(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-05-12
(45)【発行日】2023-05-22
(54)【発明の名称】T細胞受容体のシグナル伝達を阻害するまたは調節することによってT細胞の疲弊を治療する方法
(51)【国際特許分類】
A61K 31/506 20060101AFI20230515BHJP
A61K 31/5025 20060101ALI20230515BHJP
A61P 43/00 20060101ALI20230515BHJP
A61P 31/00 20060101ALI20230515BHJP
A61P 35/00 20060101ALI20230515BHJP
A61P 37/06 20060101ALI20230515BHJP
A61K 35/17 20150101ALI20230515BHJP
A61K 39/395 20060101ALI20230515BHJP
C12N 5/10 20060101ALN20230515BHJP
【FI】
A61K31/506
A61K31/5025
A61P43/00 107
A61P31/00 ZNA
A61P35/00
A61P37/06
A61K35/17
A61K39/395 N
C12N5/10
(21)【出願番号】P 2019553220
(86)(22)【出願日】2018-03-30
(86)【国際出願番号】 US2018025394
(87)【国際公開番号】W WO2018183842
(87)【国際公開日】2018-10-04
【審査請求日】2021-03-26
(32)【優先日】2017-03-31
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】515158308
【氏名又は名称】ザ ボード オブ トラスティーズ オブ ザ レランド スタンフォード ジュニア ユニバーシティー
(74)【代理人】
【識別番号】110000338
【氏名又は名称】弁理士法人 HARAKENZO WORLD PATENT & TRADEMARK
(72)【発明者】
【氏名】リン,レイチェル
(72)【発明者】
【氏名】マッコール,クリスタル
(72)【発明者】
【氏名】ウェバー,エヴァン
(72)【発明者】
【氏名】マロ―トラー,サンジェイ
【審査官】川合 理恵
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2016/011264(WO,A1)
【文献】Science Translational Medicine,2016年,Vol. 8, No. 354,354ra114,DOI: 10.1126/scitranslmed.aaf5309
【文献】Blood,2008年,Vol. 111, No. 3,pp. 1366-1377
【文献】J Clin Invest,2016年,Vol. 126, No. 8,pp. 3130-3144,https://doi.org/10.1172/JCI83092.
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61K
A61P
PubMed
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ヒトである対象にてT細胞の疲弊を元に戻す
ための薬剤であって、前記薬剤が治療上有効な量の
ダサチニブまたはポナチニブを含み、前記
ダサチニブまたはポナチニブがTCRのシグナル伝達及び/またはCARのシグナル伝達を阻害する薬剤。
【請求項2】
前記薬剤は、治療上有効な量のダサチニブを含む、請求項1に記載の薬剤。
【請求項3】
投与することにより、
前記対象にてT細胞によるIL-2の分泌を高めること
前記対象にてT細胞のアポトーシスを減少させること
PD-1、TIM-3及びLAG-3から成る群から選択される少なくとも1つのT細胞の疲弊マーカーの発現を低下させること、及び
CD62LまたはCCR7の発現を高めること
のうちの1つ以上が生じる請求項1に記載の薬剤。
【請求項4】
前記
ダサチニブまたはポナチニブが複数サイクルで投与され、且つ/または
前記
ダサチニブまたはポナチニブが予防的に投与され、且つ/または
前記
ダサチニブまたはポナチニブが間欠的に投与され、且つ/または
前記
ダサチニブまたはポナチニブが少なくとも部分的なT細胞機能を回復させるのに十分な期間投与され、その後中止され、且つ/または
前記
ダサチニブまたはポナチニブが経口で投与される請求項1に記載の薬剤。
【請求項5】
前記対象が慢性感染症またはがんを有する請求項1に記載の薬剤。
【請求項6】
CAR T細胞の集団を含む組成物であって、前記
CAR T細胞の集団が
ダサチニブまたはポナチニブの存在下で増殖され、前記
ダサチニブまたはポナチニブがCARのシグナル伝達を阻害する組成物。
【請求項7】
前記CAR T細胞の集団は、ダサチニブの存在下で増殖される請求項6に記載の組成物。
【請求項8】
免疫系に関連する状態または疾患を治療する
ための薬剤であって
、ダサチニブまたはポナチニブの存在下で増殖させたCAR T細胞の集団を含み、
前記ダサチニブまたはポナチニブは、CARのシグナル伝達を阻害し、前記免疫系に関連する状態または疾患ががんまたは自己免疫の疾患もしくは状態から選択される薬剤。
【請求項9】
ヒトである対象が養子T細胞療法を受けている請求項
8に記載の薬剤。
【請求項10】
ヒトである対象に、化学療法剤及び放射線療法から選択される1以上の抗がん剤を投与することをさらに含む請求項
8に記載の薬剤。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
[関連出願への相互参照]
本出願は、全体として参照によって本明細書に組み入れられる2017年3月31日に出願された米国仮特許出願番号62/479,930の利益を主張する。
【0002】
本明細書で提供されるのは、T細胞の疲弊を防ぐまたは元に戻す組成物及び方法である。特に、本発明は、T細胞の疲弊を示しているT細胞を特定のチロシンキナーゼ阻害剤(例えば、ダサチニブ、ポナチニブ)に曝露することによって、または遺伝子操作したT細胞を特定のチロシンキナーゼ阻害剤(例えば、ダサチニブ、ポナチニブ)の存在下で増やすことによってT細胞の疲弊を防ぐまたは元に戻す方法に関する。
【背景技術】
【0003】
T細胞は、抗原との結合に続くT細胞受容体(TCR)のシグナル伝達を介して活性化する免疫細胞である。T細胞受容体を介した生理的な活性化はT細胞が強力な抗腫瘍効果または抗感染効果に介在するのを可能にする。急性炎症反応の消散の間に、活性化されたエフェクターT細胞のサブセットは長く生存するメモリー細胞に分化する。対照的に、慢性感染症またはがんの患者では、T細胞は、T細胞の疲弊と呼ばれている機能不全の状態に向かう病的な分化を受けることが珍しくない。T細胞の疲弊は、代謝機能、転写プログラミングの顕著な変化、エフェクター機能(例えば、サイトカイン分泌、殺傷能)の喪失、及び複数の表面抑制性受容体の同時発現を特徴とする。T細胞の疲弊の主原因は連続したTCRシグナル伝達につながる持続した抗原曝露である。T細胞の疲弊を防ぐこと及び元に戻すことはがんまたは慢性感染症の患者にてT細胞の有効性を高める手段として長い間求められてきた。
【0004】
本発明はこの緊急のニーズに対処する。
【発明の概要】
【0005】
免疫細胞は、予め形成された及び新しく形成されたメディエーターの分泌、粒子の貪食、エンドサイトーシス、標的細胞に対する細胞傷害、と同様に細胞の増殖及び/または分化を含む広い範囲の応答によって外来抗原の存在に応答する。T細胞は、他の免疫細胞型(例えば、多形核細胞、好酸球、好塩基球、肥満細胞、B細胞及びNK細胞)と一緒に免疫系の細胞性成分を構成する細胞の亜群である(例えば、米国特許第6,057,294号;米国特許出願200500704787を参照のこと)。生理的な条件下で、T細胞は免疫監視及び外来抗原の排除において機能する。しかしながら、生理的な条件下で、T細胞は疾患の原因及び伝播にて主要な役割を担うという有力な証拠がある。これらの疾病では、中枢性または末梢性でのT細胞の免疫寛容の破綻が自己免疫疾患の原因における基本的な過程である。
【0006】
T細胞受容体(TCR)の結合及び共刺激シグナル伝達がT細胞の活性化、増殖及び細胞傷害性機能を調節する重要なシグナルを提供することは十分に確立されている。T細胞は、サブユニット当たり1つだけの膜貫通(TM)スパンと小さな細胞内尾部とを有し、ヘテロ二量体(CD3γε及びCD3δε)及びホモ二量体(ζζ)のシグナル伝達サブユニットと非共有結合するα及びβのサブユニット(またはγδT細胞ではγ及びδのサブユニット)とジスルフィド結合したリガンド結合型のT細胞受容体(TCR)で構成されるポリペプチド複合体を介して抗原に応答する(例えば、Cambier,J.C.Curr.Opin.Immunol.1992;4:257-64を参照のこと)。CD3のε、δ及びγの鎖は単一のIgファミリー細胞外ドメインと単一の推定のαらせんのTMスパンと40~60残基の本質的に無秩序な細胞内ドメインとを有するのに対して、各ζサブユニットはサブユニット間のジスルフィド結合を運ぶ小さな細胞外領域(9残基)とサブユニット当たり単一の推定のαらせんのTMスパンとおよそ110残基の大きな本質的に無秩序な細胞質ドメインとを有する。従って、T細胞の増殖及び分化につながるTCRが介在するTMシグナル伝達とその後のT細胞活性化の過程の理解は健康及び疾患の双方に極めて重要である。TCRのシグナル伝達における障害は炎症及び他のT細胞関連の疾病につながり得る。
【0007】
高レベルでキメラ抗原受容体(CAR)を発現しているT細胞は受容体クラスタリングのせいで持続性の、抗原とは無関係なシグナル伝達を受ける。そのようなT細胞は、高レベルのPD-1、TIM-3、LAG-3、抗原が誘導するサイトカイン産生の低下及び過剰なプログラム細胞死によって証拠付けされるように、T細胞の疲弊の結果、不十分にしか機能しない。持続性のシグナル伝達は、持続性のシグナル伝達に必要とされる閾値を下回るレベルにCAR関連のTCRシグナル伝達タンパク質(例えば、TCRゼータ)を一時的に低下させることによって防ぐことができる。
【0008】
本発明の実施形態を展開する過程の間に実施された実験は、T細胞受容体のシグナル伝達を阻害する特定のチロシンキナーゼ阻害剤(例えば、Lckチロシンキナーゼ阻害剤(例えば、ダサチニブ))(例えば、Srcファミリーチロシンキナーゼ阻害剤)による処理はT細胞の疲弊マーカーの発現を低下させ、T細胞メモリーの形成を改善することを明らかにした。従って、本発明は、特定のチロシンキナーゼ阻害剤(例えば、ダサチニブ、ポナチニブ)によってT細胞受容体(TCR)のシグナル伝達を一時的に阻害し、T細胞機能を回復させることによってT細胞の疲弊を防ぐまたは元に戻す方法に関する。
【0009】
追加の実験は、ダサチニブまたはポナチニブの存在下で腫瘍細胞と共に共培養したCAR T細胞は、減衰した活性化及び脱顆粒を示し、サイトカインを分泌することができず、腫瘍抗原に応答した殺傷の減衰を示すことを確定した。
【0010】
追加の実験は、ダサチニブがCAR CD3zと同様にCAR架橋後の遠位シグナル伝達タンパク質のリン酸化を強力に阻害することを確定した。
【0011】
追加の実験は、ダサチニブの存在下で増やした持続性にシグナル伝達するCAR T細胞は用量依存性に標準的な疲弊マーカーの発現を低下させ、メモリーを形成する能力を保持し、腫瘍抗原に応答したサイトカイン分泌の増強を示し、増強された細胞傷害を示すことを確定した。
【0012】
追加の実験は、生体内のダサチニブの処理は疲弊マーカーの発現を抑制し、メモリーの形成を増強し、細胞の生存/増殖を促すことを確定した。
【0013】
従って、本明細書で提供されるのは、T細胞の疲弊を防ぐまたは元に戻す組成物及び方法である。特に本発明は、T細胞の疲弊を示しているT細胞を特定のチロシンキナーゼ阻害剤(例えば、ダサチニブ、ポナチニブ)に曝露することによって、または遺伝子操作されたT細胞を特定のチロシンキナーゼ阻害剤(例えば、ダサチニブ、ポナチニブ)の存在下で増やすことによってT細胞の疲弊を防ぐまたは元に戻す方法に関する。
【0014】
特定の実施形態では、本発明はT細胞の疲弊を軽減するために対象を治療する方法を提供し、該方法は、治療上有効な量のチロシンキナーゼ阻害剤を対象に投与することを含む。そのような実施形態は特定のチロシンキナーゼ阻害剤に限定されない。一部の実施形態では、チロシンキナーゼ阻害剤はTCRのシグナル伝達及び/またはCARのシグナル伝達を阻害することができる。一部の実施形態では、チロシンキナーゼ阻害剤はLckキナーゼ阻害剤である。一部の実施形態では、チロシンキナーゼ阻害剤はFynキナーゼ阻害剤である。一部の実施形態では、チロシンキナーゼ阻害剤はSrcファミリーチロシンキナーゼ阻害剤である。一部の実施形態では、チロシンキナーゼ阻害剤はダサチニブまたはポナチニブである。一部の実施形態では、治療は予防的である。
【0015】
そのような方法はT細胞の疲弊について対象を治療する特定のやり方に限定されない。一部の実施形態では、治療は対象にてT細胞によるIL-2の分泌を高める。一部の実施形態では、治療は対象にてT細胞のアポトーシスを減らす。一部の実施形態では、治療はPD-1、TIM-3及びLAG-3から成る群から選択される少なくとも1つのT細胞の疲弊マーカーの発現を低下させる。一部の実施形態では、治療はCD62LまたはCCR7の発現を高める。
【0016】
そのような方法は投与の特定のやり方に限定されない。一部の実施形態では、複数のサイクルの治療が対象に投与される。一部の実施形態では、チロシンキナーゼ阻害剤が間欠的に投与される。一部の実施形態では、チロシンキナーゼ阻害剤は少なくとも部分的なT細胞機能を回復させるのに十分な期間投与され、その後中止される。一部の実施形態では、チロシンキナーゼ阻害剤は経口で投与される。
【0017】
そのような方法は対象の特定の型または種類に限定されない。一部の実施形態では、対象はヒトである。一部の実施形態では、対象は慢性感染症またはがんを有する。
【0018】
特定の実施形態では、本発明は、遺伝子操作したT細胞と治療上有効な量のチロシンキナーゼ阻害剤とを対象に投与することを含む、対象にて免疫系に関連する状態または疾患を治療することを提供する。そのような実施形態は特定のチロシンキナーゼ阻害剤に限定されない。一部の実施形態では、チロシンキナーゼ阻害剤はTCRのシグナル伝達及び/またはCARのシグナル伝達を阻害することができる。一部の実施形態では、チロシンキナーゼ阻害剤はLckキナーゼ阻害剤である。一部の実施形態では、チロシンキナーゼ阻害剤はFynキナーゼ阻害剤である。一部の実施形態では、チロシンキナーゼ阻害剤はSrcファミリーチロシンキナーゼ阻害剤である。一部の実施形態では、チロシンキナーゼ阻害剤はダサチニブまたはポナチニブである。一部の実施形態では、治療は予防的である。一部の実施形態では、チロシンキナーゼ阻害剤及び遺伝子操作したT細胞は同時に及び/または異なる時点で投与される。
【0019】
そのような方法は遺伝子操作したT細胞の特定の型または種類に限定されない。一部の実施形態では、遺伝子操作したT細胞には、CAR T細胞、遺伝子操作したTCRを発現するT細胞、腫瘍浸潤リンパ球(TIL)療法のために構成された遺伝子操作したT細胞、形質導入T細胞療法のために構成された遺伝子操作したT細胞、及び/またはTCRもしくはCARで再操作されたウイルス特異的なT細胞が挙げられるが、これらに限定されない。
【0020】
そのような方法は特定の免疫系に関連する状態または疾患を治療することに限定されない。一部の実施形態では、免疫系に関連する状態または疾患はがんまたは自己免疫の疾患もしくは状態から選択される。
【0021】
特定の実施形態では、本発明は、治療上有効な量のチロシンキナーゼ阻害剤を対象に投与することを含む、対象に投与される遺伝子操作したT細胞に関連する毒性を防ぐ及び/または元に戻す方法を提供する。そのような実施形態は特定のチロシンキナーゼ阻害剤に限定されない。一部の実施形態では、チロシンキナーゼ阻害剤はTCRのシグナル伝達及び/またはCARのシグナル伝達を阻害することができる。一部の実施形態では、チロシンキナーゼ阻害剤はLckキナーゼ阻害剤である。一部の実施形態では、チロシンキナーゼ阻害剤はFynキナーゼ阻害剤である。一部の実施形態では、チロシンキナーゼ阻害剤はSrcファミリーチロシンキナーゼ阻害剤である。一部の実施形態では、チロシンキナーゼ阻害剤はダサチニブまたはポナチニブである。
【0022】
そのような方法は遺伝子操作したT細胞の特定の型または種類に限定されない。一部の実施形態では、遺伝子操作したT細胞には、CAR T細胞、遺伝子操作したTCRを発現するT細胞、腫瘍浸潤リンパ球(TIL)療法のために構成された遺伝子操作したT細胞、形質導入T細胞療法のために構成された遺伝子操作したT細胞、及び/またはTCRもしくはCARで再操作されたウイルス特異的なT細胞が挙げられるが、これらに限定されない。
【0023】
そのような方法は養子T細胞療法の特定の型または種類に限定されない。一部の実施形態では、養子T細胞療法はCAR T細胞療法である。一部の実施形態では、養子T細胞療法は形質導入T細胞療法である。一部の実施形態では、養子T細胞療法は腫瘍浸潤リンパ球(TIL)療法である。
【0024】
そのような方法は対象に投与される遺伝子操作したT細胞に関連する毒性の特定の型または種類に限定されない。一部の実施形態では、対象に投与される遺伝子操作したT細胞に関連する毒性はサイトカイン放出症候群である。一部の実施形態では、対象に投与される遺伝子操作したT細胞に関連する毒性は本来の標的を含む腫瘍以外に対する毒性または標的外の腫瘍以外に対する毒性である。
【0025】
特定の実施形態では、本発明は、遺伝子操作したT細胞の集団を含む組成物を提供し、その際、遺伝子操作したT細胞の集団はチロシンキナーゼ阻害剤の存在下で増やされた。一部の実施形態では、チロシンキナーゼ阻害剤はTCRのシグナル伝達及び/またはCARのシグナル伝達を阻害することができる。一部の実施形態では、チロシンキナーゼ阻害剤はダサチニブまたはポナチニブである。
【0026】
特定の実施形態では、本発明は、チロシンキナーゼ阻害剤の存在下で遺伝子操作したT細胞の集団を増やすことを含む、T細胞の疲弊に耐性を示す遺伝子操作したT細胞の集団を生成する方法を提供する。一部の実施形態では、チロシンキナーゼ阻害剤はTCRのシグナル伝達及び/またはCARのシグナル伝達の阻害剤を阻害することができる。一部の実施形態では、チロシンキナーゼ阻害剤はダサチニブまたはポナチニブである。そのような方法は、遺伝子操作したT細胞の特定の型または種類に限定されない。一部の実施形態では、遺伝子操作したT細胞には、CAR T細胞、遺伝子操作したTCRを発現するT細胞、腫瘍浸潤リンパ球(TIL)療法のために構成された遺伝子操作したT細胞、形質導入T細胞療法のために構成された遺伝子操作したT細胞、及び/またはTCRもしくはCARで再操作されたウイルス特異的なT細胞が挙げられるが、これらに限定されない。そのような方法は、そのような技法が当該技術で周知であるので、特定の増殖技法に限定されない。
【0027】
特定の実施形態では、本発明は、チロシンキナーゼ阻害剤の存在下で増やした遺伝子操作したT細胞の集団を対象に投与することを含む、養子T細胞療法を受けている対象にて免疫系に関連する状態または疾患を治療する方法を提供する。一部の実施形態では、チロシンキナーゼ阻害剤はTCRのシグナル伝達及び/またはCARのシグナル伝達を阻害することができる。一部の実施形態では、チロシンキナーゼ阻害剤はLckキナーゼ阻害剤である。一部の実施形態では、チロシンキナーゼ阻害剤はFynキナーゼ阻害剤である。一部の実施形態では、チロシンキナーゼ阻害剤はSrcファミリーチロシンキナーゼ阻害剤である。一部の実施形態では、チロシンキナーゼ阻害剤はダサチニブまたはポナチニブである。一部の実施形態では、免疫系に関連する状態または疾患はがんまたは自己免疫の疾患もしくは状態から選択される。
【0028】
そのような方法は、遺伝子操作したT細胞の特定の型または種類に限定されない。一部の実施形態では、遺伝子操作したT細胞には、CAR T細胞、遺伝子操作したTCRを発現するT細胞、腫瘍浸潤リンパ球(TIL)療法のために構成された遺伝子操作したT細胞、形質導入T細胞療法のために構成された遺伝子操作したT細胞、及び/またはTCRもしくはCARで再操作されたウイルス特異的なT細胞が挙げられるが、これらに限定されない。
【0029】
そのような方法は、養子T細胞療法の特定の型または種類に限定されない。一部の実施形態では、養子T細胞療法はCAR T細胞療法である。一部の実施形態では、養子T細胞療法は形質導入T細胞療法である。一部の実施形態では、養子T細胞療法は腫瘍浸潤リンパ球(TIL)療法である。
【0030】
本発明は、遺伝子操作したT細胞の集団と特定のチロシンキナーゼ阻害剤(例えば、ダサチニブ、ポナチニブ)を含む組成物とによる養子T細胞療法(例えば、CAR T細胞療法、形質導入T細胞療法、及び腫瘍浸潤リンパ球(TIL)療法)へのがん(例えば、及び/またはがんに関連する疾病)を患う動物(例えば、ヒト)の曝露は、がん細胞または支持細胞の増殖を完全に抑制するであろう、及び/または集団としてのそのような細胞をがん治療薬または放射線療法の細胞死誘導活性にさらに感受性にするであろうことを熟考する。そのような実施形態では、方法は、そのような特定のチロシンキナーゼ阻害剤が、(1)遺伝子操作したT細胞集団の範囲内でのTCRシグナル伝達を調節すること(例えば、PD-1、TIM-3及びLAG-3の1以上の発現を低下させる;メモリーマーカー(例えば、CD62LまたはCCR7)の発現を高める;IL-2及び他のサイトカインの分泌を増やす)、及び(2)遺伝子操作したT細胞集団の範囲内でT細胞の疲弊を防ぐ及び/または元に戻すことが可能であるので、改善された治療法の成果を生じる。従って、本発明は、遺伝子操作したT細胞と特定のチロシンキナーゼ阻害剤(例えば、ダサチニブ、ポナチニブ)と追加のがん治療薬または放射線療法とを対象に(同時に及び/または異なる時点で)投与することを含む、対象にて養子T細胞療法(例えば、CAR T細胞療法、形質導入T細胞療法、及び腫瘍浸潤リンパ球(TIL)療法)でがん(例えば、及び/またはがん関連疾病)を治療する方法を提供する。
【0031】
本発明は、特定のチロシンキナーゼ阻害剤(例えば、ダサチニブ、ポナチニブ)の存在下で増やした遺伝子操作したT細胞の集団による養子T細胞療法(例えば、CAR T細胞療法、形質導入T細胞療法、及び腫瘍浸潤リンパ球(TIL)療法)へのがん(例えば、及び/またはがん関連疾病)を患う動物(例えば、ヒト)の曝露が、がん細胞または支持細胞の成長を完全に抑制し、及び/または集団としてのそのような細胞をがん治療薬または放射線療法の細胞死誘導活性に対してさらに感受性にするであろうことを熟考する。そのような実施形態では、方法は、そのような遺伝子操作したT細胞の集団がT細胞の疲弊に耐性である及び/またはT細胞の疲弊になりにくいので、改善された治療法の成果を生じる。従って、本発明は、特定のチロシンキナーゼ阻害剤(例えば、ダサチニブ、ポナチニブ)の存在下で増やした遺伝子操作したT細胞の集団と追加のがん治療薬または放射線療法とを対象に(例えば、同時に及び/または異なる時点で)投与することを含む、対象にて養子T細胞療法(例えば、CAR T細胞療法、形質導入T細胞療法、及び腫瘍浸潤リンパ球(TIL)療法)でがん(例えば、及び/またはがん関連疾病)を治療する方法を提供する。
【0032】
本発明は、がん治療薬または放射線療法の単独でのみ治療された動物における細胞の対応する比率と比べてがん細胞または支持細胞の大きな比率がアポトーシスのプログラムを実行することに対して感受性になるように、単剤療法で投与された場合、または、例えば、他の細胞死誘導剤もしくは細胞周期を破壊するがん治療剤もしくは放射線療法のような追加の作用物質(複数可)との時間的関係で投与された場合(併用療法)、そのような方法(遺伝子操作したT細胞の集団と特定のチロシンキナーゼ阻害剤(例えば、ダサチニブ、ポナチニブ)を含む組成物とによる養子T細胞療法)(例えば、特定のチロシンキナーゼ阻害剤(例えば、ダサチニブ、ポナチニブ)の存在下で増やした遺伝子操作したT細胞の集団による養子T細胞療法)は複数のがん型の治療について満たされていないニーズを満足させることを熟考する。
【0033】
本発明の特定の実施形態では、そのような方法(遺伝子操作したT細胞の集団と特定のチロシンキナーゼ阻害剤(例えば、ダサチニブ、ポナチニブ)を含む組成物とによる養子T細胞療法)(例えば、特定のチロシンキナーゼ阻害剤(例えば、ダサチニブ、ポナチニブ)の存在下で増やした遺伝子操作したT細胞の集団による養子T細胞療法)による動物の併用治療は、抗がん薬/放射線の単独で治療されたものと比べてそのような動物では大きな腫瘍反応及び臨床的利益を生じる。認可された抗がん薬及び放射線治療すべての用量は知られているので、本発明はそれらのそのような方法との種々の組み合わせを熟考する。
【0034】
がん(例えば、及び/またはがん関連疾病)の非限定の例となるリストには、膵臓癌、乳癌、前立腺癌、リンパ腫、皮膚癌、結腸癌、黒色腫、悪性黒色腫、卵巣癌、脳腫瘍、原発性脳腫瘍、頭頚部癌、神経膠腫、膠芽細胞腫、肝臓癌、膀胱癌、非小細胞肺癌、頭部または頚部の癌腫、乳腺癌、卵巣癌、肺癌、小細胞肺癌、ウィルムス腫瘍、子宮頸癌、精巣癌、膀胱癌、膵臓癌、胃癌、結腸癌、前立腺癌、尿生殖器の癌腫、甲状腺癌、食道癌、黒色腫、多発性黒色腫、副腎癌、腎細胞癌、子宮内膜癌、副腎皮質癌、悪性膵臓膵島細胞腫、悪性カルチノイド癌、絨毛癌、菌状息肉腫、悪性高カルシウム血症、子宮頚部過形成、白血病、急性リンパ性白血病、慢性リンパ性白血病、急性骨髄性白血病、慢性骨髄性白血病、慢性顆粒球性白血病、急性顆粒球性白血病、ヘアリー細胞白血病、神経芽細胞腫、横紋筋肉腫、カポジ肉腫、真性赤血球増加症、本態性血小板血症、ホジキン病、非ホジキンリンパ腫、軟組織肉腫、骨肉腫、原発性マクログロブリン血症、及び網膜芽細胞腫、等、T及びB細胞が介在する自己免疫疾患、炎症性疾患;感染症;過剰増殖性疾患;AIDS;変性状態、血管疾患、等が挙げられるが、これらに限定されない。一部の実施形態では、治療されるがん細胞は転移性である。他の実施形態では、治療されるがん細胞は抗がん剤に耐性である。
【図面の簡単な説明】
【0035】
【
図1】GD2.28z.FKBP CARの特徴。活性化の1日後、GD2.28z.FKBP CARをコードするレンチウイルスでT細胞に形質導入し、その後T細胞を増殖培地にて種々の濃度のShield-1と共に培養した。7日目にFACSを介してCARの発現を定量した。
【
図2】培養培地からのS1の除去はT細胞の疲弊マーカーの表面発現の反転を生じることを示す図である。
【
図3】培養培地からのS1の除去はCD62L発現の維持及びアポトーシスの阻止を生じることを示す図である。
【
図4】培養培地からのS1の除去は機能性T細胞の疲弊の反転を生じることを示す図である。
【
図5】表面CARの除去はPD-1/PD-L1遮断と比べてT細胞の疲弊のさらに効果的な予防を生じることを示す図である。
【
図6】表面CARの除去は、たった4日後にPD-1/TIM-3/LAG-3三重陽性CAR T細胞における疲弊を救済することを示す図である。
【
図7】ダサチニブは腫瘍抗原に応答したCAR T細胞のサイトカイン分泌を阻害することを示す図である。
【
図8】ダサチニブは疲弊マーカーの発現及び共発現を反転することを示す図である。
【
図9】ダサチニブ処理はCD62Lの発現の維持を生じることを示す図である。
【
図10】ダサチニブ処理は腫瘍抗原に応答したIL-2及びIFNγの分泌の増強を生じることを示す図である。
【
図11】ダサチニブまたはポナチニブの存在下で腫瘍細胞と共培養したCAR T細胞は減衰した活性化及び脱顆粒を示す。示したように、CD19.28z CAR T細胞を種々の濃度のダサチニブまたはポナチニブの存在下または非存在下で少なくとも48時間培養した。次いでCAR T細胞をCD19を持つNalm6腫瘍細胞と共に6時間共培養した。その後CD69及びCD107aの表面発現をFACSによって評価した。プロットはCD8+CAR+の集団にゲートをかけた細胞を示す。そのような結果は、腫瘍に応答してCD19.28z CAR T細胞の80%が活性化し(表面CD69は活性化の代用である)、脱顆粒する(表面CD107aは脱顆粒の代用である)ことを明らかにしている。しかしながら、ダサチニブ及びポナチニブはこの方法で腫瘍に応答するCAR T細胞の能力を用量依存性に阻害する。
【
図12】ダサチニブまたはポナチニブの存在下で腫瘍細胞と共培養したCAR T細胞はサイトカインを分泌できないことを示す図である。示したように、種々の濃度のダサチニブまたはポナチニブの存在下または非存在下で、高親和性のGD2.28z(HA-GD2.28z)CAR T細胞を、GD2を過剰発現しているnalm6と24時間共培養した。次いで上清を回収し、IL-2及びIFNγについてELISAによって解析した。これらの結果は、HA-GD2.28z CARを用いて、ダサチニブ及びポナチニブが腫瘍に応答したIL-2及びIFNγのCAR T細胞による分泌を阻害することを明らかにしている。
【
図13】ダサチニブの存在下で培養したCAR T細胞は腫瘍抗原に応答して減衰した殺傷を示すことを示す図である。1uMのダサチニブまたは溶媒(DMSO)の存在下でCD19.BBz CAR T細胞を、GFPレポーターを発現しているnalm6腫瘍細胞と共に72時間共培養するincucyteアッセイを実施した。腫瘍のGFPの蛍光を経時的に測定した。GFPの値を最初の時点での蛍光強度に対して基準化した。これらの結果はダサチニブが腫瘍を殺傷するCD19.28z CARの能力を鈍らせることを明らかにしている。
図11、12及び13は、ダサチニブまたはポナチニブが所与の患者にて有害効果を有しているCAR T細胞について迅速で且つ可逆的な安全装置「オフ」スイッチとして役立ち得ることを明らかにしている。
【
図14】ダサチニブはCARの架橋の後のCAR CD3zと同様に遠位シグナル伝達タンパク質のリン酸化を強力に阻害することを示す図である。1uMのダサチニブまたは溶媒にて培養した2×10
6個のHA-GD2.28z CAR T細胞を活性化の10日後、培養物から取り出した。次いでイディオタイプ一次抗体と架橋二次抗体を5ug/mLで細胞に加え、CARを介してシグナル伝達を開始した。ここで示すように、ダサチニブは、CAR上のCD3zドメインの架橋が誘導するリン酸化と同様に遠位シグナル伝達キナーゼAkt及びERK1/2のリン酸化を強力に阻害する。これはn=3の独立した実験の代表的ブロットである。
【
図15】ダサチニブの存在下で増やした持続性にシグナル伝達するCAR T細胞は用量依存性に標準の疲弊マーカーの発現の低下を示す。種々の濃度のダサチニブまたは溶媒(DMSO)の存在下でHA-GD2.28z CAR T細胞を増やした。活性化の14日後、細胞を培養物から取り出し、染色し、その疲弊の表現型をFACSによって解析した。3つの独立した実験からの代表的なプロット。
図15A:CAR+T細胞の標準的な疲弊マーカーの発現。
図15B:CAR+CD4+(左)またはCAR+CD8+(右)の疲弊マーカーの同時発現。これらの結果は、HA-GD2.28z CARが抗原の非存在下で持続性にシグナルを送り、それは、複数の抑制性受容体の発現、メモリー形成の欠如及びエフェクター機能の低下によって定義されるようなT細胞の疲弊を最終的に誘導することを明らかにしている。
図14は、ダサチニブの存在下で増えているHA-GD2.28z CAR T細胞が疲弊マーカーの(a)単一発現または(b)同時発現を用量依存性に減衰させることを明らかにしている。
【
図16】ダサチニブの存在下で増やした持続性にシグナル伝達するCAR T細胞はメモリーを形成する能力を保持することを示す図である。1uMのダサチニブまたは溶媒(DMSO)の存在下または非存在下でCD19.28zまたはHA-GD2.28zを増やした。活性化の14日後、FACS解析のために細胞を培養物から取り出した。この代表的なプロットはCAR+T細胞を示す。赤いボックスはCA45RAが低くCCR7が高い集団を強調し、それはセントラルメモリー様T細胞に相当する。これらの結果は、ダサチニブにて増やしている持続性にシグナル伝達するHA-GD2.28z CAR T細胞も、本明細書においてセントラルメモリー様T細胞に相当するCA45RAが低くCCR7が高い集団の顕著な増加によって明らかにされた、メモリー形成も増強することを明らかにしている。
【
図17】ダサチニブの存在下で増やした持続性にシグナル伝達するCAR T細胞は腫瘍抗原に応答したサイトカイン分泌の増強を示す。種々の濃度のダサチニブまたはポナチニブの存在下または非存在下でHA-GD2.28z CAR T細胞を増やした。T細胞が腫瘍に応答してシグナルを送る能力を取り戻すのを可能にするために、GD2を過剰発現しているnalm6腫瘍細胞との共培養の24時間前に薬剤をT細胞から取り除いた。24時間後、上清を回収し、IL-2及びIFNγの分泌をELISAによって評価した。
図11、12、13、15及び16は、ダサチニブ及びポナチニブがCAR T細胞のシグナル伝達及び機能を阻害することができることを明らかにしている。
図17は、これらの薬剤の存在下での持続性にシグナル伝達するHA-GD2.28z CAR T細胞の増殖とその後、腫瘍細胞との共培養に先立って薬剤を取り除くことがIL-2及びIFNγの増強を生じることを示している。
【
図18】ダサチニブの存在下で増やした持続性にシグナル伝達するCAR T細胞は細胞傷害の増強を示す。HA-GD2.28z CAR T細胞をダサチニブまたは溶媒(DMSO)の存在下または非存在下で96時間増やした。活性化の14日後、T細胞が1:8のE:T比で、GD2を過剰発現しているnalm6腫瘍と共に共培養されるIncucyteアッセイの24時間前にダサチニブをT細胞から取り除いた。腫瘍のGFPの蛍光を経時的に測定した。GFPの値を最初の時点での蛍光強度に対して基準化した。これらの結果は、増殖の間に培養培地にダサチニブを含めることによってHA-GD2.28z CAR T細胞の持続性のシグナル伝達を阻害することと、その後の共培養に先立つダサチニブの除去は腫瘍を殺傷するこれらCAR T細胞の能力を救済することを明らかにしている。
【
図19】ダサチニブの存在下または非存在下でのGD2を過剰発現しているNalm6を示す図である。0.5×10
6個の143B腫瘍細胞をマウスの脚で筋肉内に生着させた。生着後3日目に、ダサチニブまたは溶媒(DMSO)の存在下で増やした10×10
6個のGD2.BBz CAR T細胞をマウスの静脈内に注入した。左のプロットは脚面積の平均値±SEM(n=5匹のマウス)を示す。
図19及び20は、
図14、15、16及び17の知見を生体内の環境で繰り返す。ダサチニブにて様々な型のCAR(GD2.BBz,HA-GD2.28z)を培養し、次いでそれらを生体内に注入することはそれらの抗腫瘍機能を増強する。
【
図20A】0.5×10
6個の143B腫瘍細胞をマウスの脚で筋肉内に生着させた。生着後3日目に、ダサチニブまたは溶媒(DMSO)の存在下で増やした10×10
6個のHA-GD2.28z CAR T細胞をマウスの静脈内に注入した。上のプロットは脚面積の平均値±SEM(n=5匹のマウス)を示す。
図19及び20は、
図14、15、16及び17の知見を生体内の環境で繰り返す。ダサチニブにて様々な型のCAR(GD2.BBz,HA-GD2.28z)を培養し、次いでそれらを生体内に注入することはそれらの抗腫瘍機能を増強する。
【
図20B】1×10
6個のGD2を過剰発現しているnalm6腫瘍細胞をマウスに静脈内で生着させた。生着後3日目に、ダサチニブまたは溶媒(DMSO)の存在下で増やした2×10
6個のCAR+HA-GD2.28z CAR T細胞をマウスの静脈内に注入した。上のプロットは腫瘍の発光の平均値±SEM(n=5匹のマウス)を示す。
図19及び20は、
図14、15、16及び17の知見を生体内の環境で繰り返す。ダサチニブにて様々な型のCAR(GD2.BBz,HA-GD2.28z)を培養し、次いでそれらを生体内に注入することはそれらの抗腫瘍機能を増強する。
【
図21】1×10
6個のGD2を過剰発現しているnalm6腫瘍細胞をマウスに静脈内で生着させた。生着後3日目に、ダサチニブまたは溶媒(DMSO)の存在下で増やした2×10
6個のHA-GD2.28z CAR T細胞をマウスの静脈内に注入した。生着後17日目に、各マウスから血液試料を採取し、計数ビーズと混合した。FACS解析を行い、各マウスについてCD4+及びCD8+細胞の数を算出した。このプロットはマウス当たりのCD4+またはCD8+細胞の平均値±SEM(n=5匹のマウス)を示す。
図21はダサチニブが機能を増強するメカニズムの1つを明らかにしている。ダサチニブで処理したCAR T細胞をマウスに注入した後、血液試料を採取し、腫瘍に応答した生体内のCAR T細胞の増殖の典型的な読み出しである、循環しているCAR T細胞の数を分析した。溶媒のHA-GD2.28z CAR T細胞は、これらの細胞が当初マウスに注入されたとき疲弊していた可能性があるので、偽物T細胞よりも著しく多い生体内での増殖を示さなかった。しかしながら、ダサチニブで増やしたCAR T細胞はその抗腫瘍機能を保持していたので、生体内で確実に増殖した。
【
図22】
図22A、
図22B、
図22C、
図22D、
図22E:生体内でのダサチニブ処理は、疲弊マーカーの発現を抑制し、メモリー形成を増強し、細胞の生存/増殖を促進することを示す図である。静脈内注入を介してマウスに1×10
6個のGD2を過剰発現しているnalm6腫瘍細胞を生着させた。生着後4日目に、2×10
6個のHA-GD2.28z CAR T細胞を静脈内でマウスに注入した。腫瘍の生着後21~23日目に50mg/kgのダサチニブをマウスに腹腔内注射で投与した。23日目のダサチニブ投与の5時間後、溶媒を受け入れているマウス1匹及びダサチニブを受け入れているマウス1匹を安楽死させ、脾臓/血液を採取し、表面を染色し、FACSによって表現型を調べた。(A及びC)溶媒対照と対比してダサチニブで処理したマウスではCAR+T細胞は循環全細胞(A)または脾臓全細胞の高い比率を構成した。(B及びD)溶媒で処理したマウス(赤色)とは対照的に、ダサチニブで処理したマウス(青色)における循環または脾臓のCD8+CAR+T細胞が非活性化T細胞または休止T細胞に一致する表現型を示したということは、ダサチニブが生体内でCAR T細胞の活性化を抑止し、メモリー形成を誘導した(すなわち、高いCD62Lの発現)ことを示している。(E)腫瘍の生着後27~29日目に、マウス1匹に毎日50mg/kgのダサチニブを投与し、異なるマウスに溶媒対照を投与した。30~32日目はマウスは処理されなかった。32日目に腫瘍の発光を評価した。ダサチニブ投与の3日間は、抗腫瘍反応の強固な再活性化を誘導するのに十分だった(青色)。これらのデータはダサチニブの反復投与が生体内で疲弊したT細胞を再活性化し得ることを示している。
【
図23】CD19.28z(FMC63 scFv)の核酸配列及びアミノ酸配列である。
【
図24】CD19.BBz(FMC63 scFv)の核酸配列及びアミノ酸配列である。
【
図25】GD2.BBz(14G2a scFv)の核酸配列及びアミノ酸配列である。
【
図26】HA-GD2.28z(高親和性14G2a scFv)の核酸配列及びアミノ酸配列である。
【発明を実施するための形態】
【0036】
[定義]
本明細書及び添付のクレームで使用されるとき、内容が明瞭に指示しない限り、単数形態「a」、「an」及び「the」は複数の指示対象を含むことが言及されなければならない。従って、例えば、「a T細胞」への言及は2以上のT細胞、等を含む。
【0037】
特に所与の量を参照して用語「約」はプラスまたはマイナス5パーセントの偏差を包含することにする。
【0038】
用語「キメラ抗原受容体」または「CAR」は本明細書で使用されるとき、免疫エフェクター細胞上で発現され、抗原を特異的に結合するように操作される人工的なT細胞受容体を指す。CARは養子細胞移入による治療法として使用されてもよい。T細胞が患者から取り除かれ、それらが抗原の特定の形態に特異的な受容体を発現するように修飾される。一部の実施形態では、CARは、例えば、腫瘍関連抗原に対する特異性と共に発現されている。CARはまた、細胞内活性化ドメインと、膜貫通ドメインと、腫瘍関連抗原結合領域を含む細胞外ドメインとを含んでもよい。CAR設計の特異性は受容体のリガンド(例えば、ペプチド)に由来してもよい。一部の実施形態では、CARは、腫瘍関連抗原に特異的なCARを発現するT細胞の特異性を再方向付けすることによってがんを標的とすることができる。
【0039】
「薬学上許容できる賦形剤またはキャリア」は、任意で本発明の組成物に含められてもよく、且つ患者に対する著しい有害毒性効果を引き起こさない賦形剤を指す。
【0040】
「薬学上許容できる塩」には、アミノ酸塩、無機酸と共に調製される塩、例えば、塩化物塩、硫酸塩、リン酸塩、二リン酸塩、臭化物塩及び硝酸塩、または先行のいずれかの相当する無機酸形態から調製される塩、例えば、塩酸塩、等、または有機酸と共に調製される塩、例えば、リンゴ酸塩、マレイン酸塩、フマル酸塩、酒石酸塩、コハク酸塩、エチルコハク酸塩、クエン酸塩、酢酸塩、乳酸塩、メタンスルホン酸塩、安息香酸塩、アスコルビン酸塩、パラ-トルエンスルホン酸塩、パモ酸塩、サリチル酸塩及びステアリン酸塩、と同様にエストール酸塩、グルセプト酸塩、及びラクトビオン酸塩が挙げられるが、これらに限定されない。同様に、薬学上許容できるカチオンを含有する塩にはナトリウム、カリウム、カルシウム、アルミニウム、リチウム、及びアンモニウム(置換されたアンモニウムを含む)が挙げられるが、これらに限定されない。
【0041】
用語「T細胞」は当該技術で定義されているようなTリンパ球を指し、胸腺細胞、未成熟Tリンパ球、成熟Tリンパ球、休止Tリンパ球または活性化Tリンパ球を含むように意図される。T細胞はCD4+T細胞、CD8+T細胞、CD4+CD8+T細胞またはCD4-CD8-T細胞であることができる。T細胞はまた、Tヘルパー細胞、例えば、Tヘルパー1(TH1)またはTヘルパー2(TH2)細胞またはTH17細胞、と同様に細胞傷害性T細胞、調節性T細胞、ナチュラルキラーT細胞、ナイーブT細胞、メモリーT細胞またはガンマデルタT細胞であることもできる。
【0042】
T細胞は、T細胞の精製された集団であることができ、または代わりにT細胞は様々な型、例えば、B細胞及び/または他の末梢血細胞と共に集団に存在することができる。T細胞は、例えば、CD4+T細胞のようなT細胞のサブセットの精製された集団であることができ、またはそれらはT細胞の様々なサブセットを含むT細胞の集団であることができる。本発明の別の実施形態では、T細胞は長い時間、培養物で維持されているT細胞クローンである。T細胞クローンは様々な程度に形質転換することができる。具体的な実施形態では、T細胞は培養物で無制限に増殖するT細胞クローンである。
【0043】
一部の実施形態では、T細胞は初代T細胞である。用語「初代T細胞」は、長い間、培養物で維持されているT細胞とは対照的に、個体から得られたT細胞を含むように意図される。従って、初代T細胞は特に対象から得られる末梢血T細胞である。初代T細胞の集団は大部分T細胞の1つのサブセットで構成され得る。あるいは、初代T細胞の集団はT細胞の様々なサブセットで構成され得る。
【0044】
T細胞は、健常個体の以前保存された血液試料に由来することができ、または代わりに病気に冒された個体に由来することができる。病気は感染性疾患、例えば、ウイルス感染、細菌感染もしくは他の微生物による感染から生じる病気、または過剰増殖性疾患、例えば、黒色腫のようながんであることができる。本発明のさらに別の実施形態では、T細胞は自己免疫疾患またはT細胞病態を患っている対象またはそれに罹り易い対象に由来する。T細胞はヒト起源、マウス起源、または他の哺乳類起源であることができる。
【0045】
「T細胞の疲弊」は感染または疾患の結果として発生してもよいT細胞機能の喪失を指す。T細胞の疲弊はPD-1、TIM-3及びLAG-3の高い発現、アポトーシス及びサイトカイン分泌の低下に関連する。
【0046】
TCRシグナル伝達の阻害剤(例えば、ダサチニブ)の「治療上有効な用量または量」によって、本明細書に記載されているように投与されると、T細胞の疲弊の治療にて前向きな治療反応、例えば、回復したT細胞機能につながる量が意図される。改善されたT細胞機能には、PD-1、TIM-3及びLAG-3の発現の低下、メモリーマーカー(例えば、CD62LまたはCCR7)の維持、アポトーシスの阻止、ならびにIL-2及び他のサイトカインの分泌の増加が挙げられてもよい。必要とされる正確な量は、対象の種、年齢、及び一般状態、治療される病気の重症度、採用される特定の薬剤(複数可)、投与の方式、等に応じて各対象で変化するであろう。個々の症例で適当な「有効」量は、本明細書で提供される情報に基づいて日常の実験を用いて当業者によって決定されてもよい。
【0047】
用語「対象」、「個体」及び「患者」は本明細書では相互交換可能に使用され、限定しないでヒト及び例えば、チンパンジー及び他の類人猿及びサル種のような非ヒト霊長類を含む他の霊長類;例えば、ウシ、ヒツジ、ブタ、ヤギ及びウマのような家畜動物;例えば、イヌ及びネコのような愛玩動物;例えば、マウス、ラット及びモルモットのような齧歯類を含む実験動物;例えば、ニワトリ、シチメンチョウ、及び他のキジ目の家禽、アヒル、ガチョウ、等のような家禽、野生鳥及び狩猟鳥を含む鳥類を含む脊椎動物対象を指す。その用語は特定の年齢を意味しない。従って、成熟個体及び新生児個体の双方が対象とされるように意図される。
【0048】
本発明は、ヒトT細胞におけるTCRシグナル伝達及び/またはCARシグナル伝達の一時的な阻害または調節がT細胞の疲弊を防ぎまたは元に戻し、T細胞の機能を回復させるという発見に基づく。本発明者らは、GD2-CARを発現しているT細胞が、PD-1、TIM-3及びLAG-3の疲弊マーカーの発現によって提示される機能的な疲弊を発生することを示している。持続性のシグナル伝達の停止は腫瘍抗原に応答してIL-2を分泌するT細胞の能力を回復させる。本発明者らはさらに、T細胞受容体のシグナル伝達を阻害するLckチロシンキナーゼ阻害剤であるダサチニブによる処理がT細胞の疲弊マーカーの発現を低下させ、T細胞メモリーの維持を改善することを示した。
【0049】
タンパク質チロシンキナーゼはタンパク質基質におけるチロシン残基へのアデノシン三リン酸の末端リン酸の転移を触媒する酵素のファミリーである。タンパク質基質におけるチロシン残基のリン酸化は、例えば、免疫系の細胞、例えば、T細胞の成長及び活性化のような多種多様な細胞内過程を調節する細胞内シグナルの伝達につながる。T細胞の活性化は多数の炎症性の病気及び免疫系の他の疾病(例えば、自己免疫疾患)に関与するので、タンパク質チロシンキナーゼの活性の調節は炎症性疾患の管理にとって魅力的な経路であると思われる。例えば、インスリン受容体のような受容体タンパク質チロシンキナーゼ、または非受容体タンパク質チロシンキナーゼであってもよい多数のタンパク質チロシンキナーゼが同定されている。
【0050】
Srcファミリーのタンパク質チロシンキナーゼは炎症反応に関連する細胞内シグナル伝達に特に重要であることが見いだされている(例えば、D.Okutani,et al.,Am.J.Physiol.Lung Cell MoI.Physiol.291,2006,pp.L129-L141;CA.Lowell,MoI.Immunol.41,2004,pp.631-643を参照のこと)。Srcファミリーのタンパク質チロシンキナーゼの一部、例えば、Src、Yes及びFynが種々の細胞型及び組織で発現される一方で、他の発現は特定の細胞型、例えば、造血細胞に制約される。従って、T細胞受容体の下流で活性化される最初のシグナル伝達分子及びその活性がT細胞のシグナル伝達に必須なため、タンパク質チロシンキナーゼLckはほぼ独占的にT細胞で発現される。Hck、Lyn及びFgrの発現は成熟単球及びマクロファージにおいてLPSのような炎症性刺激によって高められる。また、主要B細胞のSrcファミリーキナーゼ、すなわち、Lyn、Fyn及びBlkの遺伝子発現が破壊されると、未熟B細胞が成熟B細胞に発達するのが妨げられる。Srcファミリーキナーゼはまた、単球、マクロファージ及び好中球の動員及び活性化に必須であるとして、と同様に組織細胞の炎症反応に関与するとして同定されている。
【0051】
言及されたように、受容体チロシンキナーゼは、細胞間情報伝達とシグナル伝達経路の中継点としてのその機能とに介在するシグナル伝達経路の必須成分である。それらは、細胞の増殖及び分化を制御する、細胞成長及び細胞性代謝を調節する、ならびに細胞の生存及びアポトーシスを促進する多数の過程で重要な役割を有する。Lck(p56lckまたはリンパ球特異的キナーゼ)はT細胞及びナチュラルキラー(NK)細胞で発現されるSrcファミリーの細胞質チロシンキナーゼである。ノックアウトマウス及びヒト突然変異に由来する遺伝的証拠は、Lckキナーゼ活性が正常なT細胞の発生及び活性化につながるT細胞受容体(TCR)が介在するシグナル伝達に決定的に重要であることを明らかにしている。そのようなものとして、Lckの選択的阻害はT細胞が介在する自己免疫疾患及び炎症性疾患及び/または臓器移植拒絶の治療に有用である。
【0052】
本発明はさらに、Lckキナーゼ阻害剤であるダサチニブ及び受容体チロシンキナーゼ阻害剤であるポナチニブが養子T細胞療法(例えば、CAR T細胞療法)の分野に現在立ち向かう幾つかの重要な難題に対処する潜在力を有するという発見に基づく。第1に、これらの薬剤はCARのシグナル伝達を強力に阻害することが示されたが、それは、CAR活性を調節するため、CARの毒性を軽減する一方で、CAR T細胞の機能に対するダサチニブ及びポナチニブの阻害効果は可逆的であるとしていったん毒性が解消するときに治療法を継続する選択肢を維持する方法を提供する。第2に、ダサチニブまたはポナチニブの存在下でのCAR T細胞の増殖はCARの持続性のシグナル伝達を防ぎ、次にCAR T細胞の機能的能力を高めることが示された。最後に、反復薬剤投与を介して生体内でCAR T細胞の短期の「休止」を提供することはそれによってCAR T細胞の疲弊を防ぐことまたは元に戻すことができ、及び/またはメモリーを誘導することができる1つの方法であることが示された。
【0053】
従って、本明細書で提供されるのは、T細胞の疲弊を防ぐまたは元に戻す組成物及び方法である。特に、本発明は、T細胞の疲弊を示しているT細胞を特定のチロシンキナーゼ阻害剤(例えば、ダサチニブ、ポナチニブ)に曝露することによって、または特定のチロシンキナーゼ阻害剤(例えば、ダサチニブ、ポナチニブ)の存在下で遺伝子操作したT細胞を増やすことによってT細胞の疲弊を防ぐまたは元に戻す方法に関する。
【0054】
そのようなものとして、本発明は、遺伝子操作したT細胞の集団による養子T細胞療法(例えば、CAR T細胞療法、形質導入T細胞療法、及び腫瘍浸潤リンパ球(TIL)療法)を受けている動物(例えば、ヒト)の、特定のチロシンキナーゼ阻害剤(例えば、ダサチニブ、ポナチニブ)を含む組成物への曝露は、特定のチロシンキナーゼ阻害剤が(1)遺伝子操作したT細胞の集団内でTCRシグナル伝達を調節すること(例えば、PD-1、TIM-3及びLAG-3の1以上の発現を低下させること;メモリーマーカー(例えば、CD62LまたはCCR7)の発現を高めること;IL-2及び他のサイトカインの分泌を増やすこと)、(2)遺伝子操作したT細胞の集団内でT細胞の疲弊を防ぐこと及び/または元に戻すことが可能であるため、改善された治療成果を生じるであろうことを熟考する。実際、本発明は、養子T細胞療法内での特定のチロシンキナーゼ阻害剤(例えば、ダサチニブ、ポナチニブ)(例えば、Srcファミリーキナーゼ阻害剤)(例えば、Lck阻害剤)の使用は、そのような治療法の有効性がT細胞の疲弊を示しているそのようなT細胞集団によって損なわれることが多いので満たされていないニーズを満足させる。従って、本発明は、遺伝子操作したT細胞と特定のチロシンキナーゼ阻害剤(例えば、ダサチニブ、ポナチニブ)とを対象に(例えば、同時に及び/または異なる時点で)投与することを含む、対象にて免疫系に関連する状態または疾患(例えば、がん)を治療する方法を提供する。そのような方法は遺伝子操作したT細胞の特定の型または種類に限定されない。一部の実施形態では、遺伝子操作したT細胞には、CAR T細胞、遺伝子操作したTCRを発現しているT細胞、腫瘍浸潤リンパ球(TIL)療法のために構成された遺伝子操作したT細胞、形質導入T細胞療法のために構成された遺伝子操作したT細胞、及び/またはTCRもしくはCARで再操作したウイルス特異的T細胞が挙げられるが、これらに限定されない。
【0055】
そのようなチロシンキナーゼ阻害剤は投与の好適な方式によって投与されてもよいが、通常、経口で投与される。複数サイクルの治療が対象に施されてもよい。特定の実施形態では、チロシンキナーゼ阻害剤は毎日の投与計画に従って、または間欠的に投与される。別の実施形態では、チロシンキナーゼ阻害剤は少なくとも部分的なT細胞機能を回復させるのに十分な期間投与され、次いで中止される。
【0056】
本発明は、特定のチロシンキナーゼ阻害剤(例えば、ダサチニブ、ポナチニブ)を伴ったT細胞の集団の生体外増殖がT細胞の疲弊に耐性である及び/またはそれに罹りにくい集団T細胞を生じるであろうことを熟考する。従って、本発明は、特定のチロシンキナーゼ阻害剤(例えば、ダサチニブ、ポナチニブ)(例えば、Srcファミリーキナーゼ阻害剤)(例えば、Lck阻害剤)の存在下で増やしたT細胞の集団を含む組成物を提供する。従って、本発明は、特定のチロシンキナーゼ阻害剤(例えば、ダサチニブ、ポナチニブ)の存在下でT細胞の集団を増やし、そのようなT細胞を増やすことを介してT細胞の疲弊に耐性である及び/または罹りにくいT細胞の集団を生成する方法を提供する。従って、本発明は、特定のチロシンキナーゼ阻害剤(例えば、ダサチニブ、ポナチニブ)の存在下で増やしたT細胞の集団と、追加の作用物質(例えば、T細胞を増やすのに有用な追加の作用物質)(例えば、養子T細胞療法(例えば、CAR T細胞療法、形質導入T細胞療法、及び腫瘍浸潤リンパ球(TIL)療法)で有用な追加の作用物質)とを含むキットを提供する。そのような方法は遺伝子操作したT細胞の特定の型または種類に限定されない。一部の実施形態では、遺伝子操作したT細胞には、CAR T細胞、遺伝子操作したTCRを発現しているT細胞、腫瘍浸潤リンパ球(TIL)療法のために構成された遺伝子操作したT細胞、形質導入T細胞療法のために構成された遺伝子操作したT細胞、及び/またはTCRもしくはCARで再操作したウイルス特異的T細胞が挙げられるが、これらに限定されない。
【0057】
本発明は、特定のチロシンキナーゼ阻害剤(例えば、ダサチニブ、ポナチニブ)(例えば、Srcファミリーキナーゼ阻害剤)(例えば、Lck阻害剤)を伴った遺伝子操作したT細胞(例えば、養子T細胞療法(例えば、CAR T細胞療法、形質導入T細胞療法、及び腫瘍浸潤リンパ球(TIL)療法)内で使用するために遺伝子操作された)の集団の生体外増殖は、T細胞の疲弊に耐性である及び/または罹りにくい遺伝子操作したT細胞を生じるであろうことを熟考する。従って、本発明は、特定のチロシンキナーゼ阻害剤(例えば、ダサチニブ、ポナチニブ)の存在下で増やした遺伝子操作したT細胞の集団を含む組成物を提供する。従って、本発明は、特定のチロシンキナーゼ阻害剤(例えば、ダサチニブ、ポナチニブ)の存在下で遺伝子操作したT細胞の集団を増やし、そのようなT細胞を増やすことを介してT細胞の疲弊に耐性である及び/または罹りにくい遺伝子操作したT細胞の集団を生成する方法を提供する。従って、本発明は、特定のチロシンキナーゼ阻害剤(例えば、ダサチニブ、ポナチニブ)の存在下で増やした遺伝子操作したT細胞の集団を含むキットを提供する。そのような方法は遺伝子操作したT細胞の特定の型または種類に限定されない。一部の実施形態では、遺伝子操作したT細胞には、CAR T細胞、遺伝子操作したTCRを発現しているT細胞、腫瘍浸潤リンパ球(TIL)療法のために構成された遺伝子操作したT細胞、形質導入T細胞療法のために構成された遺伝子操作したT細胞、及び/またはTCRもしくはCARで再操作したウイルス特異的T細胞が挙げられるが、これらに限定されない。
【0058】
本発明は、特定のチロシンキナーゼ阻害剤(例えば、ダサチニブ、ポナチニブ)の存在下で増やした遺伝子操作したT細胞の集団による養子T細胞療法(例えば、CAR T細胞療法、形質導入T細胞療法、及び腫瘍浸潤リンパ球(TIL)療法)を受けている動物(例えば、ヒト)の曝露は、そのような遺伝子操作したT細胞の集団がT細胞の疲弊に耐性である及び/または罹りにくいので改善された治療成果を生じるであろうことを熟考する。従って、本発明は、特定のチロシンキナーゼ阻害剤(例えば、ダサチニブ、ポナチニブ)(例えば、Srcファミリーキナーゼ阻害剤)(例えば、Lck阻害剤)の存在下で増やした遺伝子操作したT細胞の集団を投与することを含む、対象にて免疫系に関連する状態または疾患(例えば、がん)を治療する方法を提供する。そのような方法は遺伝子操作したT細胞の特定の型または種類に限定されない。一部の実施形態では、遺伝子操作したT細胞には、CAR T細胞、遺伝子操作したTCRを発現しているT細胞、腫瘍浸潤リンパ球(TIL)療法のために構成された遺伝子操作したT細胞、形質導入T細胞療法のために構成された遺伝子操作したT細胞、及び/またはTCRもしくはCARで再操作したウイルス特異的T細胞が挙げられるが、これらに限定されない。
【0059】
そのような実施形態は免疫系に関連する状態または疾患の特定の型または種類に限定されない。
【0060】
例えば、一部の実施形態では、免疫系に関連する状態または疾患は、自己免疫の疾患または状態(例えば、後天性免疫不全症候群(AIDS)、円形脱毛症、強直性脊椎炎、抗リン脂質症候群、自己免疫性アジソン病、自己免疫性溶血性貧血、自己免疫性肝炎、自己免疫性内耳疾患(AIED)、自己免疫性リンパ球増殖性症候群(ALPS)、自己免疫性血小板減少性紫斑病(ATP)、ベーチェット病、心筋症、スプルー疱疹状皮膚炎、慢性疲労性免疫不全症候群(CFIDS)、慢性炎症性脱髄性多発性神経炎(CIPD)、瘢痕性類天疱瘡、寒冷凝集素症、クレスト症候群、クローン病、ドゴー病、若年性皮膚筋炎、円板状ループス、本態性混合型クリオグロブリン血症、線維筋痛症・線維筋炎、グレーブス病、ギランバレー症候群、ハシモト甲状腺炎、特発性肺線維症、特発性血小板減少性紫斑病(ITP)、IgA腎症、インスリン依存性糖尿病、若年性慢性関節炎(スチル病)、若年性関節リウマチ、メニエール病、混合型結合組織疾患、多発性硬化症、重症筋無力症、悪性貧血、結節性多発動脈炎、多発性軟骨炎、多腺性症候群、リウマチ性多発筋痛、多発性筋炎及び皮膚筋炎、原発性無ガンマグロブリン血症、原発性胆汁性肝硬変、乾癬、乾癬関節炎、レイノー現象、ライター症候群、リウマチ熱、関節リウマチ、サルコイドーシス、強皮症(進行性全身性硬化症(PSS)、全身性硬化症(SS)としても知られる)、シェーグレン症候群、スティフマン症候群、全身性エリテマトーデス、タカヤス動脈炎、側頭動脈炎/巨細胞動脈炎、潰瘍性大腸炎、ブドウ膜炎、白斑、ウェグナー肉芽腫症、及びそれらの組み合わせ)である。
【0061】
例えば、一部の実施形態では、免疫系に関連する状態または疾患はがん(例えば、乳癌、前立腺癌、卵巣癌、子宮頸癌、皮膚癌、膵臓癌、結腸直腸癌、腎臓癌、肝臓癌、脳腫瘍、リンパ腫、白血病、肺癌及び甲状腺癌)である。
【0062】
本発明は、養子T細胞療法(例えば、CAR T細胞療法、形質導入T細胞療法、及び腫瘍浸潤リンパ球(TIL)療法)内での特定のチロシンキナーゼ阻害剤(例えば、ダサチニブ、ポナチニブ)の存在下で増やした遺伝子操作したT細胞の集団の使用は、T細胞の疲弊を示しているそのようなT細胞集団によってそのような治療法が損なわれることが多いとして満たされていないニーズを満足させることを熟考する。そのような方法は遺伝子操作したT細胞の特定の型または種類に限定されない。一部の実施形態では、遺伝子操作したT細胞には、CAR T細胞、遺伝子操作したTCRを発現しているT細胞、腫瘍浸潤リンパ球(TIL)療法のために構成された遺伝子操作したT細胞、形質導入T細胞療法のために構成された遺伝子操作したT細胞、及び/またはTCRもしくはCARで再操作したウイルス特異的T細胞が挙げられるが、これらに限定されない。
【0063】
本発明の実施形態はチロシンキナーゼ阻害剤の特定の型に限定されない。一部の実施形態では、チロシンキナーゼ阻害剤はLckチロシンキナーゼ阻害剤である。一部の実施形態では、チロシンキナーゼ阻害剤はSrcファミリーキナーゼ阻害剤(例えば、Srcキナーゼ阻害剤、Yesキナーゼ阻害剤、Fynキナーゼ阻害剤、Fgrキナーゼ阻害剤、Lckキナーゼ阻害剤、Hckキナーゼ阻害剤、Blkキナーゼ阻害剤、Lynキナーゼ阻害剤)である。一部の実施形態では、チロシンキナーゼ阻害剤はダサチニブ
【0064】
【0065】
N-(2-クロロ-6-メチルフェニル)-2-(6-(4-(2-ヒドロキシエチル)ピペラジン-1-イル)-2-メチルピリミジン-4-(イルアミノ)チアゾール-5-カルボキサミド、またはその薬学上許容できる塩、溶媒和物またはプロドラッグである。一部の実施形態では、チロシンキナーゼ阻害剤は、ポナチニブ
【0066】
【0067】
3-(イミダゾ[1,2-b]ピリダジン-3-イルエチニル)-4-メチル-N-(4-((4-メチルピペラジン-1-イル)メチル)-3-((トリフルオロメチル)フェニル)ベンズアミド)またはその薬学上許容できる塩、溶媒和物またはプロドラッグである。
【0068】
本発明の一部の実施形態は、有効量の少なくとも1つの追加の治療剤(化学療法剤、抗腫瘍剤、アポトーシス調節剤、抗菌剤、抗ウイルス剤、抗真菌剤及び抗炎症剤を含むが、これらに限定されない)及び/または治療法(例えば、外科的介入及び/または放射線療法)との併用でそのような方法(例えば、遺伝子操作したT細胞の集団と特定のチロシンキナーゼ阻害剤(例えば、ダサチニブ、ポナチニブ)を含む組成物とによる養子T細胞療法)(例えば、特定のチロシンキナーゼ阻害剤(例えば、ダサチニブ、ポナチニブ)の存在下で増やした遺伝子操作したT細胞の集団による養子T細胞療法)を施すことを提供する。特定の実施形態では、追加の治療剤(複数可)は抗がん剤である。
【0069】
チロシンキナーゼ阻害剤(例えば、ダサチニブ、ポナチニブ)は、任意で1以上の薬学上許容できる賦形剤を含む医薬組成物に製剤化することができる。例となる賦形剤には限定しないで、糖質、無機塩、抗菌剤、抗酸化剤、界面活性剤、緩衝液、酸、塩基及びそれらの組み合わせが挙げられる。注射用組成物に好適な賦形剤には水、アルコール、ポリオール、グリセリン、植物油、リン脂質及び界面活性剤が挙げられる。糖、誘導体化糖、例えば、アルジトール、アルドン酸、エステル化糖、及び/または糖ポリマーのような糖質は賦形剤として存在してもよい。具体的な糖質賦形剤には、例えば、フルクトース、マルトース、ガラクトース、グルコース、D-マンノース、ソルボース等のような単糖類;例えば、ラクトース、スクロース、トレハロース、セロビオース等のような二糖類;例えば、ラフィノース、メレジトース、マルトデキストリン、デキストラン、デンプン等のような多糖類;例えば、マンニトール、キシリトール、マルチトール、ラクチトール、キシリトール、ソルビトール(グルシトール)、ピラノシル、ソルビトール、ミオイノシトール等のようなアルジトールが挙げられる。賦形剤にはまた、無機塩または緩衝液、例えば、クエン酸、塩化ナトリウム、塩化カリウム、硫酸ナトリウム、硝酸カリウム、一塩基リン酸ナトリウム、二塩基リン酸ナトリウム、及びそれらの組み合わせも挙げることができる。
【0070】
界面活性剤は賦形剤として存在することができる。例となる界面活性剤には、例えば、「Tween20」及び「Tween80」のようなポリソルベート、ならびにF68及びF88のようなプルロニック(BASF、Mount Olive、New Jersey);ソルビタンエステル;脂質、例えば、リン脂質、例えば、レシチン及び他のホスファチジルコリン、ホスファチジルエタノールアミン(好ましくはリポソーム形態ではないが)、脂肪酸及び脂肪エステル;コレステロールのようなステロイド;EDTAのようなキレート剤;ならびに亜鉛及び他のそのような好適なカチオンが挙げられる。
【0071】
酸または塩基は医薬組成物では賦形剤として存在することができる。使用することができる酸の非限定例には、塩酸、酢酸、リン酸、クエン酸、リンゴ酸、乳酸、ギ酸、トリクロロ酢酸、硝酸、過塩素酸、リン酸、硫酸、フマル酸、及びそれらの組み合わせから成る群から選択されるそれらの酸が挙げられる。好適な塩基の例には限定しないで、水酸化ナトリウム、酢酸ナトリウム、水酸化アンモニウム、水酸化カリウム、酢酸アンモニウム、酢酸カリウム、リン酸ナトリウム、リン酸カリウム、クエン酸ナトリウム、ギ酸ナトリウム、硫酸ナトリウム、硫酸カリウム、フマル酸カリウム、及びそれらの組み合わせから成る群から選択される塩基が挙げられる。
【0072】
医薬組成物におけるチロシンキナーゼ阻害剤(例えば、ダサチニブ、ポナチニブ)(例えば、薬剤送達システムに含有される場合)の量は、多数の因子に応じて変化するであろうが、組成物が単位剤形または容器(例えば、バイアル)にある場合、最適には治療上有効な用量であろう。治療上有効な用量は、どの量が臨床的に所望の終点を生じるかを決定するために漸増量の組成物の反復投与によって実験的に決定することができる。
【0073】
医薬組成物における個々の賦形剤の量は、賦形剤の性質及び機能ならびに組成物の特定の必要性に応じて変化するであろう。通常、個々の賦形剤の最適な量は、日常の実験を介して、すなわち、様々な量の賦形剤(低から高に及ぶ)を含有する組成物を調製し、安定性及び他のパラメーターを調べ、次いで著しい有害効果がなくて最適な性能が達成される範囲を決定することによって決定される。しかしながら、一般に、賦形剤(複数可)は、約1重量%~約99重量%、好ましくは約5重量%~約98重量%、さらに好ましくは約15重量%~約95重量%の量で組成物に存在し、30重量%未満の濃度が最も好まれる。これら前述の医薬賦形剤は他の賦形剤と共に“Remington:The Science & Practice of Pharmacy”,19th ed.,Williams & Williams,(1995),the “Physician’s Desk Reference”,52nd ed.,Medical Economics,Montvale,NJ,(1998),及びKibbe,A.H.,Handbook of Pharmaceutical Excipients,3rd Edition,American Pharmaceutical Association,Washington,D.C.,2000に記載されている。
【0074】
医薬組成物は、あらゆる種類の製剤を包含し、特に、注射に適するもの、例えば、使用前に溶媒で再構成することができる粉剤または凍結乾燥物、と同様に注射の準備済みの溶液または懸濁液、使用前での溶剤との混ぜ合わせ用の無水不溶性組成物、ならびに投与前の希釈用のエマルション及び液体濃縮物を包含する。注射の前に固形組成物を再構成するための好適な希釈剤の例には、静菌注射用水、5%デキストロース水溶液、リン酸緩衝化生理食塩水、リンガー溶液、生理食塩水、無菌水、脱イオン水、及びそれらの組み合わせが挙げられる。液体医薬組成物に関して溶液及び懸濁液が想定される。追加の好まれる組成物には、経口送達、眼送達または局所送達のためのものが挙げられる。
【0075】
本発明の医薬組成物は送達及び使用の意図される方式に応じて注射器、埋め込みデバイス、等に保管することもできる。好ましくは、本明細書に記載されている1以上のチロシンキナーゼ阻害剤(例えば、ダサチニブ、ポナチニブ)を含む医薬組成物は、予め測定済み形態または前もって包装された形態で単回用量に適する本発明のコンジュゲートまたは組成物の量を意味する単位剤形に存在する。
【0076】
本明細書の医薬組成物は任意で、1以上の追加の作用物質を含んでもよく、または1以上の追加の作用物質、例えば、T細胞の疲弊を治療するための他の薬剤(例えば、抗PD-1チェックポイン阻害剤、例えば、ニボルマブ)、またはT細胞の疲弊に関連する感染もしくは疾患について対象を治療するのに使用される他の薬物(例えば、抗ウイルス薬、抗生剤、または抗がん薬及び養子T細胞療法を含む治療法)と組み合わせてもよい。少なくとも1つのチロシンキナーゼ阻害剤(例えば、ダサチニブ、ポナチニブ)と1以上の他の作用物質、例えば、T細胞の疲弊またはT細胞の疲弊に関連する感染もしくは疾患を治療するための他の薬剤とを含む配合製剤が使用されてもよい。あるいは、そのような作用物質は、チロシンキナーゼ阻害剤(例えば、ダサチニブ、ポナチニブ)を含む組成物とは別の組成物に含有することができ、チロシンキナーゼ阻害剤(例えば、ダサチニブ、ポナチニブ)を含む組成物と同時に、その前にまたは後で共投与することができる。
【0077】
T細胞の疲弊の治療のためにチロシンキナーゼ阻害剤(例えば、チロシンキナーゼ阻害剤(例えば、ダサチニブ、ポナチニブ))による少なくとも1つの治療上有効なサイクルの治療が対象に施されるであろう。「治療上有効なサイクルの治療」とは、施したときに、T細胞の疲弊についての個体の治療に関して前向きな治療反応をもたらす治療のサイクルが意図される。特に対象とするのは、本明細書に記載されているように一時的に投与するとT細胞の機能を回復するチロシンキナーゼ阻害剤(例えば、ダサチニブ、ポナチニブ)による治療のサイクルである。例えば、治療上有効な用量または量のチロシンキナーゼ阻害剤は、PD-1、TIM-3及びLAG-3の発現を低下させてもよく、メモリーマーカー(例えば、CD62LまたはCCR7)の維持を改善してもよく、アポトーシスを防いでもよく、且つIL-2及び他のサイトカインの分泌を高めてもよい。
【0078】
特定の実施形態では、1以上のチロシンキナーゼ阻害剤(例えば、ダサチニブ、ポナチニブ)及び/または1以上の他の治療剤、例えば、T細胞の疲弊を治療するための他の薬剤(例えば、抗PD-1チェックポイン阻害剤、例えば、ニボルマブ)、またはT細胞の疲弊に関連する感染症もしくは疾患について対象を治療するのに使用される他の薬物(例えば、抗ウイルス薬、抗生剤、または抗がん薬及び養子T細胞療法を含む治療法)を含む複数の治療上有効な用量の医薬組成物が投与されるであろう。本発明の医薬組成物は、必ずではないが、通常、経口で、注射を介して(皮下に、静脈内に、または筋肉内に)、点滴によって、または局所に投与される。例えば、局部に、病変内、脳内、脳室内、実質内、肺、直腸、経皮、経粘膜、髄腔内、心膜、動脈内、眼内、腹腔内、等のような投与の追加の方式も熟考される。
【0079】
医薬製剤は、投与の直前、溶液または懸濁液の形態であることができるが、例えば、シロップ、クリーム、軟膏、錠剤、カプセル剤、粉剤、ジェル、マトリクス、坐薬、等のような別の形態を取ってもよい。1以上のチロシンキナーゼ阻害剤(例えば、ダサチニブ、ポナチニブ)と他の作用物質とを含む医薬組成物は、当該技術で既知の医学的に許容できる方法に従って投与の同じ経路または異なる経路を用いて投与されてもよい。
【0080】
別の実施形態では、1以上のチロシンキナーゼ阻害剤(例えば、ダサチニブ、ポナチニブ)及び/または他の作用物質を含む医薬組成物は、例えば、T細胞の疲弊を防ぐために予防的に投与される。そのような予防的使用は、T細胞の疲弊が発生するリスクがある慢性感染症またはがんの対象にとって特に価値がある。
【0081】
本発明の別の実施形態では、1以上のチロシンキナーゼ阻害剤(例えば、ダサチニブ、ポナチニブ)及び/または他の作用物質を含む医薬組成物は、持続放出製剤または持続放出デバイスを用いて投与される製剤に存在する。そのようなデバイスは当該技術で周知であり、それには、例えば、経皮貼付剤、及び持続放出性ではない医薬組成物で持続放出効果を達成するために種々の用量で連続的な定常状態の方法にて薬剤送達を経時的に提供することができる小型で埋め込みできるポンプが挙げられる。
【0082】
本発明はまた、コンジュゲートまたは組成物に含有されるチロシンキナーゼ阻害剤(例えば、ダサチニブ、ポナチニブ)による治療に応答性である状態を患っている患者に本明細書で提供されているようなチロシンキナーゼ阻害剤(例えば、ダサチニブ、ポナチニブ)を含むコンジュゲートを投与する方法も提供する。方法は、好ましくは医薬組成物の一部として提供される治療上有効な量のコンジュゲートまたは薬剤送達システムを、本明細書に記載されている方式のいずれかを介して投与することを含む。投与する方法を用いて、チロシンキナーゼ阻害剤(例えば、ダサチニブ、ポナチニブ)による治療に応答性である状態を治療してもよい。さらに具体的には、本明細書の医薬組成物はT細胞の疲弊を治療するのに有効である。
【0083】
当業者はチロシンキナーゼ阻害剤(例えば、ダサチニブ、ポナチニブ)がどの状態を効果的に治療することができるかを理解するであろう。投与される実際の用量は、対象の年齢、体重及び全身状態と同様に治療される状態の重症度、医療専門家の判断及び投与されるコンジュゲートに応じて変化するであろう。治療上有効な量は当業者が決定することができ、各特定の症例の特定の要件に調整されるであろう。
【0084】
一般に、治療上有効な量はチロシンキナーゼ阻害剤の1日約0.50mg~5グラム、さらに好ましくは1日約5mg~2グラム、一層さらに好ましくは1日約7mg~1.5グラムの幅がある。好ましくは、そのような用量は1日4回(QID)で10~600mg、200~500mgQID、1日3回(TID)で25~600mg、25~50mgTID、50~100mgTID、50~200mgTID、300~600mgTID、200~400mgTID、200~600mgTID、1日2回(BID)で100~700mg、100~600mgBID、200~500mgBID、または200~300mgBIDの範囲にある。投与される化合物の量は、チロシンキナーゼ阻害剤の効能及び所望される効果の大きさ及び投与の経路に左右されるであろう。
【0085】
精製されたチロシンキナーゼ阻害剤(再び、好ましくは医薬製剤の一部として提供される)は単独で投与することができ、または1以上の他の治療剤、例えば、T細胞の疲弊を治療するための他の薬剤(例えば、抗PD-1チェックポイン阻害剤、例えば、ニボルマブ)、またはT細胞の疲弊に関連する感染症もしくは疾患について対象を治療するのに使用される他の薬物(例えば、抗ウイルス薬、抗生剤、または抗がん薬);または養子T細胞療法(例えば、CAR T細胞療法、形質導入T細胞療法、及び腫瘍浸潤リンパ球(TIL)療法);または内科医の判断、患者のニーズ、等に応じて種々の投与スケジュールに従って特定の状態もしくは疾患を治療するのに使用される他の薬物との併用で投与することができる。具体的な投与スケジュールは当業者が知っているであろうし、日常的な方法を用いて実験的に決定することができる。例となる投与スケジュールには、限定しないで1日5回、1日4回、1日3回、1日2回、1日1回、週に3回、週に2回、週に1回、月に2回、月に1回の投与及びそれらの組み合わせが挙げられる。好まれる組成物は1日にわずか1回の投与を必要とするものである。
【0086】
チロシンキナーゼ阻害剤は他の作用物質または治療法に先立って、それと同時にまたはそれに続いて投与することができる。他の作用物質または治療法と同時に提供されるのであれば、1以上のチロシンキナーゼ阻害剤を同一組成物にてまたは異なる組成物にて提供することができる。従って、1以上のチロシンキナーゼ阻害剤と他の作用物質とを併用療法によって個体に提示することができる。「併用療法」とは、治療法を受けている対象にて物質の併用の治療効果が生じるような対象への投与が意図される。例えば、併用療法は、特定の投与計画に従って併用で治療上有効な用量を含む、チロシンキナーゼ阻害剤を含む1回分の医薬組成物と、T細胞の疲弊を治療するための少なくとも1つの他の作用物質、例えば、別の薬剤を含む1回分の医薬組成物とを投与することによって達成されてもよい。同様に、1以上のチロシンキナーゼ阻害剤と1以上の他の治療剤を少なくとも1つの治療用量で投与することができる。治療法を受けている対象にてこれらの物質の併用の治療効果が生じる限り、別々の医薬組成物または治療法の投与は同時にまたは異なる時に(すなわち順次、いずれかの順で同じ日にまたは異なる日に)行うことができる。
【0087】
本発明はまた、少なくとも1つのチロシンキナーゼ阻害剤(例えば、ダサチニブ、ポナチニブ)と任意でT細胞の疲弊を治療するための1以上の他の作用物質とを含む組成物を保持する1以上の容器を含むキットも提供する。組成物は液体形態であることができ、または凍結乾燥することができる。組成物のための好適な容器には、例えば、ビン、バイアル、注射器及び試験管が挙げられる。容器は、ガラスまたはプラスチックを含む種々の材料から形成することができる。容器は無菌のアクセスポートを有してもよい(例えば、容器は、皮下注射用針で穴開けできるストッパーを有する静脈注射溶液用のバッグまたはバイアルであってもよい)。
【0088】
キットはさらに、薬学上許容できる緩衝液、例えば、リン酸緩衝化生理食塩水、リンガー溶液、またはデキストロース溶液を含む第2の容器を含むことができる。それはまた、他の薬学上許容できる製剤化溶液、例えば、緩衝液、希釈剤、充填剤、針、及び注射器または他の送達デバイスを含む、最終利用者にとって有用な他の物質も含有することができる。送達デバイスは組成物で予め充填されてもよい。
【0089】
キットはまた、T細胞の疲弊について対象を治療するための、少なくとも1つのチロシンキナーゼ阻害剤(例えば、ダサチニブ、ポナチニブ)を含む組成物の使用方法についての書面による指示書を含有する添付文書も含むことができる。添付文書は、未認可の下書き添付文書であってよく、または食品医薬品局(FDA)もしくは他の規制機関によって認可された添付文書であってよい。
【0090】
当業者は、前述のことが本発明の特定の好まれる実施形態の詳細な説明を単に表すことを容易に認識するであろう。上記に記載されている組成物及び方法の種々の修正及び変更は当該技術で利用できる専門知識を用いて容易に達成することができ、本発明の範囲内にある。
【0091】
[実施例]
以下の実施例は本発明の化合物、組成物及び方法の説明に役立つものであるが、限定されない。臨床治療で通常遭遇する、且つ当業者に明白である種々の条件及びパラメーターの他の好適な修正及び適応は本発明の精神及び範囲の範囲内である。
【0092】
[実施例I.TCRのシグナル伝達を阻害するまたは調節することによってT細胞の疲弊を防ぐまたは元に戻す方法]
[序論]
我々は以前、GD2-CARを発現しているT細胞が培養にて10日以内に機能的な疲弊を発生し、抑制性受容体の同時発現、腫瘍抗原に応答してサイトカインを分泌できないこと、及び異常な代謝機能を特徴とすることを報告した(Long,et.al,Nat.Med.2015)。対照培養物には、形質導入していないT細胞(偽物)及び試験管内で持続性のシグナル伝達を明示しないまたは疲弊を発生しないCD19-CARを発現しているものが含まれた。以前の研究はまた、この系では疲弊にはゼータ鎖が必要とされ、CD28のシグナル伝達は疲弊を誘導することにおけるシグナル伝達刺激の可能性を高めることを明らかにした。このモデル系を使用して、我々は今や、T細胞の疲弊を防ぐまたは元に戻すアプローチを評価するためにT細胞の疲弊の強固で操作可能で再現性のある試験管内ヒトモデルを最適化している。
【0093】
[結果]
我々は、その不安定性をCARに付与し、迅速なタンパク質分解を誘導するFKBP12突然変異体の不安定化ドメインに融合したGD2.28z CARを操作した。我々は、安定化するラパログshield-1(S1)を添加することまたは取り去ることによって表面発現を容易に且つ用量依存性に調節できることを観察した(
図1)。CAR発現の同様の調節性は、E.coliのDHFR突然変異体(GD2.28z.DHFR、示さず)を用いても達成されたが、それは臨床で一般的に使用される抗生剤であるトリメトプリムによって調節され得る。
【0094】
持続性のシグナル伝達はGD2-CAR受容体のレベルに高度に依存しているので、CAR発現レベルの正確な制御もまた持続性のシグナル伝達のレベルを正確に調節する。従って、CAR発現のレベルの薬剤が調節する制御もGD2.28zの持続性シグナル伝達の持続時間及び強度の調節を可能にした。この系を使用して、我々は、疲弊に関連する表現型及び機能の変化がCARシグナル伝達の停止の際に元に戻されることを明らかにした。
図2で示すように、活性化後7日目での培養培地からのS1薬剤の除去及び表面CARの結果として生じる除去は、10日目までの対照レベルまで標準の疲弊マーカーの発現を元に戻す(
図2、n=3)。このことは、機能不全の疲弊したT細胞に高度に特異的であるPD-1/TIM-3/LAG-3の三重発現細胞のレベルを測定することによって最もよく説明される。我々は、10日目が三重発現の疲弊した細胞のレベルの上昇を誘導するが、7日目でのS1の除去は10日目までにこれらのレベルの正常化を生じることを明らかにしている。同様の結果は、S1を7日目または10日目に培養培地から除去した細胞について14日目で得られた(データは示さず)。
【0095】
さらに、CARタンパク質の一時的な分解を可能にする7日目または10日目でのS1の除去は培養の全期間についてS1を投与されたT細胞(S1)と比べて、14日目までにメモリーマーカー(例えば、CD62L)の維持及びアポトーシスの阻止(すなわち、アネキシンV染色)を生じる(
図3)。
【0096】
表現型マーカーはT細胞の機能を完全に予測するわけではなくてもよいので、我々はまた、培養にて一時的な薬剤曝露を提供されたCAR T細胞にて機能的な実験を行った。CAR T細胞を洗浄し、S1を含有する培地に再浮遊させ、表面GD2を安定して発現しているNalm6白血病細胞と1:1の比で混合した。およそ24時間後、培養上清を回収し、ELISAによってサイトカインのレベルを評価した。不安定化ドメインを欠くため持続して高レベルのCARシグナル伝達を有するGD2.28z CARと同様に、連続的な薬剤処理を行ったGD2.28z.FKBP CARを発現する細胞(
図4、灰色のバー)は活性化後10日目と14日目双方で最少量のIL-2を分泌したが、それはT細胞の疲弊に一致する。あるいは、培養の間薬剤に曝露されない(黒色のバー)ため持続性のシグナル伝達を示さないCAR T細胞はIL-2産生によって測定されたとき著しい生物活性を明らかにした。最後に、培養の最初の7日間または10日間薬剤に曝露されるためT細胞の疲弊の表現型の及び機能的な証拠を獲得するが、7日目または10日目に培養培地から薬剤が除去されるCAR T細胞(それぞれ青色と赤色のバー)は腫瘍抗原に応答してIL-2を分泌する回復した能力を示した。意外なことに、10日目での疲弊したT細胞(灰色のバー、10日目のELISA)は培養培地からS1を除去することによって再活性化することができ、たった4日間「休止した」(赤色のバー、14日目のELISA)。S1が培養培地から除去された状態で類似の、しかし、あまり劇的ではないIFNγ分泌の増強も観察された。これらの機能的なデータは、この共培養アッセイの結論として全群が類似のレベルの表面CARを示した(データは示さず)として、様々なCARの表面発現に起因と考えることはできない。
【0097】
次いで我々は、表面CARの除去によってT細胞の疲弊を防ぐまたは元に戻すことが、よく特徴付けられた抗PD-1チェックポイン阻害剤であるニボルマブ(Nivo)による処理よりも強力なのか、またはそうでないのかどうかを比較した。CAR T細胞を連続したS1(従って連続した持続性のシグナル伝達)、連続したS1+ニボルマブ、またはS1なしで共培養アッセイの時間まで処理した。興味深いことに、ニボルマブ処理は10日目でほんのわずかなIL-2分泌の増強を生じ、それは14日目まで持続したということは、ニボルマブがこの系ではT細胞の疲弊の発症を部分的にしか阻止しなかったことを示唆している(
図5)。逆に、S1なしでCAR T細胞を培養し、共培養アッセイの直前にそれを培地に戻し加えること(左のチャート、青色のバー)は、連続したS1を示したCAR T細胞(黒色のバー)と比べてIL-2分泌を5~10倍増強したとして、疲弊のはるかに優れた阻止を生じた。さらに、培養培地からS1を除去することによって7日目に持続性のシグナル伝達を取り除くことも、連続したS1を示したCAR T細胞及び連続したS1を示し、同時にS1で処理されたものと比べて優れたIL-2分泌を生じた。まとめると、これらのデータは、持続性のシグナル伝達を調節することがPD-1による遮断と比べて疲弊の阻止または反転に対してさらに強力な効果を示すことを明らかにしている。
【0098】
我々の研究室を含む幾つかのグループによる機能的な研究は、PD-1、TIM-3及びLAG-3の同時発現(三重陽性、TP)が高度に機能不全である疲弊した細胞のサブセットを示すことを検証している。従って、我々はこの細胞サブセットにおける持続性のシグナル伝達の停止がその表現型を元に戻し、腫瘍抗原に応答してIL-2を分泌する能力を回復させることができるかどうかを分析しようとした。その表面発現を制御するために、一層さらに劇的な疲弊した表現型を示す我々のGD2.28z CAR(HA-GD2.28z)の高親和性型をFKBP12突然変異体の不安定化ドメインに融合した。純粋なPD-1/TIM-3/LAG-3の疲弊した集団を単離するために、活性化後10日目に、連続したS1処理を行ったHA-GD2.28z.FKBP CAR T細胞を選別した。次いで「三重陽性」の疲弊した細胞をS1と共にまたはS1を含まずに再培養して持続性のシグナル伝達の除去がその機能を回復させ得るかどうかを調べた。4日後、FACS及び共培養アッセイを行った。
【0099】
S1の除去は疲弊した表現型の劇的な反転を生じた。培養にS1を含まずにわずか4日後、予め選別した三重陽性細胞はCD4+及びCD8+CAR T細胞の双方で疲弊マーカーのはるかに少ない発現を示した(
図6)。重要なことに、S1の除去が10~14日目から連続したS1処理を受けた三重陽性細胞と比べてIL-2分泌で2倍の上昇を生じたため、これらの表現型の変化はIL-2分泌の機能的増強も付与した(
図6)。
【0100】
我々は、我々がCARのシグナル伝達にも不可欠であるTCRシグナル伝達経路におけるキナーゼを単純に阻害することによって表面CAR、従って持続性のシグナル伝達を除去する効果を再現できるという仮説を立てた。そのようなキナーゼの1つがLckであり、それはTCRまたはCARの結合に応答してCD3ゼータをリン酸化するように作用する。強力な受容体チロシンキナーゼ阻害剤且つBCR/ABLのアンタゴニストであるダサチニブは、低濃度でLckに結合し、それを阻害することによってT細胞の活性化、増殖及びサイトカイン分泌を阻害することも示されている(Schade,et.al,Blood,2008及びLee,et.al,Leukemia,2010)。
【0101】
100nM及び1μMの濃度でダサチニブは、活性化後14日目に腫瘍抗原に応答したCD19.28z CAR T細胞のサイトカイン分泌を強力に阻害するということ(
図7)は、ダサチニブがCARのシグナル伝達を分断することを証明している。
【0102】
次いで我々は、活性化後10~14日目でダサチニブによりHA-GD2.28z CAR T細胞を処理することによって一時的なダサチニブの曝露がT細胞の疲弊を元に戻し得るかどうかを確かめた。細胞を4日間ダサチニブで処理し、次いで薬剤を培地からしっかり洗い流し、細胞をさらに24時間再培養した後、FACS及び腫瘍共培養アッセイを介してその表現型及び機能を調べた。興味深いことに、ダサチニブによる4日間の処理は疲弊マーカーの発現及び同時発現を用量依存性に元に戻した(
図8)。
【0103】
さらに、ダサチニブ処理は用量依存性にCD62Lの発現の維持を介してT細胞メモリーの維持を生じた(
図9)。
【0104】
最後に、表面CARの除去に類似して、ダサチニブ処理したCAR T細胞がダサチニブを受け入れたことがないものと比べて腫瘍抗原に応答してさらに多くのIL-2(及びより少ない程度のIFNγ)を分泌したため、ダサチニブ処理は機能的に著しい方法で疲弊したT細胞を再活性化した(
図10)。
【0105】
まとめると、これらのデータは、TCRシグナル伝達の選択的な阻害または調節ががんまたは慢性感染症において連続した抗原曝露を示している疲弊したT細胞の機能を実質的に高めることができることを明らかにしている。さらなる研究では、我々は、この環境での疲弊反転の実現可能性及びそのような反転がマウスのモデルにて抗腫瘍効果を高めることができるかどうかを評価する生体内研究を行うであろう。
【0106】
[実施例II]
キメラ抗原受容体(CAR)は、細胞外腫瘍標的ドメインを、内在性のTCRシグナル伝達(例えば、CD28または4-1BBのような1~2の共刺激ドメイン及びCD3ゼータドメイン)を模倣する細胞内ドメインと組み合わせる合成受容体である(例えば、Lim及びJune.Cell,168,724-740,(2017)を参照のこと)。CARを発現しているT細胞が抗原を発現している腫瘍細胞と遭遇すると、CAR T細胞は免疫シナプスを形成し、CARを介して下流のシグナル伝達を開始し、強力なT細胞の活性化、細胞傷害性可溶性因子の脱顆粒、サイトカイン放出、及び増殖を生じる。CAR T細胞療法は多くの血液悪性腫瘍患者で先例のない臨床的成功を示している一方で、この治療法が他の腫瘍型に拡大され、第一選択療法として提供され得る前に対処されなければならない幾つかの重要な難題がある。
【0107】
難題の1つはCARの毒性であり、それは通常サイトカイン放出症候群(CRS)または本来の標的を含む腫瘍以外に対する活性の形態で現れ、その双方とも臨床試験で観察されており、場合によっては患者の死亡を生じている(例えば、Gust,et al.Cancer discovery,(2017).doi:10.1158/2159-8290.cd-17-0698;Xu及びTang.Cancer Letters,343,172-178(2014);D’Aloia,et al.Cell Death & Disease,9,282(2018)を参照のこと)。CARの毒性を中和する現在の方法はCAR T細胞のアポトーシスに介在する薬剤誘導性の自殺スイッチ(すなわち、誘導性カスパーゼ9)に大部分限定されている(例えば、Gargett及びBrown.Frontiers in Pharmacology,5,235(2014)を参照のこと)。一般に効果的な安全性メカニズムと見なされる一方で、CAR T細胞はもはや生存していないため、この方法を利用することは毒性事象が解消した後、治療法を継続する選択肢を排除する。
【0108】
CAR T細胞療法の有効性を改善することに対する第2の重要な課題はCAR T細胞の疲弊の予防である。T細胞の疲弊は慢性ウイルス感染症またはがんにおいて連続した抗原曝露から生じ、エフェクター機能の階層的な喪失、複数の抑制性受容体(例えば、PD-1、TIM-3及びLAG-3)の持続した同時発現、減衰した増殖能、及びアポトーシスの増加を特徴とする(例えば、Wherry及びKurachi.Nature Reviews Immunology,15,nri3862(2015)を参照のこと)。CAR T細胞療法にてT細胞の疲弊の強い証拠がある。投与されたほぼすべてのCD19.28z CAR T細胞が点滴後60日目までに消失する(例えば、Lee,et al.Long-term outcomes following CD19 CAR T cell therapy for B-ALL are superior in patients receiving a fludarabine/cyclophosphamide preparative regimen and post-CAR hematopoietic stem cell transplantation.(2016)を参照のこと)。T細胞の疲弊にさらに耐性であると考えられているCD19.BBz CAR T細胞も疲弊の特徴を示し、この治療法を受ける患者のおよそ30%で検出不能であり、その結果、CD19陽性の再発のリスクを高める(例えば、Turtle,et al.Journal of Clinical Investigation,126,2123-2138(2016);Maude,et al.The New England Journal of Medicine,371,1507-1517(2014)を参照のこと)。最後に、疲弊は、scFvの凝集が誘導する持続性のシグナル伝達を示すCARを構成的に発現しているT細胞でも観察されており、それは腫瘍抗原の非存在下の両方において発生する。CAR高発現のこの意図されない結果は試験管内及び生体内でCAR T細胞を疲弊させることによって最終的にその有効性を限定する(例えば、Long,et al.Nature Medicine,21,581-590(2015);Gomes-Silva,et al.Cell Reports,21,17-26(2017)を参照のこと)。
【0109】
本発明の実施形態を展開する過程の間で実施された実験は、FDAが認可した小分子チロシンキナーゼ阻害剤を利用してCAR T細胞の活性を調節することによってこれらの両方の課題に対処した。幾つかのBCR-Abl阻害剤はT細胞の活性化に必要とされるシグナル伝達キナーゼと交差反応性を有することが示されている(例えば、Banaszynski,et al.Nature medicine,14,1123-7(2008);Banaszynski,et al.Cell,126,995-1004(2006);Iwamoto,et al.Chemistry & Biology,17,981-988(2010)を参照のこと)。ダサチニブはLck及びFynの双方を阻害することによってT細胞の活性化及びエフェクター機能を強力に阻害する。同様に、ポナチニブはLckに結合し、阻害することができるが、FynまたはSrcキナーゼの機能には影響を与えないということは、この薬剤がT細胞のエフェクター機能と同様にCAR T細胞の機能を阻害することができることを示唆している。
【0110】
この仮説を調べるために、CD19を標的とするCAR(CD19.28z)を発現しているT細胞を種々の濃度のダサチニブ及びポナチニブと共に少なくとも24時間インキュベートした。次にダサチニブ/ポナチニブの存在下または非存在下でCAR T細胞を抗原保有腫瘍細胞と共に6時間共培養し、その後、CD69及びCD107aの同時発現を介してCAR T細胞の活性化及び脱顆粒を評価した。対照CAR T細胞のおよそ80%は腫瘍との共培養の際、CD69+/CD107a+だった(
図11a)。逆に、ナノモルレベルのダサチニブ及びポナチニブはCAR T細胞の活性化及び脱顆粒を用量依存性に強力に阻害した(
図11b)。これらの薬剤はまた、腫瘍に応答したCAR T細胞のIL-2及びIFNγの分泌も強力に阻害した(
図12)。最後に、我々は1uMのダサチニブの存在下でCAR T細胞を腫瘍細胞と共培養した場合、CAR T細胞の細胞傷害の強力な阻害を観察した(
図13)。
【0111】
ダサチニブがCARのシグナル伝達を分断することによってCAR T細胞のエフェクター機能を阻害しているのかどうかを評価するのに、CARの下流のシグナル伝達を一時的に開始するために表面CARをCAR T細胞に一時的に架橋する実験を行った。対照条件下で、5分間CARを架橋することは、CARのCD3ゼータドメインのリン酸化と同様に遠位シグナル伝達キナーゼAkt及びErk1/2のリン酸化を誘導した(
図14)。逆に、ダサチニブの存在下でCAR T細胞を架橋した場合、それらは非架橋対照に似ていたということは、ダサチニブがCAR特異的な細胞内シグナル伝達を強力に分断したことを示している。まとめると、これらの実験は、ダサチニブ及びポナチニブの双方がCAR T細胞の活性を阻害することを示し、Lck及び/またはFynがCARのシグナル伝達に決定的に重要であるという間接的な証拠を提供している。これらの実験はまた、CAR T細胞の毒性を軽減するためにダサチニブまたはポナチニブを臨床的に利用してCAR T細胞の活性を破壊することができたことも示している。
【0112】
前に言及したように、多数の構成的に発現されたCARは試験管内での増殖の間、抗原の非存在下で持続性のシグナル伝達を示し、その結果、それらがT細胞の疲弊に向かわせる(例えば、Long,et al.Nature Medicine,21,581-590(2015)を参照のこと)。追加の実験によって、ダサチニブまたはポナチニブの存在下で増えているCAR T細胞は持続性のシグナル伝達を軽減し、その結果、さらに健常でさらに強力なCAR T細胞が得られるという仮説が立てられた。これを調べるために、持続性にシグナル伝達している高親和性のGD2.28z CAR(HA-GD2.28z)を発現しているT細胞を種々の濃度のダサチニブの存在下で増やした。次いでFACSによる表現型解析のために細胞を培養物から取り出した。対照のHA-GD2.28zCAR T細胞は強固な単一マーカーの発現及び複数の標準の疲弊マーカーの同時発現を示した(
図15)。逆に、ダサチニブにおける増殖は、疲弊マーカーを同時発現している細胞の頻度と同様にそれら疲弊マーカーが用量依存性に発現される程度の双方を低下させた(
図15)。ダサチニブの存在下でのCAR T細胞の増殖はまた、セントラルメモリー様T細胞(CD45RA低、CCR7高)の頻度でのほぼ6倍の上昇のようにT細胞のメモリー形成を増強し、ダサチニブの非存在下で培養した疲弊したCAR T細胞と比べてエフェクターメモリー様T細胞(CD45RA低、CCR7低)の頻度で2倍を超える低下が観察された。
【0113】
次に、実験によって、ダサチニブまたはポナチニブにより持続性のシグナル伝達が軽減された場合に観察される表現型の劇的な変化がT細胞機能の増強と一致してもよいという仮説が立てられた。これを調べるために、実験は先ず、種々の濃度のダサチニブまたはポナチニブの存在下または非存在下で持続性にシグナル伝達しているCAR T細胞を増やした。次に実験は、CAR T細胞が機能する能力を取り戻せるようにするために薬剤を培養物から取り除いた。薬剤除去の18~24時間後、差別的に増やしたCAR T細胞を、抗原保有腫瘍細胞と共に24時間共培養し、その後、ELISAによってサイトカインの放出を評価し、または72時間共培養してincucyteアッセイを介して細胞傷害性を評価した。ダサチニブまたはポナチニブの非存在下で培養した持続性にシグナル伝達しているCAR T細胞は腫瘍に応答して低レベルのサイトカインを分泌し(
図17)、損傷された細胞傷害性を示した(
図18)ということは、これらの細胞が機能的に疲弊したことを示している。あるいは、ダサチニブまたはポナチニブの存在下でのCAR T細胞の増殖が、CAR T細胞のサイトカイン分泌を用量依存性に増強し(
図17)、さらに強力な細胞傷害性反応も可能にした(
図18)ということは、これらの薬剤を伴ったCAR T細胞の増殖の間での持続性のシグナル伝達の軽減が大きな機能的利益を付与することを裏付けている。
【0114】
試験管内でのCARの持続性のシグナル伝達の阻止が生体内での抗腫瘍反応を増強するかどうかを調べる実験を実施した。CAR T細胞を1uMのダサチニブと共にまたはそれを含まずに増やし、その後、抗原保有腫瘍を生着させたNSGマウスに注入した。143B骨肉腫細胞株を用いた固形腫瘍モデルでは、ダサチニブの非存在下で増殖させたGD2.BBzCAR T細胞及びHA-GD2.28zCAR T細胞は双方とも腫瘍成長を制御できなかった(それぞれ、
図19及び20)。しかしながら、ダサチニブにて増やしたCAR T細胞はほぼ完全な及び持続的な腫瘍の撲滅を可能にした(
図19及び20)。同じ効果は、腫瘍量がCAR T細胞の注入の時点でさらに大きな程度に確立したGD2を過剰発現しているNALM6白血病モデルで観察された(
図21)。
【0115】
次に、さらに多くのCAR T細胞の増殖及び/または存続が、試験管内でのダサチニブにおける増殖が抗腫瘍反応を高める重要なメカニズムの一部であるかどうかを判定するために実験を行なった。これを調べるために、抗原保有腫瘍を生着させたマウスにCAR T細胞を注入した。注入後14日目にマウスから血液試料を採取し、FACS用カウントビーズを介して、循環しているCAR T細胞の数を評価した。ダサチニブの非存在下で増やした持続性にシグナル伝達しているHA-GD2.28z CAR T細胞は、偽の形質導入しなかったT細胞を注入したマウスより高いレベルで増えなかった及び/または存続しなかった(
図22)。逆に、1uMのダサチニブの存在下で増殖させたCD4+及びCD8+のCAR T細胞は双方とも生体内で顕著な増殖を示し、存続した(
図22)。まとめると、これらのデータは試験管内でダサチニブにてCAR T細胞を増やすことによってCARの持続性のシグナル伝達を制限することは、CAR T細胞の増殖し、存続する能力を高めることによって生体内での抗腫瘍反応を増強することを示している。
【0116】
次に、ダサチニブの生体内での投与がCAR T細胞の表現型及び機能を変化させることができるかどうかを確認する実験を行った。概念実証実験として、抗原保有腫瘍を生着させたマウスにCAR T細胞を注入し、その後、3日間連続してダサチニブを投与した。次いでマウスを安楽死させ、CAR T細胞の頻度及び表現型を血液及び脾臓の双方で評価した。溶媒処理したマウスに比べてダサチニブで処理したマウスは双方の組織で高い頻度のCAR T細胞を示した(
図22a、c)ということは、生体内でのダサチニブ処理が原位置での増殖及び存続を誘導したことを示している。さらに、溶媒処理したマウスに比べてダサチニブで処理したマウスから回収したCAR T細胞は、疲弊マーカーPD-1及びLAG-3の低下した発現、CD69の低下した発現(すなわち、活性化が低い状態)及びメモリーマーカーCD62Lの高い発現を示した(
図22b、d)が、それらすべてはダサチニブによる試験管内での処理の際に観察された表現型の変化(
図15、16)に一致する。これらの結果は、ダサチニブの生体内投与がCAR T細胞の疲弊表現型を軽減し、メモリー形成を改善することを明らかにし、且つ生体内でのダサチニブの投与が生体内での機能的な利益を提供することを示している。
【0117】
実験によって、ダサチニブの選択的な生体内投与が慢性抗原刺激を示しているCAR T細胞を一時的に「休止」させることによってCAR T細胞の疲弊を防ぐであろうという仮説が立てられた。これを調べるために、高い腫瘍量を示すマウスにCAR T細胞を注入した。腫瘍の生着後27日目に、マウスにダサチニブまたは溶媒を3日間連続して投与し、その後追加の3日間処理しなかった。この処理計画に続いて、腫瘍量を評価し、ダサチニブで処理したマウスにて腫瘍サイズの顕著な低下が観察された(
図22e)。逆に、溶媒処理マウスでは腫瘍量は増大し続けたということは、抗腫瘍反応の増強はダサチニブ処理に特異的であったことを示している。
【0118】
要約すると、ダサチニブ及びポナチニブは、養子T細胞療法(例えば、CAR T細胞療法)の分野に現在立ち向かう幾つかの重要な難題に対処する潜在力を有する。第1に、これらの薬剤はCARのシグナル伝達を強力に阻害することが示されたが、それはCARの活性を調節するためCAR T細胞の毒性を軽減する一方で、ダサチニブ及びポナチニブのCAR T細胞の機能に対する阻害性効果は可逆的なため、毒性がいったん解消するときに治療法を継続する選択肢を維持する方法を提供する。第2に、ダサチニブまたはポナチニブの存在下でのCAR T細胞の増殖はCARの持続性のシグナル伝達を阻止し、次にCAR T細胞の機能的能力を高めることが示された。最後に、反復薬剤投与を介して短期のCAR T細胞の「休止」を生体内で提供することは、それによってCAR T細胞の疲弊を防ぎ、または元に戻すことができる及び/またはメモリーを誘導できる1つの方法であることが示された。
【0119】
[実施例III]
この実施例は実施例IIの材料及び方法を記載する。
【0120】
〔細胞及び培養条件〕
NALM6-GL(急性リンパ芽球性白血病株、GFP及びルシフェラーゼを安定して形質移入した)及びNALM6-GL-GD2(GD2合成酵素を過剰発現するように安定して形質移入した)の細胞株はRPMI-1640にて培養した。293T及び143Bの細胞株はDMEM(Life Technologies)にて培養した。DMEM及びRPMI-1640は10%熱非働化FBS(Gibco,Life Technologies)、10mMのHEPES、100U/mLのペニシリン、100μg/mLのストレプトマイシン、及び2mMのL-グルタミン(Gibco,Life Technologies)で補完した。
【0121】
初代ヒトT細胞は汎T細胞陰性選択キット(Miltenyi Biotec)を用いて健常ドナーのバフィーコートから得た。次いでドナーT細胞を等分し、液体窒素にてCryostor(StemCell Technologies)に保存した。T細胞は、5%熱非働化FBS、10mMのHEPES、1%glutamax(Gibco,Life Technologies)、及び100u/uLのヒト組換えIL-2(Peprotech)で補完したAimV(Gibco,Life Technologies)にて培養した。ダサチニブ(Sigma Aldrich and Adooq Biosciences)またはポナチニブ(SelleckChem)は特定されない限り、1uMで培養した。
【0122】
〔レトロウイルスの産生及びT細胞の形質導入〕
レトロウイルスの上清はすべて293GP細胞株の一時的な形質移入を介して産生された。手短には、CAR及びRD114のエンベロープタンパク質をコードするプラスミドでリポフェクトアミン2000(Life Technologies)を介して293GP細胞にトランスフェクトした。トランスフェクトの48及び72時間後に上清を回収し、等分し、-80℃で保存した。
【0123】
解凍の際、1×106個/mLの濃度にて抗CD3/抗CD28を被覆した磁気ビーズ(Dynabeads,Thermo Fisher)を用いて3:1のビーズ:細胞の比でT細胞を活性化した。活性化後2及び3日目に、CARをコードするレトロウイルスでT細胞に形質導入した。手短には、先ず、レトロネクチンを被覆したプレートに3000rpmで2時間遠心してレトロウイルスを入れ、その後、T細胞をプレートに移した。活性化後4日目に磁気ビーズを培養物から取り出し、その後毎日T細胞を0.5×106個/mLで培養した。IL-2と薬剤で補完した培地は2日ごとに交換した。形質導入効率はCARすべてについて日常的に70~90%だった。
【0124】
〔フローサイトメトリー〕
試料はすべてLSR Fortessa(BD Bioscience)またはCytoflex(Beckman Coulter)で解析し、データはFlowJoを用いて解析した。細胞をPBSで2回洗浄し、PBSにて1×106個/mLで染色によって標識し、その後、FACS緩衝液(2%FBS及び0.4%0.5MのEDTAで補完したPBS)で2回洗浄した。GD2.CARは14g2a抗イディオタイプ抗体1A7によって検出した。CD19.CARはFMC63抗イディオタイプ抗体136.20.1によって検出した。T細胞の表現型は、CD4(OKT4、Biolegend)、CD8(SK1、Biolegend)、PD-1(eBioJ105、eBioscience)、TIM-3(F38-2E2、Biolegend)、LAG-3(3DS223H、eBioscience)、CD45RA(L48、BD Biosciences)、CCR7(150503、BD Biosciences)、CD62L(DREG-56、BD Biosciences)、CD69(FN50、Biolegend)、及びCD107a(H4A3、eBioscience)を介して評価した。CD107aを評価した共培養アッセイについては、1:1000のモネンシン(eBioscience)と抗CD107aの存在下で腫瘍細胞とCAR T細胞とを少なくとも6時間共培養した。CAR T細胞の表現型データを示すFACSのプロットすべてはCAR+細胞に予めゲートをかけた。偽物の形質導入T細胞については、解析には全T細胞集団を使用した。
【0125】
〔Incucyteアッセイ〕
96ウェルプレートの各ウェルにおけるIL-2の補完を含まない200uLの完全AimV培地にて1:8のE:T比で50,000個のNALM6-GLまたはNALM6-GL-GD2の腫瘍細胞をT細胞と共に共培養した。プレートをincucyteに装着し、2時間ごとに48~72時間、488nmの蛍光画像を取得した。GFP+腫瘍細胞はサイズ及び蛍光強度マスクによって同定し、数えた腫瘍細胞すべての合計の総合的なGFP強度を各個々のウェルについて定量した。値をt=0に対して基準化し、データ表示のために反復ウェルを平均した。
【0126】
HA-GD2.28z T細胞をダサチニブの存在下で増やした実験については、場合によっては、アッセイの18~24時間前に薬剤を培地から取り出し、腫瘍抗原の存在下でCAR T細胞が機能できるようにした。
【0127】
〔サイトカイン放出アッセイ〕
96ウェルプレートの各ウェルにおけるIL-2の補完を含まない200uLの完全AimV培地にて1:1のE:T比で50,000個のNALM6-GL-GD2腫瘍細胞をT細胞と共に共培養した。24時間後、上清を取り出し、-20℃で保存した。IL-2及びIFNγの分泌はELISA(Biolegend)を介して評価した。
【0128】
HA-GD2.28z T細胞をダサチニブの存在下で増やした実験については、場合によっては、アッセイの18~24時間前に薬剤を培地から取り出し、腫瘍抗原の存在下でCAR T細胞が機能できるようにした。
【0129】
〔ウエスタンブロット〕
2×106個のCAR T細胞を培養物から取り出し、ペレットにし、ホスファターゼ及びプロテアーゼの阻害剤(Thermo Fisher)で補完した100uLのRIPA溶解緩衝液(10mMのTris-Cl、pH8.0、1mMのEDTA、1%のTritonX-100、0.1%のデオキシコール酸ナトリウム、0.1%のSDS、140mMのNaCl)に再浮遊させた。4℃で30分間インキュベートした後、14,000rpmでの4℃で20分間の遠心分離によって上清を透明化した。透明化した溶解物におけるタンパク質濃度は比色反応(BioRad)によって測定した。
【0130】
15ugのタンパク質溶解物を6×のローディング緩衝液と混合し、ミニプロテアン電気泳動システム(BioRad)用に構築した10%SDS-PAGEゲルに載せた。トリス・グリシン-SDS緩衝液(BioRad)にて100Vで20分間、電気泳動を行い、その後、150Vで50分間に増やした。Immunobilon-FL PVDF膜へのタンパク質の移動はトリス・グリシン緩衝液(BioRad#1610771)にて100Vで1時間行った。CD3ゼータを標的とする一次抗体(Cell signaling)、pY142-CD3-ゼータ(Cell Signaling)、p44/42MAPK(Erk1/2、Cell Signaling)、p-p44/42MAPK(p-ERK1/2、Cell Signaling)、pSer473-Akt(D9E、Cell Signaling)、及びpan Akt(40D4、Cell Signaling)を使用した。Odyssey(LI-COR)画像解析システム、LI-COR緩衝液、及びLI-COR二次抗体(ヤギ抗マウスIgG抗体-800CWを結合した及びヤギ抗ウサギIgG抗体-680LTを結合した)をタンパク質の検出に使用した。
【0131】
CARの架橋については、CAR T細胞を5ug/mLの抗イディオタイプ抗体(クローン1A7)に加えて5ug/mLのヤギ抗マウスFab二次抗体(Jackson Immunoresearch)または二次抗体のみにて37℃で5分間インキュベートした。次いで細胞を氷冷PBSにて反応停止させ、4℃で5分間ペレットにし、次いでウエスタンブロット解析用に溶解した。
【0132】
〔生体内実験〕
6~8週齢のNSGマウスに静脈注射を介して1×106個のNALM6-GL-GD2白血病細胞を生着させた。生着後4日目に、2×106個のHA-GD2.28zCAR+T細胞を静脈内に注入した。Xenogen IVIS Lumina(Caliper Life Sciences)を用いてNALM6-GL-GD2腫瘍量を評価した。先ず、マウスに3mgのD-ルシフェリン(Caliper Life Sciences)を腹腔内で注射し、次いで30秒の露出時間で4分後画像化した、または30秒がシグナル飽和を生じる場合、「自動」露出を選択した。Living Image software(Caliper Life Sciences)を用いて発光画像を解析した。
【0133】
6~8週齢のNSGマウスに0.5×106個の143B骨肉腫細胞を筋肉内で生着させた。生着後3日目に、1×106個のGD2.BBzまたはHA-GD2.28zを静脈内で注入した。骨肉腫量を二次元脚面積測定を介して定量した。
【0134】
ダサチニブ(Adooq Biosciences)で処理したマウスに50mg/kgの濃度での水+10%のKolliphor HS 15(Sigma Aldrich)を腹腔内に注射した。溶媒で処理したマウスには等容量の水+10%のKolliphor HS 15を注射した。
【0135】
眼窩後出血によって血液試料を採取し、EDTAを被覆したmicrovette(Kent Scientific)で手短に保存した。脾臓は70μmのフィルター(BD Biosciences)を通すことによって機械的にバラバラにした。血液及び脾臓は双方ともACK溶解緩衝液(Fisher Scientific)にて5分間溶解し、その後、FACS解析用に表面マーカー抗体で染色した。
【0136】
〔CARベクターの構築〕
CAR配列すべてをMSGVレトロウイルスの主鎖に挿入した。各CARはシグナルペプチドと単鎖可変断片(scFv)と細胞外ヒンジ領域と膜貫通ドメインと細胞内共刺激ドメインと細胞内CD3ゼータドメインとを含む。
【0137】
〔配列〕
CD19.28z(FMC63 scFv)の核酸配列及びアミノ酸配列は
図23に提供されている。
【0138】
CD19.BBz(FMC63 scFv)の核酸配列及びアミノ酸配列は
図24に提供されている。
【0139】
GD2.BBz(14G2a scFv)の核酸配列及びアミノ酸配列は
図25に提供されている。
【0140】
HA-GD2.28z(高親和性14G2a scFv)の核酸配列及びアミノ酸配列は
図26に提供されている。
【0141】
今や本発明を完全に説明して、同じことが、本発明またはその任意の実施形態の範囲に影響を及ぼすことなく条件、製剤及び他のパラメーターの広く且つ同等の範囲内で実施できることが当業者によって理解されるであろう。本明細書で引用されている特許、特許出願及び出版物はすべて、全体として参照によって本明細書に完全に組み入れられる。
【0142】
[参照による組み込み]
本明細書で参照されている特許文書及び科学論文のそれぞれの開示全体が目的に応じて参照によって本明細書に組み入れられる。
【0143】
[同等物]
本発明は、その精神または本質的特徴から逸脱することなく他の特定の形態で具体化されてもよい。従って、前述の実施形態は本明細書に記載されている本発明を限定するのではなくあらゆる点で説明に役立つと見なされるべきである。従って、本発明の範囲は、前述の説明によってではなく添付の特許請求の範囲によって示され、特許請求の範囲の意味及び同等物の範囲の範囲内にある変化はすべてその中に包含されるように意図される。
【配列表】