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特許7279086強化された安定性を有するサルアデノウイルスベクターのための製剤
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-05-12
(45)【発行日】2023-05-22
(54)【発明の名称】強化された安定性を有するサルアデノウイルスベクターのための製剤
(51)【国際特許分類】
   A61K 35/761 20150101AFI20230515BHJP
   A61K 48/00 20060101ALI20230515BHJP
   A61K 47/26 20060101ALI20230515BHJP
   A61K 47/22 20060101ALI20230515BHJP
   A61K 47/42 20170101ALI20230515BHJP
   A61K 47/02 20060101ALI20230515BHJP
   A61K 47/18 20170101ALI20230515BHJP
   A61K 47/14 20170101ALI20230515BHJP
   A61K 39/00 20060101ALI20230515BHJP
   A61P 31/00 20060101ALI20230515BHJP
【FI】
A61K35/761
A61K48/00
A61K47/26
A61K47/22
A61K47/42
A61K47/02
A61K47/18
A61K47/14
A61K39/00 E
A61K39/00 G
A61P31/00
【請求項の数】 41
(21)【出願番号】P 2020571758
(86)(22)【出願日】2019-06-25
(65)【公表番号】
(43)【公表日】2021-10-28
(86)【国際出願番号】 IB2019055347
(87)【国際公開番号】W WO2020003126
(87)【国際公開日】2020-01-02
【審査請求日】2021-02-10
(31)【優先権主張番号】18179977.6
(32)【優先日】2018-06-26
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】305060279
【氏名又は名称】グラクソスミスクライン バイオロジカルズ ソシエテ アノニム
(74)【代理人】
【識別番号】110002572
【氏名又は名称】弁理士法人平木国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】マトー,フレデリク
(72)【発明者】
【氏名】ヴァッセル,マシュー
【審査官】伊藤 良子
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2017/013169(WO,A1)
【文献】国際公開第2011/103114(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61K 35/
A61K 48/
A61K 47/
A61K 39/
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
サルアデノウイルスベクター、Tris緩衝剤、非晶質糖、ヒスチジン、NaCl、界面活性剤、ビタミンEコハク酸組み換えヒト血清アルブミン、およびMgCl 2 を含む、サルアデノウイルスベクターを保存するための水性組成物であって、非晶質糖が、トレハロース、スクロースまたはスクロースとトレハロースとの組み合わせであり、界面活性剤がポリソルベート界面活性剤である、組成物。
【請求項2】
前記非晶質糖がスクロースである、請求項1に記載の組成物。
【請求項3】
スクロースの濃度が、30%(w/v)未満、25%(w/v)未満、10%~20%(w/v)または16%(w/v)である、請求項2に記載の組成物。
【請求項4】
前記非晶質糖がトレハロースである、請求項1に記載の組成物。
【請求項5】
トレハロースの濃度が、1%~30%(w/v)、10%~20%(w/v)、または15%~16%(w/v)である、請求項4に記載の組成物。
【請求項6】
ビタミンEコハク酸の濃度が0.001mM~0.5mMである、請求項1~5のいずれか1項に記載の組成物。
【請求項7】
組み換えヒト血清アルブミンの濃度が0.01%~1.0%である、請求項1~6のいずれか1項に記載の組成物。
【請求項8】
前記Tris緩衝剤が、1.0mM~25mMの濃度である、請求項1~7のいずれか1項に記載の組成物。
【請求項9】
ヒスチジンの濃度が15mM未満である、請求項1~8のいずれか1項に記載の組成物。
【請求項10】
塩化ナトリウムの濃度が30mM未満である、請求項1~9のいずれか1項に記載の組成物。
【請求項11】
前記界面活性剤が、0.01%(w/v)~0.05%(w/v)の濃度のポリソルベート80である、請求項1~10のいずれか1項に記載の組成物。
【請求項12】
MgCl 2 が、0.1mM~10.0mMの濃度である、請求項1~11のいずれか1項に記載の組成物。
【請求項13】
前記サルアデノウイルスベクターが、チンパンジー、ボノボまたはゴリラベクターである、請求項1~12のいずれか1項に記載の組成物。
【請求項14】
前記サルアデノウイルスベクターがチンパンジーベクターである、請求項13に記載の組成物。
【請求項15】
前記チンパンジーベクターが、血清型Cおよび血清型Eベクターからなる群から選択される、請求項14に記載の組成物。
【請求項16】
前記チンパンジーベクターが、ChAd3、ChAd63、ChAd83、ChAd155、ChAd157、ChAdOx1およびChAdOx2からなる群から選択される、請求項14に記載の組成物。
【請求項17】
前記サルアデノウイルスベクターがボノボベクターである、請求項13に記載の組成物。
【請求項18】
前記サルアデノウイルスベクターがゴリラベクターである、請求項13に記載の組成物。
【請求項19】
前記サルアデノウイルスベクターの濃度が、1ミリリットル当たり1×106個~1×1012個のウイルス粒子である、請求項1~18のいずれか1項に記載の組成物。
【請求項20】
前記サルアデノウイルスベクターが導入遺伝子を含む、請求項1~19のいずれか1項に記載の組成物。
【請求項21】
前記導入遺伝子が免疫原性導入遺伝子である、請求項20に記載の組成物。
【請求項22】
前記サルアデノウイルスベクターが複製欠損であるか、または該サルアデノウイルスベクターが複製可能である、請求項1~21のいずれか1項に記載の組成物。
【請求項23】
前記サルアデノウイルスベクターが複製欠損である、請求項22に記載の組成物。
【請求項24】
前記サルアデノウイルスベクターが複製可能である、請求項22に記載の組成物。
【請求項25】
前記サルアデノウイルスベクターを4℃で24ヵ月間以下保存するための、請求項1~24のいずれか1項に記載の組成物。
【請求項26】
前記サルアデノウイルスベクターを4℃で18ヵ月間以下保存するための、請求項25に記載の組成物。
【請求項27】
前記サルアデノウイルスベクターを4℃で16ヵ月間以下保存するための、請求項26に記載の組成物。
【請求項28】
前記サルアデノウイルスベクターを4℃で12ヵ月間以下保存するための、請求項27に記載の組成物。
【請求項29】
前記サルアデノウイルスベクターを4℃で6ヵ月間以下保存するための、請求項28に記載の組成物。
【請求項30】
前記サルアデノウイルスベクターを25℃で30日間以下保存するための、請求項1~24のいずれか1項に記載の組成物。
【請求項31】
前記サルアデノウイルスベクターを25℃で15日間以下保存するための、請求項30に記載の組成物。
【請求項32】
前記サルアデノウイルスベクターを30℃で7日間以下保存するための、請求項1~24のいずれか1項に記載の組成物。
【請求項33】
前記サルアデノウイルスベクターを30℃で4日間以下保存するための、請求項32に記載の組成物。
【請求項34】
(a) 宿主細胞中でサルアデノウイルスベクターを生成させるステップ;および
(b) 該サルアデノウイルスベクターとTris緩衝剤、非晶質糖、ヒスチジン、NaCl、界面活性剤、ビタミンEコハク酸組み換えヒト血清アルブミン、およびMgCl 2 とを配合するステップを含む、サルアデノウイルスベクターを保存するための組成物の作製方法であって;
前記組成物が、前記サルアデノウイルスベクターを、(i) +2~+8℃で6ヵ月間以下;または(ii) 25℃で15日間以下;または(iii) 30℃で4日間以下保存するためのものであり、
非晶質糖が、トレハロース、スクロースまたはスクロースとトレハロースとの組み合わせであり、界面活性剤がポリソルベート界面活性剤である、上記方法。
【請求項35】
ワクチンとしての使用のための請求項1~33のいずれか1項に記載の組成物。
【請求項36】
感染性疾患の予防または治療のための医薬の製造での、請求項1~33のいずれか1項に記載の組成物の使用。
【請求項37】
前記サルアデノウイルスベクターによりコードされる導入遺伝子に対する免疫応答を誘導するための、請求項21に記載の組成物。
【請求項38】
被験体において前記導入遺伝子に対する免疫応答を引き起こすための、請求項21に記載の組成物。
【請求項39】
前記被験体がヒトである、請求項38に記載の組成物。
【請求項40】
被験体における感染性疾患の予防または治療のための請求項21に記載の組成物。
【請求項41】
前記被験体がヒトである、請求項40に記載の組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、液体組成物中のサルアデノウイルスベクターの製剤化、それらの製剤および該組成物の使用方法に関する。
【背景技術】
【0002】
アデノウイルスベクターは、それにより予防用または治療用タンパク質をコードする核酸配列がアデノウイルスゲノムへと組み込まれる、予防用または治療用タンパク質送達プラットフォームを代表するものであり、該核酸配列は、アデノウイルス粒子が治療対象の被験体へと投与される場合に発現される。相当な保存寿命(shelf life)を有して許容可能な保存温度での保存を可能にする、アデノウイルスベクターのための安定化製剤を開発することは、当技術分野の課題であった。
【0003】
凍結乾燥による安定化サルアデノウイルスが報告されている(国際公開第2017/013169号;BioProcess Int. (2018) 16:26)。ヒトアデノウイルスベクターのための安定化液体製剤が報告されている(J. Pharm. Sci. (2004) 93:2458-2475)。24カ月にわたって4℃で約0.5 logの感染性の低下を有し、ICHガイドラインによる生物学的有効性に関する最小要求用量に基づき0.9 logの低下という保存寿命仕様(shelf life specification)を有する、安定な液体ヒトアデノウイルス製剤が報告された(Eur. J. Biopharm. (2018) 129:215)。しかしながら、サルアデノウイルスベクターの安定性を維持する液体製剤に対する必要性が当技術分野に残っている。そのような製剤は、低温流通体系の乱れに起因するワクチンの廃棄を減少させ、かつワクチン生産、輸送、保存および患者コンプライアンスを向上させるであろう。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】国際公開第2017/013169号
【非特許文献】
【0005】
【文献】BioProcess Int. (2018) 16:26
【文献】J. Pharm. Sci. (2004) 93:2458-2475
【文献】Eur. J. Biopharm. (2018) 129:215
【発明の概要】
【0006】
本発明者らは、驚くべきことに、非晶質糖(amorphous sugar)を含有する組成物中へと組み込んだ場合に、トコフェロールおよび組み換えヒト血清アルブミンが、サルアデノウイルスの安定性を大幅に増大させることを見出した。したがって、本発明は、トコフェロール、組み換えヒト血清アルブミンおよび少なくとも1種の非晶質糖を含有する、サルアデノウイルスのための安定な水性液体製剤を提供する。本明細書中に記載される通りに製剤化されたアデノウイルスは、熱安定性である。本発明はさらに、予防免疫を賦与し、かつヒト被験体へと導入遺伝子を送達することにより治療用ベクターとして機能するための、安定化された組み換えサルアデノウイルスの使用方法を提供する。
【図面の簡単な説明】
【0007】
図1】安定性に対する浸透圧および糖組成の影響を示す図である。安定性は、4℃の温度への2.5ヵ月間の、または30℃への1ヵ月間のウイルスの曝露後に、PICOGREENにより測定した。
図2】安定性に対するトレハロース、スクロース、VESおよびrHSAの影響を示す図である。「BDS-ADVAR」とは、10mM Tris pH8.5、5mM NaCl、10mMヒスチジン、0.025%ポリソルベート80(w/v)および1mM MgCl2を指す。安定性は、4℃または25℃への3週間のサルアデノウイルスの曝露後に、分析的HPLCにより測定した。
図3A】4℃でのリアルタイム安定性を示す図である。10mM Tris pH8.5、5mM NaCl、10mMヒスチジン、0.024%ポリソルベート80(w/v)、1mM MgCl2、15%トレハロース(w/v)、2%スクロース(w/v)、0.05mM VESおよび0.1%rHSA(w/v)中の、1.1×1011pu/mL(1ミリリットル当たりのウイルス粒子単位)の濃度(10%過剰分を含む)のサルアデノウイルスを、6ヵ月間にわたって2回の独立した分析的HPLC法(実線および点線)により測定した。
図3B】4℃でのリアルタイム安定性を示す図である。10mM Tris pH8.5、5mM NaCl、10mMヒスチジン、0.024%ポリソルベート80(w/v)、1mM MgCl2、16%スクロースおよび0.05mM VES中の、1.1×1011pu/mL(1ミリリットル当たりのウイルス粒子単位)の濃度(10%過剰分を含む)のサルアデノウイルスを、6ヵ月間にわたって2回の独立した分析的HPLC法(実線および点線)により測定した。
図3C】4℃でのリアルタイム安定性を示す図である。10mM Tris pH8.5、5mM NaCl、10mMヒスチジン、0.024%ポリソルベート80(w/v)、1mM MgCl2、15%トレハロース(w/v)、2%スクロース(w/v)、0.05mM VESおよび0.1%rHSA(w/v)中の、1.1×1010pu/mL(1ミリリットル当たりのウイルス粒子単位)の濃度(10%過剰分を含む)のサルアデノウイルスを、6ヵ月間にわたって2回の独立した分析的HPLC法(実線および点線)により測定した。
図4】IFNγELIspotにより決定され、かつ凍結乾燥サルアデノウイルスと比較した、マウスでの免疫原性を示す図である。
図5】金属および光酸化を介した、サルアデノウイルスの強制的分解を示す図である。安定性は、加速酸化試験(AOT)条件下での金属および光酸化へのウイルスの曝露後に、分析的高速液体クロマトグラフィー(HPLC)により測定した。
【発明を実施するための形態】
【0008】
本発明者らは、ヒトアデノウイルスベクターを安定化させるために開発された製剤は、すべてのアデノウイルスベクター(例えば、サルアデノウイルスベクター)に首尾よく適用され、それらを安定なもの、すなわち予防または療法に有用なものにすることができるわけではないことを見出した。例えば、ヒトアデノウイルスを安定化させるために用いられるA195バッファー(10mM Tris pH7.4、10mMヒスチジン、75mM NaCl、5%スクロース、0.02%ポリソルベート80、0.1mM EDTA、1mM MgCl2)は、サルアデノウイルスを安定化させるために好適ではない(BioProcess Int. (2018) 16:26)。本発明は、アデノウイルス粒子の構造的完全性および機能性がよりよく保護または維持される、サルアデノウイルスの組成物を記載する。
【0009】
サルアデノウイルス
アデノウイルスは、二本鎖DNAゲノムを含有する20面体カプシドを有する非エンペロープ型ウイルスである。カプシドは、3種類の主要タンパク質であるヘキソン(II)、ペントンベース(III)およびノブを有する(knobbed)ファイバー(IV)を、アデノウイルス感染の初期段階を媒介する多数の他の少数タンパク質VI、VIII、IX、IlIaおよびIVa2と共に含有する。ヘキソンは、240個の三量体ヘキソンカプソマーおよび12個のペントンベースからなるカプシドの構造成分の大部分を占める。ヘキソンは3個の保存された二重バレル(double barrel)を有し、頂部が3個の塔状部を有し、各塔状部がカプシドの大部分を形成する各サブユニットからのループを含む。ヘキソンの基部はアデノウイルス血清型の間で高度に保存されているが、表面ループは可変的である。ペントンは別のアデノウイルスカプシドタンパク質であり、五量体のベースを形成して、これにファイバーが連結する。三量体ファイバータンパク質は、カプシドの12個の頂点のうちのそれぞれでペントンベースから突出し、ノブを有する棒状構造をしている。ファイバータンパク質の主な役割は、ノブ領域と細胞受容体との間の相互作用を介して、細胞表面にウイルスカプシドを繋ぎとめることであり、可撓性軸部(flexible shaft)ならびにファイバーのノブ領域のバリエーションが、異なる血清型を特徴付ける。
【0010】
「サル」(simian)とは、真猿型下目(Simiiformes)のいずれかのメンバーを意味する。これには、広鼻小目(新世界ザル)および狭鼻小目(旧世界ザルおよび類人猿)が含まれる。サルとしては、ボノボ、オマキザル、チンパンジー、テナガザル、ゴリラ、大型類人猿、ホエザル、マーモセット、オランウータン、ヨザル、サキ、クモザル、リスザル、タマリンド(tamarind)、ティティ、ウアカリおよびウーリーモンキーが挙げられる。多数のアデノウイルスが、チンパンジー、ボノボ、アカゲザルおよびゴリラなどのサルから単離されている。これらのアデノウイルスに由来するベクターは、コードされた導入遺伝子に対する強力な免疫応答を誘導することが示されている(Sci Transl Med (2012) 4:1;Virol (2004) 324: 361; J Gene Med (2010) 13:17)。また、サルアデノウイルスは、ヒト集団では、ヒトアデノウイルスと比較して、交差中和抗体(cross-neutralizing antibody)の相対的な欠如を示す。
【0011】
アデノウイルスは、所望のRNAまたはタンパク質配列(例えば、異種配列)をin vivo発現のために送達するベクターとして用いることができる。アデノウイルスベクターは、裸のDNA、ファージ、トランスポゾン、コスミド、エピソーム、プラスミド、またはウイルスをはじめとする任意の遺伝的エレメントを含むことができる。そのようなベクターは、サルアデノウイルスのDNAおよび発現カセットを含有する。「発現カセット」(または「ミニ遺伝子」)とは、選択された異種遺伝子(「導入遺伝子」または「目的遺伝子」)と、宿主細胞での遺伝子産物の翻訳、転写および/または発現を駆動するために必要な他の調節エレメントとの組み合わせを意味する。本発明の実施形態では、サルアデノウイルスベクターは、1種以上のプロモーター、エンハンサー、およびレポーター遺伝子を含むことができる。
【0012】
本発明のアデノウイルスベクターは、サルアデノウイルスDNAを含有することができる。一実施形態では、本発明のアデノウイルスベクターは、非ヒトサルアデノウイルスに由来し、「サルアデノウイルス」とも称される。多数のアデノウイルスが、チンパンジー、ボノボ、アカゲザル、オランウータンおよびゴリラなどの非ヒトサルから単離されている。これらのアデノウイルスに由来するベクターは、これらのベクターによりコードされる導入遺伝子に対して強力な免疫応答を誘導することができる。非ヒトサルアデノウイルスに基づくベクターの特定の利点としては、ヒト標的集団で、これらのアデノウイルスに対する交差中和抗体が相対的に欠如していること、つまり、それらの使用がヒトアデノウイルスに対する既存の免疫を克服することが挙げられる。
【0013】
本発明のアデノウイルスベクターは、非ヒトサルアデノウイルスに由来することができ、例えば、チンパンジー(Pan troglodytes)、ボノボ(Pan paniscus)、ゴリラ(Gorilla gorilla)、オランウータン(Pongo abeliiおよびPongo pygnaeus)およびマカク(マカク属の生物種のうちのいずれか)に由来し得る。そのようなものとしては、B群、C群、D群、E群およびG群に由来するアデノウイルスが挙げられる。ベクターは、全体または一部として、非ヒトアデノウイルスのファイバー、ペントンまたはヘキソンをコードするヌクレオチドを含み得る。
【0014】
導入遺伝子に加えて、発現カセットはまた、アデノウイルスベクターをトランスフェクションされた細胞中で導入遺伝子の転写、翻訳および/または発現を可能にするように導入遺伝子に作動可能に連結される、通常の制御エレメントも含むことができる。本明細書中で用いる場合、「作動可能に連結される」配列は、目的遺伝子に隣接する発現制御配列および目的遺伝子を制御するためにトランスで、または離れて作用する発現制御配列の両方を含む。
【0015】
調節エレメント、すなわち、発現制御配列としては、適切な転写開始配列、終止配列、プロモーター配列およびエンハンサー配列;効率的なRNAプロセシングシグナル(スプライシングシグナルおよびポリアデニル化(poly A)シグナルなど、例えば、ウサギβ-グロビンpolyA);テトラサイクリン調節系(tetracycline regulatable system)、マイクロRNA、転写後調節エレメント、例えば、WPRE(ウッドチャック肝炎ウイルスの転写後調節エレメント);細胞質mRNAを安定化する配列;翻訳効率を向上させる配列(例えば、Kozakコンセンサス配列);タンパク質安定性を向上させる配列;および所望の場合には、コードされた産物の分泌を促進する配列が挙げられる。
【0016】
「プロモーター」は、RNAポリメラーゼの結合を可能にし、遺伝子の転写を誘導するヌクレオチド配列である。典型的には、プロモーターは、遺伝子の非コード領域中に、転写開始部位に近接して配置される。転写の開始で機能するプロモーター内の配列エレメントは、多くの場合、コンセンサスヌクレオチド配列により特徴付けられる。プロモーターの例としては、限定するものではないが、細菌、酵母、植物、ウイルス、ならびにサルおよびヒトをはじめとする哺乳動物由来のプロモーターが挙げられる。内部型、生来型、構成的、誘導性および/または組織特異的であるプロモーターをはじめとする多数の発現制御配列が当技術分野で公知であり、かつこれらを用いることができる。
【0017】
本明細書中で用いる場合、「転写後調節エレメント」は、転写された場合に、本発明のウイルスベクターにより送達される導入遺伝子またはその断片の発現を促進するDNA配列である。転写後調節エレメントとしては、限定するものではないが、B型肝炎ウイルス転写後調節エレメント(HPRE)およびウッドチャック肝炎転写後調節エレメント(WPRE)が挙げられる。WPREは、三部分(tripartite)シス作用性エレメントであり、すべてではないが特定のプロモーターにより駆動される導入遺伝子発現を増強することが実証されている。
【0018】
アデノウイルスベクターによりコードされる導入遺伝子は、典型的には、治療用もしくは免疫原性タンパク質、酵素、またはRNAなどの生物学または医学で有用な産物をコードするであろう。望ましいRNA分子としては、tRNA、dsRNA、リボソームRNA、触媒RNA、RNAアプタマー、およびアンチセンスRNAが挙げられる。有用なRNA配列の一例は、治療対象の被験体において標的核酸配列の発現を消滅させる配列である。導入遺伝子は、(例えば、遺伝的欠損の)治療のために、癌治療薬もしくはワクチンとして、免疫応答の誘導のために、かつ/または予防的ワクチン用途のために用いられるポリペプチドまたはタンパク質をコードすることができる。特に、ポリペプチドまたはタンパク質は抗原である。
【0019】
本明細書中で用いる場合、免疫応答の誘導とは、「抗原」または「免疫原」としても知られるタンパク質が、該タンパク質に対するT細胞および/または体液性免疫応答を誘導する能力を意味する。他に示されない限り、「療法」または「治療的(治療用)」は、予防的療法および治癒的療法のうちのいずれかまたは両方に関する場合がある。
【0020】
導入遺伝子は、予防または治療のために、例えば、免疫応答を誘導するためのワクチンとして、欠損もしくは欠失した遺伝子を矯正または置換することにより遺伝的欠損を矯正するために、または癌治療薬として、用いることができる。特に、免疫応答は、防御免疫応答である。
【0021】
本発明の組成物は、免疫原性組成物であり得る。任意により、本発明の混合物または組成物は、例えば、さらなる免疫源、例えば、ポリペプチド抗原、および/またはアジュバントをはじめとする他の構成要素を含有するように製剤化することができる。一実施形態では、本発明は、アジュバントを含むワクチンを提供する。そのようなアジュバントは、抗原をコードするDNAワクチンのみを用いるプライミングの際に生じる免疫応答と比較して、抗原特異的免疫応答を強化するために、抗原をコードするプライミングDNAワクチンと共に投与することができる。あるいは、そのようなアジュバントは、本発明のアデノウイルスベクターを含むレジメン中で投与されるポリペプチド抗原と共に投与することができる。
【0022】
導入遺伝子により引き起こされる免疫応答は、中和抗体を生成する抗原特異的B細胞応答であり得る。引き起こされる免疫応答は、抗原特異的T細胞応答であり得、これは、全身性および/または局所性応答であり得る。抗原特異的T細胞応答は、CD4+T細胞応答、例えば、サイトカイン(例えば、インターフェロンガンマ(IFNγ)、腫瘍壊死因子アルファ(TNFα)および/またはインターロイキン2(IL2))を発現するCD4+T細胞を伴う応答などを含み得る。あるいは、またはそれに加えて、抗原特異的T細胞応答は、CD8+T細胞応答、例えば、サイトカイン(例えば、IFNγ、TNFαおよび/またはIL2)を発現するCD8+T細胞を伴う応答などを含む。
【0023】
従って、本発明の組成物は、アデノウイルスベクターによりコードされる導入遺伝子の作用の結果として、被験体の予防的(すなわち、免疫原性または予防的)または治療的処置における使用のためのものである。本発明の組成物は、筋内注入のために好適である。
【0024】
本発明の方法は、疾患に対する防御または治療的免疫応答を誘導することができる。一実施形態では、疾患は、感染性または発癌性疾患である。一実施形態では、防御免疫応答は、病原体に対して被験体を免疫化または被験体にワクチン接種することにより達成される。したがって、本発明は、ヒトおよび非ヒト脊椎動物に感染する病原体(例えば、ウイルス、細菌、真菌、寄生性微生物または多細胞寄生生物)による感染に起因するか、または癌細胞もしくは腫瘍細胞に由来する疾患の予防、治療または改善のために適用することができる。免疫源は、様々なウイルス、細菌、真菌、寄生性微生物または多細胞寄生生物から選択することができる。
【0025】
「熱安定性」アデノウイルス製剤は、アデノウイルスが、中程度に高い相対温度でその特徴的な性質を失うことなく、その物理的または化学的構造の不可逆的変化に耐えることができるものである。
【0026】
用語「複製欠損」または「複製不能」アデノウイルスとは、少なくとも機能的な欠失(または「機能欠損」突然変異)、すなわち、遺伝子全体を除去することなく遺伝子の機能を低下させる欠失または突然変異(例えば、人工的終止コドンの導入、活性部位もしくは相互作用ドメインの欠失または突然変異、遺伝子等の調節配列の突然変異または欠失)、あるいは、E1A、E1B、E2A、E2B、E3およびE4(E3 ORF1、E3 ORF2、E3 ORF3、E3 ORF4、E3 ORF5、E3 ORF6、E3 ORF7、E3 ORF8、E3 ORF9、E4 ORF7、E4 ORF6、E4 ORF4、E4 ORF3、E4 ORF2および/またはE4 ORF1など)から選択されるアデノウイルス遺伝子のうちの1種以上などの、ウイルス複製に必須である遺伝子産物をコードする遺伝子の完全な除去を含むように遺伝子操作されているために、複製が不可能であるアデノウイルスを意味する。好適には、E1ならびに任意によりE3および/またはE4が欠失される。欠失される場合、上述の欠失遺伝子領域は、好適には、別の配列に対して同一性%を決定する場合にアライメント中で考慮されないであろう。
【0027】
2種類の近密に関連するポリヌクレオチドまたはポリペプチド配列を比較する目的のために、第1の配列と第2の配列との間の「同一性%」は、標準的設定を用いてBLAST(登録商標)(blast.ncbi.nlm.nih.govで入手可能、2015年3月9日に最終アクセス)などのアライメントプログラムを用いて算出することができる。同一性%は、参照配列中の残基数により除算した同一残基数に100を乗算したものである。上記および特許請求の範囲で言及される同一性%の数値は、この方法論により算出されるパーセンテージである。同一性%の代替的な定義は、アライメントした残基数により除算した同一残基数に100を乗算したものである。
【0028】
代替的な方法としては、アライメント中のギャップ(例えば、他の配列と比較した、ある配列中での欠失)が、スコアリングパラメーターのギャップスコアまたはギャップコストにおいて考慮される、ギャップ法(gapped method)の使用が挙げられる。さらなる情報に関しては、ftp.ncbi.nlm.nih.gov/pub/factsheets/HowTo_BLASTGuide.pdf(2015年3月9日に最終アクセス)で入手可能なBLAST(登録商標)ファクトシートを参照されたい。
【0029】
ポリヌクレオチドまたはそれによりコードされるポリペプチドの機能性を保存する配列は、より近接して同一である可能性が高い。ポリペプチドまたはポリヌクレオチド配列は、それらがその全長にわたって100%の配列同一性を共有する場合に、他のポリペプチドまたはポリヌクレオチド配列と同じであるかまたは同一であると言われる。
【0030】
配列同士の「差異」(単数形)とは、第1の配列と比較した、第2の配列のある位置での単一アミノ酸残基の挿入、欠失または置換を意味する。2種類のポリペプチド配列は、1個、2個またはそれ以上のそのようなアミノ酸差異を含むことができる。第2の配列中の挿入、欠失または置換(それ以外は第1の配列と同一(100%配列同一性)である)は、配列同一性%の低下をもたらす。例えば、同一の配列が9アミノ酸残基長である場合、第2の配列中の1箇所の置換は、88.9%の配列同一性をもたらす。同一の配列が17アミノ酸残基長である場合、第2の配列中の2箇所の置換は、88.2%の配列同一性をもたらす。同一の配列が7アミノ酸残基長である場合、第2の配列中の3箇所の置換は、57.1%の配列同一性をもたらす。第1および第2のポリペプチド配列が9アミノ酸残基長であり、かつ6個の同一残基を共有する場合、第1および第2のポリペプチド配列は、66%を超える同一性を共有する(第1および第2のポリペプチド配列は66.7%の同一性を共有する)。第1および第2のポリペプチド配列が17アミノ酸残基長であり、かつ16個の同一残基を共有する場合、第1および第2のポリペプチド配列は、94%を超える同一性を共有する(第1および第2のポリペプチド配列は94.1%の同一性を共有する)。第1および第2のポリペプチド配列が7アミノ酸残基長であり、かつ3個の同一残基を共有する場合、第1および第2のポリペプチド配列は、42%を超える同一性を共有する(第1および第2のポリペプチド配列は42.9%の同一性を共有する)。
【0031】
あるいは、第1の参照ポリペプチド配列と第2の比較ポリペプチド配列とを比較する目的のために、第1の配列に対して施されて第2の配列を生成する付加、置換および/または欠失の数を確認することができる。付加(単数形)とは、第1のポリペプチドの配列への1個のアミノ酸残基の追加である(第1のポリペプチドのいずれかの末端での付加を含む)。
【0032】
置換(単数形)とは、第1のポリペプチドの配列中の1個のアミノ酸残基の、1個の異なるアミノ酸残基との置換である。欠失(単数形)とは、第1のポリペプチドの配列からの1個のアミノ酸残基の欠失である(第1のポリペプチドのいずれかの末端での欠失を含む)。第1の参照ポリヌクレオチド配列と第2の比較ポリヌクレオチド配列とを比較する目的のために、第1の配列に対して施されて第2の配列を生成する付加、置換および/または欠失の数を確認することができる。付加(単数形)とは、第1のポリヌクレオチドの配列への1個のヌクレオチド残基の追加である(第1のポリヌクレオチドのいずれかの末端での付加を含む)。置換(単数形)とは、第1のポリヌクレオチドの配列中の1個のヌクレオチド残基の、1個の異なるヌクレオチド残基との置換である。欠失(単数形)とは、第1のポリヌクレオチドの配列からの1個のヌクレオチド残基の欠失である(第1のポリヌクレオチドのいずれかの末端での欠失を含む)。好適には、本発明の配列中の置換は、保存的置換であり得る。保存的置換は、置換されるアミノ酸に類似する化学的特性を有する別のアミノ酸とのアミノ酸の置換を含む(例えば、Stryer et al, Biochemistry, 5th ed. 2002, pages 44-49を参照されたい)。好ましくは、保存的置換は、以下からなる群より選択される置換である:(i) 塩基性アミノ酸の、別の異なる塩基性アミノ酸との置換;(ii) 酸性アミノ酸の、別の異なる酸性アミノ酸との置換;(iii) 芳香族アミノ酸の、別の異なる芳香族アミノ酸との置換;(iv) 非極性脂肪族アミノ酸の、別の異なる非極性脂肪族アミノ酸との置換;および(v) 極性非荷電アミノ酸の、別の異なる極性非荷電アミノ酸との置換。塩基性アミノ酸は、好ましくは、アルギニン、ヒスチジン、およびリジンからなる群より選択される。
【0033】
酸性アミノ酸は、好ましくは、アスパラギン酸またはグルタミン酸である。芳香族アミノ酸は、好ましくは、フェニルアラニン、チロシンおよびトリプトファンからなる群より選択される。非極性脂肪族アミノ酸は、好ましくは、グリシン、アラニン、バリン、ロイシン、メチオニンおよびイソロイシンからなる群より選択される。極性非荷電アミノ酸は、好ましくは、セリン、トレオニン、システイン、プロリン、アスパラギンおよびグルタミンからなる群より選択される。保存的アミノ酸置換とは対照的に、非保存的アミノ酸置換(単数形)とは、上記で概説された保存的置換(i)~(v)に該当しない、1個のアミノ酸の、いずれかのアミノ酸との交換である。
【0034】
あるいは、またはこれに加えて、ワクチン構築物の交差防御の範囲は、抗原のメドイド配列を含むことにより増加させることができる。「メドイド」(medoid)とは、他の配列に対して最小限の非類似性を有する配列を意味する。あるいは、またはこれに加えて、本発明のベクターは、タンパク質またはその免疫原性断片のメドイド配列を含む。あるいは、またはこれに加えて、メドイド配列は、NCBIデータベースで注釈されるすべての関連タンパク質配列の中でアミノ酸同一性の最高平均パーセントを有する天然ウイルス株に由来する。
【0035】
遺伝コードの冗長性の結果として、ポリペプチドは、様々な異なる核酸配列によりコードされることができる。コードは、他のコドンよりも、一部の同義的コドン、すなわち、同じアミノ酸をコードするコドンの使用に偏る。「コドン最適化された」とは、組み換え核酸のコドン組成の変更が、アミノ酸配列を変化させることなく行われることを意味する。コドン最適化は、生物特異的コドン使用頻度を用いることにより、異なる生物でのmRNA発現を改善するために用いられてきた。
【0036】
コドンの偏りに加えて、かつこれとは独立に、オープンリーディングフレーム中のコドンの並置はランダムではなく、一部のコドン対が、他のコドン対よりも頻繁に用いられる。このコドン対の偏りとは、一部のコドン対が過剰であり、かつ他のコドン対が不足していることを意味する。「コドン対最適化された」とは、個々のコドンのアミノ酸配列を変化させることなく、コドン対の変更が行なわれることを意味する。本発明の構築物は、コドン最適化された核酸配列および/またはコドン対最適化された核酸配列を含むことができる。
【0037】
用語「複製可能」アデノウイルスとは、細胞中に含まれる組み換えヘルパータンパク質が全く存在しない状態で、宿主細胞中で複製できるアデノウイルスを意味する。好適には、「複製可能」アデノウイルスは、無傷の構造遺伝子および以下の無傷または機能的に必須の初期遺伝子を含む:E1A、E1B、E2A、E2BおよびE4。
【0038】
本発明の一実施形態では、ベクターは、アデノウイルスベクターの機能的または免疫原性誘導体である。「アデノウイルスベクターの誘導体」とは、ベクターの改変型、例えば、ベクターの1箇所以上のヌクレオチドが、欠失、挿入、修飾または置換されていることを意味する。
【0039】
本発明のサルアデノウイルスは、当業者に公知の技術を用いて作製することができる。本発明のサルアデノウイルスは、宿主細胞株、すなわち、ウイルスが複製可能であるいずれかの好適な細胞株中で生成することができる。複製欠損ウイルスは、例えば、その低下した複製特性をもたらす、ウイルスベクターから欠損された因子(E1など)を与える補完細胞株中で生成することができる。
【0040】
本発明のベクターは、当業者に公知の技術と組み合わせて、本明細書中に提供される技術および配列を用いて作製される。そのような技術としては、教科書に記載されるものなどのcDNAの慣用のクローニング技術、アデノウイルスゲノムの重複オリゴヌクレオチド配列の使用、ポリメラーゼ連鎖反応、および所望のヌクレオチド配列を与える任意の好適な方法が挙げられる。
【0041】
賦形剤
本発明の賦形剤は、緩衝剤、塩、界面活性剤、糖、有機化合物、キレート剤およびタンパク質を含むことができる。本発明の賦形剤は、サルアデノウイルスが水性製剤中にある間、サルアデノウイルスを安定化させるよう機能する。
【0042】
「緩衝剤」とは、酸と塩基の両方を中和して、それにより溶液のpHを維持することが可能な物質を意味する。本発明の好適な緩衝剤としては、Tris、コハク酸塩、ホウ酸塩、Tris-マレイン酸塩、リジン、ヒスチジン、グリシン、グリシルグリシン、クエン酸塩、炭酸塩またはそれらの組み合わせが挙げられる。
【0043】
「水性」とは、水を意味する。水性組成物は、溶媒が水であるものである。
【0044】
「塩」とは、酸と塩基との中和反応から生じるイオン性化合物を意味し、生成物が正味電荷を有しないように相関する数のカチオンおよびアニオンから構成され、例えば、塩化ナトリウムである。構成要素イオンは、無機または有機のいずれかであり得、かつ単原子性または多原子性であり得る。
【0045】
「非晶質糖」とは、構成粒子がランダムに配列している糖を意味する。
【0046】
「キレート剤」とは、金属イオンと反応して安定な水溶性複合体を形成する化学物質を意味する。本発明の賦形剤は、エチレンジアミン四酢酸(EDTA)およびエチレングリコール-ビス(β-アミノエチルエーテル)-N,N,N',N'-四酢酸(EGTA)から選択されるキレート剤を含むことができる。
【0047】
「界面活性剤」とは、それが溶解されている液体の表面張力を低下させる物質を意味する。本発明の賦形剤は、ポリソルベート界面活性剤(例えば、ポリソルベート80および/またはポリソルベート20)、ポロキサマー界面活性剤(例えば、ポロキサマー188)、オクトキシナール(octoxinal)界面活性剤、ポリドカノール界面活性剤、ステアリン酸ポリオキシル界面活性剤、ポリオキシルヒマシ油界面活性剤、N-オクチル-グルコシド界面活性剤、マクロゴール15ヒドロキシステアレート、およびそれらの組み合わせから選択される界面活性剤を含むことができる。一実施形態では、界面活性剤は、ポロキサマー界面活性剤(例えば、ポロキサマー188)、ポリソルベート界面活性剤(例えば、ポリソルベート80および/またはポリソルベート20)、特にポリソルベート80などのポリソルベート界面活性剤から選択される。界面活性剤は、トコフェロールを製剤化するためにも用いることができる。
【0048】
「ビタミンE」、すなわち、トコフェロールは、クロマノール環のフェノール部分のメチル化の程度が様々である一連のキラル有機分子を意味する。トコフェロールは、脂溶性抗酸化剤として作用する。この用語は、α、β、γおよびδ-トコフェロールを含む。様々なトコフェロール塩としては、コハク酸トコフェロール、酢酸トコフェロール、ニコチン酸トコフェロールおよび他のエステル化形態が挙げられる。
【0049】
「ビタミンEコハク酸(Vitamin E succinate)」または「VES」とは、限定するものではないが、4-オキソ-4-[[2,5,7,8-テトラメチル-2-(4,8,12-トリメチルトリデシル)-3,4-ジヒドロクロメン-6-イル]オキシ]ブタン酸、コハク酸D-α-トコフェロール、半合成コハク酸D-α-トコフェロール、α-トコフェロール酸スクシネート(alpha-tocopherol acid succinate)、コハク酸水素RRR-α-トコフェロール(RRR-alpha-tocopherol hydrogen succinate)、コハク酸D-α-トコフェロール、(+)-α-トコフェロール、(+)-δ-トコフェロール、ヘミコハク酸トコフェロール(tocopherol hemisuccinate)およびトコフェリル酸スクシネート(tocopheryl acid succinate)をはじめとする、いずれかのコハク酸α-トコフェロールを意味する。典型的には、経験式はC33H54O5(Hill表記)であろう。VESは、エタノール中に溶解させることができ、このとき、エタノールは、VESを含有するバッファー中に残留量で存在し得る。
【0050】
「組み換えヒト血清アルブミン」、「rHSA」または「ヒトアルブミン」とは、ヒトALB遺伝子によりコードされ、かつ当技術分野で公知の組み換え法により生成されるタンパク質を意味する。
【0051】
TRAVASOLは、ロイシン、イソロイシン、リジン、バリン、フェニルアラニン、ヒスチジン、トレオニン、メチオニン、トリプトファン、アラニン、アルギニン、グリシン、プロリン、セリンおよびチロシンを、酢酸アニオンおよび塩化物アニオンと共にpH5.0~7.0で含む必須および非必須アミノ酸の溶液である。
【0052】
安定性および感染性
アデノウイルスは、凍結された場合には安定であるが、適切に製剤化されない限り、より温かい温度では急速に分解する。分解は、限定するものではないが以下のものなどの要因により引き起こされ得る:熱;酸化(例えば、光、過酸化物または金属に起因する);せん断応力;液体製剤上の大気界面の衝撃;凍結融解サイクル;またはこれらの要因の組み合わせ。アデノウイルスが分解を受ける経路としては、カプシド破壊、凝集、酸化および脱アミド化が挙げられる。
【0053】
「安定性」とは、分解に対する抵抗性を意味する。アデノウイルス安定性は、ウイルスカプシドの完全性により測定することができる。例えば、PICOGREENアッセイは、二本鎖DNAに選択的な蛍光核酸染料を利用する。HPLCは無傷のウイルス粒子を定量することができ;放出されたDNAの割合(%)は、新鮮に解凍された対照群および完全に分解された対照を含む回帰曲線に基づく。定量的PCRは、ウイルスDNAを定量するために用いることができる(gE/mL=1mL当たりのゲノム当量)。
【0054】
「感染性(infectivity)」とは、感受性宿主、すなわち、細胞に侵入し、かつ該宿主による発現のためにその遺伝物質を送達する、ベクターの能力を意味する。感染性は、細胞中へのウイルス粒子の侵入を測定することにより、例えば、ウイルスタンパク質を免疫染色することにより、決定することができる。感染性アッセイは当技術分野で公知であり、かつ「50%細胞培養感染量(CCID50)」、単一「感染単位(IFU)」プラークアッセイおよびヘキソンタンパク質免疫染色が挙げられる。感染性はまた、導入遺伝子を発現する細胞の割合を測定することにより、例えば、FACS分析または他の好適な方法により決定することもできる。例えば、いずれかの好適に発現された導入遺伝子(例えば、緑色蛍光タンパク質(「GFP」)、プロテインM、または抗原性ポリペプチド)を、感染性マーカー(それによりベクターとのインキュベーション後に導入遺伝子を発現する細胞数が測定される)として用いることができる。
【0055】
CCID50は、規定された接種物質を接種された細胞のうちの50%に感染するであろう感染用量であり、ウイルス増幅および細胞再感染を測定するために用いることができる。CCID50を測定することにより、細胞へのウイルス侵入およびウイルス複製が測定される。それにより、ウイルス粒子数は測定されない。CCID50に関する出力は、顕微鏡観察により決定されるヘキソンタンパク質の免疫染色である。定量化は、培養された細胞のうちの50%に感染させるために必要なウイルス量に基づき、log CCID50/mLとして表わすことができる。
【0056】
感染単位(「IFU」)は、例えば、1mL当たりまたは用量当たりの感染性ウイルス粒子数の指標を提供し、かつ細胞へのウイルス侵入および複製の指標を提供する。IFUはプラークに基づくアッセイであり、出力は顕微鏡観察により決定されるヘキソンタンパク質の免疫染色であり、1ミリリットル当たりの感染単位(IFU/mL)として表わすことができる。定量化は感染性粒子数に基づき、各プラークが1個の感染性粒子を表わす。
【0057】
ヘキソンまたは導入遺伝子による感染性とは、所与の時点で細胞に感染する能力を意味し、ウイルス複製を測定するために用いることができる。出力は、例えば、FACS分析により決定される、例えば、導入遺伝子またはヘキソンタンパク質の免疫染色であり得、このとき、定量化は、陽性細胞数に基づく。
【0058】
本発明の実施形態
具体的な実施形態では、アデノウイルスベクターは、サルアデノウイルスに由来する。例えば、サルアデノウイルスは、新世界ザル、旧世界ザルまたは類人猿由来のアデノウイルスであり得る。サルアデノウイルスは、チンパンジー、ボノボ、ゴリラ、オランウータンまたはマカク由来のアデノウイルスであり得る。本発明のチンパンジーアデノウイルスとしては、限定するものではないが、ChAd3、ChAd63、ChAd83、ChAd155、ChAd157、ChAdOx1およびChAdOx2が挙げられる。そのような株の例は、国際公開第03/000283号、同第2010/086189号および同第2016/198621号に記載されている。本発明のボノボアデノウイルスとしては、限定するものではないが、PanAd1、PanAd2またはPanAd3、Pan 5、Pan 6、Pan 7(C7とも称される)およびPan 9が挙げられる。ボノボベクターは、例えば、国際公開第2005/071093号および同第2010/086189号に見出すことができる。本発明のゴリラアデノウイルスとしては、限定するものではないが、GADNOU19、GADNOU20、GADNOU21、GADNOU25、GADNOU26、GADNOU27、GADNOU28、GADNOU29、GADNOU30およびGADNOU31が挙げられる。ゴリラベクターは、例えば、国際公開第2013/52799号、同第2013/52811号、同第2013/52832号および同第2019/008111号に見出すことができる。
【0059】
本発明の組成物は、Tris、コハク酸塩、ホウ酸塩、Tris-マレイン酸、リジン、ヒスチジン、グリシン、グリシルグリシン、クエン酸塩、炭酸塩またはそれらの組み合わせから選択される緩衝剤を含む。一実施形態では、緩衝剤は、Tris、コハク酸塩またはホウ酸塩である。さらなる実施形態では、緩衝剤はTrisである。緩衝剤は、少なくとも1mM、少なくとも2.5mMまたは少なくとも5mMの量で存在し得る。緩衝剤は、25mM未満、20mM未満または15mM未満の量で存在し得る。例えば、緩衝剤は、1~25mM、2.5~20mMまたは5~15mMの量で存在し得る。一実施形態では、緩衝剤は、約10mMの量で存在する。
【0060】
一実施形態では、本発明の組成物は、最大で約20mMの量で、例えば、約10mMの濃度で、ヒスチジンも含む。
【0061】
一実施形態では、本発明の組成物は、最大で約50mMの量で、例えば、約5mMの濃度で、NaClも含む。
【0062】
一実施形態では、本発明の組成物は、Mg2+もしくはCa2+などの二価金属イオンまたはMgCl2、CaCl2もしくはMgSO4などの塩の形態での二価金属イオンも含む。一実施形態では、二価金属イオンは、Mg2+である。二価金属イオンは、約0.1~10mM、約0.5~5mMまたは約0.5~2.0mMの量で存在し得る。一実施形態では、二価金属イオンはMgCl2であり、かつ約1mMの量で存在する。一実施形態では、本発明の組成物は、外因性の二価金属イオンを含有せず、すなわち、外因性の二価金属イオンが製剤に含められていない。
【0063】
一実施形態では、本発明の組成物は、ポロキサマー界面活性剤またはポリソルベート界面活性剤も含む。一実施形態では、ポロキサマー界面活性剤はポロキサマー188である。一実施形態では、ポリソルベート界面活性剤は、ポリソルベート80および/またはポリソルベート20である。界面活性剤は、約0.01~0.05%(w/v)、例えば、約0.02%、0.025%、0.03%、0.035%、0.04%または0.045%などの量で存在し得る。一実施形態では、界面活性剤はポリソルベート80であり、かつ約0.020~0.030%、または約0.025%(w/v)の量で存在する。
【0064】
一実施形態では、本発明の組成物は、コハク酸α-トコフェロールも含む。一実施形態では、コハク酸α-トコフェロールは、ビタミンEコハク酸である。コハク酸α-トコフェロールは、最大で約0.5mM、例えば、約0.01~0.25mMなど、例えば、0.05mM、0.10mM、0.15mMまたは0.20mMなどの量で存在し得る。一実施形態では、コハク酸α-トコフェロールはビタミンEコハク酸であり、かつ約0.05mMの量で存在する。
【0065】
一実施形態では、本発明の組成物は、最大で約1%(w/v)の量で、例えば、約0.01%、0.025%、0.05%、0.075%、0.1%、0.2%、0.3%、0.4%、0.5%、0.6%、0.7%、0.8%または約0.9%の量で、組み換えヒト血清アルブミンも含む。
【0066】
一実施形態では、本発明の組成物は、少なくとも1種の非晶質糖(スクロース、トレハロース、マンノース、マンニトール、ラフィノース、ラクチトール、ソルビトールおよびラクトビオン酸、グルコース、マルツロース、イソマルツロース、ラクツロース、マルトース、ラクトース、イソマルトース、マルチトール、パラチニット、スタキオース、メレジトース、デキストラン、またはそれらの組み合わせなど)を含む。一実施形態では、非晶質糖は、トレハロース、スクロースまたはスクロースとトレハロースとの組み合わせである。一実施形態では、非晶質糖はスクロースである。一実施形態では、非晶質糖はスクロースとトレハロースとの組み合わせである。一実施形態では、非晶質糖はトレハロースである。
【0067】
一実施形態では、非晶質糖は、約0%~30%(w/v)の量で存在する。一実施形態では、非晶質糖は、最大で約30%(w/v)の量のスクロースである。一実施形態では、スクロースは、約0~10%または0~5%(w/v)の量で、例えば、約2%の量で存在する。別の実施形態では、スクロースは、約10~30%(w/v)の量で、例えば、約16%の量で存在する。
【0068】
一実施形態では、非晶質糖は、最大で約30%(w/v)の量のトレハロースである。一実施形態では、トレハロースは、約10~20%(w/v)の量で、例えば、約15%の量で存在する。
【0069】
一実施形態では、非晶質糖は、約0~10%スクロース(w/v)および約10~30%トレハロース(w/v)の量の;約0~5%スクロースおよび10~20%トレハロースの量の、例えば、約2%スクロースおよび15%トレハロースの量の、スクロースとトレハロースとの組み合わせである。
【0070】
特定の実施形態では、本発明の組成物は、約1~25mM Tris pH6~10、約0~15mMヒスチジン、約0~50mM NaCl、約0.1~10mM MgCl2、約0.01~0.05%ポリソルベート80(w/v)、約0.001~0.5mMビタミンEコハク酸、約0.01~1%(w/v)組み換えヒト血清アルブミンおよび約0~30%(w/v)トレハロースを含む。別の特定の実施形態では、本発明の組成物は、約1~25mM Tris pH6~10、約0~15mMヒスチジン、約0~50mM NaCl、約0.01~0.05%ポリソルベート80(w/v)、約0.001~0.5mMビタミンEコハク酸、約0.01~1%(w/v)組み換えヒト血清アルブミンおよび約0~30%(w/v)トレハロースを含む。
【0071】
特定の実施形態では、本発明の組成物は、約1~25mM Tris pH6~10、約0~15mMヒスチジン、約0~50mM NaCl、約0.1~10mM MgCl2、約0.01~0.05%(w/v)ポリソルベート80、約0.001~0.5mMビタミンEコハク酸、約0.01~1%(w/v)組み換えヒト血清アルブミン、約0~10%(w/v)スクロースおよび約5~25%(w/v)トレハロースを含む。別の特定の実施形態では、本発明の組成物は、約1~25mM Tris pH6~10、約0~15mMヒスチジン、約0~50mM NaCl、約0.01~0.05%(w/v)ポリソルベート80、約0.001~0.5mMビタミンEコハク酸、約0.01~1%(w/v)組み換えヒト血清アルブミン、約0~10%(w/v)スクロースおよび約5~25%(w/v)トレハロースを含む。
【0072】
より詳細な実施形態では、本発明の組成物は、約2.5~20mM Tris pH7.5~9.5、約5~15mMヒスチジン、約0~10mM NaCl、約0.5~5mM MgCl2、約0.01~0.05%(w/v)ポリソルベート80(w/v)、約0.01~0.25mMビタミンEコハク酸、約0~1%w(w/v)組み換えヒト血清アルブミンおよび約5~25%(w/v)トレハロースを含む。別の特定の実施形態では、本発明の組成物は、約2.5~20mM Tris pH7.5~9.5、約5~15mMヒスチジン、約0~10mM NaCl、約0.01~0.05%(w/v)ポリソルベート80(w/v)、約0.01~0.25mMビタミンEコハク酸、約0~1%w(w/v)組み換えヒト血清アルブミンおよび約5~25%(w/v)トレハロースを含む。
【0073】
別のより詳細な実施形態では、本発明の組成物は、約2.5~20mM Tris pH7.5~9.5、約5~15mMヒスチジン、約0~10mM NaCl、約0.5~5mM MgCl2、約0.01~0.05%(w/v)ポリソルベート80、約0.01~0.25mMビタミンEコハク酸、約0~1%(w/v)組み換えヒト血清アルブミンおよび約10~20%(w/v)スクロースを含む。別の特定の実施形態では、本発明の組成物は、約2.5~20mM Tris pH7.5~9.5、約5~15mMヒスチジン、約0~10mM NaCl、約0.01~0.05%(w/v)ポリソルベート80、約0.01~0.25mMビタミンEコハク酸、約0~1%(w/v)組み換えヒト血清アルブミンおよび約10~20%(w/v)スクロースを含む。
【0074】
さらなるより詳細な実施形態では、本発明の組成物は、約5~15mM Tris pH7.5~9.5、約8~12mMヒスチジン、約0.5~2.5mM NaCl、約0.5~5mM MgCl2、約0.015~0.035%(w/v)ポリソルベート80、約0.025~0.1mMビタミンEコハク酸、約0.1~0.5%(w/v)組み換えヒト血清アルブミンおよび約0~5%(w/v)スクロースを含む。別の特定の実施形態では、本発明の組成物は、約5~15mM Tris pH7.5~9.5、約8~12mMヒスチジン、約0.5~2.5mM NaCl、約0.015~0.035%(w/v)ポリソルベート80、約0.025~0.1mMビタミンEコハク酸、約0.1~0.5%(w/v)組み換えヒト血清アルブミンおよび約0~5%(w/v)スクロースを含む。
【0075】
またさらなるより詳細な実施形態では、本発明の組成物は、約5~15mM Tris pH7.5~9.5、約8~12mMヒスチジン、約0.5~2.5mM NaCl、約0.5~5mM MgCl2、約0.015~0.035%(w/v)ポリソルベート80、約0.025~0.1mMビタミンEコハク酸、約0.1~0.5%(w/v)組み換えヒト血清アルブミン、約0~5%(w/v)スクロースおよび約10~20%(w/v)トレハロースを含む。別の特定の実施形態では、本発明の組成物は、約5~15mM Tris pH7.5~9.5、約8~12mMヒスチジン、約0.5~2.5mM NaCl、約0.015~0.035%(w/v)ポリソルベート80、約0.025~0.1mMビタミンEコハク酸、約0.1~0.5%(w/v)組み換えヒト血清アルブミン、約0~5%(w/v)スクロースおよび約10~20%(w/v)トレハロースを含む。
【0076】
またさらなるより詳細な実施形態では、本発明の組成物は、約5~15mM Tris pH7.5~9.5、約8~12mMヒスチジン、約0.5~2.5mM NaCl、約0.5~5mM MgCl2、約0.015~0.035%(w/v)ポリソルベート80、約0.025~0.1mMビタミンEコハク酸、約0.1~0.5%(w/v)組み換えヒト血清アルブミンおよび約10~20%(w/v)スクロースを含む。別の特定の実施形態では、本発明の組成物は、約5~15mM Tris pH7.5~9.5、約8~12mMヒスチジン、約0.5~2.5mM NaCl、約0.015~0.035%(w/v)ポリソルベート80、約0.025~0.1mMビタミンEコハク酸、約0.1~0.5%(w/v)組み換えヒト血清アルブミンおよび約10~20%(w/v)スクロースを含む。
【0077】
最も詳細な実施形態では、本発明の組成物は、約10mM Tris pH8.5、約10mMヒスチジン、約5mM NaCl、約1mM MgCl2、約0.024%(w/v)ポリソルベート80、約0.05mMビタミンEコハク酸、約0.1%(w/v)組み換えヒト血清アルブミンおよび約16%(w/v)トレハロースを含む。別の特定の実施形態では、本発明の組成物は、約10mM Tris pH8.5、約10mMヒスチジン、約5mM NaCl、約0.024%(w/v)ポリソルベート80、約0.05mMビタミンEコハク酸、約0.1%(w/v)組み換えヒト血清アルブミンおよび約16%(w/v)トレハロースを含む。
【0078】
別の最も詳細な実施形態では、本発明の組成物は、約10mM Tris pH8.5、約10mMヒスチジン、約5mM NaCl、約1mM MgCl2、約0.024%w(w/v)ポリソルベート80、約0.05mMビタミンEコハク酸、約0.1%(w/v)組み換えヒト血清アルブミン、約2%(w/v)スクロースおよび約15%(w/v)トレハロースを含む。別の特定の実施形態では、本発明の組成物は、約10mM Tris pH8.5、約10mMヒスチジン、約5mM NaCl、約0.024%w(w/v)ポリソルベート80、約0.05mMビタミンEコハク酸、約0.1%(w/v)組み換えヒト血清アルブミン、約2%(w/v)スクロースおよび約15%(w/v)トレハロースを含む。
【0079】
さらなる最も詳細な実施形態では、本発明の組成物は、約10mM Tris pH8.5、約10mMヒスチジン、約5mM NaCl、約1mM MgCl2、約0.024%(w/v)ポリソルベート80、約0.05mMビタミンEコハク酸、約0.1%(w/v)組み換えヒト血清アルブミンおよび約16%(w/v)スクロースを含む。別の特定の実施形態では、本発明の組成物は、約10mM Tris pH8.5、約10mMヒスチジン、約5mM NaCl、約0.024%(w/v)ポリソルベート80、約0.05mMビタミンEコハク酸、約0.1%(w/v)組み換えヒト血清アルブミン、および約16%(w/v)スクロースを含む。
【0080】
一実施形態では、本発明は、宿主細胞中でサルアデノウイルスを生成させるステップおよび該アデノウイルスと1種以上の賦形剤とを配合するステップにより、本明細書中に記載される水性液体組成物を作製する方法を提供し、このとき、該アデノウイルスは+2~+8℃で少なくとも2年間、安定である。
【0081】
別の実施形態では、本発明は、宿主細胞中でサルアデノウイルスを生成させるステップおよび該アデノウイルスと1種以上の賦形剤とを配合するステップにより、本明細書中に記載される水性液体組成物を作製する方法を提供し、このとき、該アデノウイルスは25℃で少なくとも30日間、安定である。
【0082】
さらなる実施形態では、本発明は、宿主細胞中でサルアデノウイルスを生成させるステップおよび該アデノウイルスと1種以上の賦形剤とを配合するステップにより、本明細書中に記載される水性液体組成物を作製する方法を提供し、このとき、該アデノウイルスは30℃で少なくとも7日間、安定である。
【0083】
本発明の水性組成物は、シリコーン処理されている(siliconized)かまたはシリコーン処理されていないかのいずれかであり得るガラスバイアル中に収容することができる。水性組成物は、プレフィルドシリンジ、成形同時充填(blow-fill-seal)を用いるかまたは用いないプラスチック容器、皮内投与用の極微針デバイスおよびウイルス収容用に用いられる他の容器中に収容することができる。
【0084】
別途説明しない限り、本明細書中で用いられるすべての技術用語および科学用語は、本開示が属する技術分野の当業者により一般的に理解されるのと同じ意味を有する。単数形「a」、「an」、および「the」は、文脈により別途明らかに示されない限り、複数の指示対象を含む。同様に、単語「or」とは、文脈により別途明らかに示されない限り、「and」を含むことが意図される。
【0085】
溶液成分濃度またはその比率などの物質の濃度またはレベル、ならびに温度、圧力およびサイクル時間などの反応条件に関して与えられる数値的限定は、近似値であることが意図される。本明細書中で用いられる用語「約」とは、その量±10%を意味することが意図される。
【0086】
用語「含む」(comprises)とは「包含する」(includes)ことを意味する。つまり、文脈がそうでないことを要求しない限り、単語「含む」(comprises)ならびに「含む」(comprise)および「含むこと」(comprising)などの変化形は、明記される化合物もしくは組成物(例えば、核酸、ポリペプチド、抗原)またはステップ、あるいは化合物またはステップの群の包含を暗示するが、他の化合物、組成物、ステップまたはそれらの群の除外を暗示するものではないと理解される。略語「e.g.」(例えば)とは、ラテン語の「exempli gratia」に由来し、非限定的な例を示すために本明細書中で用いられる。つまり、略語「e.g.」は、用語「for example」と同義である。
【0087】
用語「実質的に」は、「完全に」を排除しない。例えば、Xを実質的に含まない組成物は、Xを完全に含まない場合がある。
本発明は以下の態様も提供する。
[1] サルアデノウイルスベクター、非晶質糖、ビタミンEコハク酸および組み換えヒト血清アルブミンを含む水性組成物。
[2] 前記非晶質糖がスクロースである、[1]に記載の組成物。
[3] スクロースの濃度が、約30%(w/v)未満、例えば、約25%(w/v)未満、約10%~約20%(w/v)または約16%(w/v)である、[2]に記載の組成物。
[4] 前記非晶質糖がトレハロースである、[1]に記載の組成物。
[5] トレハロースの濃度が、約1%~約30%(w/v)、例えば、約10%~約20%(w/v)、約15%~約16%(w/v)である、[3]に記載の組成物。
[6] ビタミンEコハク酸の濃度が約0.001mM~約0.5mMである、[1]~[5]のいずれか1項に記載の組成物。
[7] 組み換えヒト血清アルブミンの濃度が約0.01%~約1.0%である、[1]~[6]のいずれか1項に記載の組成物。
[8] 緩衝剤をさらに含む、[1]~[7]のいずれか1項に記載の組成物。
[9] 前記緩衝剤が、約1.0mM~約25mMの濃度のTris pH6~10である、[8]に記載の組成物。
[10] ヒスチジンをさらに含む、[1]~[9]のいずれか1項に記載の組成物。
[11] ヒスチジンの濃度が約15mM未満である、[10]に記載の組成物。
[12] 塩化ナトリウムをさらに含む、[1]~[11]のいずれか1項に記載の組成物。
[13] 塩化ナトリウムの濃度が約30mM未満である、[12]に記載の組成物。
[14] 界面活性剤をさらに含む、[1]~[13]のいずれか1項に記載の組成物。
[15] 前記界面活性剤が、ポロキサマー界面活性剤およびポリソルベート界面活性剤から選択される、[14]に記載の組成物。
[16] 前記界面活性剤が、約0.01%(w/v)~約0.05%(w/v)の濃度のポリソルベート80である、[15]に記載の組成物。
[17] 二価金属塩をさらに含む、[1]~[16]のいずれか1項に記載の組成物。
[18] 前記二価金属塩が、MgCl2、CaCl2およびMgSO4から選択される、[17]に記載の組成物。
[19] 前記二価金属塩が、約0.1mM~約10.0mMの濃度のMgCl2である、[18]に記載の組成物。
[20] 前記サルアデノウイルスベクターが、チンパンジー、ボノボまたはゴリラベクターである、[1]~[19]のいずれか1項に記載の組成物。
[21] 前記サルアデノウイルスベクターがチンパンジーベクターである、[20]に記載の組成物。
[22] 前記チンパンジーベクターが、血清型Cまたは血清型Eベクターから選択される、[21]に記載の組成物。
[23] 前記チンパンジーベクターが、ChAd3、ChAd63、ChAd83、ChAd155、ChAd157、 ChAdOx1およびChAdOx2から選択される、[21]に記載の組成物。
[24] 前記サルアデノウイルスベクターがボノボベクターである、[20]に記載の組成物。
[25] 前記サルアデノウイルスベクターがゴリラベクターである、[20]に記載の組成物。
[26] 前記サルアデノウイルスベクターの濃度が、1ミリリットル当たり約1×106個~約1×1012個のウイルス粒子である、[1]~[25]のいずれか1項に記載の組成物。
[27] 導入遺伝子を含む、[1]~[26]のいずれか1項に記載の組成物。
[28] 前記導入遺伝子が免疫原性導入遺伝子である、[27]に記載の組成物。
[29] 前記サルアデノウイルスベクターが複製欠損であるか、または該サルアデノウイルスベクターが複製可能である、[1]~[28]のいずれか1項に記載の組成物。
[30] 前記サルアデノウイルスベクターが複製欠損である、[29]に記載の組成物。
[31] 前記サルアデノウイルスベクターが複製可能である、[29]に記載の組成物。
[32] サルアデノウイルスベクター、非晶質糖、ビタミンEコハク酸および組み換えヒト血清アルブミンを含む水性組成物であって、該サルアデノウイルスベクターが4℃で少なくとも6ヵ月間安定である、上記組成物。
[33] 前記組成物が、4℃で少なくとも12ヵ月間安定である、[32]に記載の組成物。
[34] 前記組成物が、4℃で少なくとも16ヵ月間安定である、[33]に記載の組成物。
[35] 前記組成物が、4℃で少なくとも18ヵ月間安定である、[34]に記載の組成物。
[36] 前記組成物が、4℃で少なくとも24ヵ月間安定である、[32]に記載の組成物。
[37] サルアデノウイルスベクター、非晶質糖、ビタミンEコハク酸および組み換えヒト血清アルブミンを含む水性組成物であって、該サルアデノウイルスベクターが25℃で少なくとも15日間安定である、上記組成物。
[38] 前記組成物が、25℃で少なくとも30日間安定である、[37]に記載の組成物。
[39] サルアデノウイルスベクター、非晶質糖、ビタミンEコハク酸および組み換えヒト血清アルブミンを含む水性組成物であって、該サルアデノウイルスベクターが30℃で少なくとも4日間安定である、上記組成物。
[40] 前記組成物が、30℃で少なくとも7日間安定である、[39]に記載の組成物。
[41] (a) 宿主細胞中でサルアデノウイルスを生成させるステップ;および
(b) 該アデノウイルスと1種以上の賦形剤とを配合するステップ
を含む、サルアデノウイルスベクター、非晶質糖、ビタミンEコハク酸および組み換えヒト血清アルブミンを含む水性組成物の作製方法であって;
該アデノウイルスが、(i) +2~+8℃で少なくとも6ヵ月間;または(ii) 25℃で少なくとも15日間;または(iii) 30℃で少なくとも4日間安定である、上記方法。
[42] ワクチンとしての使用のための[1]~[40]のいずれか1項に記載の組成物。
[43] 感染性疾患の予防または治療のための医薬の製造での、[1]~[40]のいずれか1項に記載の組成物の使用。
[44] 前記サルアデノウイルスベクターによりコードされる導入遺伝子に対する免疫応答を誘導するための、[1]~[40]のいずれか1項に記載の組成物の使用。
[45] [1]~[40]のいずれか1項に記載の組成物を被験体に投与するステップを含む、被験体において免疫応答を引き起こす方法。
[46] 前記被験体がヒトである、[45]に記載の方法。
[47] [1]~[40]のいずれか1項に記載の組成物を被験体に投与するステップを含む、被験体における感染性疾患の予防または治療のための方法。
[48] 前記被験体がヒトである、[47]に記載の方法。
【0088】
本発明を、ここで以下の非限定的な例によってさらに説明する。
【実施例
【0089】
実施例1:安定性に対する賦形剤の影響の要因試験
ChAd155-RSV(国際公開第2016/198599号)を、10mM Tris pH8.5、25mM NaCl、8%スクロース(w/v)、0.02%ポリソルベート80(w/v)および1mM MgCl2中に、1ミリリットル当たり1×1011ウイルス粒子単位(「pu/mL」)の濃度で製剤化し、続いて、3日間または7日間にわたって30℃の温度に曝露した後、安定性に関して試験した。5種類の賦形剤を、5因子(賦形剤)を有する25-1一部実施要因設計研究で、頂点(corner)における16回の試行(run)および4個の中心点で試験した。因子は、(1) MgSO4、濃度15mMまたは30mM;(2) エタノール、濃度1.54%または3.07%;(3) TRAVASOL、濃度1mMまたは4mM;(4) rHSA、濃度0.05%または0.5%;および(5)ビタミンEコハク酸(VES)、濃度1mMまたは2mMとした。安定性は、分析的HPLCによりウイルス粒子を測定することにより決定した。感染性を保持するウイルスの能力を、ウイルス接種後にアデノウイルスヘキソンカプシドタンパク質を発現する細胞数として測定し、比較を以下の表に示す。
【0090】
【表1】
【0091】
【表2】
【0092】
PICOGREEN分析は、VESが約30%の影響に寄与し、かつウイルス安定性に対して正の作用を有することを示した。Travasolは約18%に寄与し、かつ負の影響を有した。試験された他の因子は、単独および他の因子との組み合わせのいずれでも、本分析では無視できるほどの影響しか有しなかった。
【0093】
PICOGREENおよび分析的HPLCにより測定した安定性;ならびにヘキソンタンパク質により測定した感染性の両方を考慮すると、5種類の賦形剤の包括的順位は、VES>rHSA>エタノール>MgSO4>TRAVASOLであった。VESは、熱処理に耐えるアデノウイルスの能力に対して正の影響を有した。VESは、熱処理に対する変動性寄与(variability contribution)のうちの50%を占め、感染性に対する変動性寄与のうちの20%を占めた。組み換えHSAは、ウイルスの熱安定性を増大させ、一方で、VESは、熱安定性を増大させ、かつ同時に光曝露後の金属触媒酸化を防止した。TRAVASOLおよびMgSO4はいずれも、感染性に対して負の影響を有し、後者は30℃での3日目から7日目の間の感染性の17%の低下を誘導した。
【0094】
本発明者らは、rHSAが、溶液中でアデノウイルスが凝集するのを防ぐことを見出した。呼吸器合胞体ウイルス(RSV)導入遺伝子を有するサルアデノウイルスを、rHSAの存在下および非存在下で比較した。ゲル電気泳動実験の結果は、rHSAが、高分子量アデノウイルス多量体の形成を実質的に低下させることを実証した。組み換えHSAはまた、抗酸化作用も有する。
【0095】
実施例2:安定性および感染性に対する糖組成、浸透圧、VESおよびrHSAの影響
ChAd155-RSVを、最初の12種類の組成物に関して、以下の表に示される濃度のTris pH8.5、NaCl、ポリソルベート80(w/v)、ヒスチジン、MgCl2、トレハロース、スクロース、rHSAおよびVES中に、10%過剰分を含む1×1011pu/mLの濃度で製剤化した。組成物13~15は、シロップの構想を試験するために2倍濃度で製剤化し、続いて分析前に希釈した。
【0096】
【表3】
【0097】
上記の組成物のそれぞれを、安定性および感染性に対する高浸透圧および糖組成の影響を調べるために、4℃の温度に3ヵ月間、または30℃に1ヵ月間曝露した後、安定性について試験した。浸透圧は、安定性または感染性のいずれにもほとんどまたはまったく影響を有しなかった。
【0098】
図1に示す通り、ウイルス組成物のうちの大多数が、4℃で少なくとも2.5ヵ月間(左パネル)および30℃で1週間(右パネル)、安定であった。4℃で3ヵ月間後、組成物1~12は安定のままであった。30℃で2週間または1ヵ月間後に(右パネル:それぞれ、点線白丸および点中実丸)、低濃度、中濃度または高濃度のいずれかのトレハロースを含有する組成物へのVESの添加が、遊離DNAの量の低下により測定された場合に、VESの非存在下の組成物と比較して、増大したウイルス安定性を示した。安定性に対する同じ正の作用が、低濃度、中濃度または高濃度のトレハロースを含有する組成物へのVESおよびrHSAの両方の添加により観察された。スクロースによってトレハロースを置き換えることにより、VESおよびVES+rHSAの有益な作用が低下し、シロップを生成するために糖濃度を2倍にした場合も同様であった。
【0099】
実施例3:4℃または25℃での安定性に対するトレハロース、スクロース、VESおよびrHSAの影響
ChAd155-RSVを、以下の表に示される通りに製剤化した。安定性に対するトレハロース、スクロース、VESおよびrHSAの影響を調べるために、3週間にわたって4℃または25℃の温度に曝露した後に、分析的HPLCにより安定性に関して各製剤を試験した。
【0100】
【表4】
【0101】
ウイルスを、試験対象の各製剤中で、4℃にて3週間(左パネル)および25℃にて少なくとも1週間(右パネル)、維持した(図2)。25℃での1週間後、分解は観察されなかった。25℃での3週間後、幾分かの分解が生じ始め、製剤成分の影響の差異が観察できた。VESは、スクロースに基づく製剤またはトレハロースに基づく製剤中に含められた場合に、ウイルス安定性を増大させた。rHSAの添加は、追加された糖の存在下および非存在下の両方で、安定性をさらに増大させた。
【0102】
実施例4:4℃での安定性および感染性に対するトレハロース、スクロース、VESおよびrHSAの影響
ChAd155-RSVを、10mM Tris pH8.5、10mMヒスチジン、5mM NaCl、1mM MgCl2および0.024%ポリソルベート80(w/v)中に、以下の表に示される通りにトレハロース、スクロース、VESおよびrHSAを添加して、1.1×1011pu/mLまたは1.1×1010pu/mL(10%の過剰分を考慮する)のウイルス濃度で製剤化した。安定性を、0日目、42日目、91日目、145日目および186日目にサンプル採取することによって、2回の別々のHPLC実行でのHPLCにより、6ヵ月間にわたって、4℃で決定した。感染性は、感染単位プラークアッセイにより、トレハロース、スクロースVESおよびrHSAの存在下で測定した。
【0103】
【表5】
【0104】
図3Aに示される通り、10mM Tris pH8.5、5mM NaCl、0.024%ポリソルベート80(w/v)、1mM MgCl2、ヒスチジン10mM、15%トレハロース(w/v)、2%スクロース(w/v)、0.05mM VESおよび0.1%rHSA(w/v)中に1.1×1011pu/mLの濃度で製剤化したアデノウイルスを、186日間の期間にわたって4℃で観察すると、安定性の緩徐で着実な低下が示された。外挿した場合、これらのデータから、2年間にわたって約30%および3年間にわたって約45%の合計ウイルス含有量の平均減衰が予測される。
【0105】
10mM Tris pH8.5、5mM NaCl、0.024%ポリソルベート80(w/v)、1mM MgCl2、ヒスチジン10mM、16%スクロース、および0.05mM VES中に1.1×1011pu/mLの濃度で製剤化したアデノウイルスを、186日間の期間にわたって4℃で観察した場合にも、安定性の着実な低下が示された(図3B)。外挿した場合、これらのデータから、2年間にわたって約85%の合計ウイルス含有量の平均減衰が予測される。
【0106】
10mM Tris pH8.5、5mM NaCl、0.024%ポリソルベート80(w/v)、1mM MgCl2、ヒスチジン10mM、15%トレハロース(w/v)、2%スクロース(w/v)、0.05mM VESおよび0.1%rHSA(w/v)中に1.1×1010pu/mLの濃度で製剤化したアデノウイルスを、186日間の期間にわたって4℃で観察した場合には、安定性の顕著な低下は示されなかった(表および図3C)。
【0107】
実施例5:加速された安定性の評価
以下に示される2種類の実験により、VESおよびrHSAを含有するサルアデノウイルスの製剤は、熱安定性であり、かつその感染特性を保持することがさらに実証される。
【0108】
実験1:4℃および25℃で30日間
熱安定性
アデノウイルスを、7.5×1010pu/mLまたは7.5×109pu/mL(10%過剰分を含む)の濃度で、10mM Tris pH8.5、5mM NaCl、0.024%ポリソルベート80(w/v)、10mMヒスチジンおよび1mM MgCl2に、(1) 16%スクロース(w/v)+0.05mM VES;(2) 16%スクロース(w/v)+0.05%VES+0.1%rHSA(w/v);または(3) 15%トレハロース(w/v)+2%スクロース(w/v)+0.05mM VES+0.1%rHSA(w/v)のいずれかを添加した中に、以下の表に示される通りに製剤化した。ウイルスを、4℃または25℃のいずれかの温度で30日間維持した。分析的HPLC、PICOGREEN、ならびにDNAおよびRNAヌクレアーゼの両方であるベンゾナーゼの存在下および非存在下での定量的PCRにより、安定性を評価した。
【0109】
【表6】
【0110】
これらの結果により、3種類すべての組成物が、熱安定性のサルアデノウイルス製剤を提供することが実証される。上記の表に示される通り、分析的HPLCにより測定した時、7.5×109pu/mLのウイルス濃度で試験された3種類の製剤のいずれにおいても、25℃での30日間後に顕著な分解は観察されず、製剤同士の間に安定性の顕著な差はなかった。
【0111】
7.5×1010pu/mLのウイルス濃度では、8~19%のウイルス粒子の減少が観察され、スクロース+VES製剤で生じた減少が最も大きかった。スクロース+VES+rHSA製剤で生じた減少は、他の2種類の製剤で観察された減少よりも顕著に低かった。
【0112】
PICOGREENにより7.5×1010pu/mLのウイルス濃度で測定した場合、ウイルスカプシドから放出されたDNAの正規化平均は、3種類すべての製剤で4℃よりも25℃での30日間後に高かった。qPCRにより7.5×1010pu/mLのウイルス濃度で測定した場合、1mL当たりのゲノム当量数は、4℃と比較して25℃での30日間後に3種類すべての製剤で低下したが、ベンゾナーゼの非存在下でアッセイしたスクロース+VES+rHSA製剤は例外であった。最も小さな低下は、ベンゾナーゼの存在下および非存在下の両方のスクロース+VES+rHSAで観察された。
【0113】
感染性
アデノウイルスを、7.5×1010pu/mLの濃度で、10mM Tris pH8.5、5mM NaCl、0.024%ポリソルベート80(w/v)、ヒスチジン10mM、1mM MgCl2に、(1) 16%スクロース(w/v)+0.05mM VES;(2) 16%スクロース(w/v)+0.05mM VES+0.1%rHSA;または(3) 15%トレハロース(w/v)+0.05mM VES+0.1%rHSAのいずれかを添加した中に製剤化した。ウイルスを、4℃または25℃のいずれかの温度で30日間維持した。
【0114】
【表7】
【0115】
感染性は、FACS分析によって感染単位を測定することにより決定した。7.5×1010pu/mLのウイルス濃度では、幾分かの僅かな感染性の低下はあったものの、3種類すべての製剤で、ウイルスは感染性を保持した。低下は、他の2種類の製剤よりも、スクロース+VES+rHSAで顕著に低かった。これらの結果は、上述の組成物中に製剤化した場合に、サルアデノウイルスが感染性を保持したことを示す。
【0116】
実験2:30℃で7日間または25℃で30日間
安定性
アデノウイルスを、7.5×1010pu/mLの濃度で、10mM Tris pH8.5、5mM NaCl、0.024%ポリソルベート80(w/v)、10mMヒスチジンおよび1mM MgCl2に、(1) 16%スクロース+0.05mM VES;(2) 16%スクロース+0.05mM VES+0.1%rHSA;または(3) 15%トレハロース+0.05mM VES+0.1%rHSAのいずれかを添加した中に、以下の表に示される通りに製剤化した。ウイルスを、(1) 4℃で保存するか;30℃の温度で7日間維持するか;または25℃の温度で30日間維持した。両方の安定性加速条件下で、分析的HPLC、PICOGREEN、ならびにベンゾナーゼの存在下および非存在下での定量的PCRにより、安定性を評価した。
【0117】
【表8】
【0118】
分析的HPLCにより測定した場合に、4~10%のウイルス粒子減少はあったものの、3種類すべての製剤中で、30℃で7日間、サルアデノウイルスベクターは安定なままであった。予想される通り、ウイルス粒子減少は、25℃での30日間後により顕著であった。スクロース+VES+rHSAでのウイルス粒子減少は、他の2種類の製剤よりも低かった。
【0119】
PICOGREENにより測定した場合、ウイルスカプシドから放出されたDNAの正規化平均は、予想通り、3種類すべての製剤において、30℃での7日間後には幾分か高く、4℃よりも25℃での30日間後に顕著に高かった。放出されたDNAの割合(%)は、新鮮に解凍された対照群と60℃に30分間曝露した対照(それによりウイルスカプシドを完全に分解された)との間の回帰に基づいた。
【0120】
qPCRにより測定した場合に、3種類すべての製剤はまた、許容可能な熱安定性プロフィールを支持した。予想通り、1mL当たりのゲノム当量数は、3種類すべての製剤中で25℃での30日間後(ベンゾ(+))に幾分か低下し、かつスクロース+VESおよびトレハロース+VES+rHSAで30℃での7日間後に低下した。ここでも、最良の結果は、スクロース+VES+rHSAで得られ、30℃での7日間後に2%のみの減少、および25℃での30日間後に7%のみの減少であった。
【0121】
感染性
アデノウイルスを、7.5×1010pu/mLの濃度で、10mM Tris pH8.5、5mM NaCl、0.02%ポリソルベート80(w/v)、ヒスチジン10mM、1mM MgCl2に、(1) 16%スクロース(w/v)+0.05mM VES;(2) 16%スクロース(w/v)+0.05mM VES+0.1%rHSA(w/v);または(3) 15%トレハロース(w/v)+0.05mM VES+0.1%rHSA(w/v)のいずれかを添加した中に、以下の表に示される通りに製剤化した。ウイルスを、4℃で保存するか、または30℃で7日間維持するか、または25℃で30日間維持した。感染性は、FACS分析によって感染単位を測定することにより決定した。
【0122】
【表9】
【0123】
予想通り、30℃での7日間後および25℃での30日間後に、3種類すべての製剤でウイルス感染性の幾分かの低下が観察された。この低下は僅かであり、30℃での7日間後に3種類すべての製剤で約3%のIUの低下、および25℃で30日間後に約7~9%の低下であった。感染性比率、すなわち、合計ウイルス粒子数に対する感染性ウイルス粒子数の比率は、IU結果に対する分析的HPLCの比率を算出することにより決定した。
【0124】
実施例6:安定性データの外挿
経時的なウイルス粒子減少を外挿する統計学モデルを用いて安定性研究の外挿からのデータを分析し、経時的なウイルス粒子安定性の低下を推定した。線形および一次減衰モデルが用いられ、結果を以下の表に示す。
【0125】
【表10】
【0126】
0次減衰としても知られる線形モデルでは、製品特性、すなわち、安定性は、時間と共に直線的に減少し、Y=α0+α1×時間として算出される。対数変換データに対する線形モデルである一次減衰モデルでは、製品特性減衰、すなわち、安定性の減衰は、時間と共に減少し、Log(Y)=α0+α1×時間として算出される。「Y」は品質属性であり、例えば、合計粒子または感染性粒子である。「α0」は切片であり、すなわち、開始時間ゼロでのYの値である。「α1」は経時的な勾配であり、すなわち、分解速度である。
【0127】
以下の賦形剤を、下記の表に示される通りに、感染性に対するその影響に関して、一定濃度範囲において37℃でスクリーニングした。
【表11】
【0128】
感染性に影響を及ぼす主要な変数は、VESおよびMgCl2であった。感染性の最も大きな減少は、高濃度のMgCl2および低濃度のVESで観察された。これらの賦形剤のいずれかが製剤中にプロテアーゼを持ち込む場合、製剤中に存在するメタロプロテアーゼが、感染性に対するMgCl2の悪影響の原因である可能性があり、例えば、キレート剤、プロテアーゼ阻害剤、ザイモグラム、ならびにベンゾナーゼおよびrHSAの用量範囲の最適化の影響を決定することにより、調査することができる。感染性に対するMgCl2の悪影響は、MgCl2の濃度を増加させること、プロテアーゼ結合部位に過負荷をかけること、または、代替的に、製剤からMgCl2を除去することにより、克服できる可能性がある。
【0129】
実施例7:免疫原性
Balb/cマウスを、(a) 10mM Tris pH8.5、10mMヒスチジン、5mM NaCl、16%スクロース(w/v)、0.024%ポリソルベート80(w/v)、1mM MgCl2、0.05mM VESおよび0.1%rHSAまたは(b) 10mM Tris pH7.4、10mMヒスチジン、1mM MgCl2、0.02%ポリソルベート80、25mM NaClおよび8%スクロースを含有する凍結乾燥製剤中に製剤化された3×107個または3×106個のいずれかのChAd155-RSVのウイルス粒子を用いて免疫した。
【0130】
T細胞応答を、RSV-M2免疫優勢CD8エピトープを用いたex vivo IFN-γ酵素結合免疫スポット法(ELISpot)により、免疫化から3週間後に測定し、結果を図4に示す。各点は、1匹のマウスでの応答を表す。結果は、100万個の脾細胞当たりのIFN-γスポット形成細胞として表わされる。水平線は、各用量群に関するIFN-γSFC/脾細胞100万個の平均数「幾何平均」(geomean)を表わす。
【0131】
図4は、RSV特異的T細胞が、3×107個または3×106個のウイルス粒子のいずれかを用いて免疫されたマウスの脾臓中で検出されたことを実証する。本発明の液体組成物は、凍結乾燥製剤に匹敵した。したがって、本発明の組成物は、免疫原性サルアデノウイルス製剤として用いることができる。
【0132】
実施例8:金属および光酸化への曝露による強制的分解
ChAd155-RSVを、1ミリリットル当たり3×1010個または2.8×1011個のウイルス粒子の濃度で、10mM Tris pH8.5、25mM NaCl、8%スクロース(w/v)、0.02%ポリソルベート80(w/v)および1mM MgCl2中に製剤化し、続いて、30℃、37℃または42℃にて3日間、8日間または10日間、加速酸化試験(AOT)条件下での金属および光酸化へと曝露した。光照射条件は、320~380nmで765W/m2とした。酸化条件では、上記の光照射条件下で、Cu+2、Ni+2、Fe+3およびCr+3をそれぞれ1.5ppm含有する金属カクテルに対してアデノウイルス製剤を曝露する。試験対象の賦形剤には、アスコルビン酸、クエン酸塩、システイン、ジエチレントリアミン五酢酸(DTPA)、エチレンジアミン四酢酸(EDTA)、グルタミン酸塩およびビタミンEコハク酸(VES)を含めた。安定性は、分析的高速液体クロマトグラフィー(HPLC)により測定し、結果は1ミリリットル当たりのHPLCウイルス粒子単位(pu/mL)として表した。点線白丸はAOT条件の非存在下での安定性(AOT(-)バイアル)を示し、実線白丸はAOT条件の存在下での安定性(AOT(+)バイアル)を示す。図5に示される通り、最良の結果は、VESが存在する場合に得られ;安定性は、金属および光誘導性酸化の存在下および非存在下の両方で高いままであった。
図1
図2
図3A
図3B
図3C
図4
図5