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特許7278546導電性ナノ構造を有する多孔質導電体、それを用いた蓄電デバイス
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-05-12
(45)【発行日】2023-05-22
(54)【発明の名称】導電性ナノ構造を有する多孔質導電体、それを用いた蓄電デバイス
(51)【国際特許分類】
   H01G 11/30 20130101AFI20230515BHJP
   H01G 11/26 20130101ALI20230515BHJP
【FI】
H01G11/30
H01G11/26
【請求項の数】 7
(21)【出願番号】P 2019543678
(86)(22)【出願日】2018-09-19
(86)【国際出願番号】 JP2018034677
(87)【国際公開番号】W WO2019059238
(87)【国際公開日】2019-03-28
【審査請求日】2021-07-27
(31)【優先権主張番号】P 2017183614
(32)【優先日】2017-09-25
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(31)【優先権主張番号】P 2018029660
(32)【優先日】2018-02-22
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】304021831
【氏名又は名称】国立大学法人千葉大学
(73)【特許権者】
【識別番号】000153591
【氏名又は名称】株式会社巴川製紙所
(74)【代理人】
【識別番号】100105315
【弁理士】
【氏名又は名称】伊藤 温
(72)【発明者】
【氏名】星野 勝義
(72)【発明者】
【氏名】菅原 陽輔
(72)【発明者】
【氏名】山田 理央
(72)【発明者】
【氏名】馬郡 あおい
(72)【発明者】
【氏名】青木 信之
(72)【発明者】
【氏名】土師 圭一朗
(72)【発明者】
【氏名】村松 大輔
【審査官】北原 昂
(56)【参考文献】
【文献】特開2016-164957(JP,A)
【文献】特開2015-088723(JP,A)
【文献】特開2014-130980(JP,A)
【文献】特開2011-195865(JP,A)
【文献】特表2018-513541(JP,A)
【文献】特表2017-504952(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2011/0097624(US,A1)
【文献】特開2007-328939(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2017/0098856(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01G 11/30
H01G 11/26
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
蓄電デバイス用電極として用いられる多孔質導電体であって、
前記多孔質導電体は、基材と、基材上に存在する複数の導電性ナノ構造を有し、
前記導電性ナノ構造が、金属を含み、
前記導電性ナノ構造が、針状、柱状、棒状、繊維状又は樹枝状であり、
前記基材が、金属繊維シートであることを特徴とする、多孔質導電体。
【請求項2】
蓄電デバイス用電極として用いられる多孔質導電体であって、
前記多孔質導電体は、基材と、基材上に存在する複数の導電性ナノ構造を有し、
前記基材が、金属繊維シートであることを特徴とする、多孔質導電体(ただし、第1の導電性ポリマーと第1の導電性ポリマーとは異なる第2の導電性ポリマーとを含む布基材を有するものを除く)。
【請求項3】
前記金属繊維シートが、ステンレス鋼繊維、又は、銅繊維からなる金属繊維シートである、請求項1又は2記載の多孔質導電体。
【請求項4】
前記導電性ナノ構造が、金属を含む、請求項に記載の多孔質導電体。
【請求項5】
前記金属が、銀、銅、コバルトのうち少なくとも1つ以上である、請求項1又は記載の多孔質伝導体。
【請求項6】
請求項1~のいずれか一項に記載の多孔質導電体を、電極として含む蓄電デバイス。
【請求項7】
前記蓄電デバイスが、レドックスキャパシタである、請求項記載の蓄電デバイス。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、導電性ナノ構造を有する多孔質導電体、それを用いた蓄電デバイスに関する。
【背景技術】
【0002】
蓄電デバイスは、大きな物質変換を伴う化学反応を利用した二次電池と、化学反応を利用しないか、又は、材料表面の物質変換をわずかに伴う化学反応を利用したキャパシタに大別される。さらに、キャパシタは物理的原理で作動する電気二重層キャパシタ(EDLC)と化学的原理で作動するレドックスキャパシタに区別される。これらのうち二次電池とEDLCは既に市販に至っているが、レドックスキャパシタは、いまだに研究段階に留まっている。EDLCは、再生可能エネルギー(風力発電、太陽光発電)の蓄電デバイスとして、また、ハイブリッド自動車や電気自動車の補助電源として利用されている。
二次電池は、放電容量が大きい反面、出力、繰返し耐久性、充放電時間に課題があり、また、EDLCは、出力、繰返し耐久性、充放電時間に優れるが、放電容量が小さいというトレードオフの関係にある。レドックスキャパシタは、EDLCの出力、繰り返し耐久性、充放電時間の特徴を担保し、さらに短所である放電容量が改善できるとして盛んに研究されている。
【0003】
従来、レドックスキャパシタの電極材料は、酸化ルテニウム、酸化イリジウム、酸化マンガン、酸化ニッケル、水酸化ニッケル、酸化コバルト、水酸化コバルト、オキシ水酸化コバルト等が利用されてきた。酸化ルテニウム及び酸化イリジウムは、能力は十分であるものの高価であるため市販には至らず、酸化マンガン、酸化ニッケル、水酸化ニッケル、酸化コバルト、水酸化コバルト及びオキシ水酸化コバルト等は、放電容量が低い。特許文献1には、キャパシタ電極として金属ナノワイヤーを用いることが提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2011-195865号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
従来の酸化ルテニウム及び酸化イリジウムを用いたキャパシタは、能力は十分であるものの高価であるため、市販には至らなかった。また、特許文献1に提案されている銅ナノワイヤーは安価であるが、銅ナノワイヤーを用いたキャパシタの静電容量は100F/g程度と不十分なものであり、繰返し耐久性については言及すらされていなかった。
そこで、本発明は、より安価で、高い放電容量と繰返し耐久性を有するキャパシタを可能とする導電性ナノ構造を有する多孔質導電体を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記課題について、本発明者らが鋭意検討を行っていたところ、多孔質導電体に所定の構造を形成することで、高い放電容量及び繰返し耐久性を発揮することが可能であることを発見し、本発明を完成するに至った。
すなわち、
本発明(1)は、
蓄電デバイス用電極として用いられる多孔質導電体であって、
前記多孔質導電体は、基材と、基材上に存在する複数の導電性ナノ構造を有することを特徴とする、多孔質導電体である。
本発明(2)は、
前記基材が、金属繊維シートである、前記発明(1)の多孔質導電体である。
本発明(3)は、
前記金属繊維シートが、ステンレス鋼繊維、又は、銅繊維からなる金属繊維シートである、前記発明(2)の多孔質導電体である。
本発明(4)は、
前記導電性ナノ構造が、金属を含む、前記発明(1)~(3)の多孔質導電体である。
本発明(5)は、
前記金属が、銀、銅、コバルトのうち少なくとも1つ以上である、前記発明(4)の多孔質伝導体である。
本発明(6)は、
前記発明(1)~(5)の多孔質導電体を、電極として含む蓄電デバイスである。
本発明(7)は、
前記蓄電デバイスが、レドックスキャパシタである、前記発明(6)の蓄電デバイスである。
【発明の効果】
【0007】
本発明の導電性ナノ構造を有する多孔質導電体を用いれば、安価で、高容量、さらに高い繰返し耐久性を有する蓄電デバイスを提供することが可能である。
【図面の簡単な説明】
【0008】
図1】導電性ナノ構造を形成するための三電極方式の装置の模式図である
図2】実施例1で作製された、導電性ナノ構造(銅ナノワイヤー)の走査型電子顕微鏡写真である。
図3】実施例5で作製された、導電性ナノ構造(銀ナノワイヤー)の走査型電子顕微鏡写真である。
図4】充放電装置の模式図である。
図5】磁場印加を付加した導電性ナノ構造を形成するための三電極方式の装置(磁場印加電解システム)の模式図である。
図6】実施例7で作製された導電性ナノ構造(コバルトナノワイヤー)の走査型電子顕微鏡写真である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
1.導電性ナノ構造を有する多孔質導電体
導電性ナノ構造を有する多孔質導電体は、基材である多孔質導電体の表面に導電性ナノ構造を形成させたものである。
なお、本明細書において、単に「表面」と記載した場合には、基材としての表面、基材に設けられた孔内部の表面と、基材を構成する構成部材自体の表面と、基材内部に形成された外部環境と連通した孔内部等の表面とを含む。例えば、金属繊維シートを基材とした場合には、金属繊維シートの表面と、構成物である金属繊維の表面と、金属繊維シート内部に形成された、外部環境と連通した孔内部の表面を意味するものとする。
以下に、本発明に係る導電性ナノ構造を有する多孔質導電体について詳述する。
【0010】
また、本明細書において、何ら断りもなく、「基材上」と記載された場合には、前記「表面」を含むものとする。
【0011】
1-1.多孔質導電体
多孔質導電体は、導電性を有し、その表面、又は、表面及び内部を含む多孔質導電体全体が多孔質であるものをいい、特に限定されない。例えば、粉体や繊維等の集合体として、多孔質である構造であればよい。この場合に、粉体や繊維等の構成物自体は、多孔質であってもよいし、多孔質でなくてもよい。例として、繊維で織った生地等が挙げられ、繊維自体が多孔質でない場合でも、生地の表面又は全体に孔や隙間を有するような構造とすることが可能である。
ここで導電性を有する、又は、導電性の材質とは、電気抵抗率が1×1010Ω・m以下のものをいう。導電性の測定方法は、公知の方法で測定ができるが、例えば、JIS C2139:2008の方法に準拠して測定できる。
【0012】
1-1-1.材質
多孔質導電体の材質は、導電性を有する材質であれば限定されない。例えば、金属、セラミックス、樹脂、ガラス、グラファイト、などが挙げられ、これらのうち、少なくとも1つの材質が用いられていればよい。また非導電体の材質を公知の方法によって、導電性とした材質とすることができる。例えば、ホウ素のような第13族元素やリンなど第15族元素をイオン注入したシリコンやダイヤモンドなどが挙げられる。これら材質のうち、金属が、安価で、導電性が高く、強度的にも優れている点で好ましく、ステンレス鋼、銅、炭素鋼が、安価であるためより好ましい。
【0013】
また、これらの材質は複数を用いることができ、又、材質全体として導電性を有する限りにおいて、非導電性の材質と組み合わせることもできる。例としては、(1)前記材質の表面に別の材質が積層されたもの、(2)前記材質と別の材質を組み合せて構成するものが挙げられる。(1)の例としては、樹脂の表面に金属をメッキしたもの等が挙げられる。(2)の例としては、樹脂に金属の粉末や粒子を練り混んだもの等が挙げられる。前記積層する方法や混錬する方法等は公知の方法を用いることができる。
【0014】
1-1-2.多孔質導電体の構造
多孔質導電体の構造は、上述した多孔質体であれば限定されず、電極などの用途に応じた構造とすればよい。例えば、多角形板、円板、楕円形等の板状;多角形柱状、円柱状、楕円柱状の棒状体;多角形体、球体等の立体物;多角筒状や円筒状の筒状体;シート状;バネ状;繊維状;ドーナツ状等が挙げられる。
【0015】
前記多孔質導電体は、多数の粉体や繊維等を構成物として集合させたものでもよい。例えば、粉体を金型で圧縮成形したバルク体、繊維を湿式抄造したシート、公知の乾式不織布の製法で作製したシート、金属繊維を含む金属繊維シート、長繊維を織り込んだシートなどが挙げられ、このうち金属繊維シートが好ましく、ステンレス鋼繊維シート及び銅繊維シートがより好ましい。なお、金属繊維シートには、本発明の効果を阻害しない限りにおいて金属以外の材質を含んでいてもよい。
【0016】
さらに、前記構造を複数組み合わせて用いることもできる。複数の繊維状の多孔質導電体を撚ることにより棒状とすることや、複数の棒状の多孔質導電体を束ねることなどが挙げられる。
【0017】
前記構造体は、さらに加工が施されていてもよい。性能や用途に応じて、取付用の穴や切込み等の加工やシート状の多孔質導電体を巻回してロール状の多孔質導電体とすることができる。例えば、繊維を抄造したシートを巻回したもの等が挙げられる。
【0018】
多孔質導電体の繊維を湿式抄造したシートの例としては、特開平07-258706号公報に開示された作製方法によって作製された金属繊維焼結シート等が挙げられる。前記金属焼結シートは、材質として好適なステンレス鋼繊維や銅繊維を用いて作製可能であり、孔や隙間の大きさ及び分布などを調整でき、さらにはシート形成後の加工が可能であり、様々な形状に二次加工できる点で用途範囲が広く好適である。
【0019】
本発明における多孔質とは、単に孔を複数有するということだけではなく、複数の隙間やスリット等を有する場合も含む。隙間やスリット等とは、例えば、シート状や板状の構造物を積層した場合の隙間や、繊維を織り込んで作製した生地の繊維間の隙間、金属板にレーザー加工機などで加工した孔やスリット等が挙げられる。これら孔、隙間及びスリットは貫通していても、貫通していなくてもよく、表面積が増大するように凹凸が形成されていればよい。
【0020】
前記孔等の形状、大きさ、間隔などは、複数の導電性ナノ構造が形成される限りにおいて、特に限定されない。例えば、孔等の大きさは、0.01μm~1000μmとすることができるが、好ましくは0.1μm~500μm、さらに好ましくは1μm~300μmである。下限値が小さくなりすぎると、孔等の内部に導電性ナノ構造が形成し難く、上限値が大きくなりすぎると導電性ナノ構造を形成する基材の表面積が小さくなるため効率が悪くなる。いずれの場合にも放電容量が小さくなるおそれがある。孔等の大きさの測定は、走査型電子顕微鏡(以降SEMと略す:例えばJIS K0132:1997に準拠)を用いて測定することができる。
【0021】
本明細書における孔等の大きさは、孔等が有する最長径(最長辺)とすることができ、無作為に選んだ50個の孔等を、SEMを用いて撮像し、得られた孔等の最長径(最長辺)の長さを測定し、その平均とすることができる。
【0022】
1-2.導電性ナノ構造
1-2-1.材質
導電性ナノ構造の材質は、基材上に形成することができる導電性を有する材質であれば、特に限定されない。例えば、金属、セラミックス、樹脂、ガラス、グラファイト、などが挙げられ、これらのうち、少なくとも1つの材質が用いられていればよい。また非導電体の材質を公知の方法によって、導電性とした材質とすることができる。例えば、ホウ素のような第13族元素やリンなど第15族元素をイオン注入したシリコンやダイヤモンドなどが挙げられる。またイオン注入による導電性の付加方法の場合など、ナノ構造形成後に実施が可能な方法の場合には、非導電性のナノ構造を基材表面に形成したのち、イオン注入等を行うことで導電性ナノ構造とすることができる。前記材質のうち、電気伝導度等の電気特性から金属が好ましく、金、白金、銀、銅、コバルトがより好ましく、可逆的な電気化学反応を発現する特性から、銀、銅、コバルトがさらに好ましい。
【0023】
1-2-2.構造
導電性ナノ構造は、多孔質導電体である基材上に形成されるナノサイズの構造である。その形状は特に限定されないが、多角形状、円形状、楕円形状等の粒状;多角形状、円形状、楕円形状等の板状;針状;多角形状、円形状、楕円形状等の柱状、棒状;繊維状;樹枝状;結晶成長における骸晶形状;等が挙げられ、これらが複数組み合わさってもよい。複数組み合わさった例としては、樹枝状(デンドライト状と表現する場合がある)が挙げられ、例えば、繊維状の構造から枝分かれして、繊維状の構造が成長し、さらにその繊維状の構造から繊維状の構造が繰返し成長した構造とすることができる。このような複雑な繰返し構造は、多孔質導電体に形成された導電性ナノ構造の表面積を著しく大きくすることが可能であり、放電容量や繰返し耐久性を向上させることができる。
ここでナノサイズの構造とは、導電性ナノ構造を構成する少なくとも一辺の長さ(例えば、断面における直径や短軸を)が、1μm未満である構造とする。また同様にミクロンサイズの構造とは、構造を構成する一辺の長さ(断面における直径や短軸)が、0.001~1mmである構造とする。
【0024】
導電性ナノ構造の大きさは、特に限定されない。例えば、前記複合的な構造である樹枝状の導電性ナノ構造の場合には、樹枝状構造全体としてはミクロンサイズであってもよく、少なくとも樹枝の枝にあたる部分がナノサイズであればよい。即ち、導電性ナノ構造自体の大きさは限定されず、少なくとも一部にナノサイズの構造部分を有する構造であればよい。また、別の例として、導電性ナノ構造が繊維状である場合に、少なくとも、その断面の短径(又は短軸)がナノサイズであればよく、その場合に繊維の長さは本発明の効果を妨げない限り限定されない。例えば、導電性ナノ構造全体の大きさ、即ち、多孔質導電体表面からの導電性ナノ構造の最長の長さは、0.001~1000μmとすることができ、0.01~500μmが好適である。また、導電性ナノ構造が複合的な構造を有する場合には、導電性ナノ構造を構成するナノサイズの構造部分の大きさは、前記ナノサイズの構造を構成する少なくとも一辺の長さ(断面における直径や短軸)が、1μm未満とすることができ、1~500nmが好適であり、5~300nmがより好適である。
前記導電性ナノ構造の大きさの測定は、導電性ナノ構造の大きさによって異なるが、SEM(例えばJIS K0132:1997に準拠)や透過型電子顕微鏡(TEM:JIS H7804:2004に準拠)等を用いて測定することができる。また複数の測定方法を組み合せることもできる。
【0025】
2.導電性ナノ構造を有する多孔質導電体の製造方法
導電性ナノ構造を有する多孔質導電体の製造方法、即ち、多孔質導電体表面における導電性ナノ構造の形成方法は、公知の方法を用いることができる。例えば、気相反応蒸着法、セルフアッセンブリー法、リソグラフィーを用いる方法、電子線ビーム加工、FIB加工、電気化学的な方法等が挙げられる。このうち、製造費用自体が安価であり、また、設備も簡便かつ安価である電気化学的な方法がより好適であり、特許第5574158号による銅ナノ構造体の製造方法などがさらに好適である。
【0026】
2-1.電気化学的方法による形成例
以下に、好適例である三電極法による銅のナノ構造物の形成方法について述べる。
図1に示したように、電源と、動作電極と対向電極が備えられた主室と、副室、塩橋及び参照電極からなる三電極式セル装置を用いる。
電源は特に限定されないが、ポテンショスタットが好ましい。ポテンショスタットは動作電極の電位を参照電極に対して一定にする装置であり、動作電極と対向電極間の電流を正確に測り、参照電極には電流を流さないようにする仕組みである。ポテンショスタットを使用しない場合には、別途同様の調整を行う必要がある。
多孔質導電体を動作電極とする。対向電極は特に限定されず、公知の材質を用いることができる。例えば、白金などが挙げられる。参照電極は、公知の参照電極であれば特に限定されず、例えば飽和カロメル電極が挙げられる。
主室には蒸留水に銅錯体である硫酸テトラアンミン銅(II)又は硫酸銅(II)と、硫酸リチウムと、アンモニア水とで調製した電解液を入れ、副室には蒸留水に硫酸リチウムとアンモニア水で調製した電解水を入れる。
参照電極に対し、-1.0V~-2.0V印加し、0.10~20C/cmの電気量を通電することで、硫酸テトラアンミン銅(II)あるいは硫酸銅(II)が二電子還元され、動作電極である前記多孔質導電体に、銅が析出し、ナノ構造が形成される。このとき、0.1~120分通電を行い、表面及び内部に導電性ナノ構造を有する多孔質導電体を得ることができる。
【0027】
なお、多孔質基材として磁性を有する材質とし、さらに、導電性ナノ構造を形成するための材質として、磁性を有する材質とする場合には、前記多孔質基材を設置する主室に、磁場を印加することで、多孔質基材表面と導電性ナノ構造を形成する材質が引き合うことができ、導電性ナノ構造を形成し易くすることができる。ここで、導電性ナノ構造を形成する材質とは、前記電解液である硫酸テトラアンミン銅(II)の銅にあたる材質を示す。
【0028】
磁性を有する材質とは、特に限定されず、公知のものを用いることができる。また、常磁性や強磁性といった磁性の性質も、本発明の効果を阻害しない限りにおいて、限定されない。磁性を有する材質としては、例えば、ニッケル、鉄、コバルト、ガドリニウム、及び、それらの合金などが挙げられる。
【0029】
前記動作電極とする、多孔質基材に磁場を印加する方法としては、公知の方法を用いることができ、特に限定されない。例えば、図1に示した三電極方式の装置の主室に配置された動作電極を、所定の磁力を有する二つの磁石の間に配置することで、磁場を印加することができる。
【0030】
また、印加する磁場の磁束密度は、特に限定されないが、例えば0.1mT~500mTとすることができる。印加する磁場の磁束密度をかかる範囲とすることで、導電性ナノ構造の形成を容易とすることができる。
【0031】
3.導電性ナノ構造を有する多孔質導電体の用途
本発明による導電ナノ構造を有する多孔質導電体は、蓄電デバイス用電極、特にレドックスキャパシタ用の電極として用いることができる。
【実施例
【0032】
上述した導電性ナノ構造を有する多孔質導電体を実際に作製し、その効果を確認した。以下に説明する。
【0033】
(基材)
全ての基材は、平面寸法を1cm×2cmに成形し、1cm×1cmを電解液に浸漬して用いた。用いた基材の材質を下記に示す。
実施例1、実施例4は、多孔質基材として抄造・焼結したステンレス繊維シートを使用した。このステンレス繊維シートは繊維径:8μm、厚み:100μm、坪量:300g/m、占積率:33%である。坪量は、金属繊維シートの1平方メートルあたりのシートの重さを意味している。占積率は、金属繊維シートの体積当たりの金属繊維の占める割合であり、数値が少ないほど、金属繊維シートに空隙が多いことを示している。
【0034】
実施例2、3及び5は、多孔質基材として抄造・焼結した銅繊維シートを使用した。この銅繊維シートは繊維径:18.5μm、厚み:100μm、坪量:300g/m、占積率:33%のものを使用した。
【0035】
比較例1及び2は、多孔質基材の代わりに、ITO平板(ジオマテック社製:ITO膜付きガラス、表面抵抗10Ω/sq.)を用いた。
【0036】
(電解液の調製)
・硫酸テトラアンミン銅(II)電解液
実施例1及び3では、硫酸テトラアンミン銅(II)水和物(アルドリッチ社製、純度98%)を0.43gと、支持電解質である硫酸リチウム(和光純薬社製、純度99.0%)を0.64gとを、蒸留水40.3mLに溶解させた。この溶液にNH水(関東化学社製、アンモニア含有量29%水溶液)を9.7mL添加し、マグネティックスターラーで30分間攪拌し、硫酸テトラアンミン銅(II)の濃度が35mMの電解液とした。
【0037】
実施例2及び比較例1では、硫酸テトラアンミン銅(II)(アルドリッチ社製、純度98%)を0.31gと、支持電解質である硫酸リチウム(和光純薬社製、純度99.0%)を0.64gとを、蒸留水40.2mLに溶解させた。この溶液にNH水(関東化学社製、アンモニア含有量29%水溶液)を9.8mL添加し、マグネティックスターラーで30分間攪拌し、硫酸テトラアンミン銅(II)の濃度が25mMの電解液とした。
【0038】
・硝酸銀電解液
実施例4、5及び比較例2は、硝酸銀(メルク社製、純度99.8%)を0.0849gと、支持電解質である硫酸リチウム(和光純薬社製、純度99.0%)を1.28gとを、蒸留水96.74mLに溶解させ、この溶液にNH水(関東化学社製、アンモニア含有量29%水溶液)を3.26mL添加し、マグネティックスターラーで30分間攪拌し硝酸銀濃度が5mMの電解液とした。
【0039】
・ヘキサアンミンコバルト(III)塩化物電解液
実施例6~9及び比較例3は、ヘキサアンミンコバルト(III)塩化物(アルドリッチ社製、純度99%以上)を0.508gと、支持電解質である硫酸リチウム(和光純薬社製、純度99.0%)を1.28gとを、蒸留水100mLに溶解させ、マグネティックスターラーで30分間攪拌し、ヘキサアンミンコバルト濃度が19mMの電解液とした。
【0040】
(導電性ナノ構造を有する多孔質導電体の製造装置)
図1と同様の三電極法用いて導電性ナノ構造を有する評価試料を作製した。電源はポテンショスタット(北斗電工社製、モデルHAB-151)を使用し、図1に示すように3極式セルを接続した。
【0041】
前記調製された電解液を電解セルの主室に入れた。実施例1~3及び比較例1については、上記各調製された電解液から硫酸テトラアンミン銅(II)のみを除いた電解液を作製し、それを副室に入れた。また、実施例4、5及び比較例2については、上記各調製された電解液から硝酸銀のみを除いた電解液を作製し、それを副室に入れた。
【0042】
そしてポテンショスタットの動作電極の端子に、前記各実施例及び比較例の基材を使用し、対向電極端子に白金板、及び、実施例1~3及び比較例1の参照電極の端子に飽和カロメル電極(東亜エレクトロニクス社製、モデルHC-205C、以降SCEと略記する)を接続し、実施例4、5及び比較例2の参考電極端子に、飽和KCl銀塩化銀参照電極(BAS株式会社製、モデルRe-1CP、以降Ag/AgClと略記する)を接続した。
【0043】
(導電性ナノ構造を有する多孔質導電体の製造)
・実施例1~3及び比較例1
動作電極に-1.45Vの電位を印加し、3.0C/cmの電気量を通電した。実施例1~3及び比較例1の場合、主室では、このとき硫酸テトラアンミン銅(II)が2電子還元され、銅が析出する。同時にアンモニアが形態制御剤として作用するため、銅は単なる膜の形態ではなく、デンドライト状、繊維状、棒状、針状等の様々な形状のナノワイヤーとして析出する。電解終了後、銅ナノワイヤーが形成された基材を電解液から取り出し、蒸留水でくり返し洗浄することにより実施例1~3及び比較例1のキャパシタ電極を得た。
【0044】
・実施例4、5及び比較例2
動作電極に-1.1Vの電位を印加し2.0C/cmの電気量を通電した。このときジアンミン銀(I)イオンが1電子還元され、銀が析出する。同時にアンモニアが形態制御剤として作用するため、銀は単なる膜の形態ではなく、デンドライト状、繊維状、棒状、針状等の様々な形状のナノワイヤーとして析出する。電解終了後、銀ナノワイヤーが形成された基材を電解液から取り出し、蒸留水でくり返し洗浄することにより実施例4、5及び比較例2のキャパシタ電極を得た。
【0045】
・実施例6~9及び比較例3
動作電極に-1.07Vの電位を印加し3.0C/cmの電気量を通電した。このときヘキサアンミンコバルト(III)イオンが2電子還元され、コバルトが析出する。同時にアンモニアが形態制御剤として作用するため、コバルトは単なる膜の形態ではなく、デンドライト状、繊維状、棒状、針状等の様々な形状のナノワイヤーとして析出する。電解終了後、コバルトナノワイヤーが形成された基材を電解液から取り出し、蒸留水でくり返し洗浄することにより実施例6,7及び比較例3のキャパシタ電極を得た。
さらに、動作電極に対して垂直方向に90mTの磁場強度を印加しながら動作電極に-1.07Vの電位を印加し2.0C/cmの電気量を通電することで、同様に実施例8,9のキャパシタ電極を得た。
なお磁場印加する場合の装置(磁場印加電解システム300)の模式図を図5に示した。他の実施例及び比較例を作製する装置と同様の装置に、前記装置の主室を挟み込むようにネオジム磁石2個を対向させて配置し、磁石間の距離を変えることで磁場強度を90mTに設定した。前記主室内の多孔質基材と、前記2個の磁石とを、磁石間の磁力線が前記多孔質基材の平面を垂直に貫くように配置した。磁場強度は、カネテック社製テスラメーターTM-701で計測した。
【0046】
(評価方法)
・SEM観察
実施例1~5及び比較例1、2の導電性ナノ構造を、SEM(トプコン社製ABT-32)を用いて観察した。実施例1~4及び比較例1、2は樹枝状の導電性ナノ構造が形成されていることが確認できた。実施例5のみは、樹枝状ではなく、棒状の導電性ナノ構造が観察された。代表的な観察写真として、実施例1のSEM観察写真を図2に、また、実施例5のSEM観察写真を図3に示した。ここで、樹枝状の茎にあたる部分を茎部、茎部からさらに成長している部分を枝部とする。茎部及び枝部の平均長及び平均径は、SEM観察写真の各部を無作為に50箇所選び、その長さを測定し、平均した。平均径は、SEM観察写真上での茎部又は枝部の幅を直径とした。実施例5の棒状の導電性ナノ構造は、棒状部を、樹枝状の茎部として同様の観察を行った。結果を表1に示した。
・充放電試験
図4に示した装置を用いて、充放電試験を行った。電源は充放電ユニット(北斗電工社製、モデルHJ1010mSM8A)を使用し、動作電極には実施例1~5及び比較例1、2の電極、対向電極端子に白金板、及び、参照電極の端子にSCEを接続した。主室20は、ポリスチレン製を使用し、電解液は、0.1Mの水酸化リチウム溶液とした。また電流密度は5.6A/gとして測定した。結果を表1に示した。
・繰返し耐久試験
上述した充放電試験を1000回繰返して行った。結果を表1に示した。比較例2は500回目の充放電において、反応しなくなり、1000回の繰返し試験に耐えることができなかった。
【0047】
(評価)
評価結果を表1にまとめた。
全ての実施例及び比較例について、1回目及び1000回目の充放電試験において、高い放電容量を示し、1000回目の充放電試験において、実施例が比較例を上回る結果となった。比較例2では、1000回の充放電試験に耐えることはできず、500回目の充放電時に反応しなくなった。以上から本発明の効果が理解できる。
【0048】
表1
【符号の説明】
【0049】
100 三電極装置
200 充放電装置
10 電源(ポテンショスタット等)
20 主室
21 動作電極
22 対向電極
30 副室
31 参照電極
40 塩橋
50,60 電解液
70 ガラスフィルター
80 充放電ユニット
90 磁石
300 磁場印加電解システム
図1
図2
図3
図4
図5
図6