(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-05-12
(45)【発行日】2023-05-22
(54)【発明の名称】歯科治療計画の手技前検証用の模型、及び、歯科治療計画の手技前検証器具
(51)【国際特許分類】
A61C 8/00 20060101AFI20230515BHJP
A61C 13/34 20060101ALI20230515BHJP
【FI】
A61C8/00 Z
A61C13/34 Z
(21)【出願番号】P 2022549051
(86)(22)【出願日】2022-03-30
(86)【国際出願番号】 JP2022015838
(87)【国際公開番号】W WO2022230572
(87)【国際公開日】2022-11-03
【審査請求日】2022-08-12
(73)【特許権者】
【識別番号】521190831
【氏名又は名称】株式会社ルッキン
(74)【代理人】
【識別番号】110003708
【氏名又は名称】弁理士法人鈴榮特許綜合事務所
(74)【代理人】
【識別番号】100108855
【氏名又は名称】蔵田 昌俊
(74)【代理人】
【識別番号】100179062
【氏名又は名称】井上 正
(74)【代理人】
【識別番号】100153051
【氏名又は名称】河野 直樹
(74)【代理人】
【識別番号】100199565
【氏名又は名称】飯野 茂
(74)【代理人】
【識別番号】100162570
【氏名又は名称】金子 早苗
(72)【発明者】
【氏名】吉橋 典章
【審査官】沼田 規好
(56)【参考文献】
【文献】米国特許出願公開第2012/0046914(US,A1)
【文献】特開2018-122113(JP,A)
【文献】国際公開第2019/243233(WO,A1)
【文献】韓国公開特許第10-2020-0084982(KR,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61C 8/00
A61C 13/34
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
患者の顎部に基づいて形成され、前記患者の顎部の治療対象部位の少なくとも一部と同じ大きさ及び同じ形状で、前記治療対象部位の少なくとも一部を模す模型本体と、
前記模型本体に設けられ、前記治療対象部位に対して埋設体を埋設するための凹孔に相当する孔を規定する孔規定部と、
前記治療対象部位の歯槽骨に隣接又は埋設されるターゲットを模し、前記治療対象部位と前記ターゲットとの位置関係と同じ位置関係に設けられ治療時に用いる手技器具を前記孔規定部に通したときに前記手技器具の先端を非接触とする、又は、前記治療対象部位と前記ターゲットとの位置関係よりも近づけられ前記手技器具を前記孔規定部に通したときに前記手技器具の先端を接触させる、ターゲット模型部と
を有し、
前記孔規定部と前記ターゲット模型部との間には、前記孔規定部と前記ターゲット模型部との間で、前記孔規定部から前記ターゲット模型部に向かって前記手技器具の先端が到達し得る範囲を視認可能であるとともに、前記孔規定部から歯並び方向及び前記歯並び方向に交差する方向に前記手技器具の先端が到達し得る範囲を視認可能な空間が形成される、歯科治療計画の手技前検証用の模型。
【請求項2】
前記ターゲット模型部は、主支柱により、前記模型本体に支持され、
前記主支柱は、前記空間を区画する枠の一部として形成される、請求項1に記載の模型。
【請求項3】
前記模型本体には、前記歯槽骨の表面を模す舌側又は口蓋側の壁が設けられる、請求項1又は請求項2に記載の模型。
【請求項4】
基部であって、前記模型本体との間に前記ターゲット模型部を配置する、基部と、
前記模型本体と前記基部との間及び前記模型本体と前記ターゲット模型部との間を接続する支柱と、前記模型本体と前記基部との間及び前記基部と前記ターゲット模型部との間を接続する支柱と、前記模型本体と前記ターゲット模型部との間及び前記基部と前記ターゲット模型部との間とを接続する支柱とのうちの少なくとも1つと
を有する、請求項1乃至請求項3のいずれか1項に記載の模型。
【請求項5】
請求項1乃至請求項4のいずれか1項に記載の模型と、
前記模型に嵌合又は係合され、前記手技器具で前記孔規定部を所望の位置に形成するために前記手技器具を案内する補助器具と
を有する、歯科治療計画の手技前検証器具。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、歯科治療計画の手技前検証用の模型、及び、歯科治療計画の手技前検証器具に関する。
【背景技術】
【0002】
例えばインプラント治療において、通常、術者である歯科医師は、歯科用CTスキャンを用いて、患者の治療位置を含む、上顎及び/又は下顎の3次元画像を得る。歯科医師は、3次元画像に基づいて、治療位置に加えて、患者の上顎の上顎洞の位置、後上歯槽動脈、及び、大口蓋動脈の位置、又は、患者の下顎の下歯槽動脈及び下歯槽神経の位置を手技前に把握する。
そして、歯科医師は、例えばインプラント治療において、治療対象が上顎であれば、ドリルなどの穴形成器具の先端を、所定の非到達(非接触)ターゲットとして患者の上顎洞粘膜、後上歯槽動脈、及び、大口蓋動脈などに到達させないように手技を行う。また、歯科医師は、治療対象が下顎であれば、ドリルなどの穴形成器具の先端を、所定の非到達ターゲットとして患者の下歯槽動脈及び下歯槽神経に到達させないように手技を行う。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】日本国特表2017-508595号公報
【文献】米国特許出願公開第2012/0046914号明細書
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
例えばインプラント治療における危険性は、動脈や神経等の非到達ターゲットの位置を手技のときに目視できないことである。
この発明は、例えばインプラント体の埋設治療や自家歯牙等の埋設体の埋設治療を行うとき、治療計画を作成した後、実際の穴形成器具などの手技器具を用いた歯科治療の前に、その手技器具を用いたときの手技器具の先端位置と、患者の上顎の上顎洞粘膜、後上歯槽動脈、及び、大口蓋動脈の位置、又は、下顎の下歯槽動脈及び下歯槽神経の位置などの非到達ターゲット位置との位置関係を術者である歯科医師が事前検証可能な、歯科治療計画の手技前検証用の模型、及び、歯科治療計画の手技前検証器具を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明の一態様に係る歯科治療計画の手技前検証用の模型は、模型本体と、孔規定部と、ターゲット模型部とを有する。模型本体は、患者の顎部に基づいて形成され、患者の顎部の治療対象部位の少なくとも一部と同じ大きさ及び同じ形状で、治療対象部位の少なくとも一部を模す。孔規定部は、模型本体に設けられ、治療対象部位に対して埋設体を埋設するための凹孔に相当する孔を規定する。ターゲット模型部は、治療対象部位の歯槽骨に隣接又は埋設されるターゲットを模し、治療対象部位とターゲットとの位置関係と同じ位置関係に設けられ治療時に用いる手技器具を孔規定部に通したときに手技器具の先端を非接触とする、又は、治療対象部位とターゲットとの位置関係よりも近づけられ手技器具を孔規定部に通したときに手技器具の先端を接触させる。孔規定部とターゲット模型部との間には、孔規定部とターゲット模型部との間で、孔規定部からターゲット模型部に向かって手技器具の先端が到達し得る範囲を視認可能であるとともに、孔規定部から歯並び方向及び歯並び方向に交差する方向に手技器具の先端が到達し得る範囲を視認可能な空間が形成される。
【図面の簡単な説明】
【0006】
【
図1】
図1は、第1実施形態及び第2実施形態に係る歯科治療計画事前検証システムのブロック図である。
【
図2】
図2は、インプラント体の一例を示す概略図である。
【
図3】
図3は、穴形成器具の一例を示す概略図である。
【
図4A】
図4Aは、第1実施形態に係る歯科治療計画事前検証用の模型を示す概略図である。
【
図4C】
図4Cは、第1実施形態の変形例に係る歯科治療計画事前検証用の模型を示す概略図である。
【
図5】
図5は、第1実施形態に係るサージカルガイドを示す概略図である。
【
図6】
図6は、インプラント治療の治療計画を示すフローチャートである。
【
図7】
図7は、
図6に続くインプラント治療の治療計画を示すフローチャートである。
【
図8】
図8は、下歯槽骨を示す第1の3次元画像に対し非到達ターゲットの位置をマーキングした第3の3次元画像を重ねた状態を示す図である。
【
図9】
図9は、
図8に、さらに、インプラント体の第4の3次元画像を重ねた状態を示す図である。
【
図10】
図10は、
図9に、さらに歯及び歯茎の第2の3次元画像データ及び穴形成器具の第5の3次元画像を重ねた状態を示す図である。
【
図11】
図11は、サージカルガイドの第6の3次元画像を示す図である。
【
図12】
図12は、下顎にサージカルガイドを取り付けた状態での、歯茎、歯、下歯槽骨、インプラント体、非到達ターゲットを示す概略図である。
【
図13】
図13は、下顎にサージカルガイドを取り付けた状態での、歯茎、歯、下歯槽骨、穴形成器具、非到達ターゲットを示す概略図である。
【
図14】
図14は、
図9に、さらにサージカルガイドの第6の3次元画像を重ねた状態を示す図である。
【
図15】
図15は、
図14から第1の3次元画像、及び、第2の3次元画像を除去した状態を示す図である。
【
図16】
図16は、第2の3次元画像、第3の3次元画像、第4の3次元画像、及び、第5の3次元画像の一部の表面画像を示す図である。
【
図17】
図17は、
図16に示す表面画像を重ね合わせた後、第4の3次元画像、及び、第5の3次元画像を引いた表面画像を示す図である。
【
図18A】
図18Aは、模型にサージカルガイドを組み合わせた後、穴形成器具をサージカルガイドのガイド孔を挿入した状態を示す概略図である。
【
図18B】
図18Bは、模型の孔部に穴形成器具を挿入した状態を示す概略図である。
【
図19】
図19は、第1実施形態の第2変形例に係る、下顎の第1の3次元画像に第2の3次元画像及び第3の3次元画像を重ね合わせた状態を示す概略図である。
【
図20】
図20は、第1変形例に係る、下顎にサージカルガイドを取り付けた状態での、歯茎、歯、下歯槽骨、ハンドルを含む穴形成器具、非到達ターゲットを示す概略図である。
【
図21】
図21は、第2変形例に係る、下歯槽骨を示す第1の3次元画像に対し非到達ターゲットの位置をマーキングした第3の3次元画像、自家歯牙の第4の3次元画像、及び、穴形成器具の第5の3次元画像を重ねた状態を示す図である。
【
図22】
図22は、第2実施形態に係り、上顎の上歯槽骨、上顎洞、後上歯槽動脈及び大口蓋動脈を示す第1の3次元画像に、インプラント体の第4の3次元画像及び穴形成器具の第5の3次元画像を重ねた状態を示す図である。
【
図23】
図23は、上顎の第1から第4の3次元画像を重ねた状態を示す図である。
【
図24】
図24は、
図23に示す図に第6の3次元画像データを重ねるとともに、第1の3次元画像を除去した状態を示す図である。
【
図25】
図25は、第1の3次元画像、第2の3次元画像、第3の3次元画像、第4の3次元画像、及び、第5の3次元画像の一部の表面画像データを示す図である。
【
図26】
図26は、
図25に示す表面画像データを重ね合わせた後、第4の3次元画像、及び、第5の3次元画像を引いた表面画像を示す図である。
【
図28】
図28は、上顎にインプラント体を埋設する手技を行うときの歯と上顎洞との位置関係を示す概略図である。
【
図29】
図29は、
図28に続く、上顎にインプラント体を埋設する手技を行うときの歯と上顎洞との位置関係を示す概略図である。
【
図30】
図30は、
図23中の第2の3次元画像に、上顎洞の上顎洞底粘膜を重ねた状態を示す図である。
【
図31】
図31は、第2実施形態の変形例に係る、上顎に対する模型の3次元画像に至る一連の処理の状態を示す概略図である。
【発明を実施するための形態】
【0007】
実施形態に係る、歯科治療計画の手技前検証システム(歯科治療計画作成後、手技前に歯科治療計画の検証を行うための模型作製システム)10は、例えばある患者の各種データの取得、インプラント治療の治療計画の作成から、患者への手技を行うまでの一連の作業の一部をなす。このシステム10は、例えば、ある患者の患部データの取得、ある患者への歯科治療計画の作成から実際の患者の模型(歯科治療計画の手技前検証用の模型)100を出力したものを用いて歯科治療計画の手技前検証を行う一連の作業を行うときに用いる。ある患者の患部データの取得、及び、模型100の出力は、このシステム10とは異なる別のシステムにより行ってもよい。本実施形態に係る模型100は、実物大模型である。
【0008】
(第1実施形態)
第1実施形態では、システム10を、多数から選択される埋設体としてのインプラント体30(
図2参照)を患者の下顎に埋設するインプラント治療を行う例に用いる場合について説明する。
【0009】
図1に示すように、歯科治療計画の手技前検証システム(以下、単にシステムという)10は、制御装置12と、第1のスキャナ14と、第2のスキャナ16と、表示部18と、操作部(指示入力部)20と、記憶装置22と、3Dプリンタ24と、ミリングマシン26とを備える。
【0010】
制御装置12は、第1のスキャナ14、第2のスキャナ16、表示部18、操作部20、記憶装置22、3Dプリンタ24、及び、ミリングマシン26を制御する。制御装置12としては、例えばコンピュータを用いる。制御装置12は、例えば、CPUやMPUなどのプロセッサ、RAM、ROM、及び、I/Oインターフェースを含む。制御装置12は、例えば1又は複数のCPUなどのプロセッサがROM等のメモリに格納された制御プログラムをRAMに展開して、表示部18、操作部20、記憶装置22、第1のスキャナ14、第2のスキャナ16、3Dプリンタ24、及び、ミリングマシン26に対する適宜の処理を実行する。又は、制御装置12は、例えば1又は複数のCPUなどのプロセッサがネットワークを介してプログラムを読み出し、表示部18、操作部20、記憶装置22、第1のスキャナ14、第2のスキャナ16、3Dプリンタ24、及び、ミリングマシン26に対する適宜の処理を実行する。制御装置12は、メモリに予め格納されたプログラムをプロセッサが読み込んで実行することにより、各部を制御し、画像処理などの処理を行う機能をソフトウェアにより実現する。
【0011】
第1のスキャナ14は、例えば歯科用CTスキャンである。第1のスキャナ14は、患者の例えば下顎の歯、骨及び骨内部の3次元画像(例えばDICOMデータ)を取得し、制御装置12に出力する。制御装置12は、患者の下顎の歯、骨及び骨内部の3次元画像を、記憶装置22に記憶させる。第2のスキャナ16は、例えば口腔内スキャナである。第2のスキャナ16は、患者の例えば下顎の歯及び歯茎の表面の3次元画像(例えばSTLデータ)を取得し、制御装置12に出力する。制御装置12は、患者の下顎の歯及び歯茎の表面の3次元画像を、記憶装置22に記憶させる。
【0012】
表示部18は、例えば液晶ディスプレイや、有機ELディスプレイなどの各種のディスプレイである。表示部18は、第1のスキャナ14及び第2のスキャナ16で取得し制御装置12に出力する患者に関する画像を表示するとともに、各種の情報を表示する。制御装置12は、記憶装置22に記憶させた患者の3次元画像を読み出して表示部18に表示させてもよい。
【0013】
操作部20は、制御装置12に対する指示を入力する。操作部20は、例えばキーボード及びマウス等のデバイスを含む。
【0014】
記憶装置22は、患者の各種データ(例えば、下顎の歯、骨及び骨内部の3次元画像(DICOMデータ)、及び、患者の下顎の歯及び歯茎の表面の3次元画像(例えばSTLデータ))を記憶する。記憶装置22は、例えば
図2に示すインプラント体30の各種の3次元画像(インプラント体データ)22a、
図3に示すドリルなどの穴形成器具40の各種の3次元画像(穴形成器具セットデータ)22bを記憶する。
【0015】
制御装置12がネットワークを介してインプラント体30の各種の3次元画像22a、穴形成器具40の各種の3次元画像22bを読み出す場合、記憶装置22にインプラント体30の各種の3次元画像22a、穴形成器具40の各種の3次元画像22bを記憶させることは不要となり得る。すなわち、制御装置12は、記憶装置22の代わりに、例えばサーバ上のデータベース(インプラント体データ22a及び穴形成器具セットデータ22b)を用いてもよい。制御装置12は、サーバから各種のデータを読み出し可能である。
【0016】
図3に示すように、実際の穴形成器具40は、例えば、穴をあけるボディ42と、シャンク44と、スリーブ46と、ストッパー48と、を有する。ボディ42及びシャンク44は一体成型など、一体化されている。シャンク44は、図示しないハンドピースに固定される。このため、ボディ42及びシャンク44は、所定の回転軸の軸回りに回転する。スリーブ46は、ボディ42の外側を覆い、後述するサージカルガイドなどの補助器具200のガイド孔(貫通孔)210に嵌合又は係合する。ストッパー48のボディ42側の端面48aは、例えばハンドピースとの距離が規定された状態で、補助器具200のガイド孔210を規定する規定面220に当接する。
【0017】
3Dプリンタ24は、患者の下顎の3次元画像及び歯科医師等の歯科治療計画者が作成する3次元画像に基づいて、
図4A及び
図4Bに示す、歯科治療事前検証用の模型100を造形する。3Dプリンタ24は、例えば歯科医師が自ら所有し、その歯科医師が3Dプリンタ24を動作させることが好適であるが、専門業者等が、歯科医師等から3Dプリンタ用のデータを受け取り、造形物を出力してもよい。
【0018】
なお、本実施形態に係る3Dプリンタ24は、出力時に、孔部(孔規定部)130が設けられた模型本体110、及び、ターゲット模型部120とともに自動的にサポート材(後述する基部(土台)140及び支柱150)を造形するように形成されることが好適である。歯科医師等は、3Dプリンタ24の出力前の後述する第5の3次元画像55に、サポート材を適宜に配置してもよい。
【0019】
模型100は、模型本体110と、ターゲット模型部120と、孔部(孔規定部)130とを有する。模型本体110は、患者の実際の下顎の治療対象部位及びその周囲と同じ大きさ、形状に造形される。模型本体110は、下顎全体ではなく、下顎の治療対象部位及びその周囲を含んでいればよい。模型本体110は、後述する補助器具(サージカルガイド)200を患者の実際の下顎の治療対象部位及びその周囲に固定する領域と同じ範囲、または、それよりも大きな表面模型として形成されていることが好適である。模型100は、患者の下歯槽骨に相当する部位の大半が存在しないことが好適である。模型本体110とターゲット模型部120との間は、患者の実際の下顎の治療対象部位とターゲット(非接触ターゲット又は接触ターゲット)との位置関係と同じ位置関係に形成される。同じ位置関係とは、治療対象部位の手技に関係する部位が、患者の実際の下顎の治療対象部位及びその周囲と同じ大きさ、形状に形成される意である。孔部130は、後述するインプラント体30及び穴形成器具40の各種のパラメータによって規定される。孔部130は、治療対象部位の孔部130に埋設するインプラント体30又は穴形成器具40の形状(例えば、長さ、外径)、角度、位置に関するパラメータの設定にしたがって形成される。
【0020】
模型本体110は、孔部130の縁部を形成する規定面135を有する。規定面135は、歯茎又は下歯槽骨の表面である。穴形成器具40のスリーブ46の端面46aが規定面135に当接すると、その位置から穴形成器具40のボディ42が歯茎及び下歯槽骨の奥側に向かうことを規制する。このため、模型本体110の規定面135により、穴形成器具40の先端到達位置は規定される。
【0021】
ターゲット模型部120は主支柱160により、模型本体110に支持されることが好適である。孔部130とターゲット模型部120との間には、孔部130とターゲット模型部120との間で、孔部130からターゲット模型部120に向かって穴形成器具40の先端が到達し得る範囲を視認可能であるとともに、孔部130から歯並び方向及び歯並び方向に交差する方向に穴形成器具40の先端が到達し得る範囲を歯科医師等が、模型100の外側から視認可能な空間(空間規定部)145が形成される。すなわち、模型本体110とターゲット模型部120との間の空間145は、穴形成器具40のボディ42の先端が例えばターゲット模型部120に接触するか、非接触か、歯科医師等が確認するために形成される。本実施形態では、主支柱160及びターゲット模型部120は略L字状の部材として形成される。主支柱160は、模型本体110、ターゲット模型部120等とともにその空間145を区画する枠の一部として形成される。
【0022】
模型100は、ターゲット模型部120を支持し、模型本体110とは反対側に設けられる基部(土台)140と、模型本体110と基部140とを接続する支柱(サポート)150とをさらに有する。
【0023】
そして、模型本体110とターゲット模型部120との間の歯槽骨の頬側及び/又は唇側に相当する位置は、壁がないウォールレスの窓部として、歯槽骨の頬側及び/又は唇側に相当する位置側からターゲット模型部120にアクセス可能に形成されることが好適である。
【0024】
ミリングマシン26は、患者の下顎の3次元画像及び歯科医師が作成する3次元画像に基づいて、
図5に示す補助器具(サージカルガイド)200を削り出す。ミリングマシン26は、例えば歯科医師が自ら所有し、その歯科医師がミリングマシン26を動作させることが好適であるが、専門業者等が、歯科医師等からミリングマシン26用のデータを受け取り、補助器具200を出力してもよい。
【0025】
実際に歯科治療時に使用される補助器具200は、医療認可され、歯科治療に耐え得る耐久性を有する樹脂材が用いられる。歯科治療時に使用される補助器具200は、3Dプリンタ24で作製される場合もあり得る。この場合の補助器具200は、医療認可された素材で形成される。なお、歯科治療時に使用せず、模型100とともに歯科医師の確認用に用いる補助器具200は、例えば模型100と同じ素材で形成されることが好適である。模型100は実際の治療に用いられるわけではないため、規定面135とターゲット模型部120との関係が維持されていれば、適宜の素材で適宜の精度に形成されていればよい。
【0026】
補助器具200は、患者の治療箇所のCT画像及び/又は歯及び歯茎の表面の3次元画像の表面形状に合わせて形成される。補助器具200は、患者の治療箇所の歯茎の近傍の歯、歯茎又は顎骨にスクリューで固定後に嵌合させて用いる。補助器具200は、下顎に対するガタツキを防止した状態で、下顎に固定される。補助器具200は、歯茎及び歯槽骨に設定した凹孔を形成し、その凹孔に設定したインプラント体30を入れるための凹孔を正確に穴形成器具40のボディ42で形成するために用いる。
【0027】
補助器具200は、歯科治療時に使用されるほか、歯科治療計画の手技前検証用の模型100とともに用いられる。
図18Aに示すように、歯科治療計画の手技前検証用の模型100及び補助器具200の組み合わせを、歯科治療計画の手技前検証器具260とする。
【0028】
図5に示す補助器具200は、本体205と、ガイド孔210とを有する。
【0029】
上述したように、補助器具200は、患者の治療箇所の歯茎の近傍の歯、歯茎及び顎骨にスクリューで固定後に嵌合させて用いるため、本体205は、歯、歯茎及び顎骨との基準位置を規定する位置規定部として用いられる。本体205は、患者の口腔の領域に、例えば1本以上の歯に沿って固定される例を図示するが、患者の下顎側が完全に無歯の状態であってもよい。例えば、本体205は、1本または2本の歯のみ、骨のみ、またはそれらの任意の組み合わせのような患者の口腔のより小さな部分に接続するように構成され得る。
【0030】
ガイド孔210は、本体205が患者の下顎の歯及び歯茎に適切に取り付けられたときに、穴形成器具40のボディ42により形成される凹孔の方向、形状(長さ、外径)、角度、位置等を規定する。補助器具200は、ガイド孔210の縁部を形成する規定面220を有する。規定面220は、歯茎又は下歯槽骨に対向する面とは反対側の面である。ストッパー48の端面48aが規定面220に当接すると、その位置から穴形成器具40のボディ42が歯茎及び下歯槽骨の奥側に向かうことを規制する。このため、補助器具200の規定面220により、穴形成器具40の先端到達位置は規定される。
【0031】
なお、補助器具200のガイド孔210は、穴形成器具40だけでなく、例えば、止血用などの電気メスなどの他の手技器具を挿入し得る可能性がある。このとき、規定面220は、電気メスの挿入方向、角度、位置等を規制する。このため、規定面220は、穴形成器具40の規制面として用いられるだけでなく、他の手技器具の規制面として用いられ得る。したがって、補助器具200は、手技器具の位置規定体として用いられる。ガイド孔210は、通常、円形孔として形成される。
【0032】
なお、本実施形態に係るシステム10では、歯科医師は、補助器具200を3次元画像(3次元形状を表現するデータ)として作成でき、3Dプリンタ24又はミリングマシン26を用いて、患者の下顎の形状及び大きさに適合する実物を造形可能である。
【0033】
本実施形態に係る制御装置12には、画像表示プログラム、画像処理プログラム、出力プログラム等が格納されている。
【0034】
画像表示プログラムは、第1のスキャナ14、第2のスキャナ16で取得するデータを表示部18に表示させる。画像処理プログラムは、画像表示プログラムで表示させた画像(画像データ)と、記憶装置22に格納された各種のデータとを同一の座標軸に基づいて重ね合わせる。画像表示プログラムは、画像処理プログラムを用いて同一の座標軸に基づいて重ね合わせたデータを表示部18に表示させる。また、画像表示プログラムは、歯科医師の意図に基づいて作成する3次元画像を表示部18に表示させる。出力プログラムは、画像処理プログラムを用いて歯科医師の意図に基づいて作成する3次元画像及び物体(例えば模型100及び補助器具200)の表面データ(3次元形状を表現するデータ(3次元画像データ)をいい、以下、表面データという)を出力する。出力プログラムは、3Dプリンタ24又はミリングマシン26に実物を造形させる表面データを出力可能である。
【0035】
歯科医師は、操作部20を用いて制御装置12に各種の指示を入力し、例えば
図6及び
図7に示すフローに沿ってインプラント治療の治療計画を作成する。
【0036】
制御装置(コンピュータ)12は、例えば歯科用CTスキャンなどの第1のスキャナ14を用いて、患者の下顎の歯、骨及び骨内部の3次元画像(例えばDICOMデータ)を取得し、取得した3次元画像を記憶装置22に記憶させる。これを第1の3次元画像(3次元画像データ)51とする。また、制御装置(コンピュータ)12は、例えば口腔内スキャナなどの第2のスキャナ16を用いて、歯及び歯茎の表面の3次元画像(例えばSTLデータ)を取得し、取得した3次元画像を記憶装置22に記憶させる。これを第2の3次元画像(3次元画像データ)52、すなわち第1の表面データとする。第2の3次元画像52(第1の表面データ)は、治療対象部位及びその周囲部位を含む。制御装置(コンピュータ)12は、歯科医師の指示に基づいて適宜のソフトウェア(アプリケーション)に、第1の3次元画像51、及び、第2の3次元画像52を取り込む(ステップS1)。ソフトウェアは、第1の3次元画像51、及び、第2の3次元画像52のデータ形式が異なっていても、第1の3次元画像51、及び、第2の3次元画像52の両方のデータを読み込み可能である。
【0037】
なお、本実施形態における「歯科医師の指示」とは、例えば、コンピュータ用マウスを単にクリックするなど、種々を含む。
【0038】
歯科医師は、例えば第1の3次元画像51を表示部18の表示画面で確認するとともに、その他の各種条件に基づいて、ある患者の治療部位におけるインプラント治療の可否を総合的に判断する(ステップS2)。以下、歯科医師が、インプラント治療が可能である(ステップS2-Yes)と判断したときの作業について説明する。なお、歯科医師が、インプラント治療が不可である(ステップS2-No)と判断したとき、治療計画の作成作業を終了する。
【0039】
なお、第2の3次元画像52をインプラント治療の可否判断に使用しない場合、第2のスキャナ16を用いた、歯及び歯茎の表面の3次元画像の取得を、ステップS2の工程の後に行ってもよい。
【0040】
制御装置12は、
図8に示すように、ソフトウェアによる表示部18の画面上で、下顎の骨(下歯槽骨)を示す第1の3次元画像51において、歯科医師の指示に基づいて、下歯槽動脈及び下歯槽神経の位置を特定する。下歯槽動脈及び下歯槽神経の位置は、インプラント治療時にインプラント体30を埋設する凹孔70の形成時に穴形成器具40のボディ42の先端を例えば到達させない非到達(非接触)ターゲットである。そして、制御装置12は、歯科医師の指示に基づいて、表示部18の画面上で、非到達ターゲットの位置をマーキングする(ステップS3、第1の処理)。このとき、制御装置12は、歯科医師の指示に基づいて、表示部18の画面上で、非到達ターゲットが3次元的に形成されるように非到達ターゲットの特徴点をマーキングする。そして、制御装置12は、歯科医師の指示に基づいて、第3の3次元画像(第4の表面データ)53として、非到達ターゲットの3次元画像120aを作成する。第3の3次元画像53は、主支柱160の3次元画像160aを含む。すなわち、第3の3次元画像53は、非到達ターゲットの3次元画像120aと主支柱160の3次元画像160aとを含む。このため、ターゲットを特定することは、第2の3次元画像52(第1の表面データによる像)に連結する主支柱160の3次元画像160aを特定することを含む。3次元画像160aは、模型100の主支柱160として形成されるとき、歯科医師が穴形成器具40の先端を孔部130を通してターゲット模型部120に近づけるときに、邪魔にならない位置にマーキングにより形成される。
主支柱160の3次元画像160aは、模型100の3次元画像100aを作成後、模型本体110の3次元画像110aと、ターゲット模型部120の3次元画像120aとの位置関係を維持するために連結する主支柱160のための3次元画像160aを設定してもよい。
なお、主支柱160の3次元画像160aが例えば3Dプリンタ24の機能により自動的に作成される場合、3次元画像160aの特定は不要となり得る。
【0041】
制御装置12は、歯科医師の指示に基づいて、第1の3次元画像51において、非到達ターゲットとしての下歯槽動脈及び下歯槽神経に近い下歯槽骨の舌側の面(壁)の位置を特定してもよい。そして、制御装置12は、歯科医師の指示に基づいて、表示部18の画面上で、第3の3次元画像53の非到達ターゲットとして、舌側の面の位置をマーキングしてもよい。
【0042】
制御装置12は、歯科医師の指示に基づいて、
図9に示すように、表示部18の画面上で、治療位置において、インプラント体30を模したインプラント体の形状(例えば長さ、外径)、角度、位置等を設定又はインストールする(ステップS4)。インストールとは、例えば歯科医師が3Dスキャナなどを用いて取得した3次元データをシステム10に取り込むことをいう。インプラント体の角度とは、例えば患者の治療位置に対する設置向きをいう。
【0043】
なお、インプラント体としては、そのインプラント体に1対1に対応し、実際に医療認可されたインプラント体30と同じ形状及び同じ寸法の情報を含む3次元画像データを用いる。このとき、歯科医師は、インプラント体30に取り付けるアバットメント(abutment)及び上部構造(歯冠部)の形状との関係を考慮する。歯科医師は、例えば記憶装置22に記憶されたインプラント体の3次元画像22aから、設定内容に合致する1つのインプラント体を選択する。歯科医師が選択するインプラント体の第4の3次元画像(第2の表面データ)54は、例えばインプラント体30のメーカーから提供される。歯科医師は、インプラント体30のメーカーから提供されない場合、インプラント体の第4の3次元画像54を自ら作成してもよい。制御装置12は、歯科医師が作成したインプラント体の第4の3次元画像54を、記憶装置22に記憶させる。
歯科医師は、自らインプラント体30を選択し、下顎の骨に対するインプラント体30の角度、位置等を患者に合わせて最適に設定できる。このとき、歯科医師は、インプラント体の選択をやり直し、患者の処置対象に対し、長さ、外径が異なるインプラント体の適合性を試すことも容易である。
【0044】
制御装置12は、歯科医師の指示に基づいて、
図10に示すように、患者の治療に用いる1つ又は複数メーカーのドリルセットから、選択したインプラント体を埋設するための凹孔70の深さ、径、角度、位置に応じて適切な穴形成器具を選択する(第2の処理)。なお、穴形成器具としては、その穴形成器具に1対1に対応し、実際に医療認可された穴形成器具40と同じ形状及び同じ寸法の情報を含む3次元画像を用いる。歯科医師は、通常は、選択したインプラント体30のメーカーが推奨する穴形成器具40を選択し得るが、選択したインプラント体30のメーカーとは異なる他メーカーの穴形成器具40を用いてもよい。制御装置12は、歯科医師の指示に基づいて、記憶装置22に記憶された穴形成器具40を模した穴形成器具の3次元画像22bから、設定内容に合致する1つの穴形成器具40を選択する。制御装置12で選択される穴形成器具40の第5の3次元画像(第3の表面データ)55は、例えば穴形成器具40のメーカーから提供される。歯科医師は、穴形成器具40のメーカーから第5の3次元画像55が提供されない場合、第5の3次元画像55を自ら作成してもよい。制御装置12は、歯科医師が作成した第5の3次元画像55を、記憶装置22に記憶させる。
【0045】
なお、一般に、実際の穴形成器具40による孔部130の径は、実際のインプラント体30の外径より僅かに小さく形成される。この関係は、表示部18の画面上での関係も同じである。穴形成器具とインプラント体の外径の差は、パラメータとして歯科医師が操作部20に入力することで、適宜に設定可能である。
【0046】
制御装置12は、歯科医師の指示に基づいて、ソフトウェアによる表示部18の画面上で、第1から第5の3次元画像51-55の座標軸を合わせ、第1の3次元画像(例えばDICOMデータ)51、第3の3次元画像53、及び、第4の3次元画像54及び/又は第5の3次元画像55に、第2の3次元画像(例えばSTLデータ)52を、座標軸を一致させた所定の座標系上で重ね合わせる(ステップS5)。このとき、歯科医師は、例えば歯の並びなどの大きさ及び形状の一致点を見つけ出し、第1の3次元画像51と、第2の3次元画像52とをマッチングさせる。このようなマッチングは、制御装置12が、ソフトウェアを用いて自動的に行ってもよい。第1の3次元画像51は、第3の3次元画像53と、第4の3次元画像54及び/又は第5の3次元画像55とを含む。このため、制御装置12は、
図10に示すように、表示部18において、下顎の歯及び歯茎の表面(第2の3次元画像52)と、歯槽骨の内部の動脈及び神経(第3の3次元画像53)との位置関係をソフトウェアを用いて歯科医師に明示し得る。このため、制御装置12は、下顎の歯及び歯茎の表面、歯槽骨、非到達ターゲット、インプラント体、穴形成器具の位置関係をソフトウェアを用いて歯科医師に明示し得る。
【0047】
制御装置12は、歯科医師の指示に基づいて、
図11に示すように、ソフトウェアによる表示部18の画面上で、患者の下顎の形状に合わせて、補助器具(サージカルテンプレート)の3次元画像を作成する(ステップS6)。すなわち、制御装置12は、第6の3次元画像56として、補助器具の像データを作成する。
【0048】
図5に示す補助器具200は、治療箇所の穴形成器具40のボディ42を案内するとともに、歯茎の表面の一部を覆う。制御装置12は、歯科医師の指示に基づいて治療計画を決定するとき、補助器具200の3Dプリンタ24用又はミリングマシン26用の3次元画像(例えばSTLデータ)を出力し、補助器具200を3Dプリンタ24又はミリングマシン26で造形する。この補助器具200は、3Dプリンタ24で作成される模型100(
図4A及び
図4B参照)に嵌合又は係合可能である。なお、補助器具200に用いる樹脂材は、この補助器具200を実際に治療時に使用するか否かによって異なる。補助器具200として、医療用に認可された樹脂材を用いる場合、この補助器具200をそのまま使用し得る。補助器具200として、医療用に非認可の樹脂材を用いる場合、この補助器具200をそのまま実際の治療には使用し得ない。この場合、補助器具200は、後述するように、模型100と嵌合させた状態において、穴形成器具40の先端が所定の位置に配置され、かつ、ターゲット模型部120に接触しないことを確認するといった、作成した治療計画を手技前に検証するために用いる。
【0049】
ここで、実際の手技において、歯科医師は、患者の治療対象部位に対する凹孔の形成時に歯茎表面(歯槽骨ではない)から何ミリ掘っているかは確認できない。しかし、歯科医師は、歯槽骨表面から何ミリ掘っているか、及び、歯槽骨表面から動脈までの距離を、実際に使用する道具を用いて事前に確認することができる。
【0050】
図12及び
図13には、歯槽骨312、歯314、歯茎316、凹孔318、及び、下歯槽動脈及び下歯槽神経の非到達ターゲット320を含む下顎310の模式図を示す。
【0051】
図12に示すように、実際のインプラント治療において、歯科医師は、例えば補助器具200及び穴形成器具40を用いて、下歯槽骨312及び歯茎316に凹孔318を形成する。凹孔318は、下歯槽骨312の頂部から凹孔318の底部までの距離D1と、下歯槽骨312の頂部(規定面)335から補助器具200の規定面220までの距離(オフセット値)D2を合わせた深さとなる。すなわち、補助器具200を用いる場合、凹孔318の深さは、下歯槽骨312の頂部から補助器具200の規定面220までオフセットされる。
【0052】
この場合、
図12及び
図13に示すように、歯科医師は、(ドリルスリーブ46の上端46bより下のドリルボディ42の長さH1)-(ストッパー48の高さH2)=(手術時に用いるインプラント体30の長さD1)+(補助器具200を用いたときのオフセット値D2)となるように、穴形成器具40、及び、インプラント体30をそれぞれ選択する。歯科医師は、凹孔318の底部又はインプラント体30の底部と非到達ターゲット320とが離間するように凹孔318を形成し、インプラント体30を凹孔318に埋設する。すなわち、歯科医師は、インプラント体30の形状(例えば外径)、位置、角度又は凹孔70の内径、位置、角度をパラメータとするとともに、上述したパラメータH1、H2、D1、D2を適宜に操作部20を用いて入力し、患者の治療対象部位に対する状態を確認しながら、最適な治療計画を作成する。パラメータH1、H2の設定又はインストールには、歯科医師が最適な穴形成器具40を選択することを含む。
【0053】
制御装置12は、歯科医師の指示に基づいて、
図14に示すように、下顎の骨の第1の3次元画像51と、歯及び歯茎の表面の第2の3次元画像52と、非到達ターゲットの第3の3次元画像53と、インプラント体の第4の3次元画像54及び/又は穴形成器具の第5の3次元画像55と、補助器具の第6の3次元画像56とを所定の座標系上で重ね合わせる(ステップS7、第5の処理)。そして、歯科医師は、
図15に示すように、表示部18において、例えば第6の3次元画像56と、第4の3次元画像54又は第5の3次元画像55と、第3の3次元画像53との配置状態を確認する。すなわち、制御装置12は、ソフトウェアによる表示部18の画面上に、補助器具と、インプラント体と、インプラント体を埋設するための孔を形成する穴形成器具と、非到達ターゲットとの位置関係を歯科医師に明示する。
なお、制御装置12は、ステップS3からステップS7を、画像処理プログラムを用いて処理し、画像表示プログラムを用いて表示部18に表示させる。
【0054】
そして、制御装置12は、補助器具200を3Dプリンタ24又はミリングマシン26にて造形する(ステップS8)。
【0055】
歯科医師は、制御装置12のソフトウェアによる表示部18の画面上での治療計画に修正点があるか否か確認する。問題があれば、修正する。問題がなければ、制御装置12は、歯科医師の指示に基づいて、
図16に示す、第2の3次元画像52、第3の3次元画像53、第4の3次元画像54、第5の3次元画像55を所定の座標系上で重ね合わせる(ステップS9)。ここで、第2の3次元画像52において、歯茎の表面のうち、歯又は規定面135とは反対側の部位の像部分を例えば適宜の平面52aを境界として削除すれば、歯及び歯側の歯茎の規定面135を含む歯茎表面を残して舌側及び頬側の壁が除去される。なお、第2のスキャナ16により得られる第2の3次元画像52によっては、平面52aを境界とする像の一部削除は不要である。
このとき、制御装置12は、歯科医師の指示に基づいて、治療計画を作成するソフトウェアにより表示部18の画面上で、第2の3次元画像52、第3の3次元画像53、第4の3次元画像54、第5の3次元画像55を所定の座標系上で重ね合わせる。または、制御装置12は、歯科医師の指示に基づいて、互換性を有するデータであれば、治療計画を作成するソフトウェアとは別の、例えば3DCADソフトウェアにこれら3次元画像をインポートし、これら3次元画像を重ね合わせてもよい。このとき、制御装置12は、穴形成器具の第5の3次元画像55について、手技に用いることを想定するボディ、シャンクを除き、例えばスリーブ(ガイドチューブ)の画像(スリーブに関する第5の3次元画像)55aのみインポートする。
【0056】
制御装置12は、歯科医師の指示に基づいて、
図17に示すように、ソフトウェアにおいて、インプラント体に関する第4の3次元画像54、及び、スリーブに関する第5の3次元画像55aを除去する(ステップS10、第3の処理)。すなわち、制御装置12は、ソフトウェアによる表示部18の画面上で、歯、インプラント体の埋設用の凹孔を模す貫通孔130aを有する模型本体110の3次元画像110a、及び、ターゲット模型部120の3Dプリンタ24用の3次元画像120aを含む、模型100の3次元画像(第5の表面データ)100aを作成する。
【0057】
サポート(基部140及び支柱(サブ支柱)150)に相当する3次元画像は、例えば3Dプリンタ24の機能を用いて自動作成されることが好適である。
【0058】
制御装置12は、ステップS9からステップS10を、画像処理プログラムを用いて処理し、画像表示プログラムを用いて表示部18に表示させる。
【0059】
歯科医師は3Dプリンタ24用のデータである模型100の3次元画像100aを確認する。その後、制御装置12は、模型100の3次元画像(第5の表面データ)100aを例えば3Dプリンタ24に出力する。すなわち、歯科医師は操作部20への操作入力指示により、制御装置12に制御される3Dプリンタ24で、歯、インプラント体30の埋設用の凹孔70を模す貫通孔130を有する歯茎、下歯槽動脈を模したターゲット模型部120を含む、患者の治療部位の模型100(
図4A及び
図4B参照)を造形する(ステップS11、第4の処理)。
【0060】
ここで、歯科医師は、システム10を用いた治療計画の作成処理を一旦終了する。
【0061】
このように、上述したシステム10の操作部20には、制御装置12に対し、患者の3次元立体画像において、患者の治療対象部位と、非到達ターゲットとを特定する処理指示、患者の3次元立体画像において、治療対象部位に埋設するインプラント体の各種のパラメータを設定又は歯科医師が3Dスキャナなどを用いて取得したデータをインストールして、インプラント体を埋設するための凹孔を模す孔を設定する処理指示を行う。また、操作部20では、制御装置12に対し、第1の表面データ(表面画像に関するデータ)と、第2の表面データ又は第3の表面データと、第4の表面データとを所定の座標系上で重ね合わせる処理指示(座標変換指示)、及び、第1の表面データから、第2の表面データ及び第3の表面データを引いて、孔を含む治療対象部位と、第4の表面データとの位置関係を示す第5の表面データを作成する処理指示、が入力される。
すなわち、操作部20では、制御装置12に対し、第1の表面データと、第2の表面データ及び第3の表面データの少なくとも一方と、第4の表面データとを所定の座標系上で重ね合わせる処理指示(座標変換指示)、及び、第1の表面データから、第2の表面データ及び第3の表面データを引いて、孔を含む治療対象部位と、第4の表面データとの位置関係を示す第5の表面データを作成する処理指示、が入力され、制御装置12により、これらが処理される。なお、座標変換指示に第2の表面データを用いない場合、第5の表面データの作成時に第2の表面データを引く必要はない。座標変換指示に第3の表面データを用いない場合、第5の表面データの作成時に第3の表面データを引く必要はない。
【0062】
歯科医師は、
図18Aに示すように、3Dプリンタ24で造形した模型100に例えば患者の処置対象の歯茎の形状、及び、穴形成器具40に適した補助器具200を嵌める。歯科医師は、さらに、補助器具200のガイド孔210に、穴形成器具40のボディ42を挿入する。このとき、穴形成器具40は、実際の手技と同様に、スリーブ46及びストッパー48を使用する。歯科医師は、穴形成器具40のボディ42の先端とターゲット模型部120との位置関係を視認により確認する。具体的には、歯科医師は、穴形成器具40を、補助器具200のガイド孔210に嵌合させたとき、穴形成器具40のボディ42でインプラント体30を埋設するための凹孔をあけるために貫通孔130に挿入したときに、穴形成器具40のボディ42が所望の方向を向くか、ボディ42の先端が動脈及び神経などのターゲット模型部120から離間した状態を維持するか、確認する。
【0063】
なお、穴形成器具40のボディ42の先端の視認状態などを確認するため、歯科医師等は、必要に応じて、模型100から土台140及び支柱150を除去する。
【0064】
歯科医師は、穴形成器具40のボディ42の先端が移動し得る範囲を確認する。穴形成器具40による穴形成の際、歯槽骨のうち舌側の壁を破らないように穴形成器具40のボディ42の先端を移動させる。このため、歯科医師は、穴形成器具40のボディ42の先端が、模型100の舌側の壁である膜状体145bに触れないことを確認する。
【0065】
実際の治療において、穴形成器具40のボディ42の先端は、下歯槽神経及び下歯槽動脈から3mm以上離間することが推奨される。このため、下歯槽神経及び下歯槽動脈のそれぞれのターゲット模型部120を実際のものに対して例えば3mm以上、規定面135に向かって大きく作成し、穴形成器具40の先端が当接するように治療計画を作成することもできる。すなわち、ターゲット模型部120の一部を、実際の非到達ターゲットの位置よりも、規定面135側に近づけることにより、穴形成器具40のボディ42の先端がターゲット模型部120に当接した位置と、穴形成器具40のストッパー48のボディ42側の端面48aとの位置関係に基づいて、歯科医師は、実際に患者に使用する穴形成器具40の使用の可否について、判断することができる。すなわち、例えば歯科医師は、ターゲット模型部120を、非到達(非接触)ターゲットではなく、到達(接触)ターゲットとして形成することも可能である。
【0066】
このように、歯科医師は、システム10を用いて患者の3次元画像51,52、及び、インプラント体及び穴形成器具の3次元画像54,55を用いて、実際の患者と同じ大きさ、形状の模型100を造形することで、実際に用いる穴形成器具40を用いて、インプラント体30を埋設する凹孔を作成する手技の事前検証を行うことができる。事前検証において、問題がなければ、歯科医師は、実際の患者に治療計画の通りに手技を行う。事前検証において問題点が生じたときには、歯科医師は、必要に応じて治療計画を修正し、再度、模型100及び補助器具200を作成し直し、手技の事前検証を行う。歯科医師は、必要に応じて、事前検証において問題がなくなるまで、この作業を繰り返す。
なお、模型100を造形する場合、歯科医師は、インプラント体及び穴形成器具の3次元画像54,55を選択的に用いてもよい。
【0067】
ところで、模型本体110の貫通孔130の位置、大きさ、角度等は、インプラント体30を嵌める、最終的な大きさに形成される。実際の手技において、歯科医師は、小さな穴から徐々に穴径を大きくするともに、深く掘っていく。このため、歯科医師は、実際の手技において、凹孔を形成する場合、ドリルボディ42が、短く、径が小さいものから、徐々に太く、径が長いものに変更して手技を進めていく。システム10においては、治療計画として、歯科医師がどのような穴形成器具を用いて、凹孔を形成するのかを記載することができるが、3Dプリンタ24で造形される3次元画像としては、インプラント体30を埋設可能な最終的な大きさの凹孔を設定し得る。
【0068】
それぞれのドリルボディ42の大きさ及び形状に適合する複数の模型100を用いることで、歯科医師は、ドリル径が小さく短いものから、徐々に大きく長いものに変更しながら、手技を進める事前検証をも、貫通孔130の大きさをドリル径に合わせて造形した模型100を用いて事前検証することができる。すなわち、模型100を用いることで、最終的に用いる穴形成器具40だけでなく、凹孔の作成途中に用いる各種の手技器具においても、事前検証を行うことができる。凹孔の作成途中に用いる手技器具としては、例えば、骨補填材、採血した血液から分離させた血小板当を含むフィブリンゲル、又は、これらの混合物を治療対象部位に注入する注入器具等がある。
【0069】
そして、現在、歯科医師は、実際の手技において、使用するインプラント体30に応じて、穴形成器具のボディ42の長さ、ストッパー48の高さ、オフセット値などの各種パラメータを歯科医師が手技時に計算して手技を行うことがある。歯科医師がいずれか1つのパラメータでも間違えると、本来使用すべき器具とは異なる器具を使う可能性があり、医療事故につながるおそれがある。本実施形態に係る模型100を使用することにより、歯科医師が実際の手技において、最終的な大きさの凹孔を形成するまでの、各手技器具の使用の妥当性を、歯科医師自身が事前検証することができる。
また、例えば歯科医師等のシステム10における治療計画の作成者は、治療計画の作成時において穴形成器具40のボディ42の長さ、ストッパー48の高さ、オフセット値などの各種パラメータを間違うことがあり得る。そして、治療計画の作成者は、各種パラメータの間違いを見逃して、治療計画の作成を終了してしまうことがあり得る。この場合であっても、歯科医師が模型100及び実際の穴形成器具40を使用して治療計画の事前検証を行うと、治療計画における各種パラメータの設定ミスに気付くことができ得る。そして、歯科医師は、模型100を用いて、使用する穴形成器具40のボディ42の長さ、ストッパー48の高さ、オフセット値などのパラメータをどのように変更すると上手く手技が行えるか、検討を行うことができる。このとき、治療計画の作成時に設定したメーカーの穴形成器具40以外の穴形成器具も、適宜に試すことができる。このため、歯科医師は、模型100を用いることにより、穴形成器具40を、例えば自らが所有する器具の中から、適切に選択することができる。
したがって、本実施形態で説明した模型100を用いて歯科医師が手技の事前検証を行うことは、インプラント治療における治療の一環として必ず行うべきである。このため、歯科医師は、模型100を用いた手技の事前検証により、必要に応じて、穴形成器具40を適切に変更し、最適な治療を行うことができる。なお、歯科医師は、システム10を使用して治療計画を修正してもよいことはもちろんである。このため、歯科医師が本実施形態に係る模型100を用いることで、インプラント治療の安全性を大きく高めることができる。
【0070】
インプラント治療において、歯科医師は、例えば補助器具200を作成し、患者の下顎に対して、所望の位置に所定の大きさの凹孔を作成し、その凹孔にインプラント体30を埋設する治療を行っている。従来は、インプラント体30を埋設するための穴形成器具40と補助器具200との関係で、例えば非到達ターゲットに独自の考えによる他メーカーの穴形成器具による代替え選択により40のボディ42の先端が到達するか否か、歯科医師が手技前に視覚的、実際に確認する手段がなかった。本実施形態によれば、患者の治療対象部位を含む模型本体110と、ターゲット模型部120と、補助器具200と、穴形成器具40又はインプラント体30との関係を、模型100及び実物の穴形成器具40又はインプラント体30を用いて歯科医師が手技前に検証することができる。すなわち、歯科医師は、作成した治療計画を実際の手技前に事前検証することができる。このため、歯科医師は、穴形成器具40による手技の安全性を事前検証した上で、実際の手技を行うことができる。歯科医師は、実際の手技のときに、模型100において、非到達ターゲットに対する穴形成器具40のボディ42の先端の到達位置、すなわち、非到達ターゲットと穴形成器具40のボディ42の先端との離間距離又は当接状態を事前に把握しているため、歯科医師が手技にかける時間をより短くすることができる。このため、歯科医師は、治療計画の通りに手技を行うことで、患者に対してより低侵襲に手技を行うことができる。
【0071】
歯科医師は、第1のスキャナ(CTスキャン)14、第2のスキャナ(口腔内スキャナ)16を用いた患者データを取得する医療行為と、実際に患者に対して手技を行う医療行為との間に、システム10を用いて治療計画の作成処理を行うことができる。本実施形態では、歯科医師が自ら治療計画を作成する例について説明した。治療計画の作成処理は、患者に実際を治療、診断するものではないが、インプラント体30の下顎への埋設手技という医療行為に繋がる極めて重要な処理である。このため、歯科医師が、システム10を用いて治療計画を作成し、治療計画に基づいて作成した模型100、及び、補助器具200を用いて手技の事前検証を行うことが、インプラント治療の安全性を確保する上で極めて有効な処理となる。そのためには、歯科医師自身が、各患者に対する最適な治療計画を作成可能なシステム10を用いることは、治療の安全性を確保する上で、極めて有用である。
【0072】
上述したように、治療計画の作成自体は、直接的な医療行為ではないため、例えばメーカーの技術者や、歯科技工士などの歯科治療行為に対する無資格者が治療計画の作成を行うことはあり得る。この場合でも、歯科医師は、治療計画の作成データを受け取り、システム10において、治療計画を検討し、修正指示又は自ら修正することができる。いずれにしても、歯科医師は、実際の手技を行う直前に、模型100、穴形成器具40、インプラント体30、補助器具200を用いて、治療の安全性を事前検証することができる。
【0073】
上述した治療計画を修正し、模型100を作成し直す場合、システム10を用いて歯科医師自身が一連の作業を行うことにより、メーカー等の業者とのやり取りの時間を削減することができる。このため、歯科医師が治療計画を作成し、3Dプリンタ24で模型100を出力する場合、業者を使う場合に比べて、例えば1週間単位などの大幅な時間削減を図り得る。したがって、歯科医師は、患者に対して、より早期に手技を行える状態を整えることができ得る。
歯科医師がシステム10を用いる場合、歯科医師が主導して、歯科医師が試行錯誤して最適な治療計画を立てることができる。このため、仮に、補助器具200及び模型100の出力を業者に任せる場合であっても、補助器具200及び模型100の修正回数を少なくすることができる。したがって、歯科医師は、患者に対して、より早期に手技を行える状態を整えることができ得る。
【0074】
なお、従来、補助器具(サージカルガイド)は、必ず必要とされているわけではない。このため、現在のインプラント治療の際には、補助器具の使用が必ずしも広まっているとは言い難い。しかしながら、本実施形態に係るシステム10を用いて例えば歯科医師自身が補助器具200を設計し、それを例えば歯科医師自身が所有する3Dプリンタ24又はミリングマシン26を用いて出力することで、補助器具200の作成に大幅な費用削減を図ることができる。したがって、本実施形態に係るシステム10を用いることで、インプラント治療の際、サージカルガイドなどの補助器具の使用を歯科医師に広めることができる。
【0075】
したがって、システム10を用いることにより、治療計画の作成を極力歯科医師の主導に変更でき、補助器具200を含む治療計画の作成コストを削減でき、補助器具200を用いた、より安全性が高い治療を広めることができる。
【0076】
以上説明したように、本実施形態によれば、例えばインプラント体などの埋設体の埋設治療を行うとき、実際の穴形成器具40などの手技器具を用いた歯科治療の前に、その手技器具を用いたときの手技器具の先端位置と、患者の下顎の下歯槽動脈及び下歯槽神経の位置などのターゲット位置との位置関係を歯科医師が事前検証可能な、歯科治療計画の手技前検証システム10、歯科治療計画の手技前検証プログラム、歯科治療計画の手技前検証用の模型100の製造方法、及び、歯科治療計画の手技前検証用の模型100を提供することができる。
【0077】
なお、補助器具を用いない場合、
図18Bに示すように、3Dプリンタ24で造形した模型100の孔部130に穴形成器具40を挿入する。そして、模型100は、ストッパー48のボディ42側の端面48aは、模型本体110の規定面135に当接するように形成される。歯科医師は、穴形成器具40のボディ42の先端が移動し得る範囲を確認するとともに、穴形成器具40のボディ42の先端とターゲット模型部120との位置関係を視認により確認する。具体的には、歯科医師は、穴形成器具40のボディ42をインプラント体30を埋設するための凹孔をあけるために貫通孔130に挿入したときに、穴形成器具40のボディ42が所望の方向を向くか、ボディ42の先端が動脈及び神経などのターゲット模型部120から離間した状態を維持するか、確認する。
【0078】
図4A及び
図4Bに示す模型100では、患者の下歯槽骨に相当する部位が存在しない。
図4Cに示すように、3Dプリンタ24で作成した模型100の樹脂材は例えば透明又は半透明で、ターゲット模型部120を歯科医師が視認により確認することができる膜状体145a,145bとして下歯槽骨に相当する部位が存在していてもよい。膜状体145aは、頬側又は唇側の歯槽骨の壁を模す。膜状体145aは、舌側の歯槽骨の壁を模す。このとき、穴形成器具40のボディ42の先端は、舌側の膜状体145bに触れないことが好適である。舌側の膜状体145bは、ターゲット模型部120側の面が、患者の実際の歯槽骨の舌側の面に相当する位置に形成されることが好適である。模型100が患者の下顎のものではなく、上顎のものであれば、舌側の面は、患者の実際の歯槽骨の口蓋側の面に相当する。模型100の樹脂材が例えば透明又は半透明である場合、模型100は、
図10中の左下図から、インプラント体の第4の3次元画像54及び穴形成器具の第5の3次元画像55を除去した状態に形成される。下歯槽骨に相当する部位は、穴形成器具40とターゲット模型部120との位置関係を視認可能であれば、メッシュ状に形成されていてもよい。
【0079】
補助器具200は、インプラント体30を埋設するための凹孔を形成するためのガイド孔210を有する。ガイド孔210及び凹孔70は、穴形成器具40として回転ドリルにより形成される場合、円形孔である。ガイド孔210及び凹孔70は、穴形成器具40によっては、回転ドリルによらない非円形孔を形成する場合もあり得る。
【0080】
本実施形態では、第1のスキャナ14及び第2のスキャナ16の2つのスキャナを用いる例について説明した。例えば、1つのスキャナで第1の3次元画像51及び第2の3次元画像52を取得可能であれば、複数のスキャナは不要となり得る。
【0081】
第1のスキャナ14及び第2のスキャナ16は、例えば歯科医師が所有し、歯科医師が患者の顎部の3次元画像を取得する。3Dプリンタ24による造形物の造形は、適宜の業者により行ってもよい。例えば、第1のスキャナ14、及び/又は、第2のスキャナ16を用いて予め患者の3次元画像を取得することがあり得るため、第1のスキャナ14、及び/又は、第2のスキャナ16は、システム10に含まないことも好適である。3Dプリンタ24、及び/又は、ミリングマシン26は、システム10に含まないことも好適である。
【0082】
本実施形態では、システム10において、補助器具200を作成し、実際の手技に補助器具200を用いる例について説明した。補助器具200は、例えば穴形成器具40の選択により、必ずしも必要でない場合があり得る。
図18Bに示すように、補助器具200を模型100に配置せずに、ドリルボディ42及びスリーブ46を含む穴形成器具40を孔130を通して配置するように、治療計画を立ててもよい。
【0083】
(第1変形例)
第1実施形態に係るシステム10では、
図19中の左図に示すように、患者の下顎のCT画像(第1の3次元画像)と患者の下顎の3次元画像(第2の3次元画像52)とをマッチングさせる例について説明した。
【0084】
例えば患者の歯の一部には、金属材が使用されることがある。患者のCT画像(第1の3次元画像51)は、例えばアーチファクトと呼ばれるノイズにより、鮮明な像を得にくい場合がある。この場合、制御装置12は、歯科医師の指示に基づいて、歯の並びなどの形状一致点を見つけ出しつつ、第1の3次元画像51と、第2の3次元画像52とをずらして配置することも好適である。
【0085】
例えば
図19中の左図を出発点とし、
図19中の右図に示すように、制御装置12は、歯科医師の指示に基づいて、表示部18において、ソフトウェア上で、第1の3次元画像51に第3から第5の3次元画像53-55を重ね合わせた画像に対し、第2の3次元画像52の画像を、第1の3次元画像51とずらして重ね合わせる。具体的には、第2の3次元画像52の歯茎の表面は、例えば第1の3次元画像51の歯槽骨の表面に一致するか、歯槽骨内に配置される。このとき、第2から第5の3次元画像52-55を重ね合わせた画像から、第1の3次元画像51を引いた像(
図17中の左上図参照)における、第2の3次元画像52の歯茎の表面と第3の3次元画像53の非到達ターゲットとの間の距離は、患者の実際の歯茎の表面から非到達ターゲットまでの距離よりも短い。このため、歯科医師は、実際の手技において、穴形成器具40を実際に使用可能なものより短いものを用い、第3の3次元画像53に対して、インプラント体に対応する第4の3次元画像54を実際に埋設可能な位置より浅く配置することになる。したがって、歯科医師は、治療計画をより安全側に計画することができる。
【0086】
第1の3次元画像51と第2の3次元画像52とのマッチングに不確実性がある場合は、第2の3次元画像52を第3の3次元画像53に現実的な範囲で近づける。このため、第2の3次元画像52と第3の3次元画像53との間の距離は、実際の距離と同等かそれより短い距離を是としてインプラント位置を計画することにより安全性を担保することができる。実際の処理においては、制御装置12は、歯科医師の指示に基づいて、第2の3次元画像52(表面の3次元画像)の特徴点を第3の3次元画像53(第4の表面データ)による像側(ターゲット側)にずらした状態で新たな第2の3次元画像52(第1の表面データ)として設定する。
【0087】
ところで、第2の3次元画像52の歯茎の表面を、
図19中の右図に示す例とは反対に、第1の3次元画像51及び第3の3次元画像53に対して、離間させることは治療計画を危険側に計画することになり得る。第2から第5の3次元画像52-55を重ね合わせた画像から、第1の3次元画像51を引いた像(
図17の左上図参照)における、第2の3次元画像52の歯茎の表面と第3の3次元画像53の非到達ターゲットとの間の距離は、患者の実際の歯茎の表面から非到達ターゲットまでの距離よりも長い。このため、歯科医師は、インプラント体30及び穴形成器具40について、実際の手技において、例えばより深く配置し、より長いものを設定することができると勘違いし得る。したがって、歯科医師は、治療計画をより危険側に計画することになり得る。
【0088】
(第2変形例)
第1実施形態の第2変形例に係るシステム10について、
図20を用いて説明する。ここでは、
図3に示す穴形成器具40とは異なる穴形成器具40を用いる場合のパラメータの設定の違いについて説明する。
【0089】
図20には、
図3とは異なる穴形成器具40の第1変形例を示す。
図20に示す穴形成器具40は、ボディ42、シャンク44、スリーブ46、及び、ストッパー48に加えて、ハンドル50を有する。ストッパー48の下端は、ハンドル50に当接する。このため、穴形成器具40のボディ42の先端の位置は、ハンドル50の高さにより、調整される。例えば、ハンドル50の高さが高くなると、凹孔318の底部は非到達ターゲット320から離される。
【0090】
図20に示すように、歯科医師は、(インプラント体30の長さD1)+(補助器具200を用いたときのオフセット値D2)=(ドリルスリーブ46の上端より下のドリルボディ42の長さH1)-(ストッパー48の高さH2)-(ハンドル50の高さH3)となるように、穴形成器具40、及び、インプラント体30をそれぞれ選択する。そして、制御装置12は、歯科医師の指示に基づいて、種々の穴形成器具40に合わせて、各種の設定値を設定する。
【0091】
すなわち、歯科医師は、インプラント体30の形状(長さ、外径)、位置、角度をパラメータとするとともに、上述したパラメータH1、H2、H3、D1、D2を適宜に操作部20を用いて入力し、患者の治療対象部位に対する状態を確認しながら、最適な治療計画を作成する。パラメータH1、H2、H3の設定又はインストールには、歯科医師が最適な穴形成器具40を選択することを含む。
【0092】
(第3変形例)
第1実施形態では、
図12に示すように、インプラント体30を下顎に形成する凹孔318に埋設する場合を例にして説明した。例えば、インプラント体30を凹孔318に埋設する代わりに、
図21に示す埋設体としての自家歯牙400を埋設する凹孔を形成する場合も、同様に、第1実施形態で説明したシステム10を用いて治療計画を作成することができる。
【0093】
歯科医師は、インプラント体30の3次元画像を作成するのと同様に、自家歯牙400の3次元画像(第2の表面データ)を作成することができる。自家歯牙400の3次元画像は、種々の機器を用いて取得し得る。自家歯牙400の3次元画像は、例えば第2のスキャナ16を用いて取得してもよい。
【0094】
制御装置12は、歯科医師の指示に基づいて、自家歯牙400の形状、位置、角度をパラメータとするとともに、上述したパラメータH1、H2、H3、D1、D2を適宜に操作部20を用いて入力し、患者の治療対象部位に対する状態を確認しながら、最適な治療計画を作成する。パラメータH1、H2、H3の設定又はインストールには、歯科医師が最適な穴形成器具40を選択することを含む。自家歯牙400は、既製品を用い得るインプラント体30とは異なり、患者ごとに形状が異なる。このため、自家歯牙400を下顎に埋設する場合、自家歯牙400の形状に合わせて2つや3つの凹孔を開けることがある。これら凹孔を形成する場合も、補助器具200を用いることができる。凹孔を作成する場合、例えば同一又は異なる複数の穴形成器具40a,40bを順に用いることができる。
【0095】
なお、自家歯牙の代わりに、例えば歯の幹細胞を用いた再生医療を行う場合に、歯の幹細胞を体内又は対外で培養したものを、凹孔に埋設する治療を行うことが可能となり得る。この場合、制御装置12は、歯科医師の指示に基づいて、システム10における治療計画の作成において、再生医療における埋設体としての細胞組織(例えば細胞組織の集合体)の形状、位置、角度をパラメータとするとともに、上述したパラメータH1、H2、H3、D1、D2を適宜に操作部20を用いて入力し、患者の治療対象部位に対する状態を確認しながら、最適な治療計画を作成する。パラメータH1、H2、H3の設定又はインストールには、歯科医師が最適な穴形成器具40を選択することを含む。このように、歯科医師は、上述したシステム10を用いて、再生医療を行う場合も、治療計画を作成し、歯科治療計画の手技前検証用の模型を作成することができ得る。
【0096】
(第2実施形態)
第2実施形態では、システム10を、多数から選択されるインプラント体30(
図2参照)を患者の上顎に埋設するインプラント治療を行う例に用いる場合について、
図22から
図30を用いて説明する。第1実施形態で説明した事項と共通の事項については、適宜に説明を省略する。
【0097】
第1のスキャナ(歯科用CTスキャン)14は、患者の例えば上顎の歯、骨及び骨内部の第1の3次元画像(例えばDICOMデータ)551を取得し、制御装置12に出力する。制御装置12は、第1の3次元画像551を、記憶装置22に記憶させる。第2のスキャナ(口腔内スキャナ)16は、患者の例えば上顎の歯及び歯茎の表面の第2の3次元画像(例えばSTLデータ)552を取得し、制御装置12に出力する。制御装置12は、第2の3次元画像552を、記憶装置22に記憶させる。
【0098】
図22に示すように、歯科医師は、ソフトウェア上で、第1のスキャナ14で得た上歯槽骨、上顎洞、後上歯槽動脈及び大口蓋動脈を示す第1の3次元画像551を用いて、インプラント体を埋設する凹孔70の設定時に、非到達ターゲットとする後上歯槽動脈、大口蓋動脈、及び、上顎洞底粘膜(
図28から
図30参照)の位置を特定する。そして、歯科医師は、ソフトウェア上で、非到達ターゲットが3次元的に形成されるように非到達ターゲットの特徴点をマーキングする(ステップS3)。そして、歯科医師は、第3の3次元画像553a,553b,553cとして、非到達ターゲットを作成する。なお、後上歯槽動脈、大口蓋動脈、及び、上顎洞底粘膜は、上歯槽骨に隣接する。
【0099】
図22中の右側図では、上顎洞551aの部位、後上歯槽動脈の部位の3次元画像553a、及び、大口蓋動脈の部位の3次元画像553bを示す。
【0100】
なお、上顎洞底粘膜に対応する3次元画像553cは、卵の殻の一部のように作成してもよく、全体として例えば球体状(
図30参照)に形成してもよい。これは、模型により治療計画の事前検証を行うときに、穴形成器具40のボディ42の先端の到達に影響する部位が上顎洞底粘膜に対応する部位であり、残りの部位は、穴形成器具40のボディ42の先端の到達に影響しないためである。
【0101】
制御装置12は、歯科医師の指示に基づいて、
図22に示すように、ソフトウェア上で、治療位置において、インプラント体30を模したインプラント体の長さ、外径、角度、位置等を設定又はインストールする(ステップS4)。このとき、制御装置12は、歯科医師の指示に基づいて、第1実施形態で説明したインプラント体30の外径、位置、角度、各種のパラメータ(穴形成器具40の選択を含む)を適宜に設定し、治療計画を最適化する。
【0102】
制御装置12は、歯科医師の指示に基づいて、
図23に示すように、ソフトウェア上で、第1から第5の3次元画像551,552,553a-553c,54,55の座標軸を合わせ、第1の3次元画像551、第3の3次元画像553a-553c、及び、第4の3次元画像54及び/又は第5の3次元画像55に、第2の3次元画像552を所定の座標系上で重ね合わせる(ステップS5)。このため、制御装置12は、上顎の歯及び歯茎の表面と、上歯槽骨の内部の動脈との位置関係をソフトウェア上で歯科医師に明示する。
【0103】
制御装置12は、歯科医師の指示に基づいて、
図24に示すように、ソフトウェア上で、患者の上顎の形状に合わせて、補助器具(サージカルテンプレート)を作成する(ステップS6)。すなわち、制御装置12は、第6の3次元画像556として、補助器具を作成する。歯科医師は、表示部18において、第6の3次元画像556と、第4の3次元画像54又は第5の3次元画像55と、第3の3次元画像553a,553bとの配置状態を確認する(ステップS7)。そして、制御装置12は、歯科医師の指示に基づいて、補助器具を出力する(ステップS8)。
【0104】
歯科医師は、ソフトウェア上での治療計画に修正点があるか否か確認する。問題があれば、修正する。問題がなければ、制御装置12は、歯科医師の指示に基づいて、
図25に示す、歯及び上歯槽骨を示す第1の3次元画像551、歯及び歯茎を示す第2の3次元画像552、非到達ターゲットの第3の3次元画像553a,553b、インプラント体の第4の3次元画像54、穴形成器具40の第5の3次元画像55を所定の座標系上で重ね合わせる(ステップS9)。このとき、制御装置12は、治療計画を作成するソフトウェアと同じソフトウェアにより、第2の3次元画像552、第3の3次元画像553a,553b、第4の3次元画像54、第5の3次元画像55を所定の座標系上で重ね合わせる。
【0105】
制御装置12は、歯科医師の指示に基づいて、ソフトウェアにおいて、インプラント体30に関する第4の3次元画像54、及び、スリーブに関する第5の3次元画像55aを除去する(ステップS10)。すなわち、制御装置12は、
図26及び
図27に示すように、ソフトウェア上で、歯、インプラント体30の埋設用の凹孔を模す貫通孔を有する歯茎、非到達ターゲットの3Dプリンタ24用のデータ(模型の表面データ)を作成する。
【0106】
歯科医師が3Dプリンタ24用のデータを確認した後、歯科医師の指示入力に基づいて、制御装置12に制御される3Dプリンタ24は、歯、インプラント体30の埋設用の凹孔を模す貫通孔を有する歯茎、非到達ターゲットである後上歯槽動脈及び大口蓋動脈を模した、患者の治療部位の模型を造形する(ステップS11)。
【0107】
ここで、
図28は、上顎710の歯槽骨712、歯714、上顎洞730の関係を示す。
図29は、例えばサイナスリフト(ソケットリフト)処置などの上顎洞底挙上術を用いた上顎710へのインプラント体30の固定状態を示す。上顎710の上歯槽骨712にインプラント体30を埋設するとき、
図28に示す上歯槽骨712の厚さが足りない場合があり得る。このとき、
図29に示す上顎洞730の上顎洞底粘膜730aを人工の骨補填材740を用いて押し上げる上顎洞底挙上術が行われる。上顎洞底挙上術を行う場合、上顎洞730の上顎洞底粘膜730aも、後上歯槽骨動脈及び大口蓋動脈とともに、穴形成器具40としてのドリルボディ42の非到達ターゲットとなる。
【0108】
上顎洞底挙上術を行う場合、インプラント体30を埋設する凹孔718を上歯槽骨712に開ける。このとき、例えば、上顎洞730の底部近傍まで凹孔718を開けるが、上顎洞底粘膜730aは貫通させない。上歯槽骨712は、穴形成器具40ではなく、オステオトームなどで貫通させる。上顎洞730の粘膜730aと上歯槽骨712との間に骨補填材740を充填する。この状態で、インプラント体30を埋設する。このとき、骨補填材740及びインプラント体30は、上顎洞底粘膜730aを破らない。
【0109】
この場合、歯科治療計画の手技前検証用の模型として、例えば、第1実施形態で説明した下歯槽骨を形成しないことと同様に、
図30に示すように、上歯槽骨を形成せず、歯、歯茎、後上歯槽骨動脈、大口蓋動脈、及び、上顎洞底粘膜を模した模型が造形される。このように模型を形成すると、補助器具のガイド孔、模型の貫通孔に選択した穴形成器具40を嵌合させたときの、穴形成器具40のボディ42の先端と、上顎洞底粘膜730aとの位置関係を歯科医師が確認することができる。すなわち、歯科医師は、歯科治療がより安全に行えるか否か、歯科治療計画を事前検証することができる。
【0110】
なお、上顎の模型は、歯及び歯茎に相当する部位を模型本体としたときに、第1実施形態で説明した模型100のように、例えば上顎洞底粘膜730aを、支柱により支持することが好適である。
【0111】
下顎に対してシステム10を用いる場合と同様に、上顎に対してシステム10を用いる場合も、下顎に対して奏する効果と同じ効果を得ることができる。
【0112】
以上説明したように、本実施形態によれば、例えばインプラント体等の埋設体の埋設治療を行うときの実際の手技器具を用いた歯科治療の前に、その手技器具を用いたときの手技器具の先端位置と、患者の上顎の後上歯槽動脈及び大口蓋動脈や、上顎洞粘膜、の位置などのターゲット位置との位置関係を歯科医師が事前検証可能な、歯科治療計画の手技前検証システム10、歯科治療計画の手技前検証プログラム、歯科治療計画の手技前検証用の模型の製造方法、及び、歯科治療計画の手技前検証用の模型を提供することができる。
【0113】
なお、第2実施形態に係るシステム10においても、インプラント体30の代わりに、第1実施形態の変形例で説明した自家歯牙400又は細胞組織を用いることができる。
【0114】
(変形例)
図31に示すように、上顎を用いる例について説明する。以下、歯科医師が、インプラント治療が可能である(
図6に示すフローにおけるステップS2-Yes)と判断したときの作業について説明する。なお、
図31中には、
図17に示すような模型100の3次元画像100aのターゲットを示す第3の3次元画像53に対応する像の図示を省略している。
【0115】
例えば、現在ある歯(3次元画像551において符号550で示す)を抜歯してその抜歯した位置にインプラント体30を埋設することがある。この場合、治療前の上顎における第1の3次元画像551の治療対象部位には、抜歯する歯550が存在する。制御装置12は、歯科医師の指示に基づいて、第1の3次元画像551及び第2の3次元画像552において、抜歯する予定の歯550を3次元的にカットすることができる。このため、制御装置12は、歯科医師の指示に基づいて、第1の3次元画像551において領域561を形成し、第2の3次元画像552において領域562を形成する。領域(空間)561,562の形状は、歯科医師が適宜に設定できる。
【0116】
そして、歯科医師は、
図6に示すフローのステップS3の処理を行う。このため、制御装置12は、歯科医師の指示に基づいて、非到達ターゲットに関する3次元画像(第3の3次元画像553a,553b,553c(
図22参照))を作成する。なお、上述した上顎洞底挙上術を行う場合、上顎洞730の上顎洞底粘膜730aも、後上歯槽骨動脈及び大口蓋動脈とともに、穴形成器具40としてのドリルボディ42の非到達ターゲットとなる。
【0117】
ここで、制御装置12は、歯科医師の指示に基づいて、
図6に示すフローのステップS4の処理を行う。制御装置12は、例えば、特定されたターゲットに対して到達しない位置にインプラント体30の先端を配置するように、インプラント体に対応する第4の3次元画像54を設定するとともに、穴形成器具に対応する第5の3次元画像55を設定する。
【0118】
その後、制御装置12は、歯科医師の指示に基づいて、
図6に示すフローのステップS5-S11の処理を行う。
【0119】
なお、ステップS5以降の処理は、領域561,562が形成された3次元画像551,552に基づいて処理される。このため、サージカルガイドに対応する第6の3次元画像556は、
図31中の歯の像550が存在しないものとして形成され、ドリル穴像556aは穴形成器具40の形状に合わせて円形として形成される。なお、歯の像550が存在する場合、ドリル穴像556aに対して、歯の像550の形状が抜かれた異形空間として形成される。
【0120】
上述した変形例を含む第1実施形態及び第2実施形態によれば、例えばインプラント体30又は自家歯牙の埋設治療を行う前に、歯科医師は、歯科治療事前検証用のシステム10を用いて作製した模型100と、実際の歯科治療において使用を予定する穴形成器具(手技器具)40と、インプラント体30又は自家歯牙400とを用いて、各種の治療器具の選択を含めた治療計画に問題がないか、手技前に事前検証することができる。このため、歯科医師が、手技中に使用する道具(例えば穴形成器具40)でその患者の治療対象部位に治療計画に沿った所定の治療が行えるか疑心暗鬼となり、治療に時間をかけ、患者に負担をかけてしまうことを防止することができる。このため、上述した変形例を含む第1実施形態及び第2実施形態に係るシステム10及び模型100、更には、治療計画で設定した穴形成器具40を用いることで、患者に対してより低侵襲に歯科治療を行うことができる。
【0121】
また、このようにシステム10を用いた、模型100の3次元画像を作成するまでの治療計画の作成作業を業者ではなく、実際に治療を行う歯科医師が確認しながら行うことで、例えばインプラント体30又は自家歯牙の埋設治療をより安全に行うことができる。
【0122】
また、3Dプリンタ24やミリングマシン26を歯科医師が所有する場合、3次元画像の受け渡し時間及び模型100の運搬時間を省略でき、治療計画の作成から、模型100を用いた歯科治療事前検証までの一連の作業にかける時間を短縮することができる。また、治療計画を修正する場合も、治療計画の修正から、模型100を用いた歯科治療事前検証までの一連の作業にかける時間を短縮することができる。
【0123】
なお、本願発明は、上記実施形態に限定されるものではなく、実施段階ではその要旨を逸脱しない範囲で種々に変形することが可能である。また、各実施形態は可能な限り適宜組み合わせて実施してもよく、その場合組み合わせた効果が得られる。更に、上記実施形態には種々の段階の発明が含まれており、開示される複数の構成要件における適当な組み合わせにより種々の発明が抽出され得る。