(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-05-12
(45)【発行日】2023-05-22
(54)【発明の名称】カーボンナノチューブの精製方法および精製装置
(51)【国際特許分類】
C01B 32/17 20170101AFI20230515BHJP
C01B 32/159 20170101ALI20230515BHJP
B82Y 40/00 20110101ALI20230515BHJP
【FI】
C01B32/17
C01B32/159
B82Y40/00
(21)【出願番号】P 2019032470
(22)【出願日】2019-02-26
【審査請求日】2021-10-04
(73)【特許権者】
【識別番号】899000068
【氏名又は名称】学校法人早稲田大学
(74)【代理人】
【識別番号】110003063
【氏名又は名称】弁理士法人牛木国際特許事務所
(74)【代理人】
【識別番号】100080089
【氏名又は名称】牛木 護
(74)【代理人】
【識別番号】100161665
【氏名又は名称】高橋 知之
(74)【代理人】
【識別番号】100178445
【氏名又は名称】田中 淳二
(74)【代理人】
【識別番号】100121153
【氏名又は名称】守屋 嘉高
(74)【代理人】
【識別番号】100188994
【氏名又は名称】加藤 裕介
(74)【代理人】
【識別番号】100194892
【氏名又は名称】齋藤 麻美
(74)【代理人】
【識別番号】100207653
【氏名又は名称】中村 聡
(73)【特許権者】
【識別番号】507046521
【氏名又は名称】株式会社名城ナノカーボン
(74)【代理人】
【識別番号】110003063
【氏名又は名称】弁理士法人牛木国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】野田 優
(72)【発明者】
【氏名】田中 秀明
(72)【発明者】
【氏名】大橋 慧
(72)【発明者】
【氏名】大沢 利男
【審査官】廣野 知子
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2007/063579(WO,A1)
【文献】特開2006-306636(JP,A)
【文献】国際公開第2017/146218(WO,A1)
【文献】特開2003-063814(JP,A)
【文献】特開2008-266133(JP,A)
【文献】特開2005-306681(JP,A)
【文献】国際公開第2008/126534(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C01B 32/00-32/991
B82Y 40/00
JSTPlus(JDreamIII)
JST7580(JDreamIII)
JSTChina(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
触媒金属を用いて合成された触媒金属含有カーボンナノチューブ、および、金属ハロゲン化物を加熱し、前記金属ハロゲン化物の蒸気を前記触媒金属含有カーボンナノチューブと接触させて、前記触媒金属を除去するエッチング工程を含む、カーボンナノチューブの精製方法
であって、
前記金属ハロゲン化物の蒸気圧が25℃で100Pa未満であり、
前記金属ハロゲン化物が常温常圧で固体または液体であり、
前記触媒金属含有カーボンナノチューブおよび前記金属ハロゲン化物を、反応器内に供給し、
不活性ガス雰囲気下で昇温して600℃以上の精製処理温度で精製処理する、カーボンナノチューブの精製方法。
【請求項2】
前記触媒金属含有カーボンナノチューブおよび前記金属ハロゲン化物を前記反応器内に供給後、昇温する前に、前記反応器内を、真空に吸引し、不活性ガスで置換し、加熱して水を除去する、請求項1に記載のカーボンナノチューブの精製方法。
【請求項3】
前記エッチング工程により精製したカーボンナノチューブを真空状態で加熱する真空加熱工程をさらに含む、請求項1
または2に記載のカーボンナノチューブの精製方法。
【請求項4】
前記金属ハロゲン化物が、Fe、Ti、Cu、Zr、W、Si、Ge、SnおよびBiのうち1つ以上を含む請求項1~
3のいずれか1項に記載のカーボンナノチューブの精製方法。
【請求項5】
前記金属ハロゲン化物が、フッ化物、塩化物、臭化物またはヨウ化物、および、これらの混合物からなる群から選択される請求項1~
4のいずれか1項に記載のカーボンナノチューブの精製方法。
【請求項6】
前記触媒金属含有カーボンナノチューブが、火炎合成法、アーク放電法または化学気相成長(CVD)法により合成されたものである請求項1~
5のいずれか1項に記載のカーボンナノチューブの精製方法。
【請求項7】
反応器と、
触媒金属を用いて合成された触媒金属含有カーボンナノチューブを、前記反応器内に供給するカーボンナノチューブ供給手段と、
金属ハロゲン化物を、前記反応器内に供給するエッチング剤供給手段と、
前記反応器内を加熱し、前記触媒金属含有カーボンナノチューブ、および、前記金属ハロゲン化物を
昇温する加熱手段と、を備え、
前記反応器内で、加熱された前記触媒金属含有カーボンナノチューブおよび前記金属ハロゲン化物の蒸気を接触させて、前記触媒金属を除去する、カーボンナノチューブの精製装置
であって、
前記金属ハロゲン化物の蒸気圧が25℃で100Pa未満であり、
前記金属ハロゲン化物が常温常圧で固体または液体であり、
前記カーボンナノチューブ供給手段および前記エッチング剤供給手段により、前記触媒金属含有カーボンナノチューブおよび前記金属ハロゲン化物を、前記反応器内に供給し、
前記加熱手段により不活性ガス雰囲気下で昇温して600℃以上の精製処理温度で精製処理する、カーボンナノチューブの精製装置。
【請求項8】
前記触媒金属含有カーボンナノチューブおよび前記金属ハロゲン化物を前記反応器内に供給後、昇温する前に、前記反応器内を、真空に吸引し、不活性ガスで置換し、前記加熱手段により加熱して水を除去する、請求項7に記載のカーボンナノチューブの精製装置。
【請求項9】
加熱された前記触媒金属含有カーボンナノチューブおよび前記金属ハロゲン化物の蒸気を接触させて精製されたカーボンナノチューブを真空状態で加熱する真空加熱手段をさらに備える、請求項
7または8に記載のカーボンナノチューブの精製装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はカーボンナノチューブの精製方法および精製装置に関する。
【背景技術】
【0002】
カーボンナノチューブ(以下、CNTともいう)は、特異な1次元ナノ構造と、優れた熱的、電気的および機械的性質とにより、電池の電極やキャパシタ、トランジスタ、および、ポリマー等との混合による高強度材料など、各種応用が期待されている。固体炭素を昇華した後、冷却してCNTを合成する物理蒸着(PVD)法と、炭化水素等を熱分解してCNTを合成する化学気相成長(CVD)法とが知られるが、何れの方法でも金属ナノ粒子を触媒に用いる。通常、合成したCNTの生成物には、合成に用いた触媒金属が、不純物として数~数十wt%混入している。触媒金属が含まれたままであると、ナノ材料としての物性の低下や重量の増加が起こるため、精製処理等による触媒金属の除去が重要となる。
【0003】
不純物としての触媒金属の多くはグラファイトカーボンや非晶質炭素等の炭素殻に覆われた状態で混入しているため、従来、炭素殻を酸化してその全部または一部を除去する工程と金属を酸で溶解する酸溶解工程とを繰り返す精製方法が一般的である。しかし、これらの工程を繰り返す過程で、CNTが損傷することに加え、酸による処理の際に溶液に浸すため、精製後の乾燥時に溶液の表面張力によりCNTが緻密に凝集し、再分散が困難になるなど、多くの課題を抱えている。
【0004】
近年、触媒金属を含有する触媒金属含有カーボンナノチューブを乾燥状態のまま加熱し、塩素ガス(Cl2ガス)と接触させることで、触媒金属を金属塩化物として除去するCNTの精製方法が提案されている(例えば特許文献1)。
【0005】
さらに、本発明者らは、常温常圧(25℃、1気圧)で液体である臭素(Br2)を用いたCNTの精製方法を開発した(例えば特許文献2)。当該方法は、触媒金属を含有する触媒金属含有カーボンナノチューブを乾燥状態のまま加熱し、Br2ガスと接触させることで、触媒金属を金属臭化物として除去する精製方法である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】国際公開第WO2008/126534号公報
【文献】国際公開第WO2017/146218号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
特許文献1に開示されるCl2ガスによるCNTの精製方法では、Cl2ガスの毒性が高いため、設備が煩雑になりコストが増大したり、Cl2ガスが漏洩した場合には重大な事故につながる虞があるなど、特に設備および運用の安全面から、量産設備の実用化には課題があった。
【0008】
特許文献2に開示されるBr2ガスによるCNTの精製方法では、Br2は常温常圧で液体であるため、常温常圧で気体であるCl2に比べて漏洩時の対応がしやすいが、Br2は常温25℃でも30.4kPaと蒸気圧が高く、漏洩時に蒸気が拡散される虞があり、より安全な精製方法が望まれていた。
【0009】
本発明は、このような事情に鑑みてなされたものであり、エッチング剤の蒸気圧が常温25℃で100Pa未満と低く、万一エッチング剤が漏洩しても液滴または固体粉末として沈降させることにより、事故のリスクを大幅に低減できるカーボンナノチューブの精製方法および精製装置を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明はかかる課題を解決するため、カーボンナノチューブの精製方法であって、触媒金属を用いて合成された触媒金属含有カーボンナノチューブ、および、金属ハロゲン化物を加熱し、前記金属ハロゲン化物の蒸気を前記触媒金属含有カーボンナノチューブと接触させて、前記触媒金属を除去するエッチング工程を含む方法を提供する。
【0011】
本発明に係る精製方法は、前記ハロゲン化物の蒸気圧が25℃で100Pa未満である場合がある。
【0012】
本発明に係る精製方法は、前記ハロゲン化物が常温常圧で固体である場合がある。
【0013】
本発明に係る精製方法は、前記エッチング工程により精製したカーボンナノチューブを真空状態で加熱する真空加熱工程をさらに含む場合がある。
【0014】
本発明に係る精製方法は、前記金属ハロゲン化物が、Fe、Ti、Cu、Zr、W、Si、Ge、SnおよびBiのうち1つ以上を含む場合がある。
【0015】
本発明に係る精製方法は、前記金属ハロゲン化物が、フッ化物、塩化物、臭化物またはヨウ化物、および、これらの混合物からなる群から選択される場合がある。
【0016】
本発明に係る精製方法は、前記触媒金属含有カーボンナノチューブが、火炎合成法、アーク放電法または化学気相成長(CVD)法により合成される場合がある。
【0017】
本発明は、反応器と、触媒金属を用いて合成された触媒金属含有カーボンナノチューブを、前記反応器内に供給するカーボンナノチューブ供給手段と、金属ハロゲン化物を、前記反応器内に供給するエッチング剤供給手段と、前記触媒金属含有カーボンナノチューブ、および、前記金属ハロゲン化物を加熱する加熱手段と、を備え、前記反応器内で、加熱された前記触媒金属含有カーボンナノチューブおよび前記金属ハロゲン化物の蒸気を接触させて、前記触媒金属を除去するカーボンナノチューブの精製装置を提供する。
【0018】
本発明に係る精製装置は、加熱された前記触媒金属含有カーボンナノチューブおよび前記金属ハロゲン化物の蒸気を接触させて精製されたカーボンナノチューブを真空状態で加熱する真空加熱手段をさらに備える場合がある。
【発明の効果】
【0019】
本発明は、25℃において蒸気圧が100Pa未満であるエッチング剤を用い、加熱状態でその蒸気を触媒金属含有カーボンナノチューブと接触させることにより、万一エッチング剤が漏洩しても、それを液滴または固体粉末として沈降させることで事故のリスクを大幅に低減でき、且つ、触媒金属の除去率が高く、結晶性に優れた良質なカーボンナノチューブが得られるカーボンナノチューブの精製方法および精製装置を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【
図1】本発明のカーボンナノチューブの精製方法および精製装置による精製処理対象である触媒金属含有カーボンナノチューブにおいて、触媒金属が炭素殻に覆われた様子を示す模式図である。
【
図2】加熱された触媒金属含有カーボンナノチューブにおいて、エッチング剤により触媒金属が除去される様子を示す模式図である。
【
図3】本発明のカーボンナノチューブの精製方法および精製装置による精製処理後に得られる、触媒金属が除去された中空の炭素殻を有するCNTの様子を示す模式図である。
【
図4】本発明のカーボンナノチューブの精製方法および精製装置において、エッチング工程による精製処理を行うための装置の好適な一実施形態を示す概略図である。
【
図5】本発明のカーボンナノチューブの精製方法および精製装置において、真空加熱工程による精製処理を行うための装置の好適な一実施形態を示す概略図である。
【
図6】本発明のカーボンナノチューブの精製方法および精製装置において、エッチング工程の処理条件を示すグラフおよび表である。
【
図7】本発明のカーボンナノチューブの精製方法および精製装置において、実施例1に関し、エッチング工程による精製処理の前後のCNT中のFeの含有率の変化を示すグラフである。
【
図8】本発明のカーボンナノチューブの精製方法および精製装置において、実施例1に関し、エッチング工程による精製処理を行う前のレーザー顕微ラマン分光分析の結果を示すグラフである。
【
図9】本発明のカーボンナノチューブの精製方法および精製装置において、実施例1に関し、エッチング工程による精製処理を行った後のレーザー顕微ラマン分光分析の結果を示すグラフである。
【
図10】本発明のカーボンナノチューブの精製方法および精製装置において、実施例1に関し、エッチング工程による精製処理を行う前のレーザー顕微ラマン分光分析の結果の横軸を拡大したグラフである。
【
図11】本発明のカーボンナノチューブの精製方法および精製装置において、実施例1に関し、エッチング工程による精製処理を行った後のレーザー顕微ラマン分光分析の結果の横軸を拡大したグラフである。
【
図12】本発明のカーボンナノチューブの精製方法および精製装置において、実施例1に関し、エッチング工程による精製処理前のCNTおよび精製処理後のCNTに対する熱重量分析(TG)の結果を示すグラフおよび重量減少率である。
【
図13】本発明のカーボンナノチューブの精製方法および精製装置において、実施例1に関し、真空加熱工程の処理条件を示すグラフおよび表である。
【
図14】本発明のカーボンナノチューブの精製方法および精製装置において、実施例1に関し、真空加熱工程による精製処理の前後のCNT中のClの含有率の変化を示すグラフである。
【
図15】本発明のカーボンナノチューブの精製方法および精製装置において、実施例1に関し、真空加熱工程による精製処理の前後のCNT中のFeの含有率の変化を示すグラフである。
【
図16】実施例1に関し、透過電子顕微鏡(TEM)により撮影した、本発明のカーボンナノチューブの精製方法および精製装置による精製処理を行う前のCNTのTEM画像写真である。
【
図17】本発明のカーボンナノチューブの精製方法および精製装置において、実施例1に関し、透過電子顕微鏡(TEM)により撮影した、エッチン工程および真空加熱工程による精製処理を行った後のCNTのTEM画像写真である。
【
図18】本発明のカーボンナノチューブの精製方法および精製装置において、実施例2に関し、エッチング工程による精製処理前のCNTおよび精製処理後のCNTに対する熱重量分析(TG)の結果を示すグラフおよび重量減少率である。
【
図19】実施例2に関し、透過電子顕微鏡(TEM)により撮影した、本発明のカーボンナノチューブの精製方法および精製装置による精製処理を行う前のCNTのTEM画像写真である。
【
図20】本発明のカーボンナノチューブの精製方法および精製装置において、実施例2に関し、透過電子顕微鏡(TEM)により撮影した、エッチン工程および真空加熱工程による精製処理を行った後のCNTのTEM画像写真である。
【
図21】本発明のカーボンナノチューブの精製方法および精製装置において、実施例3に関し、エッチング工程による精製処理前のCNTおよび精製処理後のCNTに対する熱重量分析(TG)の結果を示すグラフおよび重量減少率である。
【
図22】実施例3に関し、透過電子顕微鏡(TEM)により撮影した、本発明のカーボンナノチューブの精製方法および精製装置による精製処理を行う前のCNTのTEM画像写真である。
【
図23】発明のカーボンナノチューブの精製方法および精製装置において、実施例3に関し、透過電子顕微鏡(TEM)により撮影した、エッチン工程および真空加熱工程による精製処理を行った後のCNTのTEM画像写真である。
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下、本発明のカーボンナノチューブ(以下、CNTともいう)の精製方法および精製装置の好ましい実施形態について、図面および実施例に基づいて説明する。
【0022】
本実施形態において、触媒金属含有カーボンナノチューブは、本発明の精製方法による精製処理を行う前のCNTであって、例えばCNTの合成の際に使用された原料に由来する触媒金属を不純物として含む。
図1に示すように、触媒金属2は、そのほとんどが炭素殻3に覆われた状態で存在する。触媒金属含有カーボンナノチューブ1は、末端6の炭素殻3内に触媒金属2が除去されずに残存したCNT5、触媒金属2が炭素殻3に覆われた粒子であってCNT5に付着した粒子7、および、触媒金属2が炭素殻3に覆われた粒子であってCNT5から離れて存在する粒子8を含む。炭素殻3は、単層であってもよいし、複層であってもよい。CNT5は、独立で存在するものもあれば、複数のCNT5が絡み合ったり、あるいは束状になったりして存在するものもある。また、触媒金属含有カーボンナノチューブ1は、不純物として、炭素殻3に覆われた触媒金属2の他、例えば炭素殻3に覆われていない触媒金属2や、CNTの合成時に未分解であった炭素源、同じくCNTの合成時に未分解であった触媒源等を含む場合もある。
【0023】
本実施形態に係るカーボンナノチューブの精製方法は、触媒金属含有カーボンナノチューブ1から触媒金属2を除去するエッチング工程(
図1~
図3を参照)を有する。エッチング工程では、まず、触媒金属2を用いて合成された触媒金属含有カーボンナノチューブ1、および、25℃において蒸気圧が100Pa未満であるエッチング剤としての金属ハロゲン化物15(
図4を参照)を加熱する。安全性の観点からは、エッチング剤としての金属ハロゲン化物の25℃での蒸気圧が10Pa未満であることが好ましく、1Pa未満であることがさらに好ましい。触媒金属含有カーボンナノチューブ1が加熱された状態で、金属ハロゲン化物15の蒸気を触媒金属含有カーボンナノチューブ1と接触させる。後述する化学反応により、エッチング生成物が生成され、触媒金属2が除去される。
【0024】
触媒金属含有カーボンナノチューブ1、および、25℃において蒸気圧が100Pa未満である金属ハロゲン化物15を加熱する精製処理温度は、温度が高いほど精製が進行する。精製処理温度は、例えば、塩化鉄(FeCl3)をエッチング剤として使用するとき、600℃以上であることが好ましく、800℃以上であることがより好ましく、1000℃以上であることがさらに好ましい。精製処理温度が600℃以上であれば、エッチング剤と触媒金属との反応が進み、1000℃以上であれば、当該反応がより進行する。
【0025】
本実施形態に係るカーボンナノチューブの精製方法は、エッチング工程後に、エッチング工程により精製したカーボンナノチューブ110(
図5を参照)を真空状態で加熱する真空加熱工程をさらに含むことができる。真空加熱工程による精製処理を行うことにより、エッチング工程による精製処理後のCNT110に残留するハロゲン元素および触媒金属元素の含有率をさらに低減することができる。
【0026】
本実施形態のエッチング工程により触媒金属2がエッチングされる原理を
図1~
図3を参照して説明する。
図1は、触媒金属2が炭素殻3に覆われた触媒金属含有カーボンナノチューブ1の様子を示す概念図である。触媒金属含有カーボンナノチューブ1が加熱されて温度が上昇すると、触媒金属原子、炭素原子、およびエッチング分子の運動が盛んになり、触媒金属2の粒子を覆う炭素殻3を通して原子および分子が拡散できるようになる。例えば触媒金属2がFeの場合、25℃において蒸気圧が100Pa未満であり常温常圧で固体である例えばFeの塩化物15(FeCl
3)をエッチング剤として用いることで、触媒金属2のFeとエッチング剤15のFeCl
3が反応して、エッチング生成物のFeCl
2が生成される(
図2)。FeCl
2は高温場では蒸気圧が高いため、蒸気として触媒金属含有カーボンナノチューブ1から離れていく結果、触媒金属含有カーボンナノチューブ1中の触媒金属2のFeが除去され、中空構造の炭素殻3を有するCNT25、中空構造の炭素殻3を有する粒子であってCNT25に付着した粒子27、および、中空構造の炭素殻3を有する粒子であってCNT25から離れて存在する粒子28を含む、CNT4が形成される(
図3)。この場合、触媒金属2であるFeと、エッチング剤であるFeの塩化物15(FeCl
3)の反応式は下記式(1)で表される。エッチング生成物であるFeCl
2は、25℃で無視できるほど蒸気圧が小さく、また常温常圧で固体である。
【0027】
【0028】
触媒金属2としては、例えば、Fe、Co、Ni、Y、Cr、Mo、Nb、Cu、Ag、Au、および、これらの合金が挙げられる。
【0029】
金属ハロゲン化物15の金属は、除去対象である触媒金属2と同種であっても異なるものであってもよく、特に限定されないが、例えば、Fe、Ti、Cu、Zr、W、Si、Ge、SnおよびBiが挙げられる。
【0030】
エッチング剤としての金属ハロゲン化物15は、複数の価数をとる金属のハロゲン化物であり、25℃において蒸気圧が100Pa未満であればよい。エッチング剤としての金属ハロゲン化物15は特に、常温常圧で固体であるとよく、且つ、加熱状態で蒸気圧が高い(例えば600℃以上で100Pa以上)ことが好ましい。エッチング剤としての金属ハロゲン化物15は、25℃において蒸気圧が100Pa未満であるフッ化物、塩化物、臭化物またはヨウ化物、および、これらの混合物であり、具体的には、例えば、FeCl3やFeBr3、TiI4、CuCl2、ZrI4、WCl5、SiI4、GeI4、SnBr4、BiF5、BiCl3、BiBr3およびBiI3が挙げられる。これらのハロゲン化物は、触媒金属2と反応してより価数の低いハロゲン化物に変わり、触媒金属2はハロゲン化物としてエッチングされる。また、エッチング後のエッチング生成物としての金属ハロゲン化物も、25℃において蒸気圧が100Pa未満と低く、特に常温常圧で固体の金属ハロゲン化物から選択することができ、その場合、常温で蒸気圧が低く(例えば1Pa以下)、且つ、加熱状態で蒸気圧が高い(例えば600℃以上で100Pa以上)ことが好ましい。
【0031】
触媒金属含有カーボンナノチューブ1は、火炎合成法、アーク放電法または化学気相成長(CVD)法により合成することができるが、特にこれらの製法に限定されるものではない。
【0032】
図4に、本発明に係るカーボンナノチューブの精製装置10の好適な一実施形態を示す。
図4は、本実施形態のカーボンナノチューブの精製方法により触媒金属含有カーボンナノチューブ1から触媒金属2を除去する機能を有する装置の一例として、簡易的な精製装置を示す概略図である。尚、本発明のカーボンナノチューブの精製装置10は、触媒金属含有カーボンナノチューブ1、および、金属ハロゲン化物15を加熱し、当該ハロゲン化物15の蒸気を触媒金属含有カーボンナノチューブ1と接触させることができれば、
図4の構成に限定されるものではない。
【0033】
反応器11内には、精製処理の対象である、触媒金属2を用いて合成された触媒金属含有カーボンナノチューブ1を供給するカーボンナノチューブ供給手段13が設置される。反応器11内にはさらに、エッチング剤としての金属ハロゲン化物15を供給するエッチング剤供給手段16が設置される。
【0034】
カーボンナノチューブ供給手段13は、
図4のように反応器11内で触媒金属含有カーボンナノチューブ1を供給するものであってもよいし、反応器11の外部から反応器11内に触媒金属含有カーボンナノチューブ1を供給するように構成してもよい。同様に、エッチング剤供給手段16は、
図4のように反応器11内で金属ハロゲン化物15を供給するものであってもよいし、反応器11の外部から反応器11内に金属ハロゲン化物15を供給するように構成してもよい。
【0035】
反応器11内において、カーボンナノチューブ供給手段13およびエッチング剤供給手段1と開口部19との間に、例えば耐熱性ウール18を配置してもよい。金属ハロゲン化物15の蒸気が反応器11の外に流出しないよう、蒸気の流れを整流して、熱対流を抑制する。この整流により、反応器11内での気体の流れが制限され、金属ハロゲン化物15の蒸気を効率よく触媒金属含有カーボンナノチューブ1に接触させ、CNTの精製の効率を高めることができる。
【0036】
加熱手段20は、触媒金属含有カーボンナノチューブ1、および、金属ハロゲン化物15を加熱する。加熱手段20は、触媒金属含有カーボンナノチューブ1、および、金属ハロゲン化物15を加熱することができれば、その方法および構成は特に限定されない。
【0037】
エッチング剤としての金属ハロゲン化物15は、25℃において蒸気圧が100Pa未満であるため、エッチング剤が万一精製処理中に反応器11内から漏洩したとしても、液滴または固体粉末として沈降させることができる。例えばさらに、加熱された触媒金属含有カーボンナノチューブ1および金属ハロゲン化物15の蒸気を反応器11内で接触させることにより生成されるエッチング生成物も25℃における蒸気圧が100Pa未満と低ければ、エッチング生成物が万一精製処理中に反応器11内から漏洩したとしても、それもまた液滴または固体粉末として沈降させることができる。さらに、エッチング剤が常温常圧で固体であれば、エッチング剤が万一精製処理中に反応器11内から漏洩したとしても、固体粉末として沈降させることができる。さらに加えて、エッチング生成物も常温常圧で固体であれば 、エッチング生成物が万一精製処理中に反応器11内から漏洩したとしても、それもまた固体粉末として沈降させることができる。したがって、本実施形態のカーボンナノチューブの精製方法および精製装置によれば、人が漏洩ガスを吸引するリスクがなくなるので、従来のCl2ガスやBr2ガスを使用した精製方法に比べ、漏洩による事故の被害及びそのリスクを格段に低減することができる。
【0038】
図5に示す真空加熱手段100としての装置は、加熱された触媒金属含有カーボンナノチューブ1と、金属ハロゲン化物15の蒸気とを接触させて精製されたCNT110を、反応器111内で、真空状態で加熱する。CNT供給手段113はCNT110を供給する。反応器111の開口部119を真空引き手段としての真空ポンプ(図示せず)に接続し、真空ポンプを動作させることにより、石英ガラス管112内を真空状態にすることができる。さらに、反応器111内のCNT110を加熱する加熱手段120を備えることで、真空加熱手段100が構成される。真空加熱手段100により真空状態でCNT110を加熱することで、CNT110に残留するハロゲン元素および触媒金属元素の含有率をさらに低減することができる。
【0039】
CNT中に残留する各元素の含有率は、例えば走査型電子顕微鏡(SEM)に付属したエネルギー分散X線分析(EDX)装置を使用して組成を分析することにより測定することができる。
【0040】
CNTの結晶性は、例えばレーザー顕微ラマン分光分析により分析することができる。レーザー顕微ラマン分光分析において、1590 cm-1付近に現れるピークは、G-bandと呼ばれ、六員環構造を有する炭素原子の面内方向の伸縮振動に由来するものである。また、1350 cm-1付近に現れるピークは、D-bandと呼ばれ、六員環構造に欠陥があると現れやすくなる。相対的なCNTの結晶性は、D-bandに対するG-bandのピーク強度比IG/ID(G/D比)によって評価することができる。G/D比が高いほど結晶性の高いCNTであるといえる。200 cm-1付近に現れるピークは、RBM(Radial Breathing Mode)と呼ばれる単層CNTに特有のもので、チューブの直径方向に振動するモードである。
【0041】
本実施形態のエッチング工程による精製後のCNT110は精製前の触媒金属含有カーボンナノチューブ1に比べると、CNTにおける触媒金属2の金属含有率が大幅に減少する。しかも、炭素殻3を残したまま触媒金属2を除去するように精製することで、CNTの表面積に加え、炭素殻3の表面積も有効利用でき、表面積を利用する応用デバイスではその性能を向上させる効果を有する。表面積を利用する応用には、電気二重層キャパシタや、各種のガスおよびイオン吸着剤、ガスおよびバイオセンサー材料等があり、例えば電気二重層キャパシタの場合、その容量を増やすことができる。
【0042】
以上のように本発明は、エッチング剤の蒸気圧が25℃で100Pa未満であり、万一エッチング剤が漏洩しても、それは液滴または固体粉末として沈降するので、事故のリスクを大幅に低減することができる。また、炭素殻3を破壊せずに残したまま触媒金属2を除去するので、CNTの損傷を減らすことができる。さらに、CNTを液体で濡らす湿式工程を有さないので、CNTが緻密化することがなく、CNTを低密度の分散容易な状態に保つことができる。
【0043】
本明細書において言及される全ての文献はその全体が引用により本明細書に取り込まれる。ここに記述される実施例は本発明の実施形態を例示するものであり、本発明の範囲を限定するものとして解釈されるべきではない。
【実施例】
【0044】
実施例1~3において、合成方法の異なるCNTに対し、本実施形態に係るカーボンナノチューブの精製方法および精製装置で、精製処理を行った。精製装置の詳細、精製処理の条件、および、評価結果について以下に説明する。
【0045】
実施例において使用したカーボンナノチューブの精製装置について、
図4および
図5を参照しながら説明する。
【0046】
反応器11として、
図4に示すような石英ガラス管12で構成される横置き管を用いた。カーボンナノチューブ供給手段13として、シリカとアルミナで作製されたセラミック製のボート形状の容器であるCNT容器14を用いた。
【0047】
蒸気圧が25℃で100Pa未満である金属ハロゲン化物15としてFeCl3を用いた。FeCl3は常温常圧で固体である。FeCl3は、石英ガラス管12内に設けられたエッチング剤供給手段16としての石英板17の上に直接載置した。CNT容器14も石英板17の上に載置した。耐熱性ウール18として、アルミとシリカで作製されたセラミックウールを用いた。
【0048】
加熱手段20として、石英ガラス管12の外周に電気炉21を用い、石英ガラス管12内を加熱して、触媒金属含有カーボンナノチューブ1、および、金属ハロゲン化物15の温度を上昇させた。
【0049】
さらなる精製のための真空加熱手段100としての装置では、
図5に示すように、
図4のCNTの精製装置10と同様の構成の石英ガラス管112、CNT供給手段113としてのCNT容器114、および、石英板117を用いた。石英ガラス管112の開口部119を真空引き手段としての真空ポンプ(図示せず)に接続した。さらに、石英ガラス管12の外周に加熱手段120としての電気炉121を配置した。
【0050】
以下の方法でCNT中の各元素の含有率の測定、および、レーザー顕微ラマン分光分析を行い、実施例1~3において評価した。
【0051】
(含有率測定)
CNT中の各元素の含有率は、走査型電子顕微鏡(SEM)(型番:S-4800、日立ハイテクノロジーズ社製)-エネルギー分散X線分析(EDX)装置(型番:EDAX Genesis、AMETEK社製)を用いて測定した。下地の影響を少なくするため、実施例1および2では、CNTを2枚の銅板に挟んで上下方向から圧力を加え、銅板に付着させた後、一方の銅板を取り外し、他方の銅板上にCNTが付着した状態で測定を行った。実施例3では、CNTをTiメッシュで挟んだうえでプレスし、Tiメッシュの隙間から測定した。加速電圧20 kV、倍率300倍(実施例1および2)~500倍(実施例3)でSEM-EDX分析を行い、各元素の元素組成を評価した。観察箇所は、所定の点で観察した後、1.5~2mm程度離れた箇所でも測定を行い、これを繰り返して実施例1では15点の、実施例2および3では5点の箇所で測定を行った。
【0052】
(レーザー顕微ラマン分光分析)
レーザー顕微ラマン分光計(型番:HR-800、堀場製作所社製)にCNT粉末試料を設置し、488 nmのレーザー波長を用いて、レーザー顕微ラマン分光分析を行った。CNTをシリコン基板上に載置し、その上に2~3滴のエタノールを滴下する。その後、ホットプレート上でエタノールを乾燥させ、シリコン基板上にCNTを密着させた。CNTのレーザー顕微ラマン分光分析ではCNTの測定箇所によってばらつきが生じることがあるため、10点の箇所を測定し、各箇所でのG/D比およびRBMの測定を行った。G/D比については、10点の箇所でのIG/IDの値の総加平均をとって評価を行った。
【0053】
(熱重量分析)
エッチング工程前のCNT粉末試料およびエッチング工程後のCNT粉末試料について、熱分析装置(型番:TGB210、リガク製)を用いて熱重量分析(TG)を行い、空気流通下、昇温速度5 ℃/minで炭素の燃焼による重量減少率を測定した。
【0054】
(実施例1)TUBALL(登録商標)単層カーボンナノチューブの精製処理
1.エッチング処理
TUBALL(登録商標)単層カーボンナノチューブ(OCSiAl社)を試料に用いてエッチング工程の精製処理を行った。当該カーボンナノチューブは、直径1.6±0.4 nmである。本実施例ではまず、5 mgのCNTをCNT容器内に入れ、当該CNT容器と100 mgのFeCl
3を石英板の上に載置した。
図6に示すように、石英ガラス管内を真空に吸引後、Arガスで10分間置換することにより、石英ガラス管内の酸素を排出した。次に、電気炉により石英ガラス管内を加熱して200℃まで昇温し、減圧状態で5分間保持して石英ガラス管内の水のみを蒸発させ、石英ガラス管内の水を除去した。石英ガラス管内の水を除去することにより、水とFeCl
3との反応によるFeの酸化物の生成を防ぐことができる。そして、Arガスによる10分間の置換を2回行い、常圧(760 Torr)のArを満たした状態で15分かけて1000℃まで昇温した。昇温後、常圧(760 Torr)で石英ガラス管内を1000℃に保持し、60分間、FeCl
3によるエッチング処理を行った。その後、常圧(760 Torr)で15分かけて室温まで冷却し、最後に真空に吸引後、Arガスによる10分間の置換を2回行った。
【0055】
表1に、上記エッチング工程による精製処理を行う前のCNT、および、上記エッチング工程による精製処理を行った後のCNT中のC、O、ClおよびFeの含有率の測定結果を示す。
図7は、これらの測定結果中、Feの含有率の測定結果を示すグラフである。CNT中に残留するエッチング工程による精製処理後のFeの含有率は3.3 wt%であり、エッチング工程による精製処理前の13.5 wt%に対して76%減少した。
【0056】
【0057】
図8は、上記のエッチング工程による精製処理を行う前の、レーザー顕微ラマン分光分析の結果を示すグラフである。
図9は、上記の真空加熱工程による精製処理を行った後の、レーザー顕微ラマン分光分析の結果を示すグラフである。10点の箇所におけるG/D比であるI
G/I
Dの値の総加平均は、精製処理前が25.4、精製処理後が37.0であり、エッチング工程による精製処理を行った結果、I
G/I
D値が46%上昇し、CNTの結晶性は低下せず、CNTは損傷されなかった。
【0058】
図10は、
図8のグラフにおける、200 cm
-1近傍の拡大図である。当該グラフから、10点の箇所すべてにおいてRBMが確認され、TUBALL(登録商標)が単層CNTであることが分かる。また、TUBALL(登録商標)のRBMは、広い波数範囲に現れ、TUBALL(登録商標)のCNTの直径の分布が大きいことが分かる。
図11は、
図9のグラフにおける、200 cm
-1近傍の拡大図である。CNTを1600℃以上の高温下で処理すると、単層CNTの直径が大きくなり、最終的には多層CNTに変化してしまう場合がある。
図11のグラフから、10点の箇所すべてにおいてRBMが確認され、エッチング工程による精製処理後も、CNTが多層CNTに変化していないことが分かる。また、
図10のRBMと比較しても、ピークの位置等にほとんど変化は見られないことから、エッチング工程による精製処理後も、CNTの直径はほとんど変化していないことが分かる。
【0059】
図12は、上記のエッチング工程による精製処理を行う前(破線)、および、エッチング工程による精製処理を行った後(実線)のCNTの熱重量分析(TG)結果を示す。エッチング工程による精製処理を行う前のCNTの重量減少率は83.75%、残渣量は16.25%であった。エッチング工程による精製処理を行った後のCNTの重量減少率は96.84%、残渣量は3.16%であった。熱重量分析(TG)の結果から、エッチング工程により残渣の原因となるCNT中の触媒残留量が1/5以下に低減したことが分かる。
【0060】
2.エッチング処理後の精製処理
上記エッチング工程による精製処理後のCNTを用いて、真空加熱工程による精製処理を行った。まず、エッチング工程による精製処理を行ったCNTをCNT容器内に入れ、CNT容器を石英板の上に載置した。
図13に示すように、石英ガラス管内を真空に吸引後Arガスによる10分間の置換を2回行い、石英ガラス管内の酸素を排出した。その後、真空状態で電気炉により石英ガラス管内を加熱し、15分かけて1000℃まで昇温した。昇温後、真空状態で石英ガラス管内を1000℃に60分間保持した。その後、真空状態で15分かけて室温まで冷却し、最後にArガスによる10分間の置換を2回行った。
【0061】
表2に、上記真空加熱工程による精製処理を行う前のCNT、および、上記真空加熱工程による精製処理を行った後のCNT中のC、O、ClおよびFeの含有率の測定結果を示す。
図14は、これらの測定結果中、Clの含有率の測定結果を示すグラフであり、
図15は、Feの含有率の測定結果を示すグラフである。CNT中に残留する真空加熱工程による精製処理後のClの含有率は0.6 wt%であり、真空加熱工程による精製処理前の2.2 wt%に対して73%減少した。CNT中に残留する真空加熱工程による精製処理後のFeの含有率は1.8 wt%であり、真空加熱工程による精製処理前の3.3 wt%に対して45%減少した。エッチング工程および真空加熱工程による精製処理を行った最終的な結果として、CNT中に残留する当該精製処理後のFeの含有率は、エッチング工程による精製処理前の13.5 wt%に対して87%減少した。
【0062】
【0063】
図16は、透過電子顕微鏡(TEM)により撮影した、上記精製処理を行う前のCNTのTEM画像写真である。矢印で示すように、炭素殻内に触媒金属の粒子が残存していることが確認できる。
図17は、上記エッチン工程および真空加熱工程による精製処理を行った後のCNTのTEM画像写真である。矢印で示すように、炭素殻内の触媒金属が除去された中空構造の炭素殻が確認できる。
【0064】
3.実施例1のまとめ
以上のことから、FeCl3をエッチング剤として使用したエッチング工程による精製処理により、TUBALL(登録商標)のCNT中から触媒金属を除去することができ、CNTに直径の拡大や多層化等のダメージを与えることなく結晶性を高めることができることが確認された。さらに、真空加熱工程による精製処理により、触媒金属をさらに除去するとともに、Clの含有率も低減することができることが確認された。
【0065】
(実施例2)アーク放電法により合成したカーボンナノチューブの精製処理
1.エッチング処理
アーク放電法により合成した単層カーボンナノチューブを試料に用いてエッチング工程の精製処理を行った。当該カーボンナノチューブは、直径1~2 nmである。本実施例では、5 mgのCNTと、100 mgのFeCl3とを使用し、実施例1と同様の精製装置を用いて、実施例1と同様の精製処理条件で精製処理を行った。
【0066】
表3に、上記エッチング工程による精製処理を行う前のCNT、および、上記エッチング工程による精製処理を行った後のCNT中のC、O、Y、S、Cl、FeおよびNiの含有率の測定結果を示す。CNT中に残留するエッチング工程による精製処理後のNiの含有率は6.9 wt%であり、エッチング工程による精製処理前の38.5 wt%に対して82%減少した。
【0067】
【0068】
図18は、上記のエッチング工程による精製処理を行う前(破線)、および、エッチング工程による精製処理を行った後(実線)のCNTの熱重量分析(TG)結果を示す。エッチング工程による精製処理を行う前のCNTの重量減少率は34.86%、残渣量は65.14%であった。エッチング工程による精製処理を行った後のCNTの重量減少率は75.59%、残渣量は24.41%であった。熱重量分析(TG)の結果から、エッチング工程により残渣の原因となるCNT中の触媒残留量が約1/3に低減したことが分かる。
【0069】
2.エッチング処理後の精製処理
上記エッチング工程による精製処理後のCNTを用いて、真空加熱工程による精製処理を行った。実施例1と同様の精製装置を用いて、実施例1と同様の精製処理条件で精製処理を行った。
【0070】
図19は、透過電子顕微鏡(TEM)により撮影した、上記精製処理を行う前のCNTのTEM画像写真である。矢印で示すように、炭素殻内に触媒金属の粒子が残存していることが確認できる。
図20は、上記エッチン工程および真空加熱工程による精製処理を行った後のCNTのTEM画像写真である。矢印で示すように、炭素殻内の触媒金属が除去された中空構造の炭素殻が確認できる。
【0071】
3.実施例2のまとめ
以上のことから、FeCl3をエッチング剤として使用したエッチング工程による精製処理、および、真空加熱工程による精製処理により、アーク放電法により合成したCNT中から触媒金属を除去することができることが確認された。
【0072】
(実施例3)化学気相成長(CVD)法により合成したカーボンナノチューブの精製処理
1.エッチング処理
CVD法により合成した多層カーボンナノチューブを試料に用いてエッチング工程の精製処理を行った。当該カーボンナノチューブは、直径10~30 nm、平均直径約20 nmである。本実施例では、5 mgのCNTと、100 mgのFeCl3とを使用し、実施例1と同様の精製装置を用いて、実施例1と同様の精製処理条件で精製処理を行った。
【0073】
表4に、上記エッチング工程による精製処理を行う前のCNT、および、上記エッチング工程による精製処理を行った後のCNT中のC、O、Mg、Al、ClおよびFeの含有率の測定結果を示す。CNT中に残留するエッチング工程による精製処理後のFeの含有率は0.1 wt%であり、エッチング工程による精製処理前の7.2 wt%に対して99%減少した。
【0074】
【0075】
図21は、上記のエッチング工程による精製処理を行う前(破線)、および、エッチング工程による精製処理を行った後(実線)のCNTの熱重量分析(TG)結果を示す。エッチング工程による精製処理を行う前のCNTの重量減少率は89.01%、残渣量は10.99%である。エッチング工程による精製処理を行った後のCNTの重量減少率は96.12%、残渣量は3.88%であった。熱重量分析(TG)の結果から、エッチング工程により残渣の原因となるCNT中の触媒残留量が1/2以下に低減したことが分かる。
【0076】
2.エッチング処理後の精製処理
上記エッチング工程による精製処理後のCNTを用いて、真空加熱工程による精製処理を行った。実施例1と同様の精製装置を用いて、実施例1と同様の精製処理条件で精製処理を行った。
【0077】
図22は、透過電子顕微鏡(TEM)により撮影した、上記精製処理を行う前のCNTのTEM画像写真である。矢印で示すように、炭素殻内に触媒金属の粒子が残存していることが確認できる。
図23は、上記エッチン工程および真空加熱工程による精製処理を行った後のCNTのTEM画像写真である。矢印で示すように、炭素殻内の触媒金属が除去された中空構造の炭素殻が確認できる。
【0078】
3.実施例3のまとめ
以上のことから、FeCl3をエッチング剤として使用したエッチング工程による精製処理、および、真空加熱工程による精製処理により、CVD法により合成したCNT中から触媒金属を除去することができることが確認された。
【0079】
以上、本発明を実施形態および実施例に基づいて説明したが、本発明は種々の変形実施をすることができる。例えば、加熱手段20は、触媒金属含有カーボンナノチューブ1を加熱するCNT加熱手段(図示せず)と、金属ハロゲン化物15を加熱するハロゲン化物加熱手段(図示せず)とを別個に備えてもよい。
【符号の説明】
【0080】
1 触媒金属含有カーボンナノチューブ
2 触媒金属
3 炭素殻
4 中空構造の炭素殻を有するCNT
5 CNT
6 末端
7 触媒金属が炭素殻に覆われた粒子であってCNTに付着した粒子
8 触媒金属が炭素殻に覆われた粒子であってCNTから離れて存在する粒子
10 カーボンナノチューブの精製装置
11 反応器
12 石英ガラス管
13 カーボンナノチューブ供給手段
14 CNT容器
15 金属ハロゲン化物
16 エッチング剤供給手段
17 石英板
18 耐熱性ウール
20 加熱手段
21 電気炉
25 中空構造の炭素殻を有するCNT
27 中空構造の炭素殻を有する粒子であってCNTに付着した粒子
28 中空構造の炭素殻を有する粒子であってCNTから離れて存在する粒子
100 真空加熱装置
112 石英ガラス管
113 カーボンナノチューブ供給手段
114 CNT容器
117 石英板
120 加熱手段
121 電気炉