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特許7278400L-トレオニン生産能が強化された微生物及びそれを用いたトレオニン生産方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-05-11
(45)【発行日】2023-05-19
(54)【発明の名称】L-トレオニン生産能が強化された微生物及びそれを用いたトレオニン生産方法
(51)【国際特許分類】
   C12N 1/21 20060101AFI20230512BHJP
   C12P 13/08 20060101ALI20230512BHJP
   C12N 15/52 20060101ALN20230512BHJP
   C12R 1/15 20060101ALN20230512BHJP
【FI】
C12N1/21
C12P13/08 C
C12N15/52 Z ZNA
C12R1:15
【請求項の数】 8
(21)【出願番号】P 2021551564
(86)(22)【出願日】2020-03-10
(65)【公表番号】
(43)【公表日】2022-04-20
(86)【国際出願番号】 KR2020003318
(87)【国際公開番号】W WO2020218737
(87)【国際公開日】2020-10-29
【審査請求日】2021-08-30
(31)【優先権主張番号】10-2019-0046935
(32)【優先日】2019-04-22
(33)【優先権主張国・地域又は機関】KR
【微生物の受託番号】KCCM  KCCM12484P
【微生物の受託番号】KCCM  KCCM12485P
(73)【特許権者】
【識別番号】514199250
【氏名又は名称】シージェイ チェイルジェダング コーポレイション
(74)【代理人】
【識別番号】100105957
【弁理士】
【氏名又は名称】恩田 誠
(74)【代理人】
【識別番号】100068755
【弁理士】
【氏名又は名称】恩田 博宣
(74)【代理人】
【識別番号】100142907
【弁理士】
【氏名又は名称】本田 淳
(74)【代理人】
【識別番号】100152489
【弁理士】
【氏名又は名称】中村 美樹
(72)【発明者】
【氏名】クォン、ス ヨン
(72)【発明者】
【氏名】ペク、ミナ
(72)【発明者】
【氏名】ソン、スン-ジュ
(72)【発明者】
【氏名】イ、グァン ウ
【審査官】田中 晴絵
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第03/006666(WO,A2)
【文献】特表2009-501512(JP,A)
【文献】Biotechnology Advances,2011年,29,11-23
【文献】D-serine/D-alanine/glycine transporter[Corynebacterium sp.J010B-136],GenBank:PQM73464.1,[online],2018年03月03日,[2022/07/25検索],インターネット<URL:https://www.ncbi.nlm.nih.gov/protein/PQM73464.1>
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C12P 13/08
C12N 15/00-15/90
CAplus/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
GenBank/EMBL/DDBJ/GeneSeq
UniProt/GeneSeq
PubMed
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
グリシントランスポーター活性が強化された、L-トレオニンを生産するコリネバクテリウム属微生物であって、前記グリシントランスポーターは、コリネバクテリウム・アンモニアゲネス(Corynebacterium ammoniagenes)由来のCycAタンパク質である、微生物
【請求項2】
前記タンパク質は、配列番号16又はそれと90%以上の配列同一性を有するアミノ酸配列を含むものである、請求項1に記載の微生物。
【請求項3】
前記微生物は、グリシン分解タンパク質の活性がさらに強化されたものであり、前記グリシン分解タンパク質は、GcvP、GcvT、GcvH、LipB及びLipAであり、前記グリシン分解タンパク質は、コリネバクテリウム・アンモニアゲネス由来のものである、請求項1に記載の微生物。
【請求項4】
前記GcvPは配列番号38、GcvTタンパク質は配列番号39、GcvHは配列番号40、LipAタンパク質は配列番号41、LipBタンパク質は配列番号42のアミノ酸配列を含むか、又は前記配列番号とそれぞれ90%以上の同一性を有するアミノ酸配列を含むものである、請求項に記載の微生物。
【請求項5】
前記L-トレオニンを生産するコリネバクテリウム属微生物は、コリネバクテリウム・グルタミカム(Corynebacterium glutamicum)である、請求項1に記載の微生物。
【請求項6】
請求項1~のいずれか一項に記載の微生物を含むL-トレオニン生産用組成物。
【請求項7】
請求項1~のいずれか一項に記載の微生物を培養するステップと、
前記微生物又は培地からL-トレオニンを回収するステップとを含む、L-トレオニン製造方法。
【請求項8】
グリシントランスポーター活性が強化された請求項1に記載のコリネバクテリウム属微生物のL-トレオニン生産における使用。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本出願は、L-トレオニン生産能が強化された微生物及びそれを用いたトレオニン生産方法に関する。
【背景技術】
【0002】
トレオニンは、必須アミノ酸の一種であり、飼料、食品添加剤及び動物成長促進剤として広く用いられており、医薬用に輸液剤、医薬品の合成原料としても用いられている。微生物を用いたトレオニン生産方法において、収率を向上させるためにトレオニン生合成遺伝子(ex.ppc,aspC,thrABC)を強化すると共にトレオニン分解経路を遮断する方法が知られている(非特許文献1)。トレオニン分解経路の遺伝子としては、tdh、tdcB、glyA、ilvAなどが挙げられるが、それらのうちilvA(トレオニンデアミナーゼ,Threonine deaminase)が最も主要なトレオニン分解遺伝子として知られている。分解遺伝子のうちilvA遺伝子が欠損すると、トレオニンの収率は大幅に向上するが、高価なイソロイシン(isoleucine)に対する要求が生じるという問題があるので、一般にはilvAの活性弱化及びisoleucineに対する高感受性変異が用いられている(Akhverdian Valery Z, et al.)。
【0003】
一方、トレオニンとグリシンの関係については、グリシン合成に関与するセリンヒドロキシメチルトランスフェラーゼの主な前駆体はセリンであり、酵素活性は、トレオニンを前駆体として用いるものより、セリンを用いるものの方が24倍高い(非特許文献2)ことが知られている。しかし、グリシン取り込みとトレオニン生産能については開示されていない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】韓国登録特許第10-0620092号公報
【文献】国際公開第2006/065095号
【文献】国際公開第2009/096689号
【文献】韓国登録特許第10-0924065号公報
【文献】韓国登録特許第10-1947959号公報
【文献】韓国登録特許第10-1126041号公報
【文献】韓国登録特許第10-1335853号公報
【非特許文献】
【0005】
【文献】Kwang-Ho Lee, et al., Molecular System Biology 2007
【文献】Simic et al., Appl Environ Microbiol. 2002
【文献】International Journal of Systematic and Evolutionary Microbiology 60: 874-879
【文献】Scheit, Nucleotide Analogs, John Wiley, New York(1980)
【文献】Uhlman及びPeyman, Chemical Reviews, 90:543-584(1990)
【文献】J. Sambrook et al., Molecular Cloning, A Laboratory Manual, 2nd Edition, Cold Spring Harbor Laboratory press, Cold Spring Harbor, New York, 1989
【文献】F.M. Ausubel et al., Current Protocols in Molecular Biology, John Wiley & Sons, Inc., New York
【文献】Karlin及びAltschul, Pro. Natl. Acad. Sci. USA, 90, 5873(1993)
【文献】Methods Enzymol., 183, 63, 1990
【文献】http://www.ncbi.nlm.nih.gov
【文献】John E. Cronan, Microbiology and Molecular Biology Reviews., 13 April 2016
【文献】Journal of Biotechnology 104, 5-25 Jorn Kalinowski et al, 2003
【文献】Biotechnology Letters 13(10): 721-726, 1991
【文献】Microbiology, 141(Pt 1); 133-40, 1995
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明者らは、細胞外に放出されたグリシンを取り込んで用いることのできる微生物を開発するために、コリネバクテリウム・アンモニアゲネス由来グリシントランスポーターcycAを導入することにより、高い収率でL-トレオニンを生産する菌株を完成した。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本出願は、グリシントランスポーター活性が強化された、L-トレオニンを生産するコリネバクテリウム属微生物を提供する。
本出願は、本出願の微生物を含むL-トレオニン生産用組成物を提供する。
【0008】
本出願は、本出願の微生物を培養するステップを含むL-トレオニン製造方法を提供する。
本出願は、グリシントランスポーター活性が強化されたコリネバクテリウム属微生物のL-トレオニン生産における使用を提供する。
【発明の効果】
【0009】
本出願のL-トレオニン生産用微生物は、優れたトレオニン生産能を有するので、効率的なL-トレオニンの大量生産に活用することができる。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、これらを具体的に説明する。なお、本出願で開示される各説明及び実施形態はそれぞれ他の説明及び実施形態にも適用される。すなわち、本出願で開示される様々な要素のあらゆる組み合わせが本出願に含まれる。また、以下の具体的な記述に本出願が限定されるものではない。
【0011】
また、当該技術分野における通常の知識を有する者であれば、通常の実験のみを用いて本出願に記載された本出願の特定の態様の多くの等価物を認識し、確認することができるであろう。さらに、その等価物も本出願に含まれることが意図されている。
【0012】
本出願の一態様は、グリシントランスポーター活性が強化された、L-トレオニンを生産するコリネバクテリウム属微生物を提供する。
本出願における「グリシントランスポーター(glycine transporter)」は、細胞内にグリシンを取り込む機能を有するタンパク質であればいかなるものでもよく、具体的にはD-セリン/D-アラニン/グリシントランスポーター(D-serine/D-alanine/glycine transporter)である。前記グリシントランスポーターは、D-セリン/D-アラニン/グリシントランスポーター又はグリシン取り込みタンパク質と混用される。
【0013】
前記「D-セリン/D-アラニン/グリシントランスポーター(D-serine/D-alanine/glycine transporter)」は、セリン、アラニン及びグリシン輸送の全てに関与するタンパク質であり、公知のデータベースであるNCBIGenBankなどでD-Serine/D-Alanine/glycinetransporter配列を検索すればその情報が得られる。前記トランスポーターは、具体的にはCycA、AapAであり、より具体的にはCycAタンパク質であるが、これらに限定されるものではない。
【0014】
本出願における「CycAタンパク質」とは、セリン、アラニン及びグリシン取り込み(uptake)に関与するタンパク質を意味する。CycAタンパク質は、cycA遺伝子によりコードされ、cycA遺伝子は、大腸菌(Escherichia coli)、クレブシエラ・ニューモニエ(Klebsiella pneumoniae)、マイコバクテリウム・ボビス(Mycobacterium bovis)、サルモネラ・エンテリカ(Salmonella enterica)、エルウィニア・アミロボラ(Erwinia amylovora)、コリネバクテリウム・アンモニアゲネス(Corynebacterium ammoniagenes)などの微生物に存在することが知られている。
【0015】
本出願の目的上、本出願のCycAタンパク質は、トレオニン生産能を強化することができるものであればいかなるものでもよい。具体的には、前記CycAタンパク質はコリネバクテリウム属微生物由来のものであり、より具体的にはコリネバクテリウム・アンモニアゲネス由来のものであるが、これらに限定されるものではない。前記コリネバクテリウム・アンモニアゲネス(Corynebacterium ammoniagenes)は、ブレビバクテリウム・アンモニアゲネス(Brevibacterium ammoniagenes)と同種であり、コリネバクテリウム・スタティオニス(Corynebacterium stationis)、ブレビバクテリウム・スタティオニス(Brevibacterium stationis)と同一分類群(taxon)に分類されている(非特許文献3)。また、前記ブレビバクテリウム・アンモニアゲネスはコリネバクテリウム・スタティオニスともいう。
【0016】
よって、本出願において、コリネバクテリウム・アンモニアゲネス、ブレビバクテリウム・アンモニアゲネス、コリネバクテリウム・スタティオニス、ブレビバクテリウム・スタティオニスは混用されてもよい。
【0017】
本出願のCycAタンパク質は、配列番号16のアミノ酸配列を含むものであってもよく、それと70%以上の相同性又は同一性を有するアミノ酸配列を含むものであってもよい。
【0018】
具体的には、前記CycAタンパク質は、配列番号16のアミノ酸配列を含むものであってもよく、配列番号16のアミノ酸配列と少なくとも70%、75%、80%、85%、86%、87%、88%、89%、90%、91%、92%、93%、94%、95%、96%、97%、98%又は99%以上の相同性又は同一性を有するアミノ酸配列を含むものであってもよい。また、前記相同性又は同一性を有し、前記タンパク質に相当する効能を示すアミノ酸配列であれば、一部の配列が欠失、改変、置換又は付加されたアミノ酸配列を有するものも本出願に含まれることは言うまでもない。
【0019】
さらに、公知の遺伝子配列から製造されるプローブ、例えば前記ポリペプチドをコードする塩基配列の全部又は一部に対する相補配列とストリンジェントな条件下でハイブリダイズするポリヌクレオチドによりコードされるポリペプチドであって、セリン、アラニン及びグリシン取り込み活性を有するポリペプチドであればいかなるものでもよい。
【0020】
すなわち、本出願において「特定配列番号で表されるアミノ酸配列を含むタンパク質もしくはポリペプチド」、「特定配列番号で表されるアミノ酸配列からなるタンパク質もしくはポリペプチド」又は「特定配列番号で表されるアミノ酸配列を有するタンパク質もしくはポリペプチド」と記載されていても、当該配列番号のアミノ酸配列からなるポリペプチドと同一又は相当する活性を有するものであれば、一部の配列が欠失、改変、置換、保存的置換又は付加されたアミノ酸配列を有するタンパク質であっても本出願に用いられることは言うまでもない。例えば、前記アミノ酸配列のN末端及び/又はC末端にタンパク質の機能を変更しない配列の付加、自然に発生し得る突然変異、その非表現突然変異(silent mutation)又は保存的置換を有するものが挙げられる。
【0021】
前記「保存的置換(conservative substitution)」とは、あるアミノ酸が類似した構造的及び/又は化学的性質を有する他のアミノ酸に置換されることを意味する。このようなアミノ酸置換は、一般に残基の極性、電荷、溶解性、疎水性、親水性及び/又は両親媒性(amphipathic nature)における類似性に基づいて発生し得る。例えば、正に荷電した(塩基性)アミノ酸としては、アルギニン、リシン及びヒスチジンが挙げられ、負に荷電した(酸性)アミノ酸としては、グルタミン酸及びアスパラギン酸が挙げられ、芳香族アミノ酸としては、フェニルアラニン、トリプトファン及びチロシンが挙げられ、疎水性アミノ酸としては、アラニン、バリン、イソロイシン、ロイシン、メチオニン、フェニルアラニン、チロシン及びトリプトファンが挙げられる。
【0022】
本出願における「ポリヌクレオチド」は、DNA又はRNA分子を包括する意味で用いられ、ポリヌクレオチドにおける基本構成単位であるヌクレオチドには、天然ヌクレオチドだけでなく、糖又は塩基部位が変形したアナログも含まれる(非特許文献4、5参照)。
【0023】
前記ポリヌクレオチドは、本出願のCycAタンパク質をコードするポリヌクレオチドであってもよく、本出願のCycAタンパク質と少なくとも70%、75%、80%、85%、86%、87%、88%、89%、90%、91%、92%、93%、94%、95%、96%、97%、98%又は99%の相同性又は同一性を有するポリペプチドをコードするポリヌクレオチドであってもよい。具体的には、例えば配列番号16又は配列番号16と70%以上の相同性もしくは同一性を有するアミノ酸配列を含むタンパク質をコードするポリヌクレオチドは、配列番号17又は配列番号17のポリヌクレオチド配列と少なくとも70%、75%、80%、85%、86%、87%、88%、89%、90%、91%、92%、93%、94%、95%、96%、97%、98%もしくは99%の相同性もしくは同一性を有するポリヌクレオチドであってもよい。
【0024】
また、コドンの縮退(codon degeneracy)により、配列番号16もしくは配列番号16と70%以上の同一性を有するアミノ酸配列を含むタンパク質、又はそれと相同性もしくは同一性を有するタンパク質に翻訳されるポリヌクレオチドも含まれることは言うまでもない。あるいは、公知の遺伝子配列から製造されるプローブ、例えば前記ポリヌクレオチド配列の全部又は一部に対する相補配列とストリンジェントな条件下でハイドリダイズすることにより、配列番号16のアミノ酸配列と70%以上の同一性を有するアミノ酸配列を含むタンパク質をコードするポリヌクレオチド配列であればいかなるものでもよい。前記「ストリンジェントな条件」とは、ポリヌクレオチド間の特異的ハイブリダイゼーションを可能にする条件を意味する。このような条件は文献(例えば、非特許文献6、7)に具体的に記載されている。例えば、相同性又は同一性の高い遺伝子同士、70%以上、80%以上、具体的には85%以上、より具体的には90%以上、さらに具体的には95%以上、一層具体的には97%以上、特に具体的には99%以上の相同性又は同一性を有する遺伝子同士をハイブリダイズし、それより相同性又は同一性の低い遺伝子同士をハイブリダイズしない条件、又は通常のサザンハイブリダイゼーションの洗浄条件である60℃、1×SSC、0.1%SDS、具体的には60℃、0.1×SSC、0.1%SDS、より具体的には68℃、0.1×SSC、0.1%SDSに相当する塩濃度及び温度において、1回、具体的には2回~3回洗浄する条件が挙げられる。
【0025】
ハイブリダイゼーションは、たとえハイブリダイゼーションの厳格さに応じて塩基間のミスマッチ(mismatch)が可能であっても、2つのポリヌクレオチドが相補的配列を有することが求められる。「相補的」とは、互いにハイブリダイゼーションが可能なヌクレオチド塩基間の関係を表すために用いられるものである。例えば、DNAにおいて、アデノシンはチミンに相補的であり、シトシンはグアニンに相補的である。よって、本出願には、実質的に類似するポリヌクレオチド配列だけでなく、全配列に相補的な単離されたポリヌクレオチド断片が含まれてもよい。
【0026】
具体的には、相同性又は同一性を有するポリヌクレオチドは、55℃のTm値でハイブリダイゼーションステップが行われるハイブリダイゼーション条件と前述した条件を用いて検知することができる。また、前記Tm値は、60℃、63℃又は65℃であってもよいが、これらに限定されるものではなく、その目的に応じて当業者により適宜調節されてもよい。
【0027】
本出願における「相同性(homology)」又は「同一性(identity)」とは、2つの与えられたアミノ酸配列又は塩基配列が関連する程度を意味し、百分率で表される。相同性及び同一性は、しばしば相互交換的に用いられる。保存されている(conserved)ポリヌクレオチド又はポリペプチドの配列相同性又は同一性は標準配列アルゴリズムにより決定され、用いられるプログラムにより確立されたデフォルトギャップペナルティが共に用いられてもよい。実質的には、相同性を有するか(homologous)又は同じ(identical)配列は、中程度又は高いストリンジェントな条件(stringent conditions)下において、一般に配列全体又は全長の少なくとも約50%、60%、70%、80%又は90%以上ハイブリダイズすることができる。ハイブリダイゼーションは、ポリヌクレオチドがコドンの代わりに縮退コドンを有するようにするものであってもよい。
【0028】
前記ポリペプチド又はポリヌクレオチド配列の相同性又は同一性は、例えば文献によるアルゴリズムBLAST[参照:非特許文献8]やPearsonによるFASTA(参照:非特許文献9)を用いて決定することができる。このようなアルゴリズムBLASTに基づいて、BLASTNやBLASTXというプログラムが開発されている(参照:非特許文献10)。また、任意のアミノ酸又はポリヌクレオチド配列が相同性、類似性又は同一性を有するか否かは、定義されたストリンジェントな条件下にてサザンハイブリダイゼーション実験で配列を比較することにより確認することができ、定義される好適なハイブリダイゼーション条件は当該技術の範囲内であり、当業者に周知の方法(例えば、非特許文献6、7)で決定されてもよい。
【0029】
本出願における「タンパク質の活性強化」とは、微生物が有するタンパク質の内在性活性又は改変前の活性に比べて活性が向上することを意味する。前記活性強化は、外来タンパク質の導入と、内在性タンパク質の活性強化の両方を含むものである。すなわち、特定タンパク質の内在性活性のある微生物に外来タンパク質を導入することや、内在性活性のない微生物に前記タンパク質を導入することも含まれる。前記「タンパク質の導入」とは、特定タンパク質の活性が微生物内に導入されて発現するように改変することを意味する。これを当該タンパク質の活性強化ともいう。
【0030】
本出願における「内在性」とは、自然要因又は人為的要因により遺伝的に変異して微生物の形質が変化する場合に、形質変化の前に親株が本来有していた状態を意味する。
本出願における活性強化は、1)前記タンパク質をコードするポリヌクレオチドのコピー数の増加、2)前記ポリヌクレオチドの発現を増加させる発現調節配列の改変、3)前記タンパク質の活性を強化する染色体上のポリヌクレオチド配列の改変、4)前記タンパク質の活性を示す外来ポリヌクレオチド又は前記ポリヌクレオチドのコドン最適化された変異型ポリヌクレオチドの導入、又は5)それらの組み合わせにより強化する改変などにより行われるが、これらに限定されるものではない。
【0031】
前記1)ポリヌクレオチドのコピー数の増加は、特にこれらに限定されるものではないが、ベクターに作動可能に連結された形態で行われるか、宿主細胞内の染色体内に挿入されることにより行われる。具体的には、本願のタンパク質をコードするポリヌクレオチドが作動可能に連結された、宿主に関係なく複製されて機能するベクターが宿主細胞に導入されることより行われるか、前記ポリヌクレオチドが作動可能に連結された、宿主細胞内の染色体内に前記ポリヌクレオチドを挿入することのできるベクターが宿主細胞内に導入されることにより前記宿主細胞の染色体内の前記ポリヌクレオチドのコピー数を増加する方法で行うことができる。
【0032】
次に、2)ポリヌクレオチドの発現を増加させる発現調節配列の改変は、特にこれらに限定されるものではないが、前記発現調節配列の活性がさらに強化されるように、核酸配列の欠失、挿入、非保存的もしくは保存的置換、又はそれらの組み合わせにより配列上の変異を誘導して行われるか、より強い活性を有する核酸配列に置換することにより行われる。前記発現調節配列には、特にこれらに限定されるものではないが、プロモーター、オペレーター配列、リボソーム結合部位をコードする配列、転写及び翻訳の終結を調節する配列などが含まれる。
【0033】
前記ポリヌクレオチド発現単位の上流には、本来のプロモーターに代えて強力な異種プロモーターが連結され、前記強力なプロモーターの例としては、CJ7プロモーター(特許文献1及び2)、lysCP1プロモーター(特許文献3)、EF-Tuプロモーター、groELプロモーター、aceA又はaceBプロモーターなどが挙げられるが、これらに限定されるものではない。また、3)染色体上のポリヌクレオチド配列の改変は、特にこれらに限定されるものではないが、前記ポリヌクレオチド配列の活性がさらに強化されるように、核酸配列の欠失、挿入、非保存的もしくは保存的置換、又はそれらの組み合わせにより発現調節配列上の変異を誘導して行われるか、より強い活性を有するように改良されたポリヌクレオチド配列に置換することにより行うことができる。
【0034】
さらに、4)外来ポリヌクレオチド配列の導入は、前記タンパク質と同一/類似の活性を示すタンパク質をコードする外来ポリヌクレオチド、又はそのコドン最適化された変異型ポリヌクレオチドを宿主細胞に導入することにより行うことができる。前記外来ポリヌクレオチドは、前記タンパク質と同一/類似の活性を示すものであれば、その由来や配列が限定されるものではない。また、宿主細胞内で最適化された転写、翻訳が行われるように、導入された前記外来ポリヌクレオチドのコドンを最適化して宿主細胞に導入してもよい。前記導入は、公知の形質転換方法を当業者が適宜選択して行うことができ、宿主細胞内で前記導入されたポリヌクレオチドが発現することにより、タンパク質が産生されてその活性が増加してもよい。
【0035】
最後に、5)前記1)~4)の組み合わせにより強化する改変は、前記タンパク質をコードするポリヌクレオチドのコピー数の増加、その発現を増加させる発現調節配列の改変、染色体上の前記ポリヌクレオチド配列の改変、及び前記タンパク質の活性を示す外来ポリヌクレオチド又はそのコドン最適化された変異型ポリヌクレオチドの改変の少なくとも1つの方法を共に適用することにより行うことができる。
【0036】
本出願における「ベクター」とは、好適な宿主内で標的タンパク質を発現させることができるように、好適な調節配列に作動可能に連結された前記標的タンパク質をコードするポリヌクレオチド配列を含有するDNA産物を意味する。前記調節配列には、転写を開始するプロモーター、その転写を調節するための任意のオペレーター配列、好適なmRNAリボソーム結合部位をコードする配列、並びに転写及び翻訳の終結を調節する配列が含まれてもよい。ベクターは、好適な宿主細胞内に形質転換されると、宿主ゲノムに関係なく複製及び機能することができ、ゲノム自体に組み込まれてもよい。例えば、細胞内染色体導入用ベクターにより、染色体内で標的タンパク質をコードするポリヌクレオチドを変異したポリヌクレオチドに置換することができる。前記ポリヌクレオチドの染色体内への挿入は、当該技術分野で公知の任意の方法、例えば相同組換えにより行うことができるが、これに限定されるものではない。
【0037】
本出願のベクターは、特に限定されるものではなく、当該技術分野で公知の任意のベクターが用いられてもよい。通常用いられるベクターの例としては、天然状態又は組換え状態のプラスミド、コスミド、ウイルス及びバクテリオファージが挙げられる。例えば、ファージベクター又はコスミドベクターとしては、pWE15、M13、MBL3、MBL4、IXII、ASHII、APII、t10、t11、Charon4A、Charon21Aなどを用いることができ、プラスミドベクターとしては、pBR系、pUC系、pBluescriptII系、pGEM系、pTZ系、pCL系、pET系などを用いることができる。具体的にはpDZ、pACYC177、pACYC184、pCL、pECCG117、pUC19、pBR322、pMW118、pCC1BACベクターなどを用いることができる。
【0038】
本出願における「形質転換」とは、標的タンパク質をコードするポリヌクレオチドを含むベクターを宿主細胞内に導入することにより、宿主細胞内で前記ポリヌクレオチドがコードするタンパク質を発現させることを意味する。形質転換されたポリヌクレオチドは、宿主細胞内で発現するものであれば、宿主細胞の染色体内に挿入されて位置するか、染色体外に位置するかに関係なく、いかなるものでもよい。また、前記ポリヌクレオチドは、標的タンパク質をコードするDNAやRNAを含むものである。前記ポリヌクレオチドは、宿主細胞内に導入されて発現するものであれば、いかなる形態で導入されるものでもよい。例えば、前記ポリヌクレオチドは、自ら発現する上で必要な全ての要素を含む遺伝子構造体である発現カセット(expression cassette)の形態で宿主細胞に導入されるものでもよい。通常、前記発現カセットは、前記ポリヌクレオチドに作動可能に連結されたプロモーター(promoter)、転写終結シグナル、リボソーム結合部位及び翻訳終結シグナルを含む。前記発現カセットは、自己複製可能な発現ベクターの形態であってもよい。また、前記ポリヌクレオチドは、それ自体の形態で宿主細胞に導入され、宿主細胞において発現に必要な配列と作動可能に連結されたものであってもよいが、これに限定されるものではない。
【0039】
また、本出願における「作動可能に連結」されたものとは、本願の目的タンパク質をコードするポリヌクレオチドの転写を開始及び媒介するプロモーター配列と前記遺伝子配列が機能的に連結されたものを意味する。
【0040】
本出願のベクターを形質転換する方法は、核酸を細胞内に導入するいかなる方法であってもよく、当該分野において公知であるように、宿主細胞に適した標準技術を選択して行うことができる。例えば、エレクトロポレーション(electroporation)、リン酸カルシウム(CaPO4)沈殿、塩化カルシウム(CaCl)沈殿、微量注入法(microinjection)、ポリエチレングリコール(PEG)法、DEAE-デキストラン法、カチオン性リポソーム法、酢酸リチウム-DMSO法などが挙げられるが、これらに限定されるものではない。
【0041】
本出願における「L-トレオニンを生産する微生物」とは、野生型微生物や自然に又は人為的に遺伝的改変が行われた微生物が全て含まれるものであり、自然にL-トレオニン生産能を有する微生物、又はL-トレオニン生産能のない親株にL-トレオニン生産能が付与された微生物を意味する。外部遺伝子が挿入されるか、内在性遺伝子の活性が強化又は不活性化されるなどの原因により、特定機序が弱化又は強化された微生物であって、目的とするL-トレオニン生産のために遺伝的変異を起こすか、活性を強化した微生物であってもよい。
【0042】
例えば、前記L-トレオニンを生産する微生物は、グリシントランスポーター活性が強化された微生物であってもよい。あるいは、それに加えて、トレオニン生合成経路における酵素のフィードバック阻害を解除するか、トレオニン生合成経路に関与する酵素を強化又は抑制することにより、トレオニンを生産する微生物であってもよい。あるいは、トレオニン生合成に影響を及ぼさない酵素又はタンパク質の活性を不活性化し、トレオニン生合成経路への代謝を円滑にすることにより、トレオニンを生産する微生物であってもよい。あるいは、トレオニン生合成経路における中間体、補因子、又はエネルギー源を消費する経路におけるタンパク質もしくは酵素の活性を不活性化した微生物であってもよい。
【0043】
より具体的には、lysC(aspartate kinase)、hom(homoserine dehydrogenase)ポリペプチドを変異させてトレオニン生合成経路のフィードバック阻害を解除するか、トレオニン生産増加に関与するタンパク質の発現を強化するか、トレオニン分解経路の酵素を不活性化した微生物であってもよい。
【0044】
しかし、これらの例に限定されるものではなく、様々な公知のL-トレオニン生合成経路の酵素をコードする遺伝子の発現を増加させるか、分解経路の酵素を不活性化した微生物であってもよい。前記L-トレオニンを生産する微生物は、公知の様々な方法を用いて製造することができる。
【0045】
本出願における「タンパク質活性の不活性化」とは、酵素又はタンパク質の発現が天然の野生型菌株、親株、又は当該タンパク質が改変されていない菌株に比べて全く発現しないことや、発現してもその活性がなくなるか、減少することを意味する。ここで、前記減少は、前記タンパク質をコードする遺伝子の変異、発現調節配列の改変、遺伝子の一部又は全部の欠損などによりタンパク質の活性が本来微生物が有するタンパク質の活性より減少した場合や、それをコードする遺伝子の発現阻害、翻訳(translation)阻害などにより細胞内で全体的なタンパク質の活性の程度が天然の菌株又は改変前の菌株より低下した場合や、それらの組み合わせを含む概念である。本出願における前記不活性化は、当該分野で公知の様々な方法の適用により達成することができる。前記方法の例として、1)前記タンパク質をコードする前記遺伝子の全部又は一部を欠失させる方法、2)前記タンパク質をコードする前記遺伝子の発現が減少するように発現調節配列を改変する方法、3)前記タンパク質の活性が欠失又は弱化するようにタンパク質をコードする前記遺伝子配列を改変する方法、4)前記タンパク質をコードする前記遺伝子の転写産物に相補的に結合するアンチセンスオリゴヌクレオチド(例えば、アンチセンスRNA)を導入する方法、5)前記タンパク質をコードする前記遺伝子のシャイン・ダルガノ(Shine-Dalgarno)配列の前にシャイン・ダルガノ配列と相補的な配列を付加することにより2次構造物を形成させてリボソーム(ribosome)の付着を不可能にする方法、6)前記タンパク質をコードする前記遺伝子のポリヌクレオチド配列のORF(open reading frame)の3’末端に逆転写するようにプロモーターを付加する方法(Reverse transcription engineering, RTE)などが挙げられ、それらの組み合わせによっても達成することができるが、前記例に特に限定されるものではない。
【0046】
本出願の目的上、本出願の微生物は、前記グリシントランスポーターをはじめとする、L-トレオニンを生産する微生物であればいかなるものでもよい。
本出願における前記「L-トレオニンを生産する微生物」は、「L-トレオニンを生産できる微生物」、「L-トレオニン生産能を有する微生物」、「L-トレオニン生産用微生物」と混用されてもよい。
【0047】
本出願のトレオニンを生産する微生物は、グリシン分解タンパク質の活性がさらに強化されたものであってもよい。前記「トレオニンを生産する微生物」、「タンパク質の活性強化」については前述した通りである。
【0048】
本出願における「グリシン分解タンパク質」は、グリシン分解経路に直接又は間接的に関与するタンパク質であり、「グリシン開裂系(glycine cleavage system; GCV)」を構成する各タンパク質もしくは前記タンパク質の複合体(complex)、又は前記グリシン開裂系自体を意味するものとして用いられる。
【0049】
具体的には、前記グリシン分解タンパク質は、グリシン開裂系を構成するT-タンパク質(GcvT)、P-タンパク質(GcvP)、L-タンパク質(GcvL)、H-タンパク質(GcvH)及び前記グリシン開裂系の補酵素であるLipB、LipAからなる群から選択される少なくとも1つのタンパク質であってもよいが、これらに限定されるものではない(非特許文献11)。前記グリシン分解タンパク質は、コリネバクテリウム属微生物由来のもの、具体的にはコリネバクテリウム・アンモニアゲネス由来のものであるが、これらに限定されるものではない。前記GcvPタンパク質は配列番号38、GcvTタンパク質は配列番号39、GcvHタンパク質は配列番号40、LipAタンパク質は配列番号41、LipBタンパク質は配列番号42のアミノ酸配列を含むタンパク質であるか、前記タンパク質とそれぞれ70%以上の相同性又は同一性を有するものであってもよいが、これらに限定されるものではない。具体的には、前記GcvPタンパク質は、配列番号38のアミノ酸配列を含むものであってもよく、配列番号38のアミノ酸配列と少なくとも70%、75%、80%、85%、86%、87%、88%、89%、90%、91%、92%、93%、94%、95%、96%、97%、98%又は99%以上の相同性又は同一性を有するアミノ酸配列を含むものであってもよい。前記相同性又は同一性については、GcvT、GcvH、LipA、LipBにおいても同様である。また、前記相同性又は同一性を有し、前記タンパク質に相当する効能を示すアミノ酸配列であれば、一部の配列が欠失、改変、置換又は付加されたアミノ酸配列を有するものも本出願に含まれることは言うまでもない。
【0050】
さらに、公知の遺伝子配列から製造されるプローブ、例えば前記ポリペプチドをコードする塩基配列の全部又は一部に対する相補配列とストリンジェントな条件下でハイブリダイズするポリヌクレオチドによりコードされるポリペプチドであって、グリシン分解活性を有するポリペプチドであればいかなるものでもよい。
【0051】
前記相同性又は同一性については前述した通りである。
本出願における「L-トレオニンを生産するコリネバクテリウム属(the genus of Corynebacterium)微生物」とは、L-トレオニンを生産する微生物であって、コリネバクテリウム属に属する微生物を意味する。前記L-トレオニンを生産する微生物については前述した通りである。具体的には、本出願におけるL-トレオニン生産能を有するコリネバクテリウム属微生物とは、本出願のグリシントランスポーターの活性が強化されるか、又は前記グリシントランスポーターをコードする遺伝子を含むベクターで形質転換されることにより、向上したL-トレオニン生産能を有するようになったコリネバクテリウム属微生物を意味する。また、それに加えて、グリシン分解タンパク質の活性が強化されるか、又は前記グリシン分解タンパク質をコードする遺伝子を含むベクターで形質転換されることにより、向上したL-トレオニン生産能を有するようになったコリネバクテリウム属微生物を意味する。前記「向上したL-トレオニン生産能を有するようになったコリネバクテリウム属微生物」とは、形質転換前の親株又は非改変微生物に比べてL-トレオニン生産能が向上した微生物を意味する。前記「非改変微生物」とは、天然のコリネバクテリウム属菌株自体、前記グリシントランスポーターをコードする遺伝子を含まない微生物、又は前記グリシントランスポーターをコードする遺伝子を含むベクターで形質転換されていない微生物を意味する。
【0052】
本出願における「コリネバクテリウム属微生物」は、コリネバクテリウム属微生物であればいかなるものでもよい。具体的には、コリネバクテリウム・グルタミカム(Corynebacterium glutamicum)、コリネバクテリウム・クルジラクチス(Corynebacterium crudilactis)、コリネバクテリウム・デセルティ(Corynebacterium deserti)、コリネバクテリウム・エフィシエンス(Corynebacterium efficiens)、コリネバクテリウム・カルナエ(Corynebacterium callunae)、コリネバクテリウム・スタティオニス(Corynebacterium stationis)、コリネバクテリウム・シングラレ(Corynebacterium singulare)、コリネバクテリウム・ハロトレランス(Corynebacterium halotolerans)、コリネバクテリウム・ストリアツム(Corynebacterium striatum)、コリネバクテリウム・アンモニアゲネス(Corynebacterium ammoniagenes)、コリネバクテリウム・ポルティソリ(Corynebacterium pollutisoli)、コリネバクテリウム・イミタンス(Corynebacterium imitans)、コリネバクテリウム・テスツディノリス(Corynebacterium testudinoris)又はコリネバクテリウム・フラベッセンス(Corynebacterium flavescens)であり、より具体的には、コリネバクテリウム・グルタミカムである。
【0053】
本出願の他の態様は、本出願のL-トレオニン生産用微生物を含むL-トレオニン生産用組成物を提供する。
前記L-トレオニン生産用組成物とは、本出願のL-トレオニンを生産する微生物によりL-トレオニンを生産する組成物を意味する。前記組成物は、前記L-トレオニンを生産する微生物を含み、前記菌株を用いてトレオニンを生産することができるさらなる構成であればいかなるものでもよい。前記トレオニンを生産することができるさらなる構成は、例えば発酵用組成物に通常用いられる任意の好適な賦形剤、又は培地の構成成分をさらに含んでもよい。このような賦形剤としては、例えば保存剤、湿潤剤、分散剤、懸濁化剤、緩衝剤、安定化剤、等張化剤などが挙げられるが、これらに限定されるものではない。
【0054】
本出願のさらに他の態様は、前記微生物を培養するステップを含むL-トレオニン製造方法を提供する。
本出願の微生物の培養に用いられる培地及び他の培養条件は、通常のコリネバクテリウム属微生物の培養に用いられるものであればいかなるものでもよく、具体的には好適な炭素源、窒素源、リン源、無機化合物、アミノ酸及び/又はビタミンなどを含有する通常の培地中で好気性又は嫌気性条件下にて温度、pHなどを調節して本出願の微生物を培養することができる。
【0055】
本出願における前記炭素源としては、グルコース、フルクトース、スクロース、マルトースなどの炭水化物、糖アルコール、グリセリンなどのアルコール、パルミチン酸、ステアリン酸、リノール酸などの脂肪酸、ピルビン酸、乳酸、酢酸、クエン酸などの有機酸、グルタミン酸、メチオニン、リシンなどのアミノ酸などが挙げられるが、これらに限定されるものではない。また、デンプン加水分解物、糖蜜、ブラックストラップ糖蜜、米糠、キャッサバ、バガス、トウモロコシ浸漬液などの天然の有機栄養源を用いることができ、殺菌した前処理糖蜜(すなわち、還元糖に変換した糖蜜)などの炭水化物を用いることができ、その他適量の炭素源であればいかなるものでも用いることができる。これらの炭素源は、単独で用いることもでき、2種以上を組み合わせて用いることもできる。
【0056】
前記窒素源としては、アンモニア、硫酸アンモニウム、塩化アンモニウム、酢酸アンモニウム、リン酸アンモニウム、炭酸アンモニウム、硝酸アンモニウムなどの無機窒素源と、グルタミン酸、メチオニン、グルタミンなどのアミノ酸、ペプトン、NZ-アミン、肉類抽出物、酵母抽出物、麦芽抽出物、トウモロコシ浸漬液、カゼイン加水分解物、魚類又はその分解生成物、脱脂大豆ケーキ又はその分解生成物などの有機窒素源とを用いることができる。これらの窒素源は、単独で用いることもでき、2種以上を組み合わせて用いることもできるが、これらに限定されるものではない。
【0057】
前記リン源としては、リン酸二水素カリウム、リン酸水素二カリウム又はそれらに相当するナトリウム含有塩などが挙げられる。無機化合物としては、塩化ナトリウム、塩化カルシウム、塩化鉄、硫酸マグネシウム、硫酸鉄、硫酸マンガン、炭酸カルシウムなどを用いることができる。
【0058】
それ以外に、前記培地は、ビタミン及び/又は好適な前駆体などを含有してもよい。前記培地又は前駆体は、培養物に回分式又は連続式で添加することができるが、これらに限定されるものではない。
【0059】
本出願において、微生物の培養中に水酸化アンモニウム、水酸化カリウム、アンモニア、リン酸、硫酸などの化合物を培養物に好適な方法で添加することにより、培養物のpHを調整することができる。また、培養中には、脂肪酸ポリグリコールエステルなどの消泡剤を用いて気泡生成を抑制することができる。さらに、培養物の好気状態を維持するために、培養物中に酸素又は酸素含有気体を注入してもよく、嫌気及び微好気状態を維持するために、気体を注入しなくてもよく、窒素、水素又は二酸化炭素ガスを注入してもよい。
【0060】
培養物の温度は、25℃~40℃、より具体的には28℃~37℃であるが、これらに限定されるものではない。培養期間は、所望の有用物質の生成量が得られるまで続けられ、具体的には1時間~100時間であるが、これに限定されるものではない。
【0061】
前記L-トレオニン製造方法は、前記培養ステップの後に、前記微生物、前記培地、その培養物、培養物の上清、培養物の抽出物及び前記微生物の破砕物から選択される少なくとも1つの物質からL-トレオニンを回収するステップを含んでもよい。
【0062】
前記回収ステップは、本出願の微生物の培養方法、例えば回分、連続、流加培養方法などに応じて、当該技術分野で公知の好適な方法を用いて培養液から標的物質であるL-トレオニンを回収することができる。例えば、前記L-トレオニンの回収には、沈殿、遠心分離、濾過、クロマトグラフィー、結晶化などの方法が用いられる。一例として、培養物を低速で遠心分離することによりバイオマスを除去し、得られた上清をイオン交換クロマトグラフィーにより分離することができるが、これに限定されるものではない。
【0063】
前記回収ステップは、精製工程を含んでもよい。
本出願のさらに他の態様は、グリシントランスポーター活性が強化されたコリネバクテリウム属微生物のL-トレオニン生産における使用を提供する。
【0064】
前記「グリシントランスポーター(glycine transporter)」、「活性強化」又は「コリネバクテリウム属微生物」については前述した通りである。
【実施例
【0065】
以下、実施例及び実験例を挙げて本出願をより詳細に説明する。しかし、これらの実施例及び実験例は本出願を例示するものにすぎず、本出願がこれらの実施例及び実験例に限定されるものではない。
【実施例1】
【0066】
野生型コリネバクテリウム属微生物を用いたL-トレオニン生産菌株の作製
実施例1-1:L-トレオニン生産能を有するコリネバクテリウム属微生物菌株の作製
野生種コリネバクテリウム・グルタミカムATCC13032からL-トレオニン生産菌株を開発した。具体的には、トレオニン生合成経路において最初の重要な酵素として作用するaspartatekinase(lysC)のフィードバック阻害(feedback inhibition)を解除するために、lysCの377番目のアミノ酸であるロイシン(Leucine)をリシン(Lysine)に置換した菌株を作製し(配列番号1)、その菌株に基づいて、トレオニン生合成経路において重要なhomoserinedehydrogenase(hom)のフィードバック阻害(feedback inhibition)を解除するために、homの398番目のアミノ酸であるアルギニン(Arginine)をグルタミン(Glutamine)に置換してトレオニン生産菌株を作製した(配列番号6)。
【0067】
実施例1-1-1:lysC変異の導入
具体的には、lysC(L377K)変異を導入した菌株を作製するために、ATCC13032の染色体を鋳型とし、配列番号2及び配列番号3、又は配列番号4及び配列番号5のプライマーを用いてPCRをそれぞれ行った。PCR反応のためのポリメラーゼとしては、PfuUltraTMハイフィデリティDNAポリメラーゼ(Stratagene)を用いた。PCR条件は、95℃で30秒間の変性、55℃で30秒間のアニーリング、72℃で1分間の重合反応を28サイクル行うものとした。その結果、lysC遺伝子の変異を中心に、5’末端上流の515bpのDNA断片と、3’末端下流の538bpのDNA断片がそれぞれ得られた。増幅された2つのDNA断片を鋳型とし、配列番号2及び配列番号5のプライマーでPCRを行った。PCR条件は、95℃で5分間の変性後、95℃で30秒間の変性、55℃で30秒間のアニーリング、72℃で2分間の重合を28サイクル行い、その後72℃で5分間の重合反応を行うものとした。その結果、377番目のロイシンがリシンに置換されたアスパルトキナーゼ変異体をコードするlysC遺伝子の変異を含む1023bpのDNA断片が増幅された。QIAGEN社のPCRPurificationkitを用いて増幅産物を精製し、ベクター作製のための挿入DNA断片として用いた。一方、制限酵素smaIで処理し、その後65℃で20分間熱処理したpDZ(特許文献4)ベクターと、前記PCRにより増幅した挿入DNA断片のモル濃度(M)の比が1:2になるように、タカラ(TaKaRa)のInfusion Cloning Kitを用いて、提供されたマニュアルに従ってクローニングすることにより、lysC(L377K)変異を染色体上に導入するためのベクターpDZ-L377Kを作製した。
【0068】
作製したベクターをエレクトロポレーションによりATCC13032に形質転換し、2次交差過程を経て、染色体上で各塩基変異が変異型塩基に置換された菌株が得られた。これをCJP1と命名した。
【0069】
実施例1-1-2:hom変異の導入
CJP1菌株をベースとしてhom(R398Q)変異を導入した菌株を作製するために、ATCC13032の染色体を鋳型とし、配列番号7及び配列番号8、又は配列番号9及び配列番号10のプライマーを用いてPCRをそれぞれ行った。PCR反応のためのポリメラーゼとしては、PfuUltraTMハイフィデリティDNAポリメラーゼ(Stratagene)を用いた。PCR条件は、95℃で30秒間の変性、55℃で30秒間のアニーリング、72℃で1分間の重合反応を28サイクル行うものとした。その結果、hom遺伝子の変異を中心に、5’末端上流の668bpのDNA断片と、3’末端下流の659bpのDNA断片がそれぞれ得られた。増幅された2つのDNA断片を鋳型とし、配列番号7及び配列番号10のプライマーでPCRを行った。PCR条件は、95℃で5分間の変性後、95℃で30秒間の変性、55℃で30秒間のアニーリング、72℃で2分間の重合を28サイクル行い、その後72℃で5分間の重合反応を行うものとした。その結果、398番目のアルギニンがグルタミンに置換されたhomoserinedehydrogenase変異体をコードするhom遺伝子の変異を含む1327bpのDNA断片が増幅された。QIAGEN社のPCRPurificationkitを用いて増幅産物を精製し、ベクター作製のための挿入DNA断片として用いた。一方、制限酵素smaIで処理し、その後65℃で20分間熱処理したpDZベクターと、前記PCRにより増幅した挿入DNA断片のモル濃度(M)の比が1:2になるように、タカラ(TaKaRa)のInfusion Cloning Kitを用いて、提供されたマニュアルに従ってクローニングすることにより、hom(R398Q)変異を染色体上に導入するためのベクターpDZ-R398Qを作製した。
【0070】
作製したベクターをエレクトロポレーションにより、前述したように得られたコリネバクテリウム・グルタミカムCJP1に形質転換し、2次交差過程を経て、染色体上で各変異型塩基に置換された菌株が得られた。この菌株をCJP1-R398Qと命名し、ブダペスト条約上の国際寄託機関である韓国微生物保存センター(KCCM)に寄託番号KCCM12120Pとして国際寄託した(特許文献5)。
【0071】
実施例1-2:D-alanine/D-serine/glycine transporter遺伝子を導入したL-トレオニン生産菌株の作製
実施例1-1で作製した微生物においてコリネバクテリウム・グルタミカム染色体内にD-alanine/D-serine/glycinetransporter遺伝子を挿入するための実験を行った。
【0072】
実施例1-2-1:コリネバクテリウム・アンモニアゲネス由来グリシントランスポーター(CycA(Cam))導入菌株の作製
グリシントランスポータータンパク質をコードする遺伝子cycAを挿入するために、トランスポゾン(Transposon)をコードするNcgl2131遺伝子を挿入サイトとして用いた(特許文献6、非特許文献12の方法を利用)(配列番号11)。トランスポゾン挿入用ベクターを作製するために、ATCC13032の染色体を鋳型とし、配列番号12及び配列番号13、又は配列番号14及び配列番号15のプライマーを用いてPCRをそれぞれ行った。PCR反応のためのポリメラーゼとしては、PfuUltraTMハイフィデリティDNAポリメラーゼ(Stratagene)を用いた。PCR条件は、95℃で30秒間の変性、55℃で30秒間のアニーリング、72℃で2分間の重合反応を28サイクル行い、その後72℃で5分間の重合反応を行うものとした。その結果、それぞれNcgl2131遺伝子から5’末端上流の2041bpのDNA断片と、3’末端下流の2040bpのDNA断片がそれぞれ得られた。増幅された2つのDNA断片を鋳型とし、配列番号12及び配列番号15のプライマーでPCRを行った。PCR条件は、95℃で5分間の変性後、95℃で30秒間の変性、55℃で30秒間のアニーリング、72℃で4分間の重合を28サイクル行い、その後72℃で5分間の重合反応を行うものとした。その結果、中心部位にSpeIとXhoIの2つの制限酵素の認識部位を含む4066bpのDNA断片が増幅された。QIAGEN社のPCRPurificationkitを用いて増幅産物を精製し、ベクター作製のための挿入DNA断片として用いた。一方、制限酵素smaIで処理し、その後65℃で20分間熱処理したpDZベクターと、前記PCRにより増幅した挿入DNA断片のモル濃度(M)の比が1:2になるように、タカラ(TaKaRa)のInfusion Cloning Kitを用いて、提供されたマニュアルに従ってクローニングすることにより、Ncgl2131遺伝子の位置への挿入用ベクターpDZ-N2131を作製した。
【0073】
作製したベクターをエレクトロポレーションにより、実施例1-1で得られたKCCM12120P菌株に形質転換し、2次交差過程を経て、染色体上でNcgl2131遺伝子が欠損した菌株が得られた。これをKCCM12120P-N2131と命名した。
【0074】
一方、D-alanine/D-serine/glycine transporter活性を有する遺伝子断片を得るために、コリネバクテリウム・アンモニアゲネス(Corynebacterium ammoniagenes)ATCC6872染色体を鋳型とし、配列番号18及び配列番号19のプライマーを用いてPCRを行った。PCR反応のためのポリメラーゼとしては、PfuUltraTMハイフィデリティDNAポリメラーゼ(Stratagene)を用いた。PCR条件は、95℃で30秒間の変性、55℃で30秒間のアニーリング、72℃で90秒間の重合反応を28サイクル行い、その後72℃で5分間の重合反応を行うものとした。その結果、1595bpのcycA遺伝子断片が得られた。QIAGEN社のPCRPurificationkitを用いて増幅産物を精製し、ベクター作製のための挿入DNA断片として用いた(配列番号17)。
【0075】
公知のコリネバクテリウム属微生物由来のプロモーターcj7を含むp117-cj7-gfpを鋳型とし、PCRを行った(特許文献1)。ここで、「p117」は、大腸菌-コリネバクテリウムシャトルベクター(E. coli-Corynebacterium shuttle vector)であるpECCG117(非特許文献13)を示すものである。PCR反応のためのポリメラーゼとしては、PfuUltraTMハイフィデリティDNAポリメラーゼ(Stratagene)を用いた。PCR反応は、配列番号21及び配列番号22のプライマーを用いて、95℃で30秒間の変性、55℃で30秒間のアニーリング、72℃で30秒間の重合反応を28サイクル行い、その後72℃で3分間の重合反応を行うものとした。QIAGEN社のPCRPurificationkitを用いて、増幅されたPCR結果物を精製すると、350bpのサイズのcj7断片が得られた(配列番号20)。
【0076】
前述したように得られたcj7断片とcycA断片を鋳型とし、配列番号21及び配列番号19のプライマーを用いて融合(sewing)PCRを行った。PCR反応は、95℃で30秒間の変性、55℃で30秒間のアニーリング、72℃で2分間の重合反応を28サイクル行い、その後72℃で5分間の重合反応を行うものとした。その結果、1945bpのcj7-cycA遺伝子断片が得られた。QIAGEN社のPCRPurificationkitを用いて増幅産物を精製し、ベクター作製のための挿入DNA断片として用いた。一方、前述したように作製したpDZ-N2131ベクターを制限酵素xhoIで処理し、65℃で20分間熱処理し、その後得られたcj7-cycA断片のモル濃度(M)の比が1:2になるように、タカラ(TaKaRa)のInfusion Cloning Kitを用いて、提供されたマニュアルに従ってクローニングすることにより、Ncgl2131の位置にcycA遺伝子を挿入することのできるベクターpDZ-N2131/cj7-cycA(Cam)を作製した。
【0077】
作製したベクターをエレクトロポレーションによりKCCM12120P菌株に形質転換し、2次交差過程を経て、染色体上でNcgl2131の位置がcj7-cycA(Cam)の形態に置換された菌株が得られた。これをKCCM12120P/cycA(Cam)と命名した。
【0078】
実施例1-2-2:大腸菌由来グリシントランスポーター(CycA(Eco))導入菌株の作製
一方、コリネバクテリウム・アンモニアゲネス由来cycA遺伝子とその活性を比較するために、既に公知の大腸菌K-12由来のcycA遺伝子を前述したものと同様にKCCM12120P菌株に導入した(非特許文献14)。具体的には、大腸菌K-12W3110染色体DNAを鋳型とし、配列番号25及び配列番号26のプライマーを用いてPCRを行った。PCR反応のためのポリメラーゼとしては、PfuUltraTMハイフィデリティDNAポリメラーゼ(Stratagene)を用いた。PCR条件は、95℃で30秒間の変性、55℃で30秒間のアニーリング、72℃で1分間の重合反応を28サイクル行い、その後72℃で5分間の重合反応を行うものとした。その結果、1544bpのcycA遺伝子断片が得られた。QIAGEN社のPCRPurificationkitを用いて増幅産物を精製し、ベクター作製のための挿入DNA断片として用いた(配列番号23)。
【0079】
前述したように得られたcj7断片とcycA断片を鋳型とし、配列番号21及び配列番号26のプライマーを用いて融合(sewing)PCRを行った。PCR反応は、95℃で30秒間の変性、55℃で30秒間のアニーリング、72℃で90秒間の重合反応を28サイクル行い、その後72℃で5分間の重合反応を行うものとした。その結果、1894bpのcj7-cycA遺伝子断片が得られた。QIAGEN社のPCRPurificationkitを用いて増幅産物を精製し、ベクター作製のための挿入DNA断片として用いた。一方、前述したように作製したpDZ-N2131ベクターを制限酵素xhoIで処理し、65℃で20分間熱処理し、その後得られたcj7-cycA断片のモル濃度(M)の比が1:2になるように、タカラ(TaKaRa)のInfusion Cloning Kitを用いて、提供されたマニュアルに従ってクローニングすることにより、Ncgl2131の位置にcycA遺伝子を挿入することのできるベクターpDZ-N2131/cj7-cycA(Eco)を作製した。
【0080】
作製したベクターをエレクトロポレーションによりKCCM12120P菌株に形質転換し、2次交差過程を経て、染色体上でNcgl2131の位置がcj7-cycA(Eco)の形態に置換された菌株が得られた。これをKCCM12120P/cycA(Eco)と命名した。
【0081】
実施例1-3:CycAを導入した菌株のL-トレオニン生産能の評価
実施例1-2で作製した菌株のL-トレオニン生産能試験を行った。種培地25mlを含有する250mlのコーナーバッフルフラスコに、前述したように得られた菌株をそれぞれ接種し、その後30℃にて200rpmで20時間振盪培養した。後述するL-トレオニン生産培地24mlを含有する250mlのコーナーバッフルフラスコに1mlの種培養液を接種し、30℃にて200rpmで48時間振盪培養した。
【0082】
種培地(pH7.0)
グルコース20g,ペプトン10g,酵母抽出物5g,尿素1.5g,KH2PO4 4g,K2HPO48g,MgSO47H2O0.5g,ビオチン100μg,チアミンHCl1000μg,パントテン酸カルシウム2000μg,ニコチンアミド2000μg(蒸留水1リットル中)
L-トレオニン生産培地(pH7.2)
グルコース30g,KH2PO4 2g,Urea 3g,(NH4)2SO4 40g,Peptone2.5g,CSL(Sigma)5g(10ml),MgSO4・7H2O0.5g,Leucine400mg,CaCO320g(蒸留水1リットル中)
培養終了後に、HPLCを用いて、生産された各アミノ酸の生産量を測定した。その結果を表1に示す。
【0083】
【表1】
【0084】
L-トレオニンの生産量が増加するにつれてL-リシンの生産量は減少するのに対して、L-トレオニン生産量が増加するにつれてL-トレオニン生合成経路の副産物であるL-イソロイシン(Ile)、グリシン(Gly)は増加するので、これらの生産量を共に確認した。また、cycA遺伝子のtransporterとしての機能を確認するために、セリン(Ser)、アラニン(Ala)、バリン(Val)の生産量も共に確認した。
【0085】
表1の結果が示すように、コリネバクテリウム・アンモニアゲネス由来cycA遺伝子を導入したKCCM12120P/cycA(Cam)菌株は、親株であるKCCM12120P菌株に比べて、L-トレオニンの生産量が12.5%増加したのに対して、L-リシンの生産量は約4%減少した。また、cycA遺伝子を導入した効果により、グリシンは親株に比べて18.5%減少し、セリン、バリンは親株に比べてわずかに減少し、アラニンは大幅に減少して培養液から検出されなくなることが確認された。
【0086】
一方、大腸菌由来cycA遺伝子を導入したKCCM12120P/cycA(Eco)菌株は、親株に比べてL-トレオニンの生産量が14.9%減少したのに対して、L-リシンの生産量は6.9%、グリシンの生産量は約10%増加する結果が確認された。このように、大腸菌由来cycA遺伝子とコリネバクテリウム・アンモニアゲネス由来cycA遺伝子の導入効果は大きく異なるものであったが、共通して培養液中のアラニンの濃度は大幅に減少する様相を示した。また、大腸菌由来cycAを導入したものと、コリネバクテリウム・アンモニアゲネス由来cycAを導入したものの両方において、イソロイシン(Ile)の生産量には変化がなかった。
【0087】
これらの結果から、L-トレオニン生産においてコリネバクテリウム・アンモニアゲネス由来cycA遺伝子の導入が効果的であることが確認された。
前記KCCM12120P/cycA(Cam)菌株をCA09-0902と命名し、これをブダペスト条約上の国際寄託機関である韓国微生物保存センター(KCCM)に2019年4月10日付けで寄託番号KCCM12484Pとして国際寄託した。
【0088】
実施例1-4:Glycine Cleavage Systemにおける遺伝子を導入したL-トレオニン生産菌株の作製
実施例1-4-1:グリシン分解タンパク質導入のためのベクターの作製
前述したように、トレオニン生産能の向上にグリシントランスポーターの活性が影響を及ぼすことが確認されたので、細胞内に取り込まれたグリシンの細胞内利用能をさらに増加させた場合のトレオニン生産能について確認した。具体的には、グリシン開裂系(Glycine Cleavage System, 以下、GCV system)を導入した。コリネバクテリウム・グルタミカム菌株内には、GCVsystemを構成する6種のタンパク質のうちL-タンパク質、LipB、LipAをコードする遺伝子が知られているだけであり、他の3種のタンパク質をコードする遺伝子については知られていない。よって、コリネバクテリウム・アンモニアゲネス由来GCVsystemを導入するために、gcvP(配列番号27)、gcvT(配列番号28)、gcvH(配列番号29)、lipA(配列番号30)、lipB(配列番号31)導入ベクターを作製した。次の実験を行った。GlycineCleavageSystem(以下、gcvsystem)における遺伝子のうちgcvPT遺伝子断片を得るために、コリネバクテリウム・アンモニアゲネス(Corynebacterium ammoniagenes)ATCC6872染色体を鋳型とし、配列番号32及び配列番号33のプライマーを用いてPCRを行った。PCR反応のためのポリメラーゼとしては、PfuUltraTMハイフィデリティDNAポリメラーゼ(Stratagene)を用いた。PCR条件は、95℃で30秒間の変性、55℃で30秒間のアニーリング、72℃で5分間の重合反応を28サイクル行い、その後72℃で7分間の重合反応を行うものとした。その結果、プロモーターを含む4936bpのgcvPT遺伝子断片が得られた。QIAGEN社のPCRPurificationkitを用いて増幅産物を精製し、ベクター作製のための挿入DNA断片として用いた(配列番号27,28)。
【0089】
他のgcv systemにおける遺伝子であるgcvH-lipBA遺伝子断片を得るために、コリネバクテリウム・アンモニアゲネス(Corynebacterium ammoniagenes)ATCC6872染色体を鋳型とし、配列番号34及び配列番号35のプライマーを用いてPCRを行った。PCR反応のためのポリメラーゼとしては、PfuUltraTMハイフィデリティDNAポリメラーゼ(Stratagene)を用いた。PCR条件は、95℃で30秒間の変性、55℃で30秒間のアニーリング、72℃で3分間の重合反応を28サイクル行い、その後72℃で5分間の重合反応を行うものとした。その結果、プロモーターを含む3321bpのgcvH-lipBA遺伝子断片が得られた。QIAGEN社のPCRPurificationkitを用いて増幅産物を精製し、ベクター作製のための挿入DNA断片として用いた(配列番号29,30,31)。
【0090】
前述したように得られたgcvPT断片とgcvH-lipBA断片を鋳型とし、配列番号32及び配列番号35のプライマーを用いて融合(sewing)PCRを行った。PCR反応は、95℃で30秒間の変性、55℃で30秒間のアニーリング、72℃で10分間の重合反応を28サイクル行い、その後72℃で12分間の重合反応を行うものとした。その結果、8257bpのgcvPTH-lipBA遺伝子断片が得られた。QIAGEN社のPCRPurificationkitを用いて増幅産物を精製し、ベクター作製のための挿入DNA断片として用いた。一方、実施例1-2で作製したpDZ-N2131ベクターを制限酵素speI及びxhoIで処理し、その後得られたgcvPTH-lipBA断片のモル濃度(M)の比が1:2になるように、タカラ(TaKaRa)のInfusion Cloning Kitを用いて、提供されたマニュアルに従ってクローニングすることにより、Ncgl2131の位置にgcvsystem遺伝子を挿入することのできるベクターpDZ-N2131/gcvPTH-lipBAを作製した。
【0091】
実施例1-4-2:グリシン分解タンパク質導入菌株の作製
実施例1-2で得られたpDZ-N2131/cj7-cycA(Cam)ベクターを鋳型とし、配列番号36及び配列番号37のプライマーを用いてPCRを行った。PCR反応のためのポリメラーゼとしては、PfuUltraTMハイフィデリティDNAポリメラーゼ(Stratagene)を用いた。PCR条件は、95℃で30秒間の変性、55℃で30秒間のアニーリング、72℃で90秒間の重合反応を28サイクル行い、その後72℃で5分間の重合反応を行うものとした。その結果、1944bpのcj7-cycA(Cam)遺伝子断片が得られた。QIAGEN社のPCRPurificationkitを用いて増幅産物を精製し、ベクター作製のための挿入DNA断片として用いた。一方、前述したように作製したpDZ-N2131/gcvPTH-lipBAベクターを制限酵素xhoIで処理し、65℃で20分間熱処理し、その後得られたcj7-cycA(Cam)断片のモル濃度(M)の比が1:2になるように、タカラ(TaKaRa)のInfusion Cloning Kitを用いて、提供されたマニュアルに従ってクローニングすることにより、Ncgl2131の位置にD-alanine/D-serine/glycinetransporter遺伝子とgcvsystem遺伝子を挿入することのできるベクターpDZ-N2131/gcv-lip-cycA(Cam)を作製した。
【0092】
作製したベクターをエレクトロポレーションによりKCCM12120P菌株に形質転換し、2次交差過程を経て、染色体上でNcgl2131の位置がgcvPTH-lipBA-cycA(Cam)の形態に置換された菌株が得られた。これをKCCM12120P/gcv-lip-cycA(Cam)と命名した。
【0093】
実施例1-4-3:グリシントランスポーター及びグリシン分解タンパク質導入菌株のトレオニン生産能の評価
実施例1-2及び1-4-2で作製した菌株のL-トレオニン生産能試験を行った。前述した種培地25mlを含有する250mlのコーナーバッフルフラスコに、前述したように得られた菌株をそれぞれ接種し、その後30℃にて200rpmで20時間振盪培養した。前述したL-トレオニン生産培地24mlを含有する250mlのコーナーバッフルフラスコに1mlの種培養液を接種し、30℃にて200rpmで48時間振盪培養した。
【0094】
培養終了後に、HPLCを用いて、生産された各アミノ酸の生産量を測定した。その結果を表2に示す。
【0095】
【表2】
【0096】
表2の結果が示すように、D-alanine/D-serine/glycine transporter遺伝子とgcvsystem遺伝子を共に導入したKCCM12120P/gcv-lip-cycA(Cam)菌株は、親株であるKCCM12120P菌株に比べてL-トレオニン生産量が26.7%増加したが、これはcycA遺伝子のみ導入したKCCM12120P/cycA(Cam)菌株に比べても12.7%増加した値である。これらの結果から、cycA遺伝子を単独で導入したものより、gcvsystem遺伝子と共に導入した菌株のL-トレオニン生産量の方が大きく増加することが確認された。
【0097】
KCCM12120P/gcv-lip-cycA(Cam)菌株のL-リシン生産量は、KCCM12120Pに比べて13.6%減少し、KCCM12120P/cycA(Cam)菌株においては、KCCM12120Pに比べて14.3%減少した。L-イソロイシン生産量は、KCCM12120P/gcv-lip-cycA(Cam)菌株においてKCCM12120Pより増加する様相を示したが、これは実施例1-3の結果を考慮すると、L-トレオニン生産量の増加により生合成経路の副産物であるL-イソロイシンが共に増加したものと解釈される。
【0098】
グリシン生産量は、KCCM12120P菌株にcycA遺伝子のみ導入したものにおいて18.5%減少し、gcvsystem遺伝子を共に導入したものにおいて、KCCM12120P菌株に比べて51.9%減少した。アラニンは、cycA遺伝子の導入だけでも大幅に減少し、gcvsystemの導入による逆効果はないことが確認された。セリン及びバリン生産量は極少量であるが、KCCM12120P/cycA(Cam)菌株と、KCCM12120P/gcv-lip-cycA(Cam)菌株の両方において、親株KCCM12120Pに比べて減少することが確認された。
【0099】
前記KCCM12120P/gcv-lip-cycA(Cam)菌株をCA09-0905と命名し、これをブダペスト条約上の国際寄託機関である韓国微生物保存センター(KCCM)に2019年4月10日付けで寄託番号KCCM12485Pとして国際寄託した。
【0100】
これらの結果から、コリネバクテリウム属L-トレオニン生産菌株をベースとしてコリネバクテリウム・アンモニアゲネス由来D-alanine/D-serine/glycinetransporter遺伝子であるcycA遺伝子を導入すると、L-トレオニン生産量が増加することが確認された。また、cycA遺伝子と共にgcvsystemにおける遺伝子を導入すると、L-トレオニン生産量が大幅に増加することが確認された。
【実施例2】
【0101】
cycAとGlycine Cleavage Systemを導入したL-トレオニン生産菌株KCCM11222PのL-トレオニン生産能の確認
実施例1と同様に、CycAとgcv systemを従来のトレオニン生産菌株に導入した効果を確認する実験を行った。
【0102】
実施例2-1:L-トレオニン生産菌株KCCM11222P菌株へのCycA導入
実施例1で用いた形質転換ベクターpDZ-N2131、pDZ-N2131/cj7-cycA(Cam)、pDZ-N2131/cj7-cycA(Eco)をそれぞれL-トレオニン生産菌株であるコリネバクテリウム・グルタミカムKCCM11222P(特許文献7)菌株に形質転換し、2次交差過程を経て、染色体上でNcgl2131の位置がそれぞれ欠失、cj7-cycA(Cam)又はcj7-cycA(Eco)の形態に置換された菌株が得られた。これらをそれぞれKCCM11222P-N2131、KCCM11222P/cycA(Cam)、KCCM11222P/cycA(Eco)と命名した。
【0103】
作製した菌株のL-トレオニン生産能試験を行った。種培地25mlを含有する250mlのコーナーバッフルフラスコに、前述したように得られた菌株をそれぞれ接種し、その後30℃にて200rpmで20時間振盪培養した。後述するL-トレオニン生産培地24mlを含有する250mlのコーナーバッフルフラスコに1mlの種培養液を接種し、32℃にて200rpmで48時間振盪培養した。
【0104】
種培地(pH7.0)
グルコース20g,ペプトン10g,酵母抽出物5g,尿素1.5g,KH2PO4 4g,K2HPO48g,MgSO47H2O0.5g,ビオチン100μg,チアミンHCl1000μg,パントテン酸カルシウム2000μg,ニコチンアミド2000μg(蒸留水1リットル中)
L-トレオニン生産培地(pH7.0)
グルコース100g,KH2PO4 2g,Urea 3g,(NH4)2SO4 25g,Peptone2.5g,CSL(Sigma)5g(10ml),MgSO4・7H2O0.5g,ビオチン100μg,チアミンHCl1000μg,パントテン酸カルシウム2000μg,ニコチンアミド3000μg,CaCO330g(蒸留水1リットル中)
培養終了後に、HPLCを用いて、生産された各アミノ酸の生産量を測定した。その結果を表3に示す。
【0105】
【表3】
【0106】
表3に示すように、KCCM11222P/cycA(Cam)菌株は、親株であるKCCM11222Pに比べて、L-トレオニン生産量が15.2%増加したのに対して、L-リシン生産量は14.9%減少した。グリシンとアラニンは、KCCM11222Pに比べてそれぞれ21.5%、98.3%減少する結果となり、実施例1のKCCM12120P菌株ベースでの評価結果と類似の様相が確認された。イソロイシンは、KCCM11222P/cycA(Cam)菌株においては、KCCM11222Pに比べて約3%減少し、KCCM11222P/cycA(Eco)菌株においては、KCCM11222Pに比べて約4%増加したので、イソロイシン生産量にcycAタンパク質導入が大きな影響を与えないことが確認された。特に、コリネバクテリウム・アンモニアゲネス由来cycA遺伝子を導入した菌株においては、イソロイシン生産量が減少することが確認された。
【0107】
一方、大腸菌由来cycA遺伝子を導入したKCCM11222P/cycA(Eco)菌株は、KCCM11222P菌株に比べて、L-トレオニン生産量が12.7%減少し、L-リシン生産量が20.1%増加した。よって、大腸菌由来cycA遺伝子は、L-トレオニン生産増加に効果がないことが確認された。
【0108】
これらの結果から、トレオニン生産能を有する変異株にコリネバクテリウム・アンモニアゲネス由来cycAタンパク質を導入すると、トレオニン生産能が向上することが分かる。
【0109】
実施例2-2:L-トレオニン生産菌株KCCM11222P菌株へのCycA及びgcv systemの導入
実施例1と同様に、cycA(Cam)遺伝子とgcv system遺伝子の組み合わせの効果を確認するために、作製したベクターpDZ-N2131/gcv-lip-cycA(Cam)をエレクトロポレーションによりKCCM11222P菌株に形質転換し、2次交差過程を経て、Ncgl2131の位置がgcvPTH-lipBA-cycA(Cam)の形態に置換された菌株が得られた。これをKCCM11222P/gcv-lip-cycA(Cam)と命名した。
【0110】
作製した菌株のL-トレオニン生産能試験を行った。前述した種培地25mlを含有する250mlのコーナーバッフルフラスコに、前述したように得られた菌株をそれぞれ接種し、その後30℃にて200rpmで20時間振盪培養した。前述したL-トレオニン生産培地24mlを含有する250mlのコーナーバッフルフラスコに1mlの種培養液を接種し、32℃にて200rpmで48時間振盪培養した。
【0111】
培養終了後に、HPLCを用いて、生産された各アミノ酸の生産量を測定した。その結果を表4に示す。
【0112】
【表4】
【0113】
表4の結果が示すように、KCCM11222P/gcv-lip-cycA(Cam)菌株は、親株であるKCCM11222Pに比べてL-トレオニン生産量が35.1%増加したが、これはcycA遺伝子のみ導入したKCCM11222P/cycA(Cam)菌株に比べても17.0%増加した値である。これらの結果から、実施例1と同様に、組換えL-トレオニン生産菌株KCCM11222Pベースにおいても、cycA遺伝子を単独で導入したものより、gcvsystem遺伝子と共に導入した菌株のL-トレオニン生産量の方が大きく増加することが確認された。
【0114】
KCCM11222P/gcv-lip-cycA(Cam)菌株のL-リシン生産量は、KCCM11222Pに比べて14.3%減少したのに対して、KCCM11222P/cycA(Cam)菌株においては、KCCM11222Pに比べて15.9%減少した。L-イソロイシン生産量は、KCCM11222P/gcv-lip-cycA(Cam)菌株において、KCCM11222Pに比べて3.4%増加する様相を示したが、これは実施例2-1の結果を考慮すると、L-トレオニン生産の増加による付随的な効果であると解釈される。
【0115】
グリシン生産量は、KCCM11222P菌株にcycA遺伝子のみ導入したものにおいて21.2%減少し、gcvsystem遺伝子を共に導入したものにおいて、KCCM11222P菌株に比べて56.8%減少した。アラニンは、cycA遺伝子導入だけでも大幅に減少し、gcvsystemの導入によりさらに減少し、KCCM11222P/gcv-lip-cycA(Cam)菌株においては測定されなかった。KCCM11222P/gcv-lip-cycA(Cam)菌株におけるセリン及びバリン生産量は、親株KCCM11222Pに比べてそれぞれ43.7%、31.1%減少することが確認された。
【0116】
以上の説明から、本出願の属する技術分野の当業者であれば、本出願がその技術的思想や必須の特徴を変更することなく、他の具体的な形態で実施できることを理解するであろう。なお、前記実施例はあくまで例示的なものであり、限定的なものでないことを理解すべきである。本出願には、明細書ではなく請求の範囲の意味及び範囲とその等価概念から導かれるあらゆる変更や変形された形態が含まれるものと解釈すべきである。
【0117】
【表5】
【0118】
【表6】
【配列表】
0007278400000001.app