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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-05-12
(45)【発行日】2023-05-22
(54)【発明の名称】LIDAR及びレーザ用測定手法
(51)【国際特許分類】
   G01S 17/34 20200101AFI20230515BHJP
   H01S 3/00 20060101ALI20230515BHJP
   G02F 1/01 20060101ALI20230515BHJP
   G02B 26/10 20060101ALN20230515BHJP
【FI】
G01S17/34
H01S3/00 F
G02F1/01 F
G02B26/10 C
【請求項の数】 4
(21)【出願番号】P 2020544563
(86)(22)【出願日】2018-11-02
(65)【公表番号】
(43)【公表日】2021-01-28
(86)【国際出願番号】 US2018059033
(87)【国際公開番号】W WO2019090131
(87)【国際公開日】2019-05-09
【審査請求日】2021-10-25
(31)【優先権主張番号】62/581,267
(32)【優先日】2017-11-03
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(73)【特許権者】
【識別番号】520155044
【氏名又は名称】アクロノス インコーポレイテッド
【氏名又は名称原語表記】AQRONOS, INC.
(74)【代理人】
【識別番号】100147485
【弁理士】
【氏名又は名称】杉村 憲司
(74)【代理人】
【識別番号】230118913
【弁護士】
【氏名又は名称】杉村 光嗣
(74)【代理人】
【識別番号】100202326
【弁理士】
【氏名又は名称】橋本 大佑
(72)【発明者】
【氏名】シュ-ウェイ フアン
(72)【発明者】
【氏名】ペイジ リ
【審査官】▲高▼場 正光
(56)【参考文献】
【文献】特開平01-316599(JP,A)
【文献】国際公開第2016/190913(WO,A2)
【文献】特開2016-136143(JP,A)
【文献】MEHRAVAR, S. 外3名,“Real-time dual-comb spectroscopy with a free-running bidirectionally mode-locked fiber laser”,APPLIED PHYSICS LETTERS,2016年06月07日,Volume 108,Article 231104, 5 Pages,<URL: https://doi.org/10.1063/1.4953400 >
【文献】VALI, V. 外2名,“Fresnel-Fizeau effect in a rotating optical fiber ring interferometer”,APPLIED OPTICS,1977年,Volume 16, Issue 10,Pages 2605-2607,<URL: https://doi.org/10.1364/AO.16.002605 >
【文献】齋藤秀人 外5名,“単層カーボンナノチューブフィルムを用いた双方向デュアルコムファイバレーザーの開発”,第78回応用物理学会秋季学術講演会講演予稿集[DVD-ROM],公益社団法人応用物理学会 The Japan Society of Applied Physics,2017年08月25日,Article 6p-S45-16, Page 03_205
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01S 7/48 - G01S 7/51
G01S 17/00 - G01S 17/95
JSTPlus(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
デュアルコム生成システムであって、
2つのレーザ出力を生成する双方向モードロックフェムト秒レーザと、
10,000rpm以上の回転速度を有し、時計回り方向と比較した反時計回り方向の前記2つのレーザ出力間の反復レート差として少なくとも2キロヘルツの反復レート差を生成する回転台であって、励起ダイオードの励起ファイバを、前記2つのレーザ出力によって共有されるレーザキャビティの回転から切り離し、位相ロックループ電子部品を使用せずに前記2つのレーザ出力を生成し、一方のレーザ出力を他方のレーザ出力に対して調整するファイバ回転ジョイントを含む回転台と、
を備え、
前記双方向モードロックフェムト秒レーザは前記回転台上に配置され、記回転台は、前記双方向モードロックフェムト秒レーザを励起する前記励起ダイオードに結合され
ファイバ結合器は、前記2つのレーザ出力を組み合わせる、デュアルコム生成システム。
【請求項2】
請求項に記載のデュアルコム生成システムにおいて、前記2つのレーザ出力は相互にコヒーレントである、デュアルコム生成システム。
【請求項3】
請求項1に記載のデュアルコム生成システムにおいて、時計回り方向と比較した反時計回り方向の前記2つのレーザ出力間の反復レート差は、前記回転台の角速度に比例する、デュアルコム生成システム。
【請求項4】
請求項1に記載のデュアルコム生成システムにおいて、前記回転台の速さは50,000rpmとされる、デュアルコム生成システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明の実施形態は一般的にLiDAR及びレーザの分野に関するのであり、より具体的にはデュアルコム(dual comb)測定手法互換な双方向レーザに関するのであり、また、デュアルサイドバンド周波数変調連続波(FMCW、frequency-modulated continuous-wave)測定手法にも関する。
【背景技術】
【0002】
デュアルコム分光法は新たに出現した分光ツールであり、周波数解像力、周波数正確性、広帯域性、及び周波数コムの輝度を活用して超高解像・高感度な広帯域分光法をもたらす。デュアルコム分光法は、2つのコヒーレント周波数コムを用いることによって、コムの歯毎に試料の分光応答を迅速に測定することができ、従来型の分光器のサイズ制約や機材応答制限を伴わずにしてこれをなし得る。
【0003】
デュアルコム系の手法は、高解像分光法、精密測距、及び3次元イメージングについて興味深い応用法をもたらす。伝統的な手法との比較でデュアルコム手法がもたらし得る主たる利点について述べる。例えば、デュアルコム分光法では、高解像性能を保ったまま、標準的なフーリエ変換分光法に比して数オーダー改善した読み取り速度をもたらす。もっとも、該手法の広範な採用は、複雑であり且つ高価な超高速レーザシステムを要することによって妨げられてきた。
【0004】
フーリエ変換分光法は、科学的研究や化学及び製薬業界における化学サンプル解析用の手段である。近年においては、その測定速度、感度、及び精度は、デュアル周波数コムを用いることによって著しく向上させることができるものと示されている。また、極短パルスを用いて非線形効果を惹起する近年の例により、デュアルコム分光法の利便性が強化されたといえる。もっとも、該手法が2つの周波数コムを要し、また、それらのコムがアクティブ安定化を要するがために、該手法が広範に採用されることが妨げられている。
【0005】
リモートセンシングにおける最も基本的な測定事項の1つとしては、物体の絶対距離を決定する能力を挙げることができる。高精度測距は大規模製造分野及び将来における密陣形航行人工衛星ミッションの両方において重要な役割を果たすのであり、個々の人工衛星の相対的な向き及び位置を維持するために絶対距離に関して迅速且つ正確な測定が肝要である。既知な手法について述べるに、2つのコヒーレント広帯域ファイバレーザ周波数コム光源を用いるとして、飛行時間(ToF、time-of-flight)手法及び干渉手法の利点を組み合わせるコヒーレントレーザ測距システムを用いて絶対距離測定をもたらすのであって、複数のリフレクタから低出力を伴いつつそれがなされる。パルスToFは精度3mmをもたらし、曖昧性レンジは200msにおいて1.5mとなる。光学キャリアフェーズを介して精度は60msにおいて5nmより良いものに改善され、無線周波数フェーズを介して曖昧性レンジは30kmに拡張されるのであり、場合によっては長距離において10^13における2のレベルでの測距(2 parts in 10^13 ranging)をもたらし得る。もっとも、一般的には、物体の距離又は物体の速度のどちらか一方だけを一時に決定し得る。
【0006】
デュアルコム系測定法は、精密分光法やコヒーレントLIDAR等の精度及び安定性を要する用途において卓越した有望性をみせている。もっとも、必要とされる相互コヒーレンスをもたらすためには2つのモードロックされたフェムト秒レーザ周波数コム及び高速位相ロックループ電子部品が必要とされるが故に、デュアルコム測定法は現在広範に用いられるにまでは至っていない。したがって、より良いレーザ周波数コムが必要とされている。また、物体の距離及び物体の速度を1回の測定だけで明瞭に決定できる測定手法が必要とされている。
【0007】
FMCW LiDARもまた有望なレーザ測距手法である。FMCW LiDARシステムにおいては、物体の距離は測定された電気的周波数として線形的にエンコードされている。伝統的には、物体の速さは測定された電気的周波数にオフセットをもたらし、このため、物体速度に関して別の独立な測定をなさない限り、距離に関して不確定性がもたらされる。本明細書中の様々な実施形態との関係で説明されているデュアルサイドバンド方法をもちいることによってこの問題は解決されるのであって、たった1回の測定だけで物体距離及び物体速さの両方を曖昧性を伴わずにして決定できる。
【発明の概要】
【0008】
本発明の実施形態はデュアルコム測定システムを含む。デュアルコム測定システムは、双方向モードロック型フェムト秒レーザと、高速回転台と、ファイバ結合器とを含み得る。高速回転台は、励起ダイオードに結合されていることができる。
【0009】
この概要及び後述の詳細な説明は単に例示的/図示的/説明的なものに過ぎず、限定的なものとして意図されてはおらず、権利付与請求されている発明についてさらなる説明を与えるに過ぎない。当業者ならば続く図面及び詳細な説明を参照することによって他のシステム、方法、特徴、及び例示的実施形態についての利点について把握できよう。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図面は略図であり縮尺通りには図示されていない。図示の実施形態からの変形は想定内である。このため、図面中の図案は本発明の範疇を限定することは意図していない。
【0011】
図1】本発明の1つの実施形態による、高速回転台上の双方向モードロックフェムト秒レーザについての概略図である。
図2図2Aは、測距をなすために正サイドバンドのみが用いられる場合のグラフである。図2Bは、時間の関数としての、正サイドバンドについての光学周波数グラフである。 図2Cは、弱反射及び強反射を伴う物体についてのFMCW LiDAR結果についての標準的なグラフである。
図3図3Aは、本発明の例示的実施形態による、デュアルサイドバンドFMCW LiDARのキャリアのみが抑制された場合のグラフである。図3Bは、本発明の例示的実施形態による、時間の関数としての、両サイドバンドについての光学周波数グラフである。図3Cは、本発明の例示的実施形態による、弱反射及び強反射を伴う物体についてのFMCW LiDAR結果についてのグラフである。
図4】本発明の例示的実施形態による、デュアルサイドバンドFMCW LiDARシステムについての概略図である。
図5】本発明の例示的実施形態による、デュアルサイドバンドFMCW LiDARシステムについての概略図である。
図6】本発明の実施形態による、LiDARシステムにて用いられる送受信端末についての概略図である。
図7】本発明の例示的実施形態による、LiDARシステムにて用いられる制御データ処理センタについての概略図である。
図8】本発明の例示的実施形態による、デュアルサイドバンドFMCW LiDARシステムについての概略図である。
図9】本発明の例示的実施形態による、2次元走査ユニットについての概略図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下の開示は、本発明の様々な実施形態及びその使用方法について、少なくとも好適な最良モードの実施形態を説明するのであり、以下の詳細な説明にて詳述する。当業者ならば、本明細書中に説明されている事項の精神及び範疇から逸脱せずそれに変更及び改造を加えることができよう。本発明は異なる形式の異なる実施形態としてもたらされ得るものであるも、図面及び明細書中にて説明するように本発明の好適な実施形態について詳述するのであり、本開示は本発明の諸原理についての例示であると解されるべきものであり、説明された実施形態にほんはつめいの広い範囲を限定することは意図されていない。別段の規定なき限り、開示した実施形態との関連で説明した任意の特徴、要素、コンポーネント、機能、及びステップは、任意の他の実施形態のそれらと自由に組み合わせたりそれらと代替させることができるものとなることが意図されている。したがって、例示されている事項は例示の目的のみで示されているものと理解されるべきであり、本発明の範囲を限定するものとして理解してはならない。
【0013】
以下の説明及び図面においては、同様の要素は同様の参照符合をもって特定される。「例えば」、「等」、及び「又は」を用いた場合、別段の定めなき限り、非排他的な代替案を非限定的に示していることになる。「~を含んでいる」又は「~を含む」との語の使用は、別段の定めなき限り、「~を含んでいるがこれらには限定されていない」又は「~を含むがこれらには限定されない」を意味する。
【0014】
図1に転じるに、双方向レーザが示されており、これは追加のレーザを必要とせずにデュアルコム測定手法100Aに本質的に向いている。図示のように、一部の実施形態では、双方向レーザは、Sagnac効果を活用して、双方向レーザ出力120,130間で反復レート差を作出できる。反復レート差を作出するための他の原理も利用できる。開店中の単一周波数レーザジャイロに関しては、Sagnac効果故に、時計回りにおけるレージング周波数と反時計回りにおけるレージング周波数とは次の差をもつ:Δfopt=α・fopt・Ω 。ここで、αはレーザキャビティの設計に依存する定数であり、foptはジャイロが静止中のレージング周波数であり、Ωは回転の角速度である。
【0015】
同様に、図1で示されるように、励起ダイオード140に結合された高速回転台110上に双方向モードロックフェムト秒レーザを置いた場合、Sagnac効果故に時計回り方向と反時計回り方向とについてレーザ出力120,130間に反復レート差が招来され得る。反復レート差は回転台110の角速度に比例していることができ、Δf_rep=α・f_rep・Ωとして表すことができ、ここで、αは同一キャビティ設計依存係数であり、f_repはシステム静止時の反復レートである。図1に示すように、2つのモードロックフェムト秒レーザを作成することを要さない。一部の実施形態では、2つのレーザ出力120,130を図1に示すように標準的なファイバ結合器を用いて組み合わせることができ、そしてこれによってデュアルコム測定用の光源を得たことになる。また、2つのレーザ出力120,130を組み合わせる任意の他の方法を用いることもできる。デュアルコム測定の標準的な2レーザ型の実施形態では、2つのレーザキャビティは独立に変動し、それらのノイズは全く無相関である。よって、何もしない場合には独立している2つのキャビティをロックし、また、2つのレーザ間で相互コヒーレンスを担保するために高速フィードバック電子機器が必要となり得る。追加の情報は付録A及びBに記載されており、それらの全体が参照によって取り込まれる。一部の実施形態では、双方向レーザ出力120,130は同じキャビティを共有しており、したがってどの線形キャビティゆらぎについても2つの双方向レーザ出力120,130は等しく影響を受ける。この共通ノイズ特性故に、高速位相ロックループ電子部品すら必要とせずに、2つのレーザ出力120,130は本来的に互いにコヒーレントたり得る。回転台110は、ポンプファイバをキャビティ回転から分離するためのファイバ回転ジョイント150をも含み得る。
【0016】
システム複雑性の削減及びコスト削減の観点から、近時においては、双方向レーザをデュアルコム測定システムに適用することに関して興味が示されている。2つのモードロックされたフェムト秒レーザ周波数コム及び高速位相ロックループ電子部品が必要とされるが故に、デュアルコム測定法は現在広範に用いられるにまでは至っていない。一部の実施形態では、2モードロックレーザを双方向レーザで代替することによって、レーザの費用を半減し得る。また、先の段落で述べたように、高速位相ロックループ電子部品は最早不要となり得るのであり、システム複雑性及びコストをさらに減らせる。現代においては、既存技術はファイバレーザキャビティは静止しているものとされており、故にキャビティは非対称であることが要求される。さらに、2方向における反復レートを相違させるためには、等しくない非線形性を導入することを要する。非対称なキャビティ及び要求される非線形性故に、2つの方向において被るキャビティノイズは最早完全に相殺できない(線形キャビティ揺らぎのみが2方向において等しくもたらされる)。したがって、双方向レーザ出力は互いから徐々に離れていくのであり、低速フィードバックが実装されない限り相互コヒーレンスは喪失される。また、レーザ安定性を担保するために、非対称性及び非線形性あまり高度に設定できず、故に反復レート差は通常は100Hz未満に制限され、結果としてデュアルコム測定システムのデータ取得頻度が制約に服する。
【0017】
他方で一部の実施形態では、デュアルコム測定システムを用いる双方向レーザは、Sagnac効果を利用でき、これは回転台の速さによって線形的に制御可能である。反復レート差は最早キャビティ非対称性及び非線形性に依存しなくなり得る故に、一部の実施形態では、相互コヒーレンスが徐々に失われること及びデータ取得頻度の増大を克服し得る。一部の実施形態では、容易に入手可能なモーター付き回転台(速さ:10,000rpm(Ω))を用いることができ、反復レート差(Δfrep)を2kHz(即ち、従来技術に比べて1オーダー以上優れた値)とすることができる。任意の他の種類の回転台を用いることもできる。回転速度が50,000rpmとされる高速回転台をもってすれば反復レート差は10kHzレベルへとさらに上げることができる。また、反復レートは回転速さに線形的に比例するため、回転台の速さを変えるだけでチューニングをなし得るのであり、また、モーターの回転の速さを追跡することによって再較正できる。(Δfrep=α・frep・Ω)なお、高速回転によりシステムの慣性モーメントが増大するのであり、故に環境からの任意の外乱に対してシステム全体がより安定的なものたり得る(回転を付された弾丸がより安定した飛翔体となることを想起されたい)。
【0018】
図2A~2Cは、標準搬送波について単一のサイドバンドを抑制した場合と関連するグラフであって、伝統的なFMCW LiDAR原理を示すグラフである。図2Aでは、キャリア及び負のサイドバンドが抑制されて、測距をなすために正のサイドバンドのみが活用される、とのことを示すグラフ200Aが示されている。図2Bでは、正のサイドバンドを時間の関数として示している光学周波数グラフ200Bが示されており、周波数スイープ(Δ/T)は正の傾きを示している。図2Cでは、弱反射をもたらす物体が3m(L=3m)にあり強反射をもたらす物体が5m(L=5m)にある場合の標準的なFMCW LiDAR結果グラフ200Cが示されている。FMCW LiDARシステムにおいては、物体の距離は測定された電気的周波数として線形的にエンコードされており、次式のとおり:
【数1】
ここで、cは光速であり、f_Dは物体の速さによって生じるドップラー周波数である。上述の式から分かるように、物体の速さは測定される電気的周波数にオフセットをもたらし、その結果、別の独立な物体の速さ測定を行わない限り、距離に関して曖昧性がもたらされる。
【0019】
図3A~3Cではキャリア抑制デュアルサイドバンドと関連するグラフが示されており、例示的なデュアルサイドバンドFMCW LiDAR原理がそこにて示されている。図3Aは、デュアルサイドバンドFMCW LiDARにおいてキャリアだけ抑制された場合のグラフ300Aについて示す。測距をなすためには、正負両方のサイドバンドを活用することができる。図3Bは、時間の関数として両方のサイドバンドについての光学周波数グラフ300Bについて示す。周波数スイープについて正の傾きがあると同時に周波数スイープについて負の傾きもあり得る。図3Cは、例示的なデュアルサイドバンドFMCW LiDARについての例示的な結果グラフ300Cについて示すのであり、弱反射をもたらす物体が3m(L=3m)にあり強反射をもたらす物体が5m(L=5m)にある場合についてのグラフである。各物体について2つの測定された電気的周波数がもたらされ得る、即ち、1つはドップラー周波数でアップシフトされたfM,uであり、1つはドップラー周波数でダウンシフトされたfM,dである。一部の実施形態では、デュアルサイドバンド手法を用いて、たった1つの測定で、物体距離及び物体速さの両方を、同時に且つ明確に決定できる。物体距離及び速さは、2つの電気的周波数(即ち、fM,u及びfM,d)の各々を平均及び差分することによって算出できる。
【0020】
図4は、デュアルサイドバンドFMCW LiDARシステムv400Aについての概略図である。単一周波数ダイオードレーザ410を電気光学的振幅モジュレータ(EOM、electro-optic amplitude modulator)420に入力することができる。EOM420を用いて単一周波数ダイオードレーザ410から2つのサイドバンドを作成することができる。EOM420のバイアス電圧は、キャリア周波数を抑制するものとなるように慎重に選ばれる。そして、エルビウムドープ光増幅器430を用いて、光学出力を3Wにブーストすることができる。2次元走査ユニット450はコンピューティングシステム460によって制御されることができ、光を興味対象領域へと導くことができ、やがてLiDAR画像を形成できる。バランス型手法440もまた統合して測定感度を向上させることができるのであり、デュアルサイドバンドFMCW LiDARシステム400Aが距離120mにある反射率10%の物体について測定できるようになる。
【0021】
現在入手可能な例示的なLiDARシステムについて言及するとすれば、Velodyne社のものを挙げることができる。Velodyne社のLiDARシステムは、機械的な回転を伴う。該システムは、64個のレーザと64個の検出器とを用いて様々な垂直アングルを包括する。16個のレーザと32個の検出器が1つのグループに含まれている。もっとも、このLiDARシステムの大きな欠点は、より遅い回転速度とLiDARシステムの複雑な設計とにあると言えよう。別の利用可能なLiDARシステムについて言及するに、Quanenergy社のものを挙げることができる。該システムは、光学位相アレイを用いて物体について走査するのであり、各アンテナの位相を制御することによって光を導く。もっとも、このシステムの大きな欠点としては次のことを挙げることができる:スポットの質が低いため、長距離での物体検出が困難となること。図5は、本発明の例示的実施形態による、デュアルサイドバンドFMCW LiDARシステム500についての概略図である。LiDARシステムは主として次ぎの3つの部分を含む:調光生成ユニット、送受信ユニット505、並びに制御及び処理ユニット550。
【0022】
送受信ユニット505は、1つ以上の送受信端末510及び520を有する。それは、レーザ及び制御信号530並びにデータリンク540を有し得る。また、それは、制御及び信号処理ユニット550を有することもできる。制御及び信号処理ユニット550は、送受信ユニット505から分離されることができるのであり、これによって、LiDARシステム500の車両内システムレイアウトがより柔軟になる。送受信ユニット505は、車両の天辺に配置でき、制御及び信号処理ユニット550は車内に配置できる。そして、制御信号は長い電気ケーブルを介して送受信ユニットへと伝達できるのであり、受信光信号は長いSMF-28ファイバを介して信号処理ユニット550へと戻される。
【0023】
図6は、本発明の実施形態による、LiDARシステムにて用いられる送受信端末について示す。送受信端末は、x軸制御ミラー610とy軸制御ミラー620とを有する2軸制御ミラーシステムを用い得るのであり、これによって高速3次元走査と走査角度の高速調整とを達成することができる。送受信端末610は、検出モジュール630をも有し得る。レーザ及び制御信号640は、2軸制御ミラーシステムを用いて物体660へと偏向できる。データリンク650は、検出モジュールを通って物体660へと届き得る。
【0024】
図7は、本発明の例示的実施形態による、LiDARシステムにて用いられる制御データ処理センタ700について示す。センタ700は、高次元情報を伝統的レーザ信号にエンコードするために用い得るのであり、例えば速度等の物体についてより多くの情報をもたらすことができる。LiDARシステムからのこのような高次元情報によって、より少ない推測や憶測で、複雑な環境に置かれた人工知能ユニットが自己が置かれた状況を認識することができる。換言するに、本発明のLiDARシステムの強化されたセンシング能力故に、人工知能ユニットの演算負荷を軽減できる。
【0025】
図8は、調光生成ユニットと送受信ユニット505と制御及び処理ユニット550とを有するデュアルサイドバンドFMCW LiDARシステムについての概略図800を示す。調光生成ユニット内では、1550nmにセンタリングされた連続波長(CW、continuous wavelength)ダイオードレーザ810を、20GHzの電気光学振幅モジュレータ(EOM、electro-optic amplitude modulator)820に入力する。無線周波(RF)信号をEOM820内へと送ることによって、EOM820は、2つの等強度サイドバンドをCWダイオードレーザ810から生成する。電圧制御オシレータ(VCO、voltage-controlled oscillator)830をここで適用して、CWレーザの周波数変調のためのRF信号を生成する。VCO830の駆動信号は、電圧出力が3.5Vから5.5Vとされる500kHzの疑似のこぎり信号であり、5GHzから6GHzでスイープするRF信号がもたらされる。最大検出射程が論理的には300mに達するようにするために、500kHzとした。システムは、スイープ周波数を200kHzから100MHzの間で変更して、同じ解像力を維持しつつ異なる検出射程をもたらし得る。本明細書にて説明する特徴を補完する限りにおいて、波長及び帯域を選ぶことができる。mVレベルにて慎重に電源からのバイアス電圧を選定することによって、キャリア周波数を最大限に抑制でき、2つのサイドバンドが最大強度を達成できる。そして、変調された光学信号は、エルビウムドープのファイバ前増幅器840を用いて20mWに増幅でき、50:50ファイバ結合器によって2つの経路へと分割される。一方の経路は高出力エルビウムドープファイバ増幅器(EDFA、Erbium-doped fiber amplifier)860へと供給され、そして10Wにブーストされる。他方の経路は、2×2 50:50ファイバ結合器870へと供給されて、測距のためのローカル基準として用いられる。EDFA860の出力は、車両の下部から天辺までへと長いSMF-28ファイバを介して送受信ユニットに接続され、コリメータを介して自由空間ビームに変換される。そして、光ビームは、最大限の信号収集のために直径2cmのビームにビームエキスパンダによって拡張される。ビームが大きければ大きい程に良い。偏光ビームスプリッタ(PBS、polarization beam splitter)870は、コリメータ検出のために実装される。そして、出力信号は、半波長板(HWP、half wave plate)を介して、強度を最大限活用するために電気的横方向(TE、transverse electric)偏光に最適化される。そして、光は、制御及び処理ユニットによって制御される2次元走査ユニット880へと導かれる。2次元走査ユニット900は、図9に示されているように、次の2つのコンポーネントからなる:即ち、光の垂直偏向のためのガルバノミラー910及び光の水平偏向のための回転する八角形ミラー920。ガルバノミラーの回転角は、20°の垂直視野角までをもたらすように構成されている。また、遠距離物体検出のためのズームイン機能をも有していることができ、ガルバノミラー920の回転角範囲を変えることによってこれを達成できる。ガルバノミラー920及び八角形ミラー910の位置は、90°の水平視野角をもたらすように慎重に設定されている。ガルバノミラー920の走査レートは、10Hzから2Hzの範囲に入るグローバルトリガレートによって決定される。八角形ミラー910の回転速度は3000rpmとされ、合計で毎秒400本の水平走査線がもたらされる。そして、トリガレートを10Hzから2Hzに変えることによって、レンダリング画像の解像度は40ライン/フレームから200ライン/フレームに変えることができる。解像度が200ライン/フレームである場合、ライン毎に1500ポイントを取ることができ、垂直空間分解能は0.1°となり得るのであり、水平空間分解能は0.06°となり得るため、画像の鮮明度を向上させることができる。
【0026】
図8に示すように、制御及び処理ユニットは次のものを含み得る:バランス型光検出器(BPD、balanced photodetector)892、高速DAQカード、高速プロセッサ、2チャンネル任意形状波形生成器、及び2チャンネル信号生成器。バランス型手法を統合して測定感度を向上させることができるのであり、デュアルサイドバンドFMCW LiDARシステムが距離120mにある反射率10%の物体について測定できるようになる。バランス型検出器は、2つの信号経路を受信して共通ノイズを相殺できる。BPDは、2つの経路間の信号差の検出のみをなし得る。LiDARシステムは、距離120mにある反射率10%の物体からは-70dBmのパワーを受信できるのであり、これはバランス型光検出器のノイズ等価パワーに達する。受信信号は2×2 50:50ファイバ結合器894を介してローカル基準信号と結合されるのであり、1GHzの帯域を有するBPD892によって検出されるのであり、レーザの周波数変調範囲に合致している。帯域と変調周波数とが合致する任意の他のペアも用い得る。ローカル基準経路の偏光はファイバ偏光コントローラの3つの回転パドルを介して最適化されるのであり、BPDの2つの入力のパワーは完全にイコライズされるように調整されるのであって最適信号対ノイズ比を得るためにファイバ可変光減衰器を挿入することによってこれをなす。そして、信号は300MHzのサンプリングレートでDAQカードによって取得され、そして、グラフィックカードによって支援されたリアルタイム高速フーリエ変換(FFT、fast Fourier transform)を適用して、両方のサイドバンドの2つの電気周波数ピークを検出する。
【数2】
及び
【数3】

ここで、Δ=VCOスイープ範囲×VCOスイープレート。そして、2つの周波数についてそれぞれ平均及び差分を取ることによって物体の距離及び速さを同時に且つ明確に算出できる。最後に述べるに、処理済み信号は、興味対象領域におけるポイントオブクラウド(point of cloud)生成のため、及び、車両内インタフェース上でのリアルタイムレンダリングのために用いられ得る。アレイ導波路回折格子(AWG、arrayed-waveguide grating)は、VCO830及びガルバノミラーに関して制御信号をもたらす。VCO830用の信号はVCOの非線形スイープを補うために高次項を伴うカスタム化のこぎり信号とすることができ、ガルバノミラー用の信号は傾斜三角形波形とすることができる。後処理において較正される限り、信号の形状は何でも良い。2チャンネル信号生成器は、5%パルス持続を伴う2~10Hzパルス信号をDAQカードにもたらしてデータ取得をなすのであり、また、50%デューティ比及び最大2V出力を伴う300HzのTTL信号をもって八角形ミラーを制御する。したがって、一部の実施形態では、本願明細書にて説明された車両(或いは例えば飛行機や船等の任意の他の輸送装置)内にて実装された光生成ユニット並びに制御及び信号処理ユニットは、座席の下かその他の場所に置かれ得るのであり、送受信ユニットは車両の天辺にマウントされることができる。光は、長いファイバケーブルを介して送受信ユニットへと伝送され得るのであり、受信信号は長いファイバを介して制御及び信号処理ユニットへと送り戻され得る。2次元走査ユニットは、長いBNCケーブルを介して制御ユニットによって制御されている。2次元走査においては、受信信号はリアルタイム3次元ポイントオブクラウドへとレンダリングでき、これをインタフェース上で表示でき、運転者に対しての表示装置ネットを伴い得る。輸送装置は、現在利用可能な特徴を有しておりこれによって音声及び動画の両方で情報を運転者へと伝達し得る。
【0027】
ここで用いる場合、「及び/又は」との用語は、第1の概念と第2の概念との間に配置した場合、次のことのどれか1つを意味する:(1)第1の概念、(2)第2の概念、及び(3)第1及び第2の概念。「及び/又は」を伴って列挙された複数の概念についても同様に解されるべきであり、即ち、諸概念の「1つ以上」が結合されていることになる。「及び/又は」構文部分で具体的に特定された概念の他にも他の概念も随意的には含まれ得るので有り、具体的に特定された概念に関連しているか否かは問われない。したがって、非限定的な例を述べるに、「A及び/又はB」について非排他的な構文(例えば、「備える」)を用いて言及する場合、1つの実施形態ではAのみの場合(随意的にはB以外の概念を含み得る)を指し得る。別の実施形態では、Bのみの場合(随意的にはA以外の概念を含み得る)を指し得る。さらに別の実施形態では、A及びBの両方(随意的には他の概念を含み得る。)を指し得る。これらの概念は、構成要素、動作、構造、ステップ、操作、値等を指し得る。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9