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▶ ローデンストック.ゲゼルシャフト.ミット.ベシュレンクテル.ハフツングの特許一覧

(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-05-11
(45)【発行日】2023-05-19
(54)【発明の名称】自覚的及び他覚的屈折の調整
(51)【国際特許分類】
   A61B 3/103 20060101AFI20230512BHJP
   A61B 3/028 20060101ALI20230512BHJP
   A61B 3/09 20060101ALI20230512BHJP
【FI】
A61B3/103
A61B3/028
A61B3/09
A61B3/103 ZDM
【請求項の数】 12
(21)【出願番号】P 2020552286
(86)(22)【出願日】2019-03-28
(65)【公表番号】
(43)【公表日】2021-08-10
(86)【国際出願番号】 EP2019057820
(87)【国際公開番号】W WO2019185770
(87)【国際公開日】2019-10-03
【審査請求日】2021-10-07
(31)【優先権主張番号】102018002630.3
(32)【優先日】2018-03-29
(33)【優先権主張国・地域又は機関】DE
(73)【特許権者】
【識別番号】503279013
【氏名又は名称】ローデンストック.ゲゼルシャフト.ミット.ベシュレンクテル.ハフツング
(74)【代理人】
【識別番号】100091487
【弁理士】
【氏名又は名称】中村 行孝
(74)【代理人】
【識別番号】100105153
【弁理士】
【氏名又は名称】朝倉 悟
(74)【代理人】
【識別番号】100127465
【弁理士】
【氏名又は名称】堀田 幸裕
(74)【代理人】
【識別番号】100158964
【弁理士】
【氏名又は名称】岡村 和郎
(72)【発明者】
【氏名】アダム、ムシーロク
(72)【発明者】
【氏名】ヘルムート、アルトハイマー
(72)【発明者】
【氏名】ボルフガング、ベッケン
(72)【発明者】
【氏名】グレゴール、エッサー
(72)【発明者】
【氏名】ディートマー、ウッテンバイラー
【審査官】増渕 俊仁
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2017/218539(WO,A1)
【文献】国際公開第2013/058725(WO,A1)
【文献】特表2010-532697(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2012/0069297(US,A1)
【文献】米国特許出願公開第2014/0368795(US,A1)
【文献】特表2012-510642(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61B 3/00-3/18
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
眼鏡着用者の眼の視力障害を決定するためのコンピュータ実装方法であって、
前記眼鏡着用者の前記眼の視力障害の第1及び第2の測定から測定値を与えるステップと、
前記第1及び第2の測定からの前記測定値に基づいて前記眼鏡着用者の前記眼の視力障害に関する推定値を計算するステップであって、視力障害の前記推定値の前記計算において視力障害の前記第1及び第2の測定の測定不正確さが考慮に入れられるステップと、
を含み、
前記測定不正確さは、前記第1の測定からの前記測定値と前記第2の測定からの前記測定値との間の体系的偏差を含み、
前記コンピュータ実装方法は、異なる眼鏡着用者の前記眼の視力障害の第1の測定及び第2の測定を含む複数の基準測定値を伴うデータセットの統計的解析を使用して、前記第1及び第2の測定の前記測定不正確さを決定するステップを更に含み、
前記第1の測定及び前記第2の測定の前記測定不正確さを決定する前記ステップは、
予測測定値と確率変数との合計として前記第2の測定の前記測定値のためのモデルを設定するステップであって、前記予測測定値が、前記第1の測定の前記測定値及び随意的に前記第2の測定の前記測定値の一部のパラメトリック関数としてモデリングされる、ステップと、
前記モデルのパラメータ空間内の前記確率変数の確率分布を最大化しつつ前記データセット内に含まれる前記基準測定値に前記モデルを適合させることによって前記パラメトリック関数のパラメータを定めるステップと、
前記予測測定値に基づいて前記第2の測定からの前記第1の測定の体系的偏差を決定するステップと、
を含む、コンピュータ実装方法。
【請求項2】
前記測定不正確さは、前記第1の測定からの前記測定値と前記第2の測定からの前記測定値との間の統計的偏差をさらに含む、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記眼の視力障害の前記第1の測定が他覚的屈折であり、及び/又は、
前記眼の視力障害の前記第2の測定が自覚的屈折である、
請求項1又は2に記載の方法。
【請求項4】
前記予測測定値は、以下のパラメトリック関数、すなわち、
モデル1:
【数1】
【数2】
【数3】
又は
モデル2:
【数4】
【数5】
【数6】
のうちの1つによってモデリングされ得る予測屈折であり、
(Mpred,J0pred,J45pred)は、前記予測屈折の屈折力ベクトルを示し、
【数7】
は、前記他覚的屈折からの前記測定値の屈折力ベクトルを示し、
【数8】
は、前記自覚的屈折からの前記測定値の屈折力ベクトルを示し、
【数9】
は、それぞれの前記パラメトリック関数のパラメータを示し、
Yは、前記予測屈折の屈折力ベクトルの屈折力ベクトル成分を表わし、
Xは、測定された前記他覚的屈折の屈折力ベクトルの屈折力ベクトル成分を表わす、
請求項3に記載の方法。
【請求項5】
前記眼の視力障害の前記推定値を計算する前記ステップは、前記第1の測定及び前記第2の測定からの前記測定値の加重平均を形成するステップを含み、前記第1の測定が第1の重みにより重み付けられ、前記第2の測定が第2の重みにより重み付けられ、随意的に、前記第1の測定及び前記第2の測定のうち、前記測定不正確さが低い方の前記測定が、より高い重みにより重み付けられる、請求項1からのいずれか一項に記載の方法。
【請求項6】
前記重みが視力障害の前記測定値に依存する、請求項3に従属するときの請求項に記載の方法。
【請求項7】
前記測定値が加入度及び/又は等価球面度数を含み、前記重みは、前記加入度及び/又は前記第1の測定からの前記等価球面度数の前記測定値と前記第2の測定からの前記等価球面度数の前記測定値との間の差に依存する、請求項に記載の方法。
【請求項8】
前記第1の測定及び前記第2の測定の前記測定不正確さ又は測定偏差が物体距離無限遠に関して決定され、及び/又は、前記第1の測定及び前記第2の測定の前記測定不正確さ又は測定偏差が異なる装置に関して別々に決定され、
前記第1の測定及び前記第2の測定の前記測定不正確さ又は測定偏差は、全てのデータに関して同一である前記眼までの距離で決定される、
請求項1からのいずれか一項に記載の方法。
【請求項9】
コンピュータのメモリにロードされてコンピュータで実行されるときに前記コンピュータに請求項1からのいずれか一項に記載の方法を実行させるコンピュータプログラム。
【請求項10】
請求項1からのいずれか一項に記載の方法を実行するように設計されたコンピュータデバイスを用いて眼鏡着用者の眼の視力障害を決定するための装置。
【請求項11】
眼鏡レンズを製造するための方法であって、
請求項1からのいずれか一項に記載の方法にしたがって決定された前記眼鏡着用者の眼の視力障害のデータ取得するステップと、
前記取得された視力障害のデータに基づいて目標屈折力を設定するステップと、
前記眼鏡レンズの前記少なくとも1つの所定の基準点で前記目標屈折力が達成されるように前記眼鏡レンズを製造するステップと、
を含む方法。
【請求項12】
眼鏡レンズを製造するための装置であって、
請求項10に記載の眼鏡着用者の眼の視力障害を決定するための装置と、
前記決定された視力障害に基づいて前記眼鏡レンズの基準点に目標屈折力を設定するための装置と、
前記眼鏡レンズの前記少なくとも1つの所定の基準点で、好ましくは前記眼鏡レンズの所定の着用位置で前記目標屈折力が達成されるように、前記眼鏡レンズを製造するための製造装置と、
を備える装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、眼鏡着用者の視力障害を決定するための方法、対応するコンピュータプログラムプロダクト、眼鏡レンズ製造方法及び装置に関する。また、本発明は、眼鏡レンズ又は眼鏡レンズシリーズに関する。
【背景技術】
【0002】
(少なくとも1つの屈折成分を含む)屈折を決定するために広く使用される方法は、眼鏡技師の間で一般的に受け入れられるようになってきた、いわゆる自覚的屈折決定である。自覚的屈折決定では、従来、異なる屈折レンズが眼鏡レンズの着用者に与えられ、この場合、眼鏡レンズの着用者は、与えられた屈折レンズの光学特性の変化時の視覚的印象の改善又は悪化について屈折検査者に知らせる。したがって、自覚的屈折は、視覚的印象に関する被検者からの情報を必要とするとともに、視覚的印象に対する他の変数の影響を考慮に入れることもできる。
【0003】
自覚的屈折決定は、例えば、他覚的屈折決定の値又は既に着用された眼鏡の値に基づいて構築できる。しかしながら、自覚的屈折決定の精度は、屈折検査者、例えば、自覚的屈折決定を実行する眼鏡技師及び/又は眼科医のスキルに決定的に依存する。また、自覚的屈折決定は、被検者、特に視覚的印象の鮮明さを評価する及び/又は明確に表わす被検者の能力に決定的に依存する。
【0004】
屈折を決定するための他の方法は、いわゆる他覚的屈折である。すなわち、他覚的屈折は、機器配列を使用して実行され、眼球の屈折特性及び幾何学的形態によって決定される。他覚的屈折は、屈折計、収差計、波面スキャナなどの様々な装置を使用して実行され得る。
【0005】
しかしながら、しばしば、他覚的屈折を使用して決定される眼鏡着用者の値は、自覚的屈折を使用して決定される値とはかなり異なる。これは、眼鏡着用者の視力障害を矯正するようになっている眼鏡レンズに適した目標値を見つけることを遥かに困難にする。
【0006】
国際公開第2009/007136号パンフレットは、眼鏡レンズに関する目標値を決定するための方法について記載し、この場合、自覚的屈折データの少なくともサブセットが、自覚的データと他覚的データとの比較に基づいて他覚的屈折データに適合される。特に、自覚的屈折データのサブセットは、比較結果が少なくとも1つの所定の比較条件を満たす場合には他覚的屈折データに適合され、そうでない場合には自覚的屈折データのサブセットが維持される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【文献】国際公開第2009/007136号パンフレット
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明の目的は、眼鏡着用者の視力障害の決定を改善することである。この目的は、独立請求項に係る方法、装置、コンピュータプログラムプロダクト、眼鏡レンズ及び眼鏡レンズシリーズにより達成される。好ましい変形又は実施形態が従属請求項の主題である。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明は、異なる測定又は測定方法及び/又は測定装置が基本的に異なる屈折値をもたらすという所見に基づいている。本発明は、眼鏡着用者の視力障害の計算において異なる測定の測定不正確さ又は測定偏差を考慮に入れることを提案する。
【0010】
本発明の第1の態様によれば、眼鏡着用者の眼の視力障害を決定するためのコンピュータ実装又はコンピュータ支援方法が記載され、この方法は
眼鏡着用者の眼の視力障害の第1及び第2の測定から測定値を与えるステップと、
第1及び第2の測定からの測定値に基づいて眼鏡着用者の眼の視力障害に関する推定値を計算するステップであって、視力障害の推定値の計算において視力障害の第1及び第2の測定の測定不正確さ又は測定偏差が考慮に入れられる、又は、視力障害の推定値の計算において視力障害の第1の測定及び第2の測定の測定不正確さ又は測定偏差が考慮に入れられる、ステップと、
を含む。
【0011】
「与える」は、本発明の意味の範囲内で、「データベース、テーブル又は他のデータキャリアから引き出すこと」、「グラフィカルユーザインタフェースなどのユーザインタフェースへ入力すること」、「送信すること」、「測定すること」、又は、「推定すること」を含む。
【0012】
第1及び第2の測定は、例えば、異なる装置などを使用して、様々なタイプの視力障害を測定するための測定装置を使用して自覚的/他覚的に行なわれ得る。
【0013】
測定値は、少なくとも1つの成分、好ましくは幾つかの成分の測定値を含むことができる。言い換えると、測定値は、幾つかの成分を伴うベクトル形式を成すことができる。成分は、例えば、
極表示の成分(球面、円柱、軸)、
曲率行列表示の成分、
屈折力ベクトル表示の成分(M、J0、及び、J45)、
ハリスベクトル表示の成分、
ゼルニケ多項式分解の成分(ゼルニケ係数)、又は
眼鏡着用者の視力障害の他の適した特性の成分、
であってもよい。
【0014】
第1及び第2の測定の測定不正確さ又は測定偏差を事前に決定できる(例えば、以下に記載される方法のうちの1つにしたがって)とともに適切な形式で記憶できる(例えば、テーブルとして、ファイルに、データベースに、数学モデルとして、関数として等)。したがって、この方法は、視力障害の第1及び第2の測定の測定不正確さ又は測定偏差に関するデータ又は情報を提供することを含むことができる。更に、この方法は、測定のタイプ、使用されるそれぞれの装置、眼鏡着用者の個々のデータ(例えば、年齢、好み、観察習慣、眼鏡レンズの使用量、眼鏡レンズの着用位置のパラメータなど)に関するデータを提供することを含むことができる。
【0015】
第2の態様によれば、眼鏡着用者の視力障害を矯正するための眼鏡レンズの目標屈折力を決定するための方法が提案され、該方法は、
第1の態様に係る方法にしたがって眼鏡着用者の眼の視力障害を決定するステップと、
目標屈折力が少なくとも1つの基準点で決定された視力障害を少なくとも部分的に、好ましくはほぼ完全に矯正するように、決定された視力障害に基づいて目標屈折力を設定するステップと、
を含む。
【0016】
基準点は、距離基準点、プリズム基準点、中心化点又は中心化交差、近見基準点又は、他の適した基準点であってもよい。
【0017】
第3の態様によれば、眼鏡レンズを製造するための方法が提案され、該方法は、
第2の態様に係る方法にしたがって眼鏡着用者の眼の視力障害を決定するステップと、
決定された視力障害に基づいて眼鏡レンズの少なくとも1つの基準点に目標屈折力を設定して、眼鏡レンズの目標屈折力が少なくとも1つの基準点で決定された視力障害を少なくとも部分的に、好ましくはほぼ完全に矯正するようにするステップと、
眼鏡レンズの少なくとも1つの所定の基準点で、好ましくは眼鏡レンズの所定の着用位置で目標屈折力が達成されるように眼鏡レンズを製造するステップと、
を含む。
【0018】
第4の態様によれば、眼鏡レンズを注文するための方法が提案され、該方法は、
眼鏡着用者の眼の視力障害の第1の測定及び第2の測定から測定値を与えるステップと、
第1の測定及び第2の測定からの測定値を使用して眼鏡着用者の眼の視力障害に関する推定値を計算するステップであって、視力障害の推定値の計算において視力障害の第1の測定及び第2の測定の測定不正確さ又は測定偏差が考慮に入れられるステップと、
を含む。
【0019】
第5の態様によれば、コンピュータのメモリにロードされてコンピュータ上で実行されるときに上記の態様のうちの1つに係る方法をコンピュータに実行させるコンピュータプログラムプロダクトが提案される。
【0020】
本発明の第6の態様によれば、コンピュータデバイス、特にコンピュータ又はコンピュータシステムを用いて眼鏡着用者の眼の視力障害を決定するための装置であって、上記の態様のうちの1つに係る方法を実行するように設計された装置が提案される。
【0021】
本発明の第7の態様によれば、眼鏡レンズを製造するための装置が提案され、該装置は、
第6の態様に係る眼鏡着用者の眼の視力障害を決定するための装置と、
決定された視力障害に基づいて眼鏡レンズの基準点に目標屈折力を設定して、眼鏡レンズの目標屈折力が少なくとも1つの基準点で決定された視力障害を少なくとも部分的に、好ましくはほぼ完全に矯正するようにするための装置と、
眼鏡レンズの少なくとも1つの所定の基準点で、好ましくは眼鏡レンズの所定の着用位置で目標屈折力が達成されるように、眼鏡レンズを製造するための製造装置と、
を備える。
【0022】
本発明の第8の態様によれば、眼鏡レンズを注文するための方法を実行するように設計された、眼鏡レンズを注文するための装置が提案される。特に、眼鏡レンズを注文するための装置は、
眼鏡着用者の眼の視力障害の第1の測定及び第2の測定から測定値を与えるための装置と、
第1の測定及び第2の測定からの測定値に基づいて眼鏡着用者の眼の視力障害に関する推定値を計算するように設計されるコンピュータデバイスであって、視力障害の推定値の計算において視力障害の第1の測定及び第2の測定の測定不正確さ又は測定偏差が考慮に入れられるコンピュータデバイスと、
を備える。推定値は、前述の方法のうちの1つを使用して決定され得る。
【0023】
データ及び/又は測定値を与える、決定する又は設定する或いは計算するための前述の装置は、対応するコンピュータユニット、電子インタフェース、メモリ、及び、データ送信ユニットを伴う適切に構成された又はプログラムされたデータ処理装置(特に専用のハードウェアモジュール、コンピュータ又はコンピュータシステム)によって実現され得る。装置は、ユーザがデータを入力及び/又は変更できるようにする少なくとも1つの好ましくはインタラクティブなグラフィカルユーザインタフェース(GUI)を更に備えることができる。
【0024】
製造装置は、例えば、決定された最適化仕様にしたがってブランクを直接に機械加工するための少なくとも1つのCNC制御マシンを備えることができる。或いは、眼鏡レンズは、鋳造法を使用して製造され得る。好ましくは、完成した眼鏡レンズは、単純な球面又は回転対称な非球面と、本発明に係る方法にしたがって及び眼鏡着用者の個々のパラメータにしたがって計算又は最適化される表面とを有する。好ましくは、単純な球面又は回転対称な非球面は、眼鏡レンズの前面(すなわち、物体側表面)であることが好ましい。しかしながら、勿論、眼鏡レンズの前面として最適化された表面を配置することができる。眼鏡レンズの両面を最適化することもできる。
【0025】
本発明の第9の態様は、提案された製造方法を使用して製造され得る眼鏡レンズ又は眼鏡レンズのシリーズに関する。特に、眼鏡着用者の眼の視力障害を矯正するための眼鏡レンズであって、
眼鏡レンズが該眼鏡レンズの基準点に第1の屈折力P_Aを有し、視力障害が、該視力障害を測定するための第1のタイプの測定装置を使用して得られるとともに幾つかの成分から成る少なくとも第1の測定値P_A1と、視力障害を測定するための第2のタイプの測定装置を使用して得られるとともに幾つかの成分から成る少なくとも第2の測定値P_A2とによって特徴付けられ、第1の測定値P_A1及び第2の測定値P_A2が少なくとも1つの成分Xにおいて異なり、眼鏡レンズの基準点に存在する第1の屈折力P_Aの成分Xが、眼鏡レンズの測定値P_A1又はP_A2のうち、成分Xの測定における不正確さが低い測定装置から得られる測定値の成分Xに近く、
測定値P_A1及びP_A2の成分が、視力障害の波面表示、その一次結合又はそこから導出される変数の成分である、眼鏡レンズが提案される。
【0026】
眼鏡レンズは、単焦点眼鏡レンズ又は累進眼鏡レンズであってよい。また、このシリーズの眼鏡レンズは、単焦点眼鏡レンズ又は累進眼鏡レンズであってもよい。
【0027】
第10の態様は、眼鏡着用者の視力障害を矯正するための上記態様に係る眼鏡レンズのセットと、眼鏡レンズに割り当てられる仕様とに関し、仕様は、第1の測定値P_A1及び第2の測定値P_A2を含む。仕様は、適切なデータキャリアに、例えば、紙上に或いは電子データキャリア上又は光学データキャリア上に記憶され得る。例えば、仕様は眼鏡レンズバッグに印刷され得る。仕様は、例えば眼鏡レンズ中又は眼鏡レンズ上に刻み込まれることによって、眼鏡レンズ自体中に又は眼鏡レンズ自体上にも存在し得る。
【0028】
本発明の第11の態様は、眼鏡レンズのシリーズ又は眼鏡レンズのセットのシリーズ、及び、それぞれの眼鏡レンズに割り当てられる仕様に関する。シリーズのレンズが前述のレンズであってもよい。特に、シリーズは、
眼鏡着用者の第1の眼の視力障害を矯正するための第1の眼鏡レンズAであって、眼鏡レンズAが該眼鏡レンズの基準点に第1の屈折力P_Aを有し、第1の眼の視力障害が、該視力障害を測定するための第1のタイプの測定装置を使用して得られるとともに幾つかの成分から成る少なくとも第1の測定値P_A1と、視力障害を測定するための第2のタイプの測定装置を使用して得られるとともに幾つかの成分から成る少なくとも第2の測定値P_A2とによって特徴付けられ、随意的に、第1の測定値P_A1及び第2の測定値P_A2が少なくとも1つの成分Xにおいて異なる、第1の眼鏡レンズAと、
眼鏡着用者の第2の眼の視力障害を矯正するための第2の眼鏡レンズBであって、眼鏡レンズBが、第1の眼鏡レンズと比較して同一に特定される基準点に第2の屈折力P_Bを有し、第2の眼の視力障害が、視力障害を測定するための第1のタイプの測定装置を使用して得られるとともに幾つかの成分から成る少なくとも第1の測定値P_B1と、視力障害を測定するための第2のタイプの測定装置を使用して得られるとともに幾つかの成分から成る少なくとも第2の測定値P_B2とによって特徴付けられ、随意的に、第1の測定値P_B1及び第2の測定値P_B2が少なくとも1つの成分Xにおいて異なる、第2の眼鏡レンズBと、
眼鏡着用者の第3の眼の視力障害を矯正するための少なくとも1つの第3の眼鏡レンズCであって、眼鏡レンズCが、第1の眼鏡レンズと比較して同一に特定される基準点に第3の屈折力P_Cを有し、第3の眼の視力障害が、視力障害を測定するための第1のタイプの測定装置を使用して得られるとともに幾つかの成分から成る少なくとも第1の測定値P_C1と、視力障害を測定するための第2のタイプの測定装置を使用して得られるとともに幾つかの成分から成る少なくとも第2の測定値P_C2とによって特徴付けられ、随意的に、第1の測定値P_C1及び第2の測定値P_C2が少なくとも1つの成分Xにおいて異なる、第3の眼鏡レンズCと、
を備え、
第1のタイプの測定装置を用いて決定される第1の測定値P_A1,P_B1及びP_C1が成分に関して同一であり、
第2のタイプの測定装置を用いて決定される第2の測定値P_A2,P_B2及びP_C2の成分Xが全て対ごとに異なり、
第1の屈折力P_Aの成分Xと、第1の測定値P_A1の成分Xとがほぼ同一であり、
基準点に存在するi(i=A,B又はC)番目の眼鏡レンズの屈折力X_iの成分Xに関して、及び、i番目の眼の第2の測定値X_i2の成分Xに関して、
(X_B-X_A)/(X_B2-X_A2)が(X_C-X_A)/(X_C2-X_A2)と等しくなく、
abs(X_B2-X_A2)<abs(X_C2-X_A2)
signum(X_B2-X_A2)=signum(X_C2-X_A2)
の関係が当てはまる。
【0029】
更に、本発明は、眼鏡着用者の視力障害を矯正するための、特定の眼鏡着用者の眼の前方の眼鏡レンズの所定の平均的な又は理想的な着用位置での、本発明に係る製造方法にしたがって製造される眼鏡レンズの使用を提供し、視力障害は、第1の測定装置を使用して決定される測定値と、第2の測定装置を使用して決定される測定値とによって特徴付けられる。
【0030】
上記の態様のうちの1つに係る方法、装置、及び、コンピュータプログラムプロダクトは、自覚的屈折及び他覚的屈折の両方が使用される計算において、眼鏡レンズの再生の可能性を低減できる。これは、特に、他覚的屈折のための装置が自覚的屈折とは異なって体系的に測定する屈折力範囲に関係している。
【0031】
好ましい例
前記測定不正確さは、第1の測定からの測定値と第2の測定からの測定値との間の統計的及び/又は体系的偏差を含むことができる。例えば、第1及び第2の測定間の体系的又は統計的偏差が考慮に入れられない場合、先行技術に係る決定された、例えば平均化された屈折値には、眼鏡着用者にとって最適な値からのかなりの偏差が存在し得る。
【0032】
好ましい例によれば、測定不正確さ又は測定偏差は、第2の測定からの第1の測定の統計的偏差及び体系的偏差の両方を含む。体系的偏差及び統計的偏差は、単一の方法ステップにおいて又は複数の方法ステップにおいて任意の順序で順々に考慮され得る。
【0033】
好ましい例において、眼鏡着用者の眼の視力障害に関する第1の推定値は、第1及び第2の測定に基づいて計算され、この場合、視力障害の第1の測定及び第2の測定からの測定値間の体系的偏差は、視力障害の第1の推定値の計算において考慮に入れられる。第2のステップにおいて、視力障害の第2の推定値は、第1の推定値と、第2の推定値が最終推定値として出力される又は更に適合される、第1及び第2の測定の統計的な測定不正確さ又は測定偏差とに基づいて決定される。
【0034】
第1の推定値の決定は、第1及び/又は第2の測定からの測定値に関する補正項を決定すること、及び、補正項を使用した第1又は第2の測定の測定値の(例えば、それぞれの測定値を補正項に加えることによる)補正又は適合を含むことができる。
【0035】
第1の推定値は、第2の測定からの第1の測定の統計的偏差を考慮に入れるために更に補正され得る。これは、例えば、以下で詳しく説明するように、第1及び第2の測定から随意的に補正される測定値の組み合わせによって行なわれ得る。
【0036】
第1及び第2の測定からの測定値の組み合わせ、並びに、第1及び第2の測定からの測定値の補正又は適合は、逆の順序で行なうこともできる。
【0037】
好ましい例によれば、眼の視力障害の第1の測定が他覚的屈折であり、及び/又は、眼の視力障害の第2の測定が自覚的屈折である。したがって、測定値は、少なくとも1つの成分又は屈折成分の値を含む。測定値のこの少なくとも1つの成分は、視力障害の波面表示、その一次結合、又は、そこから導出される変数の成分となり得る。少なくとも1つの成分は、例えば、
極表示の成分(球面、円柱、軸)、
曲率行列表示の成分、
屈折力ベクトル表示の成分(M、J0、及び、J45)、
ハリスベクトル表示の成分、
ゼルニケ多項式分解の成分(ゼルニケ係数)、又は
眼鏡着用者の視力障害の他の適した特性の成分、
であってもよい。
【0038】
この方法は、視力障害の第1及び第2の測定の測定精度又は測定偏差に関するデータを提供することを更に含むことができる。データは、電子形式で記憶され(例えばデータベースに記憶され)又はある形式で(例えば紙上に)記憶され得る。データは、表形式(例えば、「ルックアップテーブル」(LUT)として)で存在することができ、或いは、数学モデルとして、例えば特定されたパラメータを伴うパラメトリック関数として事前に決定され得る。
【0039】
この方法は、異なる眼鏡着用者の以前の測定(例えば、以前の第1及び第2の測定又は第1及び第2のタイプの測定装置を用いた測定)からのデータセット(基準データセット)に含まれるデータ又は測定値(基準測定値)の統計的解析などの統計的な解析を使用して第1及び第2の測定の測定不正確さ又は測定偏差を決定することを含むことができる。データセット(基準データセット)は他の測定値を含むこともでき、これに基づき、第1及び第2の測定の測定不正確さ又は測定偏差が決定される。
【0040】
生の測定値は、解析前に、例えば以下の基準に基づいてフィルタリングされ得る。
(自覚的)近見屈折測定における(正の符号規約を用いた)加入度と物体距離の逆数との間の差の量は、所定の閾値以下であり、随意的に0dtp、0.25dpt、又は、0.5dpt以下である;
(その屈折値がデータセットに含まれる)それぞれの眼鏡着用者の視力は、所定の閾値以上であり、随意的に1.25又は1.5又は1.6以上である;
眼鏡着用者の自覚的屈折のために使用される屈折レンズの分解能は、所定の閾値以上であり、随意的に0.5dpt又は0.25dpt又は0.125dpt以上である。
【0041】
特定の測定区間でのデータの密度など、他の基準も想定し得る。
【0042】
第1及び第2の測定の測定不正確さ又は測定偏差を決定するステップは、例えば、以下のステップ、すなわち、
予測測定値と確率変数との合計として第2の測定の測定値のためのモデルを設定するステップであって、予測測定値が、第1の測定の測定値及び随意的に第2の測定の測定値の一部のパラメトリック関数としてモデリングされる、ステップと、
モデルのパラメータ空間内の確率変数の確率分布を最大化しつつデータセット内に含まれる基準測定値にモデルを適合させることによってパラメトリック関数のパラメータを定めるステップと、
予測測定値に基づいて第2の測定からの第1の測定の体系的偏差を決定するステップと、
を含むことができる。
【0043】
モデルは、例えば、以下の方程式又は以下の方程式系によって表わされ得る。
【数1】
ここで、
【数2】
は、第1の測定の測定値を(ベクトル形式で)示し、
【数3】
は、第2の測定の測定値を(ベクトル形式で)示し、
predは、予測測定値を(ベクトル形式で)示し、
εは、確率変数を(ベクトル形式で)示す。
【0044】
上記の方程式又は上記の方程式系は、基準データセット内のそれぞれの測定値ごとに個別に考慮される、つまり、各測定「i」に適用されるようになっている。したがって、それはi番目の測定に関して成り立つ。
【数4】
【0045】
したがって、各測定に確率変数ε(ベクトル量となり得る)を割り当てることができる。全ての確率変数εは、同じ分布によりもたらされる或いは同じ分布に関連する。
【0046】
パラメトリック関数が随意的に第1の測定の測定値及び第2の測定の測定値の一部の関数であれば、モデリングされる第2の測定の成分がパラメトリック関数において考慮に入れられないことが好ましい。そうでなければ、簡単な解決策があり、つまり、確率変数は常に0であり、パラメトリック関数は第2の測定でモデリングされるべき成分と同一である。
【0047】
予測測定は、任意のパラメトリック関数によって、例えば多項式関数によってモデリングされ得る。例えば、予測測定は、以下のパラメトリック関数、すなわち、
モデル1:
【数5】
【数6】
【数7】
又は
モデル2:
【数8】
【数9】
【数10】
のうちの1つによってモデリングされ得る予測屈折であってもよく、
ここで、
(Mpred,J0pred,J45pred)は、予測屈折の屈折力ベクトルを示し、
【数11】
は、他覚的屈折からの測定値の屈折力ベクトルを示し、
【数12】
は、自覚的屈折からの測定値の屈折力ベクトルを示し、
【数13】
は、それぞれのパラメトリック関数のパラメータを示し、
Yは、予測屈折の屈折力ベクトルの屈折力ベクトル成分を表わし、
Xは、測定された他覚的屈折の屈折力ベクトルの屈折力ベクトル成分を表わす。
【0048】
定められたパラメータ
【数14】
は、適切な形式(例えば、LUT)で記憶され得るとともに、視力障害に関する推定値の計算において考慮に入れられ得る。
【0049】
モデルにしたがった予測測定と与えられた自覚的及び他覚的測定値とに基づいて、第2の測定からの第1の測定の体系的偏差及び対応する補正項を決定できる。ここで、他覚的測定値、自覚的測定値、又は、両方の測定値を補正することができる(例えば、それぞれの測定値を特定の補正項に加えることによって)。
【0050】
また、第1の測定及び第2の測定からの測定値(例えば、自覚的屈折値及び他覚的屈折値)を組み合わせることによって統計的測定誤差又は測定不正確さを最小限に抑えることも提案される。第1及び第2の測定からの測定値の加重平均を形成し、第1の測定又は第1の測定からの測定値の成分を第1の重みで重み付け、第2の測定又は第2の測定からの測定値の成分を第2の重みで重み付けることにより、眼の視力障害の推定値を計算することが特に有利であることが分かってきており、また、それぞれの成分に関する第1及び第2の重みの合計は1に等しい。測定値は原則としてベクトル量(つまり、幾つかの成分を伴う変数)であるため、個々の成分(例えば、屈折力ベクトル成分)は一般に異なる重みで重み付けされる。それぞれの測定値が1つの成分(例えば等価球面度数)のみを有する場合には、第1の測定からの成分が第1の重みで重み付けされ、第2の測定からの成分が第2の重みで重み付けられる。
【0051】
好ましくは、第1の測定及び第2の測定のうち、測定不正確さが低い方の測定が、より高い重みにより重み付けられる。好ましくは、第1の測定からの測定値及び/又は第2の測定からの測定値は、第1の測定と第2の測定との間の統計的偏差を低減するために事前に補正又は修正される。
【0052】
重みは、好ましくは、視力障害の測定値に依存する。測定値が例えば加入度及び/又は等価球面度数を含むことができ、重みは、加入度及び/又は第1の測定からの等価球面度数の測定値と第2の測定からの等価球面度数の測定値との間の差に依存し得る。1つの態様によれば、視力障害の他覚的及び自覚的測定の統計的な測定不正確さ又は偏差を最小限に抑えるために新規な重み付けが提案される。
【0053】
例えば、加入度が所定の値(例えば、1.75dpt又は2.0dpt又は2.25dpt又は2.5dpt)以上である又は同等に遠近調節能力が所定の値(例えば、0.75dpt又は0.5dpt又は0.25dpt又は0dpt)以下である場合、並びに、他覚的な等価球面度数と自覚的な等価球面度数との間の差又は視差ΔMが大きくない場合(例えば、-0.75dpt<ΔM<+0.75dpt又は-0.5dpt<ΔM<+0.5dptの区間内)には、自覚的な等価球面度数の重みが0.3~0.7である。
【0054】
加入度が所定の値(例えば、1.75dpt又は2.0dpt又は2.25dpt又は2.5dpt)以上である又は同等に遠近調節能力が所定の値(例えば、0、75dpt又は0.5dpt又は0.25dpt又は0dpt)以下である場合、並びに、他覚的な等価球面度数と自覚的な等価球面度数との間の差の大きさが大きい場合(例えば、1.5dpt又は1.0dpt又は0.5dptよりも大きい)には、自覚的な等価球面度数の重みが0.8又は0.9又は0.95又は0.99以上である。値は1にさえなり得る。
【0055】
加入度が所定の値以下(例えば、1.5dpt又は1.25dpt又は1.0dpt又は0.75dpt又は0.5dpt以下)である又は同等に遠近調節能力が所定の値以上(例えば、1.0dpt又は1.25dpt又は1.5dpt又は1.75dpt又は2.0dpt以上)である場合、並びに、他覚的な等価球面度数と自覚的な等価球面度数との間の差ΔMが負であり且つ所定の値よりも小さい(例えば、-0.5dpt又は-1.0dpt又は-1.5dptよりも小さい)場合、他覚的な等価球面度数の重みは、小さい、例えば、0.5又は0.4又は0.3又は0.2又は0.1又は0.05又は0.01である。値は0にさえなり得る。
【0056】
加入度が所定の値よりも低く、他覚的な等価球面度数と自覚的な等価球面度数との間の差ΔMが大きくない(例えば、-0.75dpt<ΔM<+0.75dpt又は-0.5dpt<ΔM<+0.5dptの区間内)場合、自覚的及び他覚的な等価球面度数は、(比較的)高い老眼が存在する場合と同様に重み付けられる。自覚的な等価球面度数の重みは、例えば、0.3~0.7又は0.4~0.6となり得る。
【0057】
重みは、屈折力ベクトル表示における成分J0及びJ45などの屈折の他の成分(屈折成分)にも更に依存し得る。
【0058】
また、視力障害の測定は、少なくとも1つの非点収差成分(例えば、屈折力ベクトル成分J0及びJ45)を含むことができ、この場合、自覚的及び他覚的な非点収差成分が一定の重みで重み付けされ得る。例えば、自覚的な非点収差成分に関する重みを0.7にすることができ、また、対応する他覚的な非点収差成分に関する重みを0.3にすることができる。他の値も想定でき、これらの他の値は、両方の測定が同じ統計的不正確さ(いずれも重み0.5)を有すること、又は、自覚的に決定された非点収差成分がより低い統計的不正確さを有することを表わし得る(例えば、他覚的重み:0.7、自覚的重み:0.3)。
【0059】
好ましくは、第1及び第2の測定の測定不正確さ又は測定偏差は、物体距離無限遠などの同じ物体距離に関して決定される又は定量化されることが好ましい。更に、測定不正確さ又は測定偏差は、好ましくは、全てのデータに関して同一である眼までの距離で決定される又は定量化される。したがって、この方法は、生の他覚的及び/又は自覚的な屈折値を、眼までの或いは共通の平面又は表面までの共通の距離に変換することを含むことができ、この場合、距離は、角膜頂点又は眼の入射瞳までの距離であってもよい。
【0060】
更に好ましくは、第1及び第2の測定の測定不正確さ又は測定偏差は、他覚的屈折値を決定するための異なる装置に関して別々に決定される又は定量化される。
【0061】
上記の方法は、適切に設計された装置を使用して行なわれ得る。装置は、方法を実行するように、特に推定値を計算するようにプログラムされるコンピュータデバイス又はデータ処理装置(特にコンピュータ又はコンピュータシステム)を備えることができる。更に、装置は、第1及び第2の測定からの測定値の送信又は入力又は読み出しを可能にする適切なインタフェースを有することができる。また、装置は、第1及び第2の測定からの測定値、及び、適切な場合には、既に決定された測定不正確さ又は測定偏差を(例えば、表形式で又はモデルの形式で)記憶する記憶装置を備えることもできる。
【0062】
眼鏡着用者の眼の視力障害を決定するための装置は、第1の測定を実行するための第1のタイプの少なくとも1つの測定装置、特に他覚的屈折測定を実行するための測定装置を更に備えることができる。好ましくは、コンピュータデバイスは、前述のように、自覚的測定を用いて得られる測定値からの、他覚的屈折測定を実行するための測定装置(他覚的測定装置)を用いて得られる測定値の体系的偏差を少なくとも部分的に補償するように設計される。
【0063】
装置は、第2の測定を実行するための第2のタイプの第2の測定装置、特に自覚的屈折測定を実行するための測定装置を更に備えることができる。
【0064】
眼鏡着用者の視力障害を決定するための方法は、眼鏡レンズを注文する及び/又は製造するための方法の一部となり得る。したがって、眼鏡着用者の視力障害を決定するための装置は、眼鏡レンズを注文する及び/又は製造するための装置の一部となり得る。眼鏡レンズを注文する及び/又は製造するための方法は、決定された視力障害に基づいて眼鏡レンズの目標屈折力を設定することを更に含み得る。眼鏡レンズの目標屈折力は、決定された視力障害が眼鏡レンズの少なくとも1つの基準点で(距離基準点で又はプリズム基準点で又は中心化交差で及び随意的に近見基準点で)少なくとも部分的に、好ましくは実質的に矯正されるように規定される。この方法は、眼鏡レンズを計算して製造することを更に含むことができ、眼鏡レンズは、少なくとも1つの基準点におけるその屈折力が目標屈折力に実質的に等しくなるように計算されて製造される。好ましくは、計算は、眼鏡着用者のために個別に事前に決定される着用位置で又は平均着用位置で実行される。着用位置は、角膜頂点距離、眼球回転中心距離、前方傾斜、顔面形状角度、瞳孔間距離、瞳孔直径などのパラメータによって特徴付けられ得る。
【0065】
本発明の更なる態様は、眼鏡レンズ又は眼鏡レンズのセット、及び、眼鏡レンズが矯正されるようになっている視力障害の仕様に関し、この場合、上記の方法にしたがって眼鏡レンズを製造することができる。視力障害の関連する仕様を伴う眼鏡レンズのシリーズ又は眼鏡レンズのセットも提案される。したがって、特定の眼鏡レンズによって矯正されるべき視力障害の仕様は、眼鏡レンズの一部であると見なされ得る。
【0066】
眼鏡レンズは、眼鏡レンズの基準点に第1の屈折力P_Aを有する。基準点は、例えば、距離基準点、プリズム基準点、中心化交差、近見基準点、又は、他の適した基準点となり得る。前述のように、屈折力は、球及び/又は非点収差成分などの幾つかの成分を有することができる。
【0067】
視力障害(眼鏡レンズに関する仕様の一部となり得る)は、第1の測定値P_A1及び第2の測定値P_A2によって特徴付けることができ、この場合、測定値は、幾つかの成分(例えば、球、非点収差成分など)を含むことができる。視力障害の測定値の成分は、一般に、眼鏡レンズの基準点における屈折力の成分に対応する。
【0068】
第1の測定値P_A1及び第2の測定値P_A2が異なる測定を使用して得られる。特に、第1の測定値P_A1は、視力障害を測定するための第1のタイプの測定装置を使用して得られ、また、第2の測定値P_A2は、視力障害を測定するための第2のタイプの測定装置を使用して得られる。通例、第1の測定値P_A1及び第2の測定値P_A2は、少なくとも1つの成分Xにおいて異なる。
【0069】
眼鏡レンズの基準点に存在する屈折力P_Aの成分Xは、測定値P_A1又はP_A2のうち、成分Xの測定における不正確さが低い測定装置から得られる測定値の成分Xに近い。前述したように、測定値P_A1及びP_A2の成分は、視力障害の波面表示、それらのその組み合わせ、又はそれらから導出される変数の成分となり得る。好ましくは、第1の眼鏡レンズの基準点に存在する屈折力P_Aの成分Xと第1の眼の第1の測定値P_A1の成分Xとが実質的に同一である。
【0070】
眼鏡レンズは、単焦点レンズ(非点収差屈折力を伴う又は伴わない)又は累進レンズであってもよい。
【0071】
上記の眼鏡レンズは、少なくとも1つの基準点に異なる屈折力を伴う眼鏡レンズのシリーズを形成することができ、この場合、眼鏡レンズは異なる視力障害を矯正する。そのようなシリーズは、例えば、基準点に異なる屈折力を伴う少なくとも3つの眼鏡レンズ、すなわち、
第1の視力障害を矯正するための第1の眼鏡レンズA、
第2の視力障害を矯正するための第2の眼鏡レンズB、及び、
第3の視力障害を矯正するための第3の眼鏡レンズC、
を備えることができる。
【0072】
第1、第2、及び、第3の視力障害はそれぞれ2つの異なる測定値によって特徴付けることができ、2つの測定値は、視力障害を測定するための異なる測定装置を使用して得られる。第1のタイプの測定装置又は複数の測定装置(第1の測定装置)は、自覚的屈折を測定するための測定装置又は複数の測定装置となり得る。第2のタイプの測定装置又は複数の測定装置(第2の測定装置)は、他覚的屈折を測定するための測定装置又は複数の測定装置となり得る。各測定値は幾つかの成分(例えば、球、非点収差成分など)を含むことができる。第1の測定装置を用いて得られる測定値は、少なくとも1つの成分において、第2の測定装置を用いて得られる測定値とは異なる。
【0073】
少なくとも1つの基準点では、眼鏡レンズAが第1の屈折力P_Aを有し、眼鏡レンズBが第2の屈折力P_Bを有し、眼鏡レンズCが第3の屈折力P_Cを有する。第1の視力障害は、第1の測定値P_A1及び第2の測定値P_A2によって特徴付けられる。第2の視力障害は、第1の測定値P_B1及び第2の測定値P_B2によって特徴付けられる。第3の視力障害は、第1の測定値P_C1及び第2の測定値P_C2によって特徴付けられる。
【0074】
第1の基準点は、距離基準点、プリズム基準点、中心化点又は中心化交差、近見基準点又は、他の適した基準点であってもよい。第1の基準点は、恒久的又は非恒久的なマーキングを使用して眼鏡レンズ中又は眼鏡レンズ上にマークされ又はラベル付けされ得る。
【0075】
第1のタイプの測定装置を用いて決定される第1の測定値P_A1,P_B1及びP_C1は、成分に関して同一である。第2のタイプの測定装置を用いて決定される第2の測定値P_A2,P_B2及びP_C2の成分Xは全て対ごとに異なる。第1の屈折力P_Aの成分Xと第1の測定値P_A1の成分Xとがほぼ同一である。基準点X_iに存在するi(i=A、B、又はC)番目の眼鏡レンズの屈折力X_iの成分Xに関して、及び、i番目の眼の第2の測定値X_i2の成分Xに関して、
(X_B-X_A)/(X_B2-X_A2)が(X_C-X_A)/(X_C2-X_A2)と等しくなく、
abs(X_B2-X_A2)<abs(X_C2-X_A2)
signum(X_B2-X_A2)=signum(X_C2-X_A2)
の関係が当てはまり、
ここで、関数abs(x)は引数xの絶対値を指定し、関数signum(x)は引数xに符号を割り当てる符号関数である。
【0076】
レンズは、単焦点レンズ(Add=0dpt)又は累進レンズ(多焦点レンズ)(Add≠0dpt)であってもよく、シリーズ中の全ての累進レンズが同じ加入度を有する。
【0077】
好ましくは、加入度Add<=1.5、随意的に1.25dptを伴う同じ加入度を有する単焦点レンズ及び累進レンズに関しては、以下の関係が、基準点に存在するi番目の眼鏡レンズの屈折力X_iの成分Xに、及び、i番目の眼の第2の測定値X_i2の成分Xに関して当てはまる:
(X_B-X_A)/(X_B2-X_A2)<(X_C-X_A)/(X_C2-X_A2)がX_B2-X_A2>0、
X_C2-X_A2>0に収まり、
及び
(X_B-X_A)/(X_B2-X_A2)>(X_C-X_A)/(X_C2-X_A2)がX_B2-X_A2<0、
X_C2-X_A2<0に収まる。
【0078】
好ましくは、加入度Add>=2dptを伴う累進レンズに関しては、以下の関係が、基準点に存在するi番目のレンズの屈折力X_iの成分Xに関して、及び、i番目の眼の第2の測定値X_i2の成分Xに関して当てはまる:
(X_B-X_A)/(X_B2-X_A2)>(X_C-X_A)/(X_C2-X_A2)がX_B2-X_A2>0,
X_C2-X_A2>0に収まり、
及び
(X_B-X_A)/(X_B2-X_A2)>(X_C-X_A)/(X_C2-X_A2)がX_B2-X_A2<0,X_C2-X_A2<0に収まる。
【0079】
成分Xは、例えば、等価球面度数となり得る。
【0080】
眼鏡レンズのシリーズは、第4の視力障害を矯正するための第4の眼鏡レンズDと、第5の視力障害を矯正するための第5の眼鏡レンズEとを備えることができる。眼鏡レンズDは、基準点に第4の屈折力P_Dを有する。眼鏡レンズEは、基準点に第5の屈折力P_Eを有する。第4の視力障害は、少なくとも第1の測定値P_D1及び第2の測定値P_D2によって特徴付けられる。
【0081】
第5の視力障害は、少なくとも第1の測定値P_E1及び第2の測定値P_E2によって特徴付けられる。
【0082】
測定値P_D1及びP_E1は、視力障害を測定するための第1のタイプの測定装置を使用して得られる。測定値P_D2及びP_E2は、視力障害を測定するための第2のタイプの測定装置を使用して得られる。
【0083】
測定値P_D1,P_D2,P_E1及びP_E2はそれぞれ幾つかの成分から成ることが好ましい。第1の測定値P_D1及び第2の測定値P_D2は少なくとも1つの成分Xにおいて異なり得る。第1の測定値P_E1及び第2の測定値P_E2も少なくとも1つの成分Xにおいて異なり得る。
【0084】
更に、以下の条件が満たされることが好ましい。
値P_A1、P_D1及びP_E1は、成分に関して同一である:
第2のタイプの測定装置を用いて決定される第1、第4、及び、第5の眼の第2の測定値P_A2,P_D2及びP_E2の成分Xは全て対ごとに異なる、
第1の眼鏡レンズの基準点に存在する第1の屈折力P_Aの成分Xと第1の眼の第1の測定値P_A1の成分Xとがほぼ同一である、
基準点に存在するi番目の眼鏡レンズの屈折力X_iの成分Xに関して、及び、i番目の眼の第2の測定値X_i2の成分Xに関しては、以下の関係、すなわち、
X_D2-X_A2>0、
X_E2-X_A2<0、
X_D-X_A>0及び
X_E-X_A<0
が当てはまる。
【0085】
このシリーズは、様々な視力障害を矯正するための異なる屈折力を有する他のレンズを備えることもできる。
【0086】
以下、添付の図を参照して、本発明の好ましい実施形態を一例として説明する。説明される実施形態の個々の要素は、それぞれの実施形態に限定されない。代わりに、実施形態の要素を必要に応じて互いに組み合わせることができ、それにより、新たな実施形態をもたらすことができる。図は以下を示す。
【図面の簡単な説明】
【0087】
図1】2つの異なる収差計(モデル1)における他覚的波面及び自覚的波面の体系的偏差を示す。
図2】2つの異なる収差計(モデル2)における他覚的波面及び自覚的波面の体系的偏差を示す。
図3】第1の例に係る自覚的等価球面度数gsubの重みを示す。
図4】第3の2番目の例(図4A)及び第3の例(図4B)に係る自覚的等価球面度数gsubの重みを示す。
図5】異なる方法を使用して得られた値の差として第1の収差計に関して2つの異なる方法を使用して得られる視力障害の推定値の変化を示す。
図6】2つの異なる方法を使用して得られた値の差として第2の収差計に関して2つの異なる方法を使用して得られる視力障害の推定値の変化を示す。
図7】典型的な眼鏡レンズを示す。
図8】典型的な眼鏡レンズを示す。
図9】典型的な眼鏡レンズを示す。
図10】典型的な眼鏡レンズを示す。
図11】異なる加入度に関して、等価球面度数の推定値と測定された自覚的等価球面度数との間の差を、測定された他覚的等価球面度数 と測定された自覚的等価球面度数との間の差の関数として示す。
図12】異なる加入度に関して、等価球面度数の推定値と測定された自覚的等価球面度数との間の差を、測定された他覚的等価球面度数と測定された自覚的等価球面度数との間の差の関数として示す。
図13】異なる加入度に関して、等価球面度数の推定値と測定された自覚的等価球面度数との間の差を、測定された他覚的等価球面度数と測定された自覚的等価球面度数との間の差の関数として示す。
図14】異なる加入度に関して、等価球面度数の推定値と測定された自覚的等価球面度数との間の差を、測定された他覚的等価球面度数と測定された自覚的等価球面度数との間の差の関数として示す。
図15】異なる加入度に関して、等価球面度数の推定値と測定された自覚的等価球面度数との間の差を、測定された他覚的等価球面度数と測定された自覚的等価球面度数との間の差の関数として示す。
図16】異なる加入度に関して、等価球面度数の推定値と測定された自覚的等価球面度数との間の差を、測定された他覚的等価球面度数と測定された自覚的等価球面度数との間の差の関数として示す。
図17】異なる加入度に関して、等価球面度数の推定値と測定された自覚的等価球面度数との間の差を、測定された他覚的等価球面度数と測定された自覚的等価球面度数との間の差の関数として示す。
図18】異なる加入度に関して、等価球面度数の推定値と測定された自覚的等価球面度数との間の差を、測定された他覚的等価球面度数と測定された自覚的等価球面度数との間の差の関数として示す。
図19】異なる加入度に関して、等価球面度数の推定値と測定された自覚的等価球面度数との間の差を、測定された他覚的等価球面度数と測定された自覚的等価球面度数との間の差の関数として示す。
【発明を実施するための形態】
【0088】
本出願の文脈においては、以下の技術用語が参照される。
【0089】
眼の視力障害の測定は、特に、自覚的屈折決定、他覚的屈折決定(例えば、屈折計又は自動屈折計を用いる)、又は、波面測定を含む。他覚的屈折決定又は波面測定は、他覚的屈折の例である。
【0090】
波面表示は、3次元空間内の2次元波面のパラメータ化を意味すると理解される。波面表示は、特に、以下のパラメータ化、すなわち、
極表示(球面、円柱、及び、軸の成分を伴う)、曲率行列表示、屈折力ベクトル表示(M、J0、及び、J45の成分を伴う)、
ハリスベクトル表示、ゼルニケ多項式分解(ここでは、成分がゼルニケ係数である)
を含む。
【0091】
他覚的屈折は、決定により得られる眼の視力障害の決定値又は測定値を意味すると理解され、この場合、他覚的屈折中に使用される測定装置で測定される人は、観察されている画像の視覚の質を評価する必要がない。他覚的屈折値又は他覚的測定値は、例えば、波面スキャナ又は自動屈折計を使用して測定され得る。
【0092】
自覚的屈折は、眼の視力障害の決定値又は測定値を意味すると理解され、この場合、屈折力を測定される人は、観察されている画像の視力の質を評価しなければならない或いは視覚課題、視力表の認識を解決しなければならないとともに、解決したことを伝達しなければならない。自覚的屈折は、例えば屈折レンズが導入され屈折眼鏡を用いて又はフォロプタを用いて専門家によって定められ得る。また、自覚的屈折は、自覚的に決定される近用加入度数、いわゆる加入度も含み得る。
【0093】
基準点は眼鏡レンズの視点であり、この場合、眼鏡レンズの屈折力は、眼の前方の眼鏡レンズの位置及び向きによって及び眼鏡レンズが使用されるようになっている眼の視力障害によって事前に決定される。これは、距離基準点、プリズム基準点、中心化点、中心化交差、近見基準点などであってもよい。基準点の定義に関しては、標準規格DIN EN ISO 21987(特にポイント3.5~3.11)及び標準規格DIN EN ISO 13666(特にポイント5.12~5.17)を参照されたい。
【0094】
使用される技術用語に関しては、特に、国際公開第2009/007136号パンフレット、L.Thibos et al.による出版物、Journal of Vision 2004年4月、Vol.4、9.doi:10.1167/4.4.9、及び、出版物Iskander et al.、Ophthal.Physiol.Opt.2007 27:245-255を参照されたく、これらの対応する説明は、本出願の開示の不可欠な部分に相当する。
【0095】
第1の例は、眼鏡着用者の眼の視力障害を決定するための方法であって、
眼鏡着用者の眼の視力障害の第1及び第2の測定から測定値を与えるステップと、
第1及び第2の測定からの測定値に基づいて眼鏡着用者の眼の視力障害に関する推定量又は推定値を計算するステップであって、視力障害の推定値の計算において視力障害の第1及び第2の測定の測定不正確さ又は測定偏差が考慮に入れられるステップと、
を含む方法に関する。
【0096】
眼の視力障害の幾つかの測定が知られている場合、それらの測定は、本発明の一例によれば、それらの測定不正確さに応じて、視力障害の推定量を計算するために使用され得る。好ましくは、推定量は、より低い測定不正確さを有する測定に近い。
【0097】
基本的に、2つのタイプの測定不正確さを区別できる。すなわち、測定が繰り返されるときに変化しない体系的偏差があることが知られている。また、測定値にはいわゆる統計的な又はランダムな偏差があり、測定が繰り返されるときにこれらの偏差が異なる値をとる可能性があり且つこれらの偏差を予測できないことも知られている。
【0098】
したがって、視力障害の推定量又は推定値を計算できる1つの可能性は、視力障害の推定量又は推定値の決定において測定の体系的偏差を考慮に入れることである。この場合、体系的偏差で苦しめられる測定値は、他の測定値へ向けてこの体系的偏差分だけ補正され得る。その後、体系的な誤差で苦しめられる測定の補正された測定値と体系的な誤差で苦しめられない測定の測定値とから例えば平均値を用いて視力障害の推定量が計算される場合、推定量は体系的な誤差で苦しめられない測定値の方に近い。
【0099】
視力障害の推定量を計算するための他の可能性は、視力障害推定量の決定において測定の統計的偏差を考慮に入れることである。これは、加重平均を用いて行なわれ得ることが好ましい。ここで、重みは、好ましくは、殆ど不正確ではない測定により高い重みが与えられるように選択される。正規分布変数の場合には、測定された変数の分散の逆数に比例して重みが選択できる。正規分布がない場合には、経験に基づく重みの選択が必要な場合がある。精度の低い測定には、例えば0.3、0.2、0.1、0.05、0.01以下の重み、更には最大で0の重みを割り当てることができる。より正確な測定には、0.7、0.8、0.9、0.95、0.99以上の重み、更には最大で1の重みを割り当てることができる。両方の測定が同様に正確である場合には、これらの測定がそれぞれ0.5の重みを得ることができる。重みは、それらの合計が1であるように選択され得る。この場合、加重平均を成すときに重みの合計で割る必要がもはやない。
【0100】
また、視力障害の測定では、例えば遠近調節、遠近調節状態の変動、水晶体混濁、視力、及び、他の変数にも起因して、より大きな統計的偏差も生じ得るため、視力障害の測定値の差に応じて重みを選択することが有利となり得る。例えば、殆ど遠近調節できないために1.75dpt、2.0dpt、2.25dpt、2.5dpt以上の加入度を処方されてしまった人の場合には、等価球面度数の自覚的及び他覚的な測定値が殆ど異ならないはずである。僅かな違いがある場合には、自覚的及び他覚的な測定からの等価球面度数を重み付け態様で付加することができ、この場合、0.3~0.7の自覚的及び他覚的な等価球面度数の想定し得る重みが意味をなす。しかしながら、大きな違いがある場合、人は、自覚的屈折中にそのようなレンズを通した視力の質を既に知っていたため、自覚的屈折が信頼されている可能性が高い。この場合、自覚的屈折に関しては、より高い重み(例えば、0.8、0.9、0.95、0.99又はそれ以上、或いは更には1)が選択されるべきである。
【0101】
例えば、かなり多くの遠近調節を依然として行なえる老眼の人、すなわち、1.5dpt、1.25dpt、1.0dpt、0.75dpt、0.5dpt以下の加入度を処方された人、さもなければ、老眼ではない、すなわち、効果的に0の加入度を有する人の場合には、デバイス近視が益々生じ得る。この場合、自覚的屈折の等価球面度数と比べてより近視の他覚的屈折の等価球面度数の場合、この他覚的屈折の等価球面度数は、例えば0の重みに至るまで、0.3、0.2、0、1、0.05、0.01以下の重みで、より少なく重み付けされるべきである。しかしながら、自覚的屈折の等価球面度数が類似している場合には、加入度が高い老眼の人と同様に重み付けを選択することが望ましい。自覚的な等価球面度数が他覚的な等価球面度数よりも例えば0.5dptだけ近視である場合、その人は、自覚的屈折中に遠近調節できてしまっている。一般に、自覚的な等価球面度数に関してはより低い重みが選択されなければならないが、他覚的屈折ではデバイス近視がしばしば生じ得るため、自覚的な等価球面度数の重みを、幾分高くなるように、例えば0.4~0.6となるように選択することもできる。
【0102】
実際には、視力障害の測定値から体系的偏差及び統計的偏差の両方が生じる。この場合、体系的偏差が好ましくは最初に補正され、その後、統計的な測定不確実性に基づいて補正された測定値が重み付け態様で組み合わされる。
【0103】
この場合も、この方法で計算された視力障害の推定量又は推定値は、低い測定不正確さを有する測定値に近い。
【0104】
眼鏡着用者の視力障害を決定するための典型的な方法は、以下のステップ、すなわち、
1)2つの測定方法における体系的な差を排除するために自覚的屈折及び/又は他覚的屈折をマッチングさせるステップと、
2)加重平均を形成することによってそのように互いに一致された屈折を組み合わせるステップと、
を含む。
【0105】
ステップ1-自覚的屈折と他覚的屈折とのマッチング
自覚的屈折と他覚的屈折との間の体系的な差の定量化
自覚的屈折と他覚的屈折とを互いにマッチングさせるため、又は、自覚的屈折と他覚的屈折との間の体系的な差を補償するために、これらが最初に定量化される。この目的のために、十分に大きいデータセットが最初に利用可能であって以下に説明されるように処理されなければならない。
【0106】
自覚的屈折と他覚的屈折との間の体系的な差は、物体距離無限大、すなわち、いわゆる遠用処方に関して定量化されるのが好ましく、これは、遠用処方が近見屈折よりも等価球面度数に関して遥かに正確だからである。
【0107】
一般に、体系的な差は、異なる製造業者からの異なる装置モデル(例えば収差計モデル)に関しても異なっている。したがって、データを取得する際に装置モデルに関する情報を考慮に入れてそれぞれの収差計モデルごとに個別に体系的な差を決定することが有益である。
【0108】
装置(例えば、収差計、波面スキャナなど)で測定される波面から他覚的屈折を計算するために、いわゆる測定基準を使用して二次波面が決定されるのが好ましい。想定し得る測定基準は、例えば L.Thibos et al.、Journal of Vision 2004年4月、Vol.4、9.doi:10.1167/4.4.9に記載される。しかしながら、他の測定基準も、容易に考えられ、当業者に知られている。
【0109】
他覚的屈折データは、使用される装置(収差計など)のトポグラフィー測定で測定された明所視の瞳孔に対してゼルニケ波面が中央にスケーリングされた後、波面から7番目の径方向次数に至るまで、例えばIskander et al.(Iskander et al.、Ophthal.Physiol.Opt.2007 27:245-255)による屈折RMS測定基準を用いて計算され得る。
【0110】
自覚的屈折が実行された瞳孔直径を知ることは有利であり、これは、直接的な測定、他の測定パラメータからの推定、又は、経験に基づく推定によって行なわれ得る。瞳孔直径が知られている場合には、他覚的に測定される波面を最初にこの瞳孔直径に対してスケーリングすることができ、その後、瞳孔と関連付けられる屈折力ベクトルを計算できる。瞳孔の位置が波面測定と自覚的屈折とで異なる場合には、波面のスケーリングにおいて瞳孔の位置を考慮に入れることも有利である。
【0111】
自覚的屈折において瞳孔直径が知られていない場合には、自覚的屈折中に眼に当たる照度から、及び、利用可能であれば、屈折力が測定された人の最大(照明が弱い場合)及び最小(照明が強い場合)の決定された瞳孔直径などの他の変数からも、瞳孔直径を推定値として決定できる。
【0112】
自覚的屈折及び他覚的屈折は、全てのデータに関して同一である眼までの距離で比較されることが好ましい。この距離は任意となり得る。しかしながら、最初に、自覚的屈折を、収差計、波面スキャナなどによって測定される波面が同様に位置される眼までの距離へと変換することが有利であることが分かってきた。これにより、高次の収差を含むことが多い他覚的波面の複雑な伝搬が回避される。眼までの想定し得る感知可能な距離は、例えば、角膜頂点又は入射瞳である。図示のデータは、角膜頂点での波面又は屈折に関して与えられる。
【0113】
しかしながら、原則として、他覚的屈折を眼までの異なる距離に変換することもでき、この場合、高次収差を含む波面も正しく伝搬されなければならない。
【0114】
均一なモデルにより可能な限り多くのデータを解析できるようにするために、左眼の自覚的屈折及び他覚的屈折の両方を垂直にミラーリングできる。屈折力ベクトルが使用される場合には、J45屈折力ベクトル成分の符号を逆にしなければならない。左眼及び右眼における高次収差の分布は鏡面対称であるため、このようにして右眼及び鏡映左眼の屈折を一緒に解析できる。
【0115】
しかしながら、例えば収差計がミラーリングされた波面を正しく測定しない場合には、このミラーリングを実行しないことも有利となり得る。この場合には、左眼及び右眼の矯正を別々に評価して実行しなければならない。
【0116】
自覚的屈折と他覚的屈折との間の体系的な差を定量化するために、アーチファクトがない又は僅かしかないデータセットの部分だけを評価することも有利である。想定し得るアーチファクトは、例えば、デバイス近視又は加齢性眼疾患である。例えば、近見屈折において所定の加入度が物体距離の逆数から僅かだけ異なるデータの部分のみを使用でき、すなわち、加入度と物体距離の逆数との差の大きさ(正符号規約による)は、所定の閾値を超えてはならない。閾値は、例えば0dpt、0.25dpt又は0.5dptであってもよい。これにより、データセット内のデバイス近視の数及び程度が減少する。
【0117】
他の制限は、弱視の人からの屈折アーチファクト又は他の中心視の異常を回避する高い視力の制限である。このようにして、視力が所定の閾値よりも高いデータの部分のみを使用することができる。ここで想定し得る制限は、例えば、10進法の視力単眼で1、25又は1、6以上である。この条件は両眼で満たされることが好ましい。
【0118】
自覚的屈折に関して十分に高い分解能(例えば、球面屈折レンズの場合には0.25dtp又は好ましくは0.125dpt、円柱レンズの場合には0.5dpt又は更に良好には0.25dpt)を伴う屈折レンズを使用する屈折者からのデータのみを使用することも有利である。これは、それぞれの屈折者のレンズ次数の分布から決定され得る。
【0119】
データを適合させるために、自覚的屈折のモデルを最初に設定することが好ましく、このモデルを用いて、測定された他覚的屈折及び場合により他の測定された変数から予測屈折を計算できるとともに、予測他覚的屈折から実際に測定された自覚的屈折の偏差を統計的に定量化できる。このモデルは、後続のステップでデータに適合される。
【0120】
モデルを屈折力ベクトル空間内の自覚的屈折に適合させること(L.Thibos et al.:Power Vectors:An Application of Fourier Analysis to the Description and Statistical Analysis of Refractive Error,Optometry and Vision Science 74,6,367-375参照)、及び、測定された体系的に異なる自覚的屈折及び他覚的屈折を自覚的屈折
【数15】
及び他覚的屈折
【数16】
の屈折力ベクトルとして定めることは有利である。ここで、表記のティルデは、データセット内の未補正(生)データを指す。
【0121】
モデルの枠組みの中で、実際に測定された自覚的屈折は、予測屈折Ppred=(Mpred,J0pred,J45pred)と確率変数ε,εJ0及びεJ45とに基づいて表わされ、後者は、装置の測定不正確さ及び屈折力を測定する人の測定不正確さの両方をモデリングする。
【数17】
【数18】
【数19】
(1)
【0122】
以下は、この連立方程式における短縮形である。
【数20】
(1a)
ここで、εは屈折力ベクトル(ε,εJ0,εJ45)である。式1aは、i番目の測定に関して
【数21】
(1b)
を書くことができるように、データセットの全ての測定に適用される。
【0123】
予測屈折Ppredの屈折力ベクトルは、他覚的屈折に依存する。必要に応じて、予測屈折Ppredの屈折力ベクトルは、自覚的屈折などの更なる変数、又は、例えば瞳孔直径、又は、屈折中又は他覚的測定(例えば、収差計測定)中に生じる他の測定変数にも依存し得る。
【0124】
モデルをデータに適合させることができる1つの基準は、使用されたデータセットを伴うモデルのパラメータ空間内の確率変数ε,εJ0及びεJ45の確率(密度)の最大化であり、これが以下では「フィット」とも称される。適切な方法は、例えば、適合されるべきデータセットを生成する確率を最大化する「最尤法」、いわゆる尤度である。ここに開示されるモデルでは、尤度が以下の式によって与えられる。
【数22】
(2)
ここで、prob({εx};Parameter)は、モデルの所定のパラメータを伴うデータセット全体の確率密度であり、
【数23】
は、データセットからの個々の測定値iの確率密度である。
【0125】
最尤法の想定し得る代替法として最小二乗法を使用でき、この最小二乗法は、正規分布の尤度を伴う「最尤」法と同等と見なすこともできる。使用されるパラメータに関する以前の知識もモデルで考慮に入れることができ、これはベイジアンデータ解析にしたがって可能である。
【0126】
屈折力ベクトル成分X(XはM、J、又はJ45を表わす)の測定不正確さの確率変数εは、例えば、均等分布(例えば、-20~+20dptの範囲内又は他の適した屈折力範囲内)としても知られる一様分布とガウス幅σ(標準偏差として)及びローレンツ幅γ(半値幅として)を伴うフォークト分布とを重ね合わせることによって表わされ得る。一様分布は、確率
【数24】
で生じるデータ内の大きな「異常値」を表わすことができる。
【数25】
の確率で生じるフォークト分布は、測定が成功したことを表わすが、これは中程度の異常値を生成し得る。全体として、確率変数εは以下のように分布され得る。
【数26】
(3)
【0127】
フォークト分布の代わりに、正規分布を選択できるが、より芳しくない結果を伴う。一様分布を伴う項は、それが大きな異常値を捕らえるため、特に重要である。
【0128】
例えば、予測屈折を計算するために他覚的屈折の屈折力ベクトル成分のみを入力変数として使用できる。ここで、計算は、例えば多項式を用いて、任意のパラメータ化可能な関数を使用して実行できる。典型的なモデルは、連立方程式(2)によって記述されるモデル(モデル1)である。
【数27】
【数28】
【数29】
(4)
ここで、
【数30】
は、他覚的屈折の他覚的屈折力ベクトル成分Xと相互作用する自覚的屈折の屈折力ベクトル成分Yのフィットのためのモデルパラメータである。ここで、YはMpred、J0pred又はJ45predを表わし、Xは
【数31】
を表わす。
【0129】
予測屈折の個々の屈折力ベクトル成分Mpred,J0pred又はJ45predは、好ましくは、測定された(生の)他覚的屈折の屈折力ベクトルの3つの全ての成分の関数である。
【0130】
別のモデルでは、自覚的屈折力ベクトルのフィットされない成分からの情報も、予測屈折を計算するために使用される。計算は、例えば多項式を用いて、任意のパラメータ化可能な関数を使用して実行できる。典型的なモデルは、連立方程式(3)によって記述されるモデル(モデル2)である。
【数32】
【数33】
【数34】
(5)
【0131】
自覚的屈折力ベクトル成分及び他覚的屈折力ベクトル成分の想定し得る相互作用に起因して、自覚的屈折決定における誤差をモデリングする又は考慮に入れることもできる。このようにして、屈折レンズにおける分解能の欠如又は眼鏡技師の無知から生じる、球が同じままである間に円柱を変更するなどの屈折慣行からの誤差をモデリングすることができる。
前述の「最尤」モデルの代わりとして、自覚的屈折の屈折力ベクトルの移動中央値など
【0132】
の自覚的屈折の推定量も計算できる。その後、方程式系2又は3を使用するなどの予測屈折力ベクトルのパラメータ化可能な記述を、最小二乗法を使用して、自覚的屈折の計算された推定量に適合させることができる。勿論、平均値又は中央値以外の推定量も、最小二乗法が使用される前にそれらの誤差がほぼ正規分布されれば使用できる。その一方で、純粋な平均値を使用すること或いは最小二乗法でデータを直接に調整することは、データにおける想定し得る異常値に起因して有益ではない。
【0133】
モデル1及びモデル2に属するパラメータセットの例が表1及び表2に示される。表1及び表2は、2つの異なる収差計(収差計1及び収差計2)に関するフィット結果を示す。パラメータ
【数35】
は体系的偏差を定量化し、他のパラメータは収差計の測定不確実性を定量化する。表1中及び表2中の記号「*」は、対応する変数が予測されるようになっていた従属変数であることを意味し、そのため、対応するパラメータが存在しない。特に、アスタリスクは、対応するパラメータが存在しないという事実を指し、さもなければ、方程式1aの解は、欠落しているパラメータ=1及びその他全て=0)で自明に満たされる。
【0134】
表1は、自覚的屈折力ベクトル成分の更なる影響を伴わないモデル(モデル1)のフィット結果を含む。表2は、自覚的屈折力ベクトル成分の更なる影響を伴うモデル(モデル2)のフィット結果を含む。
【0135】
【表1】
【0136】
【表2】
【0137】
モデルがこのようにパラメータ化された状態では、異なる装置モデル(2つの異なる収差計モデルなど)における自覚的屈折及び他覚的屈折の体系的偏差を補正できる。他覚的屈折力ベクトル成分Y≠Xが0に設定されるときのそれぞれの屈折力ベクトル成分Xの経過が図1及び図2に示される。
【0138】
図1及び図2は、2つの異なる収差計(収差計1:実線、収差計2:破線)の他覚的波面及び自覚的波面の体系的偏差を示す。各屈折力ベクトル成分は、2つの異なるモデルにより定量化された。モデル1(図1A図1C)は自覚的屈折の影響を何ら含まず、モデル2(図2A図2B)には自覚的屈折の影響が含まれる。
【0139】
図1A及び図2Aは、自覚的屈折を使用して決定される等価球面度数Mの予測値(predicted M_sbj)と他覚的屈折を使用して測定される等価球面度数の値(M_obj_raw)との間の差を他覚的屈折を使用して測定される等価球面度数Mの値(M_obj_raw)の関数として示す。
【0140】
図1B及び図2Bは、自覚的屈折の屈折力ベクトルの成分J0の予測値(predicted J0_sbj)と他覚的屈折を使用して決定される成分J0の測定値(J0_obj_raw)との間の差を他覚的屈折を使用して決定される成分J0の測定値(J0_obj_raw)の関数として示す。
【0141】
図1C及び図2Cは、自覚的屈折の屈折力ベクトルの成分J45の予測値(predicted J0_sbj)と他覚的屈折を使用して決定される成分J0の測定値(J45_obj_raw)との間の差を他覚的屈折を使用して決定される成分J0の測定値(J45_obj_raw)の関数として示す。
【0142】
垂直線L1(モデル1)及びL2(モデル2)は、十分に高密度のデータがデータセット内に存在する範囲を示し、ここでは、それぞれの屈折力ベクトル成分のジオプター当たり約50アイ(左+右)である。
【0143】
図1及び図2から分かるように、両方の収差計モデルでは、第1のモデル及び第2のモデルの両方において、遠視の人における等価球面度数が他覚的よりも自覚的の方で低い。近視の人の場合、それは逆であり、それほど顕著ではない。全体として、大きさの点で弱い補正は、自覚的屈折で見ることができる。これは、非点収差屈折力ベクトル成分に関しても当てはまる。
【0144】
他覚的屈折の体系的偏差の補正
他覚的屈折が体系的に間違っていると仮定すれば、例えば、モデル1又はモデル2を使用して他覚的屈折を平均して自覚的屈折にマッチングさせることができる。これは、モデルを多数のデータにフィッティングさせる際に決定される自覚的屈折と他覚的屈折との間の屈折力ベクトル差ΔPを、他覚的屈折の屈折力ベクトルに付加することによって行なわれる。
【数36】
データが方程式系1で表わされるモデルにフィッティングされた場合には、
【数37】
(6)
となる。
【0145】
モデル1が使用される場合、自覚的屈折と他覚的屈折との間の差は、他覚的屈折のみに依存する。
【数38】
(7)
【0146】
モデルのオーバーシュート、したがって誤った補正を回避するために、補正ΔPを十分なデータが利用可能な範囲に制限することが好ましい。
【数39】
(8)
【0147】
ここで、関数B(.)は、屈折力ベクトル
【数40】
を十分なデータが存在する範囲に制限する。例えば、B(.)は、単純なボックスの側面上への垂直投影として実施され得る。範囲B外では、変化ΔPを一定値に設定できる。
【0148】
表3は、モデルの範囲の想定し得る制限を示す。屈折力ベクトル成分Xは、制限関数B(.)によってmax(min(X、Max_X)、Min_X)にマッピングされる。制限は、それぞれの屈折力ベクトル成分のジオプター当たり50測定値のデータ密度に基づいている。表3に示される範囲内で、ステップ1は体系的な差を比較的うまく補正する。範囲外では、変化ΔPが一定に保たれる。
【0149】
或いは、例えば、他覚的屈折力ベクトルに対する補正
【数41】
のヤコビ行列の行列式でデータ密度を割った値、すなわち、データ密度/
【数42】
に基づく、他の基準を使用することができる。
【0150】
【表3】
【0151】
補正されない他覚的屈折力ベクトルの空間におけるデータの等確率密度領域内のエッジへの、データがない又はデータが少数しかない範囲内の任意の点の投影など、他の制限関数も考えられる。データの確率密度の勾配に沿う投影を実行することは有利である。この場合、投影線は、線形微分方程式の解によりもたらされるとともに、投影されるべき屈折力ベクトルを通過して延び、これは伝統的な初期値問題である。データの密度が多次元(例えば3次元)分布により表わされるべきであれば、微分方程式の解を解析的に行なうことさえできる。他の確率密度関数の場合、数値解法が必要になる場合がある。投影線が見つけられた時点で、投影線に沿う1次元検索を用いて、所望のデータ密度に属する等確率領域との投影線の交差を数値的に実行できる。
【0152】
補正の他のタイプの制限も想定し得る。例えば、制限された範囲外で変化ΔPを一定に保つのではなく、該変化が補正されない他覚的屈折力ベクトル
【数43】
jから境界のエッジへ向かう距離の関数として線形的に変わることができるようにすることが考えられる。これは、境界内で高次多項式であって境界外で線形である区分的に規定されたモデルに効果的に対応する。境界での移行は、
【数44】
に関してモデルを連続的に導出できるように選択されるべきである。
【0153】
最も単純なケースでは、自覚的屈折が補正されず、-先に示されるように-、2つの屈折方法間の定量化された体系的な差を補償するべく、他覚的屈折のみが自覚的屈折に適合される。
【0154】
自覚的屈折における体系的偏差の補正
しかしながら、自覚的屈折を他覚的屈折に適合させることもできる。この場合、補正された自覚的屈折の屈折力ベクトルPsubを計算するために、モデルを用いて決定される体系的な差ΔPが当初の自覚的屈折の屈折力ベクトルから差し引かれる。
【数45】
【数46】
(9)
【0155】
これは、例えば、疑わしい屈折技術に起因して、例えば、円柱屈折レンズの屈折力を省き又は変え、それに応じて円柱屈折レンズの屈折力の変化の半分だけ球面を調整することなく、等価球面度数を一定に保つことによって、体系的な差が生じる場合に、必要となる場合がある。
【0156】
他覚的屈折及び自覚的屈折の体系的偏差の補正
一般に、自覚的屈折力ベクトルと他覚的屈折力ベクトルとの間の体系的な差ΔPの屈折力ベクトルを2つの部分に分割することも有利となり得るものであり、これらの2つの部分のうちの一方の部分ΔPobjは、他覚的屈折の屈折力ベクトルを補正するために使用され、他方の部分ΔPsubは、自覚的屈折を補正するために使用される。
【数47】
【数48】
【数49】
(10)
【0157】
ΔPobjとΔPsubとの間の差は、補正されない他覚的屈折
【数50】
及び補正されない自覚的屈折
【数51】
の両方に依存し得る。ここで、Pobjは補正された他覚的屈折であり、Psubは補正された自覚的屈折である。
【0158】
体系的な差のこれらの部分は、それが前述したような疑わしい屈折法の影響である可能性が非常に高いため、好適には、補正されない自覚的及び他覚的屈折力ベクトル成分の差を含むモデルの項(例えば、等価球面度数のモデルで生じる。
【数52】
又はその屈折力に比例する項)を使用して自覚的屈折を補正できるように分割され得る。残りの項(例えば、補正されない他覚的屈折の屈折力ベクトルの成分のみに依存する項)を使用して他覚的屈折を補正できる。
【0159】
全ての屈折力ベクトル成分に共通の実係数α又はそれぞれの屈折力ベクトル成分ごとに異なる実係数α、β、γを用いて他覚的及び自覚的な差ΔPobj及びΔPsubの補正を分割することもできる。
【数53】
【数54】
又は
【数55】
【数56】
(11)
【0160】
しかしながら、これは、第3の屈折法が体系的誤差を有さない又はその体系的偏差が既に定量化されてしまっている自覚的屈折及び他覚的屈折よりも少ない体系的誤差のみを単に有することが知られていた場合にのみ意味を成す。更に、第3の屈折法からの自覚的屈折及び他覚的屈折の体系的偏差は、自覚的屈折と他覚的屈折との間の体系的偏差に比例しなければならない。
【0161】
勿論、補正された他覚的屈折及び自覚的屈折の計算を補正の制限と組み合わせることもできる。
【0162】
補正された他覚的な値が、屈折力を測定する人に、例えば収差計又は自動屈折計に表示される場合には、自覚的屈折が他覚的測定結果によって影響を受ける可能性がある。したがって、例えば半年の注文からのデータセットを用いて、自覚的屈折と他覚的屈折との間の体系的な差の補正を数回決定するための前述の方法を実行することも有益となり得る。このようにして、他覚的屈折の表示による自覚的屈折の影響は徐々に減少される。
【0163】
或いは、影響の割合及び程度を定量化する体系的な差を決定するためのモデルを選択することもできる。そのようなモデルは、例えば、推定値に基づいて又は比較的少数の屈折力を測定される及び屈折力を測定する人を対象とした研究を評価することによって設定可能であり、屈折力を測定される及び屈折力を測定する人の一部は、自覚的屈折の前に他覚的屈折をもたらさなければならず、他の一部の人は、他覚的屈折を実行してはならない。一人の同じ屈折力を測定する人が先行する他覚的屈折を伴う及び伴わない異なる人の自覚的屈折を実行することもできる。しかしながら、この場合、他覚的屈折を測定する可能性がなかった屈折者によって(第1の分布)又は他覚的屈折を強制的にもたらした屈折者によって(第2の分布)もたらされる大量の(例えば屈折力ベクトルのような)屈折データの2つの分布を比較することも、可能であり、また、必要に応じて補足的である。そのようなデータセットは、眼鏡レンズのための注文プロセス中に大量に生じ、特別な調査を必要とせずに比較的簡単に取得されて検査され得る。そのようなモデルが使用される場合には、補正を決定するための方法を繰り返す必要は絶対にない。
【0164】
自覚的屈折及び他覚的屈折の体系的誤差を屈折力ベクトルとして互いにマッチングさせる代わりに、勿論、球面、円柱、軸、又は、波面のゼルニケ分解などの屈折誤差の他の表示を使用することもできる。
【0165】
波面としての表示の場合、好ましくは屈折中に瞳孔直径が存在する自覚的屈折が波面(自覚的波面)に変換される。波面に変換するための方法は、先行技術から知られている。屈折レンズによって生成される高次収差も、これらが一般に低い場合でも、考慮に入れることができる。その後、他覚的波面から自覚的波面を予測するためのモデルを、利用可能なデータに、すなわち、自覚的及び他覚的な波面に適合させることができる。解析前に、ゼルニケ係数などの表示を標準化すると有利になり得る。マッチングのために使用される補正は、予測された自覚的波面と他覚的波面との差からの屈折力ベクトルを用いる前述の方法と同様の結果となる。
【0166】
最後に、無限遠にある物体に関する他覚的屈折及び自覚的屈折(遠見屈折と呼ばれる)間の体系的偏差の補正は、先に示されるように、近見屈折とも呼ばれる近用処方にも適用できる。
【0167】
最良のケースでは、他覚的近見屈折が、自覚的遠見屈折及び他覚的遠見屈折の体系的偏差のための矯正も存在する眼から同じ距離dで波面として存在する。これが当てはまらない場合には、それが先行技術にしたがってこの距離へ変換されなければならない。同じことが自覚的近見屈折にも当てはまる。
【0168】
近見屈折が波面として存在せずに眼鏡レンズの屈折力として存在する場合には、変換のために近見屈折自体が伝播されてはならないことに留意すべきである。むしろ、近見屈折を含む仮想屈折レンズによって屈折された、近見屈折に属する物体距離にある点から発する球状波面が、眼から近見屈折に属する距離(いわゆる角膜頂点距離)で伝播されなければならない。
【0169】
この時点で、体系的偏差の補正をこのように計算された波面に適用できる。補正された近見屈折を再び取得したい場合-しかし、今回は眼までの距離dで-屈折距離内の点を発端として同じ距離dまで伝搬された球状基準波面に対する差が計算されなければならない。
【0170】
ステップ2-補正された波面又は屈折の補正された成分の組み合わせ
自覚的波面及び他覚的波面Psub,Pobjの屈折力ベクトルは、体系的な差の補正後に重み付け態様で平均化される。近視すぎる屈折のリスクは、遠近調節能力に応じて、特に眼の水晶体の老化プロセスの結果として遠近調節が制限される場合に変化するため、等価球面度数Mの重みが非常に重要である。非点収差成分の重み、すなわち、J0及びJ45に関する重みは、例えば、自覚的屈折に関しては0.7に設定され得る、及び、対応する他覚的成分では0.3に設定され得る。
【0171】
1つの例によれば、等価球面度数の有利な重みが提案され、これにより、眼鏡着用者の視力障害の特に正確な推定が可能になる。等価球面度数の提案された重みに関する動機付けは、以下の考えから生じた。
【0172】
他覚的等価球面度数及び自覚的等価球面度数が一貫している場合には、両方のデータソースが使用されるべきである。測定が一貫していない場合、近視すぎる測定のリスクに応じて重みが調整されるべきである。すなわち、加入度が低ければ低いほど、近視すぎる測定のリスクが高くなる(自覚的屈折及び他覚的屈折の両方に関して)。この場合、正の等価球面度数ほど高い重みが与えられる。加入度が高いほど、近視すぎる測定のリスクが低くなるため、自覚的等価球面度数及び他覚的等価球面度数における大きな偏差は他の理由を有している可能性が高い。このため、屈折力を測定される人は屈折中に対応するレンズを既に試してしまっているため、これらの場合、自覚的測定には高い重み付けが与えられるのが好ましい。
【0173】
重みの計算
重みは、他覚的に決定された等価球面度数と自覚的に決定された等価球面度数との間の差に基づいて計算又は決定され得る。
ΔM=Msub-Mobj,(12)
また、加入度から決定され得る遠近調節能力に応じて、
【数57】
(13)
となる。
ここで、
sub:自覚的屈折からの等価球面度数
obj:他覚的屈折からの等価球面度数
Akk:加入度から計算された遠近調節能力
Add:屈折中に測定された加入度又は規定の加入度
【数58】
:加入度の決定における物体距離の逆数(負の符号規約、つまり
【数59】
z.B.距離40cmの物体の場合、
【数60】
【0174】
自覚的に決定された等価球面度数Msubの重み
【数61】
を計算するために、補助重み
【数62】
及び
【数63】
をΔMの関数として決定できる。
【数64】
(14)
ここで、1又は2がiの代わりに使用される。
【0175】
自覚的な重みは、AKKとAKK2との間の範囲内で補助重みを線形補間することによって得られる。
【数65】
(15)
【0176】
他覚的に決定された等価球面度数の重みは、
【数66】
によって自覚的に決定された等価球面度数の重みから計算され得る。
【0177】
支持点及びそれらの重みにおける範囲が以下に挙げられる。
-1.5Dpt≦ΔM-2≦-0.5Dpt
-1.0Dpt≦ΔM-1≦-0.25Dpt
0.25Dpt≦ΔM+1≦1.0Dpt
0.5Dpt≦ΔM+2≦1.5Dpt
ここで、ΔM-2<ΔM-1<ΔM+1<ΔM+2である。
0Dpt≦AKK≦1.25Dpt
1.0Dpt≦AKK≦2.75Dpt
ここで、AKK<AKKである。
【0178】
支持点の重みは、以下の範囲から選択され得る。
【数67】
【数68】
【数69】
【数70】
【数71】
【数72】
【0179】
重み及び支持点の選択例:
例1:
-ΔM-2=ΔM+2=1.0Dpt
-ΔM-1=ΔM+1=0.5Dpt
Akk=0Dpt
Akk=1.75Dpt
【数73】
【数74】
【数75】
【数76】
【数77】
【数78】
【0180】
例2:
-ΔM-2=ΔM+2=0Dpt
-ΔM-1=ΔM+1=0Dpt
Akk=0Dpt
Akk=1.75Dpt
【数79】
【数80】
【数81】
【数82】
【数83】
【数84】
【0181】
例3:
-ΔM-2=ΔM+2=1.5Dpt
-ΔM-1=ΔM+1=0.75Dpt
Akk=0.5Dpt
Akk=2.0Dpt
【数85】
【数86】
【数87】
【数88】
【数89】
【数90】
【0182】
図3は、例1に係る自覚的な等価球面度数
【数91】
の重みを示す。図4Aは、例2に係る自覚的な等価球面度数
【数92】
の重みを示す。図4Cは、例3に係る自覚的な等価球面度数
【数93】
の重みを示す。図3に示される重みは、自覚的及び/又は他覚的な測定の統計的な測定不正確さを低減することに関して、図4Aに示される重みよりも有利である。
【0183】
例1(図3)、例2(図4A)、及び、例3(図4B)に係る重みは、ステップ1で補正された等価球面度数ΔM=Msub-Mobjの加入度及び差(又は視差)に依存する。関数は、一定の重みの幾つかの平坦域から成り、その間では、前述のように、線形補間が実行される。
【0184】
例2に係る重みの選択と比較した例1に係る重みの選択における本質的な違いは、ΔMがほぼ正規分布される範囲、ここでは、例えば-0.5Dpt<ΔM<+0.5Dptの範囲で、例えば
【数94】
の重みを伴う平坦域が導入されることである。殆どの測定値はこの範囲に入る。ほぼ正規分布の差
【数95】
に起因して、自覚的屈折及び他覚的屈折の等価球面度数が矛盾しておらず、それにより、他覚的屈折の等価球面度数が比較的高い重み、例えば0.25を有することができると想定し得る。この範囲外では、加入度が高い場合、ここでは遠近調節の可能性が非常に低いため、差ΔMの符号に関係なく、自覚的な重みが非常に高い値まで、例えば0.95或いは更には1.0にまで上昇する。加入度が低い場合、自覚的屈折は、それが他覚的屈折よりも遠視であった場合にのみ非常に高く重み付けされる。それが近視の場合には、自覚的な重みが低い値、例えば0.5に減少される。
【0185】
ΔMの符号に応じた重みの変化は、2つのタイプの重み付け同士の間の第2の基本的な差である:すなわち、第1の例に係る方法では、これが低い加入度で起こり、第2の例に係る方法では、これが高い加入度で当てはまる。
【0186】
近用処方を組み合わせるために、自覚的屈折及び他覚的屈折に属する補正された波面を遠見屈折と同様に組み合わせることができる。しかしながら、より大きな測定不確実性に起因して、先行技術に記載されるように、他覚的屈折を弱くだけ重み付けすることが有利である。
【0187】
以下では、(比較的小さい)データセット(基準データセット)に基づき、自覚的、他覚的、及び、複合屈折に関する既に知られた方法と比較した結果である変化が評価される。以下の例では、自覚的屈折が、変更されず、したがってそこに示されない。
【0188】
図5及び図6は、2つの異なる方法(2つの異なる装置に関して明所視瞳孔と薄明視瞳孔との間で瞳孔が補間される、にしたがって計算された視力障害komb_F)の推定値の変化を示す。特に、図5及び図6は、前述のステップ1,2を含む第1の方法を用いて及び例1に係る重みを用いて得られる値、及び、平均して自覚的屈折に対する他覚的屈折に対するマッチングを伴わずに実行される(すなわち、ステップ1を含まず、ステップ2のみを含む)第2の方法を用いて及び例22に係る重みを用いて得られる値の差を示す。他覚的な測定値は、2つの異なる装置(収差計)、すなわち、収差計1,2を用いて得られ、この場合、図5は第1の収差計に関する結果を示し、図6は第2の収差計に関する結果を示す。図5A及び図6Aは等価球面度数Mの差を示し、図5B及び図6Bは成分J0の差を示し、図5C及び図6Cは成分J45に関する差を示す。
【0189】
他の2つの瞳孔(明所視瞳孔及び薄明視瞳孔)から推定される瞳孔における他覚的屈折は、方法のステップ1によりもたらされる予想差を示す。自覚的補正屈折及び他覚的補正屈折から組み合わされる補間瞳孔の屈折も、主に自覚に対する他覚のマッチングによりもたらされる予想変化を示す。
【0190】
例図中の「異常値」は全て老眼の人ではなく、そのため、近視すぎる屈折のリスクがある。それらに関しては、より正の屈折が高く重み付けされる。
【0191】
加入度がより高い場合においてよりプラスに且つより高く屈折を一般的に重み付ける手順は、2つの屈折間の体系的な差が既に補正されてしまっていれば、デバイス近視などの「異常値」がなくても複合屈折のプラスへ向けた体系的なシフトをもたらす。遠近調節によって又は累進レンズにおいて凝視を下げることによって遠視すぎる屈折を補償できないため、これは望ましくない。デバイス近視が高い加入度を伴う可能性は低く且つ低い加入度でのみ起こり得るため、図3に示される重みを用いるステップ1)及び場合によりステップ2)を伴う新たな方法は、この点でより良い複合屈折をもたらす。
【0192】
屈折の加入度に依存する重み付け(ステップ2)を伴った、他覚的屈折の体系的誤差の排除(ステップ1)は、特に2つのタイプの屈折間で体系的な差が生じる場合であっても平均自覚的屈折を他覚的屈折から高精度で計算できるため、体系的に逸脱する屈折が低く重み付けられるだけでシフトされない別の方法と比較して、より有利である。代わりに、重みの選択は、理想的には、既に補正された屈折法の信頼性に基づいて行なわれるべきである。
【0193】
全体として、ステップ1,2を伴う提案された方法は、特に収差計が自覚的屈折とは異なって体系的に測定する屈折力範囲で、自覚的屈折及び他覚的屈折の両方が計算に含まれる眼鏡レンズの再生の可能性の減少をもたらす。
【0194】
以下は、前述の方法を使用して計算及び製造され得る眼鏡レンズのシリーズの例である。
【0195】
眼鏡レンズシリーズB1:
複数の眼の視力障害を矯正するための眼鏡レンズのシリーズであって、少なくとも1つの基準点に第1の屈折力P_Aを有する少なくとも第1の眼鏡レンズAを備え、第1の眼鏡レンズAが、少なくとも、
第1のタイプの測定装置を使用して得られるとともに幾つかの成分から成る第1の測定値P_A1、及び
第2のタイプの測定装置を使用して得られるとともに幾つかの成分から成る少なくとも第2の測定値P_A2、
によって特徴付けられる第1の眼の視力障害を矯正し、
第1のタイプの測定装置を用いて決定される第1のレンズの第1の測定値P_A1及び第2のタイプの測定装置を用いて決定される第1のレンズの第2の測定値P_A2は、少なくとも1つの成分Xが異なり、
第1の眼鏡レンズの基準点に存在する第1の屈折力P_Aの成分Xは、第1の眼鏡レンズの測定値P_A1又はP_A2の成分Xに近く、第1の眼鏡レンズの測定装置が成分Xの測定においてより低い不正確さを有し、
成分Xは、視力障害の波面表示、その一次結合又はそこから導出される変数の成分である、眼鏡レンズのシリーズ。
【0196】
眼鏡レンズシリーズB2:
第1の眼鏡レンズの基準点に存在する第1の屈折力P_Aの成分Xと、第1の眼の第1の測定値P_A1の成分Xとがほぼ同一であるが、第1の眼の第1の測定値P_A1及び第1の眼の第2の測定値P_A2が少なくとも成分Xにおいて異なる、シリーズB1に係る眼鏡レンズのシリーズ。
【0197】
眼鏡レンズシリーズB3:
第1のタイプの測定装置を使用して決定されるとともに幾つかの成分から成る少なくとも第1の測定値P_B1と第2のタイプの測定装置を使用して決定されるとともに幾つかの成分から成る少なくとも第2の測定値P_B2とによって特徴付けられる第2の眼の視力障害を矯正する、第1の眼鏡レンズと比較して同一に特定される基準点で少なくとも第2の屈折力P_Bを有する少なくとも第2の眼鏡レンズBを備えるとともに、
第1のタイプの測定装置を使用して決定されるとともに幾つかの成分から成る少なくとも第1の測定値P_C1と第2のタイプの測定装置を使用して決定されるとともに幾つかの成分から成る少なくとも第2の測定値P_C2とによって特徴付けられる第3の眼の視力障害を矯正する、第1の眼鏡レンズと比較して同一に特定される基準点で少なくとも第2の屈折力P_Cを有する少なくとも第3の眼鏡レンズCを備え、
第1のタイプの測定装置を用いて決定される第1、第2、及び、第3の眼の第1の測定値P_A1,P_B1及びP_C1が成分に関して同一であり、
第2のタイプの測定装置を用いて決定される第1、第2、及び、第3の眼の第2の測定値P_A2,P_B2及びP_C2の成分Xが全て対ごとに異なり、
第1の眼鏡レンズの基準点に存在する第1の屈折力P_Aの成分Xと、第1の眼の第1の測定値P_A1の成分Xとがほぼ同一であり、
基準点に存在するi番目の眼鏡レンズの屈折力X_iの成分Xに関して、及び、i番目の眼の第2の測定値X_i2の成分Xに関して、
(X_B-X_A)/(X_B2-X_A2)が(X_C-X_A)/(X_C2-X_A2)と等しくなく、
abs(X_B2-X_A2)<abs(X_C2-X_A2)
signum(X_B2-X_A2)=signum(X_C2-X_A2)
の関係が当てはまる、シリーズB1又はB2に係る眼鏡レンズのシリーズ。
【0198】
眼鏡レンズシリーズB4:
第1、第2、第3の眼鏡レンズは、同じ加入度を伴う単焦点レンズ又は累進レンズであり、
Add<=1.5dptであり、
基準点に存在するi番目の眼鏡レンズの屈折力X_iの成分Xに関して、及び、i番目の眼の第2の測定値X_i2の成分Xに関して、
X_B2-X_A2>0、X_C2-X_A2>0の場合には、(X_B-X_A)/(X_B2-X_A2)<(X_C-X_A)/(X_C2-X_A2)、及び
X_B2-X_A2<0、X_C2-X_A2<0の場合には、(X_B-X_A)/(X_B2-X_A2)>(X_C-X_A)/(X_C2-X_A2)、
の関係が当てはまる、シリーズB3に係る眼鏡レンズのシリーズ。
【0199】
眼鏡レンズシリーズB5:
第1、第2、第3の眼鏡レンズは、同じ加入度を伴う累進レンズであり、
Add<=2dptであり、
基準点に存在するi番目の眼鏡レンズの屈折力X_iの成分Xに関して、及び、i番目の眼の第2の測定値X_i2の成分Xに関して、
X_B2-X_A2>0,X_C2-X_A2>0の場合には、(X_B-X_A)/(X_B2-X_A2)>(X_C-X_A)/(X_C2-X_A2)、及び
X_B2-X_A2<0,X_C2-X_A2<0の場合には、(X_B-X_A)/(X_B2-X_A2)>(X_C-X_A)/(X_C2-X_A2)、
の関係が当てはまる、シリーズB3に係る眼鏡レンズのシリーズ。
【0200】
眼鏡レンズシリーズB6:
第1のタイプの測定装置を自覚的屈折のために使用できる、シリーズB1~B5のうちの1つに係る眼鏡レンズのシリーズ。
【0201】
眼鏡レンズシリーズB7:
第2のタイプの測定装置を使用して他覚的屈折を決定できる、シリーズB1~B6のうちの1つに係る眼鏡レンズのシリーズ。
【0202】
眼鏡レンズシリーズB8:
第1のタイプの測定装置を使用して得られるとともに幾つかの成分から成る少なくとも第1の測定値P_D1と第2のタイプの測定装置を使用して得られるとともに幾つかの成分から成る少なくとも第2の測定値P_D2とによって特徴付けられる第4の眼の視力障害を矯正する、第1の眼鏡レンズと比較して同一に特定される基準点で少なくとも第4の屈折力P_Dを有する少なくとも第4の眼鏡レンズDを備えるとともに、
第1のタイプの測定装置を使用して決定されるとともに幾つかの成分から成る少なくとも第1の測定値P_E1と第2のタイプの測定装置を使用して決定されるとともに幾つかの成分から成る少なくとも第2の測定値P_E2とによって特徴付けられる第4の眼の視力障害を矯正する、第1の眼鏡レンズと比較して同一に特定される基準点で少なくとも第5の屈折力P_Eを有する少なくとも第5の眼鏡レンズEを備え、
第1のタイプの測定装置を用いて決定される第1、第4、及び、第5の眼の第1の測定値P_A1,P_D1及びP_E1が成分に関して同一であり、
第2のタイプの測定装置を用いて決定される第1、第4、及び、第5の眼の第2の測定値P_A2,P_D2及びP_E2の成分Xが全て対ごとに異なり、
第1の眼鏡レンズの基準点に存在する第1の屈折力P_Aの成分Xと、第1の眼の第1の測定値P_A1の成分Xとがほぼ同一であり、
基準点に存在するi番目の眼鏡レンズの屈折力X_iの成分Xに関して、及び、i番目の眼の第2の測定値X_i2の成分Xに関して、
X_D2-X_A2>0,X_E2-X_A2<0,X_D-X_A>0及びX_E-X_A<0
の関係が当てはまる、シリーズB1~B6のうちの1つに係る眼鏡レンズのシリーズ。
【0203】
図7図10は、眼鏡レンズの上記のシリーズの個々の代表的な眼鏡レンズを示す。図示の眼鏡レンズは、体系的誤差の補正が実行されたか否かにかかわらず、図11図20のΔMに依存する重みの特性をシリーズ内の1,3又は5のレンズに基づいて定めることができるようにする特性を選択してしまっている。詳細図中の実線上又は破線上に位置する眼鏡レンズは、同じ自覚的等価球面度数を有する(図示の線上では、自覚的等価球面度数がM_A1=M_A=4.1dptである)。実線又は破線は、例1及び例2からの支持点及び重みに関連する。
【0204】
図7は、ステップ1を含む方法を使用して計算された眼鏡レンズシリーズB2の眼鏡レンズAに関する。図7に示される眼鏡レンズAは、基準点に自覚的に測定された等価球面度数(M_A=MA_1=4.1dpt)を有するが、他覚的に測定された等価球面度数(M_A2=4.6dpt)は自覚的に測定された等価球面度数(M_A 1=4、1dpt)とは実質的に異なる。それにもかかわらず、他覚的に測定された等価球面度数が計算において考慮に入れられた。
【0205】
図8は、ステップ1及びステップ2を含む方法を使用して計算された眼鏡レンズシリーズB2の他の眼鏡レンズAに関する。図8Aに示される眼鏡レンズは、図7に示される眼鏡レンズと同様の特性を有する。詳細8Aは図11及び図12に対応する。
【0206】
図9は、ステップ1及びステップ2を含む方法を使用して計算された眼鏡レンズシリーズB3の3つの眼鏡レンズA,B,Cに関する。ここでは、全てのレンズが同じ自覚的な等価球面度数を有するとともに、同じ等価球面度数の等値線が少なくとも区間Mobj<M_A2及びMobj>M_A2のうちの1つにおいて異なる勾配を有する-これは、測定されて基準点に存在するレンズA、B、Cの等価球面度数間の関係によって表わされる-ことを特徴とする。
【0207】
図10は、眼鏡レンズシリーズB8の眼鏡レンズA,D,Eに関する。ここで特徴的であるのは、測定されて基準点に存在するレンズA,D,Eの等価球面度数間の関係によって表わされる、M_A2の両側で同一である同一の等価球面度数の等値線の勾配である。
【0208】
図11図19は、異なる加入度Addに関して、等価球面度数の推定値(Mkomb)と測定された自覚的等価球面度数(Msbj)との間の差(Mkomb-Msbj)を、測定された他覚的等価球面度数(Mobj)と測定された自覚的等価球面度数との間の差の関数として示す。「Mkomb」は、複合等価球面度数、すなわち、ステップ1及び/又はステップ2を含む典型的な方法にしたがって計算された等価球面度数の推定値を示す。x軸上には、眼鏡レンズ(例えば眼鏡レンズB又はC)における他覚的な等価球面度数Mobj(例えばM_B2又はM_C2)から他覚的な等価球面度数を差し引いた差Mobj=Msbjがあり、この場合、複合等価球面度数は自覚的な等価球面度数(例えばM_B2-M_A2又はMC_2-M_A2)に等しい。図11図19は、40cmの標準物体距離で決定された加入度に関する(
【数96】
に対応する)。
【0209】
実線又は破線は、例1(実線)及び例2(破線)の支持点及び重量を伴うステップ2を含む典型的な方法にしたがって複合等価球面度数Mkombが得られたケースを示す。したがって、複合等価球面度数「Mkomb」は、ステップ2又はステップ1,2を含む典型的な方法にしたがって視力障害の推定値を表わす。
図1A
図1B
図1C
図2A
図2B
図2C
図3
図4A
図4B
図5A
図5B
図5C
図6A
図6B
図6C
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
図14
図15
図16
図17
図18
図19