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特許7279187電気めっき被覆前に部品を前処理する前処理方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-05-12
(45)【発行日】2023-05-22
(54)【発明の名称】電気めっき被覆前に部品を前処理する前処理方法
(51)【国際特許分類】
   C25D 5/36 20060101AFI20230515BHJP
   C25D 5/14 20060101ALI20230515BHJP
   C25F 1/06 20060101ALI20230515BHJP
   C25F 1/00 20060101ALI20230515BHJP
   C25D 5/26 20060101ALI20230515BHJP
【FI】
C25D5/36
C25D5/14
C25F1/06 Z
C25F1/00 B
C25D5/26 A
【請求項の数】 15
(21)【出願番号】P 2021556474
(86)(22)【出願日】2020-03-18
(65)【公表番号】
(43)【公表日】2022-05-19
(86)【国際出願番号】 EP2020057417
(87)【国際公開番号】W WO2020193307
(87)【国際公開日】2020-10-01
【審査請求日】2021-09-17
(31)【優先権主張番号】102019204225.2
(32)【優先日】2019-03-27
(33)【優先権主張国・地域又は機関】DE
(73)【特許権者】
【識別番号】591245473
【氏名又は名称】ロベルト・ボッシュ・ゲゼルシャフト・ミト・ベシュレンクテル・ハフツング
【氏名又は名称原語表記】ROBERT BOSCH GMBH
(74)【代理人】
【識別番号】100177839
【弁理士】
【氏名又は名称】大場 玲児
(74)【代理人】
【識別番号】100172340
【弁理士】
【氏名又は名称】高橋 始
(74)【代理人】
【識別番号】100182626
【弁理士】
【氏名又は名称】八島 剛
(72)【発明者】
【氏名】ピラスキ ミラン
(72)【発明者】
【氏名】ヘルツル クリストフ ローランド
(72)【発明者】
【氏名】ベルクマン ティム
(72)【発明者】
【氏名】ブブリン マルティナ
【審査官】國方 康伸
(56)【参考文献】
【文献】特開2014-218704(JP,A)
【文献】特開平06-235086(JP,A)
【文献】特開平06-235088(JP,A)
【文献】特開2013-095994(JP,A)
【文献】特開平04-041693(JP,A)
【文献】特表2014-522450(JP,A)
【文献】特開平07-303977(JP,A)
【文献】特開2017-145438(JP,A)
【文献】特開2015-224355(JP,A)
【文献】英国特許出願公開第02281310(GB,A)
【文献】米国特許第03753870(US,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C25D 5/00- 7/12
C25D 13/00-21/22
C23F 1/00- 4/04
C23G 1/00- 5/06
C25F 1/00- 7/02
H01T 7/00-23/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
それぞれ少なくとも2つの異なる材料から形成されている部品(10)を前処理する前処理方法(A)であって、
-アルカリ脱脂するステップ(1)と、
-第1酸洗い媒体で化学酸洗いするステップ(2)と、
-第2酸洗い媒体で陽極酸洗いするステップ(3)と、
-陰極脱脂するステップ(4)と、
を包含し、
前記部品(10)は、スパークプラグハウジングであり、かつハウジング基体(11)と接地電極(12)とを備え、前記ハウジング基体(11)と前記接地電極(12)とは異なる材料から形成されていて、
前記陰極脱脂するステップ(4)後に陽極脱脂を行わない、
前処理方法(A)
【請求項2】
前記第2酸洗い媒体のpH値が4~8であ、請求項1に記載の前処理方法(A)
【請求項3】
前記第2酸洗い媒体が硝酸の塩を含む、請求項1または2に記載の前処理方法(A)。
【請求項4】
前記第2酸洗い媒体が錯形成剤を含む、請求項1から3までのいずれか1項に記載の前処理方法(A)。
【請求項5】
前記陽極酸洗い(3)は、少なくとも2V、最大10Vの電圧下で行われる、請求項1から4までのいずれか1項に記載の前処理方法(A)
【請求項6】
前記陰極脱脂(4)は、アルカリ溶液で行われる、請求項1からまでのいずれか1項に記載の前処理方法(A)
【請求項7】
-前記陰極脱脂(4)後に前記部品(10)の中和処理(5)のステップをさらに包含する、請求項1からまでのいずれか1項に記載の前処理方法(A)
【請求項8】
前記接地電極(12)は、クロム含有ニッケル合金から形成されている、請求項1~7までのいずれか1項に記載の前処理方法(A)
【請求項9】
前記接地電極(12)は、NiCr15FeまたはNiCr23Fe15またはNiCr25FeAlYから形成されている、請求項1~8までのいずれか1項に記載の前処理方法(A)。
【請求項10】
前記スパークプラグハウジング(10)は、ハウジング基体(11)と接地電極(12)とを互いに接合する溶接接合部(13)を有する、請求項1~9までのいずれか1項に記載の前処理方法(A)
【請求項11】
部品(10)を被覆する被覆方法(B)であって、
-請求項1から10までのいずれか1項に記載の前処理方法(A)で前記部品(10)を前処理するステップと、
-ニッケル電解液を用いて前記部品(10)に被覆を生成するステップ(7)と、
を包含し、
前記部品(10)はそれぞれ少なくとも2つの異なる材料から形成されているスパークプラグハウジングである、被覆方法(B)
【請求項12】
-前記被覆を生成するステップ(7)の前に、ニッケル濃度が少なくとも10g/l 、および最大50g/lであるニッケル電解液により、前記部品(10)を前被覆するステップ(6)をさらに包含する、請求項11に記載の被覆方法(B)
【請求項13】
前記部品(10)の表面の少なくとも部分領域(14)が、前記前処理方法(A)および/または前記被覆方法(B)の方法ステップの少なくとも1つから、前記部分領域(14)を覆うことによって除外される、請求項11または12に記載の被覆方法(B)
【請求項14】
前記前処理方法(A)および/または前記被覆方法(B)の方法ステップの少なくとも1つがラック(50)を用いて行われ、前記部品(10)は、前記少なくとも1つの方法ステップ中に前記ラック(50)に配置されている、請求項11から13までのいずれか1項に記載の被覆方法(B)
【請求項15】
前記ラック(50)が内部アノード(51)を有し、前記内部アノード(51)は、前記少なくとも1つの方法ステップの実行中に、前記部品(10)の貫通開口(15)内に配置されている、請求項14に記載の被覆方法(B)
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、特に被覆方法の前に部品を前処理する前処理方法に関する。さらに、本発明は、部品を被覆する被覆方法に関する。
【背景技術】
【0002】
例えば2つ以上の異なった材料からなるスパークプラグハウジングなどの部品を使用することが知られている。多くの場合、例えば内燃機関の燃焼室内の高度に腐食性の環境など、部品が使用領域で高度に腐食性の攻撃を受ける危険があるため、この種の部品を被覆する必要がある。しかし材料が様々であるために、部品を被覆する場合、特に本来の被覆の前の前処理時に制約が生じることが多い。通常、前処理のために使用される媒体は1つの材料に特別に適合させてあり、複数材料部品に適さない。
【発明の概要】
【0003】
これに対して請求項1の特徴を有する前処理方法は、2つ以上の材料からなる部品用に最適化された前処理の利点を提供する。その場合、それぞれ1つの異なる材料からなる少なくとも2つの部分領域を有するワンピースの部品がこの種の部品とみなされる。その場合、部品の材料の各々は、特に次の被覆方法を考慮して十分に活性化され、同時に過度に強く攻撃されず、損傷が回避される。それにより部品の表面全体を特に高品質に作成することができる。本発明によれば、このことは前処理方法が
-アルカリ脱脂するステップと、
-第1酸洗い媒体で化学酸洗いするステップと、
-第2酸洗い媒体で陽極酸洗いするステップと、
-陰極脱脂するステップと、を包含することにより達成される。
【0004】
この前処理方法によって、質的に高価値で再現可能な前処理という点で最適な結果を得ることができる。換言すると、それによって部品の表面の特定の品質等級を前提としたときの部品の製造時の不良品を特に少なく抑えることができる。特に、この前処理は、次に続く、例えばクロム含有ニッケル鋼などの、ふつうは被覆できない物質の被覆を可能にする。
【0005】
その場合、各ステップが上記の順番で連続して行われることが好ましい。これに代えて最後に挙げた2つのステップの入れ替え、すなわち陰極脱脂を陽極酸洗いの前に行うことが可能である。
【0006】
各ステップが直接連続して、すなわち中間ステップとしての他の可能な加工ステップなしに行われるならば特に有利である。その場合、有利には別個の加工ステップとはみなされるべきでないすすぎ洗いを、有利には各方法ステップの後に行うことができることを付言しておきたい。換言すると、部品は、部品の表面に影響を及ぼす2つの連続する方法ステップ間でその都度すすぎ洗いされることが好ましい。
【0007】
アルカリ脱脂のために、pH値が12以上の強アルカリ溶液が使用されることが好ましい。第1酸洗い媒体は、特にpH値が1以下の強酸性媒体であることが有利である。それに適するのは特に塩酸などの強酸である。これに代えて、例えば硫酸またはフッ化水素酸を使用することができる。
【0008】
本発明による前処理方法は、複数のコンポーネントからなる部品に最適に合わせた前処理を可能にする。その場合、部品を構成し得る個々の部分要素だけでなく、特にそこに存在する、部分要素を互いに接合する溶接継ぎ目も最適に前処理することができる。その場合、部分領域の表面または溶接継ぎ目のすべてが被覆性または表面品質に関して改善される。したがって、この前処理方法は、部品の申し分のない表面を得るために、表面に存在する、または例えば溶接によって生じた酸化物層を特に良好に除去することができる特に能動的な前処理を提供する。これに加えて一定の品質の前処理が可能である。したがって大量個数の部品を前処理する場合に不良品、例えば不十分または過剰に前処理/活性化される部品を特に少なく抑えることができる。
【0009】
さらに、陰極脱脂に続いて陽極脱脂を行わないならば特に有利である。すなわち、電圧の印加によって部品がカソードとして切り替えられる陰極脱脂に続いて、逆の電圧の印加によって部品がアノードとして切り替えられる陽極脱脂を行わない。それによって、部品の表面が、陽極脱脂時に通常発生する大量の酸素と接触することが回避される。さもなければ酸素によって部品の表面が酸化され、すなわち表面に酸化物層が形成される可能性があり、そのことが被覆方法など次に続き得る方法に不利になろう。
【0010】
この前処理方法は、少なくとも2つの異なった鋼を組み合わせて形成される部品を前処理するのに、特に続いて質的に特に高価値の被覆を生成するのに特に適している。とりわけ特殊鋼またはステンレス鋼は、特に、前処理方法が同時に「普通の(normal)」鋼にも適するべきである場合、通常、強接着性(haftfest)の皮膜で覆うことが難しい。しかし本前処理方法は極めて多様な種類の鋼に適するとともに、次に続く製造方法または加工方法に向けて部品の最適な準備を可能にする。
【0011】
従属請求項は、本発明の好ましい発展形態を内容とする。
【0012】
第2酸洗い媒体がやや酸性から中性の範囲の媒体であることが好ましい。その場合、PH値が4~8の溶液がやや酸性から中性の範囲の媒体とみなされる。第2酸洗い媒体が、5以上および6.5以下のpH値を有することが特に好ましい。殊に、第2媒体は十分に活性であるが過度に攻撃性でない前処理を可能にするために硝酸の塩を含む。これに代えて、第2酸洗い媒体に硫酸の塩を使用することも可能であろう。さらに、第2酸洗い媒体に錯形成剤が添加されていることが有利である。それによって、部品の酸化物層の効果的な除去が可能になり、同時に、部品の異なった材料が過度に強く攻撃されないことが確保される。
【0013】
陽極酸洗いが少なくとも2V、最大10Vの電圧下で行われることが特に好ましい。その場合、2V~6Vの範囲、特に4Vの電圧が特に有利である。それによって、部品の表面の特に的確な処理を可能にすることができる。とりわけ、電圧を適合させることによって、異なった材料および部品の材料の組み合わせへの前処理方法の簡単かつ効果的な適合が可能であり、部品の表面における物質の撤去に特に的確に影響を及ぼすことができる。
【0014】
殊に、陰極脱脂はアルカリ溶液で行われる。アルカリ溶液が、水酸化ナトリウムまたは水酸化カリウムからなる強アルカリ水溶液であるならば特に有利である。その場合、pH値が12以上の溶液が強アルカリ水溶液とみなされる。陰極脱脂を最適化するために、殊に界面活性剤の添加を行うことができる。さらに、陰極脱脂のために少なくとも3V、最大15V、特に5V~10Vの電圧が部品に印加されることが特に有利である。したがって、十分な活性化を考慮して部品の表面を過度に強く攻撃することなしに、種々の材料の組み合わせに対して前処理を最適に適合させることがさらに可能である。
【0015】
前処理方法が、
-部品の中和処理(dekapieren)のステップを
さらに包含することがさらに好ましい。
【0016】
中和処理は陰極脱脂に続いて行われる。中和処理によって、特に、陰極脱脂のステップにより部品に付着するアルカリ溶液が除去される。殊にその場合、アルカリ溶液を中和するために中和処理に弱酸性溶液が使用される。それにより、次に続き得る被覆に向けて部品を特に良好に準備することができる。
【0017】
部品がスパークプラグのスパークプラグハウジングであることが特に好ましい。スパークプラグハウジングはハウジング基体と接地電極とを備えている。その場合、ハウジング基体と接地電極は異なる材料から形成される。したがってハウジング基体と接地電極はその都度それぞれの要求に特に良好に適合され、それに加えてスパークプラグの安価な製造を可能にする。殊に、スパークプラグハウジングは、スパークプラグを対応するめねじにねじ込むことを可能にするためのおねじをさらに備えている。さらに、スパークプラグハウジングが工具により取り扱い易くするための六角部または多角形部を有することが有利である。
【0018】
接地電極がクロム含有ニッケル鋼から形成されているならば特に有利である。接地電極がNiCr15Fe、NiCr23Fe15、またはNiCr25FeAlYから形成されていることが特に好ましい。それによって、高負荷がかけられる質的に高価値のスパークプラグの高い要求に応えるために、スパークプラグハウジングが特に耐性の(bestaendig)接地電極を備えることができる。その場合、スパークプラグハウジングは、例えばS235という名称の、または1.0036~1.0038の材料番号の「通常の」鋼(gewoehnlichem Stahl)から形成されている。その場合、前処理方法によって、スパークプラグハウジングの表面全体の最適な均一の準備が可能である。
【0019】
スパークプラグハウジングがハウジング基体と接地電極とを互いに接合する溶接接合部を有することが好ましい。その場合、溶接プロセスによって2つの部品を溶接する場合にスパークプラグハウジングの表面に生じる酸化物層を前処理方法によって簡単に、かつ確実に除去することができる。したがって、特に次に続く方法またはプロセスを考慮してスパークプラグハウジングの質的に特に高価値の表面を提供するために、スパークプラグハウジングの2つの部分要素の表面それぞれだけでなく、これらを接合する溶接継ぎ目も最適に前処理することができる。
【0020】
さらに、本発明は、前処理方法によって前処理された部品を被覆する被覆方法に関する。その場合、前処理方法を被覆方法の部分方法とみなすことができることを付言しておきたい。その場合、被覆方法は、部品の被覆を生成するステップをさらに包含する。その場合、基本的に、あらゆる種類の被覆、特に、例えば金めっき、銀めっき、亜鉛めっき、またはクロムめっきなどの特に電気めっきを行うことができる。しかし被覆方法がニッケルめっきであることが好ましい。その場合、被覆、特にニッケル皮膜の生成がニッケル電解液を用いて行われるならば特に有利である。ニッケル電解液は、少なくとも80g/l~最大120g/l、特に好ましくは100g/lのニッケル濃度を有することが有利である。被覆方法では、前処理の最適化により、特に高価値で均一な表面の皮膜を実現することができる。その場合、とりわけ複数の異なった材料からなる部品に、層厚のばらつきの極めて少ない皮膜を最適に完全に被着することができる。それによって、特に防食に関する部品の非常に高い質的要求を満たすことができる。したがって例えば、スパークプラグハウジングについてDIN-ISO9277に準拠したRi=2の錆度を遵守することが容易に可能である。
【0021】
被覆方法が、
-被覆を生成するステップの前に、部品を前被覆する(Vorbeschichten)ステップをさらに包含することが好ましい。その場合、前被覆は、殊に低濃度のニッケル電解液を用いて行われる。その場合、特に均一で質的に高価値の皮膜を部品の表面に直接得るために、特に、本来の被覆ステップの前に部品に薄肉の皮膜が生成される。低濃度のニッケル電解液が少なくとも10g/l、および最大50g/l、特に15g/l~25g/lのニッケル濃度を有することが特に好ましい。
【0022】
さらに、部品の表面の少なくとも部分領域が前処理および/または被覆から除外されるならば特に有利である。すなわち部品の規定された部分被覆が行われる。これは、前処理および/または被覆中に部分領域が覆われることにより行われ、それにより前処理および/または被覆で使用される媒体は部分領域の表面と接触し得ない。これに代えて、またはこれに加えて、前処理および/または被覆中に電界の電気力線が部分領域に侵入しないよう保護され、すなわち電界に対して絶縁されるように部分領域を覆うことができる。部分領域を覆うために耐性の、および/または電気的に絶縁する物質からなるカバー要素が使用されることが有利である。その場合、部分領域に未処理および未被覆の表面を得るために、前処理方法および被覆方法の全ステップの間、部分領域が覆われることが特に好ましい。これによって、例えば最適な防食のための被覆部分領域を得るため、および未被覆の部分領域を得て、これらの未被覆の部分領域をさらに処理または加工するために、部品の表面を種々の要求に適合させることが可能である。
【0023】
前処理方法および/または被覆方法の方法ステップの少なくとも1つがラックを用いたラック被覆として実行されることが好ましい。その場合、部品が少なくとも1つの方法ステップ中にラックに配置されているならば特に有利である。さらに、前処理方法全体と被覆方法全体とがラックを用いて実行されるならば特に有利である。それによって、それぞれ対応する方法ステップの特に簡単かつ最適に部品に適合させた実行が可能である。これに加えて、方法ステップ中に複数の部品が互いに接触しないように、これらの部品をそれぞれ個別にラックに固定的な位置で配置することができるので、被覆後に皮膜の特に高い品質を実現することができる。それによってとりわけ、部品の表面の損傷につながり得る複数の部品のぶつかり合いが回避される。これに代えて、前処理方法および/または被覆方法の方法ステップの少なくとも1つを、ドラムを用いてドラム被覆として実行することも可能であろう。この場合、少なくとも1つの方法ステップの実行中に少なくとも1つの部品がドラム内に配置される。ドラム被覆によって、前処理および/または被覆の特に簡単で安価な実行が可能である。
【0024】
ラックが内部アノードを有することが特に好ましい。その場合、殊に、内部アノードは、少なくとも1つの方法ステップの実行中に部品の貫通開口内に配置されている。それによって、貫通開口によって規定された部品の通気空間(Atmungsraum)も簡単かつ確実に一緒に被覆することができる。殊に、内部アノードは化学的耐性の材料から形成されている。内部アノードがプラチナめっきされたチタンから形成されていることが特に好ましい。それによって、被覆の高品質を恒久的に確実に実現するための高い耐性が保証される。
【0025】
したがって、本発明は、殊に、
-少なくとも2つの異なった材料から形成される接地電極を有するスパークプラグハウジングを提供するステップであって、スパークプラグハウジングの接地電極がクロム含有ニッケル鋼から形成されている、ステップと、
-前処理方法によりスパークプラグハウジング、特にスパークプラグハウジングのすべての表面を前処理するステップと、
-スパークプラグハウジングを好ましくは前ニッケルめっきする(Vorvernickeln)ステップと、
-スパークプラグハウジングをニッケルめっきするステップと、を包含するニッケルめっきされたスパークプラグハウジングを製造する方法にもつながる。
【0026】
さらに、本発明は、上記の被覆方法を用いて被覆された部品をもたらす。部品は、スパークプラグのスパークプラグハウジングであることが好ましい。したがって、被覆方法で被覆された部品は確実に恒久的に、例えば内燃機関における腐食性の環境における高負荷に耐えることができる、特に長寿命で高価値の被覆を有する。前処理方法およびそれに続く被覆方法によって、ハウジング基体と接地電極と溶接継ぎ目の最適な、質的に高価値の被覆が可能である。
【図面の簡単な説明】
【0027】
図1】本発明の好ましい実施例による被覆方法でスパークプラグハウジングが前処理および被覆された、スパークプラグに使用されるスパークプラグハウジングの簡略化した模式図である。
図2図1のスパークプラグハウジングの被覆方法を実行するための構成の簡略化された模式図である。
図3図1のスパークプラグハウジングを前処理および被覆するための被覆方法の方法ステップの手順の簡略化された模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0028】
以下、本発明について実施例をもとにして図と関連付けて説明する。図において同じ機能の部品にはそれぞれ同じ参照符号が付されている。
【0029】
図1は、本発明の好ましい実施例による被覆方法Bを用いて前処理および被覆された部品の簡略化された模式図を示す。この部品はスパークプラグハウジング10である。スパークプラグハウジング10は、スパークプラグ100の構成要素であり、ハウジング基体11と接地電極12とを備える。ハウジング基体11は、長手軸線19に対して実質的に同心に形成され、おねじ16と六角部20とを有する。おねじ16によってスパークプラグハウジング10に、したがってスパークプラグ100を内燃機関の図示されないシリンダヘッドの対応するめねじにねじ込み可能である。さらに、ハウジング基体11は、例えば絶縁体101などの、スパークプラグ100の他の部品を収容するように形成されている。
【0030】
ハウジング基体11と接地電極12は、2つの異なった材料から形成され、溶接接合部13によって互いに接合されている。接地電極12は、クロム含有ニッケル鋼、厳密にはNiCr15Feから形成されている。ハウジング基体11は単純な鋼、厳密にはS235という名称の鋼から形成されている。
【0031】
さらに、スパークプラグ100の動作時に火花による特に高い負荷に耐えるために、貴金属合金からなるプレート17が接地電極12に溶着されている。
【0032】
高負荷、とりわけ内燃機関の燃焼室内でスパークプラグ100を使用する場合の高度に腐食性の周囲環境に耐えるため、および最高の質的基準を満たすために、スパークプラグハウジング10の被覆はニッケル皮膜70の形式で設けられている。その場合、ニッケル皮膜70は、スパークプラグハウジング10の表面全体、すなわちスパークプラグハウジングの外面と、スパークプラグハウジングの、貫通開口15によって規定される内面にも存在する。その場合、ニッケル皮膜70はスパークプラグハウジング10の内面全体には必要ないということを付言しておきたい。例えば、内面の部分的な被覆、または外面と比べて薄いニッケル皮膜70も可能である。ニッケル皮膜70を生成するために、スパークプラグハウジング10は被覆方法Bで被覆される。被覆方法Bの個々のステップの詳しい説明を行う前に、まず、図2を参照しながら被覆方法Bを実行するためのスパークプラグハウジング10の配置と取扱いについて説明する。
【0033】
図2に見て取れるように、接地電極12は、図示された未被覆状態にあるときハウジング基体11から離れる方向にまっすぐ、すなわち長手軸線19に対して平行に延びている。その場合、被覆方法Bに続いて、図1に示される形への折り曲げが行われる。その場合、本発明による被覆方法Bによって特に高価値で耐性のニッケル皮膜70が生成される。このニッケル皮膜は、次の折り曲げにも損傷されることなしに、例えば剥がれることなしに持ちこたえる。
【0034】
さらに、接地電極12の部分領域14は、次に説明される被覆方法Bの実行前および実行中に覆われる。覆うことによって、被覆時に電界の電気力線に対する部分領域14の遮蔽がもたらされる。したがって、部分領域14は被覆方法Bから除外され、その未処理および未被覆の表面を維持する。
【0035】
被覆方法Bの実行時のスパークプラグハウジング10を取り扱い易くするために、図2に見て取れるように被覆ラック50が設けられている。被覆ラック50は、覆いを実現するため、およびスパークプラグハウジング10を保持するために接地電極12を把持する。これに加えて、さらに、スパークプラグハウジング10の電気的接触が行われる。さらに、被覆ラック50は、スパークプラグハウジング10の貫通開口15に挿入可能なピン状の内部アノード51を備えている。内部アノード51と被覆ラック50とは互いに電気的に絶縁されている。複数のスパークプラグハウジング10を同時に被覆できるようにするために、被覆ラック50に複数のスパークプラグハウジング10を配置することができる。しかし明瞭性と明確性の理由から図2にはスパークプラグハウジング10が1つしか示されていない。
【0036】
スパークプラグハウジング10の自由な動きと、それに伴い他のスパークプラグハウジング10との考えられるぶつかり合いを回避するために、被覆ラック50によってスパークプラグハウジング10の厳密な位置決めが簡単に可能である。これに加えて、被覆方法B中の取扱いが簡単に可能である。このためにスパークプラグハウジング10全体を有する被覆ラック50をそれぞれ対応する媒体21に浸漬することができる。その場合、媒体21は、それぞれ開いた容器20に入っている。さらに、容器20内では電極22が媒体21に浸漬されている。電極22は、方法ステップに応じてアノードまたはカソードとして、または中立的に使用され得る。その場合、次に説明される被覆方法Bのすべての方法ステップが浸漬プロセスとして行われることを付言しておきたい。したがって、図2は、それぞれ全部の方法ステップを代表するものとみなすことができ、方法ステップごとに別の媒体21が使用される。
【0037】
次に図3を参照しながら被覆方法Bの実行について説明する。被覆方法Bでは、スパークプラグハウジング10は、
-強アルカリ溶液でアルカリ脱脂するステップ1、
-強酸性の第1酸洗い媒体で化学酸洗いするステップ2、
-やや酸性の第2酸洗い媒体で陽極酸洗いするステップ3、
-アルカリ溶液で陰極脱脂するステップ4、
-弱酸性溶液で中和処理するステップ5、
-低濃度のニッケル電解液で前被覆するステップ6、および
-ニッケル電解液で被覆を生成するステップ7、
が順次実行される。
【0038】
その場合、被覆方法Bのステップ1から5を前処理方法Aとみなすことができる。
【0039】
方法ステップ1から7の各々の後に、スパークプラグハウジング10が対応する媒体21から取り出される。その場合、スパークプラグハウジング10の表面に付着する媒体21の残部を除去するために、それぞれ方法ステップ1から7の各々の後にスパークプラグハウジング10のすすぎ洗い8が行われる。
【0040】
アルカリ脱脂1、陽極酸洗い3、陰極脱脂4、前被覆6、および被覆の生成7の各ステップにおいて、スパークプラグハウジング10をアノードまたはカソードとして切り替えるために、スパークプラグハウジング10に電流を導入する必要がある。このために、第1給電装置25が設けられている(図2を参照)。スパークプラグハウジング10は被覆ラック50を介して給電装置25と結合されている。さらに、給電装置25は、電極22に電流を導入するために電極と結合されている。さらに、被覆を生成するステップ7でアクティブである第2給電装置25Bが設けられている。その場合、スパークプラグハウジング10の内面にもニッケル皮膜70を生成するために、電流が第2給電装置25Bによって内部アノード51に導入される。
【0041】
被覆方法Bによって、スパークプラグハウジング10の質的に高価値で再現可能な被覆に関して最適な結果を得ることができる。それによって特に長寿命のスパークプラグ100を製造するための、特に防食に関して、スパークプラグハウジング10の非常に高い質的要求を満たすことができる。
【0042】
とりわけ前処理方法Aによって、スパークプラグハウジング10が形成される異なった材料の種々の特性に最適に適合させた被覆方法Bが可能にされる。したがって、2つの異なった材料から形成されているスパークプラグハウジング10に理想的に合わせた前処理方法Aによって、スパークプラグハウジング10の外側領域と内側領域の特に高価値で均一なニッケル皮膜70を実現することができる。その場合、スパークプラグハウジング10を構成し得る個々の部分要素、すなわちハウジング基体11および接地電極12だけでなく、特にこれらの2つの部分要素を互いに接合する溶接接合部13も最適に前処理される。したがって、前処理方法Aは、被覆の本来の生成7の前にスパークプラグハウジング10の申し分のない表面を得るために、表面に存在する、特に溶接によって生じた酸化物層を特に良好に除去することができる、特に能動的な前処理を提供する。それによって、被覆方法Bによりスパークプラグハウジング10を一定の品質でニッケル皮膜70により被覆することができる。
【符号の説明】
【0043】
1 方法ステップ
2 方法ステップ
3 方法ステップ
4 方法ステップ
5 方法ステップ
6 方法ステップ
7 方法ステップ
8 方法ステップ
10 スパークプラグハウジング
11 ハウジング基体
12 接地電極
13 溶接接合部
14 部分領域
15 貫通開口
16 おねじ
17 プレート
19 長手軸線
20 六角部
21 媒体
22 電極
25 給電装置
25B 給電装置
50 被覆ラック
51 内部アノード
70 ニッケル皮膜
100 スパークプラグ
101 絶縁体
前処理方法
被覆方法
図1
図2
図3