(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-05-12
(45)【発行日】2023-05-22
(54)【発明の名称】パドルホイール及びパドルホイールを備えた水草刈取船
(51)【国際特許分類】
B63H 16/04 20060101AFI20230515BHJP
A01D 44/00 20060101ALI20230515BHJP
B63B 35/00 20200101ALI20230515BHJP
B63H 1/04 20060101ALI20230515BHJP
【FI】
B63H16/04
A01D44/00
B63B35/00 Z
B63H1/04
(21)【出願番号】P 2018204482
(22)【出願日】2018-10-30
【審査請求日】2021-08-11
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用 平成30年6月18日-10月30日に戸田公園漕艇場(埼玉県戸田市戸田公園5-27)で公開 平成30年7月30日-8月18日に水元公園(東京都葛飾区水元公園3番2号)で公開 平成30年8月22日-24日に戸田公園漕艇場(埼玉県戸田市戸田公園5-27)で公開 2018年10月15日-19日に第17回世界湖沼会議(茨城県つくば市竹園2-20-3つくば国際会議場多目的ホール)で公開 平成30年10月15日-19日に製品名GM-5000 Aquatic Weed Hunter英文パンフレット(発行元:ノダック株式会社)で公開 平成30年10月15日-19日に製品名WH-2400 Aquatic Plant Harvester英文パンフレット(発行元:ノダック株式会社)で公開 平成30年10月17日に戸田公園漕艇場(埼玉県戸田市戸田公園5-27)で公開
(73)【特許権者】
【識別番号】000111395
【氏名又は名称】株式会社テクアノーツ
(74)【代理人】
【識別番号】100105957
【氏名又は名称】恩田 誠
(74)【代理人】
【識別番号】100068755
【氏名又は名称】恩田 博宣
(72)【発明者】
【氏名】曽我 伸一
【審査官】中川 隆司
(56)【参考文献】
【文献】特開平04-158715(JP,A)
【文献】特開平03-079495(JP,A)
【文献】韓国登録実用新案第20-0421791(KR,Y1)
【文献】中国特許出願公開第105905254(CN,A)
【文献】特開2009-132369(JP,A)
【文献】特開平02-074494(JP,A)
【文献】実開平05-037024(JP,U)
【文献】特開2002-084855(JP,A)
【文献】中国特許出願公開第107441728(CN,A)
【文献】実開平05-067269(JP,U)
【文献】特開2003-276686(JP,A)
【文献】米国特許第03880552(US,A)
【文献】国際公開第2007/003066(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B63H 16/04
A01D 44/00
B63B 35/00
B63H 1/04
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
船舶の推進に用いる一対のパドルホイールであって、
駆動手段に固定され回転可能なハブと、
当該ハブに駆動されるハブから放射状に設けられたスポーク若しくはディスクからなる動力伝達部材と、
当該動力伝達部材の先端に設けられ水面を掻いて推進力を得るパドル部材と、
当該パドル部材を挟むように設けられた一対の板状のホイールと、
を備え、
前記ホイールには、前記パドル部材のパドルホイールの正回転方向の逆側に、喫水線以下においてパドルホイール外部から内部に吸水する吸水口を設け
、
前記パドル部材は、前記ホイールの外周にスライドさせて突出させる突出機構を備えたことを特徴とするパドルホイール。
【請求項2】
前記パドル部材は、前記ホイールと連続するスライドウォールを備えたことを特徴とする請求項
1に記載のパドルホイール。
【請求項3】
前記吸水口は、外側の前記ホイールのみに設けられたことを特徴とする請求項1
又は2に記載のパドルホイール。
【請求項4】
前記吸水口は、
前記パドル部材の回転方向後方に形成された切欠からなることを特徴とする請求項1~3のいずれか一項に記載のパドルホイール。
【請求項5】
前記ホイールは、回転軸周囲の中心部に開口部を備えたことを特徴とする
請求項1~4のいずれか一項に記載のパドルホイール。
【請求項6】
前記ホイールは、回転軸方向から見て、正多角形であることを特徴とする
請求項1~5のいずれか一項に記載のパドルホイール。
【請求項7】
請求項1~6のいずれか1項に記載されたパドルホイールを備えた水草刈取船。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、パドルホイール及びパドルホイールを備えた水草刈取船に係り、詳しくは、推進効率のよいパドルホイール及びパドルホイールを備えた水草刈取船に関する。
【背景技術】
【0002】
水草が繁茂した水面に浮かべ、フロートを備えた船体の船首に刈刃を有した開口部を備え、両舷側に設けられた一対のパドルホイールで推進しながら、刈り取った水草をコンベアで船体の後方に搬送し、貯蔵し、船体の後部から排出するような水草刈取船がある。このような水草刈取船は、水草が繁茂したり、水深が浅い湖沼や河川においてゆっくりと作業したりすることが多いので、パドルホイールによる推進が適している。
【0003】
しかしながら、パドルホイールによる推進力は、スクリューなどに比べて弱く、刈り取った水草を水草刈取船への取込量が標準以上に増大したような場合は、繁茂した水草の抵抗が大きく、水草域からの脱出が困難となるような場合がある。
【0004】
また、一般にパドルホイールによる推進は比較的低速でスクリューによる駆動と比較して速度が低いという問題があった。
そこで、特許文献1に記載された水草刈取機では、推進用のパドルを備えた台船に補助推進用のスクリューを設けたようなものが提案された。このような構成であれば、パドルとスクリューとを併用することで、推進力は増し、水草域から容易に脱出できる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、もともと、水草が繁茂したような湖沼や河川では、スクリュー推進によれば水草などがスクリューに絡みつきやすいという問題があった。また、水深が浅い場合も多く、スクリューが水底の岩などに接触すればスクリューが破損するような場合もあるという問題もあった。
【0007】
本発明は、パドルホイールによる推進でありながら、推進力が大きく、比較的高速で移動できるパドルホイール及びパドルホイールを備えた水草刈取船を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記課題を解決するため、本発明のパドルホイールでは、船舶の推進に用いる一対のパドルホイールであって、駆動手段に固定され回転可能なハブと、当該ハブに駆動されるハブから放射状に設けられたスポーク若しくはディスクからなる動力伝達部材と、当該動力伝達部材の先端に設けられ水面を掻いて推進力を得るパドル部材と、当該パドル部材を挟むように設けられた一対の板状のホイールとを備え、前記ホイールには、前記パドル部材のパドルホイールの正回転方向の逆側に、喫水線以下においてパドルホイール外部から内部に吸水する吸水口を設けたことを特徴とする。
【0009】
前記吸水口は、外側の前記ホイールのみに設けられたことが好ましい。
また、前記吸水口は、円形であることが好ましい。
前記ホイールは、回転軸周囲の中心部に開口部を備えることも好ましい。
【0010】
また、前記ホイールは、回転軸方向から見て、正多角形であることも好ましい。
前記パドル部材は、前記ホイールの外周にスライドさせて突出させる突出機構を備えることが望ましい。
【0011】
さらに、このパドル部材には、前記ホイールと連続するスライドウォールを備えることが好ましい。
そして、本発明は、上記いずれかのパドルホイールを備えた水草刈取船により、好適に実施できる。
【発明の効果】
【0012】
本発明のパドルホイール及びパドルホイールを備えた水草刈取船によれば、パドルホイールによる推進でありながら、推進力が大きく、比較的高速で移動できるという効果がある。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【
図3】刈取ヘッドを下げ、搬出部を上げた実施形態の水草刈取船の左舷の側面図。
【
図4】刈取ヘッドを上げ、搬出部を下げた実施形態の水草刈取船の左舷の側面図。
【
図5】実施形態のパドルホイールを水草刈取船の外側から見た斜視図。
【
図6】実施形態のパドルホイールを水草刈取船の船体側から見た斜視図。
【
図8】実施形態のパドルホイールの作用を示す側面図。
【
図9】実施形態のパドルホイールの作用を示す側面図。
【
図10】実施形態のパドルホイールの作用を示す側面図。
【
図11】実施形態のパドルホイールをA-B部分を正面から見た断面図。
【
図12】実施形態のパドルホイールの作用を示す側面図。
【
図13】比較例のパドルホイールの作用を示す側面図。
【
図14】比較例のパドルホイールをC-D部分を正面から見た断面図。
【
図15】比較例のパドルホイールの作用を示す側面図。
【
図16】(a)別の実施形態のパドルホイールを示す側面図。(b)スライド式爪を示す斜視図。
【発明を実施するための形態】
【0014】
(第1実施形態)
以下、本発明を具体化した水草刈取船の一実施形態を
図1~
図12を参照して説明する。説明に当たり、水草刈取船1の作業時の進行方向を前とし、前進する場合
<全体構成>
図1~3に示すように、水草刈取船1は、フロートとなる前後方向に長い概ね直方体の船体4と、船体4の船首41に配置された刈取ヘッド5を備える。船体4の中央部に配置され、刈取ヘッド5により刈り取られた水草を搬送し貯蔵する貯蔵部6を備える。船体4の船尾42に配置され、貯蔵部6に貯蔵された刈り取られた水草を外部に搬送して搬出する搬出部7を備える。これらはコンベアで連続して水草を搬送可能に構成されている。
【0015】
また、船体4の中央部には、貯蔵部6を左右に跨ぐように運転台8が設けられ、運転台8の後部には、エンジンや油圧ポンプ(不図示)が収容されている機械室9が設けられている。
【0016】
また、船体4の上面45の右舷43(
図2)と左舷44の中央部には、推進用のパドル部2が左右に突出するように配設されている。
<船体4>
船体4は、ステンレス製で、全体が、前後に長く、概ね扁平な直方体のフロートとして水面に浮遊可能に気密な構造となっている。
【0017】
上面45は、前後に長い長方形の水平な平面となっている。
図3に示すように船首41の前側下部は、斜め下向きの平面として形成されており、前方に移動時の水の抵抗を低くしている。前側上部は、刈取ヘッド5との干渉を防ぐために斜め上方に向けた平面となっている。船尾42の下部は、斜め下向きの平面として形成されており、後方に移動時の水の抵抗を低くしている。底面(
図3~5参照)は、浅い湖沼でも作業ができ、地上に載置した場合でも安定するように水平面となっている。
【0018】
右舷43(
図2)及び左舷44は、いずれも垂直な平面として形成されている。
<刈取ヘッド>
刈取ヘッド5は、船体4に支持されるフレーム52と、このフレーム52に支持されるバケット53と、このバケット53の底面に配設される取込コンベア54とから構成される。
【0019】
<フレーム>
フレーム52は、上方に直線状に延びる左右一対の後アーム52a/52aと、この後アーム52aと下端部近傍で分岐しておよそ50度程度前側に直線状に延びる左右一対の前アーム52b/52bを備える。左右の前アーム52bと後アーム52aの上端をそれぞれ連結する上アーム52cが設けられる。このように後アーム52aと前アーム52bと上アーム52cによりトラス構造となっている。
【0020】
また、後アーム52a/52aの上端同士を左右水平に連結する後水平アーム52dと、前アーム52b/52bの上端同士を左右水平に連結する前水平アーム52eを備える。
【0021】
船体4の上面45の前部の左右に支持部51/51が設けられ、後アーム52a/52aの下端がそれぞれ軸支され、フレーム52は、この支持部51/51を中心に揺動可能となっている。
【0022】
また、船体4の上面45の船首41側端部の左右には、下支持部52g/52gが配設される。下支持部52g/52gには、ヘッドシリンダ52f/52fのそれぞれの下端が軸支され、ヘッドシリンダ52f/52fのそれぞれの上端は、後水平アーム52dの両端部の上支持部52i/52iに軸支されている。
【0023】
このため、ヘッドシリンダ52f/52fが伸長すると、フレーム52は、前部が上昇するように変位し、ヘッドシリンダ52f/52fが収縮するとフレーム52は、前部が下降するように変位する。
【0024】
<バケット>
バケット53は、水平な底面53aと、底面53aの左右両側に垂直に設けられた側壁53b/53bを備える。側壁53b/53bは、前部が概ね直角二等辺三角形の形状で、後部は底面53aに平行な前部より低い壁面が形成されている。この側壁53b/53bの前部の頂点近傍は、前水平アーム52eの両端に設けられた前支持部53c(
図3)に支持されている。また、側壁53b/53bの後端部は、左右の後アーム52a/52aの中央部同士を架け渡す後支持部52hにより、底面53aの後支持部53d(
図2)が載置されるようにして支持されている。したがって、バケット53は、フレーム52と一体に回動する。
【0025】
<開口部と刈刃>
側壁53b/53bの前端には、連続するように開口側壁55aが設けられ、開口側壁55a/55aの前端は、側壁53b/53bの間隔より広く、船体4の幅と略同等の幅となっている。この開口側壁55a/55aの先端部と底面53aの先端部により開口部55が形成される。
【0026】
この開口部55の周縁には、刈刃56が設けられる。刈刃56は、開口側壁55a/55a先端部の縦刈刃56a/56a(
図1)と、底面53aの先端部の下刈刃56b(
図1)とから構成される。
【0027】
刈刃56は、2枚の刃体が相互に揺動するいわゆる周知のバリカン式刈取機を採用する。オペレータの操作により操作コラム82が操作されるとヘッドナイフモータ(不図示)が駆動されて刃体が往復動して、水草が切断される。
【0028】
取込コンベア54は、バケット53の底面53aの内側に配設される。ステンレス製のメッシュ状のチェーンが無端状のコンベアベルトを形成し、一対の搬送ローラにより駆動され(不図示)、刈り取った水草を船体の中央部の運転台8の下の貯蔵部6に搬送する。
【0029】
<貯蔵部>
貯蔵部6には、取込コンベア54と同様の構成の搬送コンベア60が配設されている。搬送コンベア60は、取込コンベア54により搬送された刈り取った水草をさらに後方に搬送する。この時、搬出部7が搬出の動作をしていないときには、搬送コンベア60により搬送された水草は、搬出部7との境界で搬送が停止され、この部分に水草が貯蔵されていく。
【0030】
<搬出部>
搬出部7は、船尾42から後方に突出するように形成された樋状の構成で、底面70aと、この底面70aの両側に形成された垂直な側壁70b/70bを備える。側壁70b/70bの前側下端には、その一端部が船体4に設けられた支持部(不図示)に軸支される軸部73が設けられ、搬出部7は、後部が軸部73を回転中心として上方に揺動可能に支持される。
【0031】
また、側壁70b/70bの外側の中央には、側壁70bの長手方向と直交する方向に上下に突出する棒状の支持部材74が取り付けられ、支持部材74の上端部に設けられた支持部75に搬出コンベアシリンダ72の上端が軸支され、船尾42の上面45の左右に設けられた支持部76に搬出コンベアシリンダ72の下端が軸支される。このため、搬出コンベアシリンダ72が伸長すると搬出部7の後端が軸部73を回転中心として上方に変位し、搬出コンベアシリンダ72が収縮すると搬出部7の後端が船体4の上面45と平行になるまで下方に変位する。
【0032】
また、底面70aの上には、搬出コンベア71が配設される。搬出コンベア71は、基本的に取込コンベア54、搬送コンベア60と共通の構成で水草を搬送する。
<運転台>
運転台8は、貯蔵部6を左右に跨ぐように構成される。このため、搬送コンベア60が水草を搬送し、貯蔵することには差支えがない。運転台8の後部には、機械室9が設けられ、エンジンや油圧ポンプ(不図示)が収容される。機械室9の前方には、運転席81が設けられ、オペレータが着座する椅子が設けられるとともに、その前方には、油圧回路を制御する操作コラム82が操作可能に配置される。その前方には、安全のための安全柵83が配置されている。
【0033】
<パドル部>
船体4の上面45の右舷43及び左舷44には、推進用のパドル部2/2が配設される。
【0034】
パドルホイール10には、パドルモータ13が接続されている。パドルホイール10は、支持軸15を介して、船体4の上面45の右舷43及び左舷44の取付部16に、水平位置と垂直位置に回動可能に取り付けられている。支持軸15の幅方向外側上部と、取付部16の上部の間には、パドルシリンダ14が取り付けられている。このため、パドルシリンダ14が伸長すると支持軸15が水平に変位し、パドルホイール10は、水面に接触して、水草刈取船1を推進させることができる。一方、パドルシリンダ14が収縮すると支持軸15が垂直に跳ね上げられて、パドルホイール10が舷側に突出しない状態となる。
【0035】
<パドルホイール>
図5は、パドルホイール10を外側から見た斜視図、
図6は、パドルホイール10を船体4側から見た斜視図である。また、
図7は、パドルホイール10の分解斜視図である。
【0036】
図7に示すようにパドルホイール10は、中央部には、ハブ13aに接続され駆動される六角形の板状のセンターディスク10dが形成される。センターディスク10dには、中央部にハブボルト13bが挿入される6つのボルト挿入孔10gが形成されている。
【0037】
センターディスク10dの各辺に沿って、正回転と逆方向に放射方向に直線状に延びる動力伝達部材であるスポーク10eが配置される。各スポーク10eの内側基端部は、隣接する他のスポーク10eと固定されている。そのため、6本のスポーク10eは一体となっている。
【0038】
各スポーク10eの先端部が、回転軸と平行な連結部材10fの中央部分に固定されている。
この連結部材10fの両端部は、外側の外ホイール10b、内側(船体側)の内ホイール10cの各頂点に固定されている。
【0039】
外ホイール10bと内ホイール10cは、六角形の外形の板状部材で、中央部には大きな円形の開口部がある。外ホイール10bには、各頂点の近傍に円形の吸水口10hが穿設されている。
【0040】
水を掻く長方形の板状のパドル部材10aの幅方向の一辺は、連結部材10fに沿うように固定され、パドル部材10aの幅方向の中央部は、スポーク10eに固定されている。また、パドル部材10aの他の対向する2辺は、外ホイール10b、内ホイール10cに密着されている。このため、パドルホイール10が正回転したときには、パドル部材10a、外ホイール10b、内ホイール10cに囲まれた空間に、水が貯留できる空間を有する。
【0041】
<パドルモータ>
図7に示すように駆動手段である油圧モータからなるパドルモータ13は、回転軸に円盤状のハブ13aが装着され、センターディスク10dを駆動するパドルモータ13のモータ回転軸と平行な6本のハブボルト13bがハブ13aに配設されている。ハブ13aは、パドルモータ13と同期して回転する。
【0042】
ハブ13aは、パドルホイール10を装着する。詳しくは、ハブ13aのハブボルト13bが、ショックアブソーバー11を介して、パドルホイール10のセンターディスク10dのボルト挿入孔10gに挿入される。さらに、ハブボルト13bは、パドル固定プレート12を貫通して、その先端がホイールナット13cにより、螺合される。
【0043】
ホイールナット13cが螺合されることで、ハブ13aと、ショックアブソーバー11と、センターディスク10dと、パドル固定プレート12が、一体に固定され、パドルモータ13の回転がパドルホイール10に伝達される。
【0044】
<実施形態の作用>
以上のように構成された水草刈取船1のパドルホイール10の作用について、
図8~
図12を参照しながら、
図13~
図15に示す比較例と比較しながら説明する。
【0045】
図8に示す本発明のパドルホイール10を水草刈取船1の外側から見た図であるが、本発明の作用を説明するために、パドルホイール10の内部のパドル部材10aと連結部材10fが透視できるように描いている。
【0046】
説明の便宜上、
図8から
図12においては、特定のパドル部材10a(1)と、正回転時にこれに続くパドル部材10a(2)についての作用のみに注目して説明する。他のパドル部材10aについては、説明を省く。
【0047】
図8において、上部の右向きの矢印は、水草刈取船1の前進方向を示す。また、パドルホイール10に示す2つの時計回りに向けた矢印は、パドルホイール10の正回転の方向を示す。
図8は、この説明におけるパドル部材10a(1)のスタート状態(初期位置)を便宜的に示し、いまだパドル部材10a(1)は着水前の状態である。この状態では、パドル部材10a(1)に起因する水のない空間Eは存在していない。
【0048】
図9は、
図8のパドルホイール10が、右に30°回転した状態を示す。このときパドル部材10a(1)は、水面WLから水中に進入する。2点鎖線で示す弧は、パドルホイール10の外周の軌跡を示す。パドル部材10a(1)が水中に入ると、水を勢いよく掻き分け、パドル部材10a(1)が通過したところは、パドル部材10a(1)の軌跡に沿って水が排除されて、水のない空間Eを生じる。
【0049】
図10は、パドル部材10a(1)がスタートから60°回転し、さらに水中に入った状態である。このとき、パドル部材10a(1)は、その軌跡に沿って、水を掻き分け、さらに水のない空間Eを拡大させていく。これと同時に、空間Eを埋めるように周囲の水が流れ込む。
【0050】
図11は、
図10のA-B部分のみを、Aの方向から見た断面図である。パドル部材10a(1)は、その軌跡に沿って、水を掻き分け、さらに水のない空間Eを拡大させていく。これと同時に、空間Eを埋めるように周囲の水が流れ込む。
【0051】
まず、水がなくなった空間Eには、へこんだ水面が再び盛り上がるように下方から流入する水に加え、外ホイール10b、内ホイール10cの外周から流入水W2,W3が流入する。
【0052】
しかしながら、パドルホイール10が高速で回転しているため、外ホイール10bと内ホイール10cの間の水は、半径方向外側に向かって遠心力CFが働くため、下方からの水の進入は困難であるばかりか、むしろ、速度によっては空間Eを維持または拡大する力となる。そのため、下方から水のない空間Eに水の流入は、パドルホイール10の回転速度によっては、期待できないことになる。
【0053】
ところが、本発明においては、外ホイール10bには、吸水口10hが穿設されているため、この吸水口10hから、パドル部材10a(1)により負圧となった空間Eに吸い込まれるように勢いよく流入水W1が流入する。なお、内ホイール10cには、吸水口10hが穿設されていないため、空間Eの内ホイール10c側には、水が横方向から流入することはないため、水のない空間Eが残存する。
【0054】
図12は、パドル部材10a(1)がスタートから90°回転した状態を示す。この状態では、パドル部材10a(1)は、すでに半分が、水面WLのラインを越して、水中から脱している。厳密には、水中から水を掬い上げるようにして水面が盛り上がり、水飛沫を飛ばすような状態である。そして、パドル部材10a(1)の通った空間は、吸水口10hから、空間Eに十分な量の流入水W1が流入して、水のない空間Eは、ほとんど消滅している。その結果、パドル部材10a(1)に続く、パドル部材10a(2)の進行方向の面には、十分な水が満たされている。
【0055】
<比較例の作用>
図13は、吸水口10hを有していない比較例を示す図である。本実施形態と、その作用を比較するため、本実施形態の
図10と対比する図となっている。比較例の外ホイール10iは、吸水口10hを備えていない点で、本実施形態と相違するが、その他の構成は同一である。
【0056】
図10と比較すると、
図13では、水のない空間Eの占める体積が大きくなっている。これは、吸水口10hから流入する水がないからである。
図14は、本実施形態の
図11と対比する図であり、
図13のC-D部分のみをC側から見た図である。
図11に示す本実施形態では、本発明の外ホイール10bには、吸水口10hが穿設されているため、この吸水口10hから、パドル部材10a(1)により負圧となった空間Eに吸い込まれるように勢いよく流入水W1が流入したため、空間Eが急速に小さくなった。
【0057】
しかし、比較例の外ホイール10iは、吸水口10hを備えていないため、ここから水が流入することがないため、水のない空間Eがより大きく維持されている。また、パドルホイール10は高速で回転しているため、遠心力CFが働き、速度によっては下方からの水の進入を阻み、あるいは水を押し返し、水のない空間Eを拡大させることもある。
【0058】
図15は、本実施形態の
図12と対比する図である。パドル部材10a(1)はスタート地点から90°進んでいるが、パドル部材10a(1)に続くパドル部材10a(2)の進行方向には、大きな体積の水のない空間Eが存在し、この部分の水が排除されている。
【0059】
<本実施形態と比較例の水草刈取船の作用の比較>
ここで、パドルホイール10の推進力は、パドル部材10aが水を後方に押す力(作用)の抗力(反作用)により生じる。パドル部材10aが水を後方に押す力は、後方に押す水の質量に依存する。すなわち、パドル部材10aの後方に水のない空間Eが存在すれば、それだけ質量が小さくなり、その結果、比較例の水草刈取船1は、同じパドルモータ13のパワーで、パドルホイール10を回転させても、本実施形態の水草刈取船1よりも、推進力の点で劣ることとなる。
【0060】
以上、説明したとおり、本実施形態の水草刈取船1は、パドルホイール10の外ホイール10bに吸水口10hを設けているため、パドルホイールによる推進でありながら、比較例の水草刈取船1よりも、推進力が大きく、比較的高速で移動できるという作用がある。
【0061】
<効果>
上記実施形態の水草刈取船によれば、以下のような効果を得ることができる。
(1)同じ大きさのパドルホイール10において、吸水口10hを備えることで、パドルホイール10の内部の水のない空間Eへの水を供給し、空間Eの発生を抑制することで、パドル部材10aが掻く水の質量を増加させ、水草刈取船1の推進力を向上させることができる。
【0062】
(2)パドルホイール10の外ホイール10bに吸水口10hを穿設するだけで、容易に既存のパドルホイールを事後的に本発明のパドルホイール10とすることができる。
(3)水草刈取船1の推進力を向上させることで、例えば、水面におけるより高速な移動が可能になる。
【0063】
(4)水草を刈り取る作業も、より強い力で刈刃を水草に対して押圧できるため、水草の刈取の効率を向上させることができる。
(5)また、水草刈取船1が水面に繁茂した水草により、大きな走行抵抗を受けている場合でも、高い推進力により脱出しやすくなる。
【0064】
(6)モータなどの駆動装置や、回転機構などの複雑な構造がなく、メンテナンスが不要である。
(7)また、推進力を向上させるため、特に別途エネルギーを必要とせず、省エネルギーの効果がある。
【0065】
(第2実施形態)
<特徴的な構成>
次に、本発明を具体化した水草刈取船の他の実施形態を
図16(a)、(b)を参照して説明する。本実施形態は、スライド式の爪部材を備えた点と、吸水口10hの形状が異なるのみで、他の構成は共通なので、その説明は省略する。
【0066】
図16(b)に示すように、本発明の突出機構を構成するスライド式爪10jは、パドル部材を構成するスライド底10kと、外ホイール10b及び内ホイール10cを半径方向外側に延長するスライドウォール10lを備える。
【0067】
そして、
図16(a)に示すように、スライドウォール10l/10lは、外ホイール10b及び内ホイール10cに沿うように配置され、スライド底10kがスポーク10eに沿って配置される。そして、スライドウォール10lのスライド底10k側端部に沿って、スライド溝10mが開口している。スライド式爪10jは、スライドピン10nが、外ホイール10b及び内ホイール10cの所定の位置に穿設された孔を介してスライド溝10mに挿入され、スライドピン10nの先端がパドルホイール内側でスライドナット10oにより固定される。
【0068】
このように構成されたスライド式爪10jは、スライドナット10oを緩めて内側にスライド移動すると、外ホイール10bの内側に収容される(「収納位置」という。)。また、スライド式爪10jを半径方向外側にスライドさせると、スライド底10kが突出し、スライドウォール10lが、外ホイール10b及び内ホイール10cを外側に延長させるように配置される(「使用位置」という。)。
【0069】
<作用>
スライド式爪10jは、水草刈取船1の運搬時に収納位置に収納するとともに、パドルシリンダ14を収縮して支持軸15を垂直に跳ね上げれば、パドルホイール10が舷側に突出しない状態となり、より小さな運搬用の車両に積み込むことができる。
【0070】
一方、スライド式爪10jを使用位置に伸長させ、スライドナット10oを締め付けて位置を固定すれば、半径R1より大きな半径R2で、パドル部材の水掻き機能を有するスライド底10kにより水を掻くことができる。
【0071】
このとき、スライド底10kとともに、このスライド底10kとこの両端に沿って、外ホイール10b及び内ホイール10cと連続するようにスライドウォール10lにより、水をしっかり掻きとってより大きな推進力を得ることができる。
【0072】
この場合、第1実施形態と同様、スライド底10kにより水面から水が掻き取られると、一時的に第1実施形態よりも体積が大きい水のない空間Bが形成される。
第2実施形態では、第1実施形態の円形の吸水口10hに替えて切欠からなる吸水口10pを備えている。その作用は、第1実施形態の吸水口10h(
図5参照)と同様に、水のない空間Bに対して、横方向から速やかに水を補填する機能がある。そのため、スライド底10kにより、より大きな半径でも有効な推進力を担保することができる。
【0073】
<効果>
第1実施形態の効果(1)~(7)に加え、第2実施形態の水草刈取船では、(8)スライド式爪10jを収納位置に収納することで、第1実施形態と同様に突起物を無くして、運搬時によりコンパクトにすることができる。
【0074】
(9)スライド式爪10jを使用位置にすることで、より大きな半径で水を掻くことができるため、第1実施形態より大きな推進力を得ることができる。
(10)このような大きな半径としても、吸水口10pにより横方向から給水できるので、水のない空間Bの発生を抑制することができ、推進力を確保することができる。
【0075】
(11)吸水口10pは切欠としているので、容易に加工することができる。
<変更例等>
なお、上記実施形態は以下のように変更してもよい。
【0076】
○本実施形態の吸水口10hは、図示したような円形の窓状のものを例示したが、必ずしも、その大きさは、第1実施形態に限定されるものではない。
○本実施形態の吸水口10hは、円形の窓状のものを例示したが、その形も必ずしも円形のものに限定されない。例えば、楕円、流線形などの開口部でもよい。
【0077】
○また、吸水口10hの位置は、パドル部材に接した位置など、適宜位置は最適化することができる。
○また、第1実施形態の吸水口10hは、窓状のものを例示したが、第2実施形態に示す外ホイール10bのパドル部材10aの回転方向後方に形成された切欠からなる吸水口10pのような構成でもよい。また、切欠は、外ホイール10bの外側でなく、内側からの切欠でもよい。
【0078】
○本実施形態の吸水口10hは、外ホイール10b側のみに配設されているが、内ホイール10c側にも配設することができる。また、外ホイール10b,内ホイール10cのいずれか、あるいは両方に設けてもよい。
【0079】
○本実施形態の外ホイール10b、内ホイール10cは、正六角形のものを例示したが、他の正多角形のものや、円形の形状でもよい。
○本実施形態の外ホイール10b、内ホイール10cは、回転軸の周囲が、開口したドーナツ形状であるが、回転軸の周囲が閉じた板状の形状でもよい。
【0080】
○実施形態では、外輪船を例に説明したが、内輪船に利用することもできる。
○各装備の駆動は、油圧回路に限定されるものではなく、内燃機関による駆動や、電気駆動でもよい。
【0081】
○推進手段は、パドルホイールのみならず、スクリュー推進や風力推進、ウォータジェット推進などを併用するものでもよい。
○実施形態は、最も好適に実施することができる水草刈取船1を例に本発明のパドルホイールを説明したが、もちろん水草刈取船に限定されるものではなく、広く船舶等の推進に利用することができる。
【0082】
○なお、本発明は上記実施形態に限定して解釈されるものでなく、当業者により本発明の趣旨を逸脱しない範囲で、付加し、削除し、置換して変形して実施できることは言うまでもない。
【符号の説明】
【0083】
1…水草刈取船、2…パドル部、4…船体、5…刈取ヘッド、6…貯蔵部、7…搬出部、8…運転台、9…機械室、10…パドルホイール、10a…パドル部材、10b…外ホイール、10c…内ホイール、10d…センターディスク、10e…スポーク(動力伝達部材)、10f…連結部材、10g…ボルト挿入孔、10h…吸水口、10i…外ホイール(比較例)、10j…スライド式爪、10k…スライド底、10l…スライドウォール、10m…スライド溝、10n…スライドピン、10o…スライドナット、10p…吸水口、13…パドルモータ(駆動手段)、13a…ハブ、14…パドルシリンダ、15…支持軸、16…取付部、41…船首、42…船尾、43…右舷、44…左舷、45…上面、51…支持部、52…フレーム、53…バケット、54…取込コンベア、55…開口部、55a…開口側壁、56…刈刃、60…搬送コンベア。