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特許7279042リンカー薬物化合物vc-seco-DUBA製造のための改善された方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-05-12
(45)【発行日】2023-05-22
(54)【発明の名称】リンカー薬物化合物vc-seco-DUBA製造のための改善された方法
(51)【国際特許分類】
   C07D 471/04 20060101AFI20230515BHJP
   A61K 47/68 20170101ALI20230515BHJP
   A61K 39/395 20060101ALI20230515BHJP
   A61P 35/00 20060101ALI20230515BHJP
【FI】
C07D471/04 108E
A61K47/68
A61K39/395 C
A61K39/395 L
A61P35/00
【請求項の数】 11
(21)【出願番号】P 2020528269
(86)(22)【出願日】2018-11-22
(65)【公表番号】
(43)【公表日】2021-02-15
(86)【国際出願番号】 EP2018082199
(87)【国際公開番号】W WO2019101850
(87)【国際公開日】2019-05-31
【審査請求日】2021-11-19
(31)【優先権主張番号】17203457.1
(32)【優先日】2017-11-24
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(73)【特許権者】
【識別番号】516205959
【氏名又は名称】ビョンディス・ビー.ブイ.
【氏名又は名称原語表記】Byondis B.V.
【住所又は居所原語表記】Microweg 22, NL-6545 CM Nijmegen, Netherlands
(74)【代理人】
【識別番号】110003708
【氏名又は名称】弁理士法人鈴榮特許綜合事務所
(74)【代理人】
【識別番号】100108855
【弁理士】
【氏名又は名称】蔵田 昌俊
(74)【代理人】
【識別番号】100103034
【弁理士】
【氏名又は名称】野河 信久
(74)【代理人】
【識別番号】100179062
【弁理士】
【氏名又は名称】井上 正
(74)【代理人】
【識別番号】100199565
【弁理士】
【氏名又は名称】飯野 茂
(74)【代理人】
【識別番号】100219542
【弁理士】
【氏名又は名称】大宅 郁治
(74)【代理人】
【識別番号】100153051
【弁理士】
【氏名又は名称】河野 直樹
(74)【代理人】
【識別番号】100162570
【弁理士】
【氏名又は名称】金子 早苗
(72)【発明者】
【氏名】ヤノウシェク、ブラディミール
(72)【発明者】
【氏名】カス、マルティン
【審査官】神野 将志
(56)【参考文献】
【文献】特表2013-525347(JP,A)
【文献】特表2013-503862(JP,A)
【文献】特開2015-199772(JP,A)
【文献】特表2020-510677(JP,A)
【文献】特表2008-535845(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C07D
CAplus/REGISTRY(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
式(II):
【化1】
で表される化合物。
【請求項2】
式(III):
【化2】
で表される化合物を、1,4-ジオキサン中で塩化水素と反応させて、請求項1に記載された式(II)で表される化合物を形成することを含む方法。
【請求項3】
式(I):
【化3】
で表されるvc-seco-DUBAを製造するための、請求項1に記載された式(II)で表される化合物の使用。
【請求項4】
請求項1に記載された式(II)で表される化合物を、式(VII):
【化4】
表される化合物と反応させて、式(I):
【化5】
で表される化合物を形成することを含む、式(I)で表されるvc-seco-DUBAの製造方法。
【請求項5】
前記式(II)で表される化合物と前記式(VII)で表される化合物の反応が、N,N-ジイソプロピルエチルアミンの存在下で行われる、請求項4に記載の方法。
【請求項6】
前記式(II)で表される化合物と前記式(VII)で表される化合物の反応が、N,N-ジメチルアセトアミド中、N,N-ジイソプロピルエチルアミン及び1-ヒドロキシベンゾトリアゾール水和物の存在下で行われる、請求項4に記載の方法。
【請求項7】
前記式(II)で表される化合物は、式(III):
【化6】
で表される化合物を、1,4-ジオキサン中で塩化水素と反応させて、前記式(II)で表される化合物を形成することにより製造された、請求項4~6のいずれか1項に記載の方法。
【請求項8】
前記式(III)で表される化合物は、式(IV):
【化7】
で表される化合物を、クロロギ酸 4-ニトロフェニルと反応させて、式(V):
【化8】
で表される化合物を形成し、続いて、式(V)で表される化合物を、1-ヒドロキシベンゾトリアゾール水和物の存在下で、式(VI):
【化9】
で表される化合物と反応させて、式(III)で表される化合物を形成することにより製造された、請求項7に記載の方法。
【請求項9】
式(I)で表される化合物を形成するための請求項4~8のいずれか一項に記載された方法と、それに続く、式(I)で表される化合物と抗体又はその抗原結合断片の結合を含む、式(VIII):
【化10】
(式中、抗体は抗体又はその抗原結合断片であり、mは1~8、好ましくは1~6、より好ましくは1~4の平均薬物抗体比である。)
で表される抗体薬物複合体の製造方法。
【請求項10】
式(I)で表される化合物が、抗HER2抗体であるトラスツズマブに結合している、請求項9に記載の方法。
【請求項11】
式(I)で表される化合物を形成するための請求項4~8のいずれか一項に記載された方法と、それに続く、式(I)で表される化合物と抗HER2抗体であるトラスツズマブの結合を含む、式(IX):
【化11】
(式中、2.6-2.9は、2.6~2.9の平均薬物抗体比を表す。)
で表される抗体薬物複合体の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、リンカー薬物化合物vc-seco-DUBA及びその中間体を製造するための改善された方法、並びに、リンカー薬物化合物vc-seco-DUBAを含む抗体薬物複合体の製造における当該改善された方法の使用に関する。
【背景技術】
【0002】
デュオカルマイシンは、デュオカルマイシンA、デュオカルマイシンSA及びCC-1065を含む抗腫瘍性抗生物質である。それらは強力な抗腫瘍活性で知られているが、毒性が非常に高いので、通常、単独では使用されない。現在、デュオカルマイシンは抗体薬物複合体(ADC)における細胞障害性薬物として検討されている。
【0003】
ADCは、非常に強力な細胞障害性薬物をがん細胞に特異的に誘導して効力を増強し、一方で、低分子薬物の予想される全身に対する毒性の副作用を減らすことにより、がんに対する効果的な新しい治療法の満たされていない大きなニーズに取り組む可能性を有する。
【0004】
ADCの将来の商業的成功の鍵となる点の1つは、細胞障害性薬物、及び、抗体への結合を促進するためにリンカー部分が細胞障害性薬物に結合した対応するリンカー薬物化合物の、工業的規模での生産に適した製造方法である。
【0005】
国際公開第2011/133039号の210ページ21~27行に化合物18bとして最初に記載された、式(I):
【0006】
【化1】
【0007】
で表されるリンカー薬物化合物vc-seco-DUBAは、非常に強力なCC-1065類似体の一例である。vc-seco-DUBAと抗HER2抗体であるトラスツズマブのADC、すなわち、SYD985又は(vic-)トラスツズマブ デュオカルマジンは、いくつかの前臨床試験(M.M.C. van der Lee et al., Molecular Cancer Therapeutics, 2015, 14(3), 692-703;J. Black et al., Molecular Cancer Therapeutics, 2016, 15 (8), 1900-1909)及び第I相臨床試験(ClinicalTrials.gov NCT02277717)で成功裏に使用された。現在、SYD985は、HER2陽性の局所進行性又は転移性乳がん患者を対象とした第III相臨床試験において、医師が選択した治療と比較されている(TULIP;ClinicalTrials.gov NCT03262935)。
【0008】
国際公開第2011/133039号には、リンカー薬物化合物vc-seco-DUBAを4工程で製造する方法が記載されている。この方法によるvc-seco-DUBAの製造を50~100mgの実験室規模で行った場合、リンカー薬物化合物の総収率はわずか21~25%であった。この製造方法全体から見て、後半の2つの工程、すなわち、工程3及び4は、vc-seco-DUBAの全体的な収率にとって重要であるが、合計収率は約50%にすぎなかった。工業的規模では、この方法の収率はさらに低くなる。
【0009】
したがって、vc-seco-DUBAを製造するための改善された方法が必要である。特に、収率及び化学的純度の点で優れ、試薬及び反応条件の点で費用対効果が高く、さらに、工業的規模での生産に適した方法が必要である。
【発明の概要】
【0010】
本発明は、リンカー薬物化合物vc-seco-DUBA及びその中間体を、工業的規模での生産に適した条件で製造するための改善された方法に関し、改善された収率で所望のvc-seco-DUBAを提供する。
【0011】
第一に、本発明は、式(II):
【0012】
【化2】
【0013】
で表される化合物に関する。
【0014】
第二に、本発明は、式(III):
【0015】
【化3】
【0016】
で表される化合物を、1,4-ジオキサン中で塩化水素と反応させて、式(II)で表される化合物を形成することを含む方法を提供する。
【0017】
第三に、本発明は、式(I):
【0018】
【化4】
【0019】
で表されるvc-seco-DUBAの製造における式(II)で表される化合物の使用に関する。
【0020】
第四に、本発明は、vc-seco-DUBA含有抗体薬物複合体の製造におけるvc-seco-DUBAの製造方法の使用に関する。
【0021】
発明の詳細な説明
デュオカルマイシンは、最初にストレプトマイセス属の培養液から単離された構造的に関連する毒素の一群である。それらには、デュオカルマイシンA、デュオカルマイシンSA及びCC-1065を含む抗腫瘍性抗生物質が含まれる。デュオカルマイシンはDNAの副溝に結合し、続いて、DNAの不可逆的アルキル化を引き起こす。これは核酸の構造を破壊し、最終的には腫瘍細胞の死につながる。
【0022】
国際公開第2011/133039号は、デュオカルマイシン誘導体CC-1065を含む、式(I)
【0023】
【化5】
【0024】
で表される非常に強力なリンカー薬物化合物vc-seco-DUBAを具体的に開示する(201ページ21~27行、化合物18b)。
【0025】
本発明は、驚くほど高い収率でvc-seco-DUBAを製造するための改善された方法に関し、首尾よく工業的規模に応用することができる。
【0026】
国際公開第2011/133039号の実施例10におけるvc-seco-DUBAリンカー薬物化合物の化学合成は、4工程
【0027】
【化6】
【0028】
(PNP-Cl;クロロギ酸 4-ニトロフェニル、EtN;トリエチルアミン、Boc;tert-ブチルオキシカルボニル、TFA;トリフルオロ酢酸、CHCl;クロロホルム、DMF;N,N-ジメチルホルムアミド)
の方法として記載されている。
【0029】
50~100mgの実験室規模では、この4工程の方法の全体の収率は、わずか21~25%である。工業的規模では、この収率は大幅に低下する。
【0030】
上述した4工程の方法の全体的な収率が低いのは、主に、実験室規模で最後の2工程(すなわち、工程3及び4)を組み合わせた収率が約50%と低いことに起因する可能性がある。本発明者らは、驚くべきことに、工程3における酸の変更を含む修正された手順が、結晶化により単離することが可能な新しい中間体を生じることを見出した。予期せぬことに、工程3のこの変更と新しい中間体の使用により、vc-seco-DUBAの収率が大幅に増加することがわかった。
【0031】
生成物の純度を増加させる必要がある場合、通常、化学合成に結晶化工程が加えられる。しかし、母液中にかなりの生成物が残るので、そのような工程の追加は、通常、前記生成物の収率を低下させる。驚くべきことに、本発明者らは、上記のようにvc-seco-DUBAの合成で結晶化工程を追加し、式(II)
【0032】
【化7】
【0033】
で表される新しい中間体を経由することは、純度の増加(94~96%から99.0%以上)をもたらすだけでなく、vc-seco-DUBAの収率の予想外の大幅な増加(53%から~79%)も示すことを見出した。
【0034】
したがって、第1の態様では、本発明は、式(II)で表される化合物に関する。
【0035】
第2の態様では、本発明は、式(III):
【0036】
【化8】
【0037】
で表される化合物を、1,4-ジオキサン中で塩化水素と反応させて、式(II)で表される化合物を形成することを含む、式(II)で表される化合物の製造方法に関する。典型的には、式(III)で表される化合物は、1,4-ジオキサン中で10~20質量%の塩化水素と反応させる。式(III)で表される化合物は、好ましくは1,4-ジオキサン中で12~18質量%の塩化水素と、より好ましくは1,4-ジオキサン中で15質量%の塩化水素と反応させる。1,4-ジオキサン中の式(III)で表される化合物:HClの質量比は、通常、1:0.5~1:25である。好ましくは、1,4-ジオキサン中の式(III)で表される化合物:HClの質量比は、1:1~1:10で、より好ましくは、1:5~1:10である。
【0038】
塩化水素の量は、通常、式(III)で表される化合物の量のモル過剰である。好ましくは、塩化水素の量は、式(III)で表される化合物の量の少なくとも2モル当量、より好ましくは、2~50当量である。
【0039】
好ましくは、前記反応は、水及び/又はメタノール中、トリイソプロピルシランなどのスカベンジャーの存在下で行われる。前記水及び/又はメタノールは、全溶媒中、25質量%未満、好ましくは15%未満、より好ましくは10%未満であってもよい。
【0040】
式(III)で表される化合物は、例えば、R.C. Elgersma et al., Molecular Cancer Therapeutics, 2015, 12(6), 1813-1835に記載されているように、式(IV):
【0041】
【化9】
【0042】
で表される化合物とクロロギ酸 4-ニトロフェニルを反応させて、式(V):
【0043】
【化10】
【0044】
で表される化合物を得、続いて、1-ヒドロキシベンゾトリアゾール水和物の存在下で、式(V)で表される化合物と式(VI):
【0045】
【化11】
【0046】
で表される化合物を反応させることにより製造することができる。
【0047】
式(IV)で表される化合物とクロロギ酸 4-ニトロフェニルの反応は、通常、0~20℃で行われる。この温度は、好ましくは0~10℃、より好ましくは0~6℃、さらにより好ましくは2~6℃、最も好ましくは3~5℃である。
【0048】
式(V)で表される化合物の製造に適した溶媒は、限定されるものではないが、有機溶媒、好ましくは非プロトン性溶媒、より好ましくは極性非プロトン性溶媒である。好ましい溶媒は、エーテル、アミド又はその混合物である。特に好ましい溶媒は、テトラヒドロフラン(THF)、N,N-ジメチルアセトアミド(DMA)又はその混合物である。最も好ましくは、THFとDMAの混合物である。
【0049】
式(V)で表される化合物の製造に適した塩基は、有機塩基、例えば第三級アミンである。特に適切な塩基はEtNである。
【0050】
式(V)で表される化合物と式(VI)で表される化合物との反応は、通常、0~20℃で行われる。この温度は、好ましくは0~10℃、より好ましくは4~10℃である。
【0051】
式(III)で表される化合物の製造に適した溶媒は、限定されるものではないが、有機溶媒、好ましくは非プロトン性溶媒、極性溶媒又はその混合物である。好ましい溶媒は、エーテル、アミド又はその混合物である。特に好ましい溶媒は、THF、DMA又はその混合物である。最も好ましくは、THFとDMAの混合物である。
【0052】
式(IV)で表される化合物は、先行技術に記載の適当な方法、例えば国際公開第2015/185142号の実施例6aに記載されている方法で、又はそれと同様の方法で得ることができる。
【0053】
別の態様では、本発明は、vc-seco-DUBAを製造するための式(II)で表される化合物の使用に関する。
【0054】
さらに別の態様では、本発明は、式(II)で表される化合物を式(VII):
【0055】
【化12】
【0056】
で表される化合物と反応させるvc-seco-DUBAの製造方法に関する。
【0057】
塩基として、国際公開第2011/133039号の実施例10に記載されたトリエチルアミン(EtN)の代わりにN,N-ジイソプロピルエチルアミン(DIPEA)を用いて、式(II)で表される化合物と式(VII)で表される化合物を反応させた場合、予想に反して、vc-seco-DUBAの収率はさらに増加した。式(II)で表される化合物:DIPEAのモル比は、通常、1:1~1:15である。この比は、好ましくは1:1~1:10、より好ましくは1:2~1:7、さらにより好ましくは1:3~1:5、最も好ましくはこの比は約1:4である。
【0058】
式(II)で表される化合物と式(VII)で表される化合物との反応は、通常、0~20℃で行われる。この温度は好ましくは0~10℃、より好ましくは0~5℃である。
【0059】
式(II)で表されると式(VII)で表される化合物との反応によりvc-seco-DUBAを製造するのに適した溶媒は、限定されるものではないが、有機溶媒、好ましくは非プロトン性溶媒、より好ましくは極性非プロトン性溶媒である。好ましい溶媒は、エーテル、アミド又はその混合物である。特に好ましい溶媒は、THF、DMA、N,N-ジメチルホルムアミド(DMF)又はその混合物である。最も好ましくは、DMAである。
【0060】
好ましい態様では、この方法は、1-ヒドロキシベンゾトリアゾール水和物の存在下で行われる。式(II)で表される化合物:1-ヒドロキシベンゾトリアゾール水和物のモル比は、通常、1:1~1:10である。この比は、好ましくは1:1~1:7、より好ましくは1:2~1:5、さらにより好ましくは1:2~1:3、最も好ましくはこの比は約1:2.5である。
【0061】
本発明はさらに、式(VIII)
【0062】
【化13】
【0063】
で表されるvc-seco-DUBA ADCの製造方法に関し、リンカー薬物化合物vc-seco-DUBAは、上述した本願発明に係る方法で製造される。mは1~8、好ましくは1~6、より好ましくは1~4の平均薬物抗体比(DAR)を示す。
【0064】
本発明において、抗体-特に、治療活性を有することが知られている抗体、若しくはADCの分野で知られている抗体-又は、その抗原結合断片、例えば、F(ab’)若しくはFab’フラグメント、一本鎖(sc)抗体、scFv、単一ドメイン(sd)抗体、ダイアボディ若しくはミニボディを、vc-seco-DUBAの(野生型又は部位特異的な)結合に使用することができる。抗体は、IgG、IgA、IgM抗体など任意のアイソタイプであってもよい。好ましくは、抗体はIgG抗体、より好ましくはIgG又はIgG抗体である。抗体は、キメラ抗体、ヒト化抗体又はヒト抗体であってよい。好ましくは、抗体はヒト化されている。さらにより好ましくは、抗体はヒト化又はヒトIgG抗体、最も好ましくはヒト化又はヒトIgGモノクローナル抗体(mAb)である。好ましくは、前記抗体はκ軽鎖を有し、すなわち、ヒト化又はヒトIgG-κ抗体である。
【0065】
ヒト化抗体では、重鎖(HC)及び軽鎖(LC)の可変領域の抗原結合相補性決定領域(CDR)は、非ヒト種(通常、マウス、ラット又はウサギ)の抗体に由来する。これらの非ヒトCDRは、HC及びLCの可変領域のヒトフレームワーク(フレームワーク領域(FR)FR1、FR2、FR3及びFR4)内に配置することができる。ヒトFRの選ばれたアミノ酸は、低い免疫原性を保持しつつ結合親和性を改善するために、対応する元の非ヒト種のアミノ酸と交換することができる。代わりに、抗体の結合親和性を保持しつつ免疫原性を低下させるために、非ヒトFRが保持され、非ヒトFRの選ばれたアミノ酸を対応するヒトのアミノ酸と交換してもよい。このようにヒト化された可変領域は、ヒト定常領域と組み合わされる。
【0066】
これらの抗体は、組換えにより、合成により、又は当該技術分野で既知の他の適当な方法により製造することができる。
【0067】
通常、抗体は、アネキシンA1、B7H4、CA6、CA9、CA15-3、CA19-9、CA27-29、CA125、CA242(がん抗原242)、CCR2、CCR5、CD2、CD19、CD20、CD22、CD30(腫瘍壊死因子8)、CD33、CD37、CD38(サイクリックADPリボースヒドロラーゼ)、CD40、CD44、CD47(インテグリン関連タンパク質)、CD56(神経細胞接着分子)、CD70、CD74、CD79、CD115(コロニー刺激因子1受容体)、CD123(インターロイキン3受容体)、CD138(シンデカン1)、CD203c(ENPP3)、CD303、CD333、CEA、CEACAM、CLCA-1(C型レクチン様分子1)、CLL--1、c-MET(肝細胞増殖因子受容体)、Cripto、DLL3、EGFL、EGFR、EPCAM、EPh(例、EphA2又はEPhB3)、ETBR(エンドセリンB型受容体)、FAP、FcRL5(Fc受容体様タンパク質5、CD307)、FGFR(例、FGFR3)、FOLR1(葉酸受容体α)、GCC(グアニル酸シクラーゼC)、GPNMB、HER2、HMW-MAA(高分子量黒色腫関連抗原)、インテグリンα(例、αvβ3及びαvβ5)、IGF1R、TM4SF1(又はL6抗原)、ルイスA様糖質、ルイスX、ルイスY(CD174)、LIV1、メソテリン(MSLN)、MN(CA9)、MUC1、MUC16、NaPi2b、ネクチン-4、PD-1、PD-L1、PSMA、PTK7、SLC44A4、STRAP-1、5T4抗原(又はTPBG、栄養膜糖タンパク質)、TF(組織因子、トロンボプラスチン、CD142)、TF-Ag、Tag72、TNFR、TROP2(腫瘍関連カルシウムシグナルトランスデューサー2)、VEGFR並びにVLAからなる群から選択される標的に結合する少なくとも1つのHC可変領域及びLC可変領域を含む単一特異性抗体(すなわち、1つの抗原に特異的な抗体;このような抗原は種間で共通であるかもしれず、又は、種間で類似したアミノ酸配列を有しているかもしれない)又は二重特異性抗体(すなわち、2つの異なる抗原に特異的な抗体)である。
【0068】
適当な抗体の例には、ブリナツモマブ(CD19)、エプラツズマブ(CD22)、イラツムマブ及びブレンツキシマブ(CD30)、バダスツキシマブ(CD33)、テツルマブ(CD37)、イサツキシマブ(CD38)、ビバツズマブ(CD44)、ロルボツズマブ(CD56)、ボルセツズマブ(CD70)、ミラツズマブ(CD74)、ポラツズマブ(CD79)、ロバルピツズマブ(DLL3)、フツキシマブ(EGFR)、オポルツズマブ(EPCAM)、ファルレツズマブ(FOLR1)、グレンバツムマブ(GPNMB)、トラスツズマブ及びペルツズマブ(HER2)、エタラシズマブ(インテグリン)、アネツマブ(メソセリン)、パンコマブ(MUC1)、エンフォルツマブ(ネクチン-4)、並びに、H8、A1及びA3(5T4抗原)が含まれる。
【0069】
リンカー薬物化合物vc-seco-DUBAの抗体への結合は、国際公開第2011/133039号、国際公開第2015/177360号及び国際公開第2017/137628号に記載されたように行ってもよい。
【0070】
野生型のADCは、鎖間のジスルフィド結合を還元することで生成したシステインの遊離チオールを介して、リンカー薬物化合物と抗体を結合させることにより製造される。この方法は、溶媒にさらされた鎖間ジスルフィド結合の部分的な還元と、これに続く、マレイミド含有リンカー薬物化合物によるチオールの修飾を伴う。この方法では、還元されたジスルフィドあたり最大で2つの薬物が結合する。ほとんどのヒトIgG分子は溶媒にさらされたジスルフィド結合を4つ有するので、抗体あたり0~8の薬物との結合が可能である。抗体あたりの薬物の正確な数は、ジスルフィド結合の還元の程度と、その後の結合反応において使用するリンカー薬物化合物のモル当量によって決まる。4つのすべてのジスルフィド結合の完全な還元により、抗体あたり8つの薬物が結合した均一なものを得られるが、部分的な還元では、通常、抗体あたり0、2、4、6又は8つの薬物が結合した不均一な混合物となる。
【0071】
部位特異的なADCは、変異抗体の適当な位置にある組み込まれたシステイン残基の側鎖を介してリンカー薬物化合物と抗体を結合させることにより製造される。組み込まれたシステインは、通常、システインやグルタチオンなどの他のチオールと結合し、ジスルフィドを形成する。このチオールとの結合は、薬物との結合の前に切断する必要がある。この組み込まれた残基への薬物の結合は、抗体固有の鎖間ジスルフィド及び上記変異ジスルフィドの両者を還元し、次に、CuSOやデヒドロアスコルビン酸といった穏やかな酸化剤で抗体固有の鎖間システインを再酸化し、その後、前記結合していない組み込まれたシステインとリンカー薬物化合物を通常の方法で結合することにより、又は、鎖間ジスルフィド結合を還元するよりも早く上記変異ジスルフィドを還元する穏やかな還元剤を使用し、その後、結合していない組み込まれたシステインとリンカー薬物化合物を通常の方法で結合することにより、行われる。最適な条件では、(1つのシステインがmAbの重鎖又は軽鎖に組み込まれている場合、)抗体ごとに2つの薬物が結合する(すなわち、薬物抗体比DARは2である)。
【0072】
好ましい態様では、本発明で用いられる抗体は、抗HER2抗体であり、さらにより好ましくは、抗HER2抗体のトラスツズマブである。
【0073】
ある特定の態様では、本発明は、式(IX)
【0074】
【化14】
【0075】
で表される、トラスツズマブ vc-seco-DUBA ADCの製造方法に関し、リンカー薬物化合物vc-seco-DUBAは、上述した本願発明に係る方法で製造される。2.6-2.9は、2.6~2.9のDARを表す。
【実施例
【0076】
実施例1 メチルCBI-アザインドール-ベンズアミド-MOM-Boc-エチレンジアミン-D(4)の製造
【0077】
【化15】
【0078】
トリエチルアミン(EtN)(0.55g、4.94mmol)の存在下、メチルCBI-アザインドール-ベンズアミド-MOM(1)(1.0g、1.75mmol)とクロロギ酸 4-ニトロフェニル(PNP-Cl)(0.43g、2.12mmol)を、テトラヒドロフラン(THF)(4.5g)とN,N-ジメチルアセトアミド(DMA)(3.0g)の混合物中で、0℃(6℃までの上昇を許容)で約1.5時間反応させた。メチルCBI-アザインドール-ベンズアミド-MOM-PNP(2)を含むスラリーを得た。
【0079】
第2の工程では、tert-ブチル(2-((2-(2-ヒドロキシエトキシ)エチル)アミノ)エチル)(メチル)-カルバメート(3)(0.58g、2.19mmol)をDMA(1.7g)に溶解し、1-ヒドロキシベンゾトリアゾール水和物(HOBt)(0.35g、2.28mmol)を添加した。得られた溶液を上記スラリーと4℃(10℃までの上昇を許容)で1.5時間反応させた。
【0080】
反応の終了後、反応混合物に酢酸エチル(EtOAc)(8.8g)を添加し、その溶液をブライン(11.3g)、飽和重炭酸ナトリウム溶液(3.8g)、再び、ブライン(3.8g)で洗浄した。有機層を分離し、カーボンろ過で精製した。ロータリーエバポレーターで溶媒を蒸発させた。得られたメチルCBI-アザインドール-ベンズアミド-MOM-Boc-エチレンジアミン-D(4)をアセトン(20g)に溶解し、再度、カーボンろ過で精製した。
【0081】
粗生成物を、DCM:MeOH=97:3~94:6の移動相で溶出することにより、シリカゲルカラムクロマトグラフィーで精製した。生成物画分を濃縮し、真空で乾燥させて、メチルCBI-アザインドール-ベンズアミド-MOM-Boc-エチレンジアミン-D(4)(1.27g、1.48mmol;収率84%、純度93.82%)を得た。
【0082】
実施例2 vc-seco-DUBAの製造
メチルCBI-アザインドール-ベンズアミド-エチレンジアミン-D塩酸塩(5)の製造
【0083】
【化16】
【0084】
スカベンジャー(トリイソプロピルシラン(0.63g)、水(0.4g)及びメタノール(0.3g))の存在下、1,4-ジオキサン(7.5g)中の15%塩化水素(HCl)により、メチルCBI-アザインドール-ベンズアミドMOM-Boc-エチレンジアミン-D(4(1.27g、1.48mmol)のメトキシメチル基(MOM)及びブチルオキシカルボニル基(Boc)を除去した。反応溶液から、メチルCBI-アザインドール-ベンズアミド-エチレンジアミン-D塩酸塩(5)を黄色の個体として結晶化した。
【0085】
得られた黄色の固体をろ別し、アセトンで洗浄し、窒素及び真空を使用してフィルター上で乾燥させ、純粋な生成物(5)を得た(1.0g、1.33mmol;収率90%、純度90%以上)。
【0086】
vc-seco-DUBAの製造
【0087】
【化17】
【0088】
N,N-ジイソプロピルエチルアミン(DIPEA)(0.65g、5.10mmol)及びHOBt(0.47g、3.16mmol)の存在下、メチルCBI-アザインドール-ベンズアミド-エチレンジアミン-D塩酸塩(5)(1.0g、1.33mmol)と、マレイミド-OEG-val-cit-PABA-PNP(6)(0.98g、1.29mmol)をDMA(17.8g)中で、0℃(5℃までの上昇を許容)の暗所で1.5時間反応させた。反応混合物を23~25℃の水(201.1g)に滴下(50~60分)し、vc-seco-DUBA粗生成物の沈殿を得た。30分間撹拌した後、沈殿した粗生成物を圧力フィルターでろ過した。フィルターケーキを水で徹底的に洗浄し、フィルター内でわずかな窒素流下減圧して乾燥させた。
【0089】
最初にvc-seco-DUBA粗生成物を低圧フラッシュクロマトグラフィー(固定相-0.040~0.063mmシリカゲル;移動相-ジクロロメタン:メタノール=90:10)にかけた。条件を満たす画分(vc-seco-DUBA90%以上のUPLC-IN純度)をフラスコに収集し、ろ過し、蒸発させた。分取クロマトグラフィー(固定相-0.015~0.040mmシリカゲル;移動相-ジクロロメタン:メタノール=90:10~85:15)でさらに精製した。条件を満たす画分(vc-seco-DUBA90%以上のUPLC-IN純度)をフラスコに収集し、溶媒をDMAに交換した。最高温度25℃で濃縮した。濃縮した溶液を、0.2μmフィルターでろ過し、水に加え、微細な黄色の粉末として純粋なvc-seco-DUBAを沈殿させた(収率35~45%;純度99.0%以上)。
【0090】
生成物をろ過し、水で洗浄し、最高温度25℃で減圧下、窒素を使用してフィルター内で乾燥させた。
【0091】
比較例 vc-seco-DUBAの製造
vc-seco-DUBAの合成を国際公開第2011/133039号の実施例10の記載に従い行う。
【0092】
【化18】
【0093】
工程1
メチルCBI-アザインドール-ベンズアミド-MOM-Boc-エチレンジアミン-D(0.1mmol)を、クロロホルム(CHCl)(6ml)に懸濁し、氷冷した。2mlの酸(トリフルオロ酢酸(TFA)又は1,4-ジオキサン(7.5g)中の15%HCl)を加え、混合物を3時間撹拌した。次いで、混合物を真空で濃縮した。
【0094】
工程2
残留物をN,N-ジメチルホルムアミド(DMF)(4ml)に溶解し、溶液を氷で冷却し、マレイミド-OEG-val-cit-PABA-PNP(6)(0.13mmol)及び塩基(1ミリモル、EtN又はDIPEA)を添加した。混合物を2時間撹拌し、真空で濃縮し、残留物をカラムクロマトグラフィー(SiO、ジクロロメタン:メタノール、1:0~8:2)で精製した。
【0095】
vc-seco-DUBAの製造効率に対する酸及び塩基の影響を調べるために、工程1では、1,4-ジオキサン中のHCl又は従来技術による酸であるTFAを用いて、メチルCBI-アザインドール-ベンズアミド-MOM-Boc-エチレンジアミン-D(4)中のMOM基及びBoc基を除去し、工程2では、DIPEA又は従来技術による塩基であるEtNを用いて、メチルCBI-アザインドール-ベンズアミド-エチレンジアミン-D塩酸塩(5)とマレイミド-OEG-val-cit-PABA-PNP(6)のカップリング反応を促進し、上記の反応を行った。
【0096】
以下の表はvc-seco-DUBAの収率を示す。
【0097】
【表1】
【0098】
工程1でTFAの代わりに1,4-ジオキサン中のHClを用いた場合、HPLCで求めたvc-seco-DUBAの全収率が25.8%増加した。工程2でEtNの代わりにDIPEAを用いた場合、HPLCで求めたvc-seco-DUBAの全収率が23.6%減少した。しかしながら、工程1で1,4-ジオキサン中のHClを使用し、工程2でDIPEAを使用すると、HPLCで求めたvc-seco-DUBAの全収率が29.8%増加した。