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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-05-12
(45)【発行日】2023-05-22
(54)【発明の名称】金属微粒子分散体の製造方法
(51)【国際特許分類】
   B22F 9/00 20060101AFI20230515BHJP
   B22F 9/20 20060101ALI20230515BHJP
   B82Y 30/00 20110101ALI20230515BHJP
   B82Y 40/00 20110101ALI20230515BHJP
   C09D 11/52 20140101ALI20230515BHJP
   C09D 11/30 20140101ALI20230515BHJP
【FI】
B22F9/00 B
B22F9/20 E
B22F9/20 Z
B82Y30/00
B82Y40/00
C09D11/52
C09D11/30
【請求項の数】 22
(21)【出願番号】P 2019086389
(22)【出願日】2019-04-26
(65)【公開番号】P2020063507
(43)【公開日】2020-04-23
【審査請求日】2022-03-24
(31)【優先権主張番号】P 2018193636
(32)【優先日】2018-10-12
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000000918
【氏名又は名称】花王株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002620
【氏名又は名称】弁理士法人大谷特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】吉田 友秀
(72)【発明者】
【氏名】竹野 泰陽
【審査官】國方 康伸
(56)【参考文献】
【文献】特開2016-141854(JP,A)
【文献】特開2010-269516(JP,A)
【文献】特開2006-169557(JP,A)
【文献】特開2011-012290(JP,A)
【文献】中国特許出願公開第103408896(CN,A)
【文献】中国特許出願公開第108504185(CN,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B22F 9/00- 9/30
B82Y 5/00-99/00
C09D 11/00-13/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポリマーBで分散された金属微粒子aを含有する金属微粒子分散体の製造方法であって、
金属酸化物A、ポリマーB、及び化合物Cを混合する工程1を含み、
該ポリマーBが親水性基を有し、
該化合物Cが下記一般式(1)で表される2価アルコールであり、
該金属微粒子aのキュムラント平均粒径が50nm以下である、金属微粒子分散体の製造方法。
【化1】

(一般式(1)中、R及びRは水素原子又は炭素数1以上3以下の炭化水素基であり、Rはエチレン基及びプロピレン基から選ばれる少なくとも1種のアルキレン基であり、nは0以上30以下の整数である。但し、一般式(1)において、R及びRがいずれも水素原子である場合には、Rは少なくともプロピレン基を含み、かつnは1以上である。)
【請求項2】
化合物Cが1,2-プロパンジイル骨格を有する2価アルコールである、請求項1に記載の金属微粒子分散体の製造方法。
【請求項3】
化合物Cがプロピレングリコール及び重合度が2以上20以下のポリプロピレングリコールから選ばれる少なくとも1種である、請求項1又は2に記載の金属微粒子分散体の製造方法。
【請求項4】
工程1において、更に錯化剤Dを混合する、請求項1~3のいずれかに記載の金属微粒子分散体の製造方法。
【請求項5】
錯化剤Dと金属酸化物Aとの質量比[錯化剤D/金属酸化物A]が、0.01以上0.5以下である、請求項に記載の金属微粒子分散体の製造方法。
【請求項6】
錯化剤Dがアンモニア及びメルカプトカルボン酸から選ばれる少なくとも1種である、請求項又はに記載の金属微粒子分散体の製造方法。
【請求項7】
金属酸化物Aの体積中位粒径D50が、0.1μm以上30μm以下である、請求項1~のいずれかに記載の金属微粒子分散体の製造方法。
【請求項8】
化合物Cと金属酸化物Aとの質量比[化合物C/金属酸化物A]が、0.05以上45以下である、請求項1~のいずれかに記載の金属微粒子分散体の製造方法。
【請求項9】
ポリマーBがアニオン性ポリマーであり、該アニオン性ポリマーのアニオン性基がカルボキシ基である、請求項1~8のいずれかに記載の金属微粒子分散体の製造方法。
【請求項10】
ポリマーBがカルボキシ基を有するモノマー(b-1)由来の構成単位、疎水性モノマー(b-2)由来の構成単位及びポリアルキレングリコールセグメントを有するモノマー(b-3)由来の構成単位を含むビニル系ポリマーである、請求項1~9のいずれかに記載の金属微粒子分散体の製造方法。
【請求項11】
ポリマーBが非イオン性ポリマーであり、該非イオン性ポリマーがポリビニルアルコールである、請求項1~8のいずれかに記載の金属微粒子分散体の製造方法。
【請求項12】
工程1における混合を20℃以上100℃以下で行う、請求項1~11のいずれかに記載の金属微粒子分散体の製造方法。
【請求項13】
金属酸化物Aが、酸化金、酸化銀酸化銅及び酸化パラジウムから選ばれる少なくとも1種である、請求項1~12のいずれかに記載の金属微粒子分散体の製造方法。
【請求項14】
金属酸化物A、ポリマーB及び化合物Cの合計仕込み量に対する金属酸化物Aの仕込み量が2質量%以上90質量%以下である、請求項1~13のいずれかに記載の金属微粒子分散体の製造方法。
【請求項15】
ポリマーB及び金属の合計量に対するポリマーBの質量比[ポリマーB/(ポリマーB+金属)]が0.05以上0.3以下である、請求項1~14のいずれかに記載の金属微粒子分散体の製造方法。
【請求項16】
前記金属微粒子aのキュムラント平均粒径が2nm以上である、請求項1~15のいずれかに記載の金属微粒子分散体の製造方法。
【請求項17】
請求項1~16のいずれかに記載の製造方法により金属微粒子分散体を得る工程と該金属微粒子分散体と溶媒を混合する工程とを有する、インクの製造方法
【請求項18】
請求項17に記載の製造方法によりインクを得る工程と、該インクを印刷媒体上に塗布し、金属膜が形成された印刷物を得る工程とを有する、印刷物の製造方法。
【請求項19】
前記インクの印刷媒体上への塗布方法がインクジェット印刷法である、請求項18に記載の印刷物の製造方法。
【請求項20】
請求項17に記載の製造方法によりインクを得る工程と、該インクを基材上に塗布し、該インク中に含まれる金属微粒子を焼結させる工程とを有する、RFIDタグ用アンテナの製造方法
【請求項21】
請求項20に記載の製造方法によりRFIDタグ用アンテナを得る工程と、該RFIDタグ用アンテナに通信回路を実装し、該アンテナと通信回路とを電気的に接続する工程とを有する、RFIDタグの製造方法
【請求項22】
請求項17に記載の製造方法によりインクを得る工程と、該インクから形成されてなる内部電極層と誘電体層とを交互に積層させて多層積層シートを得る工程と、該多層積層シートを焼成する工程とを有する、積層セラミックコンデンサの製造方法
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、金属微粒子分散体の製造方法、及び該金属微粒子分散体を含有するインクに関する。
【背景技術】
【0002】
金属微粒子は、金属をナノサイズに微細化して用いることにより発現する機能及び物性の多様性から、多岐にわたる工業的応用の展開が期待されている。
金属微粒子の工業的利用を促進するため、種々の金属微粒子の製造方法が検討されている。例えば、金属原子を生成させる化学法として、液中で金属化合物から溶出する金属イオンを還元する方法、金属錯体の熱分解により金属原子を取り出す方法等の湿式法が知られている。金属錯体を用いる方法では高温下での熱処理を必要とし、金属錯体の還元に用いる還元液には残留有機物等の除去に関する問題があり、工業的に実用性の高い製造方法の検討がなされてきた。
【0003】
例えば、特許文献1には、加熱することなく、常温下で短時間に銀鏡膜層を形成でき、有害な成分や腐食性副成物の発生がない銀鏡膜層形成用組成液等を提供することを目的として、アルコール溶媒中に高分子分散剤を溶解させるとともに、酸化銀及び炭酸銀から選択される少なくとも1種の銀化合物を分散させたアルコール溶液を用い、前記アルコール溶液中に超音波を照射することにより得られた、銀ナノ粒子の分散溶液からなる銀鏡膜層形成用組成液等が記載されている。
特許文献2には、平均粒径が30nm以下であり、粒径の均一性が高い銀微粒子等を提供することを目的として、ポリオール溶媒に対し、平均粒径10μm以下の銀化合物を1~15質量%、分散剤として水溶性高分子を該銀化合物中の銀含有量に対して5~80質量%添加した後、該溶液を100℃以下で加熱還元することにより得られる銀微粒子等が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2017-2219号公報
【文献】特開2010-285695号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、特許文献1の技術は、特に還元剤を添加せずに超音波を照射することにより、銀化合物を還元する方法であり、また、特許文献2の技術は、ポリオール溶媒としてエチレングリコール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコールを用いて金属微粒子を得ているが、金属微粒子が凝集して粗大粒子が多く含まれるという問題があった。金属微粒子の機能や物性は粒径に大きく依存するため、粒径100nm超の粗大な金属微粒子は機能及び物性低下の原因となる。また、金属微粒子の粒径が大きくなると沈降速度が大きくなり、金属微粒子の分散安定性を低下させる。そのため、粒径100nm超の粗大な金属微粒子の形成が抑制された金属微粒子分散体の製造方法が求められている。
本発明は、粒径100nm以下の微細な金属微粒子を高い含有率で含有する金属微粒子分散体の製造方法、及び該金属微粒子分散体を含有するインクを提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者らは、金属酸化物、ポリマー、及び特定の一般式で表される2価アルコールを混合する工程を有し、該ポリマーが親水性基を有し、該ポリマーで分散された金属微粒子のキュムラント平均粒径を50nm以下とすることにより、金属微粒子の分散安定性が向上し、粒径100nm以下の金属微粒子の含有率が向上することに着目し、上記課題を解決し得ることを見出した。
【0007】
すなわち、本発明は、次の[1]~[6]を提供する。
[1]ポリマーBで分散された金属微粒子aを含有する金属微粒子分散体の製造方法であって、
金属酸化物A、ポリマーB、及び化合物Cを混合する工程1を含み、
該ポリマーBが親水性基を有し、
該化合物Cが下記一般式(1)で表される2価アルコールであり、
該金属微粒子aのキュムラント平均粒径が50nm以下である、金属微粒子分散体の製造方法。
【0008】
【化1】

(一般式(1)中、R及びRは水素原子又は炭素数1以上3以下の炭化水素基であり、Rはエチレン基及びプロピレン基から選ばれる少なくとも1種のアルキレン基であり、nは0以上30以下の整数である。但し、一般式(1)において、R及びRがいずれも水素原子である場合には、Rは少なくともプロピレン基を含み、かつnは1以上である。)
【0009】
[2]前記[1]に記載の製造方法により得られた金属微粒子分散体を含有する、インク。
[3]前記[2]に記載のインクを印刷媒体上に塗布し、金属膜が形成された印刷物を得る、印刷物の製造方法。
[4]前記[2]に記載のインクから形成されてなる、RFIDタグ用アンテナ。
[5]前記[4]に記載のRFIDタグ用アンテナを含む、RFIDタグ。
[6]前記[2]に記載のインクから形成されてなる内部電極層を含む、積層セラミックコンデンサ。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、粒径100nm以下の微細な金属微粒子を高い含有率で含有する金属微粒子分散体の製造方法、及び該金属微粒子分散体を含有するインクを提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0011】
[金属微粒子分散体の製造方法]
本発明の金属微粒子分散体の製造方法は、ポリマーBで分散された金属微粒子a(以下、「金属微粒子a」ともいう)を含有する金属微粒子分散体(以下、単に「金属微粒子分散体」ともいう)の製造方法であって、金属酸化物A、ポリマーB、及び化合物Cを混合する工程1(以下、単に「工程1」ともいう)を含み、該ポリマーBが親水性基、好ましくはカルボキシ基を有し、該化合物Cが下記一般式(1)で表される2価アルコールであり、該金属微粒子aのキュムラント平均粒径が50nm以下である。
【0012】
【化2】

(一般式(1)中、R及びRは水素原子又は炭素数1以上3以下の炭化水素基であり、Rはエチレン基及びプロピレン基から選ばれる少なくとも1種のアルキレン基であり、nは0以上30以下の整数である。但し、一般式(1)において、R及びRがいずれも水素原子である場合には、Rは少なくともプロピレン基を含み、かつnは1以上である。)
【0013】
本発明の製造方法により得られる金属微粒子分散体は、金属微粒子aが媒体中に分散されてなるものである。ここで、金属微粒子aの形態は特に制限はなく、少なくとも金属微粒子及びポリマーBにより粒子が形成されていればよい。例えば、ポリマーBに金属微粒子が内包された粒子形態、ポリマーB中に金属微粒子が均一に分散された粒子形態、ポリマーBの粒子表面に金属微粒子が露出された粒子形態等が含まれ、これらの混合物も含まれる。
【0014】
本発明によれば、粒径100nm以下の微細な金属微粒子を高い含有率で含有する金属微粒子分散体が得られる。その理由は定かではないが、以下のように考えられる。
本発明では、金属原料化合物として金属酸化物を用いるため、凝集剤として作用する対イオンが共存しない条件下で還元反応を行うことができる。また、本発明では特定の一般式で表される2価アルコールを用いるため、該アルコールの親疎水性のバランスに優れており、また該アルコールのキレート作用によるためか金属酸化物から金属イオンを効率的かつ徐々に取り出すことができ、金属イオンの安定性にも寄与し得ると考えられる。そして、分散剤として機能するポリマーは親水性基を有するため金属イオンへ吸着又は配位し、金属イオンの安定性を向上させる。金属微粒子の形成過程においてこれらが相乗的に作用し、金属イオンの過度な凝集が抑制され、粗大な金属微粒子の形成が抑制され、その結果、微細な金属微粒子を高い含有率で含有する金属微粒子分散体を得ることができると考えられる。
【0015】
(工程1)
工程1は、金属酸化物A、ポリマーB、及び化合物Cを混合する工程である。該工程1において、金属酸化物Aが化合物Cにより還元され、ポリマーBで分散した金属微粒子aが形成されると考えられる。
工程1において、金属酸化物A、ポリマーB、及び化合物Cは公知の方法で混合することができる。
混合温度は、微細な金属微粒子の含有率を向上させる観点から、好ましくは20℃以上、より好ましくは25℃以上、更に好ましくは30℃以上、より更に好ましくは35℃以上であり、そして、好ましくは100℃以下、より好ましくは95℃以下、更に好ましくは90℃以下である。
【0016】
<金属酸化物A>
金属酸化物A(以下、単に「酸化物A」ともいう)に含まれる金属(金属原子)は、チタン、ジルコニウム等の第4族の遷移金属、バナジウム、ニオブ等の第5族の遷移金属、クロム、モリブデン、タングステン等の第6族の遷移金属、マンガン、テクネチウム、レニウム等の第7族の遷移金属、鉄、ルテニウム等の第8族の遷移金属、コバルト、ロジウム、イリジウム等の第9族の遷移金属、ニッケル、パラジウム、白金等の第10族の遷移金属、銅、銀、金等の第11族の遷移金属、亜鉛、カドミウム等の第12族の遷移金属、アルミニウム、ガリウム、インジウム等の第13族の金属、ゲルマニウム、スズ、鉛等の第14族の金属などが挙げられる。前記金属は、1種を単独金属として用いてもよく、2種以上を併用して合金として用いてもよい。また、酸化物Aは、1種を単独で又は2種以上を混合して用いることができる。
中でも、好ましくは第4族~第11族で第4周期~第6周期の遷移金属の酸化物であり、より好ましくは銅や金、銀、白金、パラジウム等の貴金属の酸化物であり、更に好ましくは金、銀、銅及びパラジウムから選ばれる少なくとも1種の酸化物であり、より更に好ましくは酸化金、酸化銀及び酸化銅から選ばれる少なくとも1種であり、より更に好ましくは酸化銀及び酸化銅から選ばれる少なくとも1種である。
【0017】
酸化物Aの体積中位粒径D50(以下、単に「D50」ともいう)は、還元反応を促進させ、微細な金属微粒子の含有率を向上させる観点から、好ましくは0.1μm以上、より好ましくは0.5μm以上、更に好ましくは1μm以上、より更に好ましくは3μm以上であり、そして、好ましくは30μm以下、より好ましくは20μm以下、更に好ましくは15μm以下である。酸化物Aの体積中位粒径D50は、実施例に記載の方法で測定される。
【0018】
酸化物Aは、体積中位粒径D50が前述の範囲となるように粉砕処理されてなるものが好ましい。粉砕処理は、乾式粉砕処理が好ましく、ペイントシェーカー、ビーズミル等のメディア分散機を用いて行うことがより好ましい。
【0019】
メディア分散機の分散メディア粒子の材質としては、ジルコニア、チタニア等のセラミックス;ポリエチレン、ナイロン等のポリマー材料;金属等が好ましく、摩耗性の観点からジルコニアが好ましい。分散メディア粒子の直径は、金属酸化物への過大な損傷の付与を抑制する観点から、好ましくは5mm以下、より好ましくは3mm以下であり、そして、粉砕効率の観点から、好ましくは0.1mm以上、より好ましくは0.5mm以上、更に好ましくは0.7mm以上である。
メディア分散機の回転数は、製造効率の観点から、好ましくは50rpm以上、より好ましくは100rpm以上、更に好ましくは150rpm以上であり、そして、好ましくは1,000rpm以下、より好ましくは500rpm以下、更に好ましくは300rpm以下である。
粉砕処理の温度は、好ましくは0℃以上、より好ましくは20℃以上であり、そして、好ましくは40℃以下、より好ましくは35℃以下、更に好ましくは30℃以下、より更に好ましくは25℃以下である。
粉砕処理の時間は、好ましくは0.5時間以上、より好ましくは1時間以上であり、そして、好ましくは24時間以下、より好ましくは12時間以下、更に好ましくは6時間以下である。
【0020】
<ポリマーB>
本発明に係るポリマーBは、親水性基を有し、金属微粒子の分散剤としての機能を有する。該親水性基としては、カルボキシ基(-COOM)、スルホン酸基(-SO3M)、リン酸基(-OPO32)等の解離して水素イオンが放出されることにより酸性を呈する基、又はそれらの解離したイオン形(-COO-、-SO3-、-OPO3 2-、-OPO3 -M)等のアニオン性基;ヒロドキシ基、アミド基、オキシアルキレン基等の非イオン性基;1級、2級、又は3級アミノ基のプロトン酸塩、及び第4級アンモニウム基等のカチオン性基などが挙げられる。前記化学式中、Mは、水素原子、アルカリ金属、アンモニウム又は有機アンモニウムを示す。
【0021】
ポリマーBは、微細な金属微粒子の含有率を向上させる観点から、非イオン性基を有する非イオン性ポリマー、及びアニオン性基を有するアニオン性ポリマーから選ばれる少なくとも1種が好ましい。
非イオン性ポリマーとしては、ポリビニルピロリドン等のビニルピロリドンに由来する構造を有するポリマー、ポリアクリルアミド等のアクリルアミドに由来する構造を有するポリマー、ポリビニルアルコール、ポリエチレンオキサイド鎖を有するポリマーなどが挙げられる。
アニオン性ポリマーとしては、カルボキシ基を有するものが好ましい。カルボキシ基を有するポリマーの基本構造としては、ポリエステル、ポリウレタン等の縮合系ポリマー;アクリル系樹脂、スチレン系樹脂、スチレン-アクリル系樹脂、アクリルシリコーン系樹脂等のビニル系ポリマー等が挙げられる。
【0022】
ポリマーBの分子中に含まれるカルボキシ基は、カルボキシ基を有するモノマー(b-1)によりポリマー骨格に導入されてなるものが好ましい。すなわち、ポリマーBは、微細な金属微粒子の含有率を向上させる観点から、カルボキシ基を有するモノマー(b-1)由来の構成単位を含有するものが好ましい。中でも、微細な金属微粒子の含有率を向上させる観点から、カルボキシ基を有するモノマー(b-1)(以下、「モノマー(b-1)」ともいう)由来の構成単位、疎水性モノマー(b-2)(以下、「モノマー(b-2)」ともいう)由来の構成単位、及びポリアルキレングリコールセグメントを有するモノマー(b-3)(以下、「モノマー(b-3)」ともいう)由来の構成単位を含むビニル系ポリマーb(以下、「ポリマーb」ともいう)が好ましい。ポリマーbは、モノマー(b-1)、モノマー(b-2)及びモノマー(b-3)を含む原料モノマー(以下、単に「原料モノマー」ともいう)を共重合させて得ることができる。ポリマーbは、ブロック共重合体、ランダム共重合体、交互共重合体のいずれでもよい。
【0023】
〔カルボキシ基を有するモノマー(b-1)〕
モノマー(b-1)に含まれるカルボキシ基は前述のとおりである。
モノマー(b-1)としては、具体的には、(メタ)アクリル酸、クロトン酸、2-メタクリロイルオキシメチルコハク酸等の不飽和モノカルボン酸;マレイン酸、イタコン酸、フマル酸、シトラコン酸等の不飽和ジカルボン酸などが挙げられる。なお、前記不飽和ジカルボン酸は無水物であってもよい。
モノマー(b-1)は、1種を単独で又は2種以上を併用して用いてもよい。
モノマー(b-1)は、微細な金属微粒子の含有率を向上させる観点から、好ましくは(メタ)アクリル酸及びマレイン酸から選ばれる少なくとも1種である。
本発明において、「(メタ)アクリル酸」とは、アクリル酸及びメタクリル酸から選ばれる少なくとも1種を意味する。以下における「(メタ)アクリル酸」も同義である。
【0024】
〔疎水性モノマー(b-2)〕
モノマー(b-2)は、微細な金属微粒子の含有率を向上させる観点から、ポリマーbのモノマー成分として用いることが好ましい。
本発明において「疎水性」とは、モノマーを25℃のイオン交換水100gへ飽和するまで溶解させたときに、その溶解量が10g未満であることをいう。モノマー(b-2)の前記溶解量は、微細な金属微粒子の含有率を向上させる観点から、好ましくは5g以下、より好ましくは1g以下である。
モノマー(b-2)としては、好ましくは芳香族基含有モノマー及び脂肪族アルコール由来の炭化水素基を有する(メタ)アクリレートから選ばれる少なくとも1種である。
本発明において、「(メタ)アクリレート」とはアクリレート及びメタクリレートから選ばれる少なくとも1種である。以下における「(メタ)アクリレート」も同義である。
【0025】
芳香族基含有モノマーは、好ましくは、ヘテロ原子を含む置換基を有していてもよい、炭素数6以上22以下の芳香族基を有するビニルモノマーであり、より好ましくは、スチレン系モノマー及び芳香族基含有(メタ)アクリレートから選ばれる1種以上である。芳香族基含有モノマーの分子量は、500未満が好ましい。
スチレン系モノマーとしては、スチレン、α-メチルスチレン、2-メチルスチレン、4-ビニルトルエン(4-メチルスチレン)、ジビニルベンゼン等が挙げられるが、スチレン、α-メチルスチレンが好ましい。
芳香族基含有(メタ)アクリレートとしては、フェニル(メタ)アクリレート、ベンジル(メタ)アクリレート、フェノキシエチル(メタ)アクリレート等が好ましく、ベンジル(メタ)アクリレートがより好ましい。
【0026】
脂肪族アルコール由来の炭化水素基を有する(メタ)アクリレートは、好ましくは炭素数1以上22以下の脂肪族アルコール由来の炭化水素基を有するものである。例えば、メチル(メタ)アクリレート、エチル(メタ)アクリレート、プロピル(メタ)アクリレート、ブチル(メタ)アクリレート、ペンチル(メタ)アクリレート、オクチル(メタ)アクリレート、デシル(メタ)アクリレート、ドデシル(メタ)アクリレート、ステアリル(メタ)アクリレート等の直鎖アルキル基を有する(メタ)アクリレート;イソプロピル(メタ)アクリレート、イソブチル(メタ)アクリレート、tert-ブチル(メタ)アクリレート、イソペンチル(メタ)アクリレート、イソオクチル(メタ)アクリレート、イソデシル(メタ)アクリレート、イソドデシル(メタ)アクリレート、イソステアリル(メタ)アクリレート、2-エチルヘキシル(メタ)アクリレート等の分岐鎖アルキル基を有する(メタ)アクリレート;シクロヘキシル(メタ)アクリレート等の脂環式アルキル基を有する(メタ)アクリレート等が挙げられる。これらの中でも、より好ましくは炭素数6以上10以下のアルキル基を有するものである。
モノマー(b-2)は、1種を単独で又は2種以上を併用してもよい。
【0027】
モノマー(b-2)は、微細な金属微粒子の含有率を向上させる観点から、好ましくは芳香族基含有モノマーであり、より好ましくはスチレン系モノマーであり、更に好ましくはスチレン、α-メチルスチレン、2-メチルスチレン及び4-ビニルトルエン(4-メチルスチレン)から選ばれる少なくとも1種であり、より更に好ましくはスチレン及びα-メチルスチレンから選ばれる少なくとも1種である。
【0028】
〔ポリアルキレングリコールセグメントを有するモノマー(b-3)〕
モノマー(b-3)は、微細な金属微粒子の含有率を向上させる観点から、ポリマーbのモノマー成分として用いることが好ましい。
モノマー(b-3)は、微細な金属微粒子の含有率を向上させる観点から、ポリマーbの側鎖としてポリアルキレングリコールセグメントを導入することできるモノマーが好ましい。該モノマーとしては、ポリアルキレングリコール(メタ)アクリレート、アルコキシポリアルキレングリコール(メタ)アクリレート、フェノキシアルキレングリコール(メタ)アクリレート等が挙げられる。モノマー(b-3)は、1種を単独で又は2種以上を併用して用いてもよい。
【0029】
モノマー(b-3)は、好ましくは、ポリアルキレングリコール(メタ)アクリレート及びアルコキシポリアルキレングリコール(メタ)アクリレートから選ばれる少なくとも1種であり、より好ましくはアルコキシポリアルキレングリコール(メタ)アクリレートである。該アルコキシポリアルキレングリコール(メタ)アクリレートのアルコキシ基の炭素数は、好ましくは1以上8以下、より好ましくは1以上4以下である。
該アルコキシポリアルキレングリコール(メタ)アクリレートとしては、メトキシポリアルキレングリコール(メタ)アクリレート、エトキシポリアルキレングリコール(メタ)アクリレート、プロポキシポリアルキレングリコール(メタ)アクリレート、ブトキシポリアルキレングリコール(メタ)アクリレート、オクトキシポリアルキレングリコール(メタ)アクリレート等が挙げられる。
【0030】
モノマー(b-3)のポリアルキレングリコールセグメントは、好ましくは炭素数2以上4以下のアルキレンオキシド由来の単位を含む。前記アルキレンオキシドとしては、エチレンオキシド、プロピレンオキシド、ブチレンオキシド等が挙げられる。
前記ポリアルキレングリコールセグメント中のアルキレンオキシド由来の単位数は、好ましくは2以上、より好ましくは5以上、更に好ましくは10以上であり、そして、好ましくは100以下、より好ましくは70以下、更に好ましくは50以下である。
前記ポリアルキレングリコールセグメントは、微細な金属微粒子の含有率を向上させる観点から、エチレンオキシド由来の単位とプロピレンオキシド由来の単位とを含む共重合体であることが好ましい。エチレンオキシド単位(EO)とプロピレンオキシド単位(PO)とのモル比[EO/PO]は、好ましくは60/40以上、より好ましくは65/35以上、更に好ましくは70/30以上であり、そして、好ましくは90/10以下、より好ましくは85/15以下、更に好ましくは80/20以下である。
エチレンオキシド由来の単位とプロピレンオキシド由来の単位とを含む共重合体は、ブロック共重合体、ランダム共重合体、交互共重合体のいずれであってもよい。
【0031】
商業的に入手しうるモノマー(b-3)の具体例としては、新中村化学工業株式会社のNKエステルAM-90G、同AM-130G、同AMP-20GY、同230G、M-20G、同40G、同90G、同230G等;日油株式会社のブレンマーPE-90、同200、同350等、PME-100、同200、同400、同1000、同4000等、PP-500、同800、同1000等、AP-150、同400、同550等、50PEP-300、50POEP-800B、43PAPE-600B等が挙げられる。
【0032】
(原料モノマー中又はポリマーb中における各モノマー成分又は構成単位の含有量)
ポリマーb製造時における、モノマー(b-1)~(b-3)の原料モノマー中における含有量(未中和量としての含有量。以下同じ)又はポリマーb中におけるモノマー(b-1)~(b-3)由来の構成単位の含有量は、微細な金属微粒子の含有率を向上させる観点から、次のとおりである。
モノマー(b-1)の含有量は、好ましくは5モル%以上、より好ましくは10モル%以上、更に好ましくは15モル%以上であり、そして、好ましくは40モル%以下、より好ましくは35モル%以下、更に好ましくは30モル%以下である。
モノマー(b-2)の含有量は、好ましくは50モル%以上、より好ましくは60モル%以上、更に好ましくは65モル%以上であり、そして、好ましくは90モル%以下、より好ましくは85モル%以下、更に好ましくは80モル%以下である。
モノマー(b-3)の含有量は、好ましくは1モル%以上、より好ましくは5モル%以上、更に好ましくは7モル%以上であり、そして、好ましくは30モル%以下、より好ましくは20モル%以下、更に好ましくは15モル%以下である。
【0033】
ポリマーbは、モノマー(b-1)として(メタ)アクリル酸及びマレイン酸由来の構成単位、モノマー(b-2)としてスチレン系モノマー由来の構成単位、及びモノマー(b-3)としてアルコキシポリアルキレングリコール(メタ)アクリレート由来の構成単位を含むことが好ましい。
ポリマーbは、公知の方法で合成したものを用いてよく、市販品を用いてもよい。ポリマーbの市販品としては、BYK社製のDISPERBYK-190、同2015等が挙げられる。
【0034】
ポリマーBの数平均分子量は、好ましくは1,000以上、より好ましくは2,000以上、更に好ましくは3,000以上であり、そして、好ましくは100,000以下、より好ましくは50,000以下、更に好ましくは30,000以下、より更に好ましくは10,000以下、より更に好ましくは7,000以下である。ポリマーBの数平均分子量が前記の範囲であれば、金属微粒子への吸着力が十分であり分散安定性を発現することができる。前記数平均分子量は、実施例に記載の方法により測定される。
【0035】
ポリマーBの酸価は、好ましくは5mgKOH/g以上、より好ましくは10mgKOH/g以上、更に好ましくは20mgKOH/g以上であり、そして、好ましくは200mgKOH/g以下、より好ましくは100mgKOH/g以下、更に好ましくは50mgKOH/g以下、より更に好ましくは30mgKOH/g以下である。
ポリマーBの酸価は、実施例に記載の方法により測定される。
【0036】
<化合物C>
化合物Cは、下記一般式(1)で表される2価アルコールである。本発明において、化合物Cは、金属酸化物Aの還元剤として機能するとともに、金属微粒子分散体の分散媒としても機能する。
【0037】
【化3】

(一般式(1)中、R及びRは水素原子又は炭素数1以上3以下の炭化水素基であり、Rはエチレン基及びプロピレン基から選ばれる少なくとも1種のアルキレン基であり、nは0以上30以下の整数である。但し、一般式(1)において、R及びRがいずれも水素原子である場合には、Rは少なくともプロピレン基を含み、かつnは1以上である。)
【0038】
前記一般式(1)中、R及びRは、互いに同じでも異なっていてもよいが、好ましくは、一方が水素原子で他方が炭素数1以上3以下の炭化水素基であり、より好ましくは一方が水素原子で他方がメチル基であり、更に好ましくは、Rがメチル基でRが水素原子である。
前記一般式(1)中、Rは、エチレン基及びプロピレン基から選ばれる少なくとも1種のアルキレン基であり、好ましくはプロピレン基である。R及びRがいずれも水素原子である場合には、Rは少なくともプロピレン基を含む。Rがプロピレン基である場合、好ましくは-CH(CH)CH-又は-CHCH(CH)-で表される1,2-プロパンジイル基である。また、nが2以上である場合、分子内に複数存在するRは、互いに同じでも異なっていてもよい。
前記一般式(1)中、nは、ROで表されるオキシアルキレン基の平均付加モル数を表し、好ましくは0又は1以上である。R及びRがいずれも水素原子である場合には、nは1以上である。nが1以上である場合、nは、好ましくは20以下である。
【0039】
化合物Cの沸点は、好ましくは150℃以上、より好ましくは170℃以上であり、そして、好ましくは250℃以下、より好ましくは230℃以下、更に好ましくは210℃以下である。化合物Cとして2種以上を併用する場合には、化合物Cの沸点は、各2価アルコールの含有量(質量%)で重み付けした加重平均値である。
【0040】
化合物Cとしては、1,2-プロパンジオール(プロピレングリコール)、1,2-ブタンジオール、2,3-ブタンジオール、1,2-ペンタンジオール等のアルカンジオール;ポリプロピレングリコール等のポリアルキレングリコールが挙げられる。
化合物Cは、1種を単独で又は2種以上を組み合わせて用いることができる。
これらの中でも、好ましくは1,2-プロパンジイル骨格を有する2価アルコールであり、より好ましくはプロピレングリコール及び重合度2以上20以下のポリプロピレングリコールから選ばれる1少なくとも1種であり、更に好ましくはプロピレングリコール及びジプロピレングリコールから選ばれる少なくとも1種である。
なお、市販のジプロピレングリコールは、通常は4-オキサ-2,6-ヘプタンジオール、2-(2-ヒドロキシプロポキシ)-プロパン-1-オール、及び2-(2-ヒドロキシ-1-メチルエトキシ)-プロパン-1-オールの3種の異性体を含む混合物である。本発明において化合物Cとしてジブロピレングリコールを用いる場合には、これら3種の異性体の少なくとも1種を含むものであればよい。
【0041】
工程1において、還元剤として作用する化合物C以外の他の還元剤を混合してもよい。
他の還元剤としては、有機還元剤、無機還元剤のいずれも用いることができる。
有機還元剤としては、エチレングリコール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、ポリエチレングリコール、2-プロパノール、1-ブタノール、2-メチル-1-プロパノール、1-メトキシ-2-プロパノール等の化合物C以外のアルコール類;ホルムアルデヒド、アセトアルデヒド、プロピオンアルデヒド等のアルデヒド類;アスコルビン酸、クエン酸等の酸類及びその塩等、トリエチルアミン、N,N-ジメチルアミノエタノール、N-メチルジエタノールアミン等のアミン類等が挙げられる。
無機還元剤としては、水素化ホウ素ナトリウム、水素化ホウ素アンモニウム等の水素化ホウ素塩;水素化アルミニウムリチウム、水素化アルミニウムカリウム等の水素化アルミニウム塩;ヒドラジン、炭酸ヒドラジン等のヒドラジン類;水素ガス等が挙げられる。
なお、他の還元剤は、1種を単独で又は2種以上を組み合わせて用いてもよい。
中でも、好ましくは金属微粒子分散体の分散媒として機能するものであり、より好ましくは前述の化合物C以外のアルコール類であり、更に好ましくはエチレングリコールである。
【0042】
<錯化剤D>
工程1において、微細な金属微粒子の含有率を向上させる観点から、更に錯化剤Dを混合することが好ましい。錯化剤Dは、金属酸化物からの金属イオンの溶出の促進、又は金属イオンとの錯体形成により、金属微粒子の分散安定性を向上させ、微細な金属微粒子の含有率の向上に寄与すると考えられる。錯化剤Dのドナー原子としては、窒素、硫黄、酸素等が挙げられ、これらの原子を2種以上組み合わせてもよい。錯化剤Dは、1種を単独で又は2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0043】
錯化剤Dとしては、アンモニア;塩化アンモニウム等のアンモニウム塩;シアン化カリウム、シアン化ナトリウム等のシアン化物;アセトニトリル等のニトリル化合物;エチレンジアミン、ジエチレントリアミン、トリエチレンテトラミン、ピペラジン、トリエタノールアミン、ヒドロキシルアミン、グリシン、ヒドロキシエチルグリシン、プロパンジアミン等のアミン化合物;3-メルカプトプロピオン酸、メルカプトコハク酸、2,3-ジメルカプトコハク酸等のメルカプトカルボン酸;亜硫酸カリウム、亜硫酸ナトリウム等の亜硫酸塩;チオ硫酸カリウム、チオ硫酸ナトリウム等のチオ硫酸塩;クエン酸、酒石酸、シュウ酸等のヒドロキシカルボン酸;エチレンジアミン四酢酸(EDTA)、ニトリロ三酢酸(NTA)、イミノジ酢酸(IDA)、エチレンジアミン二酢酸(EDDA)等のアミノポリカルボン酸などが挙げられる。これらの中でも、好ましくはアンモニア及びメルカプトカルボン酸から選ばれる少なくとも1種であり、より好ましくはアンモニアである。アンモニアは、取り扱い性の観点から、水溶液として用いることが好ましい。
【0044】
<水系溶媒E>
工程1において、更に水系溶媒Eを混合してもよい。該溶媒としては、水、エタノール等の炭素数4以下の化合物C以外のアルコール;アセトン等の炭素数3以上8以下のケトン類;テトラヒドロフラン等のエーテル類等が挙げられる。
水系溶媒E中の水の含有量は、好ましくは60質量%以上、より好ましくは70質量%以上、更に好ましくは90質量%以上、より更に好ましくは95質量%以上である。
【0045】
(各成分の仕込み量)
金属微粒子分散体を製造する際の酸化物A、ポリマーB及び化合物Cの合計仕込み量に対する各成分の仕込み量は、微細な金属微粒子の含有率を向上させる観点及び生産性の観点から、以下のとおりである。
酸化物A、ポリマーB及び化合物Cの合計仕込み量に対する酸化物Aの仕込み量は、好ましくは2質量%以上、より好ましくは5質量%以上、更に好ましくは10質量%以上であり、そして、好ましくは90質量%以下、より好ましくは70質量%以下、更に好ましくは50質量%以下、より更に好ましくは40質量%以下である。
酸化物A、ポリマーB及び化合物Cの合計仕込み量に対するポリマーBの仕込み量は、好ましくは0.2質量%以上、より好ましくは0.5質量%以上、更に好ましくは1質量%以上であり、そして、好ましくは10質量%以下、より好ましくは7質量%以下、更に好ましくは5質量%以下である。
酸化物A、ポリマーB及び化合物Cの合計仕込み量に対する化合物Cの仕込み量は、好ましくは5質量%以上、より好ましくは25質量%以上、更に好ましくは40質量%以上、より更に好ましくは50質量%以上であり、そして、好ましくは95質量%以下、より好ましくは90質量%以下、更に好ましくは85質量%以下である。
【0046】
化合物Cと酸化物Aとの質量比[化合物C/酸化物A]は、金属イオンの安定性を向上させ、微細な金属微粒子の含有率を向上させる観点から、好ましくは0.05以上、より好ましくは0.5以上、更に好ましくは1以上、より更に好ましくは2以上であり、そして、好ましくは45以下、より好ましくは25以下、更に好ましくは15以下、より更に好ましくは10以下、より更に好ましくは5以下である。
【0047】
工程1において更に錯化剤Dを混合する場合、錯化剤Dと金属酸化物Aとの質量比[錯化剤D/金属酸化物A]は、金属微粒子の安定性を向上させ、微細な金属微粒子の含有率を向上させる観点から、好ましくは0.01以上、より好ましくは0.03以上、更に好ましくは0.05以上、より更に好ましくは0.07以上であり、そして、好ましくは0.5以下、より好ましくは0.4以下、更に好ましくは0.3以下、より更に好ましくは0.2以下である。
【0048】
金属微粒子分散体中でのポリマーBの存在形態は、金属微粒子にポリマーBが吸着している形態、金属微粒子をポリマーBが含有している金属微粒子内包(カプセル)形態、及び金属微粒子にポリマーBが吸着していない形態がある。金属微粒子の分散安定性の観点から、金属微粒子をポリマーBが含有する形態が好ましく、金属微粒子をポリマーBが含有している金属微粒子内包状態がより好ましい。
【0049】
本発明においては、金属原料化合物として酸化物Aを用いるため、得られる金属微粒子分散体には、金属イオンの対イオンは不純物として含まれないが、未反応の還元剤、金属微粒子の分散に寄与しない余剰のポリマーB等の不純物を除去する観点から、更に工程1で得られた金属微粒子分散体を精製する工程を有してもよい。
金属微粒子分散体を精製する方法は、特に制限はなく、透析、限外濾過等の膜処理;遠心分離処理等の方法が挙げられる。中でも、不純物を効率的に除去する観点から、膜処理が好ましく、透析がより好ましい。透析に用いる透析膜の材質としては、再生セルロースが好ましい。
透析膜の分画分子量は、不純物を効率的に除去する観点から、好ましくは1,000以上、より好ましくは5,000以上、更に好ましくは10,000以上であり、そして、好ましく100,000以下、より好ましくは70,000以下である。
【0050】
本発明の製造方法により得られる金属微粒子分散体において、ポリマーB及び金属の合計量に対するポリマーBの質量比[ポリマーB/(ポリマーB+金属)]は、微細な金属微粒子の含有率を向上させる観点から、好ましくは0.005以上、より好ましくは0.01以上、更に好ましくは0.03以上、より更に好ましくは0.05以上であり、そして、金属微粒子の高濃度化の観点から、好ましくは0.3以下、より好ましくは0.25以下、更に好ましくは0.2以下である。
前記質量比[ポリマーB/(ポリマーB+金属)]は、示差熱熱重量同時測定装置(TG-DTA)を用いて実施例に記載の方法により測定されるポリマーB及び金属の質量から算出される。
【0051】
金属微粒子分散体の金属微粒子aのキュムラント平均粒径は、金属微粒子の分散安定性を向上させる観点から、好ましくは2nm以上、より好ましくは5nm以上、更に好ましくは10nm以上、より更に好ましくは15nm以上であり、そして、微細な金属微粒子の含有率を向上させる観点から、50nm以下であり、好ましくは45nm以下、より好ましくは40nm以下、更に好ましくは35nm以下である。
なお、前記キュムラント平均粒径は、実施例に記載の方法により測定される。
【0052】
金属微粒子分散体の金属濃度は、後述するインクの調製を容易にする観点から、好ましくは5質量%以上、より好ましくは10質量%以上、更に好ましくは15質量%以上、より更に好ましくは20質量%以上であり、そして、金属微粒子の分散安定性を向上させる観点、好ましくは70質量%以下、より好ましくは50質量%以下、更に好ましくは30質量%以下である。
なお、金属微粒子分散体の金属濃度は、実施例に記載の方法により算出される。
【0053】
本発明に係る金属微粒子分散体は、粒径100nm以下の微細な金属微粒子を高い含有率で含有するため、該金属微粒子分散体を用いて形成される金属膜の物性及び機能に優れ、幅広い用途に用いることができる。例えば、各種インク;配線材料、電極材料、MLCC(積層セラミックコンデンサ、以下、「MLCC」ともいう)等の導電性材料;はんだ等の接合材料;各種センサー;近距離無線通信を用いた自動認識技術(RFID(radio frequency identifier)、以下、「RFID」ともいう)タグ等のアンテナ;触媒;光学材料;医療材料などが挙げられる。
【0054】
[インク]
本発明のインクは、金属微粒子分散体を含有する。該金属微粒子分散体は、粒径100nm以下の微細な金属微粒子を高い含有率で含有するため、金属膜を形成した際に膜表面の凹凸を低減することができる。また、金属微粒子の粒径が大きくなると沈降速度が大きくなり、インクの保存安定性を低下させるが、本発明のインクは粒径100nm超の粗大な金属微粒子の形成が抑制されているため、保存安定性を向上することができる。
更に、ポリマーBが親水性基を含むため、該インクを用いて形成される金属膜の耐折り曲げ性を向上することができる。化合物Cは、金属表面及び該ポリマーBに対して高い親和性を有し、金属微粒子分散体を含有するインクを用いてインク被膜を形成した後、該化合物Cはインク被膜全体に均一に存在することによりポリマー鎖が十分に広がった状態となると考えられる。このような状態でインク被膜を乾燥させることにより、金属膜の耐折り曲げ性を向上すると考えられる。
また、前記インクは、微細な金属微粒子を高い含有率で含有するため、金属微粒子同士のネッキングが速やかに進行し、高い導電性を有する金属膜を形成することができる。
【0055】
前記インクは、作業環境及び自然環境への負担低減の観点からは、該金属微粒子分散体と水とを混合して得られる水系インク(以下、「水系インク」ともいう)が好ましい。
本発明において「水系インク」とは、インクに含まれる媒体中で、水が最大割合を占めているインクを意味する。
【0056】
前記インクは、前述の化合物Cを有機溶媒として含有するものが好ましいが、保存安定性の観点から、インクの製造の際に更に有機溶媒を添加してもよい。該有機溶媒は、沸点90℃以上の有機溶媒を1種以上含むことが好ましい。該有機溶媒の沸点の加重平均値は、好ましくは150℃以上、より好ましくは180℃以上であり、そして、好ましくは240℃以下、より好ましくは220℃以下、更に好ましくは200℃以下である。
前記有機溶媒としては、多価アルコール、多価アルコールアルキルエーテル、含窒素複素環化合物、アミド、アミン、含硫黄化合物等が挙げられる。中でも、多価アルコール及び多価アルコールアルキルエーテルから選ばれる1種以上が好ましく、エチレングリコール、プロピレングリコール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、ポリエチレングリコール、グリセリン、トリメチロールプロパン、ジエチレングリコールジエチルエーテル及びジエチレングリコールモノイソブチルエーテルから選ばれる1種以上がより好ましい。
【0057】
前記インクは、更に必要に応じて、インクに通常用いられる、ポリマー粒子の分散体等の定着助剤、保湿剤、湿潤剤、浸透剤、界面活性剤、粘度調整剤、消泡剤、防腐剤、防黴剤、防錆剤等の各種添加剤を添加し、更にフィルター等による濾過処理を行うことができる。インクの各成分の含有量、インク物性は以下のとおりである。
【0058】
(インクの各成分の含有量)
前記インク中の金属の含有量は、印刷濃度の観点、及び導電性を向上させる観点から、好ましくは1質量%以上、より好ましくは3質量%以上、更に好ましくは5質量%以上であり、そして、耐折り曲げ性を向上させる観点、及び、溶媒揮発時のインク粘度を低くし、保存安定性を向上させる観点から、好ましくは50質量%以下、より好ましくは35質量%以下、更に好ましくは20質量%以下、より更に好ましくは17質量%以下、より更に好ましく15質量%以下、より更に好ましくは13質量%以下、より更に好ましくは11質量%以下である。
前記インク中の金属の含有量は、実施例に記載の方法により測定することができる。
前記インク中の金属とポリマーBとの合計含有量は、印刷濃度の観点、導電性を向上させる観点、及び耐折り曲げ性を向上させる観点から、好ましくは2質量%以上、より好ましくは5質量%以上、更に好ましくは7質量%以上であり、そして、溶媒揮発時のインク粘度を低くし、保存安定性を向上させる観点から、好ましくは55質量%以下、より好ましくは40質量%以下、更に好ましくは22質量%以下、より更に好ましくは20質量%以下、より更に好ましくは17質量%以下、より更に好ましくは15質量%以下、より更に好ましくは13質量%以下である。
前記インク中の金属とポリマーBとの合計含有量は、実施例に記載の方法により算出されるインク中の金属の含有量及び質量比[ポリマーB/(ポリマーB+金属)]より算出することができる。
前記インク中の有機溶媒の含有量は、インクの保存安定性及び耐折り曲げ性を向上させる観点から、好ましくは10質量%以上、より好ましくは20質量%以上、更に好ましくは30質量%以上であり、そして、好ましくは50質量%以下、より好ましくは45質量%以下、更に好ましく40質量%以下である。
前記インク中の水の含有量は、作業環境及び自然環境への負担を低減する観点、並びにインクの保存安定性及び耐折り曲げ性を向上させる観点から、好ましくは20質量%以上、より好ましくは30質量%以上、更に好ましくは40質量%以上、より更に好ましくは50質量%以上であり、そして、印刷濃度の向上の観点から、好ましくは80質量%以下、より好ましくは70質量%以下、更に好ましくは60質量%以下である。
前記インクにおける全固形分中の金属の質量比[金属/(インクの全固形分)]は、印刷濃度の向上の観点、及び導電性を向上させる観点から、好ましくは0.3以上、より好ましくは0.5以上、更に好ましくは0.7以上、より更に好ましくは0.8以上であり、そして、インクの保存安定性及び耐折り曲げ性を向上させる観点から、好ましくは0.98以下、より好ましくは0.95以下、更に好ましくは0.9以下である。
【0059】
(インクの物性)
前記インク中の金属微粒子aのキュムラント平均粒径は、金属微粒子分散体のキュムラント平均粒径と同じであることが好ましく、好ましい該平均粒径の態様も、金属微粒子分散体のキュムラント平均粒径の好ましい態様と同じである。
前記インクの32℃の粘度は、保存安定性の観点から、好ましくは2mPa・s以上、より好ましくは3mPa・s以上、更に好ましくは5mPa・s以上であり、そして、好ましくは12mPa・s以下、より好ましくは9mPa・s以下、更に好ましくは7mPa・s以下である。前記インクの粘度は、E型粘度計を用いて実施例に記載の方法により測定される。
前記インクの20℃のpHは、保存安定性の観点から、好ましくは7.0以上、より好ましくは7.2以上、更に好ましくは7.5以上である。また、部材耐性、皮膚刺激性の観点から、pHは、好ましくは11以下、より好ましくは10以下、更に好ましくは9.5以下である。前記インクのpHは、実施例に記載の方法により測定される。
【0060】
[インクジェット印刷方法]
本発明において、前記インクを印刷媒体上に塗布し、金属膜が形成された印刷物を得ることができる。
前記インクは、膜表面の凹凸が低減された、耐折り曲げ性に優れる金属膜を形成することができ、保存安定性に優れるため、特にフレキソ印刷用インキ、グラビア印刷用インキ、スクリーン印刷用インキ、又はインクジェット記録用インクとしてメタリック印刷に好適に用いることができる。また、前記インクは、高い導電性を発現する金属膜を形成することができる。前記インクは、特に微細な金属微粒子を高い含有率で含有するため、吐出性の観点から、インクジェット記録用インクとして用いることがより好ましい。すなわち、前記インクの印刷媒体上への塗布方法としては、インクジェット印刷法が好ましい。
前記インクをインクジェット記録用インクとして用いる場合、該インクを公知のインクジェット記録装置に装填し、インク液滴として印刷媒体に吐出して画像等を形成することができる。
インクジェット記録装置としては、サーマル式及びピエゾ式があるが、本発明のインクは、ピエゾ式のインクジェット記録用インクとして用いることがより好ましい。
【0061】
前記インクの印刷に用いる印刷媒体としては、高吸水性の普通紙、低吸水性のコート紙、非吸水性の樹脂フィルムが挙げられる。コート紙としては、汎用光沢紙、多色フォームグロス紙等が挙げられる。中でも、耐折り曲げ性の観点、及び導電性を発現する金属膜の用途の観点から、樹脂フィルムが好ましい。該樹脂フィルムとしては、好ましくはポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリエチレンナフタレート(PEN)等のポリエステルフィルム、ポリ塩化ビニルフィルム、ポリプロピレンフィルム、及びポリエチレンフィルムから選ばれる少なくとも1種である。当該樹脂フィルムは、コロナ処理された基材を用いてもよい。
一般的に入手できる樹脂フィルムとしては、例えば、ルミラーT60(東レ株式会社製、ポリエステル)、テオネックスQ51-A4(帝人フィルムソリューション株式会社製、ポリエチレンナフタレート)、PVC80B P(リンテック株式会社製、塩化ビニル)、DGS-210WH(ローランドディージー株式会社製、塩化ビニル)、透明塩ビRE-137(株式会社ミマキエンジニアリング製、塩化ビニル)、カイナスKEE70CA(リンテック株式会社製、ポリエチレン)、ユポSG90 PAT1(リンテック株式会社製、ポリプロピレン)、FOR、FOA(いずれもフタムラ化学株式会社製、ポリプロピレン)、ボニールRX(興人フィルム&ケミカルズ株式会社製、ナイロン)、エンブレムONBC(ユニチカ株式会社製、ナイロン)等が挙げられる。
【0062】
(インクジェット印刷条件)
インクジェットヘッドのヘッド温度は、金属光沢を向上させる観点、及び導電性を向上させる観点から、好ましくは15℃以上、より好ましくは20℃以上、更に好ましくは25℃以上であり、そして、好ましくは45℃以下、より好ましくは40℃以下、更に好ましくは35℃以下である。
インクジェットヘッドのヘッド電圧は、印刷の効率性等の観点から、好ましくは5V以上、より好ましくは10V以上、更に好ましくは15V以上であり、そして、好ましくは40V以下、より好ましくは35V以下、更に好ましくは30V以下である。
ヘッドの駆動周波数は、印刷の効率性等の観点から、好ましくは1kHz以上、より好ましくは5kHz以上、更に好ましくは10kHz以上であり、そして、好ましくは50kHz以下、より好ましくは40kHz以下、更に好ましくは35kHz以下である。
【0063】
インクの吐出液滴量は、金属光沢を向上させる観点、及び導電性を向上させる観点から、1滴あたり好ましくは5pL以上、より好ましくは10pL以上であり、そして、好ましくは30pL以下、より好ましくは20pL以下である。
印刷媒体へのインクの付与量は、固形分として、好ましくは0.5g/m以上、より好ましくは1g/m以上、更に好ましくは2g/m以上であり、そして、好ましくは20g/m以下、より好ましくは15g/m以下、更に好ましくは10g/m以下である。
解像度は、好ましくは200dpi以上、より好ましくは300dpi以上であり、そして、好ましくは1,000dpi以下、より好ましくは800dpi以下、更に好ましくは600dpi以下である。ここで、本明細書における「解像度」とは、印刷媒体に形成される1インチ(2.54cm)あたりのドットの数をいう。例えば「解像度が600dpi」とは、ノズル列の長さあたりのノズル孔の個数が600dpi(ドット/インチ)配置されたラインヘッドを用いて、印刷媒体上にインク液滴を吐出すると、それに対応する1インチあたり600dpiのドットの列が、印刷媒体の搬送方向と垂直な方向に形成され、そして、印刷媒体を搬送方向に移動させながらインク液滴を吐出すると、印刷媒体上には搬送方向にも1インチあたり600dpiのドットの列が形成されることをいう。本明細書では、印刷媒体の搬送方向に対して垂直な方向の解像度と、搬送方向の解像度は同じ値として表される。
【0064】
(加熱処理)
本発明においては、金属光沢を向上させる観点、及び導電性を向上させる観点から、前記インクを印刷媒体上に塗布した後、印刷媒体上のインク被膜を加熱処理することが好ましい。
該加熱処理により、インク被膜中の媒体を蒸発乾燥させて金属光沢が発現し、さらに金属微粒子を焼結させて導電性を発現する金属膜を形成することができる。
加熱処理の方法は、特に制限はなく、印刷媒体上のインク被膜面に熱風を付与して加熱する方法、印刷媒体上のインク被膜面にヒーターを近づけて加熱する方法、印刷媒体のインク被膜が形成された表面と反対側の面にヒーターを接触させて加熱する方法、常圧又は高圧で高温蒸気を用いる蒸気養生によって加熱する方法等が挙げられる。
加熱処理温度は印刷媒体が変形する温度未満であることが好ましい。
【0065】
耐折り曲げ性を向上させる観点からは、加熱処理は、常圧下、好ましくは40℃以上、より好ましくは50℃以上、更に好ましくは55℃以上であり、そして、好ましくは90℃以下、より好ましくは80℃以下、更に好ましくは70℃以下で行うことが好ましい。この場合の加熱処理時間は、好ましくは1分以上であり、そして、好ましくは30分以下、より好ましくは20分以下、更に好ましくは10分以下、より更に好ましくは5分以下である。
【0066】
また、導電性を向上させる観点からは、加熱処理温度は、好ましくは130℃以上、より好ましくは150℃以上、更に好ましくは170℃以上であり、そして、好ましくは300℃以下、より好ましくは250℃以下、更に好ましくは230℃以下であり、加熱処理圧力は、好ましくは3kPa以上、より好ましくは5kPa以上、更に好ましくは7kPa以上であり、そして、好ましくは50kPa以下、より好ましくは30kPa以下、更に好ましくは10kPa以下である。この場合の加熱処理時間は、好ましくは10分以上、より好ましくは30分以上、更に好ましくは50分以上であり、そして、好ましくは6時間以下、より好ましくは4時間以下、更に好ましくは2時間以下である。
【0067】
金属膜の膜厚は、好ましくは0.1μm以上、より好ましくは0.3μm以上、更に好ましくは0.5μm以上であり、そして、好ましくは5μm以下、より好ましくは4μm以下、更に好ましくは3μm以下である。
金属膜の体積固有抵抗値は、好ましくは5×10-5Ω・cm以下、より好ましくは4×10-5Ω・cm以下、更に好ましくは3×10-5Ω・cm以下、より更に好ましくは2×10-5Ω・cm以下であり、そして、印刷物の生産容易性の観点から、好ましくは2×10-6Ω・cm以上、より好ましくは4×10-6Ω・cm以上、更に好ましくは6×10-6Ω・cm以上である。
前記体積固有抵抗値は、実施例に記載の方法で測定される。
【0068】
前記インクから形成される金属膜は、高い導電性を発現するため、各種電子電気機器の導電性部材として用いることができる。該導電性部材は、RFIDタグ;MLCC等のコンデンサ;電子ペーパー;液晶ディプレイ、有機ELディスプレイ等の画像表示装置;有機EL素子;有機トランジスタ;プリント配線板、フレキシブル配線板等の配線板;有機太陽電池;フレキシブルセンサー等のセンサー;はんだ等の接合剤などに用いることが好ましい。これらの中でも、インクジェット印刷法による製造容易性の観点から、RFIDタグ、MLCCに用いることが好ましい。
【0069】
[RFIDタグ]
本発明のRFIDタグは、前記インクから形成されてなる金属膜をRFIDタグ用アンテナとして含むものが好ましい。該RFIDタグ用アンテナは、前記インクを基材上に塗布し、該インク中に含まれる金属微粒子を焼結させることにより得ることができる。
前記RFIDタグ用アンテナの基材としては、前述の印刷媒体が挙げられる。
【0070】
前記RFIDタグ用アンテナを形成する場合の前記インクの塗布方法は、インクジェット印刷、スクリーン印刷、フレキソ印刷、グラビア印刷、オフセット印刷、ディスペンサー印刷、スロットダイコーティング、ディップコーティング、スプレーコーティング、スピンコーティング、ドクターブレーディング、ナイフエッジコーティング、バーコーティング等が挙げられる。これらの中でも、アンテナパターンの形成容易性の観点から、インクジェット印刷法が好ましい。該インクジェット印刷法における印刷条件は、前述のとおりである。
【0071】
前記RFIDタグは、前記RFIDタグ用アンテナに半導体チップ等の通信回路を実装し、該アンテナと通信回路とを電気的に接続することにより得ることができる。具体的には、前記RFIDタグ用アンテナ上の半導体チップ実装部に例えば異方性導電接着剤(ACP)等を塗布し、半導体チップを配置した後、熱圧着装置を用いて実装することができる。
前記RFIDタグは、RFIDタグ用アンテナの導電性の低下を抑制する観点から、さらに接着剤や粘着剤を介して樹脂フィルムや紙等の貼合又は樹脂の塗布による被覆により、半導体チップを実装したRFIDタグ用アンテナを封入した構造を有してもよい。
前記RFIDタグの形状は、RFIDタグ用アンテナと通信回路からなるインレイ型、ラベル型、カード型、コイン型、スティック型等が挙げられ、用途に応じて適宜選択して加工することができる。
前記RFIDタグのアンテナパターン形状及びサイズは、用途に応じて適宜選択することができる。また、該アンテナパターン形状及びサイズによりRFIDタグの通信距離を選択することができる。
【0072】
[積層セラミックコンデンサ]
本発明の積層セラミックコンデンサ(MLCC)は、前記インクから形成されてなる金属膜を内部電極層として含むものが好ましい。前記インクは微細な金属微粒子を高い含有率で含有するため、MLCCの内部電極層を薄層化することができ、MLCCを小型化することができる。
【0073】
前記MLCCは、誘電体層と前記インクにより形成される内部電極層とが交互に積層されるように多層積層シートを得た後、該多層積層シートを焼成し、コンデンサ本体となるコンデンサ焼成体を得ることにより製造できる。
多層積層シートは、誘電体層形成用セラミックスラリー及び前記インクを印刷媒体上に交互に積層印刷する印刷法;誘電体層形成用セラミックスラリーにより形成される未焼成のセラミックグリーンシート上に前記インクを塗布したものを複数枚用意し、これらを誘電体層と内部電極層とが交互になるように積層するシート法等により製造することができる。
誘電体層形成用セラミックスラリーは、例えば、チタン酸バリウム等のセラミックの原料粉末に、ポリビニルブチラール等の有機バインダー及び溶剤を加えたものを用いることができる。
多層積層シートは、所定サイズのチップに切断した後、加熱処理してポリマー等の有機物を燃焼除去させた後、還元性ガス雰囲気下にて焼成し、コンデンサ焼成体となる。
有機物の燃焼除去は、例えば180℃以上400℃以下の温度で0.5時間以上24時間以下行うことが好ましい。
多層積層シートの焼成は、例えば700℃以上1400℃以下の温度で0.5時間以上8時間以下行うことが好ましい。
得られたコンデンサ焼成体の両端に一対の外部電極を形成し、該外部電極と内部電極層とが電気的に接続されることにより、MLCCが得ることができる。
【0074】
前記MLCCにおける内部電極層の厚みは、特に限定されないが、内部電極層の薄層化及びMLCCの小型化の観点から、好ましくは5μm以下、より好ましくは3μm以下、更に好ましくは1μm以下であり、MLCCの製造容易性の観点から、好ましくは0.1μm以上、より好ましくは0.3μm以上、更に好ましくは0.5μm以上である。
前記MLCCにおける誘電体層の厚みは、特に限定されないが、誘電体層の薄層化及びMLCCの小型化の観点から、好ましくは5μm以下、より好ましくは3μm以下、更に好ましくは1μm以下であり、そして、MLCCの製造容易性の観点から、好ましくは0.1μm以上、より好ましくは0.3μm以上、更に好ましくは0.5μm以上である。
内部電極層及び誘電体層の厚みは走査型電子顕微鏡(SEM)を用いて測定することができる。
【実施例
【0075】
以下の調製例、実施例及び比較例において、「部」及び「%」は特記しない限り「質量部」及び「質量%」である。
【0076】
(1)ポリマーBの数平均分子量の測定
N,N-ジメチルホルムアミドに、リン酸及びリチウムブロマイドをそれぞれ60mmol/Lと50mmol/Lの濃度となるように溶解した液を溶離液として、ゲル浸透クロマトグラフィー法〔東ソー株式会社製GPC装置(HLC-8320GPC)、東ソー株式会社製カラム(TSKgel SuperAWM-H、TSKgel SuperAW3000、TSKgel guardcolumn Super AW-H)、流速:0.5mL/min〕により、標準物質として分子量既知の単分散ポリスチレンキット〔PStQuick B(F-550、F-80、F-10、F-1、A-1000)、PStQuick C(F-288、F-40、F-4、A-5000、A-500)、東ソー株式会社製〕を用いて測定した。
測定サンプルは、ガラスバイアル中にポリマー0.1gを前記溶離液10mLと混合し、25℃で10時間、マグネチックスターラーで撹拌し、シリンジフィルター(DISMIC-13HP PTFE 0.2μm、アドバンテック株式会社製)で濾過したものを用いた。
【0077】
(2)ポリマーBの酸価の測定
ポリマーBの酸価は、JIS K 0070の方法に基づき測定した。ただし、測定溶媒のみJIS K 0070の規定のエタノールとエーテルの混合溶媒から、アセトンとトルエンの混合溶媒(アセトン:トルエン=4:6(容量比))に変更した。
【0078】
(3)金属酸化物Aの体積中位粒径D50の測定
株式会社堀場製作所製、レーザー回折/散乱式粒度分布測定装置「LA-920」を用いて、測定用セルに測定溶媒として蒸留水を加え、吸光度が適正範囲になる濃度で体積中位粒径(D50)を測定した。
なお、後述する粉砕硝酸銀AC1の測定の際には、測定溶媒としてn-ヘキサンを用いた。
【0079】
(4)金属微粒子aのキュムラント平均粒径の測定
レーザー粒子解析システム「ELS-8000」(大塚電子株式会社製)を用いてキュムラント解析を行い、キュムラント平均粒径を測定した。測定条件は、温度25℃、入射光と検出器との角度90°、積算回数100回であり、分散溶媒の屈折率として水の屈折率(1.333)を入力した。測定サンプルの濃度は、5×10-3%(固形分濃度換算)で行った。
【0080】
(5)金属微粒子分散体又はインクの固形分濃度の測定
30mlのポリプロピレン製容器(φ=40mm、高さ=30mm)にデシケーター中で恒量化した硫酸ナトリウム10.0gを量り取り、そこへサンプル約1.0gを添加して、混合させた後、正確に秤量し、105℃で2時間維持して、揮発分を除去し、更に室温(25℃)のデシケーター内で更に15分間放置したのちに、質量を測定した。揮発分除去後のサンプルの質量を固形分として、添加したサンプルの質量で除して固形分濃度とした。
【0081】
(6)質量比[ポリマーB/(ポリマーB+金属)]の算出
得られた金属微粒子分散体又はインクをドライチャンバー(東京理化器械株式会社製、型式:DRC-1000)を付属した凍結乾燥機(東京理化器械株式会社製、型式:FDU-2110)を用いて、乾燥条件(-25℃1時間凍結、-10℃9時間減圧、25℃5時間減圧。減圧度5Pa)にて凍結乾燥することにより、ポリマーBを含む金属乾燥粉を得た。
この金属乾燥粉について、示差熱熱重量同時測定装置(TG-DTA)(株式会社日立ハイテクサイエンス社製、商品名:STA7200RV)を用いて、試料10mgをアルミパンセルに計量し、10℃/分の昇温速度で35℃から550℃まで昇温し、50mL/分の空気フロー下で質量減少を測定した。35℃から550℃までの質量減少をポリマーBの質量、550℃での残質量を金属の質量として、質量比[ポリマーB/(ポリマーB+金属)]を算出した。
【0082】
(7)金属微粒子分散体又はインク中の金属の含有量(金属濃度)の算出
上記(6)で得られた質量比[ポリマーB/(ポリマーB+金属)]及び上記(5)で得られた金属微粒子分散体又はインクの固形分濃度から、金属微粒子分散体又はインク中の金属の含有量(金属濃度)を算出した。
【0083】
(8)インクの粘度の測定
E型粘度計(東機産業株式会社製、型番:TV-25、標準コーンロータ1°34’×R24使用、回転数50rpm)を用いて、32℃におけるインクの粘度を測定した。
【0084】
(9)インクのpHの測定
pH電極「6337-10D」(株式会社堀場製作所製)を使用した卓上型pH計「F-71」(株式会社堀場製作所製)を用いて、20℃におけるインクのpHを測定した。
【0085】
(粉砕金属酸化物の調製)
調製例1
乾式ビーズミル(磁製ボールミル、アズワン株式会社製、直径90mm)に、酸化銀(富士フイルム和光純薬株式会社、特級、D50=24μm)50g、及びジルコニアボール トラセラム(アズワン株式会社製、直径1mm)500gを加え、回転速度200rpmで2時間乾式粉砕処理を行い、粉砕酸化銀A1(D50=5μm)(以下、「酸化銀A1」ともいう)を得た。粉砕処理時の円筒容器(ベッセル)内の温度は20℃以上35℃以下になるように調整した。
【0086】
調製例2
調製例1において、粉砕時間を24時間に変更した以外は同様にして、粉砕酸化銀A2(D50=0.5μm)(以下、「酸化銀A2」ともいう)を得た。
【0087】
調製例3
調製例1において、粉砕時間を0.5時間に変更した以外は同様にして、粉砕酸化銀A3(D50=15μm)(以下、「酸化銀A3」ともいう)を得た。
【0088】
調製例4
調製例1において、酸化銀に代えて酸化金(III)(富士フイルム和光純薬株式会社製、特級、D50=22μm)に変更した以外は同様にして、粉砕酸化金A4(D50=5μm)(以下、「酸化金A4」ともいう)を得た。
【0089】
調製例5
調製例1において、酸化銀に代えて酸化パラジウム(II)(富士フイルム和光純薬株式会社製、特級、D50=31μm)に変更した以外は同様にして、粉砕酸化パラジウムA5(D50=5μm)(以下、「酸化パラジウムA5」ともいう)を得た。
【0090】
調製例6
調製例1において、酸化銀に代えて硝酸銀(富士フイルム和光純薬株式会社製、特級)に変更した以外は同様にして、粉砕硝酸銀AC1(D50=5μm)(以下、「硝酸銀AC1」ともいう)を得た。
【0091】
<金属微粒子分散体の製造>
実施例1-1
100mLのなす型フラスコに、酸化物Aとして酸化銀A1を10g、ポリマーBとしてスチレン/α-メチルスチレン/アクリル酸/マレイン酸/アルコキシ(ポリエチレングリコール/ポリプロピレングリコール)アクリレート(アルキレンオキシド単位数:32モル、モル比[EO/PO]=75/25)共重合体〔固形分40%の該共重合体水溶液(BYK社製、商品名:DISPERBYK-2015、酸価:10mgKOH/g)を絶乾状態にしたもの(数平均分子量:4,500、酸価:24mgKOH/g)〕(以下、「BYK-2015dry」ともいう)を0.8g、化合物Cとしてプロピレングリコール(富士フイルム和光純薬株式会社製、特級)(以下、「PG」ともいう)を30g、錯化剤Dとしてアンモニアの25%水溶液を4g投入し、常温でマグネチックスターラーにて0.5時間撹拌した。その後、該フラスコの内温が40℃となるように40℃のウオーターバスに浸漬し、内温が40℃に到達した後1時間撹拌を行い、次いで空冷し、濃茶色の金属微粒子分散体D1を得た。前述の方法により質量比[ポリマーB/(ポリマーB+金属)]及び金属濃度を測定及び算出し、キュムラント平均粒径を測定した。結果を表3に示す。
【0092】
実施例1-2~1-5
錯化剤Dを表1に示すとおり変更した以外は実施例1-1と同様にして、金属微粒子分散体D2~D5を得た。
【0093】
実施例1-6、1-7
酸化物Aを表1に示すとおり酸化銀A2又はA3に変更した以外は実施例1-1と同様にして、金属微粒子分散体D6及びD7を得た。
【0094】
実施例1-8
化合物Cとしてプロピレングリコール(PG)を0.9gに変更し、更にエチレングリコール(富士フイルム和光純薬株式会社製、特級(以下、「EG」ともいう))29.1gを混合(PGとEGとの混合質量比[PG/EG]=3/97)した以外は実施例1-1と同様にして、金属微粒子分散体D8を得た。
【0095】
実施例1-9
酸化物Aとして酸化銀A1の量を5gに変更した以外は実施例1-1と同様にして、金属微粒子分散体D9を得た。
【0096】
実施例1-10、1-11
混合時の温度を表1に示す温度に変更した以外は実施例1-1と同様にして、金属微粒子分散体D10及びD11を得た。
【0097】
実施例1-12、1-13
酸化物Aとして表1に示す酸化金A4又は酸化パラジウムA5に変更した以外は実施例1-1と同様にして、金属微粒子分散体D12及びD13を得た。
【0098】
実施例1-14
化合物Cをジプロピレングリコール(東京化成工業株式会社製、異性体混合物)に変更した以外は実施例1-1と同様にして、金属微粒子分散体D14を得た。
【0099】
実施例1-15、1-16
ポリマーBをポリアクリル酸(富士フイルム和光純薬株式会社製、商品名:ポリアクリル酸、Mw:5,000)(以下、「PAA」ともいう)又はポリビニルアルコール(富士フイルム和光純薬株式会社製、商品名:ポリビニルアルコール、Mw:1,500)(以下、「PVA」ともいう)に変更した以外は実施例1-1と同様にして、金属微粒子分散体D15及びD16を得た。
【0100】
実施例1-17~1―20
化合物Cとしてプロピレングリコール(PG)の量を表1に示すとおり変更した以外は実施例1-1と同様にして、金属微粒子分散体D17~D20を得た。
【0101】
比較例1-1
BYK-2015dryの量を0.5gに変更した以外は実施例1-1と同様にして、金属微粒子分散体DC1を得た。
比較例1-2
酸化物Aを硝酸銀AC1に変更した以外は実施例1-1と同様にして、金属微粒子分散体DC2を得た。
比較例1-3
化合物Cに代えてエチレングリコール(EG)を使用した以外は実施例1と同様にして、金属微粒子分散体DC3を得た。
比較例1-4
分散剤であるBYK-2015dryをクエン酸に変更した以外は実施例1と同様にして、金属微粒子分散体DC4を得た。
比較例1-5
化合物Cに代えて1-メトキシ-2-プロパノールを使用した以外は実施例1と同様にして、金属微粒子分散体DC5を得た。
【0102】
【表1】
【0103】
【表2】
【0104】
<粒径100nm以下の金属微粒子aの体積分率の測定>
上記測定で得られるキュムラント平均粒径から、前記レーザー粒子解析システム付属のソフトを用いて粒径100nm以下の金属微粒子aの体積分率を求めた。結果を表3に示す。体積分率の数値が高いほど粗大粒子が少なく、粒径100nm以下の微細な金属微粒子の含有率が高いことを示している。
【0105】
【表3】
【0106】
表3より、実施例1-1~1-20は、比較例1-1~1-5と比べて、粒径100nm以下の金属微粒子aの体積分率が高く、粒径100nm超の粗大な金属微粒子の形成が抑制されていることがわかる。
【0107】
<インクの製造及び印刷物の作製、並びに評価>
(インクの製造)
実施例2-1
インクの全量を30gとして、金属の含有量が10%、プロピレングリコールの含有量が36%となるように実施例1-1で得られた金属微粒子分散体D1を配合し、更にポリエーテル変性シリコーン界面活性剤(商品名:KF6011、信越化学工業株式会社製、PEG-11メチルエーテルジメチコン)の含有量を1.0%、アセチレングリコール系界面活性剤(商品名:サーフィノール104(2,4,7,9-テトラメチル-5-デシン-4,7-ジオール)、エボニックインダストリーズ社製、有効分100%)の含有量を0.5%、及び残部がイオン交換水となるように混合し、インクを調製した。
なお、調製は50mLガラスバイアル中に、マグネチックスターラーで撹拌しながら各成分を投入して行った。その後、5μmのメンブランフィルター(ザルトリウス社製、商品名「ミニザルト」)を取り付けた容量25mLの針なしシリンジ(テルモ株式会社製)で濾過し、インクを得た。該インクの粘度は5.1mPa・s、及びpHは8.1であった。
【0108】
実施例2-2~2-20及び比較例2-1~2-5
実施例2-1において金属微粒子分散体D1を、実施例1-2~1-20及び比較例1-1~1-5で得られた金属微粒子分散体D2~D20及びDC1~DC5に変更した以外は実施例2-1と同様に行い、各インクを得た。
【0109】
上記で得られたインクを用いて、下記の印刷条件による方法により印刷を行い、及び下記に示す方法により印刷媒体上に形成した金属膜の耐折り曲げ性及び導電性の評価を行った。
(インクジェット印刷による耐折り曲げ性評価用印刷物の作製)
温度25±1℃、相対湿度30±5%の環境で、インクジェットヘッド(京セラ株式会社製、KJ4B-QA06NTB-STDV、ピエゾ式、ノズル数2,656個)を装備したインクジェット印刷評価装置(株式会社トライテック製)にインクを充填した。
ヘッド電圧26V、ヘッドの駆動周波数20kHz、吐出液滴量18pl、ヘッド温度32℃、解像度600dpi、吐出前フラッシング回数200発、負圧-4.0kPaを設定し、印刷媒体の長手方向と搬送方向が同じになる向きに、印刷媒体を搬送台に減圧で固定した。前記印刷評価装置に印刷命令を転送し、Duty100%で、印刷媒体にインクを吐出して付着させた後、ホットプレート上にて60℃で2分間、印刷媒体上のインクを加熱乾燥し、金属膜を形成した評価用印刷物を得た。
なお、印刷媒体は、縦300mm×横297mmのポリエステルフィルム(東レ株式会社製、ルミラーT60、厚み75um、吸水量2.3g/m)を用いた。
【0110】
〔耐折り曲げ性の評価〕
上記で得られた評価用印刷物を、印刷面を内側にして縦方向の端部同士又は横方向の端部同士が重なるように180度折り曲げた。次いで、200gの直方体形状の錘(底面積4cm)を、錘の中央部が印刷物の折り目の中央部に重なるように配置し、50g/cmの加重で30秒間押圧した後、印刷物を開いた。そして、破損した金属膜を柔らかい布でふき取った後の、金属膜の欠損の幅(mm)の最大値を金属膜の耐折り曲げ性の指標とした。金属膜の欠損の幅の最大値が小さいほど、金属膜の耐折り曲げ性が良好である。結果を表4に示す。
【0111】
【表4】
【0112】
表4より、実施例の2-1~2-20のインクは、比較例2-1~2-5のインクと比べて、耐折り曲げ性に優れる金属膜を形成できることが分かる。
【0113】
(インクジェット印刷による導電性評価用印刷物の作製)
実施例2-1のインクを用い、前述の耐折り曲げ性評価用印刷物の作製において、印刷媒体をポリエチレンナフタレート(PEN)フィルム(帝人フィルムソリューション株式会社製、テオネックスQ51-A4)(縦210mm×横297mm、厚み25μm)に変更した以外は、同様の印刷条件にてベタ画像のインク被膜を形成した。その後、真空乾燥機(アズワン社製、AVO-200NB)で190℃、8kPaの条件で1時間加熱を行い、金属膜を形成し、導電性評価用印刷物1を得た。
【0114】
〔導電性の評価〕
上記で得られた導電性評価用印刷物を用いて、下記の方法で体積固有抵抗値を測定し、金属膜の導電性を評価した。
上記で得られた導電性評価用印刷物を用い、低抵抗 抵抗率計(株式会社三菱ケミカルアナリテック製、ロレスタGP MCP-T610)にASPプローブを接続し、JIS K7194「導電性プラスチックの4探針法による抵抗率試験方法」に準じて、4端子4探針法によって10箇所の抵抗値の測定を行い、その平均値を体積固有抵抗値とした。
なお、体積固有抵抗値の測定に用いる金属膜の厚みは、ステンレス製剃刀(フェザー安全剃刀株式会社製、76カミソリ通常用、刃の厚さ76μm)で切り出した金属膜の断面を走査型電子顕微鏡(SEM)(日立株式会社製、装置名:S-4800)によって測定した厚みを入力した。
導電性評価用印刷物1の体積固有抵抗値は1.7×10-5(Ω・cm)であり、十分な導電性を示した。
【0115】
<RFIDタグの製造>
(インクジェット印刷によるRFIDタグ用アンテナの作製)
実施例2-1のインクを用い、前述の耐折り曲げ性評価印刷物の作製において、印刷媒体を前記PENフィルム(縦210mm×横297mm、厚み25μm)に変更した以外は同様の印刷条件にて、UHF帯のRFIDタグ用アンテナとして動作するアンテナパターン(外形サイズ95mm×8mm)を形成した。その後、上記真空乾燥機にて190℃、8kPaの条件で1時間加熱を行い、RFIDタグ用アンテナ1を得た。
【0116】
(通信回路の表面実装)
上記で作製したRFIDタグ用アンテナ1上に、導電ペースト(化研テック株式会社製、商品名:TKペーストCR-2800)を用いてUHF帯のRFID用半導体チップ(エイリアンテクノロジーズ社製、Alien-Higgs3)を実装し、RFIDタグ1を得た。同様にしてRFIDタグ1を合計100個得た。
【0117】
〔UHF帯RFIDの評価〕
UHF帯RFIDリーダライタ本体(株式会社東北システムズ・サポート製、DOTR-2100)及びソフト(株式会社東北システムズ・サポート製、RFID-BOX)を用い、通信距離20cmで通信し、書き込み、読み出しを行った。上記で得られた100個のRFIDタグ1で通信を行ったところ、100個全てのRFIDタグで通信が可能であり、不良率は0%であった。
【0118】
<MLCCの製造>
(誘電体層形成用セラミックスラリーの調製)
誘電体層を形成する材料として、チタン酸バリウム(富士フイルム和光純薬株式会社製、特級)を100部、ポリビニルブチラール(積水化学工業株式会社製、商品名:エスレックBM-2)7部、フタル酸ジオクチル(東京化成工業製、特級)3部、メチルエチルケトン(富士フイルム和光純薬株式会社製、特級)30部、エタノール(富士フイルム和光純薬株式会社製、特級)20部、及びトルエン(富士フイルム和光純薬株式会社製、特級)20部を、ジルコニアビーズ(株式会社ニッカトー社製、型番:YTZ-1)600部と共に、磁製ボールミル(日陶科学株式会社製、外径120mm、容量900mL)に投入し、200rpmで20時間混合し、誘電体層形成用セラミックスラリー1を得た。
【0119】
(インクジェット印刷による多層積層シートの作製)
前述の耐折り曲げ性評価印刷物の作製において、印刷媒体を前記PENフィルム(縦210mm×横297mm、厚み25μm)に変更した以外は同様の印刷条件にて、誘電体形成層セラミックスラリー1及び内部電極層形成用インクとして実施例2-1のインクを用いて、該印刷媒体上に誘電体層と内部電極層とが交互に積層されるように印刷した後、該印刷媒体を剥離して多層積層シート1を得た。多層積層シート1の積層数は、誘電体層及び内部電極層の合計で256層であった。
【0120】
(MLCCの作製)
得られた多層積層シート1を小型ボックス炉(光洋サーモシステム株式会社製、型番:KBF333N1)で190℃、1分間加熱処理することで溶剤を乾燥除去した。
次に、加熱処理された多層積層シート1をダイシングにより予め定められたカットラインに沿ってチップ状(サイズ32mm×16mm)に切断し、切断されたチップを上記小型ボックス炉でN雰囲気中、350℃で3時間加熱し、ポリマー等の有機物を燃焼除去させた後、上記小型ボックス炉で還元性ガス雰囲気中、900℃で2時間焼成し、コンデンサ本体となるコンデンサ焼成体1を得た。
次に、コンデンサ焼成体1の両端面にガラスフリットを含有する銀ペースト(アズワン株式会社社製、型番:TDPAG-TS1002-80)を塗布し、上記小型ボックス炉でN雰囲気中、800℃で焼き付けて外部電極を形成し、該外部電極と内部電極層とが
電気的に接続されたMLCC1を得た。
【0121】
〔MLCCの観察評価〕
MLCC1の断面を上記SEMにて観察し、誘電体層及び内部電極層の積層状態を評価した。誘電体層及び内部電極層の各層の厚みは0.6μmであり、50箇所を観察したが厚みのばらつきはなく、厚み精度の高いMLCCが得られることが分かった。
【産業上の利用可能性】
【0122】
本発明によれば、粒径100nm以下の微細な金属微粒子を高い含有率で含有する金属微粒子分散体を得ることができる。また、本発明は、該金属微粒子分散体を含有するインクを用いることにより、耐折り曲げ性に優れ、高い導電性を発現する金属膜が形成された印刷物を得ることができる。そのため、該金属微粒子分散体及び該該金属微粒子分散体を含有するインクは、様々な分野に好適に用いることができる。