(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-05-12
(45)【発行日】2023-05-22
(54)【発明の名称】異常検知装置および異常検知方法
(51)【国際特許分類】
F02B 77/08 20060101AFI20230515BHJP
F01N 1/00 20060101ALI20230515BHJP
F02D 45/00 20060101ALI20230515BHJP
【FI】
F02B77/08 D
F01N1/00 A ZHV
F02B77/08 K
F02D45/00 345
(21)【出願番号】P 2019231774
(22)【出願日】2019-12-23
【審査請求日】2022-09-21
(73)【特許権者】
【識別番号】000101732
【氏名又は名称】アルパイン株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100105784
【氏名又は名称】橘 和之
(74)【代理人】
【識別番号】100098497
【氏名又は名称】片寄 恭三
(74)【代理人】
【識別番号】100099748
【氏名又は名称】佐藤 克志
(74)【代理人】
【識別番号】100103171
【氏名又は名称】雨貝 正彦
(72)【発明者】
【氏名】浜口 友也
(72)【発明者】
【氏名】小暮 知史
【審査官】津田 真吾
(56)【参考文献】
【文献】米国特許出願公開第2012/0143431(US,A1)
【文献】特開昭51-134168(JP,A)
【文献】韓国公開特許第10-2005-0011919(KR,A)
【文献】特開平11-182313(JP,A)
【文献】特開平6-137164(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F02B 77/08
F01N 1/00
F02D 45/00
G01M 15/00
G01M 17/00
G01H 3/00
G01H 17/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
車両が備える動力発生器の動作状態を示す動力関連状態情報を取得する動作状態取得部と、
上記動力発生器において上記動作状態に応じて生じる騒音とは別に、上記動力発生器とは異なる場所で発生し得る他音の要因に関する状態を示す他音関連状態情報を取得する他状態取得部と、
上記動力発生器において上記動作状態に応じて生じる騒音の特性を示す騒音特性情報を生成する騒音特性情報生成部と、
上記騒音特性情報生成部により生成された上記騒音特性情報を、上記動力関連状態情報および上記他音関連状態情報に関連付けて記憶媒体に記憶させる騒音特性情報記録部と、
上記動作状態取得部により取得された現在の動力関連状態情報および上記他状態取得部により取得された現在の他音関連状態情報に関連付けて上記記憶媒体に記憶されている上記騒音特性情報を取得する騒音特性情報取得部と、
上記騒音特性情報生成部により生成された現在の騒音特性情報と、上記騒音特性情報取得部により上記記憶媒体から取得された過去の騒音特性情報とを比較し、その比較結果に基づいて上記動力発生器の異常を判定する異常判定部と、
上記異常判定部により上記動力発生器の異常があると判定された場合に報知を行う異常報知部とを備えた
ことを特徴とする異常検知装置。
【請求項2】
上記動作状態取得部により取得された上記動力関連状態情報をもとに、上記動力発生器において生じる上記動作状態に応じた騒音に対して付与すべき打ち消し音を生成する打消音生成部を更に備え、
上記騒音特性情報生成部は、上記打消音生成部により生成された上記打ち消し音の特性を示す打消音特性情報を上記騒音特性情報として生成し、
上記異常判定部は、上記騒音特性情報生成部により生成された現在の打消音特性情報と、上記騒音特性情報取得部により上記記憶媒体から取得された過去の打消音特性情報とを比較し、その比較結果に基づいて上記動力発生器の異常を判定する
ことを特徴とする請求項1に記載の異常検知装置。
【請求項3】
上記動作状態取得部により取得された上記動力関連状態情報をもとに、上記動力発生器において生じる上記動作状態に応じた騒音に対して付与すべき打ち消し音を生成する打消音生成部を更に備え、
上記騒音特性情報生成部は、上記打消音生成部が上記打ち消し音を生成する際に設定した制御情報を上記騒音特性情報として生成し、
上記異常判定部は、上記騒音特性情報生成部により生成された現在の制御情報と、上記騒音特性情報取得部により上記記憶媒体から取得された過去の制御情報とを比較し、その比較結果に基づいて上記動力発生器の異常を判定する
ことを特徴とする請求項1に記載の異常検知装置。
【請求項4】
上記騒音特性情報記録部は、上記異常判定部により上記動力発生器の異常がないと判定されたときにのみ、上記騒音特性情報生成部により生成された上記騒音特性情報を、上記動力関連状態情報および上記他音関連状態情報に関連付けて記憶媒体に記憶させることを特徴とする請求項1に記載の異常検知装置。
【請求項5】
上記動力発生器はエンジンであり、
上記動作状態取得部は、上記動力関連状態情報としてエンジン回転数情報を取得することを特徴とする請求項1に記載の異常検知装置。
【請求項6】
上記動力発生器はモータであり、
上記動作状態取得部は、上記動力関連状態情報としてモータ振動情報またはモータ回転数情報を取得することを特徴とする請求項1に記載の異常検知装置。
【請求項7】
上記騒音特性情報生成部は、上記動作状態取得部により取得された上記動力関連状態情報により特定される周波数における上記騒音の強度情報を上記騒音特性情報として生成することを特徴とする請求項1に記載の異常検知装置。
【請求項8】
上記騒音特性情報生成部は、上記打消音生成部により生成された上記打ち消し音について、上記動作状態取得部により取得された上記動力関連状態情報により特定される周波数における強度情報を上記騒音特性情報として生成することを特徴とする請求項2に記載の異常検知装置。
【請求項9】
上記打消音生成部は、
上記打ち消し音を生成するコントローラと、
上記コントローラにより生成された打ち消し音を出力するスピーカと、
上記騒音と上記打ち消し音との干渉結果である残留音を検出するするマイクとを備え、
上記騒音特性情報生成部は、上記コントローラにより生成された上記打ち消し音について、上記動作状態取得部により取得された上記動力関連状態情報により特定される周波数における強度情報および位相情報を上記騒音特性情報として生成するとともに、上記マイクにより検出された上記残留音について、上記動作状態取得部により取得された上記動力関連状態情報により特定される周波数における位相情報を上記騒音特性情報として生成し、
上記異常判定部は、
上記コントローラにより生成された上記打ち消し音から上記現在の騒音特性情報として上記騒音特性情報生成部により生成された上記打ち消し音の強度情報と、上記騒音特性情報取得部により上記記憶媒体から過去の騒音特性情報として取得された上記打ち消し音の強度情報とを比較し、強度が所定の誤差内で一致するか否かの第1の判定を行うとともに、
上記現在の騒音特性情報として上記騒音特性情報生成部により生成された上記打ち消し音の位相情報と、上記現在の騒音特性情報として上記騒音特性情報生成部により上記残留音について生成された位相情報とを比較し、位相が所定の誤差内で一致するか否かの第2の判定を行い、
上記第1の判定において強度が所定の誤差内で一致しないと判定され、かつ、上記第2の判定において位相が所定の誤差内で一致すると判定された場合に、上記動力発生器の異常があると判定する
ことを特徴とする請求項2に記載の異常検知装置。
【請求項10】
上記騒音特性情報生成部は、上記打消音生成部が上記打ち消し音を生成する際に設定した制御情報として、適応型フィルタのフィルタ係数を用いることを特徴とする請求項3に記載の異常検知装置。
【請求項11】
上記動力発生器とは異なる場所で上記騒音とは別に発生し得る他音はロードノイズであり、
上記他状態取得部は、上記要因に関する状態を示す他音関連状態情報として、車速に関連する車速関連情報を取得することを特徴とする請求項1に記載の異常検知装置。
【請求項12】
上記動力発生器とは異なる場所で上記騒音とは別に発生し得る他音は風切り音であり、
上記他状態取得部は、上記要因に関する状態を示す他音関連状態情報として、窓の開度を示す窓開度情報を取得することを特徴とする請求項1に記載の異常検知装置。
【請求項13】
上記動力発生器とは異なる場所で上記騒音とは別に発生し得る他音は乗員の会話音であり、
上記他状態取得部は、上記要因に関する状態を示す他音関連状態情報として、上記乗員の数を示す乗員数情報を取得することを特徴とする請求項1に記載の異常検知装置。
【請求項14】
上記騒音特性情報記録部は、車両の全ての窓が閉じていることが検出されたときにのみ、上記騒音特性情報生成部により生成された上記騒音特性情報を、上記動力関連状態情報および上記車速関連情報に関連付けて記憶媒体に記憶させ、
上記異常判定部は、車両の全ての窓が閉じていることが検出されたときにのみ、上記動力発生器の異常を判定することを特徴とする請求項11に記載の異常検知装置。
【請求項15】
上記騒音特性情報記録部は、車両の乗員が会話をしていないことが検出されたときにのみ、上記騒音特性情報生成部により生成された上記騒音特性情報を、上記動力関連状態情報および上記車速関連情報に関連付けて記憶媒体に記憶させ、
上記異常判定部は、車両の乗員が会話をしていないことが検出されたときにのみ、上記動力発生器の異常を判定することを特徴とする請求項11または14に記載の異常検知装置。
【請求項16】
異常検知装置の動作状態取得部が、車両が備える動力発生器の動作状態を示す動力関連状態情報を取得するステップと、
上記異常検知装置の他状態取得部が、上記動力発生器において上記動作状態に応じて生じる騒音とは別に、上記動力発生器とは異なる場所で発生し得る他音の要因に関する状態を示す他音関連状態情報を取得するステップと、
上記異常検知装置の騒音特性情報生成部が、上記動力発生器において上記動作状態に応じて生じる騒音の特性を示す騒音特性情報を生成するステップと、
上記異常検知装置の騒音特性情報記録部が、上記騒音特性情報生成部により生成された上記騒音特性情報を、上記動力関連状態情報および上記他音関連状態情報に関連付けて記憶媒体に記憶させるステップと、
上記異常検知装置の騒音特性情報取得部が、上記動作状態取得部により取得された現在の動力関連状態情報および上記他状態取得部により取得された現在の他音関連状態情報に関連付けて上記記憶媒体に記憶されている上記騒音特性情報を取得するステップと、
上記異常検知装置の異常判定部が、上記騒音特性情報生成部により生成された現在の騒音特性情報と、上記騒音特性情報取得部により上記記憶媒体から取得された過去の騒音特性情報とを比較し、その比較結果に基づいて上記動力発生器の異常を判定するステップと、
上記異常検知装置の異常報知部が、上記異常判定部により上記動力発生器の異常があると判定された場合に報知を行うステップとを有する
ことを特徴とする異常検知方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、異常検知装置および異常検知方法に関し、特に、車両の動力発生器の異常を検知するための装置および方法に用いて好適なものである。
【背景技術】
【0002】
近年、複数人の会員ユーザで特定の車を共有して利用するカーシェアリングが普及してきている。カーシェアリングでは、ユーザは、所望のタイミングで共有車を借り受けることができ、また、所望のタイミングで共有車を返却することができる。今後、車は所有からシェアリングへという流れが加速することも予想されている。
【0003】
所有車の場合、ユーザが日常的に同じ車両を繰り返し使用しているため、動力発生器(ガソリン車やハイブリッド車等の場合はエンジン、電気自動車やハイブリッド車等の場合やモータ)から発する音(以下、動力音という)がいつもと違うことを感知して、早めに点検に出すなど大きな故障を未然に防ぐための対処を行うことが可能であった。これに対し、共有車の場合、これを一時的に利用しているに過ぎないユーザは、現在の動力音を以前の動力音と比較することができないため、動力発生器の異音に気付きにくいという問題があった。
【0004】
なお、エンジンの不調を見逃すことなく的確に診断できるようにした技術が知られている(例えば、特許文献1参照)。この特許文献1には、記憶しておいた過去の始動エンジン音と現在の始動エンジン音とを比較して、所定の誤差内で一致しない場合に、エンジン関連の部位(バッテリまたはスタータ、オルタネータ)に異常があると判断することが開示されている。
【0005】
また、特許文献2には、エンジン騒音に対して逆位相のキャンセル音をスピーカから出力することによって騒音を制御する装置が開示されている。この特許文献2に記載の騒音制御装置は、エンジンパルスを基準信号としてキャンセル信号を形成する適応型フィルタと、予め用意されているエンジン回転数に対応した所定基準値に基づき、適応型フィルタの騒音制御の効果低減を判断して警告する効果低減判断部とを備える。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】特開平4-363641号公報
【文献】特許第3522018号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
上記特許文献1に記載の技術を共有車に適用すれば、エンジンの異常を検知してユーザに報知することが可能である。しかしながら、特許文献1に記載の技術では、エンジンの始動音を対象として異常を検知していて、走行中のエンジン音を用いていないため、エンジンの始動に関連する限られた部位(バッテリまたはスタータ、オルタネータ)の異常しか検知できないという問題があった。
【0008】
本発明は、このような問題を解決するために成されたものであり、同じユーザにより日常的に繰り返し使用されることのない車両においても、動力発生器の始動に関連する部位に限らず、動力発生器について生じる異常を検知できるようにすることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記した課題を解決するために、本発明では、車両が備える動力発生器において動作状態に応じて生じる騒音の特性を示す騒音特性情報を生成するとともに、動力発生器の動作状態を示す動力関連状態情報と、動力発生器とは異なる場所で発生し得る他音の要因に関する状態を示す他音関連状態情報とを取得し、騒音特性情報を動力関連状態情報および他音関連状態情報に関連付けて記憶媒体に記憶させる。そして、現在の動力関連状態情報および現在の他音関連状態情報に関連付けて記憶媒体に記憶されている過去の騒音特性情報を取得し、現在の騒音特性情報と過去の騒音特性情報とを比較することによって動力発生器の異常を判定し、異常があると判定された場合に報知を行うようにしている。
【発明の効果】
【0010】
上記のように構成した本発明によれば、動力発生器の騒音特性情報、動力発生器の動作状態を示す動力関連状態情報、および、動力発生器とは異なる場所で発生し得る他音の要因に関する状態を示す他音関連状態情報は何れも、動力発生器の始動時であるか車両の走行中であるかを問わず得られる情報であり、これらの情報に基づいて、同じ状態の下で現在および過去に生成された騒音特性情報の比較によって動力発生器の異常が判定される。このため、同じユーザにより日常的に繰り返し使用されることのない車両においても、動力発生器の始動に関連する部位に限らず、動力発生器について生じる異常を検知することができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【
図1】第1の実施形態による異常検知装置の機能構成例を示すブロック図である。
【
図2】第1の実施形態による打消音生成部の構成例を示す図である。
【
図3】第1の実施形態による騒音特性情報記憶部の記憶内容を模式的に示す図である。
【
図4】第1の実施形態による異常検知装置の動作例を示すフローチャートである。
【
図5】第2の実施形態による異常検知装置の一部の機能構成例を示す図である。
【
図6】第3の実施形態による異常検知装置の機能構成例を示す図である。
【
図7】第3の実施形態による打消音生成部の構成例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
(第1の実施形態)
以下、本発明の第1の実施形態を図面に基づいて説明する。
図1は、第1の実施形態による異常検知装置1の機能構成例を示すブロック図である。第1の実施形態による異常検知装置1は、車両に搭載される。特に、複数人の会員ユーザで共有して利用される共有車に搭載して好適なものである。
【0013】
図1に示すように、第1の実施形態による異常検知装置1は、機能構成として、動作状態取得部11、打消音生成部12、他状態取得部13、騒音特性情報生成部14、騒音特性情報記録部15、騒音特性情報取得部16、異常判定部17および異常報知部18を備えている。また、本実施形態の異常検知装置1は、記憶媒体として、騒音特性情報記憶部10を備えている。
【0014】
上記各機能ブロック11~18は、ハードウェア、DSP(Digital Signal Processor)、ソフトウェアの何れによっても構成することが可能である。例えばソフトウェアによって構成する場合、上記各機能ブロック11~18は、実際にはコンピュータのCPU、RAM、ROMなどを備えて構成され、RAMやROM、ハードディスクまたは半導体メモリ等の記録媒体に記憶されたプログラムが動作することによって実現される。
【0015】
動作状態取得部11は、車両が備える動力発生器の動作状態を示す動力関連状態情報を取得する。エンジン(内燃機関)を搭載したガソリン車の場合、動力発生器はエンジンである。この場合、動作状態取得部11は、動力関連状態情報として、エンジン回転数情報を取得する。具体的に、動作状態取得部11は、車両が搭載しているエンジン回転数計測器(タコメータ)により計測されるエンジン回転数を、CAN(Controller Area Network)を介してECU(Electronic Control Unit)から取得する。
【0016】
また、電気によりモータを駆動して動力を得ることができるようになされた電気自動車の場合、動力発生器はモータである。この場合、動作状態取得部11は、動力関連状態情報として、モータ振動情報を取得する。具体的に、動作状態取得部11は、車両が搭載しているモータ振動検出センサにより計測されるモータ振動の波形情報を、CANを介してECUから取得する。なお、モータ振動の波形情報に代えて、モータの回転数を取得するようにしてもよい。
【0017】
また、エンジンおよびモータの2つの動力源を持つハイブリッド車の場合、動力発生器はエンジンおよびモータである。この場合、動作状態取得部11は、動力関連状態情報として、エンジン回転数情報と、モータ振動の波形情報またはモータ回転数情報とを取得する。
【0018】
打消音生成部12は、動作状態取得部11により取得された動力関連状態情報をもとに、動力発生器において生じる動作状態に応じた騒音に対して付与すべき打ち消し音を生成する。動作状態取得部11により取得された動力関連状態情報は、打ち消し音を生成する際の参照情報として用いる。動力発生器において生じる動作状態に応じた騒音とは、エンジン回転数に応じたエンジンノイズ、モータ振動またはモータ回転数に応じたモータノイズをいう。また、打ち消し音とは、騒音と同じ振幅で逆位相の波形から成る音をいう。
【0019】
図2は、打消音生成部12の一構成例を示す図である。
図2に示すように、打消音生成部12は、コントローラ21、スピーカ22およびマイク23を備えている。スピーカ22は、騒音源である動力発生器100から大気に放出される騒音と同じ振幅および逆位相の打ち消し音を出力する。マイク23は、騒音と打ち消し音との干渉結果である残留音を誤差信号として検出する。
【0020】
コントローラ21は、適応型フィルタ(ADF)を備えて構成され、この適応型フィルタに対し、動作状態取得部11により取得される動力関連状態情報(エンジン回転数、モータ振動またはモータ回転数)を参照情報として入力するとともに、マイク23により検出される残留音をフィードバック信号として入力する。そして、残留音ができるだけゼロに近づくようにフィルタ係数を調整することにより、参照情報に基づいて特定される周波数帯域の騒音と同じ振幅および逆位相の打ち消し音を生成する。
【0021】
動力発生器100から発生する騒音は、その動作状態によって変わる。具体的には、動力発生器100の動作状態に応じた周波数帯域において、他の周波数帯域に比べて大きな振幅の騒音が発生する。コントローラ21は、この動作状態に応じた周波数帯域において強く発生する騒音と同じ振幅および逆位相の打ち消し音を生成してスピーカ22に出力することにより、動力発生器100から大気に放出された騒音を低減する。
【0022】
なお、動力発生器100の動作状態に応じた周波数帯域は、エンジン回転数またはモータ回転数を周波数に換算するための関数に基づいて特定することが可能である。あるいは、エンジン回転数またはモータ回転数と周波数とを関連付けて記憶したテーブル情報を参照することによって、動力発生器100の動作状態に応じた周波数帯域を特定するようにしてもよい。動力関連状態情報がモータ振動の波形情報の場合は、これをDFT(discrete Fourier transform)などによって周波数情報に変換し、最も振幅の大きい周波数帯を、動力発生器100の動作状態に応じた周波数帯域として特定することが可能である。なお、DFTの一例として、FFT(fast Fourier transform)処理を行ってもよい。
【0023】
他状態取得部13は、動力発生器100においてその動作状態に応じて生じる騒音とは別に、動力発生器100とは異なる場所で発生し得る他音の要因に関する状態を示す他音関連状態情報を取得する。動力発生器100とは異なる場所で騒音とは別に発生し得る他音は、例えばロードノイズである。ロードノイズは、車両の走行中、路面の刺激によって車室内に発生する騒音である。すなわち、路面の凹凸によってタイヤが弾性振動し、その振動が車体に伝達されて騒音となるものである。
【0024】
ロードノイズがどの周波数帯域に大きな振幅を有するかは、車速による。そこで、他状態取得部13は、ロードノイズの要因に関する状態を示す他音関連状態情報として、車速に関連する車速関連情報を取得する。車速関連情報は、例えば車両に搭載された速度計により計測される車速情報である。あるいは、車輪に設置された加速度センサにより検出される車輪回転数情報を車速関連情報として取得するようにしてもよい。他状態取得部13は、この車速関連情報を、CANを介してECUから取得する。
【0025】
また、動力発生器100とは異なる場所で騒音とは別に発生し得る他音は、例えば風切り音である。風切り音は、車両の走行中に生じる車外の空気の流れによって発生する騒音である。走行中の車両では、車両の前面に風が当たって左右に流れ、左右に流れた風と進行方向に発生した風とが衝突することによって渦を生じ、その渦が車両側面の窓に当たることで風切り音が発生する。走行時に窓を開けると、風切り音はより大きく不快な騒音となる。
【0026】
風切り音がどの程度の振幅を有するかは、窓の開度による。そこで、他状態取得部13は、風切り音の要因に関する状態を示す他音関連状態情報として、窓の開度(窓が開いているか否か、どの程度開いているか)を示す窓開度情報を取得する。窓開度情報は、パワーウィンドウの動作を制御するECUからCANを介して取得する。
【0027】
また、動力発生器100とは異なる場所で騒音とは別に発生し得る他音は、例えば乗員の会話音である。他状態取得部13は、会話音が発生する要因に関する状態を示す他音関連状態情報として、乗員の数を示す乗員数情報を取得する。乗員の数は、種々の方法によって検出することが可能である。例えば、車内に設置したカメラによって車内を撮影し、その撮影画像を解析することによって乗員数を検出することが可能である。あるいは、座席ごとに設置した着座センサによる着座の検出結果に基づいて乗員数を検出することも可能である。
【0028】
他状態取得部13は、ロードノイズの要因に関する車速関連情報、風切り音の要因に関する窓開度情報、会話音の要因に関する乗員数情報の少なくとも1つを取得する。ただし、これらの情報を全て取得するのが好ましい。その理由は以下の通りである。
図2に示したマイク23には、動力発生器100から大気に放出される騒音だけでなく、車内に発生する他音も入力される。よって、マイク23に入力される残留音をもとにコントローラ21にて生成される打ち消し音は、他音の影響も受けて変動する。そして、後述するように本実施形態では、この打ち消し音を用いて動力発生器100の異常を判定する。そのため、どのような他音が発生している環境下で生成された打ち消し音であるかをより正確に把握しておくことが、より正確な判定を行う上において重要となる。
【0029】
騒音特性情報生成部14は、動力発生器100においてその動作状態に応じて生じる騒音の特性を示す騒音特性情報を生成する。本実施形態では、騒音特性情報生成部14は、打消音生成部12により生成された打ち消し音の特性を示す打消音特性情報を騒音特性情報として生成する。
【0030】
具体的には、騒音特性情報生成部14は、打消音生成部12により生成された打ち消し音について、動作状態取得部11により取得された動力関連状態情報により特定される周波数における強度情報(振幅)を、騒音特性情報として生成する。上述の通り、打ち消し音は、その振幅が騒音の振幅と同じとなるように生成されている。よって、打ち消し音を周波数変換して得られる周波数スペクトル上の振幅を、騒音の強度情報、つまり騒音の特性を示す騒音特性情報とみなすことが可能である。
【0031】
例えば、騒音特性情報生成部14は、打消音生成部12により生成された打ち消し音に対してDFT処理を行うことにより、周波数と振幅との関係を表した周波数スペクトルを生成する。そして、生成した周波数スペクトルにおいて、動力関連状態情報(エンジン回転数、モータ振動またはモータ回転数)により特定される周波数における振幅(打ち消し音の強度情報)を、騒音特性情報として生成する。なお、DFTの一例として、FFT処理を行ってもよい。
【0032】
騒音特性情報記録部15は、騒音特性情報生成部14により生成された騒音特性情報(打消音特性情報)を、動作状態取得部11により取得された動力関連状態情報および他状態取得部13により取得された他音関連状態情報に関連付けて騒音特性情報記憶部10に記憶させる。
【0033】
図3は、騒音特性情報記憶部10において動力関連状態情報および他音関連状態情報に関連付けて記憶される騒音特性情報を模式的に示す図である。なお、この
図3は、騒音特性情報がどのように記憶されるかを説明するために示したものであり、必ずしもこのよう構造のテーブル情報として記憶することを必須とするものではない。
【0034】
図3に示すように、騒音特性情報記録部15は、動力関連状態情報により特定される動力発生器100の騒音の周波数を複数の区間に分類し、区間ごとに分けて騒音特性情報を騒音特性情報記憶部10に記憶させる。すなわち、動力発生器100の騒音が仮に20~500Hzの周波数帯域において生じるとした場合、この周波数帯域を所定周波数ごと(例えば、10Hzごと)に分けて、動力関連状態情報に基づき20~30Hzの周波数と特定された打ち消し音の振幅、動力関連状態情報に基づき30~40Hzの周波数と特定された打ち消し音の振幅、・・・といった具合に、打ち消し音の振幅を複数の周波数区間ごとに分けて記憶させる。これが、騒音特性情報を動力関連状態情報に関連付けて記憶させるという意味である。
【0035】
また、
図3に示すように、騒音特性情報記録部15は、車速関連情報で示される車速を複数レベルに分類し、窓開度情報で示される窓の開度を複数レベルに分類し、乗員数情報で示される乗員数を複数レベルに分類した上で、他音関連状態情報の各分類の異なる組み合わせごとに分けて、騒音特性情報を騒音特性情報記憶部10に記憶させる。
図3の例では、車速を0~30km/h、30~60km/h、60km/h超の3つのレベルに分類している。また、窓の開度を0%(閉状態)、0~10%、10%超の3つのレベルに分類している。また、乗員数を1名、2名以上の2つのレベルに分類している。
図3において○印を付しているのは、車速、窓の開度、乗員数に関して該当する分類を示している。すなわち、○印を付した他音関連状態情報の複数パターンの組み合わせごとに分けて、打ち消し音の振幅を騒音特性情報として記憶させる。これが、騒音特性情報を他音関連状態情報に関連付けて記憶させるという意味である。
【0036】
なお、
図3に示した分類の内容は一例であり、本発明はこれに限定されるものではない。例えば、ロードノイズに関しては、走行中の道路の路面状況(例えば、舗装道路か、未舗装道路かなど)を分類の要素に加えるようにしてもよい。路面状況に関する情報は、例えばナビゲーション装置の地図データから取得することが可能である。風切り音に関しては、窓が開いている場所を分類の要素に加えるようにしてもよい。会話音に関しては、乗員が居る場所を分類の要素に加えるようにしてもよい。
【0037】
騒音特性情報記録部15は、例えば、騒音特性情報を一定の周期で繰り返し騒音特性情報記憶部10に記憶させる。ただし、繰り返し騒音特性情報記憶部10に記憶させる騒音特性情報は、異常判定部17において動力発生器100に異常がないと判定されたときに判定対象として使用された騒音特性情報のみとする。これにより、騒音特性情報記憶部10には、動力発生器100に異常がないと判定されたときの騒音特性情報が、
図3のように動力関連状態情報および他音関連状態情報に関連付けられた状態で徐々に蓄積されていく。なお、一定の周期で生成された騒音特性情報の全てを騒音特性情報記憶部10に保存し続けることを必須とするものではない。例えば、騒音特性情報記録部15により記録された時点から所定時間が経過した騒音特性情報については騒音特性情報記憶部10から削除するようにしてもよい。
【0038】
騒音特性情報記録部15は、騒音特性情報を一定の周期で繰り返し騒音特性情報記憶部10に記憶させることに代えて、所定の事象の発生をトリガとして、その事象が発生したタイミングにおける騒音特性情報を騒音特性情報記憶部10に記憶させるようにしてもよい。例えば、動力関連状態情報から特定される騒音の周波数が属する区間が変化したこと、または、車速、窓の開度、乗員数がそれぞれ該当する分類の組み合わせのパターンが変化したことをトリガとして、その変化が生じた後に打消音生成部12により生成された打ち消し音に基づいて特定される騒音特性情報を騒音特性情報記憶部10に記憶させるようにしてもよい。
【0039】
騒音特性情報取得部16は、動作状態取得部11により取得された現在の動力関連状態情報および他状態取得部13により取得された現在の他音関連状態情報に基づいて、当該現在の動力関連状態情報および他音関連状態情報に関連付けて騒音特性情報記憶部10に記憶されている過去の騒音特性情報を取得する。例えば、動作状態取得部11により取得された現在の動力関連状態情報により特定される動力発生器100の騒音の周波数が20~30Hzの範囲内にあり、他状態取得部13により取得された現在の他音関連状態情報により車速が0~30km/h、窓の開度が0%(閉状態)、乗員数が1名という組み合わせのパターンに該当する場合、騒音特性情報取得部16は、その騒音の周波数の範囲で車速と窓の開度と乗員数との組み合わせに関連付けて記憶されている過去の複数回分の騒音特性情報を騒音特性情報記憶部10から取得する。
【0040】
異常判定部17は、動力発生器100において動作状態に応じて生じる現在の騒音の特性を示す情報として騒音特性情報生成部14により生成された現在の騒音特性情報と、騒音特性情報取得部16により騒音特性情報記憶部10から取得された過去の騒音特性情報とを比較し、その比較結果に基づいて動力発生器100の異常を判定する。ガソリン車の場合、異常判定部17はエンジンの異常を判定する。電気自動車の場合、異常判定部17はモータの異常を判定する。ハイブリッド車の場合、異常判定部17はエンジンおよびモータの異常を判定する。
【0041】
本実施形態において、異常判定部17は、騒音特性情報生成部14により生成された打ち消し音に関する現在の打消音特性情報(打ち消し音の振幅を示す強度情報)と、騒音特性情報取得部16により騒音特性情報記憶部10から取得された過去の打消音特性情報(同じく打ち消し音の振幅を示す強度情報)とを比較し、その比較結果に基づいて動力発生器100の異常を判定する。
【0042】
例えば、異常判定部17は、騒音特性情報記憶部10から取得された過去の複数回分の打消音特性情報で示される打ち消し音の振幅について平均値を算出する。そして、現在の騒音特性情報である打ち消し音の振幅と、上記のように過去の複数回分の騒音特性情報から算出した打ち消し音の振幅の平均値とを比較し、双方の振幅が所定の誤差内で一致しない場合に、動力発生器100の異常があると判定する。なお、ここでは異常判定部17が過去の打ち消し音の振幅の平均値を算出することとしたが、騒音特性情報記録部15が平均値を算出して、当該平均値を騒音特性情報記憶部10に記憶させるようにしてもよい。
【0043】
異常報知部18は、異常判定部17により動力発生器100の異常があると判定された場合に報知を行う。例えば、異常報知部18は、車両のインストルメントパネルまたは車内に設置されたディスプレイに対して警告の表示を行う。警告の表示と共に、車内に設置されたスピーカ22から警告音を鳴らすようにしてもよい。また、異常報知部18は、インターネットまたは携帯電話網などの通信ネットワークを介して、共有車の運用を管理する管理センタの端末に通報を行うようにしてもよい。この通報は、例えば、電子メール、ショートメール、Webメールなどの手段を用いて行うことが可能である。あるいは、異常報知部18が管理センタのサーバに対して通報を行い、当該サーバが管理画面に警告表示を行うようにして、この管理画面を管理者の端末から閲覧できるようにしてもよい。
【0044】
図4は、以上のように構成した第1の実施形態による異常検知装置1の動作例を示すフローチャートである。
図4に示すフローチャートは、異常検知装置1の電源がオンとされたときに開始する。
【0045】
まず、異常検知装置1は、例えば一定の周期で騒音特性情報を騒音特性情報記憶部10に記録するタイミングになったか否かを判定する(ステップS1)。騒音特性情報を記録するタイミングになった場合、動作状態取得部11は、動力発生器100の動作状態を示す動力関連状態情報(ガソリン車の場合はエンジン回転数、電気自動車の場合はモータ振動またはモータ回転数、ハイブリッド車の場合はエンジン回転数と、モータ振動またはモータ回転数)を取得する(ステップS2)。
【0046】
また、他状態取得部13は、動力発生器100とは異なる場所で発生し得る他音の要因に関する状態を示す他音関連状態情報(ロードノイズの要因に関する車速関連情報、風切り音の要因に関する窓開度情報、会話音の要因に関する乗員数情報の少なくとも1つ)を取得する(ステップS3)。
【0047】
次いで、打消音生成部12は、ステップS2で動作状態取得部11により取得された動力関連状態情報をもとに、動力発生器100において生じる動作状態に応じた騒音に対して付与すべき打ち消し音を生成する(ステップS4)。そして、騒音特性情報生成部14は、打消音生成部12により生成された打ち消し音の特性を示す打消音特性情報(動力関連状態情報により特定される周波数における打ち消し音の振幅)を、動力発生器100の動作状態に応じて生じる騒音の特性を示す騒音特性情報として生成する(ステップS5)。
【0048】
また、騒音特性情報取得部16は、ステップS2で動作状態取得部11により取得された現在の動力関連状態情報と、ステップS3で他状態取得部13により取得された現在の他音関連状態情報とに基づいて、当該現在の動力関連状態情報および他音関連状態情報に関連付けて騒音特性情報記憶部10に記憶されている過去の騒音特性情報を取得する(ステップS6)。
【0049】
そして、異常判定部17は、ステップS5で騒音特性情報生成部14により生成された現在の騒音特性情報と、ステップS6で騒音特性情報取得部16により騒音特性情報記憶部10から取得された過去の騒音特性情報とを比較し、その比較結果に基づいて動力発生器100の異常を判定する(ステップS7)。
【0050】
ここで、動力発生器100に異常がないと異常判定部17により判定された場合、騒音特性情報記録部15は、ステップS5で騒音特性情報生成部14により生成された騒音特性情報を、ステップS2で動作状態取得部11により取得された動力関連状態情報およびステップS3で他状態取得部13により取得された他音関連状態情報と関連付けて騒音特性情報記憶部10に記憶させる(ステップS8)。
【0051】
一方、動力発生器100に異常があると異常判定部17により判定された場合、異常報知部18は、車内または通信ネットワークを通じて接続された管理センサに対して所定の報知を行う(ステップS9)。ステップS8またはステップS9の処理の後、異常検知装置1は、電源がオフにされたか否かを判定する(ステップS10)。電源がオフにされていない場合、処理はステップS1に戻る。一方、電源がオフにされた場合、
図4に示すフローチャートの処理を終了する。
【0052】
なお、ステップS2,S4における打ち消し音の生成処理は、
図4に示すフローチャートとは非同期で、記録タイミングになったか否かを問わず常時行うようにしてもよい。
【0053】
以上詳しく説明したように、第1の実施形態では、動力発生器100の騒音特性情報を騒音特性情報生成部14にて生成するとともに、動力発生器100の動作状態を示す動力関連状態情報と、動力発生器100とは異なる場所で発生し得る他音の要因に関する状態を示す他音関連状態情報とを動作状態取得部11および他状態取得部13により取得し、騒音特性情報を動力関連状態情報および他音関連状態情報に関連付けて騒音特性情報記憶部10に記憶させる。そして、騒音特性情報生成部14により生成される現在の騒音特性情報と、現在の動力関連状態情報および現在の他音関連状態情報に関連付けて騒音特性情報記憶部10に記憶されている過去の騒音特性情報とを比較することによって動力発生器100の異常を判定し、異常があると判定された場合に報知を行うようにしている。
【0054】
ここで、動力発生器100の騒音特性情報、動力発生器100の動作状態を示す動力関連状態情報、および、動力発生器100とは異なる場所で発生し得る他音の要因に関する状態を示す他音関連状態情報は何れも、動力発生器100の始動時であるか車両の走行中であるかを問わず得られる情報であり、これらの情報に基づいて、同じ状態の下で現在および過去に生成された騒音特性情報の比較によって動力発生器100の異常が判定される。このため、第1の実施形態によれば、同じユーザにより日常的に繰り返し使用されることのない共有車においても、動力発生器100の始動に関連する部位に限らず、動力発生器100について生じる異常を検知することができる。
【0055】
なお、上記第1の実施形態では、打消音生成部12により生成された打ち消し音について騒音特性情報生成部14により生成された打消音特性情報を騒音特性情報として用いる例について説明したが、本発明はこれに限定されない。例えば、騒音特性情報生成部14は、打消音生成部12が打ち消し音を生成する際に設定した制御情報を騒音特性情報として生成するようにしてもよい。打消音生成部12が打ち消し音を生成する際に設定した制御情報として、適応型フィルタのフィルタ係数を用いてもよい。これは、次に述べる第2の実施形態も同様である。
【0056】
上述の通り、打ち消し音は、その振幅が騒音の振幅と同じとなるように生成されているため、打ち消し音の振幅を、騒音の特性を示す騒音特性情報とみなすことが可能である。また、騒音と同じ振幅の打ち消し音を生成する際に設定した制御情報は、その打ち消し音に紐付く情報と言える。よって、打消音生成部12が打ち消し音を生成する際に設定した制御情報も、騒音の特性を示す騒音特性情報とみなすことが可能である。
【0057】
このように、打消音生成部12の制御情報を騒音特性情報として用いる場合、異常判定部17は、騒音特性情報生成部14により生成された現在の制御情報と、騒音特性情報取得部16により騒音特性情報記憶部10から取得された過去の制御情報とを比較し、その比較結果に基づいて動力発生器100の異常を判定する。
【0058】
(第2の実施形態)
次に、本発明の第2の実施形態を図面に基づいて説明する。
図5は、第2の実施形態による異常検知装置1Aの一部の機能構成例を示す図である。
図5に示すように、第2の実施形態による異常検知装置1Aは、機能構成として、
図1に示した騒音特性情報生成部14および異常判定部17に代えて、騒音特性情報生成部14Aおよび異常判定部17Aを備えている。それ以外の機能構成は、
図1に示した各機能構成と同様である。
【0059】
騒音特性情報生成部14Aは、コントローラ21により生成された打ち消し音について、動作状態取得部11により取得された動力関連状態情報により特定される周波数における強度情報および位相情報を騒音特性情報として生成する。また、騒音特性情報生成部14Aは、マイク23により検出された残留音について、動作状態取得部11により取得された動力関連状態情報により特定される周波数における位相情報を騒音特性情報として生成する。
【0060】
例えば、騒音特性情報生成部14Aは、コントローラ21により生成された打ち消し音に基づいて、周波数と振幅との関係を表した周波数スペクトルを生成するとともに、周波数と位相との関係を表した周波数スペクトルを生成する。さらに、コントローラ21は、生成した2つの周波数スペクトルにおいて、動力関連状態情報により特定される周波数における振幅および位相を騒音特性情報として生成する。また、騒音特性情報生成部14Aは、残留音について周波数と位相との関係を表した周波数スペクトルを生成し、動力関連状態情報により特定される周波数における位相を騒音特性情報として生成する。
【0061】
異常判定部17Aは、以下に説明する第1の判定および第2の判定を行う。第1の判定は、第1の実施形態で説明した判定と同じである。すなわち、異常判定部17Aは、コントローラ21により生成された打ち消し音から現在の騒音特性情報として騒音特性情報生成部14Aにより生成された打ち消し音の強度情報(振幅)と、騒音特性情報取得部16により騒音特性情報記憶部10から過去の騒音特性情報として取得された打ち消し音の強度情報(振幅)とを比較し、振幅が所定の誤差内で一致するか否かの第1の判定を行う。
【0062】
また、異常判定部17Aは、現在の騒音特性情報として騒音特性情報生成部14Aにより生成された打ち消し音の位相情報と、騒音特性情報生成部14Aにより残留音について生成された位相情報とを比較し、位相が所定の誤差内で一致するか否かの第2の判定を行う。
【0063】
そして、異常判定部17Aは、第1の判定において振幅が所定の誤差内で一致しないと判定され、かつ、第2の判定において位相が所定の誤差内で一致すると判定された場合に、動力発生器100の異常があると判定する。第1の判定において振幅が所定の誤差内で一致しない場合であっても、第2の判定において位相が所定の誤差内で一致しない場合は、動力発生器100とは異なる場所で発生している騒音の影響を受けて振幅がずれている可能性があるため、この場合に異常判定部17Aは動力発生器100に異常があるとは判定しない。
【0064】
以上のように構成した第2の実施形態によれば、動力発生器100に異常があるか否かの判定をより正確に行うことができる。
【0065】
(第3の実施形態)
次に、本発明の第3の実施形態を図面に基づいて説明する。
図6は、第3の実施形態による異常検知装置1Bの機能構成例を示す図である。この
図6において、
図1に示した符号と同一の符号を付したものは同一の機能を有するものであるので、ここでは重複する説明を省略する。
【0066】
図6に示すように、第3の実施形態による異常検知装置1Bは、機能構成として、
図1に示した打消音生成部12および騒音特性情報生成部14に代えて、打消音生成部12Bおよび騒音特性情報生成部14Bを備えている。
【0067】
騒音特性情報生成部14Bは、動作状態取得部11により取得された動力関連状態情報により特定される周波数における騒音の強度情報を騒音特性情報として生成する。上述した第1の実施形態による騒音特性情報生成部14および第2の実施形態による騒音特性情報生成部14Aでは、打ち消し音の強度情報を騒音特性情報として生成していた。これに対し、第3の実施形態による騒音特性情報生成部14Bは、動力発生器100の騒音そのものの強度情報を騒音特性情報として生成する。
【0068】
打消音生成部12Bは、
図2と同様に適応型フィルタを用いた構成において、ロードノイズ、風切り音、会話音を打ち消すような打ち消し音を生成する。
図7は、打消音生成部12Bの構成例を示す図である。
図7に示すように、打消音生成部12Bは、コントローラ31、スピーカ32およびマイク33を備えている。第3の実施形態では、マイク33として、例えば、音が到来する方向を検出可能に構成された指向性マイクを用いる。
【0069】
コントローラ31は、他状態取得部13により取得される他音関連状態情報に基づき特定される音の周波数や、マイク33により検出される音の到来方向に基づいて、マイク33から入力される音からロードノイズ、風切り音、会話音を分離し、それぞれを打ち消すような打ち消し音を生成し、スピーカ32から出力する。
【0070】
ロードノイズに関しては、他状態取得部13により取得される車速関連情報に基づいて、車速により特定される周波数におけるロードノイズを打ち消すような打ち消し音を生成する。風切り音に関しては、例えば、開いている窓の場所をECUからの情報に基づいて特定し、その方向からマイク33に入力される音を分離して、当該分離した風切り音を打ち消すような打ち消し音を生成する。会話音に関しては、例えば、車内に設置したカメラにより撮影された画像を解析することによって、会話をしている乗員の居る方向を特定し、その方向からマイク33に入力される音を分離して、当該分離した会話音を打ち消すような打ち消し音を生成する。
【0071】
ロードノイズ、風切り音、会話音を打ち消すような打ち消し音をスピーカ32から出力することにより、マイク33により検出される残留音は、動力発生器100にて発生する騒音に相当する音となる。騒音特性情報生成部14Bは、マイク33により残留音として検出される動力発生器100の騒音について、動作状態取得部11により取得された動力関連状態情報により特定される周波数における強度情報(振幅)を、騒音特性情報として生成する。
【0072】
なお、ここで示した騒音の抽出方法は一例に過ぎず、これに限定されるものではない。
【0073】
第3の実施形態において、騒音特性情報記録部15は、騒音特性情報生成部14Bにより生成された騒音の強度情報(振幅)を騒音特性情報記憶部10に記憶させる。異常判定部17は、騒音特性情報生成部14Bにより生成された現在の騒音特性情報である騒音の振幅と、騒音特性情報取得部16により騒音特性情報記憶部10から取得された過去の騒音特性情報である騒音の振幅とを比較し、騒音の振幅が所定の誤差内で一致するか否かを判定し、一致しない場合に、動力発生器100に異常があると判定する。
【0074】
以上のように構成した第3の実施形態では、ロードノイズ、風切り音、会話音の打ち消し音を出力することによって動力発生器100の騒音のみがマイク33で検出されるようにして、騒音そのものから騒音特性情報を生成しているので、他音の影響を極力排除した状態で騒音特性情報を生成することができ、動力発生器100の異常の有無をより正確に判定することが可能となる。
【0075】
なお、上記実施形態では、
図3に例示したように、ロードノイズの要因に関する車速関連情報、風切り音の要因に関する窓開度情報、会話音の要因に関する乗員数情報をそれぞれ複数レベルに分類し、各分類の組み合わせに応じたパターンごとに騒音特性情報を記録する例について説明したが、本発明はこれに限定されない。例えば、車速関連情報のみを複数レベルに分類し、全ての窓が閉じていることが窓開度情報に基づき検出され、かつ、乗員が会話をしていないことが例えばカメラの撮影画像の解析によって検出されたときにのみ、騒音特性情報を動力関連状態情報および車速関連情報に関連付けて騒音特性情報記憶部10に記録するようにしてもよい。
【0076】
この場合、異常判定部17(17A)は、全ての窓が閉じていて、かつ、乗員が会話をしていないことが検出されたときにのみ、騒音特性情報生成部14により生成される現在の騒音特性情報と、現在の車速関連情報に基づいて騒音特性情報取得部16により騒音特性情報記憶部10から取得される過去の騒音特性情報とを比較して動力発生器100の異常を判定する。このようにすれば、風切り音および乗員の会話音の影響を極力排除した状態で騒音特性情報を生成し、動力発生器100の異常の有無をより正確に判定することが可能となる。
【0077】
なお、全ての窓が閉じていることが窓開度情報に基づき検出されたときにのみ、動力関連状態情報および他音関連状態情報(車速関連情報および乗員数情報)に関連付けて騒音特性情報を騒音特性情報記憶部10に記録するようにし、全ての窓が閉じていることが検出されたときにのみ、動力発生器100の異常を判定するようにしてもよい。
【0078】
また、乗員が会話をしていないことが検出されたときにのみ、動力関連状態情報および他音関連状態情報(車速関連情報および窓開度情報)に関連付けて騒音特性情報を騒音特性情報記憶部10に記録するようにし、乗員が会話をしていないことが検出されたときにのみ、動力発生器100の異常を判定するようにしてもよい。
【0079】
その他、上記第1~第3の実施形態は、何れも本発明を実施するにあたっての具体化の一例を示したものに過ぎず、これらによって本発明の技術的範囲が限定的に解釈されてはならないものである。すなわち、本発明はその要旨、またはその主要な特徴から逸脱することなく、様々な形で実施することができる。
【符号の説明】
【0080】
1,1A,1B 異常検知装置
10 騒音特性情報記憶部
11 動作状態取得部
12,12B 打消音生成部
13 他状態取得部
14,14A,14B 騒音特性情報生成部
15 騒音特性情報記録部
16 騒音特性情報取得部
17,17A 異常判定部
18 異常報知部