(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-05-11
(45)【発行日】2023-05-19
(54)【発明の名称】温調システム及び温調方法
(51)【国際特許分類】
G01N 35/00 20060101AFI20230512BHJP
G01N 35/10 20060101ALI20230512BHJP
【FI】
G01N35/00 B
G01N35/10 K
(21)【出願番号】P 2020512219
(86)(22)【出願日】2019-03-29
(86)【国際出願番号】 JP2019014052
(87)【国際公開番号】W WO2019194096
(87)【国際公開日】2019-10-10
【審査請求日】2022-01-13
(31)【優先権主張番号】P 2018073390
(32)【優先日】2018-04-05
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000206956
【氏名又は名称】大塚製薬株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100145403
【氏名又は名称】山尾 憲人
(72)【発明者】
【氏名】大澤 耕
(72)【発明者】
【氏名】村山 貴紀
(72)【発明者】
【氏名】庄司 祐也
(72)【発明者】
【氏名】青木 洋一
(72)【発明者】
【氏名】平山 博士
【審査官】野田 華代
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2017/082142(WO,A1)
【文献】特開2010-286243(JP,A)
【文献】特開2014-092427(JP,A)
【文献】特開平07-209306(JP,A)
【文献】特開平10-094535(JP,A)
【文献】特開2012-159392(JP,A)
【文献】特開2010-197235(JP,A)
【文献】特開2004-037161(JP,A)
【文献】特開2017-083469(JP,A)
【文献】特開2008-070355(JP,A)
【文献】特開2008-014637(JP,A)
【文献】特開2018-146374(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01N 35/00-37/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ピペットチップ及び反応容器を用い試料を分析する分析装置に適用される温調システムであって
前記ピペットチップを昇降させる駆動部と、
前記ピペットチップに対する温調を行うピペットチップ温調部と、
少なくとも前記分析装置の内部の環境温度を検知する環境温度センサと、
液体を前記ピペットチップに吸入し、かつ前記ピペットチップ内の前記液体を排出するためのポンプと、
制御部と、
を備え
、
前記制御部は、試料分析時に、前記ピペットチップ温調部による前記ピペットチップに対する温調を行い、
前記制御部は、少なくとも前記試料分析前に前記環境温度センサにより検知された前記環境温度に基づいて、前記試料分析時における前記ピペットチップ温調部の前記温度制御目標値を予め設定する、温調システム。
【請求項2】
試料分析時には、前記駆動部が前記ピペットチップを降下させ、前記ピペットチップ温調部が送風を行った状態で前記ポンプが前記吸入と前記排出とを繰り返す吸排を行い、
前記制御部は、
前記試料分析前における前記環境温度センサにより検知された前記環境温度及び分析試薬情報に基づいて、
前記試料分析時における前記ピペットチップ温調部の温度制御目標値を予め設定する、
請求項1に記載の温調システム。
【請求項3】
前記反応容器の温度を制御する反応容器温調部を、さらに備え、
前記反応容器温調部の制御目標温度が、前記ピペットチップ温調部の設定温度よりも低く設定される、
請求項1又は請求項2に記載の温調システム。
【請求項4】
前記ピペットチップ温調部の温度制御目標値が試料分析終了後に初期値に再設定され、
前記ピペットチップ温調部は、試料分析終了後にも温調を継続する、
請求項1から請求項3のいずれか一項に記載の温調システム。
【請求項5】
分析途中の前記試料の反応工程において、前記ピペットチップ温調部の制御目標温度を前記試料の種類に応じて切り替える、
請求項1から請求項4のいずれか一項に記載の温調システム。
【請求項6】
分析途中の前記試料の反応工程において、前記反応容器温調部の制御目標温度を前記試料の種類に応じて切り替える、
請求項3に記載の温調システム。
【請求項7】
前記環境温度センサは、前記分析装置の内部の環境温度に加えて前記分析装置の外部の環境温度も検知する、
請求項1から請求項6のいずれか一項に記載の温調システム。
【請求項8】
ピペット
チップ温調部の温度制御目標値を初期温度に設定する初期温調工程と、
試薬情報読み取り工程と、
前記試薬情報読み取り工程で得た試薬情報と、環境温度センサにより検知された環境温度とを基に、温調目標値を算出する温調目標値算出工程と、
温調目標値算出工程で算出された温度に温度制御目標値を変更する温度制御目標値変更工程と、
変更された温度制御目標値に基づいて温調を開始する第1温調工程と、
試料を分析する工程と、
試料分析後に温度制御目標値を前記初期温度に設定する初期温調復帰工程と、
を含み、
試料分析前における前記環境温度及び分析試薬情報に基づいて、試料分析時における前記ピペットチップ温調部の温度制御目標値を予め変更する、
温調方法。
【請求項9】
前記試料を分析する工程は、検体送液工程、第1往復送液工程、蛍光標識工程及び第2往復送液工程に加えて、前記ピペットチップ温調部の温度制御目標値を一定に維持した温調を行う第2温調工程を含む、
請求項8に記載の温調方法。
【請求項10】
前記試薬情報には蛍光分析に用いられる光学部品の屈折率の温度依存性情報が含まれ、
前記試料を分析する工程において、前記環境温度センサにより検知された前記環境温度を基に光学系の配置を調整する、
請求項8又は請求項9に記載の温調方法。
【請求項11】
ピペットチップ及び反応容器を用い試料を分析する分析装置に適用される温調システムであって
前記ピペットチップを昇降させる駆動部と、
前記ピペットチップに対する温調を行うピペットチップ温調部と、
少なくとも前記分析装置の内部の環境温度を検知する環境温度センサと、
液体を前記ピペットチップに吸入し、かつ前記ピペットチップ内の前記液体を排出するためのポンプと、
前記環境温度センサにより検知された環境温度に基づいて、試料分析時における前記ピペットチップ温調部の温度制御目標値を予め設定する制御部と、
を備え、
試料分析時には、前記駆動部が前記ピペットチップを降下させ、前記ピペットチップ温調部が送風を行った状態で前記ポンプが前記吸入と前記排出とを繰り返す吸排を行い、
前記制御部は、前記試料分析前における前記環境温度センサにより検知された前記環境温度及び分析試薬情報に基づいて、試料分析時における前記ピペットチップ温調部の温度制御目標値を予め設定する、温調システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ピペットチップ及び反応容器を用いて試薬などの試料の分析処理を行う分析装置に適用される温調システム及び温調方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、生化学反応や免疫反応は温度の影響を大きく受けることが知られている。たとえば、センサチップを用いた全自動式の生化学反応装置や免疫反応装置においては、装置内でセンサチップに反応液や洗浄液などの試薬を順次導入するため、センサチップ内の温度は導入する試薬温度の影響を大きく受ける。
【0003】
ここで、センサチップ内(反応場)の温度は、使用する試薬温度の影響を大きく受けることがわかっており、試薬温度を制御することが必要であることがわかっている。
【0004】
試薬温度としては、周囲の温度、すなわち測定環境の温度(以下、周囲温度という)に馴染んでいる場合や、保管庫(冷蔵庫)から取り出し直後であり保管温度である場合など様々なケースが想定される。従って、測定毎に使用する液温が異なる可能性があり、測定の繰り返し再現性などのシステム性能に影響を与えてしまう。
【0005】
このような問題に対処する手法としては、特許文献1のように、ヒートブロックを用いて反応温度を制御する方式や、特許文献2のように、室温を感知する温度センサに応じて冷却時間を算出する機構を備えた温調システムが知られている。また、特許文献3のように、箱状加温装置内で加温された気体及びピペットチップを介して、ピペットチップ内の液体を加温処理することができる自動分注方法が知られている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】特許第4437215号公報
【文献】特許第6187700号公報
【文献】特開2009-058288号公報
【文献】特開2015-148500号公報
【非特許文献】
【0007】
【文献】伊藤謹司, 国峰尚樹, "トラブルを避けるための電子機器の熱対策設計", 第2版7刷, 日刊工業新聞社(2016).
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、特許文献1には昇温開始直前の容器の周囲の温度に基づいてヒートブロックの温度を設定する方法が開示されているが、熱容量の大きいヒートブロックを加熱するため、反応時間内に十分に所望の温度に加熱することが困難である。また、時間内に加熱しようとした場合、投入する熱量が増加し、その結果、制御安定性が悪くなる問題があった。
【0009】
また、特許文献2に記載された自動分注方法によれば、試薬の種類に適した反応温度にピペットチップを制御できず、その結果、反応性のばらつきが生じてしまう問題があった。具体的には、室温を感知する温度センサによって測定された環境温度に応じて冷却時間を算出するが、試薬の種類に応じて制御温度が切り替わらないため、周囲の環境温度が変化した場合に反応性に差が出てしまう問題あった。
【0010】
また、特許文献3に記載された自動分注方法によれば、箱状加温装置内で加温された気体及びピペットチップを介して、ピペットチップ内の液体を加温処理することができるものの、検体や試薬によっては非常に低温で保存されている場合もあり、反応温度までに温度を上昇させるためには時間がかかるという問題があった。また、箱状加温装置と液槽(カートリッジ内試薬)が分離されているため、液槽内の液体を含めた大容量の液体を加温することは困難であった。
【0011】
さらに、これら先行技術による方法、すなわち、周囲温度による制御温度変更や、ヒートブロックによるカートリッジ内試薬の加温、箱状加温装置による気体及びピペットチップを介してのピペットチップ内試薬の加温、のそれぞれもしくは組合せにより周囲温度を考慮したカートリッジを保持するステージとピペットチップの両方を加温する方法では、短時間で、多種多様な試薬温度条件に対応できないという問題があった。
【0012】
本発明は、かかる課題に鑑みてなされたものであり、所望の反応時間内に反応温度を目標温度に制御でき、制御安定性を向上できる温調システムを実現することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明の温調システムの一つの態様は、
ピペットチップ及び反応容器を用い試料を分析する分析装置に適用される温調システムであって
前記ピペットチップを昇降させる駆動部と、
前記ピペットチップに対する温調を行うピペットチップ温調部と、
前記分析装置の少なくとも内部の環境温度を検知する環境温度センサと、
液体を前記ピペットチップに吸入し、かつ前記ピペットチップ内の前記液体を排出するためのポンプと、
前記環境温度センサにより検知された環境温度に基づいて、試料分析時における前記ピペットチップ温調部の温度制御目標値を予め設定する制御部と、
を備える。
【0014】
本発明の温調方法の一つの態様は、
ピペット温調部の温度制御目標値を初期温度に設定する初期温調工程と、
試薬情報読み取り工程と、
前記試薬情報読み取り工程で得た試薬情報と、環境温度センサにより検知された環境温度とを基に、温調目標値を算出する温調目標値算出工程と、
温調目標値算出工程で算出された温度に温度制御目標値を変更する温度制御目標値変更工程と、
変更された温度制御目標値に基づいて温調を開始する第1温調工程と、
試料を分析する工程と、
試料分析後に温度制御目標値を前記初期温度に設定する初期温調復帰工程と、
を含み、
試料分析前における前記環境温度及び分析試薬情報に基づいて、試料分析時における前記ピペットチップ温調部の温度制御目標値を予め変更する。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、環境温度センサにより検知された環境温度に基づいて、試料分析時におけるピペットチップ温調部の温度制御目標値を予め設定するようにしたので、所望の反応時間内に反応温度を目標温度に制御でき、制御安定性を向上できるようになる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【
図1】第1の実施の形態による分析装置の全体構成を示す概要図である。
【
図3】ピペットチップ温調部の構成を示す斜視図である。
【
図4】ピペットチップ温調部による温調の様子を示す側面図である。
【
図6】第2の実施の形態による分析装置の全体構成を示す概要図である。
【
図7】第3の実施の形態による分析装置の全体構成を示す概要図である。
【
図8】第5の実施の形態による制御フローを示すフローチャートである。
【
図9】第7の実施の形態において、ピペットチップ温調部をブロックヒータによって構成した場合を示す斜視図である。
【
図10】第7の実施の形態において、ピペットチップ温調部をブロックヒータによって構成した場合を示す斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、本発明の実施の形態を、図面を参照して説明する。
【0018】
<1>第1の実施の形態
<1-1>全体構成
図1は、実施の形態による分析装置の全体構成を示す概要図である。
【0019】
分析装置1Aは、収容槽21内の試薬類や検体などの試料を吸引し、それを反応容器3内に吐出して反応させるためのピペットチップ51を用いて検体を分析する装置である。
【0020】
本実施形態における検査カートリッジ2は、標識抗体や洗浄液など必要な試薬類が個別にプリパッケージされた収容槽21と、試薬類と検体とを反応させる反応容器3と、を有する容器である。反応容器3は、検査カートリッジ2とは独立した別個の部品であってもよい。検査カートリッジ2は、被検出物質を含む検体が所定の収容槽21に予め分注された状態で、分析装置1Aのステージ4に架設される。検体は、例えば、血液や血清、血漿、尿、鼻孔液、唾液、精液などである。また、検体は、例えば、核酸(DNAやRNAなど)、タンパク質(ポリペプチドやオリゴペプチドなど)、アミノ酸、糖質、脂質及びこれらの修飾分子などである。
【0021】
検査カートリッジ2には試薬情報(図示しない)が含まれる。試薬情報は例えば文字列、1次元バーコード、2次元バーコード、半導体メモリ、ホログラムフィルムなどで構成される。文字列で構成した場合には人間が認識しやすいという利点があり、1次元バーコードや2次元バーコードで構成した場合には安価で量産性能に優れ情報量を多くできる利点があり、半導体メモリやホログラムフィルムで構成した場合には情報量を多くできる利点がある。特に人間が認識しやすい文字列情報と装置が認識しやすい2次元バーコードの両方を含むことが望ましく、このように構成することで安定に試薬情報を装置が取り込むことができるとともに分析を行う人間が誤った試薬カートリッジを分析することを防止することができる。試薬情報には、試薬の種類の情報が含まれ、装置内部に蓄積された試薬の反応性の温度依存性などの情報と照合されるように構成される。また、試薬情報自体に試薬の種類と反応性の温度依存性、例えば反応速度定数の温度依存性などを組み込むことが望ましく、これにより、様々な試薬に柔軟に対応して温度制御できる反応システムを実現できる。
【0022】
図1に模式的に示す検査カートリッジ2はステージ4に架設される。ステージ4は、
図1に示すように、例えばスライドベース41上に固定されている。ステージ駆動部91によってスライドベース41をリニアガイド部42に沿って水平移動させると、ステージ4は検査カートリッジ2を保持した状態で水平移動する。
【0023】
反応容器3は、液体を収容可能な反応槽31を有し、反応槽31の上方開口部から挿入したピペットチップ51の先端511(
図2)を通じて反応槽31に液体が注入され、及び除去される。
【0024】
反応容器3の反応槽31には、分析対象の物質を含む検体、及び分析対象の物質と抗原抗体反応を起こす物質を含む試薬類(反応試薬)が分注される。そして、分注処理後、反応容器3内で生じた反応の結果として生じる凝集や発色、蛍光などの有無や程度に関する情報が、適宜の手段で取得され、取得されたデータを用いて検体の成分の分析を行うことが可能である。
【0025】
分析装置1Aは、
図1及び
図2に示すように、反応容器3の反応槽31に液の吸入や排出を行う送液部5と、送液部5の作動を制御する制御部6とを少なくとも備えている。
【0026】
制御部6には、温度制御部6aが含まれる。
【0027】
送液部5は、先端にピペットチップ51が装着されるピペットノズル52と、ピペットノズル52に接続されたポンプ53と、ピペットノズル52を昇降移動させるノズル駆動部54とを有する。なお、
図1ではステージ4、送液部5及び制御部6以外に分析装置1Aが備える各部は省略している。
【0028】
なお、本実施の形態では、ピペットノズル52とピペットチップ51とに分割された構成を例に説明するが、これらは一体であってもよい。よって、下記の説明において、ピペットノズル52は、ピペットチップと読み換えることもできる。
【0029】
かかる構成に加えて、分析装置1Aは環境温度センサ10を有する。環境温度センサ10は、分析装置1Aの少なくとも内部の環境温度を検知するようになっている。なお、環境温度センサ10は、分析装置1Aの内部に加えて、分析装置1Aの外部の環境温度を検知し、内部と外度の環境温度を環境温度取得部62に出力するようにしてもよい。
【0030】
ポンプ53は、シリンジ531と、シリンジ531内を往復動作可能なプランジャ532とを有し、駆動モータ(例えばステッピングモータ)を含む図示しない駆動部によってプランジャ532を往復運動させる。ポンプ53は、このようなプランジャ532を例えば配管55を介してピペットノズル52に接続した状態で往復運動させることによって、外部の液体をピペットチップ51内に吸入させたり、ピペットチップ51内の液体を外部に排出したりする処理を定量的に行うことができるようになっている。また、ピペットチップ51の先端511を、反応容器3の反応槽31の底面に近接させた状態で、シリンジ531に対するプランジャ532の往復動作を繰り返すことで、反応槽31内の液体が攪拌され、これにより、液体の濃度の均一化や反応の促進などを図ることができるようになっている。ポンプ53の駆動をステッピングモータで行うことにより、ピペットチップ51の送液量や送液速度を管理することが可能であり、反応容器3の反応槽31内の残液量を管理することも可能になる。
【0031】
ノズル駆動部54は、例えば、ソレノイドアクチュエータやステッピングモータによってピペットノズル52を軸方向(本実施形態では鉛直方向)に自在に移動させるものである。
【0032】
このようなピペットノズル52、ポンプ53及びノズル駆動部54を有する送液部5によって、反応容器3の反応槽31内に検体を排出して注入したり、反応槽31内から液体を吸引したりして除去することができる。本実施形態では、
図2に示すように、送液部5を構成する各部をユニット化し、サンプラユニット5Uとして取り扱えるように構成している。なお、
図2ではポンプ53などを省略している。
【0033】
そして、本実施形態に係る温調システムは、
図1及び
図2に示すように、ピペットチップ51を加温するピペットチップ温調部7を備えている。
【0034】
また、本実施の形態に係る温調システムでは、制御部6の温度制御部6aが、環境温度センサ10により検知された環境温度に基づいて、試料分析時におけるピペットチップ温調部7の温度制御目標値を予め設定する。これにより、本実施の形態の温調システムは、所望の反応時間内に反応温度を目標温度に制御できるようになっている。
【0035】
<1-2>ピペットチップ温調部
ピペットチップ温調部7は、所定の加温位置に位置付けられたピペットノズル52のうち少なくともピペットチップ51の先端部分を熱源72から放出される温風によって集中的に加温するものである。
【0036】
本実施形態にかかるピペットチップ温調部7は、
図1~
図3に示すように、少なくともピペットチップ51の先端部分を収容可能な筐体71と、筐体71の内部に配置した熱源72と、熱源72から放出される温風を所定方向に送るファン73とを有し、筐体71の内部空間を熱源72から放出される温風によって加温する。筐体71は、箱状をなし、内部空間を外部から仕切る外壁のうち上壁711及び下壁712に、ピペットチップ51の昇降移動を許容する開口部が形成されている。
【0037】
本実施形態のピペットチップ温調部7では、開口部として、ピペットチップ51が挿通可能な挿通孔(上側挿通孔713、下側挿通孔714)が形成されている。本実施形態では、筐体71が、上方が大きく開口した有底の筐体本体715と、筐体本体715の上方開口部を閉鎖する位置に配置した天板716とを用いて構成されている。筐体71の上側挿通孔713は、天板716に形成した丸孔であり、筐体71の下側挿通孔714は、筐体本体715の底部に形成した丸孔である。これら上側挿通孔713及び下側挿通孔714は鉛直方向(ピペットノズル52の昇降移動方向)に対向する位置関係にある。
【0038】
そして、ピペットチップ温調部7は、上側挿通孔713及び下側挿通孔714を通じて筐体71の内部空間に挿入されたピペットチップ51に対して、熱源72から放出される温風を当てることで、ピペットチップ51を加温することができる。
【0039】
なお、筐体71の内部には、筐体71内の温度を検知可能なセンサ717(例えばサーミスタ)や放熱フィン718が配置されている(
図3)。温度ヒューズを搭載した放熱フィン718は、安全装置として機能する。また、ファン73は、筐体71の内部空間に配置することもできるが、本実施形態では、ファン73を筐体71の外部であって、且つ筐体71の外壁(図示例では側壁)に形成したファン用開口部719に臨む位置に固定されている。これにより、熱源72から放出される温風をファン73によって所定方向に送ることができるようになっている。筐体71の内部に配置する部品を最小限に留めることで、筐体71のサイズの狭小化を図り、温風によって筐体71の内部空間を予め設定されている所定の目標温度に昇温・保温する処理を効率良く行うことができる。
【0040】
ピペットチップ温調部7は、筐体71にブラケット74を固定した状態でユニット化されている。そして、ブラケット74をサンプラユニット5Uに取り付けることで、ピペットチップ温調部7をサンプラユニット5Uに固定することができる(
図2参照)。
【0041】
本実施形態では、反応容器3の近傍にピペットチップ温調部7が配置されている。具体的には、
図4に示すように、ピペットチップ温調部7の下端(筐体71の底)から反応容器の上面までの離間距離(同図において「L」で示す距離)を、例えば5mm程度に設定している。このようなレイアウトを採用したことによって、
図4に示すように、反応容器3が、筐体71の挿通孔(特に下側挿通孔714)を通じて筐体71の内部から外部に放出される温風に晒されることになる。同図では、ピペットチップ温調部7の熱源72から発生する温風の流れが相対的に太い矢印で模式的に示されている。
【0042】
制御部6は、例えば、演算装置、制御装置、記憶装置、入力装置及び出力装置などを含む公知のコンピュータやマイコンなどによって構成され、送液部5、ピペットチップ温調部7、反応容器温調部8を含む分析装置1Aの各部の作動を所定のプログラムに従って制御する。制御部6の温度制御部6aは、ピペットチップ温調部7を構成する筐体71内の温度をセンサ717から取得するピペットチップ温度取得部61を有する。
【0043】
本実施形態に係る分析装置1Aの温調システムは、分析装置1Aによる検査カートリッジ2を用いた測定が開始され、被検出物質の検出処理の実行中、制御部6による反応容器温調部8及びピペットチップ温調部7の温調制御を実行する。
【0044】
制御部6は、適宜のタイミングでピペットチップ温度取得部61、環境温度取得部62による温度取得処理を行い、取得した温度に基づいて、ピペットチップ温調部7によるピペットチップ温調温度を、ピペットチップ温調目標温度、に近付けるように温調制御する。
【0045】
ピペットチップ温調目標温度は、測定が開始される前に制御部6が環境温度取得部62によって取得した環境温度と検査カートリッジ2に含まれる試薬情報に基づいて制御部6が決定し、測定中においてピペットチップ温調目標温度は一定に保持される。例えばピペットチップ温調目標温度は試薬情報に含まれる環境温度に依存する試薬の反応温度に応じて設定される。このように設定することで、どのような環境温度に対しても反応性を一定にできる効果や、所定温度の液体をピペットチップ51が吸入、排出を行う時、温度が下がらない効果を期待でき、分析性能の安定化を期待できる。また測定の最中に一定の目標値に設定することで、外乱の影響を受けにくい温度制御を実現でき、温度制御の安定性を向上できる。また、ピペットチップ温調目標温度は検査カートリッジ2に含まれる試薬情報に基づいて、試薬への悪影響やピペットチップ51自身の熱変形を回避可能な温度に設定することができる。
【0046】
本実施形態の温調システム100は、
図2及び
図4に示すように、ピペットノズル52を所定の加温位置に位置付けた状態で、少なくともピペットチップ51の先端部分が筐体71の内部に収容されるように構成されている。具体的には、ピペットノズル52を加温位置に位置付けた状態では、ピペットチップ51の先端511が筐体71の下側挿通孔714内に位置付けられ、ピペットチップ51のうち先端から所定寸法分までの領域(先端部分)が筐体71の内部に配置されるように設定されている。本実施形態では、ピペットノズル52の原点位置を「加温位置」に設定している。したがって、ピペットノズル52を原点位置で待機させることによって、筐体71の内部でピペットチップ51の先端部分を加温することができる。
【0047】
また、本実施形態では、ピペットノズル52を加温位置に位置付けた状態で、ピペットチップ51の先端511と下側挿通孔714の間には所定の隙間が形成され、ピペットチップ51と上側挿通孔713の間にも所定の隙間が形成され、ピペットチップ51が筐体71に接触しないように設定されている。このようなピペットチップ51と挿通孔(上側挿通孔713、下側挿通孔714)との隙間から、筐体71内の温風が筐体71の外部に噴き出し、筐体71の周辺温度を筐体71の内部温度と同程度に保つことができる(
図4参照)。
【0048】
<1-3>動作
ここで、本実施形態に係る分析装置1Aの温調システム100を使用する際の処理について説明する。まず、ユーザにより、図示しない冷蔵庫から、2~8°C程度の温度で保存されている検査カートリッジ2が取り出される。冷蔵庫から取り出されると、検査カートリッジ2の温度は、10~30℃程度の室内温度に戻される。
【0049】
次に、検査カートリッジ2は、ステージ4に架設される。次に、図示しない測定開始ボタンが操作されると、制御部6は、ステージ駆動部91を駆動させ、吸入対象の液体が収容されている収容槽21がピペットノズル52の直下となる位置にステージ4を移動させる。この状態においては、ステージ4が移動したのみであり、実際の測定は開始されていない。なお、測定が開始される前からピペットチップ温調部7はピペットチップ温調目標初期温度を目標値として、一定の温風をピペットチップ51に吹き付ける動作を行っている。
【0050】
次に、制御部6は、環境温度取得部62によって取得した環境温度と、検査カートリッジ2に含まれる試薬情報と、装置内部に記憶された試薬の反応性の温度依存性情報と、に基づいて、ピペットチップ温調目標温度を決定する。ピペットチップ温調目標温度が決定されると、ピペットチップ温調部7は、制御目標値を、ピペットチップ温調目標初期温度から、算出されたピペットチップ温調目標温度に変更し(設定し)、熱源72から温風を放出させ、加温位置に位置するピペットノズル52を加温する。熱源72からは、30~60°Cの温度の温風が放出される。また、ピペットチップ温調目標温度は測定の間一定に保たれる。
【0051】
次に、制御部6は、検査カートリッジ2に含まれる試薬情報と装置内部に記憶された試薬の反応プロセスの工程情報とに基づいて、反応プロセスを進行させ、分析結果を出力する。反応プロセス内においては、各収容槽21に含まれる試薬や測定される検体をピペットチップ51で混合するプロセス、混合した液体を反応容器3の反応槽31にピペットチップ51を用いて移動するプロセス、反応層31で反応させた液体を分析部(図示しない)で分析するプロセスが含まれる。
【0052】
すべての反応プロセスが完了した後に、制御部6は分析結果を出力する。
【0053】
このように、測定(実際の反応)が始まる前に、ピペットチップ温調目標温度を決定(設定)することで試薬の反応性を一定に保つことができ、反応性の安定化が期待される。特に本発明は、抗原抗体反応を用いた分析装置に適用されることが望ましい。抗原抗体反応がなされた場合、反応終了後から抗体の解離が発生する上、解離の速度は抗体種によって異なる。このため、反応工程において環境温度に応じて温度が変化してしまうと抗体の解離が進行し、分析時の信号対雑音比が悪化し、分析精度低下が生じるおそれがある。よって、解離の速度が速い抗体を使用する場合は、環境温度に応じて温調目標値を予め設定して変化させておく必要がある。ここで、乖離の速度が速いとは、常温23°Cの乖離定数の温度依存性が1°Cで1%以上、より典型的には1°Cで10%以上あるような抗原抗体反応をいう。
【0054】
<1-4>まとめ
以上説明したように、本実施の形態によれば、ピペットチップ51及び反応容器3を用い試料を分析する分析装置1Aに適用される温調システムであって、ピペットチップ51を昇降させる駆動部54と、ピペットチップ51に対する温調を行うピペットチップ温調部7と、分析装置1Aの少なくとも内部の環境温度を検知する環境温度センサ10と、液体をピペットチップ51に吸入し、かつピペットチップ51内の液体を排出するためのポンプ53と、環境温度センサ10により検知された環境温度に基づいて、試料分析時におけるピペットチップ温調部7の温度制御目標値を予め設定する温度制御部6aと、を備え、試料分析時には、駆動部54がピペットチップ51を降下させ、ピペットチップ温調部7が送風を行った状態でポンプ53が前記吸入と前記排出とを繰り返す吸排を行い、温度制御部6aが試料分析前における環境温度センサ10により検知された前記環境温度及び分析試薬情報に基づいて、試料分析時におけるピペットチップ温調部7の温度制御目標値を予め設定する。
【0055】
このように構成することで、所望の反応時間内に反応温度を目標温度に制御できるとともに、分析試薬情報に基づいて事前に制御を調整することで制御安定性を向上できる。
【0056】
<2>第2の実施の形態
図1との対応部分に同一符号を付して示す
図6は、第2の実施の形態による分析装置1Bの全体構成を示す概要図である。
【0057】
本実施の形態の分析装置1Bは反応容器温調部8を有する。反応容器温調部8は、ステージ4を加温するステージ温調用ヒータ81を含んで構成されている。ステージ温調用ヒータ81によってステージ4を加温することにより、ステージ4上に配置されている反応容器3を加温することができる。
【0058】
本実施形態では、ステージ温調用ヒータ81によって加温されるステージ4の温度をステージ温度センサ92で検知する。ステージ温度センサ92は、ステージ4に接触していることが望ましく、ステージ温調用ヒータ81と反応容器3の間に配置されることがより望ましい。このように配置することで、ステージ温調用ヒータ81によって加熱されたステージ4の温度を直接的に測定でき、測定安定性と制御安定性を向上できる。また、本実施形態では、ステージ4の温度を取得することで反応容器3の温度を間接的に取得するように構成している。
【0059】
本実施形態に係る分析装置1Bの温調システムは、分析装置1による検査カートリッジ2を用いた測定が開始され、被検出物質の検出処理の実行中、制御部6による反応容器温調部8及びピペットチップ温調部7の温調制御を実行する。制御部6は、適宜のタイミングでピペットチップ温度取得部61、ステージ温度取得部63による温度取得処理を行い、取得した温度に基づいて、ピペットチップ温調部7によるピペットチップ温調温度と、反応容器温調部8による反応容器温調温度(ステージ温調温度)を、予め設定されているピペットチップ温調目標温度、反応容器温調目標温度(ステージ温調目標温度)に近付けるように温調制御する。
【0060】
ピペットチップ温調目標温度の決定方法は、
図1に示した第1の実施の形態と同様に行う。すなわち、環境温度取得部62によって取得した環境温度と検査カートリッジ2に含まれる試薬情報と装置内部に記憶された試薬の反応性の温度依存性情報に基づいて、ピペットチップ温調目標温度を決定する。
【0061】
また、反応容器温調部8における反応容器温調目標温度(ステージ温調目標温度)は、ピペットチップ温調目標温度よりも低く設定される。このように設定することで、反応容器温調部8がピペットチップ温調部7に与える外乱を抑制でき、反応温度の制御安定性を向上できる。
【0062】
以下では、
図6に示す温調システムで温度制御安定性が向上する理由について説明する。
【0063】
図6に示した温調システムにおいて、ピペットチップ温調部7は反応容器温調部8によって制御されるステージ温調用ヒータ81の熱源の上側に配置されている。したがって、ステージ温調用ヒータ81によって加熱された熱が対流によってピペットチップ温調部7への外乱として入力されることになる。
【0064】
反応容器温調部8の制御目標温度が、ピペットチップ温調部7の設定温度よりも高く設定された場合を考えると、ステージ温調用ヒータ81によって加熱された空気を、ピペットチップ温調部7で冷却機構により冷却する必要があるが、冷却のためのヒートパイプや放熱構造を含めるとピペットチップ温調部7が複雑化したり大型化したりしてしまい、製造コストやばらつきが増加してしまう問題がある。
【0065】
一方、本実施の形態のように、反応容器温調部8の制御目標温度が、ピペットチップ温調部7の設定温度よりも低く設定された場合を考えると、ピペットチップ温調部7の構造はヒータによる加熱源のみで構成できるためピペットチップ温調部7の構成を単純化でき、部品点数を削減し製造コストや製造ばらつきを低減できる利点がある。また、一度ステージ温調用ヒータ81によって加熱した空気をピペットチップ温調部7で冷却する必要がなくなるため、ピペットチップ温調部7と反応容器温調部8の総消費電力を低減できるとともに制御安定性を向上できる利点がある。
【0066】
以上説明したように、本実施の形態の温調システムによれば、第1の実施の形態の構成に加えて、反応容器3の温度を制御する反応容器温調部8を、さらに有し、反応容器温調部8の制御目標温度が、ピペットチップ温調部7の設定温度よりも低く設定されていることにより、所望の反応時間内に反応温度を目標温度に制御でき、分析試薬情報に基づいて事前に制御を調整することで制御安定性を向上できることに加えて、反応容器温調部8がピペットチップ温調部7に与える外乱を抑制でき、反応温度の制御安定性を向上できる。
【0067】
<3>第3の実施の形態
本実施の形態では、本発明の温調システムを表面プラズモン共鳴を利用した検査システムに適用することを提示する。
【0068】
従来、各種疾病の診断用データを取得するための、表面プラズモン共鳴を利用した検査システムが知られている(特許文献4参照)。この検査システムは、疾病の診断に必要な生体反応を行うための検出チップ(センサーチップ)と、当該センサチップをセットして表面プラズモン共鳴励起増強蛍光分光法(SPFS法)により生体反応の検出を行う検出装置(SPFS装置)と、を備えている。
【0069】
このセンサチップは、流入口と流出口が開放されたイムノアッセイ用の微細な流路を有しており、この流路の底部は、誘電体部材と、誘電体部材の上面に形成された金属薄膜と、金属薄膜上に設けられた微細流路構成部材と、で構成されている。
【0070】
この金属膜の少なくとも一部には抗体(リガンド)などが固定されており、反応場に患者由来の血液サンプル(検体液)などを流入させると、固定された抗体に検体液中に含まれる(疾病に関する)生体分子が抗原抗体反応により特異的に捕捉される。さらに、捕捉された生体分子の抗体結合部分とは別の部分(エピトープ)に対して、蛍光標識された2次抗体を特異的に結合させた後、検出装置によりSPFS法を行って捕捉の有無を検出することにより、生体分子が生検サンプルに含まれているか否かが検出される。なお、このようにリガンドなどが固定され生体反応を行うための所定の領域を「反応場」という。
【0071】
この生体反応は、センサチップの反応場で行われ、反応場における反応用液の温度(反応場の温度)により生体反応の効率が変化することから、反応場の温度はヒータなどの温調手段により生体反応に適した温度に調節される。
【0072】
本発明者らは、従来の検査システムについて検討した結果、生体反応の効率を上げるために、センサチップの流路内に流入させた反応用液の少なくとも一部を流路の外へ流出させるとともに再び流入させる往復送液を行った場合、(1)往復送液により反応用液が流路外に流出したときに流路内の温度とは異なる温度環境(例;SPFS装置内の温度の影響を受けて流路内の温度より低温となっている温度環境)に晒されて、反応用液の温度が変化してしまい、この反応用液が再び流路に流入すると、流路内の反応場の温度が変化して目標とする生体反応の温度から外れてしまうこと、(2)往復送液を1回行うと、1回の往復送液ごとに反応場の温度が変動してしまうことから、目的とする生体反応が適した温度条件で行われない問題があることを見出し、本実施の形態の温調システムを想到するに至った。
【0073】
なお、ここでいう往復送液は、上述の第1及び第2の実施の形態における「吸入と排出とを繰り返す吸排」動作に相当する。また、本発明者らは、抗原抗体反応を行った後に検出装置で蛍光測定を行うために、センサチップを固定したステージを反応位置から測定位置に移動させる必要があるが、その際にステージの移動に伴い装置内部に風が生じ、ピペットチップ温調部の制御特性に影響を与える問題があることを見出した。
【0074】
本発明に係る温調システムの第3の実施形態は、温度制御安定化に関する上記課題を解決できるものであり、往復送液や、分析途中にセンサチップを固定したステージの移動を伴う場合であっても、目的の生体反応を生体反応に適した温度条件で行うことができる検査システムを提供できる。
図6との対応部分に同一符号を付して示す
図7は、本実施の形態による分析装置1Cの全体構成を示す概要図である。分析装置1Cは、表面プラズモン共鳴を利用した検査を実行する。
【0075】
図6の分析装置1Bと比較して本実施の形態の分析装置1Cは、反応位置と測定位置との間で反応容器3を水平移動させるステージ駆動部91、仕切り手段、仕切駆動部などを有する。仕切り手段は、反応位置の空間と測定位置の空間とを仕切る仕切り板などであり、仕切り駆動部によって上下方向に移動される。
図7におけるステージ駆動部91、仕切り手段、仕切り駆動部、投光光学系、角度制御機構、受光光学系、光検出手段は、特許文献4などにも記載された既知の技術であるため、ここでの説明は省略する。
【0076】
本実施の形態の分析装置1Cは、ピペットチップ51及び反応容器3を用い試料を分析する分析装置1Cに適用される温調システムであって、ピペットチップ51を昇降させる駆動部54と、反応容器3を移動させるステージ駆動部91と、ピペットチップ51に対する温調を行うピペットチップ温調部7と、分析装置1Cの少なくとも内部の環境温度を検知する環境温度センサ10と、液体をピペットチップ51に吸入し、かつピペットチップ51内の液体を排出するためのポンプ53と、を備える。また分析装置1Cは、試料分析時には駆動部54によりピペットチップ51が降下し、ピペットチップ温調部7が送風を行った状態でポンプ53が前記吸入と前記排出とを繰り返す吸排を行い、試料分析工程で反応容器3が反応位置においてピペットチップ51による吸排を行う工程及び反応容器3が測定位置において測定を行う工程を含み、試料分析前における環境温度センサ10の測定値及び分析試薬情報に基づいて、試料分析時におけるピペットチップ温調部7の温度制御目標値を予め設定する。
【0077】
このように構成することで、往復送液時の反応場の温度の変動や、ステージの移動に伴い装置内部に発生する空気の移動に依存する反応場温度ばらつきを小さくすることが可能になる。
【0078】
<4>第4の実施の形態
本実施の形態では、本発明を実施する上で望ましい環境温度センサ10(
図1、
図6、
図7)の構成を提示する。
【0079】
本実施の形態の温調システムは、
図1、
図6あるいは
図7に示した構成において、環境温度センサ10が、少なくとも1箇所は分析装置内部に含まれ、かつ分析装置の外装から熱を伝達する熱伝達媒体を介して環境センサ10に熱が伝達可能な長さLの経路を有し、かつ長さLが、α [mm
2/s]を熱伝達媒質の熱拡散率とし、λ [W/(m・K)]を熱伝達媒質の熱伝導率とし、Cp [J/(kg・K)]を熱伝達媒質の定圧比熱とし、ρ[kg/m
3]を熱伝達媒質の密度とし、t
mes [s]は試料を分析するために必要な時間とした場合、下記(数式1)で表される熱拡散距離L
D以下である、構成を採る。
【0080】
【0081】
また、本実施の形態の温調システムは、試料分析時にはピペットチップ51を昇降させる駆動部54によりピペットチップ51が降下し、ピペットチップ温調部7が温調を行った状態でポンプ53が吸入と排出とを繰り返す吸排を行い、試料分析前における環境温度センサ10の測定値及び分析試薬情報に基づいて、試料分析時におけるピペットチップ温調部7の温度制御目標値を予め変更(設定)する、構成を採る。
【0082】
このように構成することで、分析装置外部の温度が分析装置内部の温度に与える影響を試料分析時間と比較して早く検知でき、環境温度が分析前に変化した場合においても分析時間内における温度制御の安定性を向上できる。
【0083】
熱を伝達する媒体の(数式1)に示すパラメータ例を表1に示す。例えば、分析装置の外装から熱を伝達する熱伝達媒体が空気の場合は、分析時間tmes = 600 [s]とした場合に熱拡散長が73 [mm]であるので、分析装置の外装から温度センサまでの距離が73 mm以下の場所に、少なくとも1箇所環境温度センサ10を設けることが望ましい。同様に、分析装置の外装から熱を伝達する熱伝達媒体としてプラスチック(エポキシ樹脂)を考え、プラスチック(エポキシ樹脂)に温度センサが封入された形で、装置外装から温度センサが装置内部に向かって設置されている場合には、装置外装から温度センサまでの距離が6 [mm]以下の場所に、少なくとも1箇所環境温度センサ10を設けることが望ましい。また、金属(工業用アルミニウム)にセンサが接触するようにして装置外装から装置内部に向かって設置されている場合には、装置外装から温度センサまでの距離が147 [mm]以下の場所に、少なくとも1箇所環境温度センサ10を設けることが望ましい。
【0084】
なお、表1では代表として300 Kにおける物理特性を計算しているが、装置の使われる環境温度に応じて物理パラメータを切り替えることが望ましい。例えば装置が323 Kで使われる場合においては323 Kにおける物理パラメータを採用することが望ましい。このようにすることで、環境温度に適した物理パラメータによって熱拡散距離を計算することにより、環境温度センサ10の環境温度変化に対する応答性を試料分析時間と比較して速く設定でき、温度制御の安定性を向上できる。
【0085】
【0086】
分析装置の外部の温度を感知することを目的とした環境温度センサ10を設ける場合には、少なくとも1箇所以上設けることが望ましい。より望ましくは分析装置の内部かつ装置の外装近くにおいて、少なくとも6点以上設けることが望ましい。これは、空間座標系が(x, y, z)の3次元であり、{+x, -x, +y, -y, +z, -z}の6点の空間温度を測定することに相当する。そして、前記6点の環境温度センサ10は、全てにおいて(数式1)で装置内部に含まれかつ装置外装から熱を伝達する熱伝達媒体を介してセンサに熱が伝達可能な長さLの経路を有し、かつ長さLが、α [mm2/s]を熱伝達媒質の熱拡散率とし、λ [W/(m・K)]を熱伝達媒質の熱伝導率とし、Cp [J/(kg・K)]を熱伝達媒質の定圧比熱とし、ρ[kg/m3]を熱伝達媒質の密度とし、tmes [s]は試料を分析するために必要な時間とした場合、(数式1)で表される熱拡散距離LD以下である、ことが望ましい。
【0087】
このように構成することで、分析装置の周囲の環境温度を正確に測定することが可能であることに加えて、環境温度センサ10を装置内部に設けることで、分析装置の周辺の風速が変化することによる温度測定誤差を低減でき、さらに加えて、装置内部の空間温度分布も考慮した、装置内部平均温度測定が可能になり、温度制御性の向上を行うことができる。
【0088】
また、環境温度センサ10としては、さらに第2の環境温度センサを、ピペットチップ温調部7の発熱源又は吸熱源の近くに設置することが望ましい。
【0089】
より具体的には、第2の環境温度センサは、ピペットチップ温調部7の発熱又は吸熱源から、第2の熱伝達媒質を介して熱的に接続されており、装置内部に含まれかつピペットチップ温調部7の発熱又は吸熱源から熱を伝達する第2の熱伝達媒体を介してセンサに熱が伝達可能な長さL2の経路を有し、かつ長さL2が、α2 [mm2/s]を第2の熱伝達媒質の熱拡散率とし、λ2 [W/(m・K)]を第2の熱伝達媒質の熱伝導率とし、Cp2[J/(kg・K)]を第2の熱伝達媒質の定圧比熱とし、ρ2 [kg/m3]を第2の熱伝達媒質の密度とし、tmes [s]は試料を分析するために必要な時間とした場合、下記(数式2)で表される熱拡散距離LD2以下である、ように構成されることが望ましい。
【0090】
【0091】
このように構成することにより、ピペットチップ温調部7で発熱又は吸熱した熱による温度変化が庫内環境に与える影響を試料分析時間と比較して早く検知でき、環境温度が分析前に変化した場合においても分析時間内における温度制御の安定性を向上できる。
【0092】
なお、熱拡散距離LD2は、熱拡散長LD1と同様に計算され、表1に示した値を有する。従って、第2の環境温度センサは、ピペットチップ温調部7の発熱又は吸熱源から、第2の熱伝達媒質として空気を介して熱的に接続されておりかつ、分析時間tmes = 600 [s]とした場合に熱拡散長が73 [mm]であるので、ピペットチップ温調部7の発熱又は吸熱源から第2の環境温度センサまでの距離が73 mm以下の場所に、第2の環境温度センサを設けることが望ましい。同様にプラスチック(エポキシ樹脂)に温度センサが封入された形でピペットチップ温調部7の発熱又は吸熱源から第2の熱伝達媒質としてのプラスチックを介して第2の環境温度センサが設置されている場合には、ピペットチップ温調部7の発熱又は吸熱源から第2の環境温度センサまでの距離が6 [mm]以下の場所に、第2の環境温度センサを設けることが望ましい。また、金属(工業用アルミニウム)にセンサが接触するようにしてピペットチップ温調部7の発熱又は吸熱源から第2の熱伝達媒質として金属(工業用アルミニウム)を介して第2の環境温度センサが設置されている場合には、ピペットチップ温調部7の発熱又は吸熱源から第2の環境温度センサまでの距離が147 [mm]以下の場所に、第2の環境温度センサ2を設けることが望ましい。
【0093】
なお、表1では代表として300 Kにおける物理特性を計算しているが、装置内部の想定されうる平均装置内部温度に応じて物理パラメータを切り替えることが望ましい。例えば装置内部の想定されうる平均装置内部温度が330 Kで使われる場合においては330 Kにおける物理パラメータを採用することが望ましい。このようにすることで、装置内部の想定されうる平均装置内部温度に適した物理パラメータによって熱拡散距離を計算することにより、第2の環境温度センサの装置内部温度変化に対する応答性を試料分析時間と比較して速く設定でき、温度制御の安定性を向上できる。
【0094】
以下では、(数式1)及び(数式2)に示した熱拡散長の意味について説明する。熱伝達に関する基礎方程式は、例えば非特許文献1に示されるように、
【数3】
と表される。ここでTは温度であり、tは時刻、(x, y, z)は空間座標を表す。またαは(数式1)に表す記号αと同じく熱拡散率である。熱拡散率は物質内で温度変化が伝わる速さを表すパラメータであり、αが大きいほど温度変化が速い。
【0095】
ここで1次元x方向のみの熱伝導を考えた場合に(数式3)はy方向とz方向の空間微分が0であることを考慮して、
【数4】
と変形される。初期条件として原点のごく微小幅に初期温度T
oからδ関数的に温度変化を与えた場合の厳密解は、
【数5】
で与えられる。
【0096】
(数式5)が(数式4)に示す偏微分方程式の解であることは代入することで確認される。ここでΔtはδ関数的に温度変化を与えた微小な時間であり(例えば、分析時間t
mes =
600 [s]とした場合に、 6 [s] より望ましくは0.6 [s]など分析時間の1/100よりも十分小さな微小量)、T
Δtは時刻Δtにおける原点のT
oに対する温度変化量である。(数式5)より、任意時刻における温度分布の半値幅L
1/2は、
【数6】
と計算される。t = t
mes/10とおけば、これは(数式1)に一致する。すなわち、(数式1)に定義した熱拡散長は初期に与えた温度変化が、分析時間の1/10の間に到達する距離を表す。この熱拡散長より短い距離に環境温度センサ10を配置することにより、温度変化を分析時間と比較して充分早い時刻で検知することができ、温度制御の安定性を向上することが可能になる。
【0097】
また、環境温度センサ10については、反応容器3の温度を制御する反応容器温調部8を有する場合には、さらに第3の環境温度センサを反応容器温調部8の発熱源又は吸熱源の近くに設置することが望ましい。
【0098】
より具体的には、第3の環境温度センサは、反応容器温調部8の発熱又は吸熱源から、第3の熱伝達媒質を介して熱的に接続されており、装置内部に含まれかつ反応容器温調部8の発熱又は吸熱源から熱を伝達する第3の熱伝達媒体を介してセンサに熱が伝達可能な長さL3の経路を有し、かつ長さL3が、α3 [mm2/s]を第3の熱伝達媒質の熱拡散率とし、λ3 [W/(m・K)]を第3の熱伝達媒質の熱伝導率とし、Cp3[J/(kg・K)]を第3の熱伝達媒質の定圧比熱とし、ρ3[kg/m3]を第3の熱伝達媒質の密度とし、tmes [s]は試料を分析するために必要な時間とした場合、下記(数式7)で表される熱拡散距離LD3以下である、ように構成されることが望ましい。
【0099】
【0100】
このように構成することにより、反応容器温調部8で発熱又は吸熱した熱による温度変化が庫内環境に与える影響を試料分析時間と比較して早く検知でき、環境温度が分析前に変化した場合においても分析時間内における温度制御の安定性を向上できる。
【0101】
なお、熱拡散距離LD3は、熱拡散長LD1と同様に計算され、表1に示した値を有する。従って、第3の環境温度センサは、反応容器温調部8の発熱又は吸熱源から、第3の熱伝達媒質として空気を介して熱的に接続されておりかつ、分析時間tmes = 600 [s]とした場合に熱拡散長が73 [mm]であるので、反応容器温調部8の発熱又は吸熱源から第3の環境温度センサまでの距離が73 mm以下の場所に、第3の環境温度センサを設けることが望ましい。同様にプラスチック(エポキシ樹脂)に温度センサが封入された形で反応容器温調部8の発熱又は吸熱源から第3の熱伝達媒質としてのプラスチック(エポキシ樹脂)を介して第3の環境温度センサが設置されている場合には、反応容器温調部8の発熱又は吸熱源から第3の環境温度センサまでの距離が6 [mm]以下の場所に、第3の環境温度センサを設けることが望ましい。また、金属(工業用アルミニウム)にセンサが接触するようにして反応容器温調部8の発熱又は吸熱源から第3の熱伝達媒質としての金属(工業アルミニウム)を介して第3の環境温度センサが設置されている場合には、反応容器温調部8の発熱又は吸熱源から第3の環境温度センサまでの距離が147 [mm]以下の場所に、第3の環境温度センサを設けることが望ましい。
【0102】
なお、表1では代表として300 Kにおける物理特性を計算しているが、装置内部の想定されうる平均装置内部温度に応じて物理パラメータを切り替えることが望ましい。例えば装置内部の想定されうる平均装置内部温度が330 Kで使われる場合においては330 Kにおける物理パラメータを採用することが望ましい。このようにすることで、装置内部の想定されうる平均装置内部温度に適した物理パラメータによって熱拡散距離を計算することにより、第3の環境温度センサの装置内部温度変化に対する応答性を試料分析時間と比較して速く設定でき、温度制御の安定性を向上できる。
【0103】
さらに、第3の環境温度センサは、ピペットチップ温調部7から熱的に離れた位置に配置されることが望ましい。より具体的には、第3の環境温度センサは、ピペットチップ温調部7の発熱又は吸熱源から、第4の熱伝達媒質を介して熱的に離されており、装置内部に含まれかつピペットチップ温調部7の発熱又は吸熱源から熱を伝達する第4の熱伝達媒体を介してセンサに熱が伝達可能な長さL4の経路を有し、かつ長さL4が、α4 [mm2/s]を第4の熱伝達媒質の熱拡散率とし、λ4[W/(m・K)]を第4の熱伝達媒質の熱伝導率とし、C
p4[J/(kg・K)]を第4の熱伝達媒質の定圧比熱とし、ρ4[kg/m3]を第4の熱伝達媒質の密度とし、tmes [s]は試料を分析するために必要な時間とした場合、下記(数式8)で表される熱拡散距離LD4以上である、ように構成されることが望ましい。
【0104】
【0105】
なお(数式8)における不等号の向きが(数式7)の不等号の向きと逆なことに注意しておく。このように構成することにより、ピペットチップ温調部7で発熱又は吸熱した熱による温度変化が、第4の環境温度センサの測定値に与える影響を測定時間と比較して十分遅くすることができ、ピペットチップ温調部7の発熱又は吸熱源から熱的に離すことができ、第4の環境温度センサの測定精度を向上することで、反応容器温度制御性を向上することが可能になる。
【0106】
<5>第5の実施の形態
本実施の形態では、本発明を実施する上で望ましい制御フローを提示する。本実施の形態では、実施の形態3で説明した分析装置1C(
図7)の制御フローについて説明する。
【0107】
本実施の形態の温調システム1Cは、ピペットノズル52及び反応容器3を用い試料を分析する分析装置1Cに適用される温調システムであって、ピペットチップ51を昇降させる駆動部54と、ピペットチップ51の温度制御を行うピペットチップ温調部7と、分析装置1Cの少なくとも内部の環境温度を検知する環境温度センサ10と、液体をピペットチップ51に吸入し、かつピペットチップ51内の液体を排出するためのポンプ53と、環境温度センサ10により検知された環境温度に基づいて、試料分析時におけるピペットチップ温調部7の温度制御目標値を予め設定する温度制御部6aと、を備える。また分析装置1Cは、試料分析時には、駆動部54によりピペットチップ51を降下させ、ピペットチップ温調部7が温調を行った状態でポンプ53が前記吸入と前記排出とを繰り返す吸排を行い、測定の工程に、ピペット温調部7の温度制御目標値を初期温度に設定する初期温調工程と、試薬情報読み取り工程と、試薬情報と環境温度センサ10の情報を基に温調目標値を算出する温調目標値算出工程と、温調目標値算出工程で算出された温度に温度制御目標値を変更する温度制御目標値変更工程と、変更された温度制御目標値に基づいて温調を開始する第1温調工程と、試料を分析する工程と、試料分析後に温度制御目標値を初期温度に設定する初期温調復帰工程と、をこの順番で含むことによって、試料分析前における環境温度センサ10の測定値及び分析試薬情報に基づいて、試料分析時におけるピペットチップ温調部7の温度制御目標値を予め変更(設定)する。
【0108】
このような構成にすることで、試料分析工程における反応温度を、試薬の種類や装置内外の環境温度に応じて制御することが可能となり、この結果、試料分析工程の温度制御安定性が向上し、分析誤差を低減することが可能になる。
【0109】
以下では、
図7及び
図8を用いて、本実施の形態の制御フローについて詳しく説明する。
【0110】
ここで、本発明は、ごく微小な物質の検出を行うために有用な、免疫測定法(イムノアッセイ)に適用されることが望ましい。免疫測定法は、試料液に含まれる測定対象物質である光源と、標識物質で標識された光源との抗原抗体反応を利用して、測定対象物質の有無やその量を測定する方法である。
【0111】
免疫測定法には、標識物質として酵素を用いた酵素免疫測定法(EIA)や、標識物質として蛍光物質を用いた蛍光免疫測定法(FIA)などがある。例えば、蛍光免疫測定法を利用した検体検出装置としては、ナノメートルレベルの微細領域中で電子と光が共鳴することにより、高い光出力を得る現象(表面プラズモン共鳴, SPR: Surface Plasmon Resonance)を応用し、例えば生体内のごく微小なアナライトの検出を行うようにした表面プラズモン共鳴装置(SPR装置)が挙げられる。SPR装置は、測定のための光学プリズムの屈折率温度依存性があるために、測定結果の温度ばらつきを低減できる効果が期待される測定方法である。
【0112】
また、表面プラズモン共鳴(SPR)現象を応用した、表面プラズモン励起増強蛍光分光法(SPFS: Surface Plasmon-field Fluorescence Spectroscopy)の原理に基づき、SPR装置よりもさらに高精度にアナライト検出を行えるようにした表面プラズモン励起増強蛍光分光測定装置(SPFS装置)は、反応性に温度依存性があるため、より反応安定性を向上させることができる免疫測定法として挙げられる。
【0113】
表面プラズモン励起増強蛍光分光法(SPFS)は、光源より照射したレーザ光などの励起光が金属膜表面で全反射減衰(ATR: Attenuated Total Reflectance)する条件において、金属膜表面に表面プラズモン光(電子と光子の結合した粗密波の量子状態)を発生することによって、光源より照射した励起光が有するフォトン量を数十倍から数百倍に増やして、表面プラズモンの電場増強効果を得るようになっている。
【0114】
このようなSPFS装置では、誘電体部材と、誘電体部材の上面に隣接する金属膜と、金属膜の乗面に配置される液保持部材とを備えるセンサチップが用いられる。このようなセンサチップでは、金属膜上に、アナライトを捕捉するためのリガンドを有する反応部が設けられている。液保持部材に、アナライトを含む試料液を供給することにより、アナライトがリガンドに捕捉される(1次反応)。この状態で、蛍光物質で標識された2次抗体を含む液体(標識液)を液保持部材に導入する。液保持部材内では、抗原抗体反応(2次反応)によって、リガンドに捕捉されているアナライトが蛍光物質で標識される。
【0115】
この状態で、誘電体部材を介して表面プラズモン共鳴が生じる角度で励起光を金属膜に照射すると、金属膜表面に発生した表面プラズモン光により蛍光物質が励起され、蛍光物質から蛍光が生じる。この蛍光を検出することにより、アナライトの有無やその量を測定することができる。
【0116】
ところで、1次反応や2次反応などの免疫反応の反応性は、一般的に、反応場の温度に依存して変化する。通常、SPFS装置を用いた検体検査は、SPFS装置を室温に設置して行われるが、免疫反応の促進や、反応効率の安定化の観点から、反応場を所定温度に制御することが求められている。このため、本発明をSPFS装置に適用することで、反応場の温度制御性を向上でき、SPFS装置の分析精度の安定性を向上することが可能になる。
【0117】
SPFS装置を含む免疫反応と蛍光分析を利用した分析装置に本発明を適用する上で、さらに望ましい構成について説明する。蛍光分析を利用した分析装置に本発明を適用する場合には、試料を分析する工程に、検体送液工程、第1往復送液工程、蛍光標識工程、第2往復送液工程を順に含み、前記工程の間に、本発明の方法によってピペットチップ51の温度制御を行うピペットチップ温調部7の温度を制御する第2温調工程(
図8のS10)を含み、かつ第2温調工程において温度制御目標値が一定に保たれることが望ましい。
【0118】
このような構成をとることによって、SPFS装置を含む蛍光分析を利用した分析装置における、1次反応や2次反応などの免疫反応の反応性の温度安定性を向上できることに加えて、光学部材の熱膨張の影響によって光学測定の安定性が損なわれる影響を抑えて、蛍光測定時の測定安定性を向上することができる。
【0119】
次に、
図8を用いて、本実施の形態の制御フローについて詳しく説明する。
1.初期温調工程(S1)
装置が分析をしていない間は、初期温調工程(S1)が継続する。初期温調工程(S1)においては、ピペットチップ温調部7の温度制御目標値が初期温度に設定され続けている。SPFS装置を含む免疫反応と蛍光分析を利用した分析装置に本発明を適用する上では、特に、初期温度を人間の平熱時体温近くの温度に設定することが望ましい。より具体的に、望ましくは初期温度37℃±2.0℃、より望ましくは37℃±1.0℃、さらに望ましくは37℃±0.5℃に設定されることが望ましい。このように構成することで、免疫反応を起こすために最適な温度の近くに初期温度を設定できる。
【0120】
ピペットチップ温調部7に加えて反応容器3の温度を制御する反応容器温調部8を有する場合には、反応容器温調部8の制御目標温度が、ピペットチップ温調部7の設定温度よりも低く設定されることが望ましい。このように設定することで、反応容器温調部8がピペットチップ温調部7に与える外乱を抑制でき、反応温度の制御安定性を向上できる。
【0121】
なお、初期温調工程(S1)における制御目標値は、分析装置の少なくとも内部の温度(さらには外部の温度を加えてもよい)を検知する環境温度センサ10の測定値に基づいて、更新されることが望ましく、更新のタイミングは試料分析直後であることが望ましい。このように構成することで、装置内外の環境温度が変化した場合において、装置内外の温度変化が反応容器温度に与える影響を抑制することが可能になる。
【0122】
また、分析装置が分析をしていない時間が継続する場合においては、測定時間間隔で制御目標値を更新することが望ましい。このような制御を行うことで、測定を行わないで待機している状態においても装置内外の温度変化が反応容器温度に与える影響を抑制することが可能になることに加えて、制御目標値が測定時間に対して短い時間で変化すると温度制御が不安定になる問題を抑制でき、温度安定性を向上できる。
【0123】
また、温度制御系はPID制御系を含むことが望ましく、この場合に積分成分の時定数はt
mes[s]は試料を分析するために必要な時間とした場合において、tmes/100以上であることが望ましい。このように構成することで、温度制御系が測定時間に対して速い速度で変動する効果を抑制し、温度安定性を向上できる。
【0124】
また、温度制御系がデジタル制御系の場合においては、温度センサのアナログ値をデジタル値に変換する前にアナログ低域フィルタを追加することが望ましく、低域フィルタの遮断周波数は、100/tmes以下であることが望ましい。このような構成にすることで、デジタル制御系が発振して不安定になる現象であるリミットサイクルを抑制でき温度制御の安定性を向上できる。
【0125】
また、PIDデジタル制御系においては積分成分の時定数がtmes/100以上であり、かつ温度センサのアナログ値をデジタル値に変換する前にアナログ低域フィルタが存在し、低域フィルタの遮断周波数は、100/tmes以下であり、かつステップ応答に対して行きすぎ量が発生しないように制御系のパラメータを設定することが望ましい。このように構成することで、測定時間より速い周波数の外乱に温度制御系が敏感に反応して、温度制御系が不安定になる問題を抑制でき、測定時間内の温度制御安定性を向上することが可能になる。
【0126】
ピペットチップ温調部7に加えて反応容器3の温度を制御する反応容器温調部8を有する場合において、望ましい温度制御目標値と、環境温度センサ10との関係について以下で説明する。
【0127】
まず、環境温度センサ10の少なくとも1箇所は分析装置の内部に含まれかつ装置外装から熱を伝達する熱伝達媒体を介してセンサに熱が伝達可能な長さLの経路を有し、かつ長さLが、α [mm2/s]を熱伝達媒質の熱拡散率とし、λ [W/(m・K)]を熱伝達媒質の熱伝導率とし、Cp [J/(kg・K)]を熱伝達媒質の定圧比熱とし、ρ[kg/m3]を熱伝達媒質の密度とし、tmes [s]は試料を分析するために必要な時間とした場合、前記(数式1)で表される熱拡散距離LD以下である、場合においては表2に示す温度制御テーブルを用いて、温度制御目標値を設定することが望ましい。ここで、装置内部の平均温度については、環境温度センサ10の測定値を用いることとする。
【0128】
このように制御することによって、外部環境温度が変化した場合おいても反応温度を一定に制御することができ、外部温度変化に対する分析装置の測定値変化を抑制することで、測定値の高精度化に寄与する。
【0129】
【0130】
以下では表2に示した温度制御テーブルの決定方法について説明する。
温度制御目標値の下限値T
set_min[℃]は、装置が使用される外部環境の最大温度T
env_m
ax [℃]と分析装置消費電力P [W]と、装置が外部環境と熱交換を行うための装置の空調ファン93(
図1、
図6、
図7)の総換気体積風量 V [m
3/s]を用いて(数式9)のように計算すると良い。ここで、T
int_max [℃] は分析装置の内部の平均温度の最大値である。また、T
offset [℃」は、温度制御の余裕のためのマージン幅であり、望ましくは1 [℃]以上、より望ましくは2 [℃]以上、さらに望ましくは10 [℃]以上が設定される。また、ρ
Air [kg/m3]は空気の密度、C
p_Air[J/(kg・K)]は空気の定圧比熱である。(数式9)は発熱と換気による装置内部のエネルギー保存則から導出される。
【0131】
【0132】
例えば、分析装置1Cの装置ファン総面積が 16 [cm2]であり、どのファンも風速が 10
[m/s]のものを用いた場合には、体積風量 V = 0.016 [m3/s]となり、表1に示した空気の物理定数を用いて計算するとTset_min = 37.0 [℃]と計算される。ここでTenv_max= 30℃、Toffset = 1.2℃、分析装置消費電力P = 110 [W]とした。
【0133】
一方で、分析装置が使用される外部環境の最小温度をT
env_,min [℃]と置いた際に、低温環境下における装置内部の平均温度は、
【数10】
で与えられる。例えば、分析装置1Cの装置ファン総面積が 16 [cm
2]であり、いずれのファンも風速が 10 [m/s]のものを用いた場合には、体積風量 V = 0.016 [m
3/s]となり、表1に示した空気の物理定数を用いて計算するとT
int_min = 15.8 [℃]と計算される。ここで、分析装置消費電力はP = 110 [W]とした。
【0134】
また、分析装置1Cにおいて検出工程(S15)における反応場温度に対するピペットチップ温調部7の設定温度の1次偏微分係数(温度係数 [℃/℃])をAPCHとおき、検出工程(S15)における反応場温度に対する内部環境温度の1次偏微分係数(温度係数[℃/℃])をAenvと置く。
【0135】
この場合、装置が使用される外部環境の最大温度の状態と、装置が使用される外部環境の最小温度の場合で、分析装置1Cにおいて検出工程における反応場温度の差を無くす条件は、
【数11】
で与えられる。
【0136】
ここで、ΔT
PCHは、高温環境におけるピペットチップ制御目標値から、低温環境におけるピペット制御目標値を引いた値である。(数式11)を変形することによって、
【数12】
と算出される。
【0137】
例えば、Tenv_max= 30℃、Tenv_min = 10℃、Aenv = 0.06、APCH = 0.40である場合に、
ΔTPCH = -(30 - 10)×0.06 / 0.40 = -3.0 [℃]
と算出される。すなわち低温環境下でのピペットチップ温調部7の設定温度を高温環境下と比較して3 ℃上げればよい。
【0138】
また、外部環境温度がT
env_minからT
env_maxの間の場合に、ピペットチップ温調部7に与える目標温度については(数式11)が線形であることを考慮して直線上に変化させればよい。以上のことを考慮して、表2の設定温度が算出されている。より具体的には装置外部の環境温度をT
envと置き、環境温度センサ10の測定値によって算出される装置内部平均温度をT
intと置いた場合に、
【数13】
としてピペットチップ温調部7の設定温度を決定することが望ましい。(数式12)から分かるように、装置内部の平均温度を用いて装置外部の温度を推定することが可能である。さらに、環境温度センサ10を、装置外部の温度を検知しやすいように構成すれば、(数式12)の推定精度が向上し、反応場温度の制御性を向上することが可能になる。
【0139】
表2に示した温度制御テーブルは上記(数式13)を用いて計算し、0.5未満の値は0.5のステップ幅に合うように規格化した値である。例えば39.25℃は39.0℃に切り下げ、37.75℃は37.5℃に切り下げている。このように、0.5℃幅に合わせるように調整することで、温度制御テーブルの入力ミスを防ぐことができるとともに、デジタル制御系を用いた場合にはデータのビット数を削減することが可能になり、この結果、制御に必要な計算機メモリが削減できる利点があり、温度制御安定に寄与する。
【0140】
このように、温度制御目標値の装置内部への記録方法としては、温度の単位として{2℃, 1℃, 0.5℃, 0.25℃, 0.125℃}などの、1℃に対して2の累乗を乗じるか、あるいは割った数値で規格化されることが望ましく、このように記録することでデジタル制御系に関して2進数との整合性が取りやすくなり、制御に必要な計算機メモリが削減できる利点があり、温度制御安定に寄与する。
【0141】
また、装置仕様外の外部環境温度Tenvが、環境温度センサ測定値Tintから推定される場合には、目標温度を例えば表2に示すように、装置仕様の下限と上限に合わせた制御目標温度設定とするとともに、制御部6に対して温度エラー通知を行うように構成すると良い。このように構成することで、仕様想定外の高温や低温にピペットチップ温調部7を温調することを防止するとともに、仕様想定外の外部環境温度で装置が使用された場合に、測定者に警告を出すことで装置測定値への信頼性に関する情報を測定者に与えることができるようになる。
【0142】
2.検査カートリッジ設置工程(S2)
検査カートリッジ設置工程(S2)においては、測定者又は自動検査カートリッジ設置機構によって、検査カートリッジ2がステージ4に設置される。
【0143】
本発明を実施する上では、検査カートリッジ2が測定前に装置外部環境と同じ温度になるように構成することが望ましい。このように構成することで、環境温度センサ10の測定値によって検査カートリッジ温度を推定することが可能になり、環境温度センサ10の測定値を用いて反応場温度を制御するための、ピペットチップ温調部7及び反応容器温調部8の温度制御目標値を、試料分析前に予め設定することが可能になる。
【0144】
3.分析試薬情報読み取り工程(S3)
検査カートリッジ2には分析試薬情報(図示しない)が含まれる。分析試薬情報は例えば文字列、1次元バーコード、2次元バーコード、半導体メモリ、ホログラムフィルムなどで構成される。文字列で構成した場合には人間が認識しやすいという利点があり、1次元バーコードや2次元バーコードで構成した場合には安価で量産性能に優れ情報量を多くできる利点があり、半導体メモリやホログラムフィルムで構成した場合には情報量を多くできる利点がある。特に人間が認識しやすい文字列情報と装置が認識しやすい2次元バーコードの両方を含むことが望ましく、このように構成することで安定に分析試薬情報を装置が取り込むことができるとともに、分析を行う人間が誤った試薬カートリッジを分析することを防止することができる。
【0145】
分析試薬情報には、試薬の種類の情報が含まれ、装置内部に蓄積された試薬の反応の温度依存性などの情報と照合されるように構成されている。また、分析試薬情報自体に試薬の種類と反応の温度依存性、例えば反応速度定数の温度依存性などを組み込むことが望ましく、そのようにすることで、様々な試薬に柔軟に対応して温度制御できる反応システムを実現できる。
【0146】
また、分析試薬情報に関しては、さらに(数式11)や(数式12)に含まれる、分析装置1Cにおける検出工程(S15)の反応場温度に対するピペットチップ温調部7の設定温度の1次偏微分係数(温度係数 [℃/℃])をAPCHとおき、検出工程(S15)の反応場温度に対する内部環境温度の1次偏微分係数(温度係数[℃/℃])をAenvが含まれることが望ましい。このように構成することで、装置環境温度センサ10によって測定された環境温度を用いて、検出工程(S15)における反応場温度を高精度に制御することが可能になる。
【0147】
また、分析試薬情報に関する情報が試薬番号などの試薬個別化記号として格納されている場合には、装置がインターネットなどの情報ネットワークを介して分析試薬の追加分析試薬情報を取得できるように構成されることが望ましく、情報ネットワークを介して分析装置1Cにおける検出工程(S15)の反応場温度に対するピペットチップ温調部7の設定温度の1次偏微分係数(温度係数 [℃/℃])をAPCHとおき、検出工程(S15)の反応場温度に対する内部環境温度の1次偏微分係数(温度係数[℃/℃])をAenvが追加分析試薬情報として入手可能に構成されることが望ましい。このように構成することで、環境温度センサ10によって測定された環境温度を用いて、検出工程(S15)における反応場温度を高精度に制御することが可能になる。
【0148】
同様に、予め装置に試薬個別化記号と検出工程(S15)における反応場温度に対するピペットチップ温調部7の設定温度の1次偏微分係数(温度係数 [℃/℃])をAPCHと検出工程(S15)における反応場温度に対する内部環境温度の1次偏微分係数(温度係数[℃/℃])をAenvが追加分析試薬として記憶されるように構成されることでも同様の効果が得られ、このように構成することで、環境温度センサ10によって測定された環境温度を用いて、検出工程(S15)における反応場温度を高精度に制御することが可能になる。
【0149】
なお、試薬個別化記号と、1次偏微分係数(温度係数)についてはここに記述した情報のみならず、複数の環境温度センサと複数の温調部の制御目標値を入力として複数の反応工程の反応場温度を出力とする、多次元温度係数を入手及び記憶可能に装置を構成することが望ましい。このように構成することで、複数の環境温度センサの測定値と試薬情報を基元に、複数の温調部を制御することで、複数の反応工程を高精度に制御可能に構成できる。
【0150】
4.温調目標値算出工程(S4)
温調目標値算出工程(S4)においては、試薬情報と環境温度センサ10の情報を基に温調目標値を算出する。
【0151】
温調目標算出工程(S4)においては、少なくとも1か所以上の分析装置の内部温度を検知する(さらには外部温度も検知してもよい)環境温度センサ10と、分析試薬情報とに基づいて、ピペットチップ温調部7の温度目標値を分析前に算出する。温度目標値については、「1.初期温調工程(S1)」の表2や(数式13)に示した制御目標値を用いることが望ましく、このように算出することでどのような外部環境温度であっても、検出工程(S15)における反応場温度を高精度に制御することが可能になる。
【0152】
5.温度制御目標値変更工程(S5)
温度制御目標値変更工程(S5)においては、温調目標値算出工程(S4)で算出された温度に温度制御目標値を変更する。
【0153】
6.第1温調工程(S6)
第1温調工程(S6)においては、変更された温度制御目標値に基づいて温調を開始する。
【0154】
7.試料を分析する工程(S10-S15)
試料を分析する工程(S10-S15)においては、検査カートリッジ2に含まれる分析試料と検査カートリッジ2に含まれる分析試薬とを用いて、反応容器3内部で反応を起こした後に、検出を行い、出力信号を測定することによって試料を分析する。より具体的には、本発明は、ごく微小な物質の検出を行うために有用な、免疫測定法(イムノアッセイ)に適用されることが望ましい。免疫測定法は試料液に含まれる測定対象物質である光源と、標識物質で標識された光源との抗原抗体反応を利用して、測定対象物質の有無やその量を測定する方法である。
【0155】
8.初期温調復帰工程(S20)
初期温調復帰工程(S20)は、試料分析後に温度制御目標値を初期温度に設定する工程である。より具体的には「1.初期温調工程(S1)」と同じ工程を用いることが望ましい。このように構成することで、繰り返し測定を行った後でも、測定前には装置内部の温調部の温度制御目標値が同じ値に設定され、装置内部温度環境を安定化することが可能になる。
【0156】
<6>第6の実施の形態
本実施の形態では、反応容器3の温度を制御する反応容器温調部8を有する場合の望ましい構成を提示する。以下、
図6及び
図7を参照して具体的に説明する。
【0157】
本実施の形態の温調システムは、ピペットチップ51及び反応容器3を用い試料を分析する分析装置に適用される温調システムであって、ピペットチップ51を昇降させる駆動部54と、ピペットチップ51に対する温調を行うピペットチップ温調部7と、分析装置の少なくとも内部の環境温度を検知する(さらに分析装置の外部の環境温度を検知してもよい)環境温度センサ10と、液体をピペットチップ51に吸入し、かつピペットチップ51内の液体を排出するためのポンプ53と、を有する。さらに本実施の形態の温調システムは、試料分析時には駆動部54によりピペットチップ51を降下させ、ピペットチップ温調部7が温調を行った状態でポンプ53が前記吸入と前記排出とを繰り返す吸排を行い、試料分析前における環境温度センサ10の測定値及び分析試薬情報に基づいて、試料分析時におけるピペットチップ温調部7の温度制御目標値を予め変更(設定)する。さらに、本実施の形態の温調システムは、反応容器3の温度を制御する反応容器温調部8を有し、反応容器温調部8の制御目標温度が、ピペットチップ温調部7の設定温度よりも低く設定される。
【0158】
このように構成することで、所望の反応時間内に反応温度を目標温度に制御でき、分析試薬情報に基づいて事前に制御を調整することで制御安定性を向上できるとともに、反応容器温調部8がピペットチップ温調部7に与える外乱を抑制でき、反応温度の制御安定性を向上できる。
【0159】
以下では、本実施の形態をさらに詳しく説明する。
【0160】
ピペットチップ温調部7の制御目標温度については、第5の実施の形態で説明した制御目標値を用いて制御することが望ましい。
【0161】
また、反応容器温調部8の制御目標温度については、第5の実施の形態で説明したピペットチップ温調部7の制御目標温度の中で、装置使用環境下における、ピペットチップ温調部7の制御目標温度の最小値を用いることが望ましい。
【0162】
反応容器温調部8を有する場合の温度制御テーブルの好ましい具体例を表3に示す。このように、反応容器温調部8の制御目標値は全ての環境で一定であり、ピペットチップ温調部7の制御目標温度の最小値に指定される。
【0163】
【0164】
反応容器温調部8の制御目標温度が、ピペットチップ温調部7の設定温度よりも高く設定された場合を考えると、ステージ温調用ヒータ81によって加熱された空気を、ピペットチップ温調部7で冷却機構により冷却する必要があるが、冷却のためのヒートパイプや放熱構造を含めるとピペットチップ温調部7が複雑化したり大型化したりしてしまい、製造コストやばらつきが増加してしまう問題がある。
【0165】
一方、本実施の形態のように、反応容器温調部8の制御目標温度が、ピペットチップ温調部7の設定温度よりも低く設定された場合を考えると、ピペットチップ温調部7の構造はヒータによる加熱源のみで構成できるためピペットチップ温調部7の構成を単純化でき、部品点数を削減し製造コストや製造ばらつきを低減できる利点がある。また、一度ステージ温調用ヒータ81によって加熱した空気をピペットチップ温調部7で冷却する必要がなくなるため、ピペットチップ温調部7と反応容器温調部8の総消費電力を低減するとともに制御安定性を向上できる利点がある。
【0166】
また、温度制御テーブルについてはすべての温度領域について線形に変化させるよりは、典型的な装置外部平均温度(例えば23℃)を基準に、典型的な装置外部平均温度より装置外部平均温度が低いときのみ、ピペットチップ温度制御目標値を高くするような制御を行い、かつ温度制御の勾配をこれまで算出した目標値よりも強く補正しておくことが望ましい。このような目標値の設定を行うことで、典型的な装置外部平均温度(例えば23℃)を基準に反応場温度が二次の曲率を持つように制御でき、温度制御の安定性を向上できるようになる。
【0167】
具体的な例を以下の計算で示す。例えば、分析装置1Cの装置ファン総面積が 16 [cm2]であり、どのファンも風速が 10 [m/s]のものを用いた場合には、体積風量 V = 0.016 [m3/s]となり、表1に示した空気の物理定数を用いて計算するとTset_min = 37.0 [℃]と計算される。ここでTenv_max= 30℃、Toffset = 2.0℃、分析装置消費電力P = 95 [W]とした。また、Tenv_max = 30℃、Tenv_min = 10℃、Aenv = 0.06、APCH = 0.40である場合に、
ΔTPCH = -(30 - 10)×0.06 / 0.40 = -3.0 [℃]
と算出される。すなわち低温環境下でのピペットチップ温調部7の設定温度を高温環境下と比較して3 ℃上げればよい。ここで、Toffsetを2.0℃とすることで、表2に示した例よりもより装置内部温度に対する余裕を略2倍大きくでき、より温度を安定に制御することが可能になる。さらに、低温環境化で強めの制御を掛けるために、一定の安全率を掛けて制御温度をさらに高めにする。ここでは安全率として1.5を掛け、3×1.5 = 4.5℃高めに制御することとする。
【0168】
また、典型的な装置外部平均温度は23℃とし、装置内部に設けた環境温度センサによって計算された装置外部平均温度が典型的な装置外部平均温度を超える場合は、ピペットチップヒータの温調温度は、T
set_minで変更しないものとする。この結果、表4の制御テーブルを得る。
【表4】
【0169】
このように制御することで、反応場温度制御の装置外部平均温度に対するロバスト性を向上することができる。なお制御を強めにかける安全率は1.1以上であることが望ましく、2.0未満であることが望ましい。より望ましくは1.5に設定することであり、このようにすることで、典型的な温度を中心にして反応場温度の二次の曲率が制御目標温度をよぎるように設定でき、温度制御の装置外部温度変化にたいするロバストネスを向上できる。
【0170】
また、これまでは制御テーブルを用いて離散的に温度を制御する方法を説明してきたが、これまで説明してきた数式(1)~(13)と安全係数の考え方を用いて環境温度センサの測定値に対して、制御目標値を連続的に変化させることが望ましい。このようにすることで、制御テーブルにおける制御の切り替え温度において温度制御の安定性をより向上することが可能になる。
【0171】
<7>第7の実施の形態
本実施の形態では、ピペットチップ温調部7の温度特性と制御方法の関係について、本発明を実施する上で望ましい態様を提示する。
【0172】
1.送風以外のピペットチップ温調部の構成
本発明を実施する上では、
図9や
図10に示すように、ピペットチップ温調部7をブロックヒータによって構成することが望ましい。このように構成することで、温度目標値を設定した後にピペットチップ51の温度が定常値に落ち着くまでの時間を短くでき、本発明の効果をより高める効果が得られる。
【0173】
以下では、
図9及び
図10に構成について詳述する。
図9に示したピペットチップ温調部は、ピペットチップ51の温度を制御するヒートブロックであるピペットチップヒートブロック7aに貫通孔が形成されており、この貫通孔にピペットチップ51が挿入されるように構成されている。また、ピペットチップ51はポンプ53のピペットチップ取り付け基部53aに取り付けされている。また、ピペットチップ51の、反応容器3の液体吐出吸引部に液体を吐出又は吸引するための部分のみは、ピペットチップヒートブロック7aから露出するように構成される。
【0174】
ピペットチップ51の露出した先端部の長さをL1、反応容器3の液体吐出吸引部の空間深さをL2とした場合、L1≧L2となるように構成されている。ここで、L1とL2は略同じ長さであることが望ましい。このように構成することで、反応容器3との送液性能を確保しつつ、ピペットチップヒートブロック7aとピペットチップ51が重なる部分の面積を最大化することでピペットチップヒートブロック7aとピペットチップ51の熱抵抗を最小化でき、ピペットチップ温調部7の温度制御性を向上することが可能になる。
【0175】
図10に示したピペットチップ温調部は、断面コの字状のピペットチップヒートブロック7bがピペットチップ51の長さ方向に沿ってピペットチップ51を囲うようにピペットチップ51から離間して設けられている。換言すれば、ピペットチップヒートブロック7bは、断面が矩形で筒状のヒートブロックの一側壁を切り欠いて開放(開口)させた形状を呈している。なお、その他の部分については、
図9と同様なので説明を省略する。
【0176】
ここで、血液などの検体を試料として分析する分析装置においては、検体汚染(検体のコンタミネーション)を防止するために検査毎に新品のピペットチップに交換するか、ピペットチップを洗浄する必要がある。そのため、1回の検査の過程で、ピペットチップの取り付け・取り外し動作又はヒートブロックから洗浄槽への移動動作、が必ず生じる。
図10に示した構成は、
図9に示した構成の利点に加え、装置内部においてピペットチップ51の取り付けや取り外し、ピペットチップ51の移動が容易になるという利点を有し、作業性が向上して検査時間が短縮されスループットを向上できる効果がある。
【0177】
さらに、
図10に示した構成によれば、ピペットチップ51内の液の挙動を観察することが可能になり、例えば、ポンプ53などが故障した場合に問題の発生をいち早く察知することができるようになり、不適切な送液による生体反応が行われて、正しい検査結果が得られていない可能性があることを知ることができる。
【0178】
2.ピペットチップの構成と部材
以下では、本発明を実施する上で望ましいピペットチップ51の構成について説明する。
【0179】
本発明を実施する上では、ピペットチップ51を1回毎の使い捨ての樹脂ピペットチップ、又は複数回測定可能な金属ピペットチップで構成することが望ましい。
【0180】
ピペットチップ51を1回毎の使い捨ての樹脂ピペットチップで構成した場合には、検体汚染(検体のコンタミネーション)を防止することが可能になるとともに、金属と比較して樹脂の比熱が高いことによりピペットチップ内部の液体の保温性能が向上し、反応場温度制御の安定性が向上する利点が得られる。表5に本発明においてピペットチップ51の材料として用いられうる樹脂材料の例を示す。
【0181】
【0182】
ピペットチップ51を樹脂材料で形成する場合、例えば、ポリエチレン(PE)、ポリプロピレン(PP)などのポリオレフィン類、環状オレフィンコポリマー(COC)、環状オレフィンポリマー(COP)などのポリ環状オレフィン類、ポリスチレン、ポリカーボネート(PC)、アクリル樹脂、取りトリアセチルセルロース(TAC)などを用いることができる。
【0183】
ピペットチップ51はピペットチップ温調部7の設定温度によって、熱膨張で長さが変化する。一方で、長さが変化すると先端位置が変化することにより反応容器3内の液体との接触面積が変化して、反応容器3とピペットチップ51の熱抵抗が変化し、反応場温度の制御性が変わってしまうという問題がある。特に、アクリル樹脂(PMMA)の線膨張係数は4.5~7×10-5 [/K]と小さい上に透明度が高いため、本発明と組み合わせることによって、反応場温度性を向上できるとともに、ピペットチップ51内の液の挙動を観察することが可能になり、例えば、ポンプ53などが故障した場合に問題の発生をいち早く察知することができるようになり、不適切な送液による生体反応が行われて、正しい検査結果が得られていない可能性があることを知ることができる。
【0184】
本発明を実施する上では、ピペットチップ51の材料として、可視光の透明性が高く、熱膨張率が小さく、分析時の反応に用いる試薬(特に弱酸)によって性質が変化しないものを用いることが望ましい。可視光の透明性が高いとは、人間の視感度が最も高い波長550 nmにおける透過率が、80%以上、より望ましくは90%以上、さらに望ましくは95%以上の材料を言う。ここで透過率は厚さ1 mmの板状のサンプルで測定したものとする。熱膨張率が小さいとは、熱膨張係数が10×10-5以下、より望ましくは6×10-5以下、さらに望ましくは5×10-5以下である材料を言う。分析時の反応に用いる試薬(特に弱酸)によって性質が変化しない材料とは、弱酸によって表面が侵される影響が無い、又はあっても分析時間の間において測定結果に影響を与えない程度の影響であることを意味する。
【0185】
例えば表5に表した樹脂材料においては、ポリプロピレンが可視光の透明性、熱膨張性、対弱酸性に適しており、本発明を実施する上ではポリプロピレンで作成されたピペットチップ51を用いることが望ましい。この材料を用いて本発明を実施した場合には、温度制御にかかわる試薬分析の安定性を向上できるとともに、分析時の送液の状態を外部から可視光で確認できる利点があり、不適切な送液による生体反応が行われて、正しい検査結果が得られていない可能性があることを知ることができる。
【0186】
また、ピペットチップ51として複数回測定可能な金属ピペットチップを装置に固定化して用いた場合には、金属が樹脂と比較して比熱が小さいために、温度安定化にかかる時間が短縮し、初期の装置ウォームアップ時間が短縮できるとともに、少ない熱量で温調を実現でき温調システムの省エネルギー化が行える利点がある。ピペットチップ51を複数回測定可能なピペットチップで構成する場合には、1回の検査の過程で、ピペットチップ51のヒートブロックから洗浄槽への移動及び洗浄動作が必要であるが、金属として構成することにより、洗浄槽から復帰する際の温度安定化への時間が短縮でき、反応場温度の安定性を向上できる利点もある。
【0187】
3.ピペットチップの温度特性
本発明を実施する上では、ピペットチップ51の温度依存性に関する情報を、装置に記憶させておくことが望ましい。このように構成することで、ピペットチップ51の温度依存性に関する情報、試薬情報及び環境温度センサ10の測定値を基に、試料分析前に予めピペットチップ温調部7の目標値を変更することで、試料分析時の温度安定性を向上できる。
【0188】
ピペットチップ51の温度依存性に関する情報としては、熱膨張率、屈折率の温度依存性、表面の流体力学的特性(接触角、ぬれ性など)の温度依存性、が含まれる。また、特に流体力学特性は試薬に依存するので、試薬情報とピペットチップ情報の組合せとして、装置に記憶しておくことが望ましい。また、試薬情報とピペットチップ情報の組合せ、については、装置がインターネットなどの情報ネットワークを介して分析試薬の追加分析試薬情報を取得できるように構成されることが望ましく、このように構成することで、分析する試薬と検体に応じた試薬情報と、ピペットチップ情報とを取得でき、安定な試薬分析が可能になる。特に、表面の流体力学的特性(接触角、ぬれ性など)の温度依存性を記憶している場合には、試薬反応時の試薬採取量を一定にするように調整することが可能になり、反応工程の反応性を一定にすることで、装置内部環境温度が変化しても試薬分析がばらつかないように制御できる。
【0189】
試料分析時においては、ピペットチップ51の温度依存性に関する情報、試薬情報及び環境温度センサの測定値を基に、検出工程の反応場温度を装置内部環境温度が変化しても一定になるように、試料分析前に予めピペットチップ温調部7の目標値を変更することで、装置内部環境温度が変化しても反応場温度がばらつかないように制御できる。
【0190】
<8>第8の実施の形態
本実施の形態では、光学測定と本発明における望ましい温度制御方法との関係について説明する。
【0191】
本実施の形態の温調システムは、ピペットチップ51及び反応容器3を用い試料を分析する分析装置に適用される温調システムであって、ピペットチップ51を昇降させる駆動部54と、ピペットチップ51に対する温調を行うピペットチップ温調部7と、少なくとも分析装置内部の環境温度を検知する(さらに分析装置外部の環境温度を検知してもよい)環境温度センサ10と、液体をピペットチップ51に吸入し、かつピペットチップ51内の前記液体を排出するためのポンプ53と、を有する。
【0192】
さらに本実施の形態の温調システムは、試料分析時には駆動部54によりピペットチップ51を降下させ、ピペットチップ温調部7が温調を行った状態でポンプ53が前記吸入と前記排出とを繰り返す吸排を行い、測定の工程に、ピペット温調部7の温度制御目標値を初期温度に設定する初期温調工程と、試薬情報読み取り工程と、試薬情報と環境温度センサ10の情報を基に温調目標値を算出する温調目標値算出工程と、温調目標値算出工程で算出された温度に温度制御目標値を変更する温度制御目標値変更工程と、変更された温度制御目標値に基づいて温調を開始する第1温調工程と、試料を分析する工程と、試料分析後に温度制御目標値を初期温度に設定する初期温調復帰工程とをこの順番で含むことによって、試料分析前における環境温度センサ10の測定値及び分析試薬情報に基づいて、試料分析時におけるピペットチップ温調部7の温度制御目標値を予め変更(設定)する。
【0193】
さらに、本実施の形態の温調システムは、試料を分析する装置はSPFS装置を含む免疫反応と蛍光分析を利用した分析装置であり、試料を分析する工程に、検体送液工程、第1往復送液工程、蛍光標識工程、第2往復送液工程を順に含み、前記工程の間に、上述の実施の形態1~7のいずれかで示した方法によってピペットチップ51に対するピペットチップ温調部7による温調を行う第2温調工程を含み、かつ第2温調工程において温度制御目標値が一定に保たれ、かつ、前記試薬情報には蛍光分析に用いられる光学部品の屈折率の温度依存性情報が含まれ、試料を分析する工程において環境温度センサ10の測定値を基に光学系の配置を調整する。
【0194】
このような構成にすることで、試薬の種類や蛍光分析に用いられる光学系の屈折率の温度依存性の情報と、環境温度センサ10の情報と、を基に試料分析工程における反応温度を精密に制御できるとともに、蛍光分析時における光学系の調整を迅速に行うことができ、試料分析工程の温度制御安定性を向上し分析誤差を低減しうるとともに、迅速な分析を行うことが可能になる。
【0195】
以下、本実施の形態の特徴について、
図7及び
図8を用いて説明する。
【0196】
特に、SPFS装置を含む免疫反応と蛍光分析を利用した分析装置に本発明を適用する上では、試薬情報に光学部品の屈折率の温度依存性情報が含まれることが望ましい。
【0197】
試料を分析する工程には、
図8に示した検出工程(S15)が含まれ、検出工程(S15)では、
図7のステージ4が測定位置に移動され、投光光学系が調整され、蛍光が励起され、励起された蛍光量が、受光光学系を介して光検出手段によって検出されることによって、測定したい微量物質の検出が行われる。
【0198】
表面プラズモン増強を用いた分析装置1Cにおいては、入射角度によって増強度が変化するため、精密に入射角度を制御する必要がある。入射角度は
図7に示したセンサチップ(光学プリズムとプラズモン増強を行う金属薄膜で構成される)の屈折率に依存し、この屈折率は温度依存性を持つことが知られている。
【0199】
従って、本実施の形態のように、試薬情報には蛍光分析に用いられる光学部品の屈折率の温度依存性情報を含めておき、試料を分析する工程において環境温度センサ10の測定値を基に光学系の配置を調整するようにすれば、プラズモン増強場の電場増強強度を温度に寄らず一定に保つことが可能になり、測定システムの温度に対するシグナル安定性を向上することが可能になる。
【0200】
<9>他の実施の形態
上述の実施の形態は、本発明を実施するにあたっての具体化の一例を示したものに過ぎず、これらによって本発明の技術的範囲が限定的に解釈されてはならないものである。すなわち、本発明はその要旨、又はその主要な特徴から逸脱することの無い範囲で、様々な形で実施することができる。
【0201】
<9-1>例えば上述の第1及び第2の実施の形態の構成において、ピペットチップ温調部7の温度制御目標値が試料分析終了後に初期値に再設定され、ピペットチップ温調部7が試料分析終了後にも温調を継続するようにしてもよい。このように構成することで、分析を行っていない間の装置内部温度を一定に保ち、装置内部温度の安定性を向上できる。
【0202】
<9-2>例えば上述の第1-第3の実施の形態の構成において、分析途中の反応工程において、ピペットチップ温調部7又は反応容器温調部8の制御目標温度を分析試薬の種類に応じて切り替えるようにしてもよい。このように構成することで、反応途中の工程において、制御目標値を予め変更することで、各反応工程の温度を安定に制御できるようになる。
【0203】
2018年4月5日出願の特願2018-073390の日本出願に含まれる明細書、図面および要約書の開示内容は、すべて本願に援用される。
【産業上の利用可能性】
【0204】
本発明の温調システムは、ピペットチップ及び反応容器を用いて試薬などの試料の分析処理を行う分析装置に適用し得る。
【符号の説明】
【0205】
1A、1B、1C 分析装置
2 検査カートリッジ
21 収容槽
3 反応容器
31 反応槽
4 ステージ
41 スライドベース
42 リニアガイド部
5 送液部
51 ピペットチップ
52 ピペットノズル
53 ポンプ
54 ノズル駆動部
55 配管
6 制御部
6a 温度制御部
61 ピペットチップ温度取得部
62 環境温度取得部
7 ピペットチップ温調部
71 筐体
8 反応容器温調部
91 ステージ駆動部