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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-05-12
(45)【発行日】2023-05-22
(54)【発明の名称】移動式恒湿恒温槽及び試験設備
(51)【国際特許分類】
   G01M 17/007 20060101AFI20230515BHJP
   G01N 17/00 20060101ALI20230515BHJP
【FI】
G01M17/007 P
G01N17/00
【請求項の数】 5
(21)【出願番号】P 2019031512
(22)【出願日】2019-02-25
(65)【公開番号】P2020106509
(43)【公開日】2020-07-09
【審査請求日】2022-01-11
(31)【優先権主張番号】P 2018244634
(32)【優先日】2018-12-27
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000001834
【氏名又は名称】三機工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100072718
【弁理士】
【氏名又は名称】古谷 史旺
(74)【代理人】
【識別番号】100097319
【弁理士】
【氏名又は名称】狩野 彰
(74)【代理人】
【識別番号】100151002
【弁理士】
【氏名又は名称】大橋 剛之
(74)【代理人】
【識別番号】100201673
【弁理士】
【氏名又は名称】河田 良夫
(72)【発明者】
【氏名】嶋 勇人
(72)【発明者】
【氏名】小野 仁士
【審査官】亀澤 智博
(56)【参考文献】
【文献】特開2010-112778(JP,A)
【文献】特開2003-121340(JP,A)
【文献】米国特許第05592372(US,A)
【文献】特開2004-044976(JP,A)
【文献】特開2012-018137(JP,A)
【文献】特開2004-037288(JP,A)
【文献】特開平08-085478(JP,A)
【文献】米国特許第05574226(US,A)
【文献】米国特許第04779468(US,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01M 17/00 -17/10
G01N 17/00 -17/04
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数の断熱パネルとフレームから構成され、試験対象となる供試体を設置することが可能な内部空間を有する構造体と、
前記構造体の上部に設置され、前記内部空間を所定の環境条件に保持することが可能な空調装置と、
前記構造体の下部に設けられ、前記構造体を床面に対して浮上させて前記構造体の移動を補助することが可能な移動補助装置と、
前記構造体が載置されるとともに前記移動補助装置が固定される第1の枠と、前記構造体の上部に配置され前記空調装置を支持する第2の枠と、前記第1の枠及び第2の枠を連結する連結部材とから構成された補強部材と、
を備え
前記供試体は、自動車の駆動系要素を含むベアシャシーであり、
前記構造体は、
前記内部空間に設置される前記供試体に対し前記構造体の外部に設置される入力用ダイナモメータまたはエンジン軸の駆動軸を挿通して連結するための少なくとも1以上の前壁部パネル開口と、
前記供試体を前記内部空間に搬入するための搬入用扉と、
側壁部の断熱パネルの鉛直面に、前記ベアシャシーのドライブシャフトにつながる駆動輪またはドライブシャフトのない従動輪の合計数以上の開口が設けられ、前記構造体の外部に設置される計測機器の前記合計数の駆動軸を各々挿通する構成と、
を有し、
前記入力用ダイナモメータまたはエンジンと前記計測機器と自身とが設置できる環境下であれば、前記移動補助装置により移動することで、場所を問わず低高温度場の環境試験に切り替え自在である
ことを特徴とする移動式恒湿恒温槽。
【請求項2】
請求項1に記載の移動式恒湿恒温槽において、
前記移動補助装置は、装置本体と、前記装置本体の下面側に配置され、供給される空気を漏出させる孔部を有するダイヤフラムと、を有し、前記ダイヤフラムに設けた孔部から漏出した空気を前記ダイヤフラムと前記床面との間から外部に漏出させることで、前記床面の上部にエアフィルムを形成するエアベアリングである
ことを特徴とする移動式恒湿恒温槽。
【請求項3】
請求項に記載の移動式恒湿恒温槽において、
前記エアベアリングは、前記供試体が設置されたときの槽全体の重量分布に基づいて、複数配置される
ことを特徴とする移動式恒湿恒温槽。
【請求項4】
請求項1から請求項のいずれか1項に記載の移動式恒湿恒温槽と、
前記構造体の内部に設置された前記供試体に前記構造体の外部から連結される計測機器と、
前記構造体の内部に設置された前記供試体に対し前記構造体の外部から駆動軸を連結する入力用ダイナモメータまたはエンジンと、
前記移動式恒湿恒温槽及び前記計測機器が設置される試験室と、
を備え
前記構造体の内部に設置する供試体であるベアシャシーのホイールベースに合わせて前記構造体の外部に設置される計測機器の駆動軸の間隔を調整す
ことを特徴とする試験設備。
【請求項5】
請求項に記載の試験設備において、
前記移動補助装置は、装置本体と、前記装置本体の下面側に配置され、供給される空気を漏出させる孔部を有するダイヤフラムと、を有し、前記ダイヤフラムに設けた孔部から漏出した空気を前記ダイヤフラムと前記床面との間から外部に漏出させることで、前記床面の上部にエアフィルムを形成するエアベアリングであり、
前記試験室は、前記移動式恒湿恒温槽を使用する第1の位置と、前記移動式恒湿恒温槽を前記第1の位置から退避させる第2の位置で移動させることが可能な移動路と、を有し、
前記移動路は、前記移動補助装置を介して前記構造体が浮上するための噴出空気を、平坦でクラックや段差なく受ける複数の平板パネルを直線状に配置して形成する
ことを特徴とする試験設備。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、自動車やその駆動系要素や自動車の構成部品の性能を測る試験に用いられる移動式恒湿恒温槽及び試験設備に関するものである。
【背景技術】
【0002】
自動車の開発時などにおいて、各種性能を測るにあたり対象に注目すると、エンジン試験、車両試験、ドライブトレイン(パワートレイン)試験等が挙げられる。上述した試験は、供試体として用いる車両やエンジン、駆動系要素(ベアシャシー)などを搬入して供試体を運転し試験するために、例えば温度湿度条件を形成するための作業空間や、計測機器等を設置し、試験に携わる人が監視や制御を行う計測空間を確保した試験室にて実施される。試験室のうち少なくとも作業空間は、例えば断熱壁や防音壁に囲まれた内部空間を自動車の使用が想定される環境条件(温度や湿度など)に保つ設備である。したがって、試験設備としては、試験室の内部空間を自動車の使用が想定される環境条件(温度や湿度など)に保つための空調設備の他、上記環境条件に対応できる供試体と接続して計測する計測機器が必要となる。したがって、極端な温度条件や急激な温度変化に弱い操作コンソールや盤機器などは切り離して試験に携わる試験者のいる常温環境に設置し、試験の供試体とその駆動従動軸や必要な運転装置、外部からのユーティリティを供給するケーブル、配管などを設置した試験室を想定される環境条件に設定しての試験を行っている。環境試験室としての低温度から高温度、低湿度から高湿度までの環境条件で試験する供試体としては、主に内燃機関であるエンジン、それを組み込んだ車両などで試験することが多く、原動機であるエンジンは車両より小さなエンジンベンチにてユーティリティを接続して試験し、車両の場合は運転装置を組み込み、ユーティリティも搭載した形でシャシーダイナモメータにて個別化した環境で行っていた。
【0003】
しかし、現在のモータリゼーションの変革により自動車のドライブトレインとしての駆動系要素に電気モータが入り込んできてハイブリッド車や電気自動車が増えてくると、駆動系の中の電気モータの組替えをその都度行って、試験しながらの機器組替えを行いたいという需要が生じてきた。
【0004】
また、供試体をエンジンとしてエンジンの出力軸に連結してエンジンに模擬負荷を与えながらエンジン単体の性能を計測するエンジンダイナモメータ、供試体を完成形のタイヤを履いた車両として車両の駆動輪に対してエンドレスの路面を模して模擬負荷を与えながら車両全体の性能を計測するシャシーダイナモメータは従来から自動車の開発試験によく用いられていたところ、上述の駆動系要素に、高効率な変速機や電動モータが加わったことで、駆動系要素の開発用の試験に特化し、パワートレインのダイナモメータが登場してきた。
【0005】
このような試験設備を用いて、例えば低温の環境を模した試験を行う場合、まず、供試体を冷却する必要がある。例えば供試体の冷却は、大きな空間である試験室の内部に供試体を設置した後、試験室の内部を、例えば一晩など一定の期間、冷却することで実施される。つまり、供試体を冷却する場合には大きな空間であり熱容量の大きなコンクリート躯体である試験室の壁面を含む内部も冷却する必要があり、供試体を冷却する際に他の物を冷却するため、必要以上のコストがかかる。そして、パワートレインのダイナモメータの各計測部や模擬負荷部分は熱変化に弱く、熱の影響を切り離す対策にも非常にコストがかかる。
【0006】
これでは、高価なパワートレインのダイナモメータをすべて環境室に設置しながら、熱変動に弱い個所を厳重に断熱しなければならず、機械室を含めた環境試験室の建設コストが莫大になる。また、パワートレインのダイナモメータも常温以外の対応として特注となる。
【0007】
供試体を冷却する際のコストを抑える方法として、例えば試験室の天井に吊り下げた支持天板に、室外に設けた冷却装置からの冷媒が供給される冷却器及び送風機を備える車体用冷却器を有する車体冷却手段を設け、また、支持天板下部の全外側に、支持天板の下面から試験室の床面に達する断熱シートからなる巻き上げ式のカーテンを設置し、ロールから引き出されたカーテンで囲まれた内部空間に配置した供試車を、車体冷却手段により所要の試験温度まで冷却することが提案されている(例えば特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【文献】実用新案登録第3014252号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
特許文献1の場合、カーテンにより囲まれた小さな内部空間とそこに置かれた車両のみ冷却して供試車全体を所要の試験温度まで冷却することができ、また、試験室全体を冷却する場合に比べて供試車の冷却に要する時間を短縮できる。その結果、冷却にかかるコストを抑制することができる。
【0010】
しかしながら、特許文献1の場合には、試験室の天井に吊り下げた支持天板に設けた車体冷却手段を設けることで、支持天板にブラインやフロン冷媒などを流す配管を設置することとなり、従来の車速を模擬する吹付け風路の途中に冷却コイルを設置して空気を温調する従来設備より、試験設備における冷却設備がかえって大掛かりになる。このため、供試体を冷却する簡易なシステムの提供が要求されている。
【0011】
また、特許文献1の場合、車体冷却手段や巻き上げ式のカーテンは、試験室の天井に吊り下げた支持天板に固定され、エンジンダイナモメータ、シャシーダイナモメータ、またはパワートレインのダイナモメータが設置された試験室に固定式の冷却システムであり、供試体の冷却を行っている場合には、当該ダイナモメータを占領しながら冷却するため、他の供試体の試験を行うことができない、言い換えれば、供試体の冷却場所と試験を行う場所が同じであるという問題がある。
【0012】
本発明は、供試体を冷却する冷却システムを簡易な構成で実施し、試験室全体を空調する大規模な環境試験室ではなく、供試体と、供試体の試験温度湿度条件を作り出す空調設備一式とを、内部と上とに載置して移動可能として小型化したので、例えば常温試験室に設置されている計測設備を用いて、供試体を所定の温度湿度条件とした試験を可能にした移動式恒湿恒温槽及び試験設備を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0013】
上述した課題を解決するために、本発明の移動式恒湿恒温槽は、複数の断熱パネルとフレームから構成され、試験対象となる供試体を設置することが可能な内部空間を有する構造体と、前記構造体の上部に設置され、前記内部空間を所定の環境条件に保持することが可能な空調装置と、前記構造体の下部に設けられ、前記構造体を床面に対して浮上させて前記構造体の移動を補助することが可能な移動補助装置と、前記構造体が載置されるとともに前記移動補助装置が固定される第1の枠と、前記構造体の上部に配置され前記空調装置を支持する第2の枠と、前記第1の枠及び第2の枠を連結する連結部材とから構成された補強部材と、を備え、前記供試体は、自動車の駆動系要素を含むベアシャシーであり、前記構造体は、前記内部空間に設置される前記供試体に対し前記構造体の外部に設置される入力用ダイナモメータまたはエンジン軸の駆動軸を挿通して連結するための少なくとも1以上の前壁部パネル開口と、前記供試体を前記内部空間に搬入するための搬入用扉と、側壁部の断熱パネルの鉛直面に、前記ベアシャシーのドライブシャフトにつながる駆動輪またはドライブシャフトのない従動輪の合計数以上の開口が設けられ、前記構造体の外部に設置される計測機器の前記合計数の駆動軸を各々挿通する構成と、を有し、前記入力用ダイナモメータまたはエンジンと前記計測機器と自身とが設置できる環境下であれば、前記移動補助装置により移動することで、場所を問わず低高温度場の環境試験に切り替え自在であることを特徴とする。
【0015】
ここで、前記移動補助装置は、装置本体と、前記装置本体の下面側に配置され、供給される空気を漏出させる孔部を有するダイヤフラムと、を有し、前記ダイヤフラムに設けた孔部から漏出した空気を前記ダイヤフラムと前記床面との間から外部に漏出させることで、前記床面の上部にエアフィルムを形成するエアベアリングであることを特徴とする。
【0016】
なお、前記エアベアリングは、前記供試体が設置されたときの槽全体の重量分布に基づいて複数配置されることが好ましい。
【0019】
また、本発明の試験設備は、上記に記載の移動式恒湿恒温槽と、構造体の内部に設置された前記供試体に前記構造体の外部から連結される計測機器と、前記構造体の内部に設置された前記供試体に対し前記構造体の外部から駆動軸を連結する入力用ダイナモメータまたはエンジンと、前記移動式恒湿恒温槽及び前記計測機器が設置される試験室と、を備え、前記構造体の内部に設置する供試体であるベアシャシーのホイールベースに合わせて前記構造体の外部に設置される計測機器の駆動軸の間隔を調整することを特徴とする。
【0020】
なお、前記移動補助装置は、装置本体と、前記装置本体の下面側に配置され、供給される空気を漏出させる孔部を有するダイヤフラムと、を有し、前記ダイヤフラムに設けた孔部から漏出した空気を前記ダイヤフラムと前記床面との間から外部に漏出させることで、前記床面の上部にエアフィルムを形成するエアベアリングであり、前記試験室は、前記移動式恒湿恒温槽を使用する第1の位置と、前記移動式恒湿恒温槽を前記第1の位置から退避させる第2の位置で移動させることが可能な移動路と、を有し、前記移動路は、前記移動補助装置を介して前記構造体が浮上するための噴出空気を、平坦でクラックや段差なく受ける複数の平板パネルを直線状に配置して形成することが好ましい。
【発明の効果】
【0021】
本発明によれば、供試体を冷却する冷却システムを簡易な構成で実施し、試験室全体を空調する大規模な環境試験室ではなく、供試体と、供試体の試験温度湿度条件を作り出す空調設備一式とを、内部と上とに載置して移動可能として小型化したので、例えば常温試験室に設置されている計測設備を用いて、供試体を所定の温度湿度条件とした試験を可能にした移動式恒湿恒温槽及び試験設備を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0022】
図1】(a)は本実施形態の移動式恒湿恒温槽の前側の構成の一例を示す斜視図、(b)は本発明の移動式恒湿恒温槽の後側の構成の一例を示す斜視図である。
図2】補強フレームの構造の一例を示す斜視図である。
図3】移動式恒湿恒温槽の内部及び計測機器と関係する開口及び槽に用いられる空調装置の構成の一例を示す一部断面図である。
図4】移動式恒湿恒温槽の内部の構成を示す説明図である。
図5】(a)は非作動時のエアベアリングの断面図、(b)は作動時のエアベアリングの断面図である。
図6】試験設備の一例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0023】
以下、本発明の移動式恒湿恒温槽10の一例を説明する。本発明の移動式恒湿恒温槽10は、後述する構造体15の内部を目的の環境条件(温度、湿度)となるように保持する装置である。この移動式恒湿恒温槽10は、内部空間に、自動車構成部品を設置保持することが可能である。移動式恒湿恒温槽10に設置される自動車構成部品は、一例として、ベアシャシーが挙げられる。ベアシャシーとは、変速機、プロペラシャフト、前輪用ドライブシャフト、後輪側ドライブシャフト、前輪側ディファレンシャルデフ、後輪側ディファレンシャルデフ等の駆動系要素を、実際の自動車と同一の配置構成となるように底部シャシーである車体プラットフォームやそれを模した仮枠組みに組み付けたものである。なお、自動車は、その駆動形式によってベアシャシーとして組み付けられる駆動系要素が異なる。したがって、ベアシャシーを構成する駆動系要素の上記例は単に一例を示したに過ぎず、ベアシャシーとして、前輪側の駆動系要素、又は後輪側の駆動系要素を含まなくてもよい。以下、移動式恒湿恒温槽10の内部に設置される自動車構成部品を供試体と称する。なお、ベアシャシーは、各駆動系要素を移動式恒湿恒温槽10の内部に搬入し、移動式恒湿恒温槽10の内部で各駆動要素を相互に相関動作するように車体プラットフォームやその代替え枠組みに組み付けられる。
【0024】
図1から図4に示すように、移動式恒湿恒温槽10は、構造体15と、該構造体15の外側に配置される補強フレーム16とを有する。構造体15は、複数の断熱パネルをそれぞれの辺にフレームを介して箱形状に組み合わせることで形成される。複数の断熱パネルは、前壁部、後壁部、左壁部、右壁部、床部及び天井部の各部を構成する断熱パネルを含む。断熱パネルは、平板状の断熱材の外装面(表面)側にガルバリウム鋼板を、断熱材の裏面にステンレス(SUS)板を各々配置した層構造のパネルである。以下、前壁部を構成する断熱パネルに対して符号15a、後壁部を構成する断熱パネルに対して符号15b、左壁部を構成する断熱パネルに対して符号15c、右壁部を構成する断熱パネルに対して符号15d、床部を構成する断熱パネルに対して符号15e、天井部を構成する断熱パネルに対して符号15fを付して説明する。
【0025】
前壁部を構成する断熱パネル15aは、後述する試験室151(構造体15の外部)に設置される入力用ダイナモメータ(又はエンジン軸)の駆動軸を構造体15の内部に挿通させる開口20を有する。図示は省略するが、試験室151に設置される入力用ダイナモメータ165の駆動軸が開口20を介して構造体15の内部に挿通されたときには、入力用ダイナモメータ165の駆動軸と開口20との間には隙間が生じる。この隙間には、例えばAEROFLEX(エアロフレックス:登録商標)などの断熱材が、入力用ダイナモメータの駆動軸を回動自在の状態で埋め込まれる。
【0026】
上述した断熱パネル15aは、上記開口20の他、オートマチックトランスミッション用のオイルやクーラント液を供給するための配管を挿通する開口21や、信号線を挿通する開口22,23を有する。なお、これら開口21,22,23は、配管や信号線が挿通された状態で断熱材にて埋め込み処理される。
【0027】
後壁部を構成する断熱パネル15bは、前壁部を構成する断熱パネル15aに対面する位置に配置される。断熱パネル15bは、中央部に開閉扉24を有する。開閉扉24は、扉枠部24a及び扉部24bを含み、扉部24bは扉枠部24aの幅方向の一端側においてヒンジを介して扉枠部24aに軸着される。開閉扉24は、供試体を構成する駆動系要素を構造体15に出し入れする際に開口される。
【0028】
左側壁部を構成する断熱パネル15cは、前後方向の両端部に、開口26,27を有する。開口26は、構造体15内部に組み立てられた駆動系要素の一つである左前輪用ドライブシャフトに接続される、構造体15外部に設置する左前輪用ダイナモメータ166の駆動軸を挿通する。開口27は、同様に左後輪用ドライブシャフトに接続される左後輪用ダイナモメータ167の駆動軸を挿通する。開口27は、断熱パネル15cの前後方向に延びる長孔である。開口27を長孔とすることで、ホイールベース(前輪軸及び後輪軸間の距離)が異なる種々の自動車のベアシャシーを、構造体15の内部に設置することが可能となる。なお、左後輪用ドライブシャフトに接続される左後輪用ダイナモメータ167の駆動軸を開口27に挿通させると、開口27には空隙部分が存在する。この空隙部分には、例えばAEROFLEX(エアロフレックス:登録商標)などの断熱材が、左後輪用ダイナモメータ167の駆動軸を回動自在の状態で埋め込まれる。
【0029】
また、断熱パネル15cは、前後方向の中央部分に開閉扉29を有する。開閉扉29は、扉枠部29a及び扉部29bを含み、扉部29bは扉枠部29aの幅方向の一端側においてヒンジを介して扉枠部29aに軸着される。なお、開閉扉29は、構造体15に対して作業者が入退室する際に開口される。
【0030】
さらに、断熱パネル15cは、前後方向における開口26及び開閉扉29との間に、操作パネル30を有する。操作パネル30は、本実施形態の移動式恒湿恒温槽10の環境条件を管理する上での入力操作を行うものである。なお、操作パネル30は、後述する空調設備の動力制御装置69に接続される。なお、操作パネル30は、一例としてタッチパネルである。
【0031】
右側壁部を構成する断熱パネル15dは、左側壁部を構成する断熱パネル15cと対面する位置に配置される。断熱パネル15dは、前後方向の両端部に、開口31,32を有する。これら開口31,32は、構造体15を組み付けたときに、左側壁部を構成する断熱パネル15cの開口26,27と同一の位置となるように、断熱パネル15dに設けられる。開口31は、構造体15内部に組み立てられた駆動系要素の一つである右前輪用ドライブシャフトに接続される、構造体15外部に設置する右前輪用ダイナモメータ168の駆動軸を挿通する。開口32は、同様に右後輪用ドライブシャフトに接続される右後輪用ダイナモメータ169の駆動軸を挿通する。開口32は、開口27と同様に、断熱パネル15cの前後方向に延びる長孔である。なお、右後輪用ドライブシャフトに接続される右後輪用ダイナモメータ169の駆動軸を開口32に挿通させると、開口32には空隙部分が存在する。この空隙部分には、例えばAEROFLEX(エアロフレックス:登録商標)などの断熱材が、右後輪用ダイナモメータ169の駆動軸を回動自在の状態で埋め込まれる。
【0032】
また、断熱パネル15dは、前後方向の中央部分に開閉扉33を有する。開閉扉33は、扉枠部33a及び扉部33bを含み、扉部33bは扉枠部33aの幅方向の一端側においてヒンジを介して扉枠部33aに軸着される。なお、開閉扉33は、構造体15に対して作業者が入退室する際に開口される。
【0033】
構造体15は、保持スタンド36及び固定定盤37を、床部を構成する断熱パネルと力学的に縁を切ってフレームに支持されて内部空間に有する。熱的には、(壁・床・天井部)の断熱パネルの熱伝導率の悪さのため、また隙間も断熱充填しているため、断熱は確保できている。保持スタンド36は、ベアシャシーを構成するプロペラシャフトを軸支する。保持スタンド36は、構造体15の左壁部及び右壁部を構成する断熱パネル15c,15dを貫通する2本の保持部材41,42に跨って設置される。なお、2本の保持部材41,42は、断熱パネル15c,15dの各々から突出する両端部において、後述する下部フレーム51を構成する2本のフレーム構成部材55に各々支持される。なお、符号43は、2本のフレーム構成部材55上に設置され、2本の保持部材41,42の両端部を支持しながら、各々の保持部材41,42から外側フレームへのヒートブリッジを防止する断熱材でもある台座である。
【0034】
固定定盤37は、後輪側の駆動系要素、例えば後輪側ドライブシャフト、後輪側ディファレンシャルデフがハウジング内に組み付けられたリヤアクスルハウジングアッセンブリを保持するための部材である。固定定盤37は、構造体15の左壁部及び右壁部を構成する断熱パネル15c,15dを貫通する3本の保持部材44,45,46に跨って設置される。3本の保持部材44,45,46は、断熱パネル15c,15dの各々から突出する両端部で、後述する下部フレーム51を構成する2本のフレーム構成部材55に各々支持される。なお、符号47は、フレーム構成部材55上に設置され、3本の保持部材44,45,46の両端部を支持しながら、各々の保持部材44,45,46から外側フレームへのヒートブリッジを防止する断熱材でもある台座である。上述した保持部材41,42及び保持部材44,45,46は、例えばH形鋼が挙げられる。なお、図4中二点鎖線は、構造体15の内部に設置される供試体の一例を示している。
【0035】
補強フレーム16は、下部フレーム(請求項の第1のフレームに相当)51、上部フレーム(請求項の第2のフレームに相当)52及びこれらフレーム51,52を連結する4本の連結部材53から構成される。下部フレーム51は、構造体15が載置される部材である。下部フレーム51は、長さが異なる2種類のフレーム構成部材55,56を長辺及び短辺とした矩形枠状から構成される。これらフレーム構成部材55,56としては、例えばH形鋼が挙げられる。下部フレーム51は、長辺となる2つのフレーム構成部材55,55の間に、3本の補強フレーム部材57が一定間隔を空けて、フレーム構成部材56と平行に配置される。
【0036】
上部フレーム52は、下部フレーム51と同様に、長さが異なる2種類のフレーム構成部材58,59を長辺及び短辺とした矩形枠状から構成される。なお、上部フレーム52の大きさと下部フレーム51の大きさとは同一の大きさである。これらフレーム構成部材58,59としては、例えばH形鋼が挙げられる。
【0037】
4本の連結部材53は、下部フレーム51、上部フレーム52の四隅において、下部フレーム51と上部フレーム52とを連結する部材である。ここで、連結部材53は、例えばH形鋼が挙げられる。
【0038】
4本の連結部材53のうち、前方に位置する連結部材53の上端部及び上部フレーム52のフレーム構成部材58の間には、補強材61が設けられる。また、前方に位置する連結部材53の下端部及び下部フレーム51のフレーム構成部材55の間には、補強材62が設けられる。さらに、後方に位置する連結部材53の上端部及び上部フレーム52のフレーム構成部材58の間には、補強材63が設けられる。また、これら4本の連結部材53は、移動式恒湿恒温槽10の前後方向に作業者が把持する把持部64を各々有する。
【0039】
上述した構造体15の上部には、空調装置68、動力制御装置69が配置される。空調装置68は、構造体15の内部の空気を所定の環境条件に保持する装置である。なお、空調装置68によって設定される構造体15の内部の環境条件としては、例えば温度-30℃から+50℃の範囲(±2℃)、湿度20~85%の範囲(温度+10~25℃において)である。
【0040】
空調装置68は、天井部を構成する断熱パネル15fに設けた吸込口71と送出口72とを繋ぐ循環路(チャンバ)73において、吸込口71側から送出口72側に向けて、プレフィルタ75、送風ファン76、冷却器77、加熱器78の順に配置した構成である。ここで、チャンバ73は、2本の支持部材79を介して上部フレーム52に支持される(図1参照)。
【0041】
プレフィルタ75は、送風ファン76によりチャンバ73の内部に吸い込まれる空気に含まれる固形粒子を除去する。冷却器77は、例えば直膨コイル(蒸発器)などの冷却コイルである。冷却器77は、後述するコンデンシングユニット82の中に設置される凝縮器や圧縮機、冷却器77の近傍にある膨張弁などと冷凍サイクルを形成し、温湿度計81により測定された温度と、設定された温度との偏差に応じて圧縮機の回転や膨張弁などを制御させて冷却器77内を流れる冷媒の温度や流量を制御し、温湿度計81により測定された温度が設定された温度となるようにチャンバ73の内部に送り込まれる空気を冷却する。冷却器77は、コンデンシングユニット82と接続され、冷却器77とコンデンシングユニット82との間でフロン冷媒などの冷媒を循環させる。なお、冷却器77とコンデンシングユニット82との間で冷媒を循環させると、冷媒は蒸発器にあたる冷却器77において吸熱し、コンデンシングユニット82で圧縮されたのち凝縮器において放熱する。
【0042】
加熱器78は、例えば電気ヒータである。加熱器78は、温湿度計81により測定された温度と、設定された温度との偏差に応じて、電気ヒータの出力を増減するサイリスタなどを制御して、温湿度計81により測定された温度が設定された温度となるように、チャンバ73の内部に送り込まれる空気を加熱する。
【0043】
上述したチャンバ73の内部で、送風ファン76と冷却器77との間には、除湿された空気をチャンバ73の内部に送り込む配管83の送込口83aが設けられる。配管83は、エアタンク100と接続される。配管83は、エアタンク100側から、電磁弁84、プレフィルタ85、エアドライヤ86、及びレギュレータバルブ(減圧弁)87の順で配置される。電磁弁84は、温湿度計81により測定された湿度が設定された湿度よりも高い場合に作動され、エアタンク100からの空気を、プレフィルタ85に向けて送り出す。プレフィルタ85は、電磁弁84の開放時に送り込まれる空気に含まれる固形粒子を除去する。エアドライヤ86は、電磁弁84の開放時に作動して、送り込まれる空気を乾燥させる。レギュレータバルブ87は、チャンバ73の内部に供給する空気の圧力を調整し、チャンバ73の内部に、乾燥した空気を送り込む。
【0044】
上述したチャンバ73の内部で加熱器78と送出口72との間には、加湿器88のノズル88aが配置される。加湿器88は、チャンバ73外部に設置する本体内の釜で水を沸かし、発生する低圧の蒸気をノズルから排出するが、釜での蒸気発生量を電極棒や電熱ヒータへの電流出力などの下限により比例制御でき、温湿度計81により測定された湿度と、設定された湿度との偏差に応じて比例制御される。加湿器88は、例えば純水フィルタ101を通じて供給される純水を加湿器88本体内の釜へ供給し、ノズル88aの先端部から低圧の蒸気としてチャンバ73の内部へ所定の量の加湿蒸気を供給して加湿する。
【0045】
空調設備の動力制御装置69は、構造体15の側部に設けた操作パネル30や、図示を省略した構造体15の内部に設けた操作パネル(図示省略)における入力操作を受けて、移動式恒湿恒温槽10が有する空調装置68の発停や制御を行う。また、この動力制御装置69にはさらに、構造体15の内部の照明装置90及び監視カメラ91などの発停駆動制御を行う回路を内蔵して一括で操作してもよい。
【0046】
本実施形態の移動式恒湿恒温槽10は、下部フレーム51の下部に、複数の移動台95を有する。移動台95は、例えばエアベアリングである。以下、エアベアリングに符号95を付して説明する。ここで、エアベアリング95は、請求項の移動補助装置に相当する。
【0047】
図5(a)及び図5(b)に示すように、エアベアリング95は、台座96及びダイヤフラム97を含む。ダイヤフラム97は、コンプレッサ102から供給される空気により膨張し、供給された空気の一部を、ダイヤフラム97が有する噴出孔97aからダイヤフラム97と床面Fとの間に噴出する。噴出孔97aからダイヤフラム97と床面Fとの間に噴出される空気は、ダイヤフラム97の下面に沿って流れ、外部に逃げる。このとき、ダイヤフラム97と床面Fと間には、薄い空気層(エアフィルム)が形成され、ダイヤフラム97は、台座96を載せた状態で浮上する。したがって、槽全体の重量に応じた静摩擦力や動摩擦力がほとんど生じず、慣性力に抗う力があれば、台座96に載置した荷物Bを僅かな力で移動させることが可能となる。ここで、符号103は、コンプレッサ102からの空気をダイヤフラム内に送り込む配管である。なお、図示は省略しているが、コンプレッサ102から送り込まれる空気の脈動を抑制するために、エアタンクを併設することも可能である。
【0048】
エアベアリング95は、一例として、下部フレーム51を構成する2本のフレーム構成部材55の両端、及びフレーム構成部材55の長手方向における長さを3等分した位置の計8箇所に設置される。なお、エアベアリング95の設置箇所や設置数は、エアベアリング95が受容可能な荷重や、移動式恒湿恒温槽10の重量分布に基づいて決定される。
【0049】
なお、本実施形態では、下部フレーム51の下部に、複数の移動台95を設ける構成としているが、例えば直方体枠状のフレームに断熱パネルを組み付けた構造体15の場合には、底部を構成する断熱パネル15eの底面に、上記移動台95を設けることも可能である。この場合も、エアベアリング95の設置箇所や設置数は、エアベアリング95が受容可能な荷重や、移動式恒湿恒温槽10の重量分布に基づいて決定される。
【0050】
各エアベアリング95に接続される配管103は、下部フレーム51に設けたマニホールド104に接続される。なお、マニホールド104は、コンプレッサ102から送り込まれた空気を、エアベアリング95に供給する。符号105は、開動作によりコンプレッサ102からの空気を各エアベアリング95に送り込み、閉動作によりコンプレッサ102からの空気を遮断するコック弁105である。このコック弁105の開閉は、作業者の操作により実施される。
【0051】
上述した移動式恒湿恒温槽10が用いられる試験設備の一例を説明する。図6に示すように、試験設備150は、試験室151及び制御室152を有する。なお、図6において、制御室152は計測室を兼ねている。試験設備150は、ドライブトレイン試験や車両試験を行う設備である。ドライブトレイン試験とは、各駆動系要素が組み付けられたベアシャシーにおける性能や耐久性を測定する試験である。
【0052】
例えば、ドライブトレイン試験において、所定の環境温湿度で世界のどこかの環境を再現した移動式恒湿恒温槽10内の環境条件で、停止時のベアシャシーについて始動し動作させた状況から、駆動系の油などのフリクションや駆動系機械部の動作状況の経時変化などを計測して、その開発にフィードバックするなどの試験がその一例である。
【0053】
試験室151は、恒湿恒温性能を有している。試験室151は、図示は省略するが、空調装置を有しており、試験室151の環境条件を設定することができる。この試験室151に設置される空調装置によって設定される環境条件は、移動式恒湿恒温槽10の環境条件と同一であってもよいし、異なるものでもよい。なお、移動式恒湿恒温槽10を用いたドライブトレイン試験を行う場合には、試験室151内部で構造体15の外部で作業する作業員の快適性を鑑み、試験室151の温度は20~30℃の範囲に設定される。
【0054】
上述した移動式恒湿恒温槽10は、試験室151の内部に移動可能に設置される。移動式恒湿恒温槽10は、図6中実線で示す位置(符号10)と、図6中二点鎖線で示す位置(符号10’)との間で移動させることが可能である。なお、図6中実線で示す位置は、移動式恒湿恒温槽10の内部に設置した供試体に対してドライブトレイン試験を行うときの移動式恒湿恒温槽10の位置(以下、使用位置)である。また、図6中二点鎖線で示す位置は、移動式恒湿恒温槽10を用いずにドライブトレイン試験を行う場合や、他の車両試験を行うときの移動式恒湿恒温槽10の位置(以下、退避位置)である。図示は省略するが、移動式恒湿恒温槽10を構成する補強フレーム16の下部フレーム51は、例えば4隅又はその近傍に開口を有しており、これら開口に挿通されるピンを床面に設けた穴に挿入することで、移動式恒湿恒温槽10を使用位置又は退避位置に位置決めできる。
【0055】
試験室151の床面には、移動式恒湿恒温槽10を、上述した使用位置と退避位置との間で移動できるように、2本の移動路161,162が平行に設けられる。移動路161は、複数の平板パネル161aを直線状に配置した構造である。なお、平板パネル161aは、例えばポリプロピレンなどのプラスチック材料からなるプラベニヤの表面に塩化ビニルなどのシート材が貼付されたパネルが挙げられる。また、移動路162も、移動路161と同様に、複数の平板パネル162aを直線状に配置した構造である。
【0056】
上述したエアベアリング95を走行させたときの性能(走行性能)や空気消費量は、床面の状態によって左右される。つまり、エアベアリング95を走行させる場合には、床面が平坦で、クラックや段差などの凹凸がないことが前提となる。したがって、上記構成の移動路161,162を試験室151に設けることで、エアベアリング95の走行性能や走行時の空気消費量を安定させることができる。
【0057】
なお、移動路だけでなく、移動式恒湿恒温槽10の移動方向を規定する(ガイドする)ガイド部材を試験室に設置することも可能である。
【0058】
試験室151は、上述した移動式恒湿恒温槽10の他、入力用ダイナモメータ165、左前輪用ダイナモメータ166、左後輪用ダイナモメータ167、右前輪用ダイナモメータ168、右後輪用ダイナモメータ169を有する。これらダイナモメータは、請求項の計測機器に相当する。これらダイナモメータのうち、入力用ダイナモメータ165、左後輪用ダイナモメータ167及び右後輪用ダイナモメータ169は、図6中実線で示す位置と、図6中二点鎖線で示す位置(符号167’及び符号169’)との間で移動可能である。つまり、左後輪用ダイナモメータ167及び右後輪用ダイナモメータ169は、供試体として設置される後輪側の駆動系要素の位置に合わせて移動させることが可能である。また、試験室151は、エアタンク100、純水フィルタ101、コンプレッサ102を有する。
【0059】
なお、図6においては図示を省略しているが、電気自動車やハイブリッド自動車などをドライブトレイン試験の対象とする場合、試験室151の内部に、電気自動車やハイブリッド自動車に用いる電池を設置することも可能である。
【0060】
上述した入力用ダイナモメータ165の移動経路上には、移動路162が交差している。例えば、移動式恒湿恒温槽10を用いずに車両試験を行う場合、移動式恒湿恒温槽10を使用位置から退避位置に移動させる必要がある。この場合、以下の作業が実施される。
【0061】
まず、作業者は、移動路162を構成する平板パネル162aのうち、入力用ダイナモメータ165の移動経路上に位置する平板パネル162aを取り外し、入力用ダイナモメータ165を図6中実線に示す位置から図6中二点鎖線で示す位置まで移動させる。その後、作業者は、取り外した平板パネル162aを元の位置に設置する。最後に、作業者は、コック弁105を開く。コック弁105が開くことで、各エアベアリング95への空気の供給が行われ、移動式恒湿恒温槽10が浮上する。これを受けて、作業者は、移動式恒湿恒温槽10を使用位置から退避位置に移動させる。このとき、移動式恒湿恒温槽10が浮上しているので、移動式恒湿恒温槽10を僅かな力で移動させることができる。したがって、多数の作業者により移動式恒湿恒温槽10を移動させる必要はなく、少人数での移動作業が可能となる。その後車両を搬入し、4本のタイヤを外してジャッキアップし、車両のドライブシャフトと各輪用ダイナモメータの軸を連結して試験する。
【0062】
なお、入力用ダイナモメータ165を使用するのであれば、作業者は、移動路162を構成する平板パネル162aのうち、入力用ダイナモメータ165の移動経路上に位置する平板パネル162aを取り外し、入力用ダイナモメータ165を図6中二点鎖線に示す位置から図6中実線で示す位置まで移動させる。最後に、作業者は、取り外した平板パネル162aを元の位置に設置する。
【0063】
一方、移動式恒湿恒温槽10を用いて車両試験又は駆動系要素を組んだベアシャシーの試験を行う場合、移動式恒湿恒温槽10を退避位置から使用位置に移動させる必要がある。この場合も、作業者は、入力用ダイナモメータ165の移動経路上に位置する平板パネル162aを取り外し、入力用ダイナモメータ165を図6中実線に示す位置から図6中二点鎖線で示す位置まで移動させる。その後、作業者は、コック弁105を開け、移動式恒湿恒温槽10を浮上させる。そして、作業者は、移動式恒湿恒温槽10を退避位置から使用位置に移動させる。このときも、使用位置から退避位置に移動させるときと同様に、移動式恒湿恒温槽10が浮上しているので、移動式恒湿恒温槽10を僅かな力で移動させることができる。
【0064】
移動式恒湿恒温槽10を退避位置から使用位置に移動させた後、作業者は、車両試験(この場合は、ドライブトレイン試験)を行う駆動系要素を供試体として移動式恒湿恒温槽10の内部に設置する。作業者は、入力用ダイナモメータ165の駆動軸を断熱パネル15aの開口20に挿通させて、駆動系要素に連結する。また、左前輪用ダイナモメータ166の駆動軸を断熱パネル15cの開口26に、左後輪用ダイナモメータ167の駆動軸を開口27にそれぞれ挿通させ、対応する駆動系要素に連結する。さらに、また、右前輪用ダイナモメータ168の駆動軸を断熱パネル15dの開口31に、右後輪用ダイナモメータ169の駆動軸を開口32にそれぞれ挿通させ、対応する駆動系要素に連結する。このとき、各開口には隙間が生じるので、上述した断熱材により隙間を埋める。最後に、作業者は、操作パネル30を操作して、ドライブトレイン試験を行う環境条件に設定する。これを受けて、空調装置68が作動し、構造体15の内部を設定された環境条件(温度、湿度)に保持する。例えば、設定した環境条件を寒冷環境とする場合には、構造体15の内部が冷却され、同時に、供試体として設置した駆動系要素も冷却される。また、設定した環境条件を熱暑環境とする場合には、構造体15の内部が加熱され、同時に、駆動系要素も加熱される。
【0065】
このように、移動式恒湿恒温槽10を試験室151に設けることで、試験室151の温度や湿度を、設定された温度や湿度に保持するのではなく、構造体15の内部という最小限に限定された範囲の温度や湿度を、設定された温度、湿度に保持するだけでよい。したがって、駆動系要素に対するドライブトレイン試験を行う設備として、大規模な設備である必要はなく、また、既存の建物の内部で、上述したドライブトレイン試験を行うことが可能となる。つまり、移動式恒湿恒温槽10を試験室151に設けた試験設備とすることも可能であるが、本実施形態に示した移動式恒湿恒温槽10と、ダイナモメータや他の計測機器とが設置できる環境下にあれば、場所を問わず、普段常温試験として利用されるダイナモメータ設置室でも、低高温度場の環境試験に容易に切り替えができ、低コストで様々な条件のドライブトレイン試験を行うことが可能となる。
【0066】
また、移動式恒湿恒温槽10に貫通口があって、外部から計測器の計測用駆動従動軸などが貫通でき、その貫通部だけ部分的に低高温としての断熱を行えば、ドライブトレイン試験を行うためのダイナモメータや他の計測機器は、常温での使用となるので、環境条件に対応した計測機器ではなく、汎用の計測機器を用いることが可能となる。
【符号の説明】
【0067】
10…移動式恒湿恒温槽、15…構造体、15a,15b,15c,15d,15e,15f…断熱パネル、16…補強フレーム、51…下部フレーム、52…上部フレーム、53…連結部材、68…空調装置、95…エアベアリング、96…台座、97…ダイヤフラム、150…試験設備、151…試験室、161,162…移動路、165…入力用ダイナモメータ、166…左前輪用ダイナモメータ、167…左後輪用ダイナモメータ、168…右前輪用ダイナモメータ、169…右後輪用ダイナモメータ
図1
図2
図3
図4
図5
図6