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特許7278525内部構造評価のためのプログラム、方法および装置
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-05-12
(45)【発行日】2023-05-22
(54)【発明の名称】内部構造評価のためのプログラム、方法および装置
(51)【国際特許分類】
   G01N 29/24 20060101AFI20230515BHJP
   G01N 29/06 20060101ALI20230515BHJP
   G01N 29/07 20060101ALI20230515BHJP
【FI】
G01N29/24
G01N29/06
G01N29/07
【請求項の数】 6
(21)【出願番号】P 2019053640
(22)【出願日】2019-03-20
(65)【公開番号】P2020153866
(43)【公開日】2020-09-24
【審査請求日】2022-01-05
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用 ・平成31年2月1日、電気学会論文誌C(電子・情報・システム部門誌) 2019年139巻2号 第142~148頁
(73)【特許権者】
【識別番号】504147254
【氏名又は名称】国立大学法人愛媛大学
(74)【代理人】
【識別番号】100114258
【弁理士】
【氏名又は名称】福地 武雄
(74)【代理人】
【識別番号】100125391
【弁理士】
【氏名又は名称】白川 洋一
(72)【発明者】
【氏名】中畑 和之
【審査官】越柴 洋哉
(56)【参考文献】
【文献】特開2005-195594(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2007/0044561(US,A1)
【文献】特表2009-524803(JP,A)
【文献】唐川和輝 ほか,開口合成法を用いたCFRPのきずの光音響イメージング,超音波による非破壊評価シンポジウム講演論文集,2019年01月30日,Vol.26,p.35-36
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01N 29/00 - G01N 29/52
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
光音響法による散乱波を用いた被検体の内部構造評価のためのプログラムであって、
被検体内における音響波の速度分布を仮定する基準データを準備する処理と、
パルスレーザを照射した前記被検体上の複数の照射位置のうちの特定位置において時刻ごとに測定された音響波の振幅を表す測定データおよび前記基準データに基づいて、前記特定位置から光音響波が散乱された散乱源の位置を算出する処理と、
前記測定データを前記散乱源の位置にマッピングする処理と、
前記複数の照射位置の各々に対して、前記散乱源の位置の算出および前記マッピングを繰り返させ、前記マッピングを重ね合わせる処理と、をコンピュータに実行させ
前記基準データは、前記被検体内において音響波の速度分布に異方性を有するように設定された3次元の群速度であり、
前記基準データは、ユーザに設定されることを特徴とするプログラム。
【請求項2】
前記基準データにおいて、事前に把握された前記被検体の形状または構造に応じて音響波の速度分布が設定されていることを特徴とする請求項1記載のプログラム。
【請求項3】
前記散乱源の位置での光音響波の速度で前記光音響波が前記特定位置から前記散乱源で散乱され前記特定位置に戻ってくると仮定し、前記散乱源の位置を算出することを特徴とする請求項1または請求項2記載のプログラム。
【請求項4】
前記測定データは、開口合成法で取得されたことを特徴とする請求項1から請求項のいずれかに記載のプログラム。
【請求項5】
光音響法による散乱波を用いた被検体の内部構造評価のための方法であって、
被検体内における音響波の速度分布を仮定する基準データを準備するステップと、
パルスレーザを照射した前記被検体上の複数の照射位置のうちの特定位置において時刻ごとに測定された音響波の振幅を表す測定データおよび前記基準データに基づいて、前記特定位置から光音響波が散乱された散乱源の位置を算出するステップと、
前記測定データを前記散乱源の位置にマッピングするステップと、
前記複数の照射位置の各々に対して、前記散乱源の位置の算出および前記マッピングを繰り返させ、前記マッピングを重ね合わせるステップと、を含み、
前記基準データは、前記被検体内において音響波の速度分布に異方性を有するように設定された3次元の群速度であり、
前記基準データは、ユーザに設定されることを特徴とする方法。
【請求項6】
光音響法による散乱波を用いた被検体の内部構造評価のための装置であって、
被検体内における音響波の速度分布を仮定する基準データを管理する基準データ管理部と、
パルスレーザを照射した前記被検体上の複数の照射位置のうちの特定位置において時刻ごとに測定された音響波の振幅を表す測定データおよび前記基準データに基づいて、前記特定位置から光音響波が散乱された散乱源の位置を算出する位置算出部と、
前記測定データを前記散乱源の位置にマッピングするマッピング部と、
前記複数の照射位置の各々に対して、前記散乱源の位置の算出および前記マッピングを繰り返させ、前記マッピングを重ね合わせるマッピング重畳部と、を備え
前記基準データは、前記被検体内において音響波の速度分布に異方性を有するように設定された3次元の群速度であり、
前記基準データは、ユーザに設定されることを特徴とする装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、光音響法を用いた被検体の内部構造評価のためのプログラム、方法および装置に関する。
【背景技術】
【0002】
炭素繊維強化樹脂(Carbon Fiber Reinforced Plastic、CFRP)の重量比強度は鋼材のおよそ10倍であり、耐腐食性、耐疲労性等の長所を活かして、航空機産業をはじめとして幅広い分野で使用されている。FRPの市場は、CFRPだけでなくガラス繊維を利用したGlass FRPを含め、ますます広がりを見せている。このような市場において、日本が高い国際競争力を維持するためには、高い品質の製品を提供することはもちろん、使用時の安全性を担保するメンテナンス技術の確立が急務である。CFRPの部材に対し、現状の非破壊検査技術で検出および評価が困難とされるきずは、層間剥離(デラミネーション)や繊維-樹脂の界面剥離(デボンディング)等の損傷、繊維うねりや樹脂リッチ部などの形成不良部、コーティング剤の塗装不良などである。
【0003】
航空機のCFRP部材の検査には、主に超音波探傷試験(Ultrasonic Testing、UT)と放射線透過試験が用いられている。特に、CFRP内部の面状きずの深さの推定にはUTが有効といわれている。しかし、一般的なパルスエコーUTでは、送信用の超音波プローブの帯域特性によって入射波のプロファイルが決まるため、表層付近のきずを評価したい場合、表面反射波のテール(尾引)に紛れてしまい検出が困難な場合がある。この検出が困難な領域は超音波の不感帯(Dead zone)と呼ばれる。
【0004】
このような超音波エコーにレーザを応用した技術として、レーザを被検体表面に照射し、その反射光が超音波エコーによってドップラーシフトを受けることを利用する方法も研究されている(特許文献1参照)。この方法では、ドップラーシフトを受けたレーザの観測タイミングのデータに基づいて開口合成法を適用し、欠陥の位置を特定している。
【0005】
近年では、レーザを用いた非接触UTも適用が試みられている。レーザ強度が低く、パルス幅が小さい場合など、一定条件下で光吸収による断熱膨張が起こり、熱弾性波が発生する。この熱弾性波は光音響波(Photoacoustic wave)と呼ばれている。光音響波は、特に医療の分野で盛んに利用が進んでおり、人体の場合は光が内部まで浸透することを利用して、皮膚の診断や血管イメージングへの応用が研究されている。
【0006】
一方、レーザ強度が高くなると、照射部位の物質の除去(アブレーション)が生じ、物質飛散の反力として圧力波が発生する。さらにレーザ強度を上げると、物質がイオン化してプラズマが生成され、それに伴い強い圧力波が発生する。これはレーザ誘起応力波あるいはフォトメカニカル波などと呼ばれる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【文献】特開平11-271281号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
上記のように、レーザを用いた非接触UTで発生した光音響波は、CFRPのように音響異方性のある被検体内部では弾性波として伝搬する。例えば、CFRPは繊維の配向や積層数によって強度が変化し、材料強度の方向依存性は音響異方性として表れる。それは結果として、超音波のエネルギー伝搬(波束)の速度が方向によって変化することになる。特に、一方向に強化したCFRPの場合、同じ縦波伝搬でも最も速い方向と遅い方向とでは3倍近い群速度の差が生じる。したがって、これらを考慮しないで映像化を行うと、きずでないものが誤って再構成されたり、あるいはきずが検出できなかったり、検査の精度を大きく損ねることになる。
【0009】
本発明は、このような事情に鑑みてなされたものであり、音響波の速度分布を考慮して高精度で被検体の内部構造を評価することができるプログラム、方法および装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
(1)上記の目的を達成するため、本発明のプログラムは、光音響法による散乱波を用いた被検体の内部構造評価のためのプログラムであって、被検体内における音響波の速度分布を仮定する基準データを準備する処理と、パルスレーザを照射した前記被検体上の複数の照射位置のうちの特定位置において時刻ごとに測定された音響波の振幅を表す測定データおよび前記基準データに基づいて、前記特定位置から光音響波が散乱された散乱源の位置を算出する処理と、前記測定データを前記散乱源の位置にマッピングする処理と、前記複数の照射位置の各々に対して、前記散乱源の位置の算出および前記マッピングを繰り返させ、前記マッピングを重ね合わせる処理と、をコンピュータに実行させることを特徴としている。
【0011】
このように、被検体内における音響波の速度分布を仮定する基準データを用いて散乱源の位置を算出するため、音響波の速度分布を考慮して高精度で被検体の内部構造を評価することができる。また、レーザ光を入力源とするため、光の入射方法によって広い周波数帯域を有するパルス状の光音響波が発生でき、不感帯の影響を小さくできる。
【0012】
(2)また、本発明のプログラムは、前記基準データが、前記被検体内において音響波の速度分布に異方性を有するように設定されていることを特徴としている。これにより、音響異方性を有し、超音波のエネルギー伝搬(波束)の速度が方向によって変化する被検体に対しても、高精度で内部構造を評価することができる。
【0013】
(3)また、本発明のプログラムは、前記基準データにおいて、事前に把握された前記被検体の形状または構造に応じて音響波の速度分布が設定されていることを特徴としている。これにより、実際の被検体と基準データとの間で整合性を高めてさらに高精度に内部構造を評価できる。
【0014】
(4)また、本発明のプログラムは、前記散乱源の位置での光音響波の速度で前記光音響波が前記特定位置から前記散乱源で散乱され前記特定位置に戻ってくると仮定し、前記散乱源の位置を算出することを特徴としている。これにより、照射方向の軸に対して対称な速度分布を有する被検体に対して効率的に散乱源の位置を算出できる。
【0015】
(5)また、本発明のプログラムは、前記測定データが、開口合成法で取得されたことを特徴としている。これにより、光音響波は照射位置で卓越して発生しているものと仮定でき、効率的に散乱源の位置を算出できる。
【0016】
(6)また、本発明の方法は、光音響法による散乱波を用いた被検体の内部構造評価のための方法であって、被検体内における音響波の速度分布を仮定する基準データを準備するステップと、パルスレーザを照射した前記被検体上の複数の照射位置のうちの特定位置において時刻ごとに測定された音響波の振幅を表す測定データおよび前記基準データに基づいて、前記特定位置から光音響波が散乱された散乱源の位置を算出するステップと、前記測定データを前記散乱源の位置にマッピングするステップと、前記複数の照射位置の各々に対して、前記散乱源の位置の算出および前記マッピングを繰り返させ、前記マッピングを重ね合わせるステップと、を含むことを特徴としている。これにより、音響波の速度分布を考慮して高精度で被検体の内部構造を評価することができる。また、不感帯の影響を小さくできる。
【0017】
(7)また、本発明の装置は、光音響法による散乱波を用いた被検体の内部構造評価のための装置であって、被検体内における音響波の速度分布を仮定する基準データを管理する基準データ管理部と、パルスレーザを照射した前記被検体上の複数の照射位置のうちの特定位置において時刻ごとに測定された音響波の振幅を表す測定データおよび前記基準データに基づいて、前記特定位置から光音響波が散乱された散乱源の位置を算出する位置算出部と、前記測定データを前記散乱源の位置にマッピングするマッピング部と、前記複数の照射位置の各々に対して、前記散乱源の位置の算出および前記マッピングを繰り返させ、前記マッピングを重ね合わせるマッピング重畳部と、を備えることを特徴としている。これにより、音響波の速度分布を考慮して高精度で被検体の内部構造を評価することができる。また、不感帯の影響を小さくできる。
【発明の効果】
【0018】
本発明によれば、音響波の速度分布を考慮して高精度で被検体の内部構造を評価することができる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
図1】(a)、(b)それぞれ本発明の光音響測定システムおよび光音響顕微鏡を示す概略図である。
図2】本発明の装置(PC)の構成を示すブロック図である。
図3】本発明の方法全体を示すフローチャートである。
図4】イメージング処理を示すフローチャートである。
図5】光音響顕微鏡の照射位置周辺を示す断面図である。
図6】CFRPおよび水の特性値を示す表である。
図7】(a)~(c)それぞれCFRP供試体の外観を示す写真、構造を示す概略図および顕微鏡写真である。
図8】(a)~(c)CFRPの供試体における速度分布の斜視図、xy断面図およびzx断面図である。
図9】(a)、(b)供試体中の剥離の位置を示す斜視図および写真である。
図10】(a)、(b)それぞれA点およびB点における光音響波を示すグラフである。
図11】光音響波のフーリエ変換スペクトルを示すグラフである。
図12】(a)~(c)それぞれフィルタありでのイメージングの結果を示す斜視図、xz図、フィルタなしでのイメージングの結果を示すxz図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
[光音響測定システムの構成]
図1(a)、(b)は、それぞれ光音響測定システム100および光音響顕微鏡130を示す概略図である。図1(a)に示すように光音響測定システム100は、PC110、スキャナコントローラ122、スイッチング回路125、パルスレーザ光源128、光音響顕微鏡130、ステージ140、フォトデテクタ150、DAQ160、アンプ170、レシーバ180を有している。
【0021】
また、光音響顕微鏡130は、ファイバ132、レンズ134、ビームスプリッタ135、アキシコンレンズ136、反射プリズム137、トランスデューサ138を有しており、焦点領域C1へパルスレーザを集光するとともに、生じた光音響波の反射波を検出する。
【0022】
光音響測定システム100では、水に浸した被検体S1に対してレーザを照射し、被検体S1で発生した超音波領域の光音響波を受信して、それをもとに内部像をイメージングする。光音響測定システム100では、特にCFRPの表面直下のきずの非破壊評価を行うのに適している。
【0023】
PC110は、システム内の各部を制御するとともに、内部構造評価のために処理を行う装置としても機能する。具体的には、PC110は、ユーザから被検体S1の情報や測定条件の入力を受け付け、パルスレーザの照射、音響波のデータ収集に関する制御および収集されたデータの処理を行う。
【0024】
スキャナコントローラ122は、測定条件に応じてラスタスキャンのためのステージ移動の制御を行う。その結果、反射プリズム137およびトランスデューサ138を被検体S1に対して走査できる。そして、この2次元走査により被検体S1にフォーカスされたパルス光の焦点とトランスデューサ138の音波焦点の位置を移動し、各測定位置において光音響波を検出することで2次元面の光音響信号データを取得できる。このようにして2Dラスタスキャンを行うことができる。
【0025】
スイッチング回路125は、印加される電圧に基づいてQ値を決定し、Qスイッチレーザによって励起された波長可変レーザを含む波長可変パルスレーザを生成する。Q-スイッチ法では、非常に多数の原子が励起状態になるまでQ値を低くして発振を抑え、励起状態の原子が十分に多くなったのち再びQ値を高くし発振させる方法である。
【0026】
レーザ発振の開始条件は、光共振器の性能、すなわち共振の鋭さを表すQ値に強く依存する。レーザ媒質が励起を受けている間、Q値を小さく抑えておいて、反転分布が十分に大きくなったところで短時間内にQ値を高めると、媒質内に蓄えられたエネルギーが一度に放出される。
【0027】
パルスレーザ光源128はPC110の制御によりパルス光を発光する。光音響顕微鏡130は、レーザ光を入力源とするため、光の入射方法によって広い周波数帯域を有するパルス状の光音響波を発生でき、不感帯の影響を小さくできる。
【0028】
光音響顕微鏡130は、散乱された光音響波を検出する反射型の光音響顕微鏡130である。光音響顕微鏡130には、開口合成法が適用されていることが好ましい。これにより、光音響波は照射位置で卓越して発生しているものと仮定でき、効率的に散乱源の位置を算出できる。ファイバ132は、パルス光を被検体S1に照射するための光学系に導光する。発生したパルスレーザ光はファイバ132を介して光学系に導入される。レンズ134は、ファイバ132から出たパルスレーザ光をコリメートする。ビームスプリッタ135は、光学系において一部のパルスレーザ光を反射させる。
【0029】
ファイバ132から出た光はコリメートされ、アキシコンレンズ136は、ビームスプリッタ135を透過したパルスレーザ光を円環状に広げる。そして、コンデンサレンズで集光されたパルスレーザは対象位置に照射される。なお、光音響波の測定時には被検体S1上に光焦点が位置するように位置合わせをする。トランスデューサ138と被検体S1との間には、水が存在する。このようにして、パルス光は被検体S1に吸収され光音響波が発生する。
【0030】
トランスデューサ138は、反射プリズム137の中央付近に設置されている。トランスデューサ138は、音響レンズを有し、その焦点位置から発生した音波を高い感度で検出できる。
【0031】
また、トランスデューサ138は、コンデンサレンズの内側に集束型超音波プローブを有しており、発生した光音響波を検出し、音圧強度変化を電気信号に変換する。音響レンズの焦点位置は、集光された光の焦点位置に一致する。プローブで得られた信号はアンプ170で増幅された後、レシーバ180で受信される。
【0032】
ステージ140は、被検体S1を載置でき、x-y軸の移動により2次元面上の走査可能にする。また、ステージ140は、走査可能な2次元面と垂直な方向の調整を行う機構の上に設置されている。
【0033】
フォトデテクタ150は、ビームスプリッタ135で反射されレンズで集光された一部のパルス光を参照光として検知する。フォトデテクタ150で検知されたパルス光信号は、例えば光量変動に起因する誤差の補正または測定タイミングのトリガ信号として使用される。
【0034】
DAQ160は、検知された光音響信号を量子化してデジタル信号に変換する。DAQ160に蓄積されたデータはPC110に送信され、PC110のメモリに蓄積する。PC110は信号処理および画像処理を行う。PC110は、画像処理されたデータをディスプレイに出力する。アンプ170は、電気信号に変換された光音響信号の信号強度を増幅する。レシーバ180は、増幅された光音響信号を受信し、DAQ160を介してPC110へ送信する。
【0035】
[処理装置としてのPCの構成]
図2は、PC110の構成を示すブロック図である。PC110は、プロセッサおよびメモリを有する内部構造評価のための装置の一例であり、光音響法による測定データを用いて被検体S1の内部構造を評価する。PC110は、パルスレーザ制御部111、モニタデータ管理部112、基準データ管理部113、測定データ管理部114、位置算出部115、マッピング部116、マッピング重畳部117および再構成部118を有している。
【0036】
パルスレーザ制御部111は、測定条件に応じて被検体S1へのパルスレーザの照射を制御するとともに、パルスレーザが照射されるステージ140の移動も制御し、ラスタスキャンを可能にする。
【0037】
モニタデータ管理部112は、ビームスプリッタで反射された一部のパルス光(参照光)の信号をモニタデータとして管理し、光音響信号の光量変動に起因する誤差を補正したり、光音響波の測定タイミングを決めたりする。
【0038】
基準データ管理部113は、被検体S1内における音響波の速度分布を仮定する基準データを管理する。基準データは、被検体S1内の位置において異方性を有する音響波の速度分布が設定されている場合に有効である。これにより、音響異方性を有し、超音波のエネルギー伝搬(波束)の速度が方向によって変化する部材に対しても、高精度で内部構造を評価できる。
【0039】
基準データは、事前に把握された被検体S1の形状または構造に応じて音響波の速度分布が設定されていることが好ましい。例えば、長方形の板の長手方向に異方性が大きい場合には形状から内部における音響波の速度分布を設定できる。なお、被検体S1の形状または構造には、外部から観察できる被検体の外形だけでなく、被検体の内部構造を含む。例えば、被検体S1の内部が2層構造を有し、2層それぞれの速度分布が異なる場合が挙げられる。そして、実際の被検体S1と基準データとの間で整合性を高めてさらに高精度に内部構造を評価できる。測定データ管理部114は、パルスレーザの照射位置において測定された位置および時間に対応付けた振幅のデータを測定データとして管理する。
【0040】
位置算出部115は、測定データおよび基準データに基づいて、特定位置から光音響波が散乱された散乱源の位置を算出する。パルスレーザを照射した被検体S1上の複数の照射位置のうちの特定位置において時刻ごとに測定された音響波の振幅を表す。このように速度分布を仮定した基準データを用いることで、距離と方向により散乱源の位置を特定できる。このようにして音響波の速度分布を考慮して高精度で被検体S1の内部構造を評価することができる。散乱源の位置の算出の詳細は後述する。
【0041】
マッピング部116は、測定データから音響波の振幅を散乱源の位置にマッピングする。マッピング重畳部117は、複数の照射位置の各々に対して、散乱源の位置の算出およびマッピングを繰り返させ、マッピングを重ね合わせる。再構成部118は、色をつけた3次元イメージでマッピングを重ね合わせた結果をディスプレイ等により出力できる。
【0042】
[内部構造評価の手順]
次に、上記のように構成された光音響測定システム100を用いた内部構造評価のための方法を説明する。図3は、被検体S1の内部構造評価のための方法全体を示すフローチャートである。
【0043】
まず、ステージ140に被検体を設置し、水に浸す(ステップS101)。そして、ユーザは装置110に被検体の情報および測定条件を入力する(ステップS102)。被検体の情報には、設置された被検体の大きさ、形状等の情報および各位置における音響波の速度の情報が含まれる。なお、速度は、大きさおよび向きからなるベクトル量であり、通常は被検体内で、照射軸に対して対称に分布する。また、測定条件には、パルスレーザの強度、被検体における測定範囲の情報が挙げられる。
【0044】
例えば、CFPRのプリプレグが被検体である場合には、照射面に平行かつ互いに垂直な各層の繊維方向にx方向およびy方向をとり、xおよびy方向に向かう音響波の速度は他の方向に比べて速さを大きく設定することができる。また、被検体の厚み方向であるz方向については、音響波の速度を一様に設定してもよいし、細かく各層の速度分布を設定してもよい。
【0045】
次に、測定条件に従って、特定位置にパルスレーザを被検体に照射する(ステップS103)。光音響測定システム100では、ステージ140の移動とレーザの照射とが連動しており、各位置でz方向に発振されたレーザは被検体S1表面に照射される。そして、レーザ照射とともにパルスレーザにより生じた光音響波を検出する(ステップS104)。
【0046】
ラスタスキャンによる照射位置のすべてに照射が終了したか否かを判定し(ステップS105)、終了していない場合には、イメージング処理を行い(ステップS106)、次の特定位置に照射先を移動し(ステップS107)、ステップS103に戻る。照射位置のすべてへの照射が終了した場合には、測定を終了する。イメージング処理の詳細については以下に説明する。
【0047】
なお、上記の例では、照射位置が変わるごとにイメージング処理し、音響波の測定と並行してイメージング処理を行っているが、完全にデータ収集を終了してからデータの処理を行ってもよい。
【0048】
図4は、イメージング処理を示すフローチャートである。基準データはあらかじめ準備されているものとする。まず、PC110は、測定データの入力を受け付ける(ステップS201)。そして、測定データと基準データに基づいて、各時刻にパルスレーザの照射位置に振幅をもたらす光音響波の散乱源の位置を算出する(ステップS202)。なお、散乱源の位置の算出の詳細については後述する。
【0049】
得られた散乱源の位置に、振幅をマッピングし(ステップS203)、各時刻のマッピングを重ね合わせる(ステップS204)。すべての照射位置でのマッピングが終了したか否かを判定し(ステップS205)、終了していない場合には、ステップS203に戻り、照射位置を変えてマッピングの重ね合わせを繰り返す。一方、すべての照射位置でのマッピングの重ね合わせが終了した場合には、マッピング結果を3次元イメージに再構成して出力し(ステップS206)、マッピングのデータ処理を終了する。
【0050】
[散乱源の算出方法]
(光音響波の発生原理)
レーザ光を物質に照射すると、物質の光学特性に従って散乱あるいは吸収される。吸収されたエネルギーで光熱的作用や光化学的作用が生じる。非常に短いパルス幅で光を物質に照射すると短時間に熱膨張が生じ、これによって応力が生じる。この原理を利用して、超音波領域の光音響波を発生させる。発生した光音響波のプロファイルは、使用するレーザ光の波長やパルス幅に依存する。また、z=0にレーザ光が一様に照射されたときの深さ+z方向に分布する光音響波の圧力pは、光吸収係数とグリュナイゼン係数Γ(=K/Cp/ρ)に比例する。
【数1】
【0051】
ここで、Cpは物質の定圧比熱、は熱膨張係数、Kは体積弾性率、ρは密度であり、Fはフルエンス(単位面積あたりの入射光のエネルギー)である。この圧力分布が波源となって、光音響波は-zと+z方向に伝搬していく。
【0052】
(光音響波の群速度)
群速度gは、式(2)によって算出できる。ρは密度、vは位相速度、cは弾性スティフネス、dは波動の偏向方向、nは、位相の伝搬方向であり、i,l,kには総和規約を適用している。
【数2】
【0053】
被検体における群速度は、3次元分布g(=(g,g,g))として得られる。したがって、被検体に音響異方性がある場合、方向によって異なる群速度が得られる。このような群速度を用いることで、音速の方向依存性を考慮した映像化アルゴリズムを実現できる。
【0054】
(開口合成法)
ここでは開口合成法(SAFT)による被検体内部の3次元映像化を行う。図5は、光音響顕微鏡130の照射位置周辺を示す断面図である。音速分布の方向依存性を考慮したSAFTにおいて、図5に示すようにレーザ光の照射点の座標をoとすると、i点でレーザ光を照射後、同位置で受信した光音響波形はV(o,t)と表せる。
【0055】
このとき、時刻tの波動の発生源を推定する。式(1)と図6より、CFRPのような被検体では、光音響波は水との接触面(被検体表面)で卓越して発生しているものと仮定できる。すなわち、時刻tの波動は、レーザ光の照射点の被検体表面で発生した光音響波が、内部の散乱体から戻ってくるまでの時間とみなすことができる。光音響波の速度分布gを考慮すると、照射点oと散乱源rまでの距離r(=|r-o|)は式(3)で与えられる。
【数3】
【0056】
式(3)を用いて、時刻tの振幅値V(o,t)は位置rで発生した波動だとみなし、この振幅値を位置rにh(o,r)としてマッピングする。レーザ光の照射点を移動しながら、振幅値を重ね合わせる。
【数4】
【0057】
式(4)では、光音響波の到達する範囲(開口d)を仮定し、それによる振幅強度の補正wを考慮している。
【数5】
【0058】
ここでdは、図5に示すように、レーザ光の照射点の法線方向と位置rとの距離を表す。そして、レーザ光の照射位置を変えながら対象領域の全ての位置でHを計算し、それに色を付けて表示する。
【0059】
式(3)に示すように、散乱源の位置を算出する際には、散乱源の位置での光音響波の速度で光音響波が特定位置から散乱源で散乱され特定位置に戻ってくると仮定し、散乱源の位置を算出することが好ましい。これにより、照射方向の軸に対して対称な速度分布を有する被検体に対して効率的に散乱源の位置を算出できる。
【0060】
[実施例]
(概要)
CFRPの光学特性について調査し、CFRP内部を伝搬する光音響波の群速度について確認した。積層方向が互いに直交するCFRP(クロスプライCFRP)の供試体を用意し、その表面直下に深さの異なる人工剥離を作成した。光音響波がCFRPの表層で主に発生することを利用し、光を供試体の表面に集束させた。光音響波の検出には開口合成法を適用した。
【0061】
(水とCFRP)
光音響測定システム100では、被検体を水没させて測定がなされる。図6は、CFRPおよび水の特性値を示す表である。図6には、CFRPと水のグリュナイゼン係数が記載されている。CFRPのパラメータは、炭素繊維と樹脂のパラメータから複合則を用いて算出できる。光音響波は被検体の表面から伝搬を開始するものとして、アルゴリズムを構築することができる。
【0062】
また、レーザ光の波長が532nmのとき、CFRPの光吸収係数は200cm-1であり、水のそれは0.45×10-3cm-1程度である。これらの値を式(1)に当てはめると、水中よりもCFRPの方が発生する光音響波の圧力が格段に大きいことがわかる。また、μが大きいためにCFRP表面で大振幅の光音響波が発生し、内部では強度が急激に小さくなることがわかる。
【0063】
(CFRP内での光音響波の群速度)
CFRPは、炭素繊維の配向方向や積層数によって強度が変化する。図7(a)~(c)は、それぞれCFRP供試体の外観を示す写真、構造を示す概略図および顕微鏡写真である。図7(a)、(b)に示すように、CFRP供試体は、炭素繊維がx方向とy方向に交互に配向したクロスプライ(CP)CFRPである。
【0064】
マトリクスはエポキシ樹脂(東レ社#2592)であり、炭素繊維は東レ社のT700Sを用いた。8枚のプリプレグを積層し([(0°=90°)2]s)、130℃に保ったまま、0.5MPaでオートクレーブ成形した。成形後は供試体のx,y,z方向の長さがそれぞれ20.0mm、20.0mm、1.15mmになるようにカットした。
【0065】
図7(c)は、走査型電子顕微鏡による拡大写真である。炭素繊維の直径は約7μmであり、繊維の含有率は約60%、成形後のCFRPの密度はそれぞれ1.6g/cmである。CFRPの弾性スティフネスcがわかれば、式(2)によって位相速度vから群速度を求めることができる。
【0066】
図8(a)~(c)は、CFRPの供試体における速度分布の斜視図、xy断面図およびzx断面図である。図8(a)~(c)に示されているのはCFRPの縦波の群速度分布である。図8(a)は群速度の3次元分布g(=(gx,gy,gz))であり、図8(b)、(c)は面内の分布を表したものである。群速度は方向によって異なっており、xとy方向の縦波速度はおよそ6km/sであるが、z方向は3.1km/sである。したがって、レーザ光をCFRP表面に照射した場合、等方性材料のように球面状に拡がらないため、音速の方向依存性を考慮した映像化アルゴリズムを適用した。
【0067】
(使用装置)
パルスレーザ光源はLitron社製NanoL90-100を用いた。小型QスイッチNd:YAGレーザを用いた。光の波長は532nmであり、パルス幅は4ns、周波数は100Hzであり、光源から出射したレーザ光の強度は0.6mJであった。
【0068】
光がファイバに導入されるときのスポット径は170μmであった。発生した光音響波を受信する集束型超音波プローブには、50MHzを中心とする広帯域型の圧電型プローブ(オリンパス社、V214-BB-RM)を用いた。レーザ光の集光点とプローブの集束点を一致させるように設計し、光の焦点はコンデンサ底面から約6.5mmであった。フォトデテクタ(Thorlabs社、DET10a/M)で参照光を受信した。
【0069】
(開口合成法)
式(1)と図6より、CFRPにおける光音響波は水との接触面(CFRP表面)で卓越して発生しているものと仮定した。すなわち、時刻tの波動は、レーザ光の照射点のCFRP表面で発生した光音響波が、内部の散乱体から戻ってくるまでの時間とみなすことができる。光音響波の速度分布gを考慮すると、照射点oと散乱源rまでの距離r(=|r-o|)は式(3)で与えられる。
【0070】
式(3)を用いて、時刻tの振幅値V(o,t)は位置rで発生した波動だとみなし、この振幅値を位置rにh(o,r)としてマッピングした。そして、レーザ光の照射点を移動しながら、振幅値を重ね合わせた。
【0071】
(CFRP供試体)
光音響測定システム100で得られた波形を元に、SAFTを用いたCFRP中の人工剥離の映像化について検証する。図9(a)、(b)は、供試体中の剥離の位置を示す斜視図および写真である。図9(a)、(b)に示す供試体は、映像化実験のために作製したものである。
【0072】
材料は図7(a)~(c)で用いたものと同じであり、内部に人工剥離を作成した。幅5mm、長さ20mmのニトフロンシートをプリプレグの間に埋め込み、樹脂が硬化した後にシートを引き抜いて、人工剥離を作製した。人工剥離は、3層と4層目の間、4層と5層目の間に設けた。
【0073】
(計測波形例)
図10(a)、(b)は、それぞれA点およびB点における光音響波を示すグラフである。図10(a)、(b)には、光音響測定システム100で取得した波形の例が示されている。図10(a)、(b)は、図9(b)に示すA点とB点で、それぞれ取得した波形である。
【0074】
図10(a)、(b)のいずれにおいても、CFRPの表面で発生した光音響信号が0.9μs付近の波形に表れた。図10(a)において、表面からの光音響信号に続いて約0.74μs後に計測される波動は、CFRPの裏面からの反射波であると考えられる。z方向の音速が3.1km/sであることを考れば、光音響波が進む路程は約2.3mmになる。この路程はCFRP供試体の厚さ(1.15mm)の約2倍である。すなわち、光音響波はCFRPの表面で卓越して発生し、それが底面で反射したものが計測されていることを裏付けるものである。
【0075】
図10(b)において、CFRPの供試体表面からの光音響信号に続いて約0.37μs後に計測される波動は、4層目と5層目に作成した人工剥離からの反射波であることがわかる。
【0076】
図11は、光音響波のフーリエ変換スペクトルを示すグラフである。図11は、B点からの波形のフーリエスペクトルを示している。図11から、30MHz付近を中心に非常に広帯域の波形が得られている。発生する光音響波はプローブの公称中心周波数(50MHz)よりも中心周波数は低いが、低周波から100MHzまで広帯域の周波数特性を有することがわかる。
【0077】
(イメージング結果)
パルスレーザの照射をラスタスキャンし、CFRP供試体の3次元像をイメージングした。x-yステージのスキャンピッチは50μmであり、サンプリングレートは500MHzであった。SAFTで用いた開口はd=0.5mmであった。また、100kHzのハイパスフィルタを受信波形に作用させた。
【0078】
図12(a)~(c)は、それぞれフィルタありでのイメージングの結果を示す斜視図、xz図、フィルタなしでのイメージングの結果を示すxz図である。図12(a)~(c)は、イメージングの結果を示している。ここでは、3D高速ビューアであるKURUMIを用いて、しきい値を超えるHについて深さ方向(z方向)に色を変えながらプロットしている。
【0079】
図12(a)は鳥瞰的に供試体内部を表示したもの、図12(b)は、供試体のx-z断面を表している。これらの結果から、CFRP中の2つの人工剥離(Delamination 1, 2)の位置と形状が鮮明に再構成されているのがわかる。また、図12(a)に示す人工剥離の模様には、その直上のプリプレグの炭素繊維方向が反映されている。
【0080】
図12(c)は、図12(b)に示す場合のHのしきい値よりも小さくしてプロットしたもの結果を示している。このとき、人工剥離だけでなく、積層したプリプレグの境界が現れた。一般的な超音波パルスエコー法では、きずの位置が浅い場合、表面からの反射波が尾引くことで表面直下のきずからの散乱波と重なってしまうことが問題である。しかし、本手法では1層目と2層目のプリプレグの境界も表面から分離して確認することができ、高い空間分解能を有していることが示された。
【0081】
なお、光音響波を利用したSAFTイメージングは、光のスポット径に合わせて内部の光音響波の拡がりdを決定したり、検査したい対象の深さに合わせて超音波プローブの周波数帯域を変更したりする必要がある。SAFTは、取得した波形をビームの拡がりを考慮して重ね合わせるため、スキャンピッチをある程度粗くできるのがメリットである。これは、高速スキャンにもつながることになり、非破壊検査の対象が大断面である場合には有用である。
【0082】
上記のイメージングの結果は、式(3)を用いて散乱源の位置を算出しているが、供試体の内部で群速度が一様であると仮定してイメージングを行うことも可能である。この場合には、実際の散乱源の位置とは異なる位置が散乱源の位置として算出されるため、同じCFPR供試体をイメージングした場合、精度が低くなり人工剥離の位置がもっと不鮮明になる。
【0083】
(結論)
本発明の光音響波を利用した非破壊検査法により、CFRPの表面直下の剥離の評価において表面直下の剥離のイメージングが可能になった。光音響波を発生する光音響測定システム100により、532nmのレーザ光をCFRPの上部から照射し、CFRPの表面で発生したMHz帯の光音響波を集束型プローブで受信した。
【0084】
その結果、光音響波の発生強度は、光吸収係数とグリュナイゼン係数に比例することを示し、CFRPにレーザ光を照射した場合、表面から卓越して光音響波が発生することを示した。これは、光音響顕微鏡で計測した波形の出現時刻からも妥当であることを確認した。
【0085】
CFRP内部で発生した光音響波は、CFRPの材料異方性のために方向によって音速(群速度)が異なる。したがって、CFRPの内部像を高精度にイメージングするために、CFRP表面から球面状に光音響波が拡がることと音速分布の方位依存性を考慮しながら波形を合成した。
【0086】
開口合成法(SAFT)を用いて、光音響顕微鏡で得られた波形を合成し、CFRP内部の3次元イメージングを行った。発生する光音響波の広帯域性によって、通常のUTでは不感帯となるようなCFRPの表面直下のきずをイメージングできることを示した。
【0087】
このような結果から、繊維うねりや樹脂過多領域(繊維不足領域)についても、同様の映像化が見込まれる。また、CFRP検査の実用化の観点から、光音響波の受信プローブとしてエアカップル超音波プローブを用いて完全非接触法への展開も見込める。
【符号の説明】
【0088】
100 光音響測定システム
110 装置
111 パルスレーザ制御部
112 モニタデータ管理部
113 基準データ管理部
114 測定データ管理部
115 位置算出部
116 マッピング部
117 マッピング重畳部
118 再構成部
122 スキャナコントローラ
125 スイッチング回路
128 パルスレーザ光源
130 光音響顕微鏡
132 ファイバ
134 レンズ
135 ビームスプリッタ
136 アキシコンレンズ
137 反射プリズム
138 トランスデューサ
140 ステージ
150 フォトデテクタ
160 DAQ
170 アンプ
180 レシーバ
C1 焦点領域
S1 被検体
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12