(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-05-12
(45)【発行日】2023-05-22
(54)【発明の名称】ゴムの分離方法
(51)【国際特許分類】
C08J 11/10 20060101AFI20230515BHJP
B07B 1/00 20060101ALI20230515BHJP
C12N 1/14 20060101ALN20230515BHJP
【FI】
C08J11/10
B07B1/00 Z ZAB
C12N1/14 E
(21)【出願番号】P 2021001125
(22)【出願日】2021-01-06
【審査請求日】2021-04-26
(73)【特許権者】
【識別番号】521010333
【氏名又は名称】公立大学法人公立鳥取環境大学
(74)【代理人】
【識別番号】110003085
【氏名又は名称】弁理士法人森特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】佐藤 伸
(72)【発明者】
【氏名】濱田 賢作
【審査官】岡田 三恵
(56)【参考文献】
【文献】特開2007-291333(JP,A)
【文献】特開2019-187306(JP,A)
【文献】特開2004-099738(JP,A)
【文献】中国特許出願公開第105949483(CN,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08J 11/10
B07B 1/00
C12N 1/14
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
木質の固体培地と木質の固体培地を分解する能力を有する木材腐朽菌とゴムとの混合物からゴムを分離する方法であり、
前記混合物は、木材腐朽菌によりゴムを分解させるために培養された固体状の培養物であり、ゴム及び木質の固体培地にヌメリのある木材腐朽菌の菌糸が絡みついている状態であり、
前記方法は、前記混合物からゴムを分離することなく、そのまま前記混合物と第1分離液とを接触させて
撹拌し、液分を除去する工程と、
液分を除去した前記混合物と第2分離液とを接触させて
撹拌し、液分及び木質の固体培地とゴムとに分離する工程とを含
み、
前記第1分離液及び前記第2分離液は、同一又は異なっており、界面活性剤を含有する液、メタノールを含有する液、又はエタノールを含有する液である
ゴムの分離方法。
【請求項2】
液分及び木質の固体培地とゴムとに分離する工程は、ゴムと木質の固体培地との粒径の差を利用して、ゴムを分離する工程である請求項1に記載のゴムの分離方法。
【請求項3】
前記混合物と第1分離液とを接触させて液分を除去する工程の後には、前記混合物を洗浄する工程をさらに実施する請求項1又は2に記載のゴムの分離方法。
【請求項4】
液分を除去した前記混合物と第2分離液とを接触させて、液分及び木質の固体培地とゴムとに分離する工程の後には、分離されたゴムを洗浄する工程をさらに実施する請求項1ないし3のいずれかに記載のゴムの分離方法。
【請求項5】
液分を除去した前記混合物と第2分離液とを接触させて、液分及び木質の固体培地とゴムとに分離する工程の後には、ゴムに混入したゴム以外の物を除去する工程をさらに実施する請求項1ないし4のいずれかに記載のゴムの分離方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ゴムの分離方法に関する。
【背景技術】
【0002】
以下の特許文献1には、木材腐朽菌に属し、加硫ゴムのスルフィド結合を切断することができる微生物(Ceriporiopsis subvermispora FP90031, Dichomitus squalens CBS 432.34)と、微生物の培養に適した培地である海砂とブナの木片とを混合した培地とを共にインキュベーションして、加硫ゴム組成物を分解する方法が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献1に記載のように、特定の木材腐朽菌には、木を朽ちさせる能力に加えて、加硫ゴムのスルフィド結合を分解する能力があることが知られている。本発明者が検証したところ、特許文献1に記載された微生物以外の木材腐朽菌にも、ゴムを分解する能力があることがわかっている。
【0005】
例えば、木材腐朽菌を利用して廃材に含まれる加硫ゴムのスルフィド結合を切断して、部分的に分解されたゴムを得て、当該ゴムを再利用して、他の資材に加工することも考えられる。しかし、木材腐朽菌とゴムとを混合して培養すると、木材腐朽菌の菌糸がゴムに絡みつくように付着するため、ゴムと木材腐朽菌及び木材腐朽菌用の固体培地とを分離するのが容易でないという問題があった。ゴムを固体培地等から分離する工程が律速になると、ラージスケールでゴムを再利用する場合に支障をきたしてしまう。
【0006】
特許文献1には、70%エタノールで加硫ゴムに付着した培地や菌糸を洗い落とすと記載されているが、加硫ゴムに対してヌメリのある培地と菌糸とが絡みついているため、加硫ゴムだけを効率的に分離することは困難である。
【0007】
本発明は、木質の固体培地と木材腐朽菌とゴムとの混合物からゴムを効率的に分離することができる方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
木質の固体培地と木質の固体培地を分解する能力を有する木材腐朽菌とゴムとの混合物からゴムを分離する方法であり、当該方法は、前記混合物と第1分離液とを接触させて、液分を除去する工程と、液分を除去した前記混合物と第2分離液とを接触させて、液分及び木質の固体培地とゴムとに分離する工程とを含むゴムの分離方法により、上記の課題を解決する。
【0009】
上記の分離方法において、液分及び木質の固体培地とゴムとに分離する工程では、例えば、ゴムと木質の固体培地との粒径の差を利用して、ゴムを分離することができる。また、上記の分離方法において、前記混合物と第1分離液とを接触させて液分を除去する工程の後には、前記混合物を洗浄する工程をさらに実施することが好ましい。また、液分を除去した前記混合物と第2分離液とを接触させて、液分及び木質の固体培地とゴムとに分離する工程の後には、分離されたゴムを洗浄する工程をさらに実施することが好ましい。また、液分を除去した前記混合物と第2分離液とを接触させて、液分及び木質の固体培地とゴムとに分離する工程の後には、ゴムに混入したゴム以外の物を除去する工程をさらに実施してもよい。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、木質の固体培地と木材腐朽菌とゴムとの混合物からゴムを効率的に分離することができる方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【
図1】実施例1に係るゴムの分離方法における作業の様子を示す写真である。
【
図2】実施例1に係るゴムの分離方法における作業の様子を示す写真である。
【
図3】実施例1に係るゴムの分離方法における作業の様子を示す写真である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明のゴムの分離方法の実施形態について説明する。
【0013】
本発明は、木質の固体培地と木質の固体培地を分解する能力を有する木材腐朽菌とゴムとの混合物からゴムを分離する方法であり、当該方法は、前記混合物と第1分離液とを接触させて液分を除去する工程と、液分を除去した前記混合物と第2分離液とを接触させて、液分及び木質の固体培地とゴムとに分離する工程とを含む。
【0014】
上記の分離方法で使用する木材腐朽菌は、木質の固体培地を分解する能力を有するものであればよい。木材腐朽菌は、その種類によって、分解することができる木質の固体培地の種類が異なることがある。例えば、Trichaptum abietinumは、木質の固体培地として利用するブナを分解する能力が十分でないことがある。木質の固体培地の分解が十分に行われない場合は、木質の固体培地と木材腐朽菌とゴムとの混合物が固まった状態となり、第1分離液又は第2分離液を使ってもほとんど解れず、ゴム片を分離することが困難になることがある。ブナの木片に関しては、Trichaptum biformeの方が分解する能力が優れているので、Trichaptum biformeを使用する。このように、木質の固体培地の種類に応じて選択する木材腐朽菌を変更したり、木材腐朽菌の種類に応じて木質の固体培地を変更すればよいのであり、木材腐朽菌は、木質の固体培地を分解する能力を有するものであればよい。木質の素材を分解する能力を有する木材腐朽菌は、ゴムを分解する能力も備えており、ゴムを分解する能力を利用して、廃ゴム等の不要になったゴム素材を改質して再利用する用途に好適に利用することができる。
【0015】
木材腐朽菌としては、例えば、白色腐朽菌、褐色腐朽菌を含む担子菌を好適に使用することができる。担子菌は、木質の素材の腐朽力が強く、木質の素材に含まれるリグニンも分解することができる。白色腐朽菌としては、例えば、シハイタケ(Trichaptum abietinum)、ハカワラタケ(Trichaptum biforme)が挙げられる。褐色腐朽菌としては、例えば、シロカイメンタケ(Piptoporus soloniensis)が挙げられる。
【0016】
木材腐朽菌は、日本の山中にある木などに寄生、又は共生しており、採取することが可能である。また、鳥取大学農学部付属菌類きのこ遺伝資源研究センター遺伝資源評価保存研究部門遺伝資源分譲係(鳥取県鳥取市湖山町南4丁目101番)に申し込めば、分譲を受けることができる。例えば、Trichaptum biforme TUFC No.31357、Trichaptum biforme TUFC No.33404、Trichaptum biforme TUFC No.100162などの株が登録されている。
【0017】
上記の分離方法で使用するゴムの種類は、特に限定されず、例えば、天然ゴム、又は合成ゴムのいずれであってもよい。ゴムは、加硫されたものであってもよい。ゴムの形態も特に限定されないが、ゴムと木材腐朽菌との接触面積を増大する目的でゴムは粒状に破砕することができる。
【0018】
上記の分離方法で使用する木質の固体培地の種類は、特に限定されず、木材腐朽菌が分解することができるものであればよい。例えば、各種の木材、竹を利用することができる。木質の固体培地の形態も特に限定されないが、木質の固体培地との接触面積を増大する目的で木質の固体培地は、粒状又は粉状に粉砕することができる。後述するように、ゴムと木質の固体培地の差を利用してゴムを分離する際には、木質の固体培地とゴムとのサイズが異なるようにすることが好ましい。
【0019】
木質の固体培地には、木材腐朽菌の生育を促す目的で、塩や栄養素を添加してもよい。例えば、小麦ふすま、ペプトン、コーンスティープリカー、酵母エキス、肉エキス、麦芽エキス、ポテトエキス、米ぬか、及び無機塩からなる群より選ばれる1種以上の成分を添加してもよい。また、木質の固体培地には、含水率を調節する目的で、水を添加してもよい。
【0020】
上記の分離方法で使用する第1分離液としては、ゴム及び木質の固体培地に絡んだ菌糸を解す作用があるものを使用すればよい。例えば、界面活性剤、又は有機溶媒を使用することができる。界面活性剤は、イオン性のもの、非イオン性のもの、アルカリ性のもの、中性のもの、酸性のものなど種々の界面活性剤を使用することができる。界面活性剤としては、安価で入手しやすいものを使用すればよい。例えば、Tween20(ポリオキシエチレン(20)ソルビタンモノラウレート)、SDS(ラウリル硫酸ナトリウム)などを好適に使用することができる。有機溶媒としては、エタノール若しくはメタノールなどのアルコール、アセトン、ヘキサンなど種々の有機溶媒を使用することができる。有機溶媒としては、比較的に、臭気が少なく、健康被害の少ないアルコール、特にエタノールを好適に使用することができる。界面活性剤、又は有機溶媒は、水などの任意の溶媒に希釈して使用してもよい。
【0021】
第2分離液は、第1分離液と同様のものを使用することができる。
【0022】
上記の分離方法における木質の固体培地と木材腐朽菌とゴムと第1分離液とを接触させる工程では、第1分離液にゴムと木質の固体培地と木材腐朽菌との混合物を懸濁して、撹拌することにより接触させることが好ましい。撹拌によって、ゴム及び木質の固体培地に絡んだ菌糸がより分離されやすくなる。このとき、第1分離液の温度が、例えば、30~80℃となるように加熱しながら撹拌することがより好ましい。これにより、ゴム及び木質の固体培地に絡んだ菌糸がより分離されやすくなる。撹拌により接触させる時間は、特に限定されないが、例えば、5分以上から24時間以下にすることができる。
【0023】
第1分離液の液分を除去した後で、木質の固体培地と木材腐朽菌と第2分離液とを接触させる工程も、上記と同様にすればよい。
【0024】
上記の撹拌は、第1分離液又は第2分離液と、木材腐朽菌、ゴム、及び木質の固体培地の混合物とを接触させた際に、菌糸がゴムから外れる程度に混合液を混ぜるようにすればよい。撹拌は、例えば、回転刃により木質の固体培地等に絡んだ菌糸を切断しながら撹拌するものであってもよいし、撹拌子により撹拌するものであってもよいし、第1分離液又は第2分離液と、木材腐朽菌、ゴム、及び木質の固体培地の混合物とを入れた容器を震盪することにより行ってもよいし、第1分離液又は第2分離液と、木材腐朽菌、ゴム、及び木質の固体培地の混合物とに対して超音波を照射することにより行ってもよいし、ホモゲナイザー等を利用した流体混合により行ってもよい。撹拌操作のうち1種のみを実施してもよいし、複数種の撹拌操作を組み合わせて実施してもよい。
【0025】
上記の分離方法における、木質の固体培地と木質の固体培地を分解する能力を有する木材腐朽菌とゴムとの混合物と第1分離液とを接触させて液分を除去する工程は、前記混合物から液分を除去することができるものであればよい。液分には、第1分離液に溶け出した菌糸の一部が含まれる。除去に際しては、例えば、所定の目開を有する網で前記混合物に含まれる液分を漉してもよいし、濾過により前記混合物に含まれる液分を漉してもよいし、所定の容器に前記混合物と第1分離液との懸濁液を入れて静置し、上澄み液を除去するようにしてもよいし、比重の差を利用して前記混合物と第1分離液とを分離してもよい。
【0026】
上記の分離方法における、液分を除去した前記混合物と第2分離液とを接触させて、液分及び木質の固体培地とゴムとに分離する工程は、液分及び木質の固体培地とゴムとに分離することができるものであればよい。例えば、ゴムと木質の固体培地との粒径の差を利用して、ゴムを分離すればよい。例えば、ゴムと木質の固体培地とに粒径の差があれば、所定の目開を有する網でゴムと木質の固体培地と木材腐朽菌と第2分離液とを含む混合物を漉して、ゴムを分離することができる。このような方法によれば、比較的に簡単に分離工程を実施することができる。また、例えば、ゴムの比重と木質の固体培地の比重との差があれば、比重の差を利用して、ゴムを分離することができる。
【0027】
上記の分離方法における前記混合物と第1分離液を接触させて液分を除去する工程の後には、ゴムを含む混合物を洗浄する工程を実施してもよい。洗浄工程は、1回でもよいし複数回実施してもよい。また、上記の分離方法における液分を除去した前記混合物と第2分離液とを接触させて、液分及び木質の固体培地とゴムとに分離する工程の後には、分離されたゴムを洗浄する工程を実施してもよい。洗浄工程では、1~100℃の洗浄液で前記混合物を洗浄して、木材腐朽菌のヌメリを除去する。この工程を実施することによって、分離方法を実施した後のゴムの回収率を向上させることができる。洗浄液の温度は、木材腐朽菌ヌメリをより効率的に除去するために、40℃以上であることがより好ましい。第2分離液とを接触させて液分を除去する工程の後に実施する洗浄工程では、主に第2洗浄液を洗い流す目的で、洗浄液の温度を1~30℃にしてもよい。
【0028】
洗浄液の組成は、特に限定されず、水、界面活性剤、有機溶媒、又はこれらの2種以上の混合液などが挙げられる。これらの中でも水が最も安価であり好ましい。洗浄方法は、洗浄液と洗浄対象物とが接触すればよい。例えば、ゴムと木質の固体培養物と木材腐朽菌との混合物又は分離されたゴムに洗浄液を流しかけてもよいし、ゴムと木質の固体培養物と木材腐朽菌との混合物又は分離されたゴムを洗浄液に懸濁してもよい。
【0029】
上記の分離方法における第2分離液を接触させて、液分及び木質の固体培地とゴムとに分離する工程の後には、ゴムに混入したゴム以外の物を除去する工程を実施してもよい。例えば、ゴムにゴム以外の物として木質の固体培地が混入している場合は、容器に入れた洗浄液又は水などに、ゴム及び当該ゴムに混入した木質の固体培地を懸濁して、この懸濁液を網で漉すなどして、ゴムと木質の固体培地の粒径の差を利用してゴムに混入した木質の固体培地を除去することができる。この方法では、ゴムに付着した第2分離液の洗浄も併せて実施される。
【0030】
上記の方法によって、分離されたゴムに対して、乾燥工程を実施してもよい。乾燥は、気体をゴムに対して吹き付けることにより行ってもよいし、ゴムを均して自然乾燥させてもよいし、ゴムを均して天日乾燥を行ってもよい。気体を吹き付けることにより乾燥する場合は、ゴムの物性の変化を抑える目的で、70℃以下の空気を供給することにより実施してもよい。空気の温度の下限値は、特に限定されないが、例えば、10℃以上である。
【0031】
分離液とゴムを含む混合物を接触させる工程は、2回に限定されず、複数回行ってもよい。同様に洗浄する工程も、複数回行ってもよい。
【実施例】
【0032】
以下、本発明の実施例を挙げて、具体的に説明する。以下に示す実施例は、限られた例に過ぎず、本発明の技術的範囲は次に挙げる実施例に限定されるものではない。
【0033】
[実施例1]
ブナの木片20gと、小麦フスマ1gとを混合して固体培地を作製した。この固体培地に複数の粒子状のゴム片6gを加えて、固体培地に木材腐朽菌の胞子を接種して、25℃で3カ月間培養した。なお、木材腐朽菌は、鳥取大学農学部付属菌類きのこ遺伝資源研究センターのTrichaptum biforme TUFC No.33404株を使用した。ゴム片は、自動車のウェザーストリップと使用されていた廃ゴム材を、破砕したものである。このゴム片は、EPDM(エチレン・プロピレン・ジエンゴム)を主成分とするものである。木片は、ゴム片の粒子径に比して、粒子径が小さくなるように粉砕されている。
【0034】
上記のゴム片と、木片と、木材腐朽菌とを含む固体培養物は、
図1(A)に示したように、ゴム及び木片にヌメリのある木材腐朽菌の菌糸が絡みついている状態であった。前記固体培養物27gに対して第1分離液として100mlの市販の中性洗剤を0.25容量%になるようにメスシリンダーで測り取り希釈したものを加えて、ゴム片に絡みついた菌糸を解きほぐすために市販のフードミキサーで1秒間、計3回撹拌及び破砕を行った。
【0035】
図1(B)、
図1(C)、及び
図1(D)に示したように、フードミキサーで撹拌した混合物を300mLのビーカーに移して、ビーカーにスターラーバーを入れて50℃のウォーターバスで温めながら30分間撹拌した。その後、撹拌したものを目開1mmのメッシュで漉して、液分と固形分とに分離した。
【0036】
メッシュの上に残った固形分に対して、洗浄液として50℃の水150mLを流しかける作業を計3回行って、木材腐朽菌のヌメリと中性洗剤を洗い流した。この一連の分離工程と洗浄工程では、
図2(A)に示したように、メッシュの上にゴム片と木片の大部分が残り、メッシュの下には主に液分のみが落ちた。
【0037】
図2(B)、
図2(C)、
図3(A)、及び
図3(B)に示したように、メッシュの上に残った固形分(ゴムと木質の固体培地と木材腐朽菌の混合物)を再びビーカーに入れて、第2分離液として0.1容量%のTween20(非イオン性界面活性剤)を100mL加えて、50℃のウォーターバスで温めながら30分間撹拌した。その後、撹拌したものを目開1mmのメッシュで漉した。メッシュの上にはゴム片とごくわずかな木片が残った。メッシュの上に残ったゴムと当該ゴムに混入した木片を、金属製のバットに移して、バットに水道水を流し込んで洗浄を行った。
【0038】
水道水で洗浄したゴムと水道水を含む懸濁液を、
図3(C)に示すように、目開1mmのメッシュで漉した。メッシュの上にはゴム片が残った。メッシュの下には木片と液分とが流れ落ちた。メッシュの上に残ったゴム片を、
図3(D)に示したように、バットに移して均して、60℃で乾燥させた。
【0039】
次式により、ゴム片の回収率を求めたところ、実施例1の方法による回収率は、93.6%であった。
(式)
回収率(%)=菌処理後回収したゴム粒の乾燥重量÷最初に培地に添加した
ゴム粒の乾燥重量×100
【0040】
[実施例2]
第1洗浄液を、水で0.25容量%に希釈した市販のアルカリ性の洗剤に変更した点以外は、実施例1の方法と同様にして、ゴム片の分離を行った。実施例2の方法では、ゴム片の回収率は、95.6%であった。
【0041】
[実施例3]
第1洗浄液を、水で70容量%に希釈したエタノール水溶液に変更した点以外は、実施例1の方法と同様にして、ゴム片の分離を行った。実施例3の方法では、ゴム片の回収率は、97.3%であった。
【0042】
[実施例4]
第2洗浄液を、0.1質量%のSDS(イオン性の界面活性剤)水溶液に変更した点以外は、実施例1と同様にして、ゴム片の分離を行った。実施例4の方法では、ゴム片の回収率は、98.5%であった。
【0043】
[実施例5]
第2洗浄液を実施例1で使用した0.25容量%に希釈した市販の中性洗剤に変更した点以外は、実施例1と同様にして、ゴム片の分離を行った。実施例5の方法では、ゴム片の回収率は、97.5%であった。
【0044】
実施例1から実施例5の方法では、第1分離液によって、ゴムや木質の固体培地に絡んだ木材腐朽菌の菌糸が、第1分離液によりゴムや木質の固体培地から解きほぐされて、撹拌により物理的に断片化し、液分として部分的に除去されるものと推測される。そして、第2分離液によって、ゴムや木質の固体培地内に入りくんだ残りの木材腐朽菌の菌糸が、第2分離液によりゴムや木質の固体培地からはがされ、撹拌により断片化し、液分として除去されるものと推測される。実施例1から実施例5の方法では、2回に分けて分離を行う。第1分離液に溶け出した木材腐朽菌の菌糸は、第2分離液にはほとんど持ち込まれない。2回に分けて分離を行うことによって、ゴムや木質の固体培地に絡んだ木材腐朽菌の菌糸が、効率的に、ゴムや木質の固体培地から外れるものと推測される。
【0045】
[比較例1]
実施例1と同様の方法で得たゴム片と木片と木材腐朽菌とを含む固体培養物27gに対して実施例1と同様の中性洗剤を0.25容量%になるように希釈したものを加えて、市販のフードミキサーで1秒間、計3回撹拌及び破砕を行った。フードミキサーで撹拌した混合物を300mLのビーカーに移して、ビーカーにスターラーバーを入れて50℃のウォーターバスで温めながら30分間撹拌した。その後、撹拌したものを目開1mmのメッシュで漉して、液分と固形分とに分離した。
【0046】
比較例1の方法では、第2分離液を用いた分離は行っていない。1回の分離では、メッシュの上にゴム片に木片と木材腐朽菌とが絡みついた状態で残留し、メッシュの下には流れ落ちなかった。このことから、第2分離液を用いた分離が必要であることが分かった。
【0047】
以上のように、本発明の方法によれば、菌糸が絡んだ、ゴム片と木質の固体培地と木材腐朽菌との混合物から、効率的にゴムを分離することができる。