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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-05-12
(45)【発行日】2023-05-22
(54)【発明の名称】管腔内人工血管システム
(51)【国際特許分類】
   A61F 2/07 20130101AFI20230515BHJP
【FI】
A61F2/07
【請求項の数】 14
(21)【出願番号】P 2020513856
(86)(22)【出願日】2018-09-06
(65)【公表番号】
(43)【公表日】2020-11-19
(86)【国際出願番号】 EP2018074019
(87)【国際公開番号】W WO2019048551
(87)【国際公開日】2019-03-14
【審査請求日】2020-04-27
(31)【優先権主張番号】102017120819.4
(32)【優先日】2017-09-08
(33)【優先権主張国・地域又は機関】DE
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】508053212
【氏名又は名称】ヨーテック・ゲゼルシャフト・ミット・ベシュレンクテル・ハフツング
【氏名又は名称原語表記】JOTEC GmbH
(74)【代理人】
【識別番号】100077012
【弁理士】
【氏名又は名称】岩谷 龍
(72)【発明者】
【氏名】ヨーゼフ,マルヴァン
(72)【発明者】
【氏名】ヴェルネ,クリスチャン
(72)【発明者】
【氏名】ヴァルター,ミヒャエル
【審査官】齊藤 公志郎
(56)【参考文献】
【文献】特表2014-526929(JP,A)
【文献】米国特許第06645242(US,B1)
【文献】国際公開第2017/114879(WO,A1)
【文献】特開2013-071005(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2017/0007392(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61F 2/06-07
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
患者の大動脈弓(50)領域への移植用の管腔内人工血管システム(10)であって、中空円筒状の人工血管本幹(12)を含み、
該中空円筒状の人工血管本幹(12)が、その全体を貫通する内腔(13)、第1の内腔端部(14)、第2の内腔端部(15)、中空円筒状のステントフレーム(16)、全長L1、および直径D1を有すること、
前記中空円筒状の人工血管本幹(12)が、患者の大動脈弓(50)領域および下行大動脈(52)領域への移植に適した構造および寸法を有すること、
前記人工血管本幹(12)が、少なくとも1つの中空円筒状の固定用人工血管(20)を有し、該固定用人工血管(20)が、その全体を貫通する内腔(21)、第1の内腔端部(22)、第2の内腔端部(23)、中空円筒状のステントフレーム(24)、全長L2、および直径D2を有すること、
前記固定用人工血管(20)の全長L2の少なくとも一部が、前記人工血管本幹(12)の内腔(13)内に取り付けられていること、
前記固定用人工血管(20)の直径D2が、前記人工血管本幹(12)の直径D1より少なくとも45%小さいこと、
ならびに
前記固定用人工血管(20)の全長L2が、前記人工血管本幹(12)の全長L1より短く、人工血管本幹(12)の第1の内腔端部(14)および固定用人工血管(20)の第1の内腔端部(22)が、2つの内腔端部(14、22)が同じ平面を終点とするように同一平面上に配置されており、前記固定用人工血管(20)が、人工血管本幹(12)の内壁に沿って、人工血管本幹(12)の内腔を通って人工血管本幹(12)の第1の内腔端部(14)から第2の内腔端部(15)の方向に伸びており、
前記人工血管システム(10)が、少なくとも1つの中空円筒状の人工血管側枝(30)をさらに含み、
該中空円筒状の人工血管側枝(30)が、その全体を貫通する内腔(31)、第1の内腔端部(32)、第2の内腔端部(33)、中空円筒状のステントフレーム(34)、全長L3、および直径D3を有すること、および人工血管側枝(30)が第1の内腔端部(32)から第2の内腔端部(33)に向かって先細り状であり、
移植用の前記中空円筒状の人工血管側枝(30)が、患者の鎖骨下動脈(53)および/または頚動脈(54)の出口への橋渡しに適した構造および寸法を有しており、該人工血管側枝(30)の第1の内腔端部(32)が鎖骨下動脈(53)内および/または頚動脈(54)内に位置する状態で配置できること、
ならびに、
前記人工血管側枝(30)を固定するために、その第2の内腔端部(33)を、前記固定用人工血管(20)の第1の内腔端部(22)を介して少なくとも部分的に該固定用人工血管(20)の内腔(21)に挿入して固定できること、および人工血管本幹(12)が開窓(19)を有しないこと
を特徴とする管腔内人工血管システム(10)。
【請求項2】
前記人工血管本幹(12)および/または前記固定用人工血管(20)および/または前記人工血管側枝(30)が、ステントフレーム(16;24;34)と、該ステントフレーム(16;24;34)に固定されたプロテーゼ材料(17;25;35)とを有することを特徴とする、請求項1に記載の管腔内人工血管システム(10)。
【請求項3】
前記人工血管本幹(12)のステントフレーム(16)および/または前記固定用人工血管(20)のステントフレーム(24)および/または前記人工血管側枝(30)のステントフレーム(34)が、レーザー切断されたステントフレーム、複数のステントスプリング、および編組されたステントフレームから選択されることを特徴とする、請求項1または2に記載の管腔内人工血管システム(10)。
【請求項4】
前記人工血管本幹(12)のステントフレーム(16)および/または前記固定用人工血管(20)のステントフレーム(24)および/または前記人工血管側枝(30)のステントフレーム(34)が、相互に連結されていない複数のステントリング(18;26;36)と、該ステントリング(18;26;36)に連結されているプロテーゼ材料(17;25;35)とを有すること、ならびに前記複数のステントリング(18;26;36)が連続して配置され、それぞれが周方向に蛇行形状に延びることを特徴とする、請求項1~3のいずれかに記載の管腔内人工血管システム(10)。
【請求項5】
前記ステントフレーム(16;24;34)を構成する少なくとも1つのステントリング(18;26;36)の周方向の蛇行線の振幅が均一でないことを特徴とする、請求項4に記載の管腔内人工血管システム(10)。
【請求項6】
前記人工血管本幹(12)のステントフレーム(16)および/または前記固定用人工血管(20)のステントフレーム(24)および/または前記人工血管側枝(30)のステントフレーム(34)が自己拡張可能であることを特徴とする、請求項1~5のいずれかに記載の管腔内人工血管システム(10)。
【請求項7】
前記人工血管本幹(12)の直径D1が、24mm~42mmであり、具体的には、24mm、26mm、28mm、30mm、32mm、34mm、36mm、38mm、40mmまたは42mmであることを特徴とする、請求項1~6のいずれかに記載の管腔内人工血管システム(10)。
【請求項8】
前記固定用人工血管(20)の直径D2が、6mm~14mmであり、具体的には、6mm、7mm、8mm、9mm、10mm、11mm、12mm、13mmまたは14mmであることを特徴とする、請求項1~7のいずれかに記載の管腔内人工血管システム(10)。
【請求項9】
前記人工血管側枝(30)の直径D3が、6mm~16mmであり、具体的には、6mm、7mm、8mm、9mm、10mm、11mm、12mm、13mm、14mm、15mmまたは16mmであることを特徴とする、請求項1~8のいずれかに記載の管腔内人工血管システム(10)。
【請求項10】
前記人工血管本幹(12)の内腔(13)にある前記固定用人工血管(20)が、内壁に取り付けられていることを特徴とする、請求項1~9のいずれかに記載の管腔内人工血管システム(10)。
【請求項11】
前記人工血管本幹(12)の内腔(13)にある前記固定用人工血管(20)が、縫製、接着または溶接により内壁に取り付けられていることを特徴とする、請求項10に記載の管腔内人工血管システム(10)。
【請求項12】
前記人工血管側枝(30)の第2の内腔端部(33)が、前記人工血管本幹(12)の第1の内腔端部(14)を介して前記固定用人工血管(20)の第1の内腔端部(22)に挿入可能であり、少なくとも部分的に該固定用人工血管(20)の内腔(21)に挿入可能であることを特徴とする、請求項1~11のいずれかに記載の管腔内人工血管システム(10)。
【請求項13】
前記人工血管本幹(12)が、外側面と、該外側面に設けられた開窓(19)とを有すること、および前記人工血管側枝(30)の第2の内腔端部(33)が、該開窓(19)を介して該人工血管本幹(12)の内腔(13)に挿入可能であり、前記固定用人工血管(20)の第1の内腔端部(22)を介して少なくとも部分的に該固定用人工血管(20)の内腔(21)に挿入可能であることを特徴とする、請求項1~12のいずれかに記載の管腔内人工血管システム(10)。
【請求項14】
患者の血管疾患の治療用、特に大動脈弓(50)領域および下行大動脈(52)領域における疾患の治療用の、請求項1~13のいずれかに記載の管腔内人工血管システム(10)。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、管腔内人工血管、および患者の大動脈弓領域への移植用の管腔内人工血管システムに関する。
【背景技術】
【0002】
このような血管インプラントは、例えばDE 103 37 739.5により先行技術として公知である。
【0003】
管腔内人工血管は、血管内ステントまたは血管内ステントグラフトとも呼ばれており、脆くなったり、傷ついたり、裂けたりしている血管、あるいは動脈瘤を治療するために移植されることが一般に知られている。このような治療において、人工血管またはステントグラフトを血管の病変部または損傷部で解放することにより、血管本来の機能の回復や、血管に残る統合性の維持が見込まれる。
【0004】
本明細書において、動脈瘤は、先天的あるいは後天的な血管壁の病変によって生じる動脈血管の拡張または膨隆と理解される。この場合の膨隆は血管壁全体に影響を及ぼす可能性があり、また仮性動脈瘤や解離と呼ばれる状態では、血液が血管の内腔から血管壁の層の間へと流れ込み、層が剥離する。動脈瘤を治療せずに放置すると、進行期には動脈が破裂することもあり、患者の体内で出血が起こる。
【0005】
このような動脈瘤の治療に用いられる自己拡張型の血管インプラントは、通常、中空円筒状の金属フレームの外側面を織物やポリマーフィルムで被覆することで得られる中空円筒状体から構成されている。移植に際しては、人工血管を半径方向に圧縮して、その断面積を大幅に縮小させる。そして挿入システムを用いて、人工血管を動脈瘤の部位まで挿入し、そこで人工血管を解放する。金属フレームの弾性により、人工血管は拡張して元の形状に戻り、その際に人工血管の外側面が伸張することで、人工血管は動脈瘤の近位と遠位で血管内に固定される。これにより、血液は人工血管を通って流れるようになり、膨隆部へのさらなる負荷が回避される。
【0006】
このような人工血管の金属フレームは、通常、例えばワイヤーメッシュや、いわゆるステントスプリングから構成される。ステントスプリングは、複数個が連続して配置され、それぞれが周方向に蛇行形状に延びる。個々のステントスプリングは、場合によっては、ワイヤーでできた連結支持体を介して相互に連結されていることもあり、また、インプラント材料のみによって相互に連結されていることもある。ワイヤーメッシュまたはステントスプリングは、通常、形状記憶材料から作られており、形状記憶材料は、ニチノールが一般的である。このような形状記憶材料により、血管インプラントを血管に挿入して解放すると、ステントスプリングは拡張した状態に戻り、血管インプラントが「固定」される。
【0007】
動脈瘤は、一般的に、腹部大動脈や胸部大動脈の領域で発生する。腹部大動脈や胸部大動脈の動脈瘤の治療には、ステントの移植により動脈を安定化して、血管の破裂を防ぐ方法が既に知られている。
【0008】
また、動脈瘤は、いわゆる大動脈の上行枝(上行大動脈)でも発生しうる。大動脈の上行枝は心臓に直接つながっている。大動脈の上行枝は、大動脈根(大動脈洞)から起始して、わずかに湾曲した形状で心臓から上方へ延び、大動脈弓と合流し、大動脈の下行枝(下行大動脈)へとつながる。頭部の血管、特に、左右の頚動脈は大動脈弓領域から分岐している。大動脈弓は、弧の半径が非常に小さい、約180°の曲線を描き、大動脈の上行枝と胸部大動脈、最終的には腹部大動脈とをつないでいる。
【0009】
人工血管の配置により、大動脈弓領域だけでなく、主血管から分岐する側枝血管が閉鎖されないようにすることが重要である。したがって、多くの人工血管が、開口部、いわゆる開窓部を有しており、この開窓部を通して、血管インプラントから分岐する側枝を側枝血管内へと延出するよう挿入し、血管インプラントに固定することが可能になっている。
【0010】
大動脈弓領域の動脈瘤や解離などの血管疾患は、一般的に侵襲性の開胸開腹術による治療が行われている。このような手術は、患者の心臓だけでなく脳や腹部臓器に対しても低温灌流、すなわち人工的な低温体外血液循環や、低体温による血流遮断(循環停止)が必要とされるため、通常2つの大きな処置を異なった時間に行う必要があり、非常に大規模かつ複雑な手術となるがゆえに危険を伴うものとなる。しかしながら、このような処置に熟練している専門施設の心臓外科医はごく少数である。
【0011】
さらに、昨今、ステントおよびステントグラフトを、あるいはいくつかのステントを組み合わせて、低侵襲的な方法で導入することが可能であることも知られている。しかし、血管疾患を有する多くの患者において、これらの使用は限られている。
【0012】
大動脈弓領域への移植および大動脈弓領域の血管疾患の治療に使用することができるステント/ステントグラフトシステムまたは人工血管に対する需要は依然として高い状況にある。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
したがって、本発明の目的は、血管特性がそれぞれ異なる多くの患者に対して、上行大動脈領域、大動脈弓領域および下行大動脈領域の治療を速やかに、かつ合併症を発症させることなく行うことができるとともに、経験の浅い心臓外科医でも上記処置を行うことができる人工血管および人工血管システムを利用できるようにすることである。
【課題を解決するための手段】
【0014】
本発明において、上記の目的は、患者の大動脈弓領域への移植用の、少なくとも以下の特徴を有する管腔内人工血管システムによって達成される。本発明の管腔内人工血管システムは、中空円筒状の人工血管本幹を有し、
該中空円筒状の人工血管本幹が、その全体を貫通する内腔、第1の内腔端部、第2の内腔端部、プロテーゼ材料が固定されていてもよい中空円筒状のステントフレーム、全長L1、および直径D1を有すること、
前記中空円筒状の人工血管本幹が、患者の大動脈弓領域および下行大動脈領域への移植に適した構造および寸法を有すること、
前記人工血管本幹が、少なくとも1つの中空円筒状の固定用人工血管を有し、該固定用人工血管が、その全体を貫通する内腔、第1の内腔端部、第2の内腔端部、プロテーゼ材料が固定されていてもよい中空円筒状のステントフレーム、全長L2、および直径D2を有すること、
前記固定用人工血管の全長L2の少なくとも一部が、前記人工血管本幹の内腔内に強固に取り付けられていること、
前記固定用人工血管の直径D2が、前記人工血管本幹の直径D1より少なくとも45%小さいこと、
ならびに
前記固定用人工血管の全長L2が、前記人工血管本幹の全長L1より短いこと
を特徴とする。
【0015】
好ましい一実施形態において、大動脈弓領域への移植用の本発明の管腔内人工血管システムは、少なくとも1つの中空円筒状の人工血管側枝をさらに有し、
該中空円筒状の人工血管側枝が、その全体を貫通する内腔、第1の内腔端部、第2の内腔端部、プロテーゼ材料が固定されていてもよい中空円筒状のステントフレーム、全長L3、および直径D3を有すること、
移植用の前記中空円筒状の人工血管側枝が、患者の鎖骨下動脈または頚動脈の出口への橋渡しに適した構造および寸法を有しており、該人工血管側枝の第1の内腔端部が鎖骨下動脈内または頚動脈内に位置する状態で配置できること、
ならびに、
前記人工血管側枝を強固に固定するために、その第2の内腔端部を、前記固定用人工血管の第1の内腔端部を介して少なくとも部分的に該固定用人工血管の内腔に挿入して固定できること
を特徴とする。
【0016】
また、本発明の目的は、患者の大動脈弓に管腔内人工血管システムを移植する方法であって、
-前記システムの人工血管本幹を大動脈弓領域および下行大動脈領域に挿入して解放する工程、ならびに
-前記システムの人工血管側枝の第1の内腔端部を鎖骨下動脈または頚動脈に挿入し、該人工血管側枝の第2の内腔端部を、前記システムの固定用人工血管の第1の内腔端部を介して少なくとも部分的に該固定用人工血管の内腔に挿入して、該人工血管側枝を解放する工程
を含む方法により達成される。
【0017】
このようにして本発明の目的は完全に達成される。
【0018】
本発明による新規の人工血管または新規の人工血管システムを用いることにより、特に大動脈弓領域の脆くなったり、傷ついたり、裂けたりしている血管、あるいは動脈瘤のある血管の治療を簡便に実施できる。したがって、本発明において、特に大動脈弓、または上行大動脈、大動脈弓、下行大動脈にまたがる領域における外科的介入を簡便に実施できるとともに、このような介入に要する時間を大幅に短縮できる人工血管の利用が可能になる。
【0019】
特に、本発明による人工血管または本発明による人工血管システムにより、治療予定部位の領域の血管が側枝を有する場合でも当該血管を治療することが可能になる。本発明に特有の構造により、障害を受けた血管を本発明の管腔内人工血管で支持するとともに、少なくとも1つの人工血管側枝を通して側枝血管への血液供給を維持することができる。本発明のシステムは、中空円筒状の人工血管本幹およびこれに付随する固定用人工血管と、人工血管側枝との少なくとも2つの部分からなる2部構成であるため、当該システムの挿入および配置の制御を容易かつ精密に行うことができる。
【0020】
本発明の人工血管システムを治療対象である患者の血管に挿入するために、まず、本発明の管腔内人工血管を血管の所望の位置、この場合、好ましくは、大動脈弓に移植する。次いで、人工血管側枝を側枝血管に移植する。このとき、該人工血管側枝の第1の内腔端部を側枝血管内に配置し、また、この人工血管側枝を強固に固定するために、その第2の内腔端部を、固定用人工血管の第1の内腔端部を介して少なくとも部分的に該固定用人工血管の内腔に挿入して固定する。
【0021】
本発明に特有の構造により、前記人工血管および前記人工血管側枝は、別々に移植することが可能である。したがって、本発明の人工血管および本発明の人工血管システムは、極めて高度な専門性を有する心臓外科医だけでなく当該分野の経験が浅い医師でも、大動脈弓における上記介入を行うことができるという利点を提供する。さらに、本発明は、人工血管および人工血管システムを、治療を受ける患者それぞれの解剖学的状態に合わせて調整することができるという利点を提供する。
【0022】
本発明の人工血管システムは、人工血管側枝が少なくとも部分的に固定用人工血管に固定される構造または「差し込まれる」構造であるため、解剖学的に大きく異なる複数の血管を1つの人工血管システムを用いて治療することが可能である。これは、人工血管側枝を固定用人工血管に差し込む長さまたは固定する長さを変更することによって達成される。実際の側枝血管が人工血管本幹からより離れた位置にある場合は、差し込み長さを短くすることが可能であり、一方で、実際の側枝血管が人工血管本幹からより近い位置にある場合は、差し込み長さを長くすることも可能である。
【0023】
本発明の人工血管システムにおいては、特に、分岐する側枝血管に対する人工血管本幹の方向づけを厳密に行わなくてもよいことから、該人工血管システムの移植を簡便に行うことができる。人工血管本幹の方向付けは、本発明の「固定システム」およびこれに関連する、人工血管側枝を固定用人工血管に差し込む長さまたは固定する長さによって修正することが可能である。先行技術により公知である1部構成の人工血管は、分岐する側枝血管に対して厳密に方向づけを行わなければならないため、このようなインプラントの移植は難しく、さらにその作製も難しい。
【0024】
本発明において、人工血管本幹、少なくとも1つの固定用人工血管、および少なくとも1つの人工血管側枝は、被覆ステントであってもよく非被覆ステントであってもよい、すなわち、任意選択により、プロテーゼ材料で少なくとも部分的に覆われていてもよく、あるいはステントフレームに固定されたプロテーゼ材料を有していてもよい。血管の障害および解剖学的状況によっては、先に挙げた人工血管の構成部分の少なくとも1つ、例えば、人工血管側枝または固定用人工血管がプロテーゼ材料を有していないことが好都合な場合もある。
【0025】
特に、一実施形態において、人工血管本幹がプロテーゼ材料を有していない場合は、開窓部を有することが好ましく、この開窓部と呼ばれる部分を通して、人工血管側枝を少なくとも部分的に、人工血管本幹の内腔内にある固定用人工血管の内腔に挿入し固定することができる。この開窓部は、例えば、プロテーゼ材料に設けられた複数の開窓部、人工血管本幹の外側部に存在する複数の開口部、および人工血管本幹の周方向に沿ってほぼ全周にわたって延びる開放部から選択することができる。
【0026】
あるいは、人工血管本幹の第1の内腔端部により、人工血管側枝を少なくとも部分的に、人工血管本幹の内腔内にある固定用人工血管の内腔に挿入し固定することも可能である。
【0027】
さらなる一実施形態において、人工血管本幹は、少なくとも2つのステントフレーム部を有していてもよく、あるいは少なくとも2つのステントフレーム部からなっていてもよい。この少なくとも2つのステントフレーム部同士は連結可能であり、例えば、第1のステントフレーム部に第2のステントフレーム部を部分的に挿入することによって連結することができる。
【0028】
本発明の人工血管の一実施形態において、該人工血管は、複数の固定用人工血管を有する。前記固定用人工血管の個数は、主に、人工血管側枝で治療する、分岐した側枝血管の数に合わせて調整される。
【0029】
本発明の一実施形態において、人工血管本幹の第1の内腔端部および固定用人工血管の第1の内腔端部は同一平面上に配置されている。
【0030】
ここで、「同一平面上に配置されている」とは、人工血管本幹の第1の内腔端部と固定用人工血管の第1の内腔端部の位置が揃っていること、すなわち、両方の内腔端部が同じ平面上で終端となっていることを意味する。この実施形態においては、固定用人工血管は、人工血管本幹の内壁に沿って、人工血管本幹の内腔内を人工血管本幹の第1の内腔端部から第2の内腔端部の方向に延びている。したがって、固定用人工血管への人工血管側枝の接続は、人工血管本幹の側壁または開窓を通してではなく、人工血管本幹の第1の内腔端部を通して行われる。
【0031】
当業者には自明のことであり、また本開示からも明らかであるが、本明細書で使用されるいくつかの用語について、以下に、より詳細に定義する。
【0032】
ステントグラフトまたは管腔内人工血管の場合、原則として、端部はそれぞれ、通常、「遠位」および「近位」という用語で表され、本明細書でも同様であり、「遠位」という用語は、血流に対して下流側に位置する部分または端部を意味する。これに対して「近位」という用語は、血流に対して上流側に位置する部分または端部を意味する。言い換えると、「遠位」という用語は、血流の方向を意味し、「近位」という用語は、血流とは逆の方向を意味する。これとは対照的に、カテーテルまたは挿入システムの場合には、「遠位」という用語は、カテーテルまたは挿入システムの、患者に導入される端部、すなわち使用者から遠い端部を指し、「近位」という用語は、使用者に近いほうの端部を指す。
【0033】
これに従って記載すると、本発明において、血管インプラントの「近位」の開口部および「遠位」の開口部は、血液が血管インプラントの中空円筒状の内腔を流れるようにするための開口部である。したがって、本発明の血管インプラントを血管、例えば、大動脈に移植した場合、心臓から流れてくる血液は、血管インプラントの近位の開口部を通過し、遠位の開口部を通って血管インプラントから流出する。この場合、中空円筒状の人工血管本幹またはこれに付随する固定用人工血管、および人工血管側枝は、全長にわたって均一な直径を有していてもよく、また全長にわたって均一でない直径を有していてもよい。
【0034】
本発明において、前記中空円筒状のステントフレームは、通常、例えばワイヤーメッシュや、いわゆるステントスプリングからなる金属フレームである。ステントスプリングは、複数個が連続して配置され、それぞれが周方向に蛇行形状に延びる。個々のステントスプリングは、場合によっては、ワイヤーでできた連結支持体を介して相互に連結されていることもあり、また、インプラント材料のみによって相互に連結されていることもある。前記ワイヤーメッシュまたは前記ステントスプリングは、通常、形状記憶材料から作られており、形状記憶材料は、ニチノールが一般的である。このような形状記憶材料により、前記人工血管を血管に移植して開放すると、ステントスプリングは拡張した状態に戻り、前記人工血管を「開大」させる。
【0035】
本発明の人工血管システムの第1の実施形態において、人工血管本幹および/または固定用人工血管および/または人工血管側枝は、ステントフレームと、該ステントフレームに固定されたプロテーゼ材料とを有する。
【0036】
本発明において、「ステントフレーム」は、当該フレームの開大または拡張により、人工血管に、血管を開存させるための拡張力を与える任意の金属フレーム構造体を意味する。場合によっては、ステントフレームと該フレームに固定されたプロテーゼ材料の両方によって、血管に拡張力が与えられる。前記プロテーゼ材料は、生体適合性材料からなることが好ましい。これは、血管インプラントと血管壁との接触による合併症を回避するためである。
【0037】
これに関連して、前記プロテーゼ材料が、織物およびポリマーから選択される材料を有していれば好ましい。前記プロテーゼ材料が、ポリエステル、ポリウレタン、ポリスチレン、ポリテトラフルオロエチレン、超高分子ポリエチレン(UHMPE)、およびこれらの混合物から選択される材料を有するか、あるいはそのような材料から形成されていれば特に好ましい。
【0038】
本発明の人工血管システムのさらなる一実施形態において、人工血管本幹のステントフレームおよび/または固定用人工血管のステントフレームおよび/または人工血管側枝のステントフレームは、レーザー切断されたステントフレーム、複数のステントスプリング、および編組されたステントフレームから選択される。
【0039】
本明細書において、「ステントフレーム」は、異なるワイヤーストランドの編み合わせ、織り合わせ、またはこれら以外の方法による連結によって、ワイヤーストランド同士が重なっているゾーン、領域または点と、ワイヤーストランドが存在せず、開口、窓または網目が形成されているゾーンまたは領域とを有する構造が形成されている任意の構造のステントと理解される。したがって、レーザー切断されたステント支持フレームも、網目または開口を有する。本明細書において、このような開口、網目または窓は、菱形であることが好ましい。
【0040】
本発明において、「ステントスプリング」は、その材料ゆえに圧縮可能で、圧縮圧力を除くとばねのように再拡張可能な、任意のひとつながりの環状要素として理解される。
【0041】
一実施形態において、人工血管本幹のステントフレームおよび/または固定用人工血管のステントフレームおよび/または人工血管側枝のステントフレームは、相互に連結されていない複数のステントリングと、該ステントリングに強固に連結されているプロテーゼ材料とを有しており、前記複数のステントリングは連続して配置され、それぞれが周方向に蛇行形状に延びる。
【0042】
本発明において、「ステントリング」は、輪状に延びるワイヤーにより形成され、実質的に円状の外周を有する任意のひとつながりの環状要素として理解される。前記ステントリングのワイヤーは波状に延びていてもよく、交互に現れる波の山と谷により位相または振幅が形成される。本発明において、「蛇行形状」は、ステントリングまたはステントワイヤーのループ状の任意の線形を意味するものと理解される。
【0043】
本発明のシステムに用いられる人工血管において、プロテーゼ材料はあってもなくてもよい場合と、必要な場合(ステントリングを使用する場合)とがあり、また、該プロテーゼ材料は織物およびポリマーから選択される材料を有することが好ましい。
【0044】
人工血管本幹、固定用人工血管および人工血管側枝のそれぞれが、あるいは、これらの1つのみもしくは2つがプロテーゼ材料を有する場合、人工血管本幹のプロテーゼ材料および/または固定用人工血管のプロテーゼ材料および/または人工血管側枝のプロテーゼ材料は、上記の材料から形成されていてもよく、また上記の材料を有していてもよい。
【0045】
さらなる一実施形態において、前記ステントフレームを構成する少なくとも1つのステントリングの蛇行線の振幅は均一でない。
【0046】
この実施形態においては、特に湾曲した血管(例えば大動脈弓)に使用できる人工血管システムの利用が可能になる。振幅が均一でないことにより、湾曲している領域で人工血管の材料の不必要な蓄積が起こらないからである。
【0047】
一実施形態において、人工血管本幹のステントフレームおよび/または固定用人工血管のステントフレームおよび/または人工血管側枝のステントフレームは自己拡張可能である。
【0048】
自己拡張可能とは、ステントフレームが圧縮された状態から拡張した状態に変化し得ることを意味する。この圧縮された状態は、ステントフレーム、場合によっては、ステントフレームと該ステントフレームに固定されているプロテーゼ材料を圧縮し、後に抜去可能な要素、例えばシースなどを用いることで達成される。血管への挿入に際して、このシースでステントフレームを覆って圧縮する。適正に配置した後、このステントフレームを圧縮する要素を抜去すると、ステントフレームは拡張して、その壁が血管壁に向かって押し広げられて圧着し、その結果、人工血管が血管に固定される。
【0049】
一般的に、前記ステントフレームが自己拡張可能な材料から構成されているか、自己拡張可能な材料を有していれば好ましい。本明細書においては、前記自己拡張可能な材料がニチノールであれば特に好ましい。
【0050】
一実施形態において、人工血管本幹の直径D1は、24mm~42mmであり、具体的には、24mm、26mm、28mm、30mm、32mm、34mm、36mm、38mm、40mmまたは42mmである。
【0051】
さらなる一実施形態において、固定用人工血管の直径D2は、6mm~14mmであり、具体的には、6mm、7mm、8mm、9mm、10mm、11mm、12mm、13mmまたは14mmである。
【0052】
さらなる一実施形態において、人工血管側枝の直径D3は、6mm~16mmであり、具体的には、6mm、7mm、8mm、9mm、10mm、11mm、12mm、13mm、14mm、15mmまたは16mmである。
【0053】
これらの実施形態において、直径D1、D2およびD3は、治療される個々の血管に合わせて変更することが可能である。記載した各寸法は、特に、大動脈弓または腕頭動脈、総頸動脈および左鎖骨下動脈の内径に相当する。本発明において、人工血管本幹、固定用人工血管および人工血管側枝は、全長にわたって均一な直径を有していてもよく、また全長にわたって均一でない直径を有していてもよい。人工血管の各構成部分が均一でない直径を有する場合、上記実施形態において記載した直径D1、D2およびD3の長さは、最大部直径または極大径に相当する。
【0054】
さらなる一実施形態において、人工血管本幹の内腔にある固定用人工血管は、好ましくは縫製、接着または溶接により内壁に取り付けられている。
【0055】
固定用人工血管が偶発的に緩んで人工血管本幹から外れてしまうことがないように、人工血管本幹の内腔に固定用人工血管を強固に固定することが好ましい。この実施形態により、固定用人工血管を確実に固定することができる。固定用人工血管は、その構造ゆえに、例えば人工血管本幹または人工血管側枝とは異なり、それ自体が直接血管内に固定されてはいない。そのため、人工血管の内側の強い血流によって、固定用人工血管が緩んで偶発的に移動してしまう可能性がある。このような不都合は上記の実施形態により回避される。
【0056】
さらなる一実施形態において、人工血管側枝の第2の内腔端部は、人工血管本幹の第1の内腔端部を介して固定用人工血管の第1の内腔端部に挿入可能であり、少なくとも部分的に該固定用人工血管の内腔に挿入可能である。
【0057】
この実施形態においては、側枝血管に人工血管側枝を容易に装着することができる。固定用人工血管内に人工血管側枝を固定するシステムにより、人工血管本幹の側枝血管に対する方向づけを厳密に行わなくてもよいことから、経験の浅い心臓外科医でも上記移植を行うことが可能である。移植中に起こる、人工血管本幹の位置に関するエラーは、一方の人工血管をもう一方の人工血管に挿入することによって修正することができる。
【0058】
さらなる一実施形態において、人工血管本幹は、外側面と、該外側面に設けられた開窓とを有する。人工血管側枝の第2の内腔端部は、この開窓を介して人工血管本幹の内腔に挿入可能であり、固定用人工血管の第1の内腔端部を介して少なくとも部分的に該固定用人工血管の内腔に挿入可能である。
【0059】
開窓型人工血管は、1以上の血管流出口が確保されるように予め形成された穴部(開窓)を有する人工血管として理解される。この実施形態においては、人工血管側枝を介して、分岐した側枝血管にも血液を供給することができると同時に、人工血管本幹によって主血管を支持することが可能である。
【0060】
また、開窓は、in situで開窓して作成してもよい。この場合、開窓は、人工血管を血管内に配置した後で導入される。ここでは、人工血管本幹にin situで針を貫通させ、プロテーゼ材料の外側面に針穴を形成する。次いで、拡張器を針穴に押し入れ、針穴を拡張する。
【0061】
前記外側面は、人工血管本幹のステントフレームに連結されたプロテーゼ材料から構成されていることが好ましい。
【0062】
さらなる一実施形態において、本発明の管腔内人工血管システムは、患者の血管疾患の治療、特に大動脈弓領域および下行大動脈領域における疾患の治療に使用される。
【0063】
本発明の方法のさらなる一実施形態において、人工血管側枝は、人工血管本幹の第1の内腔端部を介して固定用人工血管の内腔に挿入される。
【0064】
本発明の方法のさらなる一実施形態において、人工血管本幹は、外側面と、該外側面に設けられた開窓とを有し、人工血管側枝は、該人工血管本幹の開窓を介して該人工血管本幹の内腔に挿入され、固定用人工血管の第1の内腔端部を介して少なくとも部分的に該固定用人工血管の内腔に挿入される。
【0065】
本発明の人工血管または本発明の人工血管システムに関して記載された特徴、特性および利点は、本発明の方法にも同様に適用される。
【0066】
さらなる利点は、好ましい例示的な実施形態の説明および添付した図面から明らかになるであろう。
【0067】
上述した特徴および以下で説明する特徴が、個々に挙げた組み合わせに限定されず、本発明の範囲から逸脱することなく他の組み合わせまたは単独で使用できることは理解されるであろう。
【図面の簡単な説明】
【0068】
本発明の例示的な実施形態を、より詳細に以下に説明するとともに、図面に示す。
図1】本発明の管腔内人工血管の人工血管本幹の第1の実施形態の概略図である。
図2図1の実施形態の概略図である。本図において、管腔内人工血管本幹は、大動脈弓または下行大動脈に移植された状態にある。
図3a】本発明の管腔内人工血管システムの第1の実施形態の概略図である。本図において、管腔内人工血管システムは、大動脈弓または下行大動脈に移植された状態にある。
図3b】中空円筒状の人工血管側枝の第1の実施形態の概略図である。
図4】本発明の管腔内人工血管システムの第2の実施形態の概略図である。本図において、管腔内人工血管システムは、大動脈弓または下行大動脈に移植された状態にある。
【発明を実施するための形態】
【0069】
図中、同一の特徴には同一符号を付している。明瞭性を期するため、図中にすべての符号を示していないこともある。
【0070】
図1に、本発明の管腔内人工血管システムの第1の実施形態の部分的概略図を示す。この図の人工血管システム10は、固定連結された2つの別個の人工血管を有しており、一方が人工血管本幹12、もう一方が固定用人工血管20である。固定用人工血管20は、例えば、縫製、接着または溶接により人工血管本幹12に固定することができる。人工血管本幹12は内腔13を有し、固定用人工血管20は内腔21を有する。前記内腔は、第1の内腔端部14または22から第2の内腔端部15または23へと延びており、全長L1またはL2が形成されている。人工血管本幹12の中空円筒状構造は直径D1を有しており、この構造は、具体的には、中空円筒状のステントフレーム16とこれを包囲するプロテーゼ材料17により形成されている。また、固定用人工血管20の中空円筒状構造は直径D2を有しており、この構造は、具体的には、中空円筒状のステントフレーム24とこれを包囲するプロテーゼ材料25により形成されている。この図では、ステントフレーム16は複数のステントリング18で構成されており、個々のステントリングはプロテーゼ材料17を介してのみ連結されている。また、ステントフレーム24は複数のステントリング26で構成されており、個々のステントリングはプロテーゼ材料18を介してのみ連結されている。
【0071】
中空円筒状の人工血管本幹12の寸法は、大動脈弓および下行大動脈の寸法とほぼ一致している。これにより、血管への移植を簡便に行うことができる。個々の患者の血管の性質に応じて、管腔内人工血管システムの寸法を適したものに調整することができる。特に、人工血管本幹12の直径D1は、拡張時に人工血管本幹12が血管壁に向かって押し広げられて圧着するように下行大動脈の直径に合わせて調整される。場合によっては、人工血管本幹12および/または固定用人工血管20が全長L1、L2にわたって均一でない直径D1、D2を有していることが好ましい。
【0072】
固定用人工血管20は、少なくともその全長L2の一部が人工血管本幹の内腔13内に強固に取り付けられており、固定用人工血管20の直径D2は、人工血管本幹12の直径D1より少なくとも45%短い。さらに、固定用人工血管20の全長L2は、人工血管本幹12の全長L1より短い。
【0073】
本発明の人工血管システムがこのような構造を有することは、血管特性がそれぞれ異なる多くの患者に対して、上行大動脈領域、大動脈弓領域および下行大動脈領域の治療を行うことができるということを意味する。
【0074】
内側に向かって延在する中空円筒状の固定用人工血管20は、特に、さらなる中空円筒状の人工血管側枝30(本図には示さず)を少なくとも部分的に当該固定用人工血管20に挿入してその内腔21に固定するという目的を果たすものである。
【0075】
図2に、本発明の管腔内人工血管システムの第1の実施形態の概略図を示す。この図では、管腔内人工血管本幹12は、大動脈弓50または下行大動脈52領域に移植された状態にある。
【0076】
大動脈56の上行枝は、大動脈洞(図2には示さず)を経て左心室(これも図2には示さず)につながっている。上行大動脈56は大動脈弓50を経て下行大動脈52につながっている。頭部の動脈、すなわち、腕頭動脈55、総頸動脈54および左鎖骨下動脈53は大動脈弓50領域を起点とする。
【0077】
この図では、管腔内人工血管システム10の人工血管本幹12は、下行大動脈52領域にある動脈瘤の前後を橋渡しする形になっている。上行大動脈56からの血流は、大動脈弓50を通って人工血管本幹12の第1の内腔端部14へと流れ込み、人工血管本幹12の第2の内腔端部15から流出する。この目的のために、人工血管本幹12は、第1の内腔13が形成された中空円筒状体を有する。この内腔13は、複数の蛇行形状のステントリング18により形成されており、これらのステントリング18全体でステントフレーム16が形成されている。個々のステントリング18はプロテーゼ材料17により連結されている。プロテーゼ材料17は繊維材料またはフィルムであることが好ましく、縫製、接着または溶融によりステントリング18に固定されている。
【0078】
固定用人工血管20はプロテーゼ材料25で包囲されていてもよい。固定用人工血管20がプロテーゼ材料25を有していない場合は、複数のステントリング26がひとつながりのステントフレーム24を形成するような構造になっている。
【0079】
人工血管本幹12の血管への移植は、内腔21に挿入される人工血管側枝30が固定用人工血管20の場所をできるだけ取らないように行われるのが好ましい。これは、人工血管側枝30を、材料の蓄積が起こらないように固定用人工血管20に連結させることを意味する。
【0080】
図3aに、本発明の管腔内人工血管システム10の第1の実施形態の概略図を示す。この図では、管腔内人工血管システム10は、大動脈弓50または下行大動脈52に移植された状態にある。管腔内人工血管システム10は、人工血管本幹12および人工血管側枝30を有する。この図の人工血管本幹12は、図2を参照して既に説明を行った人工血管本幹12と同一のものである。
【0081】
全長L3を有する人工血管側枝30はひとつながりの内腔31を有する。内腔31は、第1の内腔端部32から第2の内腔端部33へと延びている。内腔31は、具体的には、中空円筒状のステントフレーム34により形成され、該ステントフレーム34は、複数のステントリング36から形成されている。この図では、個々のステントリング36同士は相互に連結されており、プロテーゼ材料で包囲されていない。この構成では、大動脈弓から来る血液は、ステントフレーム34を通り抜けて、分岐した側枝血管53へと流れることが可能である。同時に、側枝血管53は人工血管側枝30で支持される。
【0082】
図示していない一実施形態において、人工血管側枝30は、一部のみプロテーゼ材料35で包囲されていてもよく、好ましくは第2の内腔端部33の領域のみプロテーゼ材料35で包囲されていてもよい。
【0083】
図3bに、中空円筒状の人工血管側枝30の第1の実施形態の概略図を示す。人工血管側枝30は内腔31を有し、内腔31は、第1の内腔端部32から第2の内腔端部33へと延びている。人工血管側枝30の全長L3も第1の内腔端部32と第2の内腔端部33により画定されている。この図では、人工血管側枝30は複数のステントリング36を有し、個々のステントリング36は、プロテーゼ材料35により相互に連結されている。プロテーゼ材料35と複数のステントリング36とで中空円筒状のステントフレーム36が形成されている。
【0084】
この構成では、人工血管側枝30は第2の内腔端部33に向かって先細りになっている。この図において、直径D3は第1の内腔端部32の方がより大きくなっている。この構成では、第1の内腔端部32の直径は、人工血管側枝30が移植される側枝血管の直径と一致しており、第2の内腔端部33の直径は、人工血管側枝30が挿入される固定用人工血管20の直径と一致している。
【0085】
図4に、本発明の管腔内人工血管システム10の第2の実施形態の概略図を示す。この図では、管腔内人工血管システム10は、大動脈弓50または下行大動脈52に移植された状態にある。
【0086】
図4の人工血管システム10は、外側面に開窓または開窓部19を有する点で、図3に示す人工血管システム10とは異なる。人工血管側枝30の第2の内腔端部33は、この開窓19を通して、少なくとも部分的に人工血管本幹12の内腔13に挿入可能であり、固定用人工血管20の第1の内腔端部22を介して固定用人工血管20の内腔13に挿入可能である。開窓19は、予め形成された穴部として作成してもよく、また、in situで開窓して作成してもよい。開窓19から押し出された人工血管側枝30により、側枝血管への血液の供給を維持することができる。この構成は、大動脈弓50と下行大動脈52に加えて、鎖骨下動脈53も人工血管システム10によって支持されるという利点を提供する。
【0087】
さらなる一実施形態において、図4に示すように、人工血管本幹が、相互に連結可能な2つの中空円筒状のステントフレーム部16aおよび16bから構成されており、第1のステントフレーム部16aが固定用人工血管20を有し、第1のステントフレーム部16aを伸長させるために、第2のステントフレーム部16bを第1のステントフレーム部16aに連結させることができるような構成を提供することも可能である。人工血管側枝30は、第2のステントフレーム部16bを通して共通の内腔と第1のステントフレーム部16a内の固定用人工血管20とに挿入することができる。
【0088】
移植時の位置決めを補助する手段および人工血管システム10の個々の構成要素の位置を確認する手段として、X線マーカー(図示外)を所定の位置に設けることが可能である。そのようなX線マーカーは、例えば、内腔端部14、15、22、23、32および/もしくは33の領域または開窓19領域に設けられる。
図1
図2
図3
図4