(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-05-12
(45)【発行日】2023-05-22
(54)【発明の名称】非接触振動計測装置および非接触振動計測方法
(51)【国際特許分類】
G01H 9/00 20060101AFI20230515BHJP
【FI】
G01H9/00 Z
(21)【出願番号】P 2020000448
(22)【出願日】2020-01-06
【審査請求日】2022-03-03
(73)【特許権者】
【識別番号】000003078
【氏名又は名称】株式会社東芝
(73)【特許権者】
【識別番号】317015294
【氏名又は名称】東芝エネルギーシステムズ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001092
【氏名又は名称】弁理士法人サクラ国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】山本 摂
(72)【発明者】
【氏名】星 岳志
(72)【発明者】
【氏名】菅原 あずさ
【審査官】森口 正治
(56)【参考文献】
【文献】特開平7-72005(JP,A)
【文献】特開2006-138862(JP,A)
【文献】特許第3874749(JP,B2)
【文献】実公平5-32738(JP,Y2)
【文献】実開平7-32526(JP,U)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01H 1/00-17/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
光源と、
前記光源から出力される光源レーザ光をシードとして、被測定対象表面に照射する発振レーザ光を発振するレーザ発振器と、
レーザ光を所定の比率に分岐するビームスプリッタと、
前記ビームスプリッタにより分岐された前記発振レーザ光と、前記被測定対象表面から前記レーザ発振器への散乱帰還レーザ光により変調され前記ビームスプリッタにより分岐された変調発振レーザ光とを受光し電気的な受信信号に変換する光検出部と、
前記光検出部により変換された前記発振レーザ光もしくは前記変調発振レーザ光の強度である前記受信信号を解析する信号処理部とを備え、
前記信号処理部は、前記レーザ発振器からの前記発振レーザ光の固有振動数に相当する信号を前記受信信号から除外する周波数フィルタを有する
ことを特徴とする非接触振動計測装置。
【請求項2】
前記周波数フィルタは、前記受信信号から前記固有振動数の2次高調波、もしくは3次高調波など高次高調波成分のうち1つ以上を選択して透過させる機能を有することを特徴とする
請求項1に記載の非接触振動計測装置。
【請求項3】
前記被測定対象に振動を与える振動励起源を備え、前記振動励起源の励起する振動の中心周波数が、前記固有振動数と異なる帯域に中心周波数を有する
ことを特徴とする請求項1又は2に記載の非接触振動計測装置。
【請求項4】
前記被測定対象に振動を与える振動励起源を備え、前記振動励起源の励起する振動の周波数が前記固有振動数を含む広帯域のスペクトルを有する
ことを特徴とする請求項1又は2に記載の非接触振動計測装置。
【請求項5】
前記振動励起源を移動させる走査機構を有する
ことを特徴とする請求項3又は4に記載の非接触振動計測装置。
【請求項6】
前記振動励起源から励起された振動を、前記被測定対象の内部若しくは表面に伝搬させ、前記被測定対象における被測定点からの振動を計測し、前記被測定対象の板厚計測、又は形状計測、又は欠陥検出に用いる
ことを特徴とする請求項3乃至5のいずれか1項に記載の非接触振動計測装置。
【請求項7】
前記発振レーザ光の照射位置、前記被測定対象のうち1つ以上を移動させる走査機構を有する
ことを特徴とする請求項1乃至6のいずれか1項に記載の非接触振動計測装置。
【請求項8】
光源から出力される光源レーザ光をシードとして、レーザ発振器により被測定対象表面に照射する発振レーザ光を発振する工程と、
ビームスプリッタにより分岐された一方の前記発振レーザ光を前記被測定対象表面に照射する工程と、
前記被測定対象表面から前記レーザ発振器への散乱帰還レーザ光により変調され前記ビームスプリッタにより分岐された変調発振レーザ光を受光し電気的な受信信号に変換する工程と、
前記受信信号から、前記レーザ発振器からの前記発振レーザ光の固有振動数に相当する信号を除外する工程と
を有することを特徴とする非接触振動計測方法。
【請求項9】
振動励起源から励起された振動を、前記被測定対象の内部若しくは表面に伝搬させ、前記被測定対象における被測定点からの振動を計測し、前記被測定対象の板厚計測、又は形状計測、又は欠陥検出に用いる
ことを特徴とする請求項8に記載の非接触振動計測方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明の実施形態は、非接触振動計測装置および非接触振動計測方法に関する。
【背景技術】
【0002】
レーザを用いた超音波計測法、いわゆるレーザ超音波法は、従来実験室的な測定に用途が限られてきたが、大出力の受信用レーザ光源や粗面に強い干渉計測装置が開発され始めたことにより、急速に工業現場への適用が進んでいる。その最大の強みは非接触での計測が可能な点にあり、触れられないほど脆い、小さい、狭い、高温であるなどのプローブ接触が困難な対象、もしくは対象物への性能影響や対象物大きさから、水などの媒質に浸漬できない対象等に適用が期待されている。
【0003】
一方で、超音波の受信にレーザ干渉計測を用いるという特性上、超音波の受信にかかわる装置が大掛かりかつ高価となる。また、計測自体が不安定であり光源や干渉計そのものの安定性向上が必要となる。これらの問題点が、広範な普及への妨げとなってきた。
【0004】
上述の課題を解決すべく、レーザ超音波法のロバスト化については色々な取組が成されてきた。測定対象の表面凹凸が生み出すスペックルノイズを低減するため、干渉計における受光用ダイオードをアレイ化したり、反射光が自己干渉を行うファブリペロー干渉計を用いたり、反射光と参照光の破面を揃えるフォトリフラクティブ効果のある結晶を途中に導入するたりすることで、感度の安定化が一定の効果を上げてきた。しかし、それでももともと用いるレーザ光のコヒーレンシを上げるために安定化された大型のレーザ光源を用いたり、テーブルトップサイズの干渉計を組んだりする必要があった。
【0005】
それらと異なるアプローチとして、マイクロチップの薄型レーザ結晶で発生させたレーザを対象に照射し、反射してきた光を再びマイクロチップレーザの結晶に戻し、発生するレーザ光の乱れから粒子計測を行う技術が提案されている。これにより、レーザとは別に干渉計を用いる必要はなくなり、また光源としても安価なものが利用できるため上記問題の一部分は解決されると想定される。しかし当該技術は、受信光の周波数ゆらぎを測定対象とした粒子特性装置であり、安定して周波数を計測するためにビームスプリッタと測定対象の前に光音響変調素子を挿入することが実質的に必須項目である。そのため、本技術では超音波帯域の振動計測を行うには不十分であり、装置構成も冗長化が避けられない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【非特許文献】
【0007】
【文献】C.B.Scruby and L.E.Drain, Laser Ultrasonic:Techniques and Applications (Adam Hilger,Bristol,1990)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
上述した公知技術を踏まえたうえで、本発明の目的は、光音響変調素子等を用いず、安価な装置構成で超音波振動が計測可能な非接触振動計測装置および非接触振動計測方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
実施形態の非接触振動計測装置は、光源と、前記光源から出力される光源レーザ光をシードとして、被測定対象表面に照射する発振レーザ光を発振するレーザ発振器と、レーザ光を所定の比率に分岐するビームスプリッタと、前記ビームスプリッタにより分岐された前記発振レーザ光と、前記被測定対象表面から前記レーザ発振器への散乱帰還レーザ光により変調され前記ビームスプリッタにより分岐された変調発振レーザ光とを受光し電気的な受信信号に変換する光検出部と、前記光検出部により変換された前記発振レーザ光もしくは前記変調発振レーザ光の強度である前記受信信号を解析する信号処理部とを備え、前記信号処理部は、前記レーザ発振器からの前記発振レーザ光の固有振動数を前記受信信号から除外する周波数フィルタを有する。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【
図1】第1実施形態に係る非接触振動計測装置の構成を示す図。
【
図2】受信信号の強度と受信信号のゆらぎの周波数分布の例を示すグラフ。
【
図3】受信信号の強度と受信信号のゆらぎの周波数分布の例を示すグラフ。
【
図4】フィルタ帯域の例と、受信信号の例を示すグラフ。
【
図5】第2実施形態に係る非接触振動計測装置の構成を示す図。
【
図6】超音波信号を加えた場合の例を説明するための図。
【
図7】超音波信号を加えた場合の他の例を説明するための図。
【
図8】走査機構を加えた非接触振動計測装置の構成を説明するための図。
【
図9】欠陥検出を行う超音波探傷を行う場合の構成を説明するための図。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、図面を参照して、実施形態に係る非接触振動計測装置および非接触振動計測方法について説明する。
【0012】
(第1実施形態)
図1は、第1実施形態に係る非接触振動計測装置の構成を模式的に示す図である。なお、
図1では、同軸で描画するべき光路について、説明性のために平行に描画している場合がある。
【0013】
基本的な構成としては、光源レーザ光10を発振するための光源1と、光源1から出力される光源レーザ光10をシードとして被測定対象21表面に照射する発振レーザ光11を発振するレーザ発振器2と、分岐された発振レーザ光11、ならびに被測定対象21表面からレーザ発振器2への散乱帰還レーザ光12により変調された変調発振レーザ光13を受光し電圧信号である受信信号14に変換する光検出部3と、発振レーザ光11、変調発振レーザ光13ならびに散乱帰還レーザ光12を所定の比率に分岐するビームスプリッタ6と、光検出部3により変換された発振レーザ光11および変調発振レーザ光13の両方もしくは片方の強度である受信信号14を解析する信号処理部4とを備えている。
【0014】
信号処理部4は、予め把握しているレーザ発振器を構成する材料と結晶厚さを主パラメータとして定義されるレーザ光の固有振動数ω近傍の周波数を有する信号を受信信号14から除外する周波数フィルタ5を有する。周波数フィルタ5は、デジタル処理でもアナログ処理でもよく、それらを組合せて用いたり、増幅器と組合せたりしてもよい。例えばアナログ処理によってフィルタリングするもの等の場合、信号処理部4の前段に設けてもよい。
【0015】
ここで、レーザ光の固有振動数ω近傍の周波数を有する信号を受信信号14から除外する周波数フィルタ5としては、受信信号14から固有振動数ωの2次高調波2ω、3次高調波3ω、n次高調波nωなど高次高調波成分のうち1つ以上を選択的に透過させるバンドパスフィルタを使用することができる。受信信号をデジタル化したり、周波数フィルタをかける若しくはフィルタ帯域を制御するといった信号処理および収録、受信信号のスペクトル解析等の処理は、全体制御部8に設けられた信号処理部4によって行われる。全体制御部8は波形や条件等を表示する表示部、マウスやキーボード、タッチパネルといったユーザインタフェースや、受信信号の波形、受信信号のスペクトル、フィルタ帯域値といった測定情報を表示する表示部を有してもよい。
【0016】
図1に示したように、光源1から発せられた光源レーザ光10は、レーザ発振器2に入射されレーザ発振器2は発振レーザ光11を生じる。発振レーザ光11はビームスプリッタ6で所定の比率で分割され、片方は被測定対象21表面に、他方は光検出部3に照射される。被測定対象21表面で反射された発振レーザ光は、散乱帰還レーザ光12となって再びビームスプリッタ6へ戻り、ビームスプリッタ6から透過した散乱帰還レーザ光12の成分がレーザ発振器2に再帰する。散乱帰還レーザ光12の一部は、ビームスプリッタ6から遮光機構に到達する。
【0017】
散乱帰還レーザ光12が再帰したレーザ発振器2は、散乱帰還レーザ光12が変調されていた場合、発振レーザ光11の固有振動に他の周波数帯域が乗じる変調発振レーザ光13となって発振される。この変調発振レーザ光13は、ビームスプリッタ6を通して光検出部3で電圧波形となる受信信号に変換される。
【0018】
上記構成の非接触振動計測装置において、光源1から発せられる光源レーザ光10としては、代表的なダイオードレーザや、He-Ne等のレーザ、YAG等のレーザ、ファイバレーザ等が挙げられる。ここでは何かに限定されるものではなく、後述するレーザ発振器2と最も相性の良いものを用いることが好ましい。
【0019】
発振レーザ光11を生ずるレーザ発振器2としては、固体レーザを用いることが好ましく、光源レーザ光10をシードとして連続波を生じるものがよい。レーザ発振器2として色々な媒体が利用できるが、例えばNd:YVO4やNd:YAG、TM:YVO4、TM:YAG、Yb:YVO4、Yb:YAG、Ti:サファイア等があり、サブmm~数mm程度の結晶厚さ(共振器厚さ)にマイクロチップ化して利用するものが好適と想定される。結晶板厚さとしては、0.05mm~5mm程度のものが好ましく、0.5mm~2mm程度のものがさらに好ましい。結晶厚さが薄くなると変調された散乱帰還レーザ光12に対して敏感になるが、薄くなり過ぎると熱による結晶の破損が生じる等物理的強度が不十分になる。一方結晶厚さが厚くなると発振が安定になるが変調された散乱帰還レーザ光12に対して鈍感になり振動計測が感度良く行えなくなる。例えば、Nd:YVO4をレーザ発振器2として用いた場合は、光源レーザ光10の波長は808nm周辺が好適であり、これにあわせて光源1を選択することとなる。もちろん、ここで例示した以外の組合せでもよく、発振レーザ光11を生じる組合せであればよい。
【0020】
ビームスプリッタ6は、主にハーフミラー等で代表される偏光に依存せずに光を一定割合に分岐させるものでもよいし、偏光ビームスプリッタ(ポーラライザ)のようにある位相に応じて透過と反射を分岐するものでもよい。ポーラライザを用いる場合には、ポーラライザの前段あるいは後段に位相情報を変化させるλ/2やλ/4の波長板を組み合わせて適宜挿入してもよい。
【0021】
被測定対象21は、例えば黒体のような発振レーザ光11を反射しない吸収効率が非常に高いもの、あるいは粗い繊維のように発振レーザ光11が明確な反射挙動を示さないものを除けば適用可能であり、材料の種類としては金属や複合材、樹脂、コンクリート、液体等、超音波が伝搬する材料が想定される。
【0022】
被測定対象21表面に照射された発振レーザ光11は、被測定対象21表面が定常状態であれば、そのまま発振レーザ光11が反射し、そのまま散乱帰還レーザ光12としてレーザ発振器2に戻ってくる。ここで、被測定対象21表面が超音波等で代表されるように高速で振動していた場合、もしくは発振レーザ光11ないし散乱帰還レーザ光12の光路中に振動が生じていた場合、その振動が定常状態の発振レーザ光11に対して波長および位相変化した散乱帰還レーザ光12を生じることとなる。
【0023】
散乱帰還レーザ光12がレーザ発振器2の発振レーザ光の発振部に入射すると、発振レーザ光11に変化を生じる。散乱帰還レーザ光12が何の変調も受けていない状態であれば、
図2(a)に示すように、発振レーザ光11の強度はレーザ光の固有振動数ωを中心に振動するのみだが、散乱帰還レーザ光12が何等かの変調を受けていた場合、発振レーザ光11は変調発振レーザ光13となり変調が生じた時間帯(例えばMHz帯域の超音波振動であれば、数μs程度)において、固有振動数ω以外の周波数成分が生じる。固有振動数ωは、レーザ発振器2を構成する材料と結晶厚さを主パラメータとして定義される。この固有振動数は、
図2(b)に示すように、実際に測定することによっても求めることができる。また、固有振動数は、レーザ発振器2を構成する材料と結晶厚さ等の情報から知ることもできる。なお、
図2(b)では、固有振動数ωがMHz帯域の場合を示しているが、これは一例に過ぎない。
【0024】
ここで、異なる周波数成分は一例として、
図3(b)に示すように、固有振動数ωの発振器固有振動数の2次高調波である2ω、発振器固有振動数の3次高調波である3ωといった整数倍の高次高調波(一般化して発振器固有振動数のn次高調波であるnω)である。
【0025】
図4(a)に示すように、発振レーザ光の固有振動数を受信信号から除外する周波数フィルタ5として、この高次高調波成分を中心として選択的に透過させるバンドパスフィルタを設けることで、
図4(b)に示すように、振動の情報(振動発生時間及び強度の情報)を得ることができる。ここで得られる振動情報は発振レーザにおける固有振動数の変化から得られたものなので、実際に被測定対象21の表面が振動している周波数とは異なる値をもつ場合もある。例えば、発振器固有振動数ωが2MHzであり、被測定対象21の表面に3MHzのパルス振動が生じていたとすると、その振動によって得られる変調発振レーザ光13の受信信号はω、2ω、3ω…nωの周波数帯域にピークを持つ。そこでバンドパスフィルタを例えば2ωである4MHzを中心に設けた場合、フィルタ処理後の波形は4MHzを中心としたパルス振動となる。なお、上記した振動の情報(振動発生時間及び強度の情報)に加えて、振動の周波数と、得られる信号との相関関係を予め調べておくことにより、振動の周波数に関する情報も得られる可能性がある。
【0026】
ここで、光源レーザ光10、発振レーザ光11、散乱帰還レーザ光12、変調発振レーザ光13をそれぞれの後段に効率よく伝送するため、各々の1か所以上に、1つ以上の集光部7を設けてもよい。
図1では、ビームスプリッタ6と光検出部3との間に集光部7を設けた例を示している。集光部7は、一般的なレンズやミラーの組合せでなるものから、非球面ミラーやレンズ等、所定の系で高い効率が得られるものを別途カスタマイズしてもよい。また、必ずしも空間伝送である必要はなく、途中でファイバを経由する構成としてもよい。
【0027】
上記構成により、別途レーザ干渉計を用いず非接触で振動計測が可能な体系を構築することができる。
【0028】
(第2実施形態)
次に、第2実施形態について
図5-9を参照して説明する。なお、これらの図において、
図1に示した第1実施形態と対応する部分には同一の符号を付して重複した説明は省略する。
【0029】
図5は、第2実施形態に係る非接触振動計測装置の構成を模式的に示す図である。なお、
図5(
図8,9でも同じ。)では、同軸で描画するべき光路について、説明性のために平行に描画している場合がある。
【0030】
第2実形態では、振動計測における基礎構成を示した第1実形態実施に、超音波の発生源である振動励起源20を負荷することでアクティブな超音波計測、探傷技術を構成するものである。
【0031】
振動励起源20は、被測定対象21の内部もしくは表面に超音波Uを発生させるものであって、通常の超音波探傷や板厚計測等に用いる圧電素子に電位差を印加して振動させる所謂探触子と呼ばれるものでよい。このほかには、パルスレーザによる断熱膨張/圧縮やアブレーションを用いた超音波励起、スピーカーによる音響放射、ハンマリングやブラスト、ピーニングといった打撃でもよい。
【0032】
図6(a)に示すように、振動励起源20が探触子であれば、圧電素子の厚さや印加電圧波形により、
図6(b)に示すように、特定の中心周波数をもつ超音波を励起可能だが、
図7(a)に示すように、例えばパルスレーザによる超音波励起を行うと、
図7(b)に示すように、広帯域な超音波が励起される。ここでいう広帯域とは、例えば発振レーザ光11の固有振動数スペクトルの半値幅に対して2倍以上の半値幅を有する等、発振レーザ光11の固有振動数に対して十分広いものを指す。
【0033】
また、
図8に示すように、振動励起源20、被測定対象21、発振レーザ光11の射位置のうち1つ以上を走査させる走査機構23(
図8では振動励起源20走査させる走査機構23)を設けることで、複数位置での測定もしくは複数位置で得た信号の合成処理(開口合成処理)による映像化等を行うこともできる。このとき、走査機構23は、直動、回転ステージやその組合せでもよいしロボットアームのような多軸機構でもよい。走査機構23は、振動励起源20を走査させるもの以外でも、発振レーザ光の照射位置、被測定対象を移動させるものでもよい。
【0034】
振動励起源20から発生する超音波Uのもつ周波数特性は、発振器固有振動数ωと離れた値であることが望ましい。受信信号のフィルタリングには高次高調波の帯域を用いることから、例えば探触子で励起した
図6(b)に示すようにωよりも高い周波数とするか、パルスレーザで励起した
図7(b)のように高い周波数においても安定した帯域を持つものである方が、ωとの分離が容易になる場合がある。
【0035】
振動励起源20から発生した超音波Uは、直接、もしくは被測定対象21の裏面や特定部位で反射し、発振レーザ光11が照射される被測定対象21表面に到達することで、受信信号14として測定される。この時、例えば直接伝搬した超音波Uが測定されるのであれば被測定対象21の表面欠陥探傷や表面の音速測定が可能となるし、被測定対象21の底面で反射した超音波Uが測定されるのであれば被測定対象21の裏面形状、板厚、バルク波音速が測定可能となる。
図9に示すように、被測定対象21内の特定の割れやボイドといった欠陥22で反射した超音波Uが測定されるのであれば欠陥検出を行う超音波探傷が可能となる。
【0036】
また、
図8に示したように、走査機構23と組合せることにより、複数位置での測定もしくは複数位置で得た信号の合成処理(開口合成処理)による映像化等が可能となり、一つの測定位置では死角となる欠陥22が検出できたり、欠陥検出時の視認性が向上したりといった効果が得られる。なお、これまでの実施形態で示した構成は各構成の部分的な組み合わせで用いてもよい。また、前述したように、発振レーザ光11ないし散乱帰還レーザ光12の光路中に振動が生じていた場合、その振動が定常状態の発振レーザ光11に対して波長および位相変化した散乱帰還レーザ光12を生じることとなるので、光路となる空中や水中における衝撃波等の振動も検出することができる。
【0037】
以上、本発明のいくつかの実施形態を説明したが、これらの実施形態は、例として提示したものであり、発明の範囲を限定することは意図していない。これら新規な実施形態は、その他の様々な形態で実施されることが可能であり、発明の要旨を逸脱しない範囲で、種々の省略、置き換え、変更を行うことができる。これら実施形態やその変形は、発明の範囲や要旨に含まれるとともに、特許請求の範囲に記載された発明とその均等の範囲に含まれる。
【符号の説明】
【0038】
1……光源、2……レーザ発振器、3……光検出部、4……信号処理部、5……周波数フィルタ、6……ビームスプリッタ、7……集光部、8……全体制御部、10……光源レーザ光、11……発振レーザ光、12……散乱帰還レーザ光、13……変調発振レーザ光、14……受信信号、20……振動励起源、21……被測定対象、22……欠陥、23……走査機構。