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特許7279110軽度認知障害(MCI)の診断、アルツハイマー病(AD)型認知症の発症の予測、ならびにMCIの処置または認知症発症の予防のための薬剤のスクリーニングおよびモニタリング
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-05-12
(45)【発行日】2023-05-22
(54)【発明の名称】軽度認知障害(MCI)の診断、アルツハイマー病(AD)型認知症の発症の予測、ならびにMCIの処置または認知症発症の予防のための薬剤のスクリーニングおよびモニタリング
(51)【国際特許分類】
   G01N 33/68 20060101AFI20230515BHJP
   G01N 33/483 20060101ALI20230515BHJP
【FI】
G01N33/68
G01N33/483 C
【請求項の数】 9
【外国語出願】
(21)【出願番号】P 2021091285
(22)【出願日】2021-05-31
(62)【分割の表示】P 2018563394の分割
【原出願日】2017-02-22
(65)【公開番号】P2021156891
(43)【公開日】2021-10-07
【審査請求日】2021-06-24
(31)【優先権主張番号】62/298,182
(32)【優先日】2016-02-22
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(73)【特許権者】
【識別番号】518298348
【氏名又は名称】ザ・ウエスト・バージニア・ユニバーシティー・ボード・オブ・ガバナース・オン・ビハーフ・オブ・ウエスト・バージニア・ユニバーシティー
(74)【代理人】
【識別番号】110003708
【氏名又は名称】弁理士法人鈴榮特許綜合事務所
(74)【代理人】
【識別番号】100108855
【弁理士】
【氏名又は名称】蔵田 昌俊
(74)【代理人】
【識別番号】100103034
【弁理士】
【氏名又は名称】野河 信久
(74)【代理人】
【識別番号】100179062
【弁理士】
【氏名又は名称】井上 正
(74)【代理人】
【識別番号】100199565
【弁理士】
【氏名又は名称】飯野 茂
(74)【代理人】
【識別番号】100153051
【弁理士】
【氏名又は名称】河野 直樹
(72)【発明者】
【氏名】フローリン・ブイ.・チリラ
(72)【発明者】
【氏名】ダニエル・エル.・アルコン
【審査官】中村 直子
(56)【参考文献】
【文献】特表2013-506844(JP,A)
【文献】特表2013-520652(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2012/0141498(US,A1)
【文献】国際公開第2015/103495(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01N 33/48-33/98
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
軽度認知障害(MCI)の対象のアルツハイマー病(AD)認知症の臨床発症までの時間を予測する方法であって、
(a)前記対象からの1つ以上の細胞を使用して1つ以上の診断バイオマーカーのアウトプットシグナルを決定することであって、前記診断バイオマーカーは、AD指数バイオマーカー、形態測定画像化バイオマーカーおよびプロテインキナーゼC(PKC)イプシロンバイオマーカーから選択されること
ここで、
(ア)前記診断バイオマーカーがAD指数バイオマーカーの場合には、前記アウトプットシグナルは、(i)前記1つ以上の細胞をPKC活性化剤で処理すること;(ii)リン酸化された第1のMAPキナーゼタンパク質対リン酸化された第2のMAPキナーゼタンパク質の比を測定することであって、前記リン酸化された第1および第2のMAPキナーゼタンパク質は工程(i)の処理の後に前記細胞から得られること;(iii)工程(i)で使用するPKC活性化剤で処理していない前記1つ以上の細胞において、リン酸化された第1のMAPキナーゼタンパク質対リン酸化された第2のMAPキナーゼタンパク質の比を測定すること;ならびに、(iv)工程(iii)で得られる比を工程(ii)で得られる比から引き算することにより計算され、
(イ)前記診断バイオマーカーが形態測定画像化バイオマーカーの場合には、前記アウトプットシグナルは、前記細胞を培養して細胞凝集体を形成させ、前記細胞凝集体の平均面積(A)を細胞凝集体の数(N)によって割り算して凝集体数あたりの平均面積(A/N)を得、(A/N)の自然対数を計算することによって決定され、または
(ウ)前記診断バイオマーカーがPKCイプシロンバイオマーカーの場合には、前記アウトプットシグナルは、前記細胞をAβペプチドと接触させる前の細胞でPKCイプシロンレベルを得、前記細胞をAβペプチドと接触させた後の細胞でのPKCイプシロンレベルの変化を決定し、前記PKCイプシロンレベルの変化の勾配(S)と切片(I)との比として前記アウトプットシグナルを計算することによって決定される;
(b)工程()で決定されるアウトプットシグナルに基づいて前記AD認知症の臨床発症までの時間を決定することであって、工程()はさらに、
(1)AD細胞の前記診断バイオマーカーのアウトプットシグナルをそれらのAD期間の関数としてプロットすることであって、前記AD期間は、ADの臨床発症時のAD対象の年齢と前記診断バイオマーカーのアウトプットシグナルを生成するために1つ以上の細胞を収集する時点の前記AD対象の年齢の間の年齢差であること;
(2)工程(1)のプロットされたアウトプットシグナルに関数をあてはめること;および
(3)工程()で決定される診断バイオマーカーのアウトプットシグナルをあてはめ関数にインプットし、前記AD認知症の臨床発症までの時間を決定することを含み;ならびに
(c)前記決定されたAD認知症の臨床発症までの時間を、前記AD認知症の臨床発症までの時間とみなすこと、
を含む方法。
【請求項2】
前記あてはめ関数が線形関数である、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
軽度認知障害(MCI)の対象のアルツハイマー病(AD)認知症の臨床発症までの時間を予測する方法であって、
(a)前記対象からの1つ以上の細胞を使用して1つ以上の診断バイオマーカーのアウトプットシグナルを決定することであって、前記診断バイオマーカーは、AD指数バイオマーカー、形態測定画像化バイオマーカーおよびプロテインキナーゼC(PKC)イプシロンバイオマーカーから選択されること
ここで、
(ア)前記診断バイオマーカーがAD指数バイオマーカーの場合には、前記アウトプットシグナルは、(i)前記1つ以上の細胞をPKC活性化剤で処理すること;(ii)リン酸化された第1のMAPキナーゼタンパク質対リン酸化された第2のMAPキナーゼタンパク質の比を測定することであって、前記リン酸化された第1および第2のMAPキナーゼタンパク質は工程(i)の処理の後に前記細胞から得られること;(iii)工程(i)で使用するPKC活性化剤で処理していない前記1つ以上の細胞において、リン酸化された第1のMAPキナーゼタンパク質対リン酸化された第2のMAPキナーゼタンパク質の比を測定すること;ならびに、(iv)工程(iii)で得られる比を工程(ii)で得られる比から引き算することにより計算され、
(イ)前記診断バイオマーカーが形態測定画像化バイオマーカーの場合には、前記アウトプットシグナルは、前記細胞を培養して細胞凝集体を形成させ、前記細胞凝集体の平均面積(A)を細胞凝集体の数(N)によって割り算して凝集体数あたりの平均面積(A/N)を得、(A/N)の自然対数を計算することによって決定され、ならびに/または
ウ)前記診断バイオマーカーがPKCイプシロンバイオマーカーの場合には、前記アウトプットシグナルは、前記細胞をAβペプチドと接触させる前の細胞でPKCイプシロンレベルを得、前記細胞をAβペプチドと接触させた後の細胞でのPKCイプシロンレベルの変化を決定し、前記PKCイプシロンレベルの変化の勾配(S)と切片(I)との比として前記アウトプットシグナルを計算することによって決定される;ならびに
)工程()で決定されるアウトプットシグナルに基づいて前記AD認知症の臨床発症までの時間を決定することであって、工程(b)はさらに、
(1)AD細胞の前記診断バイオマーカーのアウトプットシグナルをそれらのAD期間の関数としてプロットすることであって、前記AD期間は、ADの臨床発症時のAD対象の年齢と前記診断バイオマーカーのアウトプットシグナルを生成するために1つ以上の細胞を収集する時点の前記AD対象の年齢の間の年齢差であること;
(2)AC細胞の前記診断バイオマーカーのアウトプットシグナルをそれらの年齢の差の関数としてプロットすることであって、前記年齢の差は、前記診断バイオマーカーのアウトプットシグナルを生成するために1つ以上の細胞を収集する時点のAC対象の年齢と前記診断バイオマーカーのアウトプットシグナルを生成するために1つ以上の細胞を収集する時点の最高齢のAC対象の年齢の間の差であること;
(3)工程(1)および(2)のプロットされたアウトプットシグナルに関数をあてはめること;ならびに
(4)工程()で決定される診断バイオマーカーのアウトプットシグナルをあてはめ関数にインプットし、前記AD認知症の臨床発症までの時間を決定することを含み;ならびに
(c)前記決定されたAD認知症の臨床発症までの時間を、前記AD認知症の臨床発症までの時間とみなすこと、
を含む方法。
【請求項4】
前記あてはめ関数がロジスティック関数である、請求項3に記載の方法。
【請求項5】
1つ以上の以降の時点で工程(a)から(c)を反復することを含む、MCIの進行をモニタリングすることをさらに含み、上記の工程()で決定される前記アウトプットシグナルが経時的に増加した場合は前記対象がAD認知症の臨床発症の方向に進行している、請求項1または3に記載の方法。
【請求項6】
工程()におけるAC細胞およびAD細胞の前記診断バイオマーカーのアウトプットシグナルが平均アウトプットシグナルである、請求項1または3に記載の方法。
【請求項7】
前記1つ以上の細胞が末梢細胞である、請求項1または3に記載の方法。
【請求項8】
前記末梢細胞が皮膚線維芽細胞である、請求項7に記載の方法。
【請求項9】
前記対象がADの表現型症状を提示しない、請求項1または3に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本出願は、その全内容は参照によりここに組み込まれる、2016年2月22日に出願の米国特許仮出願第62/298,182号への優先権を主張する。
【0002】
アルツハイマー病(AD)は、精神機能の進行性の減退によって一般的に特徴付けられる、神経変性障害である。より具体的には、ADは、重大な精神荒廃に徐々につながり、究極的に死につながる、記憶、認知、推理、判断および情緒的安定の進行性の喪失によって臨床的に特徴付けられる。ADの可能な機構に関する多くの仮説があるが、1つの中心的な理論は、毒性のβ-アミロイド(Aβ)ペプチドの過剰な形成および蓄積が直接的にまたは間接的に様々な細胞事象に影響し、神経細胞傷害および細胞死につながるということである。
【0003】
ADは、臨床症状の発症と死亡の間におよそ8~15年の平均期間がある進行性の障害である。米国において、ADは7番目に最も一般的な医学的死因であると考えられ、約5,000,000人がADに冒される。
【0004】
診断バイオマーカーの値は、疾患の進行および緩解をモニタリングするそれらの能力、ならびに疾患の発症前のそれらの予測精度に由来する。発症すらしないうちにADが検出されるなら、予防および/または治療戦略の計画のための重要な機会が提供され得る。例えば、軽度認知障害は、個体の年齢および教育水準で予想されるレベルよりも大きいが、日常生活の活動を目立つほどには妨害しない認知減退として特徴付けられている。それは、正常な加齢の予想される認知変化と認知症の最も初期の臨床症状の間の中間の段階を表す。MCIは、アルツハイマー病を起こすリスクを増加させる。しかし、ADの初期の段階では、認知症の発症から4年以内に、臨床診断が当たる率は限られている。さらに、認知症の発症前の臨床診断の精度はこれまで検証されていない。したがって、ADのための改善された診断および予測能力を発展させる必要性がある。特に、臨床上の認知症発症の前にADのサインを検出するための方法を開発する必要性がある。
【発明の概要】
【0005】
本開示の方法は、MCIの診断、MCIの進行のモニタリング、およびAD認知症の臨床発症までの時間の予測の方法を提供することによって、これらの必要性に対処する。本開示は、MCIの処置またはAD認知症の臨床発症の予防に有益な化合物のスクリーニング方法、ならびに、MCIの処置またはAD認知症の臨床発症の予防のための薬剤の治療的有益性の評価またはモニタリングの方法にも関する。
【0006】
本開示の1つの側面では、対象においてMCIを診断する方法は、以下を含む:
(a)対象から1つ以上の細胞を得ること;
(b)対象からの1つ以上の細胞を使用して1つ以上の診断バイオマーカーのアウトプットシグナルを決定することであって、診断バイオマーカーは、AD指数バイオマーカー、形態測定画像化バイオマーカーおよびPKCイプシロンバイオマーカーから選択されること;ならびに
(c)工程(b)で決定されるアウトプットシグナルを、年齢をマッチさせた対照(AC)細胞およびAD細胞の診断バイオマーカーのアウトプットシグナルと比較することであって、工程(b)で決定されるアウトプットシグナルはAD細胞の最も低いアウトプットシグナル未満であるが、AC細胞の最も高いアウトプットシグナルより大きい場合に対象でMCIが示されること。
【0007】
別の側面では、対象でMCIの進行をモニタリングする方法は、以下を含む:
(a)対象から1つ以上の細胞を得ること;
(b)対象からの1つ以上の細胞を使用して1つ以上の診断バイオマーカーのアウトプットシグナルを決定することであって、診断バイオマーカーは、AD指数バイオマーカー、形態測定画像化バイオマーカーおよびPKCイプシロンバイオマーカーから選択されること;
(c)工程(b)で決定されるアウトプットシグナルを、AC細胞およびAD細胞の診断バイオマーカーのアウトプットシグナルと比較することであって、工程(b)で決定されるアウトプットシグナルはAD細胞の最も低いアウトプットシグナル未満であるが、AC細胞の最も高いアウトプットシグナルより大きい場合に対象でMCIが示されること;ならびに
(d)以降の1つ以上の時点で工程(a)から(c)を反復することであって、ここで、工程(b)で決定されるアウトプットシグナルが経時的に増加した場合は、対象がAD認知症の臨床発症の方向に進行している。
【0008】
別の側面では、対象でAD認知症の臨床発症までの時間を予測する方法は、以下を含む:
(a)対象から1つ以上の細胞を得ること;
(b)対象からの1つ以上の細胞を使用して1つ以上の診断バイオマーカーのアウトプットシグナルを決定することであって、診断バイオマーカーは、AD指数バイオマーカー、形態測定画像化バイオマーカーおよびPKCイプシロンバイオマーカーから選択されること;
(c)工程(b)で決定されるアウトプットシグナルを、AC対象の群からのAC細胞の診断バイオマーカーのアウトプットシグナルと、およびAD対象の群からのAD細胞の診断バイオマーカーのアウトプットシグナルと比較することであって、工程(b)で決定されるアウトプットシグナルはAD細胞の最も低いアウトプットシグナル未満であるが、AC細胞の最も高いアウトプットシグナルより大きい場合に対象でMCIが示されること;
(d)AD細胞の診断バイオマーカーのアウトプットシグナルをそれらのAD期間の関数としてプロットすることであって、各AD期間は、ADの臨床発症時のAD対象の年齢と診断バイオマーカーのアウトプットシグナルを生成するために1つ以上の細胞を収集する時点のAD対象の年齢の間の年齢差であること;
(e)工程(d)のプロットされたアウトプットシグナルに関数をあてはめること;ならびに
(f)工程(c)でMCIが示される場合、工程(b)で決定される診断バイオマーカーのアウトプットシグナルをあてはめ関数にインプットし、AD認知症の臨床発症までの時間を決定することによって、AD認知症の臨床発症までの時間を予測すること。
【0009】
別の側面では、対象でAD認知症の臨床発症までの時間を予測する方法は、以下を含む:
(a)対象から1つ以上の細胞を得ること;
(b)対象からの1つ以上の細胞を使用して1つ以上の診断バイオマーカーのアウトプットシグナルを決定することであって、診断バイオマーカーは、AD指数バイオマーカー、形態測定画像化バイオマーカーおよびPKCイプシロンバイオマーカーから選択されること;
(c)工程(b)で決定されるアウトプットシグナルを、AC対象の群からのAC細胞の診断バイオマーカーのアウトプットシグナルと、およびAD対象の群からのAD細胞の診断バイオマーカーのアウトプットシグナルと比較することであって、工程(b)で決定されるアウトプットシグナルはAD細胞の最も低いアウトプットシグナル未満であるが、AC細胞の最も高いアウトプットシグナルより大きい場合に対象でMCIが示されること;
(d)AD細胞の診断バイオマーカーのアウトプットシグナルをそれらのAD期間の関数としてプロットすることであって、各AD期間は、ADの臨床発症時のAD対象の年齢と診断バイオマーカーのアウトプットシグナルを生成するために1つ以上の細胞を収集する時点のAD対象の年齢の間の年齢差であること;
(e)AC細胞の診断バイオマーカーのアウトプットシグナルをそれらの年齢差の関数としてプロットすることであって、各年齢差は、診断バイオマーカーのアウトプットシグナルを生成するために1つ以上の細胞を収集する時点のAC対象の年齢と、診断バイオマーカーのアウトプットシグナルを生成するために1つ以上の細胞を収集する時点で最高齢のAC対象の年齢の間の差であること;
(f)工程(d)および(e)のプロットされたアウトプットシグナルに関数をあてはめること;ならびに
(g)工程(c)でMCIが示される場合、工程(b)で決定される診断バイオマーカーのアウトプットシグナルをあてはめ関数にインプットし、AD認知症の臨床発症までの時間を決定することによって、AD認知症の臨床発症までの時間を予測すること。
【0010】
別の側面では、MCIの処置またはAD認知症の臨床発症の予防に有益な化合物のスクリーニング方法は、以下を含む:
(a)対象から1つ以上の細胞を得ること;
(b)対象からの1つ以上の細胞を使用して1つ以上の診断バイオマーカーのアウトプットシグナルを決定することであって、診断バイオマーカーは、AD指数バイオマーカー、形態測定画像化バイオマーカーおよびPKCイプシロンバイオマーカーから選択されること;
(c)ステップ(b)で決定されるアウトプットシグナルを、AC細胞およびAD細胞の診断バイオマーカーのアウトプットシグナルと比較することであって、工程(b)で決定されるアウトプットシグナルはAD細胞の最も低いアウトプットシグナル未満であるが、AC細胞の最も高いアウトプットシグナルより大きい場合に対象でMCIが示されること;
(d)工程(c)でMCIが示される場合、対象からの細胞を化合物と初期の時間および/または継続する時間接触させた後に、工程(b)の診断バイオマーカーのアウトプットシグナルを決定すること;ならびに
(e)工程(d)で決定されるアウトプットシグナルを工程(b)で決定されるアウトプットシグナルと比較することであって、工程(d)で決定されるアウトプットシグナルが工程(b)で決定されるアウトプットシグナル未満である場合、MCIの処置またはAD認知症の臨床発症の予防に試験化合物が有益であると示されること。
【0011】
別の側面では、対象でのMCIの処置またはAD認知症の臨床発症の予防のための薬剤の治療的有益性の評価またはモニタリングの方法は、以下を含む:
(a)対象から1つ以上の細胞を得ること;
(b)対象からの1つ以上の細胞を使用して1つ以上の診断バイオマーカーのアウトプットシグナルを決定することであって、診断バイオマーカーは、AD指数バイオマーカー、形態測定画像化バイオマーカーおよびPKCイプシロンバイオマーカーから選択されること;
(c)ステップ(b)で決定されるアウトプットシグナルを、AC細胞およびAD細胞の診断バイオマーカーのアウトプットシグナルと比較することであって、工程(b)で決定されるアウトプットシグナルはAD細胞の最も低いアウトプットシグナル未満であるが、AC細胞の最も高いアウトプットシグナルより大きい場合に対象でMCIが示されること;
(d)工程(c)でMCIが示される場合、薬剤による処置の初期、継続中および/または中止の後に対象からの1つ以上の細胞を使用して、工程(b)の診断バイオマーカーのアウトプットシグナルを決定すること;ならびに
(e)工程(d)で決定されるアウトプットシグナルを工程(b)で決定されるアウトプットシグナルと比較することであって、工程(d)で決定されるアウトプットシグナルが工程(b)で決定されるアウトプットシグナルと同等以下である場合、対象でのMCIの処置またはAD認知症の臨床発症の予防のために治療的有益性を薬剤が提供すると示されること。
【図面の簡単な説明】
【0012】
図1A図1Aおよび1Bは、3つの集団、年齢をマッチさせた対照(AC)、MCI患者およびAD患者の、海馬歯状回の外側分子層におけるシナプスの総数の平均および平均MMSEスコアに基づく、MCI患者におけるシナプスの喪失とミニ精神状態検査(MMSE)スコアの間の相関を示す。特に、図1Aは、海馬歯状回の外側分子層におけるシナプスの総数×1010(閉三角形および左yスケール)およびMMSEスコア(開三角形および右yスケール)を示す。
図1B図1Aおよび1Bは、3つの集団、年齢をマッチさせた対照(AC)、MCI患者およびAD患者の、海馬歯状回の外側分子層におけるシナプスの総数の平均および平均MMSEスコアに基づく、MCI患者におけるシナプスの喪失とミニ精神状態検査(MMSE)スコアの間の相関を示す。図1B図1Aにおけるのと同じ値を使用し、シナプスの総数およびMMSEスコアの重症度スコアを示す0~100でそれらをスケーリングする。曲線は、最良適合ロジスティック関数である。
図2A図2Aは、AC細胞(四角)およびAD細胞(円)についてのMMSEスコアへのAD指数バイオマーカーの線形依存性を示す。AD細胞のAD期間は、ADの臨床発症時のAD対象の年齢と診断バイオマーカーのアウトプットシグナルを生成するために1つ以上の細胞を収集する時点のAD対象の年齢の間の年齢差であった。AC細胞の年齢差は、診断バイオマーカーのアウトプットシグナルを生成するために1つ以上の細胞を収集する時点のAC対象の年齢と、AC群の最高齢のAC対象の診断バイオマーカーのアウトプットシグナルを生成するために1つ以上の細胞を収集する時点の年齢の間の差であった。AC群の年齢差は、負の年齢差としてAD発症の左側にプロットした。
図2B図2Bは、AD細胞のためのAD期間およびAC細胞のための年齢差の関数としてのAC(四角)およびAD(円)細胞の正規化されたアウトプットシグナルを示す。AD細胞のAD期間は、ADの臨床発症時のAD対象の年齢と診断バイオマーカーのアウトプットシグナルを生成するために1つ以上の細胞を収集する時点のAD対象の年齢の間の年齢差であった。AC細胞の年齢差は、診断バイオマーカーのアウトプットシグナルを生成するために1つ以上の細胞を収集する時点のAC対象の年齢と、AC群の最高齢のAC対象の診断バイオマーカーのアウトプットシグナルを生成するために1つ以上の細胞を収集する時点の年齢の間の差であった。AC群の年齢差は、負の年齢差としてAD発症の左側にプロットした。
図3A図3Aおよび3Bは、AD期間の関数としての形態測定画像化バイオマーカーおよびPKCイプシロンバイオマーカーの重症度スコアを示す。図3Aは、AD期間の関数としての形態測定画像化バイオマーカーのアウトプットシグナルをプロットする(Ln(A/N)の最小値および最大値を0~100でスケーリングした)。各プロットは、線形あてはめ線を含む。
図3B図3Aおよび3Bは、AD期間の関数としての形態測定画像化バイオマーカーおよびPKCイプシロンバイオマーカーの重症度スコアを示す。図3Bは、AD期間の関数としてのPKCイプシロンバイオマーカーのアウトプットシグナルをプロットする(S/Iの最小および最大値を0~100でコールした)。各プロットは、線形あてはめ線を含む。
図4A図4Aは、AD細胞のためのAD期間およびAC細胞のための年齢差の関数としての形態測定画像化バイオマーカーの正規化されたアウトプットシグナルを示す。AC群の年齢差は、AD発症線の左側にプロットした。エラーバーは、平均値の標準誤差である。縦の矢印は、AC群とAD群の間のギャップを示す。このギャップの範囲内の重症度スコアを有する患者は、MCI患者である。
図4B図4Bは、AD細胞のためのAD期間およびAC細胞のための年齢差の関数としてのPKCイプシロンバイオマーカーの正規化されたアウトプットシグナルを示す。AC群の年齢差は、AD発症線の左側にプロットした。エラーバーは、平均値の標準誤差である。縦の矢印は、AC群とAD群の間のギャップを示す。このギャップの範囲内の重症度スコアを有する患者は、MCI患者である。
図5A図5A図4Aに類似しているが、AD群の線形依存性を適用した、形態測定画像化バイオマーカーの予測値をさらに図示する。
図5B図5B図4Bに類似しているが、AD群の線形依存性に続いて、PKCイプシロンバイオマーカーの予測値をさらに図示する。
図6A図6Aは、線形でなくロジスティックあてはめ関数を適用した、形態測定の予測値を図示する。
図6B図6Bは、線形でなくロジスティックあてはめ関数を適用した、PKCイプシロンの予測値を図示する。
図6C図6Cは、線形でなくロジスティックあてはめ関数を適用した、AD指数バイオマーカーの予測値を図示する。
図7A図7Aは、3つのバイオマーカーの重症度スコアにおけるかなりの重複を示す。
図7B図7Bは、3つの集団、AC、MCIおよびADの、海馬歯状回の外側分子層におけるシナプスの総数の平均および平均MMSEスコアのかなりの重複を示す。
図8A図8Aは、形態測定画像化のランク付けしたアウトプットシグナルのロジスティックあてはめ曲線を示す。MCI患者は、水平矢印および太線で示すACとAD群の患者の間のギャップに位置する。
図8B図8Bは、PKCイプシロンのランク付けしたアウトプットシグナルのロジスティックあてはめ曲線を示す。MCI患者は、水平矢印および太線で示すACとAD群の患者の間のギャップに位置する。
図8C図8Cは、AD指数バイオマーカーのランク付けしたアウトプットシグナルのロジスティックあてはめ曲線を示す。MCI患者は、水平矢印および太線で示すACとAD群の患者の間のギャップに位置する。
図8D図8Dは、図8A、8Bおよび8Cを要約する(形態測定画像化-赤色;PKCイプシロン-緑色;AD指数-青色)。
【発明を実施するための形態】
【0013】
ここで用いるように、単数形「a」、「an」および「the」は、複数形を含む。
【0014】
ここで用いるように、「タンパク質キナーゼC活性化剤」または「PKC活性化剤」は、PKCによって触媒される反応の速度を増加させる物質を指す。PKC活性化剤は、非特異的または特異的活性化剤であり得る。特異的活性化剤は、1つのPKCアイソフォーム、例えばPKC-ε(イプシロン)を、別のPKCアイソフォームより高い検出可能な程度に活性化する。
【0015】
ここで用いられる用語「対象」または「対象(複数)」は、非限定的である。それはヒトを指すが、他の哺乳動物、例えば、マウス、ラット、サルおよび類人猿を含むこともできる。
【0016】
認知障害の程度と緊密に相関している剖検AD脳の唯一の病理学的特質は、シナプスの喪失である。Scheff et al., "Hippocampal synaptic loss in early Alzheimer's disease and mild cognitive impairment," Neurobiol Aging 27(10):1372-84 (2006);Masliah et al., "Physical basis of cognitive alterations in Alzheimer's disease: synapse loss is the major correlate of cognitive impairment." Ann Neurol. Oct; 30(4):572-80 (1991)。アミロイドプラークは、認知欠損の程度と緊密に相関していない。しかし、シナプスの総数は、生活における認知能と緊密に相関している。同書。認知症の臨床診断のために必要とされるレベルに到達していない多くの認知障害患者は、軽度認知障害を有すると分類されている。Scheff et al., Neurobiol Aging 27(10):1372-84。MCI患者のかなりの割合(概ね60%)が、ADの診断に進行する。多くのMCI患者はプラークを有しないが、認知欠損と緊密に相関するシナプスのかなりの喪失を示す(図1Aおよび1Bを参照)。同書。さらに、年齢をマッチさせた対照(AC)、MCI患者およびAD患者の全3つの集団は、シナプスの総数と、認知スクリーニングのための広く使用されるツールであるMMSEの結果の間の相関を示す(図1Aおよび1Bを参照)。同書。これらの臨床的および病理的所見の集合は、ADと関連するシナプスの喪失がAD認知症の発症前に既に始まっていることを示唆する。
【0017】
アルツハイマー病のシナプス喪失の1つの原因は、シナプス原性PKCεアイソザイムおよびそれらの下流のシナプス原性基質、例えば脳由来神経栄養因子の病理学的低減である。Hongpaisan et al., "PKCε Activation Prevents Synaptic Loss, Aβ Elevation, and Cognitive Deficits in Alzheimer’s Disease Transgenic Mice," J. Neuroscience, 31(2):630-643 (2011);Khan et al., "PKCε Deficits in Alzheimer’s Disease Brains and Skin Fibroblasts," Journal of Alzheimer’s Disease, 2015;43(2):491-509。PKCαおよびεの低減は、可溶性βアミロイドタンパク質(Aβ)の上昇に付随して、しかし、アミロイドプラークの出現または神経細胞喪失の前に起こる。同書。
【0018】
ADの3つのバイオマーカー、PKCεバイオマーカー、AD指数バイオマーカー、および形態測定画像化バイオマーカーは、シナプスの形成に関連し、ADの進行に伴って異常が増加することが見出された。Khan et al., Journal of Alzheimer’s Disease, 2015;43(2):491-509。全3つのバイオマーカーは、AD病理学的診断を同定する剖検での脳変化と相関することも見出された。本発明者らは、年齢をマッチさせた対照(AC)およびAD患者のそれぞれのバイオマーカーのアウトプットシグナルに対応するバイオマーカー重症度スコアを開発した。アウトプットシグナルは、正規化すること、例えば0~100%にスケーリングすることができるが、その必要はない。一態様では、バイオマーカー重症度スコアは、それぞれのバイオマーカーのアウトプットシグナルの正規化された値(0~100%)への連続的ロジスティックあてはめ関数として表される。本発明者らは、バイオマーカー重症度スコアを使用することによって、これらのバイオマーカーが認知症の臨床発症の前、例えば臨床発症の数年前に、ADのサインを検出することができること、および、MCIを診断し、MCIの進行をモニタリングし、AD認知症の臨床発症までの時間を予測するために使用することができることを発見した。バイオマーカー重症度スコアを使用して、発明者らは、MCIの処置またはAD認知症の臨床発症の予防に有益な化合物のスクリーニング方法、ならびに、MCIの処置またはAD認知症の臨床発症の予防のための薬剤の治療的有益性の評価またはモニタリングの方法も発見した。
【0019】
1つの側面では、対象においてMCIを診断する方法は、以下を含む:
(a)対象から1つ以上の細胞を得ること;
(b)対象からの1つ以上の細胞を使用して1つ以上の診断バイオマーカーのアウトプットシグナルを決定することであって、診断バイオマーカーは、AD指数バイオマーカー、形態測定画像化バイオマーカーおよびPKCイプシロンバイオマーカーから選択されること;ならびに
(c)工程(b)で決定されるアウトプットシグナルを、AC対象の群からのAC細胞の診断バイオマーカーのアウトプットシグナルと、およびAD対象の群からのAD細胞の診断バイオマーカーのアウトプットシグナルと比較することであって、工程(b)で決定されるアウトプットシグナルはAD細胞の最も低いアウトプットシグナル未満であるが、AC細胞の最も高いアウトプットシグナルより大きい場合に対象でMCIが示されること。
【0020】
本方法は、以下を含む、AD認知症の臨床発症までの時間を予測することをさらに含んでもよい:
(1)AD細胞の診断バイオマーカーのアウトプットシグナルをそれらのAD期間の関数としてプロットすることであって、各AD期間は、ADの臨床発症時のAD対象の年齢と診断バイオマーカーのアウトプットシグナルを生成するために1つ以上の細胞を収集する時点のAD対象の年齢の間の年齢差であること;
(2)工程(1)のプロットされたアウトプットシグナルに関数をあてはめること;ならびに
(3)工程(c)でMCIが示される場合、工程(b)で決定される診断バイオマーカーのアウトプットシグナルをあてはめ関数にインプットし、AD認知症の臨床発症までの時間を決定することによって、AD認知症の臨床発症までの時間を予測すること。
図5Aおよび5Bは、仮定のMCI対象のためのAD認知症の臨床発症までの時間を予測する例を示す。一部の態様では、あてはめ関数は、線形関数である。
【0021】
あるいは、本方法は、以下を含む、AD認知症の臨床発症までの時間を予測することをさらに含んでもよい:
(1)AD細胞の診断バイオマーカーのアウトプットシグナルをそれらのAD期間の関数としてプロットすることであって、各AD期間は、ADの臨床発症時のAD対象の年齢と診断バイオマーカーのアウトプットシグナルを生成するために1つ以上の細胞を収集する時点のAD対象の年齢の間の年齢差であること;
(2)AC細胞の診断バイオマーカーのアウトプットシグナルをそれらの年齢差の関数としてプロットすることであって、各年齢差は、診断バイオマーカーのアウトプットシグナルを生成するために1つ以上の細胞を収集する時点のAC対象の年齢と、診断バイオマーカーのアウトプットシグナルを生成するために1つ以上の細胞を収集する時点で最高齢のAC対象の年齢の間の差であること;
(3)工程(1)および(2)のプロットされたアウトプットシグナルに関数をあてはめること;ならびに
(4)工程(c)でMCIが示される場合、工程(b)で決定される診断バイオマーカーのアウトプットシグナルをあてはめ関数にインプットし、AD認知症の臨床発症までの時間を決定することによって、AD認知症の臨床発症までの時間を予測すること。一部の態様では、あてはめ関数は、ロジスティック関数である(図6A、6Bおよび6Cを参照)。
【0022】
別の側面では、MCIの進行をモニタリングする方法は、1つ以上の以降の時点で上の工程(a)から(c)を反復することを含み、ここで、上の工程(b)で決定されるアウトプットシグナルが経時的に増加した場合は、対象がAD認知症の臨床発症の方向に進行している。
【0023】
さらなる側面では、MCIの処置またはAD認知症の臨床発症の予防に有益な化合物のスクリーニング方法は、以下を含む:
(a)対象から1つ以上の細胞を得ること;
(b)対象からの1つ以上の細胞を使用して1つ以上の診断バイオマーカーのアウトプットシグナルを決定することであって、診断バイオマーカーは、AD指数バイオマーカー、形態測定画像化バイオマーカーおよびPKCイプシロンバイオマーカーから選択されること;
(c)ステップ(b)で決定されるアウトプットシグナルを、AC細胞およびAD細胞の診断バイオマーカーのアウトプットシグナルと比較することであって、工程(b)で決定されるアウトプットシグナルはAD細胞の最も低いアウトプットシグナル未満であるが、AC細胞の最も高いアウトプットシグナルより大きい場合に対象でMCIが示されること;
(d)工程(c)でMCIが示される場合、対象からの細胞を化合物と初期の時間および/または継続する時間接触させた後に、工程(b)の診断バイオマーカーのアウトプットシグナルを決定すること;ならびに
(e)工程(d)で決定されるアウトプットシグナルを工程(b)で決定されるアウトプットシグナルと比較することであって、工程(d)で決定されるアウトプットシグナルが工程(b)で決定されるアウトプットシグナル未満である場合、MCIの処置またはAD認知症の臨床発症の予防に試験化合物が有益であると示されること。
【0024】
本開示は、MCIの処置またはAD認知症の臨床発症の予防に有益な化合物のスクリーニング方法であって、以下を含む方法も含む:
(a)非AD、非認知症、非MCI対象から1つ以上の細胞を得ること;
(b)1つ以上の細胞をAβペプチドと接触させること;
(c)Aβペプチドと接触させた1つ以上の細胞を使用して1つ以上の診断バイオマーカーのアウトプットシグナルを決定することであって、診断バイオマーカーは、AD指数バイオマーカー、形態測定画像化バイオマーカーおよびPKCイプシロンバイオマーカーから選択されること;
(d)ステップ(c)で決定されるアウトプットシグナルを、AC細胞およびAD細胞の診断バイオマーカーのアウトプットシグナルと比較することであって、工程(c)で決定されるアウトプットシグナルはAD細胞の最も低いアウトプットシグナル未満であるが、AC細胞の最も高いアウトプットシグナルより大きい場合には、工程(b)によって対象でMCIが誘発されること;
(e)工程(d)でMCIが示される場合、対象からの細胞を化合物と初期の時間および/または継続する時間接触させた後に、工程(c)で診断バイオマーカーのアウトプットシグナルを決定すること;ならびに
(f)工程(e)で決定されるアウトプットシグナルを工程(b)で決定されるアウトプットシグナルと比較することであって、工程(d)で決定されるアウトプットシグナルが工程(b)で決定されるアウトプットシグナル未満である場合、MCIの処置またはAD認知症の臨床発症の予防に試験化合物が有益であると示されること。
【0025】
別の側面では、対象でのMCIの処置またはAD認知症の臨床発症の予防のための薬剤の治療的有益性の評価またはモニタリングの方法は、以下を含む:
(a)対象から1つ以上の細胞を得ること;
(b)対象からの1つ以上の細胞を使用して1つ以上の診断バイオマーカーのアウトプットシグナルを決定することであって、診断バイオマーカーは、AD指数バイオマーカー、形態測定画像化バイオマーカーおよびPKCイプシロンバイオマーカーから選択されること;
(c)ステップ(b)で決定されるアウトプットシグナルを、AC細胞およびAD細胞の診断バイオマーカーのアウトプットシグナルと比較することであって、工程(b)で決定されるアウトプットシグナルはAD細胞の最も低いアウトプットシグナル未満であるが、AC細胞の最も高いアウトプットシグナルより大きい場合に対象でMCIが示されること;
(d)工程(c)でMCIが示される場合、薬剤による処置の初期、継続中および/または中止の後に対象からの1つ以上の細胞を使用して、工程(b)の診断バイオマーカーのアウトプットシグナルを決定すること;ならびに
(e)工程(d)で決定されるアウトプットシグナルを工程(b)で決定されるアウトプットシグナルと比較することであって、工程(d)で決定されるアウトプットシグナルが工程(b)で決定されるアウトプットシグナルと同等以下である場合、対象でのMCIの処置またはAD認知症の臨床発症の予防のために治療的有益性を薬剤が提供すると示されること。
【0026】
ここに記載されるAC細胞およびAD細胞のアウトプットシグナルは、対象のアウトプットシグナルを決定するのとほぼ同じ時間に決定してもよく、または、AC細胞およびAD細胞のアウトプットシグナルは、例えば事前に決定してもよく、所与の対象のために決定されるアウトプットシグナルとの比較のためにデータベースに維持してもよい。
【0027】
ここに記載されるAC細胞は、年齢をマッチさせた非AD、非MCI細胞であるべきであり、すなわち、年齢をマッチさせた非AD、非MCI集団から得るべきである。一部の態様では、AC細胞は、年齢をマッチさせた非AD、非認知症、非MCI細胞であり、すなわち、年齢をマッチさせた非AD、非認知症、非MCI集団から得るべきである。
【0028】
一部の態様では、ここに記載される方法は、ADの表現型症状を提示しない対象、例えばADの表現型症状を提示しないが、ADを起こす1つ以上の危険因子を有する対象を使用して実行される。
【0029】
対象のアウトプットシグナルと比較されるAC細胞およびAD細胞の診断バイオマーカーのアウトプットシグナルは、平均アウトプットシグナルであり得る。例えば、アウトプットシグナルならびにここに記載される年齢差およびAD期間は、5年の年齢区間の中で平均して、5年の年齢区間ごとの平均アウトプットシグナルおよび平均年齢差をもたらしてもよい。他の区間を適用してもよいことは、当業者には明らかとなる。
【0030】
一部の態様では、ここに記載されるバイオマーカーのアウトプットシグナルを決定するために使用される細胞は、線維芽細胞または血液細胞を限定されずに含む、末梢細胞(すなわち、非CNS組織から得た細胞)であってもよい。一部の態様では、細胞は皮膚線維芽細胞である。他の態様では、細胞は血液リンパ球細胞である。
【0031】
AD指数バイオマーカー
「AD指数バイオマーカー」は、細胞がプロテインキナーゼC(PKC)活性化剤である薬剤で処理されるときの、リン酸化された第1のMAPキナーゼタンパク質とリン酸化された第2のMAPキナーゼタンパク質との比における変化を測定するアッセイを指す。ここで用いるように、AD指数バイオマーカーのアウトプットシグナルを決定することは、以下を含む
(i)対象からの1つ以上の細胞をPKC活性化剤である薬剤と接触させること;
(ii)リン酸化された第1のMAPキナーゼタンパク質対リン酸化された第2のMAPキナーゼタンパク質の比を測定することであって、リン酸化された第1および第2のMAPキナーゼタンパク質は工程(i)の接触の後に細胞から得られること;
(iii)工程(i)で使用されるPKC活性化剤である薬剤と接触していない対象からの1つ以上の細胞において、リン酸化された第1のMAPキナーゼタンパク質対リン酸化された第2のMAPキナーゼタンパク質の比を測定すること;ならびに
(iv)工程(iii)で得られる比を工程(ii)で得られる比から引き算すること。
【0032】
リン酸化されたMAPキナーゼタンパク質は、互いに配列変異体であってもよく、タンパク質の同じファミリーに属していてもよい。一部の態様では、リン酸化された第1のMAPキナーゼタンパク質はリン酸化されたErk1であり、リン酸化された第2のMAPキナーゼタンパク質はリン酸化されたErk2である。
【0033】
AD指数アッセイは、いかなる特定のPKC活性化剤の使用にも限定されない。一部の態様では、PKC活性化剤は、ブラジキニン、ブリオスタチン、ブリオログ、ネリスタチン、8-[2-(2-ペンチル-シクロプロピルメチル)シクロプロピル]-オクタン酸(DCPLA)およびDCPLAのエステルから選択される。例えば、ブリオスタチンは、ブリオスタチン-1、ブリオスタチン-2、ブリオスタチン-3、ブリオスタチン-4、ブリオスタチン-5、ブリオスタチン-6、ブリオスタチン-7、ブリオスタチン-8、ブリオスタチン-9、ブリオスタチン-10、ブリオスタチン-11、ブリオスタチン-12、ブリオスタチン-13、ブリオスタチン-14、ブリオスタチン-15、ブリオスタチン-16、ブリオスタチン-17またはブリオスタチン-18から選択してもよい。適するPKC活性化剤の例は米国特許出願公開第2014/0315990号に開示され、それは参照によりここに組み込まれる。
【0034】
米国特許第7,595,167号および米国特許出願公開第2014/0031245号は、AD指数アッセイを実行するための技術を開示し、参照によりここに組み込まれる。したがって、AD指数アッセイは、それらの刊行物に記載されている通りに実行してもよい。例えば、ある特定の態様では、PKC活性化剤はブラジキニンであり、第1および第2のMAPキナーゼタンパク質はそれぞれErk1およびErk2である。
【0035】
形態測定画像化バイオマーカー
「形態測定画像化バイオマーカー」は、細胞凝集を測定するためのアッセイを指す。ここで用いるように、形態測定画像化バイオマーカーのアウトプットシグナルを決定することは、(i)対象からの1つ以上の細胞を細胞凝集を達成するのに十分な時間培養すること;(ii)細胞凝集体の平均面積(A)を決定し、平均面積を凝集体の数(N)によって割り算して凝集体数あたりの平均面積(A/N)を得ること;および(iii)(A/N)の自然対数を計算することを含む。
【0036】
1つ以上の細胞は、増殖のための細胞培地、例えばタンパク質混合物において培養してもよい。一部の態様では、タンパク質混合物は、ゲル状タンパク質混合物である。非限定的な例示的ゲル状タンパク質混合物は、Matrigel(商標)である。Matrigel(商標)は、エンゲルブレス-ホルム-スウォーム(EHS)マウス肉腫細胞によって分泌されるゲル状タンパク質混合物の商標名であり、BD Biosciencesによって市販されている。この混合物は多くの組織で見出される複雑な細胞外環境に類似し、細胞生物学者によって細胞培養のための基質として使用される。
【0037】
細胞を培養し、凝集体の面積および数を決定するためのこれらおよび他の技術は、米国特許第8,658,134号および国際公開第2015/103495号に記載され、これらは参照によりここに組み込まれる。
【0038】
PKCイプシロンバイオマーカー
「PKCイプシロンバイオマーカー」は、細胞がAβペプチドで処理されるときのPKCεにおける変化を測定するアッセイを指す。ここで用いるように、PKCイプシロンバイオマーカーのアウトプットシグナルを決定することは、(i)対象からの1つ以上の細胞でPKCεレベルを決定すること;(ii)1つ以上の細胞をAβペプチドと接触させること;(iii)接触工程の後に工程(ii)の1つ以上の細胞でPKCイプシロンレベルを決定すること;および(iv)Aβペプチド濃度の関数としてのPKCεレベルの変化の勾配(S)と切片(I)との比(S/I)としてアウトプットシグナルを計算することを含む。米国特許出願公開第2014/0038186号は、Aβペプチド、Aβペプチドと細胞を接触させること、およびPKCεレベルを決定することを開示し、参照によりここに組み込まれる。
【0039】
以下の例は、本発明のある特定の好ましい態様をさらに記載するために例示として提供され、本開示を限定するものではない。
【実施例
【0040】
バイオマーカー重症度スコアの予測値は、AD指数バイオマーカー、形態測定画像化バイオマーカーおよびPKCイプシロンバイオマーカーを使用して調査した。形態測定画像化バイオマーカー、PKCイプシロンバイオマーカーおよびAD指数バイオマーカーそれぞれのための3つのバイオマーカー、Ln(A/N)、S/Iおよび(pERK/pERKBK+-(pERK/pERKBK-のアウトプットシグナルは、2つの患者集団、ADおよびACのために正規化した。バイオマーカーの正規化されたアウトプットシグナルは、年齢差の関数として示された。AD群については、年齢差は皮膚生検のための採収の年齢と、疾患の臨床発症の間であって、それは疾患期間の尺度であった。AC群については、現在の年齢をAC群の最高年齢から引き算し、AD発症の左側にプロットした(図4Aおよび4Bの縦の点線)。PKCεおよび形態測定画像化バイオマーカーのアウトプットシグナル、ならびにここに記載される年齢差は、5年の年齢区間の中で平均して、5年の年齢区間ごとの平均アウトプットシグナルおよび平均年齢差をもたらした。AD指数バイオマーカーについては、患者データが豊富であったため、この平均は必要でなかった。AC細胞のアウトプットシグナルは、疾患発症の左側にプロットした(図4Aおよび4Bの縦の点線)。
【0041】
発明者らは、AC細胞で重症度スコアが一定であって、バイオマーカーのベースラインを表していることを見出した。例えば、図4Aおよび4Bを参照。重症度スコアはまたACおよびAD細胞のアウトプットを有意に分離し、MCI患者のバイオマーカー重症度スコアが入るだろうギャップ(40%を超える)を残し、バイオマーカーの各々が認知症発症の数年前にADのサインを検出することができ、AD認知症への進行の予測リスクを提供することを示す。例えば、図4Aおよび4Bを参照。特に、結果は、分離「ギャップ」の中の重症度スコアで測定された患者は、AD認知症の段階およびその関連する病理学的特質に進行するシナプス喪失およびMCIを有するという強力な証拠を提供した。バイオマーカー重症度スコアがAD認知症発症の時まで次第に増加すること(例えば、図2B、4A、4B、5A、5B、6A~6C、7Bおよび8A~8Dを参照)、および、重症度スコアが認知症発症時にベースラインより有意に上にとどまったこと(例えば、図2Aおよび2Bを参照)も見出された。
【0042】
3つのバイオマーカーのうちの2つは、AD群について年齢差(疾患期間)と線形のアウトプットシグナルの増加を示した(図3Aおよび3Bの線形あてはめ線)。ADの最も低い重症度スコアは、形態測定画像化バイオマーカーおよびPKCイプシロンバイオマーカーの場合約12%であった(図3Aおよび3Bの線形あてはめ線とy軸との交点)。重症度スコアの約12%のこの非ゼロの値は、両バイオマーカーが認知症の発症の前に患者を検出することができることを示唆する。この可能性を評価するために、バイオマーカーのアウトプットシグナルの最も低い値にアクセスするために、AC細胞の重症度スコアが含められた(図4A、4B、5Aおよび5B)。図3Aおよび3Bの正規化手順のために、調査した年齢差の最大シグナルは100%であった。しかし、AD群の年齢差(疾患期間)への重症度スコアの依存は、大きな年齢差を飽和させることが予想された。したがって、AD群における線形依存性は第1の近似としてだけ考えられ、大きな年齢差を飽和させたS字形/ロジスティック関数として潜在的に改善された近似を行った(図6A~6C)。
【0043】
その方法は参照によりここに組み込まれる、Khan et al., "An internally controlled peripheral biomarker for Alzheimer's disease: Erk1 and Erk2 responses to the inflammatory signal bradykinin," Proc Natl Acad Sci 29;103(35), 13203-7 (2006)及びKhan et al., "Early diagnostic accuracy and pathophysiologic relevance of an autopsy-confirmed Alzheimer's disease peripheral biomarker," Neurobiol Aging, 31(6), 889-900 (2010)に記載されているように、AD指数バイオマーカーのアウトプットシグナルは、皮膚線維芽細胞をブラジキニン(BK+)で処理したときのリン酸化されたERKとERKとの比における変化として決定され、差(pERK/pERKBK+-(pERK/pERKBK-によって数量化した。図2Aおよび2Bも参照。
【0044】
その方法は参照によりここに組み込まれる、Chirila et al., "Spatiotemporal Complexity of Fibroblast Networks Screens for Alzheimer's Disease," J Alzheimer's Disease 33, 165-176 (2013)及びChirila et al., "Fibroblast aggregation rate converges with validated peripheral biomarkers for Alzheimer's disease," J Alzheimer's Disease 42, 1279-94 (2014)に記載されているように、Matrigelの厚い(1.8mm)基質の上で細胞を48時間培養し、(A/N)を決定するために画像分析ソフトウェアを使用することによって、形態測定画像化バイオマーカーのアウトプットシグナルを決定した。図3Aも参照。
【0045】
その方法は参照によりここに組み込まれる、Khan et al., "PKCε Deficits in Alzheimer’s Disease Brains and Skin Fibroblasts," Journal of Alzheimer’s Disease, 2015;43(2):491-509に記載されているように、PKCイプシロンバイオマーカーのアウトプットシグナルは、細胞をβ-アミロイドアミロスフェロイド(ASPD)の球状凝集体で処理したときのPKCεの変化を測定することによって決定し、勾配(S)と切片(I)との比S/Iによって数量化した。図3Bも参照。
【0046】
図4Aおよび4Bに示すように、形態測定画像化バイオマーカー(図4A)とPKCイプシロンバイオマーカー(図4B)の両方は、AC群の年齢差に伴うわずかな変化、ならびにACとADアウトプットの間の>40%の有意なギャップを示した。形態測定画像化バイオマーカーは、年齢差に伴うわずかな増加を示したが、PKCイプシロンはAC群でわずかな低下を示した(図4Aおよび4BのACあてはめ線)。AC群の両バイオマーカーの重症度スコアは15%未満であって、調べた年齢差でほとんど平らであった。年齢差がより負になるのに伴う下限の方への飽和も、AC群で予想された。したがって、線形近似は第1の近似であるだけであり、潜在的に改善された近似は下限を飽和させたS字形/ロジスティック関数であった。
【0047】
ACとAD群の間に有意なシグナルギャップがあったが、これらは、重症度スコアの正規化された形において、PKCイプシロンバイオマーカー(図4B)の場合約50%のシグナルギャップおよび形態測定画像化バイオマーカー(図4A)の場合約40%のシグナルギャップであった)。このギャップは臨床試験でMCI患者と同定された集団の存在を示し(図1Aおよび1Bを参照)、これらの2つのバイオマーカーが予測値を有することを示す。特に、MCI患者は、シグナルが15%を超え、55%未満である、ACとAD群の間のギャップを埋めるはずである(図4A、4B、5A、5Bおよび8A~8D)。
【0048】
第1の近似では、MCI患者は、AD患者と同じ、年齢差に伴う線形傾向に従うだろうと仮定された(図5Aおよび5Bの延長されたAD線形あてはめ線)。だとすると、MCI患者は、AD認知症発症(縦の線)の左側のADとAC集団の間のギャップを埋めるだろう(図5Aおよび5Bを参照)。延長されたAD線形あてはめ線と約15%の重症度スコアとの交点から、どのくらいの時間だけ臨床発症の前に、これらの2つのバイオマーカーがMCI患者を検出することができるのかについての予測が得られた(図5Aおよび5Bの下の水平矢印)。このアプローチの下で、形態測定画像化バイオマーカーは、臨床発症の約10年前にMCI患者を検出したが、PKCεバイオマーカーは、臨床発症の>27年前に患者を検出した。形態測定画像化およびPKCεバイオマーカーのための仮定のMCI患者(三角形)およびAD発症までの予測された時間(上の水平矢印)は、図5Aおよび5Bにそれぞれ示す。
【0049】
MCI患者群の位置のための潜在的に改善された近似は、ロジスティック関数に従うと仮定された(図6A~6C)。ロジスティック関数と約15%の重症度スコアとの交点から、どのくらいの時間だけ臨床発症よりも前に、バイオマーカーがMCI患者を検出することができるのかについての予測が得られた(図6A~6Cの水平矢印)。この近似では、形態測定画像化バイオマーカーは、臨床発症の約4年前にMCI患者を検出したが(図6A)、PKCイプシロンバイオマーカーは臨床発症の約5年前にMCI患者を検出した(図6B)。さらに、ロジスティックあてはめ曲線とAD発症垂直線との交点として決定されたカットオフ線は、それらのバイオマーカーの両方で同じ、すなわち約45%であった。
【0050】
MCI患者の位置は、ACとAD患者の間のギャップにあり、おそらくロジスティック型の曲線に従った。しかし、AC群は、AD発症垂直線から左側に若干の距離だけ離れているはずである。さらに、AD群は上限を、したがってシグナルの飽和を示すはずである。これらの考慮点は、これらの2つのバイオマーカーの予測値が、2つの適用された近似の間にあるはずであることを示す。したがって、形態測定画像化バイオマーカーは4年から10年の間にMCI患者を検出することができるはずであり、PKCイプシロンバイオマーカーは5年から25年の間にMCI患者を検出することができるはずであることが判明した。
【0051】
正規化された重症度スコアの形におけるバイオマーカーの顕著な重複は、図7Aでロジスティックあてはめ関数によって表される。AD発症線とロジスティック曲線の間の交点として決定された屈折点は、形態測定画像化およびPKCイプシロンバイオマーカーで事実上同じであった。図7Bは、3つの集団、AC、MCIおよびADの、海馬歯状回の外側分子層におけるシナプスの総数の平均および平均MMSEスコアのかなりの重複も示す。図7Aおよび7Bは、3つのバイオマーカーがシナプスの喪失をなぞる(track)ことを示す。
【0052】
3つのバイオマーカーのアウトプットシグナルは、ノイズフリーでなかった。ノイズは、測定方法、機器または人為操作から生じ得る。図8A~8Dに示すように、ACおよびAD群のバイオマーカーのアウトプットシグナルをランク付けすることは、ノイズを軽減し、「年齢差」アプローチと類似の結果を生成した。3つのバイオマーカーのアウトプットシグナルのランク付けは、MCI患者のADとAC群の間で同じギャップを示し、ロジスティック的な依存性はこの図でより明白だった(図8A~8D)。
【0053】
本開示で指摘する参考文献、特許および印刷刊行物の全ては、ここに参照により本出願に完全に組み込まれる。前述の態様は本開示の例であり、添付の請求項に示すように本発明の精神および範囲を逸脱しない範囲で修正または変更をその中に加えてもよいことを理解すべきである。
以下に、出願当初の特許請求の範囲に記載された発明を付記する。
[1] 対象において軽度認知障害(MCI)を診断する方法であって、
(a)前記対象から1つ以上の細胞を得ること;
(b)前記対象からの前記1つ以上の細胞を使用して1つ以上の診断バイオマーカーのアウトプットシグナルを決定することであって、前記診断バイオマーカーは、AD指数バイオマーカー、形態測定画像化バイオマーカーおよびPKCイプシロンバイオマーカーから選択されること;ならびに
(c)ステップ(b)で決定される前記アウトプットシグナルを、年齢をマッチさせた対照(AC)細胞およびAD細胞の前記診断バイオマーカーのアウトプットシグナルと比較することであって、工程(b)で決定される前記アウトプットシグナルは前記AD細胞の最も低いアウトプットシグナル未満であるが、前記AC細胞の最も高いアウトプットシグナルより大きい場合に前記対象でMCIが示されること
を含む方法。
[2] (1)前記AD細胞の前記診断バイオマーカーの前記アウトプットシグナルをそれらのAD期間の関数としてプロットすることであって、各AD期間は、ADの臨床発症時のAD対象の年齢と前記診断バイオマーカーの前記アウトプットシグナルを生成するために1つ以上の細胞を収集する時点のAD対象の年齢の間の年齢差であること;
(2)工程(1)のプロットされた前記アウトプットシグナルに関数をあてはめること;および
(3)工程(c)でMCIが示される場合、工程(b)で決定される前記診断バイオマーカーの前記アウトプットシグナルをあてはめ関数にインプットし、AD認知症の臨床発症までの時間を決定することによって、AD認知症の臨床発症までの時間を予測することを含む、AD認知症の臨床発症までの時間を予測することをさらに含む、[1]に記載の方法。
[3] 前記あてはめ関数が線形関数である、[2]に記載の方法。
[4] (1)前記AD細胞の前記診断バイオマーカーの前記アウトプットシグナルをそれらのAD期間の関数としてプロットすることであって、各AD期間は、ADの臨床発症時のAD対象の年齢と前記診断バイオマーカーの前記アウトプットシグナルを生成するために1つ以上の細胞を収集する時点のAD対象の年齢の間の年齢差であること;
(2)前記AC細胞の前記診断バイオマーカーの前記アウトプットシグナルをそれらの年齢差の関数としてプロットすることであって、各年齢差は、前記診断バイオマーカーの前記アウトプットシグナルを生成するために1つ以上の細胞を収集する時点のAC対象の年齢と、前記診断バイオマーカーの前記アウトプットシグナルを生成するために1つ以上の細胞を収集する時点で最高齢のAC対象の年齢の間の差であること;
(3)工程(1)および(2)のプロットされた前記アウトプットシグナルに関数をあてはめること;ならびに
(4)工程(c)でMCIが示される場合、工程(b)で決定される前記診断バイオマーカーの前記アウトプットシグナルをあてはめ関数にインプットし、AD認知症の臨床発症までの時間を決定することによって、AD認知症の臨床発症までの時間を予測することを含む、AD認知症の臨床発症までの時間を予測することをさらに含む、[1]に記載の方法。
[5] 前記あてはめ関数がロジスティック関数である、[4]に記載の方法。
[6] 1つ以上の以降の時点で工程(a)から(c)を反復することを含む、MCIの進行をモニタリングすることをさらに含み、上の工程(b)で決定される前記アウトプットシグナルが経時的に増加した場合は前記対象がAD認知症の臨床発症の方向に進行している、[1]に記載の方法。
[7] 工程(c)におけるAC細胞およびAD細胞の前記診断バイオマーカーの前記アウトプットシグナルが平均アウトプットシグナルである、[1]に記載の方法。
[8] 前記1つ以上の細胞が末梢細胞である、[1]に記載の方法。
[9] 前記末梢細胞が皮膚線維芽細胞である、[8]に記載の方法。
[10] 前記対象がADの表現型症状を提示しない、[1]に記載の方法。
[11] MCIの処置またはAD認知症の臨床発症の予防に有益な化合物のスクリーニングの方法であって、
(a)対象から1つ以上の細胞を得ること;
(b)前記対象からの前記1つ以上の細胞を使用して1つ以上の診断バイオマーカーのアウトプットシグナルを決定することであって、前記診断バイオマーカーは、AD指数バイオマーカー、形態測定画像化バイオマーカーおよびPKCイプシロンバイオマーカーから選択されること;
(c)ステップ(b)で決定される前記アウトプットシグナルを、AC細胞およびAD細胞の前記診断バイオマーカーのアウトプットシグナルと比較することであって、工程(b)で決定される前記アウトプットシグナルは前記AD細胞の最も低いアウトプットシグナル未満であるが、前記AC細胞の最も高いアウトプットシグナルより大きい場合に前記対象でMCIが示されること;
(d)工程(c)でMCIが示される場合、前記対象からの細胞を化合物と初期の時間および/または継続する時間接触させた後に、工程(b)の前記診断バイオマーカーの前記アウトプットシグナルを決定すること;ならびに
(e)工程(d)で決定される前記アウトプットシグナルを工程(b)で決定される前記アウトプットシグナルと比較することであって、工程(d)で決定される前記アウトプットシグナルが工程(b)で決定される前記アウトプットシグナル未満である場合、MCIの処置またはAD認知症の臨床発症の予防に試験化合物が有益であると示されることを含む方法。
[12] 対象でのMCIの処置またはAD認知症の臨床発症の予防のための薬剤の治療的有益性の評価またはモニタリングの方法であって、
(a)対象から1つ以上の細胞を得ること;
(b)前記対象からの前記1つ以上の細胞を使用して1つ以上の診断バイオマーカーのアウトプットシグナルを決定することであって、前記診断バイオマーカーは、AD指数バイオマーカー、形態測定画像化バイオマーカーおよびPKCイプシロンバイオマーカーから選択されること;
(c)ステップ(b)で決定される前記アウトプットシグナルを、AC細胞およびAD細胞の前記診断バイオマーカーのアウトプットシグナルと比較することであって、工程(b)で決定される前記アウトプットシグナルは前記AD細胞の最も低いアウトプットシグナル未満であるが、前記AC細胞の最も高いアウトプットシグナルより大きい場合に前記対象でMCIが示されること;
(d)工程(c)でMCIが示される場合、薬剤による処置の初期、継続中および/または中止の後に前記対象からの1つ以上の細胞を使用して、工程(b)の前記診断バイオマーカーの前記アウトプットシグナルを決定すること;ならびに
(e)工程(d)で決定される前記アウトプットシグナルを工程(b)で決定される前記アウトプットシグナルと比較することであって、工程(d)で決定される前記アウトプットシグナルが工程(b)で決定される前記アウトプットシグナルと同等以下である場合、前記対象でのMCIの処置またはAD認知症の臨床発症の予防のために治療的有益性を前記薬剤が提供すると示されること
を含む方法。
図1A
図1B
図2A
図2B
図3A
図3B
図4A
図4B
図5A
図5B
図6A
図6B
図6C
図7A
図7B
図8A
図8B
図8C
図8D