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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-05-12
(45)【発行日】2023-05-22
(54)【発明の名称】積層造形用金属粉末
(51)【国際特許分類】
   B22F 1/102 20220101AFI20230515BHJP
   B22F 1/00 20220101ALI20230515BHJP
   B22F 3/105 20060101ALI20230515BHJP
   B22F 3/16 20060101ALI20230515BHJP
   B22F 10/34 20210101ALI20230515BHJP
   B33Y 70/00 20200101ALI20230515BHJP
   C22C 1/05 20230101ALI20230515BHJP
【FI】
B22F1/102
B22F1/00 N
B22F3/105
B22F3/16
B22F10/34
B33Y70/00
C22C1/05
【請求項の数】 4
(21)【出願番号】P 2019160182
(22)【出願日】2019-09-03
(65)【公開番号】P2021038432
(43)【公開日】2021-03-11
【審査請求日】2022-04-18
(73)【特許権者】
【識別番号】399054321
【氏名又は名称】東洋アルミニウム株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100130513
【弁理士】
【氏名又は名称】鎌田 直也
(74)【代理人】
【識別番号】100074206
【弁理士】
【氏名又は名称】鎌田 文二
(72)【発明者】
【氏名】橋詰 良樹
(72)【発明者】
【氏名】石神 健太
【審査官】岡田 隆介
(56)【参考文献】
【文献】特開2015-218395(JP,A)
【文献】特表2016-535169(JP,A)
【文献】特開2019-085604(JP,A)
【文献】特開2016-053198(JP,A)
【文献】国際公開第2014/027568(WO,A1)
【文献】特開2009-252507(JP,A)
【文献】特開平06-276604(JP,A)
【文献】国際公開第2019/030837(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B22F 1/102
B22F 3/105
B22F 3/16
B22F 10/20
B22F 10/34
B33Y 70/00-70/10
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
金属粒子と、前記金属粒子の表面に付着した炭素数6以下の極性有機化合物と、を含む積層造形用金属粉末を含み、
測定範囲0.5~1000μmの粒子径個数分布において3μm以下の粒子の割合が10%以上30%以下である、積層造形用材料。
【請求項2】
前記極性有機化合物が、アルコール類、脂肪酸類、ケトン類およびエステル類からなる群より選ばれる少なくとも1種である、請求項1に記載の積層造形用材料
【請求項3】
前記金属粒子がアルミニウム粒子またはアルミニウム合金粒子である、請求項1または2に記載の積層造形用材料
【請求項4】
体積平均粒子径3μm以下の非酸化物微粒子を含む、請求項1から3のいずれかに記載の積層造形用材料。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、粉末積層造形に適した金属粉末に関する。
【背景技術】
【0002】
いわゆる3Dプリンタなどを用いた粉末積層造形では、造形ムラが生じないように、造形ステージ上に均一に原料を敷き詰める必要があるため、原料となる金属粉末などの粉末に高い流動性が求められている。
【0003】
このことから、原料粉末の流動性を向上させるための種々の試みがなされている。
例えば特許文献1には、平均直径10-100μmの第一の金属粉体を体積分率99%以上含み、該金属粉末よりも真球度の高い平均直径が該金属粉末の1/10以下の第二の粉体を体積分率1%未満含む積層造形用粉体が開示されている。
また、特許文献2には、金属粉末に高揮発性溶剤を添加してペースト化する方法が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】国際公開第2016/031279号
【文献】特開2008-184623号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、特許文献1の手法によれば、粉末の流動性が改善されるものの、第二の粉末としては高い球状度が要求されるため、実質的に酸化物に限られることになる。このような酸化物は、造形時にスパッタを発生させるため、造形物に空孔や亀裂が発生するおそれがある。
また、特許文献2の手法によれば、造形時に揮発した溶剤が気泡となって造形物内に残存し、その結果、造形物に空孔が発生するおそれがある。
【0006】
そこで本発明は、造形物に亀裂や空孔を生じることのないように、積層造形に使用される金属粉末の流動性を改善することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者は、積層造形に使用される金属粉末について、上記課題を解決するために鋭意検討を重ねたところ、金属粉末表面に炭素数6以下の極性有機化合物を吸着させることにより、流動性を改善できることを見出し本発明に至った。
【0008】
すなわち発明にかかる積層造形用金属粉末を、金属粒子と、前記金属粒子の表面に付着した炭素数6以下の極性有機化合物と、を含む構成としたのである。
【0009】
発明にかかる積層造形用金属粉末において、前記極性有機化合物が、アルコール類、脂肪酸類、ケトン類およびエステル類からなる群より選ばれる少なくとも1種である構成を採用することが好ましい。また、前記金属粒子がアルミニウム粒子またはアルミニウム合金粒子である構成を採用することが好ましい。
【0010】
また発明にかかる積層造形用材料を、前記発明にかかる積層造形用金属粉末を含む構成としたのである。
【0011】
発明にかかる積層造形用材料において、体積平均粒子径3μm以下の非酸化物微粒子を含む構成を採用することが好ましい。
また、測定範囲0.5~1000μmの粒子径個数分布において3μm以下の粒子の割合が10%以上30%以下である構成を採用することが好ましい。ここで、粒子とは、金属粒子のみからなる場合にはその金属粒子を、金属粒子と非酸化物微粒子が含まれる場合には、金属粒子と非酸化物微粒子のいずれもを、意味する。前記非酸化物微粒子は、金属、金属ホウ化物、金属炭化物および金属間化合物からなる群より選ばれる少なくとも1種からなることがより好ましい。
【発明の効果】
【0012】
発明にかかる積層造形用金属粉末およびこれを含む積層造形用材料を以上のように構成したので、次のような顕著な効果が達成される。
【0013】
金属粒子の表面に炭素数6以下の極性有機化合物を付着させることで、従来の積層造形用金属粉末では得られなかった流動性が発現されるため、積層造形工程において、均一なパウダーベッドが容易に形成され、従来の積層造形用金属粉末では困難だった緻密な造形物が得られる。
【0014】
従来の金属粉末の流動性改善方法では、酸化物や高揮発性溶剤などの添加物が造形物に空孔や亀裂の起点を形成することが懸念されるのに対して、本発明ではそのような添加物が含まれていないため、空孔や亀裂の起点が形成されず、その結果、造形物の強度、疲労特性、破壊靱性等が改善される。
【0015】
金属粒子の表面に炭素数6以下の極性有機化合物を付着させることで、金属粒子単体と比べて充填密度が高くなり、いっそう空孔やムラの無い造形物が得られる。
【0016】
発明にかかる積層造形用金属粉末および積層造形用材料に非酸化物微粒子を添加することにより、粉末の流動性がさらに向上するうえ、造形物の組織が微細化され、強度も向上する。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、本発明の実施形態について説明する。
実施形態にかかる積層造形用金属粉末およびこれを含む積層造形用材料は、金属粉末の表面に所定の極性有機化合物を付着させることで、高い流動性が付与されている。
【0018】
(積層造形用金属粉末)
実施形態にかかる積層造形用金属粉末は、金属粒子と当該金属粒子の表面に存在する炭素数6以下の極性有機化合物とを含む。
ここで極性有機化合物は、金属粒子の表面の少なくとも一部を被覆していればよいが、全体を被覆していることが望ましい。好ましい被覆率は、50%から100%である。
【0019】
(金属粒子)
実施形態の積層造形用金属粉末の金属粒子の材質は、金属材料であれば特に限定されず使用できる。例えば、チタニウム、鉄、ニッケル、銅、アルミニウムおよびそれらの合金などが挙げられる。
特に軽量で比較的安価であること等から、アルミニウム合金が好適に用いられる。
【0020】
金属粒子の粒径は、特に限定されないが、体積平均粒子径としては、10μm以上150μmであることが好ましく、20μm以上100μm以下であることがより好ましく、30μm以上60μm以下であることが望ましい。
粒径が10μmを下回ると、微細に過ぎて流動性が低下する恐れがあり、150μmを上回ると、積層造形時に粉末がブレードに引っ掛かり、容易に敷き詰めることができない恐れがある。
金属粒子の平均円形度は、特に限定されないが、0.9以上1.0以下であることが望ましい。平均円形度が0.9を下回ると、凹凸が大きくなりすぎて流動性が低下する恐れがある。
【0021】
(極性有機化合物)
本実施形態において極性有機化合物とは、極性官能基を持った有機化合物をいう。
例えば、アルコール類、脂肪酸、脂肪族アミン、ケトン類、エステル類およびエーテル類などがあげられ、吸着力が良好な点で、アルコール類、脂肪酸類、ケトン類およびエステル類が好適に用いられる。
【0022】
ここで実施形態において金属粒子の表面に付着する極性有機化合物は、炭素数が6以下のものとなっている。
炭素数が6を超えると、造形時に揮発した極性有機化合物が残留して気泡となり、造形物に空孔が生じるおそれがある。このような極性有機化合物の例としては、メチルアルコール、エチルアルコール、イソプロピルアルコール、n-プロピルアルコール、イソブチルアルコール、t-ブチルアルコール、n-ブチルアルコール、アミルアルコール、ヘキシルアルコール、シクロヘキサノール、酢酸、プロピオン酸、アセトン、メチルエチルケトン(MEK)、メチルイソブチルケトン(MIBK)、酢酸エチル、酢酸ブチルエチルエーテル、フェノール等があげられる。
【0023】
極性有機化合物の金属粒子表面への付着態様は特に限定されず、金属表面を濡らしているだけであったり、水素結合やイオン結合などにより化学的に吸着している例を挙げられるが、保存中の揮発を抑制できるため化学的に吸着していることが望ましい。
【0024】
ここで、積層造形用金属粉末中に極性有機化合物が含まれていることは、昇温脱離分析によって確認することができる。
実施形態において、昇温脱離分析を行った場合に、質量数(m/Z)が60以下(但し水素(m/Z=2)、水(m/Z=18)を除く)の脱離ピークのみが500℃以下の温度でのみ検出されることが望ましい。
質量数または脱離ピークが現れる温度が上記を超える場合は、造形物に有機物が残存して強度が低下するおそれがある。
【0025】
(積層造形用材料)
実施形態の積層造形用材料としては、実施形態の積層造形用金属粉末のみをそのまま用いても良いが、必要に応じて非酸化物微粒子を添加して用いることもできる。
【0026】
(非酸化物微粒子)
上記非酸化物微粒子としては、金属、金属ホウ化物、金属炭化物および金属間化合物からなる微粒子が好適に使用できる。
これらの粒子は積層造形物内によく分散または溶融し、造形物の特性を損なわない。金属粒子間に介在して潤滑性を高める役割を果たすため、積層造形用材料の流動性を高めてもいる。また、酸化物とは異なり、造形時にスパッタを発生させることもない。
特に、金属ホウ化物、金属炭化物、金属間化合物は、造形時に結晶粒の粗大化を抑制するため造形物の機械的特性を向上させる。これらの例としては、TiB、Ti、Zr、Hf、Al、TiC、TiAl、などがあげられる。なかでも、TiBは結晶粒を微細化する機能が高いため好ましい。
非酸化物微粒子の体積平均粒子径は、3μm以下が好ましく、添加量は金属粒子100質量部に対し、0.05質量部以上1質量部以下が好ましい。非酸化物微粒子の体積平均粒子径および添加量がこの範囲を下回ると、流動性の向上と結晶粒の粗大化抑制の効果があまり得られず、非酸化物微粒子の体積平均粒子径および添加量がこの範囲を上回ると、造形物内の欠陥が増加し、強度と延性が低下する。
【0027】
実施形態の積層造形用材料は、金属粒子および非酸化物微粒子がある場合には非酸化物微粒子を含めて、その粒子径個数分布において、個数分布で3μm以下の粒子の割合が10%以上30%以下であることが望ましく、15%以上25%以下であることがより望ましい。
3μm以下の粒子の個数が10%を下回ると、金属粉末の流動性改善効果が不十分となり、30%を上回ると、金属粉末の流動性が低下する。なお3μm以下の粒子の存在割合は、粒度の体積分布では判別が困難であり、個数分布によってのみ明確に区別が可能となる。
【実施例
【0028】
以下に実施例及び、比較例を挙げ、本発明をより明確なものとする。もっとも、本発明は実施例に限定されるものではない。
【0029】
なお、以下の実施例および比較例において、体積平均粒子径は、レーザー回折式粒度分布計(日機装株式会社製、マイクロトラックMT-3300)にて、粉体を測定系内循環水に投入し、超音波を出力40Wで180秒間照射して分散させたのち測定した。
また、平均円形度は、原料金属粒子をSEM(走査型電子顕微鏡)にて観察し、写った粒子が合計100個以上となるよう複数の視野を撮影した。これら写真をキーエンス社製デジタルマイクロスコープVHX-1000にデータを移し、付属の画像解析ソフトで撮影した100個以上の粒子それぞれの円形度Ψcを測定して平均円形度を算出した。
【0030】
(実施例1)
体積平均粒子径51μm、平均円形度0.98のアルミニウム合金(AlSi10Mg)粉末100gに、非酸化物微粒子として体積平均粒子径1.7μmのホウ化チタン(TiB)粉末0.7gを加え、さらに溶媒としてイソプロピルアルコール100gを加えた後、ディスパーにて2000RPMで5分間攪拌した。得られたスラリーをブフナーロートで50分間、空気中で吸引し、乾燥粉末を得た。
なお、得られた粉末を9.88mg採取し、昇温脱離分析を行った結果、m/z=45の脱離スペクトルにおいて210℃付近で脱離ピークが認められ、イオン電流値は最大45×10-11Aとなった。
(実施例2)
ホウ化チタン粉末を加えなかったことを除き、実施例1と同様にして乾燥粉末を得た。
(実施例3から8)
表1および表2に示す原料を用いて、実施例1と同様にして乾燥粉末を得た。
【0031】
(比較例1から4)
表1に示す金属粉末から準備した。
(比較例5)
溶媒としてイソプロピルアルコール100gの代わりにラウリル燐酸ナトリウムの10%イソプロピルアルコール溶液を加えた以外は、実施例1と同様にして比較例5を作製した。
(比較例6)
体積平均粒子径35μm、平均円形度0.97のアルミニウム合金(A6061)粉末100gに、溶媒としてオクチルアルコール100gを加えた後、ディスパーにて2000RPMで5分間攪拌した。得られたスラリーをブフナーロートで50分間、空気中で吸引し、乾燥粉末を得た。
(比較例7)
体積平均粒子径35μm、平均円形度0.97のアルミニウム合金(A6061)粉末100gに、体積平均粒子径0.01μmのナノシリカ粒子を加えVブレンダーにより均一に混ぜ合わせた。
【0032】
【表1】
【0033】
【表2】
【0034】
こうして得られた実施例および比較例の粉末について、流動度、安息角、粒子径個数分布、および見かけ密度の測定を行った。結果を表3に示す。
ここで流動度は、ASTM B964 規格(Carney Flow)に従って5mmφの孔から150gの粉末が流出する時間を測定した。
また、安息角は、筒井理化学器械株式会社製のABD粉体特性測定装置を用いて測定した。
粒子径個数分布は、SEMにより撮影された複数の視野の写真をキーエンス社製デジタルマイクロスコープVHX-1000にデータを移し、付属の画像解析ソフトにて、1000個以上の粒子のサイズを測定し、0.5-1000μmの粒子数に対する0.5-3μmの粒子数の割合を算出した。
【0035】
【表3】
【0036】
次に実施例および比較例の粉末から、直径8mm×高さ80mmの円柱を、ベースプレートに対し法線方向に複数個造形した。
ここで造形装置としては、株式会社松浦機械製作所製 LUMEX Avance-25を用い、造形の条件としては、レーザー出力:900W、スポット径:0.3mm、積層ピッチ:0.1mm、ハッチ間隔:0.4mm、スキャンスピード:900mm/sに設定した。
ここで造形物を造形する際の作業性につき、評価を行った。
得られた造形物について、アルキメデス法によって見かけ密度を測定し、組成から計算した真密度に対する相対密度を算出した。
また、得られた造形物よりJIS14A号試験片を切り出し、万能試験機(INSTRON M4206)を用いて引張り試験を行った。クロスヘッド速度は、1mm/minとした。
さらに造形物の状態について、目視、光学顕微鏡およびSEMによる観察を行い、欠陥の有無や表面状態などを評価した。
結果を表4に示す。表4から、実施例の積層造形用金属粉末は、流動性が改善すると共に造形後の亀裂や空孔が生じにくいことがわかった。
【0037】
【表4】
【0038】
今回開示された実施形態および実施例はすべての点で例示であって制限的なものではない。本発明の範囲は特許請求の範囲によって示され、特許請求の範囲内およびこれと均等の意味でのすべての修正と変形を含む。