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特許7278963ミルブランク及び歯科用補綴物、ならびにその製造方法
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-05-12
(45)【発行日】2023-05-22
(54)【発明の名称】ミルブランク及び歯科用補綴物、ならびにその製造方法
(51)【国際特許分類】
   A61C 13/083 20060101AFI20230515BHJP
   A61C 5/77 20170101ALI20230515BHJP
   A61K 6/818 20200101ALI20230515BHJP
   A61K 6/15 20200101ALI20230515BHJP
【FI】
A61C13/083
A61C5/77
A61K6/818
A61K6/15
【請求項の数】 15
(21)【出願番号】P 2019562120
(86)(22)【出願日】2018-12-26
(86)【国際出願番号】 JP2018047912
(87)【国際公開番号】W WO2019131787
(87)【国際公開日】2019-07-04
【審査請求日】2021-06-16
(31)【優先権主張番号】P 2017250159
(32)【優先日】2017-12-26
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】301069384
【氏名又は名称】クラレノリタケデンタル株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100107641
【弁理士】
【氏名又は名称】鎌田 耕一
(72)【発明者】
【氏名】松本 篤志
(72)【発明者】
【氏名】坂本 紘之
(72)【発明者】
【氏名】伊藤 承央
【審査官】小林 睦
(56)【参考文献】
【文献】米国特許出願公開第2013/0069264(US,A1)
【文献】米国特許出願公開第2014/0255875(US,A1)
【文献】特表2014-534018(JP,A)
【文献】特表平04-505113(JP,A)
【文献】国際公開第2016/104724(WO,A1)
【文献】欧州特許出願公開第00850601(EP,A2)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61C 13/083
A61K 6/818
A61K 6/15
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
2層以上の積層構造を有するミルブランク部を有する歯科用のミルブランクであって、
該積層構造において、エナメル層(1)の内側にボディ層(3)が存在し、ボディ層(3)が底面及び側面を有し、かつ側面が底面に対して垂直な部分を有する形状であり、
該ミルブランク部が、エナメル層(1)及びボディ層(3)の間に、中間層(2)を1層以上有し、中間層(2)の底面に垂直な少なくとも1つの断面が、砲弾形の形状であり、
ボディ層(3)の透光性ΔL*<中間層(2)の透光性ΔL*<エナメル層(1)の透光性ΔL*の関係を満たし、
(前記透光性ΔL*は、各層のジルコニア粉末をそれぞれ単独で用いて単層のジルコニア焼結体を作製し、直径14mm、厚さ1.2mmの円板となるように加工(両面研磨)した後、コニカミノルタ株式会社製の分光測色計CM-3610Aを用いてD65光源にて測定した、L*a*b*表色系(JIS Z 8781-4:2013)における明度のL*値を用いて、試料の背景を白色にして測定したL*値を第1のL*値とし、第1のL*値を測定した同一の試料について、試料の背景を黒色にして測定したL*値を第2のL*値とし、第1のL*値から第2のL*値を控除した値(ΔL*)を意味する。)
さらに、L*値について、エナメル層(1)のL*値<ボディ層(3)のL*値<中間層(2)のL*値の関係を満たす、ミルブランク。
【請求項2】
該ミルブランク部が四角柱状である、請求項1に記載のミルブランク。
【請求項3】
該積層構造において隣接した各層の色調及び/又は透光性が互いに異なる、請求項1又は2に記載のミルブランク。
【請求項4】
ボディ層(3)のL*a*b*表色系における色度が、L*=60~85、a*=-2~7、b*=4~28である、請求項1~のいずれか1項に記載のミルブランク。
【請求項5】
ボディ層(3)の透光性がΔL*=2~13である、請求項1~のいずれか1項に記載のミルブランク。
【請求項6】
エナメル層(1)のL*a*b*表色系における色度が、L*=62~90、a*=-3~5、b*=3~22である、請求項1~のいずれか1項に記載のミルブランク。
【請求項7】
エナメル層(1)の透光性がΔL*=4~20である、請求項1~のいずれか1項に記載のミルブランク。
【請求項8】
間層(2)のL*a*b*表色系における色度が、L*=62~86、a*=-2~7、b*=4~27である、請求項1~7のいずれか1項に記載のミルブランク。
【請求項9】
間層(2)の透光性がΔL*=4~18である、請求項1~8のいずれか1項に記載のミルブランク。
【請求項10】
該ミルブランク部がジルコニア仮焼体からなる、請求項1~のいずれか1項に記載のミルブランク。
【請求項11】
請求項1~10のいずれか1項に記載のミルブランクからなる、歯科用補綴物。
【請求項12】
粉末プレス法にてボディ層(3)を仮成形し、仮成形体となったボディ層(3)をエナメル層(1)で覆い本プレス成形する工程を含む、請求項1~10のいずれか1項に記載のミルブランクの製造方法。
【請求項13】
ボディ層(3)を、底面及び側面を有し、かつ側面が底面に対して垂直な部分を有する形状であり、該底面に垂直な少なくとも1つの断面が砲弾形の形状となるように成形する工程を含む、請求項12に記載のミルブランクの製造方法。
【請求項14】
粉末プレス法にてボディ層(3)及び中間層(2)を仮成形し、仮成形体となったボディ層(3)及び中間層(2)をエナメル層(1)で覆い本プレス成形する工程を含み、
ボディ層(3)及び/又は中間層(2)を、底面及び側面を有し、かつ側面が底面に対して垂直な部分を有する形状であり、該底面に垂直な少なくとも1つの断面が砲弾形の形状となるように成形する工程を含み、ボディ層(3)の透光性ΔL*<中間層(2)の透光性ΔL*<エナメル層(1)の透光性ΔL*の関係を満たし、
(前記透光性ΔL*は、各層のジルコニア粉末をそれぞれ単独で用いて単層のジルコニア焼結体を作製し、直径14mm、厚さ1.2mmの円板となるように加工(両面研磨)した後、コニカミノルタ株式会社製の分光測色計CM-3610Aを用いてD65光源にて測定した、L*a*b*表色系(JIS Z 8781-4:2013)における明度のL*値を用いて、試料の背景を白色にして測定したL*値を第1のL*値とし、第1のL*値を測定した同一の試料について、試料の背景を黒色にして測定したL*値を第2のL*値とし、第1のL*値から第2のL*値を控除した値(ΔL*)を意味する。)
さらに、L*値について、エナメル層(1)のL*値<ボディ層(3)のL*値<中間層(2)のL*値の関係を満たす、請求項1~10のいずれか1項に記載のミルブランクの製造方法。
【請求項15】
請求項1~10のいずれか1項に記載のミルブランクを切削加工する工程を含む、歯科用補綴物の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はミルブランク及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、歯科用製品(例えば、代表的な被覆冠、歯冠、クラウン、差し歯等の補綴物や歯列矯正用製品、歯科インプラント用製品)としては、金属がよく用いられていた。しかしながら、金属は天然歯と色が明確に異なり、審美性に欠けるという欠点を有するとともに、金属の溶出によるアレルギーを発症することもあった。そこで、金属の使用に伴う問題を解決するため、金属の代替材料として、酸化アルミニウム(アルミナ)や酸化ジルコニウム(ジルコニア)等のセラミックス材料が歯科用製品に用いられてきている。特に、ジルコニアは、強度において優れ、審美性も比較的優れるため、特に近年の低価格化も相まって需要が高まっている。
【0003】
一方、口腔内の審美性をより高めるためには、歯科用製品の外観を天然歯の外観に似せる必要がある。しかしながら、ジルコニア(焼結体)自体で、天然歯と同様の外観(特に透明度、光沢(艶))を再現することは困難である。
【0004】
特許文献1には、積層面が曲面になっている樹脂系の歯科用ミルブランクが開示されている。
【0005】
また、特許文献2、ブロックの内部は象牙色で透光性が低い材料、それを囲むエナメル相当の透光性の高い材料で構成されているブランクが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】特表2016-535610号公報
【文献】特表2014-534018号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
特許文献1による製造方法で製造されるミルブランクから製造される補綴物は、前後方向(前歯として)のグラデーションのみを有するカマボコのような構造のものである。そのような構造を有する補綴物を特に前歯に用いる場合は、歯の左右端の内部に透光性の低い部分ができてしまい、切縁部の透明性及び色調を再現できず、審美性に劣る。また、補綴物として樹脂系の補綴物であり、強度、耐久性に問題がある。また、製造方法の点でも、共押出、順送押出、順送プレス、又はアディティブビルドアップのような接合による製造方法であり、簡便な製造方法ではなかった。
【0008】
特許文献2においては、ブランクの材料はセラミック又はアクリレートと記述されているが、具体的な製造方法が記載されておらず、セラミックスとしての具体的な名称、仮焼、焼成などのプロセスに関する記述もない。
【0009】
以上より、本発明が解決すべき課題として、審美性に優れた多層構造を有するミルブランク及びその製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者は、上記課題を解決するために鋭意研究を重ねた結果、特定の多層構造を有することによって、上記課題を解決できることを見出し、この知見に基づいてさらに研究を進め、本発明を完成するに至った。
【0011】
すなわち、本発明は以下の発明に関する。
[1]2層以上の積層構造を有するミルブランク部を有する歯科用のミルブランクであって、該積層構造において、エナメル層(1)の内側にボディ層(3)が存在し、ボディ層(3)が底面及び側面を有し、かつ側面が底面に対して垂直な部分を有する形状である、ミルブランク。
[2]該ミルブランク部が四角柱状である、前記[1]に記載のミルブランク。
[3]ボディ層(3)の底面に平行な少なくとも1つの断面が、円弧、楕円弧、放物線及び懸垂線からなる群より選択された少なくとも2つを組み合わせた輪郭を有する形状である、前記[1]又は[2]に記載のミルブランク。
[4]ボディ層(3)の底面に垂直な少なくとも1つの断面が、砲弾形の形状である、前記[1]~[3]のいずれかに記載のミルブランク。
[5]ボディ層(3)の底面に垂直な少なくとも1つの断面が、凸形状である、前記[1]~[3]のいずれかに記載のミルブランク。
[6]該ミルブランク部が、エナメル層(1)及びボディ層(3)の間に、中間層(2)を1層以上有する、前記[1]~[5]のいずれかに記載のミルブランク。
[7]中間層(2)が底面及び側面を有し、かつ側面が底面に対して垂直な部分を有する形状である、前記[6]に記載のミルブランク。
[8]中間層(2)の底面に平行な少なくとも1つの断面が、円弧、楕円弧、放物線及び懸垂線からなる群より選択された少なくとも2つを組み合わせた断面形状である、前記[7]に記載のミルブランク。
[9]中間層(2)の底面に垂直な少なくとも1つの断面が、砲弾形の形状である、前記[7]又は[8]に記載のミルブランク。
[10]中間層(2)の底面に垂直な少なくとも1つの断面が、凸形状である、前記[7]又は[8]に記載のミルブランク。
[11]該積層構造において隣接した各層の色調及び/又は透光性が互いに異なる、前記[1]~[10]のいずれかに記載のミルブランク。
[12]ボディ層(3)のL*a*b*表色系における色度が、L*=60~85、a*=-2~7、b*=4~28である、前記[1]~[11]のいずれかに記載のミルブランク。
[13]ボディ層(3)の透光性がΔL*=2~13である、前記[1]~[12]のいずれかに記載のミルブランク。
[14]エナメル層(1)のL*a*b*表色系における色度が、L*=62~90、a*=-3~5、b*=3~22である、前記[1]~[13]のいずれかに記載のミルブランク。
[15]エナメル層(1)の透光性がΔL*=4~20である、前記[1]~[14]のいずれかに記載のミルブランク。
[16]中間層(2)のL*a*b*表色系における色度が、L*=62~86、a*=-2~7、b*=4~27である、前記[6]~[15]のいずれかに記載のミルブランク。
[17]中間層(2)の透光性がΔL*=4~18である、前記[6]~[16]のいずれかに記載のミルブランク。
[18]該ミルブランク部がジルコニア仮焼体からなる、前記[1]~[17]のいずれかに記載のミルブランク。
[19]前記[1]~[18]のいずれかに記載のミルブランクからなる、歯科用補綴物。
[20]粉末プレス法にてボディ層(3)を仮成形し、仮成形体となったボディ層(3)をエナメル層(1)で覆い本プレス成形する工程を含む、前記[1]~[18]のいずれかに記載のミルブランクの製造方法。
[21]ボディ層(3)を、底面及び側面を有し、かつ側面が底面に対して垂直な部分を有する形状であり、該底面に垂直な少なくとも1つの断面が砲弾形の形状となるように成形する工程を含む、前記[20]に記載のミルブランクの製造方法。
[22]粉末プレス法にてボディ層(3)及び中間層(2)を仮成形し、仮成形体となったボディ層(3)及び中間層(2)をエナメル層(1)で覆い本プレス成形する工程を含む、前記[6]~[17]のいずれかに記載のミルブランクの製造方法。
[23]ボディ層(3)及び/又は中間層(2)を、底面及び側面を有し、かつ側面が底面に対して垂直な部分を有する形状であり、該底面に垂直な少なくとも1つの断面が砲弾形の形状となるように成形する工程を含む、前記[22]に記載のミルブランクの製造方法。
[24]前記[1]~[18]のいずれかに記載のミルブランクを切削加工する工程を含む、歯科用補綴物の製造方法。
【発明の効果】
【0012】
本発明により、審美性に優れた多層構造を有するミルブランク、歯科用補綴物及びその製造方法を提供することができる。すなわち、本発明により、天然歯に近い色調及び透光性を有する多層構造を有するミルブランク、歯科用補綴物及びその製造方法を提供することができる。また、本発明により、強度及び耐久性に優れた多層構造を有するミルブランク、歯科用補綴物及びその製造方法を提供することができる。さらに、本発明の製造方法により、簡便にミルブランク及び歯科用補綴物を製造することができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
図1】本発明に係るミルブランク部の実施形態の一例を示す概略図である。
図2A】本発明に係るミルブランク部を仮想第一切断面で割断した際の断面図(概略図)である。
図2B】本発明に係るミルブランク部を仮想第一切断面で割断した際の断面図(概略図)である。
図2C】本発明に係るミルブランク部を仮想第一切断面で割断した際の断面図(概略図)である。
図2D】本発明に係るミルブランク部を仮想第一切断面で割断した際の断面図(概略図)である。
図3A】本発明に係るミルブランク部を仮想第二切断面で割断した際の断面図(概略図)である。
図3B】本発明に係るミルブランク部を仮想第二切断面で割断した際の断面図(概略図)である。
図3C】本発明に係るミルブランク部を仮想第二切断面で割断した際の断面図(概略図)である。
図3D】本発明に係るミルブランク部を仮想第二切断面で割断した際の断面図(概略図)である。
図4】本発明に係るミルブランク部の実施形態の一例を示す概略図である。
図5A】本発明に係るミルブランク部を仮想第一切断面で割断した際の断面図(概略図)である。
図5B】本発明に係るミルブランク部を仮想第一切断面で割断した際の断面図(概略図)である。
図5C】本発明に係るミルブランク部を仮想第一切断面で割断した際の断面図(概略図)である。
図5D】本発明に係るミルブランク部を仮想第一切断面で割断した際の断面図(概略図)である。
図6A】本発明に係るミルブランク部を仮想第二切断面で割断した際の断面図(概略図)である。
図6B】本発明に係るミルブランク部を仮想第二切断面で割断した際の断面図(概略図)である。
図6C】本発明に係るミルブランク部を仮想第二切断面で割断した際の断面図(概略図)である。
図6D】本発明に係るミルブランク部を仮想第二切断面で割断した際の断面図(概略図)である。
図7】本発明に係るミルブランク部を仮想第二切断面で割断した際の断面図(概略図)である。
図8】本発明に係るミルブランク部を仮想第二切断面で割断した際の断面図(概略図)である。
図9】本発明に係るミルブランク部を仮想第二切断面で割断した際の断面図(概略図)である。
図10】本発明に係るミルブランク部を仮想第二切断面で割断した際の断面図(概略図)である。
図11】本発明に係るミルブランク部を仮想第二切断面で割断した際の断面図(概略図)である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
本発明のミルブランクは、2層以上の積層構造を有するミルブランク部を有する歯科用のミルブランクであって、該積層構造において、エナメル層(1)の内側にボディ層(3)が存在し、ボディ層(3)が底面及び側面を有し、かつ側面が底面に対して垂直な部分を有する形状であることを特徴とする。
【0015】
[ミルブランク部]
本発明においてミルブランク部は、エナメル層(1)及びボディ層(3)を含む2層以上の積層構造を有する。該ミルブランク部の一例を図1に示す。
【0016】
ボディ層(3)は、ミルブランクにおいて支台歯の色調が浮き出ないように色調遮蔽性を有する層であり、エナメル層の内側に形成する必要がある。ボディ層(3)が底面及び側面を有し、かつ側面が底面に対して垂直な部分を有する形状であることにより、天然歯とより近い構造(象牙質)となるため、天然歯と同様の色調が得られる。また、前記側面が底面に対して垂直な部分を有する形状であることにより、ミルブランク部の内部構造を計測することができ、CADソフトに容易に反映させることができる。すなわち、CADソフトにおいて、仮想ミルブランク部内の歯科用補綴物の位置合わせが容易になる。ミルブランクにおいてボディ層(3)の、側面が底面に対して垂直な部分は、象牙質により近づけるために、所望の高さを有する。なお、ボディ層(3)の底面は、エナメル層(1)や後述する中間層(2)に覆われてもよく、ミルブランク部の表面に露出されてもよい。
【0017】
ボディ層(3)の好適な形状について以下説明する。
【0018】
ボディ層(3)において、底面に平行な少なくとも1つの断面が、円弧、楕円弧、放物線及び懸垂線からなる群より選択された少なくとも2つを組み合わせた輪郭を有する形状であることが好ましい。該輪郭は、円弧、楕円弧、放物線及び懸垂線からなる群より選択された曲線以外に、直線を組み合わせたものであってもよいが、円弧、楕円弧、放物線及び懸垂線からなる群より選択された曲線のみを組み合わせたものであることがより好ましい。前記形状としては、円、楕円など、図2A図2Dに記載のものが例示される。なお、前記断面としては、例えば、図1における仮想第一切断面(4)で割断した際の断面が含まれる。
【0019】
ボディ層(3)において、底面に垂直な少なくとも1つの断面が、砲弾形の形状であるのが好ましい。砲弾形の形状とは、例えば、図1の仮想第二切断面(5)でミルブランクを切断した場合に、四角形の一つの辺が外側に湾曲した形状を表し、ボディ層(3)は図3A図3Dに記載のもの(図3の斜線部)が例示される(図3におけるA~Dは、図2におけるA~Dにそれぞれ対応する)。さらに、ボディ層(3)は図7図11に記載されるような、形状を有していてもよい。例えば、図7図10に示されるように、ボディ層(3)が段差(ショルダー部6)を有する形状であってもよい。さらに、段差を有することに加えて、図1における仮想第二切断面(5)で割断した際の断面(ボディ層(3)の底面に垂直な少なくとも1つの断面)において、側面が底面に対して垂直な部分を複数有し、凸形状を有するものであってもよい。いいかえると、図7図10に示されるように、ボディ層(3)は、一部に円柱等の柱体状の形状を有していてもよい。前記柱体状は、図8及び図10に示されるように、図1における仮想第二切断面(5)で割断した際の断面(ボディ層(3)の底面に垂直な少なくとも1つの断面)において、柱体の角が丸みを帯びた凸形状であってもよい。ボディ層(3)が上記の形状を有することによって天然歯の構造により近づけることができる。なお、前記断面としては、例えば、図1における仮想第二切断面(5)で割断した際の断面が含まれる。
【0020】
本発明のミルブランクは、該ミルブランク部が、エナメル層(1)及びボディ層(3)の間に、中間層(2)を1層以上有することが好ましい。中間層(2)を1層以上有することによって、ボディ層の色調が表面に浮き出ることを防ぐことができる。該ミルブランク部の一例を図4に示す。
【0021】
中間層(2)は、ボディ層(3)の側面の少なくとも一部を覆っている必要があり、好ましい実施形態としては、中間層(2)は、ボディ層(3)の側面の全部を覆っている。また、中間層(2)は、ボディ層(3)の底面の全部又は少なくとも一部を覆っていてもよい。
【0022】
中間層(2)の好適な形状について以下説明する。
【0023】
中間層(2)は、底面及び側面を有し、かつ側面が底面に対して垂直な部分を有する形状であることが好ましい。これにより、天然歯と同等の構造(象牙質)を有するため、天然歯と同様の色調が得られる。また、前記側面が底面に対して垂直な部分を有する形状であることにより、ミルブランク部の内部構造を計測することができ、CADソフトに容易に反映させることができる。すなわち、CADソフトにおいて、仮想ミルブランク部内の歯科用補綴物の位置合わせが容易になる。
【0024】
中間層(2)において、底面に平行な少なくとも1つの断面が、円弧、楕円弧、放物線及び懸垂線からなる群より選択された少なくとも2つを組み合わせた輪郭を有する形状であることが好ましい。該輪郭は、円弧、楕円弧、放物線及び懸垂線からなる群より選択された曲線以外に、直線を組み合わせたものであってもよいが、円弧、楕円弧、放物線及び懸垂線からなる群より選択された曲線のみを組み合わせたものであることがより好ましい。前記形状としては、円、楕円など、図5A図5Dに記載のものが例示される。なお、前記断面としては、例えば、図4における仮想第一切断面(4)で割断した際の断面が含まれる。
【0025】
中間層(2)において、底面に垂直な少なくとも1つの断面が、砲弾形の形状であるのが好ましい。砲弾形の形状の中間層(2)としては、図6A図6Dに記載のものが例示される(図6におけるA~Dは、図5におけるA~Dにそれぞれ対応する)。さらに、図7、8、11におけるエナメル層(1)の内側であり、かつボディ層(3)の外側の部分に中間層(2)を1層以上有する形態であってもよい。中間層(2)が上記の形状を有することによって天然歯の構造により近づけることができる。なお、前記断面としては、例えば、図4における仮想第二切断面(5)で割断した際の断面が含まれる。
【0026】
中間層(2)の形状は、ボディ層(3)と同じでも異なってもよいが、支台歯を遮蔽する観点から、同じであることが好ましい。
【0027】
本発明のミルブランク部の形状は、治具を取り付けられる限り特に限定されず、中間層(2)を有する実施形態及び中間層(2)を有しない実施形態のいずれにおいても、例えば、角柱状とすることができ、製造上の観点から四角柱状が好ましい。
【0028】
各層における色調及び透光性の好適な実施形態について以下に説明する。なお、本発明において色調を示す尺度としては、例えば、L*a*b*表色系における色度のL*、a*、b*などを用いることができる。透光性を示す尺度としては、例えば、L*a*b*表色系におけるΔL*などの色度を用いることができる。なお、後述のように、本発明のミルブランク部がジルコニア仮焼体の場合は、前記色調(色度)及び透光性とは焼結後の値を指す。これらの測定方法の詳細は、後述の実施例に記載する。
【0029】
ボディ層(3)においては、L*a*b*表色系における色度がL*=60~85、a*=-2~7、b*=4~28であることが好ましく、L*=64~77、a*=-1~4、b*=11~27であることがより好ましい。
【0030】
ボディ層(3)の透光性ΔL*は、2~13が好ましく、2~10がより好ましく、3~7がさらに好ましい。透光性が前記範囲を満たすことにより色調遮蔽性を向上させ、天然歯と同等の色調を得ることができる。
【0031】
エナメル層(1)おいては、L*a*b*表色系における色度がL*=62~90、a*=-3~5、b*=3~22であることが好ましく、L*=62~72、a*=-2~2、b*=5~19であることがより好ましく、L*=68~72、a*=-2~2、b*=5~19であることがさらに好ましい。
【0032】
エナメル層(1)の透光性ΔL*は、4~20が好ましく、7~20がより好ましい。また、ある実施形態では、エナメル層(1)の透光性ΔL*は、4~18がより好ましく、7~18がさらに好ましく、8~16が特に好ましい。透光性が前記範囲を満たすことにより審美性に優れたミルブランク部とすることができる。
【0033】
中間層(2)においては、L*a*b*表色系における色度がL*=62~86、a*=-2~7、b*=4~27であることが好ましく、L*=63~76、a*=-1~4、b*=10~26であることがより好ましい。
【0034】
中間層(2)の透光性ΔL*は、4~18が好ましく、5~17がより好ましく、6~11がさらに好ましい。透光性が前記範囲を満たすことによりボディ層(3)の色調を程よく浮き上がらせることができる。
【0035】
本発明のミルブランク部は、該積層構造において隣接した各層の色調及び/又は透光性が互いに異なることが天然歯の外観に近づける観点から好ましい。例えば、図1に示されるような、中間層(2)を有しない実施形態(x-1)では、透光性について、ボディ層(3)の透光性ΔL*<エナメル層(1)の透光性ΔL*の関係を満たすミルブランク部が、天然歯の外観に近づける観点から好ましい。他の好適な実施形態(x-2)としては、前記実施形態(x-1)において、エナメル層(1)の透光性ΔL*とボディ層(3)の透光性ΔL*の差は、1~9が好ましく、2~8がより好ましく、3~7がさらに好ましい。他の好適な実施形態(x-3)としては、前記実施形態(x-1)において、エナメル層(1)のL*値、a*値及びb*値<ボディ層(3)のL*値、a*値及びb*値の関係を満たすミルブランクが、天然歯の外観に近づける観点から好ましい。
【0036】
また、図4に示されるような、エナメル層(1)及びボディ層(3)に加えて、中間層(2)を有する実施形態(y-1)では、透光性について、ボディ層(3)の透光性ΔL*<中間層(2)の透光性ΔL*<エナメル層(1)の透光性ΔL*の関係を満たすミルブランクが、天然歯の外観に近づける観点から好ましい。他の好適な実施形態(y-2)としては、前記実施形態(y-1)において、エナメル層(1)のL*値、a*値及びb*値<ボディ層(3)のL*値、a*値及びb*値の関係を満たすミルブランクが、天然歯の外観に近づける観点から好ましい。さらに、他の好適な実施形態(y-3)としては、前記実施形態(y-1)又は(y-2)において、エナメル層(1)のL*値、a*値及びb*値<中間層(2)のL*値、a*値及びb*値の関係を満たすミルブランクが、天然歯の外観に近づける観点から好ましい。他の好適な実施形態(y-4)としては、前記実施形態(y-1)~(y-3)において、L*値について、エナメル層(1)のL*値<ボディ層(3)のL*値<中間層(2)のL*値の関係を満たすミルブランクが、天然歯の外観に近づける観点から好ましい。また、他の好適な実施形態(y-5)としては、前記実施形態(y-1)~(y-4)において、L*値について、エナメル層(1)のL*値<ボディ層(3)のL*値<中間層(2)のL*値の関係を満たし、a*値及びb*値について、エナメル層(1)のa*値<中間層(2)のa*値<ボディ層(3)のa*値の関係を満たし、エナメル層(1)のb*値<中間層(2)のb*値<ボディ層(3)のb*値の関係を満たし、透光性について、ボディ層(3)の透光性ΔL*<中間層(2)の透光性ΔL*<エナメル層(1)の透光性ΔL*の関係を満たすミルブランクが、天然歯の外観に近づける観点から特に好ましい。前記実施形態(y-1)~(y-5)において、エナメル層(1)の透光性ΔL*と中間層(2)の透光性ΔL*の差は、1~9が好ましく、2~8がより好ましく、3~7がさらに好ましい。また、前記実施形態(y-1)~(y-5)において、中間層(2)の透光性ΔL*とボディ層(3)の透光性ΔL*の差は、1~9が好ましく、2~8がより好ましく、3~7がさらに好ましい。
【0037】
本発明のミルブランク部は、ジルコニア、ガラスなどのセラミックスから構成されていてもよく、レジンから構成されていてもよいが、強度、耐久性の点からジルコニアであることが好ましく、加工のしやすさの点からジルコニア仮焼体がより好ましい。
【0038】
前記ジルコニア仮焼体は、前述した各層の好適な色調、透光性を満たす目的で顔料や添加剤を含むことが好ましい。
【0039】
前記顔料としては、歯科用組成物に用いられる公知の顔料(無機顔料、複合顔料、蛍光顔料等)を用いることができる。無機顔料としては、例えば、酸化ニッケル、酸化鉄赤、酸化クロム、酸化アルミニウム、酸化チタン等の酸化物等が挙げられる。また、複合顔料としては、例えば、Zr-V、Fe(Fe,Cr)24、(Ni,Co,Fe)(Fe,Cr)24・ZrSiO4、(Co,Zn)Al24等が挙げられる。蛍光顔料としては、例えば、Y2SiO5:Ce、Y2SiO5:Tb、(Y,Gd,Eu)BO3、Y23:Eu、YAG:Ce、ZnGa24:Zn、BaMgAl1017:Eu等が挙げられる。
【0040】
前記ジルコニア仮焼体は、歯科用製品として繰り返しの咀嚼運動に耐えるだけの耐チッピング性、及び耐クラック性や、曲げ強さを必要とする点で、安定化剤を含むことが好ましい。すなわち、焼成前のジルコニアに安定化剤を含ませることが好ましい。これにより、歯科用製品の基材となる、焼成後のジルコニア焼結体が、部分安定化ジルコニア及び完全安定化ジルコニアの少なくとも一方をマトリックス相として有することができる。前記ジルコニア焼結体において、ジルコニアの主たる結晶相は正方晶及び立方晶の少なくとも一方であり、正方晶及び立方晶の両方を含有してもよい。また、前記ジルコニア焼結体は単斜晶を実質的に含有しないものが好ましい。実質的に単斜晶を含有しないとは、ジルコニア焼結体における単斜晶の含有量が5.0質量%未満であり、好ましくは1.0質量%未満である。なお、安定化剤を添加して部分的に安定化させたジルコニアは、部分安定化ジルコニア(PSZ;Partially Stabilized Zirconia)と呼ばれ、完全に安定化させたジルコニアは完全安定化ジルコニアと呼ばれている。
【0041】
前記安定化剤としては、酸化イットリウム(Y23)(以下、「イットリア」という。)、酸化チタン(TiO2)、酸化カルシウム(カルシア;CaO)、酸化マグネシウム(マグネシア;MgO)、酸化セリウム(セリア;CeO2)、酸化アルミニウム(アルミナ;Al23)、酸化スカンジウム(Sc23)、酸化ランタン(La23)、酸化エルビウム(Er23)、酸化プラセオジム(Pr611)、酸化サマリウム(Sm23)、酸化ユウロピウム(Eu23)及び酸化ツリウム(Tm23)からなる群から選ばれた酸化物の少なくとも1種であることが好ましい。特に、高い透光性と強度向上の点から、安定化剤としてイットリアが好ましい。これらは、1種単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0042】
安定化剤がイットリアを含有する場合、イットリアの含有量は、ジルコニアと安定化剤の合計100モル%において、2~8モル%が好ましく、3~6モル%がより好ましい。この含有量であれば、単斜晶への相転移を抑制するとともに、ジルコニア焼結体の透明性を高めることができる。
【0043】
安定化剤として酸化チタンを含有する場合、酸化チタンの含有量は、ジルコニアと安定化剤の合計100モル%において、0.1~1モル%が好ましく、0.1~0.3モル%がより好ましい。
【0044】
安定化剤として酸化カルシウムを含有する場合、酸化カルシウムの含有量は、ジルコニアと安定化剤の合計100モル%において、2~15モル%が好ましく、2.1~12モル%がより好ましい。
【0045】
安定化剤として酸化マグネシウムを含有する場合、酸化マグネシウムの含有量は、ジルコニアと安定化剤の合計100モル%において、2~12モル%が好ましく、2.1~10モル%がより好ましい。
【0046】
安定化剤として酸化セリウムを含有する場合、酸化セリウムの含有量は、ジルコニアと安定化剤の合計100モル%において、2~18モル%が好ましく、2.1~12モル%がより好ましい。
【0047】
安定化剤として酸化アルミニウムを含有する場合、酸化アルミニウムの含有量は、ジルコニアと安定化剤の合計100モル%において、0.1~1モル%が好ましく、0.1~0.3モル%がより好ましい。
【0048】
安定化剤として酸化スカンジウムを含有する場合、酸化スカンジウムの含有量は、ジルコニアと安定化剤の合計100モル%において、0.1~1モル%が好ましく、0.1~0.3モル%がより好ましい。
【0049】
安定化剤として酸化ランタンを含有する場合、酸化ランタンの含有量は、ジルコニアと安定化剤の合計100モル%において、1~10モル%が好ましく、2~7モル%がより好ましい。
【0050】
安定化剤として酸化エルビウムを含有する場合、酸化エルビウムの含有量は、ジルコニアと安定化剤の合計100モル%において、0.1~1モル%が好ましく、0.1~0.3モル%がより好ましい。
【0051】
安定化剤として酸化プラセオジムを含有する場合、酸化プラセオジムの含有量は、ジルコニアと安定化剤の合計100モル%において、0.1~1モル%が好ましく、0.1~0.3モル%がより好ましい。
【0052】
安定化剤として酸化サマリウムを含有する場合、酸化サマリウムの含有量は、ジルコニアと安定化剤の合計100モル%において、0.1~1モル%が好ましく、0.1~0.3モル%がより好ましい。
【0053】
安定化剤として酸化ユウロピウムを含有する場合、酸化ユウロピウムの含有量は、ジルコニアと安定化剤の合計100モル%において、0.1~1モル%が好ましく、0.1~0.3モル%がより好ましい。
【0054】
安定化剤として酸化ツリウムを含有する場合、酸化ツリウムの含有量は、ジルコニアと安定化剤の合計100モル%において、0.1~1モル%が好ましく、0.1~0.3モル%がより好ましい。
【0055】
なお、ジルコニア焼結体中の安定化剤の含有量は、例えば、誘導結合プラズマ(ICP;Inductively Coupled Plasma)発光分光分析、蛍光X線分析等によって測定することができる。
【0056】
本発明のミルブランクの製造方法について以下に説明する。
【0057】
本発明のミルブランクの製造方法は、粉末プレス法にてボディ層(3)を仮成形し、仮成形体となったボディ層(3)をエナメル層(1)で覆い本プレス成形する工程を含む。
【0058】
前記粉末プレス法とは、ある層を構成する粉体(例えば、ボディ層(3)を作製する場合、ジルコニア粉末)及び、顔料や添加剤などの成分が配合された粉体を用意し、金型中でパンチを用いてプレス成形する方法を表す。
【0059】
仮成形時のプレスは従来公知の条件を用いることができるが、プレス圧は、後の本プレス成形より低い条件とする必要がある。得られる成形体(ミルブランク部)の密度は2.0~4.0g/cm3であることが好ましく、該密度を達成できる限り、本プレス成形の装置や条件は限定されない。
【0060】
本発明において、ミルブランク部が中間層(2)を有する場合、粉末プレス法にてボディ層(3)及び中間層(2)を仮成形し、仮成形体となったボディ層(3)及び中間層(2)をエナメル層(1)で覆い本プレス成形する工程を含むことが好ましい。より好ましくは、粉末プレス法にてボディ層(3)を仮成形し、得られたボディ層(3)を中間層(2)で覆い仮成形し、仮成形体となったボディ層(3)及び中間層(2)をエナメル層(1)で覆い本プレス成形する工程を含む。
【0061】
ボディ層(3)の仮成形時のプレス圧は、中間層(2)の仮成形時より低い条件とし、かつ中間層(2)の仮成形時の圧力は後の本プレス成形より低い条件とする必要がある。
【0062】
得られる成形体(ミルブランク部)の密度は2.0~4.0g/cm3であることが好ましく、該密度を達成できる限り本プレス成形の装置や条件は限定されない。
【0063】
本発明のミルブランク部において、特定の形状を有するボディ層(3)を得るために、ボディ層(3)の仮成形に該形状を有する金型を用いてプレスしてもよく、通常の金型を用いてプレスした後に仮成形体を削って該形状に整えてもよい。該形状としては、前述したように、ボディ層(3)が底面及び側面を有し、かつ側面が底面に対して垂直な部分を有する形状であり、ボディ層(3)において、底面に垂直な少なくとも1つの断面が砲弾形の形状であることが好ましく、本発明のミルブランクの製造方法において、ボディ層(3)を該形状に成形する工程を含むことが好ましい。
【0064】
同様に特定の形状を有する中間層(2)を得るために、中間層(2)の仮成形に該形状を有する金型を用いてプレスしてもよく、通常の金型を用いてプレスした後に仮成形体を削って該形状に整えてもよい。該形状としては、前述したように、中間層(2)が底面及び側面を有し、かつ側面が底面に対して垂直な部分を有する形状であり、中間層(2)において、底面に垂直な少なくとも1つの断面が砲弾形の形状であることが好ましく、本発明のミルブランクの製造方法において、中間層(2)を該形状に成形する工程を含むことが好ましい。
【0065】
〔ミルブランク〕
本発明のミルブランクは前記ミルブランク部を有し、当該ミルブランク部と支持部とを有することが好ましい。当該支持部によってミルブランクをミリング装置に固定することができる。支持部をミルブランク部に取り付ける方法に特に制限はなく、例えば、接着剤等によりミルブランク部と支持部とを接着することができる。
【0066】
本発明のミルブランクは歯科用途に使用され、例えば、歯科用CAD/CAMシステムでの切削加工による、インレー、アンレー、ベニア、クラウン、ブリッジ、支台歯、歯科用ポスト、義歯、義歯床、インプラント部材(フィクスチャー、アバットメント)等の歯科用補綴物の作製などに好適に用いることができる。本発明のミルブランクから歯科用補綴物を製造する方法に特に制限はなく、公知の方法を適宜採用することができるが、該ミルブランクを切削加工する工程を含むことが好ましい。
【0067】
本発明は、本発明の効果を奏する限り、本発明の技術的思想の範囲内において、上記の構成を種々組み合わせた実施形態を含む。
【実施例
【0068】
次に、実施例を挙げて本発明をさらに具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例により何ら限定されるものではなく、多くの変形が本発明の技術的思想の範囲内で当分野において通常の知識を有する者により可能である。
【0069】
[実施例1]
安定化剤としてイットリアを6モル%含有するジルコニア粉末を用意し、直径約11mmの円柱状金型に、プレス後のボディ層(3)の高さが8mmとなるように、該ジルコニア粉末を表1に記載の量の顔料とともに入れた。次に、該ジルコニア粉末を3kNでプレスし仮成形した後、得られたボディ層(3)の仮成形体を図4に記載の砲弾形となるように削った。その後、直径約14mmの円柱状金型に前記ボディ層(3)の仮成形体を設置し、プレス後の中間層(2)の高さが12mmとなるように前記ボディ層(3)の仮成形体の周りに、ボディ層(3)に用いたものと同じジルコニア粉末を表1に記載の量の顔料とともに入れた。次に、該ジルコニア粉末を5kNでプレスして仮成形した後、得られたボディ層(3)及び中間層(2)の仮成形体を図4に記載の砲弾形となるように削った。その後、18.4mm×20.3mmの四角柱状金型に前記ボディ層(3)及び中間層(2)の仮成形体を設置し、プレス後のエナメル層(1)の高さが14mmとなるように前記ボディ層(3)及び中間層(2)の仮成形体の周りに、ボディ層(3)及び中間層(2)に用いたものと同じジルコニア粉末を表1に記載の量の顔料とともに入れた。次に、該ジルコニア粉末を30kNで本プレス成形した後、170MPaでCIP(Cold Isostatic Pressing;冷間静水等方圧プレス)処理を1分間施してミルブランク部を作製した。次に、SKメディカル電子株式会社製焼成炉「ノリタケ カタナ(登録商標) F-1」を使用して該ミルブランク部を1,025℃で2時間焼成して 、ジルコニア仮焼体からなるミルブランク部を作製した。
【0070】
ジルコニア焼結体フレームの作製方法を説明する。まず、印象材と呼ばれる型取り材を用い、支台歯、その対合歯及び支台歯周囲の歯列のメス型を採った。次に、そこへ石膏を流し込みオス型の石膏模型を作製し、支台歯、その対合歯及び支台歯周囲の歯列を再現した。次に、ワックスを用いて、石膏模型の支台歯上に、噛み合わせ、形状、寸法等を合わせたワックス冠を形成した。このワックス冠は、フレーム形成の基礎となるものである。次に、石膏模型の支台歯及びワックス冠を、クラレノリタケデンタル株式会社製「カタナ(登録商標) デンタルスキャナーD750」を用いて光学スキャンして、支台歯及びワックス冠のデジタル化した3次元データを得た。なお、本実施例では、石膏模型を光学スキャンしたが、口腔内スキャナにより直接口腔内を光学スキャンしてもよい。また、ワックス冠を用いずに、石膏模型を光学スキャンした後、3次元CADソフトを用いて仮想的なフレーム形状に基づく3次元データを作製してもよい。
【0071】
次に、作製したジルコニア仮焼体からなるミルブランク部から、前記3次元データに基づき、クラレノリタケデンタル株式会社製ミリング加工機「DWX-50N」を用いて、φ2.0mm及びφ0.8mmの超硬ドリルにより前歯フレーム形状に加工した。その後、SKメディカル電子株式会社製焼成炉「ノリタケ カタナ(登録商標) F-1」を使用して、1550℃で2時間焼成して焼結させ、ジルコニア焼結体からなる前歯フレームを作製した。
【0072】
得られた前歯フレームの表面に残っている余剰部分を、軸付きダイヤモンド砥粒を用いて電動切削工具で除去した。次に、50μmのアルミナを用いて0.2MPaの圧力でサンドブラスト処理を行い、該前歯フレームの表面をつや消し状態とした。その後、クラレノリタケデンタル株式会社製「パールサーフェス(登録商標)」で該前歯フレームの表面を研磨し光沢を持たせ、本発明の歯科用補綴物とした。
【0073】
[実施例2]
各層を作製する際の顔料を表1に記載の含有量に変更した以外は、実施例1と同様にしてミルブランク部を作製し、本発明の歯科用補綴物を得た。
【0074】
[比較例1]
フレームの原料として平行な4層の積層構造であり、ボディ層(3)は側面が底面に対して垂直な部分を有しない、市販の98.5mm×14.0mmのクラレノリタケデンタル株式会社製「ノリタケ カタナ(登録商標) ジルコニア」ディスクUTML A3を準備した。次に、実施例1において得られた3次元データに基づき、クラレノリタケデンタル株式会社製ミリング加工機「DWX-50N」を用いて、φ2.0mm及びφ0.8mmの超硬ドリルにより該ディスクをフレーム形状に加工した。加工したフレームを前駆体として、SKメディカル電子株式会社製焼成炉「ノリタケ カタナ(登録商標)F-1」を使用して、1550℃で2時間焼成して焼結させ、前歯フレームを作製した。
【0075】
得られた前歯フレームの表面に残っている余剰部分を、軸付きダイヤモンド砥粒を用いて電動切削工具で除去した。次に、50μmのアルミナを用いて0.2MPaの圧力でサンドブラスト処理を行い、前歯フレームの表面をつや消し状態とした。その後、クラレノリタケデンタル株式会社製「パールサーフェス(登録商標)」で該前歯フレームの表面を研磨し光沢を持たせ、歯科用補綴物とした。
【0076】
〔色調の測定〕
色調は、各実施例及び比較例で作製した歯科用補綴物の各層のジルコニア粉末をそれぞれ単独で用いて単層のジルコニア焼結体を作製し、直径14mm、厚さ1.2mmの円板となるように加工(両面は#600研磨)した後、コニカミノルタ株式会社製の分光測色計CM-3610Aを用いて、D65光源、測定モードSCI、測定径/照明径=φ8mm/φ11mm、白背景の条件にて、L*a*b*表色系(JIS Z 8781-4:2013 測色-第4部:CIE 1976 L*a*b*色空間)における色度を測定した。
【0077】
〔透光性の測定〕
透光性は、各実施例及び比較例で作製した歯科用補綴物の各層のジルコニア粉末をそれぞれ単独で用いて単層のジルコニア焼結体を作製し、直径14mm、厚さ1.2mmの円板となるように加工(両面は#2000研磨)した後、コニカミノルタ株式会社製の分光測色計CM-3610Aを用いてD65光源にて測定した、L*a*b*表色系(JIS Z 8781-4:2013)における明度(色空間)のL*値を用いて、次のように算出した。試料の背景を白色にして測定したL*値を第1のL*値とし、第1のL*値を測定した同一の試料について、試料の背景を黒色にして測定したL*値を第2のL*値とし、第1のL*値から第2のL*値を控除した値(ΔL*)を、透光性を示す数値とした。
【0078】
【表1】
【0079】
目視により評価を行った結果、実施例1及び2の歯科用補綴物は天然歯の層構造に類似した形状を有するため、平行な4層の積層構造を有する比較例1と比較して、審美性に優れ、天然歯に近い前歯フレームが作製することができた。
【産業上の利用可能性】
【0080】
本発明のミルブランクは、高い審美性を有する歯科用補綴物として用いることができる。
【符号の説明】
【0081】
1 エナメル層
2 中間層
3 ボディ層
4 仮想第一切断層
5 仮想第二切断層
6 ショルダー部
図1
図2A
図2B
図2C
図2D
図3A
図3B
図3C
図3D
図4
図5A
図5B
図5C
図5D
図6A
図6B
図6C
図6D
図7
図8
図9
図10
図11