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特許7278778コークスまたは石炭からのグラフェンシートの直接超音波処理製造
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  • 特許-コークスまたは石炭からのグラフェンシートの直接超音波処理製造 図1
  • 特許-コークスまたは石炭からのグラフェンシートの直接超音波処理製造 図2
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-05-12
(45)【発行日】2023-05-22
(54)【発明の名称】コークスまたは石炭からのグラフェンシートの直接超音波処理製造
(51)【国際特許分類】
   C01B 32/19 20170101AFI20230515BHJP
【FI】
C01B32/19
【請求項の数】 19
(21)【出願番号】P 2018566870
(86)(22)【出願日】2017-06-02
(65)【公表番号】
(43)【公表日】2019-07-18
(86)【国際出願番号】 US2017035779
(87)【国際公開番号】W WO2018005002
(87)【国際公開日】2018-01-04
【審査請求日】2020-03-18
(31)【優先権主張番号】15/193,092
(32)【優先日】2016-06-26
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(73)【特許権者】
【識別番号】518190776
【氏名又は名称】ナノテク インストゥルメンツ,インコーポレイテッド
【氏名又は名称原語表記】Nanotek Instruments,Inc.
(74)【代理人】
【識別番号】110001302
【氏名又は名称】弁理士法人北青山インターナショナル
(72)【発明者】
【氏名】ツァーム,アルナ
(72)【発明者】
【氏名】チャン,ボア ゼット.
【審査官】廣野 知子
(56)【参考文献】
【文献】米国特許出願公開第2011/0017585(US,A1)
【文献】米国特許出願公開第2015/0239741(US,A1)
【文献】米国特許出願公開第2008/0279756(US,A1)
【文献】特表2014-529319(JP,A)
【文献】特開2015-227253(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2010/0272628(US,A1)
【文献】特開2012-240853(JP,A)
【文献】特開2013-191275(JP,A)
【文献】特表2016-500714(JP,A)
【文献】特公昭43-000607(JP,B1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C01B 32/00ー32/991
B82Y 30/00、40/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ある層間隔で六角形炭素原子の領域および/または六角形炭素原子中間層を中に含むコークスまたは石炭の粉末の供給材料から単離グラフェンシートを製造する方法であって、前記方法が:
(a)界面活性剤または分散剤を中に含みかつ酸化剤または酸を含まない液体媒体中に前記コークスまたは石炭の粉末の粒子を分散させて懸濁液またはスラリーを形成するステップであって、前記コークスまたは石炭の粉末が、石油コークス、石炭由来コークス、メソフェーズコークス、合成コークス、レオナルダイト、無煙炭、褐炭、瀝青炭、または天然石炭鉱物粉末、またはそれらの組合せから選択されるステップと;
(b)前記液体媒体中に前記単離グラフェンシートを生成するために超音波処理を前記懸濁液またはスラリーに対して行うステップと、
を備えることを特徴とする方法。
【請求項2】
請求項1に記載の方法において、ステップ(a)の前に、前記コークスまたは石炭の粉末の前記粒子は、あらかじめインターカレーションおよび酸化が行われていないことを特徴とする方法。
【請求項3】
請求項1に記載の方法において、前記単離グラフェンシートを乾燥粉末形態で回収するために、前記液体媒体を除去するステップをさらに備えることを特徴とする方法。
【請求項4】
請求項1に記載の方法において、ステップ(b)が100℃未満の温度で行われることを特徴とする方法。
【請求項5】
請求項1に記載の方法において、前記超音波処理のエネルギーレベルが80ワットを超えることを特徴とする方法。
【請求項6】
請求項1に記載の方法において、ステップ(b)に続いて、エアミル粉砕、エアジェットミル粉砕、湿式粉砕、ボールミル粉砕、回転ブレード剪断、またはそれらの組合せから選択される機械的剪断処理が行われることを特徴とする方法。
【請求項7】
請求項1に記載の方法において、前記液体媒体が、水、有機溶媒、アルコール、モノマー、オリゴマー、またはそれらの組合せを含むことを特徴とする方法。
【請求項8】
請求項1に記載の方法において、前記液体媒体が、前記液体媒体中に分散したモノマーまたはオリゴマーをさらに含み、ステップ(b)によって、前記モノマーまたはオリゴマーの重合が誘導されてポリマーが形成されることを特徴とする方法。
【請求項9】
請求項1に記載の方法において、前記液体媒体が、前記液体媒体中に溶解または分散したポリマーをさらに含み、前記単離グラフェンシートが前記ポリマーと混合されて複合組成物を形成することを特徴とする方法。
【請求項10】
請求項1に記載の方法において、前記界面活性剤または分散剤が、陰イオン界面活性剤、非イオン界面活性剤、陽イオン界面活性剤、両性界面活性剤、シリコーン界面活性剤、フルオロ界面活性剤、ポリマー界面活性剤、ヘキサメタリン酸ナトリウム、リグノスルホン酸ナトリウム、ポリ(4-スチレンスルホン酸ナトリウム)、ドデシル硫酸ナトリウム、硫酸ナトリウム、リン酸ナトリウム、スルホン酸ナトリウム、およびそれらの組合せからなる群から選択されることを特徴とする方法。
【請求項11】
請求項1に記載の方法において、前記界面活性剤または分散剤が、メラミン、硫酸アンモニウム、ドデシル硫酸ナトリウム、エチレンジアミン四酢酸二ナトリウム、アンモニア、カルバミド、ヘキサメチレンテトラミン、有機アミン、ピレン、1-ピレンカルボン酸、1-ピレン酪酸、1-ピレンアミン、ポリ(ナトリウム-4-スチレンスルホネート)、またはそれらの組合せから選択されることを特徴とする方法。
【請求項12】
請求項1に記載の方法において、前記方法が断続的または連続的に行われ、コークスまたは石炭の粉末の前記供給材料および前記液体媒体が、超音波処理チャンバー中に断続的または連続的に供給されることを特徴とする方法。
【請求項13】
請求項1に記載の方法において、ステップ(b)中に生成される前記液体媒体中に分散した前記単離グラフェンシートがグラフェンスラリーを形成し、これが、剪断応力または圧縮応力の影響下で固体基材の表面上に堆積されて、未乾燥グラフェンフィルムが形成されて、前記単離グラフェンシートは前記固体基材の表面に対して平行に整列し、前記未乾燥グラフェンフィルムが乾燥されて乾燥グラフェンフィルムが形成されることを特徴とする方法。
【請求項14】
請求項13に記載の方法において、前記スラリーが、キャスティング、コーティング、吹き付け、印刷、またはそれらの組合せの手順を使用して前記表面の上に堆積されることを特徴とする方法。
【請求項15】
請求項13に記載の方法において、前記未乾燥グラフェンフィルムまたは乾燥グラフェンフィルムに対して100℃~3,200℃の温度で熱処理が行われることを特徴とする方法。
【請求項16】
請求項1に記載の方法において、ステップ(b)中に生成される前記液体媒体中に分散した前記単離グラフェンシートがグラフェンスラリーを形成し、前記方法が、インク組成物を製造するために性質改質剤または化学種を加えるステップをさらに備え、前記性質改質剤または化学種が、インクの粘度を調節するため、または印刷後の所望のインク特性(導電率、熱伝導率、誘電率、色、着色力、付着力、耐引っかき性、表面硬さなど)を実現するために使用される材料であることを特徴とする方法。
【請求項17】
請求項1に記載の方法において、ステップ(b)中に生成される前記液体媒体中に分散した前記単離グラフェンシートがグラフェンスラリーを形成し、前記方法が、グラフェン-樹脂分散体を製造するために樹脂および任意選択の性質改質剤を加えるステップをさらに備えることを特徴とする方法。
【請求項18】
請求項17に記載の方法において、前記グラフェン-樹脂分散体を複合材料に変換するステップをさらに備えることを特徴とする方法。
【請求項19】
請求項1に記載の方法において、ステップ(b)中に生成される前記液体媒体中に分散した前記単離グラフェンシートがグラフェンスラリーを形成し、前記方法が、グラフェン含有インク組成物を製造するために性質改質剤を加えるステップをさらに備えることを特徴とする方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
関連出願の相互参照
本出願は、参照により本明細書に援用される2016年6月26日に出願された米国特許出願第15/193,092号明細書の優先権を主張する。
【0002】
本発明は、直接超音波処理を用いて天然石炭または石炭誘導体(たとえばニードルコークス)から単離された薄いグラフェンシート(単層または数層)を直接製造する方法に関する。
【背景技術】
【0003】
単層グラフェンシートは、2次元の六角形格子を占める炭素原子から構成される。多層グラフェンは、2つ以上のグラフェン面から構成されるプレートレットである。個別の単層グラフェンシートおよび多層グラフェンプレートレットは、本明細書では一括してナノグラフェンプレートレット(NGP)またはグラフェン材料と記載される。NGPとしては、純粋なグラフェン(実質的に99%炭素原子)、わずかに酸化されたグラフェン(<5重量%の酸素)、酸化グラフェン(≧5重量%の酸素)、わずかにフッ素化されたグラフェン(<5重量%のフッ素)、フッ化グラフェン(≧5重量%のフッ素)、他のハロゲン化グラフェン、および化学官能化グラフェンが挙げられる。
【0004】
NGPは、一連の独特の物理的、化学的、および機械的性質を有することが分かっている。たとえば、グラフェンは、あらゆる既存の材料の中で最も高い固有強度および最も高い熱伝導率を示すことが分かった。グラフェンの実際の電子デバイス用途(たとえば、トランジスタ中の主要要素としてのSiの代替)は、今後5~10年の間に実現するとは考えられていないが、複合材料中、およびエネルギー貯蔵装置の電極材料中のナノフィラーとしてのその用途は目前に迫っている。加工可能グラフェンシートを大量に利用できることが、グラフェンの複合物用途、エネルギー用途、および別の用途の開発に成功するために重要である。
【0005】
本発明者らの研究グループは、グラフェンを最初に発見した[B.Z.Jang and W.C.Huang,“Nano-scaled Graphene Plates”、2002年10月21日に提出された米国特許出願第10/274,473号明細書;現在は米国特許第7,071,258号明細書(07/04/2006)]。NGPおよびNGPナノ複合物の製造方法は本発明者らによって最近レビューされている[Bor Z.Jang and A Zhamu,“Processing of Nano Graphene Platelets(NGPs)and NGP Nanocomposites:A Review,”J.Materials Sci.43(2008)5092-5101]。本発明者らの研究によって、以下に概略を示すナノグラフェンプレートレットの確立された製造方法には従わないという点で新規である、単離ナノグラフェンプレートレットのケミカルフリー製造方法が得られた。さらに、この方法は、費用対効果が高く、大幅に少ない環境影響で新規グラフェン材料が得られるという点で有用性が高い。NGPを製造するために4つの主要な従来技術の方法が採用されてきた。これらの利点および欠点を以下に簡潔にまとめている。
【0006】
方法1:酸化黒鉛(GO)プレートレットの化学的形成および還元
第1の方法(図1)は、黒鉛インターカレーション化合物(GIC)、または実際には酸化黒鉛(GO)を得るために、インターカラントおよび酸化剤(たとえば、それぞれ濃硫酸および硝酸)を用いた天然黒鉛粉末の処理を伴う[William S.Hummers,Jr.,et al.,Preparation of Graphitic Oxide,Journal of the American Chemical Society,1958,p.1339]。インターカレーションまたは酸化の前、黒鉛は約0.335nmのグラフェン面間隔を有する(L=1/2 d002=0.335nm)。インターカレーションおよび酸化処理を行うと、グラフェン間隔は、典型的には0.6nmを超える値まで増加する。これは、この化学的経路中に黒鉛材料に生じる第1の膨張段階である。得られたGICまたはGOは、次に、熱衝撃曝露、または溶液系の超音波支援グラフェン層剥離方法のいずれかを用いることでさらに膨張する(多くの場合で剥離と呼ばれる)。
【0007】
熱衝撃曝露方法では、典型的には依然として互いに相互接続する黒鉛フレークから構成される「黒鉛ワーム」の形態である剥離またはさらに膨張した黒鉛を形成するために、GICまたはGOを高温(典型的には800~1,050℃)に短時間(典型的には15~60秒)曝露して、GICまたはGOを剥離または膨張させる。この熱衝撃手順によって、一部分離した黒鉛フレークまたはグラフェンシートを製造することができるが、通常は、黒鉛フレークの大部分は相互接続されたままである。典型的には、次に、剥離した黒鉛または黒鉛ワームに対して、エアミル粉砕、機械的剪断、または水中の超音波処理を用いたフレーク分離処理が行われる。したがって、方法1は、基本的に、第1の膨張(酸化またはインターカレーション)と、さらなる膨張(または「剥離」)と、分離との3つの異なる手順を伴う。
【0008】
溶液系分離方法では、膨張または剥離したGO粉末を水中または水性アルコール溶液中に分散させ、これに対して超音波処理を行う。これらの方法において、超音波処理は、黒鉛のインターカレーションおよび酸化の後(すなわち第1の膨張の後)、ならびに典型的には得られたGICまたはGOの熱衝撃曝露の後(第2の膨張の後)に使用することに留意することが重要である。あるいは、面間空間内に存在するイオン間の反発力がグラフェン間ファンデルワールス力に打ち勝って、結果としてグラフェン層が分離するように、水中に分散させたGO粉末のイオン交換または長時間の精製手順が行われる。
【0009】
この従来の化学的製造方法に関連したいくつかの大きな問題が存在する:
(1)この方法は、硫酸、硝酸、および過マンガン酸カリウムもしくは塩素酸ナトリウムなどのいくつかの望ましくない化学物質を多量に使用する必要がある。
(2)化学処理方法は、典型的には5時間から5日間の長いインターカレーションおよび酸化の時間を必要とする。
(3)強酸によって、「黒鉛中に入り込むこと」によるこの長いインターカレーションまたは酸化プロセス中に、多量の黒鉛が消費される(黒鉛が二酸化炭素に変換され、これがプロセス中に失われる)。強酸および酸化剤中に浸漬した黒鉛材料の20~50重量%が失われることは珍しくない。
(4)熱で誘発される剥離方法および溶液で誘発される剥離方法の両方は、非常に時間のかかる洗浄および精製のステップを必要とする。たとえば、洗浄して1グラムのGICを回収するために典型的には2.5kgの水が使用され、適切な処理が必要となる多量の廃水が生じる。
(5)熱で誘発される剥離方法および溶液で誘発される剥離方法の両方では、得られる生成物は、酸素含有量を減少させるためのさらなる化学的還元処理を行う必要があるGOプレートレットである。典型的には、還元後でさえも、GOプレートレットの導電率は、純粋なグラフェンの導電よりもはるかに低いままである。さらに、この還元手順は、ヒドラジンなどの毒性化学物質の利用を伴うことが多い。
(6)さらに、排液後にフレーク上に保持されるインターカレーション溶液の量は、黒鉛フレーク100重量部当たり20~150部(pph)の溶液の範囲、より典型的には約50~120pphの範囲となりうる。
(7)高温剥離中、フレークによって保持される残存インターカレート(intercalate)種(例えば、硫酸および硝酸)は分解して硫黄化合物および窒素化合物の種々の化学種(たとえば、NOおよびSO)を生成し、これらは望ましくない。流出液は、環境に対して悪影響が生じないようにするために費用のかかる改善手順が必要となる。
【0010】
上記概略の制限を克服するために本発明が作られた。
【0011】
方法2:純粋なナノグラフェンPシートの直接形成
2002年に、本発明者らの研究チームは、ポリマーまたはピッチ前駆体から得られた部分的に炭化または黒鉛化されたポリマー炭素から単層および多層のグラフェンシートを単離することに成功した[B.Z.Jang and W.C.Huang,“Nano-scaled Graphene Plates”、2002年10月21日に提出された米国特許出願第10/274,473号明細書;現在は米国特許第7,071,258号明細書(07/04/2006)]。Mackら[“Chemical manufacture of nanostructured materials”米国特許第6,872,330号明細書(2005年3月29日)]は、黒鉛にカリウム金属溶融物をインターカレートさせるステップと、結果としてKがインターカレートされた天然黒鉛をアルコールと接触させて、NGPを含む剥離黒鉛を乱暴に生成するステップとを含む方法を開発した。カリウムおよびナトリウムなどの純アルカリ金属は水分に対して非常に敏感であり、爆発の危険が生じるので、この方法は、真空中または非常に乾燥したグローブボックス環境中で注意深く行う必要がある。この方法は、NGPの大量生産には適していない。上記概略の制限を克服するために本発明が作られた。
【0012】
方法3:無機結晶表面上でのナノグラフェンシートのエピタキシャル成長および化学蒸着
基板上の超薄グラフェンシートの小規模製造は、熱分解に基づくエピタキシャル成長およびレーザー脱離イオン化技術によって行うことができる[Walt A.DeHeer,Claire Berger,Phillip N.First,“Patterned thin film graphite devices and method for making same”米国特許第7,327,000B2号明細書(2003年6月12日)]。わずか1層または数層の原子層を有する黒鉛のエピタキシャル膜は、それらの特有の特性およびデバイス基板としての大きな可能性のため、技術的および化学的に重要である。しかし、これらの方法は、複合材料およびエネルギー貯蔵用途の単離されたグラフェンシートの大量生産には適していない。
【0013】
方法4:ボトムアップ方法(小分子からのグラフェンの合成)
Yangら[“Two-dimensional Graphene Nano-ribbons,”J.Am.Chem.Soc.130(2008)4216-17]は、1,4-ジヨード-2,3,5,6-テトラフェニル-ベンゼンと4-ブロモフェニルボロン酸との鈴木-宮浦カップリングから開始する方法を用いて最長12nmの長さのナノグラフェンシートを合成した。結果として得られるヘキサフェニルベンゼン誘導体をさらに誘導体化させ環を縮合させて小さいグラフェンシートを得た。これは、これまでは非常に小さいグラフェンシートが生成されている遅いプロセスである。
【0014】
したがって、望ましくない化学物質の量の減少(またはこれらの化学物質すべての除去)、短縮された処理時間、より少ないエネルギー消費、より低いグラフェン酸化度、望ましくない化学種の排液中(たとえば、硫酸)または空気中(たとえば、SOおよびNO)への流出の減少または排除が要求されるグラフェン製造方法が緊急に必要とされている。この方法によって、より純粋(より少ない酸化およびより少ない損傷)で、より高い導電性で、より大きい/より幅広のグラフェンシートが製造可能となるべきである。
【0015】
さらに、従来技術のグラフェン製造方法のほとんどは、高純度の天然黒鉛を出発物質として使用することから開始している。黒鉛鉱石の精製は、多量の望ましくない化学物質の使用を伴う。明らかに、グラフェンシート(特に単層グラフェンおよび数層グラフェンシート)を石炭または石炭誘導体から直接製造する費用対効果のより高い方法を有する必要性が存在する。このような方法は、環境を汚染する黒鉛鉱石精製手順が回避されるだけでなく、低コストのグラフェンの利用も可能となる。現在、非常に高いグラフェンのコストのために、グラフェン系製品が市場に広く受け入れられることが妨害されることが主な理由で、産業としてのグラフェンは、まだ現れていない。
【発明の概要】
【0016】
本発明は、ある層間隔(グラフェン面間隔)で六角形炭素原子の中間層または領域(グラフェン面またはグラフェン領域)を有するコークスまたは石炭の粉末から、10nm未満の平均厚さを有する単離グラフェンシート(好ましくはおよび典型的には単層グラフェンまたは数層グラフェン)を直接製造する方法を提供する。
【0017】
この方法は:(a)任意選択の界面活性剤または分散剤を中に含有する液体媒体中にコークスまたは石炭の粉末の粒子を分散させて、懸濁液またはスラリーを形成するステップにおいて、コークスまたは石炭の粉末が、石油コークス、石炭由来コークス、メソフェーズコークス、合成コークス、レオナルダイト、無煙炭、褐炭、瀝青炭、または天然石炭鉱物粉末、またはそれらの組合せから選択されるステップと;(b)液体媒体中に分散した単離グラフェンシートを生成するのに十分な時間の長さで、あるエネルギーレベルの超音波処理を懸濁液またはスラリーに対して行うステップとを含む。
【0018】
ある実施形態では、懸濁液は、この任意選択の界面活性剤を含まない。しかし、好ましくは、懸濁液は界面活性剤または分散剤を含み、それによって形成時のグラフェンシートの再積層を防止することができる。これによって、ほとんどが単層のより薄いグラフェンシートが得られる。
【0019】
この方法は、上記単離グラフェンシートを乾燥粉末形態で回収するために液体媒体を乾燥させる(除去する)ステップをさらに含むことができる。
【0020】
ある実施形態では、コークスまたは石炭の粉末粒子は、ステップ(a)を実施する前に、あらかじめインターカレーションも酸化も行われていない。これによって濃硫酸および硝酸などの望ましい化学物質を使用する必要がなくなる。驚くべきことに、石炭またはコークスの粒子からのばらばらのグラフェンシートの単離には、黒鉛粒子のインターカレーションおよび/または酸化に対して強力であることが知られているこれらの化学物質を使用する必要がないことが確認された。これは、本発明による「直接超音波処理」方法の独自の予期せぬ特徴の1つである。「直接」という単語は、石炭/コークス粒子を強酸および/または強い酸化剤にあらかじめ曝露する必要がないことを意味する。
【0021】
本方法は穏やかな条件下で行うことができ、すなわち高温、高圧、および高真空が不要である。典型的には、超音波処理ステップは、100℃未満の温度で行われる。典型的には、音波エネルギーレベルは80ワットを超える。
【0022】
ある実施形態では、超音波処理ステップに続いて、エアミル粉砕、エアジェットミル粉砕、湿式粉砕、ボールミル粉砕、回転ブレード剪断、またはそれらの組合せから選択される機械的剪断処理が行われる。
【0023】
ある実施形態では、液体媒体は、水、有機溶媒、アルコール、モノマー、オリゴマー、または樹脂を含む。コークスまたは石炭に由来する構造の黒鉛領域中のグラフェン面を剥離し分離できるように超音波を伝達するために、水およびエチルノール(ethylnol)などの環境に優しい液体が有効な液体媒体となることはうれしい驚きである。非常に予期せぬことに、モノマーまたはオリゴマー分子が存在する場合、それらはグラフェンシートが単離する(生成する)ときに重合可能であり、それによって結果として得られるポリマーマトリックス中にグラフェンシートを十分混合することができる。言い換えると、この方法によって、3つの機能またはステップ(グラフェンの生成、モノマー/オリゴマーの重合、およびポリマーマトリックス中へのグラフェンシートの分散)を1つのステップにまとめることができる。
【0024】
界面活性剤または分散剤は、陰イオン界面活性剤、非イオン界面活性剤、陽イオン界面活性剤、両性界面活性剤、シリコーン界面活性剤、フルオロ界面活性剤、ポリマー界面活性剤、ヘキサメタリン酸ナトリウム、リグノスルホン酸ナトリウム、ポリ(4-スチレンスルホン酸ナトリウム)、ドデシル硫酸ナトリウム、硫酸ナトリウム、リン酸ナトリウム、スルホン酸ナトリウム、およびそれらの組合せからなる群から選択することができる。
【0025】
特に有効な界面活性剤または分散剤は、メラミン、硫酸アンモニウム、ドデシル硫酸ナトリウム、(エチレンジアミン)ナトリウム、テトラアルキアンモニウム(tetraalkyammonium)、アンモニア、カルバミド、ヘキサメチレンテトラミン、有機アミン、ピレン、1-ピレンカルボン酸、1-ピレン酪酸、1-ピレンアミン、ポリ(ナトリウム-4-スチレンスルホネート)、およびそれらの組合せである。
【0026】
ある実施形態では、本方法は断続的または連続的に行われ、コークスまたは石炭の粉末の供給材料および液体媒体は、超音波処理チャンバー中に断続的または連続的に供給される。
【0027】
ステップ(b)中に生成される液体媒体中に分散した単離グラフェンシートは、グラフェンスラリーを形成する。このグラフェンスラリー中のグラフェンシートの濃度は、コーティング、吹き付け、キャスティング、または印刷が可能となるように調節可能である。たとえば、剪断応力または圧縮応力の影響下で、グラフェンスラリーを固体基材の表面上に堆積して未乾燥グラフェンフィルムを形成して、基材表面に対して実質的に平行にグラフェンシートを整列させることができ、ここで上記未乾燥フィルムを乾燥させることで乾燥グラフェンフィルムが形成される。
【0028】
未乾燥グラフェンフィルムまたは乾燥グラフェンフィルムは、100℃~3,200℃(好ましくは500℃~2,800℃の間、より好ましくは1,000℃~2,600℃の間)の温度で熱処理が行われる。
【0029】
ステップ(b)中に生成される液体媒体中に分散した単離グラフェンシートは、グラフェンスラリーを形成し、本方法はインク組成物を製造するために改質剤または化学種を加えるステップをさらに含むことができる。この改質剤または化学種は、インクの粘度を調節するため、または印刷後の所望のインク特性(たとえば導電率、熱伝導率、誘電率、色、着色力、付着力、耐引っかき性、表面硬さなど)を実現するために使用されるあらゆる材料であってよい。
【0030】
別の一実施形態では、ステップ(b)中に生成される液体媒体中に分散した単離グラフェンシートは、グラフェンスラリーを形成し、本方法は、グラフェン-樹脂分散体を形成するために、樹脂および任意選択の性質改質剤を加えるステップをさらに含む。
【図面の簡単な説明】
【0031】
図1図1は、本発明による単離グラフェンシートの製造方法の一実施形態を示すフローチャートである。
図2図2は、単離グラフェンシートを製造するために、石炭/コークススラリーに対して超音波処理を行う装置の概略図である。
【発明を実施するための形態】
【0032】
炭素材料は、実質的に非晶質の構造(ガラス状炭素)、高度に組織化された結晶(黒鉛)、または種々の比率およびサイズの黒鉛微結晶および欠陥が非晶質マトリックス中に分散することを特徴とするあらゆる種類の中間構造を想定することができる。典型的には、黒鉛微結晶は、底面に対して垂直の方向であるc軸方向でファンデルワールス力によって互いに結合する多数のグラフェンシートまたは底面から構成される。これらの黒鉛微結晶は、典型的にはミクロンサイズまたはナノメートルサイズである。これらの黒鉛微結晶は、黒鉛フレーク、炭素/黒鉛繊維セグメント、炭素/黒鉛ウィスカー、または炭素/黒鉛ナノファイバーであってよい黒鉛粒子中の結晶の欠陥または非晶質相の中に分散している、またはそれらと連結している。炭素または黒鉛繊維セグメントの場合、グラフェン面は、特徴的な「乱層構造」の一部となりうる。
【0033】
基本的に、黒鉛材料は、面間隔を有して互いに積層された多くのグラフェン面(六角形炭素原子中間層)から構成される。これらのグラフェン面は、剥離および分離によって、六角形炭素原子の1つのグラフェン面または数個のグラフェン面をそれぞれ含むことが可能な単離グラフェンシートを得ることができる。さらに、天然黒鉛は、典型的には一連の浮遊選鉱および酸処理による黒鉛鉱物(採掘された黒鉛鉱石または黒鉛石)の精製によって製造される黒鉛材料を意味する。天然黒鉛の粒子は、次に、背景技術の項で議論したようなインターカレーション/酸化、膨張/剥離、および分離/単離の処理が行われる。
【0034】
本発明は、他の場合には多量の汚染化学物質が生成される黒鉛精製手順を行う必要がない。実際、本発明では、グラフェンシートを製造するための出発物質として天然黒鉛を一緒に使用することが回避される。その代わり、本発明者らは、石炭およびその誘導体(コークス、特にニードルコークスなど)から開始する。濃硫酸、硝酸、および過マンガン酸カリウムなどの望ましくない化学物質は、本発明による方法には使用されない。
【0035】
本発明の好ましい特定の一実施形態は、精製していない石炭粉末からナノグラフェンプレートレット(NGP)とも呼ばれる単離グラフェンシートを直接製造する方法である。本発明者らは、驚くべきことに、石炭(たとえばレオナルダイトまたは褐炭)の粉末は、長さまたは幅が5nm~1μmの範囲に及ぶグラフェン様領域または芳香族分子を中に含有することを発見した。これらのグラフェン様領域は、ある層間隔で六角形炭素原子の面および/または六角形炭素原子中間層を含む。これらのグラフェン様の面または分子または中間層は、典型的にはC、O、N、P、および/またはHを含む不規則な化学基で典型的には相互接続される。本発明による方法では、中間層のインターカレーション、剥離、および/または分離、および/または周囲の不規則な化学種からのグラフェン様の面または領域の分離によって、単離グラフェンシートを得ることができる。
【0036】
各グラフェンシートは、グラフェン面と平行な長さおよび幅、ならびにグラフェン面と直交する厚さを有する。定義によると、NGPの厚さは100ナノメートル(nm)以下(より典型的には<10nm、最も典型的で望ましくは<3.4nm(<10層または10グラフェン面)であり、単一シートのNGP(単層グラフェン)は0.34nmの薄さである。NGPの長さおよび幅は、典型的には5nm~10μmの間であるが、より長いまたはより短い場合もあり得る。一般に、本発明による方法を用いて石炭またはコークスの粉末から製造されたグラフェンシートは、単層グラフェンまたは数層グラフェン(互いに積層された2~10のグラフェン面)である。
【0037】
図1および図2中に概略的に示されるように、本発明による方法は2つのステップを含む。ステップ(a)は、任意選択の界面活性剤または分散剤を中に含む液体媒体中にコークスまたは石炭の粉末の粒子を分散させて懸濁液またはスラリーを形成することを伴う(図2中の32)。このステップ(図1中の10)は、超音波処理器のチップ34を含むチャンバーまたは反応器30の中に、コークス/石炭粉末および液体媒体(界面活性剤を有する、または有さない)を満たすステップを含むことができる。必要であると考えるなら、複数のチップを反応器中に取り付けることができる。コークスまたは石炭の粉末は、石油コークス、石炭由来コークス、メソフェーズコークス、合成コークス、レオナルダイト、無煙炭、褐炭、瀝青炭、または天然石炭鉱物粉末、またはそれらの組合せから選択することができる。
【0038】
ステップ(b)は、単離グラフェンシートを生成するのに十分な時間の長さで、あるエネルギーレベルの超音波処理を懸濁液またはスラリーに対して行うステップを含む。図1中に示されるように、それぞれが典型的には5~20のグラフェン面を含むより厚いNGPを生成するために、低い音波強度および/またはより短い超音波曝露時間の使用(12)を選択することができる。これに続いて、厚いNGPに対して機械的分離処理14(たとえばエアジェットミル粉砕、回転ブレード剪断、湿式粉砕など)を行うことで、より薄いグラフェンシートが得られる。あるいは、薄いグラフェンシートを直接生成するために、より長い時間でより強い音響出力を使用することができる(図1中の16)。これは、図2中に示されるように、チャンバーから連続的または断続的にスラリーを押し出し、次にそのチャンバーに戻して再循環させたり、第2のチャンバー中に再循環させたりすることによって容易に実現可能である。超音波処理チャンバーのカスケードを直列に接続することができる。
【0039】
一例としてニードルコークスを使用する場合、第1のステップは、微小なニードルコークス粒子(針状)を含むコークス粉末試料を調製するステップを含むことができる。これらの粒子の長さおよび/または直径は、好ましくは0.2mm未満(<200μm)であり、さらに好ましくは0.01mm(10μm)未満である。これらは1μm未満であってよい。ニードルコークス粒子は、典型的にはナノメートル規模の黒鉛微結晶を含み、それぞれ微結晶は複数のグラフェン面から構成される。
【0040】
この粉末は、次に液体媒体(たとえば、水、アルコール、またはアセトン)中に分散されて、粒子が液体媒体中に懸濁する懸濁液またはスラリーが得られる。好ましくは、液体媒体中への粒子の均一な分散を促進するために、分散剤または界面活性剤が使用される。最も重要なこととして、本発明者らは驚くべきことに、分散剤または界面活性剤によって、層状材料の剥離および分離が促進されることを見出した。同等の処理条件下で、通常は、界面活性剤を含むコークス/石炭試料からは、界面活性剤を含まない試料よりもはるかに薄いプレートレットが得られる。所望のプレートレット寸法を実現するためにかかる時間も、界面活性剤含有懸濁液の場合はより短くなる。
【0041】
使用可能な界面活性剤または分散剤としては、陰イオン界面活性剤、非イオン界面活性剤、陽イオン界面活性剤、両性界面活性剤、シリコーン界面活性剤、フルオロ界面活性剤、およびポリマー界面活性剤が挙げられる。本発明の実施に特に有用な界面活性剤としては、陰イオン系、陽イオン系、非イオン系、およびフルオロ系の化学種を含むDuPontのZonylシリーズが挙げられる。別の有用な分散剤としては、ヘキサメタリン酸ナトリウム、リグノスルホン酸ナトリウム(たとえば、商品名Vanisperse CBおよびMarasperse CBOS-4でBorregaard LignoTechより販売される)、硫酸ナトリウム、リン酸ナトリウム、およびスルホン酸ナトリウムが挙げられる。
【0042】
有利には、界面活性剤または分散剤は、メラミン、硫酸アンモニウム、ドデシル硫酸ナトリウム、(エチレンジアミン)ナトリウム、テトラアルキアンモニウム(tetraalkyammonium)、アンモニア、カルバミド、ヘキサメチレンテトラミン、有機アミン、ピレン、1-ピレンカルボン酸、1-ピレン酪酸、1-ピレンアミン、ポリ(ナトリウム-4-スチレンスルホネート)、またはそれらの組合せから選択することができる。
【0043】
黒鉛インターカレーション化合物(GIC)の形成は、強力な酸化剤(たとえば硝酸または過マンガン酸カリウム)の使用を伴い、それによって黒鉛の激しい酸化が生じることに留意されたい。酸化によって、黒鉛の導電率および熱伝導率が大きく低下し、通常はこれを完全に回復することはできない。
【0044】
対照的に、本発明による方法では、典型的には0℃~100℃の間にある超音波処理温度が使用され、非常に穏やかな液体媒体のみが使用される(水、アルコールなど)。したがって、この方法では、層状コークス/石炭材料を酸化性環境に曝露する必要性または可能性がない。希望するなら、超音波処理後の生成物に対して、引き続いてボールミル粉砕、エアミル粉砕、または回転ブレード剪断などの機械的剪断処理を比較的低い温度(たとえば室温)で行うことができる。この処理によって、個別のグラフェン面または互いに結合したグラフェン面の積層体(多層NGP)のいずれかは、厚さ(層の数の減少)、幅、および長さがさらに減少する。厚さ寸法がナノスケールであることに加えて、これらのNGPの長さおよび幅の両方は、希望するなら100nm未満までサイズを減少させることが可能である。
【0045】
厚さ方向(すなわち、グラフェン面に対して垂直のc軸方向)には、一般に底面を互いに維持するファンデルワールス力によって依然として互いに結合する少ない数のグラフェン面が存在しうる。典型的には、15層未満(多くの場合5層未満)のグラフェン面が存在する。より薄いシートの製造において、高エネルギー遊星ボールミルおよび回転ブレード剪断装置が特に有効であることが分かった。ボールミル粉砕および回転ブレード剪断は、大量生産プロセスと見なされるので、本発明による方法によって、大量のグラフェン材料を高い費用対効果で製造可能である。これは、遅く費用のかかるカーボンナノチューブの製造および精製プロセスとは非常に対照的である。
【0046】
本発明の剥離ステップは、従来の硫酸または硝酸がインターカレートされた黒鉛化合物の剥離ステップの一般的な副生成物であるNOおよびSOなどの望ましくない化学種の発生を伴わない。これらの化学種は世界中で高度に規制されている。
【0047】
超音波エネルギーによって、コークス/石炭粉末が分散され均一な懸濁液が得られるまさに液体の媒体中に、結果として得られるグラフェンシートを十分に分散させることもできる。この方法の主要な利点の1つは、グラフェンシートの剥離、分離、および分散が1段階で実現されることである。ナノ複合構造に対する前駆体である懸濁液を形成するために、この懸濁液にモノマー、オリゴマー、またはポリマーを加えることができる。この方法は、懸濁液をマットまたは紙に変換する(たとえば、任意の周知の製紙方法を使用する)、またはナノ複合前駆体懸濁液をナノ複合固体に変換するさらなるステップを含むことができる。
【0048】
したがって、ある実施形態では、液体媒体は、水、有機溶媒、アルコール、モノマー、オリゴマー、またはそれらの組合せを含む。別の実施形態では、液体媒体は、液体媒体中に分散したモノマーまたはオリゴマーをさらに含み、ステップ(b)では、モノマーまたはオリゴマーの重合が誘導されてポリマーが形成される。同時に生成されたグラフェンシートは、ポリマー中に十分分散することができる。このさらなる利点も予期せぬものである。
【0049】
本発明のある実施形態では、液体媒体は、液体媒体中に溶解または分散したポリマーをさらに含み、単離グラフェンシートはこのポリマーと混合されて、複合組成物が形成される。これはグラフェン強化ポリマー複合材料の形成の良い方法である。
【0050】
あるいは、結果として得られるグラフェンシートは、乾燥させて固体粉末にした後に、モノマーと混合して混合物を形成することができ、これを重合させてナノ複合固体を得ることができる。グラフェンシートは、ポリマー溶融物と混合して混合物を形成し、次にこれを固化させてナノ複合固体にすることができる。
【0051】
再び、湿潤剤は、メラミン、硫酸アンモニウム、ドデシル硫酸ナトリウム、ナトリウム(エチレンジアミン)、テトラアルキルアンモニウム、アンモニア、カルバミド、ヘキサメチレンテトラミン、有機アミン、ポリ(ナトリウム-4-スチレンスルホネート)、またはそれらの組合せから選択され得る。本発明者らは、驚くべきことに、インターカレーティング剤に加えて、電解質中に湿潤剤を添加することによって実現可能となるいくつかの利点を確認した。典型的には、湿潤剤を液体媒体に添加することによって、湿潤剤を含まない液体媒体よりも薄いグラフェンシートが得られる。これは、典型的には、周知のBET法によって測定される、剥離後に形成されるグラフェンシート材料の単位質量あたりのより大きな比表面積によって反映される。湿潤剤は、層間空間内に容易に広がり、グラフェン面に付着し、グラフェンシートの形成後に互いに再結合することを防止することができると思われる。グラフェン面は、分離されると、再び再積層する傾向が強いことを考慮すると、このことは特に望ましい特徴となる。これらのグラフェン面湿潤剤の存在は、グラフェンシートの再結合を防止する役割を果たす。
【0052】
一部の湿潤剤(たとえばアミン基を含有するもの)は、単離グラフェンシートを化学的に官能化する役割も果たし、それによって複合材料中のマトリックス樹脂(たとえばエポキシ)とのグラフェンシートの化学的または機械的適合性が改善される。
【0053】
以下の実施例は、本発明の実施の最良の形態を示す役割を果たすものであり、本発明の範囲を限定するものと解釈すべきではない。
【0054】
実施例1:粉砕された石炭由来のニードルコークス粉末からの単離グラフェンシートの製造
アノード材料として、平均長さ<10μmまで粉砕したニードルコークスを使用した。5グラムのニードルコークス粉末を1,000mLの脱イオン水(DuPontの分散剤Zonyl(登録商標)FSOを0.1重量%含有する)中に分散させて懸濁液を得た。ニードルコークス粒子の剥離、分離、およびサイズ減少のために85Wの超音波エネルギーレベル(Branson S450 Ultrasonicator)を2時間使用した。種々の試料を収集し、それらの形態をSEM、TEM、およびAFM観察で調べ、それらの比表面積を周知のBET法によって測定した。製造されたグラフェンシートの比表面積は、典型的には840~950m/gの範囲内であり、これはグラフェンシートの大部分が単層グラフェンであることを示しており、顕微鏡観察結果と一致する。
【0055】
比較例1:濃硫酸-硝酸をインターカレートしたニードルコークス粒子
実施例1で使用したものと同様の1グラムの粉砕したニードルコークス粉末に、4:1:0.05の重量比の硫酸、硝酸、および過マンガン酸カリウムの混合物(黒鉛対インターカレートの比は1:3)を4時間インターカレートさせた。インターカレーション反応の終了後、混合物を脱イオン水中に注ぎ、濾過した。次に、試料を5%HCl溶液で洗浄して、硫酸イオンおよび残留塩の大部分を除去し、次に、濾液のpHが約5となるまで脱イオン水で繰り返し洗浄した。乾燥させた試料を次に1,000℃で45秒間剥離させた。得られたNGPをSEMおよびTEMを用いて検査し、それらの長さ(最大横寸法)および厚さを測定した。グラフェンを製造するための従来の強酸方法と比較すると、本発明による電気化学的インターカレーション方法によって、同等の厚さ分布であるが、はるかに大きい横寸法(3~5μm対200~300nm)を有するグラフェンシートが得られることが確認された。周知の真空支援濾過手順を用いて、グラフェンシートからグラフェン紙層を作製した。ヒドラジン還元酸化グラフェン(硫酸-硝酸がインターカレートされたコークスから作製)から作製したグラフェン紙は11~143S/cmの導電率値を示す。本発明による電気化学的インターカレーションによって作製された比較的酸化のないグラフェンシートから作製されたグラフェン紙は1,500~3,720S/cmの導電率値を示す。
【0056】
実施例2:粉砕された石炭由来のニードルコークス粉末からの単離グラフェンシートの製造(分散剤なし)
実施例1に使用したものと同じバッチの5グラムのニードルコークスを1,000mLの脱イオン水中に分散させて懸濁液を得た。ニードルコークス粒子の剥離、分離、およびサイズ減少のために85Wの超音波エネルギーレベル(Branson S450 Ultrasonicator)を2時間使用した。種々の試料を収集し、それらの形態をSEMおよびTEM観察で調べ、それらの比表面積を周知のBET法によって測定した。製造されたグラフェンシートの比表面積は、典型的には240~450m/gの範囲内(大部分が数層グラフェン)である。次に、大部分が多層グラフェンシートのある量の試料に対して超音波処理を再び行って、超薄グラフェンシートを製造した。選択された試料の電子顕微鏡検査では、結果として得られたNGPの大部分が単層グラフェンシートであることを示している。
【0057】
実施例3:粉砕された石油ニードルコークス粉末からの単離グラフェンシートの製造
アノード材料として平均長さ<10μmまで粉砕したニードルコークスを使用し、1,000mLのDI水を使用した。選択した分散剤としては、メラミン、(エチレンジアミン)ナトリウム、およびヘキサメチレンテトラミンが挙げられる。ニードルコークス粒子の剥離、分離、およびサイズ減少のために125Wの超音波エネルギーレベル(Branson S450 Ultrasonicator)を1時間使用した。製造されたグラフェンシートの比表面積は、典型的には740~880m/gの範囲内(大部分が単層グラフェン)である。メラミンは最も有効な分散剤であると思われ、グラフェンシートの最も大きい比表面積が得られる。
【0058】
本発明による直接超音波処理方法を用いて、グラフェンシートの大部分が単層グラフェンである生成物を容易に製造することができる。
【0059】
実施例4:粉砕された褐炭粉末からのグラフェンシート
一例では、それぞれ2グラムの褐炭の試料を25.6μmの平均直径まで粉砕した。これらの粉末試料を、実施例1に記載のものと同様の直接超音波処理条件にさらした。高剪断回転ブレード装置中で15分間の機械的剪断処理の後、得られるグラフェンシートは、SEMおよびTEM観察に基づく単層グラフェンシートから8層グラフェンシートの範囲の厚さを示す。
【0060】
実施例5:無煙炭からの単離グラフェンシートの直接超音波製造
Shanxi,ChinaのTaixi石炭を単離グラフェンシートの調製のための出発物質として使用した。この原炭を粉砕し、200μm未満の平均粒度を有する粉末にふるい分けした。この石炭粉末をボールミル粉砕によってさらに2.5時間粉砕した。90%を超える粉末粒子の直径が粉砕後に15μm未満となる。この原炭粉末を50℃のビーカー中の塩酸塩で4時間処理して、改質石炭(MC)を形成し、次にこれを濾液中にClが検出されなくなるまで蒸留水で洗浄した。この改質石炭をFeの存在下で熱処理して、石炭を黒鉛様炭素に変換させた。MC粉末およびFe(SO[TX-de:Fe(SO=16:12.6]をボールミル粉砕によって2分間十分に混合し、次にその混合物に対してアルゴン下2400℃で2時間の接触黒鉛化を行った。
【0061】
この石炭由来の粉末試料に対して、実施例1で使用したものと同等の条件下で超音波処理を行った。結果として得られるグラフェンシートは、SEMおよびTEM観察に基づく単層グラフェンシートから5層グラフェンシートの範囲の厚さを示す。
【0062】
実施例6:瀝青炭からの単離グラフェンシートの製造
一例では、300mgの瀝青炭を水-アルコール(1L)の混合物中に分散させ、次にこれに対して145ワットの出力レベルで1時間の超音波処理を行った。この溶液を室温まで冷却し、100mlの氷が入ったビーカー中に注いだ。精製した後、回転蒸発を用いて溶液を濃縮して、固体フミン酸シートを得た。
【0063】
実施例7:グラフェンナノ複合材料
実施例1で作製した約2グラムのグラフェンシートを100mLの水および0.2重量%の界面活性剤のドデシル硫酸ナトリウム(SDS)に加えてスラリーを形成し、次にこれに対して約20℃で5分間の超音波処理を行った。十分に分散したグラフェンシートの安定な分散体(懸濁液)が得られた。次に、この懸濁液に水溶性ポリマーのポリエチレングリコール(1重量%)を加えた。後に水を蒸発させると、ポリマーマトリックス中に分散したグラフェンシートを含むナノ複合材料が得られた。
【0064】
実施例8:グラフェン薄膜の製造
前述の実施例1において、スロットダイコーターを使用して、水中に分散し完全に分離したグラフェンシートを含む所望の量のスラリーから、PET基材(ポリエチレンテレフタレート)上の未乾燥フィルムを作製した。次に、この未乾燥フィルムを85℃で2時間加熱し、機械的に圧縮すると、可撓性グラフェンフィルムが得られた。顕著な酸化環境にはあらかじめ曝露せずに得られた可撓性グラフェンフィルムは、典型的には5,000~7,500S/cmの導電率および650~1,200W/mKの熱伝導率を示す。対照的に、GICの熱剥離および剥離した黒鉛の再圧縮により作製された市販の可撓性黒鉛シートは、典型的には1,200S/cm未満の導電率および500W/mK未満の熱伝導率を示す。また、従来のHummerの方法および引き続く同等の条件下でのスロットダイコーティングによって製造されたグラフェンフィルムは、1,500~3,000S/cmの導電率および400~600W/mKの熱伝導率を示す。
図1
図2