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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-05-11
(45)【発行日】2023-05-19
(54)【発明の名称】中間層を有する固体電解質接合体
(51)【国際特許分類】
   G01N 27/41 20060101AFI20230512BHJP
   H01M 8/1213 20160101ALI20230512BHJP
   H01M 8/126 20160101ALI20230512BHJP
   H01M 8/1253 20160101ALI20230512BHJP
   H01M 4/86 20060101ALI20230512BHJP
   H01B 1/06 20060101ALI20230512BHJP
   H01B 1/08 20060101ALI20230512BHJP
   H01M 8/12 20160101ALN20230512BHJP
【FI】
G01N27/41 325Z
H01M8/1213
H01M8/126
H01M8/1253
H01M4/86 T
H01B1/06 A
H01B1/08
H01M8/12 101
【請求項の数】 9
(21)【出願番号】P 2020514388
(86)(22)【出願日】2019-04-16
(86)【国際出願番号】 JP2019016282
(87)【国際公開番号】W WO2019203219
(87)【国際公開日】2019-10-24
【審査請求日】2022-01-18
(31)【優先権主張番号】PCT/JP2018/040386
(32)【優先日】2018-10-30
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(31)【優先権主張番号】P 2018079456
(32)【優先日】2018-04-17
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000006183
【氏名又は名称】三井金属鉱業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002170
【氏名又は名称】弁理士法人翔和国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】井手 慎吾
(72)【発明者】
【氏名】島ノ江 憲剛
(72)【発明者】
【氏名】渡邉 賢
(72)【発明者】
【氏名】末松 昂一
【審査官】小澤 理
(56)【参考文献】
【文献】特開2016-115592(JP,A)
【文献】特開2016-058398(JP,A)
【文献】特開2016-152160(JP,A)
【文献】特開2009-176675(JP,A)
【文献】国際公開第2016/111110(WO,A1)
【文献】KUO, Y.-L. et al.,Tailoring the O2 reaction activity on hydrangea-like La0.5Sr0.5MnO3 cathode film fabricated via atmo,Ceramics International,2018年02月08日,Vol.44,p.7349-7356
【文献】CHESNAUD, A. et al.,Densification par Spark Plasma Sintering (SPS) de materiaux d'electrolytes, difficilement densifiabl,Materiaux & Techniques,フランス,2007年,Vol.95, No.4-5,p.259-268
【文献】LU, Jun et al.,A cobalt-free electrode material La0.5Sr0.5Fe0.8Cu0.2O3-δ for symmetrical solid oxide fuel cells,Electrochemistry Communications,2015年,Vol.61,p.18-22
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01N 27/41
H01M 8/1213
H01M 8/1246
H01M 4/86
H01B 1/06
H01M 8/12
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
Scopus
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
アノードと、カソードと、これらの間に位置する固体電解質とを有する固体電解質接合体であって、
前記アノード及び前記カソードの少なくとも一方と前記固体電解質との間に中間層を有し、
前記中間層が、ランタンと、希土類元素(ただしランタン及びセリウムを除く)と、を含む酸化セリウムからなり、
前記希土類元素が、サマリウム又はガドリニウムであり、
セリウムに対する前記希土類元素の原子比で0.05以上0.5以下であり、
前記酸化セリウムにおける、セリウムに対するランタンの原子比であるLa/Ceの値が0.3以上1.2以下であり、
前記固体電解質が、ランタンの酸化物を含む固体電解質接合体。
【請求項2】
前記固体電解質が、ランタン及びケイ素の複合酸化物を含む請求項1に記載の固体電解質接合体。
【請求項3】
前記固体電解質が、一般式:A9.33+x[T6.00-y]O26.0+z
式中のAは、La、Ce、Pr、Nd、Pm、Sm、Eu、Gd、Tb、Dy、Ho、Er、Yb、Lu、Be、Mg、Ca、Sr及びBaからなる群から選ばれた一種又は二種以上の元素である。式中のTは、Siを含む、若しくはSiとGeの両方を含む元素である。式中のMは、Mg、Al、Sc、Ti、V、Cr、Mn、Fe、Co、Ni、Ga、Y、Zr、Ta、Nb、B、Ge、Zn、Sn、W及びMoからなる群から選ばれた一種又は二種以上の元素である。)で表され、式中のxは-1.33以上1.50以下の数であり、式中のyは0.00以上3.00以下の数であり、式中のzは-5.00以上5.20以下の数であり、Tのモル数に対するAのモル数の比率が1.33以上3.61以下である複合酸化物を含む請求項1又は2に記載の固体電解質接合体。
【請求項4】
前記アノードと前記固体電解質との間、及び前記カソードと前記固体電解質との間に、前記中間層を有する請求項1ないし3のいずれか一項に記載の固体電解質接合体。
【請求項5】
前記アノード及び前記カソードの少なくとも一方が、ペロブスカイト構造を有する酸化物からなる請求項1ないし4のいずれか一項に記載の固体電解質接合体。
【請求項6】
前記ペロブスカイト構造を有する酸化物がランタンを含むものである、請求項5に記載の固体電解質接合体。
【請求項7】
前記酸化物の平均粒子径が1000nm以下であり、
前記酸化物の粒子の輪郭線の長さをDとし、該輪郭線のうち、隣り合う粒子と重なっている部分の長さをCとしたとき、C/Dの値が0.2以上である請求項5又は6に記載の固体電解質接合体。
【請求項8】
前記酸化物のX線小角散乱測定によって求めた二次粒子径P2(nm)に対する一次粒子径P1(nm)の割合であるP1/P2の値が0.02以上である請求項5ないし7のいずれか一項に記載の固体電解質接合体。
【請求項9】
一般式:La1-xBO3-δ(式中、Aは、Ba若しくはSr又はその両方を含む元素である。Bは、Fe、Cu及びZrから選ばれた一種又は二種以上の元素である。xは0.01以上0.80以下の数である。)で表されるペロブスカイト構造である、請求項6ないし8のいずれか一項に記載の固体電解質接合体。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、酸化物イオン伝導性を有する固体電解質の接合体に関する。本発明の固体電解質接合体は、その酸化物イオン伝導性を利用した様々な分野に利用される。
【背景技術】
【0002】
酸化物イオン伝導性の固体電解質が種々知られている。かかる固体電解質は、例えば酸素透過素子、燃料電池の電解質、及びガスセンサなどとして様々な分野で用いられている。例えば特許文献1及び2には、アパタイト型酸化物を電解質として有する電解質・電極接合体が記載されている。電解質としては、単結晶又はc軸配向した、LaSi1.5X+12で表されるランタンとシリコンとの複合酸化物が用いられる。電極としては、白金、並びにLaSr1-XCoFe1-Yαや、BaSr1-XCoFe1-Yαや、SmSr1-XCoOαで表される酸化物セラミックスが用いられる。電極と電解質との間には中間層が設けられている。中間層は、サマリウム、イットリウム、ガドリニウム又はランタンが固溶した酸化セリウムが用いられる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2009-176675号公報
【文献】米国特許出願公開第2010/0285391号明細書
【発明の概要】
【0004】
特許文献1及び2に記載のとおり、酸化物イオン伝導性の固体電解質を利用したデバイスは種々提案されているものの、デバイス全体としての酸化物イオン伝導性を一層高めたいという要求がある。また、前記デバイスは、使用時に固体電解質の動作に適した温度まで加熱する必要があるものの、起動までの時間短縮や保温に必要な電力等の低減のため、できる限り低温で作動させたいという要求がある。
【0005】
したがって本発明の課題は、固体電解質を備えたデバイスの酸化物イオン伝導性を一層向上させることにある。
【0006】
前記の課題を解決すべく本発明者は鋭意検討したところ、酸化物イオン伝導性を有する固体電解質として特定のものを用い、この固体電解質と電極との間に特定の材料からなる酸化物の中間層を配置した固体電解質接合体は、デバイス全体としての酸化物イオン伝導性が高まることを知見した。
【0007】
本発明は前記の知見に基づきなされたものであり、アノードと、カソードと、これらの間に位置する固体電解質とを有する固体電解質接合体であって、
前記アノード及び前記カソードの少なくとも一方と前記固体電解質との間に中間層を有し、
前記中間層が、ランタンと、希土類元素(ただしランタン及びセリウムを除く)と、を含む酸化セリウムからなり、
前記固体電解質が、ランタンの酸化物を含む固体電解質接合体を提供することにより前記の課題を解決したものである。
【図面の簡単な説明】
【0008】
図1図1は、本発明の固体電解質接合体の一実施形態を示す厚み方向に沿う断面の模式図である。
図2図2は、実施例1の電極層に用いたLSCFN粉末の走査型電子顕微鏡像である。
図3図3は、比較例3の電極層に用いたLSCF粉末の走査型電子顕微鏡像である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下本発明を、その好ましい実施形態に基づき図面を参照しながら説明する。図1には本発明の固体電解質接合体の一実施形態が示されている。同図に示す固体電解質接合体10は固体電解質の層(以下「固体電解質層」ともいう。)11を備えている。固体電解質層11は、所定の温度以上で酸化物イオン伝導性を有する材料からなる。固体電解質層11は、2つの電極、すなわちカソード12とアノード13との間に位置している。つまりカソード12及びアノード13は、固体電解質層11の異なる面側にそれぞれ配置されている。カソード12は、直流電源(図示せず)の負極に電気的に接続可能になっている。一方、アノード13は、直流電源(図示せず)の正極に電気的に接続可能になっている。したがってカソード12とアノード13との間には直流電圧が印加されるようになっている。
【0010】
カソード12と固体電解質層11との間には、カソード側中間層15が配置されている。一方、アノード13と固体電解質層11との間には、アノード側中間層16が配置されている。図1においては、カソード12とカソード側中間層15とが異なるサイズで示されているが、両者の大小関係はこれに限られず、例えばカソード12とカソード側中間層15とは同じサイズであってもよい。アノード13とアノード側中間層16に関しても同様であり、両者は同じサイズであってもよく、あるいは例えばアノード13よりもアノード側中間層16のサイズの方が大きくなっていてもよい。また、図1においては、カソード側中間層15のサイズと固体電解質層11のサイズとが同じに示されているが、両者の大小関係はこれに限られず、例えば固体電解質層11とカソード側中間層15とが異なるサイズであってもよい。アノード13側に関しても同様である。
【0011】
図1に示すとおり、カソード側中間層15は、カソード12及び固体電解質層11と直接、接している。したがって、カソード側中間層15とカソード12との間には何らの層も介在していない。また、カソード側中間層15は固体電解質層11とも直接、接しており、両者間には何らの層も介在していない。アノード13側についても同様であり、中間層16は固体電解質層11とアノード13と直接、接している。
【0012】
カソード側中間層15及びアノード側中間層16(以下、便宜的に両者を総称して単に「中間層」ということもある。)は、固体電解質接合体10における固体電解質層11とカソード12及び/又はアノード13との間の酸化物イオン伝導性を向上させる目的で用いられる。固体電解質接合体10における電気抵抗を低減させるためには、固体電解質層11の酸化物イオン伝導性を高めることが重要であるが、酸化物イオン伝導性の高い材料を用いて固体電解質層11を構成した場合であっても、該固体電解質層11とアノード13及び/又はカソード12との間の酸化物イオン伝導性が低い場合には、固体電解質接合体10全体としての酸化物イオン伝導性を高めることに限界がある。本発明者が検討した結果、酸化物イオン伝導性を有する固体電解質層11として特定のものを用い、この固体電解質層11とカソード12及び/又はアノード13との間に特定の材料からなる酸化物の中間層を配置することで、固体電解質接合体10全体としての酸化物イオン伝導性が高まることを知見した。具体的には、固体電解質層11がランタンの酸化物を含む場合には、カソード側中間層15若しくはアノード側中間層16又はその両方が、ランタンと、希土類元素(ただしランタン及びセリウムを除く。)と、を含む酸化セリウムから構成されていると、イオン伝導性が一層高まることが判明した。以下、固体電解質層11並びにカソード側中間層15及びアノード側中間層16について説明する。
【0013】
ランタンの酸化物を含んで構成される固体電解質層11は、酸化物イオンがキャリアとなる導電体である。固体電解質層11を構成する固体電解質としては単結晶又は多結晶の材料が用いられる。特に、固体電解質層11を構成する材料として、ランタンの酸化物を用いると、酸化物イオン伝導性が一層高くなる点から好ましい。ランタンの酸化物としては、例えばランタン及びガリウムを含む複合酸化物や、該複合酸化物にストロンチウム、マグネシウム又はコバルトなどを添加した複合酸化物、ランタン及びモリブデンを含む複合酸化物などが挙げられる。特に、酸化物イオン伝導性が高いことから、ランタン及びケイ素の複合酸化物からなる酸化物イオン伝導性材料を用いることが好ましい。
【0014】
ランタン及びケイ素の複合酸化物としては、例えばランタン及びケイ素を含むアパタイト型複合酸化物が挙げられる。アパタイト型複合酸化物としては、三価元素であるランタンと、四価元素であるケイ素と、Oとを含有し、その組成がLaSi1.5x+12(Xは8以上10以下の数を表す。)で表されるものが、酸化物イオン伝導性が高い点から好ましい。このアパタイト型複合酸化物を固体電解質層11として用いる場合には、c軸を固体電解質層11の厚み方向と一致させることが好ましい。このアパタイト型複合酸化物の最も好ましい組成は、La9.33Si26である。この複合酸化物は、例えば特開2013-51101号公報に記載の方法に従い製造することができる。
【0015】
固体電解質層11を構成する材料の別の例として、一般式:A9.33+x[T6.00-yy]O26.0+zで表される複合酸化物が挙げられる。この複合酸化物もアパタイト型構造を有するものである。式中のAは、La、Ce、Pr、Nd、Pm、Sm、Eu、Gd、Tb、Dy、Ho、Er、Yb、Lu、Be、Mg、Ca、Sr及びBaからなる群から選ばれた一種又は二種以上の元素である。式中のTは、Si若しくはGe又はその両方を含む元素である。式中のMは、Mg、Al、Sc、Ti、V、Cr、Mn、Fe、Co、Ni、Ga、Y、Zr、Ta、Nb、B、Ge、Zn、Sn、W及びMoからなる群から選ばれた一種又は二種以上の元素である。c軸配向性を高める観点から、MはB、Ge及びZnからなる群から選ばれる一種又は二種以上の元素であることが好ましい。
【0016】
式中のxは、配向度及び酸化物イオン伝導性を高める観点から、-1.33以上1.50以下であることが好ましく、0.00以上0.70以下であることが更に好ましく、0.45以上0.65以下であることが一層好ましい。式中のyは、アパタイト型結晶格子におけるT元素位置を埋める観点から、0.00以上3.00以下であることが好ましく、0.40以上2.00以下であることが更に好ましく、0.40以上1.00以下であることが一層好ましい。式中のzは、アパタイト型結晶格子内での電気的中性を保つという観点から、-5.00以上5.20以下であることが好ましく、-2.00以上1.50以下であることが更に好ましく、-1.00以上1.00以下であることが一層好ましい。
【0017】
前記式中、Tのモル数に対するAのモル数の比率、言い換えれば前記式における(9.33+x)/(6.00-y)は、アパタイト型結晶格子における空間的な占有率を保つ観点から、1.33以上3.61以下であることが好ましく、1.40以上3.00以下であることが更に好ましく、1.50以上2.00以下であることが一層好ましい。なお、一般式:A9.33+x[T6.00-yy]O26.0+zにおいて、TとMがともにGeを含む場合には、前記式(9.33+x)/(6.00-y)においては、y=0であるものとする。
【0018】
前記式で表される複合酸化物のうち、Aがランタンである複合酸化物、すなわちLa9.33+x[T6.00-yy]O26.0+zで表される複合酸化物を用いると、酸化物イオン伝導性が一層高くなる観点から好ましい。La9.33+x[T6.00-yy]O26.0+zで表される複合酸化物の具体例としては、La9.33+x(Si4.701.30)O26.0+z、La9.33+x(Si4.70Ge1.30)O26.0+z、La9.33+x(Si4.70Zn1.30)O26.0+z、La9.33+x(Si4.701.30)O26.0+z、La9.33+x(Si4.70Sn1.30)O26.0+x、La9.33+x(Ge4.701.30)O26.0+zなどを挙げることができる。前記式で表される複合酸化物は、例えば国際公開WO2016/111110に記載の方法に従い製造することができる。
【0019】
固体電解質層11の厚みは、固体電解質接合体10の電気抵抗を効果的に低下させる観点から、10nm以上1000μm以下であることが好ましく、50nm以上700μm以下であることが更に好ましく、100nm以上500μm以下であることが一層好ましい。この固体電解質層11の厚みは、例えば触針式段差計や電子顕微鏡を用いて測定することができる。
【0020】
中間層は、上述のとおり、ランタンと、希土類元素(ただしランタン及びセリウムを除く)と、を含む酸化セリウム(以下「La-LnDC」ともいう。)から構成されていることが好ましい。La-LnDCにおいては、母材である酸化セリウム(CeO)に、ランタン及びセリウム以外の希土類元素が固溶(ドープ)した形で含まれている。ここでドープ元素である希土類元素は、通常、酸化セリウムの結晶格子中において、セリウムが位置するサイトを置換した形で該サイトに存在している。ランタンはこの酸化セリウムの固溶体の中に含まれる形で存在している。すなわちランタンは、酸化セリウムの結晶格子中において、セリウムが位置するサイトを置換した形で該サイトに存在し得るか、あるいは希土類元素がドープされた酸化セリウムの結晶粒界に存在し得る。
【0021】
中間層を構成するLa-LnDCにおいて、酸化セリウムにドープされる希土類元素としては、例えばサマリウム、ガドリニウム、イットリウム、エルビウム、イッテルビウム、ジスプロシウムなどが挙げられる。これらの希土類元素は1種を単独で用いてもよく、あるいは2種以上を組み合わせて用いてもよい。特に中間層は、ランタンと、サマリウム又はガドリニウムと、を含む酸化セリウムを含んで構成されることが、固体電解質接合体10全体の酸化物イオン伝導性を一層高め得る点から好ましい。なお、両中間層15,16を構成する該La-LnDCは同種でもよく、あるいは異種でもよい。また、カソード側中間層15及びアノード側中間層16のうちの一方が、La-LnDCを含んで構成されており、他方が他の物質から構成されていてもよい。
【0022】
La-LnDCにおいて、酸化セリウムにドープされる希土類元素の割合は、セリウムに対する希土類元素(Ln)の原子比であるLn/Ceで表して、0.05以上0.5以下であることが好ましく、0.1以上0.4以下であることが更に好ましく、0.2以上0.3以下であることが一層好ましい。希土類元素のドープの程度をこの範囲内に設定することによって、固体電解質層11とカソード12及び/又はアノード13との間の酸化物イオン伝導性の向上が図られる。
【0023】
前記のLn/Ceの値は、エネルギー分散型X線分光法(EDS)や電子プローブマイクロアナライザー(EPMA)などによって測定される。また、希土類元素が酸化セリウム中に固溶していることは、X線回折法によって確認される。
【0024】
中間層を構成するLa-LnDCにおいて、ランタンは、固体電解質接合体10全体の酸化物イオン伝導性を向上させる目的で含有される。この目的のために、La-LnDCにおける、セリウムに対するランタンの原子比であるLa/Ceの値を0.3以上とすることが好ましい。また、ランタンが多過ぎる場合にはイオン伝導性は却って低下するため1.2以下とすることが好ましい。このLa/Ceの値は0.4以上1.2以下とすることが更に好ましく、0.5以上1.2以下とすることが一層好ましい。La/Ceの値は、エネルギー分散型X線分光法(EDS)や電子プローブマイクロアナライザー(EPMA)などによって測定される。
【0025】
中間層の厚みは、一定以上の厚みがあれば、固体電解質層11とカソード12及び/又はアノード13との間の酸化物イオン伝導性を効果的に向上させ得ることが本発明者の検討の結果判明した。詳細には、中間層の厚みは、カソード12側及びアノード13側それぞれ独立に、1nm以上400nm以下であることが好ましく、5nm以上350nm以下であることが更に好ましい。この中間層の厚みは、触針式段差計や電子顕微鏡を用いて測定することができる。カソード側中間層15の厚みとアノード側中間層16の厚みとは同じでもよく、あるいは異なっていてもよい。
【0026】
中間層に直接に接して配置されているカソード12及びアノード13はそれぞれ独立に、例えば金属材料又は酸化物イオン伝導性を有する酸化物から構成することができる。カソード12及びアノード13が金属材料から構成されている場合、該金属材料としては、触媒活性が高い等の利点があることから、白金族の元素を含んで構成されることが好ましい。白金族の元素としては、白金、ルテニウム、ロジウム、パラジウム、オスミウム及びイリジウムが挙げられる。これらの元素は一種を単独で、又は二種以上を組み合わせて用いることができる。また、アノード13及びカソード12として、それぞれ独立に、白金族の元素を含んだサーメットを用いることもできる。
【0027】
一方、カソード12又はアノード13のいずれかが酸化物イオン伝導性を有する酸化物から構成されている場合、該酸化物としては、ABO3-δで表されるペロブスカイト構造を有するものが好適に用いられる。式中、Aはアルカリ土類金属元素を表す。Bは遷移金属元素を表し、例えばTi、V、Cr、Mn、Fe、Co、Ni、Cu、Zn、Y、Zr、Nb、Mo、Tc、Ru、Rh、Pd、Ag、Ta及びWである。δは、A、B及びOの価数及び量に起因して生じる端数である。ABO3-δで表されるペロブスカイト構造を有する酸化物は種々知られており、そのような酸化物が種々の結晶系、例えば立方晶、正方晶、菱面体晶及び斜方晶などを有することが知られている。これらの結晶系のうち、立方晶ペロブスカイト構造を有するABO3-δ型の酸化物をカソード12及び/又はアノード13として用いることが好ましい。かかる酸化物からなるカソード12及び/又はアノード13と、上述の材料からなる中間層とを直接に接合して固体電解質接合体10を構成することで、該接合体10全体としての酸化物イオン伝導性を一層高めることができる。このこととは対照的に、固体電解質層及び電極を有する従来のデバイスは電極の結晶系が異なる。例えば特許文献1に記載のデバイスにおいてもペロブスカイト構造を有する酸化物が電極の材料として用いられているが、該酸化物は菱面体晶の結晶系を有するものである。
【0028】
固体電解質接合体10全体としての酸化物イオン伝導性を高める観点から、ABO3-δで表される酸化物は、Aサイトの一部にランタンを含んでいることが有利であることが本発明者の検討の結果判明した。以下、この酸化物のことを「酸化物a」ともいう。酸化物aにおけるランタンの含有量は、Aサイトに位置するすべての元素に占めるランタンの原子比で表して、0.01以上0.80以下であることが好ましく、0.05以上0.80以下であることが更に好ましく、0.10以上0.70以下であることが一層好ましく、0.15以上0.70以下であることがより一層好ましく、0.15以上0.60以下であることが最も好ましい。酸化物aを用いることで酸化物イオン伝導性が高まる理由は明らかではないが、Aサイトの一部にランタンが含まれることで、酸化物イオンが移動しやすい経路が酸化物a中に形成されるのではないかと本発明者は考えている。
【0029】
ABO3-δで表される酸化物におけるAサイトの一部にランタンが位置しているか否かは、X線回折法によって確認することができる。また、Aサイトに位置するすべての元素に占めるランタンの割合は、エネルギー分散型X線分光法(EDS)や電子プローブマイクロアナライザー(EPMA)、ICP発光分光分析法によって測定することができる。
【0030】
同様に、固体電解質接合体10全体としての酸化物イオン伝導性を高める観点から、ABO3-δで表される酸化物は、Bサイトの遷移金属元素の一部が鉄であることが有利である。以下、この酸化物のことを「酸化物b」ともいう。酸化物bにおける鉄の含有量は、Bサイトに位置するすべての遷移金属元素に占める鉄の原子比で表して、0.1以上1.0以下であることが好ましく、0.2以上1.0以下であることが更に好ましく、0.3以上1.0以下であることが一層好ましい。酸化物bを用いることで酸化物イオン伝導性が高まる理由は明らかではないが、ABO3-δで表されるBサイトに鉄が含まれることで、酸化還元反応が生じ、酸化物イオンが移動しやすくなっているのではないかと本発明者は考えている。
【0031】
ABO3-δで表される酸化物におけるBサイトに鉄が位置しているか否かは、X線回折法によって確認することができる。また、Bサイトに位置するすべての元素に占める鉄の割合は、エネルギー分散型X線分光法(EDS)や電子プローブマイクロアナライザー(EPMA)、ICP発光分光分析法によって測定することができる。
【0032】
カソード12を構成する材料として上述の酸化物aを用いる場合には、Aサイトを占めるアルカリ土類金属元素は、バリウム及びストロンチウムからなる群より選択される一種以上の元素であることが、固体電解質接合体10全体としての酸化物イオン伝導性を高める観点から好ましい。つまり酸化物aのAサイトに、ランタンと、それに加えてバリウム及びストロンチウムからなる群より選択される一種以上の元素とが少なくとも位置することが好ましい。
【0033】
一方、酸化物aのBサイトを占める遷移金属元素の一部には、周期表の第4周期及び第5周期に属する元素のうち少なくとも一種を含むことが好適である。とりわけ、このBサイトに位置する遷移金属元素は鉄、コバルト、ニッケル及び銅、チタン、ジルコニウム及びニオブからなる群より選択される元素のうちの少なくとも一種を含むことが好ましく、更には少なくとも一部が鉄であることが、固体電解質接合体10全体として酸化物イオン伝導性を高める観点から一層好ましい。同様の観点から、Bサイトの少なくとも一部に鉄及び銅のいずれもが位置することが特に好ましい。
【0034】
酸化物aのBサイトに鉄が位置する場合、固体電解質接合体10全体として酸化物イオン伝導性を高め、且つ酸化物aの結晶系に影響を与えない観点から、Bサイトに位置するすべての元素に占める鉄の原子比は、0.05以上0.95以下であることが好ましく、0.10以上0.90以下であることが更に好ましく、0.20以上0.80以下であることが一層好ましい。また、酸化物aのBサイトに鉄及び銅が位置する場合、Bサイトに位置するすべての元素に占める鉄及び銅の合計の原子比は、0.80以上1.00以下であることが好ましく、0.85以上1.00以下であることが更に好ましく、0.90以上1.00以下であることが一層好ましい。この場合、鉄と銅との原子比は、Fe/Cuの値が、1.00以上10.0以下であることが好ましく、2.00以上9.50以下であることが更に好ましく、5.00以上9.00以下であることが一層好ましい。前記の原子比及びFe/Cuの値は、エネルギー分散型X線分光法(EDS)や電子プローブマイクロアナライザー(EPMA)、ICP発光分光分析法によって測定できる。
【0035】
カソード12を構成する材料として上述の酸化物bを用いる場合には、Bサイトを占める元素の少なくとも一部は、鉄及び銅であることが、固体電解質接合体10全体としての酸化物イオン伝導性を高める観点から好ましく、酸化物bのBサイトに、鉄及び銅のみが位置することがより好ましい。
【0036】
一方、酸化物bのAサイトを占める元素は、アルカリ土類金属元素のうち、特に、バリウム及びストロンチウムの少なくともいずれか一種であることが、固体電解質接合体10全体としての酸化物イオン伝導性を高める観点から好ましい。同様の観点から、酸化物bのAサイトの一部にランタンを含んでいてもよい。とりわけ、酸化物bのAサイトにランタンと、バリウム及びストロンチウムのいずれか一種と、が位置することが好ましい。
【0037】
酸化物bのAサイトの一部にランタンが位置する場合、Aサイトに位置するすべての元素に占めるランタンの原子比は、0.01以上0.80以下であることが好ましく、0.05以上0.80以下であることが更に好ましく、0.05以上0.70以下であることがより好ましく、0.10以上0.70以下であることが一層好ましく、0.10以上0.60以下であることがより一層好ましく、0.15以上0.60以下であることが最も好ましい。この原子比は、エネルギー分散型X線分光法(EDS)や電子プローブマイクロアナライザー(EPMA)、ICP発光分光分析法によって測定できる。
【0038】
酸化物a及び酸化物bとして好ましい酸化物は一般式:La1-xBO3-δ(式中、Aは、Ba若しくはSr又はその両方を含む元素である。Bは、Fe、Cu、Ti、Zr及びNbから選ばれた一種又は二種以上の元素である。特にBは、Fe、Cu及びZrから選ばれた一種又は二種以上の元素であることが好ましい。xは0.01以上0.80以下の数である。)で表される酸化物である。
【0039】
酸化物a及び酸化物bとして特に好ましい酸化物は以下の(i)-(iv)に示すものである。
(i)Aサイトをランタン及びストロンチウムが占め、Bサイトを鉄、コバルト及びニッケルが占める酸化物。
(ii)Aサイトをランタン及びバリウムが占め、Bサイトを鉄が占める酸化物。
(iii)Aサイトをバリウムが占め、Bサイトを鉄及び銅が占める酸化物。
(iv)Aサイトをランタン及びバリウムが占め、Bサイトを鉄及び銅が占める酸化物。
【0040】
酸化物a及び酸化物bを初めとするカソード12及び/又はアノード13を構成する酸化物は、機械的なエネルギーによって粒子を微細化するブレークダウン法や、原子や分子の集合体の成長を化学反応で制御するビルドアップ法によって得ることができる。電気抵抗を低下させる観点から、ビルドアップ法を採用することが好ましい。ビルドアップ法は微細な粒子を得やすく、且つ、粒子間の接触面積を大きくできるので、上述した効果を奏すると考えられる。具体的には、例えば次に述べる方法で得ることができる。すなわち、目的のペロブスカイト構造を有する酸化物の組成に応じて化学量論比で混合した各金属の酢酸塩又は硝酸塩と、DL-リンゴ酸とをイオン交換水に溶解させ、攪拌しながらアンモニア水を添加してpH5~6に調整する。その後350℃で溶液を蒸発させ、得られた粉末を乳鉢で粉砕する。このようにして得られた粉末を空気中700℃から1000℃で5時間仮焼成し、再度粉砕する。尤も、この方法に限定されるものではない。
【0041】
前記酸化物の平均粒子径は、前記の観点から1000nm以下、中でも600nm以下、その中でも300nm以下、更にその中でも200nm以下であることがより一層好ましい。また、前記酸化物の平均粒子径は、1nm以上、中でも2nm以上、その中でも3nm以上であることがより一層好ましい。平均粒子径は、走査型電子顕微鏡観察によって得られた粒子の画像と、公知の画像解析ソフトウェアを用いて算出できる。例えば1000~100000倍で任意に選んだ10個の粒子を観察することで粒子の輪郭を判別し、必要に応じてコントラストの強調や輪郭に沿った線の描画等の加工を施した後、画像解析を行うことによって平均粒子径を算出できる。
【0042】
また、前記酸化物の粒子間の接触面積は、粒子の輪郭線の長さをDとし、該輪郭線のうち、隣り合う粒子と重なっている部分の長さをCとしたとき、C/Dの値が0.2以上であることが好ましく、0.4以上であることが更に好ましく、0.6以上であることが一層好ましい。C及びDの値についても平均粒子径と同様に、公知の画像解析ソフトウェアを用いて算出できる。C/Dの値は、まず、任意に選んだ10個の粒子を観察することで粒子の輪郭を判別し、次いで該輪郭線のうち、隣り合う粒子と重なっている部分を目視判断で描画した後、画像解析して得られたC及びDの算術平均値から算出する。前記酸化物のC及びDの値は、前記電極層中に存在する前記酸化物についての値であるとともに、前記電極層を形成するための原料粉としての前記酸化物についての値でもある。C及びDの値の測定は、後述する実施例において説明するとおり、前記酸化物の仮焼成物を対象として行う。
【0043】
更に、電気抵抗を効果的に低下させる観点から、前記酸化物の二次粒子径P2(nm)に対する一次粒子径P1(nm)の割合であるP1/P2の値が0.02以上であることが好ましく、0.03以上であることが更に好ましく、0.04以上であることが一層好ましい。また、前記P1/P2の値は0.3以下であることが好ましく、0.2以下であることが更に好ましく、0.17以下であることが一層好ましい。前記P1/P2の値をこの範囲に設定することで、酸化物における粒子間の接触面積を確保しつつ、酸素の伝搬経路が形成されるので、電気抵抗を更に低減させることが可能となる。本発明における一次粒子径P1及び二次粒子径P2は、X線小角散乱測定(SAXS)によって求めることができる。前記酸化物の二次粒子径そのものの値は、1nm以上であることが好ましく、2nm以上であることが更に好ましく、3nm以上であることが一層好ましい。また二次粒子径は、500nm以下であることが好ましく、300nm以下であることが更に好ましく、200nm以下であることが一層好ましい。一次粒子とは、単一の結晶核の成長によって生成した粒子のことであり、二次粒子とは、複数の一次粒子が凝集又は焼結するなど集合体となって存在する粒子のことである。前記酸化物の一次粒子径P1及び二次粒子径P2は、前記電極層中に存在する前記酸化物についての値であるとともに、前記電極層を形成するための原料粉としての前記酸化物についての値でもある。一次粒子径P1及び二次粒子径P2の測定は、後述する実施例において説明するとおり、前記酸化物の仮焼成物を対象として行う。
【0044】
カソード12及びアノード13は、所定の厚みを有すれば、固体電解質接合体10全体としての酸化物イオン伝導性を一層効果的に高め得ることが本発明者の検討の結果判明した。詳細には、中間層に接合しているカソード12及びアノード13の厚みはそれぞれ独立に100nm以上であることが好ましく、500nm以上であることが更に好ましく、1000nm以上30000nm以下であることが更に好ましい。カソード12及びアノード13の厚みは触針式段差計や電子顕微鏡によって測定することができる。
【0045】
図1に示す実施形態の固体電解質接合体10は、例えば以下に述べる方法で好適に製造することができる。まず、公知の方法で固体電解質層11を製造する。製造には、例えば先に述べた特開2013-51101号公報や国際公開WO2016/111110に記載の方法を採用することができる。
【0046】
次いで固体電解質層11における対向する2面に、カソード側中間層15及びアノード側中間層16をそれぞれ形成する。各中間層15,16の形成には例えばスパッタリングを用いることができる。スパッタリングに用いられるターゲットは例えば次の方法で製造することができる。すなわち、希土類元素(ただしランタン及びセリウムを除く)の酸化物の粉末及び酸化セリウムの粉末を、乳鉢や、ボールミル等の攪拌機を使用して混合し、酸素含有雰囲気下で焼成し原料粉を得る。この原料粉をターゲットの形状に成形し、ホットプレス焼結する。焼結条件は、温度1000℃以上1400℃以下、圧力20MPa以上35MPa以下、時間60分以上180分以下とすることができる。雰囲気は、窒素ガスや希ガス等の不活性ガス雰囲気とすることができる。このようにして得られたスパッタリングターゲットは、希土類元素(ただしランタン及びセリウムを除く)がドープされた酸化セリウム(以下「LnDC」ともいう。)から構成されている。なお、スパッタリングターゲットの製造方法は、この製造方法に限定されるものではなく、例えばターゲット形状の成形体を大気中又は酸素含有雰囲気下で焼成してもよい。
【0047】
このようにして得られたターゲットを用い、例えば高周波スパッタリング法によって固体電解質層11の各面にスパッタリング層を形成する。基板の温度を予め300~500℃の範囲内に昇温し、該温度を保持しながらスパッタリングしてもよい。スパッタリング層はLnDCから構成されている。
【0048】
スパッタリングの完了後に、スパッタリング層をアニーリングする。アニーリングは、固体電解質層11に含まれているランタンを、熱によってスパッタリング層に拡散させて、該スパッタリング層を構成するLnDCにランタンを含有させる目的で行われる。この目的のために、アニーリングの条件は、温度1220℃以上1500℃以下、時間10分以上120分以下、より好ましくは温度1300℃以上1500℃以下、時間10分以上90分以下、とすることができる。雰囲気は、大気等の酸素含有雰囲気とすることができる。その他の成膜方法として、例えばアトミックレイヤデポジション、イオンプレーティング、パルスレーザデポジション、めっき法などを用いることができる。
【0049】
上述のアニーリングによってランタンを含有するLnDC(La-LnDC)から構成される中間層が得られる。次いで各中間層の表面にアノード13及びカソード12をそれぞれ形成する。カソード12及び/又はアノード13が金属電極である場合には、該金属電極の形成に例えば白金族の金属の粒子を含むペーストを用いることができる。該ペーストを中間層の表面に塗布して塗膜を形成し、該塗膜を焼成することで多孔質体からなる金属電極が形成される。焼成条件は、温度600℃以上900℃以下、時間30分以上120分以下とすることができる。雰囲気は、大気等の酸素含有雰囲気とすることができる。
【0050】
一方、カソード12及び/又はアノード13が酸化物イオン伝導性を有する酸化物である場合、例えば上述したABO3-δで表される立方晶ペロブスカイト構造を有する酸化物である場合には、該酸化物の粉末を含むスラリーを、中間層の表面に塗布して塗膜を形成し、該塗膜を焼成する方法を採用することができる。前記のスラリーは、例えばα-テルピネオールにエチルセルロースを溶解させたバインダーに、前記酸化物の粉末を加え濃度を調整することで得られる。スラリーにおける酸化物の粉末の濃度は例えば10質量%以上40質量%以下とすることができる。このスラリーを塗布して形成される塗膜の焼成条件は、例えば大気等の酸素含有雰囲気や、窒素ガスやアルゴンガス等の不活性雰囲気を採用することができる。焼成温度は、700℃以上1200℃以下であることが好ましく、800℃以上1100℃以下であることが更に好ましく、900℃以上1000℃以下であることが一層好ましい。焼成時間は、1時間以上10時間以下であることが好ましく、3時間以上8時間以下であることが更に好ましく、5時間以上7時間以下であることが一層好ましい。カソード側中間層15及びアノード側中間層16は、同時に形成してもよく、あるいは逐次形成でもよい。
【0051】
以上の方法で目的とする固体電解質接合体10が得られる。このようにして得られた固体電解質接合体10は、その高い酸化物イオン伝導性を利用して例えば酸素透過素子、ガスセンサ又は固体電解質形燃料電池などとして好適に用いられる。固体電解質接合体10をどのような用途に用いる場合にも、酸素ガスの還元反応が起こる極であるカソード12側の中間層15として、La-LnDCを用いることが有利である。例えば固体電解質接合体10を酸素透過素子として使用する場合には、カソード12を直流電源の負極に接続するとともに、アノード13を直流電源の正極に接続して、カソード12とアノード13との間に所定の直流電圧を印加する。それによって、カソード12側において酸素が電子を受け取り酸化物イオンが生成する。生成した酸化物イオンは固体電解質層11中を移動してアノード13に達する。アノード13に達した酸化物イオンは電子を放出して酸素ガスとなる。このような反応によって、固体電解質層11は、カソード12側の雰囲気中に含まれる酸素ガスを、固体電解質層11を通じてアノード13側に透過させることが可能になっている。なお、必要に応じ、カソード12の表面及びアノード13の表面の少なくとも一方に、更に白金等の導電性材料からなる集電層を形成してもよい。
【0052】
印加する電圧は、酸素ガスの透過量を高める観点から、0.1V以上4.0V以下に設定することが好ましい。両極間に電圧を印加するときには、固体電解質層11の酸化物イオン伝導性が十分に高くなっていることが好ましい。例えば酸化物イオン伝導性が、伝導率で表して1.0×10-3S/cm以上になっていることが好ましい。このため、固体電解質層11を所定温度に保持することが好ましい。この保持温度は、固体電解質層11の材質にもよるが、一般に300℃以上600℃以下の範囲に設定することが好ましい。この条件下で固体電解質接合体10を使用することで、カソード12側の雰囲気中に含まれる酸素ガスを、固体電解質層11を通じてアノード13側に透過させることができる。
【0053】
固体電解質接合体10を限界電流式酸素センサとしても使用する場合には、カソード12側で生成した酸化物イオンが、固体電解質層11を経由してアノード13側に移動することに起因して電流が生じる。電流値はカソード12側の酸素ガス濃度に依存するので、電流値を測定することで、カソード12側の酸素ガス濃度を測定することができる。
【0054】
以上、本発明をその好ましい実施形態に基づき説明したが、本発明は前記実施形態に制限されない。例えば前記実施形態においては、カソード12と固体電解質層11との間、及びアノード13と固体電解質層11との間の双方に中間層を配したが、これに代えて、カソード12と固体電解質層11との間にのみ中間層を配するか、又はアノード13と固体電解質層11との間にのみ中間層を配してもよい。カソード12又はアノード13のうちの一方にのみ中間層を配する場合には、カソード12と固体電解質層11との間にのみ中間層を配することが、固体電解質接合体10全体での酸化物イオン伝導性を効果的に向上させる観点から好ましい。
【実施例
【0055】
以下、実施例により本発明を更に詳細に説明する。しかしながら本発明の範囲は、かかる実施例に制限されない。特に断らない限り、「%」は「質量%」を意味する。
【0056】
〔実施例1〕
本実施例では、以下の(1)-(4)の工程に従い図1に示す固体電解質接合体10を製造した。
(1)固体電解質層11の製造
Laの粉体とSiOの粉体とをモル比で1:1となるように配合し、エタノールを加えてボールミルで混合した。この混合物を乾燥させ、乳鉢で粉砕し、白金るつぼを使用して大気雰囲気下に1650℃で3時間にわたり焼成した。この焼成物にエタノールを加え、遊星ボールミルで粉砕して焼成粉を得た。この焼成粉を、20mmφの成形器に入れて一方向から加圧して一軸成形した。更に600MPaで1分間冷間等方圧加圧(CIP)を行ってペレットを成形した。このペレット状成形体を、大気中、1600℃で3時間にわたり加熱してペレット状焼結体を得た。この焼結体をX線回折測定及び化学分析に付したところ、LaSiOの構造であることが確認された。
【0057】
得られたペレット800mgと、B粉末140mgとを、蓋付き匣鉢内に入れて、電気炉を用い、大気中にて1550℃(炉内雰囲気温度)で50時間にわたり加熱した。この加熱によって、匣鉢内にB蒸気を発生させるとともにB蒸気とペレットとを反応させ、目的とする固体電解質層11を得た。この固体電解質層11は、La9.33+x[Si6.00-y]O26.0+zにおいて、x=0.50、y=1.17、z=0.16であり、LaとBのモル比は8.43であった(以下、この化合物を「LSBO」と略称する。)。600℃における酸化物イオン伝導率は6.3×10-2S/cmであった。固体電解質層11の厚みは350μmであった。
【0058】
(2)カソード側中間層15及びアノード側中間層16の製造
Sm0.2Ce1.8の粉体を、50mmφの成形器に入れて一方向から加圧して一軸成形し、引き続きホットプレス焼結を行った。焼結の条件は、窒素ガス雰囲気、圧力30MPa、温度1200℃、3時間とした。このようにしてスパッタリング用のターゲットを得た。このターゲットを用いて高周波スパッタリング法によって、LSBOからなる固体電解質層11の各面にスパッタリングを行い、サマリウムがドープされた酸化セリウム(以下「SDC」ともいう。)のスパッタリング層を形成した。スパッタリングの条件は、RF出力が30W、アルゴンガスの圧力が0.8Paであった。スパッタリング後、大気中、1400℃にて1時間のアニーリングを行い、LSBO中に含まれるランタンをスパッタリング層に熱拡散させてSDCにランタンを含有させた。このようにしてランタンを含むSDC(以下「La-SDC」ともいう。)からなるカソード側中間層15及びアノード側中間層16を製造した。各中間層15,16の厚みはいずれも300nmであった。カソード側中間層15及びアノード側中間層16それぞれにおけるLa/Ceの元素比、及びSm/Ceの元素比は以下の表1に示すとおりである。
【0059】
(3)カソード12及びアノード13の製造
カソード12及びアノード13を構成する酸化物として、立方晶ペロブスカイト構造を有するLa0.6Sr0.4Co0.78Fe0.2Ni0.023-δ(以下「LSCFN」ともいう。)の粉末を用いた。この酸化物は次の方法で得た。まず、硝酸ランタン、硝酸ストロンチウム、硝酸コバルト、硝酸鉄及び硝酸ニッケル並びにDL-リンゴ酸をイオン交換水に溶解させ、攪拌しながらアンモニア水を添加してpHを5.0~6.0程度に調整した。次いで約350℃で溶液を蒸発させて粉末を得た(ビルドアップ法)。得られた粉末を乳鉢で粉砕した。このようにして得られた粉末を空気中900℃で5時間仮焼成することで、目的とするLSCFNの粉末を製造した。X線回折ピークから、このLSCFNが、立方晶ABO3-δで表されるペロブスカイト構造の単相であることを確認した。
α-テルピネオールにエチルセルロースを溶解させたバインダーにLSCFNの粉末を分散させて25質量%のペーストを調製した。このペーストを固体電解質層11の各表面に塗布して塗膜を形成した。これらの塗膜を大気雰囲気下に900℃で5時間にわたり焼成して、多孔質体からなるカソード12及びアノード13を得た。カソード12及びアノード13の厚みはいずれも20μmであった。
【0060】
LSCFN粉末を仮焼成して得られた仮焼成物を用いて各種評価を行った。画像解析ソフトウェアImageJを用いて算出した、LSCFNの平均粒子径は188nmであり、粒子の輪郭線の長さDに対する、隣り合う粒子と重なっている部分の長さCの割合であるC/Dの値は0.78であった。一次粒子径P1及び二次粒子径P2は、下記条件で測定したX線小角散乱測定のデータを用い、株式会社リガク製ソフトウェア「NANO-Solver」によって解析して求めた。スリット補正を実施し、試料が無い状態での測定結果でバックグラウンド処理を実施し、散乱体モデルは球体とし、サイズのバラつきはΓ関数に従うと仮定した。精密化では、解析範囲は0.14~1.4deg.とし、バックグラウンドも精密化した。また、2つの粒径分布の散乱体モデルと仮定し、一次粒子径P1及び二次粒子径P2を算出した。初期値は走査型電子顕微鏡像から得られた値とし、精密化の手順は、まず、0.14~0.5deg.で精密化の後、0.14~1.0deg.で精密化し、最後に0.14~1.4deg.の範囲で精密化を行った。各角度範囲における精密化においては、精密化毎に解析値の変動が少ない十分収束した状態まで実施した。なお、第1電極層12及び第2電極層13に用いたLSCFN粉末(仮焼成後)の走査型電子顕微鏡像を図2に示す。
【0061】
LSCFN粉末の仮焼成の条件は以下のとおりである。焼成雰囲気は空気とする。焼成温度は900℃とする。焼成時間は5時間とする。昇温速度は200℃/minとする。降温速度は300℃/minとする。
【0062】
<X線小角散乱測定条件>
・装置名:株式会社リガク製「SmartLab」
・走査軸:2θ
・走査範囲:0~4deg
・走査速度:0.1deg/min
・ステップ幅:0.02deg
・光学系:小角散乱仕様
・試料位置:粉末試料をカプトンテープで保持し、透過で測定
【0063】
(4)集電層の製造
カソード12及びアノード13の表面に、白金ペーストを塗布して塗膜を形成した。これらの塗膜を大気中で、700℃で1時間焼成して、集電層を得た。このようにして固体電解質接合体10を製造した。
【0064】
〔実施例2〕
実施例1において、(3)の工程で、LSCFNに代えて立方晶ペロブスカイト構造を有するBa0.95La0.05FeO3-δ(以下「BLF」ともいう。)を用いた。X線回折ピークから、この酸化物が、立方晶ABO3-δで表されるペロブスカイト構造の単相であることを確認した。これ以外は実施例1と同様にして固体電解質接合体10を得た。
【0065】
〔実施例3〕
実施例1において、(3)の工程で、LSCFNに代えて立方晶ペロブスカイト構造を有するBaFe0.5Cu0.53-δ(以下「BFC」ともいう。)を用いた。X線回折ピークから、この酸化物が、立方晶ABO3-δで表されるペロブスカイト構造の単相であることを確認した。これ以外は実施例1と同様にして固体電解質接合体10を得た。
【0066】
〔実施例4〕
実施例1において、(3)の工程で、LSCFNに代えて立方晶ペロブスカイト構造を有するBa0.85La0.15Fe0.9Cu0.13-δ(以下「BLFC0.1」ともいう。)を用いた。X線回折ピークから、この酸化物が、立方晶ABO3-δで表されるペロブスカイト構造の単相であることを確認した。これ以外は実施例1と同様にして固体電解質接合体10を得た。
【0067】
〔実施例5〕
実施例1において、(3)の工程で、LSCFNに代えて立方晶ペロブスカイト構造を有するBa0.5La0.5Fe0.55Cu0.453-δ(以下「BLFC0.45」ともいう。)を用いた。X線回折ピークから、この酸化物が、立方晶ABO3-δで表されるペロブスカイト構造の単相であることを確認した。これ以外は実施例1と同様にして固体電解質接合体10を得た。
【0068】
〔実施例6〕
実施例1において、(2)の工程で用いたSm0.2Ce1.8に代えて、Gd0.2Ce1.8を用い、ランタンを含み且つガドリニウムがドープされた酸化セリウム(以下「La-GDC」ともいう。)から構成されるカソード側中間層15及びアノード側中間層16を製造した。これ以外は実施例1と同様にして固体電解質接合体10を得た。カソード側中間層15及びアノード側中間層16それぞれにおけるLa/Ceの元素比、及びGd/Ceの元素比は以下の表1に示すとおりである。
【0069】
〔実施例7〕
実施例1において、(2)の工程でのアニーリングを、1400℃にて10分間行った。これ以外は実施例1と同様にして固体電解質接合体10を得た。
【0070】
〔比較例1〕
実施例1において、(2)の工程でのアニーリングを1200℃にて2時間行った。エネルギー分散型X線分光法(EDS)による定量分析の結果、カソード側中間層15及びアノード側中間層16にLaは検出されなかった。したがって、カソード側中間層15及びアノード側中間層16はSDCから構成されるものであった。また(3)の工程で、LSCFNに代えて白金を用いた。白金からなる電極の形成のために、カソード側中間層15及びアノード側中間層16の表面に、白金ペーストを塗布して、900℃で1時間焼成した。これ以外は実施例1と同様にして固体電解質接合体を得た。
【0071】
〔比較例2〕
実施例1において、(2)の工程で用いたSm0.2Ce1.8に代えて、La0.2Ce1.8を用い、ランタンがドープされた酸化セリウム(以下「LDC」ともいう。)から構成されるカソード側中間層及びアノード側中間層を製造した。また、(2)の工程でのアニーリングを行わなかった。また(3)の工程で、LSCFNに代えて白金を用いた。白金からなる電極の形成のために、カソード側中間層15及びアノード側中間層16の表面に、白金ペーストを塗布して、900℃で1時間焼成した。これ以外は実施例1と同様にして固体電解質接合体10を得た。カソード側中間層及びアノード側中間層それぞれにおけるLa/Ceの元素比は以下の表1に示すとおりである。
【0072】
〔比較例3〕
実施例1において、(3)の工程で、LSCFNに代えて、固相反応法で製造した菱面体晶ペロブスカイト構造を有するLa0.5Sr0.4Co0.2Fe0.83-δ(以下「LSCF」ともいう。)を用いた。出発原料には、酸化ランタン、炭酸ストロンチウム、酸化コバルト及び酸化鉄粉末を用いた。これらの粉末を秤量し、化学量論的比率で混合し、1200℃において3時間焼成を行った。焼成後、焼成物をボールミルで1時間粉砕してLSCFを得た(ブレークダウン法)。これ以外は実施例1と同様にして固体電解質接合体を得た。なお、第1電極層12及び第2電極層13に用いたLSCF粉末の走査型電子顕微鏡像を図3に示す。
【0073】
〔評価〕
実施例及び比較例で得られた固体電解質接合体について、電流密度を以下の方法で測定した。その結果を以下の表1に示す。
【0074】
〔電流密度の測定〕
測定は600℃で行った。ただし実施例1については500℃及び400℃においても測定を行った。大気中で固体電解質接合体の集電体間に直流0.5Vを印加し、電流密度を測定した。
【0075】
【表1】

【0076】
表1に示す結果から明らかなとおり、各実施例で得られた固体電解質接合体は、比較例1-3に比べて600℃において高い電流密度が得られることが判る。つまり各実施例において固体電解質接合体は全体としての酸化物イオン伝導性が高く、固体電解質接合体における電気抵抗が低減されていることが判る。また、実施例1で得られた固体電解質接合体は、500℃及び400℃でも電流が得られていることが判る。つまり実施例1で得られた固体電解質接合体においては、600℃よりも低温であっても作動可能であることが判る。
【産業上の利用可能性】
【0077】
本発明によれば、固体電解質を備えたデバイスの酸化物イオン伝導性が向上する。
図1
図2
図3