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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-05-11
(45)【発行日】2023-05-19
(54)【発明の名称】アンチモン触媒を安定化させる方法
(51)【国際特許分類】
   C07C 253/24 20060101AFI20230512BHJP
   B01J 33/00 20060101ALI20230512BHJP
   C07C 255/08 20060101ALI20230512BHJP
   C07B 61/00 20060101ALN20230512BHJP
【FI】
C07C253/24
B01J33/00 B
C07C255/08
C07B61/00 300
【請求項の数】 19
(21)【出願番号】P 2021549257
(86)(22)【出願日】2020-02-21
(65)【公表番号】
(43)【公表日】2022-04-06
(86)【国際出願番号】 US2020019277
(87)【国際公開番号】W WO2020172562
(87)【国際公開日】2020-08-27
【審査請求日】2021-10-13
(31)【優先権主張番号】62/808,487
(32)【優先日】2019-02-21
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(73)【特許権者】
【識別番号】509354042
【氏名又は名称】アセンド・パフォーマンス・マテリアルズ・オペレーションズ・リミテッド・ライアビリティ・カンパニー
【氏名又は名称原語表記】ASCEND PERFORMANCE MATERIALS OPERATIONS LLC
(74)【代理人】
【識別番号】100118902
【弁理士】
【氏名又は名称】山本 修
(74)【代理人】
【識別番号】100106208
【弁理士】
【氏名又は名称】宮前 徹
(74)【代理人】
【識別番号】100196508
【弁理士】
【氏名又は名称】松尾 淳一
(74)【代理人】
【識別番号】100168066
【弁理士】
【氏名又は名称】鈴木 雄太
(72)【発明者】
【氏名】チ,ワイ・ティー
(72)【発明者】
【氏名】モファット,スコット
(72)【発明者】
【氏名】チャーデン,ジョン
(72)【発明者】
【氏名】ロイド,チェルシー
(72)【発明者】
【氏名】エイブレス,ロリ
【審査官】中島 芳人
(56)【参考文献】
【文献】特開昭59-090633(JP,A)
【文献】特開昭56-102944(JP,A)
【文献】特開昭59-076543(JP,A)
【文献】特開2001-114740(JP,A)
【文献】国際公開第97/033863(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C07C 253/
C07C 255/
B01J 33/
C07B 61/
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
アンモ酸化プロセスにおけるアンチモンアンモ酸化触媒を安定化させる方法であって、
反応器にアンチモンアンモ酸化触媒を提供するステップと、
流動層反応器中で、アンチモンアンモ酸化触媒の存在下で、プロピレンをアンモニアおよび酸素と反応させて、粗製アクリロニトリル生成物を形成するステップと、
有効な量のアンチモン含有化合物を反応器中のアンチモンアンモ酸化触媒に添加して、触媒の転化率および選択率を維持するステップと
を含み、アンチモン含有化合物が375℃未満の融点を有する、方法。
【請求項2】
触媒転化率が、少なくとも1年の期間にわたって目標転化率の10%以内に維持される、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
アクリロニトリルへの触媒選択率が、少なくとも1年の期間にわたって目標選択率の10%以内に維持される、請求項1または2に記載の方法。
【請求項4】
触媒転化率が、少なくとも1年の期間にわたって少なくとも45%である、請求項1から3のいずれかに記載の方法。
【請求項5】
アクリロニトリルへの触媒選択率が、少なくとも1年の期間にわたって少なくとも50%である、請求項1から4のいずれかに記載の方法。
【請求項6】
アンチモン含有化合物が固体である、請求項1から5のいずれかに記載の方法。
【請求項7】
添加するステップが、300℃未満の温度で行われる、請求項1から6のいずれかに記載の方法。
【請求項8】
アンチモン含有化合物が、酢酸アンチモンを含む、請求項1から7のいずれかに記載の方法。
【請求項9】
反応器中のアンチモンアンモ酸化触媒から、アンチモンアンモ酸化触媒の蒸気を放出するステップをさらに含む、請求項1から8のいずれかに記載の方法。
【請求項10】
アンチモン含有化合物を気化させて、アンチモンアンモ酸化触媒の蒸気の放出を抑制するステップをさらに含む、請求項9に記載の方法。
【請求項11】
添加するステップが、補充アンチモンアンモ酸化触媒をアンチモン含有化合物と混合するステップを含む、請求項1から10のいずれかに記載の方法。
【請求項12】
添加するステップが、
アンチモン含有化合物を、補充アンチモンアンモ酸化触媒を含む触媒ホッパーの中へ直接添加し、次に、結果として生じる補充アンチモン触媒組成物を反応器に供給するステップ、
アンチモン含有化合物をアンチモンアンモ酸化触媒と混合して、次に、結果として生じる補充アンチモン触媒組成物を反応器に直接供給するステップ、
アンチモン含有化合物を水に溶解させて水溶液を形成し、次に水溶液を反応器に添加するステップ、または
それらの組合せ
を含む、請求項1から11のいずれかに記載の方法。
【請求項13】
アンチモン含有化合物およびアンチモンアンモ酸化触媒が、1wt%未満のカリウム、リチウム、ナトリウム、セシウム、インジウム、ルビジウム、サマリウム、カルシウム、ストロンチウム、バリウムまたはテルルを含む、請求項1から12のいずれかに記載の方法。
【請求項14】
アンチモンアンモ酸化触媒が、モリブデンおよび/または酸化モリブデンをさらに含む、請求項1から13のいずれかに記載の方法。
【請求項15】
添加するステップが、有効な量のモリブデン含有化合物をアンチモンアンモ酸化触媒に添加するステップをさらに含む、請求項1から14のいずれかに記載の方法。
【請求項16】
アンチモン含有化合物が、375℃未満の融点を有し、三酢酸アンチモン、酸化アンチモン、もしくは有機アンチモン化合物、またはそれらの組合せを含む、請求項1から15のいずれかに記載の方法。
【請求項17】
添加するステップが、少なくとも1種の添加剤を流動層反応器に添加するステップをさらに含む、請求項1から16のいずれかに記載の方法。
【請求項18】
アクリロニトリルを製造する方法であって、
反応器にアンチモンアンモ酸化触媒を提供するステップと、
反応器中で、アンチモンアンモ酸化触媒の存在下で、プロピレンをアンモニアおよび酸素と反応させるステップと、
プロピレンの触媒転化率および/またはアクリロニトリルへの触媒選択率を測定するステップと、
転化率および/または選択率が減少する場合、有効な量のアンチモン含有化合物を反応器中のアンチモンアンモ酸化触媒に添加して、触媒の転化率および選択率を維持するステップと
を含み、アンチモン含有化合物が375℃未満の融点を有する、方法。
【請求項19】
反応器中のアンチモン含有触媒を安定化させる方法であって、
反応器にアンチモン含有触媒を提供するステップと、
アンチモン含有触媒の存在下で、アンモ酸化反応、もしくは酸化反応、またはそれらの組合せである反応を行うステップと、
有効な量のアンチモン含有化合物を反応器に添加するステップと
を含む、方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
優先権の主張
[0001]本出願は、2019年2月21日に出願された米国仮特許出願第62/808,487号の優先権を主張し、その全内容および全開示は参照により本明細書に組み込まれる。
【0002】
[0002]本開示は、アンモ酸化プロセスにおけるアンチモンアンモ酸化触媒の安定化の方法に関する。特に、本開示は、プロセス中に、アンチモン含有化合物をアンチモンアンモ酸化触媒に添加することによる、アンチモンアンモ酸化触媒の安定化に関する。
【背景技術】
【0003】
[0003]プロピレンのアンモ酸化によるアクリロニトリルのいくつかの製造方法が、当技術分野で公知である。この反応は、典型的にはアンモ酸化触媒上で行われる。様々な好適な触媒も、同様に公知である。典型的な金属酸化物の組合せとしては、モリブデン-ビスマス-鉄および鉄-アンチモンが挙げられる。性能を改善するために、ある特定の活性剤または助触媒金属が、アンモ酸化触媒の成分として含まれてきた。典型的なアンモ酸化触媒では、その製造中に、例えば、鉄、コバルト、ニッケル、マンガン、セリウム、ウラン、スズ、チタン、および銅が含まれてきた。
【0004】
[0004]さらに、触媒効率を維持するための努力の一環として、モリブデン系アンモ酸化触媒に対して、そこにモリブデン含有材料を供給しながら反応を実行する試みがなされてきた。しかしながら、この技術は改善の余地を残している。
【0005】
[0005]例えば、特公昭58-57422号は、シリカ上にモリブデン含有材料を担持することにより形成された粒子を、モリブデン、ビスマス、鉄、コバルトなどを含有する流動層触媒に供給し、それによって触媒効率を回復する方法を開示している。DE3,311,521は、モリブデン含有触媒を再活性化する方法を開示しており、そこでは、4μm~1mmの粒径を有する0.25~2.5重量%のモリブデン化合物が、再生されるべき触媒に添加される。このようにして、例えば、アクリロニトリルの製造における収率を、約65%から73%まで増加させることが可能である。
【0006】
[0006]WO97/33863は、アクリロニトリルまたはメタクリロニトリルを調製する方法を開示しており、これは、いずれの担体にも担持されず、一般式:
MoBiFe
によって表わされる酸化物触媒中のモリブデンの原子比yが、1.02x~1.12x[式中、x=1.5p+q+a+c+1.5d+1.5e]の間に維持されるような様式で、アンモ酸化中に酸化モリブデンに変換され得るモリブデン化合物を、流動層反応への活性化剤として添加することを含む。これらの改善は、ある程度までしか有効でなかった。
【0007】
[0007]US4,290,920は、アンチモン系オキシド錯体触媒が、これらの触媒にSbなどのアンチモン含有化合物を添加することによって、改善されることを開示している。US4,504,599は、(a)アンチモン、ならびに鉄、コバルト、ニッケル、マンガン、セリウム、ウラン、スズ、チタン、および銅からなる群から選択される少なくとも1種の元素を含有する、アンチモン含有金属酸化物組成物から構成される触媒または触媒前駆体、ならびに(b)元素アンチモンまたはアンチモン化合物を、乾式混合し、約300℃~約1000℃の非還元ガス雰囲気中で、元素アンチモンまたはアンチモン化合物(b)が、触媒または触媒前駆体(a)上に堆積するのに十分な期間の間、成分(a)および(b)を互いと接触させることによって、アンチモン含有金属酸化物触媒が製造されるまたは活性化されることを開示している。
【0008】
[0008]US4,504,599は、(a)アンチモン、ならびに鉄、コバルト、ニッケル、マンガン、セリウム、ウラン、スズ、チタン、および銅からなる群から選択される少なくとも1種の元素を含有する、アンチモン含有金属酸化物組成物から構成される触媒または触媒前駆体、ならびに(b)元素アンチモンまたはアンチモン化合物を、乾式混合し、約300℃~約1000℃の非還元ガス雰囲気中で、元素アンチモンまたはアンチモン化合物(b)が、触媒または触媒前駆体(a)上に堆積するのに十分な期間の間、成分(a)および(b)を互いと接触させることによって、製造されるまたは活性化される、アンチモン含有金属酸化物触媒を開示している。
【0009】
[0009]しかしながら、これらの引用文献を考慮したとしても、アンモ酸化触媒の安定性を改善し、経時的な転化率および選択率の改善を提供する方法の必要性は残っている。
【発明の概要】
【課題を解決するための手段】
【0010】
[0010]本開示は、アンモ酸化プロセスにおけるアンチモンアンモ酸化触媒を安定化させる方法であって、反応器にアンチモンアンモ酸化触媒を提供するステップと;流動層反応器中で、モリブデンおよび/または酸化モリブデンをさらに含み得るアンチモンアンモ酸化触媒の存在下で、プロピレンをアンモニアおよび酸素と反応させて、粗製アクリロニトリル生成物を形成するステップと;有効な量、例えば、1日当たり2500wppm未満、1日当たり2000wppm未満、1日当たり1500wppm未満、または1日当たり1000wppm未満の、アンチモン含有化合物、例えば、三酢酸アンチモン、酸化アンチモン、もしくは有機アンチモン化合物、またはそれらの組合せ、好ましくは三酢酸アンチモンを、アンチモンアンモ酸化触媒に添加して、触媒の転化率および選択率を維持するステップとを含む、方法に関する。アンチモン含有化合物は、375℃未満の融点を有する。触媒転化率は、目標転化率の10%以内、例えば、5%以内に維持され得る、または少なくとも1年の期間にわたって少なくとも45%であり得;アクリロニトリルへの触媒選択率は、目標選択率の10%以内に維持され得る、または少なくとも1年の期間にわたって少なくとも50%であり得る。アンチモン含有化合物は固体であり得、かつ低い蒸気圧を有し得る。添加するステップは、補充アンチモン含有アンモ酸化触媒をアンチモン含有化合物と混合するステップを含み、かつ300℃未満の温度で行われ、かつ/または反応器の上流で行われ、かつ/または初期の触媒調整期間後に行われ得る。この方法は、反応器中のアンチモンアンモ酸化触媒から、アンチモンアンモ酸化触媒の蒸気を放出するステップ、および/またはアンチモン含有化合物を気化させて、アンチモンアンモ酸化触媒の蒸気の放出を抑制するステップをさらに含み得る。添加するステップは、アンチモン含有化合物を、補充アンチモンアンモ酸化触媒を含む触媒ホッパーの中へ直接添加し、次に、結果として生じる補充アンチモン触媒組成物を反応器に供給するステップ;および/もしくはアンチモン含有化合物を補充アンチモンアンモ酸化触媒と混合し、次に、結果として生じる補充アンチモン触媒組成物を反応器に直接供給するステップ;および/もしくはアンチモン含有化合物を水に溶解させて水溶液を形成し、次に、水溶液を反応器に添加するステップ;またはそれらの組合せを含み得る。アンチモン含有化合物およびアンチモンアンモ酸化触媒は、1wt%未満のカリウム、リチウム、ナトリウム、セシウム、インジウム、ルビジウム、サマリウム、カルシウム、ストロンチウム、バリウムまたはテルルを含み得る。添加するステップは、モリブデン酸アンモニウム(ammonium molbydate)、金属モリブデン酸塩、酸化モリブデン、もしくは酢酸モリブデン、またはそれらの組合せを含む、有効な量のモリブデン含有化合物をアンチモンアンモ酸化触媒に添加するステップ、および/または少なくとも1種の添加剤を流動層反応器に添加するステップをさらに含み得る。
【0011】
[0011]一部の場合では、本開示は、アンチモン含有アンモ酸化触媒;およびアンチモン含有化合物、例えば、三酢酸アンチモンを含み、アンチモン含有化合物が375℃未満の融点を有する、アンチモン含有アンモ酸化触媒組成物に関する。触媒は、モリブデンおよびモリブデン含有化合物、例えば、ヘプタモリブデン酸アンモニウムをさらに含み得る。
【0012】
[0012]一部の実施形態では、本開示は、アクリロニトリルを製造する方法であって、反応器にアンチモンアンモ酸化触媒を提供するステップと;プロピレンを、反応器中で、アンチモンアンモ酸化触媒の存在下で、アンモニアおよび酸素と反応させるステップと;プロピレンの触媒転化率および/またはアクリロニトリルへの触媒選択率を測定するステップと;転化率および/または選択率が減少する場合、有効な量のアンチモン含有化合物をアンチモンアンモ酸化触媒に添加して、触媒の転化率および選択率を維持するステップとを含み、アンチモン含有化合物が375℃未満の融点を有する、方法に関する。
【0013】
[0013]一部の実施形態では、本開示は、反応器中のアンチモン含有触媒を安定化させる方法であって、反応器にアンチモン含有触媒を提供するステップと;アンチモン含有触媒の存在下で、アンモ酸化反応、もしくは酸化反応、またはそれらの組合せである反応を行うステップと;有効な量のアンチモン含有化合物を反応器に添加するステップとを含む、方法に関する。反応はアンモ酸化反応であり得、反応はアンモニアおよび酸素の存在下で行われ得る。反応は、炭化水素供給原料の酸化反応であり得、反応は酸素の存在下で行われ、炭化水素は、オレフィン、アルコール、アルカン、ケトン、アルデヒド、カルボン酸、エステル、エーテル、あるいはニトリル、またはそれらの誘導体、もしくはそれらの組合せを含み得る。添加するステップは、モリブデン含有化合物を反応器に添加するステップをさらに含む。
【0014】
[0014]本開示は、添付の図面を参照して以下で詳細に記述され、同一の数字は同じ部分を示す。
【図面の簡単な説明】
【0015】
図1】[0015]本開示の実施形態による、プロピレンの転化率を示すグラフである。
図2】[0016]本開示の実施形態による、アクリロニトリルへの選択率を示すグラフである。
図3】[0017]本開示の実施形態による、アクリロニトリルの収率を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0016】
序論
[0018]上記のように、一部のアンモ酸化触媒は公知であり、触媒の成分として活性剤または促進剤を添加することによって、これらの触媒の性能および安定性を改善する一部の方法も公知である。例えば、アンチモン系オキシド錯体触媒は、Sbなどのアンチモン含有化合物をこれらの触媒に添加することによって改善され得る。こうした化合物は、一連の非効率的なプロセスステップ、例えば、約300℃~約1000℃の非還元ガス雰囲気中で接触させて、使用のための最終的な触媒を製造することを通して、触媒へ直接組み込まれ得る。その結果、使用のための触媒または触媒前駆体上に化合物が直接堆積する。
【0017】
[0019]本発明者らは、アンモ酸化反応の高温で使用した場合、アンモ酸化触媒の一部は気化する可能性があり、結果として生じる蒸気(触媒成分を含有する)が排気口を通して失われ得ることを見出した。これらの成分の損失によって、触媒が劣化し、触媒の性能および安定性が低下することにつながる。
【0018】
[0020]ここで、例えば、より低い融点を有する、特定のアンチモン含有化合物を添加することが、触媒の劣化損失に著しい改善の提供を示すことが発見されている。理論に拘束されるものではないが、これらのアンチモン含有化合物は、反応器中のアンモ酸化触媒に、例えば、初めからの触媒の一部としてではなく提供された場合、アンチモンアンモ酸化触媒より容易に気化すると推論される。アンチモン含有化合物によって生成した蒸気は、驚くべきことに、アンモ酸化触媒の気化を抑制し、これが今度は、気化を介してアンモ酸化触媒の劣化を遅らせるまたは排除することが見出された。加えて、気化の抑制が、結果として生じるアンチモン含有相の移動、変換、および/または破壊を、低減または排除することが見出された。重要なことには、触媒が作られる場合に、特定のアンチモン含有化合物は、アンモ酸化触媒の成分として添加され得ず、例えば、一部の従来の触媒調製プロセスで行われてきたようにアンモ酸化触媒上に含浸され得ない。むしろ、一旦アンモ酸化製造プロセスが始まると、(劣化した)アンモ酸化触媒を補充するようにアンチモン含有化合物が提供される。アンチモン含有化合物を、触媒の成分(または反応器に添加される補給触媒(makeup catalyst)としてではなく、アンモ酸化プロセスに提供することが、アンチモン含有化合物をよりよく気化させ、今度は、アンモ酸化触媒の気化をよりよく抑制することを可能にすると考えられる。
【0019】
[0021]初めから装填されたモリブデン触媒へのモリブデン化合物の添加に関して一部の教示が存在し得るが、これらの教示はアンチモン触媒には適用できない。一部の場合では、ヘプタモリブデン酸アンモニウム(AHM)(単独)の添加は、例えば、アクリロニトリルの収率および表面積に関して、触媒の安定化に効果がないことが見出された。さらに、大多数のモリブデンの教示は、アンチモンまたはアンチモン酸塩系触媒ではなく、モリブデン酸塩またはポリモリブデン酸塩を有するモリブデン系触媒に、限定的に関する。さらに、一部の工場環境において、初めから装填されたアンチモン触媒へのモリブデン成分の添加を試験し、モリブデン成分は(せいぜい)軽微な改善にしかつながらず、確かに、アンチモン含有化合物の添加によって本明細書で認識された著しい改善ではなかった。
【0020】
[0022]加えて、ほとんどの従来のモリブデン系触媒は、灰重石型構造を有し、これらの触媒に関する教示はこれらの構造に固有である。対照的に、多くのアンチモンアンモ酸化触媒は、灰重石型構造ではなく、ルチル型構造を有する。さらに、灰重石型構造とルチル型構造との間に著しい違いが存在することは、周知である。例示的な違いとしては、これに限定されるものではないが、原子配列または原子構造、結晶単位格子、結晶面へき開、双晶、および結晶面ならびにファセットなどが挙げられる。重要なことには、それが本開示のアンモ酸化反応を含む不均一系触媒作用に関するので、触媒反応が典型的には固体触媒の表面上で起こる。さらに触媒からの露出したファセットと反応物分子との間の相互作用は、触媒性能に著しく影響を及ぼす、または触媒性能を決定する。従来の教示の多くは、モリブデン触媒および灰重石型構造に関するので、これらの教示は、例えば、ルチル型構造を有するアンチモンアンモ酸化触媒に関する本開示には、適用できないかつ/または該当しない。
【0021】
[0023]一部の場合では、より低い融点のアンチモン含有化合物が使用されるので、結果として生じる気化および抑制がより容易に起こり、特定の(少ない)量、例えば、アンチモン含有アンモ酸化触媒の全重量に対して、1回の装填当たり1000wppm未満、例えば、運転1日当たり1000wppmで、アンチモン含有化合物は有益に用いられ得、これが有利なことに、より少ない量のアンチモン含有化合物を使用して、好適な結果の達成を可能にする。従来の方法は、より高い融点温度のアンチモン含有化合物を用いており、そのため、はるかに多い量、例えば、1000wppm超のそれらを用いることが必要であり、これがプロセスの非効率の一因となっている。例えば、より多量の使用は、アンチモン含有化合物を反応系から流出させる可能性があり、従って非効率的な消費をもたらし得る。同様に、アンチモン含有化合物は、反応器の内部に有害に沈殿もしくは蓄積したり、または熱交換器に付着したりして、それによって運転上の問題を引き起こす恐れがある。
【0022】
[0024]一部の実施形態では、本開示は、(触媒成分の気化を抑制することによって)アンモ酸化プロセスにおけるアンチモンアンモ酸化触媒を安定化させる方法に関する。一部の場合では、本開示はより広範には、アンチモン触媒を用い得る他の反応、例えば、酸化反応における触媒安定化に関する。この方法は、反応器にアンチモン(アンモ酸化)触媒を提供するステップと、アンモ酸化反応を行い、例えば、反応器中で、アンチモンアンモ酸化触媒の存在下で、プロピレンをアンモニアおよび酸素と反応させて、粗製アクリロニトリル生成物を形成するステップとを含む。この方法は、有効な量のアンチモン含有化合物をアンチモンアンモ酸化触媒に添加して、触媒の転化率および選択率を維持するステップをさらに含む。
【0023】
[0025]アンチモン含有化合物は、低い融点、例えば、375℃未満、350℃未満、325℃未満、300℃未満、275℃未満、250℃未満、225℃未満、200℃未満、175℃未満、または150℃未満の融点を有する。下限に関しては、アンチモン含有化合物は、少なくとも5℃、例えば、少なくとも10℃、少なくとも25℃、少なくとも50℃、または少なくとも55℃の融点を有し得る。
【0024】
[0026]一部の実施形態では、有効な量のアンチモン含有化合物が用いられる。例えば、アンチモン含有化合物は、アンチモン含有アンモ酸化触媒の全重量に対して、1日当たり1000wppm未満、例えば、1日当たり1000wppm未満、1日当たり800wppm未満、1日当たり600wppm未満、1日当たり500wppm未満、1日当たり400wppm未満、1日当たり300wppm未満、1日当たり200wppm未満、1日当たり100wppm未満、1日当たり75wppm未満、1日当たり50wppm未満、1日当たり40wppm未満、1日当たり30wppm未満、または1日当たり20wppm未満の量で添加され得る。下限に関しては、アンチモン含有化合物は、1日当たり1wppm超、例えば、1日当たり2wppm超、1日当たり4wppm超、1日当たり5wppm超、1日当たり6wppm超、1日当たり8wppm超、1日当たり10wppm超、1日当たり12wppm超、1日当たり15wppm超、1日当たり20wppm超、または1日当たり25wppm超の量で添加され得る。範囲に関しては、アンチモン含有化合物は、1日当たり1wppm~1000wppm、例えば、1日当たり2wppm~800wppm、1日当たり3wppm~500wppm、1日当たり3wppm~300wppm、1日当たり3wppm~100wppm、1日当たり2wppm~50wppm、1日当たり5wppm~40wppm、1日当たり10wppm~30wppm、または1日当たり15wppm~25wppmの範囲の量で添加され得る。
【0025】
[0027]添加は、元素アンチモンに関しても特徴付けられ得る。例えば、アンチモン含有化合物は、アンチモン含有アンモ酸化触媒の全重量に対して、1日当たり500wppm未満、例えば、1日当たり300wppm未満、1日当たり100wppm未満、1日当たり50wppm未満、1日当たり35wppm未満、1日当たり25wppm未満、1日当たり20wppm未満、1日当たり15wppm未満、1日当たり13wppm未満、または1日当たり12wppm未満の量で元素アンチモンが添加されるように、添加され得る。範囲に関しては、アンチモン含有化合物は、1日当たり0.01wppm超、例えば、1日当たり0.05wppm超、1日当たり0.1wppm超、1日当たり0.5wppm超、1日当たり1wppm超、1日当たり1.5wppm超、1日当たり2wppm超、1日当たり2.5wppm超、1日当たり3wppm超、1日当たり3.5wppm超、1日当たり4wppm超、1日当たり5wppm超、または1日当たり7wppm超の量で元素アンチモンが添加されるように、添加され得る。範囲に関しては、アンチモン含有化合物は、1日当たり0.01wppm~500wppm、例えば、1日当たり0.05wppm~300wppm、1日当たり0.1wppm~100wppm、1日当たり0.5wppm~50wppm、1日当たり1wppm~25wppm、1日当たり2wppm~20wppm、1日当たり3wppm~15wppm、1日当たり4wppm~12wppm、または1日当たり5wppm~10wppmの範囲の量で元素アンチモンが添加されるように、添加され得る。
【0026】
[0028]その結果、触媒活性および安定性は改善される。一部の場合では、前述のアンチモン含有化合物の添加のために、触媒転化率は、少なくとも1年の期間にわたって目標転化率の10%以内、例えば、7%以内、5%以内、4%以内、3%以内、2%以内、または1%以内に維持され得る。一部の場合では、アクリロニトリルへの触媒選択率は、少なくとも1年の期間にわたって目標選択率の10%以内、例えば、7%以内、5%以内、4%以内、3%以内、2%以内、または1%以内に維持される。
【0027】
[0029]一部の実施形態では、触媒転化率は、(少なくとも1年の期間にわたって)、(平均で)少なくとも45%、例えば、少なくとも50%、少なくとも60%、少なくとも70%、少なくとも80%、少なくとも90%、少なくとも95%、少なくとも99%、少なくとも99.5%、または少なくとも99.9%である。範囲に関しては、触媒転化率は、(少なくとも1年の期間にわたって)、(平均で)45%~99.9%、例えば、50%~99.9%、60%~99.9%、70%~99.9%、80%~99.9%、90%~99.9%、90%~99.5%、95%~99.9%、または95%~99.5%の範囲であり得る。これらの転化率の範囲および限界値は、従来の方法を介して達成されたものより著しく高く、例えば、米国特許第6,156,920号(約20%);米国特許第7,754,910号(約90%);および米国特許第8,921,257号(約41%)を参照されたい。
【0028】
[0030]一部の実施形態では、アクリロニトリルへの触媒選択率は、(少なくとも1年の期間にわたって)、(平均で)少なくとも50%、例えば、少なくとも60%、少なくとも65%、少なくとも70%、少なくとも75%、少なくとも80%、または少なくとも85%である。範囲に関しては、アクリロニトリルへの触媒選択率は、(少なくとも1年の期間にわたって)、(平均で)50%~99.9%、例えば、55%~99.9%、65%~99.9%、65%~90%、70%~99.9%、65%~85%、67%~82%、または70%~81%の範囲であり得る。
【0029】
[0031]一部の実施形態では、シアン化物への触媒選択率は、(少なくとも1年の期間にわたって)、(平均で)少なくとも1%、例えば、少なくとも2%、少なくとも3%、少なくとも4%、少なくとも5%、少なくとも6%、または少なくとも7%である。範囲に関しては、シアン化物への触媒選択率は、(少なくとも1年の期間にわたって)、(平均で)1%~30%、例えば、2%~25%、3%~20%、3%~15%、4%~12%、または6%~10%の範囲であり得る。
【0030】
[0032]一部の実施形態では、触媒表面領域の安定性が改善される。例えば、触媒表面は、+/-25%、例えば、+/-20%、+/-18%、+/-15%、+/-13%、+/-10%、+/-8%、または+/-5%しか変動し得ない。
【0031】
[0033]上記のように、本発明者らは、これらのアンチモン含有化合物を(直接または間接的に)反応器に添加する場合、これらのアンチモン含有化合物は、アンモ酸化触媒中に存在するアンチモンよりはるかに容易に気化すると考える。反応器中に存在するこの追加の蒸気は、初めから装填された触媒から出る蒸気に抑制効果を有し、これが今度は、気化を介してアンモ酸化触媒の劣化を遅らせるまたは排除することが、発見された。
【0032】
[0034]一部の場合では、この方法は、初めから装填されたアンチモン酸化触媒の少なくとも一部を気化して、アンチモンアンモ酸化触媒の蒸気を形成するステップ、例えば、反応器中のアンチモンアンモ酸化触媒から、アンチモンアンモ酸化触媒の蒸気、例えば、アンチモン蒸気を放出するステップをさらに含む。
【0033】
[0035]反応の熱が、初めから装填された触媒中のアンモ酸化触媒成分、例えば、アンチモン酸塩および酸化アンチモンの、触媒の本体からその外側の表面に向かう外への移動を引き起こすと考えられる。この現象は、アンチモン酸塩および酸化アンチモンの有害な劣化、相破壊あるいは復元、ならびに揮発および/または昇華につながる。これらのアンチモンアンモ酸化触媒の蒸気の損失が、アンモ酸化触媒を劣化させ、例えば、非活性化および/または性能低下を引き起こす。
【0034】
[0036]この劣化を低減するために、この方法は、アンチモン含有化合物を気化させて、アンチモン含有化合物の蒸気を生成するステップをさらに含み得る。上記のように、アンチモン含有化合物の蒸気は、驚くべきことにアンチモンアンモ酸化触媒の蒸気の放出を抑制し、従ってアンモ酸化触媒の劣化を排除または低減することが見出された。
【0035】
[0037]重要なことには、アンチモン含有化合物の添加はアンモ酸化プロセスにおけるステップであり、アンモ酸化触媒が作られるまたは製造される際には、アンチモン含有化合物の添加はアンモ酸化触媒に提供されない。換言すれば、アンチモン含有化合物の添加は、アンモ酸化プロセスに直接添加される。一部の場合では、アンチモン含有化合物の添加は、初期の触媒調整期間の後、反応物の少なくとも一部が反応器中のアンモ酸化触媒上を通過した後に、行われる。本明細書で議論されるように、アンチモン含有化合物の添加は、アンモ酸化反応が進行するとともに、初めから装填された触媒の損失を抑制し、触媒の転化率および選択率を維持する役割を果たす。一部の場合では、アンチモン含有化合物の少なくとも一部は、初めから装填された触媒に添加されたり、その上に堆積したりするのではなく、代わりにアンチモン含有化合物の少なくとも一部は、それが第2の気化可能な材料を反応器に添加するために提供される。従って、初めから装填された触媒の一部になるためにアンチモン含有化合物が用いられる状況と比較して、アンチモン含有化合物は、はるかに少ない量で有利に用いられ得る。
【0036】
[0038]一部の場合では、アンチモン含有化合物の添加は、アンモ酸化反応器の上流で行われる。一実施形態では、アンチモン含有化合物の添加は、(直接)触媒ホッパーで行われる。触媒ホッパーは、初めから装填されたアンモ酸化触媒を補充するために、補充アンチモンアンモ酸化触媒を保持するアンモ酸化プロセスの1つのユニットである。従って、この方法は、補充アンチモン含有アンモ酸化触媒をアンチモン含有化合物と混合するステップを含み得る。反応器の上流、例えば、ホッパー、でのアンチモン含有化合物の添加は、低温/低圧運転などのプロセスの効率を提供する。アンチモン含有化合物は、補充アンチモンアンモ酸化触媒と(ホッパーで)組み合わせられて、次に、蒸気の抑制/補充のために、反応器に(直接または間接的に)供給され得る。有益なことに、ホッパーは典型的にはプロセスの既存部位であり、従って、新しい装置に関する追加の資本経費はない。
【0037】
[0039]他の場合では、アンチモン含有化合物は、補充アンチモンアンモ酸化触媒と(ホッパー以外の場所で)混合されて、次に、反応器に(直接または間接的に)供給され得る。一部の場合では、アンチモン含有化合物は、非酸性の環境に優しい溶媒、例えば、水に溶解されて、水溶液を形成し、次に、反応器に(直接または間接的に)添加され得る。これらの添加の選択肢は、相互に組み合わせて使用され得る。これらの方法は、有利なことに、刺激の強い溶媒、例えば、硝酸などの酸、およびスラリーを生成しなければならない非効率、を回避する。
【0038】
[0040]他の場合では、アンチモン含有化合物、特に液体形態のものは、気化されて、次に反応器に供給され得る。例えば給水ポンプを介する連続的な供給、およびキャリアガス、例えば、空気の使用は、同様に任意選択の技術である。
【0039】
[0041]一部の実施形態では、アンチモン含有化合物の添加は、低温、例えば、300℃未満、290℃未満、275℃未満、250℃未満、または200℃未満の温度で行われる。一部の場合では、添加は室温で行われる。この低温添加は、さらなる加熱ステップの必要性を排除し、これが全体のプロセスの効率に貢献する。同様に、特定のアンチモン含有化合物の使用は、これらの化合物をはるかに少ない量、例えば、1000wppm未満または100wppm未満で用いることを可能にし、これもプロセスの効率に貢献する。
アンチモン含有化合物
[0042]
アンチモン含有化合物は、前述の融点基準を満たす限り、広範囲にわたって変動し得る。例えば、アンチモン含有化合物は、酢酸アンチモン、酸化アンチモン、もしくは有機アンチモン化合物、またはそれらの組合せを含み得る。一部の実施形態では、アンチモン含有化合物は、酢酸アンチモン、例えば、三酢酸アンチモン(ATA)を含む。一部の態様では、アンチモン含有化合物は、3個未満のフェニル基、例えば、2個未満のフェニル基を含み得る、またはフェニル基を含まない可能性がある。
【0040】
[0043]一部の場合では、アンチモン含有化合物は、有機金属化合物(metallorganics)および様々な形態のそれらの前駆体を含み得る。一部の実施形態では、アンチモン含有化合物は、アンチモンメトキシド、メタクリロキシジフェニルアンチモン、トリフェニルアンチモン、トリス(o-トリル)アンチモン、トリス(p-トリル)アンチモン、ポリ(アンチモンエチレングリコキシド)、酒石酸アンチモニルカリウム三水和物、酒石酸アンチモンカリウム水和物、酒石酸酸化アンチモンカリウム三水和物(potassium antimony oxide tartrate trihydrate)、アンチモンn-ブトキシド、アンチモンエトキシド、トリス(ジメチルアミノ)アンチモン、トリス(トリメチルシリル)アンチモン、アンチモンイソプロポキシド、アンチモンプロポキシド、もしくはアンチモントリメチルシロキシド、またはそれらの組合せを含み得る。
【0041】
[0044]一部の実施形態では、ATAなどのアンチモン含有化合物が、揮発性(固体/液体が、固体/液体状態から蒸気状態に容易に変化し、気化する傾向)に関して、初めから装填された触媒と比較して著しい利点を有することが見出された。加えて、(装填された触媒に対する)こうした化合物の使用は、例えば、原料の混合、沈殿時の合成、堆積または含浸、乾燥、および焼成プロセスの運転などの、触媒改善ステップの必要性を排除することに関する効率ももたらす。
【0042】
[0045]一部の場合では、アンチモン含有化合物は、高アンチモン含有アンモ酸化触媒および/または補給触媒を含み得る。さらに、これらの化合物は、任意選択で、本明細書で議論したような他のアンチモン含有化合物とともに、かつ初めから装填された触媒の成分としてではなく、添加され得る。
【0043】
[0046]一部の場合では、アンチモン含有化合物は、固体、例えば、粉末である。これらの粉末は、一旦反応器の高温に暴露されると、気化することができる。有益なことに、こうした粉末の使用は、有害なまたは環境に優しくない溶媒、例えば、硝酸などの酸での溶解、またはスラリー形成の必要性を排除し、従ってプロセス効率の改善を提供する。従来の方法は、含浸のために、腐食性硝酸溶液の使用を必要とする。前述の固体アンチモン含有化合物によって、これらの溶媒の悪影響が最小化または回避され得る。
【0044】
[0047]一部の場合では、アンチモン含有化合物は、高い融点または高い蒸気圧の化合物を除く。例えば、一部の実施形態では、アンチモン含有化合物は、酸化アンチモン、例えば、三酸化アンチモン、四酸化二アンチモン(biantimony tetraoxide)、もしくはSb、またはそれらの組合せを含まない。
【0045】
[0048]一部の実施形態では、アンチモン含有化合物は、低い蒸気圧を有する。一部の場合では、アンチモン含有化合物は、より高い蒸気圧の化合物、例えば、三酸化アンチモンを含まない。
【0046】
[0049]一部の実施形態では、アンチモンアンモ酸化触媒(およびアンチモン含有化合物)は、たとえ存在しても、少量の不必要な添加剤を含み、従ってその必要性を排除する。例えば、アンチモン含有アンモ酸化触媒は、たとえ存在しても、少量の、カリウム、リチウム、ナトリウム、セシウム、インジウム、ルビジウム、サマリウム、カルシウム、ストロンチウム、バリウム、またはテルルを含み得る。一部の場合では、アンチモン含有アンモ酸化触媒(およびアンチモン含有化合物)は、アンチモン含有アンモ酸化触媒またはアンチモン含有化合物の全重量に対して、個別にまたは組み合わせて、これらの化合物をそれぞれ1wt%未満、例えば、0.5wt%未満、0.3wt%未満、0.1wt%未満、0.05wt%未満、または0.01wt%未満含む。
【0047】
[0050]本発明者らは、アンチモン含有化合物に加えて、モリブデン含有化合物も添加することが予想外に有益であることも、見出した。従って、この方法(添加するステップ)は、有効な量のモリブデン含有化合物をアンチモンアンモ酸化触媒に添加することをさらに含み得る。モリブデン含有化合物は、アンチモン含有化合物に関して本明細書で開示される様式および量で、添加され得る。
【0048】
[0051]モリブデン含有化合物は、広範囲にわたって変動し得る。一部の場合では、モリブデン含有化合物は、モリブデン酸アンモニウム(ヘプタモリブデン酸アンモニウム、ジモリブデン酸アンモニウム)、金属モリブデン酸塩(モリブデン酸ビスマス、モリブデン酸鉄(II)、モリブデン酸マンガン(II))、酸化モリブデン(三酸化物モリブデン(molybdenium trioxide)、モリブデン酸)、もしくは酢酸モリブデン(酢酸モリブデン(II))、またはそれらの組合せを含む。
【0049】
[0052]同様に、他の加工添加剤が、反応器に(アンチモン含有化合物とともに)添加され得る。好適な加工添加剤は周知であり、これに限定されるものではないが、不活性微粒子を含む。
【0050】
[0053]本開示は、初めから装填された触媒を補充するためのアンチモンアンモ酸化触媒組成物にも関する。補充アンチモンアンモ酸化触媒は、アンチモン含有アンモ酸化触媒および前述のアンチモン含有化合物を含む。アンチモン含有化合物は、上記で議論したように、375℃未満の融点を有する。一部の場合では、補充アンチモンアンモ酸化触媒中のアンチモン含有化合物は、三酢酸アンチモンである。補充アンチモンアンモ酸化触媒は、前述のモリブデン含有化合物、例えば、ヘプタモリブデン酸アンモニウムをさらに含み得る。
【0051】
[0054]加えて、本開示は、アクリロニトリルを製造する方法に関する。この方法は、反応器にアンチモンアンモ酸化触媒を提供するステップと、反応器中でアンチモンアンモ酸化触媒の存在下で、プロピレンをアンモニアおよび酸素と反応させるステップとを含む。この方法は、触媒特性、例えば、プロピレンの転化率および/またはアクリロニトリルへの触媒選択率を測定するステップをさらに含む。プロセスが進行するとともに、初めから装填された触媒は劣化し得る。測定された特性が変化して、ある所定の限界値の分だけ低減した場合、本明細書で開示するように、反応器にアンチモン含有化合物が添加され得る。一部の場合では、転化率および/または選択率が、少なくとも0.1%、例えば、少なくとも0.2%、少なくとも0.5%、少なくとも1%、少なくとも3%、少なくとも5%、または少なくとも10%低減した場合、添加が行われ得る。
【0052】
[0055]同様に、上記のように、本開示はより広範には、アンモ酸化反応以外のプロセスおよび/または反応に関し得る。例えば、本開示は、アンチモン触媒を用いる方法、例えば、酸化反応にも関し得る。
【0053】
[0056]一部の実施形態では、本開示は、反応器中のアンチモン含有触媒を安定化させる方法に関する。この方法は、反応器にアンチモン含有触媒を提供するステップと、アンチモン含有触媒の存在下で反応を行うステップとを含む。例えば、この反応は、アンモ酸化反応、もしくは酸化反応、またはそれらの組合せであり得る。本明細書で開示する利点を達成するために、この方法は、有効な量のアンチモン含有化合物を反応器に添加して、触媒の転化率および選択率を維持するステップをさらに含み得る。この方法は、反応器にモリブデン含有化合物を添加するステップをさらに含み得る。
【0054】
[0057]反応がアンモ酸化反応である場合、この反応は、アンモニアおよび酸素の存在下で行われ得る。反応が炭化水素供給原料の酸化反応である場合、この反応は、酸素の存在下で行われ得る。例示的な炭化水素としては、オレフィン、アルコール、アルカン、ケトン、アルデヒド、カルボン酸、エステル、エーテル、あるいはニトリル、またはそれらの誘導体、もしくはそれらの組合せが挙げられる。
【0055】
アンチモンアンモ酸化触媒
[0058]
アンチモンアンモ酸化触媒は、広範囲にわたって変動し得、多くの従来のアンモ酸化触媒が公知である。例えば、アンチモンアンモ酸化触媒は、上述の特許に記述されている、いずれかの公知のアンチモン含有金属酸化物触媒であり得る。アンチモンアンモ酸化触媒は、アンチモン(酸化物)、ならびに鉄、コバルト、ニッケル、マンガン、セリウム、ウラン、スズ、チタンおよび銅からなる群から選択される少なくとも1種の金属の酸化物を含有し得る。
【0056】
[0059]一部の実施形態では、アンチモンアンモ酸化触媒は、以下の実験式によって表わされる組成物である:
MeSb(SiO2)
[0060][式中、
・Meは、Fe、Co、Ni、Mn、Ce、U、Sn、Ti、およびCuからなる群から選択される少なくとも1種の元素であり、
・Xは、V、Mo、およびWからなる群から選択される少なくとも1種の元素であり、
・Qは、Li、Na、K、Rb、Cs、Be、Mg、Ca、Sr、Ba、Y、La、Th、Zr、Hf、Nb、Ta、Cr、Re、Ru、Os、Rh、Ir、Pd、Pt、Ag、Zn、Cd、Al、Ga、In、Tl、Ge、Pb、As、S、およびSeからなる群から選択される少なくとも1種の元素であり、
・Rは、B、P、Te、およびBiからなる群から選択される少なくとも1種の元素であり、
・下付き文字a、b、c、d、e、f、およびgは、以下の範囲:
・a=5~15、
・b=5~100、
・c=0~15、
・d=0~50、
・e=0~10、
・f=上記成分の組合せによって形成される酸化物に対応する数、および
・g=0~200
の原子比を表示する]
[0061]これらの触媒はそのままで使用され得る、またはシリカ、アルミナ、シリカ-アルミナ、シリカ-チタニア、チタニア、もしくはジルコニアなどの担体に担持され得る。
【0057】
[0062]これらの酸化物組成物は、米国特許第3,341,471号、米国特許第3,657,155号、米国特許第3,686,138号および米国特許第4,107,085号に開示されている、公知の方法を使用することによって調製され得、その全内容および全開示は、参照により本明細書に組み込まれる。
【0058】
[0063]一部の実施形態では、アンチモンアンモ酸化触媒は、ルチル型構造を有する。アンチモンアンモ酸化触媒は、灰重石型構造を有さない。上記のように、初めから装填されたモリブデン触媒へのモリブデン化合物の添加に関する引用文献および教示は、完全に異なる結晶構造を有するモリブデン触媒に当てはまり、従って、例えば、ルチル型構造を有するアンチモンアンモ酸化触媒に関する本開示には、適用できないかつ/または該当しない。
【0059】
[0064]一部の実施形態では、アクリロニトリル製造プロセスの方法は、従来の手段を介して実行され得る。一例として、アクリロニトリル製造プロセスは、流動層反応器中で行われ得る。従って、アンモ酸化触媒は、流動層反応に好適な物理的特性を有することがさらに必要である。すなわち、そのかさ密度、粒子強度、耐摩滅性、比表面積、流動度などが好適であることがさらに必要である。
【0060】
[0065]反応は、370℃~500℃、例えば、370℃~500℃の範囲の反応温度、および大気圧~500kPaの反応圧力で実行され得る。接触時間は、0.1~20秒、例えば、1秒~20秒の範囲であり得る。
【0061】
実施形態
[0066]
以下の実施形態が、考えられる。特徴および実施形態の全ての組合せが、考えられる。
【0062】
[0067]実施形態1:アンモ酸化プロセスにおけるアンチモンアンモ酸化触媒を安定化させる方法であって、反応器にアンチモンアンモ酸化触媒を提供するステップと;流動層反応器中で、アンチモンアンモ酸化触媒の存在下で、プロピレンをアンモニアおよび酸素と反応させて、粗製アクリロニトリル生成物を形成するステップと;有効な量のアンチモン含有化合物をアンチモンアンモ酸化触媒に添加して、触媒の転化率および選択率を維持するステップとを含み、アンチモン含有化合物が375℃未満の融点を有する、方法。
【0063】
[0068]実施形態2:触媒転化率が、少なくとも1年の期間にわたって目標転化率の10%以内に維持される、実施形態1の実施形態。
[0069]実施形態3:アクリロニトリルへの触媒選択率が、少なくとも1年の期間にわたって目標選択率の10%以内に維持される、実施形態1または2の実施形態。
【0064】
[0070]実施形態4:触媒転化率が、少なくとも1年の期間にわたって少なくとも45%である、実施形態1~3のいずれかの実施形態。
[0071]実施形態5:アクリロニトリルへの触媒選択率が、少なくとも1年の期間にわたって少なくとも50%である、実施形態1~4のいずれかの実施形態。
【0065】
[0072]実施形態6:有効な量のアンチモン含有化合物が、アンチモン含有アンモ酸化触媒の全重量に対して、1日当たり1000wppm未満である、実施形態1~5のいずれかの実施形態。
【0066】
[0073]実施形態7:有効な量のアンチモン含有化合物が、アンチモン含有アンモ酸化触媒の全重量に対して1日当たり1000wppm未満であり、かつ触媒転化率が、少なくとも1年の期間にわたって目標転化率の5%以内に維持される、実施形態1~6のいずれかの実施形態。
【0067】
[0074]実施形態8:アンチモン含有化合物が固体である、実施形態1~7のいずれかの実施形態。
[0075]実施形態9:アンチモン含有化合物が低い蒸気圧を有する、実施形態1~8のいずれかの実施形態。
【0068】
[0076]実施形態10:添加するステップが300℃未満の温度で行われる、実施形態1~9のいずれかの実施形態。
[0077]実施形態11:アンチモン含有化合物が酢酸アンチモンを含む、実施形態1~10のいずれかの実施形態。
【0069】
[0078]実施形態12:反応器中のアンチモンアンモ酸化触媒から、アンチモンアンモ酸化触媒の蒸気を放出するステップをさらに含む、実施形態1~11のいずれかの実施形態。
【0070】
[0079]実施形態13:アンチモン含有化合物を気化させて、アンチモンアンモ酸化触媒の蒸気の放出を抑制するステップをさらに含む、実施形態1~12のいずれかの実施形態。
【0071】
[0080]実施形態14:添加するステップが反応器の上流で行われる、実施形態1~13のいずれかの実施形態。
[0081]実施形態15:添加するステップが、初期の触媒調整期間の後に行われる、実施形態1~14のいずれかの実施形態。
【0072】
[0082]実施形態16:添加するステップが、補充アンチモン含有アンモ酸化触媒をアンチモン含有化合物有と混合するステップを含む、実施形態1~15のいずれかの実施形態。
【0073】
[0083]実施形態17:添加するステップが、アンチモン含有化合物を、補充アンチモンアンモ酸化触媒を含む触媒ホッパーの中へ直接添加し、次に、結果として生じる補充アンチモン触媒組成物を反応器に供給するステップ;もしくはアンチモン含有化合物を補充アンチモンアンモ酸化触媒と混合し、次に結果として生じる補充アンチモン触媒組成物を直接反応器に供給するステップ;もしくアンチモン含有化合物を水に溶解させて水溶液を形成し、次に水溶液を反応器に添加するステップ;またはそれらの組合せを含む、実施形態1~16のいずれかの実施形態。
【0074】
[0084]実施形態18:アンチモン含有化合物およびアンチモンアンモ酸化触媒が、1wt%未満のカリウム、リチウム、ナトリウム、セシウム、インジウム、ルビジウム、サマリウム、カルシウム、ストロンチウム、バリウムまたはテルルを含む、実施形態1~17のいずれかの実施形態。
【0075】
[0085]実施形態19:アンチモン含有アンモ酸化触媒が、モリブデンおよび/または酸化モリブデンをさらに含む、実施形態1~18のいずれかの実施形態。
[0086]実施形態20:添加するステップが、有効な量のモリブデン含有化合物をアンチモンアンモ酸化触媒に添加するステップをさらに含む、実施形態1~19のいずれかの実施形態。
【0076】
[0087]実施形態21:モリブデン含有化合物が、モリブデン酸アンモニウム、金属モリブデン酸塩、酸化モリブデン、もしくは酢酸モリブデン、またはそれらの組合せを含む、実施形態1~20のいずれかの実施形態。
【0077】
[0088]実施形態22:アンチモン含有化合物が、三酢酸アンチモン、酸化アンチモン、もしくは有機アンチモン化合物、またはそれらの組合せを含む、実施形態1~21のいずれかの実施形態。
【0078】
[0089]実施形態23:添加するステップが、少なくとも1種の添加剤を流動層反応器に添加するステップをさらに含む、実施形態1~22のいずれかの実施形態。
[0090]実施形態24:アンチモン含有アンモ酸化触媒;およびアンチモン含有化合物を含み、アンチモン含有化合物が375℃未満の融点を有する、アンチモン含有アンモ酸化触媒組成物。
【0079】
[0091]実施形態25:アンチモン含有化合物が三酢酸アンチモンを含む、実施形態23の実施形態。
[0092]実施形態26:モリブデンおよびモリブデン含有化合物をさらに含む、実施形態23または24の実施形態。
【0080】
[0093]実施形態27:モリブデン含有化合物が、ヘプタモリブデン酸アンモニウムを含む、実施形態23~25のいずれかの実施形態。
[0094]実施形態28:アクリロニトリルを製造する方法であって、反応器にアンチモンアンモ酸化触媒を提供するステップと;反応器中でアンチモンアンモ酸化触媒の存在下で、プロピレンをアンモニアおよび酸素と反応させるステップと;プロピレンの触媒転化率および/またはアクリロニトリルへの触媒選択率を測定するステップと;転化率および/または選択率が減少する場合、有効な量のアンチモン含有化合物をアンチモンアンモ酸化触媒に添加して、触媒の転化率および選択率を維持するステップとを含み、アンチモン含有化合物が375℃未満の融点を有する、方法。
【0081】
[0095]実施形態29:反応器中のアンチモン含有触媒を安定化させる方法であって、反応器にアンチモン含有触媒を提供するステップと;アンチモン含有触媒の存在下で、アンモ酸化反応、もしくは酸化反応、またはそれらの組合せである反応を行うステップと;有効な量のアンチモン含有化合物を反応器に添加するステップとを含む、方法。
【0082】
[0096]実施形態30:反応がアンモ酸化反応であり、かつその反応がアンモニアおよび酸素の存在下で行われる、実施形態29の実施形態。
[0097]実施形態31:反応が炭化水素供給原料の酸化反応であり、かつその反応が酸素の存在下で行われる、実施形態29または30の実施形態。
【0083】
[0098]実施形態32:炭化水素が、オレフィン、アルコール、アルカン、ケトン、アルデヒド、カルボン酸、エステル、エーテル、あるいはニトリル、またはそれらの誘導体、もしくはそれらの組合せを含む、実施形態29~31のいずれかの実施形態。
【0084】
[0099]実施形態33:添加するステップが、モリブデン含有化合物を反応器に添加するステップをさらに含む、実施形態29~32のいずれかの実施形態。
[0100]本開示は、以下の非限定的な実施例によってさらに理解される。
【実施例
【0085】
実施例1
[0101]アクリロニトリルを形成するために、プロピレン、アンモニア、および酸素を、MAC-3アンチモンアンモ酸化触媒の存在下で反応器に供給した。およそ150日の期間にわたって、プロピレン転化率、アクリロニトリル選択率、アクリロニトリル収率、およびプロピレン相対供給速度を測定した。モリブデン含有化合物を、図1図3に破線により示すように、最初の再始動時に添加し、次に、2回追加で添加した。運転停止および再始動の後に、プロピレン転化率、選択率および収率が容認できないレベルに低下するまで反応を進めさせた。次に、三酢酸アンチモン(825重量ppm)と、前に添加したのと同じモリブデン含有化合物との組合せを、およそ80日目でホッパーを通して反応器に添加した。モリブデン含有化合物の添加、ならびに三酢酸アンチモンとモリブデン含有化合物との組合せの添加に対する結果を、図1図3に示す。この実施例で使用する「再始動」とは、反応物の供給を停止することによって前に休止した反応を、反応物を再度供給し始めることによって再開する時点を指す。「運転停止」とは、反応物が反応器にもはや供給されない時点を指す。
【0086】
[0102]図1に示すように、プロピレンの転化率は、再始動し、モリブデン含有化合物を添加した後まもなく減少し始めた。わずかな増加の後に、プロピレンの転化率はさらに低下し始めた。モリブデン含有化合物の2回の追加添加を行ったが、示されているように、転化率は減少し続けた。およそ50日目の再始動時に、転化率は最初は許容できたが、次に急激に減少し始めた。三酢酸アンチモンとモリブデン含有化合物との組合せを添加したおよそ80日目に、転化率は着実に増加し、およそ150日目まで平均して許容できる転化率を維持した。図1から、三酢酸アンチモンの添加が、プロピレンの転化率を増加させたことは明らかである。
【0087】
[0103]図2に示すように、0日目の再始動からモリブデン含有化合物の添加を通して、選択率は増加した。選択率のこの増加は、1)転化率が減少するにつれて選択率が増加するという一般的傾向、および2)モリブデン含有化合物は選択率にプラスの効果があったという、2つの要因が起因し得る。およそ80日目での三酢酸アンチモン添加の驚くべきかつ予期しない結果は、一般的傾向が起こらず、転化率が増加するにつれて選択率が減少するのではなく、選択率も増加し、およそ150日目まで維持されたことであった。図1および2を比較すると、80日目およびそれ以降では、三酢酸アンチモンの添加に続いて、転化率および選択率は、単にモリブデン含有化合物を添加した0~50日目の結果より優れていた。
【0088】
[0104]図3は、プロピレン転化率にアクリロニトリル選択率を掛けることにより計算される、アクリロニトリル収率を提供している。図3に示すように、アクリロニトリル収率は、再始動時に低く、モリブデン含有化合物の添加にもかかわらず低いままであった。およそ50日目での2回目の再始動に続いて、収率は、三酢酸アンチモンが添加されるまで急速に減少した。三酢酸アンチモンの添加は、化合物の添加がない場合と比較して、およびモリブデン含有化合物だけを添加した場合と比較して、収率の増加をもたらした。
【0089】
[0105]本発明を詳細に記述してきたが、本発明の趣旨および範囲内での修正は、当業者には容易に明白であろう。上述の議論を考慮して、当技術分野に関する情報、ならびに背景技術および発明を実施するための形態に関して上記で議論した引用文献は、その開示が参照により全て本明細書に組み込まれる。加えて、本発明の実施形態および様々な実施形態の一部、ならびに以下および/または添付の特許請求の範囲に列挙される様々な特徴は、全体的または部分的に組み合わせ得る、または交換され得ると理解すべきである。様々な実施形態の上述の記述において、別の実施形態に言及するそれらの実施形態は、当業者よって理解されるように、他の実施形態と適切に組み合わせられ得る。
本発明は以下の実施態様を含む。
[1]アンモ酸化プロセスにおけるアンチモンアンモ酸化触媒を安定化させる方法であって、
反応器にアンチモンアンモ酸化触媒を提供するステップと、
流動層反応器中で、アンチモンアンモ酸化触媒の存在下で、プロピレンをアンモニアおよび酸素と反応させて、粗製アクリロニトリル生成物を形成するステップと、
有効な量のアンチモン含有化合物をアンチモンアンモ酸化触媒に添加して、触媒の転化率および選択率を維持するステップと
を含み、アンチモン含有化合物が375℃未満の融点を有する、方法。
[2]触媒転化率が、少なくとも1年の期間にわたって目標転化率の10%以内に維持される、[1]に記載の方法。
[3]アクリロニトリルへの触媒選択率が、少なくとも1年の期間にわたって目標選択率の10%以内に維持される、[1]または[2]に記載の方法。
[4]触媒転化率が、少なくとも1年の期間にわたって少なくとも45%である、[1]から[3]のいずれかに記載の方法。
[5]アクリロニトリルへの触媒選択率が、少なくとも1年の期間にわたって少なくとも50%である、[1]から[4]のいずれかに記載の方法。
[6]アンチモン含有化合物が固体である、[1]から[5]のいずれかに記載の方法。
[7]添加するステップが、300℃未満の温度で行われる、[1]から[6]のいずれかに記載の方法。
[8]アンチモン含有化合物が、酢酸アンチモンを含む、[1]から[7]のいずれかに記載の方法。
[9]反応器中のアンチモンアンモ酸化触媒から、アンチモンアンモ酸化触媒の蒸気を放出するステップをさらに含む、[1]から[8]のいずれかに記載の方法。
[10]アンチモン含有化合物を気化させて、アンチモンアンモ酸化触媒の蒸気の放出を抑制するステップをさらに含む、[9]に記載の方法。
[11]添加するステップが、補充アンチモンアンモ酸化触媒をアンチモン含有化合物と混合するステップを含む、[1]から[10]のいずれかに記載の方法。
[12]添加するステップが、
アンチモン含有化合物を、補充アンチモンアンモ酸化触媒を含む触媒ホッパーの中へ直接添加し、次に、結果として生じる補充アンチモン触媒組成物を反応器に供給するステップ、
アンチモン含有化合物をアンチモンアンモ酸化触媒と混合して、次に、結果として生じる補充アンチモン触媒組成物を反応器に直接供給するステップ、
アンチモン含有化合物を水に溶解させて水溶液を形成し、次に水溶液を反応器に添加するステップ、または
それらの組合せ
を含む、[1]から[11]のいずれかに記載の方法。
[13]アンチモン含有化合物およびアンチモンアンモ酸化触媒が、1wt%未満のカリウム、リチウム、ナトリウム、セシウム、インジウム、ルビジウム、サマリウム、カルシウム、ストロンチウム、バリウムまたはテルルを含む、[1]から[12]のいずれかに記載の方法。
[14]アンチモンアンモ酸化触媒が、モリブデンおよび/または酸化モリブデンをさらに含む、[1]から[13]のいずれかに記載の方法。
[15]添加するステップが、有効な量のモリブデン含有化合物をアンチモンアンモ酸化触媒に添加するステップをさらに含む、[1]から[14]のいずれかに記載の方法。
[16]アンチモン含有化合物が、三酢酸アンチモン、酸化アンチモン、もしくは有機アンチモン化合物、またはそれらの組合せを含む、[1]から[15]のいずれかに記載の方法。
[17]添加するステップが、少なくとも1種の添加剤を流動層反応器に添加するステップをさらに含む、[1]から[16]のいずれかに記載の方法。
[18]アンチモンアンモ酸化触媒およびアンチモン含有化合物を含むアンチモン含有アンモ酸化触媒組成物であって、アンチモン含有化合物が375℃未満の融点を有する、組成物。
[19]アクリロニトリルを製造する方法であって、
反応器にアンチモンアンモ酸化触媒を提供するステップと、
反応器中で、アンチモンアンモ酸化触媒の存在下で、プロピレンをアンモニアおよび酸素と反応させるステップと、
プロピレンの触媒転化率および/またはアクリロニトリルへの触媒選択率を測定するステップと、
転化率および/または選択率が減少する場合、有効な量のアンチモン含有化合物をアンチモンアンモ酸化触媒に添加して、触媒の転化率および選択率を維持するステップと
を含み、アンチモン含有化合物が375℃未満の融点を有する、方法。
[20]反応器中のアンチモン含有触媒を安定化させる方法であって、
反応器にアンチモン含有触媒を提供するステップと、
アンチモン含有触媒の存在下で、アンモ酸化反応、もしくは酸化反応、またはそれらの組合せである反応を行うステップと、
有効な量のアンチモン含有化合物を反応器に添加するステップと
を含む、方法。
図1
図2
図3