(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-05-11
(45)【発行日】2023-05-19
(54)【発明の名称】高帯域幅電力増幅器のマルチレートの反復メモリ多項式ベースのモデル化および予歪み
(51)【国際特許分類】
H03F 1/32 20060101AFI20230512BHJP
H03F 3/24 20060101ALI20230512BHJP
【FI】
H03F1/32 158
H03F3/24
(21)【出願番号】P 2021502697
(86)(22)【出願日】2019-02-25
(86)【国際出願番号】 US2019019384
(87)【国際公開番号】W WO2019190669
(87)【国際公開日】2019-10-03
【審査請求日】2021-10-29
(32)【優先日】2018-03-30
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(73)【特許権者】
【識別番号】520128820
【氏名又は名称】ノースロップ グラマン システムズ コーポレーション
(74)【代理人】
【識別番号】100118902
【氏名又は名称】山本 修
(74)【代理人】
【識別番号】100106208
【氏名又は名称】宮前 徹
(74)【代理人】
【氏名又は名称】中西 基晴
(74)【代理人】
【識別番号】100173565
【氏名又は名称】末松 亮太
(74)【代理人】
【識別番号】100195408
【氏名又は名称】武藤 陽子
(72)【発明者】
【氏名】ハース,ダニエル
(72)【発明者】
【氏名】リ,ピーター
【審査官】岸田 伸太郎
(56)【参考文献】
【文献】特開平06-310947(JP,A)
【文献】特開2013-106330(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2017/0033809(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H03F 1/32
H03F 3/24
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
デジタル通信システムにおいてデジタル信号を予め歪ませるための方法であって、
送信されるべきデジタルビットを、前記ビットを定義する一つの列のシンボルに変換するステップと、
所定のサンプルレートで前記シンボルのサンプルを提供するパルス整形フィルタ(PSF)に前記シンボルを提供するステップと、
前記サンプルを予め歪める予歪器にフィルタ処理されたサンプルを提供するステップであって、前記サンプルを予め歪めるステップは、予歪器タップによって定義される前記サンプルの非線形変換を提供するステップを含み、前記フィルタ処理されたサンプルを、前記予歪器において予め歪めるステップは、事前等化を前記予歪器タップへ組み込むステップを含む、提供するステップと、
前記予め歪められたサンプルを増幅および送信するために電力増幅器へ提供するステップであって、前記サンプルを予め歪めるステップが、3次メモリ多項式を使用して前記電力増幅器および関連する送信機コンポーネントをモデル化するステップを含
み、
前記電力増幅器をモデル化するステップが、2つの線形時不変(LTI)フィルタに挟まれたメモリレス非線形性として前記電力増幅器をモデル化することを含み、
前記事前等化が、前記LTIフィルタのうち少なくとも1つの推定値を提供し、次いで、前記推定値を反転させることを含む、
提供するステップと
を含む方法。
【請求項2】
前記予歪器において前記サンプルを予め歪めるステップは、前記PSFの通過帯域に等しい周波数帯域内で動作するように制限された有限インパルス応答(FIR)フィルタを使用して、前記サンプルをフィルタ処理することによって、前記予歪器を最適化するステップを含む、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記PSFにおいて所定のシンボルレートで前記シンボルのサンプルを提供するステップは、前記PSFの出力におけるシンボルあたりのサンプル数をナイキストレートよりも高くするステップを含む、請求項1に記載の方法。
【請求項4】
前記シンボルあたりのサンプル数は、ナイキストレートの2倍である、請求項3に記載の方法。
【請求項5】
前記多項式を使用して前記電力増幅器および関連する送信機コンポーネントをモデル化するステップは、間接学習を適用し、前記間接学習によって決定された解の精度を高めるために反復ガウス・ニュートンアルゴリズムを使用するステップを含む、請求項1に記載の方法。
【請求項6】
前記解の精度を高めるために前記反復ガウス・ニュートンアルゴリズムを使用するステップは、エラーベクトル振幅を最小化するステップを含む、請求項5に記載の方法。
【請求項7】
前記増幅器と共にモデル化される前記関連するコンポーネントは、シングルチップ変調器(SCM)チップ、ゾーンフィルタ、サンプラ、ダウンコンバータ、フィルタ/ダウンサンプラ、およびエラーベクトル振幅(EVM)受信機を含む、請求項1に記載の方法。
【請求項8】
前記多項式を使用して前記電力増幅器および関連する送信機コンポーネントをモデル化するステップは
、ウィーナ・ハマースタインモデルを適用するステップを含む、請求項1に記載の方法。
【請求項9】
前記PSFが、平方根レイズドコサインPSFである、請求項1に記載の方法。
【請求項10】
前記デジタル通信システムが、衛星通信システムである、請求項1に記載の方法。
【請求項11】
前記多項式のモデルが、マルチレートの3次の奇数項の反復メモリ多項式である、請求項1に記載の方法。
【請求項12】
デジタル通信システムにおいてデジタル信号を予め歪ませるための方法であって、
送信されるべきデジタルビットを、前記ビットを定義する一つの列のシンボルに変換するステップと、
所定のサンプルレートで前記シンボルのサンプルを提供するために前記シンボルをフィルタ処理するステップと、
予歪器タップによって定義される前記フィルタ処理されたサンプルの非線形変換を提供することによって前記フィルタ処理されたサンプルを予め歪めるステップであって、前記サンプルをフィルタ処理するフィルタの通過帯域に等しい周波数帯域内で動作するように制限された有限インパルス応答(FIR)フィルタを使用して、前記サンプルをフィルタ処理することによって、予歪器を最適化するステップを含み、前記サンプルを予め歪めるステップは、事前等化を前記予歪器タップへ組み込むステップを含む、予め歪めるステップと、
前記予め歪められたサンプルを増幅および送信するステップであって、前記サンプルを予め歪めるステップが、3次メモリ多項式を使用して増幅器および関連する送信機コンポーネントをモデル化するステップを含む、増幅および送信するステップと
を含む方法。
【請求項13】
前記シンボルのサンプルを提供するために前記シンボルをフィルタ処理するステップは、シンボルあたりのサンプル数をナイキストレートよりも高くするステップを含む、請求項12に記載の方法。
【請求項14】
前記シンボルあたりのサンプル数は、ナイキストレートの2倍である、請求項13に記載の方法。
【請求項15】
前記多項式を使用して前記増幅器および関連する送信機コンポーネントをモデル化するステップは、間接学習を適用し、前記間接学習によって決定された解の精度を高めるために反復ガウス・ニュートンアルゴリズムを使用するステップを含む、請求項12に記載の方法。
【請求項16】
前記解の精度を高めるために前記反復ガウス・ニュートンアルゴリズムを使用するステップは、エラーベクトル振幅を最小化するステップを含む、請求項15に記載の方法。
【請求項17】
デジタル通信システムにおいてデジタル信号を予め歪ませるための方法であって、
送信されるべきデジタルビットを、前記ビットを定義する一つの列のシンボルに変換するステップと、
所定のサンプルレートで前記シンボルのサンプルを提供するために前記シンボルをフィルタ処理するステップと、
予歪器タップによって定義される前記サンプルの非線形変換を提供することによって、前記サンプルを予め歪めるステップと、
前記予め歪められたサンプルを増幅および送信するステップであって、前記サンプルを予め歪めるステップが、3次メモリ多項式を使用して電力増幅器および関連する送信機コンポーネントをモデル化するステップを含み、前記多項式を使用して前記電力増幅器および関連する送信機コンポーネントをモデル化するステップが、間接学習を適用し、前記間接学習によって決定された解の精度を高めるために反復ガウス・ニュートンアルゴリズムを使用するステップを含み、前記解の精度を高めるために前記反復ガウス・ニュートンアルゴリズムを使用するステップが、エラーベクトル振幅を最小化するステップを含む、増幅および送信するステップと
を含む方法。
【請求項18】
前記シンボルのサンプルを提供するために前記シンボルをフィルタ処理するステップは、シンボルあたりのサンプル数をナイキストレートよりも高くするステップを含む、請求項17に記載の方法。
【請求項19】
前記シンボルあたりのサンプル数は、ナイキストレートの2倍である、請求項18に記載の方法。
【請求項20】
前記多項式のモデルが、マルチレートの3次の奇数項の反復メモリ多項式である、請求項17に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
(政府との契約)
[0001]米国政府は、米国政府の契約にしたがい、本発明における権利を有する。
[0002]本発明は、一般に、増幅器によって引き起こされる非線形またはメモリ効果の歪みを低減または除去するために高電力増幅器(HPA)によって増幅される前にデジタル信号を予め歪ませるためのシステムおよび方法に関する。より詳細には、増幅器によって引き起こされる非線形またはメモリ効果の歪みを低減または除去するためにHPAによって増幅される前にデジタル信号を予め歪ませるためのシステムおよび方法に関し、予歪み(pre-distortion)は、マルチレートの反復メモリ多項式モデルを使用して、HPAおよび関連するコンポーネントをモデル化することを適用する。
【背景技術】
【0002】
[0003]衛星通信では、より高いスループットと、より高い電力効率のトランスポンダとに対する需要が高まっている。信号送信距離に必要な放射電力需要を満たすために、衛星通信システム、および他のワイヤレス通信システムは、通常、進行波管増幅器(TWTA)または固体電力増幅器(SSPA)などの高電力増幅器(HPA)を適用する。高スループットおよび高められた効率を提供するために、これらのHPAはしばしば、飽和レベルまたはその近くで動作し、これにより、通常、通信チャネルのスループットおよびパフォーマンスに逆効果を与える送信信号のかなりの非線形歪みが発生する。
【0003】
[0004]HPAがその飽和限界で動作する基本的理由は2つある。第1に、長距離の通信では、電力増幅器ができるだけ高い電力で送信する必要がある。第2に、知られている電力増幅器は、消費する電力量が、出力端子を介して消費する電力量とは独立しているという設計特性を有する。したがって、増幅器がその出力端子を介して消費する電力量が、最大化されていない場合、増幅器は、熱を介して残りの電力を消費することになる。この熱により、電力増幅器だけでなく、周辺の電子機器の温度も上昇し、これらのパフォーマンスが著しく劣化する可能性がある。
【0004】
[0005]衛星通信またはその他の一般的なワイヤレスデジタル信号送信機では、送信機は、特定の時点のデジタルビットを、送信のために同相および直交位相シンボルコンスタレーションに変換するデジタルコンポーネントを含む。これらのシンボルは、キャリアを変調する対応するアナログ信号にマッピングされ、全体が、高電力増幅器を介して放射される。電力増幅器は、通常、飽和近くで動作するので、送信信号を歪めることになる。その結果、通常、ある種の信号補正が必要になる。
【0005】
[0006]当技術分野では、信号が電力増幅器を通過する前に、依然としてデジタル領域にある間に、電力増幅器によって引き起こされる歪みを元に戻そうとするデジタル信号処理操作を使用して信号を再整形することが提案されてきた。このプロセスは、予歪みと呼ばれる。
【0006】
[0007]予歪みへの様々なアプローチが当技術分野で知られている。シンボル予歪みと呼ばれる1つの知られているプロセスでは、シンボル自体が変更される。しかしながら、この技法は、制限されたパフォーマンスおよびスループットを有する。より強力なアプローチは、サンプル予歪みと呼ばれ、信号サンプル自体が、直接再整形される。サンプル予歪みは、より広い帯域幅と、高電力増幅器によって引き起こされるより一般的な非線形のメモリ歪みを補正する機能を提供する。
【図面の簡単な説明】
【0007】
【
図1】高電力増幅器を適用する従来例の通信システムのブロック図である。
【
図2】3次の奇数項のメモリ多項式のアーキテクチャのブロック図である。
【
図4】電力増幅器のウィーナ・ハマースタインモデルのアーキテクチャのブロック図である。
【
図5】高電力増幅器およびマルチレートの反復メモリ多項式モデルを適用する通信システムのブロック図である。
【発明を実施するための形態】
【0008】
[0013]本発明の実施形態に関する以下の説明は、増幅器によって引き起こされる非線形および/またはメモリ効果の歪みを低減または除去するために、HPAによって増幅される前に信号を予め歪ませる(以下、「予歪み」ということがある。)ためのシステムおよび方法に関し、予歪みは、マルチレートの反復メモリ多項式モデルを適用し、本質的に単なる例示であり、本発明またはその用途あるいは使用を限定することを決して意図していない。
【0009】
[0014]
図1は、高電力増幅器(HPA)12を適用する従来例の通信システム10のブロック図である。送信されるべきビットb
iのシーケンスは、ビットb
iを、シンボルs
iのシーケンスに変換するマッパ14に提供され、各シンボルs
iは、たとえば、直交位相シフトキーイング(QPSK)、16-APSK、32-APSKなどの振幅位相シフトキーイング(APSK)コンスタレーションの形態の複素数である。シンボルs
iは、関連する複素ベースバンド信号のサンプルx
iを、シンボルs
iあたり3/2サンプルx
iなどの所定のレートで出力する平方根レイズドコサイン(SRRC)パルス整形フィルタ(PSF)16に送信され、PSF16の出力が、複素ベースバンド信号のサンプルである複素数x
iのシーケンスとなる。次に、複素サンプルx
iは、サンプルx
iのデジタル予歪みを提供し、複素サンプルx’
iのシーケンスを出力する予歪器(PD)20を通過し、予歪器の出力は、その入力と同じレートである。予歪みされた複素ベースバンドサンプルx’
iは、2つの動作を一度に実行するシングルチップ変調器(SCM)チップ22に送信される。具体的には、チップ22は、デジタル・アナログ(D/A)コンバータとして動作し、同時にキャリアを変調し、したがって、HPA12に供給される信号x(t)を生成する。
【0010】
[0015]次に、信号x(t)は、HPA12によって増幅され、搬送周波数を中心とするゾーンフィルタ24によってフィルタ処理されて、電力増幅器の非線形性によって追加された高調波を破棄する。信号は、ボックス26で、たとえば80Gsam/secでサンプリングされ、これにより、アナログ信号がデジタル信号へ変換されて戻され、ボックス28で複素ベースバンドにダウンコンバートされ、ボックス30でマッチフィルタ処理される。次に、ボックス30からのフィルタ処理された信号は、シンボル推定値「ハット」si(「ハットsi」を、以下「^si」と表す。)を生成するエラーベクトル振幅(EVM)受信機34内の等化器32に送られる。さらに、等化器32からの出力は、ボックス38で再サンプリングされて、PSF16の出力に等しいレートで出力サンプルyiを生成する。
【0011】
[0016]EVM受信機34には、その等化器が最適に動作するように、真の送信シンボルsiが提供される。真の送信シンボルをEVM受信機34に提供することにより、受信機34は、等化器32の欠陥ではなく、電力増幅器の非線形性の劣化効果を定量化することができる。送信機のパフォーマンスの本来の測度は、受信機34の出力におけるシンボル推定値^siの品質である。この測度は、受信機34の出力においてEVMを決定することにより定量化され、測度は次に論じられる。
【0012】
[0017]第1に、送信されるシンボルs
iの数に対してNが記述され、ここで、各シンボルs
iは、サイズKのコンスタレーションから選択される。真の送信シンボルs
iと、対応する推定シンボルs
iとは、どちらも受信機34の出力において提供され、EVMは次のように計算される:
【数1】
ここで、分子は、全ての送信シンボルで総和され、分母は、コンスタレーションにおける全てのシンボルで総和される。EVMは、シンボル推定値残差rmsと、平均シンボルエネルギーの平方根との比である。
【0013】
[0018]PD20は、PDタップと呼ばれるいくつかのパラメータによって決定される非線形変換であり、PDタップは反復的に決定される。最適なPDタップを決定するために、PD20が信号チェーンから取り出され、PSF16の出力xiと、EVM受信機34の出力yiとを関連付ける数学モデルが生成される。次に、このモデルについて説明する。
【0014】
[0019]以降の議論では、表記の便宜上、PSF16の出力x
iおよびEVM受信機34の出力y
iを、x(n)およびy(n)で表すものとする。y(n)をx(n)に関連付けるモデルは、次の式で与えられる、3次の奇数項のみのメモリ多項式モデルと見なされる。
【数2】
【0015】
[0020]式(2)は、一方のフィルタは複素ベースバンド信号x(n)をその入力として有し、他方のフィルタは「3乗」された信号x(n)|x(n)|
2をその入力として有する2つの有限インパルス応答(FIR)フィルタの出力の線形結合である。
図2は、FIRフィルタ42によってフィルタ処理され、上記で言及されたようにボックス44において3乗される複素ベースバンド信号を受信するアーキテクチャ40のブロック図である。次に、3乗された複素ベースバンド信号は、別のFIRフィルタ46によってフィルタ処理され、2つのフィルタ処理された信号が、加算結合48によって加算されて、信号y(n)が取得される。
【0016】
[0021]式(2)のモデルの係数akmを決定することは、単純である。まず、ベースバンド信号x(n)およびy(n)が時間的に整列される。式(2)は、単に係数akmについて解くことができる過剰決定された線形方程式のセットである。結果として得られるモデルは、電力増幅器(PA)モデルと呼ばれ、予歪タップを決定するために使用される。
【0017】
[0022]PD20は、PAモデルと同様に、3次の奇数項のみのメモリ多項式と見なされる。PDタップの決定のためにまず、値φが、PAモデルのために記述される。PD20の目的は、左側のPAモデルを反転させることである。つまり、PD20は、次に説明するように、成分
【数3】
が、アイデンティティマップであることの確認を試みる。
【0018】
[0023]最終的に、PD20の目的は、最も正確なシンボル推定値を可能にすることである。したがって、シンボル推定モジュールεは、複素ベースバンド信号y(n)を取り込み、シンボル推定値^s
iを生成するように構築される。次に、予歪器タップは、
図3に示すマップのシーケンスの出力が、可能な限り正確なシンボル推定値「ハット」s_i(「ハット」s_iを、以下「^s_i」と表す。)を生成するように設計される。
【0019】
[0024]
図3は、上述したモデル化を示すシステムモデル50のブロック図であり、システムモデル50は、PSF16およびPD20を示す。システムモデル50はまた、ボックス52におけるPAモデルφと、PAモデルからの複素ベースバンド信号y(n)に基づいてシンボル推定値^s
iを生成するボックス54におけるシンボル推定モジュールεとを含む。シンボル推定モジュールεは、EVM受信機34を表すことを意図していることに留意されたい。
【0020】
[0025]PDタップを決定するアルゴリズムは反復的であり、最終ではなく初期のタップ推定値が必要であろう。初期のPDタップ推定値は、間接学習として当技術分野で知られているアプローチを使用して生成され、これについて次に説明する。
【0021】
[0026]上述のように、PD20に、左側のPAマップを反転するように要求する代わりに、PD20に、右側のPAマップを反転するように要求することができる。すなわち、以下の成分が、x(n)におけるアイデンティティマップであるように、PD20が決定されると仮定する。
【数4】
【0022】
[0027]間接学習のアイデアは、この右逆元を取り、左逆元として使用することである。予歪器マップとPAモデルφとの両方は、非線形であるため、FIRフィルタのように、単にLTIシステムであった場合のようには代用できないことに留意されたい。しかしながら、PAモデルφの右逆元は、多かれ少なかれ、適正な左逆元でもあることに留意されたい。さらに、式(2)のように並列の方式では、右側におけるPAモデルφを反転させる予歪器タップを解くことは、線形方程式系:
【数5】
を解く係数を求めることなので、右側におけるPAモデルφの右逆元を決定することは単純であるということにも留意されたい。
【0023】
[0028]この線形方程式系は簡単に解けるため、間接学習を使用してPDタップを形成することが、これまでの文献におけるアプローチで一般的である理由である。しかしながら、次に説明するように、間接学習によって決定されるPDタップを改善することができる。
【0024】
[0029]間接学習を使用して、予歪器タップの最初の推測を決定したので、これらを最適化することができる。PD20の目的は、可能な限り最良のシンボル推定値を与えること、つまり、可能な限り小さなEVMを与えることであるということを思い出されたい。これは、まさにこの種の状況のために設計された古典的なガウス・ニュートンモデルフィットプロセスによって実行される。最小化するための測度が形成され、この作業ではEVMが使用される。EVMは、予歪器タップの機能である。概念的には、予歪器タップはそれぞれ、タップのそれぞれに関するEVMの導関数を取得するために小刻みに動かされ、こうして勾配を決定する。誤差面を勾配の方向に進むと、EVMが減少する。しかしながら、このような最急降下アプローチは、やや緩慢に収束する。ガウス・ニュートンアルゴリズムは、最急降下アルゴリズムの高機能バージョンであり、初期推測が誤差面の2次導関数を使用できるようにするのに十分であると想定する。このような方式で、ガウス・ニュートンアルゴリズムは、そのステップサイズを最適化し、より高速な収束を実現できる。具体的には、ガウス・ニュートンフィットの反復iで予歪器タップに対してP
iが記述されている場合、i+1’番目の反復では、予歪器タップは次のようになる:
【数6】
ここで、Hは、x
2測度のヘッシアン(この場合はEVM)であり、∇x
2(p
i)は、反復iにおけるその勾配である。
【0025】
[0030]予歪器タップ決定アルゴリズムは、2つの重要な手法で改善され得る。PAモデルφとPD20との両方が、3次メモリ多項式と見なされる。特に、これらはおのおの2つの分岐で形成され、各分岐は、FIRフィルタを含む。説明される制限の下では、PAモデルφとPD20との両方のFIRフィルタタップを最適化することが有利であることが示されよう。さらに、ナイキストレートを超えてPSF16の出力においてサンプリングレートを増加させることが有利であることも示されよう。FIRフィルタタップの制限と、最適なPSF16のサンプリングレートとを説明するために、2つのポイントを説明する必要がある。
【0026】
[0031]第1に、PD20への入力はPSF16の出力であり、PSF16の出力は、あるηについて、シンボルあたりη個のサンプルを使用して生成された離散複素ベースバンド信号であることに留意されたい。帯域幅拡張係数αのPSF16のナイキストサンプリングレートは、シンボルあたり1+αサンプルであることに留意されたい。たとえば、帯域幅拡張係数α=0.3である場合、ナイキストレートはシンボルあたり1.3サンプルになる。値ηは、少なくともナイキストレートと同じ大きさに選択する必要がある。ただし、メモリ多項式ベースの予歪みアプローチの場合、シンボルあたりのサンプル数が、ナイキストレートよりも大きいと有利であることが論じられよう。特に、3次メモリ多項式予歪器の最適なサンプリングレートは、ナイキストレートの2倍であることが示されよう。
【0027】
[0032]第2に、SCMチップ22に直接入力されるPSF16の出力を考える。PSF16の出力は、[-π、π](ラジアン/サンプル)の範囲における周波数の離散正弦波で構成される離散信号である。SCMチップ22は、1/T
sampサンプル/秒のサンプリングレートで動作する物理的チップである。すなわち、搬送周波数のモジュロを取って、SCMチップ22は、T
samp秒ごとに入力サンプルを受け取り、出力がアナログ信号になるように滑らかに接続された同じレートにおけるサンプルを出力する、D/Aコンバータである。離散入力信号の離散周波数と、連続出力信号のアナログ周波数との関係は次の通りである:
【数7】
ここで、離散周波数Ω∈[-π、π]はサンプルあたりのラジアンであり、連続周波数ωはラジアン毎秒の単位である。同等に:
【数8】
である。
【0028】
[0033]特に、PSF16によって出力される離散信号の帯域幅がB(ラジアン/サンプル)、B∈[0、π]である場合、SCMチップ22の出力における関連するアナログ信号の帯域幅は、B/Tsampである。
【0029】
[0034]通信システムは、その送信信号が、特定の帯域幅を占有するように設計される。所望の送信帯域幅は、離散帯域幅BとSCMチップサンプリング周期Tsampとの比を制御することで達成できる。PSF16により出力される離散信号の帯域幅Bは、出力されるシンボルあたりのサンプル数を選択することにより制御される。たとえば、シンボルあたりのサンプル数が、正確にナイキストレート(帯域幅拡張係数がαのSRRCの場合は1+α)である場合、対応する離散信号は、サンプルあたり[-π、π]ラジアンの全範囲内の周波数を含むであろう。しかしながら、シンボルあたりのサンプル数がナイキストレートの2倍である場合、帯域幅拡張係数αが1.3のSRRC波形に対して、2.6サンプル/シンボルであり、PSFの出力は、スペクトル範囲[-π/2、π/2]を占有するであろう。
【0030】
[0035]送信信号は、起り得る他のシステムとの干渉や、規制上の制約により、有限の所定の帯域幅内に存在するように設計される。上記のように、送信帯域幅は、比B/Tsampによって設定され、ここで、Bは、PSF16によって出力されるシンボルあたりのサンプル数を設定することによって設定される。
【0031】
[0036]使用されるシンボルあたりのサンプル数が、ナイキストレートの2倍であるとする。この場合、PSF16の離散出力の帯域幅Bはπ/2であり、すなわち、PSF出力は完全にスペクトル領域[-π/2、π/2]の中に存在し、スペクトル領域[-π/2、π/2]を完全に占有する。PD20がPSF16の直後に配置されると、PD20は、PSF16の出力の周波数範囲を拡張する。この例では、PD20への入力は、[-π/2、π/2]の範囲内にあるスペクトルを有するが、PD20の出力は、完全に拡張されたスペクトルを有し、全周波数範囲[-π、π]を占有する。その結果、送信アナログ信号、すなわちSCMチップ22の出力は、拡張された帯域幅を有する。SCMチップ22の出力(または、受信機への入力)にフィルタを設けて、アナログ信号を、所定の帯域内にあるように制限することができる。しかしながら、その場合、電力増幅器の非線形性を克服するために、PD20が生成した周波数は失われるであろう。この問題を回避するには、予歪器FIRフィルタを帯域内で動作するように制限するべきである。すなわち、PD20を最適化するとき、FIRフィルタの通過帯域を、PSF16によって出力される信号の通過帯域と等しくなるように設定する必要がある。
【0032】
[0037]代わりに、PSF16の出力の帯域幅Bがπになるように、PSF16の出力におけるシンボルあたりのサンプル数が、ナイキストレートに等しくなるように選択されたとする。この場合、PD20がその入力信号を3乗すると、周波数帯域全体で多くのエイリアシングが発生する。その結果、PD20は、高くエイリアシングされた信号に対して作用し、PD20に利用可能な情報を著しく劣化させ、PD20の予歪みする能力を阻害する。したがって、PSF16の出力において使用されるシンボルあたりのサンプル数は、PD20によるエイリアシングを回避するために、ナイキストレートよりも高くするべきである。
【0033】
[0038]3次メモリ多項式予歪器の場合、最適レートは、以下で説明するように、ナイキストレートの2倍である。PSF16の出力におけるサンプリングレートが、ナイキストレートと等しくなるように設定されているとする。PD20は、その3乗演算により、高くエイリアシングされた信号で動作する必要がある。サンプリングレートが増加すると、予歪器FIRフィルタの通過帯域は、比例して減少し、これにより、3乗演算によって引き起こされるエイリアシングの一部を破棄する。PSF16の出力におけるシンボルあたりのサンプル数が、ナイキストレートの2倍に達すると、初めてエイリアシングされた周波数が、完全に破棄される。サンプリングレートをナイキストレートの2倍を超えて増やしても、PD20に利用可能な情報がさらに改善されることはなく、より高速なサンプリングレートで動作するためにSCMチップ22に不要な負担がかかるだけである。
【0034】
[0039]予歪器タップを帯域内に制限しながら最適化するべきもう1つの理由がある。PD20は、電力増幅器チェーンのモデル、すなわち3次メモリ多項式に基づいて最適化される。実際のシステムでは、受信機では、ゾーンフィルタ24は、増幅器の非線形性によって追加された不要な高調波を破棄する。ただし、電力増幅器モデルφは、3次メモリ多項式であるため、このようなゾーンフィルタは有さない。PAモデルφは、その入力を3乗し、再びシステムを代表しないエイリアシングを導入する。予歪器フィルタタップが帯域内での動作に制限されていない場合、予歪器フィルタタップは、実際のシステムではなく、システムモデルのアーティファクトを予め歪めようとするであろう。その結果は、シミュレーションにおける良好なパフォーマンスであり、システム自体における良好なパフォーマンスに移行しない。
【0035】
[0040]同様に、PAモデルのメモリ多項式フィルタタップ自体も、帯域内で動作するように制限するべきである。そうではない場合、PAメモリ多項式モデルは、受信機のゾーンフィルタが原因で、実際のシステムを代表しないエイリアシングアーティファクトを表現するだろう。
【0036】
[0041]上記で説明したように、PAモデルタップおよび予歪器タップは、それらが帯域内で動作するように抑制しながら最適化される。PAモデルタップを決定する場合でも、または、予歪器タップを決定する場合でも、この最適化プロセスは、入力信号と出力信号とをナイキストレートにダウンサンプリングし、タップを決定し、および、タップ自体をPSF16によって生成されたシンボルあたりのサンプル数にアップコンバートすることによって達成される。これにより、PAモデルタップおよび予歪器タップは、それらが帯域内で動作するように抑制しながら最適化される。
【0037】
[0042]事前等化を予歪タップに組み込むことは、特定の時間に有利であることがわかる。これは、PSF16の出力におけるシンボルあたりのサンプル数がナイキストレートに近い場合に最も有利である。HPA12は、その前後にハードウェア、すなわち、アップコンバータ、ダウンコンバータ、およびフィルタを有する。電力増幅器ハードウェアは、2つのLTIフィルタに挟まれたメモリレス非線形性としてモデル化でき、これは、文献では3ボックスモデルまたはウィーナ・ハマースタインモデルと呼ばれているモデルである。
図4は、第1のLTIフィルタ62、非線形要素64、および第2のLTIフィルタ66を含む、知られているウィーナ・ハマースタインモデルを示すアーキテクチャ60のブロック図である。
【0038】
[0043]事前等化では、フィルタH
1の推定値が形成され、次にフィルタH
‐1
1(「上付き-1」および「下付き1」を含むHを、以下、「H
‐1
1」と表す。)を形成するために反転される。目的は、フィルタH
‐1
1をPD20に組み込むことである。これは次のようにして達成される。
図5は、
図1に示されるシステム10と同様の通信システム70のブロック図であり、同様の要素は同じ参照番号で識別される。この設計では、サンプルx
iをPD20に渡してシステムをモデル化する代わりに、PSF16からのサンプルx
iが、フィルタH
1を反転させるモジュール72に送信される。次に、以前に行われたようにサンプルx
iとy
iを関連付けて、3次メモリ多項式モデルが構築され、このモデルに対して予歪器が形成される。次に、結果として得られる予歪器タップが、フィルタH
‐1
1と畳み込まれる。これにより、フィルタH
1を本質的に反転させる予歪器が得られる。
【0039】
[0044]この技法は、PSF16の出力におけるシンボルあたりのサンプル数が、ナイキストレートに近い場合に特に効果的である。このような場合、PD20とPAモデルφとはともに、著しい量のエイリアシングを受け、これは、フィルタH1の真の応答をマスクする。事前にそれを計算し、予歪器係数に直接組み込むことにより、PD20は、予歪器タップをトレーニングする際のエイリアシングの効果を減少させることができる。
【0040】
[0045]前述の議論は、本発明の単なる例示的な実施形態を開示および説明している。当業者は、そのような議論から、および添付の図面および特許請求の範囲から、以下の特許請求の範囲で定義される本発明の精神および範囲から逸脱することなく、様々な変更、修正、および変形が可能であることを容易に認識するであろう。