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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-05-12
(45)【発行日】2023-05-22
(54)【発明の名称】パイプオルガン
(51)【国際特許分類】
   G10H 3/20 20060101AFI20230515BHJP
   G10B 3/06 20060101ALI20230515BHJP
   G10B 1/02 20060101ALI20230515BHJP
【FI】
G10H3/20
G10B3/06
G10B1/02
【請求項の数】 3
(21)【出願番号】P 2019007853
(22)【出願日】2019-01-21
(65)【公開番号】P2020118761
(43)【公開日】2020-08-06
【審査請求日】2022-01-06
(73)【特許権者】
【識別番号】519022713
【氏名又は名称】田中 祥司
(74)【代理人】
【識別番号】100084375
【弁理士】
【氏名又は名称】板谷 康夫
(74)【代理人】
【識別番号】100125221
【弁理士】
【氏名又は名称】水田 愼一
(74)【代理人】
【識別番号】100142077
【弁理士】
【氏名又は名称】板谷 真之
(72)【発明者】
【氏名】田中 祥司
【審査官】大野 弘
(56)【参考文献】
【文献】特開平09-127933(JP,A)
【文献】特開昭49-019813(JP,A)
【文献】特開昭62-119588(JP,A)
【文献】特開平02-041098(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G10H 3/20
G10B 3/06
G10B 1/02
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
鍵盤の最低音から所定音上までの低音域のみのフルーパイプのレゾネータ内部の音圧を検出するマイクロホンと、前記マイクロホンの検出信号を増幅するアンプと、前記アンプで駆動されるスピーカとを備え、前記スピーカは前記低音域のフルーパイプの少なくとも基本波を拡声するように構成されたことを特徴とするパイプオルガン。
【請求項2】
フルーパイプをヘルムホルツレゾネータで構成したことを特徴とする、請求項1に記載のパイプオルガン。
【請求項3】
マイクロホンの音圧検出位置を、レゾネータの歌口よりも長手方向奥の位置としたことを特徴とする、請求項1又は2に記載のパイプオルガン。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、楽器であるパイプオルガンに関し、特に家庭用としても用いることのできる小型のパイプオルガンに関するものである。
【背景技術】
【0002】
パイプオルガンと言えば礼拝堂や音楽ホールに備え付けられている巨大な楽器を思い浮かべるが、近年では古典音楽ブームと相まって、家庭にも設置できるような小型のパイプオルガンの需要が少しずつ高まってきている。そしてパイプオルガンを小型化するために古くから、足鍵盤を省略して手鍵盤だけとしたり、フルーパイプを閉管として短くしたり、また鍵盤とパレットとの連結機構を簡略化したりしている。
【0003】
このような小型の手鍵盤だけのパイプオルガンはポジティフオルガンと呼ばれており、非特許文献1の127頁にポジティフオルガンのチェスト廻りの基本的な構造断面の例が図示されている。図5はその構造断面の例に基づいて、より実際的な手鍵盤だけの従来のパイプオルガンのチェスト廻りの低音側における断面を示したものである。図6はそのパイプオルガンのチェスト廻りの外観イメージ図であり、見やすくするために縮尺を適宜調整するとともに、低音側の最前列パイプを外した状態で図示している。
【0004】
図5図6において、510はチェストである。511はパレットボックスであり、送風機の空気がここに送り込まれる。512はパレットであり、空気流の開閉弁である。513はパレットスプリングであり、パレット512に閉まる力を与えている。520は鍵盤である。514はトラッカーピンであり、鍵盤520が押された時にパレット512を押し開かせる連結機構である。515はトーンチャンネルであり、パレット512が開いた時に空気が流れる溝である。
【0005】
530は基音フルーパイプつまり8フィート管であり、譜面上の音符通りの音程の音を出す。540は4フィートピッチの倍音パイプであり、譜面上の音符の1オクターブ上の音を出す。倍音パイプ540もフルーパイプである。倍音パイプ540には開管を用いている。518はチェストの天板であり、基音フルーパイプ530と倍音パイプ540がこの上に並べられている。516は基音フルーパイプのスライダーであり、基音フルーパイプ530のパイプ列全体の発音のオンオフを行う。517は倍音パイプのスライダーであり、倍音パイプ540のパイプ列全体の発音のオンオフを行う。
【0006】
基音フルーパイプ530にはパイプの長さが開管の約半分で済む閉管を用いている。しかし、それでも必要な閉管の有効長は波長の1/4より僅かに短いだけなので、基音フルーパイプ530の有効長は鍵盤の最低音C(周波数65.4Hz、波長5.2m)では1.25m程度になり、十分な低音の音量を得るために、その外形断面サイズは一般的に幅8~10cm、奥行き10~12cm程度の大きなものとなる。このため基音フルーパイプ530は何列にも配置して並べたりする必要がある。
【0007】
このように基音フルーパイプ530が低音域で非常に大きなものになって広いスペースを占めることが、パイプオルガンを小型化する上での最大の妨げとなっていた。この課題に対して、基音フルーパイプの低音を電子音で代用して大きな基音フルーパイプを省略する方法も一部で実用化されている。しかし、実物の基音フルーパイプであれば鍵盤タッチの深さや速度をコントロールして、発音立ち上がり時の音質に変化を与えることができるのに対して、電子音は鍵盤タッチに関わらず発音が単純なオンかオフにしかならず、発音立ち上がり時の音質に変化を与えることができない。このためパイプオルガンの音楽表現力が乏しくなるという問題点がある。
【0008】
ところで、特許文献1には、発音体であるリード列全体を遮音ボックス内に収納し、遮音ボックス内のリードの音を1個のマイクロホンで収音してスピーカで拡声するリードオルガンが開示されている。この従来技術をパイプオルガンに応用すれば実物の基音フルーパイプ自体を小型化できると考えられるので、豊かな音楽表現力を保ちながらパイプオルガンの小型化が図れると期待できる。
【0009】
図7は特許文献1に開示された技術を応用して小型化を図った、従来のパイプオルガンのチェスト廻りの低音側における断面を示したものである。図8は、その小型化を図った従来のパイプオルガンのチェスト廻りの外観イメージ図であり、見やすくするために縮尺を適宜調整するとともに、低音側の最前列パイプを外した状態で図示している。
【0010】
図7図8において、610はチェスト、611はパレットボックス、612はパレット、613はパレットスプリング、614はトラッカーピン、615はトーンチャンネル、618はチェストの天板、640は倍音パイプ、616は基音フルーパイプのスライダー、617は倍音パイプのスライダー、520は鍵盤であり、これらについては先に説明した図5図6と全く同様なので説明は省略する。
【0011】
そして、図7図8に示す特許文献1に開示された技術を応用して小型化を図った従来のパイプオルガンにおいては、低音域の基音フルーパイプ630にやはり閉管を用いて、さらにこの断面形状を細くすることで小型化し、複数の基音フルーパイプ630の低音域全体を遮音ボックス650で覆っている。そして、遮音ボックス650の一箇所にはマイクロホン660が取付けられ、複数の基音フルーパイプ630の音を収音する。マイクロホン660の検出信号は、アンプ670で増幅されてスピーカ680で拡声される。遮音ボックス650は、スピーカ680からの音がマイクロホン660に帰還することを抑えて、つまり遮音をしてハウリングの発生を防ぐ働きをしている。また、遮音ボックス650は基音フルーパイプ630に流れる空気を排出できるように構成している。
【0012】
このように構成された小型化を図った従来のパイプオルガンによれば、基音フルーパイプ630が細くなって低音の音量が小さくなってもスピーカ680で基音フルーパイプ630の低音の音量を拡大することができるので、基音フルーパイプ630を細くすることができる。従って、低音域の基音フルーパイプ630が占めるスペースが小さくなるので、パイプオルガンを小型化することができると期待される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0013】
【文献】特開昭50-156922
【非特許文献】
【0014】
【文献】Wolfgang Adelung著「Einfuhrung in den Orgelbau」Breitkopf & Hartel・Wiesbaden,1982年
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0015】
しかしながら、前述の図7図8に示すような小型化を図った従来のパイプオルガンにおいては遮音ボックス650が余分に必要となるので、基音フルーパイプ630自体をせっかく小型化してもパイプオルガン全体の大幅な小型化は難しいという課題がある。また遮音ボックス650の内部には定在波が発生するので、いくつかの特定の周波数の音が強められたり弱められたりする。このため、基音フルーパイプ630の低音が音階によって不均一な音圧レベルになってマイクロホン660で収音されることになるので、音階によって不均一な音量で基音フルーパイプ630の低音がスピーカ680で拡声されるため、パイプオルガンの音質劣化を招くという課題もある。
【0016】
本発明は、このような従来の課題を解決するものであり、豊かな音楽表現力を保ちながら大幅な小型化ができるだけでなく音質劣化もないパイプオルガンを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0017】
上記目的を達成するために本発明のパイプオルガンは、鍵盤の最低音から所定音上までの低音域のみのフルーパイプのレゾネータ内部の音圧を検出するマイクロホンと、前記マイクロホンの検出信号を増幅するアンプと、前記アンプで駆動されるスピーカとを備え、前記スピーカは前記低音域のフルーパイプの少なくとも基本波を拡声するように構成したものである。
【発明の効果】
【0018】
本発明のパイプオルガンによれば、低音域のフルーパイプのレゾネータ内部の極めて高い低音の音圧をマイクロホンが検出できるので、遮音ボックスを設けなくてもハウリングを発生させることなく低音域のフルーパイプの低音を十分に拡声することができる。従って、低音域のフルーパイプの大幅な小型化ができ、且つ遮音ボックスを必要としないので、豊かな音楽表現力を保ちながら大幅な小型化ができるだけでなく、遮音ボックスによる定在波も発生しないので、音質劣化もないパイプオルガンを提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
図1】本発明の実施形態1のパイプオルガンの構成を示す断面図である。
図2】本発明の実施形態2のパイプオルガンの構成を示す断面図である。
図3】本発明の実施形態1のパイプオルガンにおけるフルーパイプの音圧検出実験でのマイクロホン位置を示す平面図及び断面図である。
図4】本発明の実施形態2のパイプオルガンにおけるフルーパイプの音圧検出実験でのマイクロホン位置を示す平面図及び断面図である。
図5】従来のパイプオルガンのチェスト廻りの低音側における断面図である。
図6】従来のパイプオルガンのチェスト廻りの外観イメージ図である。
図7】特許文献1に開示された技術を応用して小型化を図った従来のパイプオルガンのチェスト廻りの低音側における断面図である。
図8】特許文献1に開示された技術を応用して小型化を図った従来のパイプオルガンのチェスト廻りの外観イメージ図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下に本発明を実施するための最良の形態について、図面を参照しながら詳細に説明する。
【0021】
(実施形態1)
本発明の実施形態1におけるパイプオルガンの構成について、図1図3を参照しながら説明する。図1は、本発明の実施形態1のパイプオルガンの構成を示す断面図である。図3は、本発明の実施形態1のパイプオルガンにおけるフルーパイプの音圧検出実験でのマイクロホン位置を示す断面図である。
【0022】
図1において、110はチェスト、111はパレットボックス、112はパレット、113はパレットスプリング、114はトラッカーピン、115はトーンチャンネル、116は基音フルーパイプのスライダー、117は倍音パイプのスライダー、118はチェストの天板、120は鍵盤、140は倍音パイプであり、これらについては上で説明した図5図6に示す従来のパイプオルガンと全く同様なので説明は省略する。
【0023】
130は基音フルーパイプであり、8フィート閉管を用い、さらに細くすることで小型化を図っている。その大きさは鍵盤の最低音C(65.4Hz)において、有効長は約1.25m、断面内寸は幅3.5cm、奥行き4.5cm程度、断面外寸は幅5cm、奥行き6.5cm程度と細いものである。160はマイクロホンであり、低音域の基音フルーパイプ130のレゾネータの管壁の一部に、レゾネータ内部の低音の音圧を検出するように取り付けられている。マイクロホン160は超小型のエレクトレットコンデンサ型マイクロホンである。
【0024】
170はアンプであり、マイクロホン160の検出信号を増幅する。アンプ170の出力は約15Wである。180はスピーカであり、アンプ170で駆動される。スピーカ180は基音フルーパイプ130の低音の音圧を拡大する。スピーカ180は口径10cmのスピーカユニットを約6リットルのスピーカボックスに収納したものであり、チェスト110の下部後方に配置されている。図示は省略しているが、スピーカ180の低音は、チェスト110の底面から後方に放射されるようにパイプオルガン全体としては組立てられている。こうして、スピーカ180は低音域のフルーパイプの少なくとも基本波を拡声するように構成されている。
【0025】
本実施形態1では、鍵盤の最低音Cから1オクターブ上までの計13本の低音域の各基音フルーパイプ130に対して上記のように構成した。つまり、計13本の各基音フルーパイプ130のいずれにもマイクロホン160が取り付けられている。マイクロホン160はいずれも、基音フルーパイプ130のレゾネータの長手方向の中央よりもやや奥の方に取り付けられている。
【0026】
本発明においては、マイクロホンの音圧検出位置の実験を行い、従来の技術に比べて大幅に高い音圧を検出できるだけでなく雑音も少ない位置を見出した。図3において、330は基音フルーパイプであり、本実施形態1のパイプオルガンの鍵盤の最低音Cの基音フルーパイプと同じものである。331はレゾネータである。332は核と呼ばれ、空気流であるエアリードを作るとともにレゾネータ331の開口端に相当する。333は風路でありエアリードを作る隙間である。334は歌口でありその幅は3.5cm、高さは2cm程度である。335は上唇であり歌口334の上端部に相当する。336は閉管のストッパーでありレゾネータ331の閉管の終端に相当する。Lは核332からストッパー336までの全長つまりレゾネータ331の有効長であり約1.25mである。
【0027】
図3において、360は図1に示したのと同じ仕様のマイクロホンであり、aからlまでの位置に取り付けて音圧検出レベルを測定した。aは、図7図8で説明した従来技術を応用したパイプオルガンにおけるマイクロホンの取り付け位置に相当し、歌口から約10cm離れた位置である。bは歌口334の中央前方2cmの至近距離であり、マイクロホンに風が当たって発生する所謂ウインドノイズが出ない限界の最小距離である。cは歌口334の根元の約1cm上方の位置である。
【0028】
dはレゾネータ331の内部における開口端位置である。lはレゾネータ331の内部における終端位置である。eからkは、レゾネータ331の内部における有効長Lを8等分したそれぞれの位置である。例えばhはレゾネータ331の内部における中間点に相当する。jは本実施形態1におけるマイクロホン160の位置に相当する。
【0029】
a、b、cの位置は歌口334よりも外側にあり、レゾネータ331の外側の音を検出することになる。これに対してdからlまでの位置は歌口334よりも内側にあり、レゾネータ331の内部の音を検出することになる。
【0030】
下記の表1は、aからlまでの各マイクロホン位置における音圧検出レベルの測定結果を示したものであるが、bのマイクロホン位置での音圧検出レベルを0dBとして、aからlまでの各マイクロホン位置での相対音圧検出レベルを示している。本実験の結果、レゾネータ331の内部では極めて高い音圧検出レベルが得られることを見出した。また、ストッパー336の位置に近いほど音圧検出レベルが高くなることも分かった。本実施形態1におけるマイクロホン160に相当するjの位置での音圧検出レベルは、aの位置に比べて約54dBも高い。なお、aからlまでのマイクロホン360は別個のものではなく、同一のマイクロホンを用いて取り付け位置をaからlまで変えながら実験を行い、マイクロホンの個体差による音圧検出感度の誤差を排除した。
【0031】
【表1】
【0032】
ここで、図7図8で説明した遮音ボックス650を省略することができるマイクロホンの音圧検出位置の条件について考える。空気を排出できるように構成した遮音ボックス650の低音域での遮音減衰レベルは、空気が流通できるように構成されている市販のポータブル発電機用防音ボックスと同程度であり、10dB前後である。また、13本の各基音フルーパイプ130のいずれにもマイクロホン160を取り付けたことにより、全マイクロホンの総合感度レベルはマイクロホンが1個だけの場合に比べて約22dB高くなる。従って、図7図8におけるマイクロホンの音圧検出レベルよりも約32dB(=10dB+22dB)以上高い音圧検出レベルが得られれば、遮音ボックスを設けなくてもハウリングを起こすことなく複数個の基音フルーパイプ130の低音を十分に拡声することができる。
【0033】
表1において、マイクロホン位置がdからlでの音圧検出レベルは、マイクロホン位置がaの場合よりも約35~55dBほど高く、上記条件である32dBを上回っている。従って、マイクロホンでレゾネータ内部の音圧を検出することにより、遮音ボックスを設けなくても、ハウリングを起こすことなく多数個の基音フルーパイプの低音を十分に拡声することができる。
【0034】
マイクロホン位置がcでの音圧検出レベルは、aの場合に比べて約24dB高いが、上記条件である32dBには届かない。つまり、レゾネータの外部の音圧を検出する従来の技術では、遮音ボックスを設けずにハウリングを起こすことなく多数個の基音フルーパイプの低音を十分に拡声することができない。
【0035】
マイクロホン位置をb、cとしてレゾネータの外部のできるだけ高い音圧を検出しようとすると、マイクロホン360が風路333から噴出されるエアリードの至近距離となるために、エアリード自体の雑音が大きく検出されることになる。このため、マイクロホン360をレゾネータの外部から歌口334に近接させて検出した音圧信号には、エアリード雑音が大きく混じることになり検出信号の低音の音質が悪くなるという問題もあった。
【0036】
これに対して、マイクロホン360でレゾネータ331の内部の音圧を検出する場合は、マイクロホン360の位置をエアリードから離すことができるので、エアリード雑音が大きく検出されることがない。つまり、マイクロホンでレゾネータ内部の音圧を検出することは、極めて高い検出レベルが得られるだけでなく検出信号の音質も優れていることを見出した。特にマイクロホン360の位置をレゾネータの歌口よりも長手方向奥の位置、つまりeからlの位置にすると、dの位置よりも一層高い音圧検出レベルが得られるだけでなくエアリード雑音の検出レベルも一層低くなり、検出信号の音質も一層良くなった。
【0037】
以上のように構成した本実施形態1のパイプオルガンは、図7図8で説明した従来技術を応用したパイプオルガンよりもマイクロホン160の音圧検出レベルが約54dBも高いので、遮音ボックスを用いなくてもハウリングを発生させずに多数個の基音フルーパイプ130の低音を十分に拡声することができる。
【0038】
図5図6で説明した従来のパイプオルガンの全体の奥行きは約55cmであるのに対して、従来技術を応用して小型化を図った図7図8のパイプオルガンの全体の奥行きは約45cm止まりであった。それに対し、本実施形態1のパイプオルガンでは全体の奥行きを約35cmまでと大幅に小さくすることができた。
【0039】
以上のように本実施形態1のパイプオルガンによれば、低音域のフルーパイプのレゾネータ内部の極めて高い低音の音圧をマイクロホンが検出できるので、遮音ボックスを設けなくてもハウリングを発生させることなく低音域のフルーパイプの低音を十分に拡声することができる。従って、低音域のフルーパイプの大幅な小型化ができ、且つ遮音ボックスを必要としないので、豊かな音楽表現力を保ちながら大幅な小型化ができるだけでなく、遮音ボックスによる定在波も発生しないので音質劣化もないパイプオルガンを提供できる。
【0040】
(実施形態2)
本発明の実施形態2におけるパイプオルガンの構成について、図2図4を参照しながら説明する。図2は、本発明の実施形態2のパイプオルガンの構成を示す断面図である。図4は、本発明の実施形態2のパイプオルガンにおけるフルーパイプの音圧検出実験でのマイクロホン位置を示す断面図である。
【0041】
図2において、210はチェスト、211はパレットボックス、212はパレット、213はパレットスプリング、214はトラッカーピン、215はトーンチャンネル、216は基音フルーパイプのスライダー、217は倍音パイプのスライダー、218はチェストの天板、220は鍵盤であり、これらについては上で説明した図5図6に示す従来のパイプオルガンと全く同様なので説明は省略する。
【0042】
240は4フィートピッチの倍音パイプであり、本実施形態2ではこれを半閉管として、パイプの全長を実施形態1の開管から約半分の長さに縮小した。鍵盤の最低音Cにおける倍音パイプ240の全長は約65cmである。
【0043】
本実施形態2においては、8フィート管に相当する基音フルーパイプ230をヘルムホルツレゾネータで構成することにより大幅に小型化した。その構造については図4で詳しく述べるが、基音フルーパイプ230は円筒形であり、その大きさは鍵盤の最低音C(65.4Hz)において、全長が約65cm、外径が約4.5cmという超小型である。
【0044】
260はマイクロホンであり、低音域の基音フルーパイプ230のレゾネータの管壁の一部に設けられた孔から、レゾネータ内部の低音の音圧を検出するように取り付けられている。マイクロホン260は実施形態1で用いたのと同じ超小型のエレクトレットコンデンサ型マイクロホンである。
【0045】
270はアンプであり、マイクロホン260の検出信号を増幅する。280はスピーカでありアンプ270で駆動される。つまりスピーカ280は基音フルーパイプ230の低音を拡声する。アンプ270とスピーカ280は、実施形態1で用いたのと同じ仕様である。
【0046】
本実施形態2では、鍵盤の最低音Cから13音上までの計14本の低音域の各基音フルーパイプ230に対して上記のように構成した。つまり計14本の各基音フルーパイプ230のいずれにもマイクロホン260が取り付けられている。マイクロホン260はいずれも、基音フルーパイプ230のレゾネータの管壁下端部に取り付けられている。上記よりも上の音階の基音フルーパイプについては閉管で構成した。
【0047】
本実施形態2においても、マイクロホンの音圧検出位置の実験を行い、従来技術に比べて大幅に高い音圧を検出できるだけでなく雑音も少ない位置を見出した。図4において、430は基音フルーパイプであり、本実施形態2のパイプオルガンの鍵盤の最低音Cの基音フルーパイプと同じものである。431はヘルムホルツレゾネータである。ヘルムホルツレゾネータとは容積を持つ胴体とその容積に結合されたポートとからなる共鳴器であり、ヘルムホルツレゾネータのポートは一般的に首または頸部と呼ばれている。
【0048】
437は胴体であり、その内径は約4cm、内寸長さLは約50cmである。438は首であり、内径は約1.3cm、長さは約11cmである。432は核であり、空気流であるエアリードを作るとともにヘルムホルツレゾネータ431の開口端に相当する。433は風路でありエアリードを作る隙間である。434は歌口でありその幅は約1cm、高さは約1.8cmである。435は上唇であり歌口434の上端部に相当する。436は胴体437のストッパーでありヘルムホルツレゾネータ431の終端に相当する。
【0049】
つまり、本実施形態2の基音フルーパイプ430は、ヘルムホルツレゾネータの首の開口端部に歌口を設けることにより、通常の低音用オルガンパイプと同様に空気を送ることで低音が鳴るフルーパイプとして構成したものである。
【0050】
ヘルムホルツレゾネータの共鳴周波数をf、胴体の内容積をV、首の長さをl、首の断面積をS、音速をcとすると、f=c(S/Vl)1/2/2πの近似式関係が成り立つ。そのため、胴体を小さくしても、首を細くまたは長くすることにより低い共鳴周波数を得ることができる。従ってヘルムホルツレゾネータは閉管レゾネータに比べて、同じ低音の共鳴周波数を保ちながら超小型化することが可能であり、ヘルムホルツレゾネータをフルーパイプとして構成することで超小型の低音用フルーパイプが実現できた。
【0051】
図4において、460は図2に示したのと同じ仕様のマイクロホンであり、mからxまでの位置に取り付けて音圧検出レベルを測定した。mは、図7図8で説明した従来技術を応用したパイプオルガンにおけるマイクロホンの取り付け位置に相当し、歌口から約10cm離れた位置である。nは歌口434の中央前方1cmの至近距離であり、マイクロホンに風が当たって発生する所謂ウインドノイズが出ない限界の最小距離である。oは歌口434の根元の約3mm上方の位置である。
【0052】
pはヘルムホルツレゾネータ431の内部における開口端位置である。xはヘルムホルツレゾネータ431の内部における終端位置である。tからwは、胴体437の内寸長さLを5等分したそれぞれの位置である。sとrは胴体437の終端と反対側にある端部の位置である。rは本実施形態2におけるマイクロホン460の位置に相当する。
【0053】
m、n、oの位置は歌口434よりも外側にあり、ヘルムホルツレゾネータ431の外側の音を検出することになる。これに対してpからxまでの位置は歌口434よりも内側にあり、ヘルムホルツレゾネータ431の内部の音を検出することになる。
【0054】
下記の表2はmからxまでの各マイクロホン位置における音圧検出レベルの測定結果を示したものであるが、nのマイクロホン位置での音圧検出レベルを0dBとして、mからxまでの各マイクロホン位置での相対音圧検出レベルを示している。そしてヘルムホルツレゾネータ431の内部で極めて高い音圧検出レベルが得られることを見出した。またヘルムホルツレゾネータの胴体の内部においては、位置による音圧検出レベルの変化が小さいことも見出した。本実施形態2におけるマイクロホン460に相当するrの位置での音圧検出レベルは、図7図8で示した従来技術に相当するmの位置に比べて約60dBも高い。なお、mからxまでのマイクロホン460は別個のものではなく、同一のマイクロホンを用いて取り付け位置をmからxまで変えながら実験を行い、マイクロホンの個体差による音圧検出感度の誤差を排除した。
【0055】
【表2】
【0056】
ここで、図7図8で説明した遮音ボックス650を省略することができるマイクロホンの音圧検出位置の条件について考える。遮音ボックス650の低音域での遮音減衰レベルは前述の通り10dB前後である。また14本の各基音フルーパイプ230のいずれにもマイクロホン260を取り付けたことにより、全マイクロホンの総合感度レベルはマイクロホンが1個だけの場合に比べて約23dB高くなる。従って図7図8におけるマイクロホンの音圧検出レベルよりも約33dB(=10dB+23dB)以上高い音圧検出レベルが得られれば、遮音ボックスを設けなくてもハウリングを起こすことなく複数個の基音フルーパイプ230の低音を十分に拡声することができる。
【0057】
表2において、マイクロホン位置がpからxでの音圧検出レベルは、マイクロホン位置がmの場合よりも約41~62dBほど高く、上記条件である33dBを上回っている。従ってマイクロホンでヘルムホルツレゾネータ内部の音圧を検出することにより、遮音ボックスを設けなくてもハウリングを起こすことなく基音フルーパイプの低音を十分に拡声することができる。
【0058】
マイクロホン位置がoでの音圧検出レベルは、mの場合に比べて約30dB高いが、上記条件である33dBには届かない。つまりヘルムホルツレゾネータの外部の音圧を検出するような従来の技術では、遮音ボックスを設けずにハウリングを起こすことなく多数本の基音フルーパイプの低音を十分に拡声することができない。
【0059】
また、上述の実施形態1と同様に、マイクロホン360の位置をヘルムホルツレゾネータの歌口よりも長手方向奥の位置、つまりqからxの位置にすると、pの位置よりも一層高い音圧検出レベルが得られるだけでなくエアリード雑音の検出レベルも一層低くなり、検出信号の音質も一層良くなった。
【0060】
以上のように構成した本実施形態2のパイプオルガンは、図7図8で説明した従来技術を応用したパイプオルガンよりもマイクロホン260の音圧検出レベルが約60dBも高いので、遮音ボックスを用いなくてもハウリングを発生させずに基音フルーパイプ230の低音を十分に拡声することができる。
【0061】
本実施形態2のパイプオルガンでは、全体の奥行きを実施形態1と同様に約35cmまで小さくすることができたことに加え、基音フルーパイプ230をヘルムホルツレゾネータで構成したことによりパイプオルガン全体の高さも大幅に低くすることができた。図5図6で説明した従来のパイプオルガンの全体の高さは約145cmであるのに対して、従来技術を応用して小型化を図った図7図8のパイプオルガンの全体の高さは約150cmであった。しかし本実施形態2のパイプオルガンでは全体の高さを約80cmと大幅に小さくすることができ、一般家庭の普通の部屋にも容易に設置できるほどの超小型のパイプオルガンを実現できた。
【0062】
以上のように本実施形態2のパイプオルガンによれば、低音域のフルーパイプのレゾネータ内部の極めて高い低音の音圧をマイクロホンが検出できるので、遮音ボックスを設けなくてもハウリングを発生させることなく低音域のフルーパイプの低音を十分に拡声することができる。さらに、基音フルーパイプをヘルムホルツレゾネータで構成したことにより、パイプの長さを大幅に短くすることができる。従って、低音域のフルーパイプの一層大幅な小型化ができ、且つ遮音ボックスを必要としないので、豊かな音楽表現力を保ちながら一層大幅な小型化ができるだけでなく、遮音ボックスによる定在波も発生しないので音質劣化もないパイプオルガンを提供できる。
【0063】
なお、実施形態1、2は、2個のストップを持つパイプオルガンの一例を示したに過ぎず、本発明は様々な仕様のパイプオルガンに適用が可能である。例えばパイプオルガンの規模や鍵盤音域によって、基音フルーパイプが16フィート管になったり、4フィート管または2フィート管などとなったりしても適用できることは言うまでもない。また、パイプオルガンによって倍音パイプの種類や数は様々であり、フルーパイプだけでなくリードパイプの場合もある。また、倍音パイプを持たない基音フルーパイプだけのストップを持たないパイプオルガンもあり、そのような場合にも本発明が適用できることは勿論である。また、例えば足鍵盤付きパイプオルガンの、足鍵盤用16フィート管などに本発明を適用することも可能である。
【0064】
さらにまた、実施形態1、2を組み合わせることも可能である。つまり、基音フルーパイプをヘルムホルツレゾネータで構成した実施形態2のパイプオルガンにおいて、倍音パイプの低音域にも実施形態1を適用すれば、さらにパイプオルガンを超小型化することができる。
【0065】
また、実施形態1においてマイクロホン160は、基音フルーパイプ130のレゾネータ内部の長手方向の中央よりもやや奥の位置の音圧を検出するように構成したが、音圧検出位置によって基本波(基音)と高調波(倍音)の音圧比率が変わることを考慮すると良い。
【0066】
例えば、閉管のレゾネータ内部の3次高調波の音圧分布は、閉管の終端位置および閉管の開口端から1/3の長さの位置で音圧が最大となり、閉管の開口端位置および開口端から2/3の長さの位置で音圧が最小となる。また、5次高調波の音圧分布は、閉管の終端位置および閉管の開口端から1/5と3/5の長さの位置で音圧が最大となり、閉管の開口端位置および開口端から2/5と4/5の長さの位置で音圧が最小となる。
【0067】
つまり、マイクロホンの音圧検出位置を調整することにより、検出音圧の基本波と高調波のバランスを調整することができるので、拡声される低音の音質をコントロールすることができる。例えば、低域側の基音フルーパイプを拡声した低音の音質と、拡声を行わない上側の音域の基音フルーパイプの音質とを揃えるには、両者の基本波レベルと高調波レベルの比率が同じになるようなマイクロホンの音圧検出位置を選べばよい。
【0068】
実施形態2のように基音フルーパイプ230をヘルムホルツレゾネータで構成した場合は、胴体の内部ではいずれの位置でも基本波の音圧が支配的であった。ただし、ヘルムホルツレゾネータの胴体の長さが、共鳴周波数の波長の1/4に近づいた場合は、閉管レゾネータ的な音圧分布が現れるようになり、高調波の音圧分布が現れる。このような場合はマイクロホン260の音圧検出位置によって検出音圧の低音の音質が変化するので、所望の音質で低音の音圧が検出できるように音圧検出位置を調整すればよい。
【0069】
また、実施形態1において基音フルーパイプ130は閉管としたが、開管や半開管、円錐管など、その他のフルーパイプに本発明を適用することができる。例えば、基音フルーパイプとして閉管ではなく開管の音色が欲しいと同時にパイプオルガンを小型化したい場合に、低音域の開管フルーパイプに本発明を適用することができる。
【0070】
また、実施形態2の基音フルーパイプ230のヘルムホルツレゾネータは円筒形としたが、胴体の形状を直方体、球形、または折り曲げ形状など、その他様々な形状とすることができる。また、ヘルムホルツレゾネータの首についても円筒形以外の形状、例えば角柱形状、テーパー付き円筒形状など、様々な形状とすることができる。
【0071】
また、実施形態1、2のアンプについては、マイクロホン検出信号の音質に応じて電気フィルタ処理を施すと良い。マイクロホン検出信号には基音フルーパイプの低音の基本波成分の他に、高調波成分、雑音成分などが含まれるが、例えば高調波成分や雑音成分が強すぎる場合は、ローパス電気フィルタなどでこれらを減衰させれば良い音質で低音を拡声することができる。要は低音の基本波を十分に拡声することが重要であり、その他の信号成分はアンプの電気フィルタ処理などで適宜レベル調整すれば良い。
【0072】
また、実施形態1においては、マイクロホン160を基音フルーパイプ130のレゾネータの管壁の一部にはめ込むように取り付けたが、マイクロホンをレゾネータの内部に配置したりしても構わない。または、実施形態2で示したように管壁に孔をあけて、そこからレゾネータ内部の音圧を検出しても構わない。あるいは、管壁にあけた孔からチューブを延長して、離れた場所のマイクロホンに音圧を導いたりすることも可能である。また、レゾネータのストッパー側からレゾネータ内部の音圧を検出しても良い。また、図1で示したように基音フルーパイプの裏面からレゾネータ内部の音圧を検出することに限定されるものではなく、前側や側面などから検出しても構わないことは言うまでもない。要はレゾネータ内部の音圧を検出できれば良く、その具体的方法は様々なものが考えられる。実施形態2についても上記と同様のことが言える。
【0073】
また、実施形態1、2においては、スピーカをチェストの下部後方に配置したが、人は、低音域では音の方向感覚が鈍くなるという聴覚生理を持っているので、極端に遠い場所でなければスピーカを離れた場所に配置しても構わない。例えば、パイプオルガン本体とは別の場所にスピーカを置いても構わない。その他、本発明は上記説明した例に限定されるものでないことは言うまでもない。
【産業上の利用可能性】
【0074】
本発明によれば、低音域のフルーパイプのレゾネータ内部の極めて高い低音の音圧をマイクロホンが検出できるので、遮音ボックスを設けなくてもハウリングを発生させることなく低音域のフルーパイプの低音を十分に拡声することができる。従って、低音域のフルーパイプの大幅な小型化ができ、且つ遮音ボックスを必要としないので、豊かな音楽表現力を保ちながら大幅な小型化ができるだけでなく、遮音ボックスによる定在波も発生しないので音質劣化もないパイプオルガンを提供できる。
【0075】
そのため、本発明はポジティフオルガンなどの手鍵盤だけの小型パイプオルガンの他に、ペダル鍵盤付きのパイプオルガンなど、あらゆるタイプのパイプオルガンに適用でき、一般家庭へのパイプオルガン設置も容易にするほどの小型化ができるなど、本発明のパイプオルガンは極めて実用的価値の高いものである。
【符号の説明】
【0076】
110 チェスト
111 パレットボックス
112 パレット
113 パレットスプリング
114 トラッカーピン
115 トーンチャンネル
116 基音フルーパイプのスライダー
117 倍音パイプのスライダー
118 天板
120 鍵盤
130 基音フルーパイプ
140 倍音パイプ
160 マイクロホン
170 アンプ
180 スピーカ
210 チェスト
211 パレットボックス
212 パレット
213 パレットスプリング
214 トラッカーピン
215 トーンチャンネル
216 基音フルーパイプのスライダー
217 倍音パイプのスライダー
218 天板
220 鍵盤
230 基音フルーパイプ
240 倍音パイプ
260 マイクロホン
270 アンプ
280 スピーカ
330 基音フルーパイプ
331 レゾネータ
332 核
333 風路
334 歌口
335 上唇
336 ストッパー
360 マイクロホン
430 基音フルーパイプ
431 ヘルムホルツレゾネータ
432 核
433 風路
434 歌口
435 上唇
436 ストッパー
437 胴体
438 首
460 マイクロホン
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8