(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-05-12
(45)【発行日】2023-05-22
(54)【発明の名称】トリクロロシランの製造方法
(51)【国際特許分類】
C01B 33/107 20060101AFI20230515BHJP
【FI】
C01B33/107 Z
C01B33/107 B
(21)【出願番号】P 2019120618
(22)【出願日】2019-06-28
【審査請求日】2022-03-31
(73)【特許権者】
【識別番号】523119425
【氏名又は名称】高純度シリコン株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100085372
【氏名又は名称】須田 正義
(72)【発明者】
【氏名】竹末 久幸
(72)【発明者】
【氏名】伊藤 和之
(72)【発明者】
【氏名】野田 聖奈
【審査官】▲高▼橋 真由
(56)【参考文献】
【文献】特開2013-112589(JP,A)
【文献】特開平10-029813(JP,A)
【文献】特表2013-535399(JP,A)
【文献】特表2007-527352(JP,A)
【文献】国際公開第2019/122567(WO,A1)
【文献】特開平02-208217(JP,A)
【文献】特開平10-236815(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C01B 33/00-33/193
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
金属級シリコン原料と塩酸ガスを反応させてトリクロロシランを製造する方法において、
(a) Al、Ca、Ni及びMnの不純物濃度C1
Al、C1
Ca、C1
Ni及びC1
Mnがそれぞれ既知である金属級シリコン原料S
1を用意する工程と、
(b) 前記不純物濃度C1
Al、C1
Ca、C1
Ni及びC1
Mn(単位:質量ppm)を下記の式(1)に導入して係数κ
1を算出する工程と、
κ
1=0.0002×C1
Al+0.0015×C1
Ca+0.0014×C1
Ni+0.003×C1
Mn (1)
(c-1) 前記工程(b)の式(1)により算出された係数κ
1が1以下の場合でかつ投入する金属級シリコン原料S
1が1種類である場合は、前記金属級シリコン原料S
1を流動層反応炉に投入してトリクロロシランを製造する工程と
を含む
ことを特徴とするトリクロロシランの製造方法。
【請求項2】
金属級シリコン原料と塩酸ガスを反応させてトリクロロシランを製造する方法において、
(a) Al、Ca、Ni及びMnの不純物濃度C1
Al、C1
Ca、C1
Ni及びC1
Mnがそれぞれ既知である金属級シリコン原料S
1を用意する工程と、
(b) 前記不純物濃度C1
Al、C1
Ca、C1
Ni及びC1
Mn(単位:質量ppm)を下記の式(1)に導入して係数κ
1を算出する工程と、
κ
1=0.0002×C1
Al+0.0015×C1
Ca+0.0014×C1
Ni+0.003×C1
Mn (1)
(c-2) 前記工程(b)の式(1)により算出された係数κ
1が1を超える場合、前記工程(a)の金属級シリコン原料S
1とは別の1種又は2種以上のAl、Ca、Ni及びMnの不純物濃度C2
Al、C2
Ca、C2
Ni及びC2
Mn、C3
Al、C3
Ca、C3
Ni及びC3
Mn、…がそれぞれ既知である金属級シリコン原料S
2、S
3、…を用意する工程と、
(d) 前記不純物濃度C2
Al、C2
Ca、C2
Ni及びC2
Mn、C3
Al、C3
Ca、C3
Ni及びC3
Mn、…(単位:質量ppm)を下記の式(2)、式(3)、…に導入して係数κ
2、κ
3、…を算出する工程と、
κ
2=0.0002×C2
Al+0.0015×C2
Ca+0.0014×C2
Ni+0.003×C2
Mn (2)
κ
3=0.0002×C3
Al+0.0015×C3
Ca+0.0014×C3
Ni+0.003×C3
Mn (3)
…
(e) 前記金属級シリコン原料S
1、S
2、S
3、…のそれぞれの質量を秤量して合計した合計質量を1とするとき、又は前記金属級シリコン原料S
1、S
2、S
3、…の入ったそれぞれの袋の質量が同一であるときこれらの袋の数をカウントして合計した合計数量を1とするとき、前記金属級シリコン原料S
1、S
2、S
3、…の質量比(又は個数比)をw
1、w
2、w
3、…と決める工程と、
(f) 前記式(1)、式(2)、式(3)、…で算出された係数κ
1、κ
2、κ
3、…と前記質量比w
1、w
2、w
3、…を用いて下記の式(X)により、係数Kを求める工程と、
K=κ
1×w
1 + κ
2×w
2 + κ
3×w
3 + … (X)
(g-1) 前記工程(f)で求めた係数Kが1以下の場合、前記金属級シリコン原料S
1、S
2、S
3、…をw
1、w
2、w
3、…の質量比で流動層反応炉に混合して又は個別に投入してトリクロロシランを製造する工程と
を含む
ことを特徴とするトリクロロシランの製造方法。
【請求項3】
金属級シリコン原料と塩酸ガスを反応させてトリクロロシランを製造する方法において、
(a) Al、Ca、Ni及びMnの不純物濃度C1
Al、C1
Ca、C1
Ni及びC1
Mnがそれぞれ既知である金属級シリコン原料S
1を用意する工程と、
(b) 前記不純物濃度C1
Al、C1
Ca、C1
Ni及びC1
Mn(単位:質量ppm)を下記の式(1)に導入して係数κ
1を算出する工程と、
κ
1=0.0002×C1
Al+0.0015×C1
Ca+0.0014×C1
Ni+0.003×C1
Mn (1)
(c-3) 前記工程(b)の式(1)により算出された係数κ
1が1を超える場合、又は前記工程(b)の式(1)により算出された係数κ
1が1以下であっても前記金属級シリコン原料S
1に別の1種又は2種以上の金属級シリコン原料S
2、S
3、…を混合する場合、前記工程(a)の金属級シリコン原料S
1とは別の1種又は2種以上のAl、Ca、Ni及びMnの不純物濃度C2
Al、C2
Ca、C2
Ni及びC2
Mn、C3
Al、C3
Ca、C3
Ni及びC3
Mn、…がそれぞれ既知である金属級シリコン原料S
2、S
3、…を用意する工程と、
(d) 前記不純物濃度C2
Al、C2
Ca、C2
Ni及びC2
Mn、C3
Al、C3
Ca、C3
Ni及びC3
Mn、…(単位:質量ppm)を下記の式(2)、式(3)、…に導入して係数κ
2、κ
3、…を算出する工程と、
κ
2=0.0002×C2
Al+0.0015×C2
Ca+0.0014×C2
Ni+0.003×C2
Mn (2)
κ
3=0.0002×C3
Al+0.0015×C3
Ca+0.0014×C3
Ni+0.003×C3
Mn (3)
…
(e) 前記金属級シリコン原料S
1、S
2、S
3、…のそれぞれの質量を秤量して合計した合計質量を1とするとき、又は前記金属級シリコン原料S
1、S
2、S
3、…の入ったそれぞれの袋の質量が同一であるときこれらの袋の数をカウントして合計した合計数量を1とするとき、前記金属級シリコン原料S
1、S
2、S
3、…の質量比(又は個数比)をw
1、w
2、w
3、…と決める工程と、
(f) 前記式(1)、式(2)、式(3)、…で算出された係数κ
1、κ
2、κ
3、…と前記質量比w
1、w
2、w
3、…を用いて下記の式(X)により、係数Kを求める工程と、
K=κ
1×w
1 + κ
2×w
2 + κ
3×w
3 + … (X)
(g-2) 前記工程(f)で求めた係数Kが1を超える場合、前記金属級シリコン原料S
1、S
2、S
3、…の質量比であるw
1、w
2、w
3、…を前記係数Kが1以下になるように、w
1'、w
2'、w
3'、…の質量比に変更して、前記金属級シリコン原料S
1、S
2、S
3、…をw
1'、w
2'、w
3'、…の質量比で流動層反応炉に混合して又は個別に投入してトリクロロシランを製造する工程と
を含む
ことを特徴とするトリクロロシランの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、金属級シリコン原料を、塩酸ガス(HCl:塩化水素)又は四塩化ケイ素(SiCl4)等のガスなどと流動層反応炉中で反応させて、トリクロロシラン(HSiCl3)を製造する方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、溶融シリコンのガス噴霧化により製造されたシリコン粉末を用い、280℃~300℃の温度で上記シリコン粉末と塩酸ガスとの反応によって流動床反応器でトリクロルモノシラン(HSiCl3)を製造する方法が開示されている(例えば、特許文献1(請求項1及び2、第3欄第5行~同欄第9行、第3欄第19行~第4欄第1行)参照。)。このトリクロルモノシランの製造方法では、ガス噴霧化したシリコン粉末の粒度は1μm~1000μmである。
【0003】
このように構成されたトリクロルモノシランの製造方法では、溶融シリコンのガス噴霧化により製造されたシリコン粉末を用いて、シリコン粉末と塩酸ガスとの反応でトリクロルモノシランを製造することにより、塩酸ガスの極めて高い利用を図ることができる。即ち、生成ガス中の未反応塩酸の含量が、従来の5体積%~10体積%から2体積%~3体積%に低下する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかし、上記従来の特許文献1に示されたトリクロルモノシランの製造方法では、未反応塩酸の含量が2体積%~3体積%と未だ多いという課題があった。また、上記従来の特許文献1に示されたトリクロルモノシランの製造方法では、溶融シリコンのガス噴霧化により製造されたシリコン粉末を用いており、このシリコン粉末を製造するのに多くのエネルギ及び時間を要し、製造コスト的に見合わない問題点もあった。
【0006】
本発明の第1の目的は、流動層反応炉での反応後の未反応塩酸を低減できる、トリクロロシランの製造方法を提供することにある。本発明の第2の目的は、多くのエネルギ及び時間を要する溶融シリコンのガス噴霧化したシリコン粉末を用いずに済み、製造コストを大幅に低減できる、トリクロロシランの製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、トリクロロシランの製造装置である流動層反応炉の出口における未反応塩酸量に着目し、連続的に観測したところ、使用する金属級シリコン原料によって未反応塩酸量が2%以下の場合や5%以上の場合まで、かなり大きな変動があることが分かった。なお、上記未反応塩酸濃度は、流動層反応炉から排出されたガスからクロロシラン類を冷却することにより液化して回収した残りの水素を主成分とするガス中の塩酸成分濃度である。また、金属級シリコン原料と塩酸ガスを反応させてトリクロロシランを製造する反応式は次の式(A)になる。
Si+3HCl→SiHCl3+H2 (A)
塩酸3モルから水素1モルが生成されるので、この濃度は投入した塩酸ガスの未反応率に換算すると約1/3程度になる。実際には四塩化ケイ素の生成反応などの影響もあるので、正確に換算するのは難しいため、測定値そのままで記述する。
【0008】
未反応塩酸量と各種操業パラメータ(例えば、炉内温度や金属シリコン投入量等)の関連を鋭意調査した結果、一つには塩酸ガス流量の影響があることが認められた。これは、流動層反応炉へ供給する塩酸ガス流量が少ないほど、その流速が遅くなり、塩酸ガスの炉内滞留時間が長くなることで未反応率が低下すると理解される。しかしながら、使用する金属級シリコン原料の流動層反応炉内での塩酸ガス流による流動状態を形成する場合、流動層反応炉は流動状態を適切に維持するためには流速範囲が限定され、流量を下げ過ぎると、トリクロロシランの生産性が低くなるだけでなく、流動状態の悪化によってテトラクロロシランの選択率、未反応塩酸量ともに増加するため、調整範囲は限定的であった。
【0009】
金属級シリコン原料は、通常、石英鉱石を木炭や石炭などの炭素によって電気炉で還元溶融して得られ、1mm以下まで粉砕されて流動層法によるトリクロロシラン製造に供される。一般的に、トリクロロシランの原料となる金属級シリコンは、純度が98%~99%以上の比較的高純度なものが使用され、主な不純物としてはFe,Al,Caなどが数1000ppm含まれるが、本発明者らはそれよりも少ない不純物にも着目した。原料鉱石の差か、或いは凝固時の偏析によるものか、表1に示すように、同じメーカから金属級シリコン原料を購入してもかなりばらつきがあった。表1中のA-1及びA-2はA社の2ロット分を示し、B-1及びB-2はB社の2ロット分を示し、C-1及びC-2はC社の2ロット分を示し、D-1及びD-2はD社の2ロット分を示し、E-1及びE-2はE社の2ロット分を示す。
【0010】
【0011】
表1から明らかなように、A社のNiやMnのように、メーカによって特徴を示すものもあるが、全体的にはロット間のばらつきがあるといえる。投入した金属級シリコン原料の分析値と、塩化炉から排出される反応ガス中の未反応塩酸濃度の相関は非常に弱いものに見える。しかし、適当な時定数(投入時間と排出ガス分析値との時間差)を織り込み、複数の不純物元素の影響を織り込んで、Al,Ca,Ni.Mnの4元素を規定することにより、未反応塩酸量を効果的に低減できることを見出し、本発明をなすに至った。
【0012】
また、原料となる金属級シリコン原料中の不純物を少なくするためには、金属級シリコン原料の製造工程の改善が必要であるが、表1に示すように、金属級シリコン原料を同じメーカから購入しても、金属級シリコン原料中の微量の不純物量にばらつきがあることから、実際に入手した金属級シリコン原料を有効利用するために、複数のロットの金属級シリコン原料を混合することにより、不純物量を適当な範囲に収めることができることを見出し、本発明をなすに至った。
【0013】
本発明の第1の観点は、金属級シリコン原料と塩酸ガスを反応させてトリクロロシランを製造する方法において、(a) Al、Ca、Ni及びMnの不純物濃度C1Al、C1Ca、C1Ni及びC1Mnがそれぞれ既知である金属級シリコン原料S1を用意する工程と、(b) 不純物濃度C1Al、C1Ca、C1Ni及びC1Mn(単位:質量ppm)を下記の式(1)に導入して係数κ1を算出する工程と、
κ1=0.0002×C1Al+0.0015×C1Ca+0.0014×C1Ni+0.003×C1Mn (1)
(c-1) 工程(b)の式(1)により算出された係数κ1が1以下の場合でかつ投入する金属級シリコン原料S1が1種類である場合は、金属級シリコン原料S1を流動層反応炉に投入してトリクロロシランを製造する工程とを含むことを特徴とするトリクロロシランの製造方法である。ここで、1種類の金属級シリコン原料とは、単一の購入ロットの金属級シリコン原料をいう。
【0014】
本発明の第2の観点は、金属級シリコン原料と塩酸ガスを反応させてトリクロロシランを製造する方法において、(a) Al、Ca、Ni及びMnの不純物濃度C1Al、C1Ca、C1Ni及びC1Mnがそれぞれ既知である金属級シリコン原料S1を用意する工程と、(b) 不純物濃度C1Al、C1Ca、C1Ni及びC1Mn(単位:質量ppm)を下記の式(1)に導入して係数κ1を算出する工程と、
κ1=0.0002×C1Al+0.0015×C1Ca+0.0014×C1Ni+0.003×C1Mn (1)
(c-2) 工程(b)の式(1)により算出された係数κ1が1を超える場合、工程(a)の金属級シリコン原料S1とは別の1種又は2種以上のAl、Ca、Ni及びMnの不純物濃度C2Al、C2Ca、C2Ni及びC2Mn、C3Al、C3Ca、C3Ni及びC3Mn、…がそれぞれ既知である金属級シリコン原料S2、S3、…を用意する工程と、(d) 不純物濃度C2Al、C2Ca、C2Ni及びC2Mn、C3Al、C3Ca、C3Ni及びC3Mn、…(単位:質量ppm)を下記の式(2)、式(3)、…に導入して係数κ2、κ3、…を算出する工程と、
κ2=0.0002×C2Al+0.0015×C2Ca+0.0014×C2Ni+0.003×C2Mn (2)
κ3=0.0002×C3Al+0.0015×C3Ca+0.0014×C3Ni+0.003×C3Mn (3)
…
(e) 金属級シリコン原料S1、S2、S3、…のそれぞれの質量を秤量して合計した合計質量を1とするとき、又は金属級シリコン原料S1、S2、S3、…の入ったそれぞれの袋の質量が同一であるときこれらの袋の数をカウントして合計した合計数量を1とするとき、金属級シリコン原料S1、S2、S3、…の質量比(又は個数比)をw1、w2、w3、…と決める工程と、(f) 式(1)、式(2)、式(3)、…で算出された係数κ1、κ2、κ3、…と質量比w1、w2、w3、…を用いて下記の式(X)により、係数Kを求める工程と、
K=κ1×w1 + κ2×w2 + κ3×w3 + … (X)
(g-1) 工程(f)で求めた係数Kが1以下の場合、金属級シリコン原料S1、S2、S3、…をw1、w2、w3、…の質量比で流動層反応炉に混合して又は個別に投入してトリクロロシランを製造する工程とを含むことを特徴とするトリクロロシランの製造方法である。
【0015】
本発明の第3の観点は、金属級シリコン原料と塩酸ガスを反応させてトリクロロシランを製造する方法において、(a) Al、Ca、Ni及びMnの不純物濃度C1Al、C1Ca、C1Ni及びC1Mnがそれぞれ既知である金属級シリコン原料S1を用意する工程と、(b) 不純物濃度C1Al、C1Ca、C1Ni及びC1Mn(単位:質量ppm)を下記の式(1)に導入して係数κ1を算出する工程と、
κ1=0.0002×C1Al+0.0015×C1Ca+0.0014×C1Ni+0.003×C1Mn (1)
(c-3) 工程(b)の式(1)により算出された係数κ1が1を超える場合、又は工程(b)の式(1)により算出された係数κ1が1以下であっても金属級シリコン原料S1に別の1種又は2種以上の金属級シリコン原料S2、S3、…を混合する場合、工程(a)の金属級シリコン原料S1とは別の1種又は2種以上のAl、Ca、Ni及びMnの不純物濃度C2Al、C2Ca、C2Ni及びC2Mn、C3Al、C3Ca、C3Ni及びC3Mn、…がそれぞれ既知である金属級シリコン原料S2、S3、…を用意する工程と、(d) 不純物濃度C2Al、C2Ca、C2Ni及びC2Mn、C3Al、C3Ca、C3Ni及びC3Mn、…(単位:質量ppm)を下記の式(2)、式(3)、…に導入して係数κ2、κ3、…を算出する工程と、
κ2=0.0002×C2Al+0.0015×C2Ca+0.0014×C2Ni+0.003×C2Mn (2)
κ3=0.0002×C3Al+0.0015×C3Ca+0.0014×C3Ni+0.003×C3Mn (3)
…
(e) 金属級シリコン原料S1、S2、S3、…のそれぞれの質量を秤量して合計した合計質量を1とするとき、又は金属級シリコン原料S1、S2、S3、…の入ったそれぞれの袋の質量が同一であるときこれらの袋の数をカウントして合計した合計数量を1とするとき、金属級シリコン原料S1、S2、S3、…の質量比(又は個数比)をw1、w2、w3、…と決める工程と、(f) 式(1)、式(2)、式(3)、…で算出された係数κ1、κ2、κ3、…と質量比w1、w2、w3、…を用いて下記の式(X)により、係数Kを求める工程と、
K=κ1×w1 + κ2×w2 + κ3×w3 + … (X)
(g-2) 工程(f)で求めた係数Kが1を超える場合、金属級シリコン原料S1、S2、S3、…の質量比であるw1、w2、w3、…を係数Kが1以下になるように、w1'、w2'、w3'、…の質量比に変更して、金属級シリコン原料S1、S2、S3、…をw1'、w2'、w3'、…の質量比で流動層反応炉に混合して又は個別に投入してトリクロロシランを製造する工程とを含むことを特徴とするトリクロロシランの製造方法である。
【発明の効果】
【0016】
本発明の第1の観点のトリクロロシランの製造方法では、Al、Ca、Ni及びMnの不純物濃度C1Al、C1Ca、C1Ni及びC1Mnがそれぞれ既知である金属級シリコン原料S1を用意し、不純物濃度C1Al、C1Ca、C1Ni及びC1Mn(単位:質量ppm)を式(1)に導入して係数κ1を算出し、式(1)により算出された係数κ1が1以下の場合でかつ投入する金属級シリコン原料S1が1種類である場合は、金属級シリコン原料S1を流動層反応炉に投入してトリクロロシランを製造するので、流動層反応炉での反応後の未反応塩酸量を低減できる。また、従来のトリクロルモノシランの製造方法では、溶融シリコンをガス噴霧化してシリコン粉末を作製するため多くのエネルギ及び時間を要するのに対し、本発明のトリクロロシランの製造方法では、多くのエネルギ及び時間を要する溶融シリコンのガス噴霧化したシリコン粉末を用いずに済むので、製造コストを大幅に低減できる。
【0017】
本発明の第2の観点のトリクロロシランの製造方法では、係数κ1が1を超える金属級シリコン原料S1を含む金属級シリコン原料S1、S2、S3、…を用いて、係数Kが1以下のトリクロロシランを製造するので、流動層反応炉での反応後の未反応塩酸を低減できる。この結果、金属級シリコン原料を無駄なく利用できる。
【0018】
本発明の第3の観点のトリクロロシランの製造方法では、係数κ1が1を超える場合、又は係数κ1が1以下であっても金属級シリコン原料S1に別の1種又は2種以上の金属級シリコン原料S2、S3、…を混合する場合、上記金属級シリコン原料S1を含む金属級シリコン原料S1、S2、S3、…を用い、係数Kが1以下になるように、w1'、w2'、w3'、…の質量比に変更して、トリクロロシランを製造するので、流動層反応炉での反応後の未反応塩酸を低減できる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【
図1】本発明実施形態のトリクロロシランの製造工程における係数κ
1が1以下であって金属級シリコン原料S
1のみを用いた場合のフローチャート図である。
【
図2】本発明実施形態のトリクロロシランの製造工程における係数κ
1が1を超えるか又は1以下であって金属級シリコン原料S
1、S
2、S
3、…を用いた場合のフローチャート図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
次に本発明を実施するための形態を図面に基づいて説明する。
【0021】
<トリクロロシランの第1の製造方法>
金属級シリコン原料S
1のみを用いた場合のトリクロロシランの製造方法を
図1に基づいて説明する。先ず、Al、Ca、Ni及びMnの不純物濃度C1
Al、C1
Ca、C1
Ni及びC1
Mnがそれぞれ既知である金属級シリコン原料S
1を用意する(工程(a))。上記不純物濃度が既知である金属級シリコン原料S
1を用意する方法としては、購入した金属級シリコン原料S
1を自社で定量分析することにより不純物濃度がそれぞれ既知となった金属級シリコン原料S
1を用意する方法や、製造元で定量分析されて不純物濃度が記録され包装された金属級シリコン原料S
1を用意する方法等が挙げられる。また、金属級シリコン原料S
1の形態は、例えば、平均粒径およそ50μm以下の粉末、又は平均粒径およそ500μm以上の顆粒、或いはこれらの粉末及び顆粒の混合物などである。
【0022】
次に、不純物濃度C1Al、C1Ca、C1Ni及びC1Mn(単位:質量ppm)を下記の式(1)に導入して係数κ1を算出する(工程(b))。
κ1=0.0002×C1Al+0.0015×C1Ca+0.0014×C1Ni+0.003×C1Mn (1)
上記式(1)はこれまでの経験からたどり着いた知見に基づく式であり、次のような経緯で導き出した。先ず、流動層反応炉において未反応塩酸の量が多くなり、操業に支障が生じた。その際の応急処置の1つとして、原因と思われる原料の投入比率を制限した。この現象の原理を明確にするため、金属級シリコン原料の不純物濃度に着目し、過去1年間の不純物濃度と流動層反応炉から排出される反応ガス中の未反応塩酸の割合の相関を調査した。その結果、不純物の元素毎に相関の強さや正負に特徴があることを見出した。その中で正の強い相関を示す元素を4つ(Al、Ca、Ni及びMn)選び、更に強い相関が得られるように元素毎に適切な係数を導き出し、足し合せることで、より強い相関を示す係数κ1を導き出し、式(1)を得た。
【0023】
更に、工程(b)の式(1)により算出された係数κ1が1以下の場合でかつ投入する金属級シリコン原料S1が1種類である場合は、塩酸ガスと金属級シリコン原料S1を流動層反応炉に投入してトリクロロシランを製造する(工程(c-1))。流動層反応炉は、内径が約1000mm程度であり、上下方向に約3m~5m程度延びる流動層を有することが好ましい。また、流動層反応炉内の温度は約250℃~350℃に設定されることが好ましい。
【0024】
流動層反応炉は、次の式(A)に基づき、金属級シリコン原料と塩酸ガス(HCl)とを反応させるものである。
Si+3HCl→SiHCl3+H2 (A)
金属級シリコン原料は流動層反応炉内の下部に設置され塩酸ガスが通過可能であって金属級シリコン原料が通過不能な多孔質板上に堆積した状態で載せられ、多孔質板の下方から塩酸ガスが流動層反応炉内に供給される。そして、塩酸ガスは、多孔質板を通過し更に金属級シリコン原料の堆積層中を通過することにより、金属級シリコン原料と塩酸ガスとが反応して、反応ガスが生成される。この反応ガスは、トリクロロシラン、テトラクロロシラン、ジクロロシラン、及びホウ素化合物を含む。そして、反応したガスは冷却器に送られ、トリクロロシランを含む反応ガスは冷却され凝縮されて液として回収される。なお、残りのガス中には、水素を主成分とする塩酸ガス(未反応塩酸)が含まれる。また、回収液には、高沸点成分が含まれる。ここで、高沸点成分としては、四塩化ケイ素の沸点より高い沸点を有する六塩化二珪素、五塩化ジシラン、四塩化ジシラン等が挙げられる。
【0025】
このように構成されたトリクロロシランの第1の製造方法では、Al、Ca、Ni及びMnの不純物濃度C1Al、C1Ca、C1Ni及びC1Mnがそれぞれ既知である金属級シリコン原料S1を用意し(工程(a))、不純物濃度C1Al、C1Ca、C1Ni及びC1Mnを式(1)に導入して係数κ1を算出し(工程(b))、式(1)により算出された係数κ1が1以下でありかつ別の1種又は2種以上の金属級シリコン原料S2、S3、…を混合せずに金属級シリコン原料S1のみを用いる場合、金属級シリコン原料S1を流動層反応炉に投入してトリクロロシランを製造するので(工程(c-1))、流動層反応炉での反応後の未反応塩酸を低減できる。具体的には、未反応塩酸を2体積%以下に低減できる。また、高沸点成分を0.2体積%以下に低減できる。
【0026】
<トリクロロシランの第2の製造方法>
金属級シリコン原料S
1、S
2、S
3、…を用いた場合のトリクロロシランの製造方法を
図1及び
図2に基づいて説明する。先ず、上記トリクロロシランの第1の製造方法と同様にして、Al、Ca、Ni及びMnの不純物濃度C1
Al、C1
Ca、C1
Ni及びC1
Mnがそれぞれ既知である金属級シリコン原料S
1を用意し(工程(a))、不純物濃度C1
Al、C1
Ca、C1
Ni及びC1
Mnを式(1)に導入して係数κ
1を算出する(工程(b))。
【0027】
次いで、工程(b)の式(1)により算出された係数κ1が1を超える場合、工程(a)の金属級シリコン原料S1とは別の1種又は2種以上のAl、Ca、Ni及びMnの不純物濃度C2Al、C2Ca、C2Ni及びC2Mn、C3Al、C3Ca、C3Ni及びC3Mn、…がそれぞれ既知である金属級シリコン原料S2、S3、…を用意する(工程(c-2))。そして、不純物濃度C2Al、C2Ca、C2Ni及びC2Mn、C3Al、C3Ca、C3Ni及びC3Mn、…(単位:質量ppm)を下記の式(2)、式(3)、…に導入して係数κ2、κ3、…を算出する(工程(d))。
κ2=0.0002×C2Al+0.0015×C2Ca+0.0014×C2Ni+0.003×C2Mn (2)
κ3=0.0002×C3Al+0.0015×C3Ca+0.0014×C3Ni+0.003×C3Mn (3)
…
上記式(2)、式(3)、…中の各不純物濃度(C2Al、C2Ca等)の係数(0.0002、0.0015等)は、式(1)中の各不純物濃度(C1Al、C1Ca等)の係数(0.0002、0.0015等)と同一である。
【0028】
次に、金属級シリコン原料S1、S2、S3、…のそれぞれの質量を秤量して合計した合計質量を1とするとき、又は金属級シリコン原料S1、S2、S3、…の入ったそれぞれの袋の質量が同一であるときこれらの袋の数をカウントして合計した合計質量を1とするとき、金属級シリコン原料S1、S2、S3、…の質量比をw1、w2、w3、…と決める(工程(e))。ここで、金属級シリコン原料S1、S2、S3、…のそれぞれの質量を秤量して合計した合計質量を1とするとき、金属級シリコン原料S1、S2、S3、…の質量比をw1、w2、w3、…と決めるとは、金属級シリコン原料S1、S2、S3、…のそれぞれの質量W1、W2、W3、…(例えば、単位:kg)を実際に計測して、これらの合計質量(W1+W2+W3+…)を1とするとき、各金属級シリコン原料S1、S2、S3、…の合計質量1に対する質量比をそれぞれw1、w2、w3、…と決めることである。また、金属級シリコン原料S1、S2、S3、…の入ったそれぞれの袋の質量が同一であるときこれらの袋の数をカウントして合計した合計数量を1とするとき、金属級シリコン原料S1、S2、S3、…の質量比をw1、w2、w3、…と決めるとは、金属級シリコン原料S1、S2、S3、…の入った袋の数をそれぞれ数えて、これらの袋の数の合計数量を1するとき、各金属級シリコン原料S1、S2、S3、…の合計数量1に対する質量比(又は個数比)をそれぞれw1、w2、w3、…と決めることである。そして、式(1)、式(2)、式(3)、…で算出された係数κ1、κ2、κ3、…と質量比w1、w2、w3、…を用いて下記の式(X)により、係数Kを求める(工程(f))。
K=κ1×w1 + κ2×w2 + κ3×w3 + … (X)
上記式(X)は、式(1)と同様に、これまでの経験からたどり着いた知見に基づく式である。
【0029】
更に、工程(f)で求めた係数Kが1以下の場合、金属級シリコン原料S1、S2、S3、…をw1、w2、w3、…の質量比で流動層反応炉に混合して又は個別に投入してトリクロロシランを製造する(工程(g-1))。ここで、金属級シリコン原料S1、S2、S3、…をw1、w2、w3、…の質量比で流動層反応炉に混合して投入するとは、金属級シリコン原料S1、S2、S3、…をw1、w2、w3、…の質量比で秤量したものを混合した後に流動層反応炉に投入することを意味する。また、金属級シリコン原料S1、S2、S3、…をw1、w2、w3、…の質量比で流動層反応炉に個別に投入するとは、金属級シリコン原料S1、S2、S3、…の入った袋の数(単位:個)をそれぞれカウントして求めたものを流動層反応炉に1袋ずつ順次(金属級シリコン原料が3種類以上の場合)又は交互に(金属級シリコン原料が2種類の場合)投入することを意味する。
【0030】
このように構成されたトリクロロシランの第2の製造方法では、係数κ1が1を超える金属級シリコン原料S1を含む金属級シリコン原料S1、S2、S3、…を用いて、係数Kが1以下のトリクロロシランを製造するので、流動層反応炉での反応後の未反応塩酸を低減できる。この結果、金属級シリコン原料を無駄なく利用できる。
【0031】
<トリクロロシランの第3の製造方法>
金属級シリコン原料S
1、S
2、S
3、…を用いた場合のトリクロロシランの製造方法を
図1及び
図2に基づいて説明する。先ず、上記トリクロロシランの第1の製造方法と同様にして、Al、Ca、Ni及びMnの不純物濃度C1
Al、C1
Ca、C1
Ni及びC1
Mnがそれぞれ既知である金属級シリコン原料S
1を用意し(工程(a))、不純物濃度C1
Al、C1
Ca、C1
Ni及びC1
Mnを式(1)に導入して係数κ
1を算出する(工程(b))。
【0032】
次いで、工程(b)の式(1)により算出された係数κ1が1を超える場合、又は工程(b)の式(1)により算出された係数κ1が1以下であっても金属級シリコン原料S1に別の1種又は2種以上の金属級シリコン原料S2、S3、…を混合する場合、工程(a)の金属級シリコン原料S1とは別の1種又は2種以上のAl、Ca、Ni及びMnの不純物濃度C2Al、C2Ca、C2Ni及びC2Mn、C3Al、C3Ca、C3Ni及びC3Mn、…がそれぞれ既知である金属級シリコン原料S2、S3、…を用意する(工程(c-3))。そして、第2の製造方法の工程(d)と同様に、不純物濃度C2Al、C2Ca、C2Ni及びC2Mn、C3Al、C3Ca、C3Ni及びC3Mn、…(単位:質量ppm)を下記の式(2)、式(3)、…に導入して係数κ2、κ3、…を算出する(工程(d))。
κ2=0.0002×C2Al+0.0015×C2Ca+0.0014×C2Ni+0.003×C2Mn (2)
κ3=0.0002×C3Al+0.0015×C3Ca+0.0014×C3Ni+0.003×C3Mn (3)
…
ここで、上記係数κ1が1以下の場合でも別の金属級シリコン原料を用意するのは、その後に算出する別のシリコン原料の係数κ2、κ3、…が、その産地の過去のデータ等から1を超える可能性が高いと予測できる場合、係数κ1が1以下の金属級シリコン原料を有効活用するためである。
【0033】
次に、第2の製造方法の工程(e)と同様に、金属級シリコン原料S1、S2、S3、…のそれぞれの質量を秤量して合計した合計質量を1とするとき、又は金属級シリコン原料S1、S2、S3、…の入ったそれぞれの袋の質量が同一であるときこれらの袋の数をカウントして合計した合計質量を1とするとき、金属級シリコン原料S1、S2、S3、…の質量比をw1、w2、w3、…と決める(工程(e))。そして、第2の製造方法の工程(f)と同様に、式(1)、式(2)、式(3)、…で算出された係数κ1、κ2、κ3、…と質量比w1、w2、w3、…を用いて下記の式(X)により、係数Kを求める(工程(f))。
K=κ1×w1 + κ2×w2 + κ3×w3 + … (X)
【0034】
更に、工程(f)で求めた係数Kが1を超える場合、金属級シリコン原料S1、S2、S3、…の質量比であるw1、w2、w3、…を係数Kが1以下になるように、w1'、w2'、w3'、…の質量比を変更して、金属級シリコン原料S1、S2、S3、…をw1'、w2'、w3'、…の質量比で流動層反応炉に混合して又は個別に投入してトリクロロシランを製造する(工程(g-2))。ここで、金属級シリコン原料S1、S2、S3、…の質量比であるw1、w2、w3、…を係数Kが1以下になるように、w1'、w2'、w3'、…の質量比を変更するには、金属級シリコン原料S1、S2、S3、…のうち、係数κ1、κ2、κ3、…の小さい金属級シリコン原料を多くし、係数κ1、κ2、κ3、…の大きい金属級シリコン原料を少なくするためである。1回の質量比の変更で係数Kが1以下にならない場合、上記質量比を変えて、複数回繰り返し行い、1以下になるようにする。
【0035】
このように構成されたトリクロロシランの第3の製造方法では、係数κ1が1を超える場合、又は係数κ1が1以下であっても金属級シリコン原料S1に別の1種又は2種以上の金属級シリコン原料S2、S3、…を混合する場合、上記金属級シリコン原料S1を含む金属級シリコン原料S1、S2、S3、…を用い、係数Kが1以下になるように、w1'、w2'、w3'、…の質量比に変更して、トリクロロシランを製造するので、流動層反応炉での反応後の未反応塩酸を低減できる。
【実施例】
【0036】
次に本発明の実施例を比較例とともに詳しく説明する。
【0037】
<実施例1~3及び比較例1~2>
表2に示す不純物成分を含む金属級シリコン原料を用意して、実施例1~3及び比較例1~2の金属級シリコン原料とした。なお、各金属級シリコン原料の平均粒径は約200μm~300μmであった。実施例1及び比較例1~2の金属級シリコン原料は、単一の購入ロットからそれぞれ約4000kg(約1000kg×4袋)取出した。また、実施例2の金属級シリコン原料は、不純物成分の異なる2つのロットの金属級シリコン原料をそれぞれ2袋ずつ、即ちそれぞれ約2000kgずつ取出して混合し合計約4000kgとし、実施例3の金属級シリコン原料は、不純物成分の異なる2つの袋に入った金属級シリコン原料をそれぞれ質量比で約25:75の割合、即ちそれぞれ約1000kg(1袋)及び約3000kg(3袋)取出して混合し合計約4000kgとした。
【0038】
<比較試験1及び評価>
実施例1~3及び比較例1~2の金属級シリコン原料を、内径が約1000mmで上下方向におよそ4m程度の流動層が形成された流動層反応炉に投入してトリクロロシランをそれぞれ製造した。具体的には、先ず、金属級シリコン原料を、流動層反応炉内の下部に設置され塩酸ガスが通過可能であって金属級シリコン原料が通過不能な多孔質板上に堆積した状態で載せた。次いで、流動層反応炉の層高(炉底と炉頂の差圧)をおよそ0.04MPaに維持するように設定し、流動層反応炉内の温度を約315℃に設定した状態で、多孔質板の下方から塩酸ガスを流動層反応炉内に流量約400Nm3/hで供給した。これにより、塩酸ガスが金属級シリコン原料と接触して、塩酸ガスが金属級シリコン原料と反応した。次に、反応したガスを冷却器に送り、トリクロロシランを含む反応ガスを冷却し凝縮して液として回収した。更に、残りの水素を主成分とするガスの塩酸濃度(未反応塩酸濃度)と、回収液に含まれる高沸点成分の量を測定した。この未反応塩酸濃度と高沸点成分の量を、金属級シリコン原料の不純物成分及び式(1)から求めた係数κ1とともに表2に示す。ここで、高沸点成分の量は、昇温ガスクロマトグラフィにて分析し、四塩化ケイ素より高い沸点の成分のピークの合計値とした。
【0039】
【0040】
表2から明らかなように、次の式(1)で算出されるκ1が1.27及び1.30と1を超えた比較例1及び2の金属級シリコン原料では、未反応塩酸濃度は5.7体積%及び4.6体積%と2体積%を超え、高沸点成分の量は0.22体積%~0.32体積%と0.2体積%を超えた。
κ1=0.0002×Al+0.0015×Ca+0.0014×Ni+0.003×Mn (1)
【0041】
一方、上記式(1)で算出されるκ1が0.50~0.86と1以下である実施例1~3の金属級シリコン原料では、未反応塩酸濃度は1.3体積%~1.6体積%と2体積%以下になり、高沸点成分の量は0.10体積%~0.14体積%と0.2体積%以下になった。
【産業上の利用可能性】
【0042】
本発明の方法で製造されたトリクロロシランは、高純度ポリシリコンの原料として利用できる。