(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-05-12
(45)【発行日】2023-05-22
(54)【発明の名称】2-((メタ)アリルオキシメチル)アクリル酸アルカリ金属塩粉体
(51)【国際特許分類】
C07C 59/60 20060101AFI20230515BHJP
【FI】
C07C59/60 CSP
(21)【出願番号】P 2019142745
(22)【出願日】2019-08-02
【審査請求日】2022-05-10
(73)【特許権者】
【識別番号】000004628
【氏名又は名称】株式会社日本触媒
(74)【代理人】
【識別番号】110002239
【氏名又は名称】弁理士法人G-chemical
(74)【代理人】
【識別番号】100122471
【氏名又は名称】籾井 孝文
(74)【代理人】
【識別番号】100121636
【氏名又は名称】吉田 昌靖
(72)【発明者】
【氏名】浦田 稔
(72)【発明者】
【氏名】中村 和彦
【審査官】奥谷 暢子
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2012/046787(WO,A1)
【文献】特開2013-216737(JP,A)
【文献】特開2005-068144(JP,A)
【文献】特開2004-339170(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C07C
CAplus/REGISTRY(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
一般式(1)で表される2-((メタ)アリルオキシメチル)アクリル酸アニオンとアルカリ金属カチオンとの塩であって、
水分含有量が0.05質量%以下の粉体である、
2-((メタ)アリルオキシメチル)アクリル酸アルカリ金属塩粉体。
【化1】
(一般式(1)中、R
1は、HまたはCH
3を表す。)
【請求項2】
水分含有量が0.05質量%以下の粉体である2-((メタ)アリルオキシメチル)アクリル酸アルカリ金属塩粉体を製造する方法であって、
対流伝熱乾燥装置を用いて乾燥を行う乾燥工程を含む、
2-((メタ)アリルオキシメチル)アクリル酸アルカリ金属塩粉体の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、2-((メタ)アリルオキシメチル)アクリル酸アルカリ金属塩粉体に関する。
【背景技術】
【0002】
(メタ)アクリル酸亜鉛などの(メタ)アクリル酸金属塩は、カルボン酸基由来のアニオン(-COO-)と金属カチオンとの間のイオン結合を利用して、該(メタ)アクリル酸金属塩を用いて得られる重合体や硬化物などの化合物中に金属を導入できる。このため、(メタ)アクリル酸金属塩は、例えば、高硬度、高弾性、高極性、高いイオン交換性、高いガスバリア性など、金属イオン-カルボン酸イオン間のイオン結合およびその金属種から選ばれる少なくとも1種に由来する各種性能を発現することができる。(メタ)アクリル酸金属塩は、このような各種性能を発現できるため、例えば、タイヤやゴルフボール等に用いられるゴムの架橋剤、船底塗料用ポリマーの共重合成分、ガスバリアフィルムのガスバリア層に用いられる架橋剤などに利用されている(特許文献1)。
【0003】
また、(メタ)アクリル酸カリウムなどの(メタ)アクリル酸アルカリ金属塩は、反応性の(メタ)アクリロイル基を有するエステル化合物を製造するための反応原料として利用されている。(特許文献2、特許文献3、特許文献4)。
【0004】
最近、本出願人は、各種化学品の合成原料として利用し得る新規化合物としてジエン系カルボン酸陰イオンおよびその塩を見出し、報告した(特許文献5)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開2004-231571号公報
【文献】特開昭63-179881号公報
【文献】特開2001-019663号公報
【文献】特開2013-194126号公報
【文献】特開2012-107208号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
一般に、新規化合物は、その取り扱い性等を考慮した場合、溶媒で希釈された溶液状態で得られるよりも、溶媒を含まない純品として得られるほうが好ましい。さらに、その純品が固体として得られる場合においては、該固体を合成原料としてエステル化合物などの各種化学品を合成する際に、副反応を抑制でき、収率を向上させ得る点で、該固体の水分含有量が小さい粉体であることが好ましい。
【0007】
しかしながら、新規化合物であるジエン系カルボン酸陰イオンおよびそのアルカリ金属塩に関しては、溶媒を含まない純品の性状や取扱い方法について、何ら検討がなされていなかった。
【0008】
本発明の課題は、各種化学品の合成原料として利用し得る、水分含有量が小さい粉体である新規化合物を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明の実施形態による2-((メタ)アリルオキシメチル)アクリル酸アルカリ金属塩粉体は、
一般式(1)で表される2-((メタ)アリルオキシメチル)アクリル酸アニオンとアルカリ金属カチオンとの塩であって、
水分含有量が0.05質量%以下の粉体である。
【化1】
(一般式(1)中、R
1は、HまたはCH
3を表す。)
【0010】
本発明の実施形態による2-((メタ)アリルオキシメチル)アクリル酸アルカリ金属塩粉体の製造方法は、
水分含有量が0.05質量%以下の粉体である2-((メタ)アリルオキシメチル)アクリル酸アルカリ金属塩粉体を製造する方法であって、
対流伝熱乾燥装置を用いて乾燥を行う乾燥工程を含む。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、各種化学品の合成原料として利用し得る、水分含有量が小さい粉体である新規化合物を提供することができる。このように、本発明の実施形態による2-((メタ)アリルオキシメチル)アクリル酸アルカリ金属塩粉体は、水分含有量が小さい粉体であるため、該粉体を合成原料として各種化学品を合成する際に、副反応を抑制でき、収率を向上させ得る。したがって、本発明の実施形態による2-((メタ)アリルオキシメチル)アクリル酸アルカリ金属塩粉体は、各種化学品の合成原料としての利用範囲が拡がり得る。
【発明を実施するための形態】
【0012】
本明細書中で「質量」(重さを示すSI系単位として慣用)との表現がある場合は、従来一般に重さの単位として慣用されている「重量」と読み替えてもよい。
【0013】
以下において記載する本発明の個々の好ましい形態を2つ以上組み合わせたものも、また、本発明の好ましい形態である。
【0014】
≪2-((メタ)アリルオキシメチル)アクリル酸アルカリ金属塩粉体≫
本発明の実施形態による2-((メタ)アリルオキシメチル)アクリル酸アルカリ金属塩粉体は、一般式(1)で表される2-((メタ)アリルオキシメチル)アクリル酸アニオンとアルカリ金属カチオンとの塩である。
【化2】
【0015】
一般式(1)中、R1は、HまたはCH3を表す。
【0016】
一般式(1)中、点線の記載および実線の記載の両方で結合されて1価のアニオンであることが示されている「酸素原子-炭素原子-酸素原子」の結合は、この結合中に含まれる2つの「炭素原子-酸素原子」の結合が等価であり、「酸素原子-炭素原子-酸素原子」の結合全体で1価のアニオンとなっていることが好ましい。
【0017】
本発明の実施形態による2-((メタ)アリルオキシメチル)アクリル酸アルカリ金属塩粉体を構成するアルカリ金属としては、任意の適切なアルカリ金属を採用し得る。アルカリ金属としては、具体的には、例えば、リチウム、ナトリウム、カリウム、ルビジウム、セシウム、フランシウムが挙げられる。これらのアルカリ金属の中でも、取り扱い易さ、合成の容易さ、低コスト、などの観点から、リチウム、ナトリウム、カリウムが好ましく、ナトリウム、カリウムがより好ましく、カリウムが最も好ましい。
【0018】
本発明の実施形態による2-((メタ)アリルオキシメチル)アクリル酸アルカリ金属塩粉体は、「粉体」である。ここで、本発明の説明で用いる「粉体」とは、いわゆる顆粒などの粒体の集合体や、粒体より小なる形状の粉末の集合体として取り扱える固体として定義される形態である。
【0019】
本発明の実施形態による2-((メタ)アリルオキシメチル)アクリル酸アルカリ金属塩粉体は、水分含有量が、好ましくは0.05質量%以下であり、より好ましくは0.03質量%以下であり、さらに好ましくは0.02質量%以下であり、特に好ましくは0.01質量%以下である。粉体の水分含有量が上記のように小さいと、該粉体を合成原料として各種化学品を合成する際に、副反応を抑制でき、収率を向上させ得る。したがって、本発明の実施形態による2-((メタ)アリルオキシメチル)アクリル酸アルカリ金属塩粉体は、各種化学品の合成原料としての利用範囲が拡がり得る。
【0020】
本発明の実施形態による2-((メタ)アリルオキシメチル)アクリル酸アルカリ金属塩粉体は、一次粒子径の下限値が、好ましくは0.1μm以上であり、より好ましくは0.5μm以上であり、さらに好ましくは1.0μm以上であり、特に好ましくは5.0μm以上である。また、一次粒子径の上限値が、好ましくは200μm以下であり、より好ましくは150μm以下であり、さらに好ましくは100μm以下であり、特に好ましくは50μm以下である。粉体の一次粒子径が上記範囲内にあれば、粉体の水分含有量をより低くさせ得る。このため、このような粉体を合成原料として各種化学品を合成する際に、副反応をより抑制でき、収率をより向上させ得る。したがって、本発明の実施形態による2-((メタ)アリルオキシメチル)アクリル酸アルカリ金属塩粉体は、各種化学品の合成原料としての利用範囲がより拡がり得る。
【0021】
本発明の実施形態による2-((メタ)アリルオキシメチル)アクリル酸アルカリ金属塩粉体は、嵩密度の下限値が、好ましくは0.1g/mL以上であり、より好ましくは0.15g/mL以上であり、さらに好ましくは0.20g/mL以上であり、特に好ましくは0.25g/mL以上である。また、嵩密度の上限値が、好ましくは0.8g/mL以下であり、より好ましくは0.7g/mL以下であり、さらに好ましくは0.6g/mL以下である。粉体の嵩密度が上記のように大きいと、取り扱い性や仕込み性に優れ得る。したがって、例えば、本発明の実施形態による2-((メタ)アリルオキシメチル)アクリル酸アルカリ金属塩粉体の各種化学品の合成原料としての利用範囲が拡がり得る。
【0022】
本発明の実施形態による2-((メタ)アリルオキシメチル)アクリル酸アルカリ金属塩粉体は、2-((メタ)アリルオキシメチル)アクリル酸アルカリ金属塩と、任意成分として、水以外の成分を含んでいてもよい。任意成分としては、本発明の効果を損なわない範囲で任意の適切な任意成分を採用し得る。このような任意成分としては、例えば、2-((メタ)アリルオキシメチル)アクリル酸、2-((メタ)アリルオキシメチル)アクリル酸のアルカリ金属以外の塩、2-((メタ)アリルオキシメチル)アクリル酸エステル、2-((メタ)アリルオキシメチル)アクリル酸アニオン以外のアニオンと金属カチオンとの塩、2-((メタ)アリルオキシメチル)アクリル酸アニオン以外のアニオンと非金属カチオンとの塩、重合禁止剤、酸化防止剤、防腐剤、界面活性剤、などが挙げられる。本発明の実施形態による2-((メタ)アリルオキシメチル)アクリル酸アルカリ金属塩粉体としては、例えば、上記一般式(1)で表される2-((メタ)アリルオキシメチル)アクリル酸アニオンとアルカリ金属カチオンとの塩を、1質量%以上100質量%以下含むことが好ましく、50質量%以上100質量%以下含むことがより好ましく、90質量%以上100質量%以下含むことがさらに好ましい。
【0023】
≪2-((メタ)アリルオキシメチル)アクリル酸アルカリ金属塩粉体の製造方法≫
本発明の実施形態による2-((メタ)アリルオキシメチル)アクリル酸アルカリ金属塩粉体の製造方法は、好ましくは、2-((メタ)アリルオキシメチル)アクリル酸アルカリ金属塩の溶液を得る溶液調製工程、および、乾燥装置を用いて乾燥を行う乾燥工程、を含む製造方法によって製造し得る。
【0024】
2-((メタ)アリルオキシメチル)アクリル酸アルカリ金属塩の溶液を得る溶液調製工程については、先に本出願人が報告した特許文献2(特開2012-107208号公報)に記載の方法を援用し得る。
【0025】
乾燥装置を用いて乾燥を行う乾燥工程においては、好ましくは、2-((メタ)アリルオキシメチル)アクリル酸アルカリ金属塩の溶液を得る溶液調製工程で得られた溶液を乾燥して、2-((メタ)アリルオキシメチル)アクリル酸アルカリ金属塩粉体とする。
【0026】
乾燥装置を用いて乾燥を行う乾燥工程においては、本発明の効果を損なわない範囲で、任意の適切な乾燥装置を使用することができる。乾燥装置は、乾燥する対象に熱を与える方法によって分類でき、代表的には、対流伝熱乾燥装置、伝導伝熱乾燥装置、輻射伝熱乾燥装置に分けられる。
【0027】
対流伝熱乾燥装置としては、例えば、箱型乾燥器、バンド乾燥器、トンネル乾燥器、噴出流乾燥器、通気堅型乾燥器、回転乾燥器、流動層乾燥器、気流乾燥器、噴霧乾燥器などが挙げられる。
【0028】
伝導伝熱乾燥装置としては、例えば、箱型乾燥器、円盤乾燥器、溝型・円筒型撹拌乾燥器、逆円錐型撹拌乾燥器、回転乾燥器(円筒回転乾燥器、二重円錐回転乾燥器)、円筒乾燥機などが挙げられる。
【0029】
乾燥工程における、乾燥の条件は、用いる乾燥装置に応じて、適切に設定すればよい。
【0030】
本発明の実施形態による2-((メタ)アリルオキシメチル)アクリル酸アルカリ金属塩粉体を製造する際には、本発明の効果をより発現させ得る点で、好ましくは、対流伝熱乾燥装置を用いて乾燥を行う乾燥工程を含む製造方法によって製造する。
【実施例】
【0031】
以下、実施例を挙げて本発明を具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。なお、特に断りのない限り、「部」は「質量部」を、「%」は「質量%」を意味する。
【0032】
<嵩密度>
見掛け密度測定器を用いてJIS K3362に準じて測定した。
【0033】
<水分含有量>
カールフィッシャー水分計(京都電子工業社製,「MKC-510」)を測定装置として用い、また、対極液と発生液としては、それぞれ、Fluka社製の「ハイドラナール クーロマットCG」と「ハイドラナール クーロマットA」を用いた。
【0034】
〔合成例1〕:2-(アリルオキシメチル)アクリル酸イオンとカリウムイオンとの塩の水溶液の合成
攪拌子を入れた反応器に、4.44%水酸化カリウム水溶液809.1部と、6-tert-ブチル-2,4-キシレノール300ppmを含有する2-(アリルオキシメチル)アクリル酸メチル100.0部を仕込み、溶液温度が35℃以下となるように水浴で冷却しながらマグネチックスターラーで攪拌した。4時間撹拌を続け、2-(アリルオキシメチル)アクリル酸イオンとカリウムイオンとの塩を12.7質量%含有する水溶液を得た。得られた水溶液をエバポレーターによって減圧濃縮し、2-(アリルオキシメチル)アクリル酸イオンとカリウムイオンとの塩を50質量%含有する水溶液(1)を得た。
【0035】
〔実施例1〕
噴霧乾燥装置(ヤマト科学(株)製、パルビスミニスプレー、型式GA―32、サイクロン一点捕集式)を用いて、合成例1で得られた2-(アリルオキシメチル)アクリル酸イオンとカリウムイオンとの塩を50質量%含有する水溶液(1)を連続的に噴霧した。噴霧ノズルは二流体ノズルであり、原料供給量は0.64kg/hであった。加圧空気の圧力2.0kgf/cm2、風量0.42m3/min、入口熱風温度190℃、出口温度100℃、の条件で、0.4時間連続噴霧乾燥した結果、嵩密度0.29g/mL、水分含有量0.031質量%の2-(アリルオキシメチル)アクリル酸カリウム粉体が0.085kg得られた。回収率は66重量%であった。
【産業上の利用可能性】
【0036】
本発明の実施形態による2-((メタ)アリルオキシメチル)アクリル酸アルカリ金属塩粉体は、水分含有量が小さい粉体であるため、該粉体を合成原料として各種化学品を合成する際に、副反応を抑制でき、収率を向上させ得るので、エステル化合物などの各種化学品の合成原料として広く利用し得る。