(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-05-12
(45)【発行日】2023-05-22
(54)【発明の名称】単結晶X線構造解析装置用試料ホルダユニット
(51)【国際特許分類】
G01N 23/20025 20180101AFI20230515BHJP
G01N 23/205 20180101ALI20230515BHJP
G01N 23/207 20180101ALI20230515BHJP
G01N 1/28 20060101ALI20230515BHJP
【FI】
G01N23/20025
G01N23/205
G01N23/207
G01N1/28 W
(21)【出願番号】P 2020557653
(86)(22)【出願日】2019-11-21
(86)【国際出願番号】 JP2019045701
(87)【国際公開番号】W WO2020105727
(87)【国際公開日】2020-05-28
【審査請求日】2022-06-01
(31)【優先権主張番号】P 2018219781
(32)【優先日】2018-11-22
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000250339
【氏名又は名称】株式会社リガク
(74)【代理人】
【識別番号】100114258
【氏名又は名称】福地 武雄
(74)【代理人】
【識別番号】100125391
【氏名又は名称】白川 洋一
(72)【発明者】
【氏名】佐藤 孝
【審査官】比嘉 翔一
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2014/038220(WO,A1)
【文献】米国特許出願公開第2003/0152194(US,A1)
【文献】国際公開第2009/001602(WO,A1)
【文献】特開2013-156218(JP,A)
【文献】特開2017-138302(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01N 23/00-23/2276
G01N 1/00- 1/44
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
単結晶X線構造解析装置において使用する試料ホルダと、前記試料ホルダを収納するアプリケータからなる試料ホルダユニットであって、
前記試料ホルダは、
前記単結晶X線構造解析装置のゴニオメータに取り付けられる基台部と、
前記基台部に形成され、内部に形成された複数の微細孔に試料を吸蔵可能な細孔性錯体結晶を保持する保持部と、
前記基台部に形成され、前記細孔性錯体結晶に吸蔵させるための前記試料を導入する試料導入構造を備え、
前記アプリケータは、
前記試料ホルダを収納する収納空間および開口部と、
前記収納空間に収納された前記試料ホルダとの接触面に設けられたシール部と、
前記収納空間に収納された前記試料ホルダに係合して、前記開口部からの前記試料ホルダの抜け出しを阻止する抜け止め部と、を備えることを特徴とする試料ホルダユニット。
【請求項2】
請求項1に記載の試料ホルダユニットにおいて、
前記試料導入構造は、前記基台部をユニット外側から内側に貫通する試料導入パイプで構成され、
前記抜け止め部は、係合位置で前記試料ホルダの前記試料導入パイプを妨げない形状であることを特徴とする試料ホルダユニット。
【請求項3】
請求項1または2に記載の試料ホルダユニットにおいて、
前記抜け止め部は、前記アプリケータの開口部に突出して前記試料ホルダの抜け出しを阻止する回転レバーで構成されることを特徴とする試料ホルダユニット。
【請求項4】
請求項1または2に記載の試料ホルダユニットにおいて、
前記抜け止め部は、前記アプリケータの開口部に突出するように摺動して、前記試料ホルダの抜け出しを阻止する形状であることを特徴とする試料ホルダユニット。
【請求項5】
請求項4に記載の試料ホルダユニットにおいて、
前記抜け止め部は、前記試料ホルダと係合する摺動面の先端に傾斜面を有することを特徴とする試料ホルダユニット。
【請求項6】
請求項4または5に記載の試料ホルダユニットにおいて、
前記アプリケータはその両側部に一対の平行な案内レールを有し、
前記抜け止め部は前記案内レールに係合して摺動することを特徴とする試料ホルダユニット。
【請求項7】
請求項4または5に記載の試料ホルダユニットにおいて、
前記アプリケータはその両側部に一対の平行な案内レールを有し、
前記抜け止め部は前記案内レールに係合して摺動する係合部を有し、
前記案内レールおよび前記係合部は、それぞれ断面コ字型に形成されることを特徴とする試料ホルダユニット。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、材料の構造をその原子や分子の配列などのミクロな集合構造によって解析することを可能にする次世代の単結晶X線構造解析装置に関し、特に、解析する対象となる単結晶試料の作成を含んだ処理を行うための冶具である単結晶X線構造解析装置用試料ホルダユニットに関する。
【背景技術】
【0002】
新たなデバイスや材料の研究開発では、日常的に材料の合成、材料の評価、それに基づいた次の研究方針の決定が行なわれている。短期間に材料開発を行うためのX線回折を用いた物質の構造解析では、目的の材料の機能・物性を実現する物質構造を効率良く探索するために、構造解析を効率的に行うことを可能とする物質の構造解析を中心とした物質構造の探索方法とそれに用いるX線構造解析は必要不可欠である。
【0003】
しかし、当該手法で得られた結果に基づいて構造解析を行うことは、X線の専門家でなければ難しかった。そのため、X線の専門家でなくても構造解析を行うことができるX線構造解析システムが求められていた。その中でも、特に、以下の特許文献1にも知られるように、単結晶X線構造解析は、正確で精度の高い分子の立体構造を得ることができる手法として注目されている。
【0004】
他方、この単結晶X線構造解析には、試料を結晶化して単結晶を用意しなければならないという大きな制約があった。しかしながら、以下の非特許文献1や2、更には、特許文献2にも知られるように、「結晶スポンジ」と呼ばれる材料(例えば、直径0.5nmから1nmの細孔が無数に開いた細孔性錯体結晶)の開発によって、結晶化しない液体状化合物や結晶化を行うに足る量を確保できない試料なども含め、単結晶X線構造解析を広く適用することが可能となっている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開2007-3394号公報
【文献】再公表特許WO2016/017770号公報
【非特許文献】
【0006】
【文献】Makoto Fujita; X-ray analysis on the nanogram to microgram scale using porous complexes; Nature 495,461-466; 28 March 2013
【文献】Hoshino et al. (2016), The updated crystalline sponge method IUCrJ, 3, 139-151
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、上述した結晶スポンジを利用した従来技術になる単結晶X線構造解析では、各種の装置によって分離された数ng~数μg程度の極微量の試料を寸法100μm程度の極微小で脆弱(fragile)な結晶スポンジの骨格内に吸蔵する工程と共に、更に、この試料を吸蔵した極微小な結晶スポンジを取り出し、冶具に取り付け、単結晶X線構造解析装置内のX線照射位置に搭載するという微細で緻密な作業を伴う工程を、迅速かつ正確に行うことを必要とする。なお、これらの短時間で行う微細かつ緻密な作業は、結晶スポンジに吸蔵した後の試料の測定結果に多大な影響を及ぼすこととなり、非常に重要な作業となる。
【0008】
このことから、本発明は、上述した従来技術における問題点に鑑みて達成されたものであり、その目的は、特に、X線構造解析の専門知識がなくても、極微小で脆弱(fragile)な結晶スポンジに吸蔵した試料の取り出しや装置への搭載作業を含め、結晶スポンジによる単結晶X線構造解析を、迅速さも求められる従来の微細で緻密な作業を伴うことなく、迅速に、かつ、確実かつ容易に行うことを可能とする試料ホルダユニットであって、換言すれば、歩留まり良くかつ効率的で、汎用性に優れ、かつ、ユーザフレンドリな単結晶X線構造解析装置を実現するため、単結晶X線構造解析装置において使用される試料ホルダユニットを提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
(1)上記の目的を達成するため、本発明の試料ホルダユニットは、単結晶X線構造解析装置において使用する試料ホルダと、前記試料ホルダを収納するアプリケータからなる試料ホルダユニットであって、前記試料ホルダは、前記単結晶X線構造解析装置のゴニオメータに取り付けられる基台部と、前記基台部に形成され、内部に形成された複数の微細孔に試料を吸蔵可能な細孔性錯体結晶を保持する保持部と、前記基台部に形成され、前記細孔性錯体結晶に吸蔵させるための前記試料を導入する試料導入構造を備え、前記アプリケータは、前記試料ホルダを収納する収納空間および開口部と、前記収納空間に収納された前記試料ホルダとの接触面に設けられたシール部と、前記収納空間に収納された前記試料ホルダに係合して、前記開口部からの前記試料ホルダの抜け出しを阻止する抜け止め部と、を備えることを特徴としている。
【0010】
(2)また、本発明の試料ホルダユニットにおいて、前記試料導入構造は、前記基台部をユニット外側から内側に貫通する試料導入パイプで構成され、前記抜け止め部は、係合位置で前記試料ホルダの前記試料導入パイプを妨げない形状であることを特徴としている。
【0011】
(3)また、本発明の試料ホルダユニットにおいて、前記抜け止め部は、前記アプリケータの開口部に突出して前記試料ホルダの抜け出しを阻止する回転レバーで構成されることを特徴としている。
【0012】
(4)また、本発明の試料ホルダユニットにおいて、前記抜け止め部は、前記アプリケータの開口部に突出するように摺動して、前記試料ホルダの抜け出しを阻止する形状であることを特徴としている。
【0013】
(5)また、本発明の試料ホルダユニットにおいて、前記抜け止め部は、前記試料ホルダと係合する摺動面の先端に傾斜面を有することを特徴としている。
【0014】
(6)また、本発明の試料ホルダユニットにおいて、前記アプリケータはその両側部に一対の平行な案内レールを有し、前記抜け止め部は前記案内レールに係合して摺動することを特徴としている。
【0015】
(7)また、本発明の試料ホルダユニットにおいて、前記アプリケータはその両側部に一対の平行な案内レールを有し、前記抜け止め部は前記案内レールに係合して摺動する係合部を有し、前記案内レールおよび前記係合部は、それぞれ断面コ字型に形成されることを特徴としている。
【発明の効果】
【0016】
上述した本発明の単結晶X線構造解析装置用試料ホルダユニットによれば、単結晶X線構造解析装置における脆弱(fragile)な結晶スポンジへの試料の吸蔵とその後のゴニオメータ先端部への取り付け作業を、従来の緻密で微細な工程を伴うことなく、迅速かつ正確かつ容易に行うことができ、結晶スポンジによる単結晶X線構造解析を、迅速かつ正確かつ容易に行うことができる。そのことから、結晶スポンジによる単結晶X線構造解析を容易に利用可能にして、広く普及することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【
図1】本発明の一実施の形態になる単結晶X線回折装置を備えた単結晶X線構造解析装置の全体構成を示す図である。
【
図2】上記単結晶X線回折装置の構成を示す図である。
【
図3】上記単結晶X線構造解析装置内部の電気的構成を示すブロック図である。
【
図4】上記単結晶X線構造解析装置により得られるXRDSパターン又はイメージを示す写真を含む図である。
【
図5】上記単結晶X線構造解析装置においてX線回折データ測定・処理ソフトウェアを実行した画面の一例を示す写真を含む図である。
【
図6】上記単結晶X線構造解析装置の構造解析プログラムを用いて作成した分子モデルを表示した画面を含む図である。
【
図7】上記単結晶X線回折装置のゴニオメータを中心にした構造の一例を示す写真を含む図である。
【
図8】本発明の実施例1の上記ゴニオメータに取り付ける試料ホルダの一例を示す断面図である。
【
図9】上記試料ホルダを収納するアプリケータの斜視図である。
【
図10】上記試料ホルダが上記アプリケータに収納された状態の試料ホルダユニットの説明図である。
【
図11】上記試料ホルダが上記アプリケータに収納された状態の試料ホルダユニットの説明図である。
【
図12】上記試料ホルダに試料導入パイプが挿入される過程を示す説明図である。
【
図13】同じく試料導入パイプから導入された試料が結晶スポンジに吸蔵される工程を示す説明図である。
【
図14】単結晶X線構造解析において用いられる前処理装置の一例を示す図である。
【
図15】本発明の実施例2のアプリケータの斜視図である。
【
図16】同じく実施例2の試料ホルダユニットの断面図である。
【
図17】本発明の実施例3の一部断面で示す試料ホルダユニットの斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、本発明の一実施の形態になる、結晶スポンジを利用した単結晶X線構造解析装置に用いる試料ホルダユニットについて、添付の図面を参照しながら、詳細に説明する。なお、本出願において「AまたはB」の表現は、「AおよびBの少なくとも一方」を意味し、AおよびBがありえないという特段の事情がない限り「AおよびB」を含む。
【0019】
添付の
図1には、本発明の一実施の形態になる、単結晶X線回折装置を含む単結晶X線構造解析装置の全体外観構成が示されており、図からも明らかなように、単結晶X線構造解析装置1は、冷却装置やX線発生電源部を格納した基台4と、その基台4の上に載置された防X線カバー6とを有する。
【0020】
防X線カバー6は、単結晶X線回折装置9を包囲するケーシング7及びそのケーシング7の前面に設けられた扉8等を有する。ケーシング7の前面に設けられた扉8は開くことができ、この開いた状態で内部の単結晶X線回折装置9に対して種々の操作を行うことができる。なお、図に示す本実施形態は、後にも述べる結晶スポンジを利用して物質の構造解析を行う単結晶X線回折装置9を含んだ単結晶X線構造解析装置1である。
【0021】
単結晶X線回折装置9は、
図2にも示すように、X線管11及びゴニオメータ12を有する。X線管11は、ここでは図示しないが、フィラメントと、フィラメントに対向して配置されたターゲット(「対陰極」とも言う)と、それらを気密に格納するケーシングとを有し、このフィラメントは、
図1の基台4に格納されたX線発生電源部によって通電されて発熱して熱電子を放出する。また、フィラメントとターゲットとの間にはX線発生電源部によって高電圧が印加され、フィラメントから放出された熱電子が高電圧によって加速されてターゲットに衝突する。この衝突領域がX線焦点を形成し、このX線焦点からX線が発生して発散する。より詳細には、このX線管11は、ここでは図示しないが、マイクロフォーカス管と多層膜集光ミラー等の光学素子を含んで構成されており、より高い輝度のビームを照射することが可能であり、また、Cu、MoやAgなどの線源から選択可能となっている。上記に例示するように、フィラメントと、フィラメントに対向して配置されたターゲットと、それらを気密に格納するケーシングが、X線源として機能し、マイクロフォーカス管と多層膜集光ミラー等の光学素子を含むX線照射のための構成がX線照射部として機能する。
【0022】
また、ゴニオメータ12は、解析すべき試料Sを支持すると共に、試料SのX線入射点を通る試料軸線ωを中心として回転可能とするθ回転台16と、θ回転台16のまわりに配置されて試料軸線ωを中心として回転可能な2θ回転台17とを有する。なお、試料Sは、本実施形態の場合、後にも詳述する試料ホルダ214の一部に予め取り付けられた結晶スポンジの内部に吸蔵されている。ゴニオメータ12の基台18の内部には、上述したθ回転台16及び2θ回転台17を駆動するための駆動装置(図示せず)が格納されており、これらの駆動装置によって駆動されて、θ回転台16は所定の角速度で間欠的又は連続的に回転し、いわゆるθ回転する。また、これらの駆動装置によって駆動されて2θ回転台17は間欠的又は連続的に回転し、いわゆる2θ回転する。上記の駆動装置は任意の構造によって構成できるが、例えば、ウォームとウォームホイールとを含んで構成される動力伝達構造によって構成できる。
【0023】
ゴニオメータ12の外周の一部にはX線検出器22が載置されており、このX線検出器22は、例えば、CCD型やCMOS型の2次元ピクセル検出器、ハイブリッド型ピクセル検出器などによって構成される。なお、X線検出測定部は、試料により回折又は散乱されたX線を検出して測定する構成を指し、X線検出器22およびこれを制御する制御部を含む。
【0024】
単結晶X線回折装置9は、以上のように構成されているので、試料Sは、ゴニオメータ12のθ回転台16のθ回転によって試料軸線ωを中心としてθ回転する。この試料Sがθ回転する間、X線管11内のX線焦点から発生して試料Sへ向けられるX線は所定の角度で試料Sに入射して回折・発散する。即ち、試料Sへ入射するX線の入射角度は試料Sのθ回転に応じて変化する。
【0025】
試料Sに入射するX線の入射角度と結晶格子面との間でブラッグの回折条件が満足されると、その試料Sから回折X線が発生する。この回折X線はX線検出器22に受光されてそのX線強度が測定される。以上により、入射X線に対するX線検出器22の角度、すなわち回折角度に対応する回折X線の強度が測定され、この測定結果から試料Sに関する結晶構造等が解析される。
【0026】
続いて、
図3(A)は、上記単結晶X線構造解析装置における制御部110を構成する電気的な内部構成の詳細の一例を示す。なお、本発明が以下に述べる実施形態に限定されるものでないことは、もちろんである。
【0027】
この単結晶X線構造解析装置1は、上述した内部構成を含んでおり、更に、適宜の物質を試料として測定を行う測定装置102と、キーボード、マウス等によって構成される入力装置103と、表示手段としての画像表示装置104と、解析結果を印刷して出力するための手段としてのプリンタ106と、CPU(Central Processing Unit)107と、RAM(Random Access Memory)108と、ROM(Read Only Memory)109と、外部記憶媒体としてのハードディスク111などを有する。これらの要素はバス112によって電気的に相互につながれている。
【0028】
画像表示装置104は、CRTディスプレイ、液晶ディスプレイ等といった画像表示機器によって構成されており、画像制御回路113によって生成される画像信号に従って画面上に画像を表示する。画像制御回路113はこれに入力される画像データに基づいて画像信号を生成する。画像制御回路113に入力される画像データは、CPU107、RAM108、ROM109及びハードディスク111を含んで構成されるコンピュータによって実現される各種の演算手段の働きによって形成される。プリンタ106は、インクプロッタ、ドットプリンタ、インクジェットプリンタ、静電転写プリンタ、その他任意の構造の印刷用機器を用いることができる。なお、ハードディスク111は、光磁気ディスク、半導体メモリ、その他、任意の構造の記憶媒体によって構成することもできる。
【0029】
ハードディスク111の内部には、単結晶X線構造解析装置1の全般的な動作を司る分析用アプリケーションソフト116と、測定装置102を用いた測定処理の動作を司る測定用アプリケーションソフト117と、画像表示装置104を用いた表示処理の動作を司る表示用アプリケーションソフト118とが格納されている。これらのアプリケーションソフトは、必要に応じてハードディスク111から読み出されてRAM108へ転送された後に所定の機能を実現する。
【0030】
この単結晶X線構造解析装置1は、更に、上記測定装置102によって得られた測定データを含めた各種の測定結果を記憶するための、例えば、クラウド領域に置かれたデータベースも含んでいる。図の例では、後にも説明するが、上記の測定装置102によって得られたXRDSイメージデータを格納するXRDS情報データベース120、顕微鏡により得られた実測イメージを格納する顕微鏡イメージデータベース130、更には、例えば、XRFやラマン光線等、X線以外の分析により得られた測定結果や、物性情報を格納するその他分析データベース140が示されている。なお、これらのデータベースは、必ずしも、単結晶X線構造解析装置1の内部に搭載される必要はなく、例えば、外部に設けられてネットワーク150等を介して相互に通信可能に接続されてもよい。
【0031】
データファイル内に複数の測定データを記憶するためのファイル管理方法としては、個々の測定データを個別のファイル内に格納する方法も考えられるが、本実施形態では、
図3(B)に示すように、複数の測定データを1つのデータファイル内に連続して格納することとしている。なお、
図3(B)において「条件」と記載された記憶領域は、測定データが得られたときの装置情報および測定条件を含む各種の情報を記憶するための領域である。
【0032】
このような測定条件としては、(1)測定対象物質名、(2)測定装置の種類、(3)測定温度範囲、(4)測定開始時刻、(5)測定終了時刻、(6)測定角度範囲、(7)走査移動系の移動速度、(8)走査条件、(9)試料に入射するX線の種類、(10)試料高温装置等といったアタッチメントを使ったか否か、その他、各種の条件が考えられる。
【0033】
XRDS(X-ray Diffraction and Scattering)パターン又はイメージ(
図4を参照)は、上記測定装置102を構成するX線検出器22の2次元空間である平面上で受け取られたX線を、当該検出器を構成する平面状に配列された画素毎に受光/蓄積して、その強度を測定することにより得られるものである。例えば、X線検出器22の各画素毎に、積分によって受光したX線の強度を検出することによれば、rとθの2次元空間上のパターン又はイメージが得られる。
【0034】
<測定用アプリケーションソフト>
照射されるX線に対する対象材料によるX線の回折や散乱によって得られる観測空間上のXRDSパターン又はイメージは、対象材料の実空間における電子密度分布の情報を反映している。しかしながら、XRDSパターンは、rとθの2次元空間であり、3次元空間である対象材料の実空間における対称性を直接的に表現するものではない。そのため、一般的に、現存のXRDSイメージだけでは、材料を構成する原子や分子の(空間)配列を特定することは困難であり、X線構造解析の専門知識を必要とする。そのため、本実施例では、上述した測定用アプリケーションソフトを採用して自動化を図っている。
【0035】
その一例として、
図5(A)及び(B)にその実行画面を示すように、単結晶構造解析のためのプラットフォームである「CrysAlis
Pro」と呼ばれるX線回折データ測定・処理ソフトウェアを搭載し、予備測定、測定条件の設定、本測定、データ処理などを実行する。更には、「AutoChem」と呼ばれる自動構造解析プラグインを搭載することにより、X線回折データ収集と並行して、構造解析および構造の精密化を実行する。そして、
図6にも示す「Olex
2」と呼ばれる構造解析プログラムにより、空間群決定から位相決定、分子モデルの構築と修正、構造の精密化、最終レポート、CIFファイルの作成を行う。
【0036】
以上、単結晶X線構造解析装置1の全体構造やその機能について述べたが、以下には、特に、本発明に係る結晶スポンジと、それに関連する装置や冶具について、添付の図面を参照しながら詳細に述べる。
【0037】
<結晶スポンジ>
上述したように、内部に直径0.5nmから1nmの細孔が無数に開いた、寸法が数10μm~数100μm程度の極微小で脆弱(fragile)な細孔性錯体結晶である「結晶スポンジ」と呼ばれる材料の開発によって、単結晶X線構造解析は、結晶化しない液体状化合物や、或いは、結晶化を行うに足る量が確保できない数ng~数μgの極微量の試料なども含め、広く適用することが可能となっている。
【0038】
しかしながら、現状においては、上述した結晶スポンジの骨格内への試料の結晶化である吸蔵(post-crystallization)を行うためには、各種の前処理(分離)装置によって分離された数ng~数μg程度の極微量の試料を、既に述べたように、容器内において、シクロヘキサン等の保存溶媒(キャリア)に含浸して提供される外径100μm程度の極微小で脆弱(fragile)な結晶スポンジの骨格内に吸蔵させる工程が必要となる。保存溶媒(キャリア)には、液体と、気体(ガス)と、その中間にあたる超臨界流体が含まれる。更には、その後、この試料を吸蔵した極微小で脆弱(fragile)な取り扱い難い結晶スポンジを、迅速に(結晶スポンジが乾燥により破壊されない程度の短い時間で)、容器から取り出し、単結晶X線回折装置内のX線照射位置に、より具体的には、ゴニオメータ12の試料軸(所謂、ゴニオヘッドピン)の先端部に、センタリングを行いながら正確に搭載する工程を必要とする。これらの工程は、X線構造解析の専門知識の有無に関わらず、作業者に非常な緻密性を要求する微細で、かつ、迅速性をも要求する作業であり、結晶スポンジに吸蔵した後の試料の測定結果に多大な影響を及ぼすこととなる。即ち、これらの作業が極微小な結晶スポンジを利用した単結晶X線構造解析を歩留まりの悪いものとしており、このことが、結晶スポンジを利用した単結晶X線構造解析が広く利用されることから阻害される一因ともなっている。
【0039】
<試料ホルダ、試料ホルダユニット>
本発明は、上述したような発明者の知見に基づいて達成されたものであり、極微小で脆弱(fragile)な結晶スポンジによる単結晶X線構造解析を、以下に述べる結晶スポンジを支持する結晶スポンジ用試料ホルダ(単に、試料ホルダともいう)を備えた試料ホルダユニットを用いることにより、迅速に、確実かつ容易に行うことを可能とするものであり、換言すれば、歩留まり良くかつ効率的で、汎用性に優れ、かつ、ユーザフレンドリな単結晶X線構造解析装置を実現するものである。即ち、本発明に係る次世代の単結晶X線構造解析装置では、極微量な試料Sを吸蔵した極微小で脆弱(fragile)な結晶スポンジを用意すると共に、更には、当該試料S(結晶スポンジ)を吸蔵容器から取り出して、結晶スポンジが乾燥により破壊されない程度の短時間で、迅速に、ゴニオメータ12の先端部の所定位置に、正確かつ迅速に取り付けなければならないという、大きな制約があるが、特に、汎用性にも優れたユーザフレンドリな装置を実現するためには、かかる作業を、高度な専門知識や作業の緻密性を要求せずに、迅速かつ容易に実行可能なものとする必要がある。
【0040】
本発明は、かかる課題を解消し、即ち、極微小で脆弱(fragile)な取り扱い難い結晶スポンジを使用しながらも、試料の当該結晶スポンジへの吸蔵やその後の装置への搭載を含む作業を、誰でも、迅速かつ確実かつ容易に、歩留まり良く効率的で、ユーザフレンドリに行うことが可能で、かつ、汎用性にも優れた単結晶X線構造解析装置を実現可能にするための冶具である、単結晶X線構造解析装置用試料ホルダユニットを提供するものであり、以下に詳述する。
【0041】
図7(A)は、ゴニオメータ12の先端部を拡大して示しており、この図では、本発明により提案される解析すべき試料を吸蔵する結晶スポンジ200をその先端部に予め取り付けた冶具である、
図7(B)に拡大図を示した、所謂、試料ホルダ214が、ゴニオメータ12の先端部のゴニオヘッド15に取り付けられる(マウントされる)様子を示している。なお、この試料ホルダ214は、例えば、磁力などを利用した取付け/位置決め機構によって、ゴニオメータ12の先端部のゴニオヘッド15に対して着脱可能で、かつ、誰でも正確な位置に容易かつ高精度に取り付けることが可能となっている。
【実施例1】
【0042】
図8は、実施例1の試料ホルダ214の断面を示している。試料ホルダ214は、ゴニオメータ12の先端部のゴニオヘッド15(
図7(A)参照)に取り付けられる金属等からなる円盤状の基台部201と、その一方の面(図では下面)から下方に延びる突起状に形成された突出部202で構成される。突出部202は、円錐部202aと突起状に形成された試料保持部(所謂、ゴニオヘッドピンに対応する)202bで構成される。試料保持部202bの先端の所定位置には、上述した解析すべき試料を吸蔵するための結晶スポンジ200が、予め試料ホルダ214と一体に取り付けられている。
【0043】
また、基台部201の他の面(図では上面)には、円錐台の凹状の取付部203が形成され、この取付部203には、前述のゴニオメータ12の先端部のゴニオヘッド15との接触面に、図示しないマグネットや、嵌合凸部(または凹部)203aが設けられている。この構成により、試料ホルダ214は、ゴニオメータ12の先端部のゴニオヘッド15に対し、着脱可能で、誰でも容易かつ高精度に搭載することが可能となる。
【0044】
試料ホルダ214の円錐部202aの基台部側の外径は、基台部201の外径より小さく設定されており、環状の段部208が形成される。また、基台部201から突出部202に貫通する試料導入構造としての貫通孔204、205が形成され、各貫通孔204、205には、孔内を気密に閉塞するシール部206、207が設けられる。
【0045】
図9には、試料ホルダ214を収納し、試料ホルダ214に予め取り付けられた結晶スポンジ200に試料を吸蔵するための冶具となる、アプリケータ300の斜視図が示されている。
図10は、アプリケータ300と、その内部に収納された試料ホルダ214とで構成される試料ホルダユニット400の断面図である。
【0046】
アプリケータ300は、例えば、ガラスや樹脂や金属等の透明又は不透明な部材で形成されており、その内部には、試料ホルダ214を収納するための収納空間301が形成され、更に、その上部には、試料ホルダ214を嵌入し、かつ、取り出すための開口部302が形成されている。開口部302の環状の底面には、例えば、環状のシール部(Oリング)304が設けられており、試料ホルダ214の収納時に、試料ホルダ214の段部208が、シール部304に接触して、試料ホルダ214とアプリケータ300の間が気密に保たれる。
【0047】
アプリケータ300の開口部302の内径は、試料ホルダ214の基台部201の外径より僅かに大きく設定されており、試料ホルダ214の出し入れ時に、開口部302の内壁を案内面とすることができる。したがって、極微量な試料を吸蔵した結晶スポンジ200を有する試料ホルダ214を、アプリケータ300から取り出す際に、試料Sに損傷を与えることがなく、容易に準備することができる。
【0048】
符号305は、開口部302を有するアプリケータ300の開口面309に設けられた一対の抜け止め部(回転レバー)であり、その先端307が、開口部302内に横から突出する破線で示す位置と、実線で示す後退位置との間で回転可能に、支点306により支持されている。
【0049】
図10に示すように、試料ホルダ214がアプリケータ300の開口部302から挿入されると、試料ホルダ214の段部208が収納空間301のシール部304に当接され、試料ホルダ214の上端がアプリケータ300の開口面309から突出する。次いで、試料ホルダ214の上端を手指等で矢印方向に押しながら、抜け止め部305の先端307を開口部302内に突出する方向に回転させる。この回転操作によって、
図11に示すように、抜け止め部305の先端307は、試料ホルダ214の上端に係合してその浮き上がりが押さえられ、同時に、試料ホルダ214の段部208がシール部304に圧接して、試料ホルダ214とアプリケータ300との間が気密に保たれる。
【0050】
図12は、試料ホルダの貫通孔204、205(
図8参照)に試料導入構造としての試料導入パイプ(以下、単にパイプともいう)220、221が挿入される過程を示す説明図であり、
図13は、上記パイプが挿入された状態の説明図である。各パイプ220、221は、前記シール部206、207(
図8参照)によって、貫通孔204、205との間で気密に保持される。符号210は、試料導入パイプ220、221を支持する支持部であり、貫通孔204、205の間隔と同一間隔で、互いに略平行状態に両パイプを支持する。支持部210は、凹状に形成される取付部203とほぼ同一形状の円錐台形状であり、その高さHは試料ホルダ214の取付部203の高さhより高く設定される。
【0051】
試料導入パイプ220、221は、支持部210を手指またはマニュピレータ等で押し下げることにより、貫通孔204、205に同時に挿入される。支持部210は、その下端が取付部203の凹部に入り込んでその底面に当接して下降後停止し、パイプ220、221を安定的に支持する。
【0052】
図13に示すように、支持部210は、停止状態において取付部203から高さHとhの差分だけ上方に突出(符号211参照)する。この突出している部分211は、結晶スポンジ200への試料の吸蔵の後には、パイプ220、221を引き抜くときの冶具として有用である。すなわち、支持部210の突出している部分211を手指またはマニュピレータ等で挟持して引き上げることにより、パイプ220、221を同時に効率よく引き抜くことができる。
【0053】
図13において、符号230は、アプリケータ300の収納空間301の底部に注入された疎水性の溶媒(例えばシクロヘキサン)であり、試料保持部202bの先端部の結晶スポンジ200が浸るレベルに設定されて充填される。パイプ220は試料の注入用のパイプであり、パイプ221は排出用のパイプである。パイプ220の先端部は、溶媒230に没入して結晶スポンジ200の近傍まで伸び、パイプ221の先端部は、溶媒230に浸らない位置まで伸びている。
【0054】
図13において、注入用のパイプ220から測定すべき試料(例えば気体)が注入されると、試料は溶媒230に入り込み、溶媒中で結晶スポンジ200内に吸蔵される。過剰に供給された試料(溶媒、担体等)は、パイプ221を経由して外部に排出される。
【0055】
その後、本例では、支持部210の突出する部分211を手指またはマニュピレータ等で挟持して持上げることにより、パイプ220、221が同時に引き抜かれ、次いで、試料の吸蔵が行われた結晶スポンジ200を有する試料ホルダ214が、ゴニオメータ12の先端部のゴニオヘッド15に取り付けられる。なお、試料ホルダ214と、その取扱い冶具であるアプリケータ300とは、共に一体化した試料ホルダユニット400として、解析作業に必要な数だけ揃えて、箱状の容器に収納し、所謂、セットとして提供することも可能である。
【0056】
上記構成の試料ホルダユニット400によれば、当該試料ホルダ214の一部を構成するピン状の保持部202b(ゴニオヘッドピンに対応)の先端部に取り付けた結晶スポンジ200を、破損し、或いは、試料ホルダ214から逸脱することなく、安全かつ容易に取り扱うことができる。即ち、アプリケータ300から取り出す際にも、開口部302が案内面となるので、極微量な試料を吸蔵した当該結晶スポンジ200を、従来のように吸蔵容器から単体で取り出されて損傷することなく、安全で簡単かつ容易に、かつ、乾燥により破壊されない程度の短時間で、迅速に、ゴニオヘッド15上に準備することができる。本実施例では、この試料の吸蔵が完了した試料ホルダ214を、アプリケータ300から取り外し、ゴニオメータ12の先端部のゴニオヘッド15(
図7(A)を参照)に取り付ける。これにより、結晶スポンジ200に吸蔵した当該試料Sは、高度な専門知識や緻密な作業を必要とすることなく、単結晶X線回折装置9内の所定の位置に容易に、正確かつ迅速に配置されることとなる。
【0057】
<吸蔵装置(ソーキングマシン)による試料の導入>
続いて、上記構成の試料ホルダユニット400(
図10~13参照)の結晶スポンジ200への、吸蔵装置を用いて行われる試料の吸蔵について説明する。
【0058】
図14において、前処理装置600を構成するLC(液体クロマトグラフィ)601、GC(気体クロマトグラフィ)602、更には、SCF(超臨界液体クロマトグラフィ)603やCE(電気泳動)604等によって抽出された極微量な試料Sは、各種の切替弁や調圧装置を備えて必要な条件(流量や圧力)で流体を供給する吸蔵装置(ソーキングマシン)650を介して、試料ホルダ214の貫通孔204、205に挿入される一対の試料導入パイプ220、221に供給され、当該試料は、アプリケータ300内部の収納空間301に選択的に導入される。すなわち試料は、供給側配管から供給側の試料導入パイプ220に送られ、供給側の試料導入パイプ220の先端部分からアプリケータ300の内部の試料ホルダ214に供給される。試料のみ、または試料と保存溶媒(キャリア)とが混合された溶液が、注入用のパイプ220内を流れ供給される。このことにより、導入された当該極微量の試料Sは、アプリケータ300の収納空間301内において、試料ホルダ214のピン状の試料保持部202bの先端に取り付けた結晶スポンジ200に接触して試料の吸蔵が行われる。なお、ここでの電気泳動装置は、キャピラリー電気泳動や等電点電気泳動等、種々の電気泳動装置を含む。吸蔵装置500を用いる場合、試料が注入された状態で所定の時間が経過した後、排出側の試料導入パイプ221から過剰な試料、または試料と保存溶媒(キャリア)とが混合された溶液が排出される。吸蔵装置500を用いない場合、不要な保存溶媒(キャリア)または溶液が排出側の試料導入管254内を流れ排出される。したがって、排出側の試料導入管254には、試料が流れない場合がありうる。なお、気体や超臨界流体をキャリアとした場合には、試料を含んだキャリアが排出される。
【0059】
そして、この吸蔵工程が完了した試料ホルダ214は、アプリケータ300から取り外されて、単結晶X線回折装置9内の所定の位置、即ち、ゴニオメータ12の先端部のゴニオヘッド15に、例えば、上述した磁力等の位置決め機構を利用して、正確に取り付けられる。このことによれば、試料ホルダ214のピン状の保持部202bの一部(先端)に取り付けられた結晶スポンジ200は、試料の吸蔵が完了した後、ゴニオメータ12の先端部、即ち、X線管11からのX線ビームが集光されて照射される位置に配置されることとなる。換言すれば、結晶スポンジ200に吸蔵された試料Sは、単結晶X線回折装置9内の所定の位置に正確に配置され、その後、X線検出器22により当該試料Sからの回折X線の強度が測定されてその結晶構造等が解析されることとなる。
【0060】
このように、本発明の試料ホルダユニット400によれば、誰でも容易かつ安全に、極微量の試料を、試料ホルダ214に予め一体に取り付けられた極微小な寸法の結晶スポンジ200に吸蔵させると共に、その後、当該試料Sをゴニオメータ12に、高精度で正確な位置に結晶スポンジが乾燥により破壊されない短時間で迅速に、かつ、安全に搭載することが可能となる。なお、その後、上述した単結晶X線回折装置9によって試料Sに所要の波長のX線を照射しながら対象材料によるX線の回折や散乱測定し、上述した単結晶X線構造解析装置を構成する測定用アプリケーションソフトにより構造解析を行って分子モデルの構築や最終レポートの作成等を行うことは現状と同様である。即ち、本実施例によれば、創薬や生命科学のみならず各種の材料研究の現場などにおいて、発見又は設計した新たな構造物の分子構造・集合構造(実空間)を、迅速、安全、かつ簡単に確認することが可能となる。
【実施例2】
【0061】
図15は、実施例2のアプリケータ500の斜視図で、
図16はアプリケータ500に試料ホルダ214を内蔵した試料ホルダユニット400の断面図であり、実施例1と同等部分に同一符号を付している。符号501は、アプリケータ500の開口面509に沿って横方向から開口部302に突出する(或いは、覆う)ように摺動する、板状の抜け止め部(摺動部)である。抜け止め部501は、装着された状態で、アプリケータ500に収納された試料ホルダ214の上面に係合し、試料ホルダ214の抜け出しを阻止する。符号504、504は、開口面509の両側部に平行に延びるように設置された断面コ字型の一対の案内レールであり、抜け止め部501は、その両側端が案内レール504、504に嵌合して、矢印の両方向に摺動案内される。
【0062】
抜け止め部501は、中央部に円形の開口502を有し、開口502は試料ホルダ214の円盤状の基台部201の外径より小さな内径を有しており、アプリケータ500に装着されたとき、貫通孔204、205を塞がないように、試料ホルダ214の上面の外周部のみに係合して、試料ホルダ214の抜け出しを阻止する(
図16参照)。なお、試料導入パイプ220、221が挿入された状態では、抜け止め部501は、試料導入パイプを避けた位置で試料ホルダ214に係合する。なお、試料導入パイプを避けた位置での係合とは、抜け止め部501をアプリケータ500に装着した状態で試料導入パイプの出し入れが妨げられない状態で試料ホルダ214に係合していることを指す。抜け止め部501は、前端の摺動下面に傾斜面503が設けられており、摺動により傾斜面503で試料ホルダ214の上面を押し下げながら装着がなされ、また、傾斜面503により、試料ホルダ214の上面、およびアプリケータ500の開口面509との摺動は円滑になされる。
【0063】
結晶スポンジ200への試料の吸蔵に際しては、抜け止め部501が装着された状態で、その開口502に露出している貫通孔204、205に、試料導入パイプ220、221が挿入される。
【0064】
本実施例2によれば、抜け止め部として、軽量な板状の抜け止め部を用いているので、容易な操作で、迅速で確実な抜け止めを行うことができる。
【実施例3】
【0065】
図17は、実施例3の一部を断面で示す試料ホルダユニット400の斜視図で、抜け止め部がアプリケータに装着された状態を示し、抜け止め部の開口(
図15の符号502参照)が図示省略されており、実施例2と同等部分に同一符号を付している。
【0066】
符号700はアプリケータ、符号701はアプリケータ700の開口部(図示せず)を矢印方向に摺動する抜け止め部(摺動部)であり、樹脂や金属等で機械的強度の高い(約10気圧)板厚に形成される。符号704、704は、アプリケータ700の上方の両側部に、横方向に延びるように平行に設置された一対の案内レールで、強度(約10気圧)を有する板厚で断面コ字型(U字型)に形成され、高い機械的強度を有する。符号705、705は、抜け止め部701の両側端703に設けられた係合部であって、前記案内レール704、704に係合するように、樹脂や金属等で高い機械的強度を有する断面コ字型(U字型)に形成されている。
【0067】
符号707は、抜け止め部701の天板702上に設けられた突起状の操作部で、抜け止め部701の摺動操作に用いられる。また、図示が省略されているが、抜け止め部701の前端の摺動下面には、実施例2と同様に傾斜面が設けられ、試料ホルダ214およびアプリケータ700と、円滑な摺動を可能にする。
【0068】
アプリケータ700への装着は、抜け止め部701の係合部705、705を案内レール704、704に係合させて、操作部707を手指やマニュピレータなどで矢印方向に摺動操作することで行われる。抜け止め部701は、装着された状態で、試料ホルダ214の上面に係合して、アプリケータ700からの抜け出しを阻止する。抜け止め部701の取外しは、操作部707を装着時と逆方向に操作して、抜け止め部701を案内レール704、704から抜き取ることで行われる。
【0069】
以上に詳述したように、本発明の単結晶X線構造解析装置用試料ホルダユニットによれば、X線構造解析の専門知識がなくても、極微小で脆弱(fragile)な結晶スポンジを利用した単結晶X線構造解析を、従来必要とされた緻密で微細な作業を伴わずに、迅速、確実かつ容易に行うことが出来る、換言すれば、結晶スポンジを利用した単結晶X線構造解析を、歩留まり良くかつ効率的に行うことが可能な、汎用性に優れ、かつ、ユーザフレンドリな単結晶X線構造解析装置を実現することを可能にする試料ホルダユニットが提供され、更には、実際の試料の準備作業により適合した構成の試料ホルダユニットが提供される。
【0070】
結晶スポンジ200への試料の吸蔵工程では、吸蔵に適した、温度、圧力等に設定された試料ホルダユニット400に、吸蔵装置(ソーキングマシン)650(
図14参照)から、吸蔵に適した条件(圧力や流量等)で試料が供給される。このため、試料ホルダユニット400内は、種々の温度と圧力(約10気圧)に耐える必要がある。本実施例3では、機械的強度の高い(約10気圧)板厚の抜け止め部701、係合部705、および案内レール704を用いており、更に、係合部705および案内レール704を機械的強度の高い(約10気圧)断面コ字型(U字型)に形成しているので、機械強度的に十分に耐えて対応することができる。
【0071】
なお、以上には本発明の種々の実施例を説明したが、本発明は上記した実施例に限定されるものではなく様々な変形例が含まれる。例えば、上記した実施例は本発明を分かりやすく説明するためにシステム全体を詳細に説明したものであり、必ずしも説明した全ての構成を備えるものに限定されるものではない。また、ある実施例の構成の一部を他の実施例の構成に置き換えることが可能であり、またある実施例の構成に他の実施例の構成を加えることも可能であり、また、各実施例の構成の一部について、他の構成の追加・削除・置換をすることが可能であろう。
【0072】
本発明は、物質構造の探索に用いるX線構造解析装置や方法などにおいて広く利用可能である。
【0073】
なお、本国際出願は、2018年11月22日に出願した日本国特許出願第2018-219781号に基づく優先権を主張するものであり、日本国特許出願第2018-219781号の全内容を本国際出願に援用する。
【符号の説明】
【0074】
1…単結晶X線構造解析装置(全体)、9…単結晶X線回折装置、11…X線管、12…ゴニオメータ、22…X線検出器、102…測定装置、103…入力装置、104…画像表示装置、107…CPU、108…RAM、109…ROM、111…ハードディスク、116…分析用アプリケーションソフト、117…測定用アプリケーションソフト、200…結晶スポンジ、201…基台部、202…突出部、202b…試料保持部、204、205…貫通孔、214…試料ホルダ、220、221…試料導入パイプ(パイプ)、300、500、700…アプリケータ、301…収納空間、302…開口部、305、501、701…抜け止め部、400…試料ホルダユニット。