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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-05-12
(45)【発行日】2023-05-22
(54)【発明の名称】燃料改質装置及び燃料改質方法
(51)【国際特許分類】
   F02M 21/02 20060101AFI20230515BHJP
   C01B 3/04 20060101ALI20230515BHJP
   C01B 3/56 20060101ALI20230515BHJP
   F02M 27/04 20060101ALI20230515BHJP
   F02D 19/02 20060101ALI20230515BHJP
   F02D 19/08 20060101ALI20230515BHJP
【FI】
F02M21/02 K
C01B3/04 B
C01B3/56 Z
F02M27/04 B
F02M21/02 301A
F02D19/02 C
F02D19/08 B
F02M21/02 G
F02M21/02 N
【請求項の数】 9
(21)【出願番号】P 2019084932
(22)【出願日】2019-04-26
(65)【公開番号】P2020180592
(43)【公開日】2020-11-05
【審査請求日】2022-02-03
(73)【特許権者】
【識別番号】504139662
【氏名又は名称】国立大学法人東海国立大学機構
(73)【特許権者】
【識別番号】000253075
【氏名又は名称】澤藤電機株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110003890
【氏名又は名称】弁理士法人SIPPs
(72)【発明者】
【氏名】神原 信志
(72)【発明者】
【氏名】三浦 友規
(72)【発明者】
【氏名】田中 裕弥
(72)【発明者】
【氏名】池田 達也
【審査官】池田 匡利
(56)【参考文献】
【文献】特開平05-332152(JP,A)
【文献】特許第5049947(JP,B2)
【文献】特開2009-221086(JP,A)
【文献】特開2018-156832(JP,A)
【文献】特開2013-256935(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F02M 21/02
C01B 3/04
C01B 3/56
F02M 27/04
F02D 19/02
F02D 19/08
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
燃焼装置に、アンモニア及び水素を含む燃料ガスを供給する燃料改質装置であって、
アンモニアタンクと、
アンモニアを改質して高濃度水素ガスを生成する改質器と、
アンモニア又はアンモニアの一部を分解した低濃度水素ガスと、前記高濃度水素ガスとを混合した混合ガスを一時保管し、前記燃焼装置に燃料ガスとして供給する混合タンクと、
前記混合タンクに供給するアンモニア又は前記低濃度水素ガスと、前記高濃度水素ガスのそれぞれの供給量、及び前記燃焼装置に送り出す混合ガスの量を制御する制御手段と、
を備えていることを特徴とする燃料改質装置。
【請求項2】
燃焼装置に、アンモニア及び水素を含む燃料ガスを供給する燃料改質装置であって、
アンモニアタンクと、
アンモニアを改質して高濃度水素ガスを生成する、水素分離膜を有する改質器と、
アンモニアと前記高濃度水素ガスとを混合した混合ガスを一時保管し、前記燃焼装置に燃料ガスとして供給する混合タンクと、
前記混合タンクに供給するアンモニアと前記高濃度水素ガスのそれぞれの供給量、及び前記燃焼装置に送り出す混合ガスの量を制御する制御手段と、
を備えていることを特徴とする燃料改質装置。
【請求項3】
前記改質器と前記混合タンクとの間に、高濃度水素タンクを備えていることを特徴とする請求項1又は2記載の燃料改質装置。
【請求項4】
前記改質器が、
アンモニアを分解してプラズマとするためのプラズマ反応容器と、
プラズマ発生用電源と、
前記プラズマ反応容器内に配置された水素分離膜であって、アンモニアのプラズマから水素を分離して、高濃度水素ガスとして混合タンク側の出口に通過させる水素分離膜と、
を備えており、
前記制御手段が、プラズマ発生用電源の電圧とアンモニアタンクからのアンモニア流量を制御して前記高濃度水素ガスの生成量を制御していることを特徴とする請求項1記載の燃料改質装置。
【請求項5】
前記低濃度水素ガスを生成するアンモニア分解触媒反応器と、
生成した前記低濃度水素ガスを一時貯蔵して前記混合タンクに供給する低濃度水素タンクと、
を更に備えていることを特徴とする請求項1に記載の燃料改質装置。
【請求項6】
前記制御手段が、
前記アンモニアタンクから前記改質器に供給するアンモニアの供給量を制御する第一のバルブと、
前記アンモニアタンクから前記アンモニア分解触媒反応器に供給するアンモニアの供給量を制御する第二のバルブと、
前記低濃度水素タンクから前記混合タンクに供給する前記低濃度水素ガスの供給量を制御する第三のバルブと、
前記改質器に電力を供給する高電圧電源の電圧と、
前記アンモニア分解触媒反応器に供給する電力の供給量と、
前記燃焼装置に供給する混合ガスの供給量と、
を制御することを特徴とする請求項に記載の燃料改質装置。
【請求項7】
前記制御手段が、燃焼装置で用いる基準燃料、水素、およびアンモニアの燃焼速度を記憶しており、下記式(1)によって、基準燃料に対する混合ガスの燃焼速度係数Cを算出し、
【数1】
ここで、S 0 は基準燃料の燃焼速度であり、S H は水素の燃焼速度であり、S A はアンモニアの燃焼速度であり、Cは混合ガスの燃焼速度係数であり、
さらに式(2)に基づいて混合タンクに供給するアンモニアと水素の体積比を決定しており、
【数2】
ここで、Mは混合ガスに占める水素の体積比であり、A=6.0、B=3.5であることを特徴とする請求項1又は2に記載の燃料改質装置。
【請求項8】
燃焼装置にアンモニア及び水素を含む燃料ガスを供給する燃料改質方法であって、
アンモニアと水素の混合比を制御手段によって決定する工程と、
改質器でアンモニアを改質して高濃度水素ガスを生成する工程と、
前記制御手段で制御して、アンモニア又はアンモニアの一部を分解した低濃度水素ガスと前記高濃度水素ガスとを混合タンクで混合して混合ガスとする工程と、
前記制御手段で制御して、前記混合ガスを燃焼装置に供給する工程と、
を備えていることを特徴とする燃料改質方法。
【請求項9】
前記改質器と前記混合タンクとの間に配置された高濃度水素タンクで、前記高濃度水素ガスを一時貯蔵する工程をさらに備えていることを特徴とする請求項8記載の燃料改質方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、アンモニアを分解することで水素を生成し、アンモニアと水素を含むガスを燃料として供給する燃料改質装置と、この燃料改質装置を用いた燃料改質方法に関する。
【背景技術】
【0002】
二酸化炭素の排出量の削減のために、水素エネルギーの利用が推進されている。しかしながら、水素の製造および輸送はいまだ高コストであり、水素を燃料とする燃料電池による発電もまた、他のエネルギーを用いた発電よりも費用がかかる。このような費用面での制約が、水素エネルギーの普及を妨げる一因となっている。
【0003】
そこで、発電出力単価が燃料電池よりも割安な、ガスエンジン、ガスタービン、ディーゼルエンジン、ガソリンエンジン等の燃焼装置に、燃料として水素を用いる検討が行われている。しかし、水素は最大燃焼速度が極めて早く、また高位発熱量も多いため、燃焼装置に水素単体または水素と空気の混合気体を適用することには課題が多い。
【0004】
例えば、水素をエンジンに適用した場合、バックファイアの発生が問題となる。バックファイアは主にレシプロエンジンにおける現象であって、水素が燃料の吸入行程で燃焼装置の高温部に触れて着火してしまい、プラグによる点火前に爆発するという現象である。特許文献1には、バックファイアを回避する技術として、低出力運転時には水素と空気とを燃焼室内又は燃焼室外で予め混合して予混合気を生成し、この予混合気にプラグにより着火燃焼させて出力を得、高出力運転時には既に着火した前記予混合気の中に水素を高圧で噴射して前記予混合気を火種として着火燃焼させて出力を得るという技術が開示されている。しかしながら、吸気行程において気体である水素を供給して空気と混合した場合は、エンジンの体積効率が低下するため、結果として出力が低下すると言われている。
【0005】
そこで、アンモニアと水素とを混合し、燃焼させてエネルギー源とする試みが行われている。アンモニアは着火性が悪く、また最大燃焼速度は水素の50分の1であるので、水素にアンモニアと空気とをそれぞれ適正な割合で予混合することで、着火性の改善と燃焼速度の調整が可能となる。また、ガスエンジンやガスタービン、ディーゼルエンジン、ガソリンエンジン等の負荷に対して、最適なアンモニア/水素/空気の混合比に調整することにより、エネルギー効率を最大とすることができる。
【0006】
特許文献2には、アンモニアと水素を燃焼させるエンジンシステムにおいて、燃焼制御の自由度を高めるための技術が開示されている。特許文献2のエンジンシステムは、燃料改質器によってアンモニアガスを部分的に改質して水素ガスを生成し、加圧による液化でアンモニアと水素を分離している。そして、アンモニアと水素を別系統のインジェクタで吸気管へ噴射して燃焼させて、制御の自由度を高めている。特許文献2は、改質器のキャビティに、電磁波発生電源からマイクロ波を供給してプラズマ放電を発生させることで、キャビティ内に供給されたアンモニアガスを水素ガスに改質している。そして、供給するマイクロ波の電力を制御することで、アンモニアガスを水素ガスに改質する割合を制御している。
【0007】
特許文献3は、水素を助燃剤として用いるアンモニアエンジンを開示している。特許文献3のアンモニアエンジンは、アンモニアを分解するアンモニアクラッカー触媒を用いて水素を生成し、アンモニアの燃焼の補助に用いている。アンモニアクラッカー触媒は、安定して水素を生成するために、290度以上の高温に維持する必要があるため、特許文献3のアンモニアエンジンは、アンモニアと酸素を反応させて発熱させるアンモニア酸化装置を備えている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【文献】特開平7-133731号公報
【文献】特開2009-97421号公報
【文献】特開2010-121509号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
アンモニアと水素を含むガスを燃料として燃焼装置に供給する場合は、燃焼装置の運転条件に合わせて、アンモニアと水素の混合比と供給量を最適化する必要がある。しかしながら、従来の改質器では、アンモニアから水素を生成する割合を正確に管理することが困難であり、燃料としての最適化が難しかった。特に、燃焼装置の起動時や低負荷運転時に、最適な組成の燃料を供給することが困難であった。
【0010】
本発明はかかる現状に鑑みてなされたものであって、アンモニアと水素の混合比と供給量を最適化し、燃焼装置に燃料として提供することのできる燃料改質装置と燃料改質方法の提供を、解決すべき課題としてなされたものである。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明は、燃焼装置に、アンモニア及び水素を含む燃料ガスを供給する燃料改質装置に関する。本発明の燃料改質装置は、アンモニアタンクと、アンモニアを改質して水素含有率が99%以上である高濃度水素ガスを生成する改質器と、アンモニアと水素とを混合して一時保管する混合タンクと、混合タンクに供給するアンモニアと高濃度水素ガスのそれぞれの供給量を制御する制御手段と、を備えている。本発明の燃料改質装置の制御手段は、燃焼装置で用いる基準燃料、水素、およびアンモニアの燃焼速度を記憶しており、下記式(1)によって基準燃料に対する混合ガスの燃焼速度係数Cを算出する。
【数1】

ここで、S0は基準燃料の燃焼速度であり、SHは水素の燃焼速度であり、SAはアンモニアの燃焼速度であり、Cは混合ガスの燃焼速度係数である。さらに本発明の燃料改質装置の制御手段は、式(2)に基づいて混合タンクに供給するアンモニアと水素の体積比を決定している。
【数2】

ここで、Mは混合ガスに占める水素の体積比であり、A、Bは定数である。
【0012】
発明者らは、基準燃料の燃焼速度に対する混合ガスの燃焼速度の割合である燃焼速度係数Cと、混合ガスに占める水素の体積比Mとの間の、上記式(2)の関係を見いだして、混合ガスの混合率の最適化をなすに至った。さらに、本発明の燃料改質装置は、制御手段が、燃焼装置で用いる基準燃料、水素、およびアンモニアの高位発熱量を記憶しており、基準燃料の高位発熱量に対する混合ガスの高位発熱量の比に基づいて、混合ガスの供給量の基準燃料に対する流量分率を、下記式(3)および式(4)によって決定することができる。
【数3】

ここで、Hmは混合ガスの高位発熱量であり、HHは水素の高位発熱量であり、HAはアンモニアの高位発熱量であり、H0は基準燃料の高位発熱量であり、Wmは基準燃料に対する混合ガスの重量基準の流量分率である。
【0013】
制御手段は、燃焼装置から基準燃料の燃料要求速度を入力して、混合タンクから前記燃焼装置に供給する混合ガスの供給量を、下記式(5)および式(6)に基づいて決定することができる。
【数4】

ここでmwは混合燃料の分子量であり、W0は燃焼装置から要求された基準燃料の燃料要求速度であり、Fmは、燃焼装置に供給する混合ガスの供給量である。
【0014】
本発明の燃料改質装置の改質器は、アンモニアを分解してプラズマとするためのプラズマ反応容器と、プラズマ発生用電源と、プラズマ反応容器内に配置された水素分離膜であって、アンモニアのプラズマから水素を分離して、高濃度水素ガスとして混合タンク側の出口に通過させる水素分離膜と、を備えていることが好ましい。本発明の燃料改質装置の制御手段は、プラズマ発生用電源の電圧とアンモニアタンクからのアンモニア流量を制御して、高濃度水素ガスの生成量を制御することができる。
【0015】
本発明の燃料改質装置は、アンモニアの一部を分解して水素含有率5~15%である低濃度水素ガスを生成するアンモニア分解触媒反応器と、生成した前記低濃度水素ガスを一時貯蔵して前記混合タンクに供給する低濃度水素タンクと、を更に備えることができる。アンモニア分解触媒反応器を備えた燃料改質装置の制御手段は、改質器から混合タンクに供給する高濃度水素ガスの体積基準の混合分率MHを下記式、すなわち、

H=(100×M-H2L)/(100-H2L

に基づいて決定する。ここで、H2Lは低濃度タンクのガスの水素濃度(体積%、N2フリー基準)である。ここで、Mは混合ガスに占める水素の体積比である。
【0016】
本発明の燃料改質装置は、制御手段が、アンモニアタンクから前記改質器に供給するアンモニアの供給量を制御する第一のバルブと、アンモニアタンクからアンモニア分解触媒反応器に供給するアンモニアの供給量を制御する第二のバルブと、低濃度水素タンクから前記混合タンクに供給する前記低濃度水素ガスの供給量を制御する第三のバルブと、改質器に電力を供給する高電圧電源の電圧と、アンモニア分解触媒反応器に供給する電力の供給量と、燃焼装置に供給する混合ガスの供給量と、を制御することを特徴とする。
【0017】
本発明はまた、燃焼装置にアンモニア及び水素を含む燃料ガスを供給する燃料改質方法を提供する。本発明の燃料改質方法は、アンモニアと水素の混合比を決定する工程と、改質器でアンモニアを改質して、水素含有率が99%以上である高濃度水素ガスを生成する工程と、アンモニアと高濃度水素ガスとを混合して混合ガスとする工程と、混合ガスを燃焼装置に供給する工程と、を備えている。本発明のアンモニアと水素の混合比を決定する工程は、燃焼装置で用いる基準燃料、水素、およびアンモニアの燃焼速度に基づいて、下記式(1)によって基準燃料に対する混合ガスの燃焼速度係数Cを算出する。
【数5】

ここで、S0は基準燃料の燃焼速度であり、SHは水素の燃焼速度であり、SAはアンモニアの燃焼速度であり、Cは混合ガスの燃焼速度係数である。さらに本発明の燃料改質方法は、式(2)に基づいて混合タンクに供給する水素の体積比を決定しており、
【数6】

ここで、Mは混合ガスに占める水素の体積比であり、A、Bは定数であり、アンモニアと前記高濃度水素ガスの混合比を、(1-M):Mに制御することを特徴とする。
【発明の効果】
【0018】
本発明の燃料改質装置および燃料改質方法は、アンモニアから水素含有率が99%以上の高濃度水素ガスを製造してアンモニアと混合し、燃料とするので、アンモニアとの混合比の最適化を容易に行うことができる。これにより、供給先の燃焼装置の燃焼を、容易に最適化できる。
【0019】
本発明の燃料改質装置および燃料改質方法は、燃焼装置の最適化が可能となるために、燃焼時のNOxの排出量の低減に寄与することができる。
【0020】
本発明の燃料改質装置および燃料改質方法は、アンモニアと水素を混合するときの体積比を基準燃料に対する混合ガスの燃焼速度係数との関係で定量化して制御することにより、非常に容易で精度高く燃焼を行うことができる。
【0021】
本発明の燃料改質装置は、改質器によって生成した高濃度の水素ガスと、アンモニア分解触媒反応器によって生成した低濃度の水素ガスとを併用することにより、燃料の大量製造が可能であり、大型の燃焼装置に対応することができる。
【0022】
本発明の燃料改質装置および燃料改質方法は、ガスエンジンやガスタービン、ディーゼルエンジン、ガソリンエンジン等の燃焼装置に対して、最適なアンモニア/水素/空気の混合比に調整して供給することにより、エネルギー効率を最大とすることができる。
【0023】
本発明の燃料改質装置および燃料改質方法は、発電負荷に対して、最適なアンモニア/水素/空気の混合比に調整して供給することにより、エネルギー効率を最大とすることができる。
【図面の簡単な説明】
【0024】
図1図1は、本発明の実施形態に従った燃料改質装置の構成を模式的に示すブロック図である。
図2図2は、本発明の燃料改質装置の第二の実施形態の構成を模式的に示すブロック図である。
図3図3は、本発明の燃料改質装置に好適に適用される改質器の一例を示す図である。
図4図4は、本発明のアンモニア分解触媒反応器の触媒層温度とアンモニア分解率との関係を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0025】
図1に、本発明の実施形態に従った燃料改質装置1の構成を模式的に示す。燃料改質装置1は、燃料として、燃焼装置2にアンモニアと水素を含む混合ガスを供給する。燃焼装置2には負荷3が接続されており、負荷3側からの要求に対応して、燃焼状態を変化させる。
【0026】
燃料改質装置1は、アンモニアタンク4と、改質器5と、高濃度水素タンク6とを備えている。アンモニアタンク4は、アンモニア供給路25によって混合タンク7と接続されており、アンモニアを供給する。同様に、アンモニアタンク4は改質器5とも別系統のアンモニア供給路によって接続されており、改質器5にアンモニアを供給する。アンモニアタンク4と改質器5とが接続されているアンモニア供給路上には第一のバルブ21が設けられており、アンモニアの供給量が制御されている。同様に、アンモニアタンク4と混合タンク7を接続する経路上にはバルブ22が設けられており、アンモニアの供給量が制御されている。
【0027】
本発明の改質器5の好適な形態を図3に示す。改質器5は、アンモニアを分解してプラズマとするためのプラズマ反応容器52と、プラズマ発生用電源53と、プラズマ反応容器52の水素出口54側を区画する水素分離膜55と、を備えた装置である。プラズマ反応容器52の外側に接して、図示されない接地電極が配置されている。プラズマ反応容器52の内面と水素分離膜55との間に放電空間56が形成されており、アンモニアタンク4から供給されたアンモニアは、放電空間56に導入される。プラズマ発生用電源53から水素分離膜55に高電圧が印加されると、誘電体バリア放電が発生して、アンモニアがプラズマとなる。改質器5の水素分離膜55は、プラズマ反応容器52内でプラズマとなっているアンモニアから水素のみを分離して、水素出口54側に通過させる。改質器5に供給するアンモニアの量と、プラズマ発生用電源53の電圧との両方を制御することによって、水素の製造量を容易かつ迅速に変更することができる。水素出口54に導入される水素ガスは、99%以上の高純度の水素ガスとなる。
【0028】
改質器5は、燃焼装置側の要求に直ちに対応して水素を製造することができるので、水素の一時貯蔵容器である高濃度水素タンク6は必須の構成要素ではない。しかしながら、高濃度水素タンク6を、改質器5から混合タンク7に至る経路上に設けることによって、余剰となった水素ガスを一時貯蔵することができ、全体として一層効率よくアンモニアの改質を行うことができる。
【0029】
混合タンク7では、アンモニアタンク4から供給されたアンモニアと、高濃度水素タンク6から供給された水素に加えて、空気ブロア8から供給された空気が混合されて、予混合ガスが製造され、貯留される。混合ガスの適正な組成比は、燃焼装置2が要求する燃焼速度および高位発熱量の値によって制御手段10が決定し、アンモニアの供給量および水素の製造量を制御することで管理される。混合ガスの燃焼装置2への供給量は、燃焼装置2の特性と負荷に応じて制御手段10が制御する。
【0030】
本実施形態の燃料改質装置1の制御手段10が行う、燃料改質の内容を以下に説明する。制御手段10は、バルブ21によって、アンモニアタンク4から改質器5に供給するアンモニアの供給量を制御する。また、バルブ22によって、アンモニアタンク4から混合タンク7に供給するアンモニアの供給量を制御する。さらに、改質器5に供給する電力の電圧を制御して、高濃度水素の製造量を制御する。最後に、混合タンク7から燃焼装置2に供給する混合ガスの供給量を、バルブ23の操作によって制御する。
【0031】
以下においては、燃焼装置2が従来使用していた燃料のことを、基準燃料と称する。表1に、一般的な基準燃料と、アンモニア、水素についての、最大燃焼速度と高位発熱量の例を示す。
【表1】
【0032】
制御手段10は、基準燃料、水素、およびアンモニアの最大燃焼速度と高位発熱量を記憶しており、下記式(1)によって、基準燃料に対する混合ガスの燃焼速度係数Cを算出する。
【数7】

ここで、S0は基準燃料の燃焼速度(cm/s)であり、SHは水素の燃焼速度であり、SAはアンモニアの燃焼速度である。表1に示した例に従えば、SHは346cm/sであり、水素の燃焼速度であり、SAは8cm/sである。この式を用いて、制御手段10は、混合ガスの燃焼速度係数Cを算出する。
【0033】
さらに制御手段10は、式(2)に基づいて混合タンクに供給するアンモニアと水素の体積比を決定する。体積比の計算には、下記の式(2)を用い、まず水素の体積基準の混合分率Mを決定する。
【数8】

ここで、A、Bは定数であり、最も好適な値は、A=6.0、B=3.5である。
【0034】
水素の体積基準の混合分率Mが決定したことにより、アンモニアの体積基準の混合分率は、1-Mとなる。
【0035】
水素とアンモニアの混合率を決定した制御手段10は、バルブ22とバルブ24の開閉操作によって、混合タンク7に決定した体積比率で水素とアンモニアを供給し、混合する。
【0036】
次に、制御手段10は、燃焼装置2に供給する混合ガスの流量を決定する。制御手段10は、基準燃料、水素、およびアンモニアの高位発熱量を予め記憶しており、まず、混合ガスの供給量の基準燃料に対する流量分率Wmを決定するために、式(3)と式(4)を用いる。式(3)では、混合ガスの高位発熱量Hmの値を決定する。式(3)において、HHは水素ガスの高位発熱量であり、HAはアンモニアの高位発熱量であり、Mは水素の体積基準の混合分率である。
【数9】
【0037】
表1に示したように、水素の高位発熱量は、141.8MJ/kgであり、アンモニアの高位発熱量は、22.5MJ/kgである。従って、式(3)は、以下のように表される。
【数10】
【0038】
次に、制御手段10は、式(4)を用いて、基準燃料の高位発熱量H0に対する混合ガスの高位発熱量Hmの比から、混合ガスの基準燃料に対する流量分率Wmを決定する。
【数11】
【0039】
さらに制御手段10は、式(5)によって、混合燃料の分子量mwを計算する。式(5)において、水素の混合分率Mの係数の2は水素の質量数であり、アンモニアの混合分率(1-M)係数の17は、アンモニアの質量数である。
【数12】
【0040】
そして制御手段10は、燃焼装置2から基準燃料の燃料要求速度W0(kg/h)が入力されると、式(4)で算出した混合ガスの流量分率Wmと混合燃料の分子量mwを式(6)に代入し、混合タンクから燃焼装置2に供給する混合ガスの供給量Fm(NL/h)を決定する。
【数13】
【0041】
制御手段10は、混合タンク7に供給するアンモニアと水素の量を、流量(NL/h)で管理することで、混合タンク7のアンモニアと水素ガスの混合比を常時一定に保つことができる。混合タンク7に供給する水素の流量FH2(NL/h)は、下記の式(7)で、管理される。また、混合タンク7に供給するアンモニアの流量FNH3(NL/h)は、下記の式(8)で、管理される。
【数14】
【0042】
図2に、本発明の燃料改質装置の更なる実施形態を示す。燃料改質装置30は、アンモニア分解触媒反応器31と、低濃度水素タンク32と、を更に備えている。アンモニア分解触媒反応器31は、アンモニアタンク4から供給されるアンモニアの一部を分解して水素含有率5~15%、窒素含有率1.7~5%、アンモニア含有率80~93%である低濃度水素ガスを生成して、低濃度水素タンク32に送りこむ。
【0043】
制御手段10は、改質器5に加えて、アンモニア分解触媒反応器31の制御を行って、低濃度水素ガスの組成と生成量を制御する。アンモニア分解触媒反応器31は、図4に例を示すように、反応温度を制御することで、アンモニアの分解率を制御することができる。アンモニア分解触媒反応器31の温度制御の容易さとを考慮すると、低濃度水素ガスは、水素含有率を5~15%に制御することが好ましい。制御手段10は、アンモニア分解触媒反応器31の電源33の供給電力を制御することによって、低濃度水素ガスの特性を制御する。アンモニアの分解触媒としては、Ru/Al23が好適に用いられる。
【0044】
本実施形態の燃料改質装置30では、混合タンク7に、低濃度水素タンク32から供給された低濃度水素ガスと、高濃度水素タンク6から供給された水素に加えて、空気ブロア8から供給された空気が適宜混合されて、混合ガスが製造され、貯留される。
【0045】
このとき、制御手段10は、混合タンク7に供給する低濃度水素ガスと高濃度水素ガスの量を、既に算出した水素の体積基準の混合分率Mと、混合タンク7に供給する水素の流量FH2(NL/h)とをもとに、下記式(9)~(12)で決定する。式(9)によって、高濃度水素タンク6の混合分率(体積基準)MHを算出することができる。
【数15】

ここで、H2Lは低濃度タンクのガスの水素濃度(体積%、N2フリー基準)である。
【0046】
次に、式(10)によって、ここでは、混合タンク7に供給する高濃度水素ガスの流量FHT(NL/h)を決定することができる。
【数16】
【0047】
式(11)によって、混合タンク7に供給するアンモニアガスの流量FLT(NL/h)を決定することができる。
【数17】

ここで、Fm’は燃焼装置に供給する混合ガスの燃料供給速度(NL/h、N2含有基準)である。
【0048】
式(12)によって、燃焼装置2に供給する混合ガスの燃料供給速度Fm'(NL/h、N2含有基準)を決定することができる。
【数18】

ここで、N2Lは低濃度タンクのガスの窒素濃度(体積%)である。
【実施例
【0049】
(実施例1)
基準燃料がメタンであり、燃料供給速度W0=1.0kg/h、発電量1000Whの燃焼装置の燃料を製造するために本発明の燃料改質装置1を適用した例を示す。
【0050】
制御手段10は、メタンの最大燃焼速度Sを43cm/sを記憶している。また、水素の最大燃焼速度346cm/sとアンモニアの最大燃焼速度8cm/sを記憶している。これらの最大燃焼速度から、式(1)を用いて算出した混合ガスの燃焼速度係数Cは、0.104である。燃焼速度係数Cを式(2)に代入し、混合ガスに占める水素の体積比Mを求めると、0.319である。従って、アンモニアの体積比は、0.681である。混合タンク7に、改質器5で製造した高濃度水素を供給し、アンモニアタンクからアンモニアを供給し、混合した。このときの、混合ガスの高位発熱量Hmは、式(3)に基づいて計算すると、141.8×0.319+22.5×0.681=60.6である。一方、基準ガスであるメタンの高位発熱量H0は、55.5である。これらの値を式(4)に適用することで、基準燃料に対する混合ガスの重量基準の流量分率Wmが0.917と算出された。一方、混合ガスの分子量mwは、12.2であるので、式(6)を用いることにより、混合ガスの燃料供給速度Fmが、28.0NL/hであると決定することができた。また燃料供給速度Fmを28.0NL/hに維持するために、混合タンクに供給する水素の供給量を、式(7)によって8.9NL/hに決定した。同様に、混合タンクに供給するアンモニアの供給量を、式(8)によって、19.1NL/hに決定した。制御手段10が、水素:アンモニアの体積比を0.319:0.681に制御した混合ガスを、28.0NL/hで供給することにより、燃焼装置2は良好に燃焼した。
【0051】
(実施例2)
次に、実施例1と同様の、基準燃料がメタンであり、燃料供給速度W0=1.0kg/h、発電量1000Whの燃焼装置の燃料を製造するために本発明の燃料改質装置30を適用した例を示す。本実施例で、アンモニア分解触媒反応器31が製造する低濃度水素ガスの水素濃度H2Lは、7.7体積%である。
【0052】
制御手段10は、実施例1と同様に、メタン、水素、アンモニアの最大燃焼速度と高位発熱量を記憶している。そして、式(1)~(6)を用いることにより、混合ガスの燃料供給速度Fmが、28.0NL/h、水素の混合分率は、0.319であると決定した。さらに制御手段10は、式(9)を用いて、高濃度水素タンク6の混合分率(体積基準)MHを、式(9)を用いて0.262と特定した。この結果、高濃度水素タンク6から混合タンク7に供給する水素の供給量を、式(10)によって7.3NL/hに決定した。
【0053】
改質器5で7.3NL/hの水素を生成して混合タンク7に供給するために、制御手段10は、アンモニアタンク4から改質器5に、24.2l/minのアンモニアを供給した。そして、改質器5に20kVの電圧を供給して水素を製造した。このとき改質器5から高純度タンク6に供給した水素ガスの濃度は、99.999%で、ほぼ純水素であった。
【0054】
制御手段10は、混合タンク7に供給する低濃度水素ガスの供給量を、式(11)と式(12)によって、2.12NL/hに決定した。制御手段10は、低濃度水素ガスを生成するために、アンモニア分解触媒反応器31の反応温度を250度に設定し、19.3l/minのアンモニアを供給した。このとき、アンモニア分解触媒反応器31からは、水素7.5%、アンモニア90%、窒素2.5%の組成のガスが2.12NL/h生成した。制御手段10が、高濃度水素タンク6から7.3NL/hの水素ガスを混合タンクに供給し、同時に低濃度水素タンクから2.12NL/hの低濃度水素ガスを混合タンクに供給することで、混合タンク内のガスは、水素31.8%、アンモニア66.4%、窒素1.8%に維持された。混合タンクからのガスを、燃料ガスとして燃焼装置2に28.5l/min供給することで、燃焼装置2は良好な燃焼を維持することができた。
【0055】
(実施例3)
燃料改質装置30をメタンガスエンジンの燃料の製造に適用した例を示す。制御手段10は、アンモニア分解触媒反応器31の温度を250℃に設定し、アンモニア分解率10%の低濃度水素混合ガスを製造して低濃度水素タンク32に貯蔵した。生成した低濃度水素混合ガスの組成は、水素7.5%、アンモニア90%、窒素2.5%である。次に、改質器5で、含有率99%の水素ガスを生成し、高濃度水素タンク6に貯留した。そして、混合タンク7で、低濃度水素ガス73.8%、高濃度水素ガス26.2%を混合し、貯蔵した。この混合燃料の最大燃焼速度は43cm/sでありメタンの最大燃焼速度と一致していた。また、この混合燃料の高位発熱量は61MJ/kgであり、メタンの高位発熱量55.5MJ/kgより大きいため、混合燃料のメタンガスエンジンへの流量を0.92倍にするようにバルブ23の流量を制御した。これにより、燃焼装置2の良好な燃焼を得ることができた。
【0056】
以上、実施例に基づいて、本発明の燃料改質装置と燃料改質方法について説明したが、特許請求の範囲に記載の発明は、実施例に限定されるものではなく、燃料改質装置の構成は、適宜変更が可能である。たとえば、既に説明したとおり、高濃度水素タンクは必須ではなく、改質器から混合タンクに、直接高濃度水素ガスを供給することができる。制御手段の制御の内容は、燃焼装置2の燃焼特性に応じて秒単位で変更することができる。
【符号の説明】
【0057】
1、30 燃料改質装置
2 燃焼装置
3 負荷
4 アンモニアタンク
5 改質器
6 高濃度水素タンク
7 混合タンク
8 空気ブロア
10 制御手段
図1
図2
図3
図4