(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-05-12
(45)【発行日】2023-05-22
(54)【発明の名称】赤血球内に包摂されたアルギニンデイミナーゼ並びにそれらの癌及びアルギナーゼ-1欠損の治療における使用
(51)【国際特許分類】
A61K 38/50 20060101AFI20230515BHJP
A61K 9/08 20060101ALI20230515BHJP
A61K 9/10 20060101ALI20230515BHJP
A61K 47/02 20060101ALI20230515BHJP
A61K 47/22 20060101ALI20230515BHJP
A61K 47/69 20170101ALI20230515BHJP
A61P 3/00 20060101ALI20230515BHJP
A61K 35/18 20150101ALN20230515BHJP
C12N 5/078 20100101ALN20230515BHJP
C12N 9/78 20060101ALN20230515BHJP
C12N 15/09 20060101ALN20230515BHJP
【FI】
A61K38/50 ZNA
A61K9/08
A61K9/10
A61K47/02
A61K47/22
A61K47/69
A61P3/00
A61K35/18
C12N5/078
C12N9/78
C12N15/09 Z
【外国語出願】
(21)【出願番号】P 2017254383
(22)【出願日】2017-12-28
【審査請求日】2019-11-13
(32)【優先日】2017-08-31
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用 〔ウェブサイトの掲載日〕2017年6月30日 〔ウェブサイトのアドレス〕http://www.queensu.ca/gazette/media/news-release-erytech-collaborates-queens-university-advance-its-platform-field-rare-metabolic 〔ウェブサイトの掲載日〕2017年7月12日 〔ウェブサイトのアドレス〕http://investors.erytech.com/phoenix.zhtml?c=254271&p=irolnewsArticle&ID=2285908
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】507035042
【氏名又は名称】エリテシュ ファルマ
(74)【代理人】
【識別番号】100099759
【氏名又は名称】青木 篤
(74)【代理人】
【識別番号】100123582
【氏名又は名称】三橋 真二
(74)【代理人】
【識別番号】100092624
【氏名又は名称】鶴田 準一
(74)【代理人】
【識別番号】100114018
【氏名又は名称】南山 知広
(74)【代理人】
【識別番号】100117019
【氏名又は名称】渡辺 陽一
(74)【代理人】
【識別番号】100108903
【氏名又は名称】中村 和広
(72)【発明者】
【氏名】エマニュエル デュフール
(72)【発明者】
【氏名】マニュエル ブラン
(72)【発明者】
【氏名】オーレリアン マゾー
【審査官】春田 由香
(56)【参考文献】
【文献】特表2008-538761(JP,A)
【文献】Gay, F. et al.,Arginine deiminase loaded in erythrocytes: a promising formulation for L-arginine deprivation therapy in cancers. [abstract]. In: Proceedings of the 107th Annual Meeting of the American Association for Cancer Research; 2016 Apr 16-20; New Orleans, LA. Philadelphia (PA): AACR,Cancer Research,2016年,Vol.76, No.14 Suppl,Abstract No.4812,doi: 10.1158/1538-7445.AM2016-4812
【文献】Takaku, H. et al.,In vivo anti-tumor activity of arginine deiminase purified from Mycoplasma arginini,International Journal of Cancer,1992年,Vol.51, No.2,p.244-249,doi:10.1002/ijc.2910510213
【文献】Park, I. S. et al.,Arginine deiminase: a potential inhibitor of angiogenesis and tumour growth,British Journal of Cancer,2003年,Vol.89, No.5,p.907-914,doi:10.1038/sj.bjc.6601181
【文献】Sin, Y. Y. et al.,Arginase-1 deficiency,Journal of Molecular Medicine (Berlin, Germany),2015年,Vol.93, No.12,p.1287-1296,doi:10.1007/s00109-015-1354-3
【文献】Ballantyne, L. L. et al.,Liver-specific knockout of arginase-1 leads to a profound phenotype similar to inducible whole body arginase-1 deficiency,Molecular Genetics and Metabolism Reports,2016年,Vol.9,p.54-60,doi:10.1016/j.ymgmr.2016.10.003
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61K 38/00-38/58
A61K 9/00- 9/72
A61K 47/00-47/69
CAplus/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
PubMed
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
赤血球中に包摂されたアルギニンデイミナーゼ及び医薬として許容されるビヒクルを含有する、アルギナーゼ-1欠損の治療に用いるための医薬組成物。
【請求項2】
オスモル濃度270~350 mOsm/lの懸濁物である、請求項1に記載の医薬組成物。
【請求項3】
前記医薬として許容されるビヒクルが、NaCl及びアデニンを含有する保存溶液である、請求項1又は2のいずれか1項に記載の医薬組成物。
【請求項4】
前記アルギニンデイミナーゼがM.アルギニニ(M.arginini)由来である、請求項1~3のいずれか1項に記載の医薬組成物。
【請求項5】
前記アルギニンデイミナーゼが、配列番号1のアミノ酸配列を含むもの、又はその変異体若しくは断片であり、前記変異体又は断片が、配列番号1のアミノ酸配列を有するアルギニンデイミナーゼの生物活性を保持しており、前記変異体又は断片が、配列番号1のアミノ酸配列と90%以上同一であるアミノ酸配列を含む、請求項1~4のいずれか1項に記載の医薬組成物。
【請求項6】
前記アルギニンデイミナーゼが補因子を必要としない、請求項5に記載の医薬組成物。
【請求項7】
前記包摂されたアルギニンデイミナーゼの濃度が0.1~7 mg/mlである、請求項1~6のいずれか1項に記載の医薬組成物。
【請求項8】
体積10~250mlの用量で包装される、請求項1~7のいずれか1項に記載の医薬組成物。
【請求項9】
患者用の1回用量の包摂されたアルギニンデイミナーゼの量が、当該患者の体重1kgあたり包摂されたアルギニンデイミナーゼ0.01~500 mg/kgである、請求項8に記載の医薬組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、治療に用いる赤血球内に包摂されたアルギニンデイミナーゼに関する。特に、アルギナーゼ-1欠損治療におけるその使用に関する。また、赤血球内に包摂されたM.アルギニニ(M.arginini)由来アルギニンデイミナーゼを含有する新規医薬組成物、及びアルギニン依存性癌、特にアルギニン栄養要求性癌、及びアルギナーゼ-1欠損等のアルギニン枯渇が有益であり得る疾患の治療におけるその使用に関する。
【背景技術】
【0002】
アルギニンは半必須アミノ酸である。それは、アルギノコハク酸シンセターゼ及びアルギノコハク酸リアーゼの作用による二段階のシトルリンからの尿素サイクルに従って合成される。アルギニンはアルギナーゼの作用の下でオルニチンに代謝され、オルニチンは、オルニチントランスカルバミラーゼにより触媒される反応によってシトルリンに変換され得る。
【0003】
幾つかの種類の腫瘍細胞はアルギニンの供給を要することが示されており、これは、アルギニン栄養要求性癌というこれらの形態の癌がアルギニン枯渇によって治療できる可能性を示唆している。アルギニン分解酵素のアルギニンデイミナーゼは、グアニジン基の脱アミン化によりアルギニンをシトルリンとアンモニアに加水分解する過程を触媒する。アルギニンデイミナーゼの抗腫瘍活性は、多くの文献の主題となっている。従って、アルギニンデイミナーゼのインビボ活性は、悪性黒色腫及び肝細胞癌に関して、実証されている。しかしながら、アルギニンデイミナーゼ酵素は重大な短所を有する。
【0004】
アルギニンデイミナーゼは哺乳類において生産されないが微生物から取得されるため、哺乳類にとって高度に抗原的な化合物となる。
【0005】
更に、この酵素の哺乳類における半減期は約5時間と非常に短く、効果を発揮するためには毎日高用量で投与しなければならない。
【0006】
癌治療におけるこれらの難点を克服するため、欧州特許EP1874341は、アルギニンデイミナーゼを赤血球内に包摂するという独自のアプローチを報告している。特に、EP1874341は、シュードモナス・アエルギノザ(Pseudomonas aeruginosa)由来のアルギニンデイミナーゼの封入を開示している(10ページ実施例3)。
【0007】
アルギナーゼ-1欠損は、アンモニアの形態の不要な窒素を尿中に排出するための尿素に変換する肝臓内の尿素サイクルの最終段階に影響する希少な遺伝的疾患である。これはアルギニンをオルニチン及び尿素に加水分解する過程を触媒するアルギナーゼ-1酵素の部分的又は完全な欠失をもたらすARG1遺伝子の変異によって起こる(
図1)。
【0008】
アルギナーゼ-1欠損患者は、高アルギニン血症、進行的な神経及び知的障害、持続的な成長遅延及び高アンモニア血症の低頻度エピソードを呈する。
【0009】
現在のところ、アルギナーゼ-1欠損の治療法は存在せず、低タンパク質食及び/又は窒素排出薬による治療結果は通常乏しい。主要な生化学的な特徴は、有毒なレベルのグアニジノ化合物及び一酸化窒素をもたらすアルギニンの蓄積である(Sin et al, PLoS ONE 8(11))。アルギニン及びその代謝産物はアルギナーゼ-1欠損の神経学的形質を引き起こすと疑われるため、治療の合意目標は、低タンパク質食、アミノ酸補給及び窒素排出剤による、血漿アルギニンの減少であった。しかしながら、これらの治療的方策を用いて、アルギナーゼ-1欠損における血漿アルギニンの正常化又は近正常化を達成するのは困難である。
【0010】
アルギナーゼ-1欠損における血漿アルギニンレベルの正常化は困難で、アルギナーゼ酵素療法の使用はこれまで検討されてきた。例えばBurrage et al.は、アルギナーゼ欠損マウスモデルにおける修飾PEG化ヒト組換えアルギナーゼ酵素を検討している(Burrage et al. Human Molecular Genetics, 2015, 24(22))。この酵素は血漿アルギナーゼレベルの減少をもたらしたが、アルギナーゼ欠損マウスの生存率を改善しなかった。これは恐らく高アンモニア血症の持続性のためである。高アンモニア血症は、アルギナーゼ欠損における主要な治療目標である(Burrage et al. Human Molecular Genetics 24(22))。
【0011】
従って、アルギナーゼ欠損における血漿アルギニンレベルの枯渇のための代替的方法の発見は、長年の主要な目標であった。
【0012】
アルギニンデイミナーゼは、以下の反応を触媒する:
【化1】
【0013】
これは平衡反応であり、科学界において、アルギナーゼ-1欠損の治療にアルギニンデイミナーゼを用いることが不可能であることを示唆する科学的意見が存在する。これは以下の理由による:
・この酵素が細菌由来でアレルギー反応を誘導し得る
・アルギニンデイミナーゼにより触媒される反応の産物がシトルリン及びアンモニアである
・シトルリンは変換されてアルギニンに戻り得る(
図1の尿素サイクル参照)及び
・アンモニアはアルギナーゼ-1欠損の関係で問題が有り、患者は高アンモニア血症の症状を有する。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0014】
これらの技術的偏見に対して、本願出願人は、予想外に、赤血球内に包摂したアルギニンデイミナーゼが、アルギニン及びその代謝副産物の毒性の蓄積を減少する新しい治療アプローチとなり得ることを見出し実証した。特に本願出願人は、本願発明の組成物の投与によりマウス中で達成した血清アルギニンレベルの枯渇が高度であり、故に治療的関心が有ることを見出した。更に本願発明者は、アルギナーゼ-1欠損マウスにおける血清アルギニンレベルの枯渇がアンモニアレベルの顕著な変化を伴わないことを実証した。NH3生産及びシトルリンの逆変換によりアルギニンデイミナーゼをアルギナーゼ-1欠損の治療に利用できないという既存の技術的偏見が有ったので、これらの結果は特に驚異的である。
【0015】
赤血球内に包摂できる様々なアルギニンデイミナーゼの中で、出願人は、PK/PDパラメーターの予想外の改善をもたらす特性を有する特定のアルギニンデイミナーゼを同定した。
【0016】
特に、細菌マイコプラズマ・アルギニニ(Mycoplasma arginini)より取得したアルギニンデイミナーゼは、PK/PDパラメーターを改善する。更に、当該マイコプラズマ・アルギニニ由来のアルギニンデイミナーゼは補因子を必要とせず、これは赤血球内区画の内側で活性を発揮するのに望ましい特性である。従って、マイコプラズマ・アルギニニ由来アルギニンデイミナーゼは公知のアルギニンデイミナーゼに対し技術的利点を有し、故に本発明の関係での使用に非常に適している。加えて、マイコプラズマ・アルギニニ由来アルギニンデイミナーゼは、分子量92kDaのホモダイマーであり、故に赤血球内に封入するのに望ましい。
【0017】
従って、上記アルギニンデイミナーゼの使用は、癌、特にアルギニン栄養要求性癌の治療や、アルギナーゼ-1欠損治療等の、アルギニン枯渇治療において多大な利点となり得る。
【課題を解決するための手段】
【0018】
従って、本発明の目的は、アルギナーゼ-1欠損治療に用いる、赤血球内に包摂したアルギニンデイミナーゼを含有する、医薬組成物である。
【0019】
特に、本発明は、赤血球中に包摂されたアルギニンデイミナーゼ及び医薬として許容されるビヒクルを含有する、アルギナーゼ-1欠損の治療に用いるための医薬組成物に関する。
【0020】
一つの好ましい態様において、前記赤血球内に包摂されるアルギニンデイミナーゼがM.アルギニニ(M.arginini)由来である。
【0021】
本発明の他の目的は、M.アルギニニ由来のアルギニンデイミナーゼを包摂した赤血球の懸濁物である。当該懸濁物は、特に、M.アルギニニ由来のアルギニンデイミナーゼを包摂した赤血球を医薬として許容されるビヒクル中に懸濁した懸濁物である。
【0022】
本発明の更なる目的は、アルギニン-1欠損又はアルギニン依存性癌の治療、敗血症性ショックの治療又は予防、血管新生の阻害、及び血管新生関連疾患の治療、特にアルギニン-1欠損又はアルギニン依存性癌の治療に用いる、本発明の懸濁物を含有する医薬組成物である。
【0023】
本発明の他の目的は、アルギナーゼ-1欠損を治療する方法であって、当該方法は、本発明の医薬組成物を患者に有効量投与する工程、又は赤血球内に包摂されたアルギニンデイミナーゼを患者に有効量投与する工程を含む。
【0024】
本発明の他の目的は、アルギニン-1欠損又はアルギニン依存性癌を治療する、敗血症性ショックを治療又は予防する、血管新生を阻害する、又は血管新生関連疾患を治療する方法であって、当該方法は、M.アルギニニ由来アルギニンデイミナーゼを含有する医薬組成物、又は赤血球内に包摂されたM.アルギニニ由来アルギニンデイミナーゼを、患者に有効量投与する工程を含む。
【0025】
詳細な説明
アルギニンデイミナーゼ
「アルギニンデイミナーゼ」は、「ADI」とも表記し、
【化2】
の化学反応を触媒する酵素である。従って、本発明において、本発明に関連して用いられるアルギニンデイミナーゼは、「酵素」又はADIとも表記され得る。
【0026】
この酵素の2つの基質はL-アルギニン及びH2Oであり、一方、2つの産物はL-シトルリン及びNH3である。アルギニンデイミナーゼはヒドロラーゼのファミリーに属し、IUBMB Enzyme Nomenclatureにおいて参照番号EC 3.5.3.6で同定されている。ADIは、例えばBacillus pyocyaneus, Pseudomonas putida, Halobacterium salinarium, Mycoplasma arginini, Mycoplasma hominis, Pseudomonas aeruginosa, Lactobacillus lactis ssp. Lactis,及びPseudomonas plecoglossicida (Rui-Zhi Han et al., Appl. Microbiol. Biotechnol. 2016, 100: 4747-4760参照)等、様々な微生物に由来してもよい。
【0027】
一つの態様において、アルギニンデイミナーゼはタンパク質である。
【0028】
本発明において「タンパク質」は、単鎖ポリペプチド分子、及び複鎖ポリペプチド複合体を含み、ここで、個々のポリペプチドは、共有又は非共有的手段によって連結する。
【0029】
本発明において「ポリペプチド」及び「ペプチド」は、モノマーがアミノ酸であり、それらがペプチド又はジスルフィド結合によって互いに結合したポリマーを指す。サブユニットやドメインの単語も、生物学的機能を有するポリペプチド及びペプチドを指し得る。
【0030】
本発明で採用されるアルギニンデイミナーゼは、天然、合成又は人工的起源であり得、又は遺伝子組み換え技術(例えば、酵素をコードする遺伝子を発現するベクターを取り込んだE. coli等の宿主細胞中での酵素の生産)によって取得され、当業者は、例えば、E. coli中でM.アルギニニ由来ADIを生産する記載のために、S. Misawa et al., J. of Biotechno. 36, 1994, 145-155を参照し得る。使用され得るアルギニンデアミナーゼは、例えばEP-A-1 011 717, EP-A-0 414 007, US-A-5 372 942, JP-A-6062867, JP-A-2053490, JP-A-2035081に記載されている。同様に、本発明は、変異体及び断片当のこの酵素の類似体の使用を含み、特に、例えばEP-A-0 981 607に記載されているような、それらの酵素活性を増大するように改変された酵素であり得る。
【0031】
本発明は、好ましくは、例えばアルギニン依存性(栄養要求性)癌及びアルギナーゼ欠損等を含む、血漿アルギニンの枯渇が有益である任意の疾患において用いられる改善されたADIを採用する。
【0032】
従って、一つの好ましい態様において、本発明において用いるアルギニンデイミナーゼは、マイコプラズマ・アルギニニ由来である。当該マイコプラズマ・アルギニニ由来アルギニンデイミナーゼは、分子量92kDaのホモダイマーである。当該アルギニンデイミナーゼのサイズは他のアルギニンデイミナーゼと比較して小さく、これは、赤血球内に取り込むのに有利である。
【0033】
一つの態様において、マイコプラズマ・アルギニニ由来アルギニンデイミナーゼは、配列番号1のアミノ酸配列、又はその変異体若しくは断片を含む。配列番号1のアミノ酸配列は、マイコプラズマ・アルギニニ由来アルギニンデイミナーゼのアミノ酸配列に対応し、この配列は、2017年8月22日時点でGenBankデータベースからNCBI参照番号WP_004416214.1で入手可能である。
【0034】
本明細書中、アミノ酸配列(ポリペプチドとも表記する)は、特定のアミノ酸配列及びその配列の変異体の両方を含む。
【0035】
「変異タンパク質」は、スプライスバリアント、対立遺伝子及びアイソフォーム等の天然に存在する変異体であってもよく、又は組換え手段により生産されてもよい。アミノ酸配列の変異は、タンパク質のアミノ酸配列の変異をもたらす、タンパク質をコードする核酸配列への1つ以上のコドンの置換、欠失又は挿入により導入され得る。任意で、変異は、タンパク質中の1, 2, 3, 4, 5, 6, 7, 8, 9, 10, 11, 12, 13, 14, 15, 16, 17, 18, 19, 20以上のアミノ酸を他のいずれかのアミノ酸で置換することによる。加えて、又は或いは、変異は、タンパク質内の1, 2, 3, 4, 5, 6, 7, 8, 9, 10, 11, 12, 13, 14, 15, 16, 17, 18, 19, 20以上のアミノ酸の付加又は欠失により得る。
【0036】
前記タンパク質の「断片」も、本発明によって包含される。そのような断片は、例えば全長タンパク質と比較して、N末端又はC末端で切り詰めされたものであってもよく、又は内部の残基を欠くものであってもよい。幾つかの断片は、酵素活性に必須ではないアミノ酸残基を欠く。好ましくは、当該断片は、長さ約10, 20, 30, 40, 50, 60, 70, 80, 90, 100, 110, 120, 150, 250, 300, 350, 380, 400以上のアミノ酸である。
【0037】
変異タンパク質は、本願で開示しているポリペプチド配列と約80%以上のアミノ酸同一性を有するタンパク質を含み得る。好ましくは、変異タンパク質は、本願で開示しているポリペプチド配列と約80%, 81%, 82%, 83%, 84%, 85%, 86%, 87%, 88%, 89%, 90%, 91%, 92%, 93%, 94%, 95%, 96%, 97%, 98%, 99%以上のアミノ酸同一性を有するタンパク質を含み得る。アミノ酸配列同一性は、参照配列におけるアミノ酸残基と同一の変異配列におけるアミノ酸残基のパーセンテージとして定義される。同一性を求めるとき、両配列をアラインメントし、必要に応じギャップを導入して、配列同一性パーセントが最大になるようにし、配列の同一性の部分として保存的置換は考慮しない。配列同一性は、変異体及び参照アミノ酸配列の両方の全長に渡って判定され得る。
【0038】
当業者は、様々な異なる核酸が、遺伝子コードの縮重の結果として同じポリペプチドをコードし得ることを承知している。加えて、当業者は、ありふれた技術を使用して、その中でポリペプチドが発現される特定の宿主生物のコドン使用を反映するように本発明の核酸配列によってコードされるポリペプチド配列に影響しないヌクレオチド置換を作り得ることを承知している。本発明において用いるADIをコードする核酸は、本分野で利用できる任意の方法によって改変され得る。本発明において用いるADIをコードする核酸は、組換え的に、合成的に、又は当業者が利用可能な任意の手段により生産され得る。それらは、PCR(ポリメラーゼ連鎖反応)等の標準的な技術によってクローン化されてもよい。
【0039】
アミノ酸配列を有するポリペプチドが、例えば、本発明のクエリーアミノ酸配列と少なくとも95%「同一」である場合、そのポリペプチドのアミノ酸配列が、クエリーアミノ酸配列の100アミノ酸あたり最大で5つのアミノ酸変異を含み得る点を除いて、クエリー配列と同一であることを意図する。言い換えると、クエリーアミノ酸配列と少なくとも95%同一であるアミノ酸配列を有するポリペプチドを取得するために、元の配列中のアミノ酸残基の最大5%(100の内5)が、他のアミノ酸によって挿入、欠失又は置換され得る。
【0040】
本願において、同一性のパーセンテージは、グローバルアラインメント(即ち2つの配列の全長を比較する)を用いて計算される。2つ以上の配列の同一性を比較する方法は、本分野で周知である。2つの配列の完全長を考慮する場合Needleman-Wunschグローバルアラインメントアルゴリズム(Needleman and Wunsch, 1970 J. Mol. Biol. 48:443-453)を用いてそれらの最適のアラインメント(ギャップを含む)を見付ける「ニードル」プログラムが例えば使用され得る。例えばニードルプログラムは、ebi.ac.ukワールドワイドウェブサイト上で利用可能である。本発明において同一性のパーセンテージは、好ましくは、10.0に等しい「Gap Open」パラメーター、0.5に等しい「Gap Extend」パラメーター、及びBlosum62マトリックスと共にEMBOSS::ニードル(グローバル)プログラムを使用して計算される。
【0041】
参照配列に対して少なくとも「80%, 85%, 90%, 95%, 96%, 97%, 98%又は99%同一である」アミノ酸配列からなるタンパク質は、参照配列に対し欠失、挿入及び/又は置換当の変異を含み得る。欠失、挿入及び/又は置換の場合、参照配列に対し少なくとも80%, 85%, 90%, 95%, 96%, 97%, 98%又は99%同一のアミノ酸配列からなるタンパク質は、参照配列が由来する種とは異なる種に由来する相同配列に対応し得る。
【0042】
アミノ酸置換は、保存的又は非保存的であり得る。好ましくは、置換は保存的置換であり、その中で、1つのアミノ酸は、類似の構造的及び/又は科学的特性を有する他のアミノ酸に置換される。好ましくは当該置換は下記表1に示す保存的置換に対応する。
【表1】
【0043】
好ましくは、前記変異体又は断片は、配列番号1の全長アミノ酸配列を有するタンパク質の生物学的活性を保持している。
【0044】
幾つかの態様において、本発明において用いるアルギニンデイミナーゼは、配列番号1の全長アミノ酸配列を有するタンパク質と比較して増大した生物学的活性又は酵素活性を有する変異体又は断片であり得る。従って、前記変異体又は断片は、その酵素活性を改善するアミノ酸置換を含み得る。本願において、「改善された酵素活性」は、例えば、最適pHの改善、Km及びkcat値の改善、及び熱安定性の改善等を意味する。そのような変異は当業者に既知であるか、Rui-Zhi Han et al. (Appl. Microbiol. Biotechnol. 2016, 100: 4747-4760)等に開示されるような技術常識から当業者が容易に求めることが出来る。
【0045】
一つの態様において、アルギニンデイミナーゼ変異体又はその断片は、インビボでの血漿半減期を増大するために改変され得る。
【0046】
医薬組成物又は懸濁物
本願において「医薬組成物」又は「治療用組成物」は、患者に適切に投与された場合所望の治療的効果を誘導できる化合物又は組成物を意味する。
【0047】
本発明は医薬組成物及び懸濁物を指し、いずれも赤血球内に包摂されたアルギニンデイミナーゼを含有する。本願に記載の定義は、本発明の組成物及び懸濁物を参照する。ADIを包摂した赤血球は、好ましくは、医薬として許容されるビヒクル中に懸濁している。
【0048】
「医薬的」又は「医薬として許容される」は、哺乳類、特にヒトに適切に投与された場合、不都合な、アレルギー性の、又は他の望ましくない応答を生じない、分子的実体及び組成物を指す。
【0049】
特定の態様において、「医薬として許容されるビヒクル」は、「保存溶液」又は「赤血球用保存溶液」、即ち注射を待つ間保存に適した形態で酵素を封入した赤血球がその中で懸濁する溶液である。好ましくは、保存溶液は、赤血球の保存を促進する1つ以上の薬剤、特にグルコース、デキストロース、アデニン及びマンニトールから選択される薬剤を含有する。
【0050】
一つの態様において、前記保存溶液は、NaCl及び/又はアデニンを含有する水溶液である。更なる態様において、前記保存溶液は、更に、グルコース、デキストロース及びマンニトールからなる群から選択される1つ以上の化合物を含有する。例えば、それは、NaCl、アデニン及びデキストロースを含有し得る。例えば、前記保存溶液は、AS3培地である。他の例として、それは、NaCl、アデニン、グルコース及びマンニトールを含有し得る。更なる例において、前記保存溶液は、SAGM培地、例えばSAG-マンニトール、又はADsol培地である。
【0051】
前記医薬組成物の具体的形態、投与の経路、用量及び投与計画は、通常、治療すべき症状、疾患の重症度、患者の年齢、体重及び性別に依存する。更に、本発明の組成物及び懸濁物は、静脈内又は動脈内投与、好ましくは注射、点滴又はかん流を意図する。従って、本発明の医薬組成物は、静脈内又は動脈内投与用に製剤化される。
【0052】
本発明の組成物は、使用可能な状態であってもなくてもよい。本発明の使用可能な状態の医薬組成物は、希釈しないで投与するのに適したヘマトクリットを有する。使用可能状態でない場合、前記組成物は、投与前に希釈を要するより高いヘマトクリット値で包装されてもよい。
【0053】
「ヘマトクリット(Ht又はHCT)」は、一般に、血液中の赤血球の体積パーセンテージ(vol%)として知られる。本発明において、ヘマトクリットは、更に、赤血球の医薬組成物や懸濁物等の、組成物や懸濁物中の赤血球の体積パーセンテージ(vol%)をも意味し得る。
【0054】
本発明において、使用可能な状態の医薬組成物のヘマトクリットは、有利な場合、40~70%、好ましくは45~65%、より好ましくは45~75%、例えば46~54%、47~53%、48~52%、例えば約50%である。使用可能な状態ではない場合、希釈して用いる医薬お生物のヘマトクリットはより高く、特に50~90%、好ましくは60~90%であり得る。連結した態様において、上記で定義した使用可能な状態の組成物のヘマトクリット値を取得するための医薬組成物の希釈は、医薬として許容されるビヒクルを用いて行われる。
【0055】
「赤血球(Erythrocyte)」は、赤血球(red blood cell)とも表記される。赤血球は骨髄中で発生し、約100~120日間身体の循環中に有り、その後それらの成分はマクロファージによって再利用される。血液の体積の約半分(40%~45%)は赤血球である。赤血球を単離する方法は、当業者に周知である。
【0056】
一つの態様において、赤血球は、治療される対象又は患者と同じ種に由来する。哺乳類がヒトの場合、赤血球は好ましくはヒト由来である。一つの態様において、赤血球は患者自身に由来する。
【0057】
他の態様において、赤血球を生産するために幹細胞が使用される。当業者は、Russeau et al. (ISBT Science Series (2016) 11 (Suppl. 1), 111-117)を参照し得る。幹細胞は、更に、赤血球内に酵素を発現するように形質転換され得る。当業者は更にUS2015/0182588を参照し得る。これらの文献は参照により本願に援用される。
【0058】
本発明において使用されるアルギニンデイミナーゼは、高度に活性である。活性は、例えば、単位Uを用いて表現され得る。「単位(U)」は、1分間で1μmoleの基質を変換する酵素の量を意味する。従って、本発明において、1Uは、37℃で1分間あたり1μmoleのアルギニンを変換する酵素の量を意味する。より好ましくは、1Uは、アルギニンデイミナーゼの活性を測定するのに通常使用される緩衝剤、例えば(Boyde and Rahmatullah, 1980, Analytical Biochemistry, vol 107, p424-431)に特定される緩衝剤中に存在する場合の、アルギニンデイミナーゼの活性を意味する。幾つかの態様において、上記「単位」は、「国際単位(IU)」を意味してもよい。従って、幾つかの態様において、1U及び1IUは相互置換可能である。
【0059】
アルギニンデイミナーゼの活性を定性的及び/又は定量的に評価する方法は、当業者に公知である。典型的には、アルギニンデイミナーゼの活性は、下記実施利絵の項目、特に実施例1及び2に詳細に記載されているように測定される。アルギニンデイミナーゼの活性を測定するのに用いる具体的な実験条件は当業者に公知で、例えば(Boyde and Rahmatullah, 1980, Analytical Biochemistry, vol 107, p424-431)に記載されている。一つの態様において、本発明で用いるアルギニンデイミナーゼは、包摂前、特異的活性が10~100U/mg, 例えば20~80, 30~70, 40~60U/mgであり、ここでmgは精製した酵素の量を意味する。
【0060】
「精製した酵素」は、純度90~100%, 例えば92~100%, 94~100%, 96%以上, 97%以上, 98%以上, 99%以上, 例えば97%の酵素を意味する。酵素の純度を決定する方法は当業者に公知であり、例えば、SDSゲル解析、マススペクトロメトリー解析、好ましくはSDSゲル解析を含む。
【0061】
「アルギニンデイミナーゼは赤血球内に包摂される」は、アルギニンデイミナーゼが赤血球内に含まれることを意味する。
【0062】
一つの態様において、本発明における包摂されたアルギニンデイミナーゼの濃度、あるいは赤血球内のアルギニンデイミナーゼ濃度は、0.1~7 mg/ml, 好ましくは0.5~6.5 mg/ml, 例えば1~6 mg/ml, 1~5 mg/ml, 1~4 mg/ml, 1~3 mg/ml, より好ましくは1.2~2.8 mg/ml, 1.4~2.6 mg/ml, 1.6~2.4 mg/mlである。
【0063】
幾つかの態様において、包摂されたアルギニンデイミナーゼの濃度は、少なくとも0.1, 0.2, 0.4, 0.6, 0.8, 1, 1.2, 1.4, 1.6, 1.8, 2, 2.2, 2.4, 2.6, 2.8, 3, 3.5, 4, 4.5, 6 mg/mlである。幾つかの態様において、包摂されたアルギニンデイミナーゼの濃度は、最大で7, 6.5, 5, 5.5, 5, 4.5, 4, 3.5, 3, 2.5, 2 mg/mlである。
【0064】
他の態様において、包摂されたアルギニンデイミナーゼの濃度は、1~1000 U/ml, 好ましくは1~500 U/ml, 例えば1~400 U/ml, 5~400 U/ml, 5~350 U/mlである。
【0065】
幾つかの態様において、包摂されたアルギニンデイミナーゼの濃度は、少なくとも0.5, 1, 2, 3, 4, 5, 10, 20, 30, 40, 50, 100, 200 to 400 U/mlである。幾つかの態様において、包摂されたアルギニンデイミナーゼの濃度は、最大で1000, 800, 600, 500, 400, 350, 300, 200, 100 U/mlである。
【0066】
好ましくは、前記包摂されたアルギニンデイミナーゼの濃度は、mg/ml又はU/mlにおいて、本発明医薬組成物又は本発明の組成物1mlあたりのアルギニンデイミナーゼの赤血球内濃度を意味し、より好ましくは、当該組成物又は懸濁物の赤血球溶液1mlあたりの赤血球の赤血球内濃度を意味し、ここで当該溶液のヘマトクリットは典型的には50%である。
【0067】
一つの態様において、保存溶液中の本発明の組成物又は懸濁物は、保存溶液の温度2~8℃で72時間の時点で細胞外ヘモグロビンレベルが0.5以下、特に0.3、特に0.2、好ましくは0.15、尚も好ましくは0.1g/dl以下のレベルに維持されることを特徴とする。
【0068】
特に、保存溶液中の本発明の組成物又は懸濁物は、保存溶液の温度2~8℃で24時間~20日間、特に24~72時間、細胞外ヘモグロビンレベルが0.5以下、特に0.3、特に0.2、好ましくは0.15、尚も好ましくは0.1g/dl以下のレベルに維持されることを特徴とする。
【0069】
「細胞外ヘモグロビンレベル」は、G. B. Blakney and A. J. Dinwoodie, Clin. Biochem. 8, 96-102, 1975に記載された方法によって測定するのが有利である。それらに特異的な感度でこの測定を行うことを可能とする自動装置も存在する。
【0070】
特に、保存溶液中の本発明の組成物又は懸濁物は、保存溶液の温度2~8℃で72時間の時点で、溶血率が2、特に1.5、好ましくは1%以下に維持されることを特徴とする。
【0071】
特に、保存溶液中の本発明の組成物又は懸濁物は、保存溶液の温度2~8℃で24時間~20日間、特に24~72時間、溶血率が2、特に1.5、好ましくは1%以下に維持されることを特徴とする。
【0072】
一つの態様において、本発明の組成物は懸濁物である。一つの態様において、本発明の懸濁物及び本発明における懸濁物のオスモル濃度は270~350mOsm/lである。オスモル濃度を測定する方法は当業者に公知である。一つの例において、オスモル濃度はオスモメーター(Micro-Osmometer Loser Type 15)を用いて測定される。オスモル濃度は好ましくは標準的な条件で測定される(即ち25℃1気圧)。
【0073】
治療方法及び使用
本発明の発明者らは、赤血球内に包摂されたアルギニンデイミナーゼを含有する医薬組成物が、例えば用量8ml/kgで投与したとき、アルギナーゼ欠損マウスにおいて血中L-アルギニンレベルを投与後3日で73%も低下させることを示した。当業者は、これらの結果が本発明の組成物及び本発明の懸濁物が、アルギナーゼ-1欠損の治療に使用され得ることを示すものと理解する。血清アルギニンのレベルの増大は、治療される対象又は患者の臨床的症状に直接関連するからである。
【0074】
発明者らは、更に、マウスにおいて、驚くべきことに、本発明の組成物又は懸濁物の投与が、治療されたマウスのアンモニアレベルを顕著に変化させないため、治療される対象又は患者の高アンモニア血症の最終的なエピソードに影響しないことを示した。
【0075】
従って、本発明は、アルギナーゼ-1欠損の治療に用いられる、赤血球内に包摂されたアルギニンデイミナーゼ及び医薬として許容されるビヒクルを含有する医薬組成物に関する。更に本発明は、アルギナーゼ-1欠損の治療に用いられる、アルギニンデイミナーゼ、特にM.アルギニニ由来アルギニンデイミナーゼを包摂した赤血球の懸濁物に関する。
【0076】
「アルギナーゼ-1欠損」は、身体がアルギニン(タンパク質の構成ブロック)を代謝出来ない先天的な代謝疾患である。これは尿素サイクル障害として知られる障害の群に属する。これらは、アンモニアを除去する身体のプロセスが破壊されたときに起こり、血中アンモニアレベルの増大(高アンモニア血症)を引き起こし得る。殆どの場合、症状は1~3歳のときに現れる。症状は、摂食障害、嘔吐、生育不良、発作、及び反射亢進を伴う筋肉の硬直(痙直)を含み得る。
【0077】
アルギナーゼ-1欠損患者は、発達の遅延、発達マイルストーンの喪失、及び知的障害を有する場合もある。アルギナーゼ-1欠損は、ARG1遺伝子の変異によって引き起こされ、常染色体劣性的に遺伝する。アルギナーゼ-1欠損の患者の殆どは誕生時は健康に見え、幼児期は正常に発達する。アルギナーゼ-1欠損の最初の特徴はしばしば1~3歳で現れる。場合によっては、兆候が出るのはより早く又は遅い。
【0078】
アルギナーゼ-1欠損は、成長不良(アルギナーゼ欠損を有する患者全てに見られる)、筋肉の硬直及び反射亢進(痙直)、発達遅延、過去に獲得した発達マイルストーンの喪失、知的障害、発作、小さい頭のサイズ(小頭症)、バランスや協調の問題、行動異常、アミノ酸尿症、知的障害(重症)、神経学的言語障害、EEG(脳波図)異常、片麻痺/片側不全麻痺(hemiplegia/hemiparesis)、高アンモニア血症、進行性痙性四肢麻痺及び発作を含むリストから選択される兆候及び症状の1つ以上によって特徴づけられ得る。
【0079】
「アルギナーゼ-1欠損を診断する方法」は当業者に公知であり、通常、全パネル拡張新生児スクリーニング試験を含む。典型的には、正常の上限を3倍又は4倍上回る血漿アルギニン濃度は、当該欠損を高度に示唆する。当該欠損は、更に、典型的には、分子的遺伝子検査での2対立遺伝子におけるARG1病理的変異の同定、又は赤血球抽出物中のアルギナーゼ酵素活性の検出不能(正常の1%未満)によって確認される。
【0080】
本発明は、更に、アルギナーゼ-1欠損を治療する方法に関し、当該方法は、赤血球内に包摂したアルギニンデイミナーゼ、又は本発明の組成物を、患者に有効量投与する工程を含む。
【0081】
本発明において、「治療する」又は「治療」は、当該用語が用いられる障害又は症状、又はそのような障害又は症状の1つ以上の症状を、反転、緩和、進行阻害、予防することを意味する。
【0082】
従って、「治療」は、執権の完全な治癒を導く治療だけでなく、疾患の進行を遅延し及び/又は患者の生存期間を延長する治療も含む。
【0083】
「有効量」は、必要な用量及び期間で所望の治療的又は予防的結果を達成するのに効果的な量を意味する。
【0084】
本発明の組成物又は懸濁物の治療有効量は、疾患の状態、患者の年齢、性別及び体重、及び所望の治療的結果をもたらすタンパク質の性能等の要素に従って変化し得る。治療有効量は、阻害剤の治療的に有益な効果がその阻害剤の毒性又は有害な効果を上回る量を含む。また、治療有効量は、臨床的利益等の利益をもたらすのに十分な量を含み得る。
【0085】
幾つかの態様において、本発明の方法は、アルギナーゼ-1欠損に対する1つ以上の更なる治療と組み合わせて、上記本発明の組成物を、連続して又は同時に投与することを含む。
【0086】
アルギナーゼ-1欠損に対する1つの更なる治療は、低タンパク質食、窒素排出剤、ボツリヌス毒素の注射、又はオルニチン若しくはリシン等のアミノ酸の投与を意味する。
【0087】
「窒素排出剤」は、限定されないが、安息香酸塩、フェニル酪酸塩及びフェニル酢酸塩を含む。
【0088】
上記のように、発明者らは、赤血球内に包摂したM.アルギニニ由来アルギニンデイミナーゼが、例えば用量8ml/kgで投与したとき、アルギナーゼ欠損マウスにおいて血中L-アルギニンレベルを投与後3日で73%も低下させることを示した。
【0089】
従って、当業者は、M.アルギニニ由来アルギニンデイミナーゼを包摂した赤血球の懸濁物を含有する医薬組成物は、アルギナーゼ-1欠損の治療だけでなく、血中アルギニン濃度の低下が有益である他の疾患の治療にも有効であることを理解し得る。
【0090】
従って、本発明は、血漿アルギニン枯渇が望ましい効果を有することが実証されているアルギニン依存性癌における特に興味深い用途を見出す(例えば既に引用したF. Izzo et al., 2004, C.M. Ensor et al., 2002, F.W. Holtsberg et al., 2002, J.S. Bomalaski et al., 2003, 及びCurley S.A. et al., 2003)。
【0091】
しかしながら、血漿アルギニン枯渇は、敗血症性ショックの治療又は予防、血管新生及び関連疾患の阻害にも有益であり得る。
【0092】
従って、一つの態様において、本発明は、血中アルギニン濃度の低下に用いる、M.アルギニニ由来アルギニンデイミナーゼを包摂した赤血球の懸濁物を含有する医薬組成物に関する。
【0093】
従って、関連する態様において、本発明は、血中アルギニン濃度の低下に用いる、赤血球内に包摂したM.アルギニニ由来アルギニンデイミナーゼ及び医薬として許容されるビヒクルを含有する医薬組成物に関する。
【0094】
「医薬組成物」、「アルギニンデイミナーゼ」、「懸濁物」、「医薬として許容されるビヒクル」の定義は、上記に示されており、それらを準用する。
【0095】
特に、血中アルギニン濃度の低下は、アルギナーゼ-1欠損の治療、アルギニン依存性癌の治療、敗血症性ショックの治療又は予防、血管新生の阻害及び関連疾患の治療に有用である。
【0096】
従って、一つの態様において、本発明は、アルギナーゼ-1欠損の治療、アルギニン依存性癌の治療、敗血症性ショックの治療又は予防、血管新生及び関連疾患の阻害に用いる、M.アルギニニ由来アルギニンデイミナーゼを包摂した赤血球の懸濁物を含有する医薬組成物に関する。
【0097】
従って、関連する態様において、本発明は、アルギナーゼ-1欠損の治療、アルギニン依存性癌の治療、敗血症性ショックの治療又は予防、血管新生及び関連疾患の阻害に用いる、赤血球内に包摂したM.アルギニニ由来アルギニンデイミナーゼ及び医薬として許容されるビヒクルを含有する医薬組成物に関する。
【0098】
「アルギナーゼ-1欠損」は上記で定義している。
【0099】
「アルギニン依存性癌」は、分裂にアルギニンを必要とする癌細胞を有する癌を意味し、そのような腫瘍は、主に生合成酵素アスパラギンシンセターゼを欠くことによりそれらが要求するアルギニンの一部又は全てを合成することが出来ない。従ってそのような癌は「アルギニン栄養要求性癌」とも表記される。血漿アルギニン枯渇はこれらの細胞の発達に必須のアルギニンを奪い、これらの細胞の特異的な死滅、腫瘍成長阻害、又は腫瘍体積の縮小をもたらす。
【0100】
アルギニン依存性癌は、肝細胞癌、原発性肝臓癌、黒色腫、乳癌、神経芽細胞腫、白血病、中皮癌、泌尿器癌、肉腫、胃癌及び脳癌(Cerebral cancer)からなる群から選択され得る。
【0101】
「中皮癌」は、例えば、悪性胸膜中皮腫(MPM)を意味する。
【0102】
「泌尿器癌」は、例えば、腎細胞癌、前立腺癌、直腸癌及び膀胱癌、特に移行上皮癌を含む。
【0103】
「肉腫」は、例えば、星状細胞腫、乏突起膠腫を指す。
【0104】
「脳癌」は、例えば、骨肉腫を指す。
【0105】
一つの態様において、アルギニン依存性癌は、肝細胞癌又は原発性肝臓癌である。更なる態様において、アルギニン依存性癌は、黒色腫、特に悪性黒色腫、その様々な形態、例えば表在拡大型黒色腫及び結節型黒色腫である。更なる側面において、アルギニン依存性癌は、以下:
-乳癌、
-神経芽腫(Gong H. et al., Int. J. Cancer 2003, 106: 723-8)、
-白血病(Gong H. et al. Leukemia 2000, Vol. 14, 826-9; Noh E.J. et al., Int. J. Cancer 2004, 112: 502-8)
の一つである。
【0106】
「治療」は上記で定義している。
【0107】
「予防する」又は「予防」は、予防的使用(即ち所定の疾患の発症し易い個人に対する使用)を意味する。
【0108】
「血管疾患の阻害及び関連疾患の治療」は:血管腫、血管線維腫、関節炎、糖尿病性網膜症、早期の網膜症、血管新生緑内障、角膜の疾患、退行及び他の形態の黄斑変性、翼状片、網膜変性、後水晶体繊維増殖症、乾癬、毛細血管拡張症、化膿性肉芽腫、脂漏性皮膚炎、座瘡、血管新生に結び付けられる癌及び転移等(WO0209741; Park I.S. et al., Br. J. Cancer 2003, 89: 907-14)の疾患の治療に関する。
【0109】
本発明の更なる目的は、本明細書中で示している疾患の治療を意図した医薬の調製のためのADIを包摂した赤血球又はそのような赤血球の懸濁物の使用である。
【0110】
この使用は、本発明の懸濁物及び医薬組成物又は医薬において提示された特性を利用する。
【0111】
本発明の他の目的は、アルギナーゼ-1欠損の治療方法であり、当該方法は、有効量の本発明の医薬組成物を患者に投与する工程、又は有効量の赤血球に包摂されたアルギニンデイミナーゼを患者に投与する工程、又は有効量の本発明の医薬を患者に投与する工程を含む。
【0112】
本発明の他の目的は、アルギニン-1欠損又はアルギニン依存性癌の治療、敗血症性ショックの治療又は予防、血管新生の阻害、又は血管新生関連疾患の治療方法であり、当該方法は、有効量のM.アルギニニ由来アルギニンデイミナーゼを含有する医薬組成物又は有効量の赤血球内に包摂されたM.アルギニニ由来アルギニンデイミナーゼを患者に投与する工程、又は有効量の本発明の医薬を患者に投与する工程を含む。
【0113】
前記治療方法は、患者への「治療有効用量」、「治療有効量」又は「有効量」の投与を含み、ここで有効量は上記で示している。
【0114】
特に、「治療有効用量」、「治療有効量」又は「有効量」は、当業者が容易に決定し得る。実際に投与される酵素の量は、関連する状況、例えば治療すべき症状、選択される投与経路、投与される実際の化合物、患者の年齢、体重及び応答性、患者の症状の重症度等を鑑みて、医師によって決定され得る。有効量は、典型的には、血液循環中のアルギニンの枯渇を誘導するのに十分であり得る。好ましくは、この枯渇は、十分な期間閾値レベルを下回るアルギニンレベルを維持することを指す。
【0115】
幾つかの例において、アルギニンレベルは、少なくとも1, 2, 3, 4, 5, 6, 7, 8, 9 10日間、好ましくは少なくとも3日間、閾値を下回るように維持され得る。
【0116】
酵素の典型的な有効量は、下記「用量」の項目で更に詳述する。
【0117】
前記医薬組成物は、静脈内又は動脈内注射により、好ましくは注射、点滴又は血液バッグ等からのかん流により投与され得る。投与は、典型的には、腕内に又は中心カテーテルを通じて、静脈内に行われる。
【0118】
特に、本発明の懸濁物、医薬組成物又は医薬の投与量は、約10~約250mlである。好ましくは、点滴又はかん流の場合20mlを上回る量で使用される。
【0119】
治療は、決められたプロトコルに従う1回用量又は数回用量の投与を含む。これは、毎月、隔週又は毎週の間隔で、好ましくは週1回、2回又は3回、推奨される治療期間に渡り、数回投与として提供され得る。
【0120】
一つの態様において、本発明の治療は、各回(各投与)下記用量の項目に示す1用量の投与からなり得る。
【0121】
一例において、本発明の治療は、各回(各投与)体重1kgあたり0.001mg/kg~1000mg/kg、好ましくは0.01mg/kg~500mg/kgの酵素に相当する投与からなり得る。好ましくは、各回(各投与)体重1kgあたり0.01mg/kg~200mg/kgの酵素の投与が好ましい。
【0122】
更なる例において、下記投与の項目で更に特定するように、本発明の治療は、各回(各投与)体重1kgあたり10U/kg~100000U/kgの酵素に相当する投与からなり得る。好ましくは、各回(各投与)体重1kgあたり10U/kg~15000U/kgの酵素が投与される。より好ましくは、各回(各投与)体重1kgあたり500U/kg~3500U/kgの酵素が投与される。
【0123】
投与
本発明の組成物は、好ましくは、所望の治療的効果を生じるように予め決定された計算された量の活性材料を含有する体積で包装され、又は提供される。当業者は、投与すべき組成物の体積又は用量が、投与を想定する哺乳類の状態(例えば体重、年齢、性別及び健康状態、存在する場合併用療法、治療の頻度等)、投与の方式及び製剤の種類等に依存することを理解し得る。
【0124】
本発明において、投与のための組成物が包装される容積も、用量と呼ぶ。一つの態様において、当該容積は10~250mlである。
【0125】
従って、投与用組成物は、好ましくは、1回用量で包装又は提供され、好ましくは、当該用量は、上記に記載した体積を有する。当該包装は、好ましくは容器、例えば血液輸送に適した種類の血液バッグ等である。医学的処方に対応した包摂された酵素の全量は、好ましくは、前記容器の中に含まれる。言い換えると、所定の量の酵素を包摂する赤血球1回用量が、1つの容器又は医薬組成物の中に存在し得る。一つの態様において、この1回用量は、それを必要とする患者に全て投与されることが意図される。他の態様において、投与は、単発投与又は数回投与で達成される。
【0126】
1回投与における包摂された酵素の量は、患者体重1kgあたり0.001mg/kg~1000mg/kgであり得る。より好ましくは、1回投与における包摂された酵素の量は、患者体重1kgあたり0.01mg/kg~1000mg/kgであり得る。最も好ましくは、1回投与における包摂された酵素の量は、患者体重1kgあたり0.01mg/kg~500mg/kgであり得る。最も好ましくは、1回投与における包摂された酵素の量は、患者体重1kgあたり0.01mg/kg~200mg/kg、又は患者体重1kgあたり0.01mg/kg~100mg/kgであり得る。
【0127】
幾つかの態様において、1回投与における包摂された酵素の量は、患者体重1kgあたり少なくとも0.001, 0.005, 0.01, 0.05, 0.1, 0.2, 0.3, 0.4, 0.5, 0.6, 0.7, 0.8, 0.9, 1, 1.5, 2, 2.5, 3, 3.5, 4, 4.5, 5, 6, 7, 8, 9, 10, 15, 20, 25, 30, 35, 40, 45, 50 mg/kgである。幾つかの態様において、1回投与における包摂された酵素の量は、患者体重1kgあたり最大でも200, 150, 100, 80, 70, 60, 50, 45, 40, 35, 30, 25, 20, 25, 15, 10, 5, 1, 0.5, 0.1 mg/kgである。
【0128】
1回投与における包摂された酵素の量は、患者体重1kgあたり10 U/kg~100000 U/kgである。より好ましくは、1回投与における包摂された酵素の量は、患者体重1kgあたり10 U/kg~80000 U/kgである。最も好ましくは、1回投与における包摂された酵素の量は、患者体重1kgあたり10 U/kg~50000 U/kgである。最も好ましくは、1回投与における包摂された酵素の量は、患者体重1kgあたり10 U/kg~5000 U/kg、50 U/kg及び3500 U/kg、又は50 U/kg~3500 U/kgである。
【0129】
幾つかの態様において、1回投与における包摂された酵素の量は、患者体重1kgあたり少なくとも10, 25, 50, 75, 100, 150, 200, 250, 300, 350, 400, 450, 500, 600, 700, 800, 900, 1000, 1500, 2000, 2500, 3000, 3500, 4000, 4500, 5000, 5500, 6000, 6500, 7000, 7500, 8000, 8500, 9000, 9500, 10000 UI/kgでもあり得る。幾つかの態様において、1回投与における包摂された酵素の量は、患者体重1kgあたり最大でも10000, 9500, 9000, 8500, 8000, 7500, 7000, 6500, 6000, 5500, 5000, 4500, 4000, 3500, 3000, 2500, 2000, 1500, 1000, 900, 800, 600, 500, 450, 400, 350, 300, 250, 200, 150, 100 UI/kgでもあり得る。
【0130】
当業者は、投与に用いる用量は、様々なパラメーターに関連して、特に使用する投与の方式、関連する病理、又は或いは要求される治療の期間に関連して適用され得ることを理解し得る。
【0131】
赤血球内に包摂されたアルギニンデイミナーゼ及び医薬として許容されるビヒクルを含有する医薬組成物は、癌の治療において従来技術で言及されている。アルギナーゼ-1欠損の治療に使用するために上記で示した文献において記載された製剤を本発明の組成物として適用することは、当業者の能力の範囲内である。
【0132】
包摂の方法
赤血球は、上記「医薬組成物」の項目で記載したように取得され得る。
【0133】
前記酵素を赤血球内に包摂することは、赤血球膜中に穴を空ける低張液体培地と接触させた赤血球懸濁物を使用して実施され得る。溶解-再封技術において、低張透析、低張前膨張(hypotonic preswelling)及び低張希釈の3つの代替法が存在し、それらは全て赤血球内外間の浸透圧の違いに基づく。低張透析が実施される。
【0134】
前記酵素を包摂した赤血球の懸濁物は、以下の方法を用いて特に取得できる。
1-ヘマトクリットレベル65%以上、1~8℃で、赤血球のペレットを等張液中に懸濁する工程、
2-温度1~8℃で冷却した低張溶解溶液とヘマトクリットレベル65%以上の赤血球の懸濁物を、透析装置、例えばコイル又は透析カートリッジ(カートリッジが好ましい)に通す、溶解手順、
3-温度1~8℃で、包摂する酵素(特に事前に作製した溶液中)を、溶解の前又は溶解中に、前記懸濁物中に、好ましくはゆっくり添加することによる、包摂手順、及び
4-より高い温度、特に30~42℃で、等張又は高張、有利には高張溶液の存在下で実施される、再封手順。
【0135】
好ましい代替において、WO-A-2006/016247 (EP 1 773 452;本願において参照により援用する)に記載の方法を使用し得る:
1-ヘマトクリットレベル65%以上、1~8℃で、赤血球のペレットを等張液中に懸濁する工程、
2-この同じペレットからの赤血球の試料から浸透圧脆弱性を測定する工程、
3-温度1~8℃で冷却した低張溶解溶液とヘマトクリットレベル65%以上の赤血球の懸濁物を、透析装置、例えばコイル又は透析カートリッジ(カートリッジが好ましい)に通す、溶解手順;溶解パラメーターは先に測定した浸透圧脆弱性に従い調整される;特に、測定された浸透圧脆弱性に依存して、透析装置に赤血球懸濁物を通す流速が調整され、又は溶解溶液の浸透圧が調整される;及び
4-温度1~8℃で、包摂する酵素(特に事前に作製した溶液中)を、溶解の前又は溶解中に、前記懸濁物中に、好ましくはゆっくり添加することによる、包摂手順;及び
5-より高い温度、特に30~42℃で、等張又は高張、有利には高張溶液の存在下で実施される、再封手順。
【0136】
特に、透析において、赤血球のペレットは、65%以上、好ましくは70%以上の高いヘマトクリットレベルで等張溶液中に懸濁され、この懸濁物は、1~8℃、好ましくは2~6℃、典型的には4℃付近に冷却される。特定の方法において、ヘマトクリットレベルは65~80%、好ましくは70~80%である。
【0137】
測定される場合、浸透圧脆弱性は、包摂される酵素の存在下又は非存在下、好ましくは存在下、溶解工程の直前に赤血球に対して有利に測定される。赤血球又はそれらを含有する懸濁物の温度は、溶解に選択される温度に近い、又は同じ温度で行うのが有利である。本発明の他の有利な特徴において、実施される浸透圧脆弱性の測定は迅速に利用され、即ち溶解手順は、試料を取った後短時間で実施される。好ましくは、試料採取と溶解の開始との間の時間差は30分以内、より好ましくは25分以内、なおもより好ましくは20分以内である。
【0138】
浸透圧脆弱性を測定し考慮して溶解再封手順を実施する方法に関しては、当業者は、より詳細には、WO-A-2006/016247を参照し得る。この文献は、本願において参照により援用される。
【0139】
この包摂技術の改善はWO 2014/180897に記載されており、この文献は当業者が参照し得、本願において参照により援用される。従って、一つの態様において、酵素を包摂する赤血球は、溶解再封により赤血球内に有効成分を包摂すること、酵素を包摂した赤血球及びオスモル濃度280 mOsmol/kg以上、特に約280~約380 mOsmol/kg、好ましくは約290~約330 mOsmol/kgの溶液を含有する懸濁物又はペレットを取得すること、オスモル濃度280 mOsmol/kg以上、特に約280~約380 mOsmol/kg、好ましくは約290~約330 mOsmol/kgで、そのように、又はインキュベーション溶液を添加した後、ペレットを、又は懸濁物をインキュベーションすることを含む方法によって得られる。特に、インキュベーションは、30分以上、特に1時間以上の期間実施される。そして、インキュベーションされた溶液の液体培地を除去し、得られた赤血球を、その懸濁物が患者に注射できる溶液、好ましくはその懸濁物が患者に注射できる保存溶液中に懸濁される。指示されたオスモル濃度は、関連する時点でその中に赤血球が懸濁している溶液の、又はペレットのオスモル濃度である。
【0140】
「安定化赤血球溶液」は、特に、ヒトにおけるその使用まで細胞外ヘモグロビン含量0.2 g/dl以下を維持する懸濁物を意味し、その期間は、有効成分を包摂した赤血球バッチの作製後1~72時間であり得る。
【0141】
「調製済み赤血球懸濁物」は、患者への注射が可能な溶液、特に保存溶液中の、安定化懸濁物を意味する。そのヘマトクリットは、一般に、35%, 40% or 45%以上である。
【0142】
「赤血球ペレット」は、赤血球が予め懸濁していた液体培地の赤血球を分離した後回収された赤血球の濃縮物又は濃縮を意味する。分離は、濾過又は遠心分離によって行われ得る。遠心分離は、一般に、そのような分離のために使用される手段である。一般に、前記ペレットのヘマトクリットは70~85%である。
【0143】
「インキュベーション溶液」は、活性成分を包摂した赤血球がインキュベーション工程の間その中に存在する溶液を意味する。インキュベーションは、特にヘマトクリット10~85%の広い範囲のヘマトクリットに渡って達成され得る。
【0144】
「脆弱赤血球」は、懸濁物が2~8℃で保存された時、特に1~72時間後に、保存溶液に懸濁した後溶解し得る、包摂手順から生じた赤血球を意味する。
【0145】
「初期ヘマトクリット」は、インキュベーションの間脆弱赤血球の溶解によって細胞が損失する前のヘマトクリットを意味する。
【0146】
前記方法は特に以下の工程を有し得る:
(a)赤血球内に酵素を包摂する工程、当該工程は、赤血球を低張培地に接触させる工程(赤血球の膜に穴を空ける)、有効成分と接触させる工程(それを赤血球内に侵入させる)、特に等張又は高張、有利には高張培地を用いて赤血球を再封する工程を含む、
(b)酵素を包摂した赤血球及びオスモル濃度280 mOsmol/kg以上、特に約280~約380 mOsmol/kg、好ましくは約290~約330 mOsmol/kgの溶液を含有する懸濁物又はペレットを取得又は調製する工程、
(c)工程(b)のペレット又は懸濁物をそのまま又はインキュベーション溶液を添加した後、オスモル濃度280 mOsmol/kg以上、特に約280~約380 mOsmol/kg、好ましくは約290~約330 mOsmol/kgで、30分以上、特に1時間以上インキュベーションする工程、
(d)工程(c)のインキュベーションした懸濁物の液体培地を除去する工程、
(e)工程(d)で得た赤血球を、懸濁物を患者に注射できる溶液、特に懸濁物を患者に注射できる保存溶液に懸濁する工程。
【0147】
第一の方法において、溶解再封による包摂後の工程、特に工程(b)は、オスモル濃度280 mOsmol/kg以上、特に約280~約380 mOsmol/kg、好ましくは約290~約330 mOsmol/kgの溶液中で、溶解再封工程又は工程(a)において取得された懸濁物の希釈、及び赤血球又は懸濁物のペレットの取得による、1回、好ましくは2又は3回の洗浄サイクルを含み得る。このペレット又はこの懸濁物は、酵素を包摂した赤血球及びオスモル濃度280 mOsmol/kg以上、特に約280~約380 mOsmol/kg、好ましくは約290~約330 mOsmol/kgの溶液を含有する。以降の工程、例えば(c)、(d)、(e)は、その後適用される。
【0148】
第二の方法において、溶解再封工程又は工程(a)において、等張又は高張培地による赤血球の再封は、例えばオスモル濃度280 mOsmol/kg以上、特に約280~約380 mOsmol/kg、好ましくは約290~約330 mOsmol/kgの溶液中の工程(b)の懸濁物のような、その後インキュベーションに供され得る赤血球の懸濁物を生産する。言い換えると、溶解再封工程又は工程(a)は、赤血球を再封する工程を含み、ここで、酵素を包摂した懸濁された赤血球は、等張又は高張の、有利には高張の再封溶液と混合されて、オスモル濃度280 mOsmol/kg以上、特に約280~約380 mOsmol/kg、好ましくは約290~約330 mOsmol/kgの赤血球の懸濁物を生じる。この方法において、インキュベーション工程又は工程(c)は、再封で得た懸濁物のインキュベーションを含む。インキュベーションは30分以上、特に1時間以上行われる。以降の工程、例えば (d)、(e)は、その後適用される。
【0149】
溶解再封以降の工程、例えば(b)~(e)は、脆弱赤血球の、又はそれらの殆ど、特に50、60、70、80又は90%超の溶解をもたらす条件下で実施される。これをするために、インキュベーション期間、インキュベーション温度及び赤血球を懸濁する溶液のオスモル濃度に作用することが可能である。オスモル濃度が高いほど、インキュベーション時間は長くなり得る。従って、オスモル濃度が低いほど、同じ効果を得るためのインキュベーションは短くなり得る。また、温度が高いほど、インキュベーション時間は短くなり、その逆も有る。そして、1回又は数回の洗浄は、細胞の破片及び細胞外ヘモグロビン、また細胞外酵素の除去を可能とする。
【0150】
本発明において、洗浄サイクルは、赤血球の懸濁物又はペレットの希釈、及び赤血球と洗浄溶液との間の分離を含む。好ましくは、洗浄工程は、2又は3回の希釈-分離サイクルを含む。分離は、濾過や遠心分離等の適切な手段によって達成され得る。遠心分離が好ましい。
【0151】
インキュベーションは、懸濁物のヘマトクリットによって限定されない。従って、初期のヘマトクリットが10~85%、特に40~80%の懸濁物がインキュベーションされ得る。これは、70%以上のペレット又はこの値を下回る懸濁物が好ましい。
【0152】
除去工程又は工程(d)は、特に細胞の破片や細胞外ヘモグロビン、また細胞外酵素を除去するために、懸濁物又はインキュベーションされたペレットの液体部分を除去することを目的とする。
【0153】
除去工程又は工程(d)における第一の方法において、分離、特に遠心分離が実施され、これは、特に、懸濁物に対して実施される。この分離の後、1回以上、例えば2回又は3回の洗浄サイクルが行われ得る。洗浄サイクルは、等張溶液による希釈、及び分離、特に遠心分離により行われる。
【0154】
除去工程又は工程(d)における第二の方法において、分離特に遠心分離の前に希釈が行われ、これは、特に懸濁物又はペレットに対して実施される。希釈は、特に、等張洗浄溶液又は保存溶液を用いて実施され得る。
【0155】
最終工程又は工程(e)は、他の何らかの処理無しで患者に投与され得るように最終懸濁物を調製する工程からなる。
【0156】
この工程の第一の方法において、除去工程又は工程(d)における赤血球ペレットの希釈が、注射溶液、特に保存溶液を用いて実施される。
【0157】
この工程の第二の方法において、除去工程又は工程(d)における赤血球ペレットを洗浄する1つ以上の洗浄サイクルが、希釈とその後の分離によって、注射溶液、特に保存溶液を用いて実施される。洗浄後、赤血球は、注射溶液、特に保存溶液で再懸濁される。
【0158】
更に、本発明の方法は、以下の特徴の1つ、幾つか又は全てを含み得る。
【0159】
インキュベーション工程又は工程(c)は、脆弱赤血球の溶解を保証するのに十分な時間に渡り、約2~39℃の温度で実施される。
【0160】
インキュベーション工程又は工程(c)は、低い温度、特に約2~10℃、特に約2~8℃で、約1~72時間、特に約6~48時間、好ましくは約19~30時間実施される。
【0161】
インキュベーション工程又は工程(c)は、より高い温度、約20~30℃、特に室温(25±5℃)で、約30分~約10時間、特に約1~6時間、好ましくは約2~4時間実施される。室温よりも高い温度で実施出来るが、これは細胞収量、P50及び/又は2,3-DPG含量に負の影響を与え得る。
【0162】
インキュベーション工程又は工程(c)において、懸濁物の初期ヘマトクリットは、10~85%、特に40~80%であり、ヘマトクリットが例えば70~85%の分離したペレット、又はヘマトクリットが40~70%の希釈したペレットがインキュベーションされ得る。
【0163】
インキュベーション工程は懸濁物の撹拌を含む。
【0164】
インキュベーション工程は撹拌を含まない。
【0165】
洗浄及び/又はインキュベーションの溶液として、所望のオスモル濃度を得るために計量されたNaCl水溶液が使用される。一例として、溶液は0.9%のNaClを含有し得る。この溶液は、特にNaClに加えて、グルコース、特にグルコース一水和物、モノナトリウムリン酸塩二水和物、ジナトリウムリン酸塩十二水和物を含有してもよく、例えば、溶液は、0.9%のNaCl、0.2%のグルコース一水和物、0.034%のモノナトリウムリン酸二水和物、0.2%のジナトリウムリン酸十二水和物を含有する。
【0166】
最終工程又は工程(e)における洗浄は、保存溶液を用いて実施される。
【0167】
調製済み又は患者に注射され得る溶液(液体部分)のオスモル濃度は、約280~380 mOsmol/kg、好ましくは約290~330 mOsmol/kgであり得る。
【0168】
調製済み又は患者に注射され得る懸濁物のヘマトクリットは、35%、40%又は45%である。
【0169】
洗浄、インキュベーションの全ての工程は、保存溶液を使って実施される。
【0170】
工程(b)の洗浄溶液及び/又は工程(e)の洗浄溶液及び保存溶液は、同一の組成であり、赤血球の保存性を促進する化合物を含有する。
【0171】
保存溶液(及び洗浄溶液又はインキュベーション溶液)は、NaCl、アデニン、並びにグルコース、デキストロース及びマンニトールの1つ以上の化合物を含有する水溶液である。
【0172】
保存溶液(及び洗浄溶液又はインキュベーション溶液)は、NaCl、アデニン、及びデキストロース、好ましくはAS3培地を含有する。
【0173】
保存溶液(及び洗浄溶液又はインキュベーション溶液)は、NaCl、アデニン、グルコース及びマンニトール、好ましくはSAG-マンニトール又はADsol培地を含有する。
【0174】
本発明の方法は、特に以下の工程を含む。
【0175】
(a)赤血球内に酵素を包摂する工程、当該工程は、赤血球を低張培地に接触させる工程(赤血球の膜に穴を空ける)、酵素と接触させてそれを赤血球内に侵入させる工程、等張又は高張培地を用いて赤血球を再封する工程を含む。当該酵素は、赤血球の溶血の前に赤血球の懸濁物の中に存在してもよく、溶血中、又は溶血後に添加されてもよいが、常に再封の後である。この工程(a)の一つの態様にいて、本方法は、下記の小工程を含む。
【0176】
(a1)赤血球懸濁物のヘマトクリットを60~65%以上に調整する工程。
【0177】
(a2)この懸濁物中の赤血球の浸透圧脆弱性を測定する工程。
【0178】
(a3)溶血及び有効成分の内部化のための手順、当該手順は、赤血球懸濁物を透析デバイス、特に透析カートリッジに通す工程、溶血溶液に反して、赤血球懸濁物の流れを調整する工程又は溶血溶液の流速を調整する工程又は(a2)で測定した浸透圧脆弱性に依存して溶血溶液のオスモル濃度を調整する工程を含む。
【0179】
(a4)赤血球を再封する手順。
【0180】
上記「アルギニンデイミナーゼ」、「医薬組成物」又は「懸濁物」、「治療的使用」及び「用量」の項目で示した定義、例えば「赤血球」、「ヘマトクリットレベル」、「アルギニンデイミナーゼ」は、「包摂方法」の項目で準用する。
【0181】
本願全体において、1つの項目で記載した特徴は、本願明細書の他の項目にも適用される。例えば、「アルギニンデイミナーゼ」の項目で示した「アルギニンデイミナーゼ」という記載は、「医薬組成物又は懸濁物」、「治療方法及び使用」、「包摂方法」及び「用量」の項目にも適用される。
【0182】
本願の全体で、「及び/又は」という用語は、それが繋げる1つ以上の事柄が起こり得ることを想定すると解釈されるべき接続詞である。例えば「低タンパク質食及び/又は窒素排出薬による治療結果は通常乏しい」という文章中の「低タンパク質食及び/又は窒素排出薬」は、治療結果が、低タンパク質食若しくは窒素排出薬のいずれかで処置した、又はそれらの組み合わせ、即ち低タンパク質食及び窒素排出薬で処置した個人において乏しいことを示す。
【0183】
本願全体において、「含む」は、全ての具体的に示された特徴が十分に任意、追加、不特定のものであることを包含すると解釈される。本明細書において、「含む」の使用は、特に示された特徴以外の特徴が何も存在しない(即ち「からなる」)態様も開示する。更に、「ある(a)」は、複数であることを排除しない。幾つかの尺度が異なる従属項で相互に異なるという事実だけでは、これらの尺度の組み合わせが有利に使用され得ないことを示唆しない。
【0184】
本発明は、下記図面及び実施例を参照してより詳細に記載され得る。本明細書中に飲用される全ての文献及び特許文献は、本願において参照により援用される。以降の記載において本発明は詳細に例示及び記載されているが、実施例は例示に過ぎず、限定を意図するものではない。
【0185】
配列番号1は、NCBIデータベースにおいて受入番号(WP_004416214.1)として利用可能な、マイコプラズマ・アルギニニ由来の完全長アルギニンデイミナーゼのアミノ酸配列を示す。
【図面の簡単な説明】
【0186】
【
図1】酵素(NAGS, CPS1, ASS1, ASL, ARG1, OTC)及びトランスポーター(ORNT1及びシトリン)のアンモニア窒素の尿素への変換における役割を示す、尿素サイクルの模式図を示す。
【0187】
【
図2】CFSE標識したADIを包摂した赤血球の薬物動態(PK)を表すグラフを示す。ERY-ADI6産物は、5mg/mlのADIを含有する懸濁物の溶解再封により得られる。産物の蛍光標識(CFSE)により、赤血球のインビボ追跡が可能となる。マウスC57BL/6 (8 ml/kg)に静脈内注射した産物の半減期は優れており、投与後の半減期は18~22日と見積もられた。
【0188】
【
図3】ADIを包摂した赤血球の16日間の薬力学を表すグラフを示す。ERY-ADI6産物は、5mg/mlのADIを含有する懸濁物の溶解再封により得られる。この産物が、マウスC57BL/6 (8 ml/kg)に静脈内注射される(IV)。血漿L-アルギニンレベルは、HPLC-MS-MSによって測定される。無処理C57BL/6マウスにおけるL-アルギニンレベルは、75~125μMと評価された。ERY-ADI6産物は、迅速な枯渇をもたらし、投与後15分でL-アルギニンレベルが0μMに減少し、これが13日間持続した。16日で、3頭中2頭のマウスが、血漿L-アルギニンの完全な枯渇を呈した。3頭目のマウスの血漿L-アルギニンは13μMであった。このマウス群の16日での平均血漿L-アルギニンレベルは4,33±7.51μMであった。
【0189】
【
図4】ADIを包摂した赤血球の単発静脈内投与後のアルギナーゼ欠損マウスにおける血中L-アルギニンレベルを表すグラフを示す。ERY-ADI4産物は、4.5mg/mlのADIを含有する懸濁物の溶解再封により得られる。対照として、ADI酵素無しで溶解再建プロセスによって得たpRBC(加工赤血球)産物(モックロード赤血球)が用いられた。0日では、2つの産物がアルギナーゼ欠損マウスに静脈内投与された(ERY-ADI4は4又は8mL/kg、pRBCは8mL/kg)。0日(ERY-ADI4又はpRBC投与前)、1日及び3日で、全てのマウスにおいて血液採取が実施される。ERY-ADI4が4mg/kgで投与された場合、注射後1日及び3日でそれぞれ血中L-アルギニンレベルが60%及び7%にまで低下した。ERY-ADI4の投与量を2倍にした(8mg/kg)場合、病理的血液L-アルギニンレベルに対するADIを包摂した赤血球の効果は著しく、注射の翌日、L-アルギニンレベルは、このマウスモデルのL-アルギニン濃度ベースラインよりも10倍以上低下した(35±22μM対452±45μM、92%血液枯渇に対応する)。ERY-ADI4産物の投与の3日後(3)、血中L-アルギニンレベルは尚も病理的レベルに対し4倍も低い(119±57μM対452±45μM、73%血液枯渇に対応する)。しかしながら、モックロード赤血球(pRBC)が投与された場合、血液L-アルギニン枯渇は見られなかった。対照的に、血中L-アルギニンレベルは尚も増大し、これは、モックロード赤血球がこの疾患の生化学的経路に影響しないことを示す。
【0190】
【
図5】ADIを包摂した赤血球の単発静脈内投与後のアルギナーゼ欠損マウスにおける血清アンモニアレベルを表すグラフを示す。ERY-ADI4産物は、4.5mg/mLのADIを含有する懸濁物の溶解再封によって得られる。対照として、ADI酵素無しで溶解再建プロセスによって得たpRBC(加工赤血球)産物(モックロード赤血球)を用いる。0日で、2つの産物を、アルギナーゼ欠損マウスに静脈内投与された(ERY-ADI4は4又は8mL/kg、pRBCは8mL/kg)。血清アンモニアをアッセイするために、0日(ERY-ADI4又はpRBC投与前)及び3日で、全てのマウスにおいて血液採取が実施される。血清アンモニアは、シトルリン及びアンモニアの生産をもたらすADIによるL-アルギニンの変換として解析された。ADIを包摂する赤血球又はモックロード赤血球で処理したマウスにおいて、顕著なアンモニアレベルの変化は見られなかった。
【0191】
【
図6】ERY-ADIを1回(Group2)、2回(Group3)及び遊離ADI酵素(Group5)を投与したアルギナーゼ欠損マウスにおける血中L-アルギニンレベルを表すグラフを示す。
【実施例】
【0192】
実施例1.アルギニンデイミナーゼ(ADI)を取得し同定する方法
高生産性クローン株の生産及び単離
マイコプラズマ・アルギニニ由来ADIの天然の配列(GenBank: X54141)は、遺伝子コードがE.コリとM.アルギニニ間で相違するため、幾つかのコドンを改変することによって最適化した(コードC1124-ADM-02の新しいプラスミドを作製した)。精製プロセスは、Misawa and coll. (Misawa, S. et al, 1994, J. of Biotechno. 36, 1994, 145-155)に記載されているものを、若干改変している。即ち、細菌生成HMS174 (DE3) T1R株を、JM101株に代えて使用した。他の改変は下記に示す。
【0193】
発酵:
生産は、バッチ培地を入れた発酵器中で、撹拌しながら、プレカルチャー2から圧力及びpHを調整して、最適密度0.05で行われた。光学密度(600nm)が100になるまで増殖相(37℃)が行われ、発現誘導は32℃で1mMのIPTGを培養培地中に添加することによって行われた。細胞沈殿物が2つの相において誘導後26~27時間後に回収され:細胞ブロスは、500kDa中空ファイバーを通した後に5~10倍に濃縮され、細胞ペレットは15900×gで回収され、-20℃で保存された。
【0194】
精製
ADIは、包摂体(IB)として生産された。細胞ペレットを溶解緩衝剤中に懸濁して、細胞を破壊した。そして破壊した細胞を洗浄してIBを回収し、IBを-20℃で保存した。
【0195】
ADIの精製は、pH8.5TRISベース50mM、グアニジウム塩酸塩6M、ジチオスレイトール10mMからなる緩衝剤中にIBペレットを溶解することによって開始した。可溶化は、1時間37±2℃でインキュベーションして達成された。精製後、再フォールディング工程は、一カリウムリン酸塩(KH2PO4)3mM、二カリウムリン酸塩(K2HPO4)からなるpH7.35の緩衝剤中室温で40~45時間実施された。第二の清澄化工程において、培地をQ-セファロースカラム上にロードした。溶出は、NaCl250及び500mMで実施され、溶出フラクションは、接線流濾過(TFF)にかけられた。2つの研磨工程(Sartobind Qカラム)及び2つのTFF工程で、ADIの精製が完了する。最後に0.2μM濾過が実施され、ADIは-20℃で保存された。
【0196】
同定
酵素の特異的活性は、実施例2に記載するように、生産されたシトルリンを測定することによって決定された。タンパク質含量は、280nmの吸光度を読み取って決定された。純度はSDS-PAGEによって決定された。オスモル濃度はオスモメーター(Micro-Osmometer Loser Type 15)を用いて測定された。ADIの生産されたバッチの主要な特徴を下記表2に纏める。
【表2】
【0197】
実施例2.シトルリン測定を用いたADI特異的活性アッセイ
このアッセイは、以下の2段階の反応に基づく(Boyde and Rahmatullah, 1980, Analytical Biochemistry, vol 107, p 424-431):
-第一に、L-アルギニンが、ADIによって、シトルリンとアルギニンに変換される。
-第二に、ジアセチルモノオキシム、塩化鉄(III)、チオセミカルバジド、硫酸及び塩酸の存在下、シトルリンが、530nmで読み取り可能な色付きの発色団に変換される。
【0198】
L-シトルリン標準曲線が作成されて、530nmでの吸光度を読み取ることにより、全てのアッセイ試料のADI酵素活性が決定される。酵素活性(U/mL)及びタンパク質含量(mg)を用いて、特異的活性(U/mg)が計算される。
【0199】
実施例3.マウス赤血球中のADIの包摂
C57BL/6マウス(Charles River)の全血を1000×g、10分間4℃で遠心分離して、血漿及び軟膜を除去した。赤血球を0.9%NaCl(v:v)で3回洗浄した。凍結ADIを融解し、この赤血球懸濁物に添加して、ADIの初期含量2~7mg/mL、ヘマトクリット65%の最終懸濁物を得た。
【0200】
当該懸濁物を、流速120ml/hの血液透析器にロードして、対向流として流速15ml/minで低張溶液(40~50mOsmol/kg)に対して透析した。当該懸濁物を高張溶液(1600~2100mOsmol/kg)を用いて再封し、30分間37℃でインキュベーションした。0.9%NaCl、0.2%グルコース中で3回洗浄した後、懸濁物を、20%脱補体化血漿を添加した保存溶液AS3中に取り上げた。
【0201】
得られた産物を、タイムポイントD0(それらの調製後2時間以内)及びタイムポイントD1(即ち2~8℃で18~24時間保存後)で特定された。血液学的特徴は、獣医学的オートマトン(Sysmex, PocH-100iV)を用いて得られた。
【0202】
結果
終了した産物のADI活性は、水溶液中のADIの外的校正範囲に対して実施例4に記載された方法を用いてアッセイされた。これらの結果は、終了した産物中のADI活性がRBC中に導入された酵素の量に伴い増大し、良好な安定性を維持しながら終了した産物1mlあたり2mgのADIを容易に包摂し得ることを示す。ERY-ADIマウス最終産物の6つの異なるバッチ(ERY-ADI-1~6)の主要な特徴を、表3に示す。
【表3】
【0203】
実施例4.赤血球中に包摂されたADIのアッセイ
赤血球中に保持されたADIと上清中のADIの活性のアッセイは、L-アルギニンからADIによって生成されるNH3の測定に基づく。NH3イオンは、Roche Diagnostics (11877984)により販売されるキットに従い、グルタミン酸デヒドロゲナーゼ(GLDH)の酵素作用によって間接的にアッセイされた。
【0204】
実施例5.C57BL/6マウス中のADIを包摂した赤血球の薬物動態
ERY-ADI6マウス産物はCFSE(蛍光)で標識され、C57BL/6マウス中に静脈内投与された。各タイムポイント(D0 + 15分, D0 + 6時間, D1, D2, D5, D9, D13及びD16)で3頭のマウスを屠殺し、血液をヘパリンリチウムチューブ上に回収し、暗黒下4℃で薬物動態を判定した。全血中のCFSEで標識された赤血球細胞の比率を、フローサイトメトリー法によって判定した。5マイクロリットルの全血試料を0.5%BSAを含有するPBS1ml中に希釈し、各試料を3回通した(FL-1; cytometer FC500, Beckman Coulter中で10,000細胞のカウントを行った)。ADIを担持した赤血球の生存率の評価は、T0+15分でのCFSEで標識したADIを担持する赤血球の比率(100%対照)に異なるタイムポイントでCFSEで標識したADIを担持する赤血球の比率を足して得られた。各時間における様々な得られたパーセンテージは
図2に描画したグラフ中に示され、従って
図2は、時間に対する循環中のADIを担持する赤血球の比率を示している。
【0205】
半減期計算に基づき、ADIを包摂したCFSE標識赤血球の推定半減期は18~22日である。
【0206】
実施例6.C57BL/6マウス中のADIを包摂した赤血球の薬物動態
ADI酵素を包摂した赤血球の産物ERY-ADI6を、8ml/kgの用量でC57BL/6マウス中に静脈内注射した。各タイムポイント(D0 + 15分, D0 + 6時間, D1, D2, D5, D9, D13及びD16)で3頭のマウスを屠殺し、血液をヘパリンリチウムチューブ上に回収し、4℃で血漿L-アルギニンレベルを判定した。
【0207】
図3に示すように、ADIを包摂した赤血球の投与直後(即ち15分後)から13日間に渡り完全な血漿L-アルギニン枯渇が観察される。試験の最後のタイムポイント(即ち16日)で、3頭中2頭のマウスは尚も完全な血漿L-アルギニン枯渇を呈していた。第三のマウスの血漿L-アルギニンレベルは13μMで、これはこの試験における生理的血漿L-アルギニンレベル(100 ± 25μM)よりも格段に低かった。
【0208】
実施例7.アルギナーゼ欠損マウスへのADIを包摂した赤血球の投与(第一試験)
アルギナーゼ欠損マウス(詳細はSin et al, 2013, PLOS One, vol. 8 (11))を用いてインビトロ試験を行った。これらのマウスはアルギナーゼ1活性を欠くため、ヒトで通常見られる高アルギニン血症の重度の病理生化学的側面を呈する。高アルギニン血症(又はアルギナーゼ欠損)は、タモキシフェンの5回注射によって引き起こされる。血中アルギニン濃度は、最後のタモキシフェン注射後数日で上昇し始める。このマウスモデルにおいてマウス産物ERY-ADI4が血中L-アルギニンレベルを低下させる効果を実証するため、最後のタモキシフェン注射の7日後のアルギナーゼ欠損マウス15頭にERY-ADI4(4及び8mL/kg)及びモックロード赤血球(8mL/kg)を静脈内注射した。3つの産物を注射した日(D1)及びその2日後(D3)に、血液を回収した。このインビボ試験の結果を、
図4及び
図5並びに下記表4に示す。
【表4】
【0209】
この表及び
図4に示すように、ADIを包摂した赤血球は、4mL/kgの用量で投与した場合、注射後1及び3日でそれぞれL-アルギニンを60%及び7%まで減少させた。2倍の用量(8mL/kg)を投与した場合、病理的L-アルギニンレベルに対するADIを包摂した赤血球の効果は驚異的で;投与の翌日、L-アルギニンレベルは、このマウスモデルのL-アルギニン濃度ベースラインよりも10倍低かった(35 ± 22μM対452 ± 45μM、92%血中枯渇に対応)。ERY-ADI4産物の投与3日後(3)、血中L-アルギニンレベルは、病理生化学的レベルよりも未だ4倍低い(119 ± 57μM対452 ± 45μM、73%血中枯渇に対応)。しかしながら、モックロード赤血球を投与した場合、血中L-アルギニン枯渇は見られなかった。対照的に、血中L-アルギニンレベルは尚も増大し、これは、モックロード赤血球が、この疾患の生化学的経路に対し効果を有しなかったことを示す。
【0210】
ADIによるL-アルギニンの変換はシトルリン及びアンモニアの生産をもたらすため、血清アンモニアの同時に解析された。
図5に示すように、ADIを包摂した赤血球又はモックロード赤血球で処理したマウスにおいて、アンモニアレベルの顕著な変化は見られなかった。
【0211】
実施例8.アルギナーゼ欠損マウスへのADIを包摂した赤血球の投与(第二試験)
マウス産物ERY-ADIがこのマウスモデルにおいて血中L-アルギニンレベルを低下する効果を確認するため、実施例7の通りにタモキシフェンで処理したマウスに対し、第二の試験を行った。ERY-ADI産物を、最後のタモキシフェン注射の3日後に静脈内注射した。ERY-ADIの1又は2回の静脈内投与(8mL/kg)が予定された(それぞれ群2及び3)。対照群には、遊離状態のADI酵素を投与した(群4)。アルギナーゼ活性を担持するマウスからなる第二の対照群は、この試験の部分であった(群1)。
【0212】
注射当日(D3)及びその1週間後(Day10)に血液を回収した。マウスを屠殺した日にも、血液を回収した(Day13) 。
【0213】
【0214】
第一に、タモキシフェン注射に関する注射のスケジュールを変えたため、この第二試験の血中アルギニンレベルは低かった。この試験において、ERY-ADIの投与は最後のタモキシフェン注射の7日後ではなく3日後と計画され、これがより低い血中アルギニンレベルベースラインをもたらした。
【0215】
図6に示すように、8mL/kgの用量で投与された場合、ADIを包摂した赤血球は、10日目(即ち投与の7日後)で、群2及び3においてベースラインレベルと比較して血中L-アルギニンをそれぞれ81%及び77%低下させた。ERY-ADIの第二の投与は、10日目の血液回収後に予定された。投与の10日後(10)、血中アルギニンの枯渇は、ベースラインレベルと比較して群2及び群3においてそれぞれ82%及び68%の枯渇の幾つかのパーセンテージにより尚も非常に重要である。対照的に、遊離状態のADIを注射したマウス(群4)は10日目に血中アルギニン枯渇は見られなかった。反対に、血中アルギニン濃度は349μMの濃度に達し、これは、アルギナーゼ欠損マウスのモデルにおいて血中アルギニンレベルが増大することを反映する。全ての動物が遊離状態のADIの2度目の注射後に死亡したため、群4において13日目に血中L-アルギニンレベルの測定は実施されなかった。
【0216】
この第二試験により、アルギナーゼ欠損マウスに投与されたときのERY-ADI産物の薬物力学についての幾つかの追加の情報により、第一試験で見られた結果が確認された。単発投与は少なくとも10日間の血中アルギニン枯渇を可能とし、ERY-ADI産物の第二の注射は、このマウスモデルに対し副作用をもたらさなかった。
【0217】
実施例9:アルギニンデイミナーゼを包摂したヒト赤血球の生産
白血球枯渇ヒトRBC1袋(Etablissement francais du sangより提供)を、0.9%NaClで3回洗浄した。アルギニンデイミナーゼ(ADI)溶液をゆっくり溶かし、RBC懸濁物に添加して、ヘマトクリット60%、ADI含量3又は5mg/mLの最終濃度のRBC懸濁物を得た。懸濁物をホモジナイズし、流速90mL/hで血液透析器にロードし、30mOsmol/kgの低張溶液に対して透析した。そして懸濁物を高張溶液で再封して、30分4℃でインキュベーションした。0.9%NaCl、0.2%グルコースで3回洗浄した後、懸濁物を保存溶液AS3(NaCl, NaH2PO4, クエン酸 Na-クエン酸, アデニン及びグルコース。オスモル濃288 mOs/kg及びpH 5.88)中に取り上げた。得られた産物を、0日、1日及びx日で特定した。血液学的特性は、獣医学的オートマトン(Sysmex, PocH-100iV)を用いて得られた。
【0218】
結果:
0日での6つの終了した産物の血液学的及び生化学的特徴を、下記表に示す:3つは3mg/mLのADI濃度で製造し、3つは5mg/mLの濃度で製造したもので、これらは透析前のRBC懸濁物に関連して表される。全てのERY-ADI産物は、同一のADIのバッチを用いて調製されている。インビトロ安定性は、0日、1日及び7日で評価されている。
【0219】
データを下記3つの表に示す。
【0220】
【0221】
閉じ込めの前に添加したADI濃度に拘らず、閉じ込め収率は非常に再現的である(27.3~33.7%)。
【0222】
【0223】
【0224】
アルギニンデイミナーゼのヒト赤血球細胞中閉じ込めは、非常に再現的なプロセスである。主要なパラメーターは、0日及び1日で安定している(例えば細胞外ヘモグロビン、細胞内及び細胞外酵素活性、ヘマトクリット、粒子体積)。7日で、測定されたパラメーターは、閉じ込めプロセスの前に添加されたADI濃度に拘らず、ERY-ADI産物がインビトロで非常に安定であることを示している。
【0225】
結論
赤血球(RBC)中に閉じ込められたアルギニンデイミナーゼ(ADI; EC番号3.5.3.6)は、Erytechの所有するERYCAPS技術プラットフォームを用いて得られる。赤血球内に治療的酵素を閉じ込める技術は、効果的な長期に作用する治療的活性を低毒性で提供し得る。
【0226】
赤血球内のアルギニンデイミナーゼの閉じ込め(ERY-ADI産物)は、酵素の薬学的特性を大いに改善する。健康なマウスにおいて、血漿L-アルギニン枯渇は投与の15分後に完了し、13日間持続する。
【0227】
アルギナーゼ欠損マウスに投与したとき、ERY-ADIは、これらのマウスによって呈される非常に高いL-アルギナーゼ濃度に対し驚異的な効果を示した。実際に、投与24時間後、血中L-アルギニン濃度は、4又は8mL/kg注射した場合、それぞれ52及び92%減少した。投与3日後、血中L-アルギニンレベルは19及び73%まで減少したままであった。更に、アルギニンデイミナーゼによるアンモニアの生産に拘らず、その血漿レベルは、モックロード赤血球対照と比較して変化は無かった。
【0228】
これらの結果は、単発投与が少なくとも10日間血中アルギニン枯渇を可能とし、第二のERY-ADIの注射がアルギナーゼ欠損マウスによって良く耐えられることを示す第二試験において確認された。
【0229】
アルギニンデイミナーゼの閉じ込めは、ヒト赤血球において、良好な再現性及びインビトロ安定性で十分に実施された。
【0230】
これらの結果に基づき、ERY-ADIは、アルギナーゼ欠損の希少な遺伝的障害の主要な生化学的な欠陥に対抗する効果的な方策であり得る。
【配列表】