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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-05-11
(45)【発行日】2023-05-19
(54)【発明の名称】方法
(51)【国際特許分類】
   A61K 39/395 20060101AFI20230512BHJP
   C07K 16/18 20060101ALI20230512BHJP
   C07K 16/46 20060101ALI20230512BHJP
   A61P 37/08 20060101ALI20230512BHJP
   A61P 37/00 20060101ALI20230512BHJP
   A61P 37/02 20060101ALI20230512BHJP
   A61P 11/06 20060101ALI20230512BHJP
   A61P 1/16 20060101ALI20230512BHJP
   A61P 1/00 20060101ALI20230512BHJP
   C07K 16/28 20060101ALI20230512BHJP
   C12P 21/08 20060101ALN20230512BHJP
【FI】
A61K39/395 N
C07K16/18
C07K16/46
A61P37/08
A61P37/00
A61P37/02
A61K39/395 D
A61P11/06
A61P1/16
A61P1/00
C07K16/28 ZNA
C12P21/08
【請求項の数】 16
(21)【出願番号】P 2020519975
(86)(22)【出願日】2018-10-19
(65)【公表番号】
(43)【公表日】2021-02-04
(86)【国際出願番号】 AU2018051136
(87)【国際公開番号】W WO2019075523
(87)【国際公開日】2019-04-25
【審査請求日】2021-09-28
(31)【優先権主張番号】17197541.0
(32)【優先日】2017-10-20
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(31)【優先権主張番号】18194394.5
(32)【優先日】2018-09-14
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(73)【特許権者】
【識別番号】500021413
【氏名又は名称】シーエスエル、リミテッド
(73)【特許権者】
【識別番号】502134650
【氏名又は名称】カナディアン ブラッド サービシーズ
(74)【代理人】
【識別番号】100127926
【弁理士】
【氏名又は名称】結田 純次
(74)【代理人】
【識別番号】100140132
【弁理士】
【氏名又は名称】竹林 則幸
(72)【発明者】
【氏名】アラン・ラザラス
(72)【発明者】
【氏名】ファビアン・ケーゼルマン
(72)【発明者】
【氏名】サンドラ・ケーニグ
(72)【発明者】
【氏名】アンドリュー・クロウ
【審査官】石井 裕美子
(56)【参考文献】
【文献】特表2015-508770(JP,A)
【文献】特表2013-508442(JP,A)
【文献】特表2013-541504(JP,A)
【文献】特表平09-509572(JP,A)
【文献】国際公開第2011/137354(WO,A1)
【文献】国際公開第2010/057626(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61K 39/00-39/44
A61P 1/00-43/00
C07K 16/00-16/46
C12P 21/08
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
炎症状態を防止または処置する方法での使用のための、赤血球(RBC)に対する単離された抗体を含む医薬組成物であって、
投与される前記医薬組成物中における、前記抗体は任意の抗原に結合されず、
前記抗体はさらなるタンパク質またはペプチドを有する融合タンパク質ではなく、
前記医薬組成物は任意の細胞を含まず、および/または細胞が該組成物と共投与されるものではなく、
前記抗体はFc領域を含み、および/またはFc受容体に結合し、
該炎症状態は、ITPではない自己免疫状態である前記医薬組成物。
【請求項2】
炎症状態は、神経学的自己免疫状態である、請求項1に記載の医薬組成物。
【請求項3】
炎症状態は、健康な対象と比較してIL-10が上昇した自己免疫状態である、請求項1に記載の医薬組成物。
【請求項4】
抗体は、1つまたはそれ以上の他の血液細胞および/または血管系に関連する細胞よりもRBC上に高密度で見出されるRBC分子に結合する、請求項1に記載の医薬組成物。
【請求項5】
抗体は、モノクローナル抗体およびヒト抗体またはヒト化抗体である、請求項1~4のいずれか1項に記載の医薬組成物。
【請求項6】
抗体は、IgG1、IgG2、IgG3またはIgG4型等のIgG型である、請求項5に記載の医薬組成物。
【請求項7】
Fc受容体、FcγRI(CD64)、FcγRIIA(CD32)、FcγRIIB(CD32)、FcγRIIIA(CD16a)、およびFcγRIIIB(CD16b)等のFcγ受容体(FcγR)である、請求項1~6のいずれか1項に記載の医薬組
成物。
【請求項8】
自己免疫状態は、自己抗体媒介自己免疫状態である、請求項1~7のいずれか1項に記載の医薬組成物。
【請求項9】
状態は、
(i)慢性炎症性脱髄性多発ニューロパチー(CIDP)、重症筋無力症(MG)、多発性硬化症(MS)および視神経脊髄炎(NMO)から選択される、
(ii)関節リウマチおよびTRALIから選択される、
請求項1~8のいずれか1項に記載の医薬組成物。
【請求項10】
RBC抗体は、ペプチドエピトープに結合する、請求項1~8のいずれか1項に記載の医薬組成物。
【請求項11】
RBC抗体は、RhDタンパク質、グリコホリンA(GPA)タンパク質、TER-119抗原(Ly76)のヒト相同分子種、およびBand3から選択されるRBC分子に結合する、請求項1~10のいずれか1項に記載の医薬組成物。
【請求項12】
RBC抗体は、細胞あたり102~105コピーの密度で見出されるRBC分子に結合する、請求項1~11のいずれか1項に記載の医薬組成物。
【請求項13】
抗体は、静脈内、筋肉内、腹腔内、脳脊髄内、脳内、皮下、関節内、関節滑液嚢内、髄腔内、肺内、鼻腔内、皮内局所投与によって、または吸入によって投与される、請求項1~12のいずれか1項に記載の医薬組成物。
【請求項14】
抗体は、1つまたはそれ以上の他の治療剤、少なくとも1つの他の抗炎症剤、または炎症状態を処置するためもしくはそれらの症状を軽減するために使用される薬剤と組み合わせて投与され該1つまたはそれ以上の他の治療剤が抗炎症剤、免疫抑制剤、および/または鎮痛剤から選択される、請求項1~13のいずれか1項に記載の医薬組成物。
【請求項15】
a.抗体の投与は、抗原のもしくは抗原に対する寛容をもたらさず、該抗原は、自己免疫状態に関与するまたは自己免疫状態を起こす抗体と投与されるタンパク質またはペプチドである、および/または
b.該抗体は、任意の非免疫グロブリン配列を含有せず、該抗体は、免疫グロブリン配列からなり、さらなる(例えばNまたはC末端に融合した)配列が存在しない、請求項1~14のいずれか1項に記載の医薬組成物。
【請求項16】
抗体は、組成物として対象に投与される、請求項1~14のいずれか1項に記載の医薬組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、炎症性障害の処置または防止での使用のための赤血球に対する抗体、および炎症性障害を処置または防止する方法であって、赤血球に対する治療有効量の抗体を、それを必要とする対象に投与する工程を含む方法に関する。
【背景技術】
【0002】
炎症性障害は、炎症によって特徴付けられる多くの疾患および状態を含む。例としては、特に、アレルギー、喘息、自己免疫疾患、セリアック病、糸球体腎炎、肝炎および炎症性腸疾患が挙げられる。
【0003】
炎症性障害の現在の処置は、疾患自体と同様に広範囲にわたるが、1つの手法はこれらの疾患を処置する静脈内免疫グロブリン(IVIg)の使用である。一般に健康な個体の血漿から得られる多特異性IgGを集めた治療製剤であるIVIg調製物は、1980年代初期から利用可能であり、原発性または続発性免疫不全症の処置のために使用されてきた。その多様な抗炎症性および免疫調節性特性により、IVIgは広範な自己免疫状態および炎症状態において成功裏に使用される。承認された自己免疫兆候としては、突発性血小板減少性紫斑病(ITP)、川崎病、ギランバレー症候群、および他の自己免疫神経症、重症筋無力症、皮膚筋炎、およびいくつかの奇病があげられる(非特許文献1)。
【0004】
他の処置も、抗体を含む。例えば、モノクローナル抗体(mAb)も、炎症性疾患の処置に使用される。これらのmAbの多くは、関節リウマチ、クローン病、潰瘍性大腸炎、脊椎関節症、若年性関節炎、乾癬、乾癬性関節炎、およびその他を含むいくつかの炎症性疾患および免疫疾患の治療のために認可された、炎症に役割を有する分子、例えば抗腫瘍ネクローシス因子(抗TNF)、抗インターロイキン-1(抗IL-1)受容体、抗IL-6受容体、抗α4インテグリンサブユニット、および抗CD20剤を標的化する。
【0005】
赤血球(RBC)に結合する抗体は、免疫性血小板減少症(ITP)を有する患者、およびRh陰性である母親のRh同種免疫のための第一選択治療として、2つの目的だけのために治療的に使用される。
【0006】
ITPがいくつかの血小板表面抗原に対して検出可能な抗体を有する自己免疫疾患であり、ITPの典型的特徴の1つは血小板数の低下であるため、初めは、抗RBC抗体、例えば「抗D」(ヒト血漿から精製された抗D免疫グロブリンの混合物)の、単核食細胞系(MPS、以前は網膜内皮系(RES)として公知)における食細胞によるオプソニン化された血小板のクリアランスを競合的に阻害する能力に基づいて、ITPの処置での使用は実行された。血小板数の低下は、少なくとも部分的には、IgG自己抗体による血小板のコーティングの結果として生じ、これが次に、それらを脾臓マクロファージならびに肝臓のクッパー細胞によるオプソニン化および食作用に対して感受性にする。これらの抗体を導入することによって、RBCは抗体によってコートされ、続いて単核食細胞系(MPS、以前はRESとして公知)によってクリアランスされるため、ITP処置は有効であると提案されている。このクリアランスは、同じ経路によって生じるオプソニン化された血小板のクリアランスと競合し、自己抗体-オプソニン化された血小板のクリアランスの低減をもたらす。
【0007】
この理論は、ITP患者が脾臓除去後、抗Dに最小の応答を示すまたは応答しないという観察によって支持される。抗Dオプソニン化RBCは、オプソニン化された血小板のインビトロでの食作用も防止し得る。
【0008】
いくつかの異なるマウスRBC分子(例えば、CD24およびTER-119抗原)に対するモノクローナル抗体は、マウスモデルにおいて血小板減少症を成功裏に改善することが示された(特許文献2)。マウスにおいて、CD24はRBCによって発現されるようであるが、ヒトRBCで発現されるとは考えられていない。さらなる研究では、RhDを発現しないがRhcを発現するITP患者は、抗Rhcによって成功裏に処置された(特許文献3)。
【0009】
しかしながら、驚くべきことに、TER-119抗原に対する抗体によるITPの改善は急速に、および(RBCクリアランスによって誘導された)貧血症の測定可能な発症前に生じることが、本発明者らによって観察された。この観察に基づき、以前に提案された簡単なMPS遮断メカニズムは、抗体の効果を説明するのに不十分なようであり、広範な抗炎症活性が関与していることをさらに示す。これは、古典的なMPS機能が関与しない炎症性疾患、特に炎症性関節炎および輸血関連急性肺傷害(TRALI)をTER-119抗原に対する抗体が改善できるというマウスモデルにおける本発明者らの実証によって確かめられた。試験した抗TER-119抗原抗体は、マウスにおいて関節炎の誘発を防止し、また確立された疾患も改善できる。さらに、それは、TRALIのマウスモデルにおける低体温症を防止し、肺浮腫を低減することができた。これに基づき、抗RBC抗体は炎症性障害に著しい治療能力を有する。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0010】
【文献】Hartung HPら、Clin Exp Immunol.2009;158(補遺1):23~33頁
【文献】Song S.ら、Blood.2003;101(9):3708~3713頁
【文献】Oksenhendler Eら、Blood.1988;71:1499~1502頁
【発明の概要】
【課題を解決するための手段】
【0011】
したがって、本発明は、炎症状態を処置または防止する方法での使用のための赤血球に対する抗体を提供する。
【0012】
赤血球に対する治療有効量の抗体を、それを必要とする対象に投与する工程を含む、対象において炎症状態を処置または防止する方法も提供される。
【0013】
炎症状態を処置または防止する医薬の製造のための赤血球に対する抗体の使用も提供される。
【0014】
いくつかの実施形態では、RBCに対する抗体は、RBC分子、好ましくはRBC膜貫通分子に特異的に結合する。
【0015】
いくつかの実施形態では、RBCに対する抗体は、ポリクローナルまたはモノクローナル抗体である。抗体は、単一特異性または多特異性(例えば単一特異性)であってよい。いくつかの実施形態では、抗体は、単離された、ポリクローナル、モノクローナル、多特異性、単一特異性、マウス、ヒト、完全ヒト、ヒト化、霊長類化またはキメラ抗体である。特定の一実施形態では、RBC抗原に対する抗体は、モノクローナルヒトまたはヒト化抗体またはミニボディ(Fab部分の定常領域を欠損している抗体断片)である。いくつかの実施形態では、RBCに対する抗体はFab、Fab’、F(ab’)2、Fd、Fv、一本鎖Fv(scFv)およびジスルフィド結合Fv(sdFv)、ダイアボディ、トリアボディ、テトラボディから選択され;好ましくはそのような断片はFcを含む部分に結合または融合される。
【0016】
いくつかの実施形態では、RBCに対する抗体は、IgGまたはIgM型のものであり、特に、任意の型のラット、マウス、ヒトまたはヒト化IgGもしくはIgMであってよく、好ましくは、ヒトまたはヒト化IgGもしくはIgMであってよい。ヒトまたはヒト化IgGは、例えばIgG1、IgG2、IgG3またはIgG4型のものであってよい。ラットまたはマウスIgG(例えば、ラットIgG1、IgG2a、IgG2bもしくはIgG2c、またはマウスIgG2a、IgG2b、IgG2c、IgG3もしくはIgG4)も使用される。RBC抗原に対する抗体は、好ましくはFc領域を含み、好ましくはFc受容体、例えば、FcγRI(CD64)、FcγRIIA(CD32)、FcγRIIB(CD32)、FcγRIIIA(CD16a)、FcγRIIIB(CD16b)のようなFcγ受容体(FcγR)に結合する。
【0017】
いくつかの実施形態では、炎症状態は自己免疫状態、例えば自己抗体媒介自己免疫状態である。自己免疫状態は、上昇したIL-10が存在する(例えば健康な対象と比較して)状態であってよい。自己免疫状態は、いくつかの実施形態ではITPではない神経学的状態であってよい。自己免疫状態は、(i)慢性炎症性脱髄性多発ニューロパチー(CIDP)、重症筋無力症(MG)、多発性硬化症(MS)および視神経脊髄炎(NMO)から選択される、または(ii)関節リウマチおよびTRALIから選択される。
【0018】
いくつかの実施形態では、RBC抗体はペプチドエピトープに結合する。いくつかの実施形態では、RBC抗体は、RhDタンパク質、GPA、TER-119抗原(Ly76)のヒト相同分子種、およびBand3から選択されるRBC分子に結合する。いくつかの実施形態では、RBC抗体は、RBCあたり10~10コピーの密度で見出されるRBC分子に結合する。抗体は任意の経路、例えば非経口または非-非経口(non-parenteral)によって投与される。好ましい非経口経路としては、静脈内、筋肉内、腹腔内、脳脊髄内、皮下、関節内、関節滑液嚢内、髄腔内、局所投与または吸入が挙げられる。典型的には、RBCに対する抗体は、静脈内または皮下投与によって投与される。
【0019】
いくつかの実施形態では、RBCに対する抗体は、対象の体重の約0.001mg/kg~約100mg/kgの量の抗体が、所与の時間スケール、例えば1日、または1週間、2週間または1ヵ月で投与されるように投与される。ある特定の実施形態では、そのような重量ベースの投与量は、1日または1週間、2週間または1ヵ月あたり約0.01mg/kg体重、1日または1週間、2週間または1ヵ月あたり約0.3mg/kg体重、約1mg/kg体重、1日または1週間、2週間または1ヵ月あたり約3mg/kg体重、および1日または1週間、2週間または1ヵ月あたり約10mg/kg体重から選択される。
【0020】
いくつかの実施形態では、RBCに対する抗体は、固定投与量で投与される。特定の実施形態では、RBCに対する抗体は、約50μg~約2000mgの固定投与量の抗体の量が所与の時間スケール、例えば1日、1週間、2週間または1ヵ月で投与されるように投与される。
【0021】
投与レジメンは、したがって、所与の時間スケールで対象に投与される抗体の量に関して規定される。その時間スケールの間に投与される頻度は、各時間に投与される抗体の量を決定する。例えば、投与量が10mg/kg/週である場合、これは単回10mg/kg投与または適切に低減した量の抗体により複数回投与として投与される(例えば、1週間で25mg/kg用量)。いくつかの実施形態では、RBCに対する抗体は、単回投与として(例えば、毎日、毎週、2週間毎に1回、毎月1回)、または投与される度に抗体の量が少ない場合、より頻繁に複数回投与として投与される。皮下経路による一般的な投与では、静脈内投与(例えば2週間毎に1回または月1回)よりもより頻繁に(例えば1日1回)実行される。
【0022】
いくつかの実施形態では、本発明の方法は、治療有効量の1つまたはそれ以上の他の治療剤、好ましくは少なくとも1つの他の抗炎症剤、または炎症状態を処置するため、またはそれらの症状を軽減するために使用される薬剤、例えば抗炎症剤、免疫抑制剤または鎮痛剤を対象にさらに投与する工程を含む。
【0023】
いくつかの実施形態では、抗体は、好ましくはRBCに結合する。例えば、RBC抗体が結合するRBC分子は、1つまたはそれ以上の他の血液細胞および/または血管系と関連する細胞よりもRBC上に高密度で見出される。
【0024】
いくつかの実施形態では、抗体はヒト、または好適なインビボの動物モデルにおいてMPS遮断を起こし、またはインビボ、例えば動物モデルにおいてもしくはヒトにおいて溶血を起こし、またはインビトロアッセイでオプソニン化した血小板の食作用を阻害する。
【図面の簡単な説明】
【0025】
図1】抗体クローニング戦略を示す図である。ベクターおよび断片は、示した酵素を使用して消化され、T4 DNAライゲースによってクローニングされた。組換えクローンは、InTagアダプターに位置するクロラムフェニコール耐性マーカー(CmR)を使用して選択された。pCMV:CMVプロモーター、pA:BGHポリA、S:ERシグナル配列。
図2-1】マウスITPの改善が、検出可能な貧血症の前に生じ得ることを示す図である。C57B1/6マウスは、ラットIgG 45μgの(A、B)またはTER-119抗体45μg(C、D)によって前処置され、血小板ならびに赤血球は、X軸に示した期間に数えられた。ITPは、X軸に示した時点で抗血小板抗体(MWReg30)2μgによって誘導された。血小板は、MWReg30注射の1時間後に数えられた。左のy軸は血小板数を表し(白い四角)、右のy軸はRBC数を表す(黒い三角)。データは、5回の別々の実験、全部で90匹のマウスの平均±SEMとして表される。血小板減少症では、P<0.05、**P<0.001、***P<0.0001。
図2-2】図2-1の続き。
図3】モノクローナルRBC特異的抗体TER-119が炎症性関節炎および輸血関連急性肺障害を阻害することを示す図である。0日目、C57B1/6マウスは基底の関節炎測定のためにアセスメントされた(A、B)。マウスの1つの群はTER-119抗体45μgを受け(白い丸)、他の群は何も受けなかった(白い四角)。2時間後、全てのマウスはK/B×N血清の注射を受けた。足首測定(A)および臨床スコア(B)は、Mott PJら、PLoS One.2013;8(6):e65805にしたがって10日間毎日とられた。データは5回の別々の実験の平均±S.E.Mとして表される。n=16(K/B×N血清のみ);n=13(TER-119)。P<0.005;**P<0.0001。 独立した実験では、マウスは、前処置無しでK/B×N血清の注射を受ける。5日目に、関節炎のマウスは、処置(矢印)無し(白い丸)、30F1抗体50μg(白い三角)またはTER-119抗体45μg(白い丸)によって処置された。足首測定(C)および臨床スコア(D)は、Mott PJら、PLoS One.2013;8(6):e65805にしたがって0、1、2および5~9日目に測定された。データは4回の別々の実験の平均±S.E.Mとして表される。n=5(K/B×N血清のみ);n=6(TER-119);n=7(30-F1)。P<0.01;**P<0.0001。 TRALI実験のため、SCIDマウスは、24時間、TER-119抗体40μgを注射される(白い丸、白い三角)、または未処置のままであった(白い四角)。マウスは、次いで34-1-2s 50μgを注射される(白い三角、白い四角)、または何も注射されなかった(白い丸)。直腸温度は、2時間の間30分毎に測定された(E)。マウスは続いて2時間で犠牲にされ、肺浮腫がアセスメントされた(F)。データは4回の別々の実験の平均±S.E.Mとして表される。n=4(TER-119);n=5(34-1-2S);n=14(TER-119+34-1-2S)。P=0.006;**P=0.001。
図4-1】コラーゲンAb誘導関節炎(CAbIA)へのTER-119の治療効果を示す図である。(A)CAbIAが確立されたマウスは、TER-119 2mg/kgまたはアイソタイプ対照mAb(ラットIgG2b)の単回i.v.注射によって5日目に処置された。臨床スコアは、Campbell IKら、J Immunol.2014;192:5031~5038頁にしたがってアセスメントされた。データは平均±SEM(n=9)である。(B)実験の12日目のマウスの全組織学的スコア。点は、個々のマウスを表す;バーは平均±SEMを示す。***P<0.001、アイソタイプ対照と比較、Mann-Whitney検定(両側)。(C)および(D)は、コラーゲンAb誘導関節炎(CAbIA)における臨床スコアへの異なる用量のTER-119の効果を示す。(E)関節での浸潤細胞の数をアセスメントするため、各マウスからの膝蓋骨が回収され、消化され、視覚的に数えられた浸潤する白血球を示す。(F)1mg/kg用量でのTER-119は、1.5および2mg/kg用量と比較してRBCの表面での著しく低い結合抗体を生じ、これは臨床スコアと相関する。(G)全ての用量のTER-119抗体は、関節炎マウスの関節でC1q、C3およびC5aレベルを低減する。補体成分C1q(A)、C3(B)およびC5a(C)は、ELISAによって滑液からアセスメントれた。データは、対照群に対するone-way ANOVA検定とHolm-Sidak多重比較検定によって分析された。P<0.05;**P<0.01;***P<0.001;****P<0.0001。(H)CAbIAが確立されたマウスは、TER-119、アイソタイプ対照mAb、脱グリコシル化TER-119またはM1/69によって6日目に処置された。臨床スコアおよび足幅がアセスメントされた。統計的な比較は、Two-way ANOVAとDunnett多重比較検定を使用して算出された(アイソタイプ対照に対する全ての群)。(I)フローサイトメトリーによってアセスメントされた、C57BL/6マウス由来の赤血球と抗体(一次抗体0~512ng)の結合を示す。
図4-2】図4-1の続き。
図4-3】図4-2の続き。
図4-4】図4-3の続き。
図4-5】図4-4の続き。
図4-6】図4-5の続き。
図5】TER-119オプソニン化RBCの用量依存的食作用係数を示す図である。赤血球はC57B/6マウスから得られ、様々な濃度のTER-119によって非オプソニン化(対照)またはオプソニン化され、次いで30分間RAW264.7マクロファージとインキュベートされた。食作用係数は、摂取されたRBCの総数を計数し、これをフィールド内のマクロファージの総数によって割り、100倍することによって算出された(群あたりn=5)。**P<0.01、***P<0.001。
図6】TER-119オプソニン化赤血球とインキュベートした血小板の食作用係数を示す図である。RAW264.7細胞は終夜培養され、次いでCMFDAによって標識され、Mwreg30によってオプソニン化された血小板は、37℃で30分間、TER-119オプソニン化RBC有りまたは無しのいずれかでRAW細胞に添加された。血小板食作用係数が算出された。***P<0.05。(群あたりn=5)。
図7】抗赤血球抗体コートしたRBCの、血小板食作用を阻害する能力を示す図である。赤血球は、非オプソニン化または1時間、抗体TER-119、脱グリコシル化TER-119、34-3C(5または40μg)およびM1/69によってオプソニン化され、次いで、30分間RAW264.7細胞およびMWReg30オプソニン化CFMDA標識された血小板とインキュベートされた。細胞は、共焦点顕微鏡によって可視化され、内部移行した血小板はImaris software version 8.0.2によって数えられた。(P<0.05)。(群あたりn=4~6)。
図8】マウスIgGスイッチバリアントとして発現された6つのTER-119が、受動抗体伝達非依存的にコラーゲン誘導関節炎(CIA)の慢性モデルを処置し得ることを示す図である。II型コラーゲンに対して免疫されたDBA-1マウスは、関節炎を発症させられ、次いでPBS(四角、n=7マウス)、マウスIgG1サブタイプとして発現された(三角、n=6マウス)、またはマウスIgG2aサブタイプとして発現された(下向き三角、n=6マウス)TER-119 2mg/kgによって処置され(矢印によって示したタイミング)、関節炎の臨床スコアは実験の経過にわたって評価された。
図9】コラーゲンAb誘導関節炎(CAbIA)への34-3C(抗Band3抗体)の治療効果を示す図である。(A)CAbIAが確立されたマウスは、抗Band 3mAb(クローン34-3C、マウスIgG2a)2mg/kgまたはPBSの単回i.v.注射によって5日目に処置された。臨床スコアは、Campbell IKら、J Immunol.2014;192:5031~5038頁にしたがってアセスメントされた。データは平均±SEM(n=4/5)である。(B)実験の6日目と12日目の間のマウスの臨床スコアの平均を示す図である。点は、個々のマウスを表す;バーは平均±SEMを示す。データは、Mann-Whitney検定(両側)によって分析された。P<0.05。
【発明を実施するための形態】
【0026】
本発明は、炎症状態の処置におけるRBCに対する抗体の使用に関し、RBC TER-119抗原に対する抗体が、この抗体の溶血作用の前に生じる炎症状態免疫性血小板減少症(ITP)への作用を有するという、本発明者らの驚くべき発見に基づく。この抗体および他のRBC枯渇性抗体のITPへの作用は、同じ経路によって血小板の枯渇を競合的に阻害する単核食細胞系(MPS)によるオプソニン化RBCクリアランスの結果として生じることが以前から考えられてきた。しかしながら、RBCへの作用とITPの改善との間のタイミングのこの違いは、血小板の数によってアセスメントされるように、抗RBC抗体が広範な抗炎症活性を有し、したがってそのような抗体にはITP治療を超えて炎症を含む他の疾患に広がる効用があるという結論を支持する。
【0027】
この広範な抗炎症活性のこの存在は、抗RBC抗体の古典的なMPS機能が関与しない3つの別々の炎症性疾患を改善する能力によって支持される。第1に、抗RBC抗体は、関節リウマチの周知のおよび特徴がはっきりしたK/B×Nマウスモデルにおいて関節リウマチの誘導を防止することができ、ここで関節炎の誘導はK/B×Nマウスから血清を移した後に生じる。これは、K/B×N血清による疾患の誘導前に、マウスを抗RBC抗体によって予防的に処置することによって示された。抗RBC抗体によって予防的に処置されたマウスにおいて、そうしなかったマウスと比較して、このマウスモデルのRAをアセスメントする2つの標準パラメーター、臨床関節炎スコアおよび足首幅に明らかな低減があった(Mott PJ、Lazarus AH(2013)PLoS ONE 8(6):e65805)。これに加え、臨床関節炎スコアおよび足首幅のパラメーターに再び基づき、抗RBC抗体は、確立された関節炎疾患も改善することができた。K/B×N血清による疾患誘導の5日後の抗RBC抗体による処置は、臨床スコアおよび足首幅を3日後に正常レベルに戻した。
【0028】
抗RBC抗体は、マウスの周知のおよび特徴がはっきりしたコラーゲン抗体誘導関節炎(CAbIA)モデル(最も一般的に研究された関節リウマチの自己免疫モデル)においても炎症性関節炎を改善することができた(Campbell IKら、J Immunol.2014;192:5031~5038頁。Campbell I Kら、J Immunol.2016;197:4392~4402頁)。CAbIAモデルにおける疾患発生は、FcγR結合と補体系の活性化の両方に依存する(Kagari TDら、J Immunol.203;170(8):4318~4324頁。Nandakumar KSら、Arthritis Res Ther.2006;8(6):223頁)。関節炎の誘導は、抗コラーゲンmAbカクテルの注射およびLPSのよる注射後に生じる。これは、疾患の誘導後に、マウスを抗RBC抗体よって処置することによって示された。処置群間で明らかな違いがあった;処置されたマウスは注射の24時間以内は関節炎から完全に保護され、抗RBC抗体によって処置されたマウスにおいて、処置しなかったマウスと比較して、組織学的スコアの低減が観察された。
【0029】
炎症性疾患のさらなるマウスモデルでは、抗RBC抗体は、MHCクラスI抗体(34-1-2S)のSCIDマウスへの輸注後に観察される低体温症の誘導を防止し、ならびに肺浮腫を改善することができた。これは、ヒト輸血関連急性肺傷害(TRALI)のマウスモデルであり、これは輸血の最も深刻な合併症の1つである。抗RBC抗体の、低体温症の誘導の防止によって決定される全身性ショックを防止する、ならびにITPおよび関節炎におけるものと異なる症状を有するこの炎症性疾患における肺浮腫を改善する能力は、抗RBC抗体の広範な抗炎症作用をさらに支持する。
【0030】
IVIGは30年にわたりITPの処置に使用され、ポリクローナル抗Dは、D抗原(例えば、この処置のためのRhophylac(登録商標)として販売されている)を発現するITPを有する患者における血小板減少症を回復することができるが、抗RBC抗体の広範な抗炎症作用は、以前は認識されていなかった。ITPの処置で使用されるRBCに対するモノクローナル抗体を同定するために研究が行われ、上記の抗TER-119のようなある特定の抗RBCモノクローナル抗体およびさらなる抗CD24抗体がマウスモデルにおいて有効であることが示されたが(Song Sら、Blood.2003;101(9):3708~3713頁)、モノクローナル抗D抗体がITPを有するヒトで試験された小さな研究は成功しなかった(Godeau,B.ら、(1996)Transfusion;36(4):328~330頁)。
【0031】
ITPの処置のための抗体の先の研究の多くは、したがって、そのような抗体のRBCをオプソニン化し、特にMPS経路との競合を提供することにより、血小板破壊を防止する能力に注目した。本発明者らによるこの新しい研究は、しかしながら、より一般的に炎症の処置におけるRBCに対する抗体の新しい治療領域を広げる。本発明者らは、これらの見識がRBCに結合する抗体を使用し、炎症の低減、治癒率の増加、炎症性障害における生存および/または無増悪生存期間の延長を目的とする治療介入の新規の機会を提供することを認識する。
【0032】
本発明は、したがって、対象における炎症状態を防止および処置する方法での使用のためのRBCに対する抗体、ならびに炎症状態を防止または処置する方法であって、それを必要とする対象にRBCに対する治療有効量の抗体を投与する工程を含む方法を提供する。同様の作用は、インビトロで抗D抗体によって感作され、次いで患者に導入された赤血球によって達成されることが示され(Ambriz-Fernandez,R.ら(2002)「Fc receptor blockade in patients with refractory chronic immune thrombocytopenic purpura with anti-D IgG」Arch Med Res 33(6):536~540頁);したがって、本発明は、対象における炎症状態を防止および処置する方法での使用のためのRBCに対する抗体によって感作されたRBCの投与、ならびに炎症状態を防止または処置する方法も提供する。
【0033】
炎症状態
本発明は、炎症状態の処置および/または防止に関する。「炎症状態」により、再発性または慢性であってよく、正常な組織修復と関連しない破壊的な炎症によって特徴付けられる任意の状態を意味する。炎症は慢性炎症であってよい。慢性炎症状態では、好中球および他の白血球がサイトカインおよびケモカインによって恒常的に動員され、組織損傷をもたらす。
【0034】
炎症状態の例は、自己免疫状態、すなわち免疫系が体の自身の組織を攻撃する疾患である。そのような疾患は、特に体の免疫系が炎症を起こす「自己炎症性疾患」を含む。そのような状態は、抗体媒介、および/またはT細胞媒介、および/または体の先天的な免疫系によって媒介される。一実施形態では、本発明の抗体は、自己抗体媒介自己免疫状態を処置するために使用される。
【0035】
炎症状態は、補体媒介であってもよい(例えば、再灌流傷害、または脊髄傷害における補体媒介炎症)。
【0036】
炎症状態は、上昇したIL-10が存在し、関節炎、特に関節リウマチ、川崎病、I型糖尿病、多発性硬化症、全身性エリテマトーデス(SLE)から選択される状態のような自己免疫状態であってよい。
【0037】
代わりに、炎症状態は、上昇したIL-10が存在せず、例えば正常レベルのIL-10がある、またはIL-10が低減された自己免疫状態であってよい。ITP患者および自己免疫性甲状腺炎患者は対照よりも低レベルのIL-10を有する。
【0038】
疾患は、例えば、温度の変化と関連する炎症、自己免疫性血球減少症(例えば、自己免疫性溶血性貧血(AIHA)、自己免疫性好中球減少症(AIN)、自己免疫性血小板減少症(ITP))、原発性抗リン脂質症候群、関節炎(例えば、関節リウマチ、若年性関節炎)、腸疾患(例えば、潰瘍性大腸炎、クローン病、セリアック病)、川崎病、SLE、免疫性血小板減少性紫斑病、虚血/再灌流傷害、I型糖尿病、炎症性皮膚障害(例えば、ざ瘡、乾癬、扁平苔癬、天疱瘡、類天疱瘡)、自己免疫性甲状腺疾患(例えば、グレーブス病、橋本甲状腺炎)、シェーグレン症候群、肺炎症(例えば、喘息、慢性閉塞性肺疾患(COPD)、肺サルコイドーシス、リンパ球性肺胞炎)、移植拒絶、脊髄傷害、脳傷害(例えば、脳卒中、外傷性脳傷害)、神経変性疾患(例えば、アルツハイマー病、パーキンソン病、レビー小体病)、他の神経学的状態(進行性多巣性白質脳症、ALS、慢性炎症性脱髄性多発ニューロパチー(CIDP)、炎症性ニューロパチー、ギランバレー症候群(GBS)、運動ニューロン疾患(MND)、多発性硬化症、重症筋無力症、視神経脊髄炎(NMO)、他の自己免疫チャネル病)、歯肉炎、遺伝子治療誘導性炎症、血管新生の疾患、炎症性腎疾患(例えば、IgA腎症、膜性増殖性糸球体腎炎、急速進行性糸球体腎炎)、スティーブンス・ジョンソン症候群、自己免疫性てんかん、筋肉の炎症(例えば、皮膚筋炎および多発性筋炎)、強皮症、およびアテローム性動脈硬化であり得る。
【0039】
特に関心があるのは、肺傷害(例えば、急性肺障害、輸血関連急性肺傷害(TRALI))、自己免疫性血球減少症、突発性血小板減少性紫斑病/免疫性血球減少症(ITP)、関節リウマチ、全身性エリテマトーデス、喘息、川崎病、ギランバレー症候群、スティーブンス・ジョンソン症候群、クローン病、大腸炎、糖尿病(例えば、1型または2型糖尿病)、慢性炎症性脱髄性多発ニューロパチー(CIDP)、炎症性ニューロパチー、視神経脊髄炎(NMO)、他の自己免疫チャネル病、自己免疫性てんかん、重症筋無力症、皮膚筋炎、多発性筋炎、強皮症、血管炎、ブドウ膜炎、天疱瘡、類天疱瘡、脊髄傷害またはアルツハイマー病である。
【0040】
いくつかの実施形態では、炎症状態は、神経学的状態、例えば神経学的自己免疫疾患である。そのような状態の例としては、慢性炎症性脱髄性多発ニューロパチー(CIDP)、重症筋無力症(MG)、多発性硬化症(MS)、視神経脊髄炎(NMO)、または自己免疫性てんかんが挙げられる。
【0041】
いくつかの実施形態では、炎症状態は、関節炎(例えば関節リウマチ)およびTRALIから選択される。
【0042】
いくつかの実施形態では、炎症状態は、ITPではなく、またはITPもしくは自己免疫性甲状腺炎ではない。他の実施形態では、炎症状態は、IL-10が減少した疾患ではなく、または正常レベルのIL-10がある疾患ではない。
【0043】
IL-10レベルは、当技術分野で公知の標準的な免疫アッセイ(例えば、ELISA)キットを使用して測定される。レベルは、任意の適切なサンプル、例えば血液、血清、血漿、尿、脳脊髄液で測定され、したがって、本明細書においてIL-10のレベルが言及される場合、関連するサンプルでのレベルである。比較は正常、例えば健康な対象と行われる。
【0044】
処置の生物学的読み出し/効果
いずれの特定の理論にも拘束されないが、本発明者らは、本発明に記載の抗RBC抗体の使用が以下に有用であると考える:(i)炎症状態の炎症を低減する、(ii)状態の臨床症状を低減および/または遅延する(炎症状態の炎症の作用であってよい)、(iii)炎症状態を有する対象の生存を延長する、(iv)そのような状態に苦しむ患者の生活の質を高める、(v)患者の治療の利便性を高める、および/または(vi)炎症状態を処置するために使用される他の薬物の効能を高める。
【0045】
炎症状態を処置する方法であって、RBCに対する有効量の抗体を対象に投与する工程を含む方法が提供される。いくつかの実施形態では、本発明の方法は、炎症状態において炎症を低減する方法、状態の臨床症状(例えば炎症状態の炎症の作用)を低減および/または遅延する方法、炎症状態を有する対象の生存を延長する方法、そのような状態に苦しむ患者の生活の質を高める方法、患者の治療の利便性を高める方法、および/または炎症状態を処置するために使用される1つまたはそれ以上の他の薬物の効能を高める方法であって、それぞれの場合に、RBCに対する有効量の抗体をそれを必要とする対象に投与する工程を含む方法が記載される。
【0046】
本発明の方法は、炎症状態の1つまたはそれ以上の症状を処置または防止する、場合により炎症状態の1つまたはそれ以上の症状を処置する方法であって、RBCに対する有効量の抗体をそれを必要とする対象に投与する工程を含む方法としても記載される。
【0047】
同様に、そのような方法を実行するための医薬の製造におけるRBCに対する抗体の使用として、これらの方法での使用のためのRBCに対する抗体が提供される。
【0048】
(i)炎症状態における炎症の低減
本発明の方法は、炎症状態において炎症を低減する方法として記載される。いくつかの実施形態では、炎症、および炎症状態におけるその作用は当技術分野で公知の標準的な臨床試験によってアセスメントされる。
【0049】
例えば、炎症状態の疾患マーカーが公知である。疾患の状態をアセスメントするために使用される1つまたは複数のマーカーは、関連疾患(本明細書では「疾患マーカー」と呼ばれる)に特異的なマーカーもしくはマーカーの群であってよく、または炎症(ここで「炎症マーカー」と呼ばれる)のマーカーであってよい。アセスメントの好適なサンプルの例としては、組織、血液および尿が挙げられる。
【0050】
1つまたはそれ以上の炎症マーカーのレベルが対象においてアセスメントされ、炎症性疾患の状態についておよび疾患への任意の処置の効果についての情報が提供される。炎症マーカーの低減は、一般に、炎症の低減の指標である。生物学的サンプルは、様々な時点で対象から採取され(例えば、処置が開始される前および本発明の抗体の投与後の好適な時点で)、1つまたはそれ以上の炎症マーカーのレベルがアセスメントされ、対象における炎症への処置の効果が決定される。そのような目的のために周知の炎症マーカーの例としては、CRP、IL-6およびTNF-αが挙げられる。一実施形態では、1つまたはそれ以上の炎症マーカーは、本発明の抗体の投与前のマーカーのレベルと比較して、本発明の抗体の投与後に対象において低減される。本発明の別の実施形態では、方法は、対象において1つまたはそれ以上の炎症マーカーのレベルを決定する工程をさらに含み、これは処置の前および/または後であってよい。
【0051】
任意の低減は、好ましくは統計的に有意である。1つまたはそれ以上の上記のマーカーの低減は、処置前のレベルと比較して少なくとも5、10、15、20、25、30、35、40、45、50%であってよい。
【0052】
(ii)炎症状態の臨床症状(例えば、炎症状態の炎症の作用)を低減および/または遅延する
本発明の方法は、炎症状態の臨床症状(例えば、炎症状態の炎症の作用)の低減の方法として記載される。いくつかの実施形態では、1つまたはそれ以上の疾患マーカーのレベルが対象においてアセスメントされ、疾患の状態についておよび疾患への任意の処置の効果についての情報が提供される。多くの状態では、疾患の臨床症状は、炎症および関連組織の損傷の結果として生じるが、他のメカニズムも公知である。
【0053】
ある特定の疾患マーカーが公知であり、炎症状態を診断およびモニターするために医師により使用される。一般に、疾患マーカーのレベルの低減は疾患の重症度の低減の指標であり得る(ある特定の状況では、1つまたはそれ以上の疾患マーカーの増加は疾患の重症度の低減の指標であり得るが)。生物学的サンプルは、様々な時点で対象から採取され(例えば、処置が開始される前および本発明の抗体の投与後の好適な時点で)、1つまたはそれ以上の疾患マーカーのレベルがアセスメントされ、対象における炎症への処置の効果が決定される。そのような目的のために公知の疾患マーカーの例は、以下の表1に記載される。一実施形態では、1つまたはそれ以上の疾患マーカーは、本発明の抗体の投与前のマーカーのレベルと比較して、本発明の抗体の投与後に対象において低減される(または増加される)。ある特定の実施形態では、低減(例えば、炎症性サイトカインまたはケモカイン)または増加(例えば、抗炎症性サイトカインまたは抗炎症性ケモカイン)は疾患の重症度の低下と関連する。本発明の別の実施形態では、方法は、対象において1つまたはそれ以上の疾患マーカーのレベルを決定する工程をさらに含み、これは処置の前および後であってよい。
【0054】
【表1】
【0055】
そのようなマーカーの任意の低減または増加は、好ましくは統計的に有意である。1つまたはそれ以上の上記のマーカーの低減または増加は、例えば処置前のレベルと比較して少なくとも5、10、15、20、25、30、35、40、45、50%であってよい。
【0056】
炎症の作用は当技術分野で公知の標準的な臨床試験によってもアセスメントされる。臨床試験は、処置される疾患または障害の臨床症状に基づいて行われるスコアリングを含み得る。一実施形態における処置は、本発明の抗体の投与前の疾患の臨床スコアと比較して疾患の臨床スコアの改善をもたらす。これは、本発明の抗体による処置後の実施例3および4のK/B×Nマウスで観察される臨床スコアの改善および足首の大きさの低減のような適切な動物モデルで見られる改善、実施例6の34-1-2S誘導性低体温症の防止、ならびに実施例5のCAbIAマウスで観察される臨床および組織学的スコアの改善と類似している。
【0057】
処置が疾患進行の時間経過に影響するため、改善は、臨床症状または炎症状態の重症度の低減、または炎症状態の臨床症状の遅延で明らかにされる。
【0058】
(iii)炎症状態を有する対象の生存を延長する
本発明の方法は、炎症状態を有する対象の生存を延長する方法として記載される。多くの炎症状態、特に自己免疫状態は治癒することはなく、そのような状態を有さない対照と比較した場合、対象の余命の減少をもたらす。したがって、処置は、例えば、少なくとも1、2、5、10ヵ月または数年まで炎症状態を有する対象の生存を延長することができる。
【0059】
(iv)炎症状態を処置するために使用される他の薬物の効能を増強する。
本発明の方法は、炎症状態を処置するために使用される1つまたはそれ以上の他の薬物効能を増強する方法として記載される。炎症状態を処置する公知の方法は、3つの一般的な手法、免疫抑制、抗炎症、または緩和的処置を含む。抗炎症剤の例としては、抗炎症鎮痛剤(NSAID、例えばアスピリン、イブプロフェン)が挙げられる。コルチコステロイド(例えばプレドニゾンおよびプレドニゾロン)、アミノサリチル酸、免疫抑制剤、例えばアザチオプリン、メルカプトプリン、およびメトトレキサートも使用される。サイトカイン、B細胞、および共刺激分子を含む標的による生物学的治療が現在使用されている。サイトカイン標的としては、腫瘍ネクローシス因子(TNF)-アルファ(例えば、インフリキシマブ、アダリムマブ、およびゴリムマブ)、インターロイキン(IL)-1、抗IL-6分子が挙げられる。B細胞の枯渇は、抗CD20抗体(例えば、リツキシマブ)の使用およびBリンパ球刺激因子(BLyS)(ベリムマブ)によるB細胞受容体(BCR)調節を含む。
【0060】
したがって、本発明の抗体は、他の抗炎症剤の効能を増強するために1つまたはそれ以上の他の抗炎症剤と組み合わせて使用される。同様に、他の抗炎症剤は、本発明の抗体の効能を増強し得る。
【0061】
赤血球抗体
赤血球(RBC)抗体はRBCに結合する。RBC抗体が結合する分子は、本明細書においてRBC分子と呼ばれる。したがって、これは、RBCに対する抗体が無傷のRBCに結合するため、RBC表面分子、すなわちRBCの外表面に見出されるまたはRBCの外表面と関連する分子である。赤血球膜画分で同定されたタンパク質のリストが以下に示される;本発明での使用に好適なRBC分子はこのリストから選択される(表2)。
【0062】
【表2】
【表3】
【0063】
RBC分子は、直接的または間接的にRBC膜に結合される。RBC膜への分子の直接的な結合は、膜貫通タンパク質もしくは膜貫通糖タンパク質である分子、または膜の脂質への直接的な結合の結果として起こり得る。RBCへの分子の間接的な結合は、それ自体膜に直接的に結合される分子に結合するまたは会合する分子の結果として起こり得る(例えば、膜タンパク質もしくは糖タンパク質または膜の1つまたはそれ以上の脂質に結合されるタンパク質もしくは糖鎖)。
【0064】
RBC抗体は、したがってタンパク質(例えば、糖タンパク質)または糖鎖であってよいが、典型的にはタンパク質(例えば、糖タンパク質)であるRBC分子、すなわちRBC表面分子に結合する。いくつかの例では、RBC分子はグリコシル化されない。
【0065】
RBC表面分子はRBC抗原としても記載されるが、RBC抗体は、異なる血液型を生じるRBC分子の異なるアイソフォームのようなRBC分子の異なるアイソフォーム間を区別する必要がない。言い換えると、RBC抗体は、いくつかの実施形態では、例えば、RBC分子が異なる血液型と関連する複数のアイソフォームを有する場合、RBC分子の2つ以上のアイソフォームに結合してよい(例えば、2つ以上、3つ以上、4つ以上のアイソフォーム)。そのような場合、抗体は、RBC分子の多型の結果として生じる異なる血液型間を区別しない。代わりに、RBC抗体は、RBC分子の多型の結果として生じる異なる血液型間を区別できるようにRBC分子の1つのアイソフォームにのみ結合し得る。
【0066】
ある特定のRBC分子は、異なる個体で異なる型を取ってよく、これらの違いは異なる血液型と関連する。例えば、タンパク質または糖タンパク質分子は複数の可能なアイソフォームを有してよく、異なるアイソフォームは異なる血液型と関連する。異なるタンパク質抗原に基づく血液型の例はRhesus式である。Rhesus Dタンパク質は、存在または非存在のいずれかであり、そのため生じる個体はRhD陽性または陰性であるが、関連するRhesus CEタンパク質は、5つのアミノ酸位置のみでのアミノ酸多型の結果として生じるいくつかの型で存在し得る。Rhesus CEタンパク質の異なる型は、異なるRhesus血液型と関連し、異なる抗原であると言われる。したがって、Rhesus CEタンパク質のようなRBC分子の場合、タンパク質の異なるアイソフォームが存在し、RBC抗体はタンパク質の全てのアイソフォームに結合し得るか、またはある特定のアイソフォームにのみ結合し得る。
【0067】
同様に、異なる糖鎖ベースの血液型抗原が存在する。「ABO」抗原は、RBC膜にある多くの異なるタンパク質および脂質に結合される糖鎖である。ABO遺伝子座は、3つの主な対立形質:A、B、およびOを有する。各AおよびB対立遺伝子は、それぞれAおよびB抗原の合成の最終工程を触媒するグリコシルトランスフェラーゼをコードする。A/B多型は、ABO遺伝子のいくつかのSNPから生じ、4つのアミノ酸が異なるAおよびBトランスフェラーゼをもたらす。O対立遺伝子は、ABO抗原前駆体(H抗原)を未修飾のままにする不活性なグリコシルトランスフェラーゼをコードするが、AおよびB抗原は糖鎖構造が異なる。ABO抗原は、複数のRBC分子に存在し得る。糖鎖の異なる型は異なる血液型と関連し、異なる抗原と呼ばれる。したがって、ABC抗原を含有するRBC分子の場合、異なる糖鎖構造が異なる血液型と関連し、RBC抗体はある特定の糖鎖構造にのみ結合し得るか、または全ての型のRBC分子に結合し得る(例えば、RBC分子のタンパク質部分に結合することによって)。
【0068】
いくつかの実施形態では、RBC分子は分子ではなく、その存在もしくは非存在またはその異なるアイソフォームの存在は血液型を生じる(例えば、RBC抗体はAまたはB抗原に結合しない)。他の実施形態では、RBC分子は分子であり、その存在もしくは不在またはその異なるアイソフォームの存在は血液型を生じる。そのような場合、RBC抗体が結合するエピトープは、典型的には血液型を生じるアイソフォームによって影響されない、すなわち抗体は血液型とは無関係に結合する。
【0069】
抗体が結合する分子の部分は、エピトープである。分子が糖タンパク質である場合、エピトープは糖鎖部分または糖タンパク質のタンパク質部分にあってよいが、好ましくはタンパク質部分にある、すなわちペプチドエピトープである。抗体が結合するエピトープは、糖鎖またはペプチドエピトープであってよいが、好ましくはペプチドエピトープであり、好ましくは糖鎖エピトープではない。ペプチドエピトープは、直鎖状または構造エピトープであってよい。
【0070】
RBC分子は、輸送に関与するタンパク質または糖タンパク質であってよい。輸送に関与するRBC分子は、例えばBand3アニオン輸送体(Diego血液型を規定する異なるアイソフォームを有する)、アクアポリン1水輸送体(Colton血液型を規定する)、アクアポリン3、Glut1、Kidd抗原タンパク質、Rhesus関連糖タンパク質(RhAG、CD241)、Na/K-ATPase、Ca2+-ATPase、Na2Cl共輸送体、Na-Cl共輸送体、Na-H交換体、K-Cl共輸送体、Gardosチャネルであってよい。糖タンパク質であるRBC輸送タンパク質としては、限定はされないが以下が挙げられる:Band3アニオン輸送体、アクアポリン1、アクアポリン3、Glut1、Kidd抗原タンパク質、RhAG(CD241)、Na/K-ATPase、Na-H交換体。
【0071】
RBC分子は細胞接着に関与する分子、例えばICAM-4またはBCAM(CD239)であってよい。ICAM-4およびBCAMは両方とも糖タンパク質である。
【0072】
RBC分子はRBCにおいて構造的な役割を有すると考えられる分子であってよい。構造的な役割を有するRBC分子は骨格タンパク質との連結を確立し、脂質二重膜と膜骨格との間の結合の制御に重要な役割を果たし、赤血球が膜の崩壊(小胞化)を防止することによってその好ましい膜表面領域を維持することを可能にするようである。そのような分子は、それらが赤血球の表面上にある場合、本発明にしたがって有用であり得る。構造的な役割を有する細胞表面分子としては、Band3(これは様々な糖分解酵素、推定のCO輸送体、および炭酸脱水酵素を集合させて、赤血球代謝ならびにイオンおよびガス輸送機能の制御に重要な役割を果たし得る「メタボロン」と呼ばれる巨大分子複合体にする)、RhAG(CD241)、rhtタンパク質4.11Rベースの巨大分子複合体の膜であるタンパク質(例えば、グリコホリンC(CD236)およびD(Gerbich血液型を規定する)、XK、RhD(CD240D)/RhCE(CD240E)、Duffyタンパク質(CD234))、ならびにグリコホリンA(CD235a)およびB(CD235b)のような他のグリコホリンが挙げられる。
【0073】
糖タンパク質であるRBC構造タンパク質としては、限定はされないが、以下が挙げられる:Band3、RhAG、グリコホリンA~D、XK、RhD/RhCE、Duffyタンパク質。
【0074】
他のRBC分子としては、CR1、CD99、CD147、ERMAP、CD238、CD20、CD151、DAF(CD55)、AChE、Dombrock(CD297、ART4)、CD108(JMH)、EmmおよびマウスTER-119抗原(Ly76、グリコホリンA関連タンパク質)に対するヒト相同分子種。
【0075】
RBC分子はタンパク質であってよく、糖タンパク質であってよく、または糖鎖であってよいが、好ましくはタンパク質(例えば、糖タンパク質)である。抗体が結合するエピトープは、糖鎖またはペプチドエピトープであってよいが、好ましくはペプチドエピトープであり、好ましくは糖鎖エピトープではない。
【0076】
RBC分子はその構造に基づいて、すなわちI型一回貫通タンパク質、II型一回貫通タンパク質、III型一回貫通タンパク質、複数回貫通タンパク質、GPI結合タンパク質、またはこれらの組合せであるとして規定される。
【0077】
I型一回貫通RBC分子の例としては、グリコホリンA(CD235a)、グリコホリンB(CD235b)、グリコホリンC(CD236)、グリコホリンD、CR1、BCAM(CD239)、ICAM-4(CD242)、CD99、CD147およびERMAPが挙げられる。
【0078】
II型一回貫通タンパク質の例としては、CD238、XK、Band3、アクアポリン1、Kidd、アクアポリン3、CD151が挙げられる。
【0079】
RBC GPI結合タンパク質の例は、DAF(CD55)、AChE、Dombrock(CD297、ART4)、CD108(JMH)、Emmである。
【0080】
RBCタンパク質および/または脂質に結合される糖鎖抗原の例としては、P1、Pk、P、ABOs、Hh、LewisまたはI抗原が挙げられる。
【0081】
RhD抗原
好ましいRBC分子はRhD分子(例えばヒトRhD分子)である。これは、欧州のコーカサス人のおよそ85%に見出されるタンパク質であり、「Rhesus血液型系」に関与する。Rhesus因子の頻度は、他の集団でより高いこともある。
【0082】
RhesusD分子は高度に免疫原性であり、Rhesus不適合妊娠中およびRhesus不適合血液の輸血後に抗RhesusD抗体を誘発する。モデル研究は、RhesusD分子が、細胞膜の外側に伸びたまたは細胞質に突き出た非常に短い接続領域のみを有する12回膜貫通ドメインを有することを示す。RhesusD分子を発現するこれらの個体は、Rhesus陽性であると言われる。D分子を欠損する個体は、Rhesus陰性と呼ばれる。Rhesus系に関与する他の遺伝子は、RHCE遺伝子であり、C、E、cおよびe抗原ならびに変異体を含有するRhCEタンパク質をコードする。
【0083】
D分子上に複数のエピトープがあることが公知であり、「部分的D表現型」、赤血球にD抗原を有するが、血清に同種抗Dを有する人々を説明する。少なくとも9つの異なるエピトープ(epD1~epD9)により、D変異体の人々の中には、ある特定のエピトープを欠損することが可能であり、抗体は欠損するDエピトープに対して生じる。部分的D抗原に対する抗体を生じるRhesus陽性個体は、それぞれD抗原に異なる異常を有する6つの主な異なるカテゴリー(D”~DVI I)に分類された。これらのDカテゴリーは、ヒトモノクローナル抗D抗体のパネルに対して試験した場合、反応の異なるパターンを与えることが示された(Tippett,Pら、Vox Sanguinis.70(3):123;1996)。異なる反応パターンは9つのエピトープを同定し、異なる部分Dカテゴリーを規定した。D抗原上に存在するエピトープの数は、部分的Dカテゴリー毎に異なり、DVIカテゴリーは、最少のepD3、4および9を発現する。
【0084】
一実施形態では、RBC分子はRhesusD分子である。さらなる実施形態では、RBC分子は、9つのエピトープepD1~epD9の少なくとも3つ、例えばepD1~epD9エピトープの少なくとも4、5、6、7、8または9つ全てを有するRhesusD分子である。一実施形態では、RBC分子はUniProtエントリーQ02161の配列を有するRhesusD分子である。
【0085】
別のRh抗原は、C、E、cおよびe抗原(および変異体)を有するRhCE(UniProtエントリーP18577)である。
【0086】
マウスTER-119抗原(Ly-76)に対するヒト相同分子種
好ましい実施形態では、RBC分子はTER-119抗原(Ly76)のヒト相同分子種である。TER-119抗原に対する抗体が使用され、以下に記載のように、3つの炎症状態の処置の実施例において有効であることが見出された。TER-119に対するラットモノクローナル抗体がITPのマウスモデルで使用され(Song S.ら、Blood.2003;101(9):3708~3713頁)、ITPを軽減することが示された。TER-119抗原は52kDグリコホリンA関連タンパク質であり、Ly76としても公知である。それは、細胞表面グリコホリンAと関連する分子である。
【0087】
グリコホリンA(GPA、CD135a)およびB(GPB、CD235b)およびグリコホリンCおよびD
一実施形態では、RBC分子はグリホリンA(GPA)である。グリコホリンAおよびBは、MNおよびSs血液型の抗原決定基を持つヒト赤血球膜の主要なシアロ糖タンパク質である。約40の変異体表現型が同定され、UniProtエントリーはP02730(GPA)およびP06028(GPB)である。
【0088】
Band3(CD233)
一実施形態では、RBC分子はBand3アニオン輸送体タンパク質である。アニオン交換体1(AE1)またはband3または溶質キャリアファミリー4メンバー1(SLC4A1)としても公知のBand3アニオン輸送体タンパク質は、ヒトのSLC4A1遺伝子によってコードされるタンパク質である;UniProtエントリーはP02730である。それは複数回貫通膜タンパク質である。CD233は、形質膜をわたる重炭酸塩の塩化物の電気的中性のアニオン交換を媒介の要因である系統学的に保存された輸送タンパク質である。それは、赤血球膜の主要な内在性膜糖タンパク質であり、赤血球膜の正常な可動性および安定性ならびにその細胞質ドメインの細胞骨格タンパク質、解糖酵素、およびヘモグロビンとの相互作用を介する正常な赤血球形に必要である。
【0089】
集団におけるRBC分子の頻度
全てのRBC分子が全ての個体に見出されるわけではない。実際、異なる個体のRBC上で見出される分子間の違いは個体の血液型の要因であることは周知である。例として、ABO血液型系では、A型の個体は彼または彼女のRBC上に存在するA抗原、およびその血液中にB抗原に対する抗体を有する。B型の個体は彼または彼女のRBC上に存在するB抗原、およびその血液中にA抗原に対する抗体を有する。AB型の個体は彼または彼女のRBC上に存在するAおよびB抗原を有し、その血液中に、AまたはB抗原に対する抗体はない。O型の個体はO抗原(H抗原)を有し、したがって彼または彼女のRBC上にAまたはB抗原は存在しないが、その血液中にはAおよびB抗原の両方に対する抗体がある。このことから、本発明の方法で抗A抗体(すなわちA糖鎖抗原に結合する抗体)を使用することは、A型またはAB型である患者においてのみ有効であり、本発明の方法で抗B抗体(すなわちB糖鎖抗原に結合する抗体)を使用することは、B型またはAB型の患者においてのみ有効であることが分かる。したがって、全ての対象において、または対象の所与の集団、例えばヒトの所与の集団において高レベルで見出されるRBC分子に対する抗体を使用することには利点が伴う。
【0090】
したがって、分子、またはエピトープはヒトの少なくとも50%、55%、60%、65%、70%、75%、80%、85%、90%、95%、98%、99%もしくは99.5%で、または目的のヒト集団の少なくとも50%、55%、60%、65%、70%、75%、80%、85%、90%、95%、98%、99%または99.5%で見出される。
【0091】
例として、RhD分子はヒトのおよそ80%で見出されるが、集団によって変わり得る。
【0092】
分子密度
RBC分子またはエピトープは、好ましくは細胞あたり10~10コピー、例えば細胞あたり10~10、10~10、10~10、10~10、10~10、10~10コピーの密度で見出される。RBC上に好適な密度の分子を選択することは有利であり、それにより過度の溶血、および対象においてこれが有するであろう有害事象、例えば貧血症を起こすことが避けられる。例えば、AおよびB血液型抗原はRBC上に非常に高い密度であるが(細胞あたり10コピーの領域で)、RhD分子はおよそ10~10コピーで見出され、TER-119抗原はおよそ10コピーであり、したがって、分子またはエピトープの密度は、好ましくはRBCあたり10~10、10~10、10~10、10~10、10~10、10~10コピーである。
【0093】
いくつかの場合、分子は好ましくはRhD分子またはGPAまたはTER-119抗原(GPA関連タンパク質、Ly-76)のヒト相同分子種またはBand3である。
【0094】
ある特定の他の場合では、抗原は好ましくはRhD分子、TER-119抗原のヒト相同分子種もしくはTER-119抗原(Ly-76)もしくはCD24ではない、または好ましくはRhD分子もしくはTER-119抗原(Ly-76)もしくはTER-119抗原のヒト相同分子種ではない。代わりに、抗原は、好ましくはRhD分子、TER-119抗原(Ly-76)、TER-119抗原のヒト相同分子種、CD24もしくはRhCE分子ではない、または好ましくはRhD分子もしくはTER-119抗原(Ly-76)もしくはTER-119抗原のヒト相同分子種もしくはRhCE分子ではない。
【0095】
エピトープは、いくつかの実施形態では、糖鎖エピトープでもない。いくつかの実施形態では、それはABOエピトープでもなく、P1、Pk、P、ABO、Hh、LewisまたはIエピトープでもない。
【0096】
体内のRBC分子の分布
RBC分子は、好ましくはRBC上に選択的に発現され、それは抗体が好ましくはRBCに結合することを意味するため有利であり、それによりオフターゲット効果が避けられる。例えば、分子は、1つまたはそれ以上の他の細胞上よりもRBC上に高い密度(細胞あたりの分子のコピー数として表される)、例えば1つまたはそれ以上の他の細胞よりも少なくとも2、3、4、5、10、20または50倍高い密度で見出される。これらの他の細胞は、血液細胞(例えば、白血球(リンパ球、単核球、および顆粒球)または血小板)であってよい。これらの他の細胞は、血管系と関連する細胞(例えば内皮細胞または線維芽細胞)であってもよい。分子は白血球、血小板、および/または血管系と関連する細胞上に発現されない、例えば1つまたはそれ以上の白血球、血小板、および血管系と関連する細胞上に発現されないことが好ましい。ある特定の実施形態では、分子は、任意の他の細胞型上よりも少なくとも2、3、4、5、10、20または50倍高い密度、例えば上記で言及した1つまたはそれ以上の細胞型上で少なくとも2、3、4、5、10、20または50倍高く発現される。
【0097】
結果として、抗体は、好ましくはRBCに結合する。したがって、抗体は、1つまたはそれ以上の他の細胞、例えば血液細胞(例えば白血球(リンパ球、単核球、および顆粒球)または血小板)および/または血管系と関連する細胞(例えば内皮細胞または線維芽細胞)と比較して、好ましくはRBCに結合する。抗体は、白血球、血小板、および/または血管系と関連する細胞に結合しないことが好ましい。ある特定の実施形態では、抗体は、任意の他の細胞型に結合せず、例えば1つまたはそれ以上の白血球、血小板、および血管系と関連する細胞に結合しない。抗体結合の検出は、当技術分野で公知の標準的な手順を使用して実行される(例えば、抗体を細胞とインキュベートし、適切に標識された二次抗体を使用して結合した抗体を検出することによるなど、例えばフローサイトメトリーによる、細胞に結合する抗体を検出する免疫アッセイ)。
【0098】
代わりに、またはさらに、分子はRBC上および他の細胞型上で発現されるが、そのような場合、これらの他の細胞型は体または抗体が接近できない体の領域においてより低頻度で見出される。これは、抗体が好ましくはRBCに結合することを意味し、そのような細胞に統計的により遭遇しやすいため有利であり、それによりオフターゲット効果が避けられる。例えば、分子は、RBCよりも体内または血管系により低頻度で見出される細胞上で見出される(例えば、RBCよりも体内または血管系のこれらの細胞の少なくとも2、3、4、5、10、20または50分の1である)。さらにまたはかわりに、これらの他の細胞型は、例えば脳において見出される。
【0099】
異なる細胞型上での分子の発現は、当技術分野で公知の標準的なインビトロでの方法によってアセスメントされ(例えば、免疫アッセイおよびPCRベースの方法のようなタンパク質またはコードする核酸レベルに基づく)、異なる細胞型に結合する抗体の能力はインビトロで免疫アッセイを使用して同様にアッセイされる。異なる細胞型の数も、当技術分野で公知の標準的な方法によってアッセイされる。
【0100】
抗体
使用される抗体はRBC分子に対する抗体である。いくつかの実施形態では、それはRBC分子に特異的である。これは、抗体とRBC分子との間の結合が特異的結合であることを意味する。本明細書で使用する場合、用語「特異的結合」は、本発明の抗体とRBC分子との間の結合反応を指し、ここで解離定数(KD)は10-7M以下、特に10-8M以下、10-9M以下、または10-10M以下である。用語「KD」は、本明細書で使用する場合、解離定数を指すことを意図し、これは会合速度(Ka)に対する解離速度(Kd)の比率から得られ、モル濃度(M)として表される。KD値は当技術分野で十分に確立された方法を使用して決定される。抗体の会合および解離動力学を決定する1つの方法は、表面プラズモン共鳴を使用することにより、例えばBiacore(商標)システムのようなバイオセンサーシステムを使用することによる。
【0101】
一般に、より小さいKD値が好まれる。これは分子へのより高い親和性に相当する。
【0102】
本発明の抗体は、典型的には高抗親和性のRBC分子に結合する。本明細書で使用する場合、用語「高親和性」は、KDが10-7M以下、10-8M以下、10-9M以下、または10-10M以下のRBC分子に結合する抗体を指す。しかしながら、「高親和性」結合は、異なる抗体で変わり得る。例えば、IgG抗体の「高親和性」結合は、10-8M以下、10-9M以下、または10-10M以下のKDを指すが、IgM抗体の高親和性結合は、10-7M以下、または10-8M以下のKDを有する抗体を指す。いくつかの実施形態では、抗体は高親和性IgG抗体である。
【0103】
いくつかの実施形態では、本発明の方法での使用のための抗体は、例えば、表面プラズモン共鳴(SPR)技術(例えばBiacore)によって決定される10-7M~10-11Mの範囲のKD値のそのRBC分子に結合する。
【0104】
親和性は他の技術(例えば平衡結合アッセイ)を使用しても算出される。抗RBC抗体の親和性および濃度は、RBCへのどのくらいの結合が達成されるか規定する。結合は、特に多価IgM抗体を使用する場合、抗体の結合力によっても駆動される。「結合力」は、非共有結合相互作用の多様な親和性の蓄積された強度を指す。
【0105】
IgG1フォーマット(MDJ8)の抗RhD抗体のクローンLD1/2-6-3は、ナノモル範囲でのRBCに対する親和性を示す(KD=3nM、細胞あたり14’069結合部位の算出により)(Miescher Sら、Br.J Haematol.2000;111(1):157~166頁)。TER-119(ラットIgG2b)は、約30nMの親和性を示す(FACS飽和実験から算出)。
【0106】
抗体の機能定義
いくつかの実施形態では、本発明の抗体はインビトロおよびインビボでRBCに結合する(例えば、ヒトRBCに)。これは、例えば免疫ベースの技術を使用してRBCに対する抗体の結合を検出することによってインビトロでアセスメントされる。これは、当技術分野で公知の標準的な手順を使用して実行される(例えば抗体をRBCとインキュベートし、適切に標識された二次抗体を使用して結合した抗体を検出することによるなど、例えばフローサイトメトリーによる、および例えば実施例7に記載のように、RBCに結合する抗体を検出すること)。インビボでの抗体結合も、例えば、対象からのサンプルにおいて、適切に標識した二次抗体を使用して(例えばフローサイトメトリーにより)、対象に抗体を投与し、RBCに結合する抗体を検出することによって検出される。
【0107】
本発明の抗体は、さらにまたはかわりにヒトにおいてまたは好適な動物(例えばマウス)モデルにおいてインビボでMPS(RESとも記載される)遮断を起こし得る。マウスモデルにおけるMPS遮断は、例えば(Song S.ら、Blood.2003;101(9):3708~3713)に記載の、当技術分野で公知のアッセイを使用してアセスメントされる。簡単に述べると、好適なマウスモデル(例えばSCID)から採取されたRBCは、インビトロで本発明の抗体とインキュベートされ、オプソニン化を起こし、オプソニン化されたRBCは好適なマーカーによって標識され、好適なマウスに注射される。注射後に時間間隔で採取されたサンプルは、RBCおよび標識されたRBC数を評価される。導入後の経時的な循環する標識されたRBCの数の低減は、MPS遮断の指標である。低減は、例えば、アセスメントされた最初の時点での数と比較して循環する標識されたRBCの30~80%、40~75%、または50~65%であってよい。ヒトにおけるMPS遮断は、食作用アッセイに基づくMPS機能を測定するサロゲートアッセイによってアセスメントされる。臨床的に認められたアッセイは、単核球単層アッセイ(MMA)として当技術分野で公知である(Tong TN&Branch DR J Vis Exp.2017;119:55039ページ。Tong TNら、Transfusion.2016;56(11):2680~2690頁)。
【0108】
抗体は、さらにまたは代わりにインビボで、例えば動物モデルまたはヒト対象で溶血を起こし得る。これは、例えば、抗体の投与後のRBC数の低減によって測定される。これは、標準的な技術、例えば抗体投与後の血液サンプル中のRBC数を得ること、または血液サンプル中の溶血の1つまたはそれ以上のマーカー(例えば遊離ヘモグロビン)を測定することによって決定される。抗体の導入後の経時的なRBCの数の低減は、インビボでの溶血の指標である。
【0109】
この方法でRBC数の低減が評価される場合、抗体の投与前にみられたRBC数の99、98、97、96、95、94、93、92、91、90、80、70、60、50%未満までRBC数の低減があり得る。
【0110】
抗体は、さらに、例えば動物モデルまたはヒト対象において、インビボでの血小板数または血小板濃度の低減を起こし得る。これは、例えば抗体の投与後の対象数から採取したサンプルにおける血小板数または濃度を決定することにより測定される。これは、標準的な技術によって決定される。
【0111】
抗体は、さらにまたは代わりに、例えば実施例2に記載のように、マウスITPモデルにおいてマウスITPを改善し得る。抗体の投与の結果として、そのようなマウスモデルにおけるマウスITPの改善は、例えば処置前のレベルと比較して処置されたマウスにおける血小板数を比較することによって決定される。処置されたマウスにおける1.5時間後の少なくとも1.25、1.5、1.75、2、2.5、3の血小板数の増加は、処置前のレベルと比較して、そのようなマウスモデルにおけるマウスITPの改善の指標であり得る。
【0112】
抗体は、さらにまたは代わりに、例えば実施例3に記載のように、関節リウマチのマウスモデルにおける炎症性関節炎を改善し得る。K/B×N血清による注射の2時間前の本発明の抗体による前処置は、いくつかの実施形態では、Mottら(Mott PJら、PLoS One.2013:8(6):e65805)に記載の標準的な手順にしたがってアセスメントされたように、K/B×N血清を注射された非前処置マウスと比較して、K/B×N血清を注射されたマウスにおける関節炎スコアを低減し、および/または足首幅を低減し得る。効果は、例えば処置の7日後に観察される。足首幅および/または臨床スコアは、いくつかの実施形態では、処置なしでの足首幅および/または臨床スコアと比較して少なくとも5、10、15、20、30、40、50%低減される。臨床スコアはいくつかの例では0に低減される。
【0113】
同様に、抗体は、さらにまたは代わりに、例えば実施例4に記載のように、関節リウマチのマウスモデルにおいて確立された炎症性関節炎を回復する。K/B×N血清の注射の5日後の抗体の投与は、処置後、例えば処置の3日後の臨床スコアおよび/または足首幅を低減し得る。足首幅および/または臨床スコアは、いくつかの実施形態では、処置前の足首幅および/または臨床スコアと比較して少なくとも5、10、15、20、30、40、50%低減される。臨床スコアは、いくつかの例では0まで低減される。
【0114】
抗体は、さらにまたは代わりに、例えば実施例5に記載のように、CAbIAモデルにおいて炎症性関節炎を改善し得る。抗コラーゲンmAbカクテル(0日目)およびLPS(3日目)による投与後、5日目の本発明に抗体による処置は、いくつかの実施形態では、実施例5に記載の手順にしたがってアセスメントされたように、例えば、コラーゲンmAbカクテル(0日目)およびLPS(3日目)を注射されたが本発明の抗体によって処置されなかったマウスと比較して低減された臨床および組織学的関節炎スコアによって測定され、関節炎から保護される。効果は、例えば処置後1日目に観察される。組織学的および/もしくは臨床スコアは、いくつかの実施形態では0まで低減される、または処置なしでの組織学的および/もしくは臨床スコアと比較して少なくとも50、60、70、80%低減される。
【0115】
抗体は、さらにまたは代わりに、TRALIのマウスモデルにおける34-1-2S誘導性の低体温症を防止または低減し得る。本発明の抗体によるSCIDマウスの注射は、直腸温度測定によってアセスメントされるように(例えば実施例6のように)、抗MHC I抗体34-1-2Sの1時間後の注射によって誘導される低体温症を低減し得る(Fung YLら、Blood.2010;116(16):3073~3079頁)。本発明の抗体および抗MHC I抗体34-1-2sによって処置されたマウスにおける直腸温度測定値は、抗MHC I抗体34-1-2s単独で処置されたマウスにおける直腸温度測定値よりも処置の2時間後少なくとも2、3、4、5、6、7、8、9または10℃高い。
【0116】
抗体は、さらにまたは代わりに、TRALIのマウスモデルにおける34-1-2S誘導性の肺浮腫を低減または防止し得る。本発明の抗体によるSCIDマウスの注射は、処置の2時間後のマウスの犠牲後、湿/乾(W/D)肺重量比の検死によってアセスメントされるように、抗MHC I抗体34-1-2Sの1時間後の注射によって誘導される肺浮腫を低減し得る。抗体による前処置後に34-1-2Sを受けるマウスは、34-1-2Sを注射されたマウスよりも著しく低い肺W/D比を示し得る。
【0117】
抗体は、さらにまたは代わりに、インビトロアッセイにおいてオプソニン化された血小板の食作用を阻害し得る。インビトロアッセイでの、オプソニン化された血小板の食作用を阻害する抗体の能力は、例えば実施例7の方法を使用して、例えばRBCの存在下での血小板食作用の量を本発明の抗体によってオプソニン化されたRBCの存在下での血小板食作用の量と比較することによってアセスメントされる。本発明の抗体によってオプソニン化されていないRBCの存在下での血小板食作用の量と比較した本発明の抗体によってオプソニン化されたRBCの存在下での血小板食作用の量の低減は、例えば少なくとも20、30、40、50、60、70、80、90、100%の血小板食作用係数の低減として表される。
【0118】
ヒトおよびマウスRBC分子がそれらの一次配列に違いを有し、そのため試験される抗体への異なる結合特性を有し得るという事実を説明するため、上記のアッセイは、可能な場合、ヒトRBCを使用して実行される(インビトロアッセイのため)。任意のマウスモデルが使用される場合、マウスモデルは、適切なヒトRBC分子が発現されるように改変される(例えば、遺伝的に操作される)。
【0119】
いくつかの実施形態では、抗体の投与は、抗原、例えば自己免疫状態に関与するまたは自己免疫状態を起こす抗原のまたは抗原に対する寛容(例えば、免疫寛容)、例えば抗体と投与されるタンパク質またはペプチドであってよい抗原のまたは抗原に対する寛容をもたらさない。いくつかの実施形態では、抗体は別のタンパク質と投与されない(例えば、タンパク質またはペプチド抗原)。
【0120】
構造抗体定義
本明細書で使用する場合、用語「抗体」は、典型的には抗体およびそれらの抗原結合性断片の両方を指す。天然に存在する「抗体」は、ジスルフィド結合によって相互接続された少なくとも2つの重(H)鎖および2つの軽(L)鎖を含む糖タンパク質である。各重鎖は、重鎖可変領域(本明細書ではVHと省略される)および重鎖定常領域を含む。重鎖定常領域は、3つのドメイン、CH1、CH2、およびCH3を含む。各軽鎖は、軽鎖可変領域(本明細書ではVLと省略される)と軽鎖定常領域を含む。軽鎖定常領域は、1つのドメイン、CLを含む。VHおよびVL領域は、相補性決定領域(CDR)と呼ばれる、フレームワーク領域(FR)と呼ばれる、より保存された領域によって散在する超可変の領域にさらに細分される。各VHおよびVLは、3つのCDRおよび4つのFRから構成される。重および軽鎖の可変領域は、抗原と相互作用する結合ドメインを含有する。抗体の定常領域は、免疫系の様々な細胞(例えばエフェクター細胞)および古典的補体系の第1の補体(C1q)を含む、宿主組織または因子への免疫グロブリンの結合を媒介し得る。
【0121】
好ましくは、抗体は、上記の特定の領域/ドメインからなる分子である。抗体は、ジスルフィド結合によって相互接続された2つの抗体重鎖および2つの抗体軽鎖のみを含み、例えば、各抗体重鎖は抗体重鎖可変領域および3つの定常領域ドメイン(CH1、CH2、CH3)からなり、各抗体軽鎖は抗体軽鎖可変領域および軽鎖定常領域からなる。
【0122】
好ましくは、抗体は、非免疫グロブリン配列を含有せず、例えばそれは、免疫グロブリン配列からなり、さらなる(例えば、NまたはC末端に融合した)配列が存在しない。この免疫グロブリン配列は、抗体、または免疫グロブリン、特にIgGに存在する配列であるまたは配列に相当する配列であってよい。当業者は、例えば免疫グロブリンホールドの保存された性質に基づくそのような配列を容易に同定できる。
【0123】
好ましくは、抗体は、任意のさらなるタンパク質またはペプチドとの融合タンパク質ではなく、例えば、抗体は、例えば抗原のような任意の非抗体タンパク質またはペプチドに結合または融合しない。「結合または融合する」は、直接または間接的な結合を含むが、化学結合、例えば抗体とさらなるタンパク質またはペプチドとの間のペプチド結合である結合であってよく、例えば分子融合であってよい。間接的な結合は、例えば抗体に結合される粒子を介してよい(例えば、微粒子、ナノ粒子、リポソーム、ポリマーソーム、またはミセル)。さらなるタンパク質またはペプチドは、例えば寛容性因子抗原であってよい(例えば、その抗原に寛容を生成するために投与される抗原)。
【0124】
抗体としては、限定はされないが、単離された、ポリクローナル、モノクローナル、多特異性、単一特異性、マウス、ヒト、完全ヒト、ヒト化、霊長類化またはキメラ抗体が挙げられる。一実施形態では、抗体は単離されている。典型的には、本発明の抗体は、キメラ、完全ヒト、ヒトまたはヒト化抗体である。さらなる実施形態では、抗体は、ヒトまたはヒト化モノクローナル抗体である。用語、抗体は、以下により詳細に記載するように抗原結合性断片を含む。代わりに、RBC抗体は、ポリクローナル調整物、例えばポリクローナル抗RhD調整物であってよい。
【0125】
本明細書で使用する場合、「単離された抗体」は、他の細胞性物質および/もしくは化学物質を実質的に含まない抗体、ならびに/または異なる抗原特異性を有する(例えば、他の抗原に結合する)他の抗体を実質的に含まない抗体を指す。本明細書の他のところで議論したように、組成物は特に、単離された抗体を含んでよく、例えば単離された抗体(例えば単離された抗体調整物)および以下により詳細に規定される薬学的に許容される担体または希釈剤からなってよい。用語「単離された」は、さらに、例えば、ポリクローナル抗体調整物が他の細胞性物質および/もしくは化学物質を実質的に含まないポリクローナル調整物、ならびに/または異なる抗原特異性を有する(例えば、他の抗原に結合する)他の抗体を実質的に含まない抗体に適用される。
【0126】
本明細書で使用する場合、「モノクローナル抗体」または「モノクローナル抗体組成物」は、単一分子組成物の抗体分子の調製物である。モノクローナル抗体組成物は、単一の結合特異性および特定のエピトープへの親和性を示す。
【0127】
「ヒト抗体」は、フレームワーク、CDR領域および定常領域(存在する場合)がヒト起源の配列、例えば、ヒト生殖系列配列またはヒト生殖系列配列の変異バージョンに由来する可変領域を有する抗体を含むことを意図する。ヒト抗体は、したがって、ヒト配列によってコードされないアミノ酸残基を含み得る(例えば、インビトロでの無作為もしくは部位特異的変異導入またはインビボでの体細胞変異によって導入される変異)。
【0128】
用語「ヒトモノクローナル抗体」は、フレームワークおよびCDR領域の両方がヒト配列に由来する可変領域を有する単一結合特異性を示す抗体を指す。そのようなヒトモノクローナル抗体は、不死化細胞に融合されたヒト重鎖導入遺伝子および軽鎖導入遺伝子を含むゲノムを有するトランスジェニック非ヒト動物、例えばトランスジェニックマウスから得られたB細胞を含むハイブリドーマによって産生される。完全ヒト配列由来の抗体は、マウスまたは他の非ヒト配列を持たず、2つの供給源:ファージディスプレイ技術およびトランスジェニックマウスによって大量生産される。
【0129】
「ヒト化抗体」は、任意の必要なフレームワーク逆突然変異と一緒にヒト配列由来可変領域に移植されたマウスまたは他の非ヒト配列由来CDR領域を含有する。
【0130】
抗原結合性断片、変異体および誘導体も使用され、限定はされないが、Fab、Fab’およびF(ab’)2、Fd、Fv、一本鎖Fv(scFv)、ジスルフィド結合Fv(sdFv)、またはミニ抗体(Fab部分に定常領域を欠損する抗体断片)が挙げられる。ScFv分子は当技術分野で公知であり、例えば、米国特許第5,892,019号に記載される。いくつかの実施形態では、抗体は、IgG、IgMからなる群から選択される。他の実施形態では、F(ab’)2、F(ab)2、Fab’、Fab、ScFv、ダイアボディ、トリアボディ、テトラボディ、およびミニボディのような断片が使用される。使用される断片は、好ましくは適切なFc含有部分に融合または結合される。抗体は、好ましくはscFvではなく、または好ましくはscFvを含まない。
【0131】
いくつかの実施形態では、抗体はIgGまたはIgM型のものである。特に、抗体は、任意の型のIgGであってよい。特に、それは、任意の型のラット、マウス、ヒトまたはヒト化IgGまたはIgM、好ましくはヒトまたはヒト化IgGまたはIgMであってよい。ヒトまたはヒト化IgGは、例えばIgG1、IgG2、IgG3、またはIgG4型のものであってよい。ラットまたはマウスIgGも使用される(例えば、ラットIgG1、IgG2a、IgG2b、もしくはIgG2c、またはマウスIgG2a、IgG2b、IgG2c、IgG3もしくはIgG4)。
【0132】
抗体は、好ましくはFcドメインまたはその部分を含む。非限定的な例としては、好適なFcドメインはIgGのような免疫グロブリンサブクラスに由来し得る。いくつかの実施形態では、好適なFcドメインまたはその部分は、IgG1、IgG2、IgG3、もしくはIgG4(例えばヒト)に由来する、またはラットもしくはマウスIgG(例えば、ラットIgG1、IgG2a、IgG2b、もしくはIgG2c、またはマウスIgG2a、IgG2b、IgG2c、IgG3、もしくはIgG4)に由来する。特に好適なFcドメインは、ヒトまたはヒト化抗体に由来するものを含む。
【0133】
抗体は、好ましくはFc受容体に結合する。これは、Fcγ受容体(例えば、FcγRI(CD64)、FcγRIIA(CD32)、FcγRIIB(CD32)、FcγRIIIA(CD16a)、FcγRIIIB(CD16b))であってよい。Fc受容体に結合する能力は、いくつかの場合では、Fcドメインのグリコシル化に依存してよく、そのようなものとしてのFcドメインまたはその部分は好ましくはグリコシル化される(または好ましくは脱グリコシル化されない)。
【0134】
抗体は、好ましくは低い補体活性化活性を有する。「低い補体活性化活性」により、抗体が表面結合または免疫複合体の場合、表面結合または免疫複合体ヒトIgG3よりも低く補体を活性化することを意味する。抗体は、好ましくはヒトIgG3よりも90%低く、好ましくはヒトIgG3よりも80%、75%、70%、60%、50%、40%低く、より好ましくはヒトIgG3よりも30%、25%、または20%低く、さらにより好ましくはヒトIgG3よりも15%低くまたはさらに10%低く補体を活性化する。
【0135】
抗体は、補体活性化活性を低減するためにFc領域で改変される。好ましくは、補体活性化活性は、未改変の抗体と比較して少なくとも10%、20%、30%、または40%低減され;未改変の抗体と比較して、より好ましくは、補体活性化活性は、少なくとも50%、60%、または70%低減され、さらにより好ましくは、補体活性化活性は、少なくとも80%または90%さえも低減される。
【0136】
補体活性化は、表面結合または免疫複合体抗体の補体源とのインキュベーション中に可溶性末端複合体(sC5b-C9)の生成をモニターすることによって決定され;末端複合体は標準的なELISAによって測定される。
【0137】
ある特定のRBC分子に対する抗体の生成および特徴付けの方法は、当技術分野で公知であり、以前に記載されている。例えば、WO9749809は、抗Rhesus D抗体を記載し、TER-119抗体(Kina Tら、Br J Haematol.2000;109:280~287頁)はマウスモデルで広く使用され、抗CD24(マウスRBC分子である)もマウスモデルで試験された(Song S.ら、Blood.2003;101(9):3708~3713頁)。
【0138】
いくつかの実施形態では、RBC抗体は、抗Dのポリクローナル調整物である。そのような抗Dポリクローナル調整物は市販で入手できる(例えば、Rhophylac(登録商標));代わりに、いくつかのモノクローナル抗D抗体のカクテルが使用される。いくつかの実施形態では、本発明の方法での使用のための抗体は組換えによって産生される。
【0139】
いくつかの実施形態では、RBC抗体は、例において言及されたようにTER-119抗体に見出される1つまたはそれ以上の相補性決定領域(CDR)を含む(例えば、これらのCDRの1つ、2つ、3つ、4つ、5つもしくは6つ、または少なくとも1つ、2つ、3つ、4つ、5つもしくは6つ)。RBC抗体は、例において言及されたようにTER-119抗体に見出される軽および/または重鎖の配列を有し得る。
【0140】
いくつかの実施形態では、RBC抗体は、例において言及されたように抗ヒトRhD抗体に見出される1つまたはそれ以上の相補性決定領域(CDR)を含む(例えば、これらのCDRの1つ、2つ、3つ、4つ、5つもしくは6つ、または少なくとも1つ、2つ、3つ、4つ、5つもしくは6つ)。RBC抗体は、例において言及されたように抗ヒトRhD抗体に見出される軽および/または重鎖の配列を有し得る。
【0141】
いくつかの実施形態では、RBC抗体は、例において言及されたように抗ヒトGPA抗体に見出される1つまたはそれ以上の相補性決定領域(CDR)を含む(例えば、これらのCDRの1つ、2つ、3つ、4つ、5つもしくは6つ、または少なくとも1つ、2つ、3つ、4つ、5つもしくは6つ)。RBC抗体は、例において言及されたように抗ヒトGPA抗体に見出される軽および/または重鎖の配列を有し得る。
【0142】
処置の方法
本発明は、炎症状態を処置または防止する方法での使用のためのRBCに対する抗体および対象において炎症状態を処置または防止する方法であって、RBCに対する治療有効量の抗体を、それを必要とする対象に投与する工程を含む方法を提供する。
【0143】
本発明は、対象において炎症状態を処置または防止する方法であって、RBCに対する抗体によって感作された、治療有効量の対象自身のまたは(代わりにまたはさらに)提供されたヒト赤血球を、それを必要とする対象に投与する工程を含む方法も提供する。
【0144】
本明細書で使用する場合、用語「対象」または「個体」または「患者」は、治療を必要とする誰かを指す。本明細書で使用する場合、用語「対象」は、任意のヒトまたは非ヒト動物を含む。用語「非ヒト動物」は、全ての脊椎動物、例えば哺乳動物およびマウス、ラット、非ヒト霊長類、ヒツジ、イヌ、ネコ、ウマおよびウシのような非哺乳動物を含む。典型的には、しかしながら、用語「対象」はヒトを指す。
【0145】
用語「有効量」または「に有効な量」または「治療有効量」は、所望の結果、特に、疾患進行の防止および/または対象が処置される疾患と関連する症状の改善を得るのに十分な治療剤の投与量への言及を含む。
【0146】
本明細書で使用する場合、用語「処置する」、「処置すること」または「処置」は、目的が、炎症のような、既存の望まない生理学的変化または障害を低減または減速する(和らげる)ことである治療手段を指す。有益または所望の臨床結果としては、限定はされないが、症状の軽減、疾患の程度の縮減(炎症の程度を含む)、疾患の安定化(すなわち悪化しない)状態、疾患進行の遅延または減速、疾患状態の改善または緩和、および寛解(部分的かまたは全体的か)が挙げられる。「処置」は、処置を受けなかった場合に予測される生存と比較して生存を延長することも意味し得る。処置を必要とする対象は、典型的には、処置が提供される疾患、状態、または障害をすでに患っている対象を指すが、処置が提供される疾患、状態、または障害を患うリスクのある対象を含み得る。いくつかの実施形態では、処置される対象は、1つまたはそれ以上の自己免疫疾患の症状を有する。
【0147】
慢性炎症に関する疾患状態の文脈において、用語「処置すること」は、炎症促進性の免疫細胞の複製もしくは刺激の阻害、調節不全の免疫系の慢性炎症状態の阻害もしくは減少、または自己免疫状態または疾患を有する対象によって経験される発赤の頻度および/もしくは強度の減少のいずれかまたは全てを含む。
【0148】
本明細書で使用する場合、「防止」は、疾患状態がすでに確立されておらず、したがって本発明の方法が疾患状態の確立を防止し、炎症のような望ましくない生理学的変化または障害を低減または減速(和らげる)し得ることを意味するために使用される。防止の文脈では、処置は、疾患状態が既に確立される前に開始し得る。
【0149】
抗体は、好ましくは、本明細書の他の場所に規定された組成物として対象に投与される。ある特定の好ましい実施形態では、組成物は任意の細胞を含まず、および/または細胞が組成物と共投与されない。他の好ましい実施形態では、抗体は、組成物中のタンパク質性の活性成分のみであり、および/またはタンパク質性の活性成分は組成物と共投与されない。活性成分は、例えば、対象に効果を発揮することが意図されるおよび/または対象に効果を発揮する組成物中の成分であってよい。「活性成分」は、したがって、例えば担体および/または賦形剤を除外し得る。
【0150】
ある特定の好ましい実施形態では、抗体は組成物中に存在し、投与される前記組成物中の抗体は任意の抗原に結合されない(例えば、抗体CDRを介して任意の抗原に結合されない)。代わりに述べると、抗体は対象に投与された後、例えば抗体の投与後のみ、対象において抗原に結合し、例えば抗体の投与後の対象の血液中で、例えば抗体-RBC複合体が形成され、および/または対象に存在する任意の抗体/RBC複合体が対象への抗体の投与後に形成される。
【0151】
ある特定の好ましい実施形態では、抗体は組成物に存在し、投与される前記組成物中の前記抗体のCDRは抗原への結合に利用される。
【0152】
配合
いくつかの実施形態では、本発明の抗体は、1つまたはそれ以上の治療剤と組み合わせて投与される。例えば、併用療法は、少なくとも1つの他の抗炎症剤、または炎症状態を処置するまたはそれらの症状を軽減するために使用される薬剤と組み合わせた本発明の抗体を含み得る。例えば、特定の実施形態では、炎症状態を処置または防止する方法は、抗炎症剤、免疫抑制剤、および/または鎮痛剤から選択される1つまたはそれ以上の治療剤と組み合わせてRBCに対する有効量の抗体を、それを必要とする対象に投与する工程を含む。例としては、NSAID(例えばアスピリン、イブプロフェンなど)、コルチコステロイド(例えばプレドニゾンおよびプレドニゾロン)、アミノサリチル酸、アザチオプリン、メルカプトプリン、メトトレキサート、および生物学的療法(例えば他の抗体)が挙げられる。
【0153】
複数の薬剤は、同時または連続使用のために製剤化される。
【0154】
投与レジメン
投与レジメンは、典型的には、最適な所望の応答(例えば治療応答)を提供するように調整される。例えば、抗体の単回ボーラスが投与される。他の実施形態では、いくつかの分割用量が経時的に投与される、または用量は、治療状況の必要性によって示されるように比例的に低減または増加される。抗体は任意の経路、例えば、非経口的または経腸的に投与される、またはDNAワクチン技術を使用してインビボで生成される。好ましい非経口経路としては、静脈内、筋肉内、腹腔内、脳脊髄内、脳内、皮下、関節内、関節滑液嚢内、髄腔内、肺内(例えば噴霧)、鼻腔内、皮内、局所投与または吸入が挙げられる。2以上の記載した経路の組合せが使用される。特定の実施形態では、RBCに対する抗体は静脈内または皮下投与によって投与される。
【0155】
いくつかの実施形態では、抗体は静脈内(IV)、例えば静脈内輸注としてまたは静脈内ボーラスとして投与される。用語「静脈内輸注」は、薬物、例えばおよそ5分より長い時間、例えば、およそ30~90分の間に、動物またはヒト患者の静脈への抗体の導入を指すが、本開示にしたがって、静脈内輸注は、代わりに10時間以下、例えば5時間以下、または2時間以下で投与される。特定の一実施形態では、輸注の期間は少なくとも60分である。用語「静脈内ボーラス」または「静注」は、例えば、およそ15分以下、例えば5分以下で体が薬物を受けるように、動物またはヒトの静脈への抗体の薬物投与を指す。例として、本発明の抗体は、1週間~4週間の間隔で1mg/kg~100mg/kgの用量で静脈内に投与される。
【0156】
他の実施形態では、本発明の抗体は、皮下に投与される。用語「皮下投与」は、比較的遅い、薬物の容器からの持続送達による、対象の皮膚下、例えば、皮膚と下層組織との間のポケット内への抗体の導入を指す。ポケットは、皮膚を上に、および下層組織から離して挟むまたは引っ張ることによって生じさせる。いくつかの実施形態では、抗体を含む組成物は、皮下針による患者の皮膚の表面下に導入される。
【0157】
いくつかの実施形態では、抗体は、対象の体重依存的な投与量で投与され、例えば抗体は、対象の体重の約0.001mg/kg~約100mg/kgの量の抗体が所与の時間尺度、例えば1日、または1週間、2週間または1ヵ月投与されるように投与される。ある特定の実施形態では、そのような体重ベースの投与量は、1日または1週間、2週間または1ヵ月あたり約0.01mg/kg体重、1日または1週間、2週間または1ヵ月あたり約0.31mg/kg体重、約1mg/kg体重、1日または1週間、2週間または1ヵ月あたり約3mg/kg、および1日または1週間、2週間または1ヵ月あたり約10mg/kg体重から選択される。
【0158】
いくつかの実施形態では、抗体は固定投与量で投与される。特定の実施形態では、抗体は、約50μg~約2000mgの固定投与量の抗体の量が所与の時間尺度、例えば1日、1週間、2週間または1ヵ月投与されるように投与される。
【0159】
投与レジメンは、したがって、所与の時間尺度で対象に投与される抗体の量の文脈で規定される。その時間尺度の間の投与の頻度は、各回に投与される抗体の量を決定する。例えば、投与量が10mg/kg/週の場合、これは単回10mg/kg用量として、または抗体の適切に低減された量の複数回用量(例えば1週間で25mg/kg用量)として投与される。いくつかの実施形態では、抗体は単回用量(例えば、毎日、毎週、2週間毎に1回、または毎月1回)として、または投与される各回で抗体の量がより少ない場合より頻繁に複数回用量として投与される。一般的に、皮下経路による投与は、静脈内投与(例えば2週間毎に1回または1ヵ月に1回)よりもより頻繁に(例えば1日1回)実行される。いくつかの実施形態では、RBCに対する抗体は、単回用量として;1週間あたり1またはそれ以上の用量で、1週間あたり1回、2以上の用量で;2週間毎に1回;3週間毎に1回;4週間毎に1回;1ヵ月に1回;3ヵ月に1回;または6ヵ月毎に1回投与される。
【0160】
いくつかの実施形態では、RBCに対する抗体は、1日から6ヵ月の間隔で投与される。特定の実施形態では、RBCに対する抗体は1週間;2週間;3週間;4週間;1ヵ月;2ヵ月;3ヵ月;4ヵ月;5ヵ月;または6ヵ月の間隔で投与される。
【0161】
いくつかの実施形態では、抗体は単一用量として投与され、または1週間あたり1回、2週間毎に1回、3週間毎に1回、4週間毎に1回、1ヵ月に1回、3ヵ月毎に1回、6ヵ月毎に1回、または様々な間隔で2以上の用量で投与される。
【0162】
いくつかの実施形態では、患者自身の赤血球または提供されたヒト赤血球のいずれかの赤血球が、インビトロで抗体と組み合わされ、次いでこれらの「感作された」赤血球、すなわち抗体によってコーティングされた赤血球が患者に投与される。
【0163】
医薬組成物
本発明は、本発明の抗体、例えば単離された抗体を含む組成物、例えば医薬組成物も提供する。そのような組成物は、本発明の1つまたは組合せの(例えば2以上の異なる)抗体を含み得る。例えば、本発明の医薬組成物は、異なるRBC分子、抗原、または異なる抗原または異なるエピトープに結合する、またはそうでなければ相補的な活性を有する2つの抗体を含み得る。本明細書で議論する組成物は本発明の方法で使用される。本明細書において言及される抗体は、好ましくは本明細書で言及される組成物として投与される。
【0164】
いくつかの実施形態では、本開示は、本発明の1つまたはそれ以上の抗体を含む医薬組成物および薬学的に許容される担体を提供する。用語「薬学的に許容される担体」は、生理学的に適合性の任意のおよび全ての溶媒、緩衝液、分散培地、コーティング剤、抗菌剤、および抗真菌剤、等張剤、および吸収遅延剤などを含む。好ましくは、担体は、静脈内、筋肉内、皮下、非経口、脊髄または上皮投与(例えば注射または輸注による)に好適である。例えば、いくつかの実施形態では、静脈内投与のための組成物は、典型的には無菌等張緩衝液中の溶液である。
【0165】
ある特定の好ましい実施形態では、例えば、本発明の方法での使用のための組成物は単離された抗体を含む。組成物は、本発明の方法で使用され、ここで、活性成分は単離された抗体である(例えばタンパク質性の活性成分(例えばタンパク質またはペプチド)が単離された抗体である、または活性成分のみが単離された抗体である)。ある特定の実施形態では、組成物は、単離された抗体および薬学的に許容される担体からなってよい。
【0166】
ある特定の実施形態では、抗体は、任意の細胞、例えば赤血球のような任意の血液細胞を含まない、特に抗体に結合した任意の赤血球を含まない組成物中に存在する。抗体は、したがって、細胞、例えば赤血球のような任意の血液細胞を実質的に含まない、および特に抗体に結合した赤血球を含有しない組成物に存在し得る。
【0167】
ある特定の好ましい実施形態では、抗体はカプセル化されない、例えば細胞にカプセル化されない、例えばRBCのような血液細胞にカプセル化されない。
【0168】
そのような医薬担体および賦形剤ならびに好適な医薬製剤の調製物は、当技術分野で周知である(例えば、「Pharmaceutical Formulation Development of Peptides and Proteins」、Frokjaerら,Taylor & Francis;Handbook of Pharmaceutical Excipients,3rd edition,Kibbeら、Pharmaceutical Press、2000参照)。ある特定の実施形態では、医薬組成物は、少なくとも1つの添加剤、例えば充填剤、緩衝剤、または安定剤を含み得る。標準的な医薬製剤技術は、当業者に周知である(例えば、2005 Physicians’ Desk Reference(登録商標)、Thomson Healthcare:Monvale、NJ,2004;Remington:The Science and Practice of Pharmacy、第20版、Gennaroら編、Lippincott Williams & Wilkins:Philadelphia、PA、2000参照)。好適な医薬添加剤としては、例えばマンニトール、ソルビトール、ラクトース、スクロース、トレハロース、またはその他のような糖、ヒスチジン、アルギニン、リジン、グリシン、アラニン、ロイシン、セリン、スレオニン、グルタミン酸、アスパラギン酸、グルタミン、アスパラギン、フェニルアラニン、プロリン、またはその他のようなアミノ酸、塩化ナトリウムまたはその他の塩のような等張状態を達成する添加剤、ポリソルベート80、ポリソルベート20、ポリエチレングリコール、プロピレングリコール、塩化カルシウムまたはその他のような安定剤、トリス(ヒドロキシメチルアミノメタン)のような生理学的pH緩衝剤等が挙げられる。ある特定の実施形態では、医薬組成物は、pH緩衝試薬および湿潤剤または乳化剤を含有し得る。さらなる実施形態では、組成物は保存剤または安定剤を含有し得る。
【0169】
投与の経路に依存して、本発明に記載の抗体は、化合物を不活性化し得る酸および他の自然条件の作用から化合物を保護するために物質でコーティングされる。
【0170】
いくつかの実施形態では、本発明の医薬組成物は、注射可能な製剤の形態で抗体を含む。他の実施形態では、本発明の医薬組成物は、非経口投与のために製剤化され、例えば静脈内、皮下、または筋肉内投与のために製剤化される抗体またはそれらの抗原結合性断片を含む。
【0171】
いくつかの実施形態では、薬学的に許容される担体は、滅菌水溶液または分散液および滅菌注射可能溶液または分散液の即時調製のための滅菌粉末を含む。ある特定の実施形態では、本開示は、例えばバイアルのような容器内の、滅菌注射可能溶液の調製のための本発明の抗体の滅菌粉末を提供する。
【0172】
一般
用語「含む(comprising)」は、「含む(including)」ならびに「からなる(consisting)」を包含し、例えばXを「含む(comprising)」組成物は、Xのみからなってよく、またはさらに追加の、例えばX+Yを含んでよい。
【0173】
数値Xに関連する用語「約」は、例えばx±10%を意味する。本発明は例示のみのために記載され、本発明の範囲および趣旨内にある限り修正が行われることが理解されるであろう。
【0174】
本発明の記載
1.炎症状態を処置または防止する方法での使用のための赤血球(RBC)に対する抗体。
2.対象において炎症状態を処置または防止する方法であって、赤血球(RBC)に対する治療有効量の抗体を、それを必要とする対象に投与する工程を含む方法。
3.炎症状態を処置または防止する医薬の製造のための赤血球(RBC)に対する抗体の使用。
4.抗体は、RBC分子に特異的に結合する、項1の使用のための抗体、または項2の方法、または項3の使用。
5.抗体は、単離された、ポリクローナル、モノクローナル、多特異性、単一特異性、マウス、ヒト、完全ヒト、ヒト化、霊長類化またはキメラ抗体である、項1もしくは4の使用のための抗体、項2もしくは4の方法、または項4の使用。
6.抗体は、モノクローナルおよびヒトまたはヒト化抗体であり、および場合により単離されている、項1もしくは4もしくは5のいずれか1項の使用のための抗体、または項2もしくは4もしくは5のいずれか1項の方法、または項3~5のいずれか1項の使用。
7.抗体は、IgG型である、項6の使用のための抗体、または項6の方法、または項6の使用。
8.抗体は、IgG1型のものである、項6もしくは7の使用のための抗体、または項6もしくは7の方法、または項6もしくは7の使用。
9.抗体は、IgG2型のものである、項6もしくは7の使用のための抗体、または項6もしくは7の方法、または項6もしくは7の使用。
10.抗体は、IgG3型のものである、項6もしくは7の使用のための抗体、または項6もしくは7の方法、または項6もしくは7の使用。
11.抗体、IgG4型のものである、項6もしくは7の使用のための抗体、または項6もしくは7の方法、または項6または7の使用。
12.抗体は、Fc領域を含み、好ましくはFc受容体、例えば、FcγRI(CD64)、FcγRIIA(CD32)、FcγRIIB(CD32)、FcγRIIIA(CD16a)、FcγRIIIB(CD16b)のようなFcγ受容体(FcγR)に結合する、項1もしくは4~11のいずれか1項の使用のための抗体、または項2もしくは4~11のいずれか1項の方法、または項3~11のいずれか1項の使用。
13.抗体は、低い補体活性化活性を有する、項1もしくは4~11のいずれか1項の使用のための抗体、または項2もしくは4~11のいずれか1項の方法、または項3~11のいずれか1項の使用。
14.Fc領域は、補体活性化を低減するように改変された、項13の使用のための抗体、方法、または使用。
15.炎症状態は、自己免疫状態である、項1もしくは4~14のいずれか1項の使用のための抗体、または項2もしくは4~14のいずれか1項の方法、または項4~14のいずれか1項の使用。
16.自己免疫状態は、自己抗体媒介自己免疫状態である、項1もしくは4~15のいずれか1項の使用のための抗体、または項2もしくは4~15のいずれか1項の方法、または項3~15のいずれか1項の使用。
17.自己免疫状態は、上昇したIL-10が存在する状態である、項1もしくは4~16のいずれか1項の使用のための抗体、または項2もしくは4~16のいずれか1項の方法、または項4~16のいずれかの使用。
18.自己免疫状態は、神経学的状態である、項1もしくは4~17のいずれか1項の使用のための抗体、または項2もしくは4~17のいずれか1項の方法、または項4~17のいずれかの使用。
19.自己免疫状態は、ITPではない、項1もしくは4~18のいずれか1項の使用のための抗体、または項2もしくは4~18のいずれか1項の方法、または項4~18のいずれかの使用。
20.状態は:
(i)慢性炎症性脱髄性多発ニューロパチー(CIDP)、重症筋無力症(MG)、多発性硬化症(MS)および視神経脊髄炎(NMO)から選択される、または
(ii)関節リウマチおよびTRALIから選択される、
項1もしくは4~19のいずれか1項の使用のための抗体、または項2もしくは4~19のいずれか1項の方法、または項3~19のいずれか1項の使用。
21.状態は、慢性炎症性脱髄性多発ニューロパチー(CIDP)である、項1もしくは4~20のいずれか1項の使用のための抗体、または項2もしくは4~20のいずれか1項の方法、または項3~20のいずれか1項の使用。
22.状態は、重症筋無力症(MG)である、項1もしくは4~20のいずれか1項の使用のための抗体、または項2もしくは4~20のいずれか1項の方法、または項3~20のいずれか1項の使用。
23.状態は、多発性硬化症(MS)である、項1もしくは4~20のいずれか1項の使用のための抗体、または項2もしくは4~20のいずれか1項の方法、または項3~20のいずれか1項の使用。
24.状態は、視神経脊髄炎(NMO)である、項1もしくは4~20のいずれか1項の使用のための抗体、または項2もしくは4~20のいずれか1項の方法、または項3~20のいずれか1項の使用。
25.状態は、関節リウマチである、項1もしくは4~20のいずれか1項の使用のための抗体、または項2もしくは4~20のいずれか1項の方法、または項3~20のいずれか1項の使用。
26.状態は、TRALIである、項1もしくは4~20のいずれか1項の使用のための抗体、または項2もしくは4~20のいずれか1項の方法、または項3~20のいずれか1項の使用。
27.RBC抗体は、ペプチドエピトープに結合する、項1もしくは4~26のいずれか1項の使用のための抗体、または項2もしくは4~26のいずれか1項の方法、または項3~26のいずれか1項の使用。
28.RBC抗体は、RhDタンパク質、GPA、TER-119抗原(Ly76)のヒト相同分子種、およびBand3から選択されるRBC分子に結合する、項1もしくは4~27のいずれか1項の使用のための抗体、または項2もしくは4~27のいずれか1項の方法、または項3~27のいずれか1項の使用。
29.RBC抗体は、RBCあたり10~10コピーの密度で見出されるRBC分子に結合する、項1もしくは4~28のいずれか1項の使用のための抗体、または項2もしくは4~28のいずれか1項の方法、または項3~28のいずれか1項の使用。
30.抗体は、静脈内、筋肉内、腹腔内、脳脊髄内、脳内、皮下、関節内、関節滑液嚢内、髄腔内、肺内、鼻腔内、皮内局所投与によって、または吸入によって、好ましくは静脈内または皮下投与によって投与される、項1もしくは4~29のいずれか1項の使用のための抗体、または項2もしくは4~29のいずれか1項の方法、または項3~29のいずれか1項の使用。
31.抗体は、対象の体重の約0.001mg/kg~約100mg/kgの量の抗体が週あたり投与されるように投与される、項1もしくは4~29のいずれか1項の使用のための抗体、または項2もしくは4~29のいずれか1項の方法、または項3~29のいずれか1項の使用。
32.抗体は、対象の体重の約0.001mg/kg~約100mg/kgの量の抗体が2週間毎に投与されるように投与される、項1もしくは4~29のいずれか1項の使用のための抗体、または項2もしくは4~29のいずれか1項の方法、または項3~29のいずれか1項の使用。
33.抗体は、対象の体重の約0.001mg/kg~約100mg/kgの量の抗体が1ヵ月あたりに投与されるように投与される、項1もしくは4~29のいずれか1項の使用のための抗体、または項2もしくは4~29のいずれか1項の方法、または項3~29のいずれか1項の使用。
34.抗体は、約50μg~約2000mgの固定投与量が週あたりに投与されるように投与される、項1もしくは4~29のいずれか1項の使用のための抗体、または項2もしくは4~29のいずれか1項の方法、または項3~29のいずれか1項の使用。
35.抗体は、約50μg~約2000mgの固定投与量が2週間あたりに投与されるように投与される、項1もしくは4~29のいずれか1項の使用のための抗体、または項2もしくは4~29のいずれか1項の方法、または項3~29のいずれか1項の使用。
36.抗体は、約50μg~約2000mgの固定投与量が1ヵ月あたりに投与されるように投与される、項1もしくは4~29のいずれか1項の使用のための抗体、または項2もしくは4~29のいずれか1項の方法、または項3~29のいずれか1項の使用。
37.抗体は、1つまたはそれ以上の他の治療剤、好ましくは少なくとも1つの他の抗炎症剤、または炎症状態を処置するため、またはそれらの症状を軽減するために使用される薬剤と組み合わせて投与される、項1もしくは4~36のいずれか1項の使用のための抗体、または項2もしくは4~36のいずれか1項の方法、または項3~36のいずれか1項の使用。
38.1つまたはそれ以上の他の治療剤は、抗炎症剤を含む、項37の使用のための抗体、項37の方法、または項37の使用。
39.1つまたはそれ以上の他の治療剤は、免疫抑制剤を含む、項37または38の使用のための抗体、方法、または使用。
40.1つまたはそれ以上の他の治療剤は、鎮痛剤を含む、項35~39のいずれか1項の使用のための抗体、方法、または使用。
41.抗体は、好ましくはRBCに結合する、項1もしくは4~40のいずれか1項の使用のための抗体、または項2もしくは4~40のいずれか1項の方法、または項3~40のいずれか1項の使用。
42.RBC抗体が結合するRBC分子は、1つまたはそれ以上の他の血液細胞および/または血管系に関連する細胞よりもRBC上に高密度で見出される、項1もしくは4~41のいずれか1項の使用のための抗体、または項2もしくは4~41のいずれか1項の方法、または項3~41のいずれか1項の使用。
43.RBC抗体が結合するRBC分子は、血小板、白血球、および/または血管系に関連する細胞よりもRBC上に高密度で見出される、項1もしくは4~42のいずれか1項の使用のための抗体、または項2もしくは4~42のいずれか1項の方法、または項3~42のいずれか1項の使用。
44.RBC抗体が結合するRBC分子は、血小板上で見出されない、項1もしくは4~43のいずれか1項の使用のための抗体、または項2もしくは4~43のいずれか1項の方法、または項3~43のいずれか1項の使用。
45.抗体は、ヒト、または好適な動物モデルにおいてインビボでMPS遮断を起こす、項1もしくは4~44のいずれか1項の使用のための抗体、または項2もしくは4から44のいずれか1項の方法、または項3~44のいずれか1項の使用。
46.抗体は、インビボ、例えば動物モデルにおいてまたはヒトにおいて溶血を起こす、項1もしくは4~45のいずれか1項の使用のための抗体、または項2もしくは4~45のいずれか1項の方法、または項3~45のいずれか1項の使用。
47.抗体は、インビトロアッセイでオプソニン化した血小板の食作用を阻害する、項1もしくは4~46のいずれか1項の使用のための抗体、または項2もしくは4~46のいずれか1項の方法、または項3~46のいずれか1項の使用。
48.抗体の投与は、抗原のまたは抗原に対する寛容をもたらさない、項1もしくは4~47のいずれかの使用のための抗体、または項2もしくは4~47のいずれかの方法、または項3~47のいずれか1項の使用。
49.抗原は、自己免疫状態に関与するまたは自己免疫状態を起こす抗体と投与されるタンパク質またはペプチドである、項48の使用のための抗体、方法、または使用。
50.抗体は、任意の非免疫グロブリン配列を含有せず、好ましくは、抗体は、免疫グロブリン配列からなり、さらなる(例えばNまたはC末端に融合した)配列が存在しない、項1もしくは4~49のいずれか1項の使用のための抗体、または項2もしくは4~49のいずれかの方法、または項3~49のいずれか1項の使用。
51.抗体は、任意のさらなるタンパク質またはペプチドを有する融合タンパク質ではない、項1もしくは4~50のいずれかの使用のための抗体、または項2もしくは4~50のいずれかの方法、または項3~50のいずれか1項の使用。
52.抗体は、組成物として対象に投与され、場合により組成物が任意の細胞を含まないおよび/または細胞が組成物と共投与されない、項1もしくは4~51のいずれかの使用のための抗体、または項2もしくは4~51のいずれかの方法、または項3~51のいずれか1項の使用。
53.対象において炎症状態を処置または防止する方法であって、赤血球(RBC)に対する抗体によって感作された、治療有効量のヒト赤血球を、それを必要とする対象に投与する工程を含む方法。
【実施例
【0175】
方法
試薬
C57BL/6マウスおよびSCIDマウスは、Charles River Laboratories(Kingston,NY,USA)から入手した。MWReg30は、BD Biosciences(Mississauga、Ont.、Canada)から入手した。30-F1は、Biolegend(San Diego、CA、USA)から入手した。30-1-2SおよびTER-119は、Bio X Cell(West Lebanon、NH、USA)から入手した。
【0176】
ITP/貧血症
記載したように、ITPが誘導され、血小板が数えられた(Crow ARら、Blood.2011;117(3):971~974頁)。記載したように、貧血症が誘導され、RBCが数えられた(Chen Xら、Transfusion.2014;54(3):655~664頁)。マウスは、対照ラットIgG 45μg、またはTER-119 45μgを特定の時点で注射され、それらのRBCが数えられ、その後各群はMWReg30 2μgを受けた。MWReg30注射の1時間後、マウスは血小板計数のために採血された。
【0177】
K/B×N関節炎モデル
記載したように、K/B×N関節炎が誘導され、スコア化された(Mott PJら、PLoS One.2013:8(6):e65805)。マウスは、K/B×N血清の注射前に、なし、またはTER-119 45μgによって前処置された。マウスは、関節炎の進行を毎日モニターされた。別個の実験では、マウスは関節炎にされ、5日目にTER-119 45μgまたは30-F1 50μgで処置された。
【0178】
TRALI
記載したように、TRALIが誘導された(Kapur Rら、Blood.2015;126(25):2747~2751頁)。簡単に述べると、SCIDマウスは、34-1-2S 50μgの注射の24時間前に、TER-119 40μgを注射された。直腸温度が、2時間の間30分毎に記録され、次いでマウスは犠牲にされ、湿/間(W/D)肺重量比が決定された。
【実施例1】
【0179】
赤血球標的化抗体の生成(TER-119、IC3、LD1/2-6-3)
pCGCベクターと呼ばれる一連の発現ベクターは、様々な抗体アイソタイプの重鎖の定常領域(CH)を、pCMV/myc/ERベクターに(Invitrogen、ThermoFisher Scientific MA、USA)導入することによって生成された。抗TER-119(WO2013121296A1)、抗グリコホリンA抗体IC3(WO9324630A1)、および抗D抗体LD1/2-6-3(WO9749809A1)の可変領域(VLおよびVH)をコードするDNA断片は、CHO発現のためにコドン最適化され、ThermoFisher Scientific(MA、USA)によって合成された。次いで、VLおよびVH断は、図1に示すように、InTagポジティブセレクション法(Chenら、2014 Nucleic Acids Res 42(4):e26)を使用して関連するpCGCベクターに適切なInTagアダプターと共にクローニングされた。最終発現ベクターは、軽鎖の発現が第1のCMVプロモーターによって駆動され、重鎖の発現が第2のCMVプロモーターによって駆動される二重発現ベクターである。
【0180】
【表4】
【0181】
アミノ酸配列
LD1/2-6-3 VL(抗ヒトRhD)
VMTQSPSSLSASVGDRVTITCRASQSIIRYLNWYQHKPGKAPKLLIHTASSLQSGVPSRFSGSVSGTDFTLTISSLQPEDFATYYCQQSYTTPYTFGQGTKLQIKR(配列番号1)
LD1/2-6-3 VH(抗ヒトRhD)
QVKLLESGGGVVQPGGSLRVACVASGFTFRNFGMHWVRQAPGKGLEWVAFIWFDASNKGYGDSVKGRFTVSRDNSKNTLYLQMNGLRAEDTAVYYCAREKAVRGISRYNYYMDVWGKGTTVTVSS(配列番号2)
IC3 VL(抗ヒトGPA)
DIVMSQSPSSLAVSVGEKVSMSCKSSQSLFNSRTRKNYLTWYQQKPGQSPKPLIYWASTRESGVPDRFTGSGSGTDFTLTISSVQAEDLADYYCKQSYNLRTFGGGTKLEIKR(配列番号3)
IC3 VH(抗ヒトGPA)
EVRLLESGGGPVQPGGSLKLSCAASGFDFSRYWMNWVRRAPGKGLEWIGEINQQSSTINYSPPLKDKFIISRDNAKSTLYLQMNKVRSEDTALYYCARLSLTAAGFAYWGQGTLVTVSA(配列番号4)
抗TER-119 VL(抗マウスGPA関連タンパク質、抗Ly76)
DIQMTQSPSVLSASVGDRVTLNCKASQNINKYLNWYQQKLGEAPKVLIYNTNNLQTGIPSRFSGSGSGTDFTLTISSLQPEDFATYFCFQHYTWPTFGGGTKLEIKR(配列番号5)
抗TER-119 VH(抗マウスGPA関連タンパク質、抗Ly76)
EVKLQESGGGLVQPGGSLKLSCVASGFTFRDHWMNWVRQAPGKTMEWIGDIRPDGSDTNYAPSVRNRFTISRDNARSILYLQMSNMRSDYTATYYCVRDSPTRAGLMDAWGQGTSVTVSS(配列番号6)
【0182】
ExpiCHO(商標)細胞における一過性mAb発現
ExpiCHO(商標)発現システム(Gibco、Life Technologies、Carlsbad CA、USA)のMax Titerプロトコールを使用する一過性トランスフェクションは、製造業者の説明書にしたがって実施された。プラスミドDNA(120μg)は、8mLのOptiPro(商標)SFM中で希釈され、優しく混合された。ExpiFectamine(商標)CHO試薬(640μL)は、7.4mLのOptiPro(商標)SFM中で希釈され、優しく混合され、希釈したDNAとすぐに合わされ、優しく混合され、室温で2分間インキュベートされ、DNA-ExpiFectamine(商標)CHO複合体を形成させた。DNA-Expifectamine(商標)CHO複合体は、次いで、ExpiCHO Expression(商標)培地中にExpiCHO-S(商標)細胞(1.2×10個の細胞)200mLを含有する1LのErlenmeyerフラスコに添加された。細胞は、およそ20時間、140rpmで振盪しながら8%COを含む37℃のインキュベーターでインキュベートされた。ExpiCHO(商標)Enhancer 1200μLおよびExpiCHO(商標)Feed 32mLからなるマスターミックスが調製され、各フラスコに添加された。細胞は、140rpmで振盪しながら5%COを含む32℃のインキュベーターでさらに4日間インキュベートされた。さらなるExpiCHO(商標)Feed 32mLが添加され、細胞はさらに9日間インキュベートされた。タンパク質は、20分間4℃で4000rpmでの上澄み液の遠心分離から採取され、HPLC定量および精製の前に0.45μMフィルターを使用してきれいな容器に濾過された。
【0183】
Expi293F(商標)細胞における一過性mAb発現
Expi293F(商標)発現システム(Life TechnologiesCA,USA)を使用する一過性トランスフェクションは、製造業者の説明書にしたがって実施された。プラスミドDNA(1mg)は、50mLのOptiMEM(商標)I培地中で希釈され、優しく混合された。Expifectamine(商標)293トランスフェクション試薬(2.7mL)は、50mLのOpti-MEM(商標)I培地中で希釈され、優しく混合され、室温で5分間インキュベートされた。希釈したExpifectamine(商標)293トランスフェクション試薬は、次いで、希釈したDNAに添加され、優しく混合され、室温で20~30分間インキュベートされ、DNA-Expifectamine(商標)293トランスフェクション試薬複合体を形成させた。DNA-Expifectamine(商標)293トランスフェクション試薬複合体は、次いで、Expi293F(商標)細胞(2.5×10個の細胞)817mLを含有する3LのErlenmeyerフラスコに添加された。細胞は、およそ19時間、120rpmで振盪しながら8%COを含む37℃のインキュベーターでインキュベートされた。5mLのExpifectamine(商標)293Transfection Enhancer1(Life Technologies,CA,USA)、50mLのExpifectamine(商標)293 Transfection Enhancer2(Thermo Fisher Scientific,CA,USA)および25mLのLupin Peptone(Solabia S.A.S、France)からなるマスターミックスが調製され、各Erlenmeyerフラスコに添加された。細胞は、120rpmで振盪しながら8%COを含む37℃のインキュベーターでさらに5日間インキュベートされた。タンパク質は、20分間4000rpmでの上澄み液の遠心分離から採取され、HPLC定量および精製の前に0.45μMフィルターを使用して清潔なチューブに濾過された。
【実施例2】
【0184】
治療抗体TER-119によるタイムコース実験
ITPモデルにおけるTER-119によるタイムコース実験が実施された。C57BL/6マウスは、ラットのIgG 45μg(図1A、B)またはTER-119 45μg(図2C、D)によって前処置され、図2のx軸に示す期間、血小板ならびに赤血球が数えられた。ITPは、x軸に示した時間に、抗血小板抗体(MWReg30)2μgによって誘導された。血小板は、MWReg30注射の1時間後に数えられた。
【0185】
対照ラットIgGによって注射されたマウスは、ラットIgGへの短期(図2A)または長期(図2B)の暴露後に貧血症または抗血小板抗体誘導ITPの改善を示さない。対照的に、TER-119によって前処置されたマウスは、投与の3時間後に始まる測定できるほどの貧血症を実証した(図2C)。驚くべきことに、ITPの改善は測定できるほどの貧血症の発症前に見られた(図2C、0.5時間および1.5時間)。反対に、本発明者らは、最大の貧血症に達した場合、ITPの顕著な改善を観察しなかった(図2D、96時間)。これらのデータは、貧血症が、TER-119によるITPの改善に必須ではないことを示す。これは、ITPにおけるTER-119の治療活性が、単にMPS機能の競合阻害によらないことを推測させる。
【実施例3】
【0186】
TER-119は、K/B×Nモデルにおいて炎症性関節炎を改善できる。
関節リウマチは滑膜関節の炎症を含む一般的な自己免疫障害である(Colmegna I、Ohata BR、Menard HA.Clin Pharmacol Ther.2012;91(4):607~620頁)。K/B×N関節炎モデルは、ヒト関節リウマチの多くの免疫学的メカニズムをとり(Kouskoff Vら、Cell.1996年;87(5):811~822頁)、脾臓摘出マウスは正常マウスと同等に疾患に感受性であるため、脾臓血球貯留を必要とする炎症性疾患として公知ではない(Misharin AVら、Cell Rep.2014;9(2):591~604頁)。したがって、本発明者らは、TER-119の広範な抗炎症活性能を試験するためこのモデルを使用した。
【0187】
0日目、C57BL/6マウスは基底の関節炎測定をアセスメントされた(図3AおよびB)。マウスの1つの群はTER-119 45μgを受け(白い丸)、他の群(白い四角)は何も受けなかった。2時間後、全てのマウスがK/B×N血清の注射を受けた。Mott PJら、PLoS One.2013;8(6):e65805にしたがって、足首測定(A)および臨床スコア(B)が10日間毎日取られた。
【0188】
K/B×N血清を注射されたマウスは、それらの臨床関節炎スコアに基づき、注射後2日目までに(図2B、白い丸)、およびそれらの足首幅に基づき3日目までに(図3A、白い四角)炎症性関節炎を発症した。疾患重症度は時間と共に増加し、7日(臨床スコア)および8日(足首幅)で最大に達した。比較すると、TER-119によって予防的に処置されたマウスは、著しく低減した関節炎スコア(図3A、白い丸)および(図3B、白い丸)を実証した。これらのデータは、RBCに対するモノクローナル抗体が炎症性関節炎を改善できることを実証し、TER-119がITPの処置を超えて広範な抗炎症活性を発揮することを示している。
【実施例4】
【0189】
TER-119は、K/B×Nモデルにおいて確立された関節炎を回復できる。
本発明者らは、確立された関節炎疾患を改善するTER-119の能力も試験した。独立した実験において、マウスは、前処置なしでK/B×N血清の注射を受けた。5日目に、関節炎マウスは、何もなし(図3C、白い四角)、30F1 50μg(例えば、Song S.ら、Blood.2003;101(9):3708~3713頁で使用された、非治療抗CD24抗体、白い三角)またはTER-119 45μg(白い丸)によって処置された(図3C/D、矢印)。足首測定(C)および臨床スコア(D)は0、1、2、および5~9日目に測定された。
【0190】
この一連の実験において、マウスは、それらの足首幅(図3C)および臨床スコア(図3D)に基づいて5日目に最大の関節炎を発症した。5日目にTER-119によって処置されたマウスは、処置の1日後に関節炎炎症の明らかな低減を示し、足首幅および臨床スコアは処置の3日後に正常に戻った。足首幅の減少は、処置の1日後では顕著ではなかったが(6日目、P=0.06)、腫れの実質的な低減があった。RBC抗体30-F1(Fc受容体に結合せず、マウスITPを改善しないラットIgG2c抗体(Song Sら、Blood.2003;101(9):3708~3713頁))を受けるマウスは、未処置のマウスと同様に、炎症の改善を示さなかった。これらのデータは、TER-119が確立された関節炎を回復でき、活性化するFc受容体に結合できるIgGサブタイプが選択されなければならないことを実証する。これは、脱グリコシル化TER-119、Fc受容体結合活性を大きく減らすことが公知のプロセスによっても確認され、脱グリコシル化TER-119は、K/B×N関節炎またはITPを著しく改善しなかったことを示す(データは示さない)。
【実施例5】
【0191】
TER-119は、コラーゲン抗体誘導関節炎CAbIAモデルにおいて炎症性関節炎を改善できる
実験概要
赤血球標的化抗体は、マウスのコラーゲンAb誘導関節炎(CAbIA)モデルにおける治療効能を調べられた(Campbell IKら、J Immunol.2014、192:5031~5038頁。Campbell IKら、J Immunol.2016、197:4392~4402頁)。
【0192】
試薬
・抗II型コラーゲンmAbカクテル(CAb)、Chondrex カタログ番号53100、10mg/ml(lot番号150211)。
・LPS(大腸菌(E.coli)0111:B4)、Chondrex カタログ番号53100、0.5mg/ml(lot番号140243)。
・ラットIgG2b(アイソタイプ対照)、2.75mg/ml、4.5.17、WEHI Antibody Facility。
・TER-119、2.00mg/ml,4.5.17、WEHI Antibody Facility。
【0193】
マウス
30匹の雄のC57BL/6マウス(7~8週齢)は、Bio21 Animal Facility,Melbourne、Australiaから得られた。マウスは、実験が開始される前に1週間、Bio21のCSLマウス室で順応させた。
【0194】
手順
0日目に、全てのマウスは、抗コラーゲンmAbカクテル(10mg/ml)0.2mlをi.p.注射された。3日目に、全てのマウスは、LPS(0.5mg/ml)0.1mlをi.p.注射された。5日目に、関節炎マウスは無作為に処置群に分けられ(表4)、示した試薬の単回i.v.注射を投与された。実験は12日で終了された。
【0195】
関節炎関節の組織学
12日目に、マウスは屠殺され、足の背面が10%中性緩衝ホルマリン中で固定され、脱灰され、パラフィン中に包埋された。矢状組織切片は、H&Eによって染色され、処置群を盲検によりスコア化した。足首関節は、3つの特徴に関して(滲出液-関節腔内の炎症細胞の存在;滑膜炎-滑膜肥厚および炎症細胞浸潤の程度;組織破壊-軟骨および骨びらんおよび侵食)、それぞれ5つ(0-正常、1-最小、2-軽度、3-中等度、4-重度、5-重症)の中から全体的にスコア化し、これらを総計して、15の中から総スコアを得た。
【0196】
【表5】
【0197】
結果
TER-119処置マウスは、注射の24時間以内に関節炎から完全に保護され、これは12日目の実験の終わりまで持続された(図4a)。
【0198】
12日目のマウスの右足首関節の背面の盲検組織学的スコアリング(アイソタイプ対照、n=9;TER-119、n=6)は、2つの処置群間で明らかな違いを示した(図4b)。TER-119処置した関節は、アイソタイプ対照mAb処置した関節炎マウスで見られた炎症および関節組織の破壊の兆候なく見かけでは正常であった。なお、TER-119処置群の3匹のマウスは、過度の体重減少により研究の完了前に安楽死させた。
【0199】
異なる用量のTER-119の効果
臨床スコア(図4CおよびD)および関節での細胞の蓄積(図4E)への異なる用量のTER-119(1、1.5、および2mg/kg)の効果がアセスメントされた。関節での浸潤細胞の数をアセスメントするため、各マウス由来の膝蓋骨が採取され、消化され、浸潤する白血球が視覚的に数えられた。
【0200】
1.5および2mg/kgのTER-119は、臨床スコアの低減に有効である。全ての用量が、関節の浸潤細胞数を著しく低減した。1mg/kgの用量のTER-119は、1.5および2mg/kgの用量と比較して、RBCの表面上の著しく少ない結合抗体をもたらし、臨床スコアと相関する(図4F)。
【0201】
CAbIAは、関節においてC3およびC5aの増加をもたらし(Spirig Rら、J Immunol.2018、200:2542~2553頁)、これらの補体成分ならびにC1qは、血漿におけるこれらの補体成分で観察される差がなく(図示せず)、関節においてTER-119によって減少された(図4G)。
【0202】
異なる抗体の効果
コラーゲン抗体カクテル(0日目)およびLPS(3日目)を注射されたC57BL/6マウスは、関節炎を発症させ、次いで2mg/kgのTER-119、脱グリコシル化TER-119(Fcグリカンのない変異体、したがってFc受容体および補体結合を損なう)、M1/69またはIgG2bアイソタイプ対照抗体のいずれかを注射され(6日目;処置)、臨床スコアおよび足幅が毎日評価された(図4H)。2匹のマウスのみがM1/69によって試験された。
【0203】
TER-119は、赤血球上のグリコホリンA複合体に特異的であるが、M1/69は、熱安定抗原(HSA)、Ly-52、またはネクタドリンとしても公知のマウスCD24と反応し、ホスファチジルイノシトール結合を介して細胞膜にアンカーされた約35~45kDaの糖タンパク質であり、赤血球ならびにリンパ球、顆粒球、胸腺細胞、上皮細胞、神経細胞、および樹状細胞上に発現される抗原である。
【0204】
TER-119およびM1/69は両方とも、ITPのマウスモデルで血小板数を増加し得る(Song S.ら、Blood.2003;101(9):3708~3713頁)。これらの抗体のマウス赤血球との結合を確かめるため、抗体(0~512ngの一次抗体)をC57BL/6マウス由来の赤血球、続いて二次抗ラットIgフィコエリトリンコンジュゲートと反応させ、フローサイトメトリーによってアセスメントした(図4I参照)。TER-119、脱グリコシル化TER-119、およびM1/69は、アイソタイプ対照との比較で全ての用量の研究において赤血球に比較的結合した。
【0205】
全ての関節炎モデルの臨床スコアは、以下のように割り当てた:0、正常;0.5、指幅に限られた腫れ;1、軽度の足の腫れ;2、明らかな足の腫れ;3、重症の足の腫れおよび/または硬直。
【0206】
結論
静脈内のTER-119は、臨床的および組織学的にアセスメントした場合、確立されたCAbIAの遮断に治療的に有効であった。
【実施例6】
【0207】
TER-119処置は、34-1-2S誘導低体温症を著しく防止し得る。
輸血関連急性肺傷害(TRALI)は、輸血の最も深刻な合併症の1つである(Chapman CEら、Transfusion.2009;49(3):440~452頁)。SCIDマウスへのMHCクラスI抗体(34-1-2S)(Looney MRら、J Clin Invest.2006;116(6):1615~1623頁)の輸注は、ほぼヒトのTRALIの症状、ITPおよび関節炎で観察されるものとは異なる症状を示す炎症性疾患を誘導する(Fung YLら、Blood.2010;116(16):3073~3079頁)。本発明者らが近年見出したように、炎症はマウスTRALIのリスクがあり(Kapur Rら、Blood.2015;126(25):2747~2751頁)、本発明者らは次に、これらの疾患の誘導を阻害するTER-119の能力を調べた。
【0208】
SCIDマウスは、TER-119 40μgを注射され(図3E/F、白い丸、白い三角)、または24時間未処置のままにされた(白い丸)。マウスは、次いで34-1-2S 50μgを注射され(白い三角、白い四角)または何も注射されなかった(白い丸)。直腸温度は2時間の間30分毎に測定され(図3E)、マウスはその後2時間で犠牲にし、肺浮腫をアセスメントした(図3F)。マウスの直腸温度がモニターされ、34-1-2Sによって誘導される全身性ショックを評価された(Fung YLら、Blood.2010;116(16):3073~3079頁)。TER-119のみを注射されたマウスと比較して、34-1-2Sを受けたマウスは、注射後30分で直腸温度の低下を示し(図3E)、90分まで低下し、120分の終了点まで安定に維持された。対照的に、34-1-2S注射の前にTER-119の前処置を受けたマウスは、30分で体温のあまりはっきりしない低下を示し、60分、90分、および120分で顕著になった(対34-1-2Sのみ)。これらのデータは、TER-119処置が34-1-2S誘導低体温症を著しく防止し得ることを実証する。
【0209】
肺浮腫の検死は、湿/乾(W/D)肺重量比によって測定された。TER-119による前処置後に34-1-2Sを受けたマウスは、TER-119単独で処置されたものと類似の肺W/D比を示すが、34-1-2Sのみを注射されたマウスより著しく低く、それらの増加したW/D重量比に基づくTRALIを経験した。したがって、TER-119は34-1-2S誘導全身性ショックを防止し、肺浮腫を改善し得る。感作されたRBCは、肺(または関節)に移行することが公知ではないため、これは抗RBC抗体の抗炎症作用が局所的ではないことを示している。
【実施例7】
【0210】
TER-119はインビトロ(マウスシステム)での食作用を阻害し得る
TER-119はRBCに結合し、TER-119オプソニン化RBCは濃度依存的な様式で貪食される。
【0211】
材料および方法
RAW264.7細胞の調製
Raw細胞は、10%の熱不活性化FBSを補充した新しいRPMI-1640中にはがし取ることによって採取され、細胞は、Beckman Coulter Vi-Cell XR、Cell viability Analyzer(シリアル番号AT08066)を使用して数えられ、5×10個の細胞/mLに合わせられた。細胞は、ウェル当たり1mLの細胞調製物を使用してカバースリップのある12ウェルプレートで培養された。細胞は、37℃で終夜インキュベートされた。
【0212】
血小板および赤血球計数
全血5~800μLが、心臓穿刺を使用して各マウスから得られた。血液はすぐに、1:1(抗凝結緩衝液:BSGC緩衝液)200μLと混合され、BSCG緩衝液を使用して最終容積1.5mLに希釈された。各希釈された血液サンプルは、室温で3分間300gで遠心分離され、多血小板血漿(PRP)が回収された。残りのサンプルは、BSGC(1.5mL)中に再懸濁され、再び遠心分離された。PRPが再び回収され、先のPRPサンプルに添加され、このPRP混合物は次いで10分間1200gで遠心分離された。血小板ペレットは、BSGC 1mLに再懸濁され、PRP 5μLは、BSGC緩衝液で1:200に希釈され、次いで血小板は、MACSQuant analyzer 10(MACS Miltenyi Biotec)フローサイトメーターで計数され、調整物中の血小板の濃度が決定された。
【0213】
RBCは、次いで、PBS(1mL)中に再懸濁され、各サンプルはPBS中で1:3000に希釈され、次いでフローサイトメトリー(Guava EasyCyte flow cytometry system)によって分析され血液中の赤血球の濃度が決定された。
【0214】
CMFDA Cell Tracker Greenによる血小板の標識
血小板は、PRP 5μLを採取し、BSGC緩衝液(995μL)中で希釈することによって、MACSQuant analyzer 10(MACS Miltenyi Biotec)フローサイトメーターを使用して計数された。血小板は、5×10個の血小板/mLに合わせられた。CMFDAは、10μg/mLの濃度に調製された。次いで等容積の血小板とCMFDA(例えば血小板1mLとCMFDA 1mL)とは、最終CMFDA濃度が5μg/mLになるように一緒に混合された。混合物は、暗所で優しく混合しながら37℃で30分間インキュベートされた。
【0215】
抗CD41(Mwreg30)抗体による血小板、および抗RBC抗体によるRBCのオプソニン化
CMFDAとのインキュベーション後、血小板は10分間1200gで遠心分離され、ペレットはHBSS(1mL)中で再懸濁された。Mwreg30抗体は、10μg/mLの濃度で血小板サンプルに添加された。混合物は、優しく混合しながら室温で30分間インキュベートされた。
【0216】
RBCは、Guava Easy Cyte Mini(シリアル番号2800060170)を使用して計数され、5×10個のRBC/mLに合わせられた。選択濃度の抗RBC抗体は、RBC 1mLに添加された。混合物は、優しく混合しながら室温で1時間インキュベートされた。
【0217】
RAW264.7細胞とのインキュベーション
抗体との1時間のインキュベーション後、RBCはPBSで洗浄され、8分間300gで遠心分離された。RBCは再び計数され、10%熱不活性化FBSを補充したRPMI1640を使用して0.4×10個のRBC/mLに合わせられた。血小板はHBSSによって洗浄され、10分間1200gで遠心分離された。血小板は再び計数され、10%熱不活性化FBSを補充したRPMI-1640中で3~5×10個の血小板/mLに合わせられた。RBCおよび血小板を添加するため、上澄み液がRAW264.7細胞から除去され、ウェルあたり血小板調整物100μlが添加され(3~5×10個の血小板;比1マクロファージ:100血小板)、RBC調整物250μlが添加された(10×10個のRBC;比約1マクロファージ:20血小板)。細胞は、30分間37℃でインキュベートされた。
【0218】
食作用後調整
食作用は、細胞を氷上に置くことによって停止された。RAW264.7細胞は、ウェルあたりHBSS 500μl(1μg/mLのカルバサイクリン)によって1回洗浄された。残りのRBCは、1.5分間ウェルあたりdHO 0.9mLを添加することによって溶解され、次いで0.1mLのPBS 10×が添加され溶解プロセスが停止された。細胞は、HBSS 500μlによってさらに2回洗浄された。最終的に、PBS/0.5mM EDTA/0.05%トリプシンの溶液500μLが37℃で5分間ウェルに添加され、あらゆる残りの結合した血小板が除去された。トリプシン/EDTA溶液が除去され、細胞はHEPES緩衝液を含有するRPMI1640(500μL)中に置かれた。
【0219】
共焦点画像化および食作用係数の算出
LSM 700 Zeiss Confocal顕微鏡を使用して写真が撮られた。ウェルあたり5枚の写真が撮られた(上、下、中央、左、および右)。内部移行した血小板は、IMARIS8.0を使用して計数された。これらの実験での内部移行した血小板の基準は以下である:4.2μMの最小容積、緑色蛍光、およびx、y、およびz平面でのマクロファージによる血小板の内部移行。マクロファージは、Fiji(Fijiはただの画像)細胞計数プログラムを使用して計数された。食作用係数(PI)は、以下の式を使用して算出された:
PI=(移植された血小板の総数/計数されたマクロファージの総数)×100
【0220】
オプソニン化赤血球の免疫蛍光検出
全血5~800μLが、心臓穿刺を使用して各マウスから得られ、血液はすぐに、1:1(抗凝結緩衝液:BSGC緩衝液)200μLで希釈され、さらにBSCG緩衝液を使用して総容積1.5mLに希釈された。各希釈された血液サンプルは、室温で3分間300gで遠心分離され、多血小板血漿(PRP)が除去された。RBCは、次いでPBS(1mL)中に再懸濁され、各サンプルはPBS中で1:3000に希釈された。RBCは、Guava EasyCyte Mini(シリアル番号2800060170)を使用して計数され、5×10個のRBC/mLに合わせられた。抗体あたりRBC 1mLが使用された。抗体は、示した濃度でRBC懸濁液に添加された。混合物は、優しく混合しながら37℃で1時間インキュベートされた。インキュベーション後、RBCは洗浄され、10個のRBC/mLに再調整され、サンプル100μLが5mLのフローサイトメトリーチューブに添加され、室温で30分間適切な種特異的R-PEコンジュゲート二次抗体(1:200)の調製物(100μL)中でインキュベートされた。最終洗浄が実施され、未結合の抗体が除去された。サンプルは、次いでフローサイトメトリー(Guava EasyCyteフローサイトメトリーシステム)によって分析され、抗体-オプソニン化赤血球の平均蛍光強度(MFI)が決定された。
【0221】
結果
マウスRBCは、室温で45分間、様々な濃度のTER-119抗体とインキュベートされ、洗浄され、次いで37℃および5% COで30分間、RAWマクロファージに添加された。インキュベーション後、残りのRBCは、2分間HOによって溶解され、RAW細胞は、位相差顕微鏡で可視化される前に4%PFAによって固定された。マクロファージおよび内部移行したRBCが計数され、食作用係数が算出された。TER-119は、1.25μg/mLと同じくらい低い濃度での食作用のためRBCをオプソニン化できた(図5)。最大RBC食作用(すなわちプラトー)は、≧5μg/mLで達成された(図5)。
【0222】
さらに、共焦点顕微鏡手法を使用して、TER-119オプソニン化RBCがインビトロで血小板食作用を防止することが実証された(データは示さない)。TER-119によってオプソニン化されたRBCは、RAW264.7細胞によるCMFDA標識された血小板の取込みを著しく阻害したが、対照RBCは取込みに影響しなかった(データは示さない)。食作用係数の算出は、TER-119オプソニン化RBCがおよそ75%まで血小板食作用を低減できたことを確認した(図6)。
【0223】
異なる抗体は、食作用の阻害に異なる能力を有する。正常なマウスからの赤血球は、非オプソニン化または1時間、抗体TER-119、脱グリコシル化TER-119、34-3C(5または40μg)、またはM1/69によるオプソニン化のいずれかであり、次いで30分間RAW264.7細胞およびMWReg30オプソニン化CMFDA標識血小板とインキュベートされた。試験した抗体の反応性は、表5、以下、および図7に示す。細胞は、共焦点顕微鏡によって可視化され、内部移行した血小板はImaris software version 8.0.2によって計数された。TER-119、34-3C、およびM1/69のみが、インビトロでの血小板食作用を著しく阻害できた(P<0.05)。(群あたりn=4~6)。
【0224】
血小板食作用を阻害する抗赤血球抗体コートRBCの能力。
【0225】
【表6】
【実施例8】
【0226】
赤血球標的化抗体のMGを改善する能力の試験
マウス(C57Bl/6、8~10週齢)は、0、28、および56日目に完全フロイントアジュバント(CFA)でのゴマフシビレエイ(torpedo californica)(T-AChR)から抽出および精製されたアセチルコリン受容体20~40μgによって免疫された。CFA対照群も含まれた。免疫は、4つの部位で皮下に実施された。最初の注射は、2つの背面の足蹠および肩甲骨で実施され、続いて、肩甲骨および太腿に注射された(Wu Bら、Curr Protoc Immunol.2001;Chapter 15:unit 8)。
【0227】
マウスは、握力(筋力低下の客観測定として)または逆懸垂中の時間を測定することによって全身筋力低下の発症をスクリーニングされた。筋力低下は、運動後にも測定された。この目的のため、マウスは平らなプラットフォーム上に置かれ、筋力低下が観察された。次いで、しっぽの付け根を持って吊り下げながら、マウスを、繰り返しケージ上部の格子を横切って優しく引っ張り、その間、格子をつかもうとさせることによって運動させた(20~30分)。それらは、2分間平らなプラットフォーム上に置かれ、筋力低下の兆候が再び観察された。臨床的な筋力低下は以下のように段階分けされる:段階0、正常な姿勢のマウス;段階1、休止時には正常であるが、筋力低下が背むし様の姿勢、運動性の制限、および運動後頭を上げる困難によって特徴的に示される;段階2、観察期間中、運動せずに段階1の症状;段階3、段階2の低下をともなう脱水および瀕死の状態。
【0228】
多くのマウスが段階1~3の低下を実証する場合、T-AChRに特異的な抗体(IgG2b)が決定された。
【0229】
段階1~3の低下を実証するマウスおよび著しく陽性のT-AChR特異的IgG2b抗体は以下の群に無作為化された:
1.アイソタイプ対照による処置
2.抗TER-119抗体による処置
3.抗グリコホリンA抗体による処置
【0230】
マウスは、単一用量のAb、例えば2mg/kg、ivのいずれかを注射された。用量は、0.1mg/kg~2mg/kgの間であってもよい。抗体は、腹腔内または皮下に投与されてもよい。
【0231】
臨床スコアおよび筋力低下は、抗体の投与後1ヵ月の全期間、週に2回決定された。実験の終了時の血清、筋肉(すなわち三頭筋)および胴体は、個々のマウスから凍結された。T-AChR特異的IgG2b抗体の力価は、血清中で決定され、組織は補体沈着(C3およびC5b-C9)の免疫組織学によって分析された。
【実施例9】
【0232】
NMOにおける赤血球標的化抗体の試験
体重が一致した雌のSprague Dawleyラット(250~300g、9~12週齢)は、ケタミン(100mg/kg)およびキシラジン(10mg/kg)を使用して麻酔され、次いで定位固定のフレーム上にのせた。頭皮正中切開後、十字縫合の0.5mm前方および3.5mm側方に直径1mmの穿頭孔を生じさせた。直径40μmのガラス針が5mmの深さまで挿入され、加圧注入によって10分間にわたり総容積3~6μLで30または40μgの組換え抗AQP4-IgGを脳内に輸注した。同じ日に、ラットは0.1~2mg/kg、i.p.の単回用量の1)抗TER-119抗体または2)アイソタイプ対照で処置された。5日目に、ラットは深く麻酔され、ヘパリン添加したPBS 200ml、次いで100mlのPBS中4%パラホルムアルデヒド(PFA)によって左室を通って経心臓的に灌流された。脳は、4%PFA中で固定され、30%スクロース中、4℃で終夜置かれ、OCTに包埋された。固定された脳は凍結され、切片にされ(厚さ10μm)、AQP4(1:200、Santa Cruz Biotechnology、Santa Cruz、CA)、GFAP(1:100、Millipore)、ミエリン塩基性タンパク質(MBP)(1:200、Santa Cruz Biotechnology)、イオン化カルシウム結合アダプター分子-1(Iba1;1:1000;Wako,Richmond、VA)、C5b-9(1:50、Hycult Biotech、Uden、The Netherlands)またはCD45(1:10、BD Biosciences、San Jose、CA)に対する一次抗体との終夜のインキュベーション(4℃)、続く適切な蛍光二次抗体(1:200、Invitrogen、Carlsbad、CA)の前に遮断溶液(PBS、1%ウシ血清アルブミン、0.2% TritonX-100)中で1時間インキュベートされた。切片は、Leica蛍光顕微鏡で可視化するためVECTASHIELD(Vector Laboratories、Burlingame、CA)によってマウントされた。NMO病理学は、AQP4およびミエリン欠損および補体沈着によってアセスメントされた。
【実施例10】
【0233】
インビトロヒトシステムにおけるFcγR機能を阻害する赤血球標的化抗体の能力を試験する
FcγR機能は、例えば免疫グロブリン被覆粒子のFcγR媒介取込みを含む。抗RBC抗体および赤血球の免疫複合体は、抗体単独よりもFcγ受容体の遮断により有効であると考えられ、抗炎症/免疫抑制の一般的な状態をもたらすと考えられる。この効果は、おそらくRBC表面上の抗原の密度および試験した抗体のアイソタイプに依存する。異なる抗RBC抗体の効果を調べるため、FcγR発現細胞様THP1細胞またはヒト単核球/マクロファージはRBC-抗RBC抗体複合体とインキュベートされ、続いてFcγR発現細胞のIgG被覆粒子または細菌を食作用する能力が測定された。RBC抗体複合体が細胞の表面上のFcγRを遮断する場合、FcγR媒介取込みは低減された。(実験は、Tridandapaniら、J Biol Chem.2002;277(7):5082~9頁;Nagelkerke SQ ら、Blood.2014;124(25):3709~18頁;Coopamah MDら、Blood.2003;102(8):2862~7頁から適用された)。
【0234】
抗RBC抗体と赤血球の免疫複合体は、それら自身による食作用を誘導した(マウスシステムと類似)が、このメカニズムによる他の粒子および細菌の食作用も阻害した。
【実施例11】
【0235】
ヒトシステムのインビトロでのFcγR表面発現を阻害する赤血球標的化抗体の能力を試験する
FcγRへ結合する、およびそれによりFcγR機能、例えば、FcγR媒介食作用を遮断する抗RBC抗体と赤血球の免疫複合体の上記のメカニズムに則して、FcγR発現自体も影響されると考えられる。細胞表面上でのFcγR発現へのRBC-抗RBC抗体複合体の効果を調べるため、THP1細胞またはヒト単核球/マクロファージは複合体とインキュベートされ、FcγR発現がFACSによって経時的にアセスメントされた。CD64、CD32aおよびCD16を含む活性化FcγRは、下方制御されると考えられたが、阻害受容体CD32bはむしろ上方制御された(実験は、Song S.ら、Blood.2003;101(9):3708~3713頁から適用された。)。
【実施例12】
【0236】
マウスIgG変異体に変換されたTER-119抗体は、コラーゲン誘導関節炎(CIA)を改善した
抗体または血清を含む疾患の輸注によらないB細胞およびT細胞依存性慢性疾患モデルにおける疾患改善活性を調べるため、CIAにおける治療応答がアセスメントされた。さらに、TER-119のマウスバージョンをアセスメントするため、ラットIgG2b定常領域がマウスIgG1およびIgG2aと置き換えられた。2mg/kgのこれらの抗体のそれぞれが、上記のように28日間II型コラーゲンによって事前免疫されたDBA/1マウスの異なる群に注射された(Campbell IKら、J Leuk Biol 2000;68:144~50頁)。簡単に述べると、DBA-1マウスは、21日間隔で完全フロイントアジュバント中のトリコラーゲンを注射され、7日後、i.v.経路によって2mg/kgのアイソタイプ変換(マウスIgG1、マウスIgG2a)TER-119により処置され、臨床スコアがアセスメントされた。
【0237】
両マウスIgGサブタイプは、注射の1日以内に関節炎マウスの臨床スコアを減少でき、改善効果は丸1週間持続し、その後関節炎に戻った(図8)。したがって、疾患の改善は単なる抗体誘導関節炎モデルを超えて広がる。CIAモデルは記載したように実施された(Campbell IKら、J Leuk Biol 2000;68:144~50頁)。
【実施例13】
【0238】
34-3Cは、コラーゲン抗体誘導関節炎CAbIAモデルにおける炎症性関節炎を改善できる
本発明者らは、赤血球上のBand3抗原を標的とする34-3C mAbの、マウスのCAbIAモデルで確立された関節炎疾患を改善する能力も試験した。0日目、全てのマウスは、抗コラーゲンmAbカクテル0.2ml(10mg/ml)をi.p.注射された。3日目、全てのマウスは、LPS 0.1mL(0.5mg/ml)をi.p.注射された。5日目、関節炎マウスは、処置群に無作為に分配され、2mg/kg 34-3C(図9、黒い四角)または陰性対照としてPBS(黒い丸)を単回i.v.注射された。実験は12日目に終了された。対照としてPBSによって処置されたマウスは、時間と共に疾患の重症度を増加し、8日目に最大に達した(臨床スコア)。比較すると、RBC抗体34-3C(マウスIgG2a、Leddy JP,J.Clin.Invest.1993;91:1672~1680頁)を受けるマウスは、臨床スコアの著しい低減を示した。これらのデータは、34-3C mAbが確立された関節炎を回復し得ることを実証した。
図1
図2-1】
図2-2】
図3
図4-1】
図4-2】
図4-3】
図4-4】
図4-5】
図4-6】
図5
図6
図7
図8
図9
【配列表】
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