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特許7278344水性液を少なくとも2つの空洞に分離するシステム及び方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-05-11
(45)【発行日】2023-05-19
(54)【発明の名称】水性液を少なくとも2つの空洞に分離するシステム及び方法
(51)【国際特許分類】
   C12Q 1/6806 20180101AFI20230512BHJP
   C12M 1/26 20060101ALI20230512BHJP
   C07F 7/18 20060101ALN20230512BHJP
【FI】
C12Q1/6806 Z
C12M1/26
C07F7/18 Y
【請求項の数】 28
【外国語出願】
(21)【出願番号】P 2021140604
(22)【出願日】2021-08-31
(65)【公開番号】P2022041989
(43)【公開日】2022-03-11
【審査請求日】2021-09-08
(31)【優先権主張番号】20193896
(32)【優先日】2020-09-01
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(73)【特許権者】
【識別番号】591003013
【氏名又は名称】エフ. ホフマン-ラ ロシュ アーゲー
【氏名又は名称原語表記】F. HOFFMANN-LA ROCHE AKTIENGESELLSCHAFT
(74)【代理人】
【識別番号】100118902
【弁理士】
【氏名又は名称】山本 修
(74)【代理人】
【識別番号】100106208
【弁理士】
【氏名又は名称】宮前 徹
(74)【代理人】
【識別番号】100196508
【弁理士】
【氏名又は名称】松尾 淳一
(74)【代理人】
【識別番号】100157923
【弁理士】
【氏名又は名称】鶴喰 寿孝
(72)【発明者】
【氏名】エマド・サロフィム
【審査官】林 康子
(56)【参考文献】
【文献】特表2016-513468(JP,A)
【文献】米国特許第06143496(US,A)
【文献】独国特許出願公開第102018204624(DE,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C12Q 1/68
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/REGISTRY/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
生体物質を含む水性液(40)を少なくとも2つの空洞(3)に分離する方法であって、
a)分離空間を提供する少なくとも1つの空隙(4)と、前記空隙(4)と流体接続し、前記分離空間によって分離された少なくとも2つの空洞(3)とを有する装置(1)を提供するステップ、
b)前記少なくとも2つの空洞(3)の各々に前記水性液(40)を供給するステップ、及び
c)前記水性液(40)を前記少なくとも2つの空洞(3)に分離するための分離液(50)を前記分離空間に供給するステップ
含む方法において、
ステップc)の前記分離液(50)が、少なくとも1個のヒドロキシ基を有するポリシロキサンを少なくとも含むか、又は少なくとも1個のヒドロキシ基を有するポリシロキサンからなる、方法。
【請求項2】
d)前記水性液(40)を分析するステップをさらに含む、請求項1に記載の水性液(40)を分離する方法。
【請求項3】
前記水性液(40)が、生体物質として分析対象の核酸を含む、請求項1又は2に記載の水性液(40)を分離する方法
【請求項4】
前記水性液(40)が、生体物質として分析対象のタンパク質を含む、請求項1~3のいずれか一項に記載の水性液(40)を分離する方法
【請求項5】
前記水性液(40)が、前記生体物質を分析することを可能にする試薬を含む、請求項1~4のいずれか一項に記載の水性液(40)を分離する方法
【請求項6】
前記ポリシロキサンが、1個若しくは2個ヒドロキシ基を有し、及び/又は
前記分離液(50)中のヒドロキシの%質量比が0.1%~5%の範囲内であ
請求項1~5のいずれか一項に記載の水性液(40)を分離する方法
【請求項7】
前記少なくとも1個のヒドロキシ基を有するポリシロキサンがシラノール基及び/又はカルビノール基を含む、請求項1~6のいずれか一項に記載の水性液(40)を分離する方法
【請求項8】
前記カルビノール基を含むポリシロキサンにおいて、前記ポリシロキサンのケイ素原子に結合した前記カルビノール基が、C~Cアルキル基を含む、請求項に記載の水性液(40)を分離する方法
【請求項9】
前記ポリシロキサンが、4~400単位の-[O-SiRx]-を含む直鎖分子であり、
各Rxは、独立して、置換若しくは非置換C~C20アルキル~C12アルキル又は芳香族基からなる群から選択されてもよく及び/又は
前記芳香族基が、置換又は非置換のフェニル、トリル又はベンジルである、
請求項1~8のいずれか一項に記載の水性液(40)を分離する方法
【請求項10】
前記少なくとも1個のヒドロキシ基を有するポリシロキサンが、式(I)
【化1】
(I)による、
又は式(II)
【化2】
(II)による、
式(III)
【化3】
(III)による、
又は式(IV)
【化4】
(IV)による構造
(式中、n=4~400であり、
=1~10であり、
=1~10であり、
各Rxは独立して、-CH、-CH-CH、-CH-CH-CH、-CH-(CH、-CH(-CH-CH、-CH-CH-CF、-CF-CF-CF、-CF(-CF-CF、フェニル、トリル及び/又はベンジルからなる群から選択され、p=1~10であり、
少なくとも1つのRα又はRωは-OH、他方は-OH又は-CHとなるように選択される)
を有する、請求項1~9のいずれか一項に記載の水性液(40)を分離する方法
【請求項11】
前記少なくとも1個のヒドロキシ基を有するポリシロキサンが、式(V)
【化5】
(V)、
(式中、nの中央値=4~400
n=4~400である)による構造を有する、
請求項1~7、9、及び10のいずれか一項に記載の水性液(40)を分離する方法
【請求項12】
前記少なくとも1個のヒドロキシ基を有するポリシロキサンが、300~30,000g/molの平均分子量を有し、及び/又は
前記少なくとも1個のヒドロキシ基を有するポリシロキサンが、25℃で、1~1,000mPasの動粘度を有し、及び/又は
前記空洞(3)が、0.02~200nlの容積を有し、及び/又は
前記空洞(3)の数が装置(1)当たり少なくとも96個である、
請求項1~11のいずれか一項に記載の水性液(40)を分離する方法
【請求項13】
前記少なくとも2つの空洞(3)に分離される前記水性液(40)は、互いに同一及び/又は異なる部分に分離され、及び/又は
生体物質を含む前記水性液(40)は、ヒトから単離された生体試料であり、及び/又は血液、血清、組織、唾液、尿若しくは糞便試料である、
請求項1~12のいずれか一項に記載の水性液(40)を分離する方法
【請求項14】
水性液(40)を少なくとも2つの空洞(3)に分離するシステムであって、
分離空間を提供する少なくとも1つの空隙(4)と、前記空隙(4)と流体接続し、前記分離空間によって分離された少なくとも2つの空洞(3)とを有する装置(1)、
前記装置(1)に水性液(40)を供給するための、生体物質を含む水性液を含む水性液供給源、及び
前記水性液(40)を前記少なくとも2つの空洞(3)に分離するための分離液(50)を前記装置(1)に供給するための分離液供給源、を備え、
前記分離液(50)が、少なくとも1個のヒドロキシ基を有するポリシロキサンを少なくとも含むか、又は少なくとも1個のヒドロキシ基を有するポリシロキサンからなる、
システム。
【請求項15】
前記システムがマイクロ流体システムであり、前記装置(1)がマイクロ流体装置(1)であり、前記装置(1)が、前記空隙(4)によって接続された少なくとも1つの入口(5)及び少なくとも1つの出口(6)を更に備える、請求項14に記載のシステム。
【請求項16】
前記水性液(40)が、生体物質として分析対象の核酸を含む、請求項14又は15に記載のシステム。
【請求項17】
前記水性液(40)が、生体物質として分析対象のタンパク質を含む、請求項14~16のいずれか一項に記載のシステム。
【請求項18】
前記水性液(40)が、前記生体物質を分析することを可能にする試薬を含む、請求項14~17のいずれか一項に記載のシステム。
【請求項19】
前記ポリシロキサンが、1個若しくは2個のヒドロキシ基を有し、及び/又は
前記分離液(50)中のヒドロキシの%質量比が0.1%~5%の範囲内である、
請求項14~18のいずれか一項に記載のシステム。
【請求項20】
前記少なくとも1個のヒドロキシ基を有するポリシロキサンがシラノール基及び/又はカルビノール基を含む、請求項14~19のいずれか一項に記載のシステム。
【請求項21】
前記カルビノール基を含むポリシロキサンにおいて、前記ポリシロキサンのケイ素原子に結合した前記カルビノール基が、C ~C アルキル基を含む、請求項20に記載のシステム。
【請求項22】
前記ポリシロキサンが、4~400単位の-[O-SiRx ]-を含む直鎖分子であり、
各Rxは、独立して、置換若しくは非置換C ~C 20 アルキル、C ~C 12 アルキル、又は芳香族基からなる群から選択されてもよく、及び/又は
前記芳香族基が、置換又は非置換のフェニル、トリル又はベンジルである、
請求項14~21のいずれか一項に記載のシステム。
【請求項23】
前記少なくとも1個のヒドロキシ基を有するポリシロキサンが、式(I)
【化6】
(I)による、
又は式(II)
【化7】
(II)による、
式(III)
【化8】
(III)による、
又は式(IV)
【化9】
(IV)による構造
(式中、n=4~400であり、
=1~10であり、
=1~10であり、
各Rxは独立して、-CH 、-CH -CH 、-CH -CH -CH 、-CH-(CH 、-CH (-CH -CH 、-CH -CH -CF 、-CF -CF -CF 、-CF (-CF -CF 、フェニル、トリル及び/又はベンジルからなる群から選択され、p=1~10であり、
少なくとも1つのRα又はRωは-OH、他方は-OH又は-CH となるように選択される)
を有する、請求項14~22のいずれか一項に記載のシステム。
【請求項24】
前記少なくとも1個のヒドロキシ基を有するポリシロキサンが、式(V)
【化10】
(V)、
(式中、nの中央値=4~400、
n=4~400)による構造を有する、
請求項14~20、22、及び23のいずれか一項に記載のシステム。
【請求項25】
前記少なくとも1個のヒドロキシ基を有するポリシロキサンが、300~30,000g/molの平均分子量を有し、及び/又は
前記少なくとも1個のヒドロキシ基を有するポリシロキサンが、25℃で、1~1,000mPasの動粘度を有し、及び/又は
前記空洞(3)が、0.02~200nlの容積を有し、及び/又は
前記空洞(3)の数が、装置(1)当たり少なくとも96個である、
請求項14~24のいずれか一項に記載のシステム。
【請求項26】
前記少なくとも2つの空洞(3)に分離される前記水性液(40)は、互いに同一及び/又は異なる部分に分離され、及び/又は
生体物質を含む前記水性液(40)は、ヒトから単離された生体試料であり、及び/又は血液、血清、組織、唾液、尿若しくは糞便試料である、
請求項14~25のいずれか一項に記載のシステム。
【請求項27】
請求項14~26のいずれか一項に記載のシステムにより実施される、請求項1~13のいずれか1項に記載の水性液(40)を分離する方法。
【請求項28】
請求項1~13及び27のいずれか一項に記載の水性液(40)を分離する方法又は請求項14~26のいずれか一項に記載のシステムにおける、少なくとも1個のヒドロキシ基を有するポリシロキサンの使用。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
一般に、本発明は、例えば診断アッセイのためのマイクロ流体装置に適用可能な、例えば生体物質を含む水性液を少なくとも2つの空洞に分離するシステム及び方法の技術分野に関し、通常は使い捨て装置の形態で、同じマイクロ流体装置上で1つ以上の試験試料の複数の異なるアッセイを行えることが目標であることが多い。これにより、ほんの少量の試験試料を必要とする、単一の分析プロセスの過程で複数の異なる試薬を使用した1つ以上の試験試料の独立した分析が達成され得る。
【0002】
より詳しくは、本発明は、生体物質を含む水性液を少なくとも2つの空洞に分離する方法、かかる方法における少なくとも1個のヒドロキシ基を有するポリシロキサンの使用、並びに水性液を少なくとも2つの空洞に分離するシステムに関する。
【0003】
特に、本発明は、生体物質を含む水性液を少なくとも2つの空洞に分離するための改良されたシステム及び方法であって、試料液体の容量が可能な限り完全かつ生産的に分離されるシステム及び方法に関する。
【背景技術】
【0004】
診断アッセイ技術の分野では、従来の実験室プロセスの精度、並びに効率を達成しながら、診断アッセイをより迅速に、より安価に、そしてより簡単に実施することが一般的に必要とされている。この有利な目標を達成するため、単一の装置上で並列するアッセイの数を増やすことができるようにするために、様々なアッセイ操作の小型化及び統合を達成するためのかなりの努力がなされてきた。
【0005】
いくつかのクラスの分析は、独立した反応量の試料の複数の独立した分析の実行に基づく。今日まで、かかる独立した反応を実行するための2つの主要な概念、すなわち、試料の多数の基本的に水性の液滴中で、混和性流体(例えば、油)によるか、又は支持体内の多数の反応チャンバで独立した反応を行うことによって分離され、独立した反応は反応チャンバの一部によって少なくとも部分的に分離される。
【0006】
かかる小型化された反応チャンバは、タンパク質、デオキシリボ核酸(DNA)又はリボ核酸(RNA)等の様々な生体物質を分析するために使用され得る。今日、デジタルポリメラーゼ連鎖反応技術のマイクロ流体チップ等、わずか数個(96個等)から数万個の反応チャンバを含む様々なサイズのかかるマイクロ流体装置がある。
【0007】
これらのマイクロ流体装置は、マイクロリットル又はナノリットルスケールの試料を流化可能/流動可能な液体の形態で受け取るためのマイクロスケールチャネルを提供する。一般に、かかるマイクロ流体装置は、分離空間を提供する少なくとも1つの空隙と、空隙と流体接続し、分離空間によって分離された少なくとも2つの空洞を特徴とする。
【0008】
一般に、PCRアッセイ等の診断アッセイを実施するために、マイクロ流体装置は、通常は生体試料を含む水性液で最初に充填され、水性液は、ピペット、ポンプ、静水圧、差圧、毛管力等によって、例えば入口開口部を介して導入される。その後、通常、分離流体が、例えば入口開口部を通って流路に導入され、流路は、最初に、任意の残りの水性液を任意の残りの空の空洞に押し込み、充填された空洞を覆い、それによって個々の空洞を周囲から、特に相互汚染又は汚染を回避するために互いに流体的に分離する。初期充填プロセス及び後続する分離プロセス(封止プロセスとも称される)が終了した後、マイクロ流体装置は通常、水性液中の生体物質の不在、存在、活性又は濃度の決定等の分析ステップに供される。それにより、一般的に、1つ以上の標的を含む各空洞は、陽性シグナルを生成し、例えば、熱サイクル後、陽性と陰性のシグナルの比率は、例えば発光又は蛍光試験測定によって、試料内の初期標的濃度を正確に計算することを可能にする。かかる技術は、複数のアッセイを、独立した反応量で小型化されたスケールで同時に行うことを可能にする。かかる分析の例は、「デジタル」PCR、デジタル等温増幅、デジタルRT-PCR及び他のデジタル酵素ベース反応である。
【0009】
したがって、この種の分析を行うためには、試料を一方では複数の小型化された空洞に容易に分配し、反応、例えばPCR等の後続する分析ステップ中に空洞を封止したままにするための手段及び方法が必要である。
【0010】
いずれの場合でも、空洞の全て又は高い割合を隔離することが重要である。「隔離する」とは、1つの空洞内で起こる反応が、他の、典型的には隣接する空洞の反応又は結果に影響を及ぼさないことを意味する。隣接する反応チャンバ間の交差汚染は「漏出」として知られており、その更なる同義語はクロストーク又はキャリーオーバーである。漏出は、水性液が空洞に完全に分離されないことを意味する。代わりに、少なくとも2つの空洞の間の水性膜は、依然として両方の水性液を接続し、一方の空洞の成分を他方の空洞に交換することを可能にする。漏出は、陽性反応の数が漏出のない場合と同じではないため、結果の品質に悪影響を及ぼす。
【0011】
漏出は、水性液の不完全な不濡れ(unwetting)、すなわち分離液(今日では通常シリコーン油)が導入され、いくつかの空洞を接続する残留水性膜が残っている場合に引き起こされることがある。
【0012】
水性液を技術水準の少なくとも2つの空洞に分離するための一般的な分離液は、例えば、単離される流体媒体の試料と実質的に混和しないもの、例えば、樹脂、モノマー、鉱物油、シリコーン油、フッ素化油、及び好ましくは水と実質的に混和しない他の流体(米国特許出願公開第6143496号A)である。更なる例は、軽質鉱物油、フッ素化流体、フッ素化アルコール、フロリナート、Tegosoft(登録商標)、Tegosoft(登録商標)DEC、又はそれらの組合せである(国際公開第2019/144050号A2参照)。
【0013】
米国特許第9309557号B2には、反応混合物を形成すること、及び反応混合物を核酸増幅に適した条件に供することを含む、核酸増幅のための方法が記載されている。例示的な方法では、水溶液を、ウェルのアレイを規定する構造のウェルに適用する。ウェル内の水溶液を、ウェル上に非混和性流体を提供することによって単離することができる。例示的な不混和性流体としては、鉱物油、シリコーン油(例えば、ポリ(ジメチルシロキサン))、ヘプタン、炭酸油(例えば、ジエチルカーボネート、Tegosoft DEC.RTM.)、又はそれらの組合せが挙げられる。
【0014】
しかしながら、技術水準の油は、生体物質を含む水性液を少なくとも2つの空洞に分離する方法において分離液として使用される場合、漏出につながるという欠点を依然として有している。
【発明の概要】
【0015】
本発明の目的は、空洞内の水性液を分離する特性が改善され、したがって隣接する空洞内の反応間の相互汚染が低減された分離液を提供することである。
【0016】
驚くべきことに、少なくとも1個のヒドロキシ基を有するポリシロキサンを少なくとも含むか、又は少なくとも1個のヒドロキシ基を有するポリシロキサンからなる分離液は、空洞内で水性液を分離する優れた性能を示すことが見出された。
【0017】
以下の実施例が示すように、試験した全ての標準液は、水性液を異なる空洞に分離するために適用した場合、頻繁~時折の漏出、すなわち装置の空洞の1~100%において漏出を示した。対照的に、本発明による全ての分離液は、空洞の0~0.1%のはるかに低い漏出率を有し、それによって漏出の少なくとも10倍の減少をもたらした。
【0018】
したがって、第1の態様では、本発明は、生体物質を含む水性液を少なくとも2つの空洞に分離する方法であって、
a)分離空間を提供する少なくとも1つの空隙と、空隙と流体接続し、分離空間によって分離された少なくとも2つの空洞とを有する装置を提供するステップ、
b)少なくとも2つの空洞の各々に水性液を供給するステップ、及び
c)水性液を少なくとも2つの空洞に分離するための分離液を分離空間に供給するステップ、並びに任意に、
d)水性液を分析するステップであって、好ましくは、水性液中の生体物質の不在、存在、活性又は濃度を決定することを含む、ステップ、を含む方法において、
ステップc)の分離液が、少なくとも1個のヒドロキシ基を有するポリシロキサンを少なくとも含むか、又は少なくとも1個のヒドロキシ基を有するポリシロキサンからなる、方法に関する。
【0019】
本発明の第1の態様の方法は、生体物質を含む水性液を少なくとも2つの空洞に分離することに関する。
【0020】
「水性液」という用語は、水を含む任意の液体を表す。例えば、水性液は、水と混和性であり、分析に適した状態又はその自然な状態で生体物質を含むのに一般的に適していることが当業者に知られている任意の液体物質を含み得る。さらに、水性液は、使用水混和性の濃度である1つ以上の液体物質を含んでもよい。
【0021】
適切な液体物質は当業者に周知であり、例えば、水、グリセロール、ジエメチル-スルホキシド(DMSO)、及び/又はN,N-ジメチルイル-ホルムアミドを含む。
【0022】
好ましくは、本発明の第1の態様による方法で使用される水性液は、体積で少なくとも5%、少なくとも10%、少なくとも20%、少なくとも30%、少なくとも40%、少なくとも50%、少なくとも60%、少なくとも70%、少なくとも75%、少なくとも80%、少なくとも90%又は少なくとも95%の水を含む。さらに、水性液はまた、唯一の液体物質として水を含んでもよい。
【0023】
水性液は、生体物質の分析を可能にする試薬を更に含んでもよい。「試薬」という用語は、生体物質を分析するのに適した化学反応を引き起こす又は支持するために水性液に添加された任意の物質又は化合物を表す。かかる試薬は、通常、分析対象の生体物質の種類(例えば、核酸、タンパク質等)に依存し、また生体物質を分析するために使用されるアッセイにも依存する。
【0024】
例えば、水性液は、例えばPCR等の生体物質の分析に適した緩衝溶液を含み得る。4-(2-ヒドロキシエチル)-1-ピペラジンエタンスルホン酸(HEPES)緩衝液、2-(N-モルホリノ)エタンスルホン酸(MES)緩衝液、トリス(ヒドロキシメチル)アミノメタン(Tris)緩衝液、3-(N-モルホリノ)プロパンスルホン酸(MOPS)緩衝液又はリン酸緩衝生理食塩水(PBS)緩衝液等の適切な緩衝液は当業者に周知である。
【0025】
水性液はまた、有機又は無機の酸及び/又は塩、例えばマグネシウム(例えば、MgCl等のMg2+)を含む塩を含んでもよい。水性液はまた、Tween 20、SDS(ドデシル硫酸ナトリウム)、ドデシル-マルトシド又はCHAPS等の、装置の分析又は湿潤の理由に適した界面活性剤を含んでもよい。
【0026】
さらに、水性液は、生体物質の分析に適切又は必要であることが当業者に公知の更なる物質、例えば、酵素(例えばポリメラーゼ又は逆転写酵素)、生体物質の安定剤、酵素阻害剤(例えば、DNase、RNase又はプロテアーゼ活性、例えばエチレンジアミン四酢酸(EDTA)又はエチレングリコール-ビス(β-アミノエチルエーテル)-N,N,N’,N’-四酢酸(EGTA)等の生体物質を標的とする酵素を阻害するため)、dNTP、抗体又はその断片、プライマー、ヌクレオシド三リン酸又はマーカー、及び生体物質の検出に適切なプローブ(例えば、蛍光マーカー又は発光マーカー)を含み得る。
【0027】
例えば、PCR又は等温増幅反応のために、核酸を含む水性液を、例えば、ポリメラーゼ、逆転写酵素、酵素阻害剤(例えば、エチレンジアミン四酢酸(EDTA)又はエチレングリコール-ビス(β-アミノエチルエーテル)-N,N,N’,N’-四酢酸(EGTA)等のDNase又はRNase活性を阻害するためのもの)、抗体又はその断片、プライマー、及び/又はヌクレオシド三リン酸若しくはマーカー(例えば、蛍光マーカー又は発光マーカー)と組み合わせてもよい。
【0028】
本発明の第1の態様の更に好ましい実施形態では、水性液は、生体物質の分析を可能にする試薬を含む。
【0029】
「生体物質」という用語は、潜在的に目的の分析物であり得る任意の種類の有機物を表す。適切な生体物質は、天然起源であってもよく、又は人工的に生成されてもよい。適切な生体物質は、例えば、単一分子として存在し得るか、又は任意のサイズ若しくは長さのより大きな核酸構造物、ペプチド、タンパク質、又は二糖、オリゴ糖若しくは多糖に更に接続され得る核酸、アミノ酸又は糖を含み得る。例えば、生体物質は、任意の種類の一本鎖若しくは二本鎖DNA(例えばcDNA)、一本鎖若しくは二本鎖RNA(例えば、mRNA、miRNA又はsiRNA)、タンパク質、ペプチド、多糖又はそれらの混合物を含み得る。生体物質は、これらの成分から組み合わされた分子を更に含み得る。
【0030】
かかる生体物質として、通常、生物学的試験試料が使用され、これは、例えば、採取された試料内の種々の成分の濃度レベルを決定するため、検査分析用に医療従事者によって患者からしばしば採取される。
【0031】
生体物質は更に、血液、血清、唾液、眼レンズ液、脳脊髄液、汗、尿、糞便、精液、乳、腹水液、粘液、滑液、腹腔液、羊水、組織、培養細胞等の任意の生物学的供給源に由来することができ、試料は、特定の抗原又は核酸を含有することが特に疑われ得る。
【0032】
好ましくは、生体物質を含む水性液は、より好ましくはヒトから単離された生体試料であり、及び/又は血液、血清、組織、唾液、尿若しくは糞便試料である。
【0033】
本発明の第1の態様の水性液中の生体物質の適切な濃度は、当業者に周知である。例えば、本発明の第1の態様の水性液は、例えば1~20ng/μlのDNA又はRNAを含み得るが、単一分子でも十分であり得、又は0.003~15mg/mlのタンパク質、若しくは例えば空洞容積当たり0~約1分子の分析物を含み得る。
【0034】
ステップa)
本発明の第1の態様による方法はステップa)を含み、これは、分離空間を提供する少なくとも1つの空隙と、空隙と流体接続し、分離空間によって分離された少なくとも2つの空洞とを有する装置を提供することを含む。
【0035】
「装置」という用語は、単一キャリア装置(例えば、マイクロ流体チップ等のマイクロ流体装置)等、本発明の第1の態様による方法を実施するのに適していることが当業者に知られている任意の装置を表す。これらは、通常、流動性水性液の形態のマイクロリットル又はナノリットルスケールの試料を受け入れるマイクロスケールチャネル及びマイクロスケール反応領域を提供する。
【0036】
通常、装置は2つの部分を含み、例えば、マイクロ流体装置は、少なくとも上層及び下層からなる構造を示すことができ、上層又は下層のいずれかが反応領域の1つ以上のアレイ、入口及び出口の開口部を提供することができる。
【0037】
空隙は、上層と下層との間に確立され、少なくとも2つの空洞(マイクロウェル又はナノセル等)の形態で実施することができる反応領域のアレイと流体接続しており、それによって、マイクロ流体装置を、例えば、マイクロウェル又はナノセルプレートの形態のマイクロ流体チップにする。例えば、レーン幅とも称される空隙全体の幅は、6.4mm、好ましくは1~10mm等、0.5mm~20mmの間の範囲内に存在することができ、これは通常、互いに隣接して、すなわち空隙の横方向に、幅1mm当たり約1~100個の空洞、最も典型的には幅1mm当たり4~40個の空洞の幅の空間を提供する。
【0038】
生体物質を含む水性液を少なくとも2つの空洞に分離するための適切な装置は、当業者に周知である。好ましくは、装置は、消耗品/使い捨て品の形態である。また好ましくは、装置は、PCR等の生体物質を分析する方法に適している。さらに、装置は、プラスチック又はガラス等の水性液の分析中に生じる蛍光又は発光シグナルを検出するのに適した透明材料から作製され得る。マイクロ流体装置等の装置の材料、すなわち装置層用の材料として、環状オレフィンコポリマー(COC)、環状オレフィンポリマー(COP)等の材料を使用することができ、COPの使用が、例えばコストの観点から好ましい。
【0039】
空隙は、少なくとも2つの空洞と流体接続して配置された分離空間を提供する。一般に、空隙に水性液が供給される場合、空隙の寸法は毛管力を引き起こすのに適しており、毛管力は分離空間及び空洞を水性液で充填するのに十分である。空隙全体の高さは、10μm~1mmの範囲、好ましくは40μm~400μmの間とすることができる。さらに、空隙全体の長さは、1mm~200mmの範囲、好ましくは10mm~120mmの間とすることができる。
【0040】
装置は、少なくとも2つの空洞を更に備え、これは、空洞をマイクロ構造体又はナノ構造体として有するいわゆる構造化領域を構成することができる。例えば、空洞の面積は、6mm×85mmのサイズを有し得る。好ましくは、空洞は、空隙の底部、すなわちカバーに対向する側に配置される。一般に、空洞は水性液を固定して分離し、それによって堆積物及び/又は水性液用の反応容器を提供する。
【0041】
少なくとも2つの空洞の表面及び分離空間は、親水性及び/又は疎水性であってもよい。好ましくは、少なくとも空洞及び/又は分離空間は、親水性表面を有する。
【0042】
空洞は、0.01nl~1μlの容積を有し得る。好ましくは、空洞は、0.02~200nl、より好ましくは0.05~50nl、最も好ましくは0.1~5nlの容積を有する。例えば、空洞は、0.1nl、1nl、又は3nlの容積を有し得る。空洞の長さ×幅×深さは、0.2mm×0.1mm×0.16mm、0.15mm×0.07mm×0.12mm又は0.06mm×0.03mm×0.06mmであり得る。
【0043】
空洞は、液体で完全に充填されるのに適することができ、気泡の残りを許容するリスクが低い任意の形状を有することができる。各空洞の開口部の断面積は、円形、楕円形、又は六角形等の多角形を有することができる。空洞開口部の多角形の形状、特に空洞開口部の六角形の形状により、空洞開口部を互いの間の距離がより短くなるように配置すること、すなわち、ハニカム配置等によって空隙内の空洞開口部の分布の密度を高めることが可能になる。したがって、プレートのウェルのアレイ内の空洞の数を更に最大化することができる。さらに、ウェル間の中間空間を含む空洞開口部の幅は、60μm≦w≦110μm、例えば62μm(小さいウェル)≦w≦104μm(大きい空洞)であり得る。
【0044】
装置の空洞の数は、好ましくは装置当たり少なくとも96個、より好ましくは少なくとも1,536個、更により好ましくは少なくとも10,000個、最も好ましくは少なくとも100,000個である。例えば、装置は、20,000個、30,000個又は100,000個の空洞を有することができる。
【0045】
例は、40μlの一試料体積の20’000d-PCR反応を行うこと、又は10μlの体積を形成する100’000反応を行うことである。しかしながら、実際には、反応の総数は非常に少ない~数百万であり得、1試料当たりの総体積は1μl~数100μlである。
【0046】
「流体接続」という用語は、2つの空間が、これらの空間の一方に充填された液体が他方の空間に流れるのを妨げる可能性があるいかなる種類の障害物によっても互いに分離されていないことを表す。したがって、「空隙と流体接続している少なくとも2つの空洞」という表現は、少なくとも2つの空洞が、空隙に充填された液体が空洞のいずれか1つに流入するのを妨げる可能性があるいかなる種類の障害物によっても空隙から分離されないことを表す。
【0047】
「分離空間によって分離された」という用語は、別個の空間を形成するように、少なくとも2つの空洞が分離空間によって空間的に分離されていることを表す。しかしながら、少なくとも2つの空洞が分離空間から空間的に分離されていても、それらは依然として分離空間と流体接続していてもよい。
【0048】
本発明の第1の態様の好ましい実施形態では、少なくとも2つの空洞に分離される水性液は、互いに同一及び/又は異なる部分に分離される。それにより、任意の数の空洞は、同一の部分を含むことができ、任意の数の空洞は、異なる部分を含むことができる。
【0049】
通常、例えば入口開口部を介して液体が空隙に導入される場合、液体は最初に分離空間に入る。続いて、分離空間への水性液の充填の進行中に、液体は、少なくとも2つの空洞に同時に又は連続的に入る。液体が分離空間の端部に到達すると、それは通常、例えば出口開口部を介して空隙の分離空間を出る。これは、分離空間が、液体を空隙の入口開口部から出口開口部に移行させるためのだけでなく、液体を少なくとも2つの空洞に移行させるための領域を形成し得ることを意味する。
【0050】
ステップb)
本発明の第1の態様による方法のステップb)は、少なくとも2つの空洞の各々に水性液を供給することに関する。
【0051】
「少なくとも2つの空洞の各々に水性液を供給する」という表現は、少なくとも2つの空洞の各々に水性液を供給することを表す。しかしながら、少なくとも2つの空洞にはそれぞれ水性液が供給されるが、例えば気泡のために、ステップb)の後に全ての空洞が水性液で充填されない場合がある。
【0052】
空隙は、通常、例えば入口開口部を通して水性液で充填される。空隙は、手動又は機械的に水性液で充填されてもよい。例えば、水性液を含む非自動ピペットのピペット先端部を入口開口部と接触させ、水性液を手動で空隙に注入することによって、空隙を手動で充填することができる。空隙はまた、例えば毛細管を入口開口部に接続し、手動ポンプ手段を使用して水性液を、毛細管を通して空隙内に圧送することによって手動で充填されてもよい。同様に、空隙は、例えば毛細管等によりフロー回路を装置に接続し、機械的ポンプ手段を使用して毛細管を通して空隙内に水性液を圧送することによって機械的に充填されてもよい。
【0053】
水性液の注入後、手動又は機械的供給手段によって引き起こされる圧力による毛管力、質量慣性、遠心力、及び/又は重力を使用して液体を搬送することもできる。
【0054】
本発明の第1の態様による方法のステップb)で供給される水性液の体積は、通常、10μl~100μlである。
【0055】
ステップb)の後、好ましくは少なくとも2つの空洞の少なくとも10%、少なくとも25%、少なくとも50%、少なくとも75%、少なくとも90%又は少なくとも100%が水性液で充填される。
【0056】
ステップc)
本発明の第1の態様によるステップc)は、水性液を少なくとも2つの空洞に分離するための分離液を分離空間に供給することに関する。
【0057】
「水性液を少なくとも2つの空洞に分離するための分離液」という表現は、その結果、これらの空洞内の水性液間で生体物質の交換、好ましくはいかなる成分の交換も起こらないように、少なくとも2つの空洞の各々の水性液が、分離液の層によって他の空洞の水性液から分離されることを表す。
【0058】
分離液の更なる機能は、例えば熱サイクリング中に空洞内の水性液が蒸発するのを防ぎ、装置の空隙からあらゆる気泡を洗い流すことであってもよい。
【0059】
分離液は、水性液を空隙に導入するためのステップb)で使用されるのと同じ手動又は機械的手段を使用して、分離空間を提供する空隙に導入することができる。
【0060】
本発明の第1の態様による方法のステップc)で供給される分離液の体積は、空隙の容積に応じて、通常10μl~100μlである。
【0061】
少なくとも2つの空洞への水性液の分離は、通常、分離空間に分離液を供給することの結果であり、分離液は水性液が供給された空洞を覆いながら、分離空間に残っている水性液を分離空間内で進行させる。
【0062】
ステップc)に続いて、空洞の0%~1%未満が漏出の影響を受ける可能性があり、すなわち、少なくとも2つの空洞の間の水性フィルムは、依然として両方の水性液を接続し、一方の空洞の成分を他方の空洞に交換することを可能にする。好ましくは、空洞の0%~0.75%、より好ましくは0~0.5%、特により好ましくは0~0.25%、最も好ましくは0%~0.1%がステップc)後の漏出の影響を受け得る。
【0063】
さらに、本発明の第1の態様による方法のステップc)では、分離空間にはまた、水性液を少なくとも2つの空洞に分離するための2つ以上の分離液が供給されてもよく、これは同時に又は交互に供給されてもよい。
【0064】
ステップd)
本発明の第1の態様による方法の任意のステップd)は、水性液を分析することに関し、好ましくは、水性液を分析するステップは、少なくとも2つの空洞のいずれかにおける水性液中の生体物質の不在、存在、活性又は濃度を決定することを含む。
【0065】
「分析する」という用語は、定量的及び/又は定性的分析プロセスを表す。本出願の生体物質を定性的又は定量的に分析するための適切な方法は、当業者に周知である。例えば、生体物質は、その固有の特徴(例えば、特定の波長におけるその吸光度)を検出する等、反応領域及びその中で起こる反応の光学的検出によって分析され得る。例えば、生体物質が任意の形態のアミノ酸、ペプチド又はタンパク質を含む場合、これらは、280nmで水性液の吸光度を測定することによって分析され得る。生体物質はまた、蛍光マーカー又は化学発光マーカー等の生体物質に結合したマーカーからのシグナルを検出することによって分析され得る。
【0066】
蛍光又は化学発光マーカーは、通常、その検出を助けるために生体物質の標的分子に結合され得る分子である。一般に、蛍光分子(フルオロフォア)又は化学発光分子の反応性誘導体が、蛍光マーカー又は化学発光マーカーとして使用される。マーカーは、標的分子上の特定の領域又は官能基に選択的に結合し、それにより、この結合は化学的又は生物学的となり得る。
【0067】
適切な蛍光マーカーは、当業者に周知であり、例えば、臭化エチジウム、フルオレセイン、アト(atto)蛍光色素又は緑色蛍光タンパク質である。好適な化学発光マーカー、例えば、西洋ワサビペルオキシダーゼ酵素(HRP)によって変換されるもの、例えばTMB、DAB、ABTS等は当業者に周知である。
【0068】
さらに、蛍光マーカー又は化学発光マーカーもまた、特定の標的の検出のための特異的プローブの形態で使用され得る。かかるプローブは、抗体、タンパク質、アミノ酸又はペプチド等の標的と特異的に相互作用する分子にマーカーを結合することによって生成され得る。かかる場合、プローブに付着した蛍光又は化学発光マーカーは、プローブが生体物質と特異的に相互作用する場合にのみシグナルを放出する。
【0069】
生体物質を分析するステップは、好ましくは、少なくとも2つの空洞のいずれかにおいて、水性液中の生体物質の不在、存在、活性又は濃度を決定することを含む。適切な方法は当業者に周知であり、他の箇所(例えば、蛍光画像化)にも部分的に記載されている。
【0070】
「不在」という用語は、標的生体物質が水性液中で検出できない状態を表す。しかしながら、これは、標的化された生体物質が存在することを排除するものではなく、特定の標的化された生体物質の検出に適していることが当業者に周知の一般的な方法によって検出するには少なすぎる量で存在することを排除するものではない。核酸の検出限界の例は、1区画当たり1分子である。任意の他の方法(ELISA又は同様のもの)は、原則として、同様のレベルの感度を示し得る。ここでは、一例として、空洞容積が1nlの場合、検出限界は1nl当たり1分子であり得る。
【0071】
「存在」という用語は、水性液中の標的生体物質の実際の量又は濃度に関係なく探索された生体物質を水性液が含む状態を表す。
【0072】
「活性」という用語は、水性液中の生体物質が、例えば生体物質によって標的化された基質を生成物に変換することによって化学反応を行う又は触媒することを表す。一例はタンパク質の酵素活性であり、これは通常、基質変換によって、例えば水性液中の基質、中間生成物及び/又は生成物の量又は濃度を測定することによって検出可能である。基質変換を測定する方法は、当業者に周知である。酵素等の特定の生体物質に応じて、基質、酵素補酵素(例えば、アデノシン三リン酸(ATP);ニコチンアミドアデニンジヌクレオチド(NAD+)又はニコチンアミドアデニンジヌクレオチドリン酸(NADP+))又は補因子(例えば、Fe2+、Mn2+又はZn2+等の無機イオン)等、装置に供給する前に水性液中に反応に必要な成分を含める必要があり得る。
【0073】
「濃度」という用語は、生体物質の単位の総量又は数を水性液の総体積で割ったものを表す。
【0074】
本発明の第1の態様による方法のステップc)における分離液は、少なくとも1個のヒドロキシ基を有するポリシロキサンを少なくとも含むか、又は少なくとも1個のヒドロキシ基を有するポリシロキサンからなる。
【0075】
「ポリシロキサン」という用語は、骨格に1つ以上のシロキサン(Si-O-Si)結合を含む鎖、環、又はラダーである任意の構造を表す。さらに、分子内のその位置(非末端又は末端)に応じて、各Siは、1個、2個又は3個の残基Rxに結合していてもよい。
【0076】
好ましくは、ポリシロキサンが、4~400、好ましくは5~300、より好ましくは7~250、更により好ましくは10~200、特により好ましくは10~100、最も好ましくは15~70単位の-[O-SiRx]を含む直鎖分子である。
【0077】
残基Rxは、互いに独立して、1~20個の炭素原子を有する置換又は非置換の直鎖又は分岐アルカン、アルケン又はアルキン、好ましくは置換又は非置換のC~C20アルキル、より好ましくはC~C12アルキル、例えばCH、-CH-CH、-CH-CH-CH、-CH-(CH又は-CH(-CH-CH(p=1~10)であり得る。
【0078】
さらに、残基Rxは、互いに独立して、1~20個の炭素原子を有する置換又は非置換の脂肪族、脂環式、芳香族、複素芳香族又は複素環式基、好ましくは芳香族基、例えばフェニル、トリル又はベンジルであり得る。シロキサン骨格に結合した残基Rxは、-CH-CH-CF、-CF-CF-CF又は-CF(-CF-CF(p=1~10)等のハロゲン(例えばフッ素)を更に含み得る。
【0079】
Rx残基はまた、互いに独立して、エーテル、エステル、チオエステル、チオエーテル、炭酸及び/又はチオカルボン酸であってもよい。
【0080】
ポリシロキサン分子は、上述のRx残基の混合物を更に含み得る。
【0081】
好ましくは、各Rxは独立して、置換又は非置換C~C20-アルキル、好ましくはC~C12アルキル又は芳香族基からなる群から選択され得る。好ましくは、各Rxは、独立して、置換若しくは非置換C~C20アルキル、好ましくはC~C12アルキル又は芳香族基からなる群から選択されてもよく、好ましくは、C~C20アルキル、好ましくはC~C12アルキルの各炭素に結合した1、2又は3個の水素原子は、ハロゲン、好ましくはフッ素で置換された他の水素原子から独立しており、及び/又は芳香族基は置換又は非置換のフェニル、トリル又はベンジルである。
【0082】
本発明の第1の態様による方法で使用されるポリシロキサンは、少なくとも1個のヒドロキシ基を有する。本発明の第1の態様による方法で使用されるポリシロキサンは、少なくとも2個のヒドロキシ基、少なくとも3個のヒドロキシ基、少なくとも4個のヒドロキシ基又は少なくとも5個のヒドロキシ基を更に有し得る。好ましくは、ポリシロキサンは、1個又は2個、より好ましくは2個のヒドロキシ基を有する。
【0083】
さらに、分離液中のヒドロキシの%質量比が0.1%~5%の範囲内であり、好ましくは0.2%~2.5%の範囲内であり、より好ましくは0.3%~1.5%の範囲内であり得る。%質量比は、例えば、分離液中に存在する各元素のモル質量を決定し、その頻度に応じて存在する個々の各元素の質量を決定し、各化合物のモル質量を決定し、存在する各元素の質量をモル質量で割ることによって計算され得る。ヒドロキシの%質量比は、’’Comprehensive Organometallic Analysis’’,T.R.Crompton,ISBN 978-1-4615-9498-7、チャプターJ’’Determination of Silicon-bound Hydroxy Groups’’に記載されている方法等により、当業者によって決定され得る。
【0084】
本発明の第1の態様の更に好ましい実施形態では、ポリシロキサンは1個又は2個、好ましくは2個のヒドロキシ基を有し、及び/又は分離液中のヒドロキシの%質量比は0.1%~5%の範囲、好ましくは0.2%~2.5%の範囲、より好ましくは0.3%~1.5%の範囲である。
【0085】
少なくとも1個のヒドロキシ基を有するポリシロキサンは、末端又は非末端シラノール基を含んでもよく、少なくとも1個のヒドロキシ基は、末端又は非末端Siに直接結合されていてもよい。さらに、少なくとも1個のヒドロキシ基は、例えばカルビノール基において、非末端又は末端Siに結合した残基のいずれか1つに結合されていてもよい。
【0086】
本発明の第1の態様の好ましい実施形態では、少なくとも1個のヒドロキシ基を有するポリシロキサンは、シラノール基及び/又はカルビノール基を含む。
【0087】
ポリシロキサンが少なくとも2個のヒドロキシ基を有する場合、これらは互いに独立して末端又は非末端シラノール基及び/又はカルビノール基であり得る。
【0088】
少なくとも1個のヒドロキシ基を有するポリシロキサンがカルビノール基を含む場合、「カルビノール基」という用語は、任意の第一級、第二級又は第三級アルコールを表す。カルビノール基は、任意のC~C10アルキル基、好ましくはC~Cアルキル基、より好ましくはC~Cアルキル基、最も好ましくはC~Cアルキル基に結合されていてもよい。
【0089】
本発明の第1の態様のより好ましい実施形態では、カルビノール基を含むポリシロキサンにおいて、ポリシロキサンのケイ素原子に結合したカルビノール基は、C~Cアルキル基、好ましくはC~Cアルキル基を含み、シラノール基は、シリコーン原子に結合したヒドロキシル基を表し、カルビオノール基は、炭素原子に結合したヒドロキシル基を表す。
【0090】
本発明の第1の態様の好ましい実施形態では、ポリシロキサンは、4~400、好ましくは5~300、より好ましくは7~250、更により好ましくは10~200、特により好ましくは10~100、最も好ましくは15~70単位の-[O-SiRx]-を含む直鎖分子であり、
各Rxは、独立して、置換若しくは非置換C~C20アルキル、好ましくはC~C12アルキル又は芳香族基からなる群から選択されてもよく、好ましくは、C~C20アルキル、好ましくはC~C12アルキルの各炭素に結合した1、2又は3個の水素原子は、ハロゲン、好ましくはフッ素で置換された他の水素原子から独立しており、及び/又は
芳香族基は、置換又は非置換のフェニル、トリル又はベンジルである。
【0091】
本発明の第1の態様の好ましい実施形態では、少なくとも1個のヒドロキシ基を有するポリシロキサンは、式(I)
【化1】
(I)による、
又は式(II)
【化2】
(II)による、
好ましくは式(III)
【化3】
(III)による、
又は式(IV)
【化4】
(IV)による構造
(式中、n=4~400、好ましくは5~300、より好ましくは7~250、更により好ましくは10~200、特により好ましくは10~100、最も好ましくは15~70であり、
=1~10、好ましくは2~8、より好ましくは2~6であり、
=1~10、好ましくは2~8、より好ましくは2~6であり、
各Rxは独立して、-CH、-CH-CH、-CH-CH-CH、-CH-(CH、-CH(-CH-CH、-CH-CH-CF、-CF-CF-CF、-CF(-CF-CF、フェニル、トリル及び/又はベンジルからなる群から選択され、p=1~10であり、
少なくとも1つのRα又はRωは-OH、他方は-OH又は-CHとなるように選択される)を有する。
【0092】
本発明の第1の態様の更なる好ましい実施形態では、少なくとも1個のヒドロキシ基を有するポリシロキサンは、式(V)
【化5】
(V)、
(式中、nの中央値=4~400、好ましくは5~300、より好ましくは7~100、更により好ましくは10~50、最も好ましくは10~25、
n=4~400、好ましくは5~300、より好ましくは10~100、更により好ましくは15~70、最も好ましくは20~50である)による構造を有する。
【0093】
ポリシロキサン分子は、上述のRx残基の混合物を更に含み得る。
【0094】
本発明の第1の態様の好ましい実施形態では、少なくとも1個のヒドロキシ基を有するポリシロキサンは、300~30,000g/mol、好ましくは400~20,000g/mol、より好ましくは600~10,000g/mol、最も好ましくは1000から6,000g/molの平均分子量を有し、及び/又は25℃で少なくとも1個のヒドロキシ基を有するポリシロキサンは、1~1,000mPas、好ましくは2~750mPas、より好ましくは5~500mPas、更により好ましくは10~250mPas、更により好ましくは15~200mPas、最も好ましくは20~150mPasの動粘度を有する。
【0095】
ポリシロキサンの平均分子量を測定する方法は、当業者に周知である。例えば、平均分子量は、質量分析技術によって測定され得る。
【0096】
ポリシロキサンの25℃での動粘度を測定する方法は、当業者に周知である。例えば、25℃におけるポリシロキサンの動粘度は、レオメータやガラスキャピラリ粘度計を用いて測定することができる。
【0097】
分離液は、少なくとも1個のヒドロキシ基を有する少なくとも1つのポリシロキサンを含むか、又はそれからなる。さらに、分離液は、少なくとも1個のヒドロキシ基を有する少なくとも2つのポリシロキサン、少なくとも1個のヒドロキシ基を有する少なくとも3つのポリシロキサン、少なくとも1個のヒドロキシ基を有する少なくとも4つのポリシロキサン、若しくは少なくとも1個のヒドロキシ基を有する少なくとも5つのポリシロキサンを含み得るか、又はそれらからなり得る。
【0098】
分離液が少なくとも2つのポリシロキサンを含む場合、分離液は上述のポリシロキサンの任意の混合物を含み得る。それはまた、%ヒドロキシ率が指定の範囲内に維持される限り、直鎖状の環状ポリジメチルシロキサン等の他の成分を含有してもよい。
【0099】
分離流体の組成を決定する方法は、IR分光法、GC、LS、GC-MS、LC-MS、NMR、ゲル浸透クロマトグラフィー、又はかかる方法の組合せ等、当業者に周知である。
【0100】
例えば、標的DNA又はRNAを生体物質として含む水性液を分離液によって分離する際の有効性を試験するための一般的な手順は、以下のように行うことができる。
1.分析対象である標的DNA又はRNAを含む試料を、PCR若しくはRT-PCR、又はPCR用の等温マスターミックスと混合し、好ましくは0.05~0.4分子/空洞容積の範囲の濃度で反応混合物を形成して、その結果、5~40%の割合の陽性空洞が生じる。
2.多数の空洞を有する装置を提供することができる。
3.反応混合物を装置に導入し、それによって空洞を充填することができる。
4.分離液を装置に導入し、それによって空洞内の反応混合物を分離することができる。
5.反応が誘発又は開始され得、その間又はその後に、各空洞のシグナルが検出され得る。
6.空洞の観察されたシグナルから分析結果を導き出すことができる。
7.例えば蛍光顕微鏡を使用した目視検査によって、及び/又は陽性空洞の数を予想される陽性空洞の数と比較することによって、分析結果及び装置を漏出について分析する。
【0101】
例えば、生体物質、装置及び分析の種類に応じて、本発明の第1の態様による方法は、更なる方法ステップを含み得る。例えば、生体物質を分析するステップは、PCR中の熱サイクルによる材料増幅(下記参照)等の分析のための生体物質の調製を含む1つ以上のステップを含み得る。例えば、生体物質がDNA又はRNA等の任意の種類の核酸である場合、デジタルPCR等の任意の種類のPCR及び逆転写PCRを実施することができる。方法は、装置内の気泡の存在又は発生を監視及び検出するステップ、例えば少なくともマイクロ流体装置を取り囲む圧力チャンバによってマイクロ流体装置に圧力を加えるステップ、及び/又は反応領域のアレイに熱サイクリング温度プロファイルを適用するステップを更に含むことができる。
【0102】
本発明の第1の態様の好ましい実施形態では、少なくとも1個のヒドロキシ基を有するポリシロキサンが、300~30,000g/mol、好ましくは400~20,000g/mol、より好ましくは600~10,000g/mol、最も好ましくは1000~6,000g/molの平均分子量を有し、及び/又は
少なくとも1個のヒドロキシ基を有するポリシロキサンが、25℃で、1~1,000mPas、好ましくは2~750mPas、より好ましくは5~500mPas、更により好ましくは10~250mPas、更により好ましくは15~200mPas、最も好ましくは20~150mPasの動粘度を有し、及び/又は
空洞は、0.02~200nl、好ましくは0.05~50nl、より好ましくは0.1~5nlの容積を有し、及び/又は
空洞の数は、好ましくは装置当たり少なくとも96個、より好ましくは少なくとも1,536個、更により好ましくは少なくとも10,000個、最も好ましくは少なくとも100,000個である。
【0103】
本発明の第1の態様の好ましい実施形態では、少なくとも2つの空洞に分離される水性液は、互いに同一及び/又は異なる部分に分離され、及び/又は生体物質を含む水性液は、好ましくはヒトから単離された生体試料であり、及び/又は血液、血清、組織、唾液、尿若しくは糞便試料である。
【0104】
第2の態様では、本発明は、水性液を少なくとも2つの空洞に分離するシステムであって、
分離空間を提供する少なくとも1つの空隙と、空隙と流体接続し、分離空間によって分離された少なくとも2つの空洞とを有する装置、
装置に水性液を供給するための、生体物質を含む水性液を含む水性液供給源、及び
水性液を少なくとも2つの空洞に分離するための分離液を装置に供給するための分離液供給源、を備え、
分離液が、少なくとも1個のヒドロキシ基を有するポリシロキサンを少なくとも含むか、又は少なくとも1個のヒドロキシ基を有するポリシロキサンからなる、システムに関する。
【0105】
本発明の第2の態様によるシステムに関して、本発明の他の態様の状況で使用される用語、例及び特定の実施形態が参照され、これらはこの態様にも適用可能である。
【0106】
「システム」という用語は、水性液を少なくとも2つの空洞に分離するために必要な技術的手段の全体に関する。
【0107】
とりわけ、本発明の第2の態様によるシステムは、水性液供給源を含む。「水性液供給源」という用語は、装置に水性液を手動又は機械的に供給するための任意の技術的及び/又は手動手段を表す。
【0108】
本発明の第2の態様によるシステムはまた、分離液供給源を含む。「分離液供給源」という用語は、装置に水性液を手動又は機械的に供給するための任意の技術的及び/又は手動手段を表す。装置に2つ以上の分離液が供給される場合、システムは2つ以上の分離液供給源を備えてもよい。具体的には、装置に1つの同じ組成又は種類を含むいくつかの分離液が供給される場合、両方の供給源は、1つの共通の封止液リザーバによって実施することができる。
【0109】
装置に水性液又は分離液を供給するための適切な技術的及び手動手段は、当業者に周知であり、本出願の他の箇所にも記載されている。
【0110】
本発明のマイクロ流体システムは、充填チェック、正しい配置チェック等を実施する種々のセンサを更に特徴とすることができる。
【0111】
システムは、任意に、例えばdPCR中に、空隙を通して様々な液体を圧送するようにポンプ手段を制御するための制御ユニットを更に備えることができる。ここでは、制御ユニットは、オペレータにより手で、又は例えば流路内の気泡の発生を、検出又は監視する追加のシステム構成要素からのフィードバックシグナルに基づいて自動的に誘発することができる。また、制御ユニットは、例えば反応領域内の水性液に適用される熱サイクルステップに基づいて、所定のパターンに基づいて空隙を通じて所定の量で液体を圧送するようにポンプ手段に指示することができる。
【0112】
マイクロ流体システムは、分離液から空気を分離するために、フロー回路に接続された気泡トラップを更に備えることができ、気泡トラップは装置の出口の下流に配置される。これにより、流れた追加の液体によってマイクロ流体装置の空隙から流出したあらゆる気泡を、フロー回路を流れる分離液から除去することができる。
【0113】
マイクロ流体システムは、空隙が光学的監視を可能にする限り、熱サイクリングの前及び最中に空隙内の気泡の存在又は発生を検出及び/又は監視することができる、光学撮像装置、例えば光学カメラ等の、生体物質を分析するための、又は装置内の気泡の存在若しくは発生を検出するための検出手段を更に備えることができる。ここでは、例えば、空隙の内側は、例えば、視認窓、透明壁の流路等によって、外側から見えるようにすることができる。生体物質を分析するための手段は、少なくとも2つの空洞の各々における分析反応を別々に、並行して及び/又は順次に分析するための手段、例えば、各空洞における蛍光を分析し、各空洞に関する結果を提供するための蛍光検出又は画像化手段を備えることができる。
【0114】
反応領域内の試料材料に熱サイクリング温度プロファイルを提供することを可能にするために、マイクロ流体システムは、反応領域のアレイに熱サイクリング温度プロファイルを提供するため、マイクロ流体装置を受け入れるサーマルマウントを備えることができる。或いは、反応領域のアレイへの熱サイクリング温度プロファイルの提供を、追加の封止液の温度を所望の熱サイクリング温度プロファイル温度に加熱及び/又は冷却するための加熱及び/又は冷却手段によって実施することができる。さらに、装置は、装置が受け入れた生体物質の温度を制御するための少なくとも1つのセンサを更に備えることができ、かかるセンサは、例えば流体流量センサと組み合わせた温度センサとすることができる。
【0115】
本発明のdPCRマイクロ流体システムの更なる特定の実施形態によれば、マイクロ流体システムは、少なくともマイクロ流体装置を取り囲む圧力チャンバを更に備えることができる。
【0116】
最後に、態様2によるシステムは、上述のシステム及びその構成要素の任意の種類の作動又は監視を制御することができる制御ユニットを更に備えることができ、本明細書で使用される「制御ユニット」という用語は、CPU等の任意の物理的又は仮想的処理装置を包含し、ワークフロー(複数可)及びワークフローステップ(複数可)が実行されるように、1つ以上の実験機器を含む実験機器全体又はワークステーション全体も制御することができる。制御ユニットは、例えば、異なる種類のアプリケーションソフトウェアを搭載し、自動処理システム又はその特定の機器又は装置に、事前分析、事後分析及び分析ワークフロー(複数可)/ワークフローステップ(複数可)を実行するように指示することができる。制御ユニットは、特定の試料でどのステップを実行する必要があるかに関する情報をデータ管理ユニットから受信することができる。さらに、制御ユニットは、データ管理ユニットと一体であることがあり、サーバコンピュータに含まれることがあり、並びに/あるいは、1つの機器の一部であり得るか、又は自動処理システムの複数の機器にわたって分散されることがある。制御ユニットは、例えば、操作を実行するための命令を備えたコンピュータ可読プログラムを実行するプログラム可能論理コントローラとして具体化されてもよい。ここでは、ユーザによるかかる命令を受信するために、ユーザインターフェースを更に提供することができ、本明細書で使用される「ユーザインターフェース」という用語は、オペレータからのコマンドを入力として受け取り、またフィードバックを提供し、そこに情報を伝えるためのグラフィカル・ユーザ・インターフェースを含むがこれらに限定されない、オペレータと機械との間の相互作用のための任意の適切なアプリケーションソフトウェア及び/又はハードウェアを包含する。また、システム/装置は、さまざまな種類のユーザ/オペレータにサービスを提供するためにいくつかのユーザインターフェースを公開する場合がある。
【0117】
本発明の第1の態様の好ましい実施形態では、上記方法は、本発明の第2の態様又は本発明の第2の態様によるシステムによって実施され、
システムはマイクロ流体システムであり、装置はマイクロ流体装置であり、該装置は、空隙によって接続された少なくとも1つの入口及び少なくとも1つの出口を更に備え、
好ましくは、
空隙はマイクロ流体装置内の流路であり、及び/又は
空洞は流体容器であり、及び/又は
空隙及び/又は空洞及び/又は流路が親水性表面を有し、
更に好ましくは、マイクロ流体システムは、
マイクロ流体装置の空隙を通って液体を流すための、マイクロ流体装置に接続可能なフロー回路と、
フロー回路に接続されたポンプ手段と、を更に備える。
【0118】
「マイクロ流体装置」という用語は、水性試料液等の流動性試料液の形態のマイクロリットル又はナノリットルスケールの試料を受け入れるマイクロスケールチャネル及びマイクロスケール反応領域を提供する装置を表す。適切なマイクロ流体装置の例は、例えばマイクロ流体チップである。
【0119】
分離空間及び少なくとも2つの空洞に加えて、装置は通常、空隙によって接続された少なくとも1つの入口及び少なくとも1つの出口を更に備える。
【0120】
「入口」及び「出口」という用語は、流体、すなわち液体及び気体をそれぞれ装置の内外に導入又は排出することを可能にする装置の任意の開口部を表す。
【0121】
入口及び出口は、装置の底部、上部及び/又は1つ以上の側壁に配置されてもよい。装置が支持体及びカバーを備える場合、入口開口部及び出口開口部は、装置の支持体及び/又はカバーに配置されてもよく、好ましくは、それらは装置の支持体に配置される。
【0122】
入口は、装置の空隙への液体又は気体の導入に使用されてもよく、出口は、装置の空隙からの液体又は気体の排出に使用されてもよい。空隙の入口及び出口は、通常、空隙によって、好ましくは流体接続によって接続され、すなわち、空隙の入口開口部に充填された液体が空隙の出口開口部に流れるのを妨げる可能性のあるいかなる種類の障害物も存在しない。マイクロ流体装置の入口及び/又は出口は、マイクロ流体装置を水性液供給源と接続するための、又はマイクロ流体装置を分離液供給源と接続するための、それぞれ単一の接続ポート、例えばルアーロックアダプタ等の形態の円形の流体密閉ポート等の形態で実装することができる。
【0123】
好ましくは、空隙は、装置内に流路を提供し、これは、装置内に導入された液体が少なくとも2つの空洞及び/又は出口等のその標的領域に流れることを可能にすることを意味する。例えば、空隙は、一方の側の巨視的充填入口ポート及び他方の側のオーバーフロー出口ポートと接続されたウェルの開口部の側の閉じた充填チャネルの形態である。
【0124】
また好ましくは、空洞は流体容器である。「流体容器」という用語は、液体を取り込むのに適した、例えば液体用の貯蔵容器及び/又は反応容器を提供するのに適した任意の容器を表す。
【0125】
好ましくは、空隙及び/又は空洞及び/又は流路が親水性表面を有する。例えば、空隙表面及び/又は空洞表面及び/又は流路表面の親水性は、約30°~90°の範囲の表面接触角を有するが、水性液と表面との間で測定して30°未満であってもよい。好ましくは、空隙表面及び/又は空洞表面及び/又は流路表面の親水性は、約90°未満、より好ましくは60°未満、例えば40°又は10°未満の範囲の表面接触角を有する。さらに、空隙表面及び/又は空洞表面及び/又は流路表面は、異なる親水性を有してもよい。
【0126】
空隙、空洞及び/又は流路の表面の親水性を調整する方法は、当業者に周知である。例えば、特定の親水性は、マイクロ流体装置の材料特性、プラズマ親水化処理等によるそれぞれの表面の表面処理、又はSiOコーティング等のそれぞれの表面に設けられた親水性コーティングのいずれかによって提供され得る。
【0127】
また好ましくは、マイクロ流体システムは、マイクロ流体装置の空隙を通って液体を流すために、例えば、マイクロ流体装置に水性液又は分離液を、フロー回路によって提供するために、マイクロ流体装置に接続可能なフロー回路を備える。さらに、フロー回路は、配管システム、例えば1つ以上の可撓性管からなる可撓性配管システムによって実装することができ、この配管は、エチレンプロピレンジエンモノマー(EPDM)ゴムの内層及びニトリルブタジエン(NBR)ゴムの外層で作ることができ、潜在的に合成メッシュで強化することもでき、又は一般にEPDM、NBR、フッ素化エチレンプロピレンポリマー(FEP)、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、ポリ塩化ビニル(PVC)、ポリエーテルスルホン(PES)、フルオロエラストマー(FKM)、シリコーンで作ることができ、更に断熱材料によってジャケットを付けることができる。フロー回路は、入口及び出口を介して装置に接続されてもよい。
【0128】
「ポンプ手段」という用語は、水性液又は分離液等の液体をフロー回路に手動又は機械的に供給するのに適した任意の手段を表す。
【0129】
一例として、本発明の機械的ポンプ手段は、蠕動ポンプ、計量ポンプ、ナノリットルポンプ又はシリンジポンプのうちの1つであってもよく、或いはバルブ等の追加の流体構成要素と共に、本発明のポンプ手段は、任意の他のタイプのポンプ、例えばダイヤフラムポンプ、ワブルピストンポンプ、マイクロギアポンプ等であってもよい。例えば、約500mbarの圧力を加える蠕動ポンプを使用して、分離液を流路に充填することができる。
【0130】
手動ポンプ手段は、例えば、人によって駆動されるピペット又は手動マイクロシリンジポンプであってもよい。
【0131】
さらに、マイクロ流体システムは、例えば、少なくとも2つの空洞のそれぞれにおける生体物質の存在、不在、活性若しくは濃度を検出することによって、又はマイクロ流体装置内の気泡の存在若しくは生成を検出する等、生体物質を分析するための検出手段を備えてもよい。
【0132】
本発明の第1及び第2の態様の更に好ましい実施形態では、水性液は、生体物質として分析対象の核酸を含み、好ましくは核酸が分析時に増幅され、及び/又は核酸が増幅反応、より好ましくはポリメラーゼ連鎖反応(PCR)若しくは等温増幅反応で分析される。
【0133】
本発明の第1の態様による方法又は本発明の第2の態様によるシステムを使用して分析され得る適切な核酸は、当業者に周知であり、任意の種類の一本鎖又は二本鎖核酸、好ましくはmRNA、miRNA若しくはsiRNA、ssDNA、dsDNA若しくはcDNA、又はプラスミド等の任意の種類の一本鎖又は二本鎖DNA又はRNAであり得る。
【0134】
好ましくは、標的分子(分析物分子)が空洞内に存在する場合に行われる核酸増幅は、増幅されている間又は増幅された後のいずれかで検出され得る。より好ましくは、核酸は、ポリメラーゼ連鎖反応(PCR)又は等温増幅反応によって増幅される。
【0135】
例えば、PCR中、核酸は通常、熱サイクリングによって増幅される。詳細には、サーモサイクリング(thermocycling)とも称される熱サイクリングは、一般に、かかるDNA又はRNAセグメントを増幅するための反応チャンバ内の試料中の反応物の加熱及び冷却を提供するために利用され、PCRに基づく診断アッセイの自動手順を達成するために、サーマルサイクラーを含む実験機器が一般に使用され、PCR実行中、液体PCR試料は、種々の温度レベルに繰り返し加熱及び冷却されなければならず、種々の温度プラトーで一定時間維持されなければならない。例として、典型的なPCR実施の過程で、特定のターゲット核酸は、以下のステップのサイクルの一連の反復によって増幅され、反応混合物中に存在する核酸が(a)比較的高温で、例えば二本鎖DNAを分離するために90°Cを超える変性温度、通常は約94℃~95℃の変性温度で変性され、次に(b)例えば、テンプレート(アニーリング)を提供するために分離されたDNA鎖でのプライマー結合のための約52℃~56℃のアニーリング温度で、反応混合物は、短いオリゴヌクレオチドプライマーが一本鎖ターゲット核酸に結合する温度まで冷却され、その後、(c)例えば、新しいDNA鎖を生成するための約72°Cの伸長温度で、プライマーはポリメラーゼ酵素を使用して延長/伸長され、その結果、元の核酸配列が複製される。変性、アニーリング及び伸長の反復サイクル、通常は約25~30回の反復サイクルは、試料中に存在する標的核酸配列の量の指数関数的増加をもたらす。ここで、熱サイクリング中にかかる温度プラトーを正確に維持することができるようにするために、全ての反応領域を均一に加熱及び冷却して、試料を含む反応領域間で均一な試料収率を得ることができるように、反応ゾーンにわたる均一な温度分布が維持されるべきである。通常のPCR法を行うため、DNAセグメントを増幅するためのサーマルサイクラー/サーモサイクラー等の一般的に知られている熱サイクル装置を使用することができ、これは、基本的には、試料を受け入れるためのマウント(しばしば試料テンパリングマウントとも称される)と、マウントに取り付けられたヒートポンプとからなり、ヒートパイプが、マウントの能動的な加熱及び冷却のために使用され、したがって試料に提供される温度を能動的に制御するためのペルチェ素子と、熱を放散して、例えば周囲環境に放散するためにペルチェ素子に熱的に結合されたそれぞれのヒートシンクとの組合せの形態で提供されることが多い。
【0136】
適切なPCR用途は、例えば、定量PCR(qPCR)、デジタルPCR(dPCR)、逆転写PCR(RT-PCR)、マルチプレックスPCR又はネステッドPCRである。
【0137】
本発明の第1の態様による方法及び本発明の第2の態様による装置は、任意の形態の等温増幅反応で使用することもできる。一般に、等温増幅反応は、流線形、線形又は指数関数的な様式で、核酸標的配列の検出を提供し、熱サイクルの制約によって限定されない。等温増幅反応に適した方法は、ループ媒介等温増幅(LAMP)若しくは逆転写ループ媒介等温増幅(RT-LAMP)、全ゲノム増幅(WGA)、鎖置換増幅(SDA)、ヘリカーゼ依存性増幅(HDA)、リコンビナーゼポリメラーゼ増幅(RPA)若しくは核酸配列に基づく増幅(NASBA)、又はローリングサークル増幅(RCA)等、当業者に周知である。
【0138】
水性液中の核酸を分析する方法は、当業者に周知であり、上記にも記載されている。
【0139】
核酸が色素を使用して分析される場合、5(6)-カルボキシフルオレセイン(5-FAM及び6-FAM(商標))、Cy3(商標)、Cy5(商標)、6-カルボキシ-2’,4,4’,5’,7,7’-ヘキサクロロフルオレセイン(HEX(商標))、6-カルボキシ-4’,5’-ジクロロ-2’,7’-ジメトキシフルオレセイン(JOE(商標))、5(6)-カルボキシ-X-ローダミン(ROX(商標))、5-カルボキシテトラメチルローダミン(TAMRA(商標))、テトラクロロフルオレセイン(TET(商標))、スルホローダミン101酸クロリド(Texas Red(登録商標))又はR-フィコエリトリン結合スルホローダミン101酸クロリド(PE-Texas Red(登録商標))等の適切な色素が当業者に周知である。
【0140】
本発明の1及び第2の別の好ましい実施形態では、水性液が、生体物質として分析対象のタンパク質を含み、好ましくは、タンパク質は、イムノアッセイ、より好ましくは、タンパク質に特異的に結合することができる抗体又はその断片を用いるアッセイによって分析される。
【0141】
「タンパク質」という用語は、アミノ酸残基の1つ以上の長鎖を含む分子を表す。一般に、タンパク質は、少なくとも30個のアミノ酸を含む。
【0142】
タンパク質は、(上記のような)吸光度等のその固有の特徴の1つ以上を分析することによって、又は遷移金属若しくはイムノアッセイ等によるタンパク質標識化によって分析され得る。
【0143】
例えば、タンパク質標識化のため、遷移金属(ニッケル等)を使用して、プローブ中の特定の残基を、タンパク質内のN末端、C末端又は内部部位等の部位特異的標的に結合することができる。タンパク質標識化に使用される更なるプローブの例としては、生物化学的タグ、ヒスチジン(His)タグ、FLAGタグ、例えば、Hisタグ付き融合タンパク質の特異的かつ高感度の検出を提供し得るNi-NTA-Attoコンジュゲート(Atto色素にコンジュゲートしたNα、Nα-ビス(カルボキシメチル)-L-リジン、ニッケル(II)錯体)が挙げられる。
【0144】
好ましくは、タンパク質はイムノアッセイによって分析される。「イムノアッセイ」という用語は、抗体若しくはその断片又は抗原、好ましくは抗体若しくはその断片の使用によって溶液中のタンパク質等の分子の存在又は濃度を測定する任意の生化学的試験を表す。適切な抗体の例は、ポリクローナル抗体、モノクローナル抗体、F(ab’)2等のそれらの断片、及びFab断片、並びに試料中の特異的に測定される分子の1つに特異的に結合する分子である任意の天然に存在する又は組換え生産された結合パートナーである。特異的結合剤の上記基準を保持する任意の抗体断片を使用することができる。
【0145】
通常、抗体又はその断片は、抗体及び抗原の検出を可能にするように更に標識される。マーカーは、典型的には、所望の抗体又は抗原に化学的に結合又はコンジュゲートされる。適切なマーカーは、例えば、酵素(例えば、酵素結合免疫吸着測定法(ELISA)又は酵素複合免疫測定法(EMIT)の場合)、放射性同位体、DNAレポーター、蛍光発生レポーター(フィコエリトリン等)、エレクトロルミネセンスタグ及び無標識イムノアッセイである。好ましくは、イムノアッセイはELISAである。
【0146】
ELISAで使用される酵素の例は、西洋ワサビペルオキシダーゼ酵素(HRP)であり、これを、目的の分子を特異的に認識する抗体につなぐことができる。次いで、この酵素複合体は、酸化剤として過酸化水素を使用してHRPによって酸化されると、分光光度法によって検出可能な特徴的な色の変化を生じる基質の反応を触媒する。例えば、HRPは、発色基質(例えば、TMB、DAB、ABTS)の着色生成物への変換を触媒し、化学発光基質(例えば、ルミノールによる増強された化学発光)に作用すると光を生成する。
【0147】
「タンパク質に特異的に結合する」という表現は、例えばイオン結合、水素結合又はファンデルワールス力による任意の非共有結合等の、抗体と抗原との間の任意の相互作用を表す。
【0148】
第3の態様では、本発明は、本発明の第1の態様による水性液を分離する方法又は本発明の第2の態様によるシステムにおける、少なくとも1個のヒドロキシ基を有するポリシロキサンの使用に関する。
【0149】
本発明の第3の態様による使用に関して、本発明の他の態様の文脈で使用される用語、例及び特定の実施形態が参照され、これらはこの態様にも適用可能である。
【0150】
本発明の第1の態様による方法及び本発明の第2の態様による装置は、例えば、任意の種類のPCRアプリケーション(例えば、定量PCR(qPCR)、デジタルPCR(dPCR)、逆転写PCR(RT-PCR)、マルチプレックスPCR又はネステッドPCR)又はイムノアッセイ(ELISA等)等、少なくとも2つの空洞で水性液の分離を必要とする任意の方法で使用することができる。本発明の第1の態様による方法及び本発明の第2の態様による装置の使用に関する更なる例も、本出願の他の箇所に記載されている。
【0151】
上記の本発明の方法及び本発明のシステムは、生体試料を自動的に処理するために技術水準の研究所で一般的に使用される分析、分析前又は分析後処理システム等の自動処理システムの一部とすることができ、これは、1つ以上の生体試料に対して1つ以上の処理ステップ/ワークフローステップを実行するように動作可能な任意の機器又は機器構成要素を含むことができ、分析機器、分析前機器、及び分析後機器も包含する。それにより、「処理ステップ」という表現は、dPCR遂行の特定のステップを実行する等、物理的に実行される処理ステップを指す。本明細書で使用される「分析」という用語は、1つ以上の生体試料に対して分析試験を実行するように動作可能な1つ以上の実験装置又は操作ユニットによって実行される任意のプロセスステップを包含する。生物医学研究の状況では、分析処理は、生体試料又は分析物のパラメータを特徴付けるための技術的手順である。かかるパラメータの特徴付けは、例えば、ヒト又は実験動物に由来する生体試料中の特定のタンパク質、核酸、代謝産物、イオン又は様々なサイズの分子等の濃度の決定を含む。収集された情報は、例えば、生物又は特定の組織に対する薬物の投与の影響を評価するために使用することができる。更なる分析は、試料材料に含まれる生体試料又は分析物の光学的、電気化学的又は他のパラメータを決定することができる。
【0152】
本明細書及び添付の特許請求の範囲に使用される場合、単数形「1つの(a)」、「1つの(an)」、及び「その(the)」は、文脈がそうでないことを明確に示さない限り、複数形を含む。同様に、「含む、備える(comprise)」、「含む、含有する(contain)」、「包含する(encompass)」という言葉は、排他的ではなく包括的に解釈され、つまり、「含むがこれに限定されない」という意味である。同様に、「又は」という単語は、文脈が別途明確に指示しない限り、「及び」を含むことを意図している。「複数(plurality)」、「複数(multiple)」又は「多数(multitude)」という用語は、整数倍の2つ以上、すなわち2又は2超を指し、「単一(single)」又は「唯一(sole)」という用語は1つ、すなわち=1を指す。さらにまた、「少なくとも1つ」という用語は、1つ以上、すなわち、1又は1超としても理解されるべきであり、これも整数倍である。したがって、単数形又は複数形を使用する語はまた、それぞれ複数形及び単数形も含む。さらに、「本明細書で(herein)」、「上方(above)」、「以前に(previously)」、「下方(below)」という語、及び同様の意味の語は、本特許出願において使用される場合、本特許出願の特定の部分ではなく、本特許出願全体を指すものとする。
【0153】
本発明の特定の実施形態の説明は、網羅的であること、又は本開示を開示された正確な形態に限定することを意図するものではない。本開示の特定の実施形態及びその例は、例示の目的で本明細書に記載されているが、関連技術分野の当業者が認識するように、添付の特許請求の範囲により提示される開示の範囲内で様々な同等の修正が可能である。前述の及び後述する実施形態の特定の要素は、他の実施形態の要素と組み合わせたり、要素の代わりに使用したりすることができる。また、図面において、同じ参照番号は、繰り返しを避けるために同じ要素を示し、当業者によって容易に実装される部分は省略されてもよい。さらにまた、本開示の特定の実施形態に関連する利点は、これらの実施形態の状況において説明されてきたが、他の実施形態もかかる利点を示すことができ、全ての実施形態が添付の特許請求の範囲によって定義されるような本開示の範囲内に含まれるようにかかる利点を示す必要はない。
【0154】
以下の実施例は、本発明の特定の実施形態を説明することを意図している。したがって、以下で論じられる特定の実施は、本発明の範囲に対する制限として解釈されるべきではない。添付の特許請求の範囲によって規定される本発明の範囲から逸脱することなく、様々な同等物、変更、及び修正を行うことができることは当業者には明らかであり、したがって、かかる同等の実施形態が本明細書に含まれることが理解されるべきである。本発明の更なる態様及び利点は、図に示される特定の実施形態の以下の説明から明らかになるであろう。
【図面の簡単な説明】
【0155】
本開示の前述及び他の目的、態様、特徴、及び利点は、添付の図面と併せて以下の説明を参照することによってより明らかになり、よりよく理解されるであろう。
【0156】
図1図1は、本発明の方法又はシステムの一実施形態で使用される、複数の分析を並行して行うための装置の分解概略図である。
図2図2は、本発明の方法又はシステムの一実施形態で使用される、複数の分析を並行して行うための装置の横断面の概略図である。
図3図3は、6つの空洞を備える装置部分を示す、図2の詳細部分の概略図である。
図4図4は、2つの空洞を備える装置部分を示す、図3の詳細部分の概略図である。
図5図5I~VIは、水性液(I~III)とそれに続く図1の装置の6つの例示的な空洞を有する空隙を通る分離液(IV~VI)の進行の横断面の概略図である。
図6図6I及びIIは、6つの例示的な空洞を有する図1の装置の横断面の概略図であり、空洞は水性液で充填され、分離液(I)によって分離されるか、又は分離液(II)によって不完全にしか分離されない(漏出)。
【符号の説明】
【0157】
1 複数の分析を並行して行うための装置
2 支持部
3 空洞/空洞(複数)
31 空洞間のリム
32 空洞の底部
33 空洞の側壁
34 コーティング
3 空洞、空
3A 空洞、水性液で充填されている
3B 空洞、分離液で分離されている
4 空隙
5 入口
6 出口
7 カバー
71 カバーのコーティング
40 水性液
41 メニスカス
42 残留膜
50 分離液
60 流れ方向
91 詳細部分
92 詳細部分
【発明を実施するための形態】
【0158】
図1は、本発明の方法又はシステムの一実施形態で使用される複数の分析を並行して行うための装置1の概略図を分解斜視図によって示す。装置1は、基本的に、支持体2、及びプレート又は箔の形態のカバー7等の2つの部分を備え、部品2、7を互いに取り付けることができる。支持体2の一方の表面には空隙4が設けられ、空隙4は、空洞3のアレイが導入される表面を更に提供する。ここでは、例示を目的として、空隙4内の少数の空洞3のみが示されている。さらに、装置は、支持体2に導入された入口5及び出口6を備える。
【0159】
図2は、本発明の方法、システム又は使用の一実施形態で使用される複数の分析を並行して行うための装置1の概略図を横断面図で示す。図1の説明に加えて、少なくとも2つの空洞3が空隙4と流体接続している間、カバー7を支持体2に密着させ、それによって支持体2の表面の1つの空隙4を覆うことができる。さらに、入口5及び出口6は、空隙4に液体又は流体を導入し、空隙4から排出するための空隙の開口部のみを提供し得ることが示されている。詳細部分91は、図3に詳細に示されている6つの空洞を含む例示的な部分を概略的に示す。
【0160】
図3は、図2の詳細部分91の概略図を示す。詳細には、図3は6つの空洞を含む装置部分を示す。図1及び図2の説明は、この図にも適用可能である。この図では空であるとされる少なくとも2つの空洞3が空隙4と流体接続していることがより詳細に示されている。詳細部分92は、図4に詳細に示されている2つの空洞を含む例示的な部分を概略的に示す。
【0161】
図4は、図2の詳細部分92の概略図を示し、2つの空洞を備える装置部分に焦点を合わせている。図1図2、及び図3の説明に加えて、図4は、それぞれ支持体2及びカバー7の表面の空洞3並びにコーティング71及び34に更なる詳細を提供する。詳細には、空洞がリム31によって互いに分離され、リムは空洞3の間に配置され、空洞3を支持体2の表面に導入することによって現れることが、図4に示されている。各空洞は、底部32及び少なくとも1つの側壁34(底部32の形状に応じた側壁34の数)を有する。空洞3の少なくとも1つの側壁34は、更に、空洞3の間のリム31の表面である。空洞3は、空隙4と流体接続している。カバー7は、その底面、すなわち空隙4を覆う表面に適用されるSiOコーティング等のコーティング71を含む。支持体2は、空隙4を提供する表面に塗布されたSiOコーティング等のコーティング34を含む。詳細には、支持体2のコーティング34は、空洞3が導入される支持体2の表面、空洞3の側壁33、空洞の底部32、及び空洞3が導入される支持体2の表面の一部であるリム31の上面を覆う。
【0162】
図5の概略図は、装置1に水性液40を供給し(図5I~III)、続いて装置1に、少なくとも1個のヒドロキシ基を有するポリシロキサンを少なくとも含む分離液を供給するか、又は少なくとも1個のヒドロキシ基を有するポリシロキサンからなる分離液を供給する進行を例示している(図5IV~VI)。6つの例示的な空洞を有する図3について例示的に説明した装置の横断面図が示される(図5I)。図5IIは、装置に水性液40を供給するステップを示す。このプロセスの間、水性液40は空隙4を通って流れており、流れ60の方向にメニスカス41を形成する。流れ60の方向が矢印によって示されている。その間並行して、空洞3は、水性液40で次々に充填される。したがって、空隙4の一部は水性液40で充填され、空隙4のこの部分に近い空洞3Aも同様に水性液40で既に充填されているが、水性液40でまだ充填されていない空隙4の部分に近い残りの空洞3も水性液40を含まない。図5IIIでは、少なくとも2つの空洞3に水性液40を供給するステップが完了し、理想的には、空隙4全体及び全ての空洞3Aが水性液40で充填される。しかしながら、残念な場合には、気泡が発生する可能性があり、又は全ての空洞3が充填されない可能性がある。
【0163】
図5IV~VIは、装置に分離液50を供給するプロセスを示す。このプロセスの間、分離液50は空隙4に流入しており、同時に空隙4内の残りの水性液40が移動する。過剰な水性液は、出口6に向かって流れることによって空隙4を出ることができ、任意に、出口6を通って装置1を出ることができる。ここでも、流れ60の方向が矢印によって示されている。並行して、空洞3Aは、分離液50によって経時的に互いに分離される。そのため、空隙4の一部は分離液50で充填されており、空隙4のこの部分に近い空洞3Bは既に分離液50で分離されているが、分離液50がまだ充填さていない空隙4の部分に近い残りの空洞3Aはまだ分離されていない。分離液50は、空隙4内の水性液40のみを置換し、空洞3A内の水性液を置換しない。これにより、水性液3Bが充填された空洞は、分離液50によって互いに分離される。図IV中、この進行は始まったばかりであるが、図Vでは進行して、図VIでは終了しており、水性液で充填された全ての空洞3Bは、分離液50によって互いに分離されている。
【0164】
図6は、6つの例示的な空洞を備えた図1の装置の横断面の概略図であり、空洞3Bは水性液で充填され、いずれも分離液50(図6I、また図5VIも参照)によって分離されるか、又は分離液50(図6II)よって不完全にしか分離されない。図6IIは、上述する漏出の様子を示している。詳細には、全ての空洞3Bにおいて、水性液は分離液50によって完全には分離されていない。代わりに、図6IIにおいて、3つの空洞の間の残留膜42が依然として両方の水性液を接続し、一方の空洞の構成要素の他方への交換(相互汚染)を可能にし、誤った結果をもたらす。
【実施例
【0165】
実施例1:各種分離液の有効性
様々な分離液を、水性液の分離におけるそれらの有効性について試験した。
【0166】
これらの実験のため、以下の装置を使用した:
【表1】
【0167】
以下の液体を標準液として使用した:
【表2-1】
【表2-2】
【0168】
本発明の分離液を以下の表に示す。
【表3-1】
【表3-2】
【0169】
本発明の分離液及び標準液は、例えばMerck又はシリコン製品の製造業者で入手可能な市販品である。
【0170】
R1~R4又はX1~X4のグループからのいずれかの液体はMerck若しくはSigma-Adrich等から、又はシリコーン、ポリシロキサンシリコーンポリマー若しくはかかる製品の前駆物質の製造業者から市販されている製品であったか、又は当業者によって市販されている製品から誘導されたものであった。
【0171】
多くの場合、製品のホモログ系列が調査されており、例えば、5mPas、10mPas、25mPas、50mPas、100mPas又は200mPasのいずれかの粘度を有するPDMS製品が調査され、ポリマー鎖の分子量及び長さ(nで表される)の増加も表す。
【0172】
水性液を分離する際の標準液又は分離液の有効性を、以下の構成を用いて調査した。
1.分析対象のヒトゲノムDNAを含む試料をPCR-マスターミックスと混合して、反応混合物を形成した。
2.多数の空洞を有する装置(上記のA、B又はCのいずれか1つ)を提供した。
3.0~300mbarの圧力を使用して反応混合物を装置に導入し、5~180秒の時間枠内で装置を充填し、それによって空洞を充填した。
4.50~300mbarの圧力を用いて分離液を装置に導入し、時間枠5~180秒以内に空洞を分離した。
5.ホットスタートPCRを40サイクル実施することにより、陽性反応が蛍光シグナルを形成し、各空洞のシグナルを検出した。
6.観察された空洞のシグナルから分析結果を導き出し、陽性反応数のカウントを用いて試料中の標的分子の濃度を算出した。
【0173】
分離流体の有効性を監視するための典型的な実験では、標的分析物として、ヒトg-DNAを標的分析物として、より具体的には11番染色体中のベータ-グロビンコード遺伝子座を使用した。分析物の目標濃度を、対応して、空洞容積当たり0.05~0.5コピーの範囲内になるように調整する。
【表4】
【0174】
上述の範囲の陽性率は、漏出の効率的なスクリーニングを可能にする。より低い濃度では、陽性の空洞の頻度は低すぎ、より高い濃度では高すぎる。当然のことながら、最終適用では、陽性率は多くの場合未知であり、それぞれ見つけるために分析に供される。
【0175】
マスターミックスとして、例えばRoche LightCyler(登録商標)Control DNA Kit(カタログ番号12 158 833 001)を使用し、これには標的分析物、特にプライマー、プローブ、FastStart Master、SYBR Green I DNAインターカレーター色素、Mg2+界面活性剤及びBSAの存在下で陽性の蛍光シグナルを生成するための全ての要素が含まれる。
【0176】
水性液を手動で毛管力によって装置に充填した。
【0177】
分離液を手動で充填し、空気圧システムによって50~300mbarの圧力を加えた。全ての空洞が充填及び分離されるとすぐに加圧を中断した。
【0178】
熱サイクルを使用して、標的分子を含有する(又は漏出を示す)全ての空洞について検出可能なシグナルを生成した。PCR-キットの標準的な熱プロファイルを使用したが、温度勾配は0.5~2℃/秒の範囲に適合させた。
【0179】
熱サイクル後、装置、特に空洞を、480nm/20nmの励起波長及び535nm/30nmの発光波長を使用して蛍光画像化した。
【0180】
分離流体による分離の有効性を検証するために、陽性空洞の割合を決定及び計算し、漏出のない状況によって予想される値と比較した。その上で、目視検査を使用し、特に陽性空洞及びそれらに隣接する(最初は陰性の)空洞を見るか、又はより広い領域を見て、空洞の広い視野が多かれ少なかれ陽性である(蛍光を示す)場合に示した。
【0181】
漏出を以下のように評価した:
【表5】
【0182】
結果:
以下の表は、本発明の標準液及び分離液についての水性液の分離における有効性の結果を示す。
【表6】
【0183】
詳細には、各標準液又は分離液について、分析結果が空洞から導出されたときに、各装置のいくつの空洞が漏出を示したかを分析した。
【0184】
上記で説明したように、その同義語がクロストーク、交差汚染、又はキャリーオーバーである「漏出」は、水性液が空洞に完全に分離されていないことを意味する。代わりに、少なくとも2つの空洞の間の水性膜は、依然として両方の水性液を接続し、一方の空洞の成分を他方の空洞に交換することを可能にする。
【0185】
本実施例では、装置の空洞の5~100%が漏出を示した場合、観察された漏出は「頻繁」から「非常に頻繁」であると判定された。空洞の0~1%のみが漏れていた場合、観察された漏出は「なし」から「非常に稀」と判定された。
【0186】
試験した全ての標準液は、水性液を異なる空洞に分離するために適用した場合、頻繁から非常に頻繁な漏出、すなわち装置の空洞の5~100%において漏出を示した。対照的に、本発明による全ての分離液は、空洞の0~1%の範囲で、なし~非常に稀の範囲ではるかに低い漏出率を有した。新たな分離流体による漏出(前後)の観察された全体的な減少は、場合によっては20~100倍超、一般に10倍超であった。
【0187】
本発明は、その特定の実施形態に関連して説明されてきたが、この説明は、例示のみを目的としていることを理解されたい。したがって、本発明は、本明細書に添付された特許請求の範囲によってのみ限定されることが意図されている。
図1
図2
図3
図4
図5
図6