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特許7278323対象者の緑内障のリスクを予測する予測モデルを生成する方法、当該予測モデルを用いて対象者の緑内障リスクを決定する方法、対象者の緑内障リスクを予測する装置、コンピュータプログラム及びコンピュータ可読媒体
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-05-11
(45)【発行日】2023-05-19
(54)【発明の名称】対象者の緑内障のリスクを予測する予測モデルを生成する方法、当該予測モデルを用いて対象者の緑内障リスクを決定する方法、対象者の緑内障リスクを予測する装置、コンピュータプログラム及びコンピュータ可読媒体
(51)【国際特許分類】
   A61B 3/16 20060101AFI20230512BHJP
   A61B 5/16 20060101ALN20230512BHJP
   A61B 5/1455 20060101ALN20230512BHJP
   A61B 5/022 20060101ALN20230512BHJP
   A61B 5/029 20060101ALN20230512BHJP
   A61B 5/02 20060101ALN20230512BHJP
   G16H 50/50 20180101ALN20230512BHJP
【FI】
A61B3/16
A61B5/16 130
A61B5/1455
A61B5/022 400H
A61B5/029
A61B5/02 310V
G16H50/50
【請求項の数】 13
【外国語出願】
(21)【出願番号】P 2021065798
(22)【出願日】2021-04-08
(65)【公開番号】P2021168913
(43)【公開日】2021-10-28
【審査請求日】2021-07-09
(31)【優先権主張番号】20461527
(32)【優先日】2020-04-09
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(73)【特許権者】
【識別番号】521148740
【氏名又は名称】インスティトゥト・ヘミー・ビオオルガニチネイ・ペアエヌ
【氏名又は名称原語表記】Instytut Chemii Bioorganicznej PAN
(73)【特許権者】
【識別番号】521148751
【氏名又は名称】ロベルト・ヘンリク・ヴァシレヴィチ
【氏名又は名称原語表記】Robert Henryk WASILEWICZ
(74)【代理人】
【識別番号】100145403
【弁理士】
【氏名又は名称】山尾 憲人
(74)【代理人】
【識別番号】100132241
【弁理士】
【氏名又は名称】岡部 博史
(74)【代理人】
【識別番号】100135703
【弁理士】
【氏名又は名称】岡部 英隆
(72)【発明者】
【氏名】ロベルト・ヘンリク・ヴァシレヴィチ
(72)【発明者】
【氏名】チェザリ・マズレク
(72)【発明者】
【氏名】ユリウシュ・プカツキ
(72)【発明者】
【氏名】フーベルト・シュヴィエルチンスキ
【審査官】増渕 俊仁
(56)【参考文献】
【文献】特表2008-519168(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2019/0380871(US,A1)
【文献】国際公開第2019/185392(WO,A1)
【文献】KEITH R. MARTIN, et al.,Use of Machine Learning on Contact Lens Sensor-Derived Parameters for the Diagnosis of Primary Open-angle Glaucoma,American Journal of Ophthalmology,ELSEVIER,2018年,Vol. 194,pp. 46-53
【文献】Robert Henryk Wasilewicz, et al.,Daily biorhythms of ocular volume changes and the cardiovascular system functional parameters in healthy, ocular hypertension, normal tension and primary open angle glaucoma populations,Investigative Ophthalmology & Visual Science,2014年04月,Vol. 55, Issue 13,p. 142
【文献】R WASILEWICZ, et al.,24 hour continuous ocular tonography Triggerfish and biorhythms of the cardiovascular ,Acta Ophthalmologica,2013年08月06日,Vol. 91, Issure s252,https://doi.org/10.1111/j.1755-3768.2013.2721.x
【文献】Azadeh Doozandeh, et al.,Corneal profile in primary congenital glaucoma,Acta Ophthalmologica,2017年01月31日,Vol. 95, Issue 7,pp. e575-e582,https//doi.org/10.1111/aos.13357
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61B 3/00-3/18
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
プロセッサおよびメモリを含む装置で実施される、対象者の緑内障のリスクを予測する予測モデルを生成する方法(100)であって、
各対象者に、一組の入力データを処理する方法を提供する診断モデルを生成する以下のステップを含む、方法。
a)前記プロセッサにより、眼球パラメータの24時間プロファイルを記録する(s101a)と同時に、心臓血管系パラメータを記録するステップ(s101b)、
b)前記プロセッサにより、前記眼球パラメータの記録された24時間プロファイルを少なくとも複数のサブ期間
セッションの開始から、睡眠のための水平姿勢をとると仮定する5時間前までの、初期サブ期間START-TP1
水平姿勢をとると仮定する5時間前から、睡眠のための水平姿勢を仮定するまでの、睡眠のための水平姿勢をとる前のサブ期間TP1-SLEEP
睡眠のための水平姿勢を仮定してから、睡眠のための水平姿勢を仮定する+2時間までの、睡眠のための水平姿勢をとった後のサブ期間SLEEP-TP2
睡眠のための水平姿勢を仮定する+2時間から、睡眠後の垂直姿勢を仮定するまでの、睡眠後の垂直姿勢をとる前のサブ期間TP2-WAKE
睡眠後の垂直姿勢を仮定してから、睡眠後の垂直姿勢を仮定する+2時間までの、睡眠後の垂直姿勢をとった後のサブ期間WAKE-TP3
睡眠後の垂直姿勢を仮定する+2時間から、セッションの終了までの、最終サブ期間TP3-END
に分割するステップ(s102a)、
c)前記プロセッサにより、各サブ期間において、少なくとも1の統合された特性の形式で1の対象者を示す特徴を決定するとともに(s103a)、前記眼球パラメータと、前記心臓血管系パラメータとの相関を演算するステップ(s103b)、
d)前記プロセッサにより、1の対象者を示す決定された特徴、及び、演算された相関パラメータを収集した記録を生成するステップ(s104a)、
e)前記プロセッサにより、事前に医師によって付与された病気又は健康を示すラベルを取り込み、機械学習メカニズムの入力データとする前記特徴及び前記パラメータを収集した記録に、前記ラベルを割り当てて学習セットを作成する(s105a)ステップ、
及び、
f)前記プロセッサにより、前記学習セットを使用して、少なくとも回帰アルゴリズム、決定木、ベイジアンアルゴリズム、アンサンブルアルゴリズム、及び、サポートベクターアルゴリズムから選択された1又は複数のアルゴリズムに基づく教師あり機械学習メカニズムを用いて、予測モデルを生成するステップ
【請求項2】
前記予測モデルは、10分割交差検証を用いて生成される
請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記統合された特性は、サブ期間の曲線下面積の合計、サブ期間の線形回帰直線の傾角、サブ期間の全変動、サブ期間のフーリエ変換で表される代表値を含む群から選択される
請求項1又は2に記載の方法。
【請求項4】
前記眼球パラメータは、眼球の角膜輪郭の外周、及び眼圧を含む群から選択される
請求項1乃至3のいずれか1に記載の方法。
【請求項5】
前記心臓血管系パラメータは、血圧(BP)、収縮期血圧(SAP)、拡張期動脈圧(DAP)、平均動脈圧(MAP)、心拍数(HR)、血中酸素飽和度(SpO2)、及び数式:CO=[(SAP-DAP)/SAP+DAP)]×HRによって算出される心拍出量の割合を含む群から選択された
請求項1乃至4のいずれか1に記載の方法。
【請求項6】
対象者の年齢、角膜抵抗係数、及び角膜ヒステリシスを含む群から選択される1又は複数の追加の特徴が決定され(s103c)、かつ、
前記方法(100)の前記ステップ(s104)において生成された1の対象者を示す前記記録に追加される
請求項1乃至のいずれか1に記載の方法。
【請求項7】
前記方法(100)の前記ステップ(s104)の1の対象者を示す前記記録は、前記決定された全ての特徴の選択されたサブセットに限定される
請求項1乃至のいずれか1に記載の方法。
【請求項8】
前記決定されたサブ期間は、さらに、
セッションの開始から、睡眠のための水平姿勢をとるまでのサブ期間(START-SLEEP)、及び/又は、
睡眠のための水平姿勢をとるまでから、睡眠後の垂直姿勢をとるまでのサブ期間(SLEEP-WAKE)、及び/又は、
持続的な意識のある14:00に水平姿勢をとるまでから、15:30に垂直姿勢をとるまでのサブ期間(TIME14:00-TIME15:30)、
を含む
請求項1乃至のいずれか1に記載の方法。
【請求項9】
プロセッサおよびメモリを含む装置で実施される、対象者の緑内障のリスクを決定する方法であって、以下のステップを含む、方法。
前記プロセッサによる、検査される患者のために、予測モデルを生成する前記方法(100)の前記ステップ(s104)で生成された同一の特徴、及び、相関パラメータのセットを含む記録を生成するステップ、及び、
前記プロセッサによる、請求項1乃至のいずれか1に記載の方法に従って生成された前記予測モデルを用いた、決定された確率で、前記対象者の病気の又は健康な対象者の特徴の類似性を決定するステップ。
を含む。
【請求項10】
対象者の緑内障を予測する装置であって、
眼球パラメータを記録する手段(201a)と、
心臓血管系パラメータを記録する記録する手段(201b)と、
前記手段(201a,201b)と通信接続(202a,202b)を有する制御回路(203)と、
前記制御回路(203)に内蔵されるプロセッサ(204)と、
前記制御回路(203)に内蔵され、動作可能なように前記プロセッサ(204)と結合されるメモリ(205)と、
前記制御回路(203)と通信接続(203c)された結果を提示する出力装置(207)と、
を含み、
前記プロセッサ(204)は、前記手段(201a,201b)によって提供されるデータに基づいて、請求項1乃至8のいずれか1に記載の方法、かつ、請求項9に記載の方法の各ステップを実行するため、前記メモリ(205)に記憶されるプログラムコード(206)を実行するように構成される。
【請求項11】
眼球パラメータを記録する前記手段(201a)、眼球パラメータを記録する手段(201b)、及び/又は、出力装置(207)は、前記制御回路(203)に対して遠隔配置され、かつ、通信接続(202a,202b,202c)は、通信ネットワーク接続である、
請求項10に記載の装置。
【請求項12】
請求項1乃至及び請求項に規定される方法のステップを実行するプログラムコードを含むコンピュータプログラム。
【請求項13】
請求項12に記載のコンピュータプログラムが記憶されるコンピュータ可読媒体。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、対象者の緑内障のリスクを予測する予測モデルを生成する方法、当該予測モデルを用いて対象者の緑内障リスクを決定する方法、対象者の緑内障リスクを予測する装置、コンピュータプログラム及びコンピュータ可読媒体に関する。特に、本発明は、人工知能及び機械学習法を用いて、眼球バイオリズムによって決定される特定の特徴に基づいて対象者の緑内障を予測する予測モデルの生成及び利用に関する。
【背景技術】
【0002】
緑内障は、世界中で、元に戻すことのできない失明を引き起こす最も一般的な進行性の視神経症である。その病理メカニズムは、過度な機械力の影響を受けて、篩板(しばん)の表現型が変化することに関連し、神経栄養の欠乏及びその後の加速された網膜神経節細胞のアポトーシスを引き起こす。網膜神経節細胞の減少は、視覚伝導路の連続性の途絶を引き起こすが、それは、網膜の構造及び視野における神経系の欠陥に応じた特効薬の開発につながる。これらの欠陥の発生は、網膜の特定の神経節細胞の少なくとも30~50%が失われたときに、臨床的に生じる。
【0003】
眼圧の上昇は、緑内障性視神経障害の進行の最も重要な既知の危険因子であり(特異性0.85/感度0.3/AUC0.6)、その低下は、その進行のリスクを低下させる唯一の臨床的に証明された方法である。緑内障診断または極端な場合の眼圧上昇の評価に主にまたは排他的に基づくそのリスク評価の分野における現代の慣行は、特に正常な眼圧にもかかわらず緑内障が存在する場合、対象者に誤った診断および深刻な結果をもたらす可能性がある。さらに、眼圧の上昇は、正しい診断をさらに損なうさまざまな理由がある可能性がある。より効果的な診断を提供するために、眼圧試験に加えて、例えば、眼底検査、視野検査または光断層撮影などの他の方法を使用して、緑内障のリスクを評価することもできる。しかし、多くのテストを実行することは、対象者にとって不快で時間がかかり、対象者の健康状態の最終評価には多くの要因を考慮する必要があるため、複雑でエラーが発生しやすくなる。
【0004】
上記を考慮して、先行技術において、対象者の検査プロセスを単純化することを可能にし、迅速で信頼できる診断を提供する、緑内障リスクを決定するためのより効果的で信頼できる方法を開発する必要がある。
【0005】
したがって、本発明の目的は、先行技術における上記の1以上の問題を少なくとも軽減する、対象者における緑内障リスクを予測するための適切な方法および装置を提供することである。
【0006】
「健康、高眼圧症、正常眼圧及び原発性開放隅角緑内障集団における眼球容積変化と心臓血管系機能パラメータの毎日のバイオリズム」(WasilewiczRH、Wasilewicz PK、Mazurek C、他著、ARVO Annual Meeting Abstract、2014年4月)において、24時間の個々の範囲における眼球バイオリズムパラメータと心臓血管系パラメータの関係が開示される。
【0007】
本発明の開発の出発点は、緑内障を予測するのに役立つことが証明された、本発明者らによる眼球バイオリズムパラメータの特徴的な特徴を決定するための方法の開発であった。決定された特徴は、十分に大きな検査および診断された対象者のグループに対して決定された上記の特徴に基づいて、類似の特徴セットに基づいて決定された確率で検査された対象者を健康/疾患として分類できる予測モデルを作成することを可能にした。同一の特徴が決定された対象者の以前の診断に基づくそのような症状は、緑内障リスクの初期評価に非常に役立つ可能性があり、医師が診断を行い、より良い治療法を提案するのに役立つ。さらに、開発された方法は、とりわけ、眼球パラメータと心臓血管系パラメータの相関、対象者の年齢、角膜抵抗係数、および角膜ヒステリシスを含む拡張された機能セットに基づくことができる。
【発明の概要】
【0008】
本発明によれば、請求項1に記載の対象者における緑内障リスクを予測するための予測モデルを作成するための方法、請求項11に記載の予測モデルを使用して対象者における緑内障リスクを決定するための方法、請求項12に記載の対象者における緑内障リスクを予測するための装置、請求項14および15にそれぞれ記載のコンピュータプログラムおよびコンピュータ可読媒体が提供される。
【0009】
本発明による対象者の緑内障リスクを予測する予測モデルを生成するための方法であって、各対象者の診断モデルを生成する以下を含むステップ、
a)眼球パラメータの24時間プロファイルを記録する、
b)眼球パラメータの記録された24時間プロファイルを少なくとも複数のサブ期間:初期サブ期間、睡眠のために水平姿勢をとる前のサブ期間、睡眠のために水平姿勢をとった後のサブ期間、睡眠後に垂直姿勢をとる前のサブ期間、睡眠後に垂直姿勢をとった後のサブ期間、最終サブ期間、に分割する、
c)各サブ期間において、少なくとも1の統合された特性の形式で1の対象者を示す特徴を決定する、
d)1の対象者示す決定された特徴を収集した記録を生成する、
e)記録を生成するために医師によって作成された診断(病気/健康)を示すラベルを割り当てる。
さらに、本発明による前記方法は、複数の対象者に対して生成された一組の記録に基づいて、少なくとも回帰アルゴリズム、決定木、ベイジアンアルゴリズム、アンサンブルアルゴリズム、及び、サポートベクターアルゴリズムから選択された1又は複数のアルゴリズムに基づく教師あり機械学習メカニズムを用いて、予測モデルを生成するステップを含む。
【0010】
この方法の好ましい実施形態では、予測モデルは、10分割交差検証を用いて生成される。
【0011】
この方法の別の好ましい実施形態では、統合された特性は、サブ期間の曲線下面積(AUC)の合計、サブ期間の線形回帰直線の傾斜角、サブ期間の全変動、サブ期間の離散フーリエ変換で表される代表値を含む群から選択される。
【0012】
この方法のさらに別の好ましい実施形態では、眼球パラメータは、眼球の角膜輪郭の外周および眼圧を含む群から選択される。
【0013】
この方法のさらに別の好ましい実施形態では、眼球パラメータの24時間プロファイルを記録すると同時に、心臓血管系パラメータが記録され、決定されたサブ期間において、眼球パラメータと心臓血管系パラメータとの相関が算出され、記録を生成するステップで生成された1の対象者を示す記録に、追加の特徴として算出された相関パラメータが追加される。
【0014】
この方法のさらに別の好ましい実施形態では、心臓血管系パラメータは、血圧(BP)、収縮期血圧(SAP)、拡張期血圧(DAP)、平均動脈圧(MAP)、心拍数(HR)、血中酸素飽和度(SpO2)、及び数式:CO=[(SAP-DAP)/SAP+DAP)]×HRによって算出される心拍出量の割合を含む群から選択される。
【0015】
この方法のさらに別の好ましい実施形態では、対象者の年齢、角膜抵抗係数、および角膜ヒステリシスを含む群から選択される1または複数の追加の特徴が決定され、かつ、記録を生成するステップで生成された1の対象者を示す記録に追加される。
【0016】
この方法のさらに別の好ましい実施形態では、1の対象者を示す記録は、決定されたすべての特徴の選択されたサブセットに限定される。
【0017】
この方法のさらに別の好ましい実施形態では、決定されたサブ期間は、さらに、セッション開始から睡眠のための水平姿勢をとるまでのサブ期間、および/または睡眠のための水平姿勢をとるまでから睡眠後の垂直姿勢をとるまでのサブ期間および/または意識を維持しながら、14:00に水平姿勢をとるまでから15:30に垂直姿勢をとるまでのサブ期間を含む。
【0018】
この方法のさらに別の好ましい実施形態では、特定のサブ期間を定義する境界は、以下の通りである:睡眠のための水平姿勢をとると仮定する5時間前、睡眠のための水平姿勢を仮定する+2時間、睡眠後の垂直姿勢を仮定する+2時間。
【0019】
本発明による対象者における緑内障リスクを決定する方法は、検査される患者のために、予測モデルを生成する方法の記録を生成するステップで生成された同一の特徴セットを含む記録の作成、上記に開示された予測モデルを作成する方法に従って生成された予測モデルを用いた、決定された確率で、対象者の病気または健康な対象者の群への割り当てを決定、を含む。
【0020】
本発明による対象者の緑内障を予測する装置であって、眼球パラメータを記録する手段と、心臓血管系パラメータを記録する手段と、それら手段との通信接続を有する制御回路と、制御回路に内蔵されるプロセッサと、制御回路に内蔵され、動作可能なようにプロセッサと結合されるメモリと、制御回路と通信接続された結果を提示する出力装置を有する。さらに、プロセッサは、上記に開示された方法のステップを実行するため、メモリに記憶されるプログラムコードを実行するように構成される。
【0021】
デバイスの好ましい実施形態では、眼球パラメータを記録する手段、心臓血管系パラメータを記録する手段、および/または出力装置は、制御回路に対して遠隔配置され、通信接続は通信ネットワーク接続である。
【0022】
本発明はまた、本発明による方法ステップを実行するプログラムコードを含むコンピュータプログラム、およびコンピュータプログラムが格納されるコンピュータ可読媒体に関する。
【0023】
本発明に従って提供される解決策は、緑内障神経障害の超早期リスク評価、および緑内障について観察された人々、陽性の家族歴および高眼圧症を有する対象者におけるその要因の説明を可能にするインテリジェントな医師意思決定支援システムにおける用途を見出す。結果として、緑内障の対象者における局所および全身療法の方法を、疾患進行の個々の危険因子の兆候とともに個人化することが可能である。
【図面の簡単な説明】
【0024】
本発明のさらなる特徴及び利点を添付の図面を参照して後述の説明において示す。
図1】本発明に係る予測モデルを生成する方法の一連のステップを示す概略ブロック図である。
図2】角膜輪郭における眼球の外周の24時間変化の計測結果の一例を示す。
図3】眼圧の24時間変化の計測結果の一例を示す。
図4】機能性の心臓血管系パラメータの24時間変化の計測結果の一例を示す。
図5】サブ期間に分割された眼圧の24時間変化の計測結果の一例を示す。
図6】眼球レスポンスアナライザを用いた、時間関数としての信号振幅/圧力関係を示す。
図7】対象者の緑内障のリスクを予測する装置の一例を示す概略ブロック図である。
【発明を実施するための形態】
【0025】
以下において、好ましい実施形態を説明する。方法の特定の実施形態の詳細は、同時に装置の実施形態の関連ある範囲に適用される。従って、説明の重複を省略する。
【0026】
主題の解決策は、主に、毎日の眼球バイオリズム測定からのデータ、そしてオプションで、毎日の心臓血管系パラメータ測定からのデータ、の処理と分析に基づいている。さらに、年齢、角膜抵抗係数、角膜ヒステリシスなどの永続的な患者の特性を変数として使用できる。これについては、以下で詳しく説明する。
【0027】
分析プロセスを実行するため、精度の評価の確率とともに、対象者の健康状態の予測を決定することのできる予測モデルを構成することが必要である。実際には、これは、病気に分類された人が、病気と診断された人と同様のパラメータを持っていることを医師に示す。必ずしも病気がすでに発生していることを示すものではない。
【0028】
特定の対象者の分析を実行するには、眼球バイオリズムモニタリング装置からの生データと、オプションで、24時間プロファイルにわたる心臓血管系パラメータの変化を提供する必要がある。本実施形態は、以下に説明される特定の装置からのデータに基づく。
【0029】
図1は、対象者の予測された健康状態を決定する予測モデルを作成する方法100の連続するステップを示す概略ブロック図を示す。破線を使用して示された図1のブロック間の関係を説明するブロックおよび矢印は、説明された方法100への好ましい追加を提示するが、その機能には必要ではない。
【0030】
予測モデルを作成するため、さまざまな対象者グループを説明する十分に大きなデータセットを収集する必要がある。したがって、以下に説明する方法100の連続するステップs101a、s102a、s102a、s104およびs104は、オプションのステップs101b、s103bおよびs103cと同様に、いわゆるトレーニングデータを提供するために複数の対象者のそれぞれに対して同様に実行される。
【0031】
ステップs101aにおいて、眼球パラメータの24時間プロファイルが再コード化される。この時点で、眼球パラメータとして、眼球の特徴を示す全てのパラメータ、例えば、眼球の角膜輪郭の周囲、眼圧(IOP)、および眼球のバイオリズムの変動を説明する同様のパラメータ等、を理解する必要があるが、これらは非限定的な例にすぎないことに留意されたい。当業者は、ここで特に言及されていない他の関連する眼球パラメータに気付くであろう。上記のすべてのパラメータは、個別に、および時間の関数として可変である値である。24時間の期間の関数としての上記パラメータの登録から生じるデータシーケンスは、本開示ではバイオリズムとも呼ばれる。
【0032】
オプションのステップs101bでは、ステップs101aと同時に、心臓血管系パラメータの24時間プロファイルが記録される。この時点で、心臓血管系のパラメータとして、心臓血管系を示す全てのパラメータ、例えば、血圧(BP):収縮性動脈圧(SAP)、拡張性動脈圧(DAP)、平均動脈圧(MAP)、心拍数(HR)、酸素血圧(SpO2)及び、CO=[(SAP-DAP)/SAP+DAP)]×HRの式に従って計算される心拍出量の割合、を理解する必要があるが、これらは非限定的な例にすぎないことに留意されたい。当業者は、ここで特に言及されていない他の関連する心臓血管系パラメータに気付くであろう。上記のすべてのパラメータは、個別に、および時間の関数として可変である値である。24時間の期間の関数としての上記パラメータの登録から生じるデータシーケンスは、本開示ではバイオリズムとも呼ばれる。
【0033】
上記のバイオリズムの記録には、例えば、Triggerfish(登録商標)、PMCL、Somnotouch NIBP System等の任意の市販のシステムを使用できるが、本発明は、それらおよび将来開発される他のデバイスおよびシステムに限定されず、および/または同様の機能を有するものは、それらが間隔および連続モードの両方で必要なデータシーケンスを提供できる限り使用できる。
【0034】
図2~4は、本発明で使用でき、本発明の原理の理解に役立つ、時間の関数としての選択されたパラメータの例示的な図を示す。
【0035】
図2は、本発明で使用され得るTriggerfish(登録商標)システム(Sensimed AG(登録商標)、スイス)によって得られた眼球の角膜輪郭における周囲の例示的な24時間変動プロファイルを示す。このシステムでは、データは30秒の測定ウィンドウで5分ごとに10Hzの周波数で記録される。データ単位はmVである。特定の測定ウィンドウからのデータシーケンスの中央値は、24時間のタイムライン上にポイントを作成する。これらのポイントのセットを5分間隔で記録すると、眼球の角膜輪郭での円周方向の寸法変化の個々のバイオリズムを表す時間曲線が作成される。
【0036】
図3は、本発明で使用され得るPMCLシステム(Sensimed AG(登録商標)、スイス)によって得られた眼圧(IOP)の例示的な24時間変動プロファイルを示す。この場合、データの記録は、データが2つのサブ期間内に記録される180秒の測定ウィンドウに分割されて継続される。測定ウィンドウの最初の30秒間は50Hzの周波数で、残りの150秒間は1Hzの周波数である。データ単位はmmHgである。特定の測定ウィンドウからのデータシーケンスの中央値は、24時間のタイムライン上にポイントを作成する。3分間隔でのこれらのポイントのセットの記録は、眼圧変動の個々のバイオリズムを説明する時間曲線を作成する。
【0037】
図4は、Somnotuch NIBPシステム(Somnomedics AG、ドイツ)によって得られた機能的心臓血管系パラメータの例示的な24時間変動プロファイルを示している。このシステムは、PPT(脈拍伝搬時間)法を使用して、連続モード(心拍間隔)で機能的心臓血管系パラメータの24時間変動プロファイルを取得することを可能にする。説明されている機能パラメータは、収縮期動脈圧(SAP)、拡張期動脈圧(DAP)、平均動脈圧(MAP)、心拍数(HR)、酸素飽和度(SpO2)及び、CO=[(SAP-DAP)/SAP+DAP]×HRの式に従って計算される心拍出量(CO)の割合に従って決定される。データ単位は、それぞれ、mmHg、1分あたりの心拍数、%である。
【0038】
図1に戻ると、次に、ステップs101aおよびs101bで得られたパラメータのデータシーケンスは、それらにさらなる処理に適合された所望の形態を与えるために前処理にかけられる。眼球パラメータと心臓血管系パラメータを同時に記録する場合、記録されたデータを同期させ、両方のシーケンスに互換性のある形式を提供する必要がある場合がある。これは、異なるシステムから発信されたデータ、つまり異なるモード(連続/離散等)で記録されたデータ、および/または、例えば、異なる周波数または異なる時点等、異なる方法で記録されたデータの場合に特に重要である。その結果、時間的に互いに対応するパラメータのセットが1つのタイムラインで取得される。これらのパラメータは、一方の眼球ともう一方の心臓血管系のバイオリズムを表す。このようなデータの配置により、とりわけ、定義された時点での両方のプロファイルからのデータの相関計算が可能になり、この相関は後の段階で使用される。本実施形態では、記録されたデータは、パラメータ値が完全な分である時点で取得されるように予備処理にかけられ、その結果、相関パラメータは、特定の分に、装置から読み取られたパラメータの中央値である。しかしながら、本発明はこの実施形態に限定されず、任意の適切な時点を、例えば、30秒、2分、5分の増分などで選択できる。例えば、中央値の計算、近似、補間等、隣接および/または近くの値を考慮し、必要な時点で、個々のパラメータ値を決定するため、任意の既知の技術を使用しうる。
【0039】
ステップs102aにおいて、前処理された眼球パラメータは、予測モデルを構築するために使用される特徴を決定することが可能である特徴的なサブ期間に割り当てられる。ステップs101bの心臓血管系パラメータも記録される場合、ステップs101aおよびs101bからの両方の同期されたプロファイルは、前記同一のサブ期間に分割される。図5は、眼圧(IOP)の変動性の24時間の説明のためのサブ期間への例示的な分割を示し、ここで、同一の分割は、心臓血管系パラメータについても同様の方法で起こる(図示せず)。
【0040】
提示された実施形態では、比較データ分析の9つの元のサブ期間が、眼球の角膜輪郭での円周方向の寸法変化、眼圧及び眼の脈拍心拍のバイオリズムの比較分析、及び概日リズムに関連する人間の行動の対応する特徴に基づいて、決定される。特定の境界時点START、TP1、SLEEP、TP2、WAKE、TP3、ENDによって定義される個々のサブ期間は、以下に簡単に特徴付けられる。
-「セッション開始」から「睡眠のための水平姿勢をとる5時間前」まで:START-TP1
このサブ期間は、主に特定の人に固有の個々の行動タイプに起因する心臓血管系パラメータの変動によって引き起こされる、眼球の特定のボリューム/IOP変化パターンが発生する時間における特定の人の日常活動(垂直姿勢)中のシステム間の関係を示す。
-「睡眠のための水平姿勢をとる5時間前」から「睡眠のための水平姿勢をとる」まで:TP1-SLEEP
このサブ期間は、眼球容積/IOPおよび心臓血管系に影響を与える人間の内分泌系の特定の変化が発生したときの、特定の人(垂直姿勢)の日常活動中のシステム間の関係を示す。
-「睡眠のための水平姿勢」から「2時間の睡眠のための水平姿勢をとる」まで:SLEEP-TP2
このサブ期間は、眼球の動的連続容量/IOPが変化する時間内の特定の人の睡眠(水平姿勢)の最初の数時間のシステム間の関係を示し、心臓血管系のパラメータの変化は、体の姿勢が垂直から水平に変化し、睡眠とそれに伴う人間の内分泌系の変化に起因して発生する。
-「2時間の睡眠のための水平姿勢」から「睡眠後の垂直姿勢」まで:TP2-WAKE
このサブ期間は、特定の人の睡眠中(水平姿勢)のシステム間の関係を示し、このとき、眼球容積/IOP変化パターンは、固定された水平体位に関連付けられ、心臓血管系パラメータ、血液飽和障害、および睡眠時無呼吸の変化に関連付けられる。
-「睡眠後の垂直姿勢」から「2時間の睡眠後の垂直姿勢」まで:WAKE-TP3
このサブ期間は、水平から垂直への体位の変化から、人間の内分泌系の変化から、およびコンタクトレンズの形で眼球容積/IOP変化評価システムのセンサとの相互作用に起因する眼球の強膜上血管の病理学的挙動からに起因する、眼球容積と心臓血管系パラメータの動的な連続変化がある時間における、特定の人の日常活動(垂直姿勢)の最初の数時間のシステム間の関係を示す。
-「2時間の睡眠後の垂直姿勢」からセッション終了まで:TP3-END
このサブ期間は、主に特定の人に固有の個々の行動タイプに起因する心臓血管系パラメータの変動によって引き起こされる、眼球の特定の容量/IOP変化パターンが発生する時間における特定の人の日常活動(垂直姿勢)中のシステム間の関係を示す。
-「セッション開始」から「睡眠のための水平姿勢」まで:START-SLEEP
このサブ期間は、特定の人の日常活動中のシステム間の関係を示す。
-「睡眠のための水平姿勢」から「睡眠後の垂直姿勢」まで:SLEEP-WAKE
このサブ期間は、特定の人の睡眠中のシステム間の関係を表します。
-持続的な意識で「14:00に水平姿勢をとる」から「15:30に垂直姿勢をとる」まで(睡眠なしで横たわる):14:00-15:00
このサブ期間は、水平姿勢を想定した後の特定の人の日常活動中のシステム間の関係-機能テストを説明する。
提示された実施形態では、本発明の実施に有益であることが判明した9つのサブ期間が使用されるが、当業者は、提示された分割は単なる例示であり、これより多い又は少ないサブ期間を使用可能でき、本発明の範囲から逸脱することなく、特定の患者の状態に固有の特定のサブ期間の境界を定義する24時間のプロファイルで選択できることに気付くであろう。
【0041】
ステップs103aにおいて、複数の対象者のそれぞれについて、眼球パラメータプロファイルの処理されたデータに基づいて、決定されたサブ期間内で、診断モデルを作成するために使用される集約パラメータの形態の特徴が決定される。前述のように、この目的のために、対象者の多様なグループを説明する十分に大きなデータセットを収集して使用する必要がある。
【0042】
特徴を決定(抽出)するプロセスは、機械学習手法を使用して診断モデルを構築するために使用できる特徴の限定されたセットを決定することで構成される。これは、特徴の数がモデルの作成に基づくケースの数よりもはるかに少ないと仮定して、効果的なモデルを作成できる機械学習テクノロジーの特異性に関連する。上述の中央値の計算も特徴空間の次元を減らすが、決定されたサブ期間のコンテキストで集約パラメータを決定することが最も重要である。本開示で使用される集約パラメータまたは集約属性は、所定のサブ期間に収集された(集約された)測定値に基づいて決定されたパラメータとして理解されるべきである。本実施形態では、上述のプロセスは、データによって記載された生理学的プロセスの知識に基づいて、眼球バイオリズム(以下、TFとも呼ぶ)のパラメータ値の日常のプロファイルにおける特徴的な要素を指摘できたその分野の専門家と完全に協議して実行された。これらのアクションの結果として、本発明の説明された実施形態において、ブースティングおよびロジスティック回帰モデルによって分類誤差勾配を最小化する統計モデルを作成するために後に使用される、以下に説明される特徴が決定された。
a)サブ期間のTF曲線下面積の合計
この合計は、サブ期間で連続して記録された値/測定値(ステップ曲線)間で一定のTFレベルを想定して計算される。選択された(例えば、TP1-SLEEP)サブ期間T={t0,t1,…,tn}について、測定値TF{tf0,tf1,…,tfn}が記録される。TF曲線下面積の合計は、個々の測定値の長方形の合計に等しくなる。
【数1】
b)サブ期間における線形回帰直線の傾斜角
サブ期間のTF測定の線形回帰直線の傾斜角は、最小二乗法によって計算される。サブ期間のそれぞれについて、初期時間t0=0が想定される。線の元の方向係数またはラジアン単位の角度値が記録される。最小二乗法は、最初の位置に1が書き込まれた入力データ行列Xに対して、式β=(XTX)-1Tyに従って、平面上の一次方程式の係数β=(β0,β1)を決定する。
c)サブ期間の全変動
サブ期間の全変動は、2次導関数の数値積分の形式で計算される。たとえば、期間TにわたるTFの全変動は、次の式から計算できる。
【数2】
d)離散フーリエ変換(FFT)の代表値
離散フーリエ変換は、線形トレンドが削除された元のデータに基づいてFFT法によって計算される。代表的なFFT値は、DTW(動的時間伸縮法)メトリックを使用するクラスター分析を使用して決定される。
i.主要コンポーネントを考慮した最初のFFT極大値のパワー(Power_1)
ii.主成分を考慮した最初のFFT極大値の周波数(Hz_1)
本発明の本実施形態におけるDFT計算のため、Rのステータスv3.6.2パッケージからfft法が使用された:(https://www.rdocumentation.org/packages/stats/versions/3.6.2/topics/fft)。
DFT値の文字列{Xk}=X0,X1,…,XN-1は、入力文字列{xn}=x0,x1,…,xN-1に対して次の式に従って計算される。
【数3】
対象者のまばたきに関連する日中の眼球バイオリズムの正確なプロファイルの乱れのため、説明されたFFTパラメータは、サブ期間TP2-WAKE(睡眠)についてのみ計算されることが好ましい。
e)決定されたサブ期間における眼球バイオリズム値及び心臓血管系パラメータ値の相関
本発明の本実施形態では、TFパラメータの中央値と個々の心臓血管系パラメータ(SAP、DAP、MAP、HR、SPO2、CO)の中央値との間の相関が、各サブ期間内で決定された。一般に、相関計算は、一般的に知られている利用可能な統計モデルを使用して実行できる。本実施形態では、相関計算は、R言語用のpsych v1.8パッケージからの方法を使用して実行された。
スピアマンの順位相関係数は、信頼区間の範囲を定義する(アルファ)パラメータの標準しきい値を0.05と想定して、corr.test方法を使用して計算された。この方法を適用すると、分析されたパラメーターの決定された相関係数に対する分離された値/測定値(外れ値)の影響が最小限に抑えられる。決定された係数は区間[-1.1]に属し、その端点は合計の負の相関と合計の正の相関に対応する。
【0043】
相関を計算する方法については、以下で詳しく説明する。n回の測定では、長さnの元のベクトルX、YがランクベクトルXrg、Yrgに変換される。同一の測定値がない最も単純なケースでは、ランクベクトルは順序付け/ソートされた元のベクトルのインデックスであると見なすことができる。特定の値が繰り返される場合は、ランク付けのあいまいさを解決する有理ランクを割り当てる手順が使用される。
【数4】
【0044】
rho係数は、X、Yの関係が単調関数の場合は±1である。ピアソンの相関の場合、対応する係数は、X、Yの関係が線形関数の場合は、±1に等しくなる。符号は、X、Y間の関係のタイプを特定し、増加する関数の場合は正、減少する関数の場合は負である。
【0045】
プロセスは、結果を数値形式で、場合によってはヒートマップなどのグラフィック形式で返すことで終了する。ヒートマップを生成するとき、同様の相関結果がさらにグループ化(クラスタリング)され、対象者が同様の特性を持つグループに視覚的に収集される。ヒートマップは、診断を行う際に医師にとって有用である可能性があるが、本発明の解決の機能に必要ではない。心臓血管系パラメータ(median_DAP、median_HR、median_SAP、median_MAP、median_SpO2、median_CO)とSLEEP-WAKEサブ期間の眼球バイオリズム(TF)パラメータ間の相関の数値を示す表を以下に示す。

【表1】
【0046】
冒頭で述べたように、予測モデルを生成する場合、ステップs103cで、眼球反応アナライザを使用した時間の関数として、信号振幅/圧力の関係を示す図6を参照して後述する、対象者の年齢、角膜ヒステリシス及び角膜抵抗係数等の追加パラメータをオプションで考慮できる。
a)対象者の年齢-診断時の対象者の年齢を特定するパラメータ。
b)角膜ヒステリシス(CH)は、角膜の生体力学的特性のin vivo測定であり、緑内障神経障害の発症と進行の独立した危険因子である。その値は、エネルギーを散逸させる角膜組織の能力を反映する。角膜ヒステリシスは、眼球壁が眼圧変動に関連するエネルギーを吸収し、強膜篩板の再建および視神経への損傷のリスクを高めるか、またはこの力を放散して上記の眼の構造を過度の生体力学的負荷から保護できるかを決定する。簡単に言えば、CHは眼球壁のクッション能力を反映する。優れたショック吸収材(高CH)である眼は、緑内障神経障害を発症する可能性が低く、その進行を経験することも少なくなる。逆に、クッション性の低い(低CH)眼は、緑内障を発症する可能性が高く、緑内障は進行する可能性が高くなる。ほとんどの民族グループの人口の平均CHは約10mmHgである。
角膜ヒステリシスは、ReichertのORA(Ocular Response Analyser)による測定を行うときに自動的に生成される数値である。この装置は、非接触式眼圧計のように機能する。計量された一吹きの空気が角膜に送られ、角膜を圧平構成に平坦化する(最大平坦化)。次に、エアパフはこのポイントを超えて角膜を変形させ続け、一時的な凹状の角膜構成をもたらします。エアパフの圧力が低下すると、角膜は通常の構成に戻り、凹状の構成から圧平位置(最大平坦化)を通って凸状の構成になる。角膜の粘弾性の性質がエネルギーの一部を放散するため、1回目と2回目の圧平のポイントでのエアパフの圧力は異なる(2回目は低くなる)。これらの2つの圧平のポイントのそれぞれでのIOPの差は、角膜ヒステリシスとして定義される。角膜が完全に弾力性があり、エネルギーの一部を減衰させなかった場合、2つの圧平のポイントは同じIOPレベルで発生する。
c)角膜抵抗係数(CRF)
CRFは、式(P1-kP2)から導出される。ここで、kは、P1(第1圧平圧)、P2(第2圧平圧)、およびCCT(角膜中央部の厚さ)の間の関係の経験的分析から決定された定数である。CRFは、角膜抵抗-その弾性特性を示す。CRFは角膜の弾力性を表すと考えられており、CHと比較してIOPおよびCCTとの相関が強くなっている。
【0047】
診断された対象者に関する一連のデータに基づいて、予測モデルが生成される。この目的のために、診断された患者のそれぞれについてステップs104で記録が作成され、記録は、ステップs103aで決定された特徴、及び任意で、ステップs103dおよび/またはs103cで決定された特徴を含む。
【0048】
必要に応じて、メソッドの後続のステップで使用するために、決定されたすべての機能から特定のサブセットを選択できる。生成されたモデルの観点からその有効性の向上に貢献できる特徴の抽出は、特徴のさまざまな組み合わせをテストした結果として発生する可能性がある。この場合、特定の反復の結果に影響を与える機能の重要性が考慮される。機能の様々な組み合わせに基づいて作成されたモデルの有効性を評価するための例示的な技術および/または測定基準は、本開示で後に示され、説明される。
【0049】
説明された実施形態のために作成された例示的な記録は、追加のオプションの特徴も使用する以下に提示される。さらに、記録をよりよく理解するために、中央の列「特徴の説明」には特定のパラメータの説明が含まれているが、この列は作成された記録の一部ではない。
【表2A】
【表2B】
【表2C】
【0050】
ステップs105では、医療専門家によって行われた診断を示すラベル(病気/健康)が各レコード(つまり、一の対象者を説明する一連の機能)に割り当てられる。多くの検査対象のそれぞれについて同様に作成された多くのそのような記録を収集した結果、予測モデルを構築するための教師あり機械学習の方法によって使用される学習セットが取得される。説明された実施形態では、学習セットは、医療専門家によって検査され、適切に診断された120人の対象者のそれぞれについて作成された120の記録に基づいて作成された。
【0051】
予測モデルは、教師あり機械学習メカニズムを使用してステップs106で生成される。この説明で使用される教師あり機械学習メカニズムという用語は、回帰アルゴリズム(例えば、一般線形モデル(GLM)、決定木アルゴリズム等)、ベイズアルゴリズム(例えば、ナイーブベイズ等)、アンサンブルアルゴリズム(例えば、勾配ブースティングマシン、サポートベクターマシン(SVM)等)等の1以上のアルゴリズムとして理解すべきである。これは完全なリストではなく、当業者は、ここでは特に言及されていないが、等しく使用できる同様のアルゴリズムにも気付くであろう。上記のアルゴリズムの機能の詳細とルールは、すでに文献で広く説明されているため、明瞭にするため、ここでは詳しく説明しない。
文献例:
・パターン認識と機械学習;クリストファービショップ; Springer 2006
・応用予測モデリング; Kjell Johnson、Max Kuhn; Springer 2013
・統計学習の要素、第2版; T.Hastie、R.Tibshirani; Springer 2008
・Python機械学習; S.Raschka、Packt Publishing 2015
言い換えれば、本発明の最も重要な貢献は、上記の原理に従って決定され、入力データのセットを構成する特徴セットである。この入力データに基づいて、適切な教師あり機械学習手法を使用して予測モデルを作成できる。その例を上に示します。したがって、適切なアルゴリズムの選択は二次的な性質のものであり、多くの異なる方法で、当業者に明らかな様々な組み合わせで実行できる。
【0052】
説明した実施形態では、予測モデルを作成するために、教師あり機械学習アルゴリズムの上記の非限定的なリストから2つのアルゴリズムが選択され、使用された:一般線形モデル(GLM)および勾配ブースティングマシン(GBM)。以下に、これらのアルゴリズムは、説明された例におけるそれらの使用に関してより詳細に説明されるが、本発明は、示された組み合わせに限定されないことに留意されたい。
【0053】
GLM(一般線形モデル)は、二項分布(ロジスティック回帰と同等)を持つ一般線形モデルである。このクラスのモデルは、ロジスティック関数のプロパティを使用して、二項分類の確率を推定する。本発明を理解するのに役立つことができるロジスティック回帰の詳細を以下に説明する。
二項分布(セット{0,1}からの分類ラベル、ここで、0:NORM)の場合、確率モデル(事後)P(C = c | X = x)が次のプロパティで作成される。
【数5】
この場合の単調変換は、いわゆるロジット:log(p/(1-p))である。したがって:
【数6】
クラスを分離する超平面は、点のセットである
【数7】
ロジスティック回帰モデルは、最尤法を使用して入力データに適合される。N個の観測値の最大信頼性は、一般式で与えられる。
【数8】
二項分布の場合、l(β)を最大化するために、0になる導関数が求められる。
【数9】
【0054】
GBM(勾配ブースティングマシン)は、委員会の構成要素の重みが可変で、分類エラーを最小限に抑える一連の集合/シリーズの分類器である。この方法では、加重平均を使用して最終結果を計算する。ここで、分類器コンポーネントの依存性の低減は、トレーニング変数のサブセットをランダムに描画することによって得られる。GBM(勾配ブースティングマシン)アルゴリズムは、データ空間を個別の正方形のサブセットに分割する決定木に基づいている。これらのサブセットのそれぞれについて、以下の予測の平均二乗誤差(MSE)を最小化する分割方法が使用される。
【数10】
後続の決定木hiは繰り返し構築され、アルゴリズムの結果は生成された文字列からのツリーの合計になる。
【数11】
m番目の反復の次の決定木は、前の反復で取得された剰余R(x)=f(x)-Fm-1(x)に対して生成される。誤差(損失関数で表される)は、選択した損失関数(二乗誤差など)の最急降下法によって最小化される。
【0055】
ステップs107では、予測の精度を評価するために10分割交差検定を使用して、選択した属性のサブセットに対して分類モデルが生成される。交差検定(CV)は、予測誤差を評価できるモデル検証方法であるため、作成されたモデルの効果を評価できる。したがって、相互検証は、例えば、特徴の特定の組み合わせおよび/またはアルゴリズムの組み合わせに基づいてモデルを比較して、予測モデルの最も有利な構成を識別するためのツールとして使用できる。
k分割交差検定の場合、入力データセットはランダムにk個の等しいサブセットに分割される。1からkまでの反復で、テストセットとなる別のサブセットが選択される。残りのk-1サブセットが組み合わされ、モデルを作成するためのトレーニングセットとして使用される。交差検定(kの数値)の生成された結果(選択されたエラー測定値)は、最終的に平均化(平均値または中央値)され、モデルの予測エラーが推定される(パラメータと属性が決定される)。
【0056】
次のメトリックは、バイナリモデル/分類子を評価するために使用された。
-精度:精度=(TP+TN)/(すべてのケースの数)
、ここでTP:真陽性、TN真陰性
-ロジスティック損失関数(ログ損失)
-AUC(ROC曲線の下の領域)
-平均二乗誤差(MSE)
相互検証結果の分散/標準偏差を評価するために、上記のメトリックを計算する手順に対して50回の反復が実行された。
【0057】
AUC(Area Under the Curve)は、ROC(Receiver Operating Characteristic)曲線の下の領域であり、感度(TPR:真陽性率)および1-特異度(FPR:偽陽性率)に基づく予測の精度を表します。分類子の特異性は、ネガティブケースのセットからネガティブとして分類されたケースのサブセットの数の比率に等しいTNR(真のネガティブ率)である。ROC曲線は、変数パラメータt、いわゆるカットオフポイントのTPR(t)をFPR(t)にパラメトリックにマッピングする。理想的なモデルのAUCは1である。参照分類の反転を提供するモデルのAUCは0である。
【0058】
対数損失関数(対数損失)は、予測の精度の尺度であり、理想的なパターンに近づくモデルではゆっくりと0になる傾向がある。予測が正しくない場合、Lの値は増加する。
【数12】
【0059】
MSE(平均二乗誤差)は、モデル予測の精度の尺度であり、正しい値からの予測の偏差の平均二乗に対応する。
【数13】
GLM、GBMアルゴリズムを使用して、様々な属性セット(バージョン1から4)に対して作成されたモデルの例と、その有効性の尺度を以下に示す。
【表3】
ここで、CHは角膜ヒステリシス、CRFは角膜抵抗係数、AGEは対象者の年齢、tp2_wake_median_HRはサブ期間TP2-WAKEのTFとHRの属性値に対するスピアマンの相関係数、sleep-tp1_rawTF_sec_deriv_integralはサブ期間SLEEP-TP1のSAP値の全体の変動、wake_tp3_rawTF_sumは、サブ期間WAKE-TP3のTFプロファイルの曲線下面積、tp1_sleep_median_MAPは、サブ期間TP1-SLEEPのTFとMAPの係数パラメータの相関係数である。
【0060】
構築方法が上で説明されている予測モデルは、本発明の装置によって対象者を分類するために使用される。予測モデルの構築と同様に、調査対象の対象者を示すデータを処理して、対応する機能のセット(モデルで使用されているものと同じ機能)を取得する必要がある。次に、このデータセットでモデルが実行され、その結果、この予測の確率とともに、病気のグループ、健康なグループの1つへの割り当ての形で結果が生成される。
提案された解決策は、詳しい医師の意思決定を支援し、緑内障神経障害を発症するリスクの超早期評価を可能にし、緑内障が観察された人々の集団、家族歴が陽性の対象者、および高眼圧症におけるその要因を説明に利用するシステムに使用しうる。さらに、このシステムは、緑内障の対象者における局所および全身療法の個別化を可能にし、疾患進行の個々の危険因子を示す。
【0061】
図7は、本発明に係る予測モデルを作成する方法および対象者の緑内障リスクを予測するための方法を実施するための例示的な装置の概略ブロック図を示す。装置200は、プロセッサ204およびメモリ205が設置され、メモリ205がプロセッサ204に動作可能に結合される制御回路203を備える。制御回路203には、対象者の眼球パラメータと心臓血管系パラメータをそれぞれ記憶させるように適合された手段201aおよび手段201bが結合される。手段201aおよび201bとして、例えば、上記のシステムなどの任意の適切な手段を使用できる。これらの手段は、接続202aおよび202bを介して制御回路203に送信され、メモリ205に格納される検査対象者のパラメータの時間プロファイルを記録する。さらに、メモリ205には、プロセッサ204によって実行され、上記の方法のそれに続くステップの実施を引き起こすプログラムコード206が格納される。検査対象者を病気または健康として分類する形でプロセッサによって実行された処理の結果は、たとえば、医師がそれらを取り入れ、例えば診断中、適切な治療法を選択すため、決定された確率とともに、接続202cを介して、前記結果および手段201aおよび201bによって提供されるプロファイルから決定されたパラメータおよび/または特徴(例えば、予測モデルの作成中に決定された相関パラメータ、相関ヒートマップ等)に関連する情報等、他の結果を提示するディスプレイまたはモニタ画面などの出力装置207に送信される。任意で、制御回路203に接続されるキーボードまたはポインティングデバイスなどの入力装置(図示せず)も提供され得、これは、出力装置207によって提示される所望のデータの選択を可能にする。
【0062】
本発明による装置200の特定の実施形態では、手段201aおよび201bおよび/または出力装置207は、制御回路203に対して離れた場所に配置されている。このような場合、それぞれの接続202a、202bおよび/または202cは、インターネットネットワーク接続などの通信ネットワーク接続として実装される。これは、本発明による装置200の使用においてより大きな柔軟性を提供する。例えば、1つの可能なシナリオでは、対象者は、記録中に手段201aおよび201bのローカルメモリに収集される記述されたパラメータを記録するために手段201aおよび201bを使用し、次いで、データ収集が完了すると、収集されたデータは自動的に、または、検査の実施を支援する人によって、例えば専用ネットワーク接続を介して、例えばサーバの形で実装された制御回路203に送信される。データが制御回路203によって処理されると、結果は、例えば、検査を実施する人(例えば、医師)に提示するため、出力デバイス207に送り返されうる。
【0063】
本発明は、上記の特定の実施形態を参照して詳細に説明されたが、この説明は、一例であり、本発明を特定の実施形態に限定することを意図するものではない。当業者は、以下の特許請求の範囲によって定義される本発明の範囲から逸脱することなく、様々な変更および修正が可能であることを理解するであろう。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7