み合わせられた、眼底撮影法、暗順応検査、ペリ・ロブソン検査、視覚機能検査(例えば、スネレン視力表、アムスラーグリッド、ファルンスワース・マンセル100ヒューテスト、および最大カラーコントラスト感度テスト)、優先的高視力視野検査、網膜電図検査、光干渉断層法(OCT)、および血管造影(例えば蛍光眼底血管造影)が含まれ得る。
【0175】
AMDは、ドルーゼンの程度(大きさおよび数)にある程度基づいて、3つの病期:初期、中期、および後期に特徴付けることができる。初期AMDは、中程度の大きさのドルーゼンの存在に基づいて診断され、無症候性である場合がある。中期AMDは、大型のドルーゼンおよび/または任意の網膜色素異常に基づいて診断される。いくつかの場合において、中期AMDは、いくらかの視覚喪失を引き起こす場合があるが、通常はやはり無症候性である。後期AMDでは、十分な網膜損傷が起こり、その結果、人々はドルーゼンに加えて、症候的な中心視覚喪失を有する。ドルーゼンが大型で数が多く、黄斑の下の色素細胞層の乱れを伴う場合、症状を発現するリスクが、より高い。大型で柔らかいドルーゼンは、コレステロール沈着物の増加に関係していると考えられている。
【0176】
黄斑変性症の診断は、黄斑中の徴候に基づき、視力を問わない。先に概説したように、様々な手順および検査をAMDの診断に使用することができる。
【0177】
使用される関連したドルーゼン特徴には、検出されるドルーゼンの数、表面面積、および体積;検出されるドルーゼンの形状;ドルーゼンの密度;ならびにドルーゼンの反射率が含まれる。スペクトラルドメイン光干渉断層法(SD-OCT)を用いて得られた網膜画像データを、解析することができる。この画像データは、網膜の断面および網膜の正面画像を含む。この画像データを処理して、ドルーゼンの位置、形状、大きさ、および他のデータを示す正確な構造を得る。この構造情報は、所与の対象および所定の期間でAMDがドライ型からウェット型の疾患に進行するリスクを示す定量的なドルーゼン特徴を提供することができる(米国特許第9,737,205号)。
【0178】
光干渉断層法はまた、診断および治療に対する反応のフォローアップ評価において使用することもできる。ウェット型AMDでは、血管造影(例えば蛍光眼底血管造影)により、異常な血管突起の特定および位置測定が可能になり、これを用いて、黄斑の後ろでの血液漏出を可視化することができる。
【0179】
セノリティック療法は、以下のように、加齢黄斑変性症(AMD)のような変性性網膜疾患に適用することができる。網膜色素上皮(RPE)にリポフスチンのような異常化合物が沈着すると、網膜外層中の光受容体の支持に影響を与える、壊死組織片の継続的な蓄積が起こる。AMDにおいて、これは、ブルッフ膜、脈絡膜毛細管板、および網膜色素上皮(RPE)の加齢に伴う変化に続いて起こる。虚血に関係のある眼疾患の場合のように、複雑な病態生理学的カスケードが開始され、この場合もやはり、老化細胞およびそれらの関連SASPを排除する能力に基づいて疾患の安定化および潜在的な軽減に影響を与えるセノリティック療法のために複数の手段がある。
【0180】
図1C(Kumar and Fu, 2014のものを変更)は、AMDの病態生理学的カスケードに沿う多数の箇所に影響する因子を示している。AMDにおける老化細胞の存在を図14Aおよび14Bに示している。図8は、本発明に合致する、老化RPE細胞におけるセノリティック剤の影響を示す。ウェット型AMDとドライ型AMDの両方の多数の特徴にセノリティック療法が与える影響の可能性は、新しく、前例がない。
【0181】
硝子体の変性障害:
硝子体は、水晶体の後ろの眼の後方部分の腔を満たす透明なゲル様物質である。硝子体は、コラーゲン原線維からなる網様構造から構成され、様々な網膜層および網膜血管系を安定させる助けとなる。時間とともに、硝子体ゲルは、コラーゲン線維網の分解に続いて虚脱し、これにより、下にある網膜上で牽引力が発達するリスクに患者はさらされる。これらの力は、いずれも加齢および硝子体腔のシネレシスと共に増加する多数の硝子体網膜疾患に関連しており、硝子体腔のシネレシスは、70歳までに患者の70%で起こることが公知である。これらの硝子体網膜病態を下記に概説する。
【0182】
硝子体黄斑牽引症候群
硝子体黄斑牽引症候群(VMT)は、(i)不完全な後部硝子体剥離(PVD)、(ii)黄斑への後部硝子体膜面の異常に強力な接着;および/または(iii)形態的影響およびしばしば機能的影響を引き起こす、黄斑上の接着部位で引っ張る、シネレシスを起こした硝子体が及ぼす前後方向の牽引、を特徴とする、硝子体網膜境界の障害である。加齢に伴って、硝子体ゲルは液状化を起こして、体液のたまったポケットを硝子体内部に形成し、これにより、硝子体の収縮または液化(シネレシス)が起こる。硝子体の体積減少と共に、液化する高密度の硝子体皮質によって、硝子体網膜および硝子体乳頭の結合部位に牽引性の引く力が及ぼされる。同時に、硝子体と内境界膜(ILM)の間のこれらの結合が弱まって、後部硝子体膜の剥離を招く可能性がある。症状には、霧視または視力低下、変視症、小視症、暗点、および読書のような視覚に関係する日常作業が困難であることが含まれる。
【0183】
黄斑円孔
黄斑円孔は、一般に中心窩を冒す網膜裂孔である。黄斑円孔は加齢に関係しており、通常、60歳を超える人々に発生する。黄斑円孔は、後部硝子体膜の接線方向の牽引ならびに傍中心窩に対する前後方向の牽引によって引き起こされ得る。黄斑円孔は、最も初期の後部硝子体剥離の合併症として起こり得る。黄斑円孔のリスク因子には、年齢、近視、外傷、および眼の炎症が含まれる。
【0184】
黄斑円孔は、徐々に始まり、次の3つの段階で発達し得る:治療をしないと進行し得る中心窩剥離(ステージI);治療をしないと進行し得る分層円孔(ステージII);および全層円孔(ステージIII)。網膜上の円孔の大きさおよびその位置によって、視覚にどれくらい影響を及ぼすが決まる場合がある。ステージIIIの黄斑円孔が発達すると、ほとんどの中心視覚および精密な視覚が失われ得る。治療せずに放置すると、黄斑円孔は、網膜の剥離という、視力を脅かす病態を招き得る。
【0185】
黄斑円孔の初期段階では、対象は、中心視覚の少しの歪みまたはぼやけに気付く場合がある。直線または物体が、曲がってまたは波打って見え始める場合がある。罹患した眼で読書および他の日常作業を行うことは、困難になる。黄斑円孔の症状には、霧視、中心視覚のゆがみが含まれる。
【0186】
網膜上膜
網膜上膜(ERM、セロファン黄斑症または黄斑パッカーとも呼ばれる)は、網膜の内表面で発達し得る無血管の線維細胞性組織である。ERMの発達および増殖、ならびに年齢および硝子体シネレシスに伴うこの病態の増大に関連している複数のサイトカインがある。
【0187】
組織は、半透明であり、内境界膜の表面で増殖する。ERMの発達では、後部硝子体剥離または後部硝子体膜の部分的分離の後に残存する硝子体皮質が、網膜上で膠細胞が増殖することを可能にし得る。いくつかの場合において、ERMは、特発性の病態である。ある種の場合において、炎症メディエーターは、続発性のERM形成という状況において、線維細胞の増殖を促進する。続発性ERMは、網膜血管疾患、眼の炎症性疾患、外傷、眼内手術、眼内腫瘍、および網膜の裂孔または剥離に関連して生じ得る。他のリスク因子には、年齢、後部硝子体剥離、および僚眼のERM既往歴が含まれる。症状には、無痛性視覚喪失、変視症(例えば、形状が波打ってまたは屈曲して見え得る、視覚のゆがみ)、複視、光過敏性、および像が通常より大きくまたは小さく見えること、が含まれる。
【0188】
いくつかの場合において、ERMに罹患している対象は、症状がほとんどなく、彼らのERMは、散瞳網膜検査または眼干渉断層法(OCT)などを用いる網膜画像化において偶然に診断される。OCT画像化法を用いて、ERMの重症度を評価することができる。また、蛍光眼底血管造影を用いて、網膜の他の潜在的な問題がERMを引き起こしたかどうかを明らかにすることもできる。
【0189】
網膜裂孔および網膜剥離
網膜裂孔は、加齢に伴う硝子体シネレシスに最も多く関連している、既存の硝子体網膜接着領域に対する硝子体牽引の結果として起こり得る。いくつかの場合において、網膜はしばしば、急性の裂孔発症前には完全に正常に見える。網膜裂孔は、それに続く網膜剥離を伴って、または伴わずに、起こり得る。硝子体液は、眼の水晶体と網膜の間の空間を満たしている。通常、硝子体液は、問題を起こすことなく網膜から移動するが、いくつかの場合において、その移動によって強く引っ張って、網膜の1箇所または複数の箇所を引き裂く。体液が網膜裂孔を通過して、眼球後部から網膜を持ち上げるか、または引き離す場合がある。
【0190】
網膜下液が神経感覚網膜と網膜色素上皮の間で蓄積すると、網膜剥離が起こる。このプロセスは、3つの方法で起こり得る。1つのメカニズムは、硝子体液が網膜下空間に直接入るのを可能にする、網膜における亀裂の発生を伴い、裂孔原性網膜剥離として公知である。裂孔原性網膜剥離は、後部硝子体の剥離または外傷に付随する網膜裂孔に関連することが多い。第2のメカニズムは、網膜または硝子体の表面の増殖性膜を伴う。これらの膜は、神経感覚網膜を引っ張って、神経感覚網膜と網膜色素上皮との物理的分離を引き起こすことができ、牽引性網膜剥離と呼ばれる。
【0191】
牽引性網膜剥離は、糖尿病疾患、鎌状赤血球疾患、および網膜の新血管新生を招く他の疾患プロセスに起因する増殖性網膜症において認めることができる。牽引性網膜剥離はまた、外傷または手術後の増殖性硝子体網膜症に起因する場合もある。網膜剥離の第3のメカニズムは、炎症メディエーターまたは腫瘤病変からの体液の滲出に起因する、網膜下液の蓄積に基づく。このメカニズムは、滲出性網膜剥離または漿液性網膜剥離として公知であり、サルコイドーシスまたは脈絡膜新生物などのいくつかの炎症性または滲出性の網膜疾患プロセスによって引き起こされる場合がある。裂孔原性網膜剥離は、牽引性剥離または漿液性剥離とは異なる特徴的な外観を有する。裂孔原性網膜剥離は、波形の外観を有し、眼の動きに伴って波のように動く。牽引性剥離は、滑らかなくぼんだ表面を有し、眼の動きに伴う移動は最小限である。漿液性剥離は、滑らかな網膜表面および患者位置決めに応じて変わる体液移動を示す。
【0192】
網膜裂孔ならびに裂孔原性剥離および牽引性剥離は、レーザー、寒冷療法、気体網膜復位術、強膜バックル、および/または硝子体切除術のうちのいずれかまたは全てによる修復を必要とする。
【0193】
増殖性硝子体網膜症
網膜剥離後に網膜下または網膜上に瘢痕が形成して、網膜が治癒し本来の場所に戻るのを妨げる場合、増殖性硝子体網膜症(PVR)が生じる。PVRは、網膜剥離の修復の失敗に関連している。網膜に孔がある場合、通常は網膜下に存在する細胞が眼球に侵入し、網膜の上の眼球の内層に定着する。これらの細胞は増殖し、網膜の表面(いくつかの場合において、下)に瘢痕を形成する。次いで、この瘢痕組織は収縮し、網膜を眼の最内壁から引き離し、その結果、第2の網膜剥離を引き起こす。
【0194】
本発明のセノリティック剤は、眼の硝子体への硝子体内注射または局所投与によって投与することができる。
【0195】
タイプ3:遺伝的病態
遺伝的眼病態は、個体のDNA配列における変異、欠失、または挿入が原因で生じる疾患として特徴付けられる。
【0196】
遺伝子障害は、以下の3つの主なカテゴリーにグループ分けすることができる:1.単一遺伝子障害:優性、劣性、およびX連鎖性などの単純かつ予想可能な遺伝パターンをしばしば有する、1つの特定の遺伝子の欠陥が原因で生じる障害。2.染色体障害:染色体の数または構造の変化に起因する障害。3.多因子障害(複合疾患):しばしば、食生活またはタバコの煙などの環境因子および生活様式因子との複雑な相互作用で、複数の遺伝子の変化によって引き起こされる障害。
【0197】
遺伝的眼疾患の例には、色素性網膜炎、シュタルガルト病、ベスト病、およびレーベル遺伝性視神経症(LHON)が含まれる。
【0198】
遺伝的病態に対するセノリティック療法の一般的なアプローチおよび目標は、以下に基づいている。
【0199】
視覚系の遺伝子障害は、眼の解剖学的層のすべてに影響を及ぼす可能性があり、老化を促進させる表現型をもたらし得る細胞欠陥と関連しており、老化細胞によって少なくともある程度、引き起こされるか、または媒介される。ある種の眼疾患への遺伝的な感受性から、疾患を媒介する老化細胞の蓄積は直接的にまたは間接的に遺伝的要素の影響を受ける場合があり、このことがやはり、早めの発症を招き得ることが示唆される。遺伝子障害は、持続的な細胞の機能不全および変性/死の一因となる、老化細胞およびSASP産生を伴う多因子カスケードを示す。
【0200】
老化細胞およびそれらの関連SASP因子は、病態生理に存在する血管形成タンパク質、炎症性タンパク質、線維性タンパク質、および細胞外基質修飾性のタンパク質を妨害することにより、持続的な細胞の機能不全、細胞消失、および疾患進行に対する関連した寄与に影響するため、これらの障害は、セノリティック療法の恩恵を受けることができる。視覚系の遺伝子障害は、前方構造および後方構造に影響を及ぼす。セノリティック剤は、主な病変の部位に応じて、眼の前方領域もしくは後方領域、またはその組合せのいずれかに送達される。
【0201】
根底にある病態生理
複合的な単遺伝子性網膜障害、例えば、色素性網膜炎、シュタルガルト病、またはレーベル遺伝性視神経症のようなミトコンドリアDNAの障害は、老化細胞の蓄積を加速させ得る公知の遺伝的基盤を有する疾患に相当する。虚血性疾患または変性疾患の場合のように、視力、視野、経静脈蛍光眼底血管造影図(IVFA)、OCTスキャニング、ならびに網膜電図検査(ERG)および視覚誘発電位(VEP)を含む電気生理学を含む機能検査および構造検査を組み合わせることにより、診断、臨床モニタリング、および治療法への反応をこれらの疾患でモニターする。
【0202】
図1Dは、レーベル遺伝性視神経症において細胞変性および細胞死をもたらす事象を示している(Mann et al. 2002)。図2Aは、色素性網膜炎の各臨床病期における網膜細胞消失を示す(Dryja, 1986)。これらの障害は、老化細胞およびSASPの排除を通して、セノリティック物質の適用の恩恵を受けることができる。
【0203】
シュタルガルト病では、ABCA4遺伝子の変異に続いて、リポフスチン蓄積が起こる。虚血性疾患の場合のように、視力、視野、経静脈蛍光眼底血管造影図(IVFA)、OCTスキャニング、ならびに網膜電図検査(ERG)および視覚誘発電位(VEP)を含む電気生理学を含む機能検査および構造検査を組み合わせることにより、診断、臨床モニタリング、および治療法への反応をこれらの疾患でモニターする。
【0204】
色素性網膜炎
色素性網膜炎は、200個を超える遺伝子のうちのいずれか1つの有害な変化に起因し、網膜中の細胞の崩壊および消失を伴う網膜変性をもたらす、遺伝性障害のグループである。色素性網膜炎は、中心視覚喪失をもたらし得る、進行性の周辺視覚喪失および夜間視力の問題(夜盲)を特徴とする。一般に、遺伝された遺伝子の結果は、網膜内の光受容体細胞への損傷である。色素性網膜炎の症状には、夜盲、視覚喪失、例えば、周辺視覚喪失、トンネル視、および光視症(光が突然現れる)が含まれる。
【0205】
色素性網膜炎の個々の形態に応じて、身体症状にはばらつきがあり、すべての対象がすべての症状を同時に示すわけではない。診断方法には、視野検査、眼底検査、網膜電図(ERG)(光受容体細胞の電気的活動を測定する)、および遺伝子検査が含まれる。眼の検査は、視力および瞳孔反応の判定、ならびに前眼部、網膜、および眼底検査の評価を含んでよい。色素性網膜炎に罹患している対象は、電気的活動が低下している場合があり、これは、光受容体の機能低下を反映している。他の関連疾患の診断において使用されるその他の方法を用いて、可能性がある疾患診断を除外することができる。
【0206】
いくつかの場合において、対象に由来するDNA試料を、色素性網膜炎の遺伝子診断に使用することができる。この障害の個々の形態を、遺伝子型判定することができる。遺伝子検査は、National Ophthalmic Disorder Genotyping and Phenotyping Network (eyeGENE)を通じて利用可能である。
【0207】
シュタルガルト病
シュタルガルト病(シュタルガルト黄斑ジストロフィー、若年性黄斑変性症、および黄色斑眼底とも呼ばれる)は、網膜の遺伝性障害である。シュタルガルト病は、黄斑変性症を引き起こすいくつかの遺伝子障害のうちの1つである。シュタルガルト病は、網膜における過剰なリポフスチン蓄積を特徴とし、これが、黄斑、すなわち、はっきりした中心視覚を担う網膜の小さな中央領域の進行性の損傷または変性を引き起こす。
【0208】
ビタミンAは、光受容体の内部の感光性分子を作るのに使用される。ABCA4と呼ばれる遺伝子の変異が、シュタルガルト病の最も一般的な原因である。この遺伝子のせいで、通常は消えてなくなるタンパク質が、光受容体内部で潜在的に有害なビタミンA副産物になる。影響を受けた細胞は、リポフスチン、すなわち黄みがかった斑を形成する脂肪性物質の塊を蓄積する。リポフスチンの塊が黄斑の中および周囲で増加するにつれ、中心視覚が障害され得る。最終的に、これらの脂肪沈着物が光受容体の死滅を招き、視覚がさらに障害される。
【0209】
シュタルガルト病の症状には、視野の中央の灰色の、黒色の、またはかすんだ点;リポフスチン沈着物;色覚異常、明るい光への過敏性、明るい環境から暗い環境への移動時の長い調整時間が含まれる。シュタルガルト病の症状の進行は、各対象によって様々であり得る。一般に、早めに疾患発症した対象の方が、より急速に視覚を喪失する。視覚喪失は、最初にゆっくりと低下し、次いで、横這い状態になるまで急速に悪化する場合がある。シュタルガルト病に罹患した対象は、最終的に視力が20/200またはそれより悪くなり得る。シュタルガルト病に罹患した人達はまた、年をとるにつれて周辺視覚の一部を喪失し始める場合がある。
【0210】
シュタルガルト病における視覚喪失の症状を評価するために使用できる診断方法には、先に概説したような検査および補助的な検査が含まれ、視野検査、色試験、眼底検査、網膜電図検査(ERG)、光干渉断層法(OCT)、および遺伝子検査が含まれる。リポフスチン沈着物の数、大きさ、色、および外観は、対象によって様々であり得る。リポフスチン沈着物は、黄斑中の黄みがかった斑として観察され得る。通常、これらの斑は、形状が不規則であり、輪に似た模様で黄斑から外側に伸びる。
【0211】
リポフスチンの蓄積は、網膜におけるRPEおよび光受容体の消滅の直接的原因である場合がある。本発明のセノリティック剤は、過剰なリポフスチン蓄積の影響を受けるシュタルガルト病患者の視覚を維持する場合がある。
【0212】
ベスト病
ベスト病(卵黄様黄斑ジストロフィーとも呼ばれる)は、例えば、黄斑の網膜色素上皮層におけるリポフスチン沈着物の出現を特徴とする、早期発症型黄斑変性症の一形態である。リポフスチン沈着物は、黄色またはオレンジ色の卵黄様または卵様の病変として現れ得る。眼の異常は、網膜色素上皮(RPE)における障害に起因する。タンパク質ベストロフィンの機能不全により、RPEによる体液およびイオンの輸送が異常になる。リポフスチンは、RPE細胞内およびRPE下の空間、特に中心窩領域中で蓄積し得る。対象のRPEは、時間とともに変性し、いくつかの場合において、光受容体細胞の二次的な喪失を招き得る。いくつかの場合において、RPE/ブルック膜の破損は、脈絡膜新生血管の発達をもたらし得る。
【0213】
ベスト病の症状には、卵様の外観を有する両側性の大型で黄色の黄斑病変、初期の軽度の視覚喪失、後期の中程度の視覚喪失、脈絡膜新生血管膜(CNVM)、および軽度の眼外傷と共に生じる網膜下出血が含まれる。
【0214】
診断方法には、先に概説したもの、例えば、眼電図記録法(EOG)、網膜電図検査(ERG)、光干渉断層法(OCT)、血管造影(例えば蛍光眼底血管造影)、および眼底自発蛍光画像法が含まれる。眼底自発蛍光(FAF)を用いて、この疾患の早期の卵黄様段階における高自発蛍光を示すことができる。この高自発蛍光は、偽前房蓄膿期になると共に安定することができ、ビテレルティブ(vitelleruptive)期の間に低自発蛍光の領域によってまだらになり、最終的に、疾患の萎縮期の間に低蛍光性になる。FAFを用いて認められる変化は、検眼鏡検査を用いるよりも、先に起こるか、またはより目立って見え得る。
【0215】
セノリティック剤による治療は、リポフスチンに関連する損傷の影響を止めるか、または取り消し得る。
【0216】
レーベル遺伝性視神経症(LHON)
レーベル遺伝性視神経症(LHON)は、視神経の限局的変性に起因する中心視覚の両側性喪失を特徴とするミトコンドリア遺伝病である。視力喪失の発症は、8~60歳に及ぶが、主に15歳~30歳の間に起こる。しかし、視覚劣化は、生後7年以内に既に生じている場合がある。この疾患は、主に男性に発症する。
【0217】
LHONに罹患している対象の症状には、視覚のぼけまたはくもり、視力の喪失、中心視覚の喪失、色覚の障害、盲点中心暗点、視神経乳頭の耳側蒼白、乳頭周囲の末梢血管拡張細小血管症、瞳孔の対光反応の保持、乳頭周囲の網膜神経線維層の腫脹(偽性浮腫)、および視神経萎縮が含まれる。LHON対象は、片方の眼に視覚のぼけまたはくもりを経験するまで無症候のままである場合があり、いくつの場合において、もう一方の眼は、約6~8週間遅れて影響を受ける。LHON患者は、特に緑/赤の領域の色の退色を伴う、中心視覚の急速かつ無痛性の喪失を経験し得る。視力は、例えば数ヶ月で、20/400のレベルに達し得る。視神経萎縮は、この疾患に特直的であり、約6ヶ月後に起こり得る。
【0218】
診断方法には、眼底検査、蛍光眼底血管造影、および光干渉断層法(OCT)が含まれる。眼底検査において、この疾患の特徴的な徴候には、網膜中心血管の血管蛇行、乳頭周囲の末梢血管拡張細小血管症、および乳頭周囲の網膜神経線維層の腫脹が含まれる。蛍光眼底血管造影図を撮影して、真の視神経浮腫を除外することができる。いくつかの場合において、違ったふうに腫れて見える視神経頭部の境界線に沿って、色素漏出は認められない。視神経のOCTが、疾患の初期段階における腫れ、または疾患の後期における萎縮を示す場合がある。
【0219】
タイプ4:感染性眼病態
これらは、細菌、ウイルス、寄生虫、または真菌などの病原性微生物が原因で生じる疾患であり;これらの疾患は、人から人へ直接的にまたは間接的に広がり得る。
【0220】
感染性眼疾患は、細菌病原体、真菌病原体、またはウイルスによって引き起こされ得る。病因因子には、水痘状帯状疱疹(HZV)、単純ヘルペス、サイトメガロウイルス、およびヒト免疫不全ウイルス(HIV)が含まれる。
【0221】
感染性病態に対するセノリティック療法の一般的なアプローチおよび目標は、以下に基づくことができる。
【0222】
視覚系の感染性障害は、眼のすべての解剖学的部位に影響を与え、加齢および老化に密接に関連している。感染病原体は、老化ならびに持続的な細胞の機能不全の一因となる老化細胞およびSASP産生を伴う多因子カスケードの誘導を引き起こすもととなり得る。ひとたび存在すると、老化細胞は次に、感染と戦う能力に影響を与え得る。
【0223】
老化細胞は、ウイルス複製を制御する能力に障害があり(Kim et al, 2016)、このことは、加齢に伴って起こる、感染症への感受性の公知の上昇と合致している。老化および感染病原体に反応する能力は、セノリティック療法によって顕著に影響を与えることができる、眼疾患のカテゴリーである。老化細胞およびそれらの関連SASP因子の排除によって、細胞微小環境への損傷を和らげることができる。視覚系の感染性障害は、前方構造および後方構造に影響を及ぼす。したがって、セノリティック剤は、主な病変の部位に応じて、前区画もしくは後区画、またはその組合せに送達される。
【0224】
単純ヘルペスに関連する眼疾患
セノリティック剤は、単純ヘルペスに関連する眼疾患に起因するウイルス誘発性老化についての対象の治療において使用することができる。単純ヘルペスウイルス(例えば単純ヘルペス1)は、大半の成人に存在する。通常、ヘルペスファミリーのウイルスは、ヒトの神経線維の周囲に位置している。ヘルペスウイルスは、眼に感染して、角膜の炎症および瘢痕化を引き起こし得る。眼のヘルペスは、ウイルスが活性である感染者との密接な接触によって伝染し得る。単純感染から失明を引き起こし得る病態まで、眼ヘルペス感染症にはいくつかの形態がある。ヘルペス角膜炎は、通常は角膜の上皮を冒すウイルス性角膜感染症である。角膜の層中の深くに感染が進むと間質性角膜炎が起こり、瘢痕化および/または視覚喪失を招き得る。間質性角膜炎は、最初の感染に対する晩期の免疫応答に関係付けられる場合がある。虹彩毛様体炎は、虹彩および眼の内部の周辺組織が炎症を起こして、重度の光過敏性、霧視、疼痛、および充血を引き起こす、重篤な型の感染症である。網膜または眼の後部の内膜において感染が起こる場合、これをヘルペス網膜炎と呼ぶことができる。
【0225】
症状には、片眼のみの眼中および眼周囲の疼痛、頭痛および発熱、眼瞼および眼周囲、特に額または鼻の先端における発赤、発疹、またはただれ、眼の充血、かすみ目、角膜の炎症または腫脹および/もしくは混濁、眼にほこりまたは砂が入ったような感触、過剰に出る涙、明るい光を見る際の疼痛が含まれる。診断方法には、先に概説したものが含まれる。いくつかの場合において、ツァンク塗抹検査またはライト染色検査を用いて、存在する病変がヘルペス型ウイルスを含むかどうかを判定することができる。また、ウイルス培養、直接的免疫蛍光アッセイ法、および/またはPCR法を使用して、特定のウイルスによる感染症の診断を確認することもできる。
【0226】
セノリティック剤は、眼疾患を治療、改善、および/または予防するために、感染症に冒された部位、例えば、結膜および/または角膜への局部的な局所投与によって投与することができる。これは、患者の眼内の作用部位にセノリティック物質を送達するコンタクトレンズの適用によって、または眼中の特定の感染部位への眼内注射によって、実現することができる。任意で、セノリティック剤は、抗ウイルス剤と組み合わせて投与することができ、抗ウイルス剤には、アシクロビル、ファムシクロビル、またはバラシクロビルなどの経口剤が含まれ得る。
【0227】
眼部帯状ヘルペス
ヘルペス水痘帯状疱疹ウイルス(HZV)または水痘帯状疱疹ウイルス(VZV)は、ヒトの神経線維の周囲に通常は位置している、ヘルペスファミリーの潜伏ウイルスである。これは、年齢の上昇に強く関連付けられている。三叉神経の眼神経におけるウイルスの再活性化は、眼疾患の眼部帯状ヘルペス(ZHOU)を招く。
【0228】
症状には、重度の慢性疼痛、視覚喪失、前頭部皮膚分節の発疹、眼の前方構造およびいくつかの場合においては後方構造の全組織の有痛性の炎症、片眼のみの眼中および眼周囲の疼痛、頭痛および発熱、眼の充血、かすみ目、角膜の炎症または腫脹および/もしくは混濁、眼にほこりまたは砂が入ったような感触、過剰に出る涙、明るい光を見る際の疼痛が含まれる。
【0229】
本発明に従って治療すべき対象は、HZOの存在を示唆する臨床症状または眼科検査に基づいて選択することができる。診断方法には、外部視診、視力、視野、余分な眼球運動、瞳孔反応、眼底検査、眼内圧、前眼房細隙灯検査、ならびに染色を伴うおよび伴わない角膜検査が含まれる。いくつかの場合において、ツァンク塗抹検査またはライト染色検査を用いて、病変がヘルペス型ウイルスを含むかどうかを判定することができる。また、ウイルス培養、直接的免疫蛍光アッセイ法、および/またはPCR法を使用して、特定のウイルスによる感染症の診断を確認することもできる。
【0230】
セノリティック剤は、例えば、点眼剤を用いて、コンタクトレンズの適用によって、または眼中の特定の感染部位への眼内注射によって、感染症に冒された部位、例えば、結膜および/または角膜への局部的な局所投与によって投与することができる。セノリティック剤は、コルチコステロイドまたは抗ウイルス剤などの第2の作用物質、例えば、アシクロビル、ファムシクロビル、またはバラシクロビルなどヘルペス水痘帯状疱疹ウイルスに対して活性な作用物質と組み合わせて投与することができる。いくつかの場合において、抗ウイルス剤は、経口投与される。
【0231】
サイトメガロウイルス網膜炎
サイトメガロウイルス(CMV)に関連する眼疾患には、CMV網膜炎が含まれる。CMV網膜炎は、免疫力が低下した宿主(HIV、臓器移植)で最も多く認められる一般的な日和見性眼感染症であり、網膜の炎症を招き、網膜中の光を感じる細胞を攻撃して、視覚喪失、およびいくつかの場合において、失明をもたらし得る。一次感染後、CMVは、骨髄系前駆細胞中での潜伏感染および活性化されたマクロファージまたは樹状細胞からの間欠的なウイルス再活性化を確立し、これは、ウイルス特異的CD4+T細胞およびCD8+T細胞の強力な応答によって抑制されている。いくつかの場合において、HIV患者は、CD4数が50細胞/μL未満に減ると、CMVに関連する眼疾患に罹患しやすくなる。HIV陽性であるか、または免疫抑制化学療法を受けている対象は、サイトメガロウイルスに関連する眼疾に罹患しやすい可能性がある。
【0232】
CMV網膜炎の症状には、片眼または両眼の感染、飛蚊症、閃光、盲点、霧視、周辺視覚の喪失、および網膜剥離が含まれる。CMV網膜炎の診断は、対象の試料に由来するウイルスDNAをPCR増幅することによって確認することができる。対象の試料のCD4+Tリンパ球数を用いて、眼感染症の発症を予測および/または診断することができる。CD4+Tリンパ球数が少ない患者は、この疾患の網膜症状について定期的な眼科検査を受けるべきである。
【0233】
セノリティック剤は、点眼剤を用いて、コンタクトレンズの適用によって、または眼中の特定の感染部位への眼内注射によって、眼の前部に投与してよい。いくつかの場合において、セノリティック剤は、ガンシクロビル、バルガンシクロビル、ホスカルネット、またはシドフォビルなどの抗ウイルス剤と組み合わせて投与される。
【0234】
ヒト免疫不全ウイルス(HIV)に関連する眼疾患
ヒト免疫不全ウイルス(HIV)は、非感染性の微小血管障害または様々な日和見感染症によって、直接的にまたは間接的に眼を冒し得る。HIV感染症の眼の症状発現は、前眼部または後眼部に関係し得る。前眼部は、眼周囲組織の腫瘍および様々な外部感染症を発症し得る。後眼部は、HIVに関連する網膜症または網膜および/もしくは脈絡膜の日和見感染症を発症し得る。HIV感染症の眼の症状発現には、伝染性軟属腫、眼部帯状ヘルペス、カポジ肉腫、結膜扁平上皮癌、長睫毛症、ドライアイ、前部ブドウ膜炎、網膜微小血管障害、CMV網膜炎、急性網膜壊死、進行性網膜外層壊死、トキソプラズマ網脈絡膜炎、トキソプラズマ性網脈絡膜炎、梅毒網膜炎、およびカンジダ・アルビカンス(Candida albicans)眼内炎が含まれる。
【0235】
症状には、視力の喪失、網膜損傷、および対象となる日和見感染症に関連する様々な他の症状が含まれ得る。診断方法には、先に概説したものが含まれる。
【0236】
いくつかの場合において、対象の試料のCD4+Tリンパ球数を用いて、HIV陽性患者における眼感染症の発症を予測および/または診断する。いくつかの場合において、初期HIV疾患の患者(CD4数>300細胞/μL)において、免疫抑制に関連する眼の症候群は稀である。
【0237】
セノリティック剤は、任意で、注射または経口投与によって全身的に与えられる抗レトロウイルスHIV剤またはバルガンシクロビルのような特異的抗ウイルス剤と組み合わせて、眼中の特定の感染部位への硝子体内注射によって投与することができる。
【0238】
タイプ5:炎症性病態
これらは、傷害、異物、または組織の破壊によって誘発される局所的応答を特徴とし、この局所的応答は、炎症誘発性メディエーターの産生および免疫系細胞の動員を介して、傷害性物質および傷害組織の両方を破壊するか、強度を弱めるか、または隔離する役割を果たす。この炎症反応は、機械的外傷、過剰な量の太陽光線、X線、および放射性物質、腐食性化学物質、極端な熱および冷気への曝露、を含む、物理的、化学的、および生物学的物質によって、または細菌、ウイルス、および他の病原性微生物などの感染病原体によって、誘発され得る。炎症は、急性または慢性であり、公知の誘発要因に関連するか、または特発性(すなわち、明白な刺激因子に関連していない)であり得る。また、自己免疫眼疾患も存在し、顕著な視覚能力障害を伴い得る。
【0239】
特発性の炎症性後眼部疾患の例には、点状脈絡膜炎(PIC)、多病巣性脈絡膜炎(MIC)、および匐行性脈絡膜症が含まれる。炎症はまた、他の病因に関連する眼障害においても役割を果たす場合がある。
【0240】
炎症性病態に対するセノリティック療法の一般的なアプローチおよび目標は、以下に基づいている。
【0241】
原発性および続発性の炎症性眼病態は、眼瞼および角膜から視神経および視覚路まで、視覚系の解剖的部位すべてに影響を及ぼし、急性または慢性であり得る。これらは、老化の特徴およびSASP関連因子が高密度に存在する病態生理学的カスケードに関連している。セノリティック療法の目標は、老化細胞およびそれらの関連SASPの排除によって炎症サイクルを妨害することである。これにより、組織の進行的な損傷が制限され、細胞微小環境の特徴の改善によって場合によっては機能が修復される。
【0242】
慢性炎症は、加齢および老化、ならびに加齢に伴う多数の疾患の特徴である。したがって、慢性炎症は、これまで提示した疾患カテゴリーのすべてにおいて役割を果たしている。視覚系の炎症性障害は、前方構造および後方構造に影響を及ぼし、主な病変の部位に応じて、それ相応に治療される。
【0243】
点状脈絡膜炎(PIC)
PICは、感染原因が除外された後の、多病巣性の境界明瞭で小さな脈絡膜病変を特徴とする、脈絡膜の特発性炎症性障害である。炎症に関係する脈絡膜血液循環の変化は、PICの病因の一部になり得る。PICの症状には、霧視、光視症、中央および/または周辺の暗点、ならびに変視症が含まれる。
【0244】
診断方法には、先に概説したものが含まれる。眼底検査において、眼内炎症の徴候はなく、複数の小さな円形の黄白色の斑点状病変がある可能性がある。SD-OCTは、PIC病変の構造的特徴を提供することができる。自己蛍光画像は、瘢痕性病変における低蛍光および活動性病変における自己蛍光を示すことができる。
【0245】
セノリティック剤は、硝子体内注射によって、または対象の眼の硝子体中の硝子体内埋め込み剤(例えば生体内腐食性の埋め込み剤)によって、投与することができる。セノリティック剤は、コルチコステロイド、例えば、コルチゾン、デキサメタゾン、フルオシノロン、ヒドロコルチゾン、メチルプレドニゾロン、プレドニゾロン、プレドニゾン、およびトリアムシノロン;ラパマイシンのような免疫抑制剤;ベバシズマブおよびラニビズマブなどのVEGF-Aアンタゴニスト;ならびに抗生物質と組み合わせて投与してよい。
【0246】
多病巣性脈絡膜炎(MFC)
多病巣性脈絡膜炎(MFC)は、ブドウ膜炎(眼の中間層の炎症)および脈絡膜中の多数の病変を特徴とする慢性炎症性障害である。MFCは、6~69歳の年齢範囲の女性患者で最も頻繁に現れる。
【0247】
MFCの症状には、視力低下、かすみ目、飛蚊症、光過敏性、盲点、眼不快感、光視症、閃光を知覚すること、羞明、眼の前面層、中間層、および/または後面層における炎症、後部ブドウ膜炎、脈絡膜および/または網膜中に散在する多数の黄色/灰白色の斑点が含まれる。病変は、大きさが50~1,000μmの範囲であり、乳頭周囲の領域中、血管アーケード内、および眼の中央周辺部中に分布し得る。いくつかの場合において、対象は、黄斑および乳頭周囲の脈絡膜新生血管または脈絡膜新生血管膜(CNVM)、すなわち、より重度の視覚喪失を引き起こし得る新しい血管を発達させる場合がある。
【0248】
診断方法には、先に概説した技術、ならびに特定のウイルス関連疾患の可能性を排除するための血液検査が含まれる。
【0249】
セノリティック剤は、硝子体内注射によって、または硝子体内埋め込み剤によって、投与することができる。セノリティック剤は、局所的にまたは眼内埋め込み剤もしくは眼内注射を用いて投与される第2の活性物質と組み合わせて投与することができる。適切な第2の作用物質には、コルチコステロイド、例えば、コルチゾン、デキサメタゾン、フルオシノロン、ヒドロコルチゾン、メチルプレドニゾロン、プレドニゾロン、プレドニゾン、およびトリアムシノロン;ラパマイシンのような免疫抑制剤;ベバシズマブおよびラニビズマブなどのVEGF-Aアンタゴニスト;ならびに抗生物質が含まれる。
【0250】
匐行性脈絡膜症
匐行性脈絡膜症(地図状脈絡膜炎またはらせん状乳頭周囲脈絡膜症とも呼ばれる)は、二次的に網膜外層に影響を与える、網膜色素上皮(RPE)および脈絡膜毛細管板の進行性の破壊を特徴とする炎症性の眼の病態である。病変は、眼の中に形成し、数週間~数ヶ月続き、一般に再発の可能性があり、かつ眼組織の瘢痕化を伴う場合がある。中心から外に向かって広がる病変が中心窩を迂回する場合、対象の中心視力は保持され得る。匐行性脈絡膜症の黄斑型では、患者は、最初に黄斑中に地図状病変を示して、事前の乳頭周囲活動を伴わずに早期かつ重大な視力喪失を引き起こし得る。この病態は、典型的には、30歳~70歳の間の対象で発現し、罹患した患者は、HLA-B7および網膜S抗原の結合頻度の増加を示し得る。
【0251】
匐行性脈絡膜症の症状には、無痛性の片側視覚喪失、霧視、変視症、光視症、暗点、中心暗点、または視神経乳頭から外に向かって放射状に広がる曲がりくねったまたは仮足に似た外観を有する黄白色の脈絡網膜病変が含まれる。
【0252】
診断方法には、先に概説した画像処理技術が含まれる。
【0253】
任意で、セノリティック剤は、コルチゾン、デキサメタゾン、フルオシノロン、ヒドロコルチゾン、メチルプレドニゾロン、プレドニゾロン、プレドニゾン、およびトリアムシノロン;ラパマイシンのような免疫抑制剤;関連する脈絡膜新生血管の治療に適応される場合には、ベバシズマブおよびラニビズマブなどのVEGF-Aアンタゴニスト;ならびに抗生物質などの他の作用物質と組み合わせて投与することができる。
【0254】
タイプ6:医原性病態
医原性眼病態は、患者に対して行われた診断処置および治療処置の結果である疾患として特徴付けられる。医原性眼病態の例には、硝子体切除後に引き起こされた白内障または新生物の治療後の放射線網膜症が含まれる。
【0255】
医原性病態に対するセノリティック療法の一般的なアプローチおよび目標は、以下に基づいている。
【0256】
処置または治療物質に関連するストレス要因による老化の誘導により、他の形態の老化誘導において認められるものに似た病態生理学的カスケードが生じる。このようなストレス要因の影響下にある眼組織は、老化細胞の存在率が高くなっている場合があり、その結果として、より早い段階に、またはより重度の形態で、ある種の眼疾患を呈することになる場合がある。セノリティック療法の目標は、老化細胞およびそれらの関連SASPの排除によって、組織に対する老化細胞の影響を妨害することである。これにより、組織の進行的な損傷が予防または制限され、細胞微小環境の特徴の改善によって場合によっては機能が修復される。いくつかの場合において医原性の影響が予測できるという状況から、予防的療法が実現可能である場合がある。
【0257】
視覚系の医原性障害は、前方構造および後方構造に影響を及ぼす。したがって、セノリティック剤は、主な病変の部位、処置の性質、および使用するために選択されるセノリティック剤に応じて、前区画もしくは後区画またはその両方に適用される。
【0258】
硝子体切除後白内障
眼内手術後、白内障の形成または加速が起こり得る。硝子体切除術は、硝子体腔および網膜に接近するために使用される顕微手術技術であり、後眼部に発症する障害を治療するために使用される。硝子体切除術は、視力を損なう場合がある併存症、例えば、網膜剥離、角膜代償不全、および白内障の形成または進行に関連する。いくつかの場合において、硝子体切除術後に形成または加速する白内障のタイプは、核硬化白内障である。硝子体切除術を受ける眼のいくつかの場合において、水晶体も切除される。硝子体切除術後に発症する白内障は、他の点では正常な眼の水晶体を外科的切除するという結果になるであろう程度まで、視力の結果を制限する場合がある。硝子体切除術後の白内障の形成または加速は、光毒性、水晶体タンパク質の酸化、眼内ガスの使用、手術時間の長さ、および水晶体後方の酸素レベルの上昇に関連する場合がある。
【0259】
硝子体切除後の白内障の症状には、以前の硝子体切除術による手術の解剖学的および/または機能的成功にも関わらず低下した視力、グレア、ハローなどが含まれる。硝子体切除術を受けた個体は、彼らの網膜病変の根底にある性質が原因で、ベースライン(白内障前)視力のレベルが低めである場合があり;したがって、硝子体切除後白内障の患者は、典型的な老人性白内障に罹患している個体よりも劣った視力を示す可能性が、より高い。
【0260】
放射線網膜症
放射線網膜症は、放射線、例えば外部ビーム放射またはプラーク近接照射療法への曝露の放射線量依存的合併症である。外部ビーム放射は、鼻咽頭、副鼻腔、または眼窩の腫瘍に対する治療として使用されるが、眼を保護する能力は限定的であり、臨床的に顕著な放射線網膜症を招き得る。眼内腫瘍を治療するためのプラーク近接照射療法もまた、隣接した網膜および脈絡膜に損傷を引き起こし得る。放射線への曝露は、周皮細胞を比較的温存しつつ、血管内皮細胞の優先的消失を引き起こし得る。内皮細胞と周皮細胞との感受性の差は、フリーラジカルを生成し、細胞膜損傷、毛細血管床の閉塞、および毛細血管瘤形成を招く、血液中に存在する高レベルの周囲の酸素および鉄に、内皮細胞が直接さらされることに起因し得る。網膜の無灌流領域に由来する網膜虚血は、最終的に、黄斑浮腫、毛細血管瘤新血管新生、黄斑浮腫、硝子体出血、および牽引性網膜剥離を招く。
【0261】
放射線網膜症の症状には、視力低下、飛蚊症、毛細管拡張症、新血管新生、硝子体出血、硬性白斑、綿花状白斑、および/または黄斑浮腫が含まれる。
【0262】
診断方法には、例えば血管造影および光干渉断層法(OCT)による、対象の眼の眼科検査が含まれる。蛍光眼底血管造影図を用いて、放射線網膜症の微小血管特徴を特定し、目立たせることができる。インドシアニングリーン血管造影によって、前毛細血管細動脈閉塞および脈絡膜低灌流領域を明らかにすることができる。光干渉断層法(OCT)は、黄斑浮腫を評価する際に使用され得る。
【0263】
セノリティック剤と承認された標準治療の治療法との組合せ
眼病態を治療するためのセノリティック剤は、臨床使用のために承認されている他の薬学的作用物質と組み合わせることができる。老化細胞の除去は、現在の治療法とは異なるメカニズムによって働くため、これら2種の作用物質が相乗的または相加的に機能して、投与計画を最小限にし転帰を改善することができる。セノリティック剤は、疾患に関係のある病態生理の持続および進行を促進している、眼中のセノリティック細胞を除去する。
【0264】
血管に関係する多くの眼病態に対する標準治療は、現在のところ、血管内皮増殖因子(VEGF)を阻害する薬剤、すなわちアフリベルセプト(Regeneron PharmaceuticalsによってEYLEA(登録商標)として市販されている)である。アフリベルセプトは、ヒトIgG1免疫グロブリンのFc部分に融合されている、ヒトVEGF受容体1および2の細胞外ドメインに由来するVEGF結合部分からなる組換え融合タンパク質である。
【0265】
新血管新生(ウェット型)加齢黄斑変性症(AMD)の場合、EYLEAの推奨用量は2mg(0.05mLまたは50マイクロリットル)であり、最初の12週間(3ヶ月)は4週毎(毎月)の硝子体内注射によって投与され、その後、8週(2ヶ月)毎に1回の硝子体内注射によって2mg(0.05mL)が投与される。網膜静脈閉塞症(RVO)に続発する黄斑浮腫の場合、EYLEAの推奨用量は2mg(0.05mLまたは50マイクロリットル)であり、4週毎(毎月)に1回の硝子体内注射によって投与される。糖尿病黄斑浮腫(DME)の場合、EYLEAの推奨用量は2mg(0.05mLまたは50マイクロリットル)であり、最初の5回の注射については4週毎(毎月)の硝子体内注射によって投与され、その後、8週(2ヶ月)毎に1回の硝子体内注射によって2mg(0.05mL)が投与される。EYLEAは4週毎(毎月)に2mgと同じくらい頻繁に投薬されてよいが、EYLEAを4週毎に投薬した場合、8週毎と比較して、付加的な有効性は大半の患者において実証されなかった。一部の患者は、最初の20週(5ヶ月)の後、4週毎(毎月)の投薬を必要とする場合がある。DME患者における糖尿病性網膜症(DR)の場合、EYLEAの推奨用量は2mg(0.05mLまたは50マイクロリットル)であり、最初の5回の注射については4週毎(毎月)の硝子体内注射によって投与され、その後、8週間(2ヶ月)毎に1回の硝子体内注射によって2mg(0.05mL)が投与される。
【0266】
抗VEGF療法と組み合わせたセノリティック剤の使用は、重要なやり方で疾患特徴に影響を与えることができる新しいパラダイムである。単独で行われる抗VEGF療法は、疾患の進行を予防するために頻繁な投与を必要とする。抗VEGF療法をセノリティック剤と組み合わせることにより、活動性疾患の進行速度または再発率を低下させることができる。抗VEGFは漏出および出血の可能性を短時間で阻止することができ、セノリティック剤は、CNVに比較的短い時間で、次いで長期にわたって影響を与えることができるという可能性がある―併用療法の必要性が小さくなるかもしくはなくなるか、またはより幅広い患者グループにおいて、より大きな有効性を伴って使用される可能性がある。この結果として、管理する臨床医が、より少ない頻度で抗VEGF療法を施し、視覚転帰が改善することが可能になり得る。
【0267】
この組合せは、反応率を改善し、転帰を改善し、かつ治療の負担および治療法の合計費用を減らすことが予想される。また、抗VEGF療法によって対処されない潜在的なドライ型AMDの性質に影響を与え得る。このことは、抗VEGF療法で治療したウェット型AMDの患者の長期の転帰において明らかであり、これらの患者は、活発な新血管新生はないが、潜在的なドライ型AMDの萎縮または進行がむしろ原因となって、時間とともに視覚喪失を示すようになる(Bhisitkul et al., 2015)。
【0268】
セノリティック剤は、病態の根底にある病態生理または総体的症状に対処する他の作用物質と組み合わせることができる。
【0269】
セノリティック物質投与と一緒に実施できる非薬学的介入には、眼からの涙の流出を減少させる涙点閉鎖が含まれる。別の例は、液体で満たされた層を角膜の上に作り出すスクレラルコンタクトレンズまたはセミスクレラルコンタクトレンズを対象に装着することである。いくつかの場合において、セノリティック物質の投与は、眼から涙を排出する涙管をブロックする涙点プラグ器具と組み合わせて実施される。
【0270】
いくつかの場合において、眼の病態は他の炎症性病態に関連しており、セノリティック剤は、抗ヒスタミン薬(例えば、フェニラミン、エメダスチン、もしくはアゼラスチン)、うっ血除去薬(例えば、塩酸テトラヒドロゾリンもしくはナファゾリン)、または非ステロイド性抗炎症薬(例えば、ネパフェナクもしくはケトロラク)、コルチコステロイド(例えば、フルオロメトロンもしくはロテプレドノール)、肥満細胞安定薬(例えば、アゼラスチエ、クロマル、エメダスチン、ケトチフェン、ヨードキサミン、ネドクロミル、オロパタジン、もしくはペミロラスト)、またはステロイドと組み合わせて投与される。いくつかの場合において、薬学的組成物は、第2の活性物質、例えば、マクロライド系免疫抑制薬、例えば、シクロスポリン、タクロリムス、ピメクロリムス、エベロリムス、シロリムス、デフォロリムス、テムシロリムス、およびゾタロリムス、アベチムス、グスペリムス、またはミコフェノール酸と一緒に投与される。
【0271】
標的とする眼疾患が感染性細菌病態(例えば、マイボーム腺感染症または角膜感染症)に関連している場合、点眼剤または軟膏剤を、抗生物質、例えば、シプロフロキサシン、エリスロマイシン、ゲンタマイシン、オフロキサシン、スルファセタミン、トブラマイシン、またはモノフロキサシンを含む組合せ組成物と共に、またはその中に含めて、投与することができる。ドライアイ病態がウイルス感染症に関連している場合、セノリティック剤は、トリフルリジンまたはイドクスウリジンなどの抗ウイルス剤を含む組合せ組成物と共に、またはその中に含めて、投与することができる。別の例において、対象は、既存の自己免疫障害を示す。対象はまた、関連する病態に対する全身的(例えば)経口療法を用いて治療することもできる。
【0272】
場合によっては、セノリティック剤は、同じまたは異なる薬物群に属してよい1種または複数種の異なる生物学的に活性な作用物質と一緒に投与される。生物学的に活性な作用物質または薬物は、次のものより選択される:麻酔薬および鎮痛薬、抗アレルギー薬、抗ヒスタミン薬、抗炎症剤、抗癌剤、抗生物質、抗感染薬、抗菌薬、抗真菌剤、抗ウイルス剤、細胞輸送/移動性切迫剤、抗緑内障薬、抗高血圧薬、うっ血除去薬、免疫応答調節剤、免疫抑制剤、ペプチドおよびタンパク質、ステロイド化合物(ステロイド)、低溶解性ステロイド、炭酸脱水酵素阻害剤、診断用薬、抗アポトーシス剤、遺伝子治療剤、金属イオン封鎖剤、還元剤、抗透過性剤、アンチセンス化合物、抗増殖剤、抗体および抗体複合体、血流増強剤、抗寄生虫剤、非ステロイド抗炎症剤、栄養素およびビタミン、酵素阻害剤、抗酸化剤、抗白内障薬、アルドース還元酵素阻害剤、細胞保護剤、サイトカイン、サイトカイン阻害剤、およびサイトカイン保護剤、UV遮断薬、肥満細胞安定化剤、および抗新血管新生剤、例えば、マトリックスメタロプロテアーゼ阻害剤および血管内皮増殖因子(VEGF)調節物質のような抗血管形成剤、神経保護薬、縮瞳薬および抗コリンエステラーゼ、散瞳薬、人工涙液/ドライアイ治療剤、抗TNFα、IL-1受容体アンタゴニスト、プロテインキナーゼC-13阻害剤、ソマトスタチン類似体、ならびに交感神経様作用物質。
【0273】
本発明に含まれる他の組合せは、本開示の別の場所で確認することができる。
【0274】
定義
一般に、「老化細胞」は、典型的には複製するが、加齢または細胞状態の変化を引き起こす他の事象の結果としてもはや複製することができない細胞型に由来すると考えられている。これは、代謝的には活性なままであり、通常、ケモカイン、サイトカイン、ならびに細胞外基質および線維化を修飾するタンパク質および酵素が含まれる細胞老化随伴分泌現象(SASP)を取り入れる。しばしば、老化細胞の核は、細胞老化関連ヘテロクロマチン形成および老化を進ませるクロマチン改変を有するDNAセグメントを特徴とする。明示的に記載されもせず要求されてもいない本開示で請求される内容の実践に対するいかなる限定も意味することなく、本発明は、老化細胞が、組織損傷または加齢に関連するある種の病態を引き起こすか、または媒介するという仮説を前提とする。本発明の局面を実践するために、p16、老化関連β ガラクトシダーゼ、およびリポフスチンより選択される少なくとも1つのマーカー;時には、これらのマーカーならびにSASPの他のマーカー、例えば、非限定的に、インターロイキン6、および炎症性、血管形成性、および細胞外基質修飾性のタンパク質のうちの2つまたはそれより多くを発現するものとして、老化細胞を特定することができる。
【0275】
「老化に関連する」疾患、障害、または病態とは、1種または複数種の症状または徴候を示す生理的病態であり、この病態を有する対象は、このような症状または徴候の軽減を必要とするか、または軽減の恩恵を受けると思われる。この病態は、年齢、DNA損傷、酸化ストレス、遺伝的欠陥などを含む複数の病因因子によって誘導され得る老化細胞によってある程度引き起こされるか、または媒介される場合、老化に関連している。本開示で教示される方法および製品を用いて潜在的に治療または処置できる老化関連障害のリストには、本開示および本出願が優先権を主張する以前の開示で考察されているものが含まれる。
【0276】
ある化合物が、同じ組織型の複製的細胞またはSASPマーカーを欠く休止細胞と比べて老化細胞を排除する場合、その化合物は典型的には「セノリティック物質」と呼ばれる。或いはまたは更に、ある化合物または組合せが、病態の初期症状もしくは進行中の病変に関与するかまたはその解決を妨げる、細胞老化随伴分泌現象の一環としての病理学的な可溶性因子もしくはメディエーターの放出を減少させる場合、該化合物または組合せは本発明に従って有効に使用され得る。この点に関して、用語「セノリティック物質」は例示的であり、老化細胞を排除するのではなく阻害することによって主に作用する化合物(老化細胞阻害物質)を、同様の方法で使用し、結果として利益を得ることができるという認識のもとにある。
【0277】
本発明による眼疾患の上首尾な「治療」は、治療される対象に有益である任意の効果を有し得る。これは、病態またはそれに起因する任意の有害な徴候もしくは症状の重症度、持続期間、または進行を低減することを含む。一部の状況において、セノリティック剤はまた、例えば、先天性の感受性または病歴が原因で対象が罹患しやすい病態の発症を予防または抑制するために使用することもできる。
【0278】
「治療的有効量」とは、(i)特定の疾患、病態、もしくは障害を治療するか、(ii)特定の疾患、病態、もしくは障害の1種もしくは複数種の症状を弱めるか、改善するか、もしくはなくすか、(iii)本明細書において説明する特定の疾患、病態、もしくは障害の1種もしくは複数種の症状の発現を防ぐか、もしくは遅らせるか、(iv)特定の疾患、病態、もしくは障害の進行を防ぐか、もしくは遅らせるか、または(v)治療前に病態によって引き起こされた損傷を少なくともある程度逆転させる、本開示の化合物の量である。
【0279】
用語「感染性眼疾患」および「眼感染症」とは、眼または眼構造の中または周囲の1種類または複数種類の微生物によって引き起こされる感染症を意味し、眼構造には、眼瞼および涙器、結膜、角膜、葡萄膜、硝子体、網膜、ならびに視神経が含まれる。
【0280】
「リン酸化」型の化合物は、1つまたは複数のリン酸基が(例えば酵素分解によって)インビボで除去され得るように、 OPO3H2、 OCnH2nPO3H2、または OC(=O)CnH2nPO3H2(nは1~4である)のいずれかであるリン酸基で、1つまたは複数の-OH基または COOH基が置換された化合物である。非リン酸化形態または脱リン酸化形態は、このようなリン酸基を有さない。
【0281】
別段の記載または指示がない限り、本発明において言及されるすべての化合物構造体には、同じ構造を有する共役酸および共役塩基、これらの化合物の結晶形および非晶形、薬学的に許容されるその塩、ならびに溶解型および固体型が含まれ、例えば、これらの化合物の多形体、溶媒和物、水和物、非溶媒和多形体(無水物を含む)、立体配座多形体、および非晶形、ならびにそれらの混合物が含まれる。
【0282】
本開示の目的のために、眼科障害または眼障害は、視覚系の障害と定義される。前眼部病態は、前眼領域または前眼部位、例えば、眼周囲筋、眼瞼、または水晶体嚢の後壁もしくは毛様体筋の前方に位置する眼の組織もしくは体液に影響を及ぼすか、または関係する、疾患、病気、または病態である。後眼部病態は、後眼領域または後眼部位、例えば、(水晶体嚢の後壁を通る面に対して後方の位置にある)脈絡膜または強膜、硝子体、硝子体腔、網膜、網膜色素上皮、ブルッフ膜、視神経(すなわち視神経乳頭)、視覚系、ならびに後眼領域または後眼部位に血管形成または神経支配する血管および神経に主に影響を及ぼすか、または関係する、疾患、病気、または病態である。
【0283】
別段の記載または指示がある場合を除いて、本明細書で使用される他の用語は、通常の意味を有する。
【0284】
参照による組入れ
有効である米国および他の管轄権におけるあらゆる目的のために、本開示で引用されるそれぞれおよびすべての刊行物および特許文書は、そのような各刊行物または文書が参照により本明細書に組み入れられると具体的かつ個別に示される場合と同じ程度に、あらゆる目的のためにそっくりそのまま参照により本明細書にここで組み入れられる。
【0285】
US 2016/0339019 A1(Laberge et al.)およびWO 2016127135(David et al.)は、限定されるわけではないが、老化細胞を排除するか、または活性を低下させ、かつ眼病態を治療することができる化合物の同定、製剤化、および使用を含むあらゆる目的のために、参照により本明細書にここで組み入れられる。米国特許第8,691,184号、同第9,096,625号、および同第9,403,856号(Wang et al.)は、Bclライブラリー中の化合物の特徴、それらの調製および使用を含むあらゆる目的のために、そっくりそのまま参照により本明細書にここで組み入れられる。
【実施例
【0286】
実施例1:Bcl阻害の測定
候補化合物がBcl-2およびBcl-xLの活性を阻害する能力を、直接結合に基づいて分子レベルで測定することができる。このアッセイ法では、PerkinElmer Inc.(Waltham, Massachusetts)によって市販されている、酸素チャネリングに基づく均一系アッセイ技術を用いる。Eglin et al., Current Chemical Genomics, 2008, 1, 2-10を参照されたい。試験化合物を、標的Bclタンパク質、およびビオチンで標識した、対応する同族リガンドに相当するペプチドと混合する。次いで、この混合物を、ストレプトアビジンを有する発光ドナービーズおよび発光アクセプタービーズと混合する。化合物が、ペプチドがBclタンパク質に結合するのを阻害した場合、発光が比例的に減少する。
【0287】
Bcl-2、Bcl-xL、およびBcl-wは、Sigma-Aldrich Co.(St. Louis, Missouri)から入手可能である。ビオチン標識したBIMペプチド(Bcl-2に対するリガンド)およびBADペプチド(Bcl-xLに対するリガンド)は、US 2016/0038503 A1で説明されている。AlphaScreen(登録商標)ストレプトアビジンドナービーズおよび抗6XHis AlphaLISA(登録商標)アクセプタービーズは、PerkinElmerから入手可能である。
【0288】
このアッセイ法を実施するために、化合物の1:4希釈系列をDMSO中で調製し、次いで、アッセイ緩衝液中で1:100に希釈した。96ウェルPCRプレートにおいて、以下を順番に混合する:10μLのペプチド(120nM BIMまたは60nM BIM)、10μLの試験化合物、および10μLのBclタンパク質(0.8nM Bcl-2/Wまたは0.4nM Bcl-XL)。室温で24時間、暗所でこのアッセイプレートをインキュベートする。翌日、ドナービーズおよびアクセプタービーズを混合し、5μLを各ウェルに添加する。暗所で30分インキュベートした後、プレートリーダーを用いて発光を測定し、各試験化合物による親和性または阻害の程度を明らかにする。
【0289】
実施例2:MDM2阻害の測定
MDM2(mouse double minute 2 homolog)(マウス二重微小染色体2ホモログ、E3ユビキチン-タンパク質リガーゼとしても公知)は、p53腫瘍抑制因子の負の調節因子である。MDM2を阻害すると、p53の活性が促進され、それによって、セノリティック活性が与えられる。化合物がMDM2のアゴニストとして作用する能力は、p53に対する効果をモニターすることにより、細胞中で間接的に測定することができる。
【0290】
p53ルシフェラーゼレポーターRKO安定細胞株は、Signosis Inc.(Santa Clara CA)から得ることができる。p53ルシフェラーゼ細胞株において、ルシフェラーゼ活性は、p53の活性と特異的に関連している。この細胞株は、G418発現ベクターと共にp53ルシフェラーゼレポーターベクターをトランスフェクションし、続いてG418選択することにより、樹立した。
【0291】
このアッセイ法は以下のようにして実施する。レポーター細胞株に由来する細胞を、候補化合物で24時間処理する。次いで、培地を除去し、細胞をPBSで洗浄し、20μLの溶解緩衝液を各ウェルに添加する。プレートリーダー撹拌器を用いて、細胞を10秒間振盪する。ルシフェラーゼ緩衝液を調製し、ウェルに添加する。次いで、Victor(商標)マルチラベルプレートリーダー(PerkinElmer, San Jose CA)を用いてp53活性を読み取る。
【0292】
実施例3:老化した線維芽細胞を用いる、セノリティック活性の測定
ヒト線維芽細胞IMR90細胞は、アメリカンタイプカルチャーコレクション(ATCC(登録商標))からCCL-186の呼称で得ることができる。これらの細胞を、3%O2、10%CO2、および湿度約95%の雰囲気において、FBSおよびペニシリン/ストレプトマイシンを含むDMEM中で75%未満のコンフルエンシーで維持する。これらの細胞を次の3つのグループに分ける:(使用前に、放射線照射後14日間培養された)照射済細胞、(使用前に1日、低密度で培養された)増殖性の正常細胞、および(使用前に4日間、高密度で培養された)休止細胞。
【0293】
0日目に、照射済細胞を以下のように調製する。IMR90細胞を洗浄し、50,000細胞/mLの密度でT175フラスコ中に入れ、10~15Gyで放射線照射する。放射線照射後、100μLの細胞を96ウェルプレートに播種する。1日目、3日目、6日目、10日目、および13日目に、各ウェル中の培地を吸引し、新鮮な培地と交換する。
【0294】
10日目に、健康な休止細胞を以下のように調製する。IMR90細胞を洗浄し、3mLのTrypLEトリプシン含有試薬(Thermofisher Scientific, Waltham, Massachusetts)と混合し、細胞が丸まってプレートから剥がれ始めるまで、5分間培養する。細胞を分散させ、計数し、培地中で50,000細胞/mLの濃度になるように調製する。100μlの細胞を、96ウェルプレートの各ウェルに播種する。13日目に培地を交換する。
【0295】
13日目に、増殖性の健康な細胞集団を以下のように調製する。健康なIMR90細胞を洗浄し、3mLのTrypLEと混合し、細胞が丸まってプレートから剥がれ始めるまで、5分間培養する。細胞を分散させ、計数し、培地中で25,000細胞/mLの濃度になるように調製する。100μlの細胞を、96ウェルプレートの各ウェルに播種する。
【0296】
14日目に、以下のように、試験するBcl-2阻害剤またはMDM2阻害剤を細胞と混合する。各試験化合物のDMSO希釈系列を、96ウェルPCRプレートにおける最終的な所望の濃度の200倍の濃度で調製する。使用する直前に、DMSOストック溶液を、前もって温めた完全培地に加えて1:200希釈する。各ウェル中の細胞から培地を吸引し、化合物を含む培地を100μl/ウェルの量で添加する。
【0297】
試験するための候補セノリティック剤を細胞と共に6日間培養し、17日目に新鮮な培地および同じ化合物濃度で培地を交換する。001967に似たBcl-2阻害剤を細胞と共に3日間培養する。このアッセイシステムでは、熱安定性ルシフェラーゼの特性を利用して、細胞溶解の間に放出される内因性ATPアーゼを同時に阻害しつつ安定な発光シグナルを生じる反応条件を可能にする。培養期間の最後に、100μLのCellTiter-Glo(登録商標)試薬(Promega Corp., Madison, Wisconsin)を各ウェルに添加する。これらの細胞プレートをオービタルシェーカー上に30秒間置き、発光を測定する。
【0298】
実施例3A:Bclアンタゴニストについての、化合物ライブラリーのスクリーニング
本発明に従う実施に有用なセノリティック剤の発見は、抗アポトーシス性であるBclファミリーの調節因子タンパク質のうちの1種または複数種を阻害することによって老化細胞を死滅させることができるという前提に基づいた。Bclアイソフォームに対して高い親和性および選択性を有する分子は、老化細胞のアポトーシスを誘導するのに有効であるが同じ組織型の増殖性細胞または非老化細胞に対しては有効ではないという仮説が立てられた。これらの特性を有する化合物は、臨床医学向けの治療物質として開発するための候補であると思われる。
【0299】
最初に構築したライブラリーは、数百個の化合物を含んだ。このようなライブラリーの合成および使用は、米国特許第8,691,184号、同第9,096,625号、および同第9,403,856号で説明されている。このライブラリーを、Bcl-xLおよび/またはBcl-2に結合するか、または阻害できる化合物について、別の場所で最初にスクリーニングした。さらに解析するために、15種の化合物を最初のスクリーニングから選択した。図1A、1B、および1Cは、15種の化合物のうちの9種を示す。
【0300】
加齢に関連する病態の治療において使用するための候補セノリティック剤を同定するために、選択された化合物をさらに分析して、Bcl-xL、Bcl-2、およびBcl-wに対する実際の親和性を定量的に測定した。図2A、2B、および2Cは、結合アッセイ法の結果を示し、各グラフの左の方の化合物が、最も高い親和性を有する。
【0301】
ライブラリー中の個々の化合物は、類似したコア構造を有していた。図3A、3B、および3Cに示したように、所望の効果に寄与している、分子構造の置換基を同定するために、最も有望な各化合物の構造を比較した。
【0302】
実施例3B:セノリティック効力および特異性についての、高親和性Bclアンタゴニストのスクリーニング
Bcl調節タンパク質に結合できることは、その化合物が臨床現場でアポトーシスを誘導するのに適していることを必ずしも意味しない。さらに、その化合物が強力であっても、高度の選択性で老化細胞を優先的に死滅させない限り、治療的物質として使用するのには適していないと思われる。したがって、高いBcl結合親和性を示しているライブラリー中の化合物を、複製する線維芽細胞または(コンフルエントな状態が原因で)休止状態であるが老化していない線維芽細胞と比べて、放射線照射済線維芽細胞を死滅させる能力についてさらにスクリーニングした。
【0303】
図4A、4B、および4Cは、9種のモデル化合物から得られたデータを示す:各Bclアイソフォームに対する結合親和性、および培養中の老化線維芽細胞(SnC)を死滅させるための有効濃度(EC50)。図6は、Bclアイソフォームに対する結合親和性、および培養中の老化線維芽細胞(SnC)を死滅させるための有効濃度(EC50)を示す。データを下記の表1に要約する。
【0304】
このデータから、Bclアイソフォームのいずれかへの高い親和性での結合を根拠として、有効なセノリティック剤を必ずしも予測できなかったことが示される。BM-1075、BM-1195、BM-1197、BM-1244、BM-1261、およびBM-1252と呼ばれる化合物はすべて、Bclアイソフォームに対してナノモル~ピコモル範囲の結合親和性(Ki)を有していた。しかし、細胞を死滅させるための有効濃度(EC50)を測定するためのアッセイ法において、これらの分子のうちのいくつか、例えば、BM-1244、BM-1261、およびBM-125は、開発のために最終的に選ばれた化合物と比べて効力が60分の1~5,000分の1であった。
【0305】
セノリティック活性が最も優れている化合物BM-1195およびBM-1197は、ナノモル範囲で効力があった。様々な化合物について測定した老化細胞(SI)に対する特異性は広範囲にわたり、1.0(非特異的)なものから300を超えるものまで多岐にわたった。効力および特異性の両方の観点から最良の化合物はBM-1197であり、BM-1195、BM-1244、BM-1105、およびBM-1075もまた、注目に値した。
【0306】
データに従って、化学構造に関して以下の推測を行った。この部分構造が、有効な化合物の中心部に存在した:
。ここで、R3、R4、およびF基は任意である。BM-1197中の-SO2CF3は大きな影響力を持つが、BM-1075中の-NO2のような同様の特性を有する基で置換され得る。-SO2R’基は大きな影響力を持つが、R’は、-CH3から他の短鎖アルキル基までさまざまであり得る。アリール-S-C6H5基もまた大きな影響力を持つが、中性の置換基を場合によっては有し得る。構造の以下の部分:
に関して、
R1は、いくつかの短鎖アルキル基であることができ、X1はさまざまであることができる(BM-1197ではCl;BM-1195ではF)。BM-1197の以下部分:
は、形態は寛容であると思われ、一連の代替え部分構造が、本発明の多くの目的にとって有効である。
【0307】
図5A、5B、および5Cは、有効な化合物の構造を比較して、これらの化合物の所望の特性にどんな部分構造が貢献しているかを明らかにした方法を示す。これらおよび他の推測により、式VIおよび式VIIとして先に示した一般構造の図面が導かれる。
【0308】
実施例4:老化した網膜血管細胞に対するセノリティック剤の効果
候補物質が老化細胞または老化様網膜内皮細胞を排除する能力を、以下のアッセイ法で直接的に測定した。
【0309】
呼称HEC09のヒト網膜微小血管内皮細胞(HRMEC)をNeuromicsから入手した。最初に、これらの細胞を、3%O2、10%CO2、および湿度約95%で、ENDO増殖培地(Neuromics, Edina MN)中で75%未満のコンフルエンシーで維持し増殖させた。これらの細胞を次の3つのグループに分けた:(使用前に、放射線照射後7日間培養された)照射済細胞、(使用前に1日、低密度で培養された)増殖性の正常細胞、および(4日間かけてコンフルエントになるまで培養された)休止細胞。
【0310】
0日目に、照射済細胞を以下のように調製した:HRMEC細胞を、3mLのTrypLEトリプシン含有試薬(Thermofisher Scientific, Waltham, Massachusetts)で覆い、細胞が丸まってプレートから剥がれ始めるまで、5分間インキュベートした。細胞を分散させ、計数し、培地中で100,000細胞/mLの濃度になるように調製した。この細胞懸濁液を100,000細胞/mLの密度でT175フラスコ中に入れ、10~15Gyで放射線照射した。放射線照射後、100μLの細胞を96ウェルプレートに播種した。1日目、3日目、および6日目に、各ウェル中の培地を吸引し、新鮮な培地と交換した。
【0311】
3日目に、健康な休止細胞を以下のように調製した。健康な非老化HRMEC細胞を、3mLのTrypLEトリプシン含有試薬(Thermofisher Scientific, Waltham, Massachusetts)と共にインキュベーションすることによって培養フラスコから遊離させ、細胞が丸まってプレートから剥がれ始めるまで、5分間インキュベートした。細胞を分散させ、計数し、培地中で80,000細胞/mLの濃度になるように調製した。100μlの細胞を、96ウェルプレートの各ウェルに播種した。1日目、3日目、6日目、および10日目に培地を交換した。
【0312】
6日目に、増殖性の健康な細胞集団を以下のように調製した。健康な非老化HRMEC細胞を洗浄し、3mLのTrypLEで覆い、細胞が丸まってプレートから剥がれ始めるまで、5分間培養した。細胞を分散させ、計数し、培地中で40,000細胞/mLの濃度になるように調製した。100μlの細胞を、96ウェルプレートの各ウェルに播種した。
【0313】
7日目に、以下のように、候補のセノリティック剤を細胞と混合した。各試験化合物のDMSO希釈系列を、96ウェルPCRプレート中における最終的な所望の濃度の200倍の濃度で調製した。使用する直前に、DMSOストック溶液を、前もって温めた完全培地に加えて1:200希釈した。各ウェル中の細胞から培地を吸引し、化合物を含む培地を100μl/ウェルの量で添加した。
【0314】
候補のセノリティック剤を細胞と共に3日間培養した。このアッセイシステムでは、熱安定性ルシフェラーゼの特性を利用して、細胞溶解の間に放出される内因性ATPアーゼを同時に阻害しつつ安定な発光シグナルを生じる反応条件を可能にした。培養期間の最後に、プレートをインキュベーターから取り出し、室温で20分間平衡化させ、次いで、100μLのCellTiter-Glo(登録商標)試薬(Promega Corp., Madison, Wisconsin)を各ウェルに添加した。これらの細胞プレートをオービタルシェーカー上に30秒間置き、次いで、室温で10分間静置した後、発光を測定した。発光測定値を標準化して細胞生存/増殖率(%)を明らかにし、試験化合物濃度に対してプロットし、Graphpad Prism(登録商標)において非線形曲線の当てはめによって効力(IC50値)を決定した。
【0315】
図7は、この結果を示す。実施例の試験化合物についての濃度反応曲線は、セノリティック分子とのインキュベーションに対する老化HRMEC細胞生存の感受性を明らかにする。これらのデータから、セノリティック剤が培養中のHRMEC細胞を排除できることが示される。
【0316】
実施例5:眼由来の老化細胞に対するセノリティック剤の効果
候補物質が老化細胞または老化様細胞を排除する能力を、以下のアッセイ法で直接的に測定した。
【0317】
呼称194987のヒト網膜色素上皮(RPE)細胞をLonzaから入手した。最初に、これらの細胞を、3%O2、10%CO2、および湿度約95%の雰囲気において、5%FBSおよびペニシリン/ストレプトマイシンを含むSonodaらによって2009年に定義されたRPE培地中で、75%未満のコンフルエンシーで維持し増殖させた。これらの細胞を次の3つのグループに分けた:(使用前に、放射線照射後12日間培養された)照射済細胞、(使用前に2日間、低密度で培養された)増殖性の正常細胞、および(12日間かけてコンフルエントになるまで培養された)休止細胞。
【0318】
0日目に、照射済細胞を以下のように調製した:RPE細胞を、3mLのTrypLEトリプシン含有試薬(Thermofisher Scientific, Waltham, Massachusetts)で覆い、細胞が丸まってプレートから剥がれ始めるまで、5分間インキュベートした。細胞を分散させ、計数し、培地中で100,000細胞/mLの濃度になるように調製した。この細胞懸濁液を100,000細胞/mLの密度でT175フラスコ中に入れ、10~15Gyで放射線照射した。放射線照射後、100μLの細胞を96ウェルプレートに播種した。1日目、3日目、6日目、および10日目に、各ウェル中の培地を吸引し、新鮮な培地と交換した。
【0319】
0日目に、健康な休止細胞を以下のように調製した。健康な非老化RPE細胞を、トリプシンを用いて培養フラスコから遊離させ、3mLのTrypLEトリプシン含有試薬(Thermofisher Scientific, Waltham, Massachusetts)で覆い、細胞が丸まってプレートから剥がれ始めるまで、5分間インキュベートした。細胞を分散させ、計数し、培地中で100,000細胞/mLの濃度になるように調製した。100μlの細胞を、96ウェルプレートの各ウェルに播種した。1日目、3日目、6日目、および10日目に培地を交換した。
【0320】
10日目に、増殖性の健康な細胞集団を以下のように調製した。健康な非老化RPE細胞を洗浄し、3mLのTrypLEで覆い、細胞が丸まってプレートから剥がれ始めるまで、5分間培養した。細胞を分散させ、計数し、培地中で30,000細胞/mLの濃度になるように調製した。100μlの細胞を、96ウェルプレートの各ウェルに播種した。
【0321】
12日目に、以下のように、候補のセノリティック剤を細胞と混合した。各試験化合物のDMSO希釈系列を、96ウェルPCRプレートにおける最終的な所望の濃度の200倍の濃度で調製した。使用する直前に、DMSOストック溶液を、前もって温めた完全培地に加えて1:200希釈した。各ウェル中の細胞から培地を吸引し、化合物を含む培地を100μl/ウェルの量で添加した。
【0322】
候補のセノリティック剤を細胞と共に3日間培養した。このアッセイシステムでは、熱安定性ルシフェラーゼの特性を利用して、細胞溶解の間に放出される内因性ATPアーゼを同時に阻害しつつ安定な発光シグナルを生じる反応条件を可能にした。培養期間の最後に、プレートをインキュベーターから取り出し、室温で20分間平衡化させ、次いで、100μLのCellTiter-Glo(登録商標)試薬(Promega Corp., Madison, Wisconsin)を各ウェルに添加した。これらの細胞プレートをオービタルシェーカー上に30秒間置き、次いで、室温で10分間静置した後、発光を測定した。発光測定値を標準化して細胞生存/増殖率(%)を明らかにし、試験化合物濃度に対してプロットし、Graphpad Prismにおいて非線形曲線の当てはめによって効力(IC50値)を決定した。
【0323】
図8は、この結果を示す。実施例の試験化合物についての濃度反応曲線は、セノリティック分子とのインキュベーションに対する老化RPE細胞生存の感受性を明らかにする。対照的に、増殖性の非老化RPEに対するIC50は、老化細胞について測定された値より大きい。これらのデータから、セノリティック剤が培養中のRPE細胞を排除できることが示される。
【0324】
実施例6:虚血性網膜症の動物モデルにおける化合物の有効性
モデル化合物UBX1967の有効性を、未熟児網膜症(ROP)および糖尿病性網膜症のインビボモデルを提供するマウス酸素誘発性網膜症(OIR)モデルにおいて研究した。
【0325】
C57Bl/6仔マウスおよびそれらのCD1仮親マウスを、出生後7日目(P7)からP12まで高酸素環境(75%O2)にさらした。P12に、1%DMSO、10%Tween-80、20%PEG-400中に配合した試験化合物(200uM、20uM、または2uM)1μlを動物に硝子体内注射し、P17まで室内気に戻した。P17に眼球を摘出し、血管染色またはqRT-PCRのいずれかのために網膜を解剖した。無血管性領域または新生血管領域を特定するために、網膜を平らな標本にし、1mM CaCl2中で1:100希釈したイソレクチンB4(IB4)で染色した。老化マーカー(例えば、Cdkn2a、Cdkn1a、Il6、Vegfa)の定量的測定のために、qPCRを実施した。RNAを単離し、逆転写によってcDNAを作製し、これを、選択された転写物のqRT-PCRに使用した。
【0326】
図9Aおよび9Bは、UBX1967の硝子体内(IVT)投与が、すべての用量レベルで、新血管新生および血管閉塞の程度の統計学的に有意な改善をもたらしたことを示す。
【0327】
図10Aおよび10Bは、老化(p16、pai1)およびヒト疾患(vegf)に関連するいくつかの転写物の相対存在量を示す。UBX1967による治療の結果、p16、pai1、およびvegfがそれぞれ58%、35%、および24%減少した。老化関連β-ガラクトシダーゼ(SA-βGal)活性は、UBX1967投与後に17%低下していた。
【0328】
これらの結果は、UBX1967の1回の眼注射によって、病原性の血管形成を機能的に阻害し、この重要なOIR疾患モデルにおいて血管修復を促進できることを示す。本発明者らは、OIRモデルでのUBX1967の有効性は、老化細胞、および網膜細胞において老化を広め網膜血管の新血管新生を促進する付随的SASPの排除のおかげであると考える。
【0329】
実施例7:糖尿病誘発性網膜症の動物モデルにおける化合物の有効性
UBX1967の有効性を、ストレプトゾトシン(STZ)の単回投与による糖尿病性網膜症のマウスモデルにおいて研究した。
【0330】
6~7週齢のC57BL/6Jマウスの体重を計り、ベースラインの糖血を測定した(Accu-Chek, Roche)。マウスに、55mg/Kgの量でSTZ(Sigma-Alderich, St. Lois, MO)を5日間連続して腹腔内注射した。年齢を一致させた対照に、緩衝液のみを注射した。最後のSTZ注射から1週間後に、再び血糖を測定し、マウスの非絶食時血糖が17mM(300mg/dL)より多い場合、糖尿病とみなした。STZ投与後8週目および9週目に、STZで処理した糖尿病C57BL/6Jマウスに、1μlのUBX1967(2μMまたは20μM。0.015%ポリソルベート80、0.2%リン酸ナトリウム、0.75%塩化ナトリウム、pH7.2に溶かした懸濁剤として調製)を硝子体内注射した。STZ処理後10週目に、網膜エバンスブルー浸透アッセイ法を実施した。
【0331】
図11Aおよび11Bは、このプロトコールの予備結果を示す。UBX1967硝子体内(IVT)投与後の網膜および脈絡膜の血管漏出は、両方の用量レベルにおいて、血管透過性が改善した。
【0332】
実施例8:緑内障の動物モデルにおける化合物の有効性
DNA損傷剤であるブレオマイシンをマウスまたはウサギの眼の前眼房に投与すると、細胞老化が起こり、これは、線維柱帯におけるp16転写物の誘導に基づいて検出される。
【0333】
インビボで線維柱帯に老化表現型を誘導するために、C57Bl/6マウス(8~10週齢)に2μLの0.0075U硫酸ブレオマイシンを前房内注射した。ウサギの場合、30μLの0.0075U硫酸ブレオマイシンをニュージーランド白ウサギに前房内注射した。ブレオマイシン傷害後14日目に眼球を摘出し、TMの豊富な試料を顕微解剖した。老化細胞の変化を明らかにするために、TMからRNAを単離し、qPCR解析を実施して、p16 mRNAレベルに対するブレオマイシンの効果を評価した。
【0334】
図12Aおよび12Bは、試験動物の右(OD)眼にブレオマイシンを前房内(IC)注射してから14日目に、PBSを注射した左(OS)眼と比べて、p16の相対的発現が増大していることを示す。このモデルを用いて、ある試験化合物が、原発開放隅角緑内障(POAG)の特徴である眼内圧上昇を低下させるか、または改善することを薬理学的にできるかどうかを評価することもできる。
【0335】
実施例9:POAGを有するヒトに由来する組織試料の線維柱帯中の老化細胞
原発開放隅角緑内障(POAG)を有するヒト患者における老化細胞の存在についての証拠を得るために、罹患した患者から得た組織試料を、老化細胞のマーカーであるp16について染色した。
【0336】
ドナー眼球を、先を見越してアイバンクから入手し、ダビッドソン試薬中に直ちに入れて少なくとも48時間固定した。固定後、溶液を70%エタノールに交換した。次いで、組織を組織学用カセットに入れ、パラフィン浸透および包埋のために処理した。パラフィンブロックをミクロトーム上に載せ、5~9μmの厚さの薄片に切った。切断した組織切片を45℃の湯浴に入れ、Superfrost Plus(商標)顕微鏡スライドを用いて切片を拾い上げ、Kimwipe(商標)ティッシュペーパーを用いて過剰な水分を吸い取った。次に、スライドを室温で30分間、まっすぐに立てて置いて乾かし、続いて、37℃インキュベーター中で一晩インキュベーションした。スライドを60℃で15~20分、加熱乾燥し、次いで、室温まで放冷した。
【0337】
70℃で30秒間、BOND脱蝋溶液中でインキュベーションすることにより、スライドを脱蝋した。次いで、以下のような漸減濃度のエタノール中での段階的インキュベーションによって、スライドを再水和した:100%エタノール中で2回、各5分;90%エタノール中で2回、各2分;75%エタノール中で2回、各2分;50%エタノール中で2回、各2分;次いで、水に浸けて4分間すすいだ。次いで、0.1% Triton-X 100を添加したトリス緩衝生理食塩水(TBST)中でスライドを2回洗浄した。95℃で20分間、BOND ER1溶液(クエン酸ナトリウム緩衝液、pH6.0)中でインキュベーションすることにより、抗原賦活化を実施した。室温で10分間、3%H2O2中でスライドをインキュベートし、続いてTBST中で2回洗浄した。
【0338】
TBST中で1:2希釈したp16一次抗体(Roche, 9517番)と共に室温で30分間、スライドをインキュベートした。一次抗体とのインキュベーション後、スライドをTBSTで2回洗浄した後、ウサギ抗マウス二次抗体と共に室温で20分間インキュベーションした。スライドをTBSTで2回洗浄し、HRP結合型二次抗体と室温で20分間インキュベーションした。抗体とのインキュベーション後、スライドをTBSTで2回洗浄し、製造業者のプロトコールに従って調製したAECクロモゲンを検出のために使用し、約20分間、色を顕色させた。次いで、スライドを水中で3回すすいだ後、ハリスヘマトキシリン中で20秒間インキュベーションした。スライドを水中で入念に洗浄し、スライドのVectashield(商標)封入剤(Vector Labs, Burlingame CA)の上にカバーガラスを載せ、画像化前に乾燥させた。
【0339】
図13Aおよび13Bは、POAGと診断されたドナーから得たヒト眼組織に対するp16免疫組織化学的検査の代表的画像である。p16の発現が陽性である細胞は、線維柱帯の中および周囲の細胞において黒っぽい染色を伴って現れる(丸で囲んだ部分)。
【0340】
実施例10:加齢黄斑変性症(AMD)に罹患しているヒトに由来する組織中の老化細胞
AMDにおける老化細胞の存在についての証拠を得るために、罹患した患者から得た組織試料を、p16について染色した。
【0341】
ドナー眼球を、先を見越してアイバンクから入手し、ダビッドソン試薬中に直ちに入れて少なくとも48時間固定した。固定後、溶液を70%エタノールに交換した。次いで、組織を組織学用カセットに入れ、パラフィン浸透および包埋のために処理した。パラフィンブロックをミクロトーム上に載せ、5~9μmの厚さの薄片に切った。切断した組織切片を45℃の湯浴に入れ、Superfrost Plus顕微鏡スライドを用いて切片を拾い上げ、Kimwipeを用いて過剰な水分を吸い取った。次に、スライドを室温で30分間、まっすぐに立てて置いて乾かし、続いて、37℃インキュベーター中で一晩インキュベーションした。スライドを60℃で15~20分、加熱乾燥し、次いで、室温まで放冷した。キシレンまたはキシレン代用品(例えばHistoclear(商標))を用いてスライドを4分間脱蝋し、合計3回のインキュベーションの間、繰り返した。次いで、以下のような漸減濃度のエタノール中での段階的インキュベーションによって、スライドを再水和した:100%エタノール中で2回、各5分;90%エタノール中で2回、各2分;75%エタノール中で2回、各2分;50%エタノール中で2回、各2分;次いで、水に浸けて4分間すすいだ。
【0342】
蒸し器または圧力鍋を用いて、120℃で3分間(または95℃で20分間)、酸性のクエン酸ナトリウム緩衝液中でインキュベーションすることにより、抗原賦活化を実施した。スライドを15分間、室温まで放冷し、続いて、0.1% Triton-X 100を添加したトリス緩衝生理食塩水(TBST)中で2回、各2分間、洗浄した。スライドをTBSTで再び2回、各5分間洗浄した後、使用予定の二次抗体が由来する種から得られる5%正常血清を含むTBST中で、室温で1時間、ブロッキングした。ブロッキング後、スライドの水気を切り、過剰な溶液を拭き取った。TBST中で1:2希釈したp16一次抗体と共に4℃で一晩(または室温で2時間)、スライドをインキュベートした。一次抗体とのインキュベーション後、スライドをTBSTで2回、各5分間洗浄し、次いで、TBST中3%H2O2で15分間処理した。次いで、スライドをTBSTで2回、各5分間洗浄した後、二次抗体とインキュベーションした。スライドをHRP結合型二次抗体と室温で1時間インキュベーションした。抗体とのインキュベーション後、スライドをTBSで3回、各5分間洗浄した。製造業者のプロトコールに従って調製したAECクロモゲンを検出のために使用し、約20分間、色を顕色させた。次いで、スライドを水中で5分間すすいだ後、ヘマトキシリンで対比染色した。スライドのVectashield封入剤(Vector Labs, Burlingame CA)の上にカバーガラスを載せ、画像化前に乾燥させた。
【0343】
図14Aおよび14Bは、AMDと診断されたドナーから得たヒト眼組織に対するp16免疫組織化学的検査の代表的画像である。p16の発現が陽性である細胞は、疾患病変が明らかな領域において黒っぽい染色を伴って現れる(丸で囲んだ部分)。
【0344】
実施例11:臨床的評価
本実施例は、眼病態の治療に対するセノリティック剤の安全性および有効性を評価するための前臨床試験または臨床試験についての概要を提供する。
【0345】
セノリティック物質を、標準的な硝子体内(ITV)投与技術によって試験の対象に投与し、眼を洗浄し、注射前のIOP測定後、通常の無菌様式で無菌布によって覆う。表面麻酔を適用し、十分に露出するように開瞼器を装着する。注射する象限は治療担当医によって選択され、注射位置は、角強膜縁の3~4mm後方の位置とする。28~32ゲージの針を用いて、化合物の注射剤0.05mL~0.1mLを投与する。注射手順の終わりに開瞼器を取り除く。病態の性質に応じて、潜在的に適切な眼内または眼周囲への送達方法には、硝子体内、前房内、後部強膜近傍、結膜下、または脈絡膜上への注射が含まれる。
【0346】
治療後、眼の構造および機能についての一般に利用可能な検査(前記)を用いて、対象を評価して、眼病態の症状または徴候が対照群の対象と比べて改善したかどうかを判定する。
【0347】
実施例12:併用療法
本実施例は、VEGFに関係のある眼疾患に対する標準治療である抗VEGF療法と組み合わせた、セノリティック剤の臨床使用を例示する。
【0348】
ウェット型AMDに罹患しており、抗VEGF療法を既に受けているか、またはVEGF療法を開始する必要がある対象を、試験に募集する。セノリティック化合物の1回目の投与は、抗VEGF療法の規則的な適用のうちの1回と同じ日に行う。セノリティック化合物と一緒に眼科療法を使用することに対して、予想される禁忌はない。セノリティック剤を、標準的な硝子体内(ITV)投与によって最初に投与する。注射後15分目および30分目に、眼内圧(IOP)を測定する。IOPが注射前レベルまで正常化したら、抗VEGF療法(例えば、アフリベルセプト2.0mgを含む0.05mL)を次に行う。眼を洗浄し、1回目の注射後の完全に新たな滅菌手順として、通常の無菌様式で無菌布によって覆う。表面麻酔を与え、十分に露出するように開瞼器を装着する。注射する象限は治療担当医によって選択され、注射位置は、角強膜縁の3~4mm後方の位置とする。28~32ゲージの針を用いて、化合物の注射剤0.05mLを投与する。注射の終わりに開瞼器を取り除く。2回目のITV注射後5分目、15分目、および30分目にIOPをモニターする。
【0349】
併用治療の安全性および有効性を以下のように評価する。注射直後の期間に、何らかの急性の視覚喪失または眼内圧の上昇について、眼をモニターする。視覚およびIOPが安定である場合は注射後30分目に、治療担当医の標準的な術後指示のもとで、患者を診療所から帰らせる。視覚に何らかの変化が発現した場合または注射した眼に疼痛または赤みが発症した場合には直ちに来院するように患者は指示される。
【0350】
ウェット型AMDというこの疾患例の状況において、追跡評価は、治療から1週間~1ヶ月以内に予定される。追跡評価は、視力およびIOPの測定、治療法を施してからの任意の改善または減退のモニタリングを含む。眼の前方部および後眼部を検査し、標準的な補助的検査を実施し、これには、限定されるわけではないが、写真撮影、IV蛍光眼底血管造影、および光干渉断層法(OCT)が含まれる。
【0351】
前述の臨床検査、機能的検査、および構造的検査のこの組合せを用いて、セノリティック物質に対する反応を実証する。その後の追跡検査は、患者の反応に基づいて予定する。セノリティック物質が抗VEGF薬剤と一緒に与えられる場合、医師は、来診および該薬剤に関連する治療薬投与計画を追跡し続ける。
【0352】
参照文献
【0353】
本開示に提示したいくつかの仮説は、それを手段として読者が本発明を理解し得る前提を与える。この前提は、読者の利益および理解のために提供される。本発明の実践は、該仮説の詳細な理解も応用も必要としない。別段の記載がある場合を除いて、本開示で提示される仮説の特徴は、特許請求される本発明の応用も実践も制限しない。例えば、老化細胞の排除が明瞭に必要とされる場合を除いて、本発明の化合物は、老化細胞に対する効果に関係なく、説明される病態の治療に使用されてよい。本開示において言及される眼病態の多くは主に高齢患者で発生するが、本発明は、別段の明示的な記載も指示もない場合、記載した病態を有する任意の年齢の患者に対して実践してよい。
【0354】
具体的な実施例および図解を参照して本発明を説明したが、日常的な発展および最適化として、かつ当業者の権限内で、変更を加えてよく、かつ個々の状況または意図した用途に適合するように等価物を代わりに用いてよく、それによって、特許請求の範囲から逸脱することなく本発明の利益を実現することができる。
図1A
図1B
図1C
図1D
図2-1】
図2-2】
図3A-1】
図3A-2】
図3B-1】
図3B-2】
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