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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-05-12
(45)【発行日】2023-05-22
(54)【発明の名称】木造建築用連結金物
(51)【国際特許分類】
   E04B 1/58 20060101AFI20230515BHJP
   E04B 1/26 20060101ALI20230515BHJP
【FI】
E04B1/58 507L
E04B1/26 G
【請求項の数】 3
(21)【出願番号】P 2020109425
(22)【出願日】2020-06-25
(65)【公開番号】P2022006872
(43)【公開日】2022-01-13
【審査請求日】2022-04-05
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用 令和1年11月13~15日に第41回ジャパンホームショーで、令和1年11月20~21日に東京都中央区銀座7-7-7で、令和1年12月15日に月刊住宅ジャーナル1月号で、令和2年1月15日にプレカットユーザー第38号で公開した。
(73)【特許権者】
【識別番号】504232974
【氏名又は名称】株式会社ダイドーハント
(73)【特許権者】
【識別番号】597032332
【氏名又は名称】株式会社栗山百造
(74)【代理人】
【識別番号】100077791
【弁理士】
【氏名又は名称】中野 収二
(72)【発明者】
【氏名】永井 馨
【審査官】土屋 保光
(56)【参考文献】
【文献】登録実用新案第3071373(JP,U)
【文献】特開2004-211455(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
E04B 1/58
E04B 1/26
E04H 9/02
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
相互に直交するX方向とY方向に配置された木製の第1構造部材と第2構造部材に関して、X方向に配置された第1構造部材の取付面に対して、Y方向から第2構造部材の木口端を突き合せた状態で連結する金属板製の連結金物であり、
前記第1構造部材(16)の取付面に添設状態で四隅の近傍部に挿通した締結ボルト(20)により固着される矩形の座板(18)と、前記第2構造部材(17)の木口端に形成した切込み溝(21)に挿入状態でドリフトピン(22)により固着される支持板(19)とから構成され、
前記座板(18)の中心を通過し該座板を二分するセンターラインAと、該センターラインと前記締結ボルト(20)を挿通するボルト用連結孔(23)の間に位置してセンターラインと平行に延びるサイドラインBと、前記中心を通過し前記センターラインに直交するクロスラインCに関して、
前記支持板(19)は、窓口部(26)を介して並設された一対の脚部(27,27)と、両脚部から前記窓口部(26)を跨いで形成され前記ドリフトピン(22)を挿通するピン用連結孔(29)を設けた頭部(28)を備え、両脚部(27,27)を前記センターラインに沿わせた状態で前記座板(18)に溶接固着されており、
前記座板(18)は、前記センターラインに沿う帯状領域(30)において前記脚部(27,27)の間に位置する中央部(31)と前記脚部(27,27)に一体化された延長部(32,32)を形成し、前記サイドラインに沿う側部領域(33)に開口部(25)を貫設しており、
前記第2構造部材(17)が第1構造部材(16)から離反するY方向の引張力Pを受けたとき、該引張方向に向けて、前記帯状領域(30)を尾根状に変形させ、前記センターライン上で前記延長部(32)を中央部(31)よりも引張方向に大きく変形させると共に、前記クロスライン上で前記中央部(31)を側部領域(33)よりも引張方向に大きく変形させることにより前記第2構造部材(17)が前記ドリフトピン(22)の周囲から割裂を生じて脆性的に破壊されることを遅延させるように構成して成ることを特徴とする木造建築用連結金物。
【請求項2】
前記開口部(25)を前記サイドラインBと前記クロスラインCの交点に位置して形成して成ることを特徴とする請求項1に記載の木造建築用連結金物。
【請求項3】
前記開口部(25)を前記サイドラインBの延長方向に長く形成された長孔(25a)により構成して成ることを特徴とする請求項1又は2に記載の木造建築用連結金物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えば、木造建築における土台と柱や、柱と梁等のような相互に直交して接合される木製の第1構造部材と第2構造部材を連結するための木造建築用連結金物に関する。
【背景技術】
【0002】
相互に直交するX方向とY方向に配置された木製の第1構造部材と第2構造部材に関して、X方向に配置された第1構造部材の取付面に対して、Y方向から第2構造部材の木口端を突き合せた状態で連結する金属板製の連結金物が公知である。
【0003】
このような連結金物は、第1構造部材の取付面に添設した状態で締結ボルトにより固着される矩形の座板と、第2構造部材の木口端に形成した切込み溝に挿入した状態でドリフトピンにより固着される支持板とから構成され、支持板の端縁を座板の中央を横断するセンターラインに沿わせた状態で溶接固着することにより、概ねT形の金物を構成している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2003-13507号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
木造建築において相互に直交する第1構造部材と第2構造部材を連結金物により連結した構造体は、一般的には連結金物の降伏応力を高めるのが良いと考えられている。
【0006】
しかしながら、木造建築における構造体は、所定以上の応力が加えられると、木質とされた構造部材に割裂が生じるので、脆性的な破壊を招来する。従って、地震等が発生したときは、連結金物が全体的に高強度に形成されていても、木質の割裂による脆性的な破壊が瞬時に生じるおそれがある。
【0007】
本発明者らの知見によれば、上述の連結金物は、支持板を第2構造部材の切込み溝に嵌入し状態でドリフトピンを挿通することにより固着されているので、第2構造部材が第1構造部材から離反する方向の引張力を受けたとき、第2構造部材は、ドリフトピンの周囲から割裂を生じやすい。そして、割裂が木口端に向けて成長することにより、簡単に脆性的破壊を招来することになる。
【0008】
本発明は、上記に鑑み、金物に靱性を具備させることにより、上述のような脆性的な破壊を遅延させるように構成した連結金物を提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
そこで、上記課題を解決するために、本発明が手段として構成したところは、相互に直交するX方向とY方向に配置された木製の第1構造部材と第2構造部材に関して、X方向に配置された第1構造部材の取付面に対して、Y方向から第2構造部材の木口端を突き合せた状態で連結する金属板製の連結金物であり、前記第1構造部材の取付面に添設状態で四隅の近傍部に挿通した締結ボルトにより固着される矩形の座板と、前記第2構造部材の木口端に形成した切込み溝に挿入状態でドリフトピンにより固着される支持板とから構成され、座板の中心を通過し該座板を二分するセンターラインと、該センターラインと前記締結ボルトを挿通するボルト用連結孔の間に位置してセンターラインと平行に延びるサイドラインと、前記中心を通過し前記センターラインに直交するクロスラインに関して、前記支持板は、窓口部を介して並設された一対の脚部と、両脚部から窓口部を跨いで形成され前記ドリフトピンを挿通するピン用連結孔を設けた頭部を備え、両脚部を前記センターラインに沿わせた状態で座板に溶接固着されており、前記座板は、前記センターラインに沿う帯状領域において前記脚部の間に位置する中央部と前記脚部に一体化された延長部を形成し、前記サイドラインに沿う側部領域に開口部を貫設しており、第2構造部材が第1構造部材から離反するY方向の引張力Pを受けたとき、該引張方向に向けて、前記帯領域を尾根状に変形させ、センターライン上で前記延長部を中央部よりも引張方向に大きく変形させると共に、クロスライン上で前記中央部を側部領域よりも引張方向に大きく変形させるように構成することにより、第2構造部材がドリフトピンの周囲から割裂を生じて脆性的に破壊されることを遅延させるように構成して成る点にある。
【0010】
前記開口部は、前記サイドラインとクロスラインの交点に位置して形成することが好ましい。
【0011】
更に、前記開口部は、前記サイドラインの延長方向に長く形成された長孔により構成することが好ましい。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、第2構造部材17が第1構造部材16から離反するY方向の引張力Pを受けたとき、該引張方向Pに向けて、座板18の帯領域30が尾根状に膨隆しつつ変形させられる。その際、第2構造部材17のドリフトピン22により引張力を受ける支持板19は、一対の脚部27、27が伸長変形しながら窓口部26の両側で歪変形させられるので、センターラインAに関して、帯領域30の延長部32、32が中央部31から引張方向に向けて弓状に変形させられる。そして、更に、クロスラインCに関して、帯領域30の中央部31が開口部25を介して側部領域33から引張方向に膨隆するように変形させられる。その結果、第2構造部材17は、ドリフトピン22の周囲から割裂を生じて脆性的に破壊されるまでの時間を遅延させられることになる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
図1】本発明の連結金物により構築した木造建築構造体の1例としての狭小壁を示す斜視図である。
図2】狭小壁の柱頭部と上梁部の連結構造を示す斜視図である。
図3】下梁部を構成する第1構造部材と、狭小壁の柱脚部を構成する第2構造部材に関して、本発明の1実施形態に係る連結金物により実施された連結構造を示す斜視図である。
図4】本発明の1実施形態に係る連結金物に関して、(A)は座板と支持板を分離した状態を示す斜視図、(B)は座板と支持板を結合した状態を示す斜視図である。
図5】連結金物に関して、(A)は支持板及び座板を示す断面図、(B)はQ-Q線断面図、(C)は座板の構成を示す平面図である。
図6】第1構造部材と、連結金物における座板の取付部品を分解状態で示す斜視図である。
図7】第1構造部材に対して連結金物の座板を取付固着する方法を示す斜視図である。
図8】第1構造部材に取付固着した連結金物の支持板に対して、第2構造部材を取付固着する前の状態を示す斜視図である。
図9】連結金物により第1構造部材と第2構造部材を連結した状態を示しており、(A)は斜視図、(B)は断面図である。
図10】第1構造部材と第2構造部材を連結した状態において、第2構造部材が第1構造部材から離反方向の引張力を受けたときの状態を示す斜視図である。
図11】本発明に対する比較例に係る連結金物に関して、引張力を作用させたときの実験例を示しており、(A)は実験方法を示す斜視図、(B)は変形された連結金物を示す斜視図である。
図12】比較例に係る連結金物の実験結果を示しており、(A)はセンターラインAに沿う部分の断面図、(B)はサイドラインBに沿う部分の断面図、(C)はクロスラインCに沿う部分の断面図である。
図13】本発明の1実施形態に係る連結金物に関して、引張力を作用させたときの実験例を示しており、(A)は実験方法を示す斜視図、(B)は変形された連結金物を示す斜視図である。
図14】1実施形態に係る連結金物の実験結果を示しており、(A)はセンターラインAに沿う部分の断面図、(B)はサイドラインBに沿う部分の断面図、(C)はクロスラインCに沿う部分の断面図である。
図15】本発明の別の実施形態に係る連結金物に関して、引張力を作用させたときの実験例を示しており、(A)は実験方法を示す斜視図、(B)は変形された連結金物を示す斜視図である。
図16】別の実施形態に係る連結金物の実験結果を示しており、(A)はセンターラインAに沿う部分の断面図、(B)はサイドラインBに沿う部分の断面図、(C)はクロスラインCに沿う部分の断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下図面に基づいて本発明の好ましい実施形態を詳述する。
【0015】
図1は、連結金物の適用例としての狭小壁1を示している。狭小壁1は、並設された一対の木製角材から成る支柱2、2と、一対の支柱に張設された木製板材から成る面板3を一体化することにより耐力壁を構成しており、木造建築物において、幅広窓用の開口部や、その他、広い開口部を形成する場合に、該開口部の両側縁部に沿わせて設置される。例えば、ビルトインガレージ等の建物1階においては、基礎又は土台と梁の間に設置されるが、図例の場合は、建物2階等の上階において、下梁4と上梁5の間に設置されている。
【0016】
(柱頭部の連結)
図面において、支柱2の柱頭部2aと上梁5の連結のために、柱頭金物6が使用され、柱脚部2bと下梁4の連結のために、本発明の連結金物が使用された例を示しているが、これに限定されるものではなく、本発明の連結金物は、柱頭部2aと上梁5の連結のためにも使用可能である。
【0017】
図例の場合、柱頭金物6は、図2に示すように、上向きに突出する複数本のパイプ部7と、下向きに延びる板状の垂下壁8を一体に備えており、パイプ部7と垂下壁8にそれぞれ所定数の連結孔7a、8aを設けている。
【0018】
これに対して、上梁5は、前記パイプ部7を下方から挿入する受孔9を穿孔すると共に、該受孔9を横断して前記連結孔7aに連通するピン孔10を貫設している。また、支柱6の柱頭部2aは、前記垂下壁8を嵌入する切込み溝11を形成すると共に、該切込み溝11を横断して前記連結孔8aに連通するピン孔12を貫設している。
【0019】
従って、柱頭金物6は、パイプ部7を上梁5の受孔9に挿入した状態で、ピン孔10にドリフトピン13を打ち込むと、該ドリフトピン13がパイプ部7の連結孔7aに挿通され、上梁5に固着される。
【0020】
そこで、上梁5の下側に突出する垂下壁8を柱頭部2aの切込み溝11に嵌入させ、ピン孔12にドリフトピン14を打ち込むと、該ドリフトピン14が垂下壁8の連結孔8aに挿通され、これにより、柱頭部2aが柱頭金物6により上梁5に連結され、固定支持される。
【0021】
(柱脚部の連結と連結金物の1実施形態)
図3に示すように、支柱2の柱脚部2bは、下梁4に対して交差状態として、本発明の連結金物15を使用することにより連結されている。つまり、下梁4と支柱2は、相互に直交するX方向とY方向に配置された木製の第1構造部材16と第2構造部材17を構成しており、X方向に配置された第1構造部材16の取付面に対して、Y方向から第2構造部材17の木口端を突き合せた状態で、本発明の連結金物6を使用することにより連結固定される。
【0022】
連結金物6は、矩形の座板18と支持板19を交差状態で結合一体化したほぼT形の金属板製とされた金物を構成しており、座板18を第1構造部材16の上面の取付面に添設した状態で締結ボルト20により固着され、支持板19を第2構造部材17の木口端に形成した切込み溝21に挿入した状態でドリフトピン22により固着される。
【0023】
図4に示すように、矩形の座板18は、四隅の近傍部に前記締結ボルト20を挿通するためのボルト用連結孔23を設けており、矩形板の中心を通過し座板18を二分するセンターラインAと、該センターラインと前記ボルト用連結孔23の間に位置してセンターラインと平行に延びるサイドラインB、Bと、前記中心を通過し前記センターラインに直交するクロスラインCに関して、前記センターラインAに沿って両側縁から切込み形成されたスリット24を設け、前記サイドラインB、BとクロスラインCの交点に位置して、開口部25を形成している。
【0024】
これに対して、支持板19は、窓口部26を介して並設された一対の脚部27、27と、両脚部から窓口部を跨いで形成された頭部28を備え、頭部28に複数のピン用連結孔29を設けており、両脚部27、27を座板18のセンターラインAに沿わせ、先端を前記スリット24、24に嵌入させた状態で溶接により固着されている。
【0025】
図5に示すように、溶接固着は、スリット24の下側に充填された溶接材w1と、座板18の上面と支持板19の両側面の交差部に充填された溶接材w2、w2により、堅固な溶接が行われ、座板18と支持板19を分離不能に一体化する。
【0026】
これにより、座板18は、図5(C)に示すように、前記センターラインAに沿う帯状領域30において、前記脚部27、27の間に位置する中央部31と、前記脚部27、27に溶接一体化された延長部32、32を構成する。
【0027】
そして、座板18の前記サイドラインB、Bに沿う領域により、側部領域33、33が構成されており、該側部領域に前記開口部25を開設しており、図示実施形態の場合、開口部25は、サイドラインBの延長方向に長く形成された長孔25aにより構成されている。
【0028】
(連結固定の方法)
図6ないし図9は、連結金物15により、第1構造部材16と第2構造部材17を連結固定する方法を示している。
【0029】
図6及び図7に示すように、第1構造部材16の上面の取付面に4個の挿通孔34が貫設されており、該挿通孔34に連結金物15の座板18のボルト用連結孔23を合致させた状態で、両孔23、34に挿入した締結ボルト20を第1構造部材16の下面に挿出させ、該挿出端にナット35を締着する。この際、図示のように、第1構造部材16の下面に挟持板36を添設し、該挟持板の孔36aから挿出された締結ボルト20の軸端部にナット35を締着することが好ましい。
【0030】
ところで、第1構造部材16の取付面に座板18を取付固定した状態において、座板18の上面には、締結ボルト20の頭部20aが露出しているため、第2構造部材17の木口端面を面接触状態で支持させるための手段として、一対の受板37、37が設けられる(図8参照)。
【0031】
図6に示すように、支持板19の両側において、受板37は、締結ボルト20の頭部20aを陥没状態で収容させるための収容孔37aを設けており、座板18に重ね合わせた状態でビス38により固定される。このため、受板37及び座板18にはビス挿入孔38a、38bが設けられており、ビス38は、ビス挿入孔38a、38bを挿通して第1構造部材16にねじ込まれる。
【0032】
第2構造部材17は、図8に示すように、切込み溝21を横断して、ドリフトピン22を挿通させるための複数の挿通孔39を設けている。そこで、図9に示すように、連結金物15の支持板19を切込み溝21に嵌入させ、第2構造部材17の木口端面を前記受板37に接支させた状態で、前記挿通孔39にドリフトピン22を打ち込み、ピン用連結孔29に挿通させ、これにより第2構造部材17を連結固定する。
【0033】
(作用)
上述のような構成により、連結金物15は、X方向に配置された第1構造部材16の取付面に対してY方向から第2構造部材17の木口端を突き合せた状態で強固に連結している。そこで、地震等が発生したとき、第1構造部材16と第2構造部材17が相互に簡単に分離するようなことはない。
【0034】
ところで、図10に示すように、第2構造部材17が第1構造部材16から離反するY方向の引張力Pを受けたとき、連結金物15の支持板19に挿通されたドリフトピン22により、挿通孔39の周りで第2構造部材17の木質が損傷し、割裂発生の原因を生成する。
【0035】
図示のような狭小壁1の場合、図1に矢印で示すような横揺れを受けたとき、面板3で一体化された支柱2、2の一方が圧縮方向の力を受けると、他方は引張方向の力を受けることにより、下梁4から離反するY方向の引張力を受ける。この際、第2構造部材17の木口端部は、切込み溝21により二股状に分割された分割部を構成して挿通孔39を貫設しているので、ドリフトピン22から生じる応力に十分に耐えるための木質量が確保されていない。このため、挿通孔39の周りでドリフトピン22により損傷された部分から、第2構造部材17の木口端に向かう割裂を発生するおそれがあり、脆性的な破壊に至る可能性が高い。
【0036】
この点について、連結金物15は、第2構造部材17が図示のような上向きの引張力Pを受けたとき、該引張方向Pに向けて、前記帯領域30が尾根状に膨隆しつつ変形させられる特性を備えており、これにより、靱性を確保し、割裂の発生を遅延させることができるように構成されている。
【0037】
帯領域30の膨隆変形に関して、支持板19は、第2構造部材17のリフトピン22による引張力を受けたとき、一対の脚部27、27が伸長変形しながら窓口部26の両側で歪変形させられる。これにより、座板18は、センターラインAに関して、帯領域30のうち、前記脚部27、27による引張力を受ける延長部32、32が中央部31から弓状となるように変形させられる。つまり、帯領域30は、全体として尾根状に膨隆変形させられるが、中央部31よりも延長部32、32の方が大きく変形される。中央部31には脚部27、27の引張力が直接作用しないからであり、しかも、中央部31は両側の開口部25、25により変形しやすく形成されているからである。
【0038】
そして、更に、クロスラインCに関して、帯領域30の中央部31は、側部領域33、33から引張方向に向けて膨隆するように変形させられる。つまり、開口部25により変形しやすく形成された側部領域33の変形を介して、該側部領域33よりも中央部31の方が大きく(高さが高くなるように)変形される。
【0039】
このように、連結金物15は、引張力Pを受けたとき、センターライン方向やクロスライン方向に関する変形を可能にする好適な靱性を具備しており、その結果、第2構造部材17は、ドリフトピン22の周囲から割裂を生じて脆性的に破壊されるまでの時間を遅延することができる。
【0040】
(実験例)
図11ないし図16は、本発明に対する比較例に係る連結金物と、本発明の1実施形態に係る連結金物と、本発明の別の実施形態に係る連結金物について、実施した実験方法と実験結果を示している。
【0041】
(比較例)
図11及び図12に示す比較例に係る連結金物15xは、上述の本発明に係る連結金物15と比較して、唯一、開口部25を設けていない点においてだけが相違しているが、その他は同一構成とされているものである。
【0042】
図11(A)に示すように、上述の実施形態において説明した第1構造部材16に代えて金属製の試験台40を使用し、連結金物15xの座板18を試験台40の水平面に設置し締結ボルト20により固定した。そこで、上述の実施形態と同様に、支持板19を木製の第2構造部材17の切込み溝21に嵌入させ、ドリフトピン22で固定した結合状態で、第2構造部材17を試験機の油圧シリンダにより引上げ、100KNの引張力Pを与えることにより、座板18の変形を観察した。
【0043】
図11(B)は、100KNの引張力Pにより変形させられた連結金物15xを示しており、図12(A)(B)(C)は、それぞれ、変形後の連結金物15xのセンターラインA、サイドラインB、クロスラインCに沿う断面形状を示している。
【0044】
図12(A)に示すように、センターラインAに沿う帯状領域30は、試験台40の表面から尾根状に膨隆するように変形していた。座板18の下面と試験台40の表面との間の隙間を測定すると、クロスラインCが交差する中央部31の中心部Ah1の隙間は1.17mmとされ、延長部32の端部Ah2の隙間は9.00mmとされていた。
【0045】
図12(B)に示すように、サイドラインBに沿う側部領域33の形状の変形に関して、クロスラインCが交差する中心部Bh1の隙間は0.79mm、座板の端縁Bh2の隙間は5.66mmとされていた。
【0046】
図12(C)に示すように、クロスラインCに沿う形状の変形に関して、座板18は中高となるように膨隆変形されていた。
【0047】
(本発明の1実施形態)
図13及び図14は、上述した本発明の1実施形態に係る連結金物15について実施した実験を示している。この連結金物15が前記比較例の連結金物15xと相違している点は、開口部25を設け、該開口部25を長孔25aにより構成した点である。
【0048】
実験の方法は、比較例の場合と全く同様であり、図13(A)に示すように、連結金物15の座板18を試験台40の水平面に設置し締結ボルト20により固定すると共に、支持板19を木製の第2構造部材17の切込み溝21に嵌入させ、ドリフトピン22で固定した結合状態で、第2構造部材17を試験機の油圧シリンダにより引上げ、100KNの引張力Pを与えることにより、座板18の変形を観察した。
【0049】
図13(B)は、100KNの引張力Pにより変形させられた連結金物15を示しており、図13(A)(B)(C)は、それぞれ、変形後の連結金物15のセンターラインA、サイドラインB、クロスラインCに沿う断面形状を示している。
【0050】
図14(A)に示すように、センターラインAに沿う帯状領域30は、試験台40の表面から尾根状に膨隆するように変形していた。座板18の下面と試験台40の表面との間の隙間を測定すると、クロスラインCが交差する中央部31の中心部Ah1の隙間は1.27mmとされ、延長部32の端部Ah2の隙間は9.59mmとされていた。
【0051】
図14(B)に示すように、サイドラインBに沿う側部領域33の形状の変形に関して、クロスラインCが交差する中心部Bh1の隙間は0.82mm、座板の端縁Bh2の隙間は5.86mmとされていた。
【0052】
図14(C)に示すように、クロスラインCに沿う形状の変形に関して、座板18は中高となるように膨隆変形されていた。
【0053】
(本発明の別の実施形態)
図15及び図16は、本発明の別の実施形態に係る連結金物15aについて実施した実験を示している。別の実施形態に係る連結金物15aは、上述の1実施形態に係る連結金物15と同様に開口部25を設けているが、該開口部25を円形孔25bにより構成した点において相違している。
【0054】
実験の方法は、上記と全く同様であり、図15(A)に示すように、連結金物15aの座板18を試験台40の水平面に設置し締結ボルト20により固定すると共に、支持板19を木製の第2構造部材17の切込み溝21に嵌入させ、ドリフトピン22で固定した結合状態で、第2構造部材17を試験機の油圧シリンダにより引上げ、100KNの引張力Pを与えることにより、座板18の変形を観察した。
【0055】
図16(B)は、100KNの引張力Pにより変形させられた連結金物15aを示しており、図16(A)(B)(C)は、それぞれ、変形後の連結金物15aのセンターラインA、サイドラインB、クロスラインCに沿う断面形状を示している。
【0056】
図16(A)に示すように、センターラインAに沿う帯状領域30は、試験台40の表面から尾根状に膨隆するように変形していた。座板18の下面と試験台40の表面との間の隙間を測定すると、クロスラインCが交差する中央部31の中心部Ah1の隙間は1.20mmとされ、延長部32の端部Ah2の隙間は9.56mmとされていた。
【0057】
図16(B)に示すように、サイドラインBに沿う側部領域33の形状の変形に関して、クロスラインCが交差する中心部Bh1の隙間は0.81mm、座板の端縁Bh2の隙間は5.84mmとされていた。
【0058】
図16(C)に示すように、クロスラインCに沿う形状の変形に関して、座板18は中高となるように膨隆変形されていた。
【0059】
(実験結果の評価)
上記の比較例に係る連結金物15x、本発明の1実施形態に係る連結金物15、本発明の別の実施形態に係る連結金物15aについて実施した実験の結果によれば、以下のように評価することができる。
【0060】
センターラインAに沿う形状の変形について、全ての連結金物において、帯状領域30が尾根状に膨隆するように変形され、中央部31よりも延長部32、32の方が大きく変形することが確認された。支持板19は、引張力Pを受ける頭部28から窓口部26を介して分岐した脚部27、27により延長部32、32を引き上げように構成されているため、引張力を直接受けない中央部31に対して延長部32、32が弓状に変形するからである。従って、支持板19は、頭部28と脚部27、27を備えた概ね門形に形成することが好ましく、これにより、座板18を尾根状に膨出させ、延長部32を弓状に変形させることが可能になると考えられる。
【0061】
ところが、尾根状の膨出変形と、延長部32の弓状変形に関して、センターラインAに沿う上記部位Ah1及びAh2の変形量(隙間の大きさ)は、本発明の1実施形態(それぞれ1.27mmと9.59mm)>本発明の別の実施形態(それぞれ1.20mmと9.56mm)>比較例(それぞれ1.17mmと9.00mm)の順に差が見られる。
【0062】
更に、サイドラインBに沿う上記部位Bh1及びBh2の変形量(隙間の大きさ)についても、本発明の1実施形態(それぞれ0.82mmと5.86mm)>本発明の別の実施形態(それぞれ0.81mmと5.84mm)>比較例(それぞれ0.79mmと5.66mm)の順に差が見られる。
【0063】
このような実験結果によれば、座板18の変形に基づく靱性に関して、開口部25を設けていない比較例に係る連結金物15xに比較して、円形孔25bから成る開口部25を設けた別の実施形態に係る連結金物15aの方が優れており、更に、円形孔25bに比較して、開口部25を長孔25aとした1実施形態に係る連結金物15の方が優れていることが確認された。
【0064】
従って、変形量の大きくした靱性を具備させるためには、中央部31の両側に位置して座板18に開口部25を設けるのが良く、開口部25は、サイドラインBとクロスラインCの交点に位置させ、サイドラインBの延長方向に長く形成された長孔25aにより構成するのが良いと考えられる。
【符号の説明】
【0065】
1 狭小壁
2 支柱
2a 柱頭部
2b 柱脚部
3 面板
4 下梁
5 上梁
6 柱頭金物
7 パイプ部
7a 連結孔
8 垂下壁
8a 連結孔
9 受孔
10 ピン孔
11 切込み溝
12 ピン孔
13、14 ドリフトピン
15 連結金物(1実施形態)
15a 連結金物(別の実施形態)
15x 連結金物(比較例)
16 第1構造部材
17 第2構造部材
18 座板
19 支持板
20 締結ボルト
20a 頭部
21 切込み溝
22 ドリフトピン
23 ボルト用連結孔
24 スリット
25 開口部
25a 長孔
26 窓口部
27 脚部
28 頭部
29 ピン用連結孔
30 帯状領域
31 中央部
32 延長部
33 側部領域
34 挿通孔
35 ナット
36 挟持板
36a 孔
37 受板
38 ビス
38a、38B ビス挿入孔
39 挿通孔
40 試験台
図1
図2
図3
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図15
図16