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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-05-12
(45)【発行日】2023-05-22
(54)【発明の名称】ポリプロピレンシートの製造方法
(51)【国際特許分類】
   B29C 65/18 20060101AFI20230515BHJP
   B29C 55/12 20060101ALI20230515BHJP
   B29C 48/16 20190101ALI20230515BHJP
   B32B 27/32 20060101ALI20230515BHJP
   B32B 37/06 20060101ALI20230515BHJP
【FI】
B29C65/18
B29C55/12
B29C48/16
B32B27/32 E
B32B37/06
【請求項の数】 8
(21)【出願番号】P 2020551196
(86)(22)【出願日】2019-10-09
(86)【国際出願番号】 JP2019039822
(87)【国際公開番号】W WO2020075755
(87)【国際公開日】2020-04-16
【審査請求日】2022-10-07
(31)【優先権主張番号】P 2018190704
(32)【優先日】2018-10-09
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】597021842
【氏名又は名称】サンアロマー株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100118902
【弁理士】
【氏名又は名称】山本 修
(74)【代理人】
【識別番号】100106208
【弁理士】
【氏名又は名称】宮前 徹
(74)【代理人】
【識別番号】100112634
【弁理士】
【氏名又は名称】松山 美奈子
(74)【代理人】
【識別番号】100129311
【弁理士】
【氏名又は名称】新井 規之
(72)【発明者】
【氏名】中島 武
(72)【発明者】
【氏名】池田 正幸
(72)【発明者】
【氏名】片桐 章公
【審査官】北澤 健一
(56)【参考文献】
【文献】特開2017-186561(JP,A)
【文献】特開平05-254026(JP,A)
【文献】特開平04-173126(JP,A)
【文献】特開2001-139712(JP,A)
【文献】特開昭55-154131(JP,A)
【文献】特開2002-301772(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2011/0064989(US,A1)
【文献】特開2005-319591(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B29C 65/00-65/82
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
0.5~5mmの厚さを有するポリプロピレンシートの製造方法であって、
0.15mm未満の厚さおよび融点Tmhを有する第1の二軸延伸ポリプロピレンフィルム、ならびに0.15mm未満の厚さおよび融点Tmlを有する第2の二軸延伸ポリプロピレンフィルムが交互に積層された前駆体を調製する工程1と、
前記前駆体の最外層に加熱体を接触させて前記フィルムの層間を加熱融着する工程2を含み、
Tmh-Tml≧8(℃)である、
(ただし、これらの融点はDSCを用いて、30℃から230℃まで昇温速度10℃/分の条件で測定して得られる)製造方法。
【請求項2】
0.5~5mmの厚さを有するポリプロピレンシートの製造方法であって、
0.15mm未満の厚さおよび融点Tmhを有する第1の二軸延伸ポリプロピレンフィルム、ならびに0.15mm未満の厚さおよび融点Tmlを有する第2の二軸延伸ポリプロピレンフィルムが部分的に交互に積層された前駆体を調製する工程1と、
前記前駆体の最外層に加熱体を接触させて前記フィルムの層間を加熱融着する工程2を含み、
Tmh-Tml≧8(℃)である、
(ただし、これらの融点はDSCを用いて、30℃から230℃まで昇温速度10℃/分の条件で測定して得られる)
前記前駆体は、工程2において、第1の二軸延伸ポリプロピレンフィルムと第2の二軸延伸ポリプロピレンフィルムが交互に積層された前記ポリプロピレンシートを形成できる前駆体である、
製造方法。
【請求項3】
前記最外層の融点Tmoutと前記加熱体の温度Tが以下の条件を満たす、
Tmout-T≧4(℃)
請求項1または2に記載のシートの製造方法。
【請求項4】
前記工程2を、加熱体として加熱ロールを用いて実施する、請求項1~3のいずれかに記載の製造方法。
【請求項5】
前記ポリプロピレンシートにおける、前記第1の二軸延伸ポリプロピレンフィルムに起因する層の厚さDhと前記第2の二軸延伸ポリプロピレンフィルムに起因する層の厚さDlの比Dh/Dlが1~30である、請求項1~のいずれかに記載の製造方法。
【請求項6】
前記ポリプロピレンシートの、X方向にX線(波長:0.154nm)を入射して得られる小角X線散乱の2次元プロファイルから求められる方位角での積分強度IX
Vにおいて、2θ=0.2°~1.0°の範囲に散乱ピークが観察される、請求項1~のいずれかに記載の製造方法。
【請求項7】
前記工程1が、前記第1の二軸延伸ポリプロピレンフィルムの原料と前記第2の二軸延伸ポリプロピレンフィルムの原料とを共押出して複数の層を有する原反シートを調製し、これを二軸延伸して前記前駆体を調製する工程を含む、請求項1~のいずれかに記載の製造方法。
【請求項8】
請求項1~のいずれかに記載の方法にてポリプロピレンシートを調製し、これを成形することを備える、成形体の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はポリプロピレンシートの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ポリプロピレンの延伸フィルムは、高い耐熱性に加え、優れた透明性および機械的特性が要求される分野に使用されている。しかし厚さが150μm未満と薄いため用途が限定されており、延伸フィルムの厚さを増大できれば別の用途へ拡大が期待される。例えば、特許文献1には、ポリプロピレンの一軸延伸フィルムを複数枚積層して加熱融着することによって、一定以上の厚さを有するシートを製造できることが開示されている。また、特許文献2には、特定の高次構造パラメータを有する二軸延伸ポリプロピレンフィルムを複数枚積層して加熱融着することによって、優れた透明性および機械的特性を有するポリプロピレンシートを提供できることが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2012-96526号公報
【文献】特開2017-186561号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかし、前記特許文献に記載のシートを高い生産性で製造するために高速成形しようとした場合にはポリプロピレンの一軸延伸フィルム同士または二軸延伸ポリプロピレンフィルム同士の加熱融着が十分でないという問題が生じていた。したがってポリプロピレンシートをより高度な機械的特性が要求される分野へ適用したいという要求が存在する。かかる事情を鑑み、本発明は優れた透明性および機械的特性を有するポリプロピレンシートを高い生産性で製造する製造方法を提供することを目的する。
【課題を解決するための手段】
【0005】
発明者らは、特定の融点を有する二軸延伸ポリプロピレンフィルムを交互に積層して当該フィルムの層間を加熱融着することで前記課題を解決することを見出し、本発明を完成した。すなわち前記課題は以下の本発明によって解決される。
[1]0.5~5mmの厚さを有するポリプロピレンシートの製造方法であって、
0.15mm未満の厚さおよび融点Tmhを有する第1の二軸延伸ポリプロピレンフィルム、ならびに0.15mm未満の厚さおよび融点Tmlを有する第2の二軸延伸ポリプロピレンフィルムが交互に積層された前駆体を調製する工程1と、
前記前駆体の最外層に加熱体を接触させて前記フィルムの層間を加熱融着する工程2を含み、
Tmh-Tml≧8(℃)である、
(ただし、これらの融点はDSCを用いて、30℃から230℃まで昇温速度10℃/分の条件で測定して得られる)
製造方法。
[2]前記最外層の融点Tmoutと前記加熱体の温度Tが以下の条件を満たす、
Tmout-T≧4(℃)
[1]に記載のシートの製造方法。
[3]前記工程2を、加熱体として加熱ロールを用いて実施する、[1]または[2]に記載の製造方法。
[4]前記ポリプロピレンシートにおける、前記第1の二軸延伸ポリプロピレンフィルムに起因する層の厚さDhと前記第2の二軸延伸ポリプロピレンフィルムに起因する層の厚さDlの比Dh/Dlが1~30である、[1]~[3]のいずれかに記載の製造方法。
[5]前記ポリプロピレンシートの、X方向にX線(波長:0.154nm)を入射して得られる小角X線散乱の2次元プロファイルから求められる方位角での積分強度I において、2θ=0.2°~1.0°の範囲に散乱ピークが観察される、[1]~[4]のいずれかに記載の製造方法。
[6]前記工程1が、前記第1の二軸延伸ポリプロピレンフィルムの原料と前記第2の二軸延伸ポリプロピレンフィルムの原料とを共押出して複数の層を有する原反シートを調製し、これを二軸延伸して前記前駆体を調製する工程を含む、[1]~[5]のいずれかに記載の製造方法。
[7]前記[1]~[6]のいずれかに記載の方法にてポリプロピレンシートを調製し、これを成形することを備える、成形体の製造方法。
【発明の効果】
【0006】
本発明により優れた透明性および機械的特性を有するポリプロピレンシートを高い生産性で製造する製造方法を提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0007】
図1】二軸延伸ポリプロピレンフィルムを積層し加熱融着して得られたシートの断面構造を説明する図である。
図2】方位角での積分強度I とI の測定方法を説明する図である。
図3】方位角での積分強度I とI の解析方法を説明する図である。
図4】実施例10と比較例8における小角X散乱2次元プロファイルの方位角での積分強度I (赤道(Y)方向に相当し1ピクセル当たりに規格化されている)と2θの関係を示す図である。
図5】実施例10と比較例8における小角X散乱2次元プロファイルの方位角での積分強度I (子午線(Z)方向に相当し1ピクセル当たりに規格化されている)と2θの関係を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0008】
以下、本発明を詳細に説明する。本発明において「X~Y」はその端値、すなわちXおよびYを含む。本発明においてシートとは厚さが150μm以上の膜状部材をいい、フィルムとは厚さが150μm未満の膜状部材をいう。
【0009】
1.製造方法
本発明のシートの製造方法は、0.15mm未満の厚さおよび融点Tmhを有する第1の二軸延伸ポリプロピレンフィルム、ならびに0.15mm未満の厚さおよび融点Tmlを有する第2の二軸延伸ポリプロピレンフィルムが交互に積層された前駆体を準備する工程1と、前記前駆体の最外層に加熱体を接触させて前記フィルムの層間を加熱融着する工程2とを含む。これらの融点は、Tmh-Tml≧8(℃)を満たす。当該融点差がこの範囲であることによって層間の密着性が良好となる。この観点から、当該融点差は好ましくは10(℃)以上である。融点差の上限は限定されないが、ポリプロピレンの製造上の観点から40(℃)以下であることが好ましい。以下、各工程について説明する。
【0010】
(1)工程1
本工程では、第1の二軸延伸ポリプロピレンフィルムと第2の二軸延伸ポリプロピレンフィルムが交互に積層された前駆体を準備する。当該前駆体は、複数の前記フィルムを含むので複数の層間が存在する。その全部の層間は融着されている必要はないが、1またはいくつかの層間は融着されていてもよい。例えば、第1の二軸延伸ポリプロピレンフィルムと第2の二軸延伸ポリプロピレンフィルムを1枚ずつ積層する場合、前駆体における全層間は融着されていないことが好ましい。また、後述するように第1の二軸延伸ポリプロピレンフィルムと第2の二軸延伸ポリプロピレンフィルムの共押出フィルムを用いる場合、前駆体における1またはいくつかの層間は融着されている。
【0011】
本工程は、第1の二軸延伸ポリプロピレンフィルム(便宜上、以下「F1」ともいう)と第2の二軸延伸ポリプロピレンフィルム(便宜上、以下「F2」ともいう)を別個に準備してこれらを交互に積層することで実施できる。例えば、F1/F2/F1/F2/F1のように積層して前駆体を調製できる。この場合、全層間のうち、1またはいくつかの層間は融着していないことが好ましい。得られるシートの耐熱性を高める観点から、両最外層はF1であることが好ましい。
【0012】
0.15mm未満の厚さを有する二軸延伸フィルムは、ポリプロピレンまたは当該ポリプロピレンと添加剤を含む組成物を公知の方法で二軸延伸して得ることができる。例えば、前記ポリプロピレン等を押出成形またはプレス成形して無延伸シートを得て、当該シートを二軸延伸して二軸延伸フィルムを得ることができる。当該フィルムの厚さは0.15mm未満であれば限定されないが、取扱容易性等の観点から0.12mm以下が好ましく、0.10mm以下がより好ましい。厚さの下限は限定されないが、0.01mm以上が好ましく、0.03mm以上がより好ましい。
【0013】
また本工程は、F1とF2の共押出フィルムを用いても実施できる。このようにすることで、工程2を簡素化できる。具体的には、F1の原料とF2の原料とを共押出して複数の層を有する原反シートを調製し、これを二軸延伸することでF1とF2が交互に積層された前駆体を調製できる。この場合、前駆体の層数は限定されないが、2層または3層が好ましい。例えばF1/F2の共押出2層二軸延伸フィルム、またはF2/F1/F2の共押出3層二軸延伸フィルムを得て、所望の枚数の当該フィルムを重ね合せることができる。一例として、F1/F2の2層原反シートを[F1/F2]と表記すると、以下のような前駆体を調製できる。
[F1/F2]/[F1/F2]/[F1/F2]/F1
当該前駆体において、共押出フィルムと他の共押出フィルムの層間、および共押出フィルムと他の単層フィルムの層間は融着されていない。F1の原料とは、F1を形成できる材料であり、フィルム、シート、ペレット、パウダーのいずれの形状であってもよい。F2の原料についても同様である。前駆体は、後述する工程2における加熱融着によりF1同士またはF2同士が一体となり、最終的にF1とF2が交互に積層された構造になる場合を含めてもよい。例えば、以下の前駆体を準備してもよい。
F1/[F2/F1/F2]/[F2/F1/F2]/F1
【0014】
各フィルムを任意の方向に置くことができる。フィルムの置き方によって、シート面内の配向方向を調整できる。前述のとおり積層するフィルムの枚数は適宜調整される。ポリプロピレンと添加剤の詳細は後で説明する。
【0015】
(2)工程2
本工程では、前記前駆体の最外層に加熱体を接触させて各層間を加熱融着する。最外層の融点Tmoutと前記加熱体の温度TはTmout-T≧4(℃)の関係を満たすことが好ましい。当該関係が満たされることで、層間を良好に融着させることができる。この観点から、当該温度差は6℃以上であることがより好ましい。当該温度差の上限は限定されないが、ポリプロピレンの製造上の観点から40℃以下であることが好ましい。Tは任意の方法で測定できるが、放射温度計等の非接触型温度計を使用して測定することが好ましい。Tmoutは最外層に配置された単層フィルムの融点に相当する。当該融点はDSCにより30℃から230℃まで昇温速度10℃/分の条件で測定して得た融解曲線のピーク温度として定義される。加熱体の温度は限定されないが120~190℃程度が好ましく、140~170℃がより好ましく、150~165℃がさらに好ましい。
【0016】
本工程は、加熱体として加熱ロールを用いて連続的に実施されることが好ましい。具体的には、前記前駆体を加熱された2本のロール間に通過させて層間を融着させる。2本のロールを1組とし、2組以上のロールを組合せた加熱ロールを加熱体として用いて融着させてもよい。この際に印加する圧力は適宜調整される。当該ロール成形における引取速度は、限定されないが好ましくは0.05~10m/分程度である。
【0017】
ロール成形以外の方法としては、圧接成形や融着成形等が挙げられる。また、フィルムを加熱融着する際、熱収縮を抑えると共にさらに配向を促進するために加圧することが好ましい。その際の圧力は融着温度に応じて調整される。
【0018】
(3)他の工程
本発明の製造方法は、前工程で得られたシートを冷却する等の公知の工程をさらに備えていてもよい。冷却方法は限定されないが、室温で放冷する方法や、室温あるいは10~20℃で冷プレスする方法等が挙げられる。
【0019】
本発明の製造方法で得られるシートは、フィルム同士の密着性が良好であり層間における不連続性がほとんど存在しない。このため一体シートとして取扱うことができる。従来の方法では厚さが0.5mm以上の二軸延伸シートを得ることはコスト等の観点から工業的に現実的でなかったが、本発明により、厚さが0.5mm以上で二方向以上の配向を有するシートを工業的に製造できる。
【0020】
本発明の製造方法で得られるシートを目的に応じた方法で二次成形(所望の形状への賦形も含む)することにより、種々の成形体を得ることができる。二次成形方法としては、既知のプレス成形、熱板成形、延伸成形、圧延成形、絞り加工成形、圧接成形、融着成形、真空成形、圧空成形、真空圧空成形等が挙げられる。また、加飾性や表面改質などの目的で、特殊フィルムを本発明の製造方法で得られるシートの最表面に貼りつけてもよい。貼り付けるフィルムとしては、例えば、防曇フィルム、低温シールフィルム、接着性フィルム、印刷フィルム、エンボス加工フィルム、レトルトフィルム等が挙げられる。最表面のフィルムの厚さは特に制限はないが、厚くなりすぎると本発明で得られるシートの特性を損なう可能性があり、また、特殊フィルムは一般的にコストが高く経済的にも好ましくないことから、薄いことが好ましい。二軸延伸ポリプロピレンフィルムを加熱融着して積層する工程において、最外層に配置されたフィルムの表面に特殊フィルムを積層することができる。
【0021】
この他、本発明の製造方法で得られるシートに塗装を施して、当該シートの上に塗膜を有する塗装シートとすることもできる。塗膜の種類は限定されず、通常、塗装分野で使用されるものであれば限定されない。しかしながら、本発明においては車体塗装で使用される塗膜が好ましい。好ましい塗膜としては、エポキシ系塗膜、ウレタン系塗膜、ポリエステル系塗膜等が挙げられる。必要に応じて、下層塗膜(プライマー塗膜)、中層塗膜、上層塗膜(クリアー塗膜)を設けてもよい。本発明の製造方法で得られるシートを、塗工を施すためのシート(塗工シート)として用いる場合、塗装を施す面が官能基を有することが好ましい。
【0022】
(4)官能基の付与
本発明の製造方法で得られるシートの表面に官能基を付与する方法は限定されない。例えば、本発明の製造方法で得られるシートをプラズマ処理やコロナ処理に供することで表面に酸素含有官能基を付与できる。あるいは、官能基を有するポリプロピレンフィルムを準備して、前記積層工程において当該官能基含有フィルムが最外層となるように、前述のフィルムと積層することによって官能基を付与できる。ここでは、後者の方法について説明する。
【0023】
酸素含有官能基を有するポリプロピレンフィルムは、無水マレイン酸変性ポリプロピレンあるいはエポキシ変性ポリプロピレン等の公知のポリプロピレンをフィルムに成形することで得られる。当該官能基含有フィルムの厚さは限定されないが150μm未満であることが好ましい。また、当該官能基含有フィルムは二軸延伸されていてもされていなくてもよい。積層工程においては、官能基を有するポリプロピレンフィルムと、官能基を有さないポリプロピレンフィルムを同時に積層してもよいし、予め官能基を有さないポリプロピレンフィルムを積層してシートを製造し、当該シートの表面に官能基を有するポリプロピレンフィルムを積層してもよい。しかしながら、作業性を考慮すると同時に積層する方法が好ましい。
【0024】
2.ポリプロピレンシート
以下、本発明の製造方法で得られたポリプロピレンシートについて説明する。
(1)厚さ
本発明の製造方法で得られるポリプロピレンシート(「本発明の製造方法で得られるシート」ともいう)は0.5~5mmの厚さを有する。厚さは用途によって適宜調整してよく、例えば0.7mm以上または1mm以上としてよい。また厚さを3mm以下または1mm以下としてもよい。
【0025】
(2)多層構造
本発明の製造方法で得られるシートは高い融点Tmhを有する第1の層と低い融点Tmlを有す第2の層が交互に積層されている多層構造を有する。各層間は融着されているので本発明の製造方法で得られるシートは一体化されたシートである。具体的に、当該シートの各層間が融着され一体化されているのか、あるいは融着が不十分なために軽微な力が加わることにより剥離を生じるのかについては、図1に示すとおり偏光顕微鏡による断面観察によって確認することができる。図1(1)は、第1の層と第2の層が良好に融着している様子を示す。図1(2)は、複数の第1の層からなるシートの層間が、完全剥離、部分剥離、良好に融着している様子を示す。
【0026】
第1の層の厚さDhと第2の層の厚さDlの比Dh/Dlについて、値が小さい場合には層間の融着性に優れ、値が大きい場合には得られるシートの剛性に優れる。融着性と剛性のバランスからDh/Dlは1~30が好ましく、1~25がより好ましく、4~25がさらに好ましい。
【0027】
層数は単層フィルムの厚さに依存するが、一態様として0.01~0.1mm程度の第1の層および第2の層が合計で15~100層程度存在することが好ましい。この際、両方の最外層は高い融点を有する第1の層であることが好ましい。
【0028】
これらの融点はDSCを用いて、30℃から230℃まで昇温速度10℃/分の条件で測定して得られる。Tmh、Tmlの範囲は限定されないが、一態様としてTmhは160~180℃が好ましく、Tmlは130~150℃が好ましい。
【0029】
本発明の製造方法で得られるシートにおいては、X方向からX線(波長:0.154nm)を入射して測定した小角X線の2次元プロファイルにおける子午線(Z)方向の散乱の方位角での積分強度I において、2θ=0.2°~1.0°の範囲に散乱ピークが観察されることが好ましい。具体的には、図2に示すように本発明の製造方法で得られるシートから積分強度測定用サンプルを切出しX方向からX線を入射する。図2には複数のフィルムを積層して得たシートを例示してある。その結果、図3(A)に示すような小角X線散乱の2次元プロファイルが得られる。次いで図3(B)に示すように、子午線に対して±30°の領域の強度を積分してI を、赤道に対して±30°の領域の強度を積分してI を求める。
【0030】
赤道方向の散乱ピークは、シートの面内方向に規則的に並んだ結晶ラメラに由来する。規則的に配列した結晶ラメラが存在すると、赤道方向の散乱強度が増大する。これに対し、子午線方向のストリークは、主にZ方向に積層された二軸延伸フィルムの層間に残存する隙間表面の反射に由来する。従って、二軸延伸フィルムの配向結晶がシートにおいても維持されるか増大するとI が大きくなる。一方、二軸延伸フィルムの層間の融着が十分であると、層間に残存する隙間表面が減少する結果、I のストリークが減少する。従って、I が大きくI が小さいとシートの透明性および機械的特性が向上する。また、ポリプロピレンのα晶においては、結晶ラメラ(親ラメラ)が存在した状態で結晶化が進行すると、親ラメラに対してほぼ垂直方向にサイズの小さいラメラ(娘ラメラ)が成長する。娘ラメラに由来する長周期の散乱ピークはI として観察される。
【0031】
図4は、実施例10と比較例8における小角X散乱2次元プロファイルの方位角での積分強度I と2θの関係を示す図である。Tmout-T≧4(℃)を満たす実施例10のシートにおいては、Tmout-T≧4(℃)を満たさない比較例8のシートに比較して、より多くの配列した結晶ラメラ(親ラメラ)が存在することがわかる。
【0032】
図5は実施例10と比較例8における小角X散乱2次元プロファイルの方位角での積分強度I と2θの関係を示す図である。Tmout-T≧4(℃)を満たす実施例10のシートにおいては、Tmout-T≧4(℃)を満たさない比較例8のシートには存在しない娘ラメラに由来するブロードな散乱ピークが2θ=0.2°~1.0°の範囲に観察され、結晶ラメラ(親ラメラ)が存在した状態で結晶化が進行したことを示唆している。この結晶化の促進により、さらに機械的特性が向上する。
【0033】
(3)機械的特性
本発明の製造方法で得られるシートは優れた機械的特性を有する。例えば、本発明の製造方法で得られるシートは2,500MPa以上の引張弾性率(JIS K7161-2)を有する。また、本発明の製造方法で得られるシートは耐寒衝撃性にも優れる。例えば本発明の製造方法で得られるシートは、5J以上の面衝撃強度(-30℃、JIS K7211-2)を有する。
【0034】
(4)透明性
本発明の製造方法で得られるシートは、優れた透明性を有する。例えば、本発明の製造方法で得られるシートは25%以下の全ヘーズ(ISO 14782)を有する。シートの全ヘーズは値が小さいほど透明性に優れ、好ましくは20%以下である。
【0035】
(5)表面
本発明の製造方法で得られるシートの表面については、前述のとおり官能基を付与することができる。官能基としては酸素含有官能基が好ましい。酸素含有官能基としては、カルボキシル基、カルボキシレート基、酸無水物基、水酸基、アルデヒド基、エポキシ基等が挙げられる。これらの官能基によって、本発明の製造方法で得られるシートと他材料との密着性が向上する。特に、当該官能基を有する本発明の製造方法で得られるシートに塗装を施した部材は、アルコールを混合したガソリンに対する耐性である耐ガソホール性に優れる。この観点から、官能基の中でも酸無水物基が好ましい。官能基は、本発明の製造方法で得られるシートの任意の表面に存在すればよいが、主面の片面または両面に存在することが好ましい。官能基の付与の方法については前述のとおりである。
【0036】
(6)ポリプロピレン
本発明においてポリプロピレンとは、ポリプロピレンを主成分とする重合体をいう。本発明の製造方法で得られるシートの第1の層に用いるポリプロピレンとしては、プロピレン単独重合体(HOMO)、またはエチレンとC4~C10-αオレフィンの少なくとも一つをコモノマーとして5.0重量%以下含むプロピレンランダム共重合体(RACO)が好ましい。剛性および透明性に優れることから、HOMOまたはコモノマー含有量の少ないRACOが特に好ましい。本発明の製造方法で得られるシートの第2の層に用いるポリプロピレンとしては、エチレンとC4~C10-αオレフィンの少なくとも一つをコモノマーとして15重量%以下含むRACOが好ましい。第1の層と融着後の密着性に優れることから、コモノマー含有量の多いRACOが特に好ましい。
【0037】
これらのポリプロピレンは公知の方法に従って製造できる。一般に、ポリプロピレンの重合触媒としては、(A)マグネシウム、チタン、ハロゲン、および電子供与体化合物を含有する固体触媒、(B)有機アルミニウム化合物、ならびに(C)外部電子供与体化合物を含む触媒や、メタロセン触媒が知られている。本発明のポリプロピレンの製造にはいずれの触媒も使用できる。成分(A)中の電子供与体化合物(「内部電子供与体化合物」ともいう)としては、フタレート系化合物、スクシネート系化合物、ジエーテル系化合物が挙げられ、本発明ではいずれの内部電子供与体化合物も使用できる。しかしながら、得られるポリプロピレンの分子量分布が広く二軸延伸性が良好となることから、スクシネート系化合物を内部電子供与体化合物として含む触媒が好ましい。
【0038】
(7)添加剤
本発明の製造方法で得られるシートは核剤を含んでいてもよい。核剤の量は、ポリプロピレン100重量部に対して0重量部を超え1.0重量部以下、好ましくは0.05~0.5重量部である。核剤とは樹脂中の結晶成分のサイズを小さく制御して透明性を高めるために用いられる添加剤(透明核剤)である。核剤は特に限定されず、当該分野で通常使用されるものを使用してよいが、ノニトール系核剤、ソルビトール系核剤、リン酸エステル系核剤、トリアミノベンゼン誘導体核剤、カルボン酸金属塩核剤、およびキシリトール系核剤から選択されることが好ましい。ノニトール系核剤として、例えば、1,2,3―トリデオキシ-4,6:5,7-ビス-[(4-プロピルフェニル)メチレン]-ノニトールが挙げられる。ソルビトール系核剤として、例えば、1,3:2,4-ビス-o-(3,4-ジメチルベンジリデン)-D-ソルビトールが挙げられる。リン酸エステル系核剤として、例えば、リン酸-2,2’-メチレンビス(4,6-ジ-tert-ブチルフェニル)リチウム塩系造核剤が挙げられる。
【0039】
本発明の製造方法で得られるシートは、この他に酸化防止剤、塩素吸収剤、耐熱安定剤、光安定剤、紫外線吸収剤、内部滑剤、外部滑剤、アンチブロッキング剤、帯電防止剤、防曇剤、難燃剤、分散剤、銅害防止剤、中和剤、可塑剤、架橋剤、過酸化物、油展および他の有機および無機顔料などのポリオレフィンに通常用いられる慣用の添加剤を含んでいてもよい。各添加剤の添加量は公知の量としてよい。また、本発明の効果を損なわない範囲で、ポリプロピレン以外の合成樹脂または合成ゴムを含有してもよい。当該合成樹脂または合成ゴムは1種でもよいし2種以上でもよい。
【0040】
3.用途
本発明の製造方法で得られるシートは、面内方向において高い配向度と特定の高次構造パラメータを有し、かつ配向度の厚さ方向の依存性が小さいので、ポリプロピレンとして軽量でありながら優れた機械的特性を有する。また、本発明の製造方法で得られるシートは優れた透明性も有する。よって、食品容器・蓋、雑貨、家電部品、日用品等に好適に用いることができる。さらに、本発明の製造方法で得られるシートを複数枚積層してプレスまたは融着することにより、配向等を保持したままより厚手のシートや大きい成形体を得ることもできる。よって、本発明の製造方法で得られるシートは自動車部品や電気電子部品、筐体部材、玩具部材、家具部材、建材部材、工業資材、物流資材、農業資材等としても有用である。
【実施例
【0041】
1.二軸延伸フィルムの調製
表1に示す各々の二軸延伸フィルムは以下の通りに調製した。
[二軸延伸フィルムA]
特開2011-500907号の実施例に記載の調製法に従い、固体触媒成分(1)を調製した。具体的には以下の通りである。
窒素でパージした500mLの4つ口丸底フラスコ中に、250mLのTiClを0℃において導入した。撹拌しながら、10.0gの微細球状MgCl・1.8COH(米国特許4,399,054の実施例2に記載の方法にしたがって、しかしながら10000rpmに代えて3000rpmで運転して製造した)、および9.1mmolのジエチル-2,3-(ジイソプロピル)スクシネートを加えた。温度を100℃に上昇し、120分間保持した。次に、撹拌を停止し、固体生成物を沈降させ、上澄み液を吸い出した。次に、以下の操作を2回繰り返した:250mLの新しいTiClを加え、混合物を120℃において60分間反応させ、上澄み液を吸い出した。固体を、60℃において無水ヘキサン(6×100mL)で6回洗浄して、固体触媒(1)を得た。
【0042】
上記で得られた固体触媒(1)と、トリエチルアルミニウム(TEAL)と、ジイソプロピルジメトキシシラン(DIPMS)とを、固体触媒(1)に対するTEALの重量比が11であり、TEAL/DIPMSの重量比が3となるような量で、12℃において24分間接触させた。得られた触媒系を、液体プロピレン中において懸濁状態で20℃において5分間保持することによって予重合を行ったものを予重合触媒(S)とした。予重合触媒(S)を重合反応器に導入し、モノマーとしてプロピレンを供給するとともに、重合反応器内のエチレン濃度が0.118mol%、水素濃度が700molppmとなるように少量のエチレンおよび分子量調整剤としての水素を供給した。重合温度を70℃、重合圧力を3.0MPaに調整することによってプロピレン-エチレン共重合体を合成した。得られた重合体100重量部に対して、酸化防止剤(BASF社製B225)を0.2重量部および中和剤(淡南化学工業株式会社製カルシウムステアレート)を0.05重量部配合し、ヘンシェルミキサーで1分間撹拌して混合した。ナカタニ機械株式会社製NVCφ50mm単軸押出機を用いてシリンダ温度230℃で当該混合物を溶融混練し、押出したストランドを水中で冷却した後、ペレタイザーでカットし、ペレット状の重合体組成物(a)を得た。重合体組成物(a)のエチレン含有量は0.5重量%、MFR(温度230℃、荷重2.16kg)は3.0g/10分であった。
【0043】
25mmφ3種3層フィルム・シート成形機(サーモ・プラステイックス工業株式会社製)を用いて、成形温度230℃で重合体組成物(a)から、厚さ1.25mmの原反シート(大きさ10cm×10cm以上)を得た。次いでフィルム延伸装置(ブルックナー社製KARO-IV)用いて当該原反シートを同時二軸延伸(5倍×5倍)し、厚さ50μmの二軸延伸フィルムAを得た。
【0044】
[二軸延伸フィルムB]
欧州特許第674991号公報の実施例1に記載された方法により固体触媒(2)を調製した。当該固体触媒は、MgCl上にTiと内部ドナーとしてのジイソブチルフタレートを上記の特許公報に記載された方法で担持させたものである。上記で得られた固体触媒(2)と、TEALおよびジシクロペンチルジメトキシシラン(DCPMS)を、固体触媒に対するTEALの重量比が11であり、TEAL/DCPMSの重量比が3となるような量で、-5℃において5分間接触させた。得られた触媒系を、液体プロピレン中において懸濁状態で20℃にて5分間保持することによって予重合を行った。得られた予重合物を重合反応器に導入した後、水素とプロピレン、エチレンをフィードした。そして、重合温度75℃、水素濃度0.44モル%、エチレン濃度1.07モル%で、重合圧力を調整することよって、プロピレン-エチレン共重合体を得た。得られた重合体100重量部に対して、酸化防止剤(BASF社製B225)を0.2重量部および中和剤(淡南化学工業株式会社製カルシウムステアレート)を0.05重量部配合し、ヘンシェルミキサーで1分間撹拌して混合した。ナカタニ機械株式会社製NVCφ50mm単軸押出機を用いてシリンダ温度230℃で当該混合物を溶融混練し、押出したストランドを水中で冷却した後、ペレタイザーでカットし、ペレット状の重合体組成物(b)を得た。重合体組成物(b)は、4.0重量%のエチレン由来単位を含み、MFR(温度230℃、荷重2.16kg)が7.5g/10分であった。
【0045】
25mmφ3種3層フィルム・シート成形機(サーモ・プラステイックス工業株式会社製)を用いて、成形温度230℃で重合体組成物(b)から厚さ1.25mmの原反シート(大きさ10cm×10cm以上)を得た。フィルム延伸装置(ブルックナー社製KARO-IV)用いて当該原反シートを同時二軸延伸(5倍×5倍)し、厚さ50μmの二軸延伸フィルムBを得た。
【0046】
[二軸延伸フィルムC]
重合体組成物(c)としてプロピレン-エチレン-ブテン-1共重合体(プロピレン:90重量%、エチレン:4重量%、ブテン:6重量%であり、温度230℃、荷重2.16kgにおけるMFRが5.5g/10分、密度が0.90g/cmのRACO)を用いた。25mmφ3種3層フィルム・シート成形機(サーモ・プラステイックス工業株式会社製)を用いて成形温度230℃で、重合体組成物(c)から厚さ1.25mmの原反シート(大きさ10cm×10cm以上)を得た。フィルム延伸装置(ブルックナー社製KARO-IV)用いて当該原反シートを同時二軸延伸(5倍×5倍)し、厚さ50μmの二軸延伸フィルムCを得た。
【0047】
[二軸延伸フィルムD]
二軸延伸フィルムBの調製で使用した固体触媒成分(2)と、TEALおよびシクロヘキシルメチルジメトキシシラン(CHMMS)を、固体触媒に対するTEALの重量比が8、TEAL/CHMMSの重量比が6.5となるような量で、-5℃で5分間接触させた。得られた触媒系を、液体プロピレン中において懸濁状態で20℃において5分間保持することによって予重合を行った。得られた予重合物を重合反応器に導入した後、水素とプロピレン、エチレンをフィードした。そして、重合温度75℃、水素濃度0.03モル%、エチレン濃度0.13モル%で、重合圧力を調整することよって、プロピレン-エチレン共重合体を得た。得られた重合体100重量部に対して、酸化防止剤(BASF社製B225)を0.2重量部および中和剤(淡南化学工業株式会社製カルシウムステアレート)を0.05重量部配合し、ヘンシェルミキサーで1分間撹拌して混合した。ナカタニ機械株式会社製NVCφ50mm単軸押出機を用いてシリンダ温度230℃で当該混合物を溶融混練し、押出したストランドを水中で冷却した後、ペレタイザーでカットし、ペレット状の重合体組成物(d)を得た。重合体組成物(d)は、0.5重量%のエチレン由来単位を含み、MFR(温度230℃、荷重2.16kg)が2.5g/10分であった。
【0048】
25mmφ3種3層フィルム・シート成形機(サーモ・プラステイックス工業株式会社製)を用いて、成形温度230℃で重合体組成物(d)から厚さ1.25mmの原反シート(大きさ10cm×10cm以上)を得た。フィルム延伸装置(ブルックナー社製KARO-IV)用いて当該原反シートを同時二軸延伸(5倍×5倍)し、厚さ50μmの二軸延伸フィルムDを得た。
【0049】
[二軸延伸フィルムE]
二軸延伸フィルムAの調製で使用したものと同じ予重合触媒(S)を、重合反応器に導入してプロピレン単独重合体を得た。重合中、温度と圧力を調整し、水素を分子量調整剤として用いた。重合温度は70℃、水素濃度は0.25モル%であった。得られた重合体100重量部に対して、酸化防止剤(BASF社製B225)を0.2重量部および中和剤(淡南化学工業株式会社製カルシウムステアレート)を0.05重量部配合し、ヘンシェルミキサーで1分間撹拌混合した。次いで、混合物をスクリュー直径50mmの単軸押出機(ナカタニ機械株式会社製NVC)を用いてシリンダ温度230℃で押出し、ストランドを水中で冷却した後、ペレタイザーでカットし、ペレット状の重合体組成物(e)を得た。重合体組成物(e)のエチレン由来単位は0重量%、MFR(温度230℃、荷重2.16kg)は10g/10分であった。
【0050】
25mmφ3種3層フィルム・シート成形機(サーモ・プラステイックス工業株式会社製)を用いて成形温度230℃で、重合体組成物(d)から厚さ1.25mmの原反シート(大きさ10cm×10cm以上)を得た。フィルム延伸装置(ブルックナー社製KARO-IV)用いて当該原反シートを同時二軸延伸(5倍×5倍)し、厚さ50μmの二軸延伸フィルムEを得た。
【0051】
[二軸延伸フィルムAB-1、AB-2]
25mmφ3種3層フィルム・シート成形機(サーモ・プラステイックス工業株式会社製)を用いて、成形温度230℃で重合体組成物(a)/重合体組成物(b)となるように共押出し、厚さ1.25mmの原反シート(大きさ10cm×10cm以上)を得た。フィルム延伸装置(ブルックナー社製KARO-IV)用いて当該原反シートを同時二軸延伸(5倍×5倍)し、厚さ50μmの二軸延伸フィルムAB-1およびAB-2を得た。重合体組成物(a)/重合体組成物(b)の厚さ比は、AB-1では90/10、AB-2では95/5であった。
【0052】
[二軸延伸フィルムAC、AD、DB、DC、EB-1、EB-2]
25mmφ3種3層フィルム・シート成形機(サーモ・プラステイックス工業株式会社製)を用いて、成形温度230℃で重合体組成物(a)/重合体組成物(c)、重合体組成物(a)/重合体組成物(d)、重合体組成物(d)/重合体組成物(b)、重合体組成物(d)/重合体組成物(c)、重合体組成物(e)/重合体組成物(b)となるように共押出し、厚さ1.25mmの原反シート(大きさ10cm×10cm以上)を得た。フィルム延伸装置(ブルックナー社製KARO-IV)用いて当該原反シートを同時二軸延伸(5倍×5倍)し、厚さ50μmの二軸延伸フィルムAC、AD、DB、DC、EB-1、EB-2を得た。厚さ比は、EB-1では85/15であり、AC、AD、DB、DC、EB-2ではともに90/10であった。
【0053】
[二軸延伸フィルムBAB]
25mmφ3種3層フィルム・シート成形機(サーモ・プラステイックス工業株式会社製)を用いて、成形温度230℃で、重合体組成物(b)/重合体組成物(a)/重合体組成物(b)となるように共押出し、厚さ1.25mmの原反シート(大きさ10cm×10cm以上)を得た。フィルム延伸装置(ブルックナー社製KARO-IV)用いて当該原反シートを同時二軸延伸(5倍×5倍)し、厚さ50μmの二軸延伸フィルムBABを得た。厚さ比は、10/80/10であった。
【0054】
2.シートの製造
[実施例1]
11枚の二軸延伸フィルムAと10枚の二軸延伸フィルムBを交互に積層し、両方の最外層が二軸延伸フィルムAである前駆体を調製した。加熱体としてロール成形機(トクデン株式会社製誘導発熱ジャケットローラー、型式JR-D0-W、ロール径200mmφ×2本、ロール面長410mm)を用いて、当該前駆体の各層間を加熱融着してシートを製造した。成形条件は表2に示すとおりとした。次いで、後述する方法によって、当該シートを評価した。
【0055】
[実施例2]
二軸延伸フィルムBの代わりに二軸延伸フィルムCを用い、実施例1と同様にしてシートを製造し、評価した。
【0056】
[実施例3]
10枚の二軸延伸フィルムABを積層し、かつその上に1枚の二軸延伸フィルムAを積層して両方の最外層が二軸延伸フィルムAである前駆体を調製した。当該前駆体を用いて実施例1と同様にしてシートを製造し、評価した。
【0057】
[実施例4]
加熱ロール成形引取速度を変更した以外は、実施例3と同様にしてシートを製造し、評価した。
【0058】
[実施例5]
積層する二軸延伸フィルムの枚数を変更してシート厚さを4mmとし、かつ加熱ロール温度を変更した以外は実施例3と同様にしてシートを製造し、評価した。
【0059】
[実施例6~11]
積層する二軸延伸フィルムを表2に示すとおりに変更した以外は、実施例3と同様にしてシートを製造し、評価した。
【0060】
[実施例12]
19枚の二軸延伸フィルムBABと、両端に1枚ずつ合計2枚の二軸延伸フィルムAを用いて積層し、両方の最外層が二軸延伸フィルムAである前駆体を調製した。当該前駆体を用いて実施例1と同様にしてシートを製造し、評価した。
【0061】
[比較例1]
二軸延伸フィルムAのみを用い、実施例1と同様にして比較用シートを製造し、評価した。
【0062】
[比較例2]
加熱ロール温度を変更した以外は比較例1と同様にして比較用シートを製造し、評価した。
【0063】
[比較例3]
二軸延伸フィルムBのみを用い前駆体を調製した。当該前駆体を用いて実施例1と同様にして比較用シートを製造し、評価した。ただし、加熱ロール温度を表2に示すとおりとした。
【0064】
[比較例4]
加熱ロール温度を変更した以外は比較例3と同様にして比較用シートを製造し、評価した。
【0065】
[比較例5~7]
二軸延伸フィルムCのみ、二軸延伸フィルムDのみ、二軸延伸フィルムEのみを用い前駆体を調製した。当該前駆体を用いて、実施例1と同様にして比較用シートを製造し、評価した。ただし、比較例5(Cのみ)については加熱ロール温度も変更した。
【0066】
[比較例8]
加熱ロール温度を変更した以外は比較例7と同様にして比較用シートを製造し、評価した。
【0067】
[比較例9]
二軸延伸フィルムBの代わりに二軸延伸フィルムDを用いた以外は実施例1と同様にして比較用シートを製造し、評価した。
【0068】
[比較例10]
二軸延伸フィルムAB-1の代わりに二軸延伸フィルムADを用いた以外は実施例3と同様にして比較用シートを製造し、評価した。
【0069】
[比較例11]
加熱ロール温度を変更した以外は比較例10と同様にして比較用シートを製造し、評価した。
【0070】
3.評価
(1)MFR
JIS K7210-1に従い、温度230℃および荷重2.16kgの条件下で測定した。
(2)重合体組成物に含まれるエチレン由来単位量(重量%)
1,2,4-トリクロロベンゼン/重水素化ベンゼンの混合溶媒に溶解した試料について、Bruker社製AVANCE III HD400(13C共鳴周波数100MHz)を用い、測定温度120℃、フリップ角45度、パルス間隔7秒、試料回転数20Hz、積算回数5000回の条件で13C-NMRのスペクトルを得た。上記で得られたスペクトルを用いて、M. Kakugo, Y. Naito, K. Mizunuma and T. Miytake, Macromolecules, 15, 1150-1152 (1982) の文献に記載された方法により、重合体組成物に含まれるエチレン由来単位量(重量%)を求めた。
(3)I とI
X線散乱装置(リガク社製MicroMaxとNanoViewer)を用い、図2に示すようにシートに対してX方向にX線(波長:0.154nm)を入射して小角X散乱測定を行った。得られた2次元プロファイルについて、バックグラウンドを除去した後、赤道(Y軸)方向の方位角での積分強度I と子午線(Z軸)方向の方位角での積分強度I を求めた。積分の領域は、赤道(Y軸)および子午線(Z軸)から方位角±30°までの範囲とした。
この解析では、シート表面の反射の影響を避けるため、サンプル照射位置でのX線入射ビームのサイズをシートの厚さより小さくする必要がある。今回は1mm厚のシートに対してサンプル照射位置でのビームサイズを700μmとした。
【0071】
(4)DSCによる融点(Tmh、Tml)
二軸延伸フィルムから約5mgをサンプリングし、電子天秤で秤量した後、示差熱分析計(DSC)(TA Instruments社製 Q-200)で、30℃で5分間保持した後、10℃/分の昇温速度で230℃まで加熱して融解曲線を得た。融解曲線のピーク温度について、第1の二軸延伸ポリプロピレンフィルムの融点をTmh、第2の二軸延伸ポリプロピレンフィルムの融点をTmlとした。各フィルムにおいて複数の融点ピークが観察される場合は最大ピークの温度を融点とした。なお、最外層の融点をTmoutとしており、Tmout=TmhまたはTmout=Tmlとなるが、高融点成分が加熱体に接触する態様としてTmout=Tmhであることが好ましい。
【0072】
(5)剛性(引張弾性率)
得られたシートから成形体としてJIS K7139に規定するタイプA2の多目的試験片を機械加工し、JIS K7161-2に従い、株式会社島津製作所製精密万能試験機(オートグラフAG-X 10kN)を用い、温度23℃、相対湿度50%、試験速度1mm/分の条件で引張弾性率を測定した。
【0073】
(6)耐寒衝撃性(面衝撃強度)
得られたシートについて、JIS K7211-2に従い、株式会社島津製作所製ハイドロショットHITS-P10を用い、-30℃に調整した槽内で、内径40mmφの穴の開いた支持台に測定用試験片を置き、内径76mmφの試料押さえを用いて固定した後、半球状の打撃面を持つ直径12.7mmφのストライカーで、1m/秒の衝撃速度で試験片を打撃しパンクチャーエネルギー(J)を求めた。4個の測定用試験片各々のパンクチャーエネルギーの平均値を面衝撃強度とした。
【0074】
(7)透明性(ヘーズ)
得られたシートについて、ISO 14782に従い株式会社村上色彩技術研究所製HM-150を使用してヘーズ測定を行い、透明性を評価した。さらに、成形および冷却条件に由来するシート表面の凹凸の影響を除外するため、シートの表面に流動パラフィンを刷毛にて塗布し、同様にヘーズ測定を行った。前者を「全ヘーズ」、後者を「内部ヘーズ」と定義した。また、シート表面の寄与を見るため、「外部ヘーズ」(「全ヘーズ」-「内部ヘーズ」)を定義した。
【0075】
(8)積層状態
得られたシートの中央部分に関し、株式会社日本ミクロトーム研究所製ロータリーミクロトーム(型式:RU-S)を用いて表面に垂直な面方向に厚さ20μmの切片をスライスし、これをオリンパス株式会社製偏光顕微鏡(BX-50)を用いてクロスニコル条件にて観察し、以下の基準を以て積層状態を評価した。
a:層間剥離が全くない
b:部分的に剥離している層が見られる
c:完全に層間剥離する
d:多層構造を確認できない
図1は積層状態aおよび積層状態bの一例を示す。図1(1)において暗く見える部分は第2の層であり、第1層と第2層の層間が剥離していないことが分かる。図(2)は複数の第1層で構成されたシートであり、濃い暗色部分が剥離を示している。
【0076】
【表1】
【0077】
【表2-1】
【0078】
【表2-2】
【0079】
表2より、本発明の製造方法により得られたシートは、優れた透明性および機械的特性を有することが明らかである。実施例1~12は、いずれも層間剥離が全くない多層構造を観察することができた。一方、比較例9、10においては、ミクロトームで切片スライス中に力が加わることで部分的な剥離が生じた。引張弾性率においても、測定中に剥離が生じることから得られる数値が低くなったと考えられる。比較例1、3、6、7においては、軽微な力を加えるだけで完全に層間剥離するためミクロトームでうまく切片をスライスすることができなかった。引張弾性率測定中も剥離を生じることから得られる数値が低くなったと考えられる。比較例2、4、5、8、11では延伸ロールで融解するため、得られたシートでは多層構造を確認できなかった。
【符号の説明】
【0080】
1 ポリプロピレンシート
2 入射X線
20 サンプルへの照射位置でのビームサイズ
図1
図2
図3
図4
図5